JP3626568B2 - 車両用制動力制御装置における制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前輪および後輪の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサと;マスタシリンダおよび車輪ブレーキ間に設けられる常開型電磁弁と;車輪ブレーキおよびリザーバ間に設けられる常閉型電磁弁と;前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁および前記常閉型電磁弁の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪および後輪にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニットと;を備える車両用制動力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
前輪および後輪の車輪速度を比較して両車輪速度がほぼ等しくなるように前輪および後輪の制動力を制御するようにした制動力配分制御装置が、たとえば特開平6−144178号公報等で既に知られている。これはより具体的には、後輪の車輪速度が前輪の車輪速度よりも遅い場合には後輪側の制動力の増大を抑制し、それとは逆に後輪の車輪速度が前輪の車輪速度よりも速くなった場合には後輪側の制動力を増大せしめるようにして、前、後の制動力配分を動的軸荷重に比例した制動力配分(いわゆる理想制動力配分)に近付けるように制御するものである。
【0003】
一方、マスタシリンダおよび車輪ブレーキ間に設けられる常開型電磁弁を含むブレーキ圧調整手段を備え、車輪のロック傾向判断結果に応じて該ブレーキ圧調整手段の作動を制御して前記ロック傾向を解消するようにしたアンチロックブレーキ制御装置が、たとえば特開平2−231253号公報等により知られている。
【0004】
しかも上記制動力配分制御にあたっては、ブレーキ圧調整手段の構成部品の一部である常開型電磁弁を用いることができ、アンチロックブレーキ制御装置に新規の部品を追加することなく、電子制御ユニットに制動力配分制御機能を付加するだけで制動力配分制御システムを安価に構成することが可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来のアンチロックブレーキ制御装置では、そのシステムに故障が生じたときには、警告灯等によりシステムの異常をドライバに報知し、アンチロックブレーキ制御を中止するのが一般的である。したがって、上述のようにアンチロックブレーキ制御装置の電子制御ユニットに制動力配分制御機能を単純に付加した場合には、アンチロックブレーキ制御システムに異常が生じると、制動力配分制御も中止してしまうことになる。しかるにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御は、その機能が異なるものであり、故障モードに応じてより合理的な処理を行なうことが望ましい。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、アンチロックブレーキ制御装置で制動力配分制御を行なうことを可能とした上で、故障時のアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の中止処理を合理的に行なうようにした車両用制動力制御装置における制御方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、前輪および後輪の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサと;マスタシリンダおよび車輪ブレーキ間に設けられる常開型電磁弁と;車輪ブレーキおよびリザーバ間に設けられる常閉型電磁弁と;前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁および前記常閉型電磁弁の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪および後輪にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニットと;を備える車両用制動力制御装置において、前記前輪用および後輪用回転速度センサ、前記常開型電磁弁、前記常閉型電磁弁および前記電子制御ユニット自体の演算機能の故障を識別して検知する機能を前記電子制御ユニットに備えさせるとともに、前記電子制御ユニット自体の演算機能および後輪に対応する常開型電磁弁のいずれかが故障しているときならびに前記電子制御ユニット自体の演算機能および後輪に対応する常開型電磁弁が正常であっても前記前輪用および後輪用回転速度センサの全てが故障しているときにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の実行をともに禁止する状態と、前記常閉型電磁弁および前記前輪に対応する常開型電磁弁のいずれか1つが故障であっても前記電子制御ユニット自体の演算機能、前記後輪に対応する常開型電磁弁および前記前輪用および後輪用回転速度センサの少なくとも1つが正常であるときにアンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続する状態とを、検知した故障モードに応じて電子制御ユニットで切換え、アンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続した状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニットにより実行させ、更に制動力配分制御を継続するにあたって、後輪用回転速度センサの検出値に基づいて得た後輪減速度が設定減速度以上であるときに、後輪に対応する常開型電磁弁を閉弁作動せしめて後輪ブレーキ力を保持した状態での制動力配分制御を電子制御ユニットにより実行させることを特徴とする。
【0008】
このような請求項1の発明によれば、アンチロックブレーキ制御の実行が困難な状況下にあっても制動力配分制御を実行可能な状態では制動力配分制御を継続するようにして、故障モードに応じた合理的な制御処理を行なうことが可能となる。またアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニットにより実行させることにより、前後の車輪速度差を正確に求め得ないことにより前後の制動力配分の推定が困難な状況下にあっても或る程度の制動力配分制御が可能となり、車両の安定性確保に寄与することができる。更に制動力配分制御を継続するにあたって、後輪用回転速度センサの検出値に基づいて得た後輪減速度が設定減速度以上であるときに、後輪に対応する常開型電磁弁を閉弁作動せしめて後輪ブレーキ力を保持した状態での制動力配分制御を制御ユニットにより実行させるので、後輪が車輪ロックに陥ることを極力回避しつつ、車両の安定性をより重視した制動力配分制御を行なうことができる。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前輪および後輪の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサと;マスタシリンダおよび車輪ブレーキ間に設けられる常開型電磁弁と;車輪ブレーキおよびリザーバ間に設けられる常閉型電磁弁と;前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁および前記常閉型電磁弁の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪および後輪にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニットと;を備える車両用制動力制御装置において、前記前輪用および後輪用回転速度センサ、前記常開型電磁弁、前記常閉型電磁弁および前記電子制御ユニット自体の演算機能の故障を識別して検知する機能を前記電子制御ユニットに備えさせるとともに、前記電子制御ユニット自体の演算機能および後輪に対応する常開型電磁弁のいずれかが故障しているときならびに前記電子制御ユニット自体の演算機能および後輪に対応する常開型電磁弁が正常であっても前記前輪用および後輪用回転速度センサの全てが故障しているときにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の実行をともに禁止する状態と、前記常閉型電磁弁および前記前輪に対応する常開型電磁弁のいずれか1つが故障であっても前記電子制御ユニット自体の演算機能、前記後輪に対応する常開型電磁弁および前記前輪用および後輪用回転速度センサの少なくとも1つが正常であるときにアンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続する状態とを、検知した故障モードに応じて電子制御ユニットで切換え、アンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続した状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニットにより実行させ、更に左、右後輪用回転速度センサのうち一方の故障を検知したときに、故障を検知した回転速度センサに対応した後輪と車両の左、右同一側である前輪の回転速度を検出する前輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度、ならびに左、右後輪用回転速度センサのうち正常である後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度の少なくとも一方が第1の設定減速度以上であることを、後輪に対応する常開型電磁弁の閉弁作動による制動力配分制御実行条件の少なくとも1つに定めることを特徴とする。
【0010】
このような請求項2の発明によれば、アンチロックブレーキ制御の実行が困難な状況下にあっても制動力配分制御を実行可能な状態では制動力配分制御を継続するようにして、故障モードに応じた合理的な制御処理を行なうことが可能となる。またアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニットにより実行させることにより、前後の車輪速度差を正確に求め得ないことにより前後の制動力配分の推定が困難な状況下にあっても或る程度の制動力配分制御が可能となり、車両の安定性確保に寄与することができる。更に左、右後輪用回転速度センサのうち一方の故障を検知したときに、故障を検知した回転速度センサに対応した後輪と車両の左、右同一側である前輪の回転速度を検出する前輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度、ならびに左、右後輪用回転速度センサのうち正常である後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度の少なくとも一方が第1の設定減速度以上であることを、後輪に対応する常開型電磁弁の閉弁作動による制動力配分制御実行条件の少なくとも1つに定めることにより、故障していない回転速度センサを用いた前後制動力配分制御を行なうことが可能である。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項2記載の発明の構成に加えて、両後輪用回転速度センサのうち正常である後輪用回転速度センサおよび両前輪用回転速度センサの検出値からそれぞれ個別に得た車輪減速度の全てが、前記第1の設定減速度よりも低く設定した第2の設定減速度以上であることを、後輪に対応する常開型電磁弁の閉弁作動による制動力配分制御実行条件に付加することを特徴とし、これにより、3つの回転速度センサの検出値に基づく各車輪減速度が第2の設定減速度以上であることをもって悪路走行状態ではないと判断し、悪路走行による誤判断を回避して、前後制動力配分制御を実行することができる。
【0012】
さらに請求項4記載の発明は、前輪および後輪の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサと;マスタシリンダおよび車輪ブレーキ間に設けられる常開型電磁弁と;車輪ブレーキおよびリザーバ間に設けられる常閉型電磁弁と;前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁および前記常閉型電磁弁の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪および後輪にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニットと;を備える車両用制動力制御装置において、前記前輪用および後輪用回転速度センサ、前記常開型電磁弁、前記常閉型電磁弁および前記電子制御ユニット自体の演算機能の故障を識別して検知する機能を前記電子制御ユニットに備えさせるとともに、前記電子制御ユニット自体の演算機能および後輪に対応する常開型電磁弁のいずれかが故障しているときならびに前記電子制御ユニット自体の演算機能および後輪に対応する常開型電磁弁が正常であっても前記前輪用および後輪用回転速度センサの全てが故障しているときにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の実行をともに禁止する状態と、前記常閉型電磁弁および前記前輪に対応する常開型電磁弁のいずれか1つが故障であっても前記電子制御ユニット自体の演算機能、前記後輪に対応する常開型電磁弁および前記前輪用および後輪用回転速度センサの少なくとも1つが正常であるときにアンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続する状態とを、検知した故障モードに応じて電子制御ユニットで切換え、アンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態で1つまたは車両の左右方向同側に在る前輪用および後輪用回転速度センサの故障を検知したときには、車両の左右方向同側に在って正常な前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて車両の左、右両側での制動力配分制御を電子制御ユニットに実行させることを特徴とする。
【0013】
このような請求項4の発明によれば、アンチロックブレーキ制御の実行が困難な状況下にあっても制動力配分制御を実行可能な状態では制動力配分制御を継続するようにして、故障モードに応じた合理的な制御処理を行なうことが可能となる。またアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニットにより実行させることにより、前後の車輪速度差を正確に求め得ないことにより前後の制動力配分の推定が困難な状況下にあっても或る程度の制動力配分制御が可能となり、車両の安定性確保に寄与することができる。更にアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態で1つまたは車両の左右方向同側に在る前輪用および後輪用回転速度センサの故障を検知したときには、車両の左右方向同側に在って正常な前輪用および後輪用回転速度センサの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて車両の左、右両側での制動力配分制御を電子制御ユニットに実行させることにより、故障していない回転速度センサを用いた前後車輪速度差に基づく制動力配分制御を行なうことができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。 図1ないし図7は本発明の第1実施例を示すものであり、図1はブレーキ装置の液圧回路図、図2はブレーキ圧調整手段の構成を示す図、図3は制動力配分制御手順を示すフローチャート、図4は制動力配分制御モードの相関関係を示す図、図5は制動力配分制御のタイミングチャート、図6は故障時の制御手順の一部を示すフローチャート、図7は故障時の制御手順の残部を示すフローチャートである。
【0015】
先ず図1において、第1および第2出力ポート1,2を有するタンデム型のマスタシリンダMにはブレーキペダル3が連動、連結されており、ブレーキペダル3の踏込み操作に応じてマスタシリンダMの第1および第2出力ポート1,2からは相互に独立したブレーキ液圧が出力される。而して第1出力ポート1には、ブレーキ圧調整手段41 を有する第1ブレーキ液圧系統51 が接続されており、右前輪WFRに装着された右前輪ブレーキBFRならびに左後輪WRLに装着された左後輪ブレーキBRLが第1ブレーキ液圧系統51 に接続される。また第2出力ポート2には、ブレーキ圧調整手段42 を有する第2ブレーキ液圧系統52 が接続されており、左前輪WFLに装着された左前輪ブレーキBFLならびに右後輪WRRに装着された右後輪ブレーキBRRが第2ブレーキ液圧系統52 に接続される。各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRは、作用するブレーキ液圧に応じた制動力を発揮するものであり、たとえばディスクブレーキである。
【0016】
また左、右前輪WFL,WFRの回転速度は左、右前輪用回転速度センサSFL,SFRでそれぞれ検出され、左、右後輪WRL,WRRの回転速度は左、右後輪用回転速度センサSRL,SRRでそれぞれ検出される。これらの回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの検出値は電子制御ユニット6に入力され、電子制御ユニット6は、回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの検出値に基づいてブレーキ圧調整手段41 ,42 の作動を制御する。
【0017】
図2において、第1ブレーキ液圧系統51 におけるブレーキ圧調整手段41 は、マスタシリンダMの第1出力ポート1および右前輪ブレーキBFR間に設けられる常開型電磁弁7F と、第1出力ポート1および左後輪ブレーキBRL間に設けられる常開型電磁弁7R と、リザーバ8と、右前輪ブレーキBFRおよびリザーバ8間に設けられる常閉型電磁弁9F と、左後輪ブレーキBRLおよびリザーバ8間に設けられる常閉型電磁弁9R と、吸入口がリザーバ8に接続されるとともに吐出口が第1出力ポート1および常開型電磁弁7F ,7R 間に接続される戻しポンプ10と、該戻しポンプ10を駆動するモータ11とを備える。 常開型電磁弁7F ,7R は、消磁時に第1出力ポート1および各車輪ブレーキBFR,BRL間を連通する状態と、励磁時に第1出力ポート1から各車輪ブレーキBFR,BRLへの液圧作用を阻止するが各車輪ブレーキBFR,BRLから第1出力ポート1側へのブレーキ液の流れを許容する状態とを切換可能であり、常閉型電磁弁9F ,9R は、消磁時に各車輪ブレーキBFR,BRLおよびリザーバ8間を遮断する状態と、励磁時に各車輪ブレーキBFR,BRLおよびリザーバ8間を連通する状態とを切換可能である。
【0018】
第2ブレーキ液圧系統52 におけるブレーキ圧調整手段42 も、上記ブレーキ圧調整手段41 と同様に構成される。
【0019】
而して、常開型電磁弁7F ,7R 、常閉型電磁弁9F ,9R およびモータ11の作動は電子制御ユニット6により制御されるものであり、電子制御ユニット6は、各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの検出値に基づき、図3で示す手順に従って制動力配分制御を実行する。
【0020】
図3の第1ステップS1では、各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRから左、右前輪回転速度ωFL,ωFRおよび左、右後輪回転速度ωRL,ωRRを読込み、次の第2ステップS2に進んでタイヤ径の補正係数を演算する。すなわち車両が定速走行状態に在るときの各輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度ωFL,ωFR,ωRL,ωRRを比較することにより、タイヤ半径のばらつきを補正するための補正係数を演算することになる。
【0021】
第3ステップS3では、全車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度を演算する。すなわち左前輪速度VWFL 、右前輪速度VWFR 、左後輪速度VWRL および右後輪速度VWRR をそれぞれ次のようにして演算する。
【0022】
VWFL =rFL×ωFL
VWFR =rFR×ωFR
VWRL =rRL×ωRL
VWRR =rRR×ωRR
ここで、rFL,rFR,rRL,rRRは、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRのタイヤ動半径であり、タイヤ動半径の設定値が第2ステップS2で得られた補正係数で補正されたものである。
【0023】
第4ステップS4では、左側および右側で前後の車輪速度差ΔVL ,ΔVR を次の式に基づいてそれぞれ演算し、
ΔVL =VWRL −VWFL
ΔVR =VWRR −VWFR
第5ステップS5では、後輪減速度GW を後輪速度VWRL ,VWRR のいずれかの演算周期での変化量により求める。また第6ステップS6では、車体速度VV を、{(VWRL +VWRR )/2}として演算する。
【0024】
第7ステップS7では、前後の車輪速度差目標値ΔVO を次式に従って演算する。
【0025】
ΔVO =λ・VV −d
ここで、λ,dはそれぞれ一定値である。而してこの車輪速度差目標値ΔVO が大きくなれば、後輪側の車輪速度を速く、すなわち前輪側の制動力を大きくする制動力配分制御を実行することになる。
【0026】
第8ステップS8では、ブレーキ圧調整手段41 ,42 における後輪ブレーキBRR,BRLに対応する常開型電磁弁7R の制御量の演算を実行するが、この常開型電磁弁7R の制御にあたっては、図4で示すような3つの制御モード、すなわち停止モード、保持モードおよび増圧モードを切換える。而して停止モードは、常開型電磁弁7R を消磁したままとする状態、すなわちマスタシリンダMからのブレーキ液圧を左、右後輪ブレーキBRL,BRRにそのまま作用せしめるモードである。また保持モードは、常開型電磁弁7R を励磁してマスタシリンダMから後輪ブレーキBRL,BRRへの液圧作用を阻止し、後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧を保持するモードであり、マスタシリンダMの出力ブレーキ液圧増大時に保持モードとなると、前輪ブレーキBFL,BFRのブレーキ液圧が増大するのに対し後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧が保持されることにより、後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧配分比が低下せしめられることになる。さらに増圧モードは、常開型電磁弁7R の消磁・励磁を繰返し、マスタシリンダMからのブレーキ液圧を後輪ブレーキBRL,BRRに徐々に伝えることによって後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ圧を或る勾配で緩やかに増圧するモードであり、前記勾配を、ΔVL もしくはΔVR と、前後の車輪速度差目標値ΔVO との差に基づきPID演算によって設定する。
【0027】
停止モードから保持モードへは、次の第1条件の成立に応じて移行するものであり、この第1条件は、ΔVL (もしくはΔVR )<ΔV0 であって後輪減速度GW が第1設定値G1 (たとえば0.4g)を超えること、もしくは後輪減速度GW が第1設定値G1 よりも大きな第2設定値G2 (たとえば0.6g)を超えることである。すなわち、後輪減速度GW が第1設定値G1 を超えるとともに前輪WFL,WFRの車輪速度VWFL ,VWFR および後輪WRL,WRRの車輪速度VWRL ,VWRR の差ΔVL ,ΔVR と車輪速度差目標値ΔV0 との間に偏差が生じているとき、もしくは前輪WFL,WFRの車輪速度VWRL ,VWRR および後輪WRL,WRRの車輪速度VWRL ,VWRR の差ΔVL ,ΔVR にかかわらず後輪減速度GW が第2設定値G2 を超えたときに前後の制動力配分制御を開始することになり、これにより後輪側の制動力配分が過大になるのを抑制することができる。
【0028】
保持モードから停止モードへは、次の第2条件の成立によって移行する。この第2条件は、ブレーキ操作力が緩められたことを示すものであり、たとえば後輪減速度GW が或る値(たとえば0.2g)以下であること、もしくはブレーキランプ信号がオフとなること、もしくは車体速度VV がたとえば約5km/h以下となって車体がほぼ停止したことである。
【0029】
保持モードから増圧モードへは、次の第3条件の成立によって移行する。この第3条件は、ΔVL (もしくはΔVR )>ΔV1 であって後輪減速度GW が或る値(たとえば0.3g)以上であることである。ここでΔV1 は、車輪速度差目標値ΔVO にわずかな値(たとえば0.3km/h)を加算したものであり、制御が過敏になることを回避するために車輪速度差目標値にヒステリシスを持たせたものである。これにより、後輪側ブレーキ液圧の保持に伴って制動力配分が前輪寄りになったとき後輪側ブレーキ液圧を徐々に増大することで再び適正配分に修正することが可能となる。
【0030】
増圧モードから保持モードへは第4条件の成立によって移行するものであり、この第4条件は、ΔVL (もしくはΔVR )<ΔV0 であること、もしくは後輪減速度GW が或る値(たとえば0.2g)以下であることである。
【0031】
増圧モードから停止モードへは第5条件の成立により移行するものであり、この第5条件は、増圧モードが所定時間たとえば2秒間以上継続することである。これは、増圧時間が既に充分に継続し、後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧がマスタシリンダMの出力液圧に一致しているような場合にブレーキ圧調整手段41 ,42 の不必要な作動を抑制するものである。
【0032】
このような制動力配分制御によれば、図5で示すように、ブレーキ操作に応じてマスタシリンダMからの出力液圧が増圧されている過程で、後輪減速度GW が第1設定値G1 を超えていてΔVL (もしくはΔVR )<ΔV0 となった時刻t1 で、停止モードから保持モードへと移行することになり、後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧配分比が前輪ブレーキBFL,BFRに比べて低下せしめられ、後輪側の制動力が抑制される。
【0033】
保持モードから増圧モードへの移行に必要な第3条件、すなわちΔVL (もしくはΔVR )>ΔV1 であって後輪減速度GW が或る値(たとえば0.3g)以上である時刻t2 で保持モードから増圧モードに移行することになり、後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧が徐々に増圧される。従って保持モードによる制御により制動力配分が前輪寄りとなったのを、後輪ブレーキBRL,BRRのブレーキ液圧増圧によって適正配分に修正することになる。
【0034】
更に時刻t3 で第4条件の少なくとも1つ、例えばΔVL (もしくはΔVR )<ΔV0 であることが成立すると、増圧モードから保持モードへと再び移行することになる。
【0035】
このような制動力配分制御において、後輪減速度GW が第1および第2設定値G1 ,G2 を超えることを必要条件として前後制動力配分制御を実行するので、凹凸等の路面変動が在る場合や、駆動輪の駆動力に変化が生じたときに不必要に前後ブレーキ力配分制御を実行することを抑制することが可能である。特に、前後の車輪速度差ΔVL ,ΔVR が目標車輪速度差ΔVO からずれた状態で後輪減速度GW が第1設定値G1 を超えたときに前後制動力配分制御を実行することにより、不必要な制御を抑制することができ、後輪減速度GW が第1設定値G1 よりも大きな第2設定値G2 を超えたときには、前後の車輪速度差ΔVL ,ΔVR にかかわらず制動力配分制御を実行するので、急ブレーキ時に緩やかに変化する車体のピッチング運動の影響によって前後の車輪速度差ΔVL ,ΔVR の変化が遅れても速やかに制動力配分制御を開始することができる。
【0036】
電子制御ユニット6は、各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの検出値に基づき、常開型電磁弁7F ,7R 、常閉型電磁弁9F ,9R およびモータ11の作動を制御するようにしたアンチロックブレーキ制御も実行可能なものである。すなわち車輪ロックが生じそうになったときにはモータ11により戻しポンプ10を作動せしめ、常閉型電磁弁9F ,9R を消磁閉弁した状態で常開型電磁弁7F ,7R を励磁閉弁するとブレーキ液圧が保持され、常開型電磁弁7F ,7R を励磁閉弁した状態で常閉型電磁弁9F ,9R を励磁開弁するとブレーキ液圧がリザーバ8に解放されてブレーキ液圧が減圧され、その結果、車輪ロックのおそれがなくなった場合、常閉型電磁弁9F ,9R を消磁閉弁した状態で常開型電磁弁7F ,7R を消磁開弁するとブレーキ液圧が増圧されることになる。
【0037】
ところで、電子制御ユニット6は、各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRR、各常開型電磁弁7F ,7R 、各常閉型電磁弁9F ,9R 、戻しポンプ10、モータ11および電子制御ユニット6自体の演算機能の故障を検知する機能を有する。すなわち各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRについては、たとえば車両の走行開始後にそれらのセンサSFL,SFR,SRL,SRRから出力が得られないこと、ならびに各センサSFL,SFR,SRL,SRRへの電圧印加による断線・ショート検出等により故障を検出可能であり、常開型電磁弁7F ,7R および常閉型電磁弁9F ,9R については、たとえば各電磁弁の駆動回路への指令信号と各電磁弁のソレノイドに前記駆動回路から印加される電圧レベルとの比較により故障を検出可能であり、戻しポンプ10およびモータ11については、たとえばモータ駆動回路に対する指令信号とモータ端子電圧レベルとの比較により故障を検出可能である。
【0038】
このような回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRR、各常開型電磁弁7F ,7R 、各常閉型電磁弁9F ,9R 、戻しポンプ10、モータ11および電子制御ユニット6自体の演算機能の故障を検知したときに、電子制御ユニット6は、図6および図7で示す手順に従う処理を行なうものであり、先ず図6の第1ステップM1ないし第3ステップM3において、常閉型電磁弁9F ,9R 、制動力配分制御とは無関係である常開型電磁弁7F 、戻しポンプ10またはモータ11が故障しているか否かを判断し、それらのいずれかが故障しているときには第4ステップM4でアンチロックブレーキ制御(ABS制御)を禁止した後、第5ステップM5に進み、常閉型電磁弁9F ,9R 、常開型電磁弁7F 、戻しポンプ10およびモータ11が全て正常であったときには第3ステップM3から第5ステップM5に進む。
【0039】
第5ステップM5では、電子制御ユニット(ECU)6自体の演算機能が故障しているか否かを判断し、第6ステップM6では制動力配分制御に関係する常開型電磁弁7R が故障しているか否かを判断する。而して電子制御ユニット6自体の演算機能または常開型電磁弁7R が故障しているときには第7ステップM7でアンチロックブレーキ制御を禁止した後、図7の第18ステップM18に進み、電子制御ユニット6自体の演算機能および常開型電磁弁7R がともに正常であったときには図7の第8ステップM8に進む。
【0040】
図7の第8ステップM8では、回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの少なくとも1つが故障しているか否かを判断し、全ての回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRが正常であったときには、第9ステップM9において、(ΔVL =VWRL −VWFL ,ΔVR =VWRR −VWFR )と定めた後に、第10ステップM10において通常の制動力配分制御を継続する。
【0041】
また第8ステップM8で回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのいずれかが故障していると判断したときには、第11ステップM11でアンチロックブレーキ制御を禁止した後、第12ステップM12で車両の右側の車輪すなわち右前輪WFRおよび右後輪WRRに対応した回転速度センサSFR,SRRがともに正常であるか否かを判断する。この第12ステップM12で両回転速度センサSFR,SRRがともに正常であると判断したときには第13ステップM13に進み、両回転速度センサSFR,SRRの少なくとも一方が故障していると判断したときには第14ステップM14に進む。
【0042】
第13ステップM13では、回転速度センサSFR,SRRの検出値に基づく右前輪速度VWFR および右後輪速度VWRR を用いて、演算式(ΔV=VWRR −VWFR −e)により前後車輪速度差ΔVを演算し、その前後車輪速度差ΔVを用いた左右両側での制動力配分制御を第10ステップM10で実行することになる。すなわち回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのいずれかが故障している状態で、車両の右側の回転速度センサSFR,SRRがともに正常であるときには、それらの正常な回転速度センサSFR,SRRの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて車両の左右両側での制動力配分制御を実行することになる。
【0043】
また上記演算式においてeは、前輪側の制動力配分が通常の制動力配分制御時に比べて大となるように前後車輪速度差を制御するための設定値であり、たとえば1〜2km/hに設定している。
【0044】
第14ステップM14では、車両の左側の車輪すなわち左前輪WFLおよび左後輪WRLに対応した回転速度センサSFL,SRLがともに正常であるか否かを判断し、両回転速度センサSFL,SRLがともに正常であったときには第15ステップM15において、回転速度センサSFL,SRLの検出値に基づく左前輪速度VWFL および左後輪速度VWRL を用いて演算式(ΔV=VWRL −VWFL −e)により前後車輪速度差ΔVを演算し、その前後車輪速度差ΔVを用いた左右両側の制動力配分制御を第10ステップM10で実行することになる。すなわち回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのいずれかが故障している状態で、車両の左側の回転速度センサSFL,SRLがともに正常であるときには、それらの正常な回転速度センサSFL,SRLの検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて車両の左右両側での制動力配分制御を実行することになる。
【0045】
第14ステップM14で回転速度センサSFL,SRLの少なくとも一方が故障していると判断したときには、第16ステップM16において全ての回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRが故障しているか否かを判断し、それらの回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうちの少なくとも1つが正常であるとき、すなわち各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうち同軸二輪、対角二輪、または三輪に対応するセンサが故障しているときには、第17ステップM17を経て第10ステップM10に進む。
【0046】
上記第17ステップM17は、減速度パラメータによる制動力配分制御に変更するための処理を行なうものであり、後輪減速度GW または車体減速度がしきい値(たとえば0.6g)を超えたときに保持モードとするような制動力配分制御を第17ステップM17および第10ステップM10で実行することになる。このような減速度パラメータによる制動力配分制御は、理想制動力配分を達成し得るものではないが、車両の安定性をある程度確保し得る制動力配分効果を奏することができる。
【0047】
また第16ステップM16で全ての回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRが故障していると判断したときには、第18ステップM18で制動力配分制御を禁止するものであり、図6の第5ステップM5および第6ステップM6で、電子制御ユニット6自体の演算機能、または常開型電磁弁7R が故障していると判断したときには、第7ステップM7でアンチロックブレーキ制御を禁止した後に第18ステップM18で制動力配分制御も禁止することになる。
【0048】
次にこの第1実施例の作用について説明すると、各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの少なくとも1つ、常閉型電磁弁9F ,9R 、制動力配分制御とは無関係の常開型電磁弁7F 、戻しポンプ10またはモータ11が故障していることを検知したときにはアンチロックブレーキ制御を禁止するが、その状態で、各回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの少なくとも1つ、制動力配分制御に関係する常開型電磁弁7R および電子制御ユニット6自体の演算機能が正常であったときには、制動力配分制御を継続させるようにしている。すなわちアンチロックブレーキ制御の実行が困難な状況下にあっても、制動力配分制御の実行が可能な場合には、アンチロックブレーキ制御および制動力配分制御をともに禁止するのではなく、故障モードに応じた合理的な制御処理を行なうことができる。
【0049】
しかもアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態で、特に回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうち車両の左右いずれか一方側の前後のセンサが正常であるときには、通常の制動力配分制御時に比べて前輪側の制動力配分を大とした制動力配分制御を行なうので、安定性をより重視した制動力配分制御を行なうことができる。すなわちアンチロックブレーキ制御を実行し得るときには、車輪のロックをアンチロックブレーキ制御によって回避して車両の安定性を確保し得ることから後輪の制動力を充分に活用してブレーキ性能を向上させ得るのに対し、アンチロックブレーキ制御の禁止時には車輪ロックの可能性があるものであり、後輪側の制動力配分をわずかに小さくすることにより後輪が先行してロック状態に陥ることを確実に回避して車両の安定性を確保するものである。
【0050】
またアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態で、特に、回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうち同軸二輪、対角二輪、または三輪に対応するセンサが故障しているときには、後輪減速度GW または車体減速度に基づく制動力配分制御を行なうものであり、これにより、前後の車輪速度差を正確に求め得ないことから前後の制動力配分の推定が困難な状況下にあっても、車両の安定性をある程度確保し得る制動力配分制御を行なうことができる。
【0051】
さらに回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRの少なくとも1つが故障していることによりアンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態で、それらの回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうち車両の左右方向同側に在って正常な前後一対のセンサから得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて車両の左、右両側での制動力配分制御を行なうことにより、故障していない回転速度センサを用いた前後車輪速度差に基づく制動力配分制御を行なうことができる。
【0052】
図8及び図9は本発明の第2実施例を示すものであり、図8は故障時の制御手順の図7に対応したフローチャート、図9は制動力配分制御モードの相関関係を示す図である。
【0053】
この第2実施例では、上記第1実施例における図7のフローチャートに代えて図8のフローチャートを用いて故障時の制御を行なうものであり、図8の第8ステップM8〜第10ステップM10では、図7のフローチャートと同一の処理を実行する。
【0054】
また第8ステップM8で回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのいずれかが故障していると判断したときには、第11ステップM11でアンチロックブレーキ制御を禁止した後、第19ステップM19で四輪の回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうちの3つが正常であるか否かを判断し、四輪の回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうちの2つ以上が故障している場合には、第18ステップM18で制動力配分制御を禁止する。また四輪の回転速度センサSFL,SFR,SRL,SRRのうちの3つが正常であった場合には、第19ステップM19から第20ステップM20に進み、この第20ステップM20で左、右後輪用回転速度センサSRL,SRRがともに正常であるか否かを判断する。この第20ステップM20で両回転速度センサSRL,SRRのいずれかが故障している場合には、第21ステップM21、第22ステップM22の処理を終了した後に第10ステップM10に進み、両回転速度センサSRL,SRRがともに正常であると判断したときには第21ステップM21を迂回して第22ステップM22に進む。
【0055】
第21ステップM21では、左、右後輪用回転速度センサSRL,SRRのうち故障している回転速度センサに対応した後輪と車両の左、右同一側である前輪の回転速度を検出する前輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度を、故障している回転速度センサに対応した後輪の減速度に置き換える。すなわち左後輪用回転速度センサSRLが故障しているときには、左後輪減速度GWRL を左前輪用回転速度センサSFLの検出値から得た左前輪減速度GWFL とし、右後輪用回転速度センサSRRが故障しているときには、右後輪減速度GWRR を右前輪用回転速度センサSFRの検出値から得た右前輪減速度GWFR とする。
【0056】
第22ステップM22では、減速度パラメータによる制動力配分制御に変更するための処理を行なうものであり、この減速度パラメータによる制動力配分制御では、図9で示すように、第6条件の成立で停止モードから保持モードに移行し、第7条件の成立で保持モードから停止モードに移行する。
【0057】
而して第6条件は、両後輪減速度GWRL ,GWRR の少なくとも一方が第1の設定減速度である0.6g以上であること、ならびに両後輪用回転速度センサSRL,SRRのうち正常である後輪用回転速度センサおよび両前輪用回転速度センサSFL,SFRの検出値からそれぞれ個別に得た車輪減速度の全てが前記第1の設定値よりも低く設定した第2の設定減速度たとえば0.2g以上であることである。
【0058】
また第7条件は、両後輪用回転速度センサSRL,SRRのうち正常である後輪用回転速度センサおよび両前輪用回転速度センサSFL,SFRの検出値からそれぞれ個別に得た車輪減速度の全てが、たとえば0.5g未満であることである。
【0059】
この第2実施例によれば、左、右後輪用回転速度センサSRL,SRRのうち一方の故障を検知したときの制動力配分制御時に、故障を検知した回転速度センサに対応した後輪と車両の左、右同一側である前輪の回転速度を検出する前輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度と、正常である後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度とが第1の設定減速度(0.6g)以上であることを、制動力配分制御実行条件の1つとしたことにより、故障していない回転速度センサを用いた前後制動力配分制御を行なうことが可能となる。しかも制動力配分制御実行条件の他の1つとして、両後輪用回転速度センサSRL,SRRのうち正常である後輪用回転速度センサおよび両前輪用回転速度センサSFL,SFRの検出値からそれぞれ個別に得た車輪減速度の全てが、前記第1の設定減速度よりも低く設定した第2の設定減速度(0.2g)以上であることとしているので、3つの回転速度センサの検出値に基づく各車輪減速度が第2の設定減速度以上であることをもって悪路走行状態ではないと判断し、悪路走行による誤判断を回避して、前後制動力配分制御を実行することができる。
【0060】
この第2実施例の第22ステップM22において、停止モードから保持モードに移行するための第6条件を、両後輪減速度GWRL ,GWRR がともに第1の設定減速度である0.6g以上であること、ならびに両後輪用回転速度センサSRL,SRRのうち正常である後輪用回転速度センサおよび両前輪用回転速度センサSFL,SFRの検出値からそれぞれ個別に得た車輪減速度の全てが前記第1の設定値よりも低く設定した第2の設定減速度たとえば0.2g以上であることであると定めてもよい。
【0061】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0062】
たとえば、上記実施例ではX配管のブレーキ装置について説明したが、本発明は全ての配管形式のブレーキ装置について適用可能である。
【0063】
【発明の効果】
以上のように各請求項の発明によれば、アンチロックブレーキ制御の実行が困難な状況下にあっても制動力配分制御を実行可能な状態では制動力配分制御を継続することができ、故障モードに応じた合理的な制御処理を行なうことが可能となる。
【0064】
また特に請求項1の発明によれば、前後の車輪速度差を正確に求め得ないことにより前後の制動力配分の推定が困難な状況下にあっても或る程度の制動力配分制御を行なうことが可能となり、車両の安定性確保に寄与することができる。しかも後輪が車輪ロックに陥ることを極力回避しつつ、車両の安定性をより重視した制動力配分制御を行なうことができる。
【0065】
また特に請求項2の発明によれば、前後の車輪速度差を正確に求め得ないことにより前後の制動力配分の推定が困難な状況下にあっても或る程度の制動力配分制御を行なうことが可能となり、車両の安定性確保に寄与することができる。しかも故障していない回転速度センサを用いた前後制動力配分制御を行なうことが可能である。
【0066】
また特に請求項3の発明によれば、3つの回転速度センサの検出値に基づく各車輪減速度が第2の設定減速度以上であることをもって悪路走行状態ではないと判断し、悪路走行による誤判断を回避して、前後制動力配分制御を実行することができる。
【0067】
また特に請求項4の発明によれば、故障していない回転速度センサを用いた前後車輪速度差に基づく制動力配分制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ブレーキ装置の液圧回路図である。
【図2】ブレーキ圧調整手段の構成を示す図である。
【図3】制動力配分制御手順を示すフローチャートである。
【図4】制動力配分制御モードの相関関係を示す図である。
【図5】制動力配分制御のタイミングチャートである。
【図6】故障時の制御手順の一部を示すフローチャートである。
【図7】故障時の制御手順の残部を示すフローチャートである。
【図8】第2実施例での故障時の制御手順の図7に対応したフローチャートである。
【図9】制動力配分制御モードの相関関係を示す図である。
【符号の説明】
6・・・電子制御ユニット
7 F ,7R ・・・常開型電磁弁
8・・・リザーバ
9 F ,9 R ・・・常閉型電磁弁
BFL,BFR,BRL,BRR・・・車輪ブレーキ
M・・・マスタシリンダ
SFL,SFR・・・前輪用回転速度センサ
SRL,SRR・・・後輪用回転速度センサ
WFL,WFR・・・前輪
WRL,WRR・・・後輪
Claims (4)
- 前輪(WFL,WFR)および後輪(WRL,WRR)の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)と;マスタシリンダ(M)および車輪ブレーキ(B FL ,B FR ,B RL ,B RR )間に設けられる常開型電磁弁(7 F ,7 R )と;車輪ブレーキ(B FL ,B FR ,B RL ,B RR )およびリザーバ(8)間に設けられる常閉型電磁弁(9 F ,9 R )と;前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR,SRL,SRR)の検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁(7 F ,7 R )および前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)の検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪(WFL,WFR)および後輪(WRL,WRR)にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁(7F ,7R )のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニット(6)と;を備える車両用制動力制御装置において、
前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )、前記常開型電磁弁(7 F ,7 R )、前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )および前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能の故障を識別して検知する機能を前記電子制御ユニット(6)に備えさせるとともに、前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能および後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )のいずれかが故障しているときならびに前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能および後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )が正常であっても前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )の全てが故障しているときにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の実行をともに禁止する状態と、前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )および前記前輪(W FL ,W FR )に対応する常開型電磁弁(7 F )のいずれか1つが故障であっても前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能、前記後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )および前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )の少なくとも1つが正常であるときにアンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続する状態とを、検知した故障モードに応じて電子制御ユニット(6)で切換え、
アンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続した状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニット(6)により実行させ、
更に制動力配分制御を継続するにあたって、後輪用回転速度センサ(SRL,SRR)の検出値に基づいて得た後輪減速度が設定減速度以上であるときに、後輪(WRL,WRR)に対応する常開型電磁弁(7R )を閉弁作動せしめて後輪ブレーキ力を保持した状態での制動力配分制御を電子制御ユニット(6)により実行させることを特徴とする、車両用制動力制御装置における制御方法。 - 前輪(WFL,WFR)および後輪(WRL,WRR)の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)と;マスタシリンダ(M)および車輪ブレーキ(B FL ,B FR ,B RL ,B RR )間に設けられる常開型電磁弁(7 F ,7 R )と;車輪ブレーキ(B FL ,B FR ,B RL ,B RR )およびリザーバ(8)間に設けられる常閉型電磁弁(9 F ,9 R )と;前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR,SRL,SRR)の検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁(7 F ,7 R )および前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)の検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪(WFL,WFR)および後輪(WRL,WRR)にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁(7F ,7R )のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニット(6)と;を備える車両用制動力制御装置において、
前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )、前記常開型電磁弁(7 F ,7 R )、前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )および前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能の故障を識別して検知する機能を前記電子制御ユニット(6)に備えさせるとともに、前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能および後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )のいずれかが故障しているときならびに前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能および後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )が正常であっても前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )の全てが故障しているときにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の実行をともに禁止する状態と、前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )および前記前輪(W FL ,W FR )に対応する常開型電磁弁(7 F )のいずれか1つが故障であっても前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能、前記後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )および前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )の少なくとも1つが正常であるときにアンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続する状態とを、検知した故障モードに応じて電子制御ユニット(6)で切換え、
アンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続した状態では、車体減速度または車輪減速度に基づく制動力配分制御を電子制御ユニット(6)により実行させ、
更に左、右後輪用回転速度センサ(SRL,SRR)のうち一方の故障を検知したときに、故障を検知した回転速度センサに対応した後輪と車両の左、右同一側である前輪の回転速度を検出する前輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度、ならびに左、右後輪用回転速度センサ(SRL,SRR)のうち正常である後輪用回転速度センサの検出値から得た車輪減速度の少なくとも一方が第1の設定減速度以上であることを、後輪(WRL,WRR)に対応する常開型電磁弁(7R )の閉弁作動による制動力配分制御実行条件の少なくとも1つに定めることを特徴とする、車両用制動力制御装置における制御方法。 - 両後輪用回転速度センサ(SRL,SRR)のうち正常である後輪用回転速度センサおよび両前輪用回転速度センサ(SFL,SFR)の検出値からそれぞれ個別に得た車輪減速度の全てが、前記第1の設定減速度よりも低く設定した第2の設定減速度以上であることを、後輪(WRL,WRR)に対応する常開型電磁弁(7R )の閉弁作動による制動力配分制御実行条件に付加することを特徴とする、請求項2記載の車両用制動力制御装置における制御方法。
- 前輪(WFL,WFR)および後輪(WRL,WRR)の回転速度をそれぞれ検出する前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)と;マスタシリンダ(M)および車輪ブレーキ(B FL ,B FR ,B RL ,B RR )間に設けられる常開型電磁弁(7 F ,7 R )と;車輪ブレーキ(B FL ,B FR ,B RL ,B RR )およびリザーバ(8)間に設けられる常閉型電磁弁(9 F ,9 R )と;前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR,SRL,SRR)の検出値から得た車輪速度に基づく車輪のロック傾向判断結果に応じて前記常開型電磁弁(7 F ,7 R )および前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )の作動を制御して前記ロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御、ならびに前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)の検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて前輪(WFL,WFR)および後輪(WRL,WRR)にそれぞれ対応する前記常開型電磁弁(7F ,7R )のうち少なくともいずれかの作動を制御して前、後の制動力配分を行なう制動力配分制御を実行し得る電子制御ユニット(6)と;を備える車両用制動力制御装置において、
前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )、前記常開型電磁弁(7 F ,7 R )、前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )および前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能の故障を識別して検知する機能を前記電子制御ユニット(6)に備えさせるとともに、前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能および後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )のいずれかが故障しているときならびに前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能および後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )が正 常であっても前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )の全てが故障しているときにアンチロックブレーキ制御および制動力配分制御の実行をともに禁止する状態と、前記常閉型電磁弁(9 F ,9 R )および前記前輪(W FL ,W FR )に対応する常開型電磁弁(7 F )のいずれか1つが故障であっても前記電子制御ユニット(6)自体の演算機能、前記後輪(W RL ,W RR )に対応する常開型電磁弁(7 R )および前記前輪用および後輪用回転速度センサ(S FL ,S FR ,S RL ,S RR )の少なくとも1つが正常であるときにアンチロックブレーキ制御の実行を禁止するが制動力配分制御の実行を継続する状態とを、検知した故障モードに応じて電子制御ユニット(6)で切換え、
アンチロックブレーキ制御を禁止するが制動力配分制御を継続させた状態で1つまたは車両の左右方向同側に在る前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR,SRL,SRR)の故障を検知したときには、車両の左右方向同側に在って正常な前輪用および後輪用回転速度センサ(SFL,SFR;SRL,SRR)の検出値から得た前輪および後輪速度の比較結果に基づいて車両の左、右両側での制動力配分制御を電子制御ユニット(6)に実行させることを特徴とする、車両用制動力制御装置における制御方法。
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