JP3727764B2 - エンジン用点火コイル装置及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの点火プラグごとに用意されて各点火プラグに直結して使用される独立点火形のエンジン用点火コイル装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エンジンのプラグホールに導入されて各点火プラグと個別に直結される独立点火形のエンジン用点火コイル装置が開発されている。この種の点火コイル装置は、ディストリビュータを不要とし、その結果、ディストリビュータ,その高圧コード等で点火コイルへの供給エネルギーが降下するようなことがなく、しかも、点火エネルギーの降下といった配慮をすることなく点火コイルを設計できるために、コイル容積を小さくし、点火コイルの小形化を図れると共に、ディストリビュータの廃止によりエンジンルーム内の部品装着スペースの合理化を図れるものとして評価されている。
【0003】
このような独立点火形の点火コイル装置は、コイル部の少なくとも一部がプラグホール内に導入されて装着されるためプラグホール内装着式と称せられ、またコイル部はプラグホールに挿入されるためにペンシル形に細長くペンシルコイルと通称され、細長円筒形のコイルケースの内部にセンターコア(磁路鉄心で珪素鋼板を多数積層したもの),一次コイル,二次コイルを内装している。一次,二次コイルはそれぞれのボビンに巻かれ、センターコアの周囲に同心状をなして配置されている。このような一次,二次コイルを収納するコイルケース内には、絶縁用樹脂を注入硬化させたり絶縁油を封入することでコイルの絶縁性を保証している。公知例としては、例えば特開平8−255719号公報、特開平9−7860号公報,特開平9−17662号公報、特開平8−93616号公報、特開平8−97057号公報、特開平8−144916号公報、特開平8−203757号公報等に記載のものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この種の独立点火形の点火コイル装置のうちコイルケース内に絶縁用樹脂(例えばエポキシ樹脂)を注入硬化する方式のものは、絶縁油方式のような油の封入(シーリング)対策を不要とし、またセンタコア,ボビン,コイル等の構成部材を絶縁用樹脂に埋設するだけで自ずと固定できるので、これらの構成部材の固定も絶縁油方式に較べて簡易であり、装置全体の簡略化及び取り扱いの容易性を図れるものとして評価されている。
【0005】
ただし、点火コイル装置の構成部材間に注入(充填)される絶縁用樹脂は、構成部材間の線膨張係数差に基づく熱ストレス(熱衝撃)が加わるので、熱衝撃によるクラックの防止対策を講じる必要がある。特にエンジンのプラグホール内に装着されるタイプの独立点火形の点火コイル装置は、過酷な温度条件にさらされ(−40℃〜130℃)、絶縁用樹脂はこの熱衝撃に耐えられる必要がある。
【0006】
クラック発生は次のようにして絶縁破壊をもたらす。例えば、コイルケースに内側から順にセンターコア,二次コイル,一次コイルを内装した方式(いわゆる内二次コイル構造)の場合には、電位差のある二次コイルとセンターコア間及び二次コイルと一次コイル間にクラックにより空隙が発生すると、空隙部の電界強度が極端に大きくなるいわゆる電界集中が発生し、絶縁破壊が発生する。
【0007】
クラック防止策として、点火コイル装置のコイル部を構成するボビン材や絶縁用樹脂中のフィラー等の配合率を調整することで、これらの部材をセンターコアやコイル等の線膨張係数を近づける等の配慮がなされている。
【0008】
本発明の目的は、プラグホール内に装着されて過酷な温度環境にさらされる独立形点火コイル装置であっても、そのボビンと絶縁樹脂との密着強度(接着強度)を今まで以上に高めて耐熱衝撃を向上させ、ひいては絶縁樹脂のクラック防止及び剥離防止を図ることで絶縁性能の向上を図ることにある。
【0009】
さらに、上記のような耐熱衝撃及び絶縁性能を高めつつ、プラグホール内に装着されるいわゆるペンシルコイルタイプ(細形円筒形状の点火コイル装置)の細径化の要求を満足させることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、基本的には次のような課題解決手段を提案する。
【0011】
すなわち、コイルケースに内側から順にセンターコア、二次コイルを巻くための二次ボビン、前記二次コイル、前記一次コイルを巻くための一次ボビン、前記一次コイルを同心状に内装すると共に、これらの内装される構成部材間に絶縁用樹脂を充填させて成るコイル部を備え、エンジンの各点火プラグに直結して使用される独立点火形のエンジン用点火コイル装置において、
前記二次コイルは、ガラスフィラーを含有する合成樹脂製の二次ボビンに巻かれ、前記二次ボビンは、ガラスフィラーとタルク等の無機質粉が50〜70重量パーセント混合され、前記ガラスフィラーは、繊維の太さが10〜20μmで長さが50〜200μmであり、前記二次ボビンの表面は、ガラスフィラーが剥き出しになって、該二次ボビン表面に前記絶縁用樹脂が密着していることを特徴とする。
【0012】
本発明の適用対象…一次コイルの内側に二次コイルを配置するいわゆる内二次コイル構造(コイルケースに内側から順にセンターコア,二次コイル,一次コイルを配置する方式)、及び一次コイルの外側に二次コイルを配置するいわゆる外二次コイル構造(コイルケースに内側から順にセンターコア,一次コイル,二次コイルを配置する方式)いずれの独立点火形の点火コイル装置にも適用可能である。
【0013】
ここで、スキン層除去対象のボビンを必要最小限二次コイル側のボビン(二次ボビン)にしたのは、二次コイルは精密巻きが要求されるためボビンを介して巻く必要があるためである〔二次コイルは巻き層が崩れると線間電圧の大きい線同士が接近してしまう事態も生じ、これにより巻線の耐電圧(コイルを被覆するエナメルの耐圧性)を越える線間電圧により絶縁破壊が生じるため精密巻きが要求される〕。これに対して、一次コイルは、コイル全体がほゞ接地電圧であり、上記のような線間電圧に起因する絶縁破壊が生じないので、精密巻きが要求されず必ずしもボビンを介して巻く必要がない。例えば、外二次コイル構造(一次コイルの外側に二次コイルを配置する方式)の場合、一次コイルをセンターコアに直接,絶縁シートを介して巻き回すこともある。
【0014】
本発明によれば、次のような作用,効果を期待することができる。
【0015】
二次ボビンを合成樹脂製とした場合、ボビンには副資材としてフィラーが混入されるが、一般にボビンの表面は滑らかなスキン層(樹脂皮膜層)に覆われ、その下にフィラーと樹脂の混合層が存在する。本発明では、予めこのボビン表面を例えばブラストによって粗面処理(梨地処理;いわゆるざらつきのある表面処理)することによりスキン層を除去し、フィラーをボビン表面に剥き出し状態にしておく。
【0016】
このようなスキン層の除去されたボビンに二次コイルが巻かれ、また、この二次コイル・二次ボビンがコイルケースに一次コイル,センターコア等と共に内装され且つ絶縁用樹脂がコイル部の構成部材間に充填されるわけであるが、この絶縁用樹脂はスキン層のない二次ボビン表面(フィラー剥き出し面)に密着するので、フィラーとの絡みによるアンカー効果により密着強度(接着強度)が増大し、絶縁用樹脂の耐熱衝撃を著しく高め、絶縁用樹脂のクラック発生やボビンに対する剥離を防止して二次コイル同士や二次コイルと他の構成部材(例えば、一次コイル,センターコア等)との間の絶縁性能を高める。
【0017】
なお、絶縁用樹脂に剥離やクラックが生じた場合に絶縁破壊のメカニズムについては実施の形態の項で詳述する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例を図面により説明する。
【0019】
まず、図1〜図22を用いて第1の実施例に係わる点火コイル装置を説明する。
【0020】
なお、本実施例では、一例としていわゆる内二次コイル構造式を採用したものを例示するため、ここで内二次コイル構造の利点を述べておく。
【0021】
ペンシルコイルには、既述のように一次コイルを内側,二次コイルを外側に配置するものと、二次コイルを内側,一次コイルを外側に配置するものがあり、このうち後者の方式(内二次コイル構造)は前者の方式(外二次コイル構造)に較べ出力特性の面で有利な点がある。
【0022】
すなわち、コイルの構成部材に絶縁用樹脂(例えばエポキシ樹脂)を注入硬化させたペンシルコイルを想定した場合、図10に示すように、外二次コイル構造では、内側から順に一次コイル,エポキシ樹脂,二次ボビン,二次コイル,エポキシ樹脂,コイルケース,サイドコアが存在するが、二次コイルとその内側にある低電圧の一次コイル(ほぼ接地電圧とみなせる)との間に静電浮遊容量が生じるほかに、二次コイルとサイドコア(接地電圧)との間にも静電浮遊容量が発生し、そのため、内二次コイル構造に比べサイドコア側の静電浮遊容量が余分につき、外二次コイル構造の静電浮遊容量は大きくなる傾向にある(なお、内二次コイル構造の場合は二次コイル・一次コイルの間に静電浮遊容量が生じ、一次コイル・サイドコア間は一次コイル,サイドコアが共に接地電圧であるので静電浮遊容量が実質生じない)。
【0023】
二次電圧出力及びその立上り特性は静電浮遊容量に影響され、静電浮遊容量が大きくなるほど出力が低下し立上りに遅れが生じる。したがって、静電浮遊容量の小さい内二次コイル構造の方が、小形、高出力化に適していると考えられている。
【0024】
図1に点火コイル装置21の縦断面図(図3のB−B´線断面矢視図)及びその一部を拡大したE部拡大断面図を示し、図2に図1のA−A′線断面図を示す。図3は図1の点火コイル装置を上面からみた図で、回路ケース9の内部を樹脂(シリコンゲル)充填前の状態で表わしている。
【0025】
細長円筒形のコイルケース(外装ケース)6の内部には、中心(内側)から外側に向けて順にセンターコア1,二次ボビン2,二次コイル3,一次ボビン4,一次コイル5が配置される。
【0026】
二次ボビン2におけるセンターコア1と二次ボビン2間の隙間には、いわゆる軟質エポキシ樹脂(可撓性エポキシ)17が充填され、二次ボビン2,二次コイル3,一次ボビン4,一次コイル5,コイルケース6の各構成部材同士の隙間にはエポキシ樹脂8が充填されている。
【0027】
ここで軟質エポキシ樹脂17を定義すればガラス転移点が常温(20℃)以下で、ガラス転移点以上では弾性のある軟らかい性質を有するエポキシ樹脂であり(例えばガラス転移点以上ではヤング率が1×108Pa以下のもの)、その組成は、エポキシ樹脂と変性脂肪族ポリアミンの混合物(混合比率は例えば重量比率で1対1で、エポキシ樹脂100重量部、変性脂肪族ポリアミン100重量部)である。
【0028】
センターコア1・二次ボビン2間の絶縁用樹脂を軟質エポキシ樹脂17としたのは、プラグホール内装着式の独立点火形の点火コイル装置(ペンシルコイル)が厳しい温度環境(−40℃〜130℃程度の熱ストレス)にさらされることに加えて、センターコア1の熱膨張係数(13×10-6mm/℃)とエポキシ樹脂の熱膨張係数(40×10-6mm/℃)との差が大きいため、通常の絶縁用エポキシ樹脂(軟質エポキシ17よりも硬質のエポキシ樹脂組成物)を用いた場合には、ヒートショック(熱衝撃)によりエポキシ樹脂にクラックが生じ、絶縁破壊が起こる心配があるためである。すなわち、このようなヒートショックに対処するため、熱衝撃吸収に優れた弾性体で絶縁性を有する軟質エポキシ樹脂17を用いた。
【0029】
この軟質エポキシ樹脂17の注型工程は次の通りである。
【0030】
一例をあげれば、二次ボビン2にセンターコア1を挿入後に、これらを真空チャンバに置いてチャンバ内を真空引きし(例えば4Torr)、この真空状態下で二次ボビン2とセンターコア1との間に軟質エポキシ樹脂17を液状にて注入充填し、その後、大気中で120℃で1.5〜2時間加熱し硬化させる。
【0031】
このようなこの工程を有することで、真空状態で注入された軟質エポキシ樹脂17が加熱硬化時に大気圧の下に置かれるので、二次ボビン2・センタコア1間の軟質エポキシ樹脂17は加熱硬化時に大気圧と真空圧の差圧により加圧成形(圧縮成形)される。
【0032】
軟質エポキシ樹脂17を加圧成形することで、樹脂中に含まれるボイドの容積を1/200に収縮させ、より一層のボイドレス化を図り得る。放電が生じないボイドの大きさは、放電電極間の絶縁層間が1.0mmの場合には0.05mm以下であり、絶縁層が薄くなるほど上記の放電を生じさせないボイドの大きさも小さくする必要があり、加圧成形はその意味で有効である。
【0033】
図9は上記のコイル要素のうち、前記軟質エポキシ17を充填させた二次ボビン2だけを取り出してその内部を縦断面して表す図である(図9ではセンターコア1・二次ボビン2間の構造については、特徴点を明瞭にする作図上の便宜のためにやや誇張して描いてある)。
【0034】
図9に示すように、二次ボビン2に充填される軟質エポキシ樹脂17は、より詳細に述べればセンターコア1・二次ボビン2間から二次ボビン2の上端開口にかけて充填されるが、上記の大気圧と真空圧の差圧を利用して加圧成形を施した場合、二次ボビン2上端開口位置にある軟質エポキシ樹脂表面に加圧成形によるすり鉢状(半球状)の曲面凹み17´が残る(深さは例えば約3〜5mm程度)。この凹み17´は、二次ボビン2の開口端の中央が凹むものでその周囲は表面張力によりほゞそのままの状態を保持することですり鉢状となる。
【0035】
二次ボビン2にだけ軟質エポキシ樹脂17を個別に充填させることで、二次ボビンの開口側の樹脂17表面に凹み17´が生じるが、軟質エポキシ樹脂17の凹んだ部分17′によって、センターコア1の軸方向に集中した押し付け力が作用し、積層鋼板で構成されたセンターコア1で生じる磁気振動等を有効に抑制でき、耐振性をより一層向上させる。ただし凹み17′をそのままにしておくと、コイルケース上部(コイル部上部)に点火回路のケース9(図1参照)を配置した場合に、センターコア1と点火回路ケース9内の金属ベース37との間に空隙が残ることになり、次のような不具合が生じる。
【0036】
センターコア1は、絶縁されている場合、図11に示すように二次コイル3の中間電位と考えられる(例えば二次コイル発生電圧を約30kVとすると、センターコアはその中間電位の15kVとなる)。一方、センタコア1上方に位置する回路の金属ベース37は接地されているため、センターコア1・金属ベース37にも空隙があると電界集中が生じ絶縁破壊が生じてしまう。
【0037】
本例では、前記の軟質エポキシ樹脂17の加圧成形により生じた凹部(空隙)17´を軟質エポキシ樹脂よりも絶縁性の高いエポキシ樹脂8により埋めるので、上記の電界集中を大幅に緩和しセンターコア1・金属ベース37間の絶縁性を保証する。
【0038】
特に、絶縁用樹脂17の上面に形成される凹み17´が半球状を呈していることから、エポキシ樹脂(成形樹脂)8により埋められる凹み17´にはコーナが存在しておらず、したがってこの凹み17´に成形樹脂8を充填してもボイドが残りにくくなり、凹み界面での軟質エポキシ樹脂17とその上に注入されるエポキシ樹脂との密着性を良好に保持できる。このエポキシ樹脂8と軟質エポキシ樹脂17の界面(半球状の曲面凹み17´面)は、共にエポキシ系であるが故に接着性が良い。
【0039】
ちなみに、本例で用いる軟質エポキシ樹脂17の絶縁性能(破壊電圧)は温度により変化(温度上昇に伴い絶縁性能は低下)するが、10〜16kV/mmであり、エポキシ樹脂8は16〜20kV/mmである。
【0040】
軟質エポキシ樹脂17は、〔二次ボビン2の許容応力σ0>(−40℃−軟質エポキシ樹脂17のガラス転移点Tg)での発生応力σ〕の条件を満足するガラス転移点Tgを有する。ここでは一例として、軟質エポキシ樹脂17として、ガラス転移点Tgが−25℃のものを例示する。
【0041】
例えば、軟質エポキシ樹脂17のガラス転移点がTg=−25℃である場合には、二次ボビン2が130℃から−40℃に温度変化する環境に置かれて運転停止後の温度降下により収縮した時に、130℃〜−25℃の範囲では二次ボビン2の収縮が軟質エポキシ樹脂17の弾性吸収により受け入れられるため二次ボビン2は実質無応力である。−25〜−40℃の温度範囲では軟質エポキシ樹脂17がガラス状態に移行し、それにより二次ボビン2の収縮(変形)が阻止されるので、二次ボビン2に熱応力(σ=E・ε=E・α・T)が発生する。Eは二次ボビン2のヤング率、εはひずみ、αは二次ボビンの線膨張係数、Tは温度変化(温度差)である。二次ボビン2の許容応力σ0が発生応力σより大きい場合には(σ<σ0)には、二次ボビン2は破損しない。
【0042】
この場合、−40℃〜Tg(Tgは例えば常温以下)の範囲では、二次ボビン2・センターコア1間の軟質エポキシ17がガラス転移点を下回り硬質化して熱衝撃緩和作用がなくなったとしても、その温度範囲が狭いために、熱衝撃が弱まり、二次ボビン・センターコア間の健全性を維持できる。Tgは−25℃に限定されるものではない。
【0043】
本例では、二次ボビン2は、常温(20℃)〜150℃の範囲の線膨張係数αが成形時の流動方向,直角方向を含め10〜45×10-6の熱可塑性合成樹脂であり、軟質エポキシ樹脂17はガラス転移点が−25℃以上でヤング率が1×108(Pa)以下の弾性を有するものであり、この条件の下で130℃〜−40℃の温度変化を繰り返し与えて二次ボビン2の観察したところ、二次ボビン2に損傷は発生しておらず、健全性が維持されていることが確認された。すなわち、上記条件の下で、二次ボビン2の許容応力σ0はσより大きいことが確認された。
【0044】
次にエポキシ樹脂8は、次のようにして充填される。
【0045】
図1に示すように、コイルケース6と結合されるコネクタ付き回路ケース9は、その底部9Eがコイルケース6上部に連通して該コネクタ付き回路ケース9の内部からコイルケース6の二次コイル3・一次ボビン4間及び一次コイル5・コイルケース6間にかけてエポキシ樹脂8が真空注入され,大気圧で加熱硬化される。
【0046】
二次コイル3と一次ボビン4との間、一次コイル5とコイルケース6との間はエポキシ樹脂8により絶縁性が保証されている。エポキシ樹脂8は軟質エポキシ樹脂17よりも硬質である。
【0047】
エポキシ樹脂8は、耐熱ストレス(−40℃と130℃の繰り返しストレス)と高温下の耐高電圧特性等を向上させるため、石英粉と溶融ガラス粉を合計で50%〜70%混合され、硬化後のガラス転移点が120℃〜140℃で、常温(20℃)〜ガラス転移点の範囲の線膨張係数が18〜30×10-6の範囲にある材料で構成し、上記一次ボビン4,二次ボビン2同様にコイル部の金属との線膨張係数差を極力小さくしている。エポキシ樹脂8は、0.3mm以下は熱ひずみによりクラックが発生するので、機械強度の面からすれば0.4mm以上必要である。また、30kV程度の耐電圧性を保つには厚みが0.9mm程度必要であり、本例では二次コイル3と一次ボビン4との間の絶縁用エポキシ樹脂8の層厚を0.9〜1.05(mm)程度としている。
【0048】
なお、一次コイル5とコイルケース6との間に充填されるエポキシ樹脂8は耐電圧性が要求されず、クラック発生が許容されるので、層厚が0.4mm以下でも良く、本例では、0.15〜0.25mm程度としている。
【0049】
このエポキシ樹脂8により既述したように軟質エポキシ樹脂17の凹み17´が埋められている。
【0050】
二次ボビン2は、センタコア1と二次コイル3の間に配置され、二次コイル3で発生した高電圧を絶縁する役目もある。二次ボビン2の材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS),変性ポリフェニレンオキサイド(変性PPO)等の熱可塑性樹脂である。
【0051】
点火コイル装置の小形化(細径化)の制約の下でできるだけセンターコア1の占有面性のアップひいては出力アップを図るためには、ボビン材は薄肉での成形が可能な樹脂を選定する必要があるが、PPSは熱可塑性合成樹脂の中でも成形時の流動性が良く、無機質粉の配合量を50重量%以上にしても流動性を損なわず薄肉化に有利であるという特長がある。二次ボビン2にPPSを用いた場合、コイル部の金属との線膨張係数差をできるだけ近づけるため、ガラス繊維とタルク等の無機質粉が50〜70重量%混合され(このPPSを本明細書ではハイフィラーPPSと称することもある)、常温(20℃)〜150℃の範囲の線膨張係数が成形時の流動方向、直角方向も含め、10〜45×10-6の範囲である。
【0052】
二次ボビン2の肉厚は、上記組成のPPSを使用した場合、ヤング率は変性PPOの2倍であるため、機械的強度を満足させる場合には変性PPOの1/2以下の厚さにでき、ボビンの薄肉化を図れる。
【0053】
二次コイル3・センタコア1間の絶縁層は、軟質エポキシ樹脂17と二次ボビン2とで構成されるが、これらの絶縁樹脂の肉厚は次のような配慮の下に設定した。
【0054】
軟質エポキシ樹脂17は、ボビン材料に比較して絶縁性が低いため極力薄くして、その分、絶縁性の高い二次ボビン2の肉厚を増やしたいが、センターコア1に対する線膨張係数差吸収のため,且つボビン材やコアの量産上の寸法ばらつきやボイドレス真空注型の円滑化を保証するため、最小限0.1mm必要である。例えば、0.1〜0.15±0.05(mm)とする。
【0055】
一方、二次ボビン2の肉厚は、ボビン材をPPSとした場合、成形性及び機械強度〔熱ストレス(熱ひずみ)に対してクラックが発生しない強度〕から0.5mm以上必要である。また、絶縁性能からみれば、二次ボビン2の必要肉厚は次のようになる。
【0056】
図11に示すように、例えば二次コイル3の発生電圧が30kV(高圧側電圧)とすると、センターコア1は非接地のため中間電位30/2=15kVと考えられる。センタコア1から二次コイル3の低圧側を見ると−15kVの電位差,センタコア1から二次コイル3の高圧側を見ると+15kVの電位差となる。したがって、二次ボビンの耐電圧は約15kVで良いと考えられる。一方、上記ボビン材としてPPSを用いた場合には絶縁性能は20kV/mm程度であるから、上記電圧15kVに耐えるには、0.75mm以上となる。
【0057】
二次ボビン2の耐電圧は二次コイル3の出力によりさまざまであるが、本例では、二次コイル3の出力電圧を25〜40kVの範囲を考えて、耐電圧(二次コイルの出力電圧/2)の要求を満たす範囲の条件の下で、0.5〜1.5mmの範囲で定めるものとする。
【0058】
なお、ハイフィラーPPSのヤング率は変性PPOの2倍である。したがって、二次ボビン2の材料を上記PPSに代えて変性PPOとした場合には、機械強度を満足させるためには、肉厚をPPSの2倍以上必要であり、1.0mm以上は必要である。変性PPOの絶縁性能は16〜20kV/mmである。
【0059】
換言すれば、機械強度の面からみれば、二次ボビン2にハイフィラーPPSを用いた場合、変性PPOに比べて1/2の厚さにすることができる。
【0060】
また、二次ボビン2の肉厚については、一律ではなく、二次ボビン2は有底状を呈して、二次コイル低圧側が開口されて絶縁用樹脂の注入側としてあり、且つ二次ボビン2には、図9に示すように、その内径に二次コイル低圧側が大きく二次コイル高圧側に向かうにつれて小さくなる内径差のある勾配をつけて、二次コイル低圧側の二次ボビン肉厚が薄く二次コイル高圧側に向けて二次ボビン肉厚が厚くなるボビン構造としてある。
【0061】
図9は上記の二次ボビン2の肉厚の勾配を見易くするため、作図上誇張しているが、その寸法は、例えば、二次ボビン外径をΦ10〜12mmとした場合、軟質エポキシ樹脂注入側(二次コイル低圧側)の二次ボビン肉厚が0.75±0.1(mm)、この樹脂注入側と反対側(二次コイル高圧側)が0.9±0.1(mm)としてある。
【0062】
二次ボビン2の肉厚の仕様を上記のように設定することで、次のような利点がある。
【0063】
すなわち、二次ボビン2・センターコア1間に充填される軟質エポキシ樹脂17の隙間は、既述したように二次ボビン2の肉厚確保等の要求からできるだけ薄肉化したく、最も小さい隙間が0.1〜0.15±0.05(mm)程度であり、これを軟質エポキシ樹脂注入側と反対側の二次ボビン・センタコア間の隙間l1とすれば、軟質エポキシ樹脂注入側の二次ボビン・センタコア間の隙間l2は上記2次ボビンの肉厚勾配を設けることで0.2〜0.4(mm)となり、したがって、その注入の間口を広げて樹脂注入の円滑化を図り、しかも樹脂注入の間口を広げたとしても、センターコア1・二次ボビン2間のギャップは徐々に狭まるので、軟質エポキシ樹脂17の薄層化を極力保持する。
【0064】
また、点火コイル装置のコイル部(コイルケース6及びその中に収納されるコイル,コア等より成る部分)は、図8に示すように、その二次コイル高圧側がシリンダヘッド100の点火プラグ22と直結されるため、エンジン燃焼の熱的影響を直かに受けやすく(コイルケース6の外装表面温度は、点火プラグ22と直結される部位が140℃,二次コイル高圧側付近が130℃、二次コイル低圧側付近はシリンダヘッドの外側にあり,また二次コイル高圧側との距離は80〜105mm程度あるために110℃,その上の点火回路ケースは100℃程度である)。
【0065】
したがって、二次ボビン2のうち二次コイル高圧側の方が二次コイル低圧側よりも高温状態になって絶縁性能が低下したり〔例えば二次ボビン2の材料となるPPSの場合、耐電圧(破壊電圧)は常温(20℃)で20kv/mm、100℃で18kv/mm、120℃で17kv/mmである)、また、熱応力が大きくなることが充分予想されるが、本例では、二次コイル低圧側の二次ボビン肉厚を薄く二次コイル高圧側に向けて二次ボビン肉厚を厚くしたので、その厚み増加分だけ二次コイル高圧側の絶縁性能及び耐熱応力が高まり、上記のエンジン燃焼の熱的影響に対処できる。
【0066】
二次ボビン2に巻かれる二次コイル3は、線径0.03〜0.1mm程度のエナメル線を用いて合計5000〜20000回程度分割巻きされている。二次ボビン2,一次ボビン4の構造及びそのボビン組み(コイル組み)については、後述する。
【0067】
二次コイル3を巻いた二次ボビン2の外径は、一次ボビン4の内径よりも小径に形成して、二次ボビン2及び二次コイル3が一次ボビン4の内側に位置している。
【0068】
一次ボビン4も、二次ボビン2同様のPPS或いは変性PPO,ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性合成樹脂で成形され、一次コイル5が巻線されている。PPSを採用した場合には、既述したように薄肉での成形が可能であり、一次ボビン4の肉厚は0.5mm〜1.5mm程度である。また、ガラス繊維とタルク等の無機質粉が50〜70重量%以上混合され、コイル内の金属との線膨張係数差を極力少なくしている。
【0069】
一次コイル5は線径0.3〜1.0mm程度のエナメル線を一層あたり数十回ずつ数層にわたり合計100〜300回程度巻き回される。なお、図1のE部拡大断面図では、作図の便宜上、一次コイル5を模式的に一層で表現しているが、実際は上記のように数層で構成されている。
【0070】
一次ボビン4及び二次ボビン2は、その表面が外径面(外表面),内径面(内表面)いずれもスキン層が除去されるように粗面処理(いわゆるざらつきのある梨地処理)され、絶縁用樹脂(エポキシ樹脂8,軟質エポキシ樹脂17)の充填前にはフィラーがボビン表面に剥き出しになっている。
【0071】
図29は二次ボビン2に粗面処理を施していない状態(スキン層が存在している状態)の二次ボビンの外表面の一部を約40倍に拡大した写真であり、図30は二次ボビン2の表面にブラスト処理を施してスキン層を除去した(粗面化した)実施例品における二次ボビンの外表面の一部を約40倍に拡大した写真である。図29,図30には、二次ボビンの外表面に形成した二次コイル分割巻き用の鍔も一部撮影されている。図31は図29と同じく二次ボビン2に粗面処理を施す前の二次ボビン2の外表面を約100倍に拡大した写真であり、図32は図30と同じく粗面処理した本実施例品の二次ボビンの外表面を約100倍に拡大した写真である。図32には、上記の写真に併せて、そのボビン表面の一部を模式化して描いた平面図と断面状態も表示している。
【0072】
これらの写真から明らかなように、二次ボビン2のスキン層除去後(粗面処理後)の表面にはガラスフィラーが剥き出しになっている。
【0073】
ボビンにおけるブラスト処理無品は最大面粗さ(凹凸面の深さRmax)10μm以下であり、ブラスト処理有品は、そのブラスト材質やブラストに用いるエア圧により様々であるが少なくともRmaxが10μm以上である。本例では、最大面粗さRmaxが20〜30μm程度にしたものを用いた。
【0074】
図33に二次ボビンの表面にブラスト処理を施した場合の表面粗さの測定データを示す。この測定データは、ブラスト未処理のものと、ブラスト材質が円柱のナイロン材(モース硬度2.5)のもの、ブラスト材質が不定形のコンペイトー状のプラスチック(モース硬度3.5)のもの、ブラスト材質が球形状のガラス(モース硬度6.0)のもの、ブラスト材質がコンペイトー形状のアルミナ(モース硬度9.5)のもので、ブラストのエア圧が2kgf/cm2或いは3kgf/cm2で処理した二次ボビンの表面を、測定距離4mm,測定子動作速度0.3mm/sで測定したデータで、表面粗さは、JISB0601によりRa(測定データの基準線Pからの凹凸の平均値),その最大値であるRmax,Rz(測定データの10箇所のピーク値の平均値)で示してある。
【0075】
本実施例は、図33の測定データのうち最も表面粗さの数値の高いブラスト処理(ブラスト材質がコンペイトー形状のプラスチックでモース硬度が3.5のもの)を採用している。この場合の表面粗さ(μm)は、Raが2.2、Rmaxが29.8、Rzが18.5である。ちなみに、ブラスト未処理品は、Raが0.5、Rmaxが8.2、Rzが測定不可なほど小さかった。
【0076】
ブラスト材質やその条件については、何ら限定するものではない。要は、ボビン材にどの程度の粗面処理が施せるかである。図34には、ブラスト材質について、プラスチックですべて不定形(コンペイトー形状)のものを、図33以外のほかに、その大きさや硬度を変えて、二次ボビンにブラスト処理(粗面処理)を施した場合の二次ボビン表面粗さの測定データを示す。
【0077】
絶縁用樹脂充填後は、このスキン層除去面がアンカー効果を発揮して、二次ボビン2の内径面に対する軟質エポキシ樹脂17の密着強度(接着強度)を高め、且つ二次ボビン2の外径面に対するエポキシ樹脂8(二次コイル3の線材間から浸透して二次ボビン2外径面に至ったエポキシ樹脂)や、一次ボビン4内径面に対するエポキシ樹脂8の密着強度(接着強度)を高めている。
【0078】
ここで、絶縁用樹脂とボビン材との間に剥離(絶縁用樹脂のクラックも含む)が生じた場合の絶縁破壊のメカニズムについて図6を用いて説明する。
【0079】
図6は、内二次コイル構造のペンシルコイルの一部を拡大して示し、二次ボビン2の外表面に二次コイル3を分割巻きするための鍔(各スプールエリアを設定するための鍔)2Bが軸方向に間隔を置いて複数配設されている場合の一部拡大断面図である。
【0080】
エポキシ樹脂8のうち、二次ボビン2・一次ボビン4間に充填されるエポキシ樹脂8は、樹脂注入(真空注入)により、二次コイル3・一次ボビン4間のほかに二次コイル3の線間に浸透されて二次ボビン2の外表面に至る。また、センターコア1・二次ボビン2との間に軟質エポキシ樹脂17が充填されている。
【0081】
この場合、絶縁用樹脂と二次ボビン,一次ボビンとの密着強度(接着強度)が弱ければ、符号イに示すように二次ボビン3と二次コイル間浸透の絶縁用樹脂8との間、及び符号ロに示すように二次ボビン鍔2Bと絶縁用樹脂8との間に剥離が発生する可能性がある。また、符号ハに示すように絶縁用樹脂8と一次ボビン4の間や、符号ニに示す絶縁用樹脂17と二次ボビン2の間も剥離が生じる可能性領域と考えられる。
【0082】
符号イで示す位置に剥離が発生すると、剥離した箇所(空隙)を通して線間電圧による電界集中が発生し、二次コイル3の線間に部分放電ひいては発熱,二次コイルの線材のエナメル被覆が焼損してレアーショートが発生する。また、符号ロで示す位置に剥離が発生すると、隣接する分割巻きエリア間の線材同士に電界集中が発生し、上記同様の部分放電によりレアーショートが発生する。符号ハに示す位置に剥離が発生すると二次コイル3・一次コイル5間に絶縁破壊が発生し、符号ニに示す位置に剥離が発生すると二次コイル3・センターコア1間に絶縁破壊が発生する。
【0083】
本実施例では、以上を配慮して、二次ボビン2が分割巻きのための鍔2B(スプールエリア設定用鍔)を備えている場合には、この二次ボビン2の内外表面については鍔を含めてスキン層を除去する。また、一次ボビン4の少なくとも内表面(ここでは全表面)もスキン層を除去する。このようにすれば、一次ボビン4,二次ボビン2の上記の符号イ〜ニにおける絶縁用樹脂の密着強度(接着強度)を高め、上記のような剥離防止を図り、さらにはクラック発生も防止して、上記したような絶縁破壊(レアーショート)を防止できる。
【0084】
図4(a)は、二次ボビン2に二次コイル3を巻いた箇所の部分断面図であり、図4(b−1),図4(b−2)は、そのF部を拡大した断面図である。図4(b−1)は二次ボビン2のスキン層2′を除去しない、いわゆる二次ボビン成形後にその表面に何らの処理も施さないで、二次コイル3を巻いたものであり、エポキシ樹脂8は二次コイル3間の隙間を浸透してスキン層2′表面に密着する。スキン層2′は滑らかな数ミクロン程度の薄層であり、その下にフィラー混在樹脂層2″が存在する。図4(b−2)は、二次ボビン2のスキン層2′を除去する粗面処理(梨地処理)を施して、フィラー混在樹脂層2″を露出させて、二次コイル3を巻いたものであり、エポキシ樹脂8は二次コイル3間の隙間を浸透してフィラー混在樹脂層2″表面に密着する。
【0085】
本例では、図4(b−2)方式を採用することで、図4(b−1)方式に較べて、ボビン材に対する絶縁用樹脂の密着強度(接着強度)を著しく高め、上記のような剥離防止を図る。なお、上記のスキン層除去のために、二次ボビン2及び一次ボビン4には、ブラスト処理が施される。ブラスト処理は、既述したように例えば粒径0.1〜0.3mmのアルミナ,プラスチック等の粉体を10MPaで射出することで行われる。
【0086】
上記の一次ボビン,二次ボビンに対する粗面処理は、ボビン材にPPSを用いた場合、特に有効である。その理由は、PPSは、スキン層を存在させた場合には、エポキシ樹脂8に対しての密着(接着)の相性が変性PPOに比べて劣るが(変性PPOはエポキシ樹脂8との相性がよい)、ボビン材をPPSで構成した場合には、粗面化処理を施すことにより、エポキシ樹脂に対してボビン材の接着性(エポキシぬれ性及びガラスとの結合)を促進させるためである。
【0087】
二次ボビン2の鍔2Bにより設定される二次コイル3の分割巻きのためのスプールエリアの段数は12〜14の範囲である。二次コイル3の出力電圧が25〜40kVである場合、分割巻きがないと低圧と高圧側の最大の電圧差が上記のように25〜40kVでありこの線間電圧の大きい線同士が何らかの原因(巻線崩れ等)で接近して巻かれてしまうと線間耐圧を越えて絶縁破壊が生じるおそれがある。本例では、このような事態に対処するために、二次コイル3を分割巻きして各スプールエリア内の線間電圧を小さくしており、内二次コイル構造式においてペンシルコイル(点火コイル装置)のプラグホールに実装する上での径及び軸方向の制約との兼ね合いで、必要最小限,各スプールエリアで小さくし得る線間耐電圧として2〜3V程度にするのが良いとの結論から、スプールエリアの段数は12〜14の範囲で定めるのが好ましいとし、そのように設定した。
【0088】
また、図5に示すように二次ボビン鍔2Bの突出量aすなわち二次コイル外径〜二次ボビン鍔外径までの距離が0.1〜0.4mmの範囲にあり、この二次ボビン鍔の幅bが0.6〜1.0mmの範囲にある。二次ボビン鍔2Bの突出量aの上記寸法は、突出によりエポキシ樹脂8に対するアンカー効果を確保しつつ、突出量aの寸法公差を配慮しても二次コイルの線径(使用最大径0.03〜0.1mm)より大きくとることで二次コイルの線材の鍔越えを防止する配慮の結果である。
【0089】
また、二次ボビン鍔2Bの上記幅bの寸法も、前記のペンシルコイルの全長を抑えつつ二次ボビン鍔2B上でのエポキシ樹脂8に対する接着力を図る上で最適なものとして採用された。
【0090】
二次ボビン鍔2B先端から一次ボビン4までのエポキシ樹脂8の厚さcは、0.4〜1.0mm程度である。
【0091】
コイルケース6は、耐熱性などの点からPPS,変性PPO,PBT等の熱可塑性樹脂、或いはPPSに変性PPOを配合剤として、例えば、約20%配合した混合樹脂で成形される(混合態様は海島構造で海がPPS、島が変性PPOである)。
【0092】
このうち、PPSに変性PPOを配合剤として混合したコイルケース6は、エポキシ樹脂8との密着性を良好にし耐電圧性に優れ、また耐水性,耐熱性に優れている(PPSは耐熱性,耐電圧性,耐水性に優れるが、単独ではエポキシ樹脂との密着性に劣り、それを補うためにエポキシ樹脂との密着性の良い変性PPOを配合することで密着性が向上した)。コイルケース6の肉厚は0.5〜0.8mm程度である。
【0093】
なお、コイルケース6となる熱可塑性樹脂にも、ボビン材同様にコイル部の金属との線膨張係数差をできるだけ小さくするために、フィラーとしてガラス繊維及びタルク等の無機質粉が適宜配合されている。その上部に配置したコネクタ9B付き回路ケース(点火制御ユニットケース或いはイグナイタケースと称せられることもある)9は、コイルケース6と別成形されたものであり、PBT或いはコイルケース6と同様の材料で成形されている。
【0094】
回路ケース9は、点火制御の駆動回路(点火回路)のユニット40を収容すると共に、コネクタ部(コネクタハウジング)9Bと一体成形されている。回路ケース9及びそのコネクタ端子等については、後述する。
【0095】
センターコア1は、その断面積を増やすように、例えば、図2に示すように、幅長を数段階に設定した多数の0.3〜0.5mm程度の珪素鋼板或いは方向性珪素鋼板をプレス積層して成り、二次ボビン2の内径に挿入される。
【0096】
コイルケース6の外側面に装着されるサイドコア7は、センターコア1と協働して磁路を構成するもので、0.3〜0.5mm程度の薄い珪素鋼板或いは方向性珪素鋼板を管状に丸めて成形される。サイドコア7は磁束の1ターンショートを防ぐため、サイドコア7円周上において少なくとも1箇所は軸方向に切れ目を設けている。本実施例では、サイドコア7は、珪素鋼板を複数枚(ここでは2枚)重ねて、うず電流損を減らして出力向上を図っているが、1枚で構成してもよく、2枚以上であってもよく、プラグホール等の材質(アルミ,鉄等)に応じて適宜枚数設定される。
【0097】
本例のペンシルコイルのコイル部は、例えばコイルケース6外径がΦ22〜24mm程度であり、センターコア1の面積が50〜80mm2、コイル部の長さ(ボビン長)が86〜100mm、二次ボビン外径Φ10〜12mm,一次ボビン外径Φ16〜18mm程度のものであり、このような仕様において、前記のコイル部の構成要素の層厚等を決定したものである。なお、本例では、一次ボビン4及びコイルケース6の肉厚についても、樹脂注入側が薄くその反対側が厚くなるように肉厚差0.15mm程度設けてある。
【0098】
二次ボビン2の上部には、ボビンヘッド2Aが二次ボビン2と一体に成形してある。ボビンヘッド2Aは一次ボビン4の上端よりも頭出しされるように設定されている。
【0099】
図13に、二次ボビン2に二次コイル3を巻線した工程後のボビンヘッド2A付近の拡大斜視図を示し、図14に図13の二次ボビン2を一次ボビン4に内挿した時のボビンヘッド2A付近の拡大斜視図を示す。なお、図1では、ボビンヘッド2Aについては部分断面して、断面しない部分についてはボビンヘッド外側面の一部を表わしている。
【0100】
本例のボビンヘッド2Aは長方体の箱形を呈し、ボビンヘッド2Aの外側面に、点火コイルの製造過程において二次ボビン2を巻線機の回転シャフト62(図21参照)に挿入セットした時に回転シャフト側に設けたボビン位置決め兼用の回り止め64に係合する係合部2Dが設けてある。
【0101】
本例の係合部2Dはボビン軸方向に延びる凸条を呈しており、回転シャフト62側の回り止め64はシャフト62の軸方向に平行な2本のピン64をカップリング63の一端面に配設してなり、このピン64間に凸条係合部2Dが嵌まるようにしてある。
【0102】
ボビンヘッド2Aの内部には、上部開口部を通して図1に示すようなマグネット16,軟質エポキシ樹脂17が充填される。また、二次ボビン2側であるにもかかわらず、そのボビンヘッド2Aの外側面に一次・二次コイル兼用のコイル端子18と一次コイル端子19とが設けてある。
【0103】
ここで、一次・二次コイル兼用端子18は、図12(b)の兼用端子▲1▼▲3▼に相当する。すなわち、二次コイル3の一端3aを取り出して電源に接続するためのコイル端子〔図12(a)の回路における▲3▼端子に相当する〕と、一次コイル5の一端5aを取り出して電源に接続するためのコイル端子〔図12(a)の回路における▲1▼端子に相当する〕としての機能をなす。
【0104】
一方、一次コイル端子19は、図12(a)の回路及び図12(b)における▲2▼端子に相当し、一次コイル5の他端5bを取り出して点火回路ユニットのパワートランジスタ(点火コイル駆動素子)39のコレクタに接続される。
【0105】
図13,図14に示すように一次・二次コイル兼用端子18は、帯状の金属板で成形され、その取付脚部18cを介して二次ボビンヘッド2Aの一外側面に設けたポケット20に圧入固定される。その一端18′はLの字状に立ち上げ成形されて、この立ち上げ部分18′が図1,図15に示すように電源入力用のコネクタ端子31の一端31bに溶接等で接合される。なお、図15は、点火コイル装置からコイルケース6及び点火回路ケース9を取り去って、一次コイル5を巻き回した一次ボビン4,二次コイル3を巻き回した二次ボビン2のボビン組み(一次・二次コイル組み)と二次ボビンヘッド2A上に設置される点火回路ユニット(イグナイタと称せられることもある)40との結合関係を示す斜視拡大図であり、図15中における点火回路ユニット40及びその引き出し端子32,34,36は実際には図3に示すようにコネクタ9B付きの回路ケース9内に収容され、また、コネクタ端子31,33,35は回路ケース(樹脂ケース)9中にその一部が埋設されている。
【0106】
一次・二次コイル兼用端子18は金具単体より成り、図13及び図14に示すように二次コイル3の一端3aを引き出してからげる(巻き付ける)部分18aと、一次コイル5の一端5aを引き出してからげる部分18bとが一体成形してあり、このからげ部18a,18bでコイル一端3a,5aがそれぞれからげられた後に半田付けされる。
【0107】
二次ボビン2の上端フランジ(鍔部)2B′には二次コイル一端3aを端子金具18に導くための切欠き2Cが形成してあり、同様に一次ボビン4の上端フランジ4Aにも一次コイル一端5aを端子金具18に導くための切欠き4Bが形成してある。
【0108】
一次コイル端子19も帯状の金属板で成形され、二次ボビン2の上記ポケット20のある位置と反対側の外側面に設けたポケット(図示省略)に圧入固定され、また、その一端19′がLの字状に立ち上げ成形され、且つ水平に張り出す腕部19″が一次・二次コイル兼用端子18側に向けて延設されて先端部19′が端子18側の先端部18′と近接位置で平行に並ぶように配置されている。この一次コイル端子19は、図15に示すように点火回路ユニット40側の引き出し端子(リード端子)32に溶接により接続される。引き出し端子32は、図1,図3に示すように点火回路ユニット40のパワートランジスタ39のコレクタ側にワイヤボンディング42を介して電気的に通じている。
【0109】
図15に示すようにコネクタ端子(コネクタピン)には、既述したコネクタ端子31の他にコネクタ端子33,35がある。
【0110】
ここで、コネクタ端子31,33,35と点火制御の駆動回路との関係について説明する。
【0111】
図7は点火コイル装置21の回路ケース9に搭載される点火回路41と一次コイル5,二次コイル3との電気配線図である。
【0112】
一次コイル5の一端5aと二次コイル3の一端3aは、二次ボビン2に設けた一次・二次コイル兼用端子18及びコネクタ端子31を介して直流電源の+側に接続される。一次・二次コイル兼用端子18は、図12(a)の点火コイル原理図で述べた一次・二次コイル兼用端子▲1▼▲3▼に相当する。
【0113】
一次コイル5の他端5bはダーリントン接続されたパワートランジスタ39のコレクタ側に二次ボビンに設けた一次コイル端子19及び点火回路ユニット40に設けたリード端子32を介して接続される。一次コイル端子19は先に述べた一次コイル端子▲2▼に相当する。
【0114】
二次コイル3の他端3bは、高圧ダイオード10を介して点火プラグ22に接続される。高圧ダイオード10は、二次コイル3で発生した高電圧を図1に示す板ばね11,高圧端子12,スプリング13を介して点火プラグ22に供給する場合に過早着火を防止する役割をなす。
【0115】
図示されないエンジンコントロールユニットで生成された点火制御信号はコネクタ端子33及び点火回路ユニット40に設けたリード端子34を介してパワートランジスタ39のベースに入力される。この点火制御信号に基づいてパワートランジスタ39がオン・オフ制御されて一次コイル5が通電制御され、一次コイル5の遮断時に二次コイル3に点火用の高圧電圧が誘起される。
【0116】
パワートランジスタ39の二段目トランジスタのエミッタ側は点火回路ユニット40に設けたリード端子36及びコネクタ端子35を介してアースに接続されている。
【0117】
以上のことから、図3及び図15に示すように、一次・二次コイル兼用端子18の一端18´とコネクタ端子31の一端31bとが溶接により接続され、一次コイル端子19の一端19´と点火回路ユニット側のリード端子32の一端とが溶接により接続され、コネクタ端子33と点火回路ユニット側のリード端子34の一端同士が溶接により接続され、コネクタ端子35とリード端子36の一端同士が溶接により接続される。
【0118】
なお、図7において、71は点火コイルの通電制御により発生するノイズを防止するためのノイズ防止用コンデンサで、電源線とアース間に配置され、本例では点火回路ユニットを収容するケース外部に配置してある。例えば、ノイズ防止用コンデンサ71はエンジンルーム内の配線(エンジンハーネス)のアースポイントに配置してある。
【0119】
点火信号入力端子34及びパワートランジスタ39のベース間に設けた抵抗72、及び抵抗72・アース間に設けたコンデンサ73は、サージ保護回路を形成する。トランジスタ74,抵抗76及びツェナーダイオード75は点火制御系の過電流制限回路を形成する。77は一次電圧制限用ダイオード、78は逆電流印加時の保護回路を構成するダイオードである。
【0120】
図1,図3,図15に示すように、点火回路ユニット40側のリード端子32,34,36は、箱形にプレス成形されたアルミ製の金属ベース37に接着された合成樹脂製の端子台38上に固定されている。また、上記した端子18・31と、19・32と、33・34と、35・36とは、それらの接合部が同一方向に向いて平行に配列されることで、溶接を行い易くしてある。
【0121】
点火回路ユニット40は、上記した抵抗72,コンデンサ73,トランジスタ74,ツェナーダイオード75,抵抗76,ツェナーダイオード77,ダイオード78より成るハイブリットIC回路41と、パワートランジスタ39とを金属ベース37内に配設して成り、金属ベース37にはシリコンゲルが充填されている。
【0122】
点火回路ユニット40を収容する回路ケース(イグナイタケース)9は、上記したコネクタ端子31,33,35を収容するコネクタハウジング9Bと一体にモールド成形される。
【0123】
図1,図3に示すように回路ケース9は、点火回路ユニット40を収容する個所がケース側壁9Aにより囲んでおり、また、点火回路ユニット40は図3に示すように側壁9Aに囲まれるスペースの床面(内)9E上に位置決め突起9Dに案内されて載置されている。床面9Eの中央はコイルコース6側の開口面に臨むように開口している。
【0124】
回路ケース9は、コイルケース6と別個に成形され、コイルケース6の上端に嵌合接着により結合される。この結合状態は、図3に示すようにコイルケース6の上部外周に設けた突起6Aが回路ケース9側の凹溝9Fに周り止め状態で係合する。
【0125】
上記結合状態で回路ケース9内に収容された点火回路ユニット40の金属ベース37が二次ボビン2のヘッド2A直上に配置されると共に、回路ケース9のコネクタ端子31の一端31´及びリード端子32の一端がそれぞれ二次ボビンヘッド2A側に設けた一次・二次コイル兼用の端子18及び一次コイル端子19の各一端と回路ケース9内で重なり合うように設定されて、これらの重なり合う端子同士の溶接が容易に行われるように配慮されている。また、点火回路ユニット40をセットした時には、点火回路ユニット40側の引出し端子34及び36もそれぞれ対応のコネクタ端子33,35と自ずと位置合わせされる。
【0126】
また、回路ケース9は側壁9Aの周囲にフランジ9Cを形成しており、このフランジ9Cの一部に点火コイル装置21をエンジンカバーに取付けるためのねじ孔25が配設してある。回路ケース9の内部は絶縁用エポキシ樹脂43で覆われている。
【0127】
次に二次ボビン2及び一次ボビン4の底部側の構造について図16及び図17により説明する。
【0128】
図16は、一次ボビン4に二次ボビン2・二次コイル3を内挿する場合の底部付近の斜視図を示す。図17には、一次ボビン4,二次ボビン2の底面図及びそれらを組みにした状態の底面図が示してある。
【0129】
図16,図17に示すように、二次ボビン2は、底部が閉じて有底円筒状に形成され、その底部外面に高圧ダイオード10を取り付けるための突起2Eが設けてある。二次コイル3の一端3bは、図1に示すように高圧ダイオード10及び板ばね11を介して高圧端子12に接続される。
【0130】
一次ボビン4の底部は開口しており、二次ボビン2を一次ボビン4に内挿すると、高圧ダイオード10が一次ボビン4の底部開口4′から突出するようにしてある。また、一次ボビン4の底部には開口4′を挾む形で対向する一対の二次ボビン受け4Dが一次ボビン4の底部側フランジ(底部一端面)4Cよりも下方に突出するようにして配設されている。
【0131】
二次ボビン受け4Dは、二次ボビン2をその鍔部2B(最下端のフランジ)を介して受け、ボビン受け4D同士の対向辺は直線で残りの輪郭が円弧状をなした形で、対向辺の中心から半径方向に向けて凹部(溝部51)が設けてあり、二次ボビン2の底部側外周に設けた凸部52と凹凸係合することで、二次ボビン2と一次ボビン4との相対的な回り止めを図っている。
【0132】
また、一次ボビン4の底部フランジ4Cには、下方に向けた一対の突起53が設けてあり、この突起53は図18に示すようにコイルケース6の内周一部に設けた一次ボビン受け6Aの位置決め用の溝6Bと係合することで、コイルケース6と一次ボビン4との相対的な回り止めが図られている。
【0133】
二次ボビン2の底部2は、図17(b)に示すように、略円形であるが左右に僅かに平面をなすカット面2Gを有し、このカット面2Gが図17(d)に示すように二次ボビン受け4Dの対向辺(直線)に適合して一次ボビン4の底部開口4′に位置するようにしてある。また、カット面2Gの位置に上記凸部52が設けてある。
【0134】
二次ボビン受け4Dに形成した凹部51には、図17(c)に示すようにその上端にテーパ51′を設けて凹部51の間口を広げることで、二次ボビン2の内挿時に凸部52が凹部51と多少位置ずれしてもテーパ51′に案内されて入り易くしている。
【0135】
なお、一次ボビン4側の底部に設けた2次ボビン受け4Dを、底部開口4′を挾んで対向配設し且つ一次ボビン底部より下方に突出させることで、一次ボビン4底部に二次ボビン受け2Dの無い側面スペース4″を確保することができる。この側面スペース4″を介して図17(d)の矢印Pに示すように絶縁樹脂8′の注入時に一次ボビン4・二次ボビン2(2次コイル3)内外周間の隙間とコイルケース6・一次ボビン4(一次コイル5)内外周間の隙間との間の樹脂流通性を良好にして、一次ボビン4底部の注入絶縁樹脂中の気泡が抜けるようにしてある。
【0136】
二次ボビン2の底部にはマグネット15及び発泡ゴム45が積層状に配置され、その上にセンターコア1が内挿されている。このマグネット15及び2次ボビンヘッド2Aに設けたマグネット16は、磁路(センターコア1,サイドコア7)中に反対方向の磁束を発生させることにより、点火コイルをコアの磁化曲線の飽和点以下で動作させることができる。
【0137】
発泡ゴム45は、点火コイル装置21の絶縁樹脂8の注入時及び使用時の温度変化に伴うセンターコア1と二次ボビン2の熱膨張差を吸収する(熱応力緩和)。
【0138】
コイルケース6の下端には、点火プラグ22(図8参照)を挿入するための筒壁6′がスプリング13を囲むようにして形成される。この筒壁6′はコイルケース6と一体成形され、筒壁6´に点火プラグ22を絶縁しつつ装着するための可撓性絶縁材で形成したブーツ例えばゴムブーツ14が取付けてある。
【0139】
図8に上記構成より成る点火コイル装置21をエンジンのプラグホール23内に装着した状態を示す。
【0140】
点火コイル装置21は、そのコイル部がエンジンのヘッドカバー(シリンダヘッドを覆うカバー)24を貫通して、ガイドチューブ23Aを通してプラグホール23B内に挿入され、ゴムブーツ14が点火プラグ22の周囲に密着して、点火プラグ22の一部がコイルケース6の一端筒壁6′に導入されスプリング13を圧接することで、点火コイル装置21がプラグホール23B内で点火プラグ22に直結する。点火コイル装置21は、回路ケース9に設けたねじ孔25(図1参照)及びエンジンカバー24に設けたねじ孔26をねじ27により締め付け、且つコイルケース6上部に設けたシールゴム28をエンジンのヘッドカバー24の点火コイル装置挿通孔周縁に設けた環状凸部29に嵌合させることで固定されている。
【0141】
シールゴム28の内面には、図1に示すように縦溝92が設けてある。この縦溝92はシールゴム28を点火コイル装置21と共に装着する時に、シールゴム28のフランジ(エンジンカバー側の凸部29に嵌まり込む部分)の中の空気を逃がしてシールゴム28の取付作業を容易にする機能と、エンジンカバー24内を大気と連通させて大気圧状態を保持することにある。後者の機能は、仮にこの溝92がないと、エンジン熱により高温状態にあるエンジンヘッドカバー24内がエンジンカバーに水がかかって急に冷却された時に負圧状態になり、その結果、シールゴム28が存在してもその負圧力によりシールゴム28周りにたまった水を引き入れてしまうので、そのような負圧にならないようにするためのもので、溝92の大気取り入れ口は、エンジンカバー上のたまり水(車が道路上の水等をはねて侵入した水がエンジンカバー上に付着したもの)が流入しないようにある程度エンジンカバーより高い位置に設定してある。
【0142】
本例では、エンジンヘッド(シリンダヘッド)100のヘッドカバー24をプラスチック製(例えば6ナイロン,66ナイロン)として、これに独立点火形の点火コイル装置を組み付けた場合であっても、コイル部がプラグホール23A及びガイドチューブ23Bに内挿されることで点火コイルの重心Wをヘッドカバー24より低位置,ここでは点火コイルガイドチューブ23A内に移行させる(重心Wはペンシルコイルのコイル部の長さを85〜100mmとした場合、そのコイル部上端から50〜70mmだけ下の位置にある)。且つ、ペンシルコイルのうち比較的重量の軽いコネクタ付き回路ケース9をプラスチック製のヘッドカバー24の外面上に固着(たとえば、ねじ止め27)し、この固着部とプラグホールのプラグ結合位置で軸方向の2点支持を図れるので、点火コイル装置全体の振動を小さくし、ひいてはプラスチックヘッドカバー24に与える点火コイル装置の振動を抑制し、プラスチックヘッドカバーの軽量(薄肉),簡素化を図りつつ独立点火型コイル装置の装着を実現することが可能になる。
【0143】
次に上記構成より成る点火コイル装置21を製造する場合の手順について図19,図20により説明する。
【0144】
図19に示すように、予め内外表面がブラスト処理(粗面処理)された二次ボビン2に二次コイル3を巻き回して二次コイルの一端3aを一次・二次コイル兼用端子18に接続する。この接続はコイル一端3aを端子18に巻き付け(からげ)半田付けすることで行われる。また、二次コイル3の他端3bも高圧側である二次コイル端子(ここでは高圧ダイオード10)に接続される。次いで、導通試験が行われる。
【0145】
二次コイル3が巻線された二次ボビン2は一次ボビン4に内挿固定され、この状態(一次,二次ボビン重ね状態)で、一次ボビン4に一次コイル5を巻き回すと共に、一次コイルの一端5aを上記の一次・二次コイル兼用端子18に接続し、一次コイルの他端5bを一次コイル端子19に接続する。これらの接続は、コイル巻き付けと半田付けにより行われる。この場合、一次・二次コイル兼用端子18と一次コイル端子19を二次ボビン2側に設けたとしても、端子18,19は二次ボビンヘッド2Aと共に1次ボビン4の一端より外に位置するため、一次コイル5の両端5a及び5bを容易に端子18,19に導いて上記からげ及び半田付け作業を行うことができる。次いで、一次コイルの導通試験が行われる。
【0146】
次いで板ばね11(図20参照)を高圧ダイオード10と接続されるように高圧ダイオード10のリード端子に結合させた後、二次ボビン2内に発泡ゴム45,マグネット15,センターコア1,マグネット16を内挿し、その後、二次ボビン2内に軟質エポキシ樹脂17を注入し硬化させる。
【0147】
ここで、二次コイル3の巻線工程と一次コイル5の巻線工程に使用する巻線機については図示省略するが、基本的には回転シャフトにボビンをセットして、ボビンを回転させてエナメル線を巻き回すものであるが、その応用例としては、種々の態様が考えられる。
【0148】
一つは、一台の巻線機に一次コイル用のエナメル線リールと二次コイル用のエナメル線リールとを備え、且つこれらのリールからそれぞれのエナメル線を引出して回転シャフトの周辺で巻線及びからげに必要な往復動作,旋回動作等を行うハンド機構とを備えて、巻線機一台で一次コイル,二次コイルの巻線を行うものが考えられるが、この場合、本実施例に用いる二次ボビン構造によれば、巻線機の回転シャフトについても共用化を図ることができる。
【0149】
図21に上記巻線機の回転機構を示す。回転機構は回転シャフト62とモータ61とに大別され、回転シャフト62はシャフト62の一部を成すジョイント(カップリング)63を介してモータ61の出力シャフト62´(図22参照)に着脱自在に結合され、また、回転シャフト62が出力シャフト62´と一体に回転するジョイント構造としてある。回転シャフト62は、その先端からシャフト途中位置までスリット65が切られて割ピン状に形成され、二次ボビン2の挿入前の状態では回転シャフト62の割ピン部の少なくとも一部62Aが二次ボビン2の内径よりも拡がり、且つ先端に二次ボビン2を案内するためのテーパ62Bが形成されている。また、回転シャフト63の一部(ここではジョイント63の一端面)には、二次ボビンヘッド2Aに設けた係合部2Dと係合するボビン位置決め兼回り止め用のピン64が2本配設され、このピン64間に二次ボビンヘッド2A側の係合部2Dが係合するようにしてある。
【0150】
上記した共用の巻線機を使用する場合には、図21(a)(b)に示すように、まず二次ボビン2を巻線機の回転シャフト62にシャフトテーパ62Bを利用して押し込むと、シャフト62の割ピン部62Aが径が小さくなる方向に弾性変形して、二次ボビン2が回転シャフト62に挿入セットされ、このとき割ピン部62Aが自身の弾性復帰力によりボビン2の内面に圧接し、且つ二次ボビンヘッド2Aに設けた係合部2Dが回転シャフトの回り止めピン64間に係合することで、二次ボビン2の両端が回転シャフト62上で強固に固定される。
【0151】
したがって、二次巻線時に二次ボビン2を回転シャフト62で片持ちさせて回転シャフト62と一体的に二次ボビン2を高速回転させても、二次ボビン2に滑りや回転ぶれが生ぜず、高精度の精密巻きが要求される二次コイル3の巻線を可能にする。
【0152】
二次コイル3の巻線及び二次コイル端のコイル端子18へのからげ(半田付けを含む)を実行した後、図21(c)に示すように回転シャフト62に二次ボビン2を取り付けたまま二次ボビンの外側に一次ボビン4をボビン同士の回り止め52,51(図16,図117に示す)を介して嵌め込み、且つ図示しないボビン支持具で一次ボビン4の一端(二次ボビンの高圧ダイオード10が位置する側)を回転自在に支えて、一次ボビン4を二次ボビン2と一緒に回転させて該一次ボビン4に一次コイル5を巻く。
【0153】
このような巻線方法のほかに、二次コイルの巻線機と一次コイルの巻線機とは別々のもので、巻線用の回転シャフト62だけを図22に示すように着脱自在にして一次巻線機,二次巻線機に共用させることも可能である。
【0154】
この場合には、まず、回転シャフト62を図21(a)同様に巻線機(ここでは二次巻線機のモータ)に取付けて、図21(b)と同様のセット形態で該回転シャフト62に二次ボビン2をそのヘッド2Aを介して挿入セットし、該回転シャフト62と一緒に二次ボビン2を回転させることで二次ボビン2に二次コイル3を巻き回す。
【0155】
その後、該二次ボビン2を取付けたまま回転シャフト62を二次巻線機から外して(図22参照)、該回転シャフト62を一次巻線機に取付けると共に二次ボビン2の外側に一次ボビン4を上記図21(c)同様にボビン同士の回り止め51,52を介して嵌め込んで、該一次ボビン4を二次ボビン2と一緒に回転させて一次ボビン4に一次コイル5を巻く。
【0156】
図19に示す一連の工程を経て製作されたコイル組立体は、図20に示すようにコイルケース6及び回路ケース9の組立体に高圧端子12,板ばね11,点火回路ユニット40と共に内挿される。ここで、前述したように一次・二次コイル兼用端子18とコネクタ端子31が、一次コイル端子19と点火回路ユニット側のリード端子32が、コネクタ端子33と点火回路ユニット側のリード端子34が、コネクタ端子35とリード端子36がそれぞれプロジェクション溶接により接続される。
【0157】
上記のコイル組立体をコイルケース6に挿入するに先立ち回路ケース9とコイルケース6との嵌合・接着がなされ、また、コイル組立体を挿入後にコイルケース6にサイドコア7の圧入及びゴムブーツ14の圧入がなされ、さらにエポキシ樹脂8の注入,硬化が行われる。
【0158】
本実施例の主な作用,効果は次の通りである。
【0159】
(1)プラグホール内に装着されて過酷な温度環境にさらされる独立形点火コイル装置であっても、そのボビン2,4にスキン層の除去処理を施したり、或いは二次ボビン2の鍔部2Bの突出量や幅に内二次コイル構造でできるだけ細径化を図りつつ絶縁用樹脂(エポキシ樹脂8)との接着力を確保できるように寸法的な配慮を施すことで、ボビン2,4と絶縁樹脂17,8との密着強度(接着強度)を今まで以上に高めて耐熱衝撃を向上させ、ひいてはクラック防止及び絶縁樹脂の剥離防止を図ることで絶縁性能の向上を図ることができる。
【0160】
(2)さらに内二次コイル構造の二次ボビンの分割巻きのスプールエリアを12〜14区画(段)にすることで、二次ボビンの鍔部の数(スプールエリア数)を、各スプールエリアの耐圧負担を軽くすることと二次ボビンの軸方向の長さの制約や分割コイル巻きの手間を配慮してそれらの条件が全て妥協できる範囲で設定することができる。
【0161】
(3)センターコア1・二次ボビン2間の狭隘な隙間に軟質エポキシ樹脂17が円滑に充填されることで、製品の品質向上を図り、エンジンの過酷な温度環境における繰り返し熱ストレスに対するセンターコア1・二次ボビン2間の耐熱衝撃を高める。
【0162】
(4)点火コイル装置のコイル部は、その二次コイル高圧側がシリンダヘッドの点火プラグ22と直結されるため、該二次コイル高圧側が最もエンジン燃焼の熱的影響を受ける。したがって、何らの配慮がない場合には、二次ボビン2のうち二次コイル高圧側の方が二次コイル低圧側よりも高温状態になって絶縁性能が低下したり、熱応力が大きくなる原因となる。本発明では、二次コイル低圧側の二次ボビン肉厚を薄く二次コイル高圧側に向けて二次ボビン肉厚を厚くしたので、その厚み増加分だけ二次コイル高圧側の絶縁性能及び耐熱応力が高まり、上記のエンジン燃焼の熱的影響に対処できる。
【0163】
(5)二次ボビン2等のボビン材にPPSを使用することで、これらのボビン材を変性PPOで成形する場合に比べて、肉厚を薄くし、しかも、軟質エポキシ樹脂17の薄層化を図ることで、その分、他の絶縁材(二次コイル・一次ボビン間のエポキシ樹脂8)の厚みを充分に増加でき、コイルモールドの絶縁性,耐熱衝撃性を高める。特に、装置本体の外径の仕様,一次コイル5及び二次コイル3の内外径等の仕様はほとんど変えようがなく、改善の余地が残されているのは、上記の二次ボビン2の肉厚やセンターコア1・二次ボビン2間の絶縁樹脂層であり、その意味で当該効果は大きい。
【0164】
(6)軟質エポキシ樹脂17のガラス転移点Tgを該樹脂17の耐熱衝撃性のほかに二次ボビン2の許容応力との関係で定めることで、内二次コイル構造のコイル部のうち絶縁性が要求される重要箇所(センターコア1・二次コイル3間の絶縁層)の耐熱衝撃性と耐応力性の双方の要求を満足させることができる。
【0165】
(7)軟質エポキシ樹脂17,二次ボビン2,一次ボビン4,エポキシ樹脂8の厚みを合理的な根拠の下に設定することで、サイズが規格化されたコイルのセンターコアの占有面積を拡張し、出力向上を図ることができる。
【0166】
(8)コイル構成部材の隙間に充填される軟質エポキシ17の加圧成形によりボイドレス化を図り、ペンシルコイルの絶縁性の信頼を高めることができる。
【0167】
(9)二次ボビン2内のセンターコア1,マグネット15,16等の部品を、軟質エポキシ樹脂17の加圧成形によって生じた凹み17′により軸方向に集中的に抑えて、センターコア等の耐振性を図れる。特に本例では、絶縁用樹脂17が軟質であっても、上記凹み17′による集中的に押し付け力がセンターコア1を介して弾性部材45に作用するので、この凹み17′により生じた集中的な軸方向押し付け力と弾性部材45の反力とでセンターコア1を強力に固定し、センターコアに生じる磁気振動やエンジンに起因する振動に対する耐振性を向上させる。また、凹み17′はエポキシ樹脂8により埋められるので、回路ケース9・センターコア1間の空隙をなくし、回路ベース37とセンターコア1間での絶縁破壊を防止できる。
【0168】
(10)独立点火型の点火コイル装置をプラスチック製のエンジンヘッドカバーに支障なく装着することを可能にしたので、エンジンの軽量化を図り得る。
【0169】
(11)なお、本実施例のペンシルコイルでは、−40℃/1h(時間)と130℃/1hの繰り返し熱ストレス試験を行った結果、300サイクル以上の熱ストレスにおいて耐久性が良好であることを確認している。
【0170】
なお、軟質エポキシ17については、これに代えてシリコーンゴム,シリコーンゲルの絶縁軟質樹脂を用いることも可能である。
【0171】
本実施例では、その他に次のような効果を奏する。
【0172】
(12)精密巻きが要求される二次コイル3については予め巻線して、この二次コイル3が巻かれた二次ボビン2の外側に一次ボビン4をボビン同士の回り止めを保証しつつ嵌め込んで、二次ボビン2と一緒に一次ボビン4を回転させて、一次ボビン4に一次コイル5を巻くが、この手法によれば、一次コイル5は二次コイル3ほどの精密巻きが要求されずしかも巻線が容易なので、支障がない。したがって、一次,二次ボビンの組み(重ね)状態でのコイル巻線作業を可能にする。
【0173】
(13)このようなボビン組みの状態での巻線作業を可能にする結果、一次,二次巻線機の共用化,或いは一次,二次巻線機の回転シャフトの共用化,或いは一次,二次巻線機の回転シャフトの型式の統一(シャフトの互換性)を図ることができる。
【0174】
(14)さらに、二次ボビン2に一次・二次コイル兼用端子18(▲1▼▲3▼)を設けることで、従来のように一次端子▲1▼と二次端子▲3▼を渡り線M〔図12(c)参照〕を介して接続する必要性がなくなり渡り線Mの接続工程を省略できる。また、上記したようにボビン組みの状態での一次巻線を保証することで、一次コイル5を一次ボビン4に仮止めすることなくダイレクトに二次ボビン2側に設けた一次・二次コイル兼用端子18及び一次コイル端子19に接続することができる。なお、図12(c)は一次コイルを内側,二次コイルを外側の従来の外二次コイル構造の組立工程を示すものである。
【0175】
(15)一次ボビン4に内挿された二次ボビン2のヘッド2Aを一次ボビン3より頭出しすることで、上記一次・二次コイル兼用端子18及び一次コイル端子19を二次ボビン2に設ける場合であっても設置スペースを充分に確保できる。
【0176】
(16)回路ケース9をコイルケース6の上端に嵌合・接着により結合した時に、回路ケース9のコネクタ端子31の一端31´及びリード端子32の一端がそれぞれ二次ボビンヘッド2A側に設けた一次・二次コイル兼用の端子18及び一次コイル端子19の各一端と回路ケース9内で重なり合うように設定されて、これらの重なり合う端子同士の溶接が容易に行われる。また、回路ユニット40は位置決め部材9Dを介して正確に位置決めされるので、コネクタ端子33・回路ユニット側のリード端子34、コネクタ端子34・回路ユニット側のリード端子36との位置決めも正確になされる。したがって、端子同士の接合時に位置ずれが生ぜず、作業性,品質向上を高める。
【0177】
(17)一次ボビン4底部に二次ボビン受け2Dの無い側面スペース4″を確保することで、絶縁樹脂8の注入時に一次ボビン4・二次ボビン2(二次コイル3)内外周間の隙間とコイルケース6・一次ボビン4(一次コイル5)内外周間の隙間との間の樹脂流通性を良好にして、一次ボビン4底部の注入絶縁樹脂中の気泡抜きを良好にし、点火コイルの絶縁性能を向上させる。
【0178】
次に本発明の第2実施例について図23から図27により説明する。
【0179】
図23は、第2実施例に係わる点火装置の部分断面図(図24のD−D′断面図)である。図中、第1実施例に用いた符号と同一のものは同一或いは共通する要素を示す。図24は図23の点火コイル装置を上面からみた図で、回路ケース9の内部を樹脂充填前の状態で表わしている。なお、図23のF−F´線断面図は図2と同様であるため図示省略する。
【0180】
本実施例においては、第1実施例と異なる主な相違点を述べる。
【0181】
本実施例における点火ノイズ防止用コンデンサ71(以下、ノイズ防止コンデンサ71と称する)は回路ケース9に内装してある。そのため、既述のコネクタ端子の金具(電源接続用コネクタ端子31,点火信号入力用のコネクタ端子33,点火回路アース用端子35)の他にノイズ防止コンデンサ71のアース専用コネクタ端子(キャパシタグラウンド用端子)72の金具を追加してコネクタハウジング9Bに収容し、このコネクタ端子72と電源接続用(+電源)コネクタ端子31間にノイズ防止コンデンサ71を接続する。
【0182】
回路ケース9における点火回路ユニット40を収容するスペースを第1実施例よりも拡張することで、この収容スペースにノイズ防止コンデンサ71を設置する。ノイズ防止コンデンサ71の設置箇所は、コネクタ端子31〜35,72の中間部をケース9樹脂中に埋設して、この埋設位置近くのケース9床面上である。
【0183】
また、電源接続用コネクタ端子31の中間部と、キャパシタグラウンド端子72の一端には端子金具の一部を垂直(ほゞ垂直を含む)に立ち上がるように折り曲げて、この折曲部(立上げ部)31c,72′をケース9床面より突出させてノイズ防止コンデンサ71の両サイドに配置させている。ノイズ防止コンデンサ71の両リード線73は、この折曲部31c,72′にそれぞれ接続されている。本例ではコンデンサ71のリード線73を端子折曲部31c,72′にからげて半田付けしている。
【0184】
ここでは、リード線73の一端(からげ部)73´を予め端子31,72への接続前に輪の形状にしておき、この輪73´を端子折曲部31c,72´に上から嵌め込める形状としてある。図24に示す9Kは、ケース9の床面(内底)9Eに設けた突起で、端子折曲部31c,72´に隣接して床面9Kから垂直に突出形成されており、端子折曲部31c,72´の一辺がこの突起9Kに食い込むようにしてモールド成形されたものであり、また、突起9Kの高さは端子折曲部31cの高さよりも低く、そのため、上記の輪の形状のリード線一端73´を端子折曲部31c,72´の上端から嵌め込んで降ろしていくと、このリード線一端73´が途中の位置で突起9Kの上端に当たりそれ以上の下降が妨げられる。このようにして、リード線73ひいてはノイズ防止用コンデンサ71の高さ方向の位置決めがなされる。
【0185】
ノイズ防止コンデンサ72を上記の如く設けることで、回路ケース9内の点火回路41の構成は図27に示すようになる。
【0186】
上記のようにノイズ防止コンデンサ71を回路ケース9内に内装することで、従来に比較して次のような作用,効果を奏する。
【0187】
(1)従来方式は、ノイズ防止コンデンサ71は点火コイル装置(ペンシルコイル)21と別にエンジンルームのハーネスにおける電源アースポイントに設置していたが、このような設置方式によれば、点火コイルのノイズが点火コイル装置・コンデンサ71間のハーネスに乗ってしまうために点火コイル装置の外部に漏れてしまう。これに対して、本発明方式の場合には、点火コイルのノイズ源からコンデンサ71までの距離が極めて短くなり、しかもノイズ防止コンデンサ71を回路ケース9内装タイプにしたので点火コイル装置21外部に点火ノイズが漏出するのを防止し、ノイズ防止性能を高める。
【0188】
(2)従来方式は、エンジンルームのハーネスにノイズ防止コンデンサ71を設けるため、コンデンサ71を裸のまま設置するとエンジンルームに侵入する水分,塩分等により腐食するおそれがあり、そのためコンデンサ71を樹脂で覆わなければならず、コスト高となる。これに対して本発明方式の場合には、回路ケース9内の絶縁樹脂43の封入がコンデンサ71の樹脂封止を兼ねるので、従来のように回路ケース9と別にコンデンサのための樹脂封止を行う必要がなく、その分、コンデンサ71のコスト低減を図ることができる。
【0189】
(3)従来方式は、エンジンルームのハーネスにノイズ防止コンデンサ71を設けるため、エンジンルーム内のハーネスの工数が増えるが、本発明の場合には、そのようなハーネス上のノイズ防止コンデンサ71設置作業を不要とし、点火コイル装置21をエンジンルーム内に搭載すれば自ずとノイズ防止コンデンサ71も設置されるので、自動車組立上のエンジンルーム内での部品搭載作業の負担軽減を図ることができる。
【0190】
なお、本実施例では、二次ボビンヘッド2Aの形状については図25,図26に示すように円筒形とし、また、巻線機の回り止めに係合する係合部2D′は、平行配置した一対の突起片により構成した。巻線機側の回り止めは上記一対の突起片の間に挾み込まれる一条のピン形態(図示省略)となる。
【0191】
また、点火コイル装置21におけるスプリング13は、大部分がコイルケース6の一端筒壁6´に入ることで、スプリング13の一端(上端)が高圧端子12と結合するが、プラグ結合側となるスプリング13の下端(高圧端子12と反対側の一端)は、少なくとも点火プラグ22との結合前には、コイルケース6の下端よりも外に出るようにしてある。そのために、コイルケース6の一端筒壁6´の長さを第1実施例(図1)のものよりもスプリング13に対して相対的に短くしている。
【0192】
このような態様によれば、点火プラグ22は、実質的にコイルケース一端筒壁6´の中でスプリング13の下端と結合(接続)されず(この点、第1実施例では点火プラグ22の略上半部がコイルケース一端筒壁6´の中に導入されてスプリング13下端と接続されている)、筒壁6´の下端開口と略同じレベルの位置或いはそれよりも下の位置(筒壁6´の外の位置)でスプリング13の下端と結合されることになる。そのため、ゴムブーツ14については、筒壁6´を短くしたことを補う意味で筒壁6´の下端よりも下側を第1実施例のタイプよりも長くして、ゴムブーツ14を点火プラグ22と筒壁6´の下方位置で実質的にシール結合できるようにしてある。
【0193】
上記構成によれば、図28に示すように点火プラグ22と点火コイル装置21との軸線間に相対的な傾きθがある場合であっても、点火プラグ22がコイルケース筒壁6´に干渉しないので、ゴムブーツ14の可撓性を利用して点火コイル装置21と点火プラグ22とをフレキシブルにシール結合することができる。
【0194】
本実施例によれば、図28に示すように点火プラグ22及びプラグホール23Bがエンジンに角度θを持って設置されている場合であっても、点火コイル装置21を点火プラグ22の軸線に一致させることなくガイドチューブ21,プラグホール23内に導いて点火プラグ22と結合させることができ、特に、自動車部品の設置スペースの制約から点火プラグ22と点火コイル装置21とを傾きθをもって結合させなければならない場合に、それを従来のペンシルコイル装着操作となんら変わることなく実現させることができる。
【0195】
なお、従来のこの種点火コイル装置(ペンシルコイル)は、点火プラグと軸線を一致させて結合させるタイプのものであり、上記のように点火プラグ22に対して点火コイル装置を角度を持たせて結合するような配慮はなされていなかった。
【0196】
なお、ゴムブーツ14は、次のような沿面放電を防止する機能を有する。すなわち、点火コイル装置21をプラグホール23Bにセットした場合、点火コイル装置21の高圧端子12がプラグホール23Bの近くに位置するが、プラグホール23Bはアースされているため、筒壁6´の一部にクラックなどが生じると高圧端子12とプラグホール23Bとの間での筒壁6´,クラックを介して沿面放電が生じるおそれがある。ゴムブーツ14を筒壁6´に取り付けた場合、筒壁6´とゴムブーツ14との接触する距離Lが高圧端子12とプラグホール23Bとの距離に実質加算されるので、この接触距離Lを長く保つことで上記沿面放電を防止できる。本実施例では、コイルケースの下端筒壁6´のうち高圧端子12の位置からコイルケース筒壁6´の最下端までの距離が短縮されてしまうため、ゴムブーツ14のうちコイルケース筒壁6´の外側と接触する部分を筒壁6´の最下端からセンターコア7近くまで長く延ばして、上記の沿面放電防止のための距離を確保している。すなわち、ゴムブーツ14は筒壁6´に嵌まり合う個所のうち筒壁6´の外面に臨む方を筒壁6´の内面に臨む方よりも長く延ばしてトータルの沿面放電防止距離を長く確保している。
【0197】
本実施例では上記したようにスプリング13の下端をコイルケース6の下端開口より下方に出すために、その手法として、上記のようにコイルケース6下部の筒壁6´を短くしているが、これに代えて、筒壁6´に収容された高圧端子12のコイルケース軸方向の長さをコイルケース6の下端開口位置近くまで延設しても(換言すれば、高圧端子12のうちスプリング13を受ける個所からコイルケース6の最下端までの距離よりもスプリング13の長さが長くなる位置まで高圧端子12を下方に延長させる)ことで、スプリング13の下端をコイルケース6の下端開口よりも外(下側)に出すことができる。このように高圧端子12の長さ調整によりスプリング13のコイルケース6下端開口から出る量(長さ)を調節することで、点火コイル装置21を点火プラグ22の相対的な傾きθに対応して適宜点火プラグと結合(可撓性ブーツ14を介しての結合)することができる。
【0198】
本実施例では、図28に示すように回路ケース9の下面に設けた環状溝90にOリング91を嵌めて、このOリング91を介してシール性を保ちつつエンジンカバー24面上に点火コイル装置21を直接設置している。
【0199】
回路ケース9には凹部95を設けて、実質の回路ケース9の厚みを減らして樹脂成形時のひけ防止を図っている。
【0200】
本実施例においても、第1実施例と同様の作用,効果を奏する。
また、上記のノイズ防止コンデンサ71の配置構成(回路ケース内装タイプ)やゴムブーツ14の形状,構造は、内側を一次コイル,外側を二次コイルの配置構造にした点火コイル装置においても適用可能である。
【0201】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、いわゆるペンシルコイルのボビンと充填樹脂(絶縁樹脂)との密着強度(接着強度)を今まで以上に高めて耐熱衝撃を向上させ、プラグホール内に装着されて過酷な温度環境にさらされる独立形点火コイル装置であっても、クラック防止及び絶縁樹脂の剥離防止を図ることで絶縁性能の向上を図ることができる。
【0202】
さらに、上記のような耐熱衝撃及び絶縁性能を高めつつ、プラグホール内に装着されるいわゆるペンシルコイルタイプ(細形円筒形状の点火コイル装置)の細径化の要求を満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る点火コイル装置の縦断面図(図3のB−B´線断面図)及びその一部を拡大したE部拡大断面図。
【図2】図2のA−A´線断面図。
【図3】図1の点火コイル装置を上面からみた図で、回路ケースの内部を樹脂充填前の状態で表している図。
【図4】上記点火コイル装置の二次ボビンのF部を拡大して二次ボビンにスキン層が存在する場合とスキン層を除去した場合の充填絶縁用樹脂の二次ボビンに対する接着状態を示す模式図。
【図5】上記実施例の二次ボビンの鍔部の突出量と幅の関係を示す説明図。
【図6】一次ボビン,二次ボビンと密着する絶縁用樹脂に剥離が生じた場合の絶縁破壊のメカニズムを示す説明図。
【図7】上記実施例に使用する点火回路図。
【図8】本実施例に係る点火コイル装置をエンジンに取り付けた状態を示す説明図。
【図9】センターコアを収納する二次ボビンの内部構造を模式的に示す断面図。
【図10】点火コイル装置の静電浮遊容量の発生メカニズムを示す説明図。
【図11】二次コイルとセンターコアの電位を示す説明図。
【図12】(a)は点火コイル装置の原理回路図、(b)は本発明に係る点火コイルの製造原理を示す説明図、(c)は従来の点火コイルの製造原理を示す説明図。
【図13】第1実施例に用いる二次ボビンの部分斜視図。
【図14】第1実施例に用いる一次ボビンと二次ボビンの組みの状態を示す部分斜視図。
【図15】第1実施例に用いる点火コイル組み及び回路ユニットの位置関係を示す説明図。
【図16】第1実施例の二次ボビンを一次ボビンに挿入する状態を示す部分斜視図。
【図17】(a)は第1実施例の一次ボビンの底面図、(b)はその二次ボビンの底面図、(c)は上記(a)のC−C´線断面図、(d)は一次ボビンと二次ボビンの組みの状態を示す底面図。
【図18】第1実施例に用いるコイルケースの断面図。
【図19】点火コイル装置の製造過程を示す説明図。
【図20】点火コイル装置の製造例を示す説明図。
【図21】巻線機の回転シャフトと一次ボビン,二次ボビンの取付例を示す説明図。
【図22】巻線機のモータから二次ボビン挿入状態の回転シャフトを取り外した状態を示す説明図。
【図23】本発明の第2実施例に係る点火コイル装置の要部断面図(図23のD−D´線断面図)。
【図24】図23の点火コイル装置を上面からみた図で、回路ケースの内部を樹脂充填前の状態で表している図。
【図25】第2実施例に用いる二次ボビンの部分斜視図。
【図26】第2実施例に用いる一次ボビンと二次ボビンの組みの状態を示す部分斜視図。
【図27】第2実施例に用いる点火回路図。
【図28】第2実施例の点火コイル装置の実装状態を示す説明図。
【図29】二次ボビンに粗面処理を施していない状態(スキン層が存在している状態)の二次ボビンの外表面の一部を約40倍に拡大した写真。
【図30】二次ボビンの表面にブラスト処理を施してスキン層を除去した(粗面化した)実施例品における二次ボビンの外表面の一部を約40倍に拡大した写真。
【図31】二次ボビンに粗面処理を施す前の二次ボビンの外表面を約100倍に拡大した写真。
【図32】表面に粗面処理を施した本実施例品の二次ボビンの外表面の一部を約100倍に拡大した写真及びその一部を模式化して描いた平面図と断面状態。
【図33】二次ボビンの表面にブラスト処理を施した場合の表面粗さの測定データを示す図。
【図34】二次ボビンの表面にブラスト処理を施した場合の表面粗さの測定データを示す図。
【符号の説明】
1…センターコア、2…二次ボビン、2´…スキン層、2A…二次ボビンヘッド、3…二次コイル、4…一次ボビン、5…一次コイル、6…コイルケース、7…センターコア、8…絶縁樹脂、9…回路ケース、9B…コネクタハウジング、17…軟質エポキシ樹脂、17′…樹脂表面の加圧凹部、18…一次・二次コイル兼用端子、19…一次コイル端子、31,33,33…コネクタ端子、32,34,36…引出し端子(リード端子)、37…金属ベース、39…点火制御駆動素子、40…点火回路ユニット。
Claims (9)
- コイルケースに内側から順にセンターコア、二次コイルを巻くための二次ボビン、前記二次コイル、前記一次コイルを巻くための一次ボビン、前記一次コイルを同心状に内装すると共に、これらの内装される構成部材間に絶縁用樹脂を充填させて成るコイル部を備え、エンジンの各点火プラグに直結して使用される独立点火形のエンジン用点火コイル装置において、
前記二次コイルは、ガラスフィラーを含有する合成樹脂製の二次ボビンに巻かれ、前記二次ボビンは、ガラスフィラーとタルク等の無機質粉が50〜70重量パーセント混合され、前記ガラスフィラーは、繊維の太さが10〜20μmで長さが50〜200μmであり、前記二次ボビンの表面は、ガラスフィラーが剥き出しになって、該二次ボビン表面に前記絶縁用樹脂が密着していることを特徴とするエンジン用点火コイル装置。 - 前記二次ボビンは、母材がポリフェニレンサルファイドである請求項1記載のエンジン用点火コイル装置。
- 前記二次ボビンの表面粗さが10μm以上である請求項1記載のエンジン用点火コイル装置。
- 前記二次ボビンの表面粗さが10μm以上で、最大で20〜30μmである請求項1記載のエンジン用点火コイル装置。
- 前記二次ボビンは鍔部を有し、この鍔部にもガラスフィラーが剥き出しになって前記一次コイルが巻かれた前記一次ボビンと前記二次コイルが巻かれた前記二次ボビンとの間に充填される絶縁用樹脂が前記鍔部にも密着している請求項1記載のエンジン用点火コイル装置。
- 前記二次コイルが巻かれた前記二次ボビンは鍔部を有し、前記二次コイル外径から前記鍔部の外径までの距離が0.25±0.15mmの範囲にあり、この二次ボビンの鍔部の突出量が1.0±0.15mmの範囲にあり、
この二次ボビンの内外表面が前記鍔部を含めてスキン層が除去されてフィラーが剥き出しになっている請求項1ないし5のいずれか1項記載のエンジン用点火コイル装置。 - 前記コイルケースには、内側から順に前記センターコア,前記二次コイルを巻くための二次ボビン,前記二次コイル,前記一次コイルを巻くための一次ボビン,前記一次コイルが配置され、前記センターコア・二次ボビン間に充填される絶縁用樹脂は少なくともガラス転移点が常温以下でガラス転移点以上ではヤング率が1×108(Pa)以下の軟質な性質を有する可撓性樹脂であり、前記二次ボビン,二次コイル,一次ボビン,一次コイル,コイルケースの各間には絶縁用樹脂としてエポキシ樹脂が充填される請求項1ないし6のいずれか1項記載のエンジン用点火コイル装置。
- コイルケースに内側から順にセンターコア、二次コイルが巻かれた二次ボビン、一次コイルが巻かれた一次ボビンが配置され、これらの構成部材間に絶縁用樹脂が充填され、前記二次ボビンがフィラー入りボビンを備えた点火コイル装置の製造方法であって、前記二次ボビンの表面スキン層を除去して前記フィラーを表面に剥き出しで突出させる工程と、前記二次ボビン表面の周りで、前記二次コイルが巻かれた前記二次ボビンと前記センターコアとの間、および前記二次コイルが巻かれた前記二次ボビンと前記一次コイルが巻かれた前記一次ボビンとの間に絶縁用樹脂を充填させる工程とを有するエンジン用点火コイル装置の製造方法。
- 前記表面スキン層を、ブラスト材質が不定形のコンペイトー状のプラスチックを用いてブラスト処理することにより、除去してなる請求項8記載のエンジン用点火コイル装置の製造方法。
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