JP3719298B2 - アントラキノン系化合物及び感熱転写シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に、色素転写型感熱転写記録用のシアン色色素として優れた特性を有するアントラキノン系化合物及びこれを使用した感熱転写シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、プリンター、複写機、ファクシミリなどに於いてカラー記録技術が要望され、電子写真、インクジェット、感熱転写等による技術が検討されている。
感熱転写方式は、装置の保守や操作が容易で、装置や消耗品が安価であるため、他の方法に比べ有利である。
【0003】
感熱転写方式には、ベースフィルム上に熱溶融性インク層を形成させた転写シートを、熱ヘッドで加熱して、該インクを溶融し、被記録体上に転写記録する溶融転写方式と、ベースフィルム上に熱移行性色素を含有するインク層を形成させた転写シートを、熱ヘッドで加熱して、色素を昇華及び/又は熱拡散させ、被記録体上に転写記録する色素転写方式とがあるが、色素転写方式は熱ヘッドに与えるエネルギーを変えることにより、色素の転写量を制御することができるので、階調記録が容易となり、フルカラー記録には特に有利である。
【0004】
色素をこの記録方式に適用する場合、色素としては以下のような条件が具備される必要がある。
▲1▼ 熱記録ヘッドの作動条件で容易に昇華又は熱拡散すること。
▲2▼ 熱記録ヘッドの作動条件で熱分解しないこと。
▲3▼ 色再現上、好ましい色相を有すること。
▲4▼ 分子吸光係数が大きいこと。
▲5▼ 熱、光、湿気、薬品などに対し安定なこと。
▲6▼ 合成が容易なこと。
▲7▼ インク化適性が優れていること。
▲8▼ 安全性上問題のないこと。
【0005】
このような記録方式に用いるシアン色素として、特開昭62−124152、特開昭62−292858、特開昭63−144089等には、1−位及び4−位の一方にアルキルアミノ基を、他方にアニリノ基を有するアントラキノン系化合物を提案している。しかしながら、それらに具体的に記載されている色素化合物は、必ずしも満足しうる性能を有するものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は色素転写型感熱転写記録用の色素として上記の条件を満足し、更に性能が優れたシアン色色素化合物の提供をその目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、1−位及び4−位に置換アミノ基を有するアントラキノン系化合物について更に検討を重ねた結果、特定の置換アミノ基を有する化合物が、類似構造の公知色素に比し、熱転写記録用色素として優れた性能を示すことを見出し本発明を達成した。即ち本発明は、下記一般式(I)
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、Rはイソブチル基又は1−メチルブチル基であり、Aは低級アルキル基若しくは低級アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基である。)
で示されるアントラキノン系化合物及びそれを用いた感熱転写シートをその要旨とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
前記一般式(I)において、Aが低級アルキル基若しくは低級アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示す場合、低級とは炭素数1〜8、好ましくは1〜4である。具体的には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル等の直鎖又は分岐鎖アルキル基、あるいはこれらアルキル基に対応するアルコキシ基が挙げられる。またこれら置換基の数は1〜5、好ましくは1〜2である。
【0011】
本発明に係わる前記式(I)で示されるアントラキノン系化合物は、例えば、1−クロロアントラキノンをイソブチルアミン或は2−アミノペンタンと不活性溶媒中で反応させることにより1−イソブチルアミノアントラキノン或は1−(1′−メチルブチル)アミノアントラキノンを得、次に各々のアミノアントラキノンを不活性溶媒中、臭素と反応させることにより、1−イソブチルアミノ−4−ブロモアントラキノン或は1−(1′−メチルブチル)アミノ−4−ブロモアントラキノンとし、更に各々のブロム体をアニリン類と脱酸剤及び銅触媒の存在下、反応させることにより合成することができる。
【0012】
アミノ置換反応の反応溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどが好適である。反応温度は50〜200℃の範囲で実施できるが、80〜150℃で実施するのが有利である。アミンの使用量は理論量より過剰に使用することが反応の促進に有利であり、1−クロロアントラキノンに対し、3〜5倍モル使用することが有利である。反応終了後、通常、目的物は結晶として析出するので、それを濾過することにより得ることができるが、目的物の析出を促進させるため、反応終了後、反応液にメタノール、水などを添加することが有利である。
【0013】
ブロム化反応の溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルムなどが好適である。反応温度は−10〜30℃の範囲で実施できるが、副生物の生成を抑えるために低温で実施することが有利である。臭素の使用量はアントラキノンに対し、1〜1.05倍モルが有利である。反応終了後、通常、目的物は結晶として析出するので、それを濾過することにより得ることができるが、目的物の析出を促進させるため、反応終了後、溶媒を留去し、濃縮後、反応液にメタノールを添加することが有利である。
【0014】
ブロム化物とアニリン類との反応に於いては溶媒を使用せず、アニリン類を大過剰に使用して反応を実施するのが有利であり、反応温度は100〜200℃の範囲で実施できるが、120〜170℃で実施するのが有利である。脱酸剤としては、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが好適であり、それらの使用量は、アラトラキノン化合物に対し1〜2倍モルで良い。また、銅触媒としては硫酸銅、酢酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、金属銅などを使用することができ、それらの使用量はアントラキノン化合物に対し、0.5〜5重量%程度で良い。反応終了後、通常、目的物は結晶として析出するので、それを濾過することにより得ることができるが、目的物の析出を促進させるため、反応終了後、反応液にメタノール、塩酸などを添加することが有利である。
【0015】
目的物は必要に応じ、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの手段で精製することができる。
前記一般式(I)で示される、本発明のアントラキノン系化合物の構造と物性を下記表−1に示すが、本発明は下記化合物に限定されるものではない。
【0016】
【表1】
【0017】
前記一般式(I)で示される本発明のアントラキノン系化合物はシアン色素として優れており、特に感熱転写シートを用いる記録技術の色素として使用した場合、類似構造の公知色素に比し、優れた性能を有し、特に記録物の色濃度及び耐光性が優れている。本発明で感熱転写とは、この様な転写シートを用いる方式を意味する。
本発明のアントラキノン系色素化合物を感熱転写記録用色素として用いる場合、色素を結着剤と共に媒体中に溶解あるいは微粒子状に分散させることによりインクを調製し、該インクをベースフィルム上に塗布、乾燥し、本発明化合物を含有する色材層を有する転写シートを作製する。
【0018】
インクの調製のための結着剤としては、セルロース系、アクリル酸系、澱粉系、エポキシ系などの水溶性樹脂及びアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、アセチルセルロース、ポリエステル、AS樹脂、フェノキシ樹脂などの有機溶剤に可溶性の樹脂を挙げることができる。
【0019】
インク調製のための媒体としては水の他に、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレンなどの塩素系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの有機溶剤を挙げることができる。
【0020】
インク中には上記の成分の他に必要に応じて有機、無機の非昇華性微粒子、分散剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、粘度調整剤などを添加することができる。
転写シート作製のためのインクを塗布するベースフィルムとしては、コンデンサー紙、グラシン紙のような薄葉紙、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミドのような耐熱性の良好なプラスチックのフィルムが適しているが、それらの厚さとしては3〜50μmの範囲を挙げることができる。
【0021】
上記のベースフィルムのうち機械的強度、耐溶剤性、経済性などを考慮すると、ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に有利である。しかし、場合によってはポリエチレンテレフタレートフィルムは必ずしも耐熱性が充分でなく、サーマルヘッドの走行性が不十分であるので色材層の反対面に潤滑剤、滑性の高い耐熱性粒子などを含む耐熱性樹脂の層を設けることにより、サーマルヘッドの走行性を改良したものを用いることができる。
【0022】
インクをベースフィルムに塗布する方法としては、グラビアコーター、リバースロールコーター、ロッドコーター、エアドクタコーターなどを使用して実施することができ、インクの塗布層の厚さは乾燥後0.1〜5μmの範囲となるように塗布すれば良い。
本発明の感熱転写シートは、加熱手段としてサーマルヘッドのみならず赤外線、レーザー光なども利用することができる。また、ベースフィルムそのものに電気を流すことによって発熱する導電発熱フィルムを用いて、通電型染料転写シートとして用いることもできる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に制約されるものではない。なお、以下の実施例における色素のNo.は、表−1の化合物No.に対応する。また「部」は「重量部」を意味する。
【0024】
実施例1
No.1色素化合物の合成
1−クロロアントラキノン9.7gとイソブチルアミン14.6gをN−メチルピロリドン80ml中に仕込み、100〜105℃で8時間反応させた。室温まで冷却後、メタノール50ml及び水50mlを加え、析出した結晶を濾過、メタノール及び水で洗浄後、乾燥し、赤色結晶の1−イソブチルアミノアントラキノン9.5gを得た。
【0025】
得られた1−イソブチルアミノアントラキノン8.4gを塩化メチレン100mlに仕込み、−5℃に冷却し、臭素5gを−5〜0℃で滴下し、同温度で2時間撹拌した。その後、室温まで昇温し、メタノール50mlを添加した後、50〜55℃まで加熱し、塩化メチレンを留去した。室温まで冷却後、析出した結晶を濾過し、メタノールで洗浄後、乾燥し、赤色結晶の1−イソブチルアミノ−4−ブロモアントラキノン9.3gを得た。
【0026】
上で得た1−イソブチルアミノ−4−ブロモアントラキノン3.6g、酢酸ナトリウム1.2g及び硫酸銅0.1gをm−トルイジン25g中に仕込み、150〜155℃で2時間反応させた。室温まで冷却後、メタノール50ml、濃塩酸15mlを加え、50〜55℃で約1時間撹拌後、室温まで冷却し、析出結晶を濾過し、メタノール及び水で洗浄後、乾燥し、青色の結晶2.9gを得た。このものは、シリカゲルを担体とし、トルエンを溶媒としてカラムクロマトグラフィーで精製した結果、表−1、No.1の色素に記載した融点及びλmaxを示し、また、マススペクトルで親イオンピークが384であり、No.1の色素の分子量に一致した。
【0027】
実施例2
No.2色素化合物の合成
1−クロロアントラキノン13.0gと2−アミノペンタン23.3gをN−メチルピロリドン150ml中に仕込み、120〜125℃で5時間反応させた。室温まで冷却後、メタノール200mlを加え、析出した結晶を濾過、メタノールで洗浄後、乾燥し、赤色結晶の1−(1′−メチルブチル)アミノアントラキノン11.3gを得た。
【0028】
上で得た1−(1′−メチルブチル)アミノアントラキノン11.1gを塩化メチレン100mlに仕込み、−5℃に冷却し、臭素6.4gを−5〜0℃で滴下し、同温度で2時間撹拌した。その後、室温まで昇温し、メタノール100mlを添加した後、50〜55℃まで加熱し、塩化メチレンを留去した。室温まで冷却後、析出した結晶を濾過し、メタノールで洗浄後、乾燥し、赤色結晶の1−(1′−メチルブチル)アミノ−4−ブロモアントラキノン12.6gを得た。
【0029】
上で得た1−(1′−メチルブチル)アミノ−4−ブロモアントラキノン3.7g、酢酸ナトリウム1.6g及び硫酸銅0.05gをアニリン28g中に仕込み、150〜155℃で2時間反応した。室温まで冷却後、メタノール50ml、濃塩酸15mlを加え、50〜55℃で約1時間撹拌後、室温まで冷却し、析出結晶を濾過し、メタノール及び水で洗浄後、乾燥し、青色の結晶2.3gを得た。このものはシリカゲルを担体とし、トルエンを溶媒としてカラムクロマトグラフィーで精製した結果、No.2の色素に記載した融点及びλmaxを示し、マススペクトルで親イオンピークが384であり、No.2の色素の分子量に一致した。
【0030】
実施例3〜9
No.3〜No.9色素化合物の合成
実施例1で合成した1−イソブチルアミノ−4−ブロモアントラキノンを用い、実施例1と同様の方法で種々のアニリン類と反応させ、No.3〜No.9の色素化合物を合成した。各々の物性値は表−1に示す通りであり、各々のマススペクトルの親イオンピークは各々の分子量に一致した。
【0031】
実施例10
No.1色素化合物を使用して以下の転写記録試験を実施した。
a)インクの調製
No.1色素 6部
AS樹脂 10部
(製品名;デンカAS−S;電気化学工業株式会社製品)
メチルエチルケトン 24部
トルエン 60部
合 計 100部
上記組成の混合物をペイントコンディショナーで10分間処理し、インクの調製を行った。
【0032】
b)転写シートの作製
a)のインクをワイヤバーを用いて背面が耐熱滑性処理のされたポリエチレンテレフタレートフィルム(6μm厚)上に塗布、乾燥し(乾燥膜厚約1μm)転写シートを得た。なお、ポリエチレンテレフタレートフィルムの耐熱滑性処理は、ポリエチレンテレフタレートフィルムにアクリル樹脂(商品名:BR−80;三菱レーヨン株式会社製品)10部、アミノ変性シリコンオイル(商品名:KF393;信越化学工業株式会社製品)1部、トルエン89部からなる液を塗布、乾燥(乾燥膜厚約1μm)することにより行った。
【0033】
c)受像体の作製
ポリビニルフェニルアセタール樹脂70部、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合樹脂(商品名:エスレックA;積水化学工業株式会社製品)30部、シリコーンワニス(商品名:TSR−160、固形分濃度60%;東芝シリコーン株式会社製品)30部、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物(商品名:マイテックNY−710A、固形分濃度75%;三菱化学株式会社製品)15部、アミノ変性シリコーン(製品名:KF393;信越化学工業株式会社製品)2.5部、メチルエチルケトン600部、トルエン600部からなる液を合成紙(製品名:ユポFPG150;王子油化株式会社製品)にワイヤバーで塗布、乾燥し(乾燥膜厚約5μm)、更にオーブン中で80℃で30分間処理することにより作製した。
【0034】
d)転写記録
上記転写シートのインク塗布面を受像体と重ね、サーマルヘッドを用いて下記条件で記録し、シアン色の記録物を得た。記録物の色濃度をマクベス社製デンシトメーターTR−927を用いて測定した。結果を表−2に示した。
記録条件
主走査、副走査の記録密度 :6ドット/mm
記録電力 :0.2W/ドット
通電時間 :13ミリ秒
【0035】
f)耐光性試験
d)で得られた記録物の耐光性試験をキセノンランプフェードメーター(スガ試験機株式会社製造)を用いて実施し(ブラックパネル温度;63±2℃)、80時間照射後の記録物の変退色の程度{ΔE(L*a*b*)}を測定した。その結果を表−2に示した。
【0036】
実施例11〜18
実施例10で使用した色素化合物の代りにNo.2〜No.9の色素化合物を用いて、インクの調製、転写シートの作製、転写記録、耐光性試験を実施例10と同様に実施した。その結果を表−2に示した。
比較例1〜5
実施例10で用いた色素化合物の代りに特開昭62−124152、特開昭62−292858、特開昭63−15790及び特開昭63−144089の各実施例に記載の色素化合物を用いて、インクの調製、転写シートの作製、転写記録、耐光性試験を実施例10と同様に実施した。その結果を表−2に示した。
【0037】
【表2】
【0038】
表−2から明らかな様に、本発明に係るアントラキノン系色素は、類似構造の比較例色素に比し、記録物の色濃度及び耐光性が優れている。
なお、比較例1〜5で使用した色素の構造を以下に示した。
【0039】
【化3】
【0040】
【発明の効果】
本発明のアントラキノン系色素化合物は、シアン色系の新規色素化合物であり、色素転写型感熱転写記録に用いた場合、溶剤に対する溶解性が良好なので、インクの調製が容易であり、また、熱応答性が良好なので、低エネルギーで高い濃度の鮮明なシアン色の記録物を得ることができ、更に記録物の耐光性が良好である。
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