JP3610145B2 - 芯鞘型セルロースアセテート複合繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微粒子無機物を繊維表面に突出させてドライ感を十分に発揮させた芯鞘型セルロースアセテート複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアセテート繊維は、高級な光沢感と適度な吸湿性に併せて、独特なドライ感があり、ポリエステル繊維等の合成繊維とは異なり、天然繊維に比較的近い素材として婦人衣料分野で広く利用されている。
この優れた特徴をさらに引き出すべく、これまでに多くの試みがなされてきている。
【0003】
その一つとして、ドライ感の向上を目的とした検討が進められている。
例えば、セルロースアセテート繊維を製糸する際に水蒸気雰囲気中で乾式紡糸を行って繊維表面にボイドを形成する方法(特開昭54ー6918号公報)や、製糸後にアセテート可溶な溶剤に短時間浸漬処理して極表層のみを溶解し凹凸を形成する方法(特開昭55ー93814号公報)が報告されているが、得られる繊維の強伸度の著しい低下や処理斑等が大きく、実用的には難しい面を備えている。
【0004】
また、製糸時の繊維形成過程を制御する方法、具体的には紡糸ノズルでの紡糸原液の吐出線速度と巻き取り速度を適当な条件に設定し繊維表面により複雑な凹凸を付与する方法(特公平3ー36928号公報)が検討され、該方法により得られたセルロースアセテート繊維はドライ風合いが向上した素材として上市がなされている。しかし、該方法は製糸速度が極めて遅いために生産性が低いという問題点を有している。
【0005】
更には、セルロースアセテート繊維に生化学的処理を施して繊維表面に凹凸を形成する方法、具体的にはセルロースアセテート繊維をアルカリ処理して繊維表層をセルロース化した後、セルロース分解酵素でセルロース化部を分解除去する方法(特開平5ー27067号公報)も提案されているが、十分なドライ感を得るには至っていない。
【0006】
ところで、ナイロンやポリエステル等の合成繊維においては、水や有機溶剤等に可溶な物質を予め紡糸原液に混合して製糸し、その後水や有機溶剤等で処理して凹凸を形成する方法が一般的に実用化されており、さらに最近では微粒子無機物を含有する紡糸原液を用いて製糸し、繊維表面に微粒子無機物を部分的に突出させて微細凹凸を形成する方法(特公平4ー9205号公報)等、多くの検討もなされている。
【0007】
セルロースアセテート繊維の場合においても、本出願人は、予め平均粒径0.01〜0.3μmの微粒子無機物を紡糸原液に混合して製糸する方法(特開平7−97713号)を提案した。
【0008】
しかしながら、微粒子無機物を繊維全体に分散させることにより表面に凹凸を形成させる方法で、十分なドライ感を発揮させるためには、非常に多量の微粒子無機物を繊維内部に含有させる必要があり、そのために元来より他繊維と比較して低い繊維強度がさらに低下すること、及びセルロースアセテート繊維独特の光沢感が著しく低下してしまうといった問題点があり、従って微粒子無機物を単に含有させることでは、ドライ感の向上を達成することが困難であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決し、微粒子無機物を繊維表面に突出させてドライ感を十分に発揮させつつも、繊維強度、及び光沢感の低下を抑制した、セルロースアセテート繊維を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨は、屈折率が1.3〜1.9である微粒子無機物を5〜80重量%含有するセルロースアセテート成分を鞘部に、セルロースアセテート成分を芯部に配したことを特徴とする芯鞘型セルロースアセテート複合繊維である。本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維は、繊維表層に微粒子無機物を局在化させて突出させことにより、繊維表面に巾及び高さが0.05〜1.5μmの微細凸部が1×10ー2mm2当たり300個以上存在させることが可能となり、セルロースアセテート繊維のドライ感を強調させることができる。繊維表面の微細凸部が1×10ー2mm2当たり300個未満の場合には十分なドライ感が得られない場合がある。
【0011】
このように、微粒子無機物を鞘部だけに含有させることによりことが可能になり、しかも、繊維強度をレギュラーのセルロースアセテートとほぼ同じ程度に維持できる。特に、微粒子無機物を繊維全体に分散させる方法では困難であった繊維強度が1.0g/d以上有する繊維表面に凹凸が形成されたセルロースアセテート繊維を得ることができる。すなわち、繊維全体に微粒子無機物を単純に分散させたセルロースアセテート繊維において、ドライ感を強調するために微粒子無機物を大量に含有させると繊維強度が著しく低下して、混繊、撚糸、製織等の糸加工工程で問題が発生する場合があるのに対して、本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維は工程通過性に問題が生じることが無い。
【0012】
しかも、微粒子無機物を繊維全体に分散させたセルロースアセテート繊維では、微粒子無機物の存在により、繊維表面が凹凸になるほど、光沢の低下が起こるのに対して、本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維は、繊維表面の凹凸が大きくなっても光沢の低下が少ないという特徴を有する。この理由はよく分からないが、光の反射は、表面だけで起こるものでなく、反射面の内部まで進入してから、起きることによるものと思われる、すなわち、本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維は、繊維表面の凹凸が大きくても、芯部のセルロースアセテート部分により、光散乱が減少することにより光沢感の低下が抑制されたものと思われる。
【0013】
本発明においては、微粒子無機物として屈折率が1.3〜1.9、好ましくは1.4〜1.7でる無機物を用いる。このような屈折率を有する無機物はセルロースアセテートの屈折率に近似していることにより、光沢感の低下を抑制することが可能となり、屈折率が1.3〜1.9の範囲外では、セルロースアセテート繊維の特徴である光沢感、発色性の良さ等を損ねる。
かかる無機物としては、具体的には、例えば、炭酸バリウム(屈折率1.53、比重4.4)、硫酸バリウム(屈折率1.64、比重4.1)、酸化亜鉛(屈折率1.9、比重5.6)等が挙げられる。特に硫酸バリウムは、高比重化及び光沢感、さらに、人体への影響(化学的・物理的安定性)等の面でも非常に好ましい。
【0014】
また、鞘部成分中へ含有せしめる微粒子無機物の凝集体(集合体)の大きさにより、繊維の物性に差が表れ、紡糸性、後工程通過性等に影響を及ぼすので、含有せしめる微粒子無機物の凝集体としての平均粒径が1.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは凝集体としての平均粒径1μm以下である。これより大きいと繊維物性の低下が著しく、紡糸性、後工程通過性等が非常に悪くなる。
凝集体としての平均粒径が1.5μm以下にするためには、添加する微粒子無機物の一次粒径(平均粒径)が0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μmである。これより大きいと微粒子無機物の凝集体の平均粒径が大きくなり、繊維物性が極端に悪くなり易い、また、繊維形成上、例えば紡糸工程での糸切れ等のトラブルが多発したする。
【0015】
鞘部成分中への微粒子無機物の含有量は5〜80重量%であり、5重量%未満では、繊維表面の凹凸の形成が不十分となり、十分なドライ感を得ることができない。また、80重量%を超えると、繊維の強度及び伸度の低下が著しく実用上問題となる。
【0016】
本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維の鞘部を構成する微粒子無機物を含有するセルロースアセテート成分(A成分)と、芯部を構成するセルロースアセテート成分(B成分)の複合比率は特に限定されるものではなく、目的に応じて設定すればよいが、好ましい複合比率は、(A成分):(B成分)=50:50〜5:95、さらに好ましくは、(A成分):(B成分)=40:60〜20:80である。前記の複合比率が(A成分):(B成分)=約100:約0〜50:50の条件では、繊維強度が不十分なものとなり、後工程通過性等に問題を生じる。また、光沢感の低下が大きくなる。また、前記の複合比率が(A成分):(B成分)=5:95〜約0:約100の範囲では、芯鞘型形成が不十分になる場合がある。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の詳細を説明する。
本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維を得るには、次のような方法が採られる。本発明のセルロースアセテート複合繊維に用いるセルロースアセテートは、酢化度56.2%〜62.5%のセルローストリアセテートでもよく、酢化度48.8%〜56.2%のセルロースジアセテートでも良い。
【0018】
芯鞘型セルロースアセテート複合繊維を得るに際して、複合紡糸の際に芯部に分配される紡糸原液については、セルローストリアセテート又はセルロースジアセテートのフレークを塩化メチレン、アセトン等の単独溶剤或いは塩化メチレンとメタノール等の混合溶剤に溶解し、溶液濃度を15〜30重量%、好ましくは18〜27重量%とした紡糸原液を調製する。
【0019】
一方、複合紡糸の際して、鞘部に分配される、屈折率が1.3〜1.9である微粒子無機物を含有する紡糸原液については、前記セルロースアセテートの溶剤に微粒子無機物を分散させた分散液を、同様の溶剤にセルロースアセテートを溶解させた溶液に添加、混合する、或いは、セルロースアセテートを溶解させた溶液に直接微粒子無機物を添加、混合する等の方法により作製し、濃度を適正な条件範囲に調整する。
【0020】
ここで、凝集体の平均粒径が大きくならないように、紡糸原液を調製することが肝要である。凝集体の平均粒径を調製する方法として、分散機を用いて行うことが好ましい。例えば、分散機として横型サンドミルを用いる場合、ディスク周速、ビーズ径(0.8〜1.0mmφ)、ビーズ充填率、ベッセル内部での滞在時間などを適宜調整することによって、凝集体の平均粒径が大きくならないようにすることができる。
【0021】
前記2種の紡糸原液を用いて、ノズルパックへ2種の紡糸原液を供給し、該微粒子無機物を含有する紡糸原液を芯部に、及び他方の紡糸原液を鞘部に分配して複合紡糸用ノズル装置より高温雰囲気中に吐出し、溶剤を揮散させることにより、本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維を得ることができる。なお、乾式紡糸でなく、湿式紡糸を行っても良い。
【0022】
本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維の繊維形状は、ステープル、フィラメントのいずれであってもよい。
【0023】
【実施例】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明する。
なお、実施例、比較例、及び参考例で用いたそれぞれの評価方法を下記に示す。
【0024】
〈光沢〉:試料の繊維を4cmの幅に隙間無く平行にならべ、繊維と直角で且つ平面に対して45゜方向から光を当て、入射光に対して直角方向に乱反射する光の強さを測定した。光沢の測定は、デジタル変角光沢計VG−10(日本電色工業社製)を用いて測定した。
【0025】
〈摩擦係数〉:走行速度22mm/min、初期張力(T1)15gで鏡面クロムの円柱(40mmφ)状の摩擦抵抗体に接触角度180゜で試料を走行させた時の走行張力(T2)を、東レエンジニアリング(株)製走糸法摩擦測定器YF−850を用いて測定し、摩擦係数を下記式より算出した。
摩擦係数=(T2−T1)/(T1+T2)
【0026】
〈無機物凝集体の平均粒径〉:原液中の無機物凝集体の平均粒径を、(株)堀場製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置LA−500形を用い測定した。
【0027】
(実施例1)
平均酢化度61.6%のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解し、濃度21.9重量%の溶液(B成分)を調整した。一方、平均粒径0.05μmの硫酸バリウムを、塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に均一に分散させ分散液を調整した。次にセルロースアセテート溶液と硫酸バリウム分散液を攪拌混合して、全固形分濃度25.6重量%、セルロースアセテートに対する硫酸バリウム濃度28.4重量%の紡糸原液(A成分)を作製した。 前記2種の紡糸原液を用いて、A成分を鞘部に、及びB成分を芯部にして、乾式紡糸法により(A成分):(B成分)の複合比率=23:77として、複合紡糸(製糸速度500m/min)を行い75デニール、20フィラメントの芯鞘型セルローストリアセテート複合繊維を得た。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製した紡糸原液を用いて、A成分を鞘部に、及びB成分を芯部にして、乾式紡糸法により(A成分):(B成分)の複合比率=38:62として、複合紡糸(製糸速度500m/min)を行い75デニール、20フィラメントの芯鞘型セルローストリアセテート複合繊維を得た。
【0029】
(実施例3)
実施例1と同様にして作製した紡糸原液を用いて、A成分を鞘部に、及びB成分を芯部にして、乾式紡糸法により(A成分):(B成分)の複合比率=55:45として、複合紡糸(製糸速度500m/min)を行い75デニール、20フィラメントの芯鞘型セルローストリアセテート複合繊維を得た。
【0030】
(比較例1)
平均酢化度61.6%のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解し、濃度21.9重量%の溶液を調整した。一方、平均粒径0.05μmの硫酸バリウムを、塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に均一に分散させ分散液を調整した。次にセルロースアセテート溶液と硫酸バリウム分散液を攪拌混合して、全固形分濃度25.6重量%、セルロースアセテートに対する硫酸バリウム濃度28.4重量%の紡糸原液を作製した。
この紡糸原液を用いて乾式紡糸法により75デニール、20フィラメントの微粒子無機物含有セルローストリアセテート繊維を得た。
【0031】
(参考例1)
従来のセルローストリアセテートブライト繊維の製造方法に従って、平均酢化度61.6%のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノール混合溶剤に溶解したセルローストリアセテート溶液を紡糸原液として作製した。この紡糸原液を用いて乾式紡糸法により75デニール、20フィラメントのセルローストリアセテート繊維を得た。
【0032】
(参考例2)
特公平3ー36928の製造方法に従って、平均酢化度61.6%のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノール混合溶剤に溶解したセルローストリアセテート溶液を紡糸原液として、吐出線速度665m/min、製糸速度200m/minの紡糸条件で75デニール、15フィラメントの繊維表面に複雑な凹凸を有するセルローストリアセテート繊維を得た。なお、製糸速度500m/minで同様なセルローストリアセテート繊維を得ようとした場合、極めて紡糸圧力が増加して紡糸困難であった。
【0033】
表1に得られた繊維の繊維強度、光沢値、及び摩擦係数を、また、図1に、実施例1で得られた本発明の芯鞘型セルローストリアセテート複合繊維の繊維側面の電子顕微鏡写真を、図2に参考例1で得られたセルローストリアセテート繊維の繊維側面の電子顕微鏡写真を示した。
本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維は、従来のセルロースアセテート繊維の比較的平滑な繊維表面と異なり、微粒子無機物が繊維表面に露出していることから微細凸部が形成されており、且つ繊維側面には微細凸部が1×10ー2mm2当たりに8000〜10000個形成されていた。
【0034】
その結果、本発明の芯鞘型セルロースアセテート繊維の摩擦係数は従来のセルローストリアセテート繊維と比較して極めて小さいものとなっており、本発明の芯鞘型セルロースアセテート繊維は極めてドライ感を有する繊維となっている。一方、混合紡糸により得られた微粒子無機物含有セルロースアセテート繊維(比較例1)は、本発明の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維に比べてドライ感が若干低く、しかも、繊維強度や光沢の低下が著しく、糸加工工程通過性や風合いの点で問題が生じる可能性がある。
また、参考例2で得られた繊維表面に複雑な凹凸を有するセルロースアセテート繊維もほぼ同様な摩擦係数であり同様なドライ感を有しているものの、製糸速度は極めて遅く、生産性の点で問題が大きい。
【0035】
【表1】
【0036】
【発明の効果】
本発明は、芯鞘型複合紡糸技術を用いることによって、実用的な繊維強度、及び光沢感を有し、且つ従来のセルロースアセテート繊維には無い繊維表面の微細凸部を形成せしめることにより、極めてドライ感の向上したセルロースアセテート繊維を提供しうるものであり、従来のセルロースアセテート繊維では達成できなかった消費者ニーズの多様化、高級化への対応を可能にするものであり、その価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の芯鞘型セルローストリアセテート複合繊維の繊維側面の電子顕微鏡写真である。
【図2】従来のセルローストリアセテート繊維の繊維側面の電子顕微鏡写真である。
Claims (6)
- 屈折率が1.3〜1.9である微粒子無機物を5〜80重量%含有するセルロースアセテート成分を鞘部に、セルロースアセテート成分を芯部に配したことを特徴とする芯鞘型セルロースアセテート複合繊維
- 繊維表面に巾及び高さが0.05〜1.5μmの微細凸部が1×10ー2mm2当たり300個以上存在することを特徴とする請求項1記載の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維。
- 繊維強度が1.0g/d以上であることを特徴とする、請求項1又は2記載の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維。
- 微粒子無機物の凝集体としての平均粒径が1.5μm以下である請求項1、2又は3記載の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維。
- 凝集体を形成する微粒子無機物の平均一次粒径が0.5μm以下である請求項1、2、3又は4記載の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維。
- 微粒子無機物が硫酸バリウムである請求項1、2、3、4又は5記載の芯鞘型セルロースアセテート複合繊維。
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