JP3696422B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は電動機の動力をステアリング系に直接作用させ、ドライバの操舵力の軽減を図る電動パワーステアリング装置に係り、特に操舵トルクに対応した補正によって電動機を駆動する信号の方向が操舵トルクの方向と逆であっても、電動機を駆動する電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電動パワーステアリング装置は、特開平6−305429号公報に開示されているように、ハンドルに加えられる操舵トルクに対応した電気信号(操舵トルク信号)を電動機の駆動電流(電動機電流)の目標値に変換し、さらに、この目標値をPWM(パルス幅変調)信号に変換して電動機駆動回路(例えば、スイッチング素子で構成されたブリッジ回路)を駆動制御し、電動機駆動回路を介して電動機がPWM駆動され、目標値に応じた駆動電流が電動機に流れる。
【0003】
電動機をPWM駆動することにより、電動機の動力を補助操舵力としてステアリング系に作用させ、ドライバの手動操舵力に補助操舵力をアシストさせてドライバの操舵力の軽減が図られている。
【0004】
また、特開平6−305429号公報に開示された電動パワーステアリング装置は、PWM信号と電動機の駆動電流、または電動機の駆動電流から操舵トルク信号を逆算し、逆算した操舵トルク信号と検出した操舵トルクに対応した操舵トルク信号とを比較し、逆算した操舵トルク信号が操舵トルク信号と一致しない場合には異常と判定し、電動機駆動回路の動作を停止させる。
【0005】
このように、特開平6−305429号公報に開示された電動パワーステアリング装置は、電動機を駆動するメインの制御系を構成するCPUの異常動作により、操舵トルクに対応した電動機の駆動電流値が異常と判定された時には、電動機の駆動を停止させることができる。
【0006】
また、従来の電動パワーステアリング装置において、方向禁止回路を備え、操舵トルクが加えられている方向(例えば、右操舵)に対応して操向輪(タイヤ)を右方向に転舵するよう電動機を回転(例えば、正回転)させるための電動機電流は許容するが、操舵トルクが加えられている方向(例えば、右操舵)に対して電動機を逆回転させる電動機電流は、メインの制御系(例えば、CPU)の動作が異常と判断して禁止させるものも知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特開平6−305429号公報に開示された電動パワーステアリング装置は、検出した操舵トルク信号と、この操舵トルク信号に対応して発生するPWM信号と電動機の駆動電流(電動機電流)、または電動機の駆動電流から逆算した操舵トルク信号とを比較し、両者が一致しない場合には電動機の駆動を禁止する構成のため、電動機を駆動するメインの制御系に操舵トルクに対応した駆動電流(電動機電流)の目標値を補正、例えば操舵を収斂させるダンピング制御等により目標値を減少補正する場合には、電動機に流れる電流は所望の電動機電流値よりも減少し、この電動機電流値から逆算した操舵トルク信号と検出した操舵トルク信号が一致しなくなり、ダンピング制御という正常な制御であるにも拘わらず電動機の駆動を禁止してしまう課題がある。
【0008】
また、方向禁止回路を備えた従来の電動パワーステアリング装置は、操舵トルクの方向と反対方向に電動機を回転させる電動機電流を禁止するため、例えば操舵を収斂させるダンピング制御等による制御量が大きく、電動機から操舵トルクの方向と反対方向に補助操舵力をステアリング系に作用させて操舵を安定させるような場合には、方向禁止回路が動作して電動機の駆動を禁止してしまい、所望の操舵特性が実現できない課題がある。
【0009】
このように、操舵状態や路面の状態によっては、操舵トルクの方向と逆方向に操舵補助力を作用させ、ドライバの操舵力を重くしても車両挙動を安定にするための操舵特性の実現が要望されている。
【0010】
この発明はこのような課題を解決するためなされたもので、その目的は操舵方向と電動機の駆動方向が異なっても、メイン制御系の動作が正常な場合には電動機の駆動を許容し、操舵特性の自由度を広げることができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するためステアリング系に補助操舵力を付加する電動機と、ステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、電動機に流れる電動機電流を検出して電動機電流信号を出力する電動機電流検出手段と、少なくとも操舵トルクセンサからの操舵トルク信号に基づいて目標電流信号を設定する目標電流信号設定手段、操舵トルク信号に基づいて目標電流信号を補正する補正信号を出力する目標電流信号補正手段、目標電流信号を補正信号で補正した基本目標電流信号と電動機電流信号の偏差信号に基づいて電動機制御信号を出力する駆動制御手段を備えた電動機制御手段、少なくとも操舵トルク信号に基づいて参照信号を設定する参照信号設定手段、基本目標電流信号と参照信号を比較して電動機制御信号の電動機駆動手段への供給を許可または禁止する出力禁止手段を有する制御手段と、電動機制御信号により電動機を駆動する電動機駆動手段と、を備えた電動パワーステアリング装置において、出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の方向が同じ時の基準値よりも方向が異なる時の基準値を小さく設定し、基本目標電流信号と参照信号との差が基準値を超える時に電動機制御信号の出力を禁止することを特徴とする。
【0012】
この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号との差が基準値を超える時に電動機制御信号の出力を禁止するとともに、基本目標電流信号と参照信号の方向が同じ時の基準値よりも方向が異なる時の基準値を小さく設定したので、マイクロプロセッサで構成する電動機制御手段に異常が発生して基本目標電流信号が異常値を発生した場合には、電動機駆動手段(ブリッジ回路)の動作を禁止することができる。
【0013】
この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の方向が異なる場合には、正常な制御で基本目標電流信号の方向が反対になる基準値を設定し、操舵トルクと反対方向の基本目標電流信号を許容することができる。
【0014】
また、この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の差の絶対値を演算する偏差絶対値演算手段、基本目標電流信号と参照信号の符号の一致/不一致を判定する符号一致判定手段、この符号一致判定手段からの判定信号に基づいて2つの基準値の一方を選択する切替手段、偏差絶対値演算手段からの絶対値と切替手段で選択した基準値とを比較して禁止信号を出力する比較手段を有する出力禁止判定手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の差の絶対値を演算する偏差絶対値演算手段、基本目標電流信号と参照信号の符号の一致/不一致を判定する符号一致判定手段、この符号一致判定手段からの判定信号に基づいて2つの基準値の一方を選択する切替手段、偏差絶対値演算手段からの絶対値と切替手段で選択した基準値とを比較して禁止信号を出力する比較手段を有する出力禁止判定手段を備えたので、基本目標電流信号と参照信号の大きさ、および基本目標電流信号と参照信号の方向によって電動機駆動手段(ブリッジ回路)の動作を許容または禁止することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、本発明はメイン制御系を構成する電動機制御手段の基本目標電流信号と電動機制御手段の動作を監視する参照信号とに基づいて電動機制御手段の異常を検出して電動機の駆動禁止するとともに、基本目標電流信号の符号が参照信号の符号(操舵トルクの方向)と異なっていても、正常な制御の場合には操舵トルクと反対方向の電動機の駆動を許容して操舵特性の自由度を広げるものである。
【0017】
図1はこの発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図である。
図1において、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2、ステアリング軸3、ハイポイドギア4、ピニオン5aおよびラック軸5bなどからなるラック&ピニオン機構5、タイロッド6、操向車輪としての前輪7、補助トルク(補助操舵力)をステアリング系に作用する電動機8、制御手段13、電動機駆動手段14、電動機電流検出手段15を備える。
【0018】
また、電動パワーステアリング装置1は、車速を検出し、車速に対応した電気信号に変換された車速信号Vを出力する車速センサ11、ステアリングホイール2に作用する操舵トルクを検出し、操舵トルクに対応した電気信号に変換された操舵トルク信号Tを出力する操舵トルクセンサ12を備える。
【0019】
操舵トルク信号Tは、大きさと方向を有し、制御手段13に供給される。
なお、操舵トルク信号Tの方向は、時計回り方向(右操舵)を正(プラス)とし、反時計回り方向(左操舵)を負(マイナス)とする。
【0020】
ステアリングホイール2を操舵すると、ステアリング軸3に加えられる手動操舵トルクは、ラック&ピニオン機構5を介してピニオン5aの回転力がラック軸5bの軸方向の直線運動に変換され、タイロッド6を介して前輪7の操向を変化させる。
【0021】
手動の操舵トルクをアシストするため、操舵トルク信号Tに対応して電動機8が駆動されると、電動機トルクがハイポイドギア4を介して倍力された補助トルク(アシストトルク)に変換されてステアリング軸3に作用し、ドライバの操舵力を軽減する。
【0022】
制御手段13は、マイクロプロセッサを基本に各種演算手段、処理手段、判定手段、メモリ等で構成し、少なくとも操舵トルク信号Tに対応した目標電流信号を発生する目標電流信号発生手段、補正信号で目標電流信号を補正した基本目標電流信号と電動機電流検出手段15が検出した電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMFとの差(負帰還)に応じた電動機制御信号VO(例えば、オン信号、オフ信号およびPWM信号の混成信号)を発生する駆動制御手段を有する電動機制御手段を備え、基本目標電流信号と電動機電流信号IMFの差が速やかに0となるように電動機駆動手段14の駆動を制御する。
【0023】
また、制御手段13は、少なくとも操舵トルクに対応した参照信号を発生する参照信号設定手段を備える。
参照信号は、目標電流信号発生手段が発生する目標電流信号と同じに設定する。
【0024】
制御手段13は、電動機制御手段からの基本目標電流信号と参照信号設定手段からの参照信号の大きさおよび方向(極性)に基づいて基本目標電流信号の許容範囲を決定し、基本目標電流信号が許容範囲を超える場合には、電動機駆動手段14へ供給する電動機制御信号VOを禁止する出力禁止手段を備える。
【0025】
電動機駆動手段14は、例えば4個のパワーFET(電界効果トランジスタ)、絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ(IGBT)等のスイッチング素子からなるブリッジ回路で構成し、電動機制御信号VOに基づいてPWM(パルス幅変調)の電動機電圧VMを出力し、電動機8を正回転または逆回転にPWM駆動する。
【0026】
電動機電流検出手段15は、電動機8と直列に接続された抵抗器またはホール素子等で電動機電流IMを電圧に変換して検出し、電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMFを制御手段13にフィードバック(負帰還)する。
【0027】
図2は本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施の形態基本要部ブロック構成図である。
図2において、電動パワーステアリング装置1の制御手段13は、マイクロプロセッサで構成し、メインの制御系を形成する目標電流信号設定手段21、偏差演算手段22 、駆動制御手段23、目標電流信号補正手段24、加算手段25を備えた電動機制御手段を備える。
【0028】
また、制御手段13は、マイクロプロセッサや個別(デスクリート)部品のディジタル回路で構成した参照信号設定手段16、出力禁止手段17を備える。
【0029】
目標電流信号設定手段21は、ROM等のメモリで構成し、予め図8に示す車速信号Vをパラメータにした操舵トルク信号T−目標電流信号IMS特性データを記憶しておき、車速センサ11および操舵トルクセンサ12からそれぞれ車速信号V、操舵トルク信号Tが供給されると、対応する目標電流信号IMSデータを読み出し、目標電流信号IMSを加算手段25に供給する。
なお、図8に示す目標電流信号IMSは車速信号Vが大きくなるに伴い(Vl→Vm→Vh)、同じ操舵トルク信号Tに対して目標電流信号IMSを小さく設定して高車速領域における車両の挙動が安定するように設定する。
【0030】
目標電流補正手段24は、微分演算手段、ROM等のメモリで構成し、操舵トルクセンサ12から供給される操舵トルク信号Tに微分演算を施し、トルク微分信号DT(=dT/dt)を発生する。
【0031】
また、目標電流補正手段24は、ROM等のメモリに予め図9に示すトルク微分信号DT−補正信号IT特性データを記憶しておき、トルク微分信号DTが供給されると対応する補正信号ITデータを読み出し、補正信号ITを加算手段25に供給する。
なお、図9に示す補正信号ITは、操舵トルク信号Tの変化量(トルク微分信号DT)に応じて直線的に変化する特性を有する。
そして、トルク微分信号DTの符号は、右操舵トルクが増加する時と左操舵トルクが減少する時には正(+)であり、右操舵トルクが減少する時と左操舵トルクが増加する時には負(−)である。
【0032】
加算手段25は、ソフト制御の加算機能を備え、目標電流信号設定手段21から供給される目標電流信号IMSと目標電流補正手段24から供給される補正信号ITとの和(=IMS+IT)を演算し、補正信号ITで目標電流信号IMSを補正した基本目標電流信号IH(=IMS+IT)を偏差演算手段22に供給する。
【0033】
基本目標電流信号IH(=IMS+IT)は、目標電流信号IMSと補正信号ITの和であり、例えば高車速領域で右操舵トルクが急激に減少する操舵を行ったような時、図8に示す目標電流信号IMS(正の値)の絶対値よりも図9に示す補正信号IT(負の値)の絶対値が大きくなるように設定でき、目標電流信号IMSと補正信号ITの和はマイナス(−)となって高車速領域の操舵力を反対方向にアシストすることができ、電動機制御の適正化を図ることができる。
【0034】
偏差演算手段22は、ソフト制御の減算機能を備え、加算手段25から供給される基本目標電流信号IH(=IMS+IT)と電動機電流検出手段15から供給される電動機電流信号IMFとの偏差ΔI(=IH−IMF)を演算し、偏差信号ΔIを駆動制御手段23に供給する。
なお、基本目標電流信号IHと電動機電流信号IMFとの差を取ることにより、制御手段13は負帰還(ネガティブ・フィードバック)ループを形成する。
【0035】
駆動制御手段23は、PIDコントローラ、電動機制御信号発生手段等で構成し、偏差演算手段22から供給される偏差信号ΔIにそれぞれP(比例)制御、I(積分)制御およびD(微分)制御を施し、PID制御を施した信号に基づいて電動機制御信号VDを発生し、電動機制御信号VDを出力禁止手段17の信号停止手段19に提供する。
【0036】
参照信号設定手段16は、ROM等のメモリで構成し、 目標電流信号設定手段21と同様に、予め図8に示す車速信号Vをパラメータにした操舵トルク信号T−目標電流信号IMS特性データの目標電流信号IMSと同一の特性を有する参照信号IRSに置き換えて記憶しておき、車速センサ11および操舵トルクセンサ12からそれぞれ車速信号V、操舵トルク信号Tが供給されると、対応する参照信号IRSを出力禁止手段17の出力禁止判定手段18に供給する。
なお、参照信号IRSは、図8とは異なる操舵トルク信号T−目標電流信号IMS特性データから求めるようにしてもよく、また、操舵トルク信号Tと同じ符号(方向)で、操舵トルク信号Tの絶対値に拘わらず一定の値に設定することも可能である。
【0037】
出力禁止手段17は、出力禁止判定手段18、信号停止手段19を備える。
出力禁止判定手段18は、減算機能、メモリ、符号判定機能、切替機能等を備え、電動機制御手段の偏差演算手段25から供給される基本目標電流信号IHと参照信号設定手段16から供給される参照信号IRSとの差(=IH−IRS)と、基本目標電流信号IHの符号(極性)Xと参照信号IRSの符号(極性)Yの一致または不一致に基づいて禁止信号SKを信号停止手段19に供給する。
【0038】
図3はこの発明に係る出力禁止判定手段の実施の形態要部ブロック構成図である。
図3において、出力禁止判定手段18は、偏差絶対値演算手段31、基準値記憶手段32、符号一致判定手段33、切替手段34、比較手段35を備える。
【0039】
偏差絶対値演算手段31は、減算機能、絶対値演算機能を備え、基本目標電流信号IHと参照信号IRSとの差(=IH−IRS)を演算した後、絶対値演算処理を施し、偏差絶対値ΔIZ(=|IH−IRS|)を比較手段35に供給する。
【0040】
基準値記憶手段32は、ROM等のメモリで構成し、予め基準値データK1および基準値データK2を記憶しておき、基準値データK1および基準値データK2を読み出して切替手段34に供給する。
【0041】
基準値K1は絶対値とし、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが一致しており、基本目標電流信号IHと参照信号IRSとの偏差絶対値ΔIZ(=|IH−IRS|)が正常な制御ではあり得ない値の下限値に設定する。
また、基準値K2は絶対値とし、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが不一致であり、基本目標電流信号IHと参照信号IRSとの偏差絶対値ΔIZ(=|IH−IRS|)が正常値である上限値に設定する。
なお、基準値K1(絶対値)は基準値K2(絶対値)よりも大きな値(|基準値K1|>|基準値K2|)に設定する。
【0042】
符号一致判定手段33は、符号一致機能を備え、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが一致する場合には、例えばHレベルの判定信号FOを切替手段34に供給する。
一方、符号一致判定手段33は、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが不一致の場合には、Lレベルの判定信号FOを切替手段34に供給する。
【0043】
切替手段34は、切替え機能を有し、符号一致判定手段33からHレベルの判定信号FOが提供された時には基準値記憶手段32から供給される基準値K1を選択し、基準値K(=K1)として比較手段35に供給する。
一方、切替手段34は、符号一致判定手段33からLレベルの判定信号FOが提供された時には基準値記憶手段32から供給される基準値K2を選択し、基準値K(=K2)として比較手段35に供給する。
【0044】
比較手段35は、比較機能、バッファ出力およびインバータ出力機能を備え、偏差絶対値演算手段31から供給される偏差絶対値ΔIZ(=|IH−IRS|)と基準値K(K1またはK2)とを比較し、偏差絶対値ΔIZが基準値K(K1またはK2)を超える場合には、Lレベルの禁止信号SK(SK1またはSK2)を信号停止手段19に供給する。
【0045】
また、比較手段35は、偏差絶対値ΔIZが基準値K(K1またはK2)以下の場合には、Hレベルの禁止信号SK(SK1またはSK2)を信号停止手段19に供給する。
【0046】
一例として、Lレベルの禁止信号SK1は電動機8の正回転を禁止する信号であり、Lレベルの禁止信号SK2は電動機8の逆回転を禁止する信号である。
なお、正常な制御状態では、禁止信号SK(SK1,SK2)を常にHレベルに保持する。
【0047】
例えば、偏差絶対値ΔIZが基準値K1を超えた(ΔIZ>K1)状態で、基本目標電流信号IHの符号X(+符号)と参照信号IRSの符号Y(+符号)が一致する時には、それぞれ禁止信号SK1をLレベル、禁止信号SK2をHレベルに設定し、電動機8の正回転を禁止する。
【0048】
一方、偏差絶対値ΔIZが基準値K1を超えた(ΔIZ>K1)状態で、基本目標電流信号IHの符号X(−符号)と参照信号IRSの符号Y(−符号)が一致する時には、それぞれ禁止信号SK1をHレベル、禁止信号SK2をLレベルに設定し、電動機8の逆回転を禁止する。
【0049】
また、偏差絶対値ΔIZが基準値K2を超えた(ΔIZ>K2)状態で、基本目標電流信号IHの符号X(−符号)と参照信号IRSの符号Y(+符号)が不一致の時には、それぞれ禁止信号SK1をHレベル、禁止信号SK2をLレベルに設定し、電動機8の逆回転を禁止する。
【0050】
一方、偏差絶対値ΔIZが基準値K2を超えた(ΔIZ>K2)状態で、基本目標電流信号IHの符号X(+符号)と参照信号IRSの符号Y(−符号)が不一致の時には、それぞれ禁止信号SK1をLレベル、禁止信号SK2をHレベルに設定し、電動機8の正回転を禁止する。
【0051】
図2に戻り、信号停止手段19は、論理積演算機能を有し、出力禁止判定手段18から供給される禁止信号SKに基づいて駆動制御手段23から供給される電動機制御信号VDを電動機制御信号VOとして電動機駆動手段14に供給したり、禁止したりする。
【0052】
図4はこの発明に係る信号停止手段の実施の形態要部ブロック構成図である。図4において、信号停止手段19は、2入力の論理積手段19A〜19Dで構成し、論理積手段19A〜19Dのそれぞれの一方の入力には駆動制御手段23から供給される電動機制御信号VDを形成する4つの電動機制御信号VD1〜VD4を入力する。
【0053】
図5は駆動制御手段の要部ブロック構成図を示す。
図5において、駆動制御手段23は、PIDコントローラ26、電動機制御信号発生手段27を備える。
PIDコントローラ26は、偏差演算手段22から供給される偏差信号ΔIにP(比例)制御、I(積分)制御およびD(微分)制御を施し、PID制御を施した信号ICを電動機制御信号発生手段27に供給する。
【0054】
電動機制御信号発生手段27は、PWM発生手段、オン/オフ信号発生手段を備え、PIDコントローラ26から供給される信号ICに基づき、偏差信号ΔIがプラス(+)の場合にはPWM信号VPWMのVD1、オン信号VONのVD2、オフ信号VOFのVD3、オフ信号VOFのVD4を電動機制御信号VDとして信号停止手段19の論理積手段19A〜19Dのそれぞれの一方の入力に供給する。
【0055】
また、電動機制御信号発生手段27は、偏差信号ΔIがマイナス(−)の場合にはオフ信号VOFのVD1、オフ信号VOFのVD2、PWM信号VPWMのVD3、オン信号VONのVD4を信号停止手段19の論理積手段19A〜19Dのそれぞれの一方の入力に供給する。
【0056】
図4に戻り、論理積19Aおよび19Bのそれぞれの他方の入力には、出力禁止判定手段18から供給される禁止信号SK1を入力し、論理積19Cおよび19BDそれぞれの他方の入力には、出力禁止判定手段18から供給される禁止信号SK2を入力する。
【0057】
図3に示す偏差絶対値演算手段31から供給される偏差絶対値ΔIZが基準値K(K1またはK2)以下(ΔIZ≦K1,K2)の場合には禁止信号SK1,SK2がいずれもHレベルであり、信号停止手段19は、電動機制御信号発生手段27から供給される電動機制御信号VD(VD1,VD2,VD3,VD4)をそのまま電動機制御信号VO(VO1,VO4,VO2,V03)として出力する。
【0058】
また、偏差絶対値演算手段31から供給される偏差絶対値ΔIZが基準値K(K1またはK2)を越える(ΔIZ>K1またはΔIZ>K2)場合には、基準値Kを越える側の基本目標電流信号IHの符号に対応したLレベルの禁止信号SK1またはSK2が入力された論理積手段19A〜19Dの電動機制御信号VD(VD1,VD2,VD3,VD4)の出力を禁止する。
【0059】
例えば、基本目標電流信号IHの符号がプラス(+)であり、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが一致する場合において、偏差絶対値ΔIZが基準値K1を超える(ΔIZ>K1)時には、論理積手段19Aおよび19Bに供給される禁止信号SK1をLレベルに設定し、電動機制御信号VD1およびVD2の出力を禁止する。
この状態では、論理積手段19Cおよび19Dに供給される禁止信号SK2をHレベルに設定し、電動機制御信号VD3およびVD4の出力を許容し、電動機制御信号V02,V03として出力する。
【0060】
また、基本目標電流信号IHの符号がマイナス(−)の場合であり、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが不一致の場合において、偏差絶対値ΔIZが基準値K2を超える(ΔIZ>K2)時には、論理積手段19Cおよび19Dに供給される禁止信号SK2をLレベルに設定し、電動機制御信号VD3およびVD4の出力を禁止する。
この状態では、論理積手段19Aおよび19Bに供給される禁止信号SK1をHレベルに設定し、電動機制御信号VD1およびVD2の出力を許容し、電動機制御信号V01,V02として出力する。
【0061】
このように、この発明に係る出力禁止手段17は、基本目標電流信号IHと参照信号IRSとの差が基準値Kを越える時に電動機制御信号VDの出力を禁止するとともに、基本目標電流信号IHと参照信号IRSの方向X,Yが同じ時の基準値K1よりも方向X,Yが異なる時の基準値K2を小さく設定したので、マイクロプロセッサで構成する電動機制御手段に異常が発生して基本目標電流信号IHが異常値を発生した場合には、電動機駆動手段(ブリッジ回路)14の動作を禁止することができる。
【0062】
この発明に係る出力禁止手段17は、基本目標電流信号IHと参照信号IRSの差の絶対値ΔIZを演算する偏差絶対値演算手段31、基本目標電流信号IHと参照信号IRSの符号X,Yの一致/不一致を判定する符号一致判定手段33、この符号一致判定手段33からの判定信号FOに基づいて2つの基準値K1,K2の一方を選択する切替手段34、偏差絶対値演算手段31からの絶対値ΔIZと切替手段34で選択した基準値K1,K2とを比較して禁止信号SK1,SK2を出力する比較手段35を有する出力禁止判定手段18を備えたので、基本目標電流信号IHと参照信号IRSの大きさ、および基本目標電流信号IHと参照信号IRSの方向によって電動機駆動手段(ブリッジ回路)14の動作を許容または禁止することができる。
【0063】
図6は電動機駆動手段を構成するFETブリッジ回路図である。
図6において、FETブリッジ回路14は、4個のFET(電界効果トランジスタ)Q1〜Q4から構成する。
FET(電界効果トランジスタ)Q1〜Q4のゲートG1〜G4には、それぞれ電動機制御信号V01〜V04が供給される。
【0064】
電動機8を正回転させる場合、Q1のゲートG1に電動機制御信号VO1としてPWM信号VPWMを供給するとともに、Q4のゲートG4に電動機制御信号VO4としてオン信号VONを供給し、Q2,Q3のゲートG2,G3には電動機制御信号V02,V03としてオフ信号VOFを供給することにより、バッテリ電源VB(12V)→FET(電界効果トランジスタ)Q1→端子M1→電動機8→端子M2→FET(電界効果トランジスタ)Q4→接地(GND)の経路で電動機電流IM+を流す。
【0065】
また、電動機8を逆回転させる場合、Q2のゲートG2に電動機制御信号VO2としてPWM信号VPWMを供給するとともに、Q3のゲートG3に電動機制御信号VO3としてオン信号VONを供給し、Q1,Q4のゲートG1,G4には電動機制御信号V01,V04としてオフ信号VOFを供給することにより、バッテリ電源VB(12V)→FET(電界効果トランジスタ)Q2→端子M2→電動機8→端子M1→FET(電界効果トランジスタ)Q3→接地(GND)の経路で電動機電流IM-を流す。
【0066】
出力禁止手段17は、FET(電界効果トランジスタ)Q1〜Q4のゲートG1〜G4に供給する電動機制御信号V01〜V04を許容または禁止することにより、電動機8の駆動を制御することができる。
【0067】
次に、この発明の出力禁止手段の動作を図7を参照して説明する。
図7はこの発明に係る電動パワーステアリング装置の出力禁止手段の動作説明図である。
(a)図は基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yの一致/不一致の判定信号FO波形図、(b)図は基本目標電流信号IHと参照信号IRSの差(=IH−IRS)と基準値K1,K2の関係図、(c)図は禁止信号SK1波形図、(d)図は禁止信号SK2波形図、(e)図は電動機電流IM+,IM-の許容、禁止説明図を示す。
【0068】
図7は目標電流信号IMSがプラス(+)の場合について説明する。
なお、目標電流信号IMSがマイナス(−)の場合についても(b)および(e)の符号を逆にすることで同様に説明することができる。
【0069】
時間0から時間t3では、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yは一致して(a)図の判定信号FOはHレベルとなる。
一方、時間t3以降では、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yは不一致であり、判定信号FOはLレベルとなる。
【0070】
時間t=0から時間t3において、(b)図の基本目標電流信号IHと参照信号IRSとの差(=IH−IRS)はプラス(+)値であり、時間t1から時間t2間で電動機制御手段を構成するマイクロプロセッサに異常が発生し、(IH−IRS)は基準値K1を超える(IH−IRS>K1)値(斜線部)を示す。
【0071】
また、時間t1から時間t2間では、目標電流信号IMSがプラス(+)で、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが一致し、かつ(IH−IRS)が基準値K1を超えるため、(c)図の禁止信号SK1はHレベルからLレベルとなる。
一方、(d)図の禁止信号SK2はHレベルを保持する。
【0072】
Lレベルの禁止信号SK1により、マイクロプロセッサの異常によって時間t1から時間t2間に流れる過大な電動機電流IM+を禁止することができる。
なお、(e)図の電動機電流IM(IM+,IM-)は、説明の都合上、電動機電流IM+または電動機電流IM-が流れるか否かを表わし、電流値の大小は省略する。
【0073】
次に、時間t3以降において、(b)図の基本目標電流信号IHと参照信号IRSとの差(=IH−IRS)はマイナス(−)値であり、時間t4から時間t5間で電動機制御手段を構成するマイクロプロセッサに異常が発生し、(IH−IRS)は基準値K2を超える(IH−IRS<−K1)値(斜線部)を示す。
【0074】
また、時間t4から時間t5間では、目標電流信号IMSがプラス(+)で、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが不一致となり、かつ(IH−IRS)が基準値K2を超えるため、(d)図の禁止信号SK2はHレベルからLレベルとなる。
一方、(c)図の禁止信号SK1はHレベルを保持する。
【0075】
Lレベルの禁止信号SK2により、マイクロプロセッサの異常によって時間t4から時間t5間に流れる過大な電動機電流IM-を禁止することができる。
【0076】
このように、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが一致し、かつ基本目標電流信号IHと参照信号IRSの差(=IH−IRS)が基準値K1を超える場合には、通常の制御では起こらない異常現象が電動機制御手段を構成するマイクロプロセッサに発生したと判定し、異常により発生する電動機制御信号VOを禁止して電動機電流IMを停止することができる。
【0077】
また、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが不一致で、かつ基本目標電流信号IHと参照信号IRSの差(=IH−IRS)が基準値K2を超える場合には、通常の補正制御では起こらない異常現象が電動機制御手段を構成するマイクロプロセッサに発生したと判定し、異常により発生する電動機制御信号VOを禁止して電動機電流IMを停止することができる。
【0078】
なお、基本目標電流信号IHの符号Xと参照信号IRSの符号Yが不一致の場合でも、基本目標電流信号IHと参照信号IRSの差(=IH−IRS)が基準値K2以下の場合には、通常の補正制御と判定して電動機電流IMを流すことができる。
【0079】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号との差が基準値を超える時に電動機制御信号の出力を禁止するとともに、基本目標電流信号と参照信号の方向が同じ時の基準値よりも方向が異なる時の基準値を小さく設定し、マイクロプロセッサで構成する電動機制御手段に異常が発生して基本目標電流信号が異常値を発生した場合には、電動機駆動手段(ブリッジ回路)の動作を禁止して電動機の駆動を停止するので、ステアリング系に不要なアシストトルクを付加することがなく、操舵特性の信頼性を大幅に向上させることができる。
【0080】
また、この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の方向が異なる場合には、正常な制御で基本目標電流信号の方向が反対になる基準値を設定し、操舵トルクと反対方向に基本目標電流信号を許容することができるので、制動制御のようなドライバの操舵方向と反対方向のアシストトルクを発生する補正制御もきめ細かく実現することにより、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0081】
さらに、この発明に係る出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の差の絶対値を演算する偏差絶対値演算手段、基本目標電流信号と参照信号の符号の一致/不一致を判定する符号一致判定手段、この符号一致判定手段からの判定信号に基づいて2つの基準値の一方を選択する切替手段、偏差絶対値演算手段からの絶対値と切替手段で選択した基準値とを比較して禁止信号を出力する比較手段を有する出力禁止判定手段を備え、基本目標電流信号と参照信号の大きさ、および基本目標電流信号と参照信号の方向によって電動機駆動手段(ブリッジ回路)の動作を許容または禁止するので、操舵特性の信頼性と操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0082】
よって、信頼性が高く、操舵フィーリングの向上を図ることができる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図
【図2】本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施の形態基本要部ブロック構成図
【図3】この発明に係る出力禁止判定手段の実施の形態要部ブロック構成図
【図4】この発明に係る信号停止手段の実施の形態要部ブロック構成図
【図5】駆動制御手段の要部ブロック構成図
【図6】電動機駆動手段を構成するFETブリッジ回路図
【図7】この発明に係る電動パワーステアリング装置の出力禁止手段の動作説明図
【図8】車速信号Vをパラメータにした操舵トルク信号T−目標電流信号IMS特性図
【図9】トルク微分信号DT−補正信号IT特性図
【符号の説明】
1…電動パワーステアリング装置、8…電動機、11…車速センサ、12…操舵トルクセンサ、13…制御手段、14…電動機駆動手段(FETブリッジ回路)、15…電動機電流検出手段、16…参照信号設定手段、17…出力禁止手段、18…出力禁止判定手段、19…信号停止手段、21…目標電流信号設定手段、22…偏差演算手段、23…駆動制御手段、24…目標電流信号補正手段、25…加算手段、31…偏差絶対値演算手段、32…基準値記憶手段、33…符号一致判定手段、34…切替手段、35…比較手段。
Claims (2)
- ステアリング系に補助操舵力を付加する電動機と、ステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記電動機に流れる電動機電流を検出して電動機電流信号を出力する電動機電流検出手段と、少なくとも前記操舵トルクセンサからの操舵トルク信号に基づいて目標電流信号を設定する目標電流信号設定手段、操舵トルク信号に基づいて目標電流信号を補正する補正信号を出力する目標電流信号補正手段、目標電流信号を補正信号で補正した基本目標電流信号と電動機電流信号の偏差信号に基づいて電動機制御信号を出力する駆動制御手段を備えた電動機制御手段、少なくとも操舵トルク信号に基づいて参照信号を設定する参照信号設定手段、基本目標電流信号と参照信号を比較して電動機制御信号の電動機駆動手段への供給を許可または禁止する出力禁止手段を有する制御手段と、電動機制御信号により前記電動機を駆動する電動機駆動手段と、を備えた電動パワーステアリング装置において、
前記出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の方向が同じ時の基準値よりも方向が異なる時の基準値を小さく設定し、基本目標電流信号と参照信号との差が基準値を超える時に電動機制御信号の出力を禁止することを特徴とする電動パワーステアリング装置。 - 前記出力禁止手段は、基本目標電流信号と参照信号の差の絶対値を演算する偏差絶対値演算手段、基本目標電流信号と参照信号の符号の一致/不一致を判定する符号一致判定手段、この符号一致判定手段からの判定信号に基づいて2つの基準値の一方を選択する切替手段、前記偏差絶対値演算手段からの絶対値と切替手段で選択した基準値とを比較して禁止信号を出力する比較手段を有する出力禁止判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
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