JP3816372B2 - 積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐傷つき性および耐摩耗性に優れる特定の熱可塑性重合体組成物層上に表面処理層が施された積層体、熱可塑性重合体よりなる発泡体層上に耐傷つき性および耐摩耗性に優れる特定の熱可塑性重合体組成物層が積層され、その熱可塑性重合体組成物層上に更に表面処理層が施された積層体、並びにこれらの積層体のうちの前者の積層体の熱可塑性重合体組成物層側または後者の積層体の発泡体層側に更に重合体、金属、布帛および木材から選ばれる少なくとも1種の材料よりなる層が積層されている積層構造体に関する。表面処理層および熱可塑性重合体組成物層を有し、必要に応じて熱可塑性重合体層の下面に更に熱可塑性重合体発泡体層を有する本発明の積層体は、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性、加工性などの特性に優れている。そのため、本発明の積層体は、表皮材として広範な用途に極めて有用であり、更に表皮材以外にも有効に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
軟質のポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いてなる表皮材は、安価で、柔軟性、耐傷つき性に優れていることから、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックス、座席シートなどの自動車内装材、ソファーや椅子などの家具などの広い分野で従来から利用されている。
しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂は、焼却時にダイオキシンなどの有害物質を発生し、またポリ塩化ビニル樹脂の可塑化のために用いられている可塑剤が環境ホルモンや発癌物質などとして作用する疑いがもたれており、環境汚染や安全性の点で問題がある。そのため、近年、ポリ塩化ビニル樹脂の代換材料として、ハロゲンや可塑剤を含まず、柔軟性に優れるポリオレフィン系熱可塑性エラストマーやスチレン系熱可塑性エラストマーが使用されるようになっているが、これらの熱可塑性エラストマーは耐傷つき性、耐摩耗性に劣る。
【0003】
そこで、耐傷つき性や耐摩耗性を向上させる目的で、ウレタン系樹脂塗料やアクリル系樹脂塗料を前記熱可塑性エラストマーの表面にコーティングすることが行われている。しかしながら、極性の低いポリオレフィン系熱可塑性エラストマーやスチレン系熱可塑性エラストマーに、極性の高いウレタン系樹脂塗料やアクリル系樹脂塗料をコーティングしても十分な接着強度が得られず、コーティング層の剥離などが生じやすい。そのため、従来技術では、前記した熱可塑性エラストマー表面に、塩素化ポリオレフィンや酸変性ポリオレフィンなどのプライマーを下塗りした後に、ウレタン系樹脂塗料やアクリル系樹脂塗料をコーティングするという多段の表面処理工程を採用せざるを得なかった。また、プライマーによる下塗りを省略するために、ウレタン系樹脂塗料やアクリル系樹脂塗料中に塩素化ポリオレフィンをブレンドすることも検討されている。しかし、塗膜の表面平滑性や機械的特性が低下し、しかも光による変色などの欠点がある。
一方、耐傷つき性および耐摩耗性に優れる熱可塑性エラストマーとしてはポリウレタン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。しかしながら、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、表皮材として用いた場合に、柔軟性や加工性に劣るため、単体では用いることができなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性、加工性などの特性に優れていて、表皮材などとして広範な用途に有用に用いることのできる積層体を提供することである。
さらに、本発明の目的は、前記積層体を表皮材とし、その裏側に重合体、金属、布帛および/または木材よりなる層を更に有する、各種製品として有用な積層構造体を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは鋭意研究を続けてきた。その結果、(水素添加)スチレン・ジエン共重合体ブロックと熱可塑性ポリウレタン重合体ブロックを有するポリウレタン系ブロック共重合体、(水素添加)スチレン・ジエン系ブロック共重合体、熱可塑性ポリウレタンおよび軟化剤を特定の割合で含有する熱可塑性重合体組成物が、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性、加工性などの特性に優れることを見出した。そして、前記知見に基づいて、かかる熱可塑性重合体組成物よりなる層に表面処理を施した積層体、または熱可塑性重合体発泡体上に前記熱可塑性重合体組成物よりなる層を形成し、その層上に極性重合体よりなる表面処理層を施すことにより得られる積層体が、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性、加工性に優れていて、表皮材などとして広範な用途に極めて有用に用い得ることを見出した。
また、本発明者らは、前記積層体における表面処理層としては、ポリウレタン系コーティング層が好適であること、熱可塑性重合体発泡体層としてはポリオレフィン系樹脂および/または各種の熱可塑性エラストマーから形成された発泡体からなる層が好適であることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した積層体を表皮材として該積層体の重合体組成物層側または発泡体層側に、重合体、金属、布帛および木材から選ばれる少なくとも1種の材料からなる層を更に積層すると、それにより得られる積層構造体は、例えば、各種自動車内装材、各種家具や事務用品、スポーツ用品、レジャー用品、文房具、玩具などの広範な用途に有効に用い得ることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)(i) 表面処理層(a)/重合体組成物層(b)の順序で積層されているか、または表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/熱可塑性重合体発泡体層(c)の順序で積層されている積層体であって;
(ii) 表面処理層(a)が、極性重合体から主としてなるコーティング層であり;且つ、
(iii) 重合体組成物層(b)が、
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A1)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B1)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して;
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A2)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B2)を有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(II)を20〜500質量部;
・熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を50〜300質量部;並びに、・軟化剤(IV)を0〜300質量部;
の割合で含有する熱可塑性重合体組成物からなる層である;
ことを特徴とする積層体である。
【0007】
そして、本発明は、
(2) 表面処理層(a)が、ポリウレタン系コーティング層である前記(1)の積層体;
(3) 熱可塑性重合体発泡体層(c)が、ポリオレフィン系樹脂および熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を用いて形成した発泡体からなる層である前記(1)または(2)の積層体;および、
(4) 熱可塑性重合体発泡体層(c)が、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーおよびポリウレタン系熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を用いて形成した発泡体からなる層である前記(3)の積層体;
である。
【0008】
さらに、本発明は、
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかの積層体における表面処理層(a)/重合体組成物層(b)よりなる積層体の重合体組成物層(b)の下面側、または表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/熱可塑性重合体発泡体層(c)よりなる積層体の熱可塑性重合体発泡体層(c)の下面側に、重合体、金属、布帛および木材から選ばれる少なくとも1種の材料からなる層が更に積層されている積層構造体;および、
(6) 前記重合体層が、溶融積層によって重合体組成物層(b)または熱可塑性重合体発泡体層(c)の下面側に積層されている前記(5)の積層構造体;
である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の積層体は、表面処理層(a)/重合体組成物層(b)の順序で積層しているか、または表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/熱可塑性重合体発泡体層(c)の順序で積層している積層体である。
本発明の積層体の一方の表面側に位置する表面処理層(a)は、極性重合体から主としてなるコーティング層であり、極性重合体を主体とする表面処理剤(コーティング剤)または被覆剤から形成された層であればいずれでもよい。
そのうちでも、表面処理層(a)は、ポリウレタン系コーティング剤、アクリル系樹脂コーティング剤またはこれらの混合物から形成されたコーティング層であることが、耐加水分解性、耐変色性、耐摩耗性、耐傷つき性、強靭性などの特性に優れ、しかも表面処理層(a)と重合体組成物層(b)との接着性が良好であることから好ましく、ポリウレタン系コーティング剤から形成されたコーティング層であることがより好ましい。表面処理層(a)を形成するポリウレタン系コーティング剤およびアクリル系樹脂コーティング剤としては、一液型コーティング剤、二液型コーティング剤など従来既知のいずれのものも使用できる。
【0010】
表面処理層(a)の形成に好ましく用いられるポリウレタン系コーティング剤としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの高・中分子量ポリオール;4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートおよび/または水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族または脂環族ジイソシアネート;1,4−ブタンジアミン、ヒドラジン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、低分子量ジオールなどの鎖伸長剤を用いてなるポリウレタン系コーティング剤を挙げることができる。そのうちでも、ポリカーボネートポリオールおよび/またはポリエーテルポリオール、脂肪族ジイソシアネートおよび脂肪族ジアミン系鎖伸長剤を用いてなるポリウレタン系コーティング剤が、耐加水分解性、耐変色性に優れていることから好ましく用いられる。
【0011】
本発明の積層体を構成する重合体組成物層(b)は、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)、付加重合系ブロック共重合体(II)および熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を含有し、場合により更に軟化剤(IV)を含有する熱可塑性重合体組成物から形成された層である。
【0012】
重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物で用いるポリウレタン系ブロック共重合体(I)は、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A1)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A1)」という]と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B1)[以下「共役ジエン重合体ブロック(B1)」という]を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体である。
また、重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物で用いる付加重合系ブロック共重合体(II)は、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A2)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A2)」という]と、共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B2)[以下「共役ジエン重合体ブロック(B2)」という]を有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種からなっている。
【0013】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)における芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、および付加重合系ブロック共重合体(II)における芳香族ビニル重合体ブロック(A2)を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどを挙げることができる。
芳香族ビニル重合体ブロック(A1)および(A2)は、前記した芳香族ビニル化合物の1種のみからなる構造単位を有していても、または2種以上からなる構造単位を有していてもよい。そのうちでも、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)および(A2)はスチレンに由来する構造単位から主としてなっていることが好ましい。
【0014】
芳香族ビニル重合体ブロック(A1)および(A2)は、芳香族ビニル化合物からなる構造単位と共に必要に応じて他の共重合性単量体からなる構造単位を少量有していてもよい。その場合の他の共重合性単量体からなる構造単位の割合は、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)または(A2)の質量に基づいて10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
その場合の他の共重合性単量体としては、例えば1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、ブタジエン、イソプレン、メチルビニルエーテルなどのイオン重合性単量体を挙げることができる。
【0015】
また、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)における共役ジエン重合体ブロック(B1)、および付加重合系ブロック共重合体(II)における共役ジエン重合体ブロック(B2)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどを挙げることができる。共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)は、これらの共役ジエン化合物の1種から構成されていてもまたは2種以上から構成されていてもよい。共役ジエン重合体ブロック(B1)および/または(B2)が2種以上の共役ジエン化合物に由来する構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、一部ブロック状、またはそれらの2種以上の組み合わせからなっていることができる。
【0016】
そのうちでも、共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)は、ゴム物性の改善効果の点から、イソプレン単位とする主体とするモノマー単位からなるポリイソプレンブロックまたはその不飽和結合の一部または全部が水素添加された水添ポリイソプレンブロック;ブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるポリブタジエンブロックまたはその不飽和結合の一部または全部が水素添加された水添ポリブタジエンブロック;或いはイソプレン単位とブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるイソプレン/ブタジエン共重合ブロックまたはその不飽和結合の一部または全部が水素添加された水添イソプレン/ブタジエン共重合ブロックであることが好ましい。
【0017】
共役ジエン重合体ブロック(B1)および/または(B2)の構成ブロックとなり得る上記したポリイソプレンブロックでは、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位は、2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基[−CH2−C(CH3)=CH−CH2−;1,4−結合のイソプレン単位]、イソプロペニルエチレン基[−CH(C(CH3)=CH2)−CH2−;3,4−結合のイソプレン単位]および1−メチル−1−ビニルエチレン基[−C(CH3)(CH=CH2)−CH2−;1,2−結合のイソプレン単位]からなる群から選ばれる少なくとも1種の基からなっており、各単位の割合は特に限定されない。
【0018】
共役ジエン重合体ブロック(B1)および/または(B2)の構成ブロックとなり得る上記したポリブタジエンブロックでは、その水素添加前には、そのブタジエン単位の70〜20モル%、特に65〜40モル%が2−ブテン−1,4−ジイル基(−CH2−CH=CH−CH2−;1,4−結合ブタジエン単位)であり、30〜80モル%、特に35〜60モル%がビニルエチレン基[−CH(CH=CH)−CH2−;1,2−結合ブタジエン単位]であることが好ましい。ポリブタジエンブロックにおける1,4−結合量が上記した70〜20モル%の範囲から外れると、そのゴム物性が不良になることがある。
【0019】
共役ジエン重合体ブロック(B1)および/または(B2)の構成ブロックとなり得る上記したイソプレン/ブタジエン共重合ブロックでは、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位は2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基からなっており、またブタジエンに由来する単位は2−ブテン−1,4−ジイル基および/またはビニルエチレン基からなっており、各単位の割合は特に制限されない。イソプレン/ブタジエン共重合ブロックでは、イソプレン単位とブタジエン単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパーブロック状のいずれの形態になっていてもよい。そして、イソプレン/ブタジエン共重合ブロックでは、ゴム物性の改善効果の点から、イソプレン単位:ブタジエン単位のモル比が1:9〜9:1であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましい。
【0020】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)および付加重合系ブロック共重合体(II)では、耐熱性および耐候性が良好なものとなる点から、その共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)における不飽和二重結合(炭素−炭素間二重結合)の一部または全部が水素添加されていることが好ましい。その際の共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)の水素添加率は50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。
なお、共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)における不飽和二重結合の水素添加率は、共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)における不飽和二重結合の含有量を、水素添加の前後において、ヨウ素価測定、赤外分光光度計(IR)、核磁気共鳴(NMR)などによって測定し、その測定値から求めることができる。
【0021】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)における芳香族ビニル重合体ブロック(A1)と共役ジエン重合体ブロック(B1)との結合形態、および付加重合系ブロック共重合体(II)における芳香族ビニル重合体ブロック(A2)と共役ジエン重合体ブロック(B2)との結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはそれらの2つ以上が組合わさった結合形態のいずれであってもよく、直鎖状の結合形態であることが好ましい。
【0022】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)および/または付加重合系ブロック共重合体(II)が、芳香族ビニル重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックとが直線状に結合した構造を有するものである場合は、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)および(A2)をAで、また共役ジエン重合体ブロック(B1)および(B2)をBで表したときに、A−Bで表されるジブロック構造、A−B−AまたはB−A−Bで表されるトリブロック構造、A−B−A−BまたはB−A−B−Aで表されるテトラブロック構造、またはAとBとが5個以上直鎖状に結合しているポリブロック構造をとることができる。それらのうちでも、A−Bで表されるジブロック構造またはA−B−Aで表されるトリブロック構造であることが、弾力性、力学的特性、取り扱い性などの点から好ましい。
【0023】
また、前記したトリブロック以上のポリブロック構造のものでは、2個以上の芳香族ビニル重合体ブロックAは互いに同じ内容のブロックであってもまたは異なる内容のブロックであってもよく、また2個以上の共役ジエン重合体ブロックBは互いに同じ内容のブロックであってもまたは異なる内容のブロックであってもよい。例えば、A−B−Aで表されるトリブロック構造における2個の芳香族ビニル重合体ブロックA、或いはB−A−Bで表されるトリブロック構造における2個の共役ジエン重合体ブロックBは、それらを構成する芳香族ビニル化合物または共役ジエン化合物の種類、その結合形式、ブロックの数平均分子量などが同じであっても、または異なっていてもよい。
【0024】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)および付加重合系ブロック共重合体(II)は、本発明の積層体のゴム弾性および柔軟性の観点から、芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量が、5〜70質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましい。
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)および付加重合系ブロック共重合体(II)における芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、1H−NMRスペクトルなどにより求めることができる。
【0025】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)における付加重合系ブロック(C)の数平均分子量(Mn)は20,000〜150,000、特に30,000〜120,000であることが好ましい。また、付加重合系ブロック共重合体(II)は、本発明の積層体のゴム弾性の点から、水素添加前の状態で、その数平均分子量(Mn)が50,000〜350,000、特に100,000〜250,000であることが好ましい。
なお、本明細書におけるポリウレタン系ブロック共重合体(I)における付加重合系ブロック(C)および付加重合系ブロック共重合体(II)の数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めた分子量をいう。
【0026】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の付加重合系ブロック(C)および/または付加重合系ブロック共重合体(II)は、本発明の主旨を損なわない限り、場合により、分子鎖中および/または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基などの官能基の1種または2種以上を有していてもよい。
【0027】
本発明の積層体における重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物で用いるポリウレタン系ブロック共重合体(I)は、上記したブロック構造を有する付加重合系ブロック(C)と熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)とが結合したポリウレタン系ブロック共重合体である。ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の硬度および溶融粘度は特に限定されないが、一般に、JIS K 6301(A法)による硬度(JIS A硬度)が60〜95で、200℃における溶融粘度が500〜2,000Pa・sであることが、積層体を製造する際の成形性、重合体組成物層(b)上に表面処理層(a)を形成する際の塗装性、得られる積層体の柔軟性、耐摩耗性、耐傷つき性、力学的特性などの点から好ましい。
【0028】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)における熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーよりなるブロックであればいずれでもよい。そのうちでも、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)は、後述する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)と同種または近似した熱可塑性ポリウレタンエラストマーより形成されていることが、重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物における重合体同士の相容性が良好になり、しかも積層体の力学的特性が良好になる点から好ましい。
【0029】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)における熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)は、重合体組成物層(b)のゴム物性がより良好なものとなる点から、その数平均分子量(Mn)が10,000〜500,000であることが好ましく、30,000〜300,000であることがより好ましい。
ここで、本明細書における熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)の数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値をいう。
【0030】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)は、1個の付加重合系ブロック(C)と1個の熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するジブロック共重合体であっても、または付加重合系ブロック(C)と熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)が合計で3個または4個以上結合したポリブロック共重合体であってもよい。重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物における重合体同士の相溶性、力学物性および積層体の製造容易性などの点から、1個の付加重合系ブロック(C)と1個の熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)が結合したジブロック共重合体、および/または2個の(C)と1個の(D)が結合したトリブロック共重合体であることが好ましく、ジブロック共重合体であることがより好ましい。
【0031】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)および付加重合系ブロック共重合体(II)の製造法は特に制限されず、上記したそれぞれのブロック共重合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよく、また既に市販されているものを用いてもよい。
【0032】
何ら限定されるものではないが、付加重合系ブロック共重合体(II)は、例えば、アニオン重合やカチオン重合などのイオン重合法、シングルサイト重合法、ラジカル重合法などにより製造することができる。
アニオン重合法による場合は、例えば、アルキルリチウム化合物などを重合開始剤として用いて、n−ヘキサンやシクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造および分子量を有するブロック共重合体を製造した後、アルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素化合物を添加して重合を停止させることにより製造することができる。
そして、前記により製造されるブロック共重合体を好ましくは公知の方法にしたがって不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水素添加して、水素添加された付加重合系ブロック共重合体(II)を得ることができる。
【0033】
また、何ら限定されるものではないが、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)は、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)と共役ジエン重合体ブロック(B1)を有し且つ末端に官能基、好ましくは水酸基を有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物(以下「末端変性付加重合系ブロック共重合体」ということがある)を溶融条件下に混練して反応させ、それにより得られるポリウレタン系反応生成物から、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)を抽出・回収することにより得ることができる。
その際に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、末端変性付加重合系ブロック共重合体との溶融混練は、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。溶融混練条件は、使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーや末端変性付加重合系ブロック共重合体の種類、装置の種類などに応じて選択することができるが、一般に180〜250℃の温度で1〜15分間程度行うとよい。
【0034】
また、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)は、上記した方法以外の方法でも製造できる。例えば、押出機中などで高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させて熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する際の反応の最初または反応の途中に、反応系に末端変性付加重合系ブロック共重合体を添加することによってポリウレタン系ブロック共重合体(I)を含有するポリウレタン系反応生成物を形成させ、そのポリウレタン系反応生成物からポリウレタン系ブロック共重合体(I)を抽出・回収することによっても得ることができる。
【0035】
上記において、ポリウレタン系反応生成物からのポリウレタン系ブロック共重合体(I)の抽出・回収は、例えば、ポリウレタン系反応生成物を必要に応じて適当な大きさに粉砕し、それをジメチルホルムアミドなどのポリウレタンの良溶媒で処理して未反応の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを抽出・除去し、次いでシクロヘキサンなどの末端変性付加重合系ブロック共重合体の良溶媒で処理して未反応の末端変性付加重合系ブロック共重合体を抽出除去し、残った固形物を乾燥することにより行うことができる。
【0036】
ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の製造に用いる上記の末端変性付加重合系ブロック共重合体には、後述するその製造法に由来して、末端に官能基を有していない付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物、すなわち付加重合系ブロック共重合体(II)に相当する重合体が含まれていることが多い。
そのため、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、末端変性付加重合系ブロック共重合体との反応により得られるポリウレタン系反応生成物は、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)、未反応の熱可塑性ポリウレタンエラストマー、付加重合系ブロック共重合体(II)、および末端変性付加重合系ブロック共重合体の4者の混合物であることが多い。
このことから、重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物の製造に当たっては、付加重合系ブロック共重合体(II)、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)および必要に応じて軟化剤(IV)と共に、末端変性付加重合系ブロック共重合体を配合し、組成物中で末端変性付加重合系ブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)とを反応させて前記したポリウレタン系反応生成物を形成させ、そのポリウレタン系反応生成物を組成物中にそのまま存在させる方法[すなわちポリウレタン系反応生成物からポリウレタン系ブロック共重合体(I)を回収せずに反応生成物の形態のままで組成物中に存在させる方法]を用いてもよい。
【0037】
ここで、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)の製造に用いられる末端変性付加重合系ブロック共重合体は、例えば、次のようなアニオン重合法により製造することができる。すなわち、アルキルリチウム化合物などを開始剤として、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造および分子量に達した時点で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイドなどのオキシラン骨格を有する化合物、またはε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン(ピバロラクトン)などのラクトン系化合物などを付加させ、次いでアルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素含有化合物を添加して重合を停止することにより製造することができる。そして、それにより得られるブロック共重合体を好ましくは、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中でアルキルアルミニウム化合物とコバルト、ニッケルなどからなるチーグラー触媒等の水添触媒の存在下に、反応温度20〜150℃、水素圧力1〜150kg/cm2の条件下で水素添加することによって、水添された末端変性付加重合系ブロック共重合体を得ることができる。
【0038】
末端変性付加重合系ブロック共重合体は、それが直鎖状構造を有するものである場合は、分子の片末端に1個の水酸基を有していても、または分子の両端に2個の水酸基を有していてもよい。また、末端変性付加重合系ブロック共重合体が分岐状または放射状の構造を有するものである場合は、その分子末端に1個もしくは複数個(分岐の数だけ)の水酸基を有していてもよい。末端変性付加重合系ブロック共重合体の1分子当たりの末端水酸基の数は0.5〜1個であることが好ましく、0.7〜1個であることがより好ましい。
【0039】
本発明の積層体における重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物で用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)は、一般に、高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により製造される。
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用いられる高分子ジオールは、その数平均分子量が1,000〜6,000であることが、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を含有する熱可塑性重合体組成物から得られる重合体組成物層(b)や皮膜などの力学的特性、耐摩耗性、耐傷つき性、耐熱性、耐寒性、弾性回復性などが良好になる点から好ましい。ここで、本明細書でいう高分子ジオールの数平均分子量は、JIS K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0040】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用い得る高分子ジオールの例としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオールなどを挙げることができ、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)はこれらの高分子ジオールの1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
【0041】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用い得る上記ポリエステルジオールとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸成分と低分子ジオールとの反応により得られるポリエステルジオール、ラクトンの開環重合により得られるポリエステルジオールなどを挙げることができる。
より具体的には、前記ポリエステルジオールとしては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの好ましくは炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体の1種または2種以上と、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの好ましくは炭素数2〜10の脂肪族ジオールの1種または2種以上とを重縮合反応させて得られるポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオールを挙げることができる。
【0042】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用い得る上記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができる。
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用い得る上記ポリカーボネートジオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオールの1種または2種以上と、炭酸ジフェニル、炭酸ジアルキルなどの炭酸エステルまたはホスゲンとを反応させて得られるポリカーボネートジオールを挙げることができる。
【0043】
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用いられる有機ジイソシアネートの種類は特に限定されないが、分子量500以下の芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよび脂肪族ジイソシアネートの1種または2種以上が好ましく用いられる。そのような有機ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートのうちでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0044】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造に用い得る鎖伸長剤としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、その種類は特に限定されない。そのうちでも、鎖伸長剤としては、脂肪族ジオール、脂環式ジオールおよび芳香族ジオールのうちの1種または2種以上が好ましく用いられる。好ましく用いられる鎖伸長剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオールを挙げることができる。前記したうちでも、炭素数2〜6の脂肪族ジオールが鎖伸長剤としてより好ましく用いられ、1,4−ブタンジオールが更に好ましく用いられる。
【0045】
本発明の積層体における重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物では、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)として、高分子ジオール、鎖伸長剤および有機ジイソシアネートを、高分子ジオール:鎖伸長剤=1:0.2〜8.0(モル比)の範囲であり且つ[高分子ジオールと鎖伸長剤の合計モル数]:[有機ジイソシアネートのモル数]=1:0.98〜1.04の範囲であるようにして反応させて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましく用いられる。そのような熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を含有する熱可塑性重合体組成物は、積層体の製造時に溶融粘度の急激な上昇がなく、目的とする積層体を円滑に製造することができる。しかも、得られる積層体の耐熱性、耐摩耗性、耐傷つき性が良好なものとなる。
【0046】
重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物で用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)は、上記したJIS−A硬度が60〜95であることが、積層体の柔軟性、力学的特性、ゴム弾性などの点から好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)のJIS−A硬度が60未満であると、積層体の力学的特性、耐傷つき性などが低くなり易く、一方95を超えると、積層体の柔軟性が低下し、また他成分との相溶性が悪化して相間剥離が生じ易い。
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の数平均分子量(Mn)は、10,000〜500,000であることが、ポリウレタンエラストマー(III)の生産性などの点から好ましい。なお、ここでいうポリウレタンエラストマー(III)の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めたポリスチレン換算の分子量である。
【0047】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の製造方法は特に限定されず、上記した高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0048】
本発明の積層体における重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物は、必要に応じて軟化剤(IV)を含有することができる。軟化剤(IV)の具体例としては、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系、流動パラフィンなどの炭化水素系油;落花生油、ロジンなどの植物油;リン酸エステル;塩素化パラフィン、低分子量ポリエチレンやポリエチレングリコールなどの低分子量ポリマーなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、パラフィン系炭化水素系油が好ましく用いられる。
【0049】
本発明の積層体における重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物は、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して、付加重合系ブロック共重合体(II)を20〜500質量部、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を50〜300質量部、および軟化剤(IV)を0〜300質量部の割合で含有していることが必要である。
付加重合系ブロック共重合体(II)の配合量が、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して20質量部未満であると、力学的特性などに劣るようになり、しかも得られる積層体の柔軟性が低下する。一方、付加重合系ブロック共重合体(II)の配合量が、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して500質量部を超えると、表面処理層(a)との接着性や耐摩耗性が低下する傾向となる。
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の配合量が、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して50質量部未満であると、相溶性が悪化し、相間剥離が生じて、表面処理層(a)との接着性や耐摩耗性が低下する傾向となり、一方300質量部を超えると、積層体の柔軟性が低下する。
軟化剤(IV)の配合量が、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して300質量部を超えると、積層体の耐摩耗性、耐傷つき性、破断強度や引裂強度などの力学的特性、および表面処理層(a)または熱可塑性重合体発泡体層(c)との接着力が低下する。
【0050】
重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物は、付加重合系ブロック共重合体(II)を、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して50〜300質量部、特に50〜200質量部の割合で含有することが好ましい。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して100〜250質量部、特に100〜200質量部の割合で含有することが好ましい。また、軟化剤(IV)を、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して50〜250質量部、特に50〜200質量部の割合で含有することが好ましい。
【0051】
重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物は、必要に応じて、ゴム用補強剤を含有していてもよい。ゴム用補強剤を含有すると、得られる積層体の力学的特性、耐摩耗性、耐傷つき性が向上する。ゴム用補強剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、HAF、HAF−HS、SAF、ISAFなどのカーボンブラック;炭素繊維;ポバール系易フィブリル化繊維;ナイロン繊維やポリエステル繊維などの有機繊維状物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有することができる。そのうちでも、カーボンブラック、炭素繊維および/または有機繊維状物が、柔軟性と軽量性に優れる積層体が得られることから好ましく用いられる。
【0052】
重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物は、本発明の主旨を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤などを含有していてもよい。さらに、重合体組成物層(b)を形成する熱可塑性重合体組成物は、補強効果を示さない充填材、例えば、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ藻土などの無機充填材や、ゴム粉末、木粉などの有機充填材などを含有していてもよい。
【0053】
重合体組成物層(b)を形成するための熱可塑性重合体組成物は、熱可塑性重合体組成物を構成する上記した各成分を一括混合または分割混合し、それにより得られる混合物を従来公知の混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの混練機を使用して混練することにより調製することができる。
熱可塑性重合体組成物を得るための前記混練に際しては、被混練成分のそれぞれをそのまま直接混練機に供給せずに、混練前にヘンシェルミキサーやタンブラーなどのような混合機を用いて予めドライブレンドしてから混練機に供給すると、均一な熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
また、熱可塑性重合体組成物を調製するための混練温度としては、一般に150〜250℃の温度が好ましく採用される。
【0054】
本発明の積層体のうち、表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/熱可塑性重合体発泡体層(c)よりなる積層体における発泡体層(c)は、熱可塑性重合体から形成された発泡体層である。
熱可塑性重合体発泡体層(c)[以下単に「発泡体層(c)」ということがある]は、熱可塑性重合体から形成した可撓性および/または弾性を有する発泡体からなる層であればいずれでもよい。そのうちでも、発泡体層(c)は、ポリオレフィン系樹脂および熱可塑性エラストマーのうちの少なくとも1種を用いて形成した発泡体からなる層であることが好ましく、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーおよびポリウレタン系熱可塑性エラストマーのうちの少なくとも1種を用いて形成された発泡体からなる層であることが、重合体組成物層(b)との良好な接着性、柔軟性などの点からより好ましい。発泡体層(c)を構成する発泡体は、発泡剤を用いる化学的発泡法で得られた発泡体であっても、または撹拌気泡などの物理的発泡法で得られた発泡体のいずれであってもよい。
発泡体層(c)を構成する発泡体としては、市販のものを購入してそのまま使用しても、または本発明の実施のために製造してもよい。
発泡体層(c)を構成する発泡体の比重は、本発明の積層体の用途などに応じて調節し得るが、一般的には、0.02〜0.80程度、特に0.09〜0.60程度であることが、得られる積層体の柔軟性、軽量性、力学的特性などの点から好ましい。
【0055】
本発明の積層体における表面処理層(a)、重合体組成物層(b)および発泡体層(c)の厚さは、各層を形成する材料の種類、積層体の用途などに応じて調整し得るが、一般的には、表面処理層(a)の厚さが3〜80μm、特に5〜40μm、重合体組成物層(b)の厚さが50μm〜3mm、特に100μm〜2.5mm、発泡体層(c)の厚さが150μm〜5mm、特に300μm〜3mmであることが、積層体の柔軟性、軽量性、力学的特性、取り扱い性などの点から好ましい。
本発明の積層体の全体の厚さは、各層を形成する材料の種類、積層体の用途などに応じて調整し得るが、柔軟性、軽量性、力学的特性、取り扱い性などの点から、一般的には250μm〜9mmであることが好ましく、500μm〜5mmであることがより好ましい。
【0056】
本発明の積層体では、表面処理層(a)と重合体組成物層(b)とは接着剤を用いて接着されていてもよいが、重合体組成物層(b)上に表面処理層(a)が接着剤やプライマーなどを用いることなく融着によって直接積層接着されていることが、得られる積層体の柔軟性、軽量性、積層体製造工程の簡略化、コストなどの点から好ましい。また、本発明の積層体では、重合体組成物層(b)と発泡体層(c)とは接着剤によって接着されていてもよいが、接着剤を用いることなく重合体組成物層(b)が発泡体層(c)上に融着によって直接積層接着されていることが、得られる積層体の柔軟性、軽量性、積層体製造工程の簡略化などの点から好ましい。
【0057】
本発明の積層体の製造法は特に制限されず、表面処理層(a)/重合体組成物層(b)の積層順序または表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/発泡体層(c)の積層順序で2つまたは3つの層が接着・一体化されている積層体を製造し得る方法であれば、いずれも採用できる。
そのうちでも、発泡体層(c)上に重合体組成物層(b)が接着剤を使用することなく融着により直接積層接着され、且つ重合体組成物層(b)上に表面処理層(a)が接着剤を使用することなく直接積層接着されている3層積層体を得るには、例えば、熱可塑性重合体を用いて形成した発泡体上に、重合体組成物層(b)を形成するための上記した熱可塑性重合体組成物を適当な方法(例えば溶融押出法、カレンダー法、流延法、注型法、インサート成形法、二色成形法など)で溶融被覆(溶融接着)して、重合体組成物層(b)/発泡体層(c)よりなる2層構造積層体を製造し、次いで該2層構造積層体の重合体組成物層(b)の表面に表面処理層(a)を形成するための極性を有する重合体から主としてなるコーティング材料をコーティングする方法が、生産性が高く、しかも一般的である点から好ましく採用される。
【0058】
表面処理層(a)/重合体組成物層(b)よりなるかまたは表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/発泡体層(c)よりなる本発明の積層体は、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性、加工性などの特性に優れており、各種製品を製造する際の表皮材として広範な用途に極めて有用である。特に、本発明の積層体をその重合体組成物層(b)の下面側または発泡体層(c)の下面側で、他の重合体、金属、布帛、木材などの他の材料よりなる層に接着・積層することによって、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性などの特性に優れる本発明の積層体を表皮とする各種積層構造体(積層製品)を製造することができる。
ここで、本明細書における「重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側」とは、表面処理層(a)/重合体組成物層(b)よりなる積層体における表面処理層(a)と接着していない重合体組成物層(b)のもう一方の面側、および表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/発泡体層(c)よりなる積層体における重合体組成物層(b)と接着していない発泡体層(c)のもう一方の面側をいう。
【0059】
本発明の積層体の重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側に重合体が積層した積層構造体を形成する場合は、積層構造体の用途などに応じて、該重合体として、硬質重合体、軟質重合体、弾性重合体などのいずれもが使用でき、例えば、ポリプロピレン、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン/無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリウレタン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン/スチレンゴム、ブタジエン/アクリロニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴムなどを挙げることができる。そのうちでも、本発明の積層体の重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側に積層する重合体層としては、ポリプロピレンなどの硬質の熱可塑性重合体が、発泡体層(c)と重合体との接着性、リサイクル性などの点から好ましく採用される。
【0060】
本発明の積層体の重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側に重合体が積層した積層構造体を製造するに当たっては、重合体組成物層(b)または発泡体層(c)と重合体を接着剤によって接着・積層してもよいが、接着剤を用いずに重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側に重合体を直接接着・積層することが好ましい。そのような積層構造体の製法としては、例えば、積層体の重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側に重合体を押出被覆、カレンダー被覆などにより直接被覆する方法、本発明の積層体を重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側を内側に向けて型内に配置しておき(インサートしておき)そこに重合体を充填、注入または射出して成形体などを製造する方法などを挙げることができる。
発泡体層(c)の下面側に重合体が積層した積層構造体を製造する場合は、発泡体層(c)を形成している熱可塑性重合体の種類と、発泡体層(c)の下面側に積層する重合体の種類を同じか近似したものにすると、接着剤を用いなくても、発泡体層(c)と重合体との接着を良好に行うことができる。
また、積層体の重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側に積層する材料が、金属、布帛、木材などの場合は、接着剤などを用いて両者を接着・積層すればよい。
また、本発明の積層体は、他の材料と積層せずに、そのまま単独で、自動車などの車両用内装材、ソファー、各種椅子用の表皮材などの用途に用いることもできる。
【0061】
本発明の積層体は柔軟性、軽量性、耐摩耗性、耐傷つき性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、力学的強度などの諸特性に優れており、それに伴って本発明の積層体を表皮材としその裏側[重合体組成物層(b)または発泡体層(c)の下面側]に更に重合体、金属、木材、布帛などの他の材料からなる層を積層した積層構造体も柔軟性、軽量性、耐摩耗性、耐傷つき性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、力学的強度などの諸特性に優れる表皮を有しているので、本発明の積層体およびそれを用いてなる積層構造体は、前記した特性を活かして、例えば、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、天井などの自動車内装材;ソファー、各種椅子用の表皮材;スポーツ用品;レジャー用品;文房具;玩具;家屋の内張り材などの幅広い用途に有効に使用することができる。
【0062】
【実施例】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
以下の例において、積層体における重合体組成物層(b)の硬度、並びに積層体の耐傷つき性、耐摩耗性、引張強度および引裂強度の測定または評価は、以下の方法によって行った。
【0063】
(1)積層体における重合体組成物層(b)の硬度:
以下の例において、表面処理層(コーティング層)を形成する前の積層体(重合体組成物層と発泡体層からなる積層体)、または表面処理層(コーティング層)を形成する前の重合体組成物層から、長さ×幅×厚み=110mm×110mm×2mmのシート状試験片を切り取り、該試験片を用いてJIS K−6253に準じて、タイプAデュロメータで硬度を測定して、柔軟性の指標とした。
【0064】
(2)積層体の耐傷つき性(木綿による往復摺動試験):
以下の例で得られた積層体から、長さ×幅×厚み=150mm×50mm×2mmサイズの試験片を切り取り、該試験片の表面処理層(a)[比較例4においては重合体組成物層(b)]上を、荷重を加えた木綿製の布面で140mmの長さにわたって、10分間往復摺動させる(1秒で1往復の割合)。この試験を荷重を変えて行い、傷がついた時の荷重を測定して、耐傷つき性の指標とした。傷つき荷重の値が高いほど耐傷つき性が優れている。
【0065】
(3)積層体の耐摩耗性(摩耗量):
以下の例で得られた積層体から直径110mmの円板状試験片を打ち抜き、該試験片を用いて、表面処理層(a)の側で、JIS K−6264に準じて摩耗量を測定して、耐摩耗性の指標とした。この試験を行うに当たって、摩耗輪としてJIS規格にいうH22に相当するものを使用した。摩耗量が少ないほど耐摩耗性に優れている。
【0066】
(4)積層体の引張強度:
以下の例で得られた積層体からダンベル状5号試験片を打ち抜き、該試験片を用いてJIS K−6251に準じて引張り試験を行い、破断時の強度を測定して引張強度とした。
【0067】
(5)積層体の引裂強度:
以下の例で得られた積層体から切込み無しのアングル形状試験片を打ち抜き、該試験片を用いてJIS K−6252に準じて引裂き試験を行い、引裂き強度を測定した。
【0068】
また、以下の例で用いた各成分の内容は次のとおりである。
(1)ポリウレタン系ブロック共重合体(I)(略号:PU/SEPS):
ポリスチレンブロック−ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロックからなり分子の片末端に水酸基を有するトリブロック共重合体の水素添加物(SEPS−OH)(数平均分子量=100,000、スチレン含有量=30質量%、ポリイソプレンブロックにおける水素添加率=98%、平均水酸基数=0.9個/分子)100質量部と、下記の熱可塑性ポリウレタン(TPU1180)100質量部をドライブレンドし、二軸押出機(プラスチック工業研究所製「BT−30」)を用いてシリンダー温度220℃、スクリュー回転数150rpmの条件下で溶融混練した後、押し出し、切断してペレットをつくり、それにより得られたペレットからジメチルホルムアミドを用いて未反応のポリウレタンを抽出除去し、次いでシクロヘキサンを用いて未反応のSEPS−OHを抽出除去し、残留した固形物を乾燥することにより得られた熱可塑性ポリウレタン(TPU1180)と付加重合系ブロック共重合体(SEPS)とが結合したジブロック共重合体。
(2)付加重合系ブロック共重合体( II )(略号:SEPS):
ポリスチレンブロック−ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロックからなるトリブロック共重合体の水素添加物(数平均分子量=200,000、スチレン含有量=30質量%、ポリイソプレンブロックにおける水素添加率=98%)。
(3)熱可塑性ポリウレタン( III )(略号:TPU1180):
ポリエステル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー(株式会社クラレ製「クラミロンU 1180」;脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ポリウレタンエラストマー)。
(4)軟化剤( IV )(略号:PW−380):
パラフィン系プロセスオイル(出光石油化学株式会社製「ダイアナプロセスPW−380」)。
【0069】
《実施例1〜3》
(1) 下記の表1に示す配合に従って各成分を二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35B」)に供給して230℃で約5分間一括混練した後、ストランド状に押し出し、切断して、重合体組成物層(b)用のペレット状の熱可塑性重合体組成物を調製した。
(2) ポリエチレン発泡体シート(三和化工株式会社製、商品名「サンペルカL−2500」、厚さ1.0mm、比重0.4)の一方の表面に、上記(1)で調製した熱可塑性重合体組成物を、2本ロールを使用して165℃で溶融被覆して、発泡体層(c)(発泡体シート層)上に厚さ1.0mmの重合体組成物層(b)を有する2層構造積層体を製造した。
この2層構造積層体における重合体組成物層(b)の硬度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られた積層体の熱可塑性重合体組成物層上に、ウレタン系表面処理剤(大日本インキ化学工業株式会社製の商品名「CRISVON3354」100質量部と大日本インキ化学工業株式会社製の商品名「HAULACMAT A−1008」5質量部の混合物)を、ドクターブレードを使用して厚さ20μmにコーティングした後、温度40℃で熱風にて乾燥して、表面処理層(a)(コーティング層)/重合体組成物層(b)/発泡体層(c)からなる積層体を製造した。
(4) 上記(3)で得られた積層体の耐傷つき性、耐摩耗性、引張強度および引裂強度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0070】
《実施例4》
(1) 下記の表1に示す配合に従って各成分を二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35B」)に供給して230℃で約5分間一括混練した後、ストランド状に押し出し、切断して、重合体組成物層(b)用のペレット状の熱可塑性重合体組成物を調製した。これにより得られた熱可塑性重合体組成物を用い、射出成形機[東芝機械株式会社製「IS−55EPN」、射出圧力:35kgf/cm2(約3430kPa)、金型温度:50℃]により射出成形して、厚さ2mmの重合体組成物層(b)用のシートを製造した。その硬度を上記した方法で測定したところ、表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた重合体組成物層(b)用のシートの上に、ウレタン系表面処理剤(大日本インキ化学工業株式会社製の商品名「CRISVON 3354」100質量部と大日本インキ化学工業株式会社製の商品名「HAULAC MAT A−1008」5質量部の混合物)を、ドクターブレードを使用して厚さ20μmにコーティングした後、温度40℃で熱風にて乾燥して、表面処理層(a)(コーティング層)/重合体組成物層(b)からなる積層体を製造した。
(3) 上記(2)で得られた積層体を、縦×横=10cm×10cmの寸法に切断して、縦×横×深さ=10cm×10cm×1cmの型キャビティーを有する金型内の底部に、重合体組成物層(b)を型内面に向けて配置し(金型温度50℃)、そこにポリプロピレンを220℃で溶融射出成形した[射出成形機:東芝機械社製「IS−55EPN」、射出圧力:40kgf/cm2(約3920kPa)]。金型内に射出したポリプロピレンが冷却固化した時点(金型温度50℃)で厚板状成形品を金型から取り出した。これにより得られた厚板状成形品の一方の表面には、前記積層体が、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性に優れる表皮として強固に接着・積層していた。得られた成形品の耐傷つき性、耐摩耗性、引張強度および引裂強度の測定または評価の結果を下記の表1に示す。
【0071】
《比較例1〜3》
(1) 下記の表2に示す配合に従って各成分を二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35B」)に供給して230℃で約5分間一括混練した後、ストランド状に押し出し、切断して、重合体組成物層(b)用のペレット状の熱可塑性重合体組成物を調製した。
(2) ポリエチレン発泡体シート(三和化工株式会社製、商品名「サンペルカL−2500」、厚さ1.0mm、比重0.4)の一方の表面に、上記(1)で調製した熱可塑性重合体組成物を2本ロールを使用して165℃で溶融被覆して、発泡体層(c)(発泡体シート)上に厚さ1.0mmの重合体組成物層(b)を有する2層構造積層体を製造した。
この2層構造積層体における重合体組成物層(b)の硬度を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られた積層体の重合体組成物層(b)上に、ウレタン系表面処理剤(大日本インキ化学工業株式会社製の商品名「CRISVON 3354」100質量部と大日本インキ化学工業株式会社製の商品名「HAULACMAT −1008」5質量部の混合物)を、ドクターブレードを使用して厚さ20μmにコーティングした後、温度40℃で熱風にて乾燥して、表面処理層(a)(コーティング層)/重合体組成物層(b)/発泡体層(c)からなる積層体を製造した。
(4) 上記(3)で得られた積層体の耐傷つき性、耐摩耗性、引張強度および引裂強度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0072】
《比較例4》
(1) 下記の表2に示す配合に従って各成分を二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35B」)に供給して230℃で約5分間一括混練した後、ストランド状に押し出し、切断して、重合体組成物層(b)用のペレット状の熱可塑性重合体組成物を調製した。
(2) ポリエチレン発泡体シート(三和化工株式会社製、商品名「サンペルカL−2500」、厚さ1.0mm、比重0.4)の一方の表面に、上記(1)で調製した熱可塑性重合体組成物を2本ロールを使用して165℃で溶融被覆して、発泡体層(c)(発泡体シート)上に厚さ1.0mmの重合体組成物層(b)を有する2層構造積層体を製造した。
(3) 上記(2)で得られた表面処理層(a)層(コーティング層)のない2層構造積層体の硬度、耐傷つき性、耐摩耗性、引張強度および引裂強度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
上記の表1および2の結果から明らかなように、実施例1〜4の積層体は、その重合体組成物層(b)が、ポリウレタン系ブロック共重合体(I)、付加重合系ブロック共重合体(II)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)および軟化剤(IV)を本発明で規定する特定の量で含有する熱可塑性重合体組成物から形成されていることにより、耐傷つき性および耐摩耗性に優れ、しかも柔軟性および力学的強度をバランス良く備えている。
それに対して、比較例1の積層体は、重合体組成物層(b)が、付加重合系ブロック共重合体(II)を含有していない熱可塑性重合体組成物から形成されていることにより、耐傷つき性、耐摩耗性、引張強度および引裂強度が劣っている。また、比較例2の積層体は、重合体組成物層(b)を形成している熱可塑性重合体組成物における熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)の含有量が本発明の範囲を超えていることにより、柔軟性に劣っている。
比較例3の積層体は、重合体組成物層(b)を形成している熱可塑性重合体組成物における軟化剤(IV)の含有量が本発明の範囲を超えていることにより、耐傷つき性および耐摩耗性に劣り、しかも力学的特性にも劣っている。
比較例4の積層体は、表面に表面処理層(a)(コーティング層)を有していないために、耐傷つき性および耐摩耗性に劣っている。
【0076】
【発明の効果】
本発明の積層体は、柔軟性、軽量性、ゴム弾性、クッション性(緩衝性)、強靭性、耐傷つき性、耐摩耗性、加工性などの特性に優れており、そのためそれらの特性を活かして表皮材などとして広範な用途に有用に用いることができる。
本発明の積層体を表皮材とし、その裏側[重合体組成物層(b)または発泡体層(c)側]に重合体、金属、木材、布帛などの材料よりなる層を積層してなる積層構造体は、例えば、各種自動車内装材、各種家具や事務用品、スポーツ用品、レジャー用品、文房具、玩具などとして各種製品用途に有用である。
Claims (6)
- (i) 表面処理層(a)/重合体組成物層(b)の順序で積層されているか、または表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/熱可塑性重合体発泡体層(c)の順序で積層されている積層体であって;
(ii) 表面処理層(a)が、極性重合体から主としてなるコーティング層であり;且つ、
(iii) 重合体組成物層(b)が、
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A1)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B1)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体(I)100質量部に対して;
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A2)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B2)を有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(II)を20〜500質量部;
・熱可塑性ポリウレタンエラストマー(III)を50〜300質量部;並びに、・軟化剤(IV)を0〜300質量部;
の割合で含有する熱可塑性重合体組成物からなる層である;
ことを特徴とする積層体。 - 表面処理層(a)が、ポリウレタン系コーティング層である請求項1に記載の積層体。
- 熱可塑性重合体発泡体層(c)が、ポリオレフィン系樹脂および熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を用いて形成した発泡体からなる層である請求項1または2に記載の積層体。
- 熱可塑性重合体発泡体層(c)が、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーおよびポリウレタン系熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を用いて形成した発泡体からなる層である請求項3に記載の積層体。
- 請求項1〜4のいずれか1項の積層体における表面処理層(a)/重合体組成物層(b)よりなる積層体の重合体組成物層(b)の下面側、または表面処理層(a)/重合体組成物層(b)/熱可塑性重合体発泡体層(c)よりなる積層体の熱可塑性重合体発泡体層(c)の下面側に、重合体、金属、布帛および木材から選ばれる少なくとも1種の材料からなる層が更に積層されている積層構造体。
- 前記重合体層が、溶融積層によって重合体組成物層(b)または熱可塑性重合体発泡体層(c)の下面側に積層されている請求項5に記載の積層構造体。
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