JP3642635B2 - 熱可塑性樹脂フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムに関し、詳しくは、片面または両面に、ポリウレタン樹脂および特定のアクリル樹脂を含有する水系樹脂組成物により形成された塗膜を有している、耐候性、防曇性などの改良された農業用フィルム、壁紙等に特に好適に用いることのできる熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂は、機械的強度、耐薬品性、耐候性等の物性に優れ、かつ比較的安価であるため、種々の用途に用いられている。例えば、これらの熱可塑性樹脂は、トンネル栽培、ハウス栽培等に使用される農業用フィルムなどに使用されている。
【0003】
熱可塑性樹脂フィルムの耐候劣化は樹脂自体の劣化もあるが、それ以前に主として可塑剤などの添加剤がブリードして物性を低下したり、汚れを生じることなどによる悪影響も大きい。また、表面に傷が生じるなどの劣化も生じる。これらの表面の汚れや傷は、太陽光の透過を妨げ、作物の発育にも悪影響を与えるおそれがあるため、解決しなければならない問題である。
【0004】
樹脂の耐候性を改善する方法として、紫外線吸収剤などを添加剤を使用する方法などがあげられるが、上記のような表面の汚れや傷の問題を解決するためにはこれだけでは全く不十分なものである。
【0005】
また、壁紙として使用した場合においても、ブリードを原因とした汚れの防止、傷の発生の抑制の問題とともに光による着色あるいは退色などの問題があり、これを解消することは必須である。
【0006】
これらの問題を解決する方法としては、熱可塑性樹脂フィルムの表面に各種コーティングを施すことが提案されている。例えば、(メタ)アクリル酸あるいはそのエステル類によるもの、これを架橋させたもの、フッ素系樹脂、珪素系樹脂などによるものあるいはこれらに紫外線吸収剤等の各種の添加剤を加えたものなど種々の方法が提案されているが、これまでに未だ満足できる性能のものは得られていない。
【0007】
また、熱可塑性樹脂フィルムを農業用フィルムとして、展張使用する際に内面に水滴が付着することによる曇が生じて農作物の発育に悪影響を与えるという欠点を有しており、これを防止するために内壁に防滴剤を塗布あるいは練り混んだりする等の方法が取られているが、防滴剤が流れ出して通常1年程度で効果が低下し、再度塗布する必要が生じ、極めて非効率である。
【0008】
これらの持続性を改善する方法として、フィルムの表面に親水性樹脂を塗布して塗膜を形成する方法が提案されている。しかし、これまではその防滴効果は全く不十分なものであり、この問題に関しても合わせて解決しなければならない問題であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、特に農業用のフィルムあるいは壁紙として好適に使用することのできるような耐光性、耐汚染性、耐傷性、防曇性などの改良された熱可塑性樹脂フィルムを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、種々検討を重ねた結果、片面または両面に、ポリウレタン樹脂および特定のアクリル樹脂からなる水系樹脂組成物により形成された塗膜を有している熱可塑性樹脂フィルムが、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、片面または両面に、塗膜形成用水系樹脂組成物により形成された塗膜を有している熱可塑性樹脂フィルムにおいて、該塗膜形成用水系樹脂組成物が、ポリウレタン樹脂1〜85重量%およびアクリル樹脂1〜85重量%を含有し、かつ、両者を合計した樹脂固形分2〜90重量%を含有する水系樹脂組成物であって、該アクリル樹脂が、共重合可能な不飽和結合を有する反応性乳化剤の存在下にアクリル系不飽和単量体の混合物を重合させることによって得られたものであり、該反応性乳化剤が、前記乳化剤Aであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムを提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルムについて詳述する。
本発明に使用される塗膜を形成する前の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂から形成されるものであり、該熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などがあげられる。ここで、上記塩化ビニル系樹脂としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などその重合方法には特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリテン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニリトル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体などの塩化ビニル系樹脂、およびそれら相互のブレンド品あるいは他の塩素を含まない合成樹脂、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、ポリエステルなどとのブレンド品、ブロック共重合体、グラフト共重合体などがあげられ、また、上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−3−メチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体等のα−オレフィンの単重合体または共重合体、これらのα−オレフィンと共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等との共重合体などがあげられ、また、上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルポリエステルなどがあげられる。
【0013】
上記熱可塑性樹脂から上記フィルムを形成する方法としては、通常の熱可塑性樹脂の加工方法が用いられ、例えば、カレンダー加工、ロール加工、押出成型加工、ブロー成型、インフレーション成型、溶融流延法、加圧成型加工、ペースト加工、粉体成型等の方法を好適に使用することができる。
【0014】
また、上記フィルムを形成する際には、通常の熱可塑性樹脂に用いられる添加剤、例えば、可塑剤、有機カルボン酸、フェノール類および有機リン酸類の金属塩、エポキシ化合物、β−ジケトン化合物、多価アルコール、リン系、フェノール系または硫黄系などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライト化合物、過塩素酸塩類、その他の無機金属化合物、架橋剤、充填剤、帯電防止剤、プレートアウト防止剤、表面処理剤、滑剤、難燃剤、蛍光剤、防黴剤、殺菌剤、金属不活性剤、顔料、加工助剤、防曇剤、防霧剤などを配合することができる。
【0015】
また、上記フィルムは、単層構造フィルムでも多層構造フィルムでもよい。
【0016】
また、上記フィルムの膜厚は、好ましくは0.001〜1mmであり、更に好ましくは0.01〜0.5mmである。
【0017】
本発明に使用されるポリウレタン樹脂は周知の方法で製造でき、例えば、ポリイソシアネート、ポリオールおよびカルボキシル基またはスルホン酸基を有するポリオールあるいは分子中に塩基性基を有するポリオールを、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でウレタン化反応させてプレポリマーとし、次いで、プレポリマーを、中和剤により中和し、鎖延長剤により鎖延長し、水を加えて水性ウレタンとすることによって製造される。
【0018】
上記水性ウレタンを製造するために使用される上記ポリイソシアネートとしては、脂肪族、脂環式および芳香族ポリイソシアネートがあげられ、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートエステル、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があげられる。
【0019】
上記ポリイソシアネートは、後述するポリオール、カルボキシル基またはスルホン酸基を有するポリオールおよび鎖延長剤の活性水素の合計に対し、好ましくは0.8〜3倍当量、より好ましくは1〜2倍当量となるように使用される。該イソシアネートの使用量が0.8倍当量未満の場合には過剰のポリオール等が残存することとなり、また、3倍当量より多い場合には水を加えたときに尿素結合を多量に生成することとなり、いずれの場合もその特性を低下させるおそれがある。
【0020】
また、上記水性ウレタンを製造するために使用される上記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加物等の低分子量ポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン/プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール、前記低分子量ポリオールとコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸あるいは炭酸との縮合物であるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリカプロラクトン等があげられる。
【0021】
また、上記水性ウレタンを製造するために使用される上記カルボキシル基またはスルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、1,4−ブタンジオール−2−スルホン酸等があげられ、また、分子中に塩基性基を有するポリオールとしては、例えば、メチルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどがあげられ、特に、カルボキシル基を有するポリオールを用いた場合には分散性に優れる水性ウレタンが得られるので好ましい。
【0022】
上記カルボキシル基またはスルホン酸基を有するポリオールの使用量は、用いるポリオールおよびポリイソシアネートの種類にもよるが、通常は、水性ウレタンを構成する全ての反応成分に対して、0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%が用いられる。該使用量が0.5重量%未満では保存安定性が劣り、また、50重量%を超えると特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0023】
また、上記水性ウレタンを製造するために使用される上記の反応に不活性で水との親和性の大きい有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等をあげることができる。これらの溶媒は、通常、プレポリマーを製造するために用いられる上記原料の合計量に対して、10〜100重量%が用いられる。
【0024】
また、上記水性ウレタンを製造するために使用される上記中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基があげられ、これらはカルボキシル基またはスルホン酸基を中和するに十分な量が用いられる。
【0025】
また、上記水性ウレタンを製造するために使用される上記鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、メラミン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のアミン類および水等があげられる。これらの鎖延長剤の使用量は、目的とするポリウレタン樹脂の分子量にもよるが、通常は、プレポリマーに対して0.5〜10重量%が用いられる。
【0026】
前述のように、これらの原料から水性ウレタンを製造することは周知であり、これらの原料の仕込み順序を適宜変更したり、あるいは分割して仕込むことも可能である。
【0027】
このようにして得られた水性ウレタンは、通常、樹脂固形分が1〜90重量%、より好ましくは5〜80重量%となるように調整される。
【0028】
また、市販されている水性ウレタンをそのまま使用することも勿論可能であり、例えば、旭電化工業(株)製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学(株)製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン(株)製の「ソフラネート」シリーズ、花王(株)製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業(株)製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業(株)製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ(株)製の「ネオレッツ」シリーズ等を用いることができる。
【0029】
本発明に使用されるアクリル樹脂は、アクリル酸またはメタクリル酸のエステルを含有するアクリル系不飽和単量体混合物を、これらと共重合可能な不飽和結合を有する反応性乳化剤の存在下に、水性溶媒中に乳化または分散させて、重合開始剤を用いて重合することによって得られるものである。ここで、上記アクリル酸またはメタクリル酸エステルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−ヒドロキシエチル、グリシジルなどのエステルがあげられる。
【0030】
また、上記アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルとともに他の不飽和単量体を共重合させることも勿論できる。これらの他の不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の脂肪族不飽和炭化水素およびハロゲン化脂肪族不飽和炭化水素、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族不飽和炭化水素、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の他の不飽和カルボン酸のエステル(エステルを構成するアルコール成分としては上記のアクリル酸およびメタクリル酸のエステルを構成するアルコール成分が例示される)、安息香酸ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、アクリロニトリル等の窒素含有ビニルモノマー等があげられる。
【0031】
上記アクリル酸またはメタクリル酸のエステルの含有量は任意に設定できるが、通常は、全単量体中の30重量%以上、好ましくは、50重量%以上であり、30重量%未満ではアクリル酸またはメタクリル酸エステルを用いたことによる効果が発現しがたくなる。特に、これらのアクリル酸またはメタクリル酸エステルとして、グリシジルメタクリレートまたはグリシジルアクリレートを全単量体中の0.1〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%となるように含有することが好ましく、グリシジルメタクリレートまたはグリシジルアクリレートを含有する不飽和単量体を用いることにより、皮膜の耐水性、耐薬品性等が著しく改善される。
【0032】
また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の他の不飽和カルボン酸を不飽和単量体成分として使用し、かつ中和剤を使用することでアクリル系樹脂自体に水溶性を付与することもでき、これら中和剤としては、例えば、前記水性ウレタンにおいて使用されたものなどがあげられる。
【0033】
これらの不飽和単量体は、反応当初に一括して仕込むことも、また、分割あるいは連続的に仕込むことも可能であり、さらに、必要に応じてメルカプタン類などの連鎖移動剤を添加することもできる。
【0034】
また、上記アクリル樹脂を製造するために使用される上記重合開始剤は、特に制限を受けず、通常のエマルジョン重合に用いられる水溶性開始剤ばかりでなく、油溶性開始剤も使用することができる。これらの重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル、第三ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル等があげられ、また、これらの重合開始剤と亜硫酸塩、スルホキシレートとの組み合わせよりなるいわゆるレドックス系触媒を使用することもできる。
【0035】
上記重合開始剤の使用量は、単量体の種類、濃度、反応温度等によっても変化するが、通常は全単量体に対して0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。
【0036】
また、上記重合開始剤は、全量を一括して添加することも、あるいは、分割または連続的に添加することもできる。
【0037】
上記アクリル樹脂を製造する際の反応温度は、使用する単量体および重合開始剤の種類および量に応じて変化するが、通常は0℃〜100℃である。
【0038】
また、本発明に用いられる上記反応性乳化剤は、分子内に上記不飽和単量体と共重合しえる不飽和結合を有するアニオン系のものである。
【0039】
上記反応性乳化剤は、分子内に、疎水性基、親水性基および反応性基を各々1個有する化合物であり、該疎水性基は芳香族炭化水素基からなり、該親水性基はスルホン酸塩であるアニオン性基を含有し、該反応性基はアリルエーテル基である。
【0043】
上記反応性乳化剤を用いてアクリル樹脂を製造した場合には、特に耐水性および耐薬品性に優れた被膜が得られるので、本発明においては、上記反応性乳化剤を用いる。
【0052】
上記反応性乳化剤の使用量は、全不飽和単量体に対して好ましくは0.1〜20重量%であり、該使用量が0.1重量%未満の場合には乳化安定性が不十分であり、また、20重量%を超えると得られる水系樹脂から形成される被膜の特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0053】
また、上記反応性乳化剤とともに、少量の非反応性乳化剤を使用することも可能であるが、前述のように、系内に残存する乳化剤が被膜の特性に悪影響を及ぼすので、その使用量はできるだけ少なくすべきである。
【0054】
本発明に用いられる塗膜形成用水系樹脂組成物は、前記のポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂を含有するものであるが、その調整方法には特に制限を受けず、別途に製造した水性ウレタンとアクリルエマルジョンを混合する方法あるいは水性ウレタンにアクリル系不飽和単量体混合物および反応性乳化剤を加えて重合させる方法のいずれでも採用することができる。
【0055】
別途に製造した水性ウレタンとアクリルエマルジョンを混合する方法においては、混合の順序、温度等の条件については特に制限を受けず、例えば、アクリルエマルジョン中に水性ウレタンを少量ずつ添加混合する方法、水性ウレタン中にアクリルエマルジョンを少量ずつ添加混合する方法、両者を一度に混合する方法のいずれでも良く、また、両者を冷却した後混合しても、一方あるいは両方が高温のときあるいは加熱下に混合しても良い。
【0056】
特に、グリシジルメタクリレートまたはグリシジルアクリレートを含有する不飽和単量体混合物から得られたアクリルエマルジョンを用いる場合には、50〜100℃で水性ウレタンと混合するか、あるいは水性ウレタン中で50〜100℃でアクリル系不飽和単量体混合物を重合させることによって得られる上記水系樹脂組成物を用いることにより、形成された皮膜の特性が改善される傾向が認められる。このような高温下で製造した水系樹脂組成物を用いることによって形成される皮膜の特性が改善される理由は明らかではないが、ポリウレタン樹脂に含有されるカルボキシル基またはスルホン酸基とアクリル樹脂に含有されるグリシジル基が反応して両者の間に部分的な化学的な結合が生じ、両樹脂の均一性が改善されるためであると推定される。
【0057】
また、上記塗膜形成用水系樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂1〜85重量%およびアクリル樹脂1〜85重量%を含有し、かつ、両者を合計した樹脂固形分が2〜90重量%、好ましくは5〜80重量%となるように調整される。該樹脂固形分が2重量%未満の場合は乾燥に長時間を要することとなり、また、樹脂固形分が90重量%を超えると、粘度が高く取扱に不便であるばかりでなく、保存安定性が低下する。
【0058】
また、上記塗膜形成用水系樹脂組成物における、ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂の比率(重量比)は特に制限を受けないが、通常は1:10〜10:1である。該比率が上記範囲を外れる場合は、ポリウレタン樹脂またはアクリル樹脂の量が少なくなりすぎ、所望の特性が得られないことが多い。
【0059】
また、上記塗膜形成用水系樹脂組成物には、目的に応じて、フッ素系またはシロキサン系などの帯電防止剤、コロイダルシリカまたはコロイダルアルミナなどの無機質コロイドゾル、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、ワックス類、防曇剤、防腐剤、消泡剤、可塑剤、溶剤、造膜助剤、分散剤、増粘剤、香料等の慣用の添加物を加えることもできる。
【0060】
上記フィルム上に上記水系樹脂組成物の塗膜を形成する方法としては、例えば、浸漬法あるいはグラビアコーター、リバースロールコーター、エアナイフコーターなどによるコーティング法などを用いて、熱可塑性樹脂フィルムの片面あるいは両面に塗布して乾燥し、乾燥膜厚が好ましくは0.1〜10μm、更に好ましくは0.2〜5μmの塗膜を形成する方法等があげられる。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの用途は特に限定されるものではないが、ハウス、トンネル、マルチ等の農業用フィルム(いわゆる農ビ、農ポリ、農サクビ、農PO、硬質フィルム等)あるいは壁紙などに特に好適に使用することができる。
【0062】
【実施例】
以下、製造例および実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではない。尚、製造例および実施例における部は特にことわりのないかぎり重量部を表す。
【0063】
製造例1(水性ウレタンの製造例)
平均分子量1000のポリプロピレングリコール(PPG1000)49部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)176部、ジメチロールプロピオン酸70部およびN−メチルピロリドン196部を反応容器にとり、80〜100℃に保ちながら反応させて、プレポリマーを製造した。
【0064】
次いで、トリエチルアミン48部を加えて中和した後、ヘキサメチレンジアミン5部を加え、水を添加しながら35℃以下で架橋反応を行い、反応終了までに456部の水を加えて樹脂固形分35重量%の水性ウレタン(水性ウレタンA)を製造した。
【0065】
製造例2(水性ウレタンの製造例)
平均分子量790のビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物(BPAPO)140部、キシリレンジイソシアネート151部およびN−メチルピロリドン120部を反応容器にとり、80〜85℃でNCO含有率が10.3重量%となるまで反応させ、プレポリマーを製造した。
【0066】
次いで、ジメチロールプロピオン酸14部および1,4−ブチレングリコール25部を加え、同温度で架橋反応を行い、赤外吸収スペクトルでイソシアネート基の吸収が消失するまで反応させた後、トリエチルアミン12部および水538部を加えて中和し、さらに1時間熟成させて樹脂固形分34重量%の水性ウレタン(水性ウレタンB)を製造した。
【0067】
製造例3(水性ウレタンの製造例)
二塩基酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸(重量比1:1)を用い、グリコール成分としてエチレングリコールおよびジエチレングリコール(重量比2:3)を用いた分子量1000のポリエステルポリオール(ポリエステルポリオール1)100部、イソホロンジイソシアネート107部およびメチルエチルケトン90部を反応容器にとり、75℃で十分に混合した後、ジメチロールプロピオン酸20部を加え、70℃で12時間反応させた。5%アンモニア水60部を加え中和した後、減圧下にメチルエチルケトンを留去し、水を加えて樹脂固形分23重量%の水性ウレタン(水性ウレタンC)を製造した。
【0068】
更に、上記製造例1と同様な操作により、下記〔表1〕に示す成分を用いて、水性ポリウレタン樹脂(水性ウレタンD〜G)を製造した。
【0069】
【表1】
【0070】
製造例4(アクリル樹脂の製造)
イオン交換水100部および下記〔化6〕の式で表される反応性乳化剤(乳化剤A)2部をとり、70℃に昇温してから過硫酸アンモニウム0.6部を加えた。ここに、メチルメタクリレート45部、n−ブチルアクリレート45部、グリシジルメタクリレート10部、乳化剤A1部およびイオン交換水30部からなる混合乳化液を3時間を要して滴下し、滴下終了後、さらに同温度で1時間反応させた。その後、アンモニア水でpHを8〜9に調整し、樹脂固形分44重量%のアクリル樹脂エマルジョン(アクリル樹脂エマルジョンA)を製造した。
【0071】
【化2】
【0072】
更に、上記製造例4と同様な操作により、下記〔表2〕に示す成分を用いてアクリルエマルジョン(B〜F)を製造した。
【0073】
【表2】
【0080】
実施例1
(水性ウレタンとアクリルエマルジョンとの混合による水系樹脂組成物の製造)下記〔表3〕に示す配合により水性ウレタンおよびアクリルエマルジョンを30℃で2時間混合して水系樹脂組成物No.1〜No.5およびNo.8を調整した。No.6およびNo.7はそのまま用いた。
【0081】
(塩化ビニル樹脂フィルムの作成)
下記配合により180℃カレンダー加工法により0.1mm厚のフィルムを作成した。
【0082】
〔配合〕 重量部
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100
ジオクチルフタレート 50
トリクレジルホスフェート 5
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 2
ソルビタンモノパルミテート 1.5
メチレンビスステアリン酸アミド 0.5
DHT−4A*3 0.5
ステアリン酸亜鉛 0.5
ステアリルリン酸バリウム 0.5
オクタデシル−3−(3,5−ジ第三ブチル−4− 0.1
ヒドロキシフェニル)プロピオネート
*3:協和化学工業(株)製合成ハイドロタルサイト
【0083】
(積層フィルムの作成)
次に、この塩化ビニル樹脂フィルムの片面に、前記合成例で得られた水系樹脂組成物を、130メッシュグラビアレコーダーにより塗布し、厚さ2μmの塗膜を形成した。
【0084】
ここで得られたフィルムを塗布面を外側にして屋外(埼玉県浦和市)暴露して、6か月後、12か月後および18か月後のサンプルについて表面状態を観察した。評価は目視により汚れや傷の発生状況を総合して10段階で評価(耐候性)し、1が暴露前とほとんど差のない状態を表し、数値が大きくなるに従って劣化が進行している状態を表す。またこれに加え、オリジナルと12か月後のフィルムについてJIS K 7105に従い光線透過率を測定した。
【0085】
また、フィルムと塗布層との密着性を確認するため未暴露、暴露6か月後および12か月後のフィルムの塗布面側にセロファンテープを指で擦り付けて貼った後に強く引き剥がして評価した。評価基準は、○が完全に塗布層が残っていることを表し、△が部分的に剥離がみられることを表し、×がほぼ完全に剥離したことを表す。
【0086】
さらに、未暴露のフィルムを使用して防曇性の試験を行った。試験方法は、四方を木板で囲んだ曇観察用のフレームの天井傾斜面に塗布面を内側にして試験フィルムを張り、予め用意した水温約40℃の水槽上に乗せ、25℃の室温で48時間放置する。次いで、水浴を40℃に保持したまま室温を5℃に下げ、1時間後にフィルム内表面(水槽に面した側の表面)の曇の発生状態を目視により確認した。×、△および○の三段階で評価した。
【0087】
それらの結果を下記〔表3〕に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
実施例2
水系ウレタン中でのアクリル系モノマーの重合による水系樹脂組成物の製造
イオン交換水126部、乳化剤A3部、水性ウレタンE200部をとり、60℃に昇温した。下記〔表4〕に示す組成からなる不飽和単量体混合物100部および第三ブチルハイドロパーオキサイドの10%水分散液4部を3時間を要して滴下した。滴下終了後70℃に1時間保って重合反応を完結させ、樹脂固形分40重量%の水系樹脂組成物(水系樹脂組成物No.9〜14)を製造した。
【0090】
得られた水系樹脂組成物を用いて、実施例1と同様に塩化ビニル樹脂フィルムに被覆して、耐候性試験および12か月後の光線透過率の測定を行った。それらの結果を下記〔表4〕に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
実施例3
(塩化ビニル樹脂フィルムの作成)
次の配合物を石川式ライカイ機で混練した後、真空脱法処理を行ない、均一なペーストゾルを作成した。そのゾルを紙上に0.2mmの厚さで塗布し、150℃のギヤーオーブンで60秒間加熱し、ゲル化シートを得た。そのゲル化シートを用いて、220℃のギヤーオーブンでそれぞれ50秒加熱発泡させ、発泡シートを作成した。
【0093】
〔配 合〕 重量部
塩化ビニル樹脂(PSL-280 鐘淵化学製) 100
炭酸カルシウム(H) 100
二酸化チタン(R) 15
ジ−2−エチルヘキシルフタレート 60
ミネラルスピリット 7
アゾジカルボンアミド 4
C9〜10ネオカルボン酸亜鉛 1.5
C9〜10ネオカルボン酸バリウム 1.0
【0094】
(積層フィルムの作成)
次に、この塩化ビニル樹脂フィルムの片面に、前記合成例で得られた水系樹脂組成物を、130メッシュグラビアレコーダーにより塗布し、厚さ2μmの塗膜を形成した。
【0095】
得られた被覆シートを63℃フェードメーター中に入れ、500時間後、1000時間後および2000時間後に取り出し、着色性を観察した。評価は10段階で、1がほどんど着色していない状態を表し、数値の増大に伴い着色が大きくなっている。また、2000時間後のシートについては表面のブリードを観察した。それらの結果を下記〔表5〕に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
実施例4
(ポリエチレンフィルムの作成)
下記配合によりインフレーション加工法により0.1mm厚のフィルムを作成した。
【0098】
〔配合〕 重量部
低密度ポリエチレン(密度0.923g/cm2 ,mMFR=2.0 ) 100
トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト 0.2
2−ヒドロキシベンゾフェノン 0.1
メチレンビスアマイド 0.2
DHT−4A 0.2
【0099】
(積層フィルムの作成)
次にこのポリエチレンフィルムの片面に、前記合成例で得られた水系樹脂組成物を、130メッシュグラビアレコーダーにより塗布し、厚さ2μmの塗膜を形成した。
【0100】
ここで得られたフィルムを用いて実施例1と同様の試験を行なった。ただし、耐候性試験は12か月後、密着性試験は6か月後まで行ない、劣化後の光透過率は6か月のものを測定した。それらの結果を下記〔表6〕に示す。
【0101】
【表6】
【0102】
実施例5
(ポリエステルフィルムの作成)
下記配合により溶融押出法により0.1mm厚のフィルムを作成した。
【0103】
〔配合〕 重量部
ポリエチレンテレフタレート 100
トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト 0.2
2−ヒドロキシベンゾフェノン 0.1
【0104】
(積層フィルムの作成)
次に、このポリエステルフィルムの片面に、前記合成例で得られた水系樹脂組成物を、130メッシュグラビアレコーダーにより塗布し、厚さ2μmの塗膜を形成した。
【0105】
ここで得られたフィルムを用いて実施例1と同様の試験を行なった。それらの結果を下記〔表7〕に示す。
【0106】
【表7】
【0107】
実施例から明らかなように、コーティングを施していない熱可塑性樹脂フィルムはブリードを起こしやすく、汚れや傷が生じ、また光線透過率の低下も著しい。これを改善するために水性ウレタンあるいはアクリルエマルジョンをそれぞれ単独で使用したコーティングを施した場合には幾らかの改善は見られるもののその効果は未だ不十分なものである。また、水性ウレタンとともに非反応型の界面活性剤を用いてなるアクリルエマルジョンからなる水系樹脂組成物を使用した場合においてもその効果は不十分である。
【0108】
これに対し、本発明に係る水系ウレタンと反応性乳化剤を用いてなるアクリルエマルジョンとからなる水系樹脂組成物を用いてコーティングすることで、ブリードを抑制し、汚れや傷の発生も少なく、光線透過率も維持することができる。
【0109】
【発明の効果】
ポリウレタン樹脂および特定のアクリル樹脂とを含有する水系樹脂組成物を用いてコーティングした本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、耐候性、耐傷性が著しく改善され、農業用フィルムあるいは壁紙などの用途に適したものである。
Claims (4)
- 上記アクリル樹脂が、メタクリル酸グリシジルエステルまたはアクリル酸グリシジルエステルを0.1〜50重量%含有する不飽和単量体混合物を重合して得られるものであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルム。
- 農業用フィルムとして使用することを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂フィルム。
- 壁紙として使用することを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂フィルム。
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