JP3726297B2 - 車両用ブレーキ圧力制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、例えば車両の加速スリップ時のトラクション制御等に用いられる車両用ブレーキ圧力制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のブレーキ圧力制御装置では、例えば車両の加速スリップが発生すると、高圧発生源(油圧ポンプ)から圧送されるブレーキ圧力にて駆動輪のホイールシリンダに制動力を付与する、いわゆるトラクション制御(以下、TRC制御という)が実施される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来の制御装置では、上述の如くTRC制御を終了する際において種々の問題を招き易い。つまり、TRC制御中に運転者による制動操作が行われた場合、ブレーキ油圧の上昇により通常ブレーキ(ABS処理を含む)の開始直後に減速ロックを生じる。また、通常はTRC制御に用いた多量のブレーキ油を一旦、外部に排出するため、その際に各車輪のブレーキ圧力のバランスが崩れ、ブレーキ圧力制御に支障を来すおそれがあった。
【0004】
この発明は、上記問題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、従来より生じていた種々の不具合を解消し、常に適正なブレーキ圧力制御を実行することができる車両のブレーキ圧力制御装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、運転者による制動操作時以外において、車両の運動特性を最適化すべく、マスタシリンダと車輪のホイールシリンダとを結ぶ経路を遮断すると共に、該ホイールシリンダに高圧発生源からのブレーキ圧力を付与するブレーキ圧力制御手段と、運転者による制動操作を検出する制動操作検出手段と、前記ブレーキ圧力制御手段によって前記ホイールシリンダへブレーキ圧力が付与されているときに、前記制動操作検出手段によって運転者の制動操作が検出された場合には、当該制動操作に基づくマスタシリンダの供給圧に向けて徐々にブレーキ圧力を上昇させる制御終了手段と、運転者の制動操作に基づき、運転者の減速要求の程度を判断する第1の判断手段と、運転者の加速要求に基づき、運転者の加速要求の程度を判断する第2の判断手段とを備え、前記制御終了手段は、運転者の制動操作と加速操作が同時に生じたとき、加速要求の程度が減速要求の程度より大きい場合には、前記ブレーキ圧力の制御終了を禁止するように構成している。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記制御終了手段は、前記ホイールシリンダのブレーキ圧力を徐々に上昇させる前に、当該ホイールシリンダと他の車輪のホイールシリンダとを連通して、両ホイールシリンダのブレーキ圧力を等圧にするように構成している。
【0008】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の発明において、車体速度を検出又は推定する車体速度検出手段と、前記車体速度検出手段による車体速度に応じて、前記ブレーキ圧力制御手段により制御されるブレーキ圧力の上限値を設定する圧力上限値設定手段とを備えている。
【0009】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記圧力上限値設定手段は、車体速度が低いほど該上限値を大きく設定するように構成している。
【0010】
【作用】
請求項1に記載の発明によれば、ブレーキ圧力制御手段は、運転者による制動操作時以外において、車両の運動特性を最適化すべく、マスタシリンダと車輪のホイールシリンダとを結ぶ経路を遮断すると共に、該ホイールシリンダに高圧発生源からのブレーキ圧力を付与する。制動操作検出手段は、運転者による制動操作を検出する。制御終了手段は、ブレーキ圧力制御手段によってホイールシリンダへブレーキ圧力が付与されているときに、制動操作検出手段によって運転者の制動操作が検出された場合には、当該制動操作に基づくマスタシリンダの供給圧に向けて徐々にブレーキ圧力を上昇させる。この場合、制動操作に伴う通常ブレーキの開始直後における車輪ロックが抑制され、TRC制御終了後の安定した車両動作が確保される。
また、請求項1に記載の発明によれば、第1の判断手段は、運転者の制動操作に基づき、運転者の減速要求の程度を判断し、第2の判断手段は、運転者の加速要求に基づき、運転者の加速要求の程度を判断する。具体的には、加速要求の程度はアクセル開度や変速機のシフト位置や車体速度等から検出され、減速要求の程度はマスタシリンダの供給圧やブレーキペダルの踏み込み量等から検出される。そして、制御終了手段は、運転者の制動操作と加速操作が同時に生じたとき、加速要求の程度が減速要求の程度より大きい場合には、ブレーキ圧力の制御終了を禁止する。
つまり、例えば坂道発進時にペダルの両踏み操作(アクセルペダルとブレーキペダルの両踏み)を行う際には、加速要求と減速要求とが共に検出される。また、低μ路ではTRC制御中(加速要求時)に運転者によるブレーキ操作(減速要求)が行われることがある。これらの場合、加速要求>減速要求であればブレーキ圧力制御(TRC制御)が続行され、加速要求<減速要求であればブレーキ圧力制御(TRC制御)が終了可となる。この処理によれば、TRC制御が必要であるにもかかわらず(すなわち、車両の運転状態や運転者の意向に反して)TRC制御が終了されたりすることはない。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、制御終了手段は、ホイールシリンダのブレーキ圧力を徐々に上昇させる前に、当該ホイールシリンダと他の車輪のホイールシリンダとを連通して、両ホイールシリンダのブレーキ圧力を等圧にする。つまり、TRC制御を行う車両では、車両の駆動輪のブレーキ圧力と従動輪のブレーキ圧力とが等圧になった後に該ブレーキ圧力の増圧が開始されるため、該ブレーキ圧力のバランスが良好な状態に保持される。また、TRC制御時に使用したブレーキ油を全て排出した後に(駆動輪油圧=0とした後に)増圧を開始する通常の方法に比べて、増圧開始までの時間が短縮される。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、車体速度検出手段は、車体速度を検出又は推定し、圧力上限値設定手段は、車体速度に応じて、ブレーキ圧力制御手段により制御されるブレーキ圧力の上限値を設定する。つまり、例えば車両の加速スリップは車体速度に応じてその発生状況が変化するため、TRC制御時に必要となるブレーキ圧力も車体速度によって変化する。従って、本構成の如く車体速度に応じてブレーキ圧力の上限値を設定することで、車体速度を反映したブレーキ圧力制御が可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、圧力上限値設定手段は、車体速度が低いほど該上限値を大きく設定する。つまり、車両発進時等の低速域では急な初期スリップが発生し易く、ブレーキ圧力の上限値を高めに設定するのが好ましい。また、高速域では急なスリップが発生する可能性は小さく、ブレーキ圧力の上限値を低めに設定することにより、TRC制御の終了時にもTRC制御油の排出が迅速に行われる。
【0016】
【実施例】
(第1実施例)
以下、この発明を前輪駆動式4輪自動車のトラクション制御装置に具体化した第1実施例について、図面に従い説明する。
【0017】
図1は、本実施例におけるトラクション制御装置の概略を示す構成図である。すなわち、本実施例では左右前輪FL,FRが駆動輪とされ、左右後輪RL,RRが従動輪とされる。本装置は、運転者によるブレーキ操作時以外にも駆動輪に制動力を付与することで、ブレーキ圧力制御によるトラクション制御を実現する。なお、本実施例では、油圧ポンプとして、いわゆるマスタ自吸マスタリターンのポンプを使用する。
【0018】
図1に示すように、車両の各車輪FL〜RRには、各車輪FL〜RRに制動力を与えるためのホイールシリンダ(以下、W/Cという)6FL,6FR,6RL,6RRと、車輪の回転速度を検出する車輪速度センサ7FL,7FR,7RL,7RRとがそれぞれ設けられている。これら車輪速度センサ7FL〜7RRとしては電磁ピックアップ式或いは光電変換式等のセンサが用いられる。また、駆動輪である左右前輪(以下、単に駆動輪という)FL,FRは、変速機2、ディファレンシャルギア3を介して接続された内燃機関1からの駆動力を受けて回転する。内燃機関1には、機関回転速度,吸入空気量,冷却水温,スロットルバルブの開度(スロットル開度)等の運転状態を検出するセンサ群4が設けられている。そして、これらセンサ群4からの検出信号は、E/G制御装置10に入力され、E/G制御装置10はその検出信号に基づき内燃機関1の燃料噴射量や点火時期を制御する。
【0019】
また、各車輪FL〜RRに設けられた車輪速度センサ7FL〜7RRからの検出信号は、制動制御装置20に入力される。制動制御装置20は、車両制動時に発生した車輪ロックを抑制するアンチスキッド制御(以下、ABS制御という)、及び車両加速時に発生した車輪の加速スリップを抑制するトラクション制御(以下、TRC制御という)を実行する。この場合、制動制御装置20は、ブレーキペダル21の踏み込み操作に伴いブレーキ油を吐出するマスタシリンダ(以下、M/Cという)22から各車輪FL〜RRのW/C6FL〜6RRに至る油圧経路に設けられた油圧回路30内の各種電磁弁を制御する。また、制動制御装置20は、上記各車輪速度センサ7FL〜7RRからの検出信号以外に、ブレーキペダル21の操作時にオン状態となるブレーキスイッチ23や、油圧回路30内に設けられ駆動輪FL,FRのW/C6FL,6FRの油圧を検出する図示しない圧力センサ等からの検出信号を受けて動作する。
【0020】
なお、E/G制御装置10及び制動制御装置20は、それぞれCPU,ROM,RAM等を中心に構成されたマイクロコンピュータからなり、これら各制御装置10,20は、センサの検出データや制御データを送受信する通信装置を備えている。本実施例では、TRC制御がブレーキ圧力制御に相当し、制動制御装置20によりブレーキ圧力制御手段、制御終了手段、第1の判断手段、第2の判断手段、車体速度検出手段及び圧力上限値設定手段が構成されている。また、ブレーキスイッチ23により制動操作検出手段が構成されている。
【0021】
次いで、油圧回路30を図2を用いて説明する。図2において、M/C22の油圧ポート22a,22bには、同M/C22から圧送されるブレーキ油を、左前輪FLと右後輪RR、右前輪FRと左後輪RLに各々供給するための2系統の油圧経路31,32が接続されている。油圧回路30は、各車輪のブレーキ圧力を4輪個々に制御する、いわゆる4輪独立制御システム(4チャンネルシステム)にて構成されている。M/C22と各々のW/C6FL〜6RRとの間の油圧経路には、2位置電磁弁からなる増圧制御弁33FL,33FR,33RL,33RRと、2位置電磁弁からなる減圧制御弁34FL,34FR,34RL,34RRと、減圧制御弁34FL〜34RRから排出されたブレーキ油を一時的に蓄えるリザーバ35,36とが設けられている。上記各制御弁は、通常ブレーキ時において図示の状態にあり、ABS制御又はTRC制御時において、制動制御装置20により設定される制御モードに応じて増圧・保持・減圧のいずれかの状態に制御される。
【0022】
すなわち、増圧モードでは、増圧制御弁33FL〜33RRが連通位置(図示の位置)に、減圧制御弁34FL〜34RRが遮断位置(図示の位置)に制御され、各W/C6FL〜6RRにブレーキ油が供給される。また、保持モードでは、増圧制御弁33FL〜33RR,減圧制御弁34FL〜34RRが共に遮断位置に制御され、W/C6FL〜6RRへのブレーキ油の供給が停止される。さらに、減圧モードでは、増圧制御弁33FL〜33RRが遮断位置に、減圧制御弁34FL〜34RRが連通位置に制御され、ブレーキ油がW/C6FL〜6RRからリザーバ35,36に排出される。
【0023】
リザーバ35,36には同リザーバ35,36内のブレーキ油を吸い上げるための油圧ポンプ37,38(高圧供給源)が接続されており、同油圧ポンプ37,38はポンプモータ39により駆動される。油圧ポンプ37,38の吐出側には、内部の油圧の脈動を抑えるアキュムレータ40,41が設けられており、同アキュムレータ40,41は駆動輪側の油圧経路(増圧制御弁33FL,33FRのM/C22側)に接続されている。油圧ポンプ37,38は、後述するブレーキTRC制御実行時にポンプモータ39を介して駆動される。
【0024】
また、油圧回路30の駆動輪FL,FR側において、M/C22と増圧制御弁33FL,33FRとの間の各油圧経路には、その油圧経路を連通又は遮断する、マスタシリンダカットバルブ(以下、SM弁という)42,43が配設されている。なお、これらSM弁42,43の遮断位置とは、増圧制御弁33FL,33FR側の油圧がM/C22側の油圧に対して所定値だけ大きい上限値以上になったときに連通して、増圧制御弁33FL,33FR側の油圧をその上限値以下に制限するリリーフ弁44,45にて設定される位置である。
【0025】
また、SM弁42,43を迂回する油圧経路には、M/C22側の油圧が増圧制御弁33FL,33FR側の油圧より大きくなったときに連通して、M/C22から吐出された圧油を増圧制御弁33FL,33FR側に供給するリリーフ弁46,47が配置されている。SM弁42,43は2位置電磁弁からなり、TRC制御時において制動制御装置20からのオン(通電)信号により連通位置(図示の位置)から遮断位置に切り替えられる。
【0026】
また、油圧経路31,32には、ブレーキTRC制御実行時に、M/C22の上部に設けられたリザーバタンク50からM/C22を介して油圧ポンプ37,38に直接ブレーキ油を供給するための油供給経路31a,32aが設けられている。これら油供給経路31a,32aには、その経路を連通又は遮断するリザーバカットバルブ(以下、SR弁という)48,49が配設されている。このSR弁48,49は2位置電磁弁からなり、TRC制御時において制動制御装置20からのオン(通電)信号を受けて遮断位置(図示の位置)から連通位置に切り替えられる。
【0027】
そして、車両加速時に駆動輪FL,FRにスリップ(加速スリップ)が発生すると、制動制御装置20は加速スリップを抑制すべく後述のブレーキ圧力制御としてのTRC制御を開始する。つまり、上記油圧回路30内のSM弁42,43及びSR弁48,49をオン(通電)し、増圧制御弁33FL〜33RR及び減圧制御弁34FL〜34RRをそれぞれオン・オフ(通電・非通電)することにより、駆動輪FL,FRに制動力を与える。また、制動制御装置20は、同じく加速スリップ発生時において、E/G制御装置10に対して燃料噴射量の減量或いは点火時期の遅角指令を出力することにより、内燃機関1の出力トルクを抑制するE/G・TRC制御を実行する(本記載ではその詳細を省略し、以下TRC制御と言えばブレーキTRC制御を指すものとする)。
【0028】
次に、本実施例における特有の作用・効果を、図面を用いて説明する。ここで、図3,図4は、前記制動制御装置20により実行されるTRC制御ルーチンを示すフローチャートであり、以下、同フローチャートに従いTRC制御の具体的な内容について説明する(下記の説明では、制御主体としての制動制御装置20を省略して記述する)。
【0029】
さて、TRC制御ルーチンをスタートすると、先ず図3のステップ100では、車輪速度センサ7FL〜7RRの検出結果から各車輪の車輪速度VWFL,VWFR,VWRL,VWRRを算出する(以下、VWFL,VWFRを駆動輪速度、VWRL,VWRRを従動輪速度という)。続くステップ101では、左右の従動輪速度VWRL,VWRRの平均から推定車体速度VT0を算出する(VT0=(VWRL+VWRR)/2)。また、ステップ102では、推定車体速度VT0と駆動輪速度VWFL,VWFRとから駆動輪FL,FRの実際の加速スリップ量SFL,SFRを算出し、ステップ103では、同じく推定車体速度VT0と駆動輪速度VWFL,VWFRとから目標スリップ量StFL,StFRを算出する。
【0030】
その後、ステップ104では加速要求χA を算出し、続くステップ105では減速要求χB を算出する。ここで、加速要求χA は、例えば図5の関係を用いその時のアクセル開度に応じて算出する。また、減速要求χB は、例えば図6の関係を用いその時のM/C油圧に応じて算出する。ここで、M/C油圧は、M/C22の吐出側経路に設けたM/C圧力センサにより検出したり、或いはM/C油圧の上昇カーブを近似した演算式を用いて推定したりすればよい。また、推定車体減速度(推定車体速度VT0の1回微分値)から推定するようにしてもよい。すなわち、従動輪には油圧が作用するので減速度からM/C油圧を検出することができる。
【0031】
その後、ステップ106では、推定車体速度VT0を基にABS制御を許可するか若しくは禁止するかを判別する。具体的には、推定車体速度VT0が9km/h未満から9km/h以上に変化した際、ABS制御を許可するべく、ABS制御フラグFABSに「1」をセットする。また、推定車体速度VT0が5km/h超から5km/h以下に変化した際、ABS制御を禁止するべく、ABS制御フラグFABSを「0」にリセットする。つまり、車両の極低速域では、例えば車輪速度センサ7FL〜7RRの検出精度が著しく低下してABS制御の誤制御を招くおそれがあり、その誤制御を防止すべくABS制御を禁止する。
【0032】
その後、ステップ107では、TRC制御中であるか否かを判別し、TRC制御中でなければステップ108に進み、TRC制御中であればステップ109に進む。TRC制御中でなくステップ108に進んだ場合には、同ステップ108でTRC制御の開始条件が成立するか否かを判別し、TRC制御中でありステップ109に進んだ場合には、同ステップ109でTRC制御の終了条件が成立するか否かを判別する。
【0033】
ここで、TRC制御の開始条件の判定は、実際の加速スリップ量SFL,SFRが所定の制御開始判定値SSよりも大きいか否かの判定により行う(SFL>SS又はSFR>SSの場合、条件成立)。また、TRC制御の終了条件の判定は、加速スリップ量SFL,SFRが所定の制御終了判定値SEよりも小さいか否かの判定、及び駆動輪FL.FR側のW/C油圧PBFL,PBFRが「0」であるか否かの判定により行う(SFL<SE且つSFR<SE、さらにPBFL=0且つPBFR=0の場合、条件成立)。なお、上記諸条件が所定時間継続することをTRC制御の終了条件に含めてもよい。
【0034】
ステップ108が否定判別された場合、TRC制御が不要であるとみなし、ステップ100にリターンする。そして、以後、TRC制御の開始条件(ステップ108)が成立するまで上記処理を繰り返し実行する。
【0035】
また、ステップ108が肯定判別された場合、又はステップ109が否定判別された場合には、ステップ110に進み、前記ステップ104の加速要求χA と前記ステップ105の減速要求χB とを比較する。この場合、加速要求χA ≦減速要求χB であれば、TRC制御(ブレーキ圧力制御)の終了を許可するべく、ステップ111に進み、加速要求χA >減速要求χB であれば、TRC制御(ブレーキ圧力制御)を続行するべく、図4のステップ112に進む。
【0036】
つまり、ステップ109又はステップ110が肯定判別された場合、ステップ111に進み、TRC制御の終了処理を実行する。このステップ111では、SM弁42,43やSR弁48,49がオフ(非通電)されると共に油圧ポンプ37,38の駆動が停止される。
【0037】
また、ステップ110が否定判別された場合、続く図4のステップ112〜119で車両の加速スリップ状態に応じたTRC制御を実行する。詳しくは、ステップ112では、ABS制御フラグFABSが「0」であるか否かを判別する。このとき、FABS=0であればステップ113でその時のブレーキ油圧の上限値PRMAX を「80atm」とし、FABS=1であればステップ114でその時の油圧上限値PRMAX を「20atm」とする。つまり、車両の発進時等、極低速域(ABS制御禁止域)では、急な初期スリップが発生し易く、この初期スリップを防止すべく油圧上限値PRMAX が高めに設定される。また、それに比べて高い車速域(ABS制御許可域)では、ハイギア走行しているということもあり、急なスリップを生じる可能性は小さく油圧上限値PRMAX が低めに設定される。
【0038】
その後、ステップ115では、目標スリップ量StFL,StFRと実際の加速スリップ量SFL,SFRとの偏差ΔSFL(=StFL−SFL),ΔSFR(=StFR−SFR)を算出すると共に、該偏差ΔSFL,ΔSFRを基にPI制御によって左右駆動輪FL,FRの目標油圧PRFL,PRFRを算出する。
【0039】
その後、ステップ116では、左右駆動輪FL,FRの目標油圧PRFL,PRFRの和が上記ステップ113,114で算出した油圧上限値PRMAX よりも大きいか否かを判別する。この場合、PRFL+PRFR>PRMAX となりステップ116が肯定判別されれば、駆動輪油圧の和(PRFL+PRFR)が油圧上限値PRMAX に制限されるように、ステップ117で次の(1)式,(2)式を用いて目標油圧PRFL,PRFRを変更する。
【0040】
PRFL=PRMAX ・PRFL/(PRFL+PRFR) ・・・(1)
PRFR=PRMAX ・PRFR/(PRFL+PRFR) ・・・(2)
一方、PRFL+PRFR≦PRMAX となりステップ117が否定判別されれば、そのままステップ118に進む。ステップ118では、左右駆動輪FL,FRのW/C油圧を上記目標油圧PRFL,PRFRに制御すべく、SM弁42,43及びSR弁48,49をオン(通電)状態にすると共に、増圧制御弁33FL,33FR及び減圧制御弁34FL,34FRを増圧・保持・減圧のいずれかの状態に動作させる。その後、ステップ119では、実際のW/C油圧PBFL,PBFRを検出して、本ルーチンを終了する。ここで、本実施例では、図示しない圧力センサの検出結果を用いてW/C油圧PBFL,PBFRを求めるが、W/C油圧の上昇カーブを近似した演算式を用いて推定することもできる。
【0041】
次いで、図7のタイミングチャートを用い、上記ルーチンに伴う動作をより具体的に説明する。なお、図7では、車両発進時を一例として示す。
図7では、時間t1の車両発進時において駆動輪速度VWFL,VWFRが推定車体速度VT0に対して急上昇する。その結果、加速スリップ量が急増し、加速スリップ量が制御開始判定値SSを超える時間t2で、TRC制御が開始される(図3のステップ108がYESとなる)。
【0042】
また、推定車輪速度VT0が9km/h以下である時間t1〜t3では、ABS制御フラグFABSが「0」のまま保持され、油圧上限値PRMAX が「80atm」となっている。従って、目標油圧の和(PRFL+PRFR)は「80atm」以下に保持される。この場合、車両発進時に生じる初期スリップは上記油圧上限値PRMAX (=80atm)の範囲内で抑制される。
【0043】
そして、時間t3になると、推定車輪速度VT0が9km/hを超え、ABS制御フラグFABSが「1」にセットされると共に、油圧上限値PRMAX が「20atm」に切り替えられる。従って、時間t3以降、目標油圧の和(PRFL+PRFR)は「20atm」以下となる。この場合、加速スリップは、上記油圧上限値PRMAX (=20atm)の範囲内で抑制される。
【0044】
また一方で、時間t1〜t3の期間では、ブレーキスイッチ23が踏まれて減速要求が発生してもABS制御が禁止される。この場合、TRC制御による駆動輪油圧が高圧となるが、ABS制御への切り替えが禁止されるため、TRC制御で使用した多量のブレーキ油をポンプバックする際に生じる、M/C22の破損を招くことはない。
【0045】
また、時間t3以降にブレーキスイッチ23が踏まれて減速要求が発生する場合には、TRC制御→ABS制御の切り替えが許可される。その際、TRC制御による駆動輪油圧が比較的低圧(20atm以下)に維持されているため、TRC制御終了時のブレーキ油のポンプバック量も少なく、M/C22の損傷が防止されると共に、ブレーキ油の排出が迅速に行われる。
【0046】
このように本実施例のブレーキ圧力制御装置では、加速要求の程度と減速要求の程度とを比較し、加速要求の方が大きい場合にはTRC制御→ABS制御の切り替えを禁止し、減速要求の方が大きい場合にはTRC制御→ABS制御の切り替えを許可するようにした(図3のステップ110)。そして、上記切り替えが許可された場合(ステップ110がYESの場合)、TRC制御の終了処理を実行するようにした(図3のステップ111)。
【0047】
要するに、例えば坂道発進時にペダルの両踏み操作(アクセルペダルとブレーキペダルの両踏み)を行う際には、加速要求と減速要求とが共に検出される。この場合、それら要求の程度に応じてTRC制御やABS制御を行わないと過剰なブレーキ油が油圧回路(W/C6FL〜6RRを含む)に流れ込んでM/C22の損傷を招いたり、制動性能の低下を招いたりするおそれがある。しかし、本実施例では、加速要求>減速要求であればTRC制御を続行し、加速要求<減速要求であればTRC制御を終了して通常ブレーキ(ABS制御)に切り替えるようにした。その結果、運転者の意向に合ったブレーキ圧力制御が実現でき、さらに、制動性能の低下やM/C22の損傷等の不具合を防止することができる。
【0048】
また、本制御装置では、車体速度に応じてABS制御の許可/禁止を決定し(図3のステップ106)、ABS制御が禁止される極低速域ではTRC制御のブレーキ圧力の上限値を高めに、ABS制御が許可される極低速域以外ではTRC制御のブレーキ圧力の上限値を低めに設定した(図4のステップ113,114)。つまり、車体速度が変化すると、加速スリップの発生状況が変化し、その時のTRC制御に必要となるブレーキ圧力も変化する。従って、本構成の如く車体速度に応じてブレーキ圧力の上限値を設定することで、車体速度を反映したブレーキ圧力制御を実現することができる。
【0049】
次に、運転者によるブレーキ操作に伴うTRC制御の終了処理について、説明する。これは前述の図3のステップ111の内容に相当する。先ずは、同処理による具体的な動作について図8のタイミングチャートを用いて説明する。なお、図9は、従来より一般的に用いられるTRC制御の終了動作を示すタイミングチャートである。
【0050】
つまり、図8の時間t11以前では、TRC制御が実行されており、駆動輪FL,FR側の増圧制御弁33FL,33FR及び減圧制御弁34FL,34FRは、その時々の加速スリップ量に応じて増圧・保持・減圧のいずれかの制御モードで制御されている。従って、時間t11以前では、駆動輪FL,FRのW/C油圧(以下、駆動輪油圧という)がTRC制御による制御油圧となっている。また、ブレーキ操作がないため、従動輪RL,RRのW/C油圧(以下、従動輪油圧という)は「0」となっている。
【0051】
そして、時間t11でブレーキペダル21が踏み込み操作されると(ブレーキ操作有りをSTP=ONで示す)になると、駆動輪FL,FRの制御モードが減圧モードにされると共に、従動輪RL,RRの制御モードが減圧モードにされる。つまり、駆動輪FL,FR及び従動輪RL,RRの各制御弁33FL〜33RR,34FL〜34RRが全てオン(通電)され、この時、一方の油圧系統の駆動輪FLのW/C6FLと従動輪RRのW/C6RRが連通されると共に、他方の油圧系統の駆動輪FRのW/C6FRと従動輪RLのW/C6RLが連通される。従って、両系統において、駆動輪油圧と従動輪油圧とが瞬時に等圧となる。
【0052】
そして、時間t12で駆動輪油圧と従動輪油圧とが同等になると、それまでオン(通電)されていたSM弁42(43)がオフ(通電遮断)される。また、駆動輪FL,FR側,従動輪RL,RR側共、所定時間だけ油圧が保持され、その後、徐々に各油圧を上昇させるべく、各車輪の制御モードが設定される。この場合、駆動輪油圧(前輪油圧)が従動輪油圧(後輪油圧)よりも高くなるよう、ブレーキ油圧が制御される。
【0053】
一方、図9では、時間t21でSTP=ONになると、それ以降、駆動輪油圧を「0」にするための減圧処理が行われ、駆動輪油圧は時間t22で「0」になる。このとき、従動輪油圧は、M/C22の油圧上昇に伴い上昇する。そして、時間t22になると、駆動輪の制御モードが増圧モードに固定されて駆動輪油圧が「0」から上昇する。その後、駆動輪に所定の減速スリップが発生するとABS制御が開始される。つまり、従来一般的なTRC制御の終了処理では、TRC制御に用いた駆動輪側のブレーキ油が完全に外部に排出され、駆動輪油圧が「0」になった後、M/C22からの油圧が加えられる。
【0054】
上記図8に示す処理によれば、図9に示す従来の処理の問題点が解消されることになる。つまり、図9に示す従来の終了処理では、TRC制御を終了する際、駆動輪油圧を「0」に下げてから制動力を上昇させていたため、駆動輪油圧を下げるまでの期間(図9の時間t21〜t22)において制動性能の低下を招くという問題があった。しかし、図8に示す本実施例の終了処理では、駆動輪油圧を「0」まで下げることはないので、制動性能の低下を最小限に抑えることができる。また、図9では、増圧モード固定のまま各輪の油圧が急上昇するため、ブレーキ開始直後に車輪ロックが発生し易くなるが、図8によれば、油圧が徐々に上昇するため、車輪ロックの発生が防止される。さらに、図9では、いずれのタイミングにおいても駆動輪油圧と従動輪油圧との差が大きく、制動力の前後配分の乱れから車両の不安定挙動を招くおそれがある。しかし、図8によれば、上記油圧の差が抑えられると共に、制動力の前後配分が所望の状態に保持される。
【0055】
図10は、上記処理を実現するために実行される処理ルーチンであり、同ルーチンは、所定の割り込みタイミングにて制動制御装置20が実行する。
図10において、ステップ200では、STP=ONであるか否かを判別し、STP=ONの場合のみ後続のステップ210〜240を実行する。この場合、ステップ210では、駆動輪側及び従動輪側の減圧を行い、その後、次のステップ220が成立するまで、すなわち駆動輪油圧と従動輪油圧とが等しくなるまで上記ステップ210を継続して実行する。ここで、上述したようにSTP=ON時に駆動輪FL,FR及び従動輪RL,RRが共に減圧モードになると、駆動輪油圧と従動輪油圧とが瞬時に等圧になるため、STP=ON後の所定の微小時間経過時に、ステップ220が肯定判別される。
【0056】
その後、ステップ230では、駆動輪FL,FR側,従動輪RL,RR側のアクチュエータ(各制御弁,SM弁等)の制御デューティを算出する。具体的には、図11のマップを用い、ステップ220の成立からの経過時間(時間t2からの経過時間)に応じて算出する。ここで、前輪(駆動輪)側の油圧が後輪(従動輪)側の油圧よりも高くなるよう、制御デューティが設定される。なお、デューティ比=100%のブレーキ圧力はM/C油圧に相当する。そして、ステップ240では、デューティ比が100%になったか否かを判別し、デューティ比=100%になった時点で終了処理を終了する。このステップ230,240の処理によれば、制御デューティの上昇に合わせてブレーキ圧力が徐々に上昇する。
【0057】
このように上述のTRC制御の終了処理によれば、制動操作に伴う通常ブレーキの開始直後における車輪ロックが抑制され、さらに、各車輪のブレーキ圧力のバランスが良好な状態に保持される。その結果、常に適正なブレーキ圧力制御を実行することができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施例の他に、次の様態にて具体化することができる。
(1)上記実施例では、加速要求>減速要求の場合に通常ブレーキ(ABS制御)を行うよりもTRC制御を優先したが、減少要求が少しでもあるのであれば、TRC制御を継続しつつE/G・TRC制御により車両制動方向の制御を行うようにしてもよい。この場合、車両の制動性能を十分に確保しておくことができる。
【0059】
(2)上記実施例では、図8の動作を図3のルーチンの一部(ステップ111)として記載したが、図3のようなTRC制御の終了判定(ステップ110)のない装置にて図8の動作を具体化することもできる。この場合、単にブレーキスイッチのオン信号によりTRC制御の終了を許可する装置であっても、通常ブレーキ開始時における従来の諸問題が解決できる。
【0060】
(3)上記実施例では、駆動輪の加速スリップを抑制するTRC制御によりブレーキ圧力制御を具体化したが、これを変更することもできる。例えば、車両駆動時(制動時以外)において、駆動輪とは異なる車輪にも制動力を付与するべく構成されたブレーキ圧力制御に具体化することもできる。
【0061】
(4)上記実施例では、油圧回路をマスタ自吸マスタリターン式の油圧ポンプを用いて具体化したが、リザーバ自吸リザーバリターン式の油圧ポンプを用いて具体化することもできる。
【0062】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、制動操作に伴う通常ブレーキの開始直後における車輪ロックを抑制し、TRC制御終了後の安定した車両動作を確保することができる。その結果、従来より生じていた種々の不具合を解消し、常に適正なブレーキ圧力制御を実行することができる。また、請求項1に記載の発明によれば、加速要求の程度と減速要求の程度との比較結果に応じてブレーキ圧力制御を実行することができ、より運転者の意向に沿った制御を実現することができる。
【0063】
請求項2に記載の発明によれば、ブレーキ圧力のバランスを良好な状態に保持することができる。
【0064】
請求項3,4に記載の発明によれば、車体速度に適応したブレーキ圧力制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例におけるトラクション制御装置の構成図。
【図2】油圧回路の構成図。
【図3】TRC制御ルーチンを示すフローチャート。
【図4】図3に続き、TRC制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】加速要求を算出するための線図。
【図6】減速要求を算出するための線図。
【図7】図3,図4のルーチンに対応するタイミングチャート。
【図8】TRC制御終了時の動作を示すタイミングチャート。
【図9】一般的な装置の動作を示すタイミングチャート。
【図10】TRC制御の終了処理を示すフローチャート。
【図11】デューティ比を算出するための線図。
【符号の説明】
6FL〜6RR…ホイールシリンダ、20…ブレーキ圧力制御手段,制御終了手段,第1の判断手段,第2の判断手段,車体速度検出手段,圧力上限値設定手段としての制動制御装置、22…マスタシリンダ、23…制動操作検出手段としてのブレーキスイッチ、37,38…高圧発生源としての油圧ポンプ、FR,FL…左右前輪(駆動輪)、RR,RL…左右後輪(従動輪)。
Claims (4)
- 運転者による制動操作時以外において、車両の運動特性を最適化すべく、マスタシリンダと車輪のホイールシリンダとを結ぶ経路を遮断すると共に、該ホイールシリンダに高圧発生源からのブレーキ圧力を付与するブレーキ圧力制御手段と、 運転者による制動操作を検出する制動操作検出手段と、
前記ブレーキ圧力制御手段によって前記ホイールシリンダへブレーキ圧力が付与されているときに、前記制動操作検出手段によって運転者の制動操作が検出された場合には、当該制動操作に基づくマスタシリンダの供給圧に向けて徐々にブレーキ圧力を上昇させる制御終了手段と、
運転者の制動操作に基づき、運転者の減速要求の程度を判断する第1の判断手段と、 運転者の加速要求に基づき、運転者の加速要求の程度を判断する第2の判断手段とを備え、
前記制御終了手段は、運転者の制動操作と加速操作が同時に生じたとき、加速要求の程度が減速要求の程度より大きい場合には、前記ブレーキ圧力の制御終了を禁止する
ことを特徴とする車両用ブレーキ圧力制御装置。 - 前記制御終了手段は、
前記ホイールシリンダのブレーキ圧力を徐々に上昇させる前に、当該ホイールシリンダと他の車輪のホイールシリンダとを連通して、両ホイールシリンダのブレーキ圧力を等圧にする請求項1に記載の車両用ブレーキ圧力制御装置。 - 車体速度を検出又は推定する車体速度検出手段と、
前記車体速度検出手段による車体速度に応じて、前記ブレーキ圧力制御手段により制御されるブレーキ圧力の上限値を設定する圧力上限値設定手段とを備える請求項1又は2に記載の車両用ブレーキ圧力制御装置。 - 前記圧力上限値設定手段は、車体速度が低いほど該上限値を大きく設定する請求項3に記載の車両用ブレーキ圧力制御装置。
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