JP3761640B2 - ピストンリングおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関のピストンリングに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エンジンの高出力化、低燃費化および排気ガス規制の対応からピストンリングの使用環境は、非常に過酷になっており、従来使用されているCrめっきや窒化処理では性能を維持できなくなってきている。
【0003】
これに対し、特開昭62−56600号に記載されているように、Crめっき中に硬質粒子を分散させてCrめっきの耐摩耗性、耐焼き付き性を改善しようとする試みがある。この方法は、初めに、正電めっきして網目状のクラックを有するCrめっきを析出させ、次に、逆電処理を行ってクラックを拡大発展させ、そのクラックに硬質粒子を含有させるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この複合Crめっきは、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れているが、初期なじみ性に劣る。
【0005】
本発明の課題は、初期なじみ性を改善した複合めっきが施されたピストンリングを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のピストンリングは、複合率が0体積%以上、1.5体積%未満の複合率小のめっき層と、複合率が1.5体積%以上、12体積%以下の複合率大のめっき層とが複数、交互に積層した複合めっきが外周摺動面に形成されており、かつ、前記複合めっきの複合率小のめっき層と複合率大のめっき層とが摺動表面に露出しており、前記摺動表面に露出している複合率大のめっき層が、摺動表面に沿った軸方向ピッチ0.05〜0.2mmで配列していることを特徴とする。
【0007】
上記において、複合率大のめっき層によって良好な耐摩耗性、耐焼き付き性が得られ、複合率小のめっき層によって初期なじみ性が確保される。その結果、本発明のピストンリングは、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れるとともに、初期なじみ性にも優れたものとなる。
【0009】
上記複合めっきとしては、例えば複合Crめっきが使用される。
【0010】
上記本発明のピストンリングの製造方法の特徴は次の通りである。
【0011】
(1)ピストンリングの外周摺動面に、複合粒子を含んだめっき浴を用いて正電めっきと逆電処理とを繰り返し行うことにより、複合率が0体積%以上、1.5体積%未満の複合率小のめっき層と、複合率が1.5体積%以上、12体積%以下の複合率大のめっき層とが複数、交互に積層した複合めっきを外周摺動面に形成する。
【0012】
図2に示されているように、正電めっきで析出するめっきには網目状のクラックが形成されており、このクラックが逆電処理で拡大され、この拡大されたクラック3内に複合粒子4が固定される。さらに、正電めっき→逆電処理が繰り返して行われると、最初の1サイクルの工程で形成された複合めっき30の上に更に複合めっき40が積層される。したがって、最初の複合めっき30のクラック3内の複合粒子4は層内に閉じ込められる。そして二層目の複合めっき40は、表面に網目状に延びているクラック3を有しており、このクラック3に複合粒子4が固定されている。以下、正電めっき→逆電処理が所定回数、繰り返して行われると、ピストンリングの外周摺動面に所定厚さで複合めっきが形成される。
【0013】
上記において、クラック3は断面が略V字状をなしているため、表面側ほど、クラック3内に含有される複合粒子4の量は多くなる。その結果、1サイクルの正電めっき→逆電処理で形成される複合めっきは、複合粒子4が表面に沿ってほぼ均一に分散し、表面に沿って複合率が一律で一定の摺動特性を有するが、厚さ方向では複合粒子4が均一に分散しているとは言えず、複合率が厚さ方向では異なったものとなる。また、図2に示されているように、クラック3を厚さ方向に貫通させないようにすれば、下層部にクラック3が入らない部分ができ、複合率を0とすることもできる。
【0014】
複合粒子の複合率は、めっき浴組成における複合粒子の比率、正電めっきおよび逆電処理条件に支配される。すなわち、めっき浴組成における複合粒子の比率でクラックに入る複合粒子の量が左右され、正電めっき条件はクラック密度を決定し、逆電処理条件は拡大されるクラック幅を決定する。
【0015】
したがって、正電めっき→逆電処理が繰り返し行われると、上述したように、ピストンリングの外周摺動面に所定厚さで複合めっきが形成され、この複合めっきは複合率が0体積%以上、1.5体積%未満の複合率小のめっき層と、複合率が1.5体積%以上、12体積%以下の複合率大のめっき層とが交互に積層されたものにできる。
【0016】
(2)前記複合めっきの表面を加工することにより、複合率小のめっき層と複合率大のめっき層とを摺動表面に露出させる。
【0017】
複合めっきの表面の加工例を以下に示す。
▲1▼外周摺動面のめっき前の形状を軸方向に平行な平坦面とし、めっき表面をバ
レル形状に加工する。
▲2▼外周摺動面のめっき前の形状をバレル形状とし、めっき表面をめっき前のバ
レル形状と異なる曲率でバレル形状に加工する。
▲3▼外周摺動面のめっき前の形状をバレル形状とし、めっき表面を軸方向に平行
に平坦面に加工する。
▲4▼外周摺動面のめっき前の形状をテーパ面とし、めっき表面を軸方向に平行に
平坦面に加工する。
【0018】
上記の加工によって、複合率小のめっき層と複合率大のめっき層とを摺動表面に軸方向に交互に出現させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の一実施形態を示し、ピストンリングの一部分を示す縦断面図である。ピストンリング1の外周摺動面に複合Crめっき2が形成されている。複合Crめっき2は、めっき面に垂直な方向から見て、その表面および内部に網目状のクラック3を有しており、アルミナあるいは窒化珪素等の複合粒子4がクラック3に含有されて固定されている
【0020】
複合Crめっき2は、複合率が0体積%以上、1.5体積%未満の複合率小のCrめっき層2Aと、複合率が1.5体積%以上、12体積%以下の複合率大のCrめっき層2Bとが複数、交互に積層して形成されており、かつ、前記複合率小のCrめっき層2Aと複合率大のCrめっき層2Bとが摺動表面に軸方向に交互に露出し、複合率大のCrめっき層2Bが、摺動表面に沿った軸方向ピッチ0.05〜0.2mmで配列している。
【0021】
以下、上記ピストンリング1の製造方法を説明する。
【0022】
まず、複合Crめっき2のめっき処理について説明する。
複合Crめっきは、ピストンリングの外周摺動面に、正電めっき→逆電処理を繰り返して行うことによって形成される。
【0023】
複合Crめっきのめっき浴組成、および正電めっきと逆電処理の各条件の一例を下記に示す。
▲1▼めっき浴組成
CrO3 250g/l
H2 SO4 1.0g/l
H2 SiF6 5g/l
複合粒子(アルミナまたは窒化珪素) 20g/l
▲2▼正電めっき
電流密度 60A/dm2
めっき浴温 55℃
めっき時間 10分
▲3▼逆電処理
電流密度 50A/dm2
めっき浴温 55℃
めっき時間 1分
【0024】
上記の条件で、正電めっき→逆電処理が所定回数、繰り返して行われると、図3(a)に示されているように、ピストンリング1の軸方向に平行な平坦な外周摺動面に、複合率小のCrめっき層2Aと複合率大のCrめっき層2Bとが複数、交互に積層された複合Crめっき2が形成される。
【0025】
次に、図3(b)に示されているように、複合Crめっき2の表面をバレル形状に加工することによって、ピストンリング1の摺動表面に、複合率小のCrめっき層2Aと複合率大のCrめっき層2Bとを、軸方向に交互に露出させる。
【0026】
正電めっき→逆電処理は複合Crめっきの厚さに応じたサイクル数繰り返して行われる。上記条件で、正電めっき→逆電処理の1サイクルを行うと、10μm程度のめっき厚さを得ることができるので、例えば12サイクル繰り返される。
【0027】
以下、往復動摩擦試験機を使用して摩耗試験を行った結果を説明する。
【0028】
図4に、試験に使用した往復動摩擦試験機の概要を示す。ピン状の上試験片10は固定ブロック11により保持され、上方から油圧シリンダ12により下向きの荷重が加えられて、下試験片13に押接される。一方、平盤形状の下試験片13は可動ブロック14により保持され、クランク機構15により往復動させられる。16はロードセルである。
【0029】
試験条件は以下の通りである。
荷重 :98N
速度 :600cpm
ストローク :50mm
時間 :1時間
潤滑油 :軽油相当粘度の軸受油
【0030】
(1)摩耗試験
▲1▼試験片
上試験片:ピストンリング用鋼製の上試験片の表面に複合Crめっきおよび複合Crめっきの表面形状加工を施した。
下試験片:シリンダライナ用鋳鉄材
【0031】
▲2▼複合Crめっきおよび複合Crめっきの表面形状加工
前記本発明の一実施形態で説明したピストンリング1の場合と同じ。ただし、逆電処理条件を変えて、複合率の異なる5種類の試験片を作成した(表1参照)。
【0032】
【0033】
▲3▼試験方法
上記往復動摩擦試験機を使用し、摩耗試験を行った。
【0034】
▲4▼結果
上試験片の摩耗量の結果を図5に示す。なお、試験は上試験片に通常の硬質Crめっきを形成した場合についても行っており、図5の摩耗比は、上試験片に硬質Crめっきを形成したときの摩耗量を1としている。図5に示されているように、本発明の複合Crめっきを有する試験片は、通常の硬質Crめっきを有する試験片よりも耐摩耗性が優れていることが確認された。
【0035】
次に、高面圧焼き付き試験機を使用して焼き付き試験を行った結果を説明する。
【0036】
図6は、試験に使用した高面圧焼き付き試験機の概要を示す。試験片20はロータ21により保持され、ロータ21の回転により回転させられる。一方、相手試験片22はステータ23により保持され、油圧装置により所定荷重Pでロータ21側に押し付けられる。
【0037】
このような装置において、ステータ23に形成されている注油孔24から摺動面に所定量の給油をしながら、試験片20を回転させる。一定時間毎に試験片20に作用させる荷重を段階的に増加させ、試験片20と相手試験片22との摺動により発生するトルクをトルクメータで測定し、記録計に記録させる。焼き付き現象が発生するとトルクが急激に上昇する。したがって、トルクが急激に上昇するときの試験片20に作用する荷重を焼き付き荷重とし、この焼き付き荷重の大小で焼き付き特性の良否を判定する。
【0038】
試験条件は次の通りである。
回転速度 8m/s一定
荷重 20kgfより開始
10kgf/minの割合で段階的に増加
潤滑油 軽油
油温 80℃
【0039】
(1)焼き付き試験
▲1▼試験片
試験片:ピストンリング用鋼製の試験片の表面に複合Crめっきおよび複合Crめっきの表面形状加工を施した。
相手試験片:シリンダライナ用鋳鉄材
【0040】
▲2▼複合Crめっきおよび複合Crめっきの表面形状加工
前記摩耗試験の場合と同じ。
【0041】
▲3▼試験方法
上記高面圧焼き付き試験機を使用し、焼き付き試験を行った。
【0042】
▲4▼結果
焼き付き試験で得られた各試験片の焼き付き荷重の結果を図7に示す。なお、試験は試験片に通常の硬質Crめっきを形成した場合についても行っており、図の焼き付き荷重比は試験片に硬質Crめっきを形成したときの焼き付き荷重を1としている。図7に示されているように、本発明の複合Crめっきを有する試験片は通常の硬質Crめっきを有する試験片よりも耐焼き付き性が優れていることが確認された。
【0043】
次に、初期なじみ性を試験するために、実機試験を行った結果を説明する。
【0044】
(1)実機試験
▲1▼供試ピストンリング
前記本発明の一実施形態で説明したピストンリング1で、φ95mm、軸方向幅3mm、半径方向厚さ3.8mmのもの。
なお、複合Crめっきの表面形状加工におけるバレル形状の曲率を変えて、複合率大のCrめっき層の摺動表面に沿った軸方向ピッチが異なる5種類の試験片を作成した(表2参照)。
【0045】
【0046】
▲2▼試験方法
エンジン:φ95mm×直列4気筒ディーゼルエンジン
運転条件:全負荷耐久300時間
試験方法:上記の条件で運転開始後1時間でオイル消費量を測定。
【0047】
3.結果
実機試験で得られた各供試ピストンリングの初期オイル消費量の結果を図8に示す。なお、試験はピストンリングに従来の複合Crめっきを形成した場合についても行っており、図8のオイル消費量比は、ピストンリングに従来の複合Crめっきを形成したときのオイル消費量を1としている。図8に示されているように、供試ピストンリング1〜5は、従来の複合Crめっきを有するピストンリングに比べて初期のオイル消費量が低減しており、特に本発明の供試ピストンリング2〜4は、初期のオイル消費量が低減し、初期なじみ性が向上していることがわかる。
【0048】
上記実施形態では、複合率小のCrめっき層と複合率大のCrめっき層とを摺動表面に露出させるために、ピストンリングの外周摺動面のめっき前の形状を軸方向に平行な平坦面とし、複合Crめっきの表面をバレル形状とする加工例を示したが、本発明はこれに限るものではない。以下に、他の例を示す。
【0049】
なお、以下の図9〜図11は、説明上、正電めっき→逆電処理を2サイクル行った例を示しているが、実際は複合Crめっきの厚さに応じたサイクルを行う。
【0050】
図9は、ピストンリングの外周摺動面のめっき前の形状をバレル形状とし、複合Crめっきの表面をめっき前のバレル形状と異なる曲率のバレル形状とする加工例である。
【0051】
図10は、ピストンリングの外周摺動面のめっき前の形状をバレル形状とし、複合Crめっきの表面を軸方向に平行に平坦面とする加工例である。
【0052】
図11はピストンリングの外周摺動面のめっき前の形状をテーパ面とし、複合Crめっきの表面を軸方向に平行に平坦面とする加工例である。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のピストンリングは、耐摩耗性、耐焼き付き性は勿論、初期なじみ性にも優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示しており、(a)はピストンリングの一部分を示す縦断面図、(b)は上記ピストンリングの複合Crめっき部分の拡大図である。
【図2】複合Crめっきの製造工程を説明する斜視図であり、(a)は正電めっき→逆電処理の1サイクル後を示し、(b)は同工程の2サイクル後を示す。
【図3】複合Crめっきの表面の加工工程を説明する縦断面図であり、(a)は複合Crめっき後を示し、(b)は複合Crめっきの表面の加工後を示す。
【図4】往復動摩擦試験機の概要を示す正面図である。
【図5】摩耗試験の結果を示すグラフである。
【図6】高面圧焼き付き試験機の概要を示す縦断面図である。
【図7】焼き付き試験の結果を示すグラフである。
【図8】実機試験の結果を示すグラフである。
【図9】複合Crめっきの表面の別の加工例を示す縦断面図であり、(a)は複合Crめっき後を示し、(b)は複合Crめっきの表面の加工後を示す。
【図10】複合Crめっきの表面のさらに別の加工例を示す縦断面図であり、(a)は複合Crめっき後を示し、(b)は複合Crめっきの表面の加工後を示す。
【図11】複合Crめっきの表面のさらに別の加工例を示す縦断面図であり、(a)は複合Crめっき後を示し、(b)は複合Crめっきの表面の加工後を示す。
【符号の説明】
1 ピストンリング
2 複合Crめっき
2A 複合率小のめっき層
2B 複合率大のめっき層
3 クラック
4 複合粒子
10 上試験片
11 固定ブロック
12 油圧シリンダ
13 下試験片
14 可動ブロック
15 クランク機構
16 ロードセル
20 試験片
21 ロータ
22 相手試験片
23 ステータ
24 注油孔
Claims (7)
- 複合率が0体積%以上、1.5体積%未満の複合率小のめっき層と、複合率が1.5体積%以上、12体積%以下の複合率大のめっき層とが複数、交互に積層した複合めっきが外周摺動面に形成されており、かつ、前記複合めっきの複合率小のめっき層と複合率大のめっき層とが摺動表面に露出しており、前記摺動表面に露出している複合率大のめっき層が、摺動表面に沿った軸方向ピッチ0.05〜0.2mmで配列していることを特徴とするピストンリング。
- 前記複合めっきが複合Crめっきであることを特徴とする請求項1記載のピストンリング。
- ピストンリングの外周摺動面に、複合粒子を含んだめっき浴を用いて正電めっきと逆電処理とを繰り返し行うことにより、複合率が0体積%以上、1.5体積%未満の複合率小のめっき層と、複合率が1.5体積%以上、12体積%以下の複合率大のめっき層とが複数、交互に積層した複合めっきを外周摺動面に形成する工程と、前記複合めっきの表面を加工することにより、複合率小のめっき層と複合率大のめっき層とを摺動表面に露出させる工程とを備えていることを特徴とするピストンリングの製造方法。
- 前記外周摺動面のめっき前の形状が軸方向に平行な平坦面であり、前記複合めっきの表面の加工がめっき表面をバレル形状とする加工であることを特徴とする請求項3記載のピストンリングの製造方法。
- 前記外周摺動面のめっき前の形状がバレル形状であり、前記複合めっきの表面の加工がめっき表面を前記めっき前のバレル形状と異なる曲率のバレル形状とする加工であることを特徴とする請求項3記載のピストンリングの製造方法。
- 前記外周摺動面のめっき前の形状がバレル形状であり、前記複合めっきの表面の加工がめっき表面を軸方向に平行な平坦面とする加工であることを特徴とする請求項3記載のピストンリングの製造方法。
- 前記外周摺動面のめっき前の形状がテーパ面であり、前記複合めっきの表面の加工がめっき表面を軸方向に平行な平坦面とする加工であることを特徴とする請求項3記載のピストンリングの製造方法。
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