JP3818375B2 - 重合温度制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ポリマーを製造する過程の攪拌槽内の重合温度を精度よく制御する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のポリマーを合成する過程では、重合装置における槽内の重合温度を一定に保つために、製造するポリマーに応じて槽の外周に付設した温度調節手段であるジャケットに循環させる温度調節流体の温度をシーケンシャルに制御するジャケット温度のフィードフォワード制御方式(以下、単に「FF制御方式」という)や、ジャケットに循環させる温度調節用流体の温度を槽内の温度に応じて適時に算出し、その算出した温度の温度調節用流体をジャケットに循環させるPID制御方式などが実施されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の重合温度の制御方法では、次のような問題がある。
【0004】
モノマー混合物を槽内に投入し、重合反応させてポリマーの合成を複数回にわたって繰り返し行なうと、合成されるポリマーなどの付着物が累積的に槽内壁に付着する。付着物が槽内壁に付着し続けると、ジャケットに流通させた温度調節用流体の槽内への熱伝達効率(伝熱係数)が低下する。
【0005】
すなわち、従来のジャケット温度のFF制御方式やPID制御方式の場合、槽内壁に付着物のついていない状態でポリマーごとに予め求めた温度変化パターンなどに基づいてシーケンサやプログラムにより槽内の温度を制御(FF制御方式)したり、槽内の温度に応じてジャケットに供給する温度調節用流体の温度を決定(PID制御方式)したりしている。
【0006】
そのため、槽内壁に付着物が付着した状態で従来の両重合温度制御方式でもって槽内の温度を制御した場合、槽内への熱伝達効率の低下を無視しているので、槽内の温度が目標温度よりも高くなってしまう。その結果、所定の分子量分布を有するポリマーを合成できなくなるといった問題がある。
【0007】
また、槽内の温度変化に応じて冷却水を滴下し、槽内を冷却するような場合、槽内の温度が予測した目標温度よりも高くなるので、冷却水滴下時の冷却水の滴下量が変化する。つまり、槽内の温度が予測よりも高くなると、その温度に応じた冷却水の滴下量は予定した量よりも多くの冷却水を槽内に滴下することとなる。したがって、重合反応速度を遅延させてしまい、ひいては分子量分布の異なった物性を有するポリマーが製造されてしまうといった問題もある。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、重合装置内において重合温度を精度よく制御する重合温度制御方法を提供することを主たる目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、モノマー混合物を槽内に投入して重合反応によりポリマーを合成する過程で槽内の温度を制御する重合温度制御方法であって、
槽壁の伝熱係数を測定し、その値に基づいて槽壁の伝熱効率を監視し、伝熱効率が略一定な場合はPID制御方式を行ない、伝熱効率が低下した場合はフィードフォワード制御方式を行なうように重合温度制御方式を変更することを特徴とするものである。
【0010】
(作用・効果)ポリマーを合成する過程で槽壁の伝熱係数が測定される。この測定された伝熱係数の変化量に応じて槽内の温度が制御される。つまり、伝熱係数の変化量によって槽内壁に付着したポリマーなどの付着物の影響による熱伝達効率の低下を確認することができる。そして、この伝熱係数の変化量に応じて、PID制御またはフィードフォワード制御のいずれかに適時変更する。したがって、槽内への熱伝達効率を考慮した適切な温度制御を選択して行なうことができ、分子量分布の均一なポリマーを常に製造することができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の重合温度制御方法において、
前記重合温度制御方式の変更は、測定した伝熱係数に基づいて以下のようにして行なう、
(1)前記測定した伝熱係数の実測値と、製造対象と同じポリマーについて予め求めた伝熱係数の基準値とを比較し、
(2)前記比較により実測値が基準値よりも大きな値のときは、PID制御方式により槽内の温度を制御し、
(3)前記比較により実測値が基準値よりも小さな値のときは、前記伝熱係数の実測値に応じて、温度調節手段に供給する温度調節用流体の目標温度を変化させるフィードフォワード制御方式により槽内の温度を制御することを特徴とするものである。
【0012】
(作用・効果)ポリマーを合成する過程で測定した槽壁の伝熱係数が、例えば製造対象と同じポリマーを合成する実験などにより予め求めた伝熱係数の基準値と比較される。比較の結果、実測値が基準値よりも大きな値、つまり槽壁の熱伝達効率がよい場合はPID制御が実行される。逆に、実測値が基準値よりも小さな値、つまり槽内壁にポリマーなどの付着物が付着して槽壁の時定数が大きくなり熱伝達効率が悪くなる場合は、次のようにして槽内の温度制御をする。例えば冷却効率の遅延を回避するために、総括伝熱係数の実測値に応じて供給する冷却水の目標温度を変化させ、この変化させた新たな目標温度の冷却水を温度調節手段に供給して積極的に槽内を冷却するフィードフォワード制御を実行させる。その結果、請求項1に記載の方法を好適に実施することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の重合温度制御方法であって、前記(2)のPID制御方式により槽内の温度を行なうとき、前記槽壁の伝熱係数を測定し、前記槽内の温度の目標値とその実測値とから求まる温度偏差と、槽内の温度を制御するための温度調節用流体の供給を調節する操作量とを関係付けるパラメータを、前記測定した槽壁の伝熱係数に応じて変化させて重合温度を制御することを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の重合温度制御方法において、前記(3)のフィードフォワード制御方式により槽内の温度を行なうとき、前記槽壁の伝熱係数を測定し、前記槽内の温度の目標値とその実測値とから求まる温度偏差と、槽内の温度を制御するための温度調節用流体の供給を調節する操作量とを関係付けるパラメータを、前記測定した槽壁の伝熱係数に応じて変化させて重合温度を制御することを特徴とするものである。
【0017】
(作用・効果)槽内の温度制御をPID制御による過程で、(請求項3)、槽内の温度制御を槽に付設した温度調節手段に供給する温度調節用流体の目標温度を変化させるフィードフォワード制御により行なう過程で(請求項4)、槽壁の熱伝達効率の変化レベルに応じてそれぞれのパラメータを変更することにより、請求項2に記載の方法を好適に実施することができる。
【0018】
本発明は次のような解決手段も開示している。
【0019】
(1)槽内にモノマー混合物を投入してポリマーを合成する重合装置であって、前記ポリマーを合成する過程で重合装置の壁部分における伝熱係数を測定する測定手段と、
所定のポリマーを合成可能な槽壁の伝熱係数の限界値を予め求め、この限界値と前記測定手段により測定した伝熱係数とを比較処理する演算処理部と、
前記演算処理部の比較結果に基づいて重合温度制御方式の切替えの必要性を知らせる報知手段と
を備えたことを特徴とする重合装置。
【0020】
従来のポリマーを合成する過程では、重合装置内の重合温度を一定に保つために、製造するポリマーに応じて槽の外周に付設した温度調節手段であるジャケットに循環させる温度調節流体の温度をシーケンシャルに制御するジャケット温度のフィードフォワード制御方式や、ジャケットに循環させる温度調節用流体の温度を槽内の温度に応じて適時に算出し、その算出した温度の温度調節用流体をジャケットに循環させるPID制御方式などが実施されている。
【0021】
しかしながら、ポリマー合成を複数回にわたって繰り返し行なうと槽内壁にポリマーなどの付着物が累積的に付着して時定数が大きくなり、外部からの冷却などによる温度調節の熱伝達効率が低下するにも関わらず、この点については考慮されることなく、PID制御やジャケット温度のフィードフォワード制御が行なわれている。したがって、槽内の温度は予測した温度よりも高くなり、所定の分子量分布を有するポリマーを製造することができないといった問題がある。
【0022】
前記(1)の発明によれば、測定による伝熱係数と予め求めた所定のポリマーを合成可能な槽壁の伝熱係数の限界値とが比較される。この比較結果に基づいて現時点の重合温度制御方式の適正が判断され、重合温度制御方式の切替えについての必要性の有無が報知手段によってオペレータに知らされる。
【0023】
したがって、槽壁における熱伝達効率の状況をオペレータは知ることができるので、槽壁の熱伝達効率の低下を考慮した最適な重合温度制御方式を選択することができる。
【0024】
なお、重合温度制御方式の切替えには、例えば次のような切替えが挙げられる。
槽内壁に付着物の量が少ない場合はPID制御方式を選択する。逆に槽内壁の付着物の量が多く槽壁の熱伝達効率が低下しているような場合は、総括伝熱係数の限界値を予め求めたときの槽内温度の目標温度を参照し、新たに供給する冷却水の目標温度を設定し、槽壁を積極的に冷却するフィードフォワード制御方式を選択する。
【0025】
【発明の実施の形態】
本実施例では、エマルジョン重合による一括重合でポリマーを製造する場合を例に採って重合装置の重合温度を制御する方法について説明する。
【0026】
具体的には、攪拌槽内に投入したモノマー混合物への熱伝達効率を示す伝熱係数としての総括伝熱係数を、ポリマーを合成する初期段階で求める。この求まった値と、製造対象のポリマーを合成する実験により予め求めた総括伝熱係数の基準値とを比較して重合温度制御方式を変更するとともに、変更した各重合温度制御方式において、槽内の温度を温度調節用流体で調節するために求める温度偏差と、槽内の温度を調節するための温度調節用流体の供給を調節する操作量とを関係付けるパラメータを変化させて槽内の重合温度を制御する。なお、エマルジョン重合に使用されるモノマー混合物には、例えば、ブチルアクリレート(BA)、アクリル酸(AA)を使用している。
【0027】
以下、図面を参照してこの発明の一実施例を説明する。
図1は本実施例に使用する重合装置である攪拌機およびその周辺構成を示す概略構成図、図2はポリマー合成過程を示した図、図3は重合温度制御方式の処理手順を示したフローチャート、および図4は重合温度制御系のブロック図である。
【0028】
先ず、本実施例で使用する装置の攪拌機とその周辺構成について、図1を参照して説明する。
【0029】
攪拌機1は、底部が椀状をした攪拌槽2と、その中心部の上方から片持ち支持された回転軸3に攪拌翼4(図1では格子翼)が取り付けられている。この回転軸3は、図示しない回転駆動手段に連接されている。また、攪拌槽2内の重合温度を制御するための温度調節手段としてのジャケット5が攪拌槽2の外周に付設されている。
【0030】
また、攪拌槽2の底部には、攪拌槽2内の温度を測定する温度センサS3が挿通されている。
【0031】
ジャケット5には、その内部に温度調節用流体を供給・排出循環させるための供給管R1がジャケット5の上・下部に連通接続されている。この供給管R1のジャケット入口側には攪拌槽2内の温度を上昇させるために、例えば温水をジャケット5に供給するように水温を上昇させる熱交換器6が設けられている。この熱交換器6には、バルブV3を開放することにより蒸気が供給される供給管R3が連通接続されている。また、供給管R1には、攪拌槽2を冷却するために供給管R1を循環する温水または冷却水を排出するためのバルブV1が設けられているとともに、バルブV1を開放して温水などを排出したときに冷却水を供給するための冷却管R2がバルブV2を介して供給管R1に連通接続されている。
【0032】
温度調節用流体をジャケット5に供給する側の供給管R1(図1ではジャケット5の下部近傍)には温度センサS1が、排出する側(図1ではジャケット5の上部近傍)には温度センサS2および流量計F(図1では左側)とがそれぞれ配備されている。
【0033】
また、実施例装置は、攪拌槽2の内部温度を制御するための制御部7が設けられている。この制御部7には、ポリマー製造条件に応じた設定重合温度などが操作部8から予め設定入力され、この入力条件および各センサからの測定結果に基づいて重合温度制御方式を変更するとともに、ポリマー製造過程ごとに槽2内の重合温度を制御している。
【0034】
すなわち、制御部7は、重合温度制御方式の変更および重合温度を制御するための種々の処理を実行する演算処理部9を備えている。この演算処理部9には温度センサS1〜S3の測定値(温度調節用流体の温度Tjin、Tjoutおよび攪拌槽2内の温度Tc)と流量計Fから測定される供給管R1を循環している温度調節用流体の流量(Fw)とが入力され、この入力された各測定値に基づいて攪拌槽2の伝熱係数(総括伝熱係数)が求められる。この求まる総括伝熱係数に基づいて重合温度制御方式を変更するようになっている。
【0035】
また、槽内の設定重合温度を維持するために、ジャケット5に供給する温度調節用流体の目標温度を重合温度制御方式ごとに総括伝熱係数に応じて設定変更するとともに、総括伝熱係数に基づいて、例えば操作量としてのバルブV1、V2の開閉出力を調節するパラメータを算出している。なお、この伝熱係数としての総括伝熱係数の算出、重合温度制御方式の変更、およびパラメータの算出については後述する。
【0036】
上述の実施例装置でエマルジョン重合による一括重合でポリマーを製造する場合、その製造過程が、図2に示すように、第1昇温過程、誘導過程、反応過程、第2昇温過程、熟成過程、および冷却過程の6つの過程からなっており、これら過程ごとにジャケット5に循環させる温度調節用流体の温度Tj(実線で示す)を調節して攪拌槽2内の温度Tc(点線で示す)を制御している。
【0037】
第1昇温過程は、攪拌槽2にモノマー混合物を投入してから攪拌槽2内の温度を設定重合温度の例えば60℃にするために85℃の温水をジャケット5に供給している。なお、ジャケット5を循環する温水の供給側と排出側の温度偏差が安定(図2に示すD部分)するとともに、槽2内の温度が設定重合温度の60℃よりも5℃低い55℃になった時点から冷却を行なう。つまり、ジャケット5による温度調節では時定数が大きいので、槽2内が設定重合温度の60℃に到達した時点から冷却を行なったのでは、槽2内が設定重合温度を越えるので、槽内が60℃に到達する時点を予測して冷却を行なう。
【0038】
誘導過程は、槽2内が設定重合温度の60℃に到達した時点からであって、この時点で開始剤を槽2内に投入してラジカルを発生させる。
【0039】
反応過程は、槽2内を設定重合温度に維持しながらモノマー混合物を重合反応させる。
【0040】
第2昇温過程は、所定時間経過後および所定量(97〜98%)のポリマー合成が終了した時点から、槽2内の温度を設定重合温度よりも高くして重合反応を促進させるように、ジャケット5に温水を循環させる。
【0041】
熟成過程は、槽2内の温度を設定重合温度よりも高く設定した状態で、ポリマー合成を100%に到達させる。
【0042】
冷却過程は、ポリマー合成が100%に到達する時点を予測して槽2内の冷却を行なう。
【0043】
次に、上述の装置を利用したポリマー製造過程の初期段階に当たる第1昇温過程から重合温度を制御するのに必要なデータを収集(温度調節流体の温度や流量などを測定)し、演算処理部9で総括伝熱係数を求め、この求まった総括伝熱係数に基づいて槽2内における重合温度の制御方式の変更、およびジャケット5に供給する冷却水の目標温度を変化させるとともに、各パラメータを変化させて槽2内の温度を制御する方法について、図3のフローチャートに沿いながら、図1および図4を利用して説明する。
【0044】
<ステップS1> 供給温度が安定したか
図3の第1昇温過程で85℃の温水をジャケット5に供給・循環し始め、ジャケット5の供給口側の温度センサS1で温水の供給温度(Tjin)を一定周期で測定して演算処理部9に入力する。
【0045】
演算処理部9は、温水の供給温度が経時的に変化する場合は、温水の供給温度が安定(一定になる)するまで温水の供給温度を一定周期で測定し続ける。温水の供給温度が安定した場合は、ステップS2に進む。
【0046】
<ステップS2> データ(Tjin,Tjout,Fw,Tc)の収集
供給温度(Tjin)が安定した時点から演算処理部9で総括伝熱係数(U)を求めるのに必要なデータ、温水の供給温度(Tjin)、排出温度(Tout)、供給管R1を循環する温水の流量(Fw)、および槽内温度(Tc)を温度センサS1〜S3および流量計Fのそれぞれで複数回測定する。なお、本実施例では、例えば1秒周期で計10回測定する。これら測定値は、演算処理部9に入力される。
【0047】
<ステップS3> 収集データ(Tjin,Tjout,Fw,Tc)の平均処理
ステップS2で測定された10回分の供給温度(Tjin)、排出温度(Tout)、流量(Fw)、および槽内温度(Tc)のそれぞれを平均処理し、供給温度(TjinA)、排出温度(ToutA)、流量(FwA)、および槽内温度(TcA)を算出する。
【0048】
<ステップS4> 伝熱量(Qf)の算出
ステップS3で求めた各平均値を利用してジャケット5から槽2内への伝熱量(Qf)が算出される。具体的には、供給温度(TjinA)と排出温度(ToutA)との比較により求まる温度偏差、温水の流量(FwA)、および温水の比熱(Cp)の積から求める。つまり、この関係は次式(1)で表すことができる。
【0049】
Qf(W)=(TjinA−ToutA)×FwA×Cp … (1)
【0050】
<ステップS5> 総括伝熱係数(U)の算出
総括伝熱係数(U)を算出するために、次式(2)に示す伝熱量(Qf)を求める演算式を利用して算出する。
【0051】
【数1】
【0052】
すなわち、伝熱量(Qf)は、総括伝熱係数(U)、槽内のモノマー混合物と槽内壁とが接する面積である伝熱面積(A)、および対数平均温度差との積からもとまるものである。したがって、伝熱量(Qf)は式(1)から求まり、伝熱面積(A)および対数平均温度差(供給温度(Tjin)と排出温度(Tout)の経時的な温度偏差)は実測から求まるので、これらを利用して未知数である総括伝熱係数(U)が求められる。
【0053】
<ステップS6> 総括伝熱係数の比較
ステップS5で求まった総括伝熱係数(U)と、例えば製造対象と同じポリマーを合成する実験によって予め求めた総括伝熱係数の基準値(U0)とを比較する。総括伝熱係数(U)の値が基準値(U0)を上回る(U≧U0)場合は、槽内壁への付着物の付着量が少なく熱伝達効率がよいと判断してステップS10のPID制御へと進む。なお、この総括伝熱係数の目標値(U0)は、例えば槽内壁に付着物が付着した状態で所定の分子量分布を有するポリマー合成が可能となる総括伝熱係数の限界値をポリマーごとに求めて設定する。
【0054】
逆に、総括伝熱係数(U)の値が基準値(U0)を下回る(U<U0)場合は、槽内壁への付着物の付着量が多く熱伝達効率が低下していると判断する。つまり、PID制御では付着物によって槽壁の時定数が大きくなり、熱伝達効率が悪くなる点を無視して重合温度の制御を行なうので、冷却による発熱量の除去が阻害されて槽内の冷却が遅延する、結果、槽2内が予測温度よりも高くなる。そこで、熱伝達効率の阻害要因を考慮して積極的に槽2内の冷却を行なうフィードフォワード制御方式を実行するために、ステップS7のジャケット温度のフィードフォワード制御へと進む。
【0055】
すなわち、図4に示す制御部7で総括伝熱係数(U)を算出し、この求まる総括伝熱係数(U)と予め設定入力された基準値(U0)とを比較して求まる偏差に応じて命令信号を切替器10に送信して重合温度制御方式を変更する。具体的には、総括伝熱係数(U)が基準値(U0)よりも大きい値(U≧U0)のとき、つまり、槽内壁に付着物の量が少なく槽壁の熱伝達効率がよい場合にはPID制御系を選択する。逆に、総括伝熱係数(U)が基準値(U0)よりも小さい値(U<U0)のとき、つまり、槽内壁に付着物の量が多く槽壁の熱伝達効率が悪い場合は、積極的に槽壁を冷却するようにフィードフォワード制御系を選択する。
【0056】
<ステップS7> ジャケット温度の設定目標値の算出
ジャケット温度のフィードフォワード制御を行なうために、ジャケット5に循環させる冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)を次式(3)によって求める。
【0057】
TjinSV=TcSV−(TcSV0−TjinSV0)×U0/U …(3)
【0058】
すなわち、槽2内壁に付着物が付着していると時定数が大きくなり槽壁の熱伝達効率が低下するので、例えば重合反応が急激に行なわれているときには、バルブV1,V2の開度を大きくしてジャケット5に冷却水を積極的に供給・循環して冷却を行なう必要がある。なお、重合反応の開始前の場合には、バルブV3を開放して供給管R3から蒸気を熱交換器6に供給し、供給管R1を循環している水温を上昇させて温水を積極的に供給・循環させ、重合反応を促進させる。
【0059】
そこで、総括伝熱係数(U)を求めた時点の供給温度の目標値(TjinSV)は、基準値(U0)を求めたときの温度調節流体(本実施例では冷却水であるが温水の場合もある)の供給温度(TjinSV0)を参照するとともに、総括伝熱係数(U)と基準値(U0)との比較による変化量を考慮して求める。なお、供給温度(TjinSV0)は、基準値を求めたときの条件に応じて冷却水または温水の供給温度のいずれかとなる。
【0060】
具体的には、冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)は、基準値(U0)を求めた時の槽内温度の目標値(TcSV0)と基準値(U0)を求めたときに測定した冷却水の供給温度(TjinSV0)とから求まる温度偏差を、実測により求まる総括伝熱係数(U)と基準値(U0)との変化率に応じて拡大し(バルブV1、V2の開度調節のため)、この拡大した値と槽内温度の目標値(TcSV)との偏差から求めている。
【0061】
なお、冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)は、図4に示すジャケット目標値設定コントローラ11で算出される。この求まる目標値(TjinSV)は、ジャケットPIDコントローラ13に設定入力される。
【0062】
<ステップS8> ジャケット温度のフィードフォワード制御
ジャケットPIDコントローラ13は、入力された冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)に基づいて、バルブV1、V2の開放出力を求め、この求まる値に応じてジャケット温度制御プロセス14でバルブV1、V2の開度を調節しながら冷却水の供給温度を調節する。具体的には、図1に示すバルブV1を開放して供給管R1を循環している温水を排出するとともに、バルブV2を開放してステップS7で求まる供給温度の目標値(TjinSV)の冷却水を供給管R1に供給開始する。
【0063】
<ステップS9> 供給温度の比較
目標値(TjinSV)の冷却水の供給を開始すると、その時点から温度センサS1によって一定周期でジャケット入口側を流通する冷却水の供給温度の測定を開始し、測定結果を演算処理部9に入力する。演算処理部9は、求まる実測値(Tjin)の温度と目標値(TjinSV)とを順次比較して供給温度が安定(Tjin≦TjinSV)するのを見極めている。供給温度が安定状態になると、制御部7はジャケット温度のフィードフォワード制御からPID制御に切替える信号を切替器10に送信し、PID制御による重合温度制御方式に切替える。
【0064】
つまり、ジャケット5に冷却水を積極的に供給・循環することにより、付着物の影響で冷却遅延により発生する槽2内の温度上昇が回避される。したがって、ジャケット5による槽2内への冷却は比較的安定状態となるので、積極的に槽2内を冷却するフィードフォワード制御から槽2内の温度を設定重合温度に収束するように促す精度の高いPID制御へと切替える。
【0065】
<ステップS10> PIDパラメータの算出
内浴PIDコントローラ12は槽内温度の目標値(TcSV)に基づいて、ジャケット5に供給する冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)を求めるのに必要なジャケット温調計の目標値を制御出力(MV)として予め演算により算出する。具体的に制御出力(MV)は、次式(4)に示す比例出力(MVP)、次式(5)に示す積分出力(MVI)、および次式(6)に示す微分出力(MVD)の総和である次式(7)により求まる。
【0066】
【数2】
【0067】
【数3】
【0068】
【数4】
【0069】
MV=MVP+MVI+MVD … (7)
【0070】
なお、SVは槽内温度の目標値、PVは槽内温度の測定値、PBは比例帯、TIは積分時間、TDは微分時間である。
【0071】
ここで本実施例の場合、実験によって予め求めた上述の総括伝熱係数(U0)を求めたとき基準値である比例帯(PB0)、積分時間(TI0)および微分時間(TD0)に対し、総括伝熱係数(U)を求めたときの積分時間(TI)および微分時間(TD)については次式(9)、(10)に示すように操作することなく、比例帯(PB)について操作して比例出力(MVP)を調整するようにしている。つまり、次式(8)に示すように、実測により求まる総括伝熱係数(U)と総括伝熱係数の目標値(U0)との変化率により比例帯(PB)を変化させる。なお、比例帯(PB)は、本発明のPID制御におけるパラメータ(以下、「PIDパラメータ」という)に相当する。
【0072】
なお、比例帯(PB)についてのみ操作する理由は、槽2内の目標温度と実測値の比較により求まる偏差を操作するだけなので操作しやすいからである。したがって、本発明では、比例帯(PB)以外の積分時間(TI)および微分時間(TD)を操作してもよい。
【0073】
【0074】
上記(8)式において、例えば、槽内壁に付着物が付着すると比例帯PBの値は小さくなる。つまり、槽壁への付着物の量が多く時定数が大きくなり熱伝達効率が低下しているので、(7)式で求まる制御出力を大きくし、供給温度の目標値(TjinSV)を低く設定してジャケット5に冷却水を積極的に供給・循環して冷却することになる。なお、本実施例では冷却水をジャケット5に供給・循環する場合について説明しているが、温水をジャケット5に供給する場合もある。
【0075】
<ステップS11> PID制御
ステップS10で求まるPIDパラメータに基づいて、冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)が求められる。具体的には、図4において次のようにして行なわれる。槽内の温度の目標値(TcSV)と実測による槽内の温度(Tc)とが内浴PIDコントローラ12に入力され、目標値(TcSV)と槽内温度(Tc)の偏差に基づいて上記式(7)〜(10)を利用して冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)が求められる。
【0076】
さらに、この求まった冷却水の供給温度の目標値(TjinSV)に基づき、ジャケットPIDコンローラ13がジャケット温度制御プロセス14でバルブV1、V2の開度を調節することにより冷却水の供給の調節を行なって槽内の温度制御を行なう。また、内浴温度制御プロセス15で槽2内の温度制御を監視し、その監視結果である槽2内の温度を内浴PIDコントローラ12にフィードバックしながらPID制御を行なう。
【0077】
上記ステップS1〜S11までは、図2示す第1昇温過程〜反応過程で行なわれる。したがって、第2昇温過程や冷却過程で槽2内の目標温度を変更する場合は、図3のフローチャートに示す時点AからのステップS7〜S11の動作が繰り返し行なわれる。
【0078】
なお、上記実施例では、槽内を冷却する場合を例に採って説明したが、槽内の重合反応を促進させる場合には、槽内温度を上昇させることもある。つまり、供給管R1に温水を積極的に供給・循環させる場合もある。
【0079】
以上のように、重合反応開始の初期段階である第1昇温過程で測定して得た各種データ(Tjin,Tjout,Fw,Tc)を利用し、伝熱係数としての総括伝熱係数(U)を求めるとともに、この求まる総括伝熱係数(U)と実験により予め求めた総括伝熱係数の基準値(U0)とを比較する。この比較により総括伝熱係数(U)が基準値(U0)よりも大きな値(U≧U0)のときは槽内壁への付着物の量が少なく槽壁の熱伝達効率がよいので、槽内温度を監視しながら目標温度に精度よく近づける制御が可能なPID制御方式を選択することができる。
【0080】
逆に、総括伝熱係数(U)が基準値(U0)よりも小さな値(U<U0)のときは、槽内壁への付着物の量が多くて時定数が大きくなり槽壁の熱伝達効率が低下する。そこで総括伝熱係数(U)に応じて、ジャケット5に供給する冷却水の供給温度の目標値を変化させる、つまり新たな供給温度の目標値(TjinSV)を求め、この目標値(TjinSV)に応じてバルブV1、V2の開度を調節し、ジャケット5に冷却水を積極的に供給・循環して冷却を行なうジャケットのフィードフォワード制御方式を選択することができる。
【0081】
したがって、ポリマーを合成する過程で槽内壁に付着物が付着して槽壁の熱伝達率効が低下しても、槽内の温度を上昇させることなく設定重合温度に維持できる最適な重合温度制御方式を選択することができる。
【0082】
本発明は、上記の実施例に限らず、次のように変形実施することもできる。
(1)実施例装置では、PID制御方式とジャケット温度のフィードフォワード制御とを総括伝熱係数(U)の値によって重合温度制御方式を適時に切替えていたが、いずれか一方の制御方式で槽2内の重合温度を制御してもよい。
【0083】
例えばポリマー合成過程において終始PID制御を行なう場合、総括伝熱係数(U)の値を常に一定とし、槽内の温度を制御するための目標温度や、パラメータを変化させながらポリマーを製造する。
【0084】
(2)上記実施例装置では、図4に示す切替器10を制御部7の指令に基づいて、制御方式をPID制御またはジャケット温度のフィードフォワード制御のいずれかに切替えているが、これら2形態の制御方式に次のような制御方式を加えてもよい。
【0085】
例えば、ジャケット温度のフィードフォワード制御に切替えて槽2内の温度を調節する過程で、バルブV1を開放して供給管R1を循環している温水を排出しながら、バルブV2を開放して供給管R1に冷却水を供給する操作を一定時間行ない、このときの槽2内の温度変化状況を一定時間に限って様子見する制御を加えてもよい。
【0086】
(3)上記実施例では、エマルジョン重合による一括重合を例に採って重合温度制御方法を説明したが、この形態に限定されるものではなく、滴下重合、二段重合、および均一系の溶液重合などにも適用することができる。
【0087】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、ポリマーを合成する過程で槽壁における伝熱係数を測定し、その値に基づいて重合温度制御方式を変更することができる。すなわち、槽内壁への付着物の付着状態を伝熱係数から判断でき、槽壁への熱伝達効率が低下した状態であっても、そのときの熱伝達効率を考慮した最適な重合温度制御方式を選択して実行することができる。その結果、分子量分布の均一なポリマーを常に製造することができる。
【0088】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係る重合装置の概略全体構成を示した図である。
【図2】実施例装置に係るポリマー製造工程を示した図である。
【図3】実施例に係る重合温度制御方式の処理手順を示したフローチャートである。
【図4】実施例装置に係る重合温度制御系のブロック図である。
【符号の説明】
S1〜S3… 温度センサ
F … 流量計
V1、V2… バルブ
R1 … 供給管
R2 … 冷却管
1 … 攪拌機
2 … 攪拌槽
7 … 制御部
9 … 演算処理部
10 … 切替器
11 … ジャケット目標値設定コントローラ
12 … 内浴PIDコントローラ
13 … ジャケットPIDコントローラ
Claims (4)
- モノマー混合物を槽内に投入して重合反応によりポリマーを合成する過程で槽内の温度を制御する重合温度制御方法であって、
槽壁の伝熱係数を測定し、その値に基づいて槽壁の伝熱効率を監視し、伝熱効率が略一定な場合はPID制御方式を行ない、伝熱効率が低下した場合はフィードフォワード制御方式を行なうように重合温度制御方式を変更することを特徴とする重合温度制御方法。 - 請求項1に記載の重合温度制御方法において、
前記重合温度制御方式の変更は、測定した伝熱係数に基づいて以下のようにして行なう、
(1)前記測定した伝熱係数の実測値と、製造対象と同じポリマーについて予め求めた伝熱係数の基準値とを比較し、
(2)前記比較により実測値が基準値よりも大きな値のときは、PID制御方式により槽内の温度を制御し、
(3)前記比較により実測値が基準値よりも小さな値のときは、前記伝熱係数の実測値に応じて、温度調節手段に供給する温度調節用流体の目標温度を変化させるフィードフォワード制御方式により槽内の温度を制御することを特徴とする重合温度制御方法。 - 請求項2に記載の重合温度制御方法であって、
前記(2)のPID制御方式により槽内の温度を行なうとき、
前記槽壁の伝熱係数を測定し、
前記槽内の温度の目標値とその実測値とから求まる温度偏差と、槽内の温度を制御するための温度調節用流体の供給を調節する操作量とを関係付けるパラメータを、前記測定した槽壁の伝熱係数に応じて変化させて重合温度を制御することを特徴とする重合温度制御方法。 - 請求項2に記載の重合温度制御方法において、
前記(3)のフィードフォワード制御方式により槽内の温度を行なうとき、
前記槽壁の伝熱係数を測定し、
前記槽内の温度の目標値とその実測値とから求まる温度偏差と、槽内の温度を制御するための温度調節用流体の供給を調節する操作量とを関係付けるパラメータを、前記測定した槽壁の伝熱係数に応じて変化させて重合温度を制御することを特徴とする重合温度制御方法。
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