JP3750933B2 - 電気式ディスクブレーキの配置構造 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車や自動二輪車等の各種車両に搭載され、電動モータの駆動力で進退作動機構を進退させ、ディスクロータに摩擦パッドを押圧摺動して制動を行う電気式ディスクブレーキの配置構造に係るものであり、電動モータの駆動力を減速して進退作動機構に伝達する減速ギア機構を、摩擦パッドから離れた位置に配置し、制動熱による減速ギア機構の高温化を防止して、減速ギア機構の作動の正確性と耐久性を向上させようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車や自動二輪車等の各種車両に於いて、電動モータの駆動力によりボールネジ等の進退作動機構を進退させ、ディスクロータに摩擦パッドを押圧摺動して制動を行う電気式ディスクブレーキが存在する。そして、電動モータの駆動力を減速して、進退作動機構に伝達する減速ギア機構として、特表平10−504876号、特表平3−500920号、特表2001−524647号公報記載発明の如く、遊星歯車を用いたものが存在し、電動モータの駆動力を効率的に減速して、摩擦パッドに強い押圧力を発生させる事が可能であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特表平10−504876号、特表平3−500920号公報記載の従来発明では、電動モータと摩擦パッドとの間に、遊星歯車等のギア部品を配置しているので、摩擦パッドとディスクロータ間で発生する制動熱や電動モータの熱が、キャリパボディの表面を介して、又は雰囲気熱として伝達され易く、放熱性も悪いため、前記ギア部品の高温化を生じ易かった。この高温化により、ギア部品が熱膨張して作動不良を生じたり、ギア部品を潤滑するグリス等の油脂の劣化を招いていた。
【0004】
上記熱膨張による作動不良を防ぐためには、キャリパボディの内部に於いて、摩擦パッドと減速ギア機構との間に断熱材を配置する等の断熱対策が必要となり、組み付け性の悪化や部品点数の増加を生じ、生産性やメンテナンス性が低下する虞がある。また、グリスの劣化を防止するには、耐高温性のグリスの使用等が必要となり、コスト高となる。
【0005】
また、特表2001−524647号公報記載発明では、電動モータの内側に、複数段の歯車を噛み合わせて、減速ギア機構を構成し、摩擦パッドとの距離を大きくしているので、他の従来技術に比べて、減速ギア機構に制動熱が伝わりにくい。しかしながら、キャリパボディの作用部側が、径方向に大きく形成されるため、ドライブシャフト等が突出する狭いタイヤホイールの内側に製品を設置する際に、レイアウト上の制約を受け易い。また、特表平3−500920号の従来発明では、電動モータを内蔵せず、キャリパボディの後部に別個に配置しているので、径大とはならないがキャリパボディがディスク軸の方向に長尺に形成され、この製品の設置の際も、レイアウト上の制約を受ける可能性がある。
【0006】
本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、減速ギア機構を、摩擦パッドの制動熱の影響を受けにくい位置に配置可能とするものである。そして、減速ギア機構の高温化を防止して耐久性を向上させ、円滑で正確な作動を持続可能とする。また、ギア部品に使用するグリスの劣化を防止し、部品点数の増加を防ぎ、組み付け性、メンテナンス性に優れた低コストな製品を得るものである。また、キャリパボディの径大化を防ぎ、コンパクトな製品を得て、車両への設置時のレイアウトの自由度を高めようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の如き課題を解決するため、電動モータの駆動力が伝達されて回動するボールねじナットの回転運動をボールねじ軸の進退運動に変換する事によって、該ボールねじ軸で摩擦パッドの押圧部材に押圧力を発生させる進退作動機構をキャリパボディに設け、この進退作動機構によりディスクロータに摩擦パッドを押圧摺動させて制動を行う電気式ディスクブレーキに於いて、前記電動モータが、前記の進退作動機構を内周側に収容し、外周にマグネットを配置した円筒状の円筒部を回動させ、該円筒部の回動力を減速して前記進退作動機構のボールねじ軸に伝達する減速ギア機構を備え、前記電動モータを、前記摩擦パッドと減速ギア機構との間に配置するとともに、この減速ギア機構は、前記電動モータの前記円筒部と一体に回動し摩擦パットとは反対側の後部に円筒部よりも径大な径大部を設けた遊星腕と、この径大部の外周に回動可能に軸支されるとともに径大部の外周に開口した切欠窓から外部に突出させた遊星歯車と、前記キャリパボディに回動不能に固定され、前記遊星歯車と噛合することで該遊星歯車を回動させる太陽歯車と、前記遊星歯車と噛合することで前記進退作動機構のボールねじナットと一体に回動する減速歯車とを備えた遊星歯車減速機構としてなるものである。
【0008】
また、前記進退作動機構は、遊星歯車に第1歯車部と、この第1歯車部よりも歯数の少ない第2歯車部とを、軸方向の前後に分離して一体に形成し、前記第1歯車部を、キャリパボディに回動不能に固定された太陽歯車に噛合し、前記第2歯車部を前記減速歯車に噛合するとともに前記遊星歯車よりも径大で遊星歯車の回動によって回動するボールねじナットと、このボールねじナットの回動により、ディスク軸の方向に進退するボールねじ軸とから成り、遊星歯車にて径大なボールねじナットを回動する事により、減速ギア機構から伝達される回動力を更に減速して、ボールねじ軸を介して押圧部材に押圧力を発生させるものであっても良い。
【0009】
【作用】
本発明は上述の如く構成したものであり、電動式ディスクブレーキの電動モータを、摩擦パッドと減速ギア機構との間に配置する事により、摩擦パッドから離れた位置に減速ギア機構を配置可能となり、ギア部品の制動熱からの影響を減らす事ができる。また、このような減速ギア機構の位置では、放熱性が向上し、適宜の冷却手段での冷却も行い易いものとなる。
【0010】
従って、減速ギア機構の高温化を良好に防止可能で、ギア部品の熱膨張による作動不良やグリスの劣化等を防止して、減速ギア機構の作動の正確性と耐久性を向上させる事ができる。また、厳密な断熱対策等を必要とせず、部品点数や製造工程の増加を防ぎ、生産性や組み付け性を向上させ、低コストな製品を得る事ができる。更に、キャリパボディの分解や再組み付けも容易となり、車両使用時のメンテナンス性も向上する。また、キャリパボディが径大とならず、タイヤホイールの内側への電気式ディスクブレーキ設置時の、レイアウトの自由度が増すものとなる。
【0011】
また、減速ギア機構は、摩擦パッドとの間に電動モータを介在する構造であれば、従来公知の何れの機構を用いても良く、例えば電動モータにより回動可能な遊星腕と、この遊星腕の外周に回動可能に軸支される遊星歯車と、キャリパボディに回動不能に固定され、前記遊星歯車を回動させる太陽歯車とから成る遊星歯車機構であっても良い。
【0012】
この遊星歯車機構の作用により、電動モータの駆動力が効率的に減速されて、ボールねじ軸による摩擦パッドの強い押圧力に変換され、良好な制動が行われるものである。また、遊星歯車機構を用いる事により、キャリパボディが径大とならないだけでなく、ディスク軸の方向にも長尺とはならず、電気式ディスクブレーキ装置全体をコンパクトに形成でき、車両への設置時のレイアウトの自由度が、更に向上するものとなる。
【0013】
また、前記進退作動機構は、従来公知の何れの機構であっても良く、例えば前記減速機構の遊星歯車よりも径大で遊星歯車の回動によって回動するボールねじナットと、このボールねじナットの回動により、ディスク軸の方向に進退するボールねじ軸とから成るボールねじ機構を用いる事ができる。そして、遊星歯車にて径大なボールねじナットを回動する事により、減速ギア機構により減速された電動モータの駆動力が、更に減速されるので、電動モータの駆動力をボールねじ軸の進退力に効率的に変換して、押圧部材に強い押圧力を発生させる事ができる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図面に於いて説明すると、(1)は自動車の駆動輪に接続して一体に回動するディスクロータで、両側の摩擦面(2)に臨ませて、図1に示す如く、タイヤホイール(5)の内側に於いて、一対の摩擦パッド(3)(4)を配置している。また、ディスクロータ(1)に臨ませて、車両本体にブラケット(6)を固定し、この固定側からディスクロータ(1)の外周を跨いで反対側に掛けて突設したキャリパ支持腕(7)に、前記摩擦パッド(3)(4)を摺動可能に配置している。
【0015】
また、前記ブラケット(6)のキャリパ支持腕(7)に、摩擦パッド(3)(4)をディスクロータ(1)に押し付けるキャリパボディ(8)を、図2に示す如く、一対のスライドピン(9)にて進退可能に連結している。このキャリパボディ(8)は、図1に示す如く、ディスクロータ(1)を挟んで、一方の摩擦パッド(3)の背面に配置する作用部(10)と、他方の摩擦パッド(4)の背面に配置する反力爪(11)を設けた反作用部(12)と、ディスクロータ(1)の外周を跨いで作用部(10)及び反作用部(12)とを連結するブリッジ部(13)とで構成されている。
【0016】
そして、前記作用部(10)は、図1に示す如く、シリンダ(14)内に、電動モータ(15)と、摩擦パッド(3)(4)の押圧力を発生させる進退作動機構としてのボールねじ機構(16)と、このボールねじ機構(16)に電動モータ(15)の駆動力を減速して伝達する減速ギア機構(17)とを収納している。この減速ギア機構(17)は、電動モータ(15)の駆動力により回動可能な遊星腕(18)と、この遊星腕(18)に回動可能に軸支した遊星歯車(23)と、この遊星歯車(23)を回動させる太陽歯車(26)とから構成されている。
【0017】
前記遊星腕(18)は、外周にマグネット(39)を配置した円筒状の円筒部(20)と、摩擦パッド(3)とは反対側の後部に設け、円筒部(20)よりも径大な径大部(21)とから成り、円筒部(20)のマグネット(39)の外周に配置した電動モータ(15)の駆動力により、軸受部(57)を介してシリンダ(14)内を回動可能としている。そして、径大部(21)の外周三ヶ所に、等間隔で遊星歯車(23)を回動可能に軸支し、図3〜図5に示す如く、各遊星歯車(23)を、径大部(21)外周に開口した切欠窓(22)から外部に突出させている。また、径大部(21)は、隣接する遊星歯車(23)間の外周を三角形状にカットして、遊星腕(18)の軽量化を図るとともに、後述の回転角センサ(19)のロータとしての使用を可能としている。
【0018】
また、遊星歯車(23)は、図1、図3に示す如く、第1歯車部(24)と、この第1歯車部(24)よりも歯数の少ない第2歯車部(25)とを、軸方向の前後に分離して一体に形成し、前記第1歯車部(24)を、キャリパボディ(8)に回動不能に固定された太陽歯車(26)に噛合し、この太陽歯車(26)により遊星歯車(23)の回動を可能としている。
【0019】
また、上記太陽歯車(26)の固定は、図1、図3、図6に示す如く、キャリパボディ(8)の後部に配置したバックプレート(27)に、等間隔で挿通穴(29)を複数開口し、各挿通穴(29)に挿通した固定ピン(28)を、太陽歯車(26)の背面に凹設した固定穴(30)に挿入する事により行っている。前記固定ピン(28)は、バックプレート(27)の装着孔(32)に装着したキャップ(33)にて頭部を押圧され、固定穴(30)への挿入状態が保たれている。そして、キャップ(33)を外すと、固定ピン(28)の頭部とバックプレート(27)間に装着した押圧発条(31)の付勢力により、固定ピン(28)が固定穴(30)から離脱し、太陽歯車(26)の固定が解除可能となる。
【0020】
そして、前記遊星腕(18)内に、軸受部(58)を介してボールねじ機構(16)のボールねじナット(34)を、回動可能で進退不能に収納している。このボールねじナット(34)は、遊星腕(18)の径大部(21)側に配置した後端外周に、太陽歯車(26)よりも歯数の少ない減速歯車(35)を固定している。この減速歯車(35)を、前記遊星歯車(23)の第2歯車部(25)に噛合し、遊星歯車(23)の回動によってボールねじナット(34)の回動を可能としている。
【0021】
また、ボールねじナット(34)の中央にボール溝(36)を設け、図1、図6、図7に示す如く、複数のボール(37)を介してボールねじ軸(38)を進退可能に螺着している。このボールねじ軸(38)は先端に、図1に示す如く、一方の摩擦パッド(3)の押圧部材として、平板状のパッド押圧板(40)を接続している。このパッド押圧板(40)にて、前記摩擦パッド(3)を、広い面積で一部に押圧力を集中する事なく押圧して、ディスクロータ(1)に平行に押し付け可能としている。また、本実施例では、パッド押圧板(40)の外周とシリンダ(14)の内周間に、伸縮可能なダストシール(47)を接続し、シリンダ(14)の開口部(45)を閉塞し、シリンダ(14)内への塵埃や水分、小石等の侵入を防止可能としている。
【0022】
尚、上記ボールねじ軸(38)とパッド押圧板(40)との接続は、図1に示す如く、ボールねじ軸(38)の内部を貫通形成して中空部(41)を設け、この中空部(41)内から、パッド押圧板(40)の背面に凹設した袋穴状の取付穴(43)に、取付ねじ(42)を螺着して行うものである。このような構成とする事により、パッド押圧板(40)とボールねじ軸(38)の接続部からのシリンダ(14)内への塵埃や水分の侵入も防止している。また、このようにパッド押圧板(40)とボールねじ軸(38)との接続を、キャリパボディ(8)の後部側から行う事ができるので、組み付け性やメンテナンス性も向上する。
【0023】
上述の如く構成する事により、減速ギア機構(17)を、電動モータ(15)を介して摩擦パッド(3)(4)とは反対側の後部側に配置可能となる。そのため、特表平10−504876号、特表平3−500920号等の従来技術の如く、ギア部品を摩擦パッドと電動モータとの間に配置した場合に比べて、本発明のキャリパボディ(8)では、前記ギア部品への制動熱の伝達を抑える事ができる。
【0024】
また、この制動熱及び電動モータ(15)の回動熱が、キャリパボディ(8)表面や内部空間を介して伝達されても、太陽歯車(26)、遊星歯車(23)、減速歯車(35)を、キャリパボディ(8)の後部側に配置しているので、内部に設けた場合に比べて放熱性に優れ、適宜の冷却手段での冷却も容易となる。従って、減速ギア機構(17)の高温化の防止効果が高く、熱膨張による作動不良やグリスの劣化等を防止して、減速ギア機構(17)の作動の正確性と耐久性を向上させる事ができる。
【0025】
また、従来技術の特表2001−524647号では、電動モータの内部に減速ギア機構を組み込んでいたので、キャリパボディの径大化を招き、特表平3−500920号では、電動モータをキャリパボディの後部に別個に配置しているので、ディスク軸の方向に長尺な製品となり、共に設置の際にレイアウト上の制限を受けていた。これに対して、本実施例では、電動モータ(15)をキャリパボディ(8)に内蔵し、更に前記遊星歯車(23)等の減速ギア機構(17)を電動モータ(15)よりも後部側に配置している。従って、キャリパボディ(8)が長尺にも径大にもならず、コンパクト化が可能となり、レイアウトの自由度が増すものとなる。
【0026】
また、本実施例では、減速ギア機構(17)への断熱効果を更に高めるため、キャリパボディ(8)は、電動モータ(15)の前後で3分割可能に形成し、各パーツ間に、図1に示す如く、キャリパボディ(8)よりも熱伝導率の低いリング状の断熱部材(46)を挿入配置している。この断熱部材(46)により、キャリパボディ(8)の表面を介して、摩擦パッド(3)(4)の制動熱や、電動モータ(15)の回動熱がギア部品に伝達されるのを防止して、減速ギア機構(17)の高温化の防止効果を更に高める事ができる。また、電動モータ(15)への制動熱の伝達も防止するので、電動モータ(15)の高温化による作動不良も防止する事ができる。また、断熱部材(46)は、キャリパボディ(8)の外周に配置しているので、内部に設ける場合と比較して、組み付けが容易であり、生産性を低下させる事はない。また、キャリパボディ(8)を分割可能とする事により、キャリパボディ(8)の内部への各種部品の組み付け性やメンテナンス性も向上するものとなる。
【0027】
また、ボールねじ軸(38)は、図1に示す如く、先端に荷重センサ(48)を設けて、摩擦パッド(3)に掛かる荷重を検知可能としている。そして、前記荷重センサ(48)と検知器本体(図示せず)とを接続するハーネス(50)を、図1に示す如く、ボールねじ軸(38)の中空部(41)に挿通させている。また、ハーネス(50)は、ボールねじ軸(38)の進退移動量に合わせて、余裕を持たせた長さで中空部(41)に配置しているが、この余裕部分の弛みが、部品相互の隙間に入り込んで、引掛かりや切断を生じる虞がある。
【0028】
この不具合を解消するため、図1に示す如く、ハーネス(50)を引張り発条(51)にて引張り付勢し、弛み部分を常に中空部(41)に配置して、中空部(41)の外ではハーネス(50)が常に張った状態となるようにしている。そして、ボールねじ軸(38)が摩擦パッド(3)方向に前進して、ハーネス(50)に引張り力が加わっても、引張り発条(51)が伸張するので、ハーネス(50)が切断されたり、ボールねじ軸(38)の前進が阻害される事はない。また、ボールねじ軸(38)が後退すると、引張り発条(51)が復元収縮するので、ハーネス(50)が中空部(41)以外の位置で弛む事はない。
【0029】
また、キャリパボディ(8)には、遊星腕(18)の回転角を検出して、ボールねじ軸(38)の進退量を推定するための回転角センサ(19)を設けている。この回転角センサ(19)は、図1、図2、図7に示す如く、シリンダ(14)の内周面に、遊星腕(18)の三角形状の径大部(21)の外周に臨ませて、磁気コイルを円周状に配置してステータとし、遊星腕(18)の径大部(21)をロータとした構成である。この三角形状の径大部(21)が回転角センサ(19)の内周を回動する事により、波形の出力電圧を発生するので、遊星腕(18)の回転角を検知可能となるものである。このように、遊星腕(18)の径大部(21)をロータとして兼用できるので、遊星腕(18)とは別個に回転角センサ(19)用のロータを設ける必要がなく、部品点数や組み付け工数の増加を防ぐものとなる。
【0030】
更に、本実施例では、図1、図7に示す如く、遊星腕(18)の径大部(21)の後端面に臨ませて、バックプレート(27)に、パーキング機構のソレノイド(54)を設けている。そして、車両の駐車時に、摩擦パッド(3)(4)により制動を行って、ソレノイド(54)を作動すると、係止ピン(55)が、遊星腕(18)の径大部(21)端面に設けた係止穴(56)に係合する。この係合により、遊星腕(18)が回動不能に固定され、摩擦パッド(3)(4)による制動を維持する事ができる。また、バックプレート(27)外周に、被覆カバー(44)を装着して、ソレノイド(54)やバックプレート(27)、その他を外的衝撃から保護している。
【0031】
上述の如く構成された電気式ディスクブレーキでは、自動車の運転者がブレーキペダルを踏み込んで制動操作を行うと、この踏み込み量に応じて電動モータ(15)が駆動し、遊星腕(18)がシリンダ(14)内を回動する。この遊星腕(18)の回動により、径大部(21)に軸支され、太陽歯車(26)に第1歯車部(24)を噛合する遊星歯車(23)が、太陽歯車(26)の外周を回動する。この遊星歯車(23)の回動により、第2歯車部(25)に減速歯車(35)を噛合するボールねじナット(34)が回動される。
【0032】
そして、ボールねじ機構(16)の作用により、回動力がボールねじ軸(38)の摺動力に変換され、パッド押圧板(40)を介して作用部(10)側の摩擦パッド(3)を押圧摺動し、ディスクロータ(1)に押し付ける。更に、ボールねじ軸(38)の摺動の反力で、キャリパボディ(8)が後退するので、反作用部(12)の反力爪(11)が、反作用部(12)側の摩擦パッド(4)を押圧摺動し、ディスクロータ(1)に押し付ける事により、制動が行われる。
【0033】
そして、ブレーキペダルの踏み込みを解除すると、電動モータ(15)の制御により遊星腕(18)が逆回転し、遊星歯車(23)を介してボールねじナット(34)が、先の回転とは逆方向に回転するので、ボールねじ軸(38)が後退し、作用部(10)側の摩擦パッド(3)の押圧が解除される。また、このボールねじ軸(38)後退の反力により、キャリパボディ(8)も復元方向に摺動し、反作用部(12)側の摩擦パッド(4)の押圧が解除されるので、制動が解除されるものである。
【0034】
上記制動に於いて、減速ギア機構(17)の作用により、電動モータ(15)の駆動力は、効率的に減速されて、摩擦パッド(3)(4)の強い押圧力に変換可能となり、効果的な制動が可能となる。この減速ギア機構(17)による減速作用を説明すると、例えば、太陽歯車(26)の歯数を63、この太陽歯車(26)と噛合する遊星歯車(23)の第1歯車部(24)の歯数を18、第2歯車部(25)の歯数を15、この第2歯車部(25)と噛合するボールねじナット(34)の減速歯車(35)の歯数を54とする。
【0035】
まず、電動モータ(15)により遊星腕(18)が一方向に一回転すると、遊星腕(18)に軸支した遊星歯車(23)が、太陽歯車(26)の外周を一方向に一周する。この場合、太陽歯車(26)の歯数は63で、第1歯車部(24)の歯数は18であるから、遊星歯車(23)は、太陽歯車(26)の外周を一周する際に、一方向に63歯/18歯=3.5回転する。即ち、第1歯車部(24)と同軸の第2歯車部(25)も、一方向に3.5回転する。(第2歯車部(25)の歯数は15であるから、一周では3.5回転×15歯=52.5歯分の変位となる。)
【0036】
一方、ボールねじナット(34)には、遊星腕(18)の回転により、一方向への回転力(54歯分)が作用する。また、ボールねじナット(34)の減速歯車(35)と噛合する第2歯車部(25)により、減速歯車(35)には、一方向とは逆方向に、3.5×(15歯/54歯)=0.9722回転の回転力が作用する(歯数では、前記52.5歯分)。この一方向と逆方向への回転力を合成すると、1+(−0.9722)=0.0278回転となる(歯数での計算では、減速歯車(35)は、54歯+(−52.5)=1.5歯分、一方向に変位し、減速歯車(35)は54歯だから、1.5歯/54歯=0.0278回転となる)。従って、遊星腕(18)の一方向への一回転に対して、ボールねじナット(34)が、同一方向に0.0278回転する比率で減速が行われる。
【0037】
【発明の効果】
本発明は上述の如く構成したもので、摩擦パッドと減速ギア機構との間に電動モータを配置した構造としているので、減速ギア機構に対する摩擦パッドの制動熱の影響を少なくする事ができる。また、このような構造とする事により、減速ギア機構の放熱性も向上し、適宜の冷却手段での冷却も容易となるから、摩擦パッドの制動熱や電動モータの熱が伝達されても、減速ギア機構の高温化を良好に防ぐ事ができる。従って、熱膨張による作動不良やグリスの劣化を防ぎ、減速ギア機構の作動の正確性と耐久性を向上させる事ができる。
【0038】
また、高価なグリスの使用や厳密な断熱対策等による部品点数や製作工数の増加を防ぎ、生産性や組み付け性を向上して、製品の低コスト化が可能となる。また、分解や再組み付けも容易で、メンテナンス性にも優れた製品となる。また、キャリパボディが径大化する事がなく、電気式ディスクブレーキをタイヤホイール内に設置する際の、レイアウトの自由度が増すものとなる。また、摩擦パッドと減速ギア機構との間に電動モータを配置し、かつ減速ギア機構として遊星歯車機構を使用すれば、キャリパボディがディスク軸方向にも長尺とならず、製品全体がコンパクトとなり、レイアウトの自由度が更に増すものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例で、ディスクロータに臨ませて設置した電気式ディスクブレーキの横断面図。
【図2】 図1のA−A線断面図。
【図3】 減速ギア機構の斜視図。
【図4】 図3の背面図。
【図5】 図3の側面図。
【図6】 太陽歯車をバックプレートに固定する固定ピン付近の拡大図。
【図7】 ソレノイド付近の拡大図。
【符号の説明】
1 ディスクロータ
3 摩擦パッド
4 摩擦パッド
8 キャリパボディ
15 電動モータ
17 減速ギア機構
18 遊星腕
23 遊星歯車
26 太陽歯車
34 ボールねじナット
38 ボールねじ軸
Claims (2)
- 電動モータの駆動力が伝達されて回動するボールねじナットの回転運動をボールねじ軸の進退運動に変換する事によって、該ボールねじ軸で摩擦パッドの押圧部材に押圧力を発生させる進退作動機構をキャリパボディに設け、この進退作動機構によりディスクロータに摩擦パッドを押圧摺動させて制動を行う電気式ディスクブレーキに於いて、前記電動モータが、前記の進退作動機構を内周側に収容し、外周にマグネットを配置した円筒状の円筒部を回動させ、該円筒部の回動力を減速して前記進退作動機構のボールねじ軸に伝達する減速ギア機構を備え、前記電動モータを、前記摩擦パッドと減速ギア機構との間に配置するとともに、この減速ギア機構は、前記電動モータの前記円筒部と一体に回動し摩擦パットとは反対側の後部に円筒部よりも径大な径大部を設けた遊星腕と、この径大部の外周に回動可能に軸支されるとともに径大部の外周に開口した切欠窓から外部に突出させた遊星歯車と、前記キャリパボディに回動不能に固定され、前記遊星歯車と噛合することで該遊星歯車を回動させる太陽歯車と、前記遊星歯車と噛合することで前記進退作動機構のボールねじナットと一体に回動する減速歯車とを備えた遊星歯車減速機構であることを特徴とする電気式ディスクブレーキの配置構造。
- 前記進退作動機構は、遊星歯車に第1歯車部と、この第1歯車部よりも歯数の少ない第2歯車部とを、軸方向の前後に分離して一体に形成し、前記第1歯車部を、キャリパボディに回動不能に固定された太陽歯車に噛合し、前記第2歯車部を前記減速歯車に噛合するとともに前記遊星歯車よりも径大で遊星歯車の回動によって回動するボールねじナットと、このボールねじナットの回動により、ディスク軸の方向に進退するボールねじ軸とから成り、遊星歯車にて径大なボールねじナットを回動する事により、減速ギア機構から伝達される回動力を更に減速して、ボールねじ軸を介して押圧部材に押圧力を発生させる事を特徴とする請求項1の電気式ディスクブレーキの配置構造。
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