JP3814438B2 - 弾性表面波装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車電話及び携帯電話などの移動体無線機器等に内蔵される周波数帯域フィルタとしての弾性表面波装置であって、不平衡入力−平衡出力型或いは平衡入力−不平衡出力型のものに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の弾性表面波(Surface Acoustic Wave で、以下、SAWという)共振子60の基本構成を図6に示す。同図において、61はLiNbO3 等の圧電基板上に蒸着等の方法で形成された櫛歯状電極(Inter Digital Transducerで、以下、IDT電極という)、62はSAWをIDT61側へ反射し効率良く共振させる反射器である。尚、同図においてIDT61及び反射器62の電極指は、実際には数10〜数100本にも及ぶため模式的に描いている。このSAW共振子60は後述する不平衡入力−平衡出力機能、又は平衡入力−不平衡出力機能を有し、中心部のIDT61は不平衡型、その両側のIDT61は平衡型である。
【0003】
近年、移動体通信用の周波数帯域フィルタ(以下、フィルタという)としてSAWフィルタが用いられており、その広帯域化及び小型化(特開平10−163800号公報参照)についての要望が強くなってきている。また、中心周波数に対する通過帯域幅の比率(比帯域幅)は、例えば中心周波数942MHzに対して約35MHz(約3.7%)に増加している。そして、温度によるフィルタ特性のシフトと、製造時の特性ばらつきとを考慮し、一般に通過帯域幅は上記要求より大きめ、例えば約50MHz(約5.3%)に設定する必要がある。
【0004】
また、移動体通信機器等の小型、軽量化及び低コスト化のための部品削減により、SAWフィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。その1つに、不平衡入力−平衡出力型或いは平衡入力−不平衡出力型に構成するようにとの要求がある。ここで、平衡入力或いは平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力或いは出力するものをいい、各信号線路の信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力或いは不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の線路の電位として入力或いは出力するものを言う。
【0005】
従来のSAWフィルタは、一般的に不平衡入力−不平衡出力型SAWフィルタ(以下、不平衡型SAWフィルタという)であるため、SAWフィルタ後段の回路や電子部品が平衡入力型となっている場合、SAWフィルタと後段との間に不平衡−平衡変換回路(以下、バラン回路という)を挿入した回路構成を採っていた。同様にSAWフィルタ前段の回路や電子部品が平衡出力型となっている場合は、前段とSAWフィルタとの間にバラン回路を挿入した回路構成となっていた。
【0006】
ここで、バラン回路を設けた不平衡入力−平衡出力型SAWフィルタの例を図9に示す。同図は不平衡入力−平衡出力型SAWフィルタの等価回路図であり、91は高周波信号の入力端子、92〜95はバラン回路部111用のストリップラインであり、ストリップライン92はストリップライン94と電磁結合し、ストリップライン93はストリップライン95と電磁結合している。ストリップライン93の一端は開放され、ストリップライン94及びストリップライン95の一端はグランド電極99に接続される。そして、ストリップライン94及びストリップライン95の他端(同図では中央部)は、インピーダンス整合部112のストリップライン96,97に各々接続される。
【0007】
そして、98はSAW共振子であり、ラダー型及びブリッジ型に接続されSAWフィルタ部113を構成する。100,101は高周波信号の出力端子である。同図において、入力端子91から入力された不平衡信号は不平衡−平衡変換回路のバラン回路部111を通り、平衡信号に変換される。この平衡信号はインピーダンス整合部112を通り、SAWフィルタ部113にマッチする低インピーダンスに変換され、SAWフィルタ部113にて急峻なフィルタリングを実現する。
【0008】
近時、別個のバラン回路を不要とするように、SAWフィルタに不平衡−平衡変換機能或いは平衡−不平衡変換機能を持たせた、不平衡入力−平衡出力型SAWフィルタ或いは平衡入力−不平衡出力型SAWフィルタ(以下、平衡型SAWフィルタという)の実用化が進められている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図6に示した従来の平衡型SAWフィルタは、設計上大きな比帯域幅を得るのが困難であるという問題がある。一方、不平衡型SAWフィルタは大きな比帯域幅を得ることができる反面、別個にバラン回路が必要になるという問題がある。
【0010】
また従来、SAWフィルタは、キャンパッケージ型のものよりセラミックスパッケージ型が実用化されているが、セラミックスパッケ−ジ型はキャンパッケージ型に比べ、表面実装可能で小型化が実現できるSAWフィルタとして広く用いられるようになってきている。第1世代のセラミックスパッケージ型SAWフィルタは、セラミックスパッケージ内に接着固定したSAWフィルタとセラミックスパッケージの内部電極とをワイヤーボンディングにより電気接続していたが、ワイヤーボンディングを用いることでセラミックスパッケージ外形が大きくなり、SAWフィルタは内蔵するSAW素子の5倍〜6倍の占有面積となっていた。これを解決し小型化を図るために、図7(a),(b)に示すように、第2世代のセラミックスパッケージ型SAWフィルタFとして、SAW素子71をパッケージ内部にフェースダウンボンディングして設置してなるものが実用化されてきている。
【0011】
SAW素子71表面に形成された金属バンプ77と内部電極75とを接続する構成であり、ワイヤーボンディングを使用する必要が無く、そのため第1世代のセラミックスパッケージ型SAWフィルタに比べ、約2分の1の小型化がなされている。図7において、72はパッケージの底板、73は蓋体、74は樹脂等からなる側壁部、76はSAW素子71における電極、78はSAW共振子であり、同図(b)は(a)のA−A線における断面図である。
【0012】
しかしながら、第2世代のフェースダウン実装方式のセラミックスパッケージ型SAWフィルタFにおいても、その外形寸法はSAW素子71の約3倍であり、十分に小型化されていないという問題がある。
【0013】
また、図7のようなセラミックスパッケージ型SAWフィルタFにおいて、平衡型SAWフィルタとするためにバラン回路を内蔵させる場合、バラン回路を複数のセラミックス基板上に形成し、底板72の裏面側(同図では下側)に前記セラミックス基板を積層させる構成が考えられる。しかしながら、前記構成ではセラミックス基板の厚さが一般に100μm程度と厚く、そのためバラン回路のうちセラミックス基板間で電磁結合するストリップラインの間隔が大きくなり、挿入損失が大きくなるといった問題があった。
【0014】
従って、本発明は上記事情に鑑みて完成されたものであり、その目的はフィルタとして使用されるSAW装置に平衡型の機能を付与し、かつ外形寸法が内蔵するSAW素子とほば等しく、また挿入損失が小さいものとすることである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板の上面に少なくとも一対の櫛歯状電極を有する弾性表面波装置であって、圧電基板の下面に直接に、連続したストリップラインで対称的に形成された二つの渦巻状線路a1,a2を主面上に設けた厚さ30μm以下の第一誘電体層と、渦巻状線路a1に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b1と渦巻状線路a2に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b2を主面上に設けた厚さ30μm以下の第二誘電体層とを積層させ、平衡−不平衡変換機能を付与して成り、前記第一誘電体層及び前記第二誘電体層は平面視で前記圧電基板と同じ形状であることを特徴とする。
【0016】
本発明は上記構成により、きわめて小型化された平衡型SAW装置となり、また誘電体層上に平衡−不平衡変換回路をフォトリソグラフィ法等で薄く形成できるので、誘電体層間で電磁結合するストリップラインの間隔が小さくなり、その結果挿入損失が非常に小さくなる。
【0017】
また本発明は、好ましくは、前記渦巻状線路a1,a2,b1,b2の厚さが0.2〜10μmである。
【0018】
このような構成により、渦巻状線路a1,a2,b1,b2の電気抵抗の増大が抑制され、挿入損失の劣化を防止できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明のSAW装置について以下に説明する。図1(a)は本発明のSAW装置Sの内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は(a)で左方より見た場合の内部透視左側面図、(d)は(a)で右方より見た場合の内部透視右側面図である。同図において、1はSAW素子、2はバラン回路、3は金属,プラスチック等からなる保護カバー、4は紫外線硬化型樹脂,熱硬化型樹脂,塗布後経時硬化する樹脂等からなる封止樹脂、11はSAW共振子、11aはIDT電極、11bは反射器、12はSAW共振子11間を接続したり外部と接続するための電極パターン、13a,13bはSAW共振子11とバラン回路2を接続する電極パターン、14a,14bはSAW共振子11と電極15とを接続する電極パターン、15は圧電基板下面に形成された電極を示す。前記SAW素子1は、LiNbO3 ,LiTaO3 等からなる圧電基板の一主面にAl,Al−Cu合金等の金属薄膜からなる少なくとも一対のIDT電極及び反射器により構成される。
【0020】
また、バラン回路2はSAW素子1用の圧電基板の下面に設けてあり、各厚さ30μm以下の誘電体層21,22,23を積層させ、その誘電体層21,22,23の主面にAl,Al−Cu合金等からなる金属薄膜を所定のパターンに形成してなる。各誘電体層21,22,23の厚さが30μmを超えると、SAW装置Sの挿入損失が大きくなり実用に供することができなくなる。好ましくは、各誘電体層21,22,23の厚さは0.5μm以上が良く、0.5μm未満では各誘電体層21,22,23をレジスト塗布により形成する際に、各誘電体層21,22,23にポアが発生し均一な塗布膜が形成できなくなる。
【0021】
そして、保護カバー3は、圧電基板上に設けられたIDT電極及び反射器による振動空間の確保を目的に、断面が凹形状の保護カバー3内にIDT電極等が内包されるよう周囲を面接合してある。保護カバー3としては断面が凹形状の感光性の有機樹脂フィルムを用い、先ず保護カバー3をSAW素子1のIDT電極等の形成面に被せその側璧部を硬化させ接着させる。その後、保護カバー3上面を硬化してできあがる。封止樹脂4は、塗布後所定時間経過すると硬化する液状のモールド樹脂(住友ベークライト株式会社製商品名「CRPシリーズ」)等が用いられる。
【0022】
上記の如く構成したことにより、圧電基板の下面に外部取出し用の電極を形成することでSAW素子1載置用筐体を不要としたこと、及びSAW素子1表面に保護カバー3を設けその上から樹脂で封止したことにより、信頼性が高くかつSAW素子1サイズとほば同じ大きさのSAW装置Sを提供できる。
【0023】
図2は、バラン回路2用の各誘電体層の平面図及び断面図である。同図(a)は圧電基板の下面側から一層目の誘電体層21の平面図、(b)は(a)のA−A線における断面図、(c)は二層目であって連続したストリップラインで対称的に形成された二つの渦巻状線路a1,a2を主面上に設けた第一誘電体層22の平面図、(d)は(c)のB−B線における断面図、(e)は渦巻状線路a1に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b1と渦巻状線路a2に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b2を主面上に設けた第二誘電体層23の平面図、(f)は(e)のC−C線における断面図である。
【0024】
誘電体層21に形成された電極21aの一方の端部は圧電基板側面の電極を通してSAW素子1に接続され、他方の端部は誘電体層21に形成されたスルーホールを通して第一誘電体層22の渦巻状線路a1の端部と接続している。もう1つの電極21bはSAW装置Sのグランド電極へ接続される。
【0025】
第一誘電体層22はバラン回路2の2層目であり、渦巻状線路a1,a2はインダクタ成分を持つように螺旋型やミアンダ型等の形状で形成する。渦巻状線路a1側の端部は第一誘電体層22に形成されたスルーホールを通して、誘電体層21の電極21aと接続している。また、渦巻状線路a2側の端部は、第一誘電体層22上で終端している。
【0026】
第二誘電体層23はバラン回路2の3層目であり、渦巻状線路b1,b2はインダクタ成分を持つように螺旋型やミアンダ型等の形状で形成する。渦巻状線路b1の一方の端部は第二誘電体層23に形成されたスルーホールを通してSAW装置Sのグランド電極と接続し、他方の端部はSAW装置Sの出力電極へ接続されている。渦巻状線路b2も同様の接続構造である。
【0027】
誘電体層21、第一誘電体層22、第二誘電体層23の各層とも、紫外線等の光照射により硬化又は溶解する感光性樹脂からなるレジストから構成される。そして、電極の形成は、フォトリソグラフィ法、蒸着法,スパッタリング法等の金属薄膜形成法、リフトオフ法等により行う。
【0028】
上記のような構成により、SAW装置Sに入力した不平衡信号はSAW素子1、バラン回路2を通過し、平衡信号に変換され出力する。
【0029】
前記渦巻状線路a1,a2,b1,b2の厚さは0.2〜10μmが良く、0.2μm未満では積層された誘電体層上の線路間を積層方向で結合させるスルーホール部に段差が生じ、導通接続が困難となり接続抵抗が増大し、そのため挿入損失が劣化する。10μmを超えると、誘電体層用のレジストを均一に塗布することが困難となり、スルーホール部に段差が生じ接続抵抗が増大し、そのため挿入損失が劣化する。
【0030】
更に、図3〜図5は本発明のSAW装置Sの応用例であり、パッケージングを種々に変形させた実施形態である。図3(a)はSAW装置S1の内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は内部透視左側面図、(d)は内部透視右側面図である。同図において、31はSAW素子、32はバラン回路、33はキャップ、34はSAW共振子、34aはIDT電極、34bは反射器、35はSAW共振子34間を接続したり外部と接続するための電極パターン、36a,36bはSAW共振子34とバラン回路32を接続する電極パターン、37a,37bはSAW共振子34と電極38とを接続する電極パターン、38は圧電基板下面に形成された電極である。SAW素子31は圧電基板の上面にIDT電極等の電極を形成し、その電極形成面上に樹脂封止によりキャップ33を被せている。バラン回路32は図1及び図2と同様である。
【0031】
上記の如く構成したことにより、圧電基板の下面に外部取出し用の電極を形成することでSAW素子31載置用筐体を不要としたこと、及びSAW素子31上にキャップ33を設け封止したことにより、信頼性が高くかつSAW素子1サイズとほば同じ大きさのSAW装置S1を提供できる。また、この実施形態では、キャップ33により振動空間が比較的大きく確保できるため、蓋体であるキャップ33のSAW素子1への接触による性能劣化の心配が全くない。また、キャップ33は比較的取り外しが容易であり、更にAl等の金属でキャップ33を作製することでシールド効果を付与できる。
【0032】
図4は他の実施形態を示し、(a)はSAW装置S2の内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は内部透視左側面図、(d)は内部透視右側面図である。同図において、41はSAW素子、42はバラン回路、43は保護膜、44はSAW共振子、44aはIDT電極、44bは反射器、45はSAW共振子44間を接続したり外部と接続するための電極パターン、47a,47bはSAW共振子44とバラン回路42を接続する電極パターン、48a,48bはSAW共振子44と電極46とを接続する電極パターン、46は圧電基板下面に形成された電極である。SAW素子41は圧電基板上面にIDT電極等の電極を形成し、その電極形成面にSiO2 等の誘電体薄膜やSi等の高電気抵抗薄膜からなる保護膜43を被覆することにより、電極が大気に触れない構成とし、電極の酸化及び水分による劣化を防止している。バラン回路42は図1及び図2と同様である。
【0033】
上記の如く構成したことにより、圧電基板の下面に外部取出し用の電極を形成することでSAW素子41載置用筐体を不要としたこと、及びSAW素子41上に保護膜43を被覆したことにより、信頼性が高くかつSAW素子41サイズとほば同じ大きさのSAW装置S2を提供できる。また、この実施形態では、きわめて小型のSAW装置S2となると共に、保護膜43により電極が大気に触れないため、電極の酸化及び水分による劣化が防止され、長寿命なものとなる。
【0034】
図5は他の実施形態を示し、(a)はSAW装置S3の内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は内部透視左側面図、(d)は内部透視右側面図である。同図において、51はSAW素子、52はバラン回路、53は筐体の蓋体、54は筐体の底板、55はSAW共振子、55aはIDT電極、55bは反射器、56はSAW共振子55間を接続したり外部と接続するための電極パターン、58a,58bはSAW共振子55とバラン回路52を接続する電極パターン、59a,59bはSAW共振子55と電極57とを接続する電極パターン、57は圧電基板下面に形成された電極である。SAW素子51は圧電基板の上面にIDT電極等の電極を形成し、セラミックスからなる底板54上に載置固定される。バラン回路52は図1及び図2と同様の構成である。
【0035】
上記の如く構成したことにより、圧電基板下面に外部取出し用の電極を形成することで、筐体にワイヤーボンディングパッドを形成するのを不要とし、これにより、信頼性が高くSAW素子51サイズとほば同じ大きさのSAW装置S3を提供できる。また、筐体内に窒素ガス等を封入して密閉することにより、酸化等の劣化がなく長寿命なものとなる。
【0036】
本発明のSAW共振子は、IDT電極がAl又はAl−Cu系,Al−Ti系等のAl合金からなるのが良く、特にAlが励振効率が高く、材料コストが低いため好ましい。また、IDT電極は蒸着法、スパッタリング法又はCVD法等の薄膜形成法により形成する。
【0037】
そして、IDT電極の電極指の対数は50〜200程度、電極指の線幅は0.1〜10.0μm程度、電極指の間隔は0.1〜10.0μm程度、電極指の開口幅(交差幅)は10〜100μm程度、IDT電極の厚みは0.2〜0.4μm程度とすることが、SAW共振子あるいはSAWフィルタとしての所期の特性を得るうえで好適である。
【0038】
圧電基板としては、36°±10°Yカット−X伝搬のLiTaO3 単結晶、64°Yカット−X伝搬のLiNbO3 単結晶、45°Xカット−Z伝搬のLiB4 O7 単結晶等が、電気機械結合係数が大きく且つ群遅延時間温度係数が小さいため好ましく、特に電気機械結合係数の大きな36°±10°Yカット−X伝搬のLiTaO3 単結晶が良い。また、結晶Y軸方向におけるカット角は36°±10°の範囲内であれば良く、その場合十分な圧電特性が得られる。圧電基板の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板が脆くなり、0.5mm超では材料コストが大きくなる。
【0039】
かくして、本発明はSAW装置に平衡型の機能を付与し、かつ外形寸法が内蔵するSAW素子とほば等しく、また挿入損失が小さいものとなるという作用効果を有する。
【0040】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更は何等差し支えない。
【0041】
【実施例】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0042】
(実施例)
図1及び図2のSAW装置S及びバラン回路2を以下の工程〔1〕〜〔12〕により作製した。
【0043】
〔1〕42°Yカット−X伝搬のLiTaO3 単結晶からなる圧電基板全面に、スパッタリング法によりAl−Cuを形成した。その後、縮小投影露光装置を用い、紫外線(i線)を照射するフォトリソグラフィ法により、LiTaO3 単結晶の主面(SAWの伝搬方向である■軸方向に沿った面)に、レジストのポジパターンを形成した。その後、RIE(Reactive Ion Etching)装置により不要なAl−Cuをエッチング除去し、レジスト剥離液中で不要なレジストを剥離し、IDT電極等の微細な回路パターンを形成した。
【0044】
〔2〕電子ビーム蒸着機によりIDT電極の保護膜であるSi膜を圧電基板全面に形成した。
【0045】
〔3〕感光性の有機樹脂フィルムを圧電基板のIDT電極等形成面上に貼り付けた後、枠状にパターニングを行い保護カバー3側壁部を形成し、その後更にその上に感光性の有機樹脂フィルムを貼り付け、パターニングにより保護カバー3上面部を形成した。
【0046】
〔4〕圧電基板の下面に、誘電体層21の電極形成用のレジストのネガパターンを形成した。そのネガパターン上にスパッタリング法でAuを成膜した。その後、レジスト剥離液中で不要なAuをリフトオフし電極21a,21bを形成した。
【0047】
〔5〕フォトリソグラフィ法により、電極21a端部と第一誘電体層22の渦巻状線路a1端部を接続するためのスルーホールを形成する箇所に、レジストパターンを形成した。その後、スパッタリング法によりSiO2 薄膜を形成し、レジスト剥離液中で不要なSiO2 薄膜をリフトオフし、誘電体層21及びスルーホールを形成した。
【0048】
〔6〕第一誘電体層22の渦巻状線路a1,a2形成用のレジストのネガパターンを形成した。次いで、前記ネガパターン上にスパッタリング法によりAuを形成した。その後、レジスト剥離液中で不要なAuをリフトオフし、スルーホール用電極及び渦巻状線路a1,a2を形成した。
【0049】
〔7〕フォトリソグラフィ法により、第一誘電体層22の渦巻状線路a1と第二誘電体層23の渦巻状線路b1とを接続するためのスルーホールを形成する箇所に、レジストパターンを形成した。その後、スパッタリング法によりSiO2 薄膜を形成し、レジスト剥離液中で不要なSiO2 薄膜をリフトオフし、第一誘電体層22及びスルーホールを形成した。
【0050】
〔8〕第二誘電体層23の渦巻状線路b1,b2形成用のレジストのネガパターンを形成した。次いで、前記ネガパターン上にスパッタリング法でAuを形成し、レジスト剥離液中で不要なAuをリフトオフし、スルーホール形成用の電極及び渦巻状線路b1,b2を形成した。
【0051】
〔9〕フォトリソグラフィ法により、第二誘電体層23の渦巻状線路b1,b2とSAW装置S底面の電極を接続するためのスルーホールを形成する箇所に、レジストパターンを形成した。その後、スパッタリング法によりSiO2 薄膜を形成し、レジスト剥離液中で不要なSiO2 薄膜をリフトオフし、第二誘電体層23及びスルーホールを形成した。
【0052】
〔10〕SAW装置S底面の入出力電極及びグランド電極用のレジストのネガパターンを形成した。次いで、前記ネガパターン上にスパッタリング法によりAuを形成し、レジスト剥離液中で不要なAuをリフトオフし、スルーホール用電極及び底面の入出力電極及びグランド電極を形成した。
【0053】
〔11〕封止樹脂4として、塗布後時間経過すると硬化する液状のモールド樹脂(住友ベークライト株式会社製商品名「CRPシリーズ」)を、保護カバー3上に塗布し硬化させた。
【0054】
〔12〕ダイシング法により圧電基板を切断し、個々のSAW装置Sを切り出した。切り出したSAW装置Sを一まとめにし、それらの集合体の側面にメタルマスクを用いて、圧電基板の上面に形成された電極と下面に形成された入出力電極及びグランド電極とを接続するための電極を形成し、フィルタ用のSAW装置Sの作製を終了した。
【0055】
上記誘電体層21,第一誘電体層22,第二誘電体層23の各厚さは10μmであり、このSAW装置Sをマルチポートのネットワークアナライザに接続し、挿入損失の周波数特性を測定した。その結果、図8(a)に示すように、中心周波数1840MHzで規格化した規格化周波数に対し、通過帯域が4.3%(80MHz)と広くかつ平衡型の特性を示した。また、挿入損失は3.5dBとなり、従来の4.5dBよりも格段に向上した。
【0056】
尚(b)は、平衡信号である2つの信号の位相を示すグラフであり、平衡度が良好な位相差180°を通過帯域内で保持している。
【0057】
更に、誘電体層21,第一誘電体層22,第二誘電体層23の各厚さを種々に変化させた場合の挿入損失のグラフを図10に示す。同図に示すように、厚さ30μm超で挿入損失が大きく低下した。
【0058】
【発明の効果】
本発明は、圧電基板の下面に直接に、連続したストリップラインで対称的に形成された二つの渦巻状線路a1,a2を主面上に設けた厚さ30μm以下の第一誘電体層と、渦巻状線路a1に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b1と渦巻状線路a2に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b2を主面上に設けた厚さ30μm以下の第二誘電体層とを積層させ、平衡−不平衡変換機能を付与して成り、第一誘電体層及び第二誘電体層は平面視で圧電基板と同じ形状であることにより、SAW装置に平衡型の機能を付与し、かつ外形寸法が内蔵するSAW素子とほば等しく、また挿入損失が小さくなるという作用効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のSAW装置Sを示し、(a)はSAW装置Sの内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は(a)で左方より見た場合の内部透視左側面図、(d)は(a)で右方より見た場合の内部透視右側面図である。
【図2】本発明のバラン回路を示し、(a)は圧電基板の下面側から一層目の誘電体層21の平面図、(b)は(a)のA−A線における断面図、(c)は二層目であって渦巻状線路a1,a2を主面上に設けた第一誘電体層22の平面図、(d)は(c)のB−B線における断面図、(e)は渦巻状線路b1,渦巻状線路b2を主面上に設けた第二誘電体層23の平面図、(f)は(e)のC−C線における断面図である。
【図3】本発明のSAW装置Sの他の実施形態であり、(a)はSAW装置S1の内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は内部透視左側面図、(d)は内部透視右側面図である。
【図4】本発明のSAW装置Sの他の実施形態であり、(a)はSAW装置S2の内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は内部透視左側面図、(d)は内部透視右側面図である。
【図5】本発明のSAW装置Sの他の実施形態であり、(a)はSAW装置S3の内部透視上面図、(b)は底面図、(c)は内部透視左側面図、(d)は内部透視右側面図である。
【図6】従来の平衡型SAW共振子の基本構成の平面図である。
【図7】従来のフェースダウン実装方式のSAWフィルタFを示し、(a)はその側断面図、(b)は(a)のA−A線における断面図である。
【図8】本発明のSAW装置Sの特性を示すグラフであり、(a)は規格化周波数に対する減衰量特性のグラフ、(b)は規格化周波数に対する位相特性のグラフである。
【図9】従来のバラン回路を有するSAWフィルタの等価回路図である。
【図10】誘電体層の厚さと挿入損失との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1:SAW素子
2:バラン回路
3:保護カバー
4:封止樹脂
21:誘電体層
22:第一誘電体層
23:第二誘電体層
Claims (2)
- 圧電基板の上面に少なくとも一対の櫛歯状電極を有する弾性表面波装置であって、圧電基板の下面に直接に、連続したストリップラインで対称的に形成された二つの渦巻状線路a1,a2を主面上に設けた厚さ30μm以下の第一誘電体層と、渦巻状線路a1に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b1と渦巻状線路a2に対応し且つ電磁結合する渦巻状線路b2を主面上に設けた厚さ30μm以下の第二誘電体層とを積層させ、平衡−不平衡変換機能を付与して成り、前記第一誘電体層及び前記第二誘電体層は平面視で前記圧電基板と同じ形状であることを特徴とする弾性表面波装置。
- 前記渦巻状線路a1,a2,b1,b2の厚さが0.2〜10μmである請求項1記載の弾性表面波装置。
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