JP3726941B2 - 電動式パワーステアリングの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動機の出力で操舵力を補助するようにした電動式パワーステアリングの制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、電動式パワーステアリングの制御装置では、システムの安定性や操舵時の滑らかさを確保するために、ソフトウェアによる操舵トルクセンサ検出値の近似微分制御を行っていた。また、このトルク微分制御部分の異常は、トータルの電流指令リミッタで管理しているのみであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の電動式パワーステアリングシステムにおいて、一般に操舵トルクセンサの剛性が高いことやメカ機構に起因して出力位相が遅れ易く、そのため、上記ソフトウェアによるトルクセンサ検出値の近似微分制御では、十分な動作の安定性や操舵時の滑らかさが得られないという問題があった。また、トルク微分制御値の異常時には、上記の電流指令リミッタの管理だけでは、運転者の意志とは関係ない自己ステアリングに至る虞れがあるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、トルクセンサ検出値のトルク微分制御部分を独立した回路とし、そのトルク微分値で位相補償を行って制御モータ電流指令値を決め、また、必要に応じて始動時や通常動作時に、その回路を自己診断するようにしたことで、制御の安定性と操舵の滑らかさを同時に実現可能な電動式パワーステアリングの制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、操舵系に連結された操舵補助トルクを発生するモータと、操舵系の操舵トルクを検出しモータの制御に使用するトルク信号を出力する操舵トルクセンサと、車速を検出し出力する車速センサと、これら操舵トルク検出値と車速センサ検出値に応じてモータを制御する制御手段とを有した電動式パワーステアリングの制御装置において、制御に使用するトルク信号を入力する比例アンプ回路及び微分アンプ回路を備え、前記制御手段は、比例アンプ回路出力から操舵アシスト力の指令値を決定し、この比例アンプ回路出力から決定された指令値に車速センサ検出値に応じて設定されたゲインを乗じた値に、さらに微分アンプ回路出力によるトルク微分指令値を加算し、これをモータ電流指令値とし、モータ電流指令値の極性が比例アンプ回路出力から決定した指令値の極性と異なるとき、モータ電流指令値をゼロとするものである。
【0006】
この構成においては、操舵トルクセンサ検出値と車速センサ検出値から操舵アシストを行うモータ電流指令値を決めるものにあって、制御に使用するトルク信号の入力回路を、比例アンプ回路と微分アンプ回路とに分離し、比例アンプ回路出力から操舵アシスト力の指令値を決定し、それによる電流指令値に車速センサ検出値に応じたゲインを乗じ、さらにその値に微分アンプ回路出力によるトルク微分指令値を加算するので、トルク微分値での位相補償が行われ、動作の安定性、操舵の滑らかさが得られる。また、モータ電流指令値の極性が比例アンプ回路出力から決定した指令値の極性と異なるとき、モータ電流指令値をゼロとすることにより、微分制御による電流指令値の極性反転を禁止することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の電動式パワーステアリングの装置装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は電動式パワーステアリング装置の全体構成を示す。ステアリングホイール1(ハンドル)は、操舵系を構成するコラムシャフト中に介在させたコラムギヤ7、さらにはラックアンドピニオン2を介してタイロッド3に連結され、このタイロッド3には車輪4が連結されている。パワーステアリング装置のコントロール装置5(ECU)は、操舵系の操舵トルク(ここではコラムギヤ7の軸のねじれ)を検出する操舵トルクセンサ11及び車速を検出する車速センサ12からの各検出信号に基づいて、操舵系に連結され操舵補助トルクを発生するモータ6の駆動を制御する。運転者がステアリングホイール1を回転操作して、上記操舵系を介して車輪4の操舵角を切り替える動作に伴い、コントロール装置5はモータ6を駆動してコラムギヤ7部分で操舵アシストトルクを与える。コントロール装置5にはバッテリ8から電源が供給される。
【0009】
図2は、コントロール装置5により制御される、操舵トルクセンサ11の検出値に対するモータ駆動電流(操舵アシストトルク)の関係を示す。同じ操舵トルクに対して、車速Vsが遅い程、モータ駆動電流を大きくして操舵アシストを大きくしている。
【0010】
図3は、コントロール装置5(ECU)の具体回路を示す。コントロール装置5は、パワーステアリング制御とフェールセーフ制御などの自己診断制御を司るCPU15(制御手段)を有している。CPU15は、下記のような各種の周辺回路を備えている。
イグニション電源16は、イグニション17のONによりバッテリ8から電源供給を受け、CPU電源18に電源を供給する。CPU電圧監視回路18はCPU電源18の電圧を監視するためのものである。ウォッチドッグタイマ(WDT)回路20は、CPU15の暴走を検出するためのもので、CPU15は、装置の始動時に、ウォッチドッグタイマ回路20のリフレッシュパルスを止めることで、CPU15のリセットが正常に作動することを自己診断する。
【0011】
また、制御回路25は、CPU15からの指令に基づいてモータ駆動回路26を制御するものであり、論理出力回路27やFET駆動回路(ゲート駆動回路)28が含まれる。モータ駆動回路26は、モータ6の駆動を制御するFETのH型ブリッジ回路から成る。モータ駆動回路26には、バッテリ8からフェールセーフパワーリレー回路29(以下、リレー回路という)を介してモータ駆動のための電源供給が制御される。このリレー回路29はCPU15からの指示によりパワーリレー駆動回路30を介して駆動される。CPUは、始動時に、リレー回路29のON/OFFの各状態において、モータ駆動回路26を強制駆動することにより、リレー回路29が溶着故障又はオープン故障を起こしていないことを自己診断する。方向異常検出回路31は、操舵トルクセンサ11のサブトルク信号とCPU15からの指令に基づいて、アシスト操舵方向が異常でないかを判定して、異常である場合に、アシストを禁止するように作用するものである。
【0012】
また、モータ電流検出回路32は、制御用/フェールセーフ用としてモータ電流を検出するものであり、フェールセーフ用として機能させる時は、CPU15は、始動時に、モータ駆動回路26を強制駆動することによりモータ電流検出回路32が正常に作動することを自己診断する。過電流検出回路33は、モータ駆動電流の過電流を検出するためのもので、CPU15は、始動時に、過電流検出回路33にCPU15より過電流レベル電圧を注入することにより、過電流検出回路33が正常に作動することを自己診断する。
【0013】
また、トルク入力アンプ回路40は、制御用/フェールセーフ用として操舵トルクセンサ11からのトルク検出値をCPU15に入力するためのもので、メイントルク入力アンプ回路41(2倍…分解能アップのため)、メイントルク入力アンプ回路42(微分)、サブトルク入力アンプ43を含む。これらトルク入力アンプ回路40は、フェールセーフ用として機能させる時は、CPU15は、始動時に、トルク入力アンプ回路40の出力のオフセット電圧を確認することにより、トルク入力アンプ回路40に異常がないことを自己診断する。なお、CPU15はA/D変換器を内蔵している。操舵トルクセンサ11の電源は、イグニションONの後、CPU15によりON/OFF制御する。
【0014】
図4は、制御に使用するトルク信号を入力するメイントルク入力アンプ回路41(以下、比例アンプ回路という)、及びメイントルク入力アンプ回路42(以下、微分アンプ回路という)の具体構成を示す。メイントルク信号は、比例アンプ回路41ではオペアンプの非反転入力端に入力され、微分アンプ回路42ではオペアンプの反転入力端に微分用コンデンサ42dを介して入力される。前者のオペアンプの反転入力端、及び後者のオペアンプの非反転入力端には、それぞれ中立電源(2.5V)が供給される。それぞれのアンプ出力端に、ノイズ除去用のローパスフイルタ回路(抵抗とコンデンサ)を介して比例トルク出力、及び微分トルク出力が得られる。メイントルク信号は、ステアリングが中立時に、2.5Vとなるように設定される。
【0015】
図5は上記比例トルク出力、微分トルク出力、車速信号等の入力に基づいてCPU15がソフト的に処理する内容を機能ブロックにて示したものである。CPU15は、比例アンプ回路41からの比例トルク出力に基づき、比例トルク平均値計算51、及びトルク係数計算52によって、操舵アシスト力の指令値Aを決定し、この指令値Aに、アシスト指令値計算53によって、車速センサ12の検出値に応じて設定されたゲインCv(車速が上がると下げるためのもの)を乗じた後、電流制御リミッタ54を介して値B(上記図2に示すモータ駆動電流に相当する指令値)を求める。また、微分アンプ回路42の微分トルク出力に基づき、微分トルク平均値計算55、微分指令値計算56及び微分制御リミッタ57によってトルク微分指令値Dを求め、この値Dを上記の値Bに加算し、それをモータ電流指令値E(電流指令、極性)とする。この極性は、H型ブリッジのどちら向きにモータ電流を流すかを決めるものである。
【0016】
このように比例トルクから求めた指令値にトルク微分指令値Dを加算することで、操舵トルクセンサ11の剛性等による制御系の遅れに起因する位相遅れを補償することができ、これにより、アシスト動作の安定化と円滑化が図れる。
【0017】
また、トルク微分指令値Dとしては、微分アンプ回路42の微分トルク出力に、微分指令値計算56において、車速センサ検出値に応じたゲインKd1(テーブルで持つ)及び比例アンプ回路41の出力に応じたゲインKd2を乗じた値としている。また、符号判定部58は、トルク微分指令値Dを加算したモータ電流指令値Eの極性が、トルク微分指令値Dを加算する前の指令値Bの極性(比例アンプ回路41からの比例トルク出力に基づき、比例トルク平均値計算51、及びトルク係数計算52によって決定された操舵アシスト力の指令値Aの極性でもある)と異なるかを調べ、異なるとき、モータ電流指令値Eをゼロとする。これにより、微分制御による電流指令値の極性反転を禁止し、保舵時の微振動やモータ異音を防止することができる。
【0018】
なお、トルク係数計算52では、比例アンプ回路41からの比例トルク出力に基づき決定された操舵アシスト力の指令値Aに、車速センサ検出値に基づくWTmin(車速に応じたトルク不感応帯)が入力される。収れん指令値計算61は、車速センサ検出値に基づく係数Kv(車速が早い時には中立位置に素早く戻るためのもの)をもとにアシスト指令値計算53の出力に負帰還をかける。戻り指令値計算62は、車速センサ検出値に基づく係数Kf(車速が遅い時には自動的に中立位置に戻す作用のためのもの)をもとにアシスト指令値計算53の出力に正帰還をかける。モータ回転速度推定63は、モータ電流指令値Eの符号と、モータ端子電圧(+)(−)、モータ電流を入力とし、モータ回転速度を推定し、上記収れん指令値計算61及び戻り指令値計算62に比例信号を与える。
【0019】
また、微分制御リミッタ57は、後述するように、サブトルク信号の変化が規定値以内のときに、微分アンプ回路41の出力が規定値を越えるとき、トルク信号の変化に応じて電流制限を行うものであり、かつ、モータ最大電流値に対するリミッタ処理も含む。これにより微分アンプ回路41のフェールセーフを図る。
【0020】
図6は、上記微分指令値計算56の機能構成を示す。この微分指令値計算56においては、微分アンプ回路42の出力が規定値以内ではトルク微分指令値Dをゼロとするために、不感帯を設けている。“2”の乗数はビット数を示す。
【0021】
図7は、上記微分指令値計算56に入力される比例アンプ回路41の出力に応じたゲインKd2の特性を示す。トルク入力が小さい間は、微分ゲインを小さくしている。トルク微分補償トルクは、操舵トルクセンサ11の剛性等による制御系の遅れに起因する自励発振や据え切り時のトルクリップルを解消するためにあり、特に、上記のようなトルク感応ゲインとすることで、切り始め/センター付近の微小操舵時(低負荷時)の微分ゲイン大による微振動を抑えることができる。
【0022】
図8は、上記CPU15のソフト処理による微振動の改善効果(操舵の滑らかさ)を示すグラフである。同図の左側は操舵トルクセンサだけの入力信号に基づいてモータ電流を決定した場合のモータトルクの変動状況を示す。同図右側は、本実施形態によりモータ電流を制御した場合のもので、微振動の改善が図られていることが分かる。
【0023】
図9は、CPU15によるトルク微分アンプの42の初期診断フローである。装置の始動時に操舵トルクセンサ11の電源がOFFの時は、トルク微分アンプ42の出力は、2.5V(実際には若干オフセットがある)に保たれているはずである(アンプの電源はON)。そこで、トルク微分アンプ入力サンプリング(Td0)から2.5Vを引いた値の絶対値をトルク微分アンプオフセット値とする(#1)。このオフセット値が、所定のしきい値(Toffset)以上であれば(#2でNO)、トルク微分アンプ42の異常と判断する(#4)。オフセット値が所定のしきい値(Toffset)未満であれば(#2でYES)、トルク微分アンプ42は正常であると判断し、入力サンプリングTd0をトルク微分中立値として記憶する(#3)。こうして、始動時に操舵トルクセンサ11の電源OFF状態で、トルク微分アンプ42の回路異常と判断された時は、電源オフを保持し、フェールセーフを図る。トルク微分アンプ42が正常である時は、その入力はそのままトルク微分アンプ中立値として記憶し、それ以降の制御やフェールセーフで使用する。トルク微分アンプ42の入力は複数回数(例えば10回)サンプリングしてその平均値を採用すればよい。
【0024】
図10は、CPU15によるトルク微分アンプ42の常時診断フローである。トルク入力の変動がほとんどない時は、トルク微分アンプ42の出力は初期診断で記憶したトルク微分アンプ中立値付近に保たれているはずである。そこで、トルク入力の変動を、サブトルク入力アンプ43からのサブトルク入力(モータの制御に使用する信号の監視に使用する)の差分から判断し、この差分が小さい(すなわちトルク変動が小さい)にもかかわらず(#11でYES)、トルク微分値(トルク微分アンプ入力(Td)からトルク微分アンプ中立値を引いた値の絶対値)がしきい値(Tthresh)より大きければ(#12,#13でYES)、トルク微分アンプ42の回路異常である判断する(#14)。トルク微分値がしきい値以下であれば(#13でNO)、回路正常であると判断する(#15)。異常判定が例えば10回以上連続すれば異常を確定すればよい。なお、サブトルク入力は、トルク信号である。この監視に使用するトルク信号の変化が規定値以内のときに、微分アンプ回路出力が規定値を越えるとき、微分アンプ回路異常と判断し電源オフとするようにしてもよい。これにより、微分アンプ回路のフェールセーフが図れる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られず種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、通常時のみならず始動時に自己診断を行うものを示したが、通常時の診断のみであっても構わない。
【0026】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、比例アンプ回路出力から操舵アシスト力の指令値を決定し、その電流指令値に車速センサ検出値に応じたゲインを乗じ、さらにその値に微分アンプ回路出力によるトルク微分指令値を加算するようにしたので、操舵トルクセンサの剛性の高い電動式パワステシステムにおいても、トルク微分値での位相補償が行われ、応答性が向上してアシスト動作の安定が図れ、かつ滑らかな操舵が得られる。
また、モータ電流指令値の極性が比例アンプ回路出力から決定した指令値の極性と異なるとき、モータ電流指令値をゼロとすることにより、微分制御による電流指令値の極性反転を禁止することができ、保舵時の微振動やモータ異音をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による電動式パワーステアリングの制御装置の全体構成図。
【図2】本装置の出力特性図。
【図3】本装置の回路ブロック図。
【図4】本装置のトルク比例アンプ回路とトルク微分アンプ回路図。
【図5】本装置のCPUによる電流指令値作成処理のソフト内容を示す図。
【図6】本装置の微分指令値計算のソフト内容を示す図。
【図7】トルク−微分ゲイン特性図。
【図8】本装置の微分制御による制御安定性の効果の説明図。
【図9】本装置のトルク微分アンプ回路の初期診断フロー図。
【図10】本装置のトルク微分アンプ回路の常時診断フロー図。
【符号の説明】
5 コントロール装置
11 操舵トルクセンサ
15 CPU(制御手段)
26 モータ駆動回路
41 メイントルク入力アンプ(比例アンプ回路)
42 メイントルク入力アンプ(微分アンプ回路)
43 サブトルク入力アンプ
52 トルク係数計算
53 アシスト指令値計算
54 電流制御リミッタ
56 微分指令値計算
57 微分制御リミッタ
58 符号判定部
Claims (1)
- 操舵系に連結された操舵補助トルクを発生するモータと、前記操舵系の操舵トルクを検出し前記モータの制御に使用するトルク信号を出力する操舵トルクセンサと、車速を検出し出力する車速センサと、これら操舵トルク検出値と車速センサ検出値に応じて前記モータを制御する制御手段とを有した電動式パワーステアリングの制御装置において、
前記制御に使用するトルク信号を入力する比例アンプ回路及び微分アンプ回路を備え、
前記制御手段は、前記比例アンプ回路出力から操舵アシスト力の指令値を決定し、この比例アンプ回路出力から決定された指令値に車速センサ検出値に応じて設定されたゲインを乗じた値に、さらに前記微分アンプ回路出力によるトルク微分指令値を加算し、これをモータ電流指令値とし、前記モータ電流指令値の極性が前記比例アンプ回路出力から決定した指令値の極性と異なるとき、モータ電流指令値をゼロとすることを特徴とする電動式パワーステアリングの制御装置。
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