JP3589511B2 - ポリエステル系低捲縮加工糸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,糸条の長手方向に太部と細部を交互に有するフィラメントで構成され,高いドレープ性と優れた弾発性とを有する織編物を得るのに好適なポリエステル系低捲縮加工糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルマルチフィラメント糸は,強撚糸にして製織し,高い減量率で加工すれば,ドレープ性や弾発性のある布帛となるが,そのためには高度の加工技術が必要であり,通常の原糸や加工糸を用いると,必ずしも強撚や減量処理を施しても上記風合の布帛を得ることができなかった。
【0003】
また,配向斑や太細斑を有するポリエステル糸条はよく知られており,その製造法も各種提案されている。例えば,特公平2−29773号公報や特公平3−72730号公報には,ポリエステル高配向未延伸糸を弛緩熱処理し,次いで冷延伸した後,スピンドルタイプの仮撚加工を施して得られた太細加工糸が開示されている。
【0004】
この太細加工糸は,外観が凹凸形態を呈し,構成フイラメント間に大きな糸長差を有しているので嵩高性やソフト感等スパンライクな風合を有するが,ドレープ性に乏しく,また,高捲縮のクリンプを有するものの,張り,腰のある風合よりは,むしもヌメリ感が強く,弾発性に欠ける風合であった。
また,この加工糸にドレープ性や弾発性を付与するために撚糸やアルカリ減量加工等を行った場合,撚糸工程で太部が毛羽立ったり,糸切れを誘発する,アルカリ処理で太部が脆化する,等の問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,上述した従来の太細加工糸の欠点を解消し,布帛に高いドレープ性と優れた弾発性及び適度なシャリ感を付与するとともに,後工程で毛羽や糸切れ等が発生し難い太細斑を有するポリエステル系低捲縮加工糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポリエステルマルチフィラメント糸を構成する各々のフィラメントの長手方向に太部と細部が交互に形成され、前記太部と細部がフィラメント内及びフィラメント間でランダムに存在したトルクを有する捲縮加工糸であって、前記太部と細部の断面変化率はいずれも1.3以下であり、かつ、前記捲縮加工糸の物性が下記(1)〜(3)式
(1)C法伸長率 10%以下
(2)破断伸度 50〜100%
(3)熱収縮応力(最大応力点での応力/繊度) 0.1g/d以下
を満足することを特徴とするポリエステル系低捲縮加工糸を要旨とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下,本発明について詳細に説明する。
【0008】
まず,本発明のポリエステル系低捲縮加工糸は,糸条を構成する各々のフィラメントの長手方向に太部と細部とを交互に有し, 太細形態を呈する糸条である。
【0009】
そして,この糸条から得られる布帛に自然な斑感を付与するためには, 各フィラメントの長手方向に存在する太部と細部は, ランダムに分散していることが好ましい。
【0010】
次に,上記した太部と細部の断面変化率はいずれも1.3以下という特性を有している。
スピンドルタイプやフリクションディスクタイプの施撚体で仮撚加工すると,円形断面糸から得られる太細加工糸の断面変化率は,図3に示すように特に太部は1.3を超えたものとなり,本発明の加工糸の断面を示す図2とは断面変化率が全く異なるものとなる。これは,スピンドルタイプやフリクションタイプの施撚体で仮撚加工する場合,ある程度延伸しながら仮撚加工しなければならず,しかも,仮撚係数が20000 以上の高仮撚数でないと安定した加工が難しく,このため,太細糸に高度の捻じり変形が与えられ,細部に比べて太部の断面変化率が大きい糸条となるためである。
【0011】
このように,従来の太細加工糸は,図3に示すように,太部と細部の断面形状が大幅に異なり,フィラメントの長手方向において,太部から細部の間及び細部から太部の間で断面形状が大きく変化しながら繋がっているため,この部分が後工程での引張りやしごきに対して毛羽や糸切れが発生しやすいものである。
【0012】
一方,本発明の加工糸は,太部,細部ともに断面変化率が1.3以下であり,ほとんど供給糸の断面形状に近い形状であるため,太部から細部及び細部から太部の間で極端な形状変化をすることなく滑らかな形状で繋がっており,このため,後工程での引張りやしごき等の外力に対して,毛羽や糸切れ等の発生がない。
【0013】
さらに,本発明の加工糸は,C法伸長率が10%以下であり,このため,捲縮の波形もゆるやかで,糸条の長手方向に滑らかな形態変化を呈し,極端な糸長差を有することなく,ゆるやかな波状捲縮を形成して集束した低捲縮性を有する糸条である。この集束した低捲縮加工糸は,糸条全体として円形に近い形態と低捲縮のクリンプ形態によるトルクを有すること等から,従来の太細加工糸に比べてドレープ性,弾発性,シャリ感が優れたものとなる。
加工糸のC法伸長率が10%を超えると,加工糸の波状捲縮数が多くなるため,高捲縮の糸条となり,嵩高性やソフト感が強調され,ドレープ性や弾発性に欠ける風合となる。
【0014】
次に,本発明の加工糸は,破断伸度が50〜 100%で,かつ, 熱収縮応力が0.1g/d以下の物性を有するものである。
上記のように,本発明の加工糸は,破断伸度がやや高く,かつ, 熱収縮応力が小さいことからも明らかなように, 十分に延伸されることなく中間的な配向性を有する不完全配向状態の糸条であり,従来の延伸された太細加工糸に比べて重量感のある物性を有することから,特にドレープ性に優れたものとなる。しかも,前記したように,太細形態を呈し,いわゆる配向斑繊維構造を有しており,凹凸形態と供給糸の断面に近い断面形状がミックスされ,糸条に弾発性やシャリ感が付与される。
【0015】
加工糸の破断伸度が50%未満になると糸条の太細形態が減少し,糸条の配向性が高くなり,ドレープ性や弾発性に欠けるものとなる。一方,破断伸度が 100%を超えると後工程で伸ばされやすく,糸条の形態変化が生じ,品質の安定した布帛とすることができない。
また, 熱収縮応力が0.1g/dを超えると,製編織した後の染色加工等の後工程で収縮して布帛が硬くなるので好ましくなく,熱収縮応力としては熱による変形が少ない0.1g/d以下,特に0.02〜0.09g/dが好ましい。
【0016】
図1は,本発明のポリエステル系低捲縮加工糸の一実施態様を示す側面模式図であり,糸条を構成するフィラメント内及びフィラメント間に太部aと細部bがランダムに存在し,低トルクのゆるやかな波状の捲縮を有している。
このように,本発明のポリエステル系低捲縮加工糸は,太部と細部がほとんど変形されることなくゆるやかな低捲縮が付与され,糸条の断面変化率が1.3以下の形態を保っているため,後工程での引張りやしごき等の外力に対して,毛羽や糸切れ等の発生がなく,糸条の長手方向にゆるやかな波状捲縮と微弱な伸縮性及びトルクを有する加工糸である。
【0017】
すなわち,本発明のポリエステル系低捲縮加工糸は,▲1▼太細斑を有すること,▲2▼断面形態が供給糸の断面形状をほぼ維持し,円形断面糸であれば円形に近いこと,▲3▼ゆるやかな波状捲縮を有すること,▲4▼トルクを有すること,▲5▼微弱な伸縮性を有すること,等の特性を有しているので,製編織して得られる布帛に, 高いドレープ性と優れた弾発性及び適度なシャリ感を付与することができる。
【0018】
本発明におけるポリエステルは,ポリエチレンテレフタレート(PET)で代表される分子鎖中にエステル結合を含有するポリエステルを総称し,5−ナトリウムスルホイソフタル酸,イソフタル酸,パラオキシエトオキシ安息香酸等の第3成分を含有する変性ポリエステルでもよい。
【0019】
次に,本発明のポリエステル系低捲縮加工糸の製法例を説明する。
供給糸として複屈折率(Δn)が20×10−3〜80×10−3のポリエステル高配向未延伸糸を用い,まずこの糸条に,オーバーフイード率10%以上, 温度 300〜 700℃, かつ, 糸条の非接触ヒータの通過時間が0.01〜0.15秒となる条件で弛緩熱処理を施す。次いで,太細斑が発現する延伸倍率, 例えば弛緩熱処理で収縮した糸長が元の糸長に復元する倍率で冷延伸した後,施撚体として流体旋回ノズルを用い,仮撚係数Kが3000〜15000 の低仮撚数で仮撚加工して目的とする低捲縮加工糸を得る。なお,仮撚係数Kは,K=仮撚数(T/M) × (供給糸の繊度:デニール)1/2 で定義されるものである。また,仮撚加工後に,流体交絡処理を施して糸条に集束性を付与してもよい。
【0020】
図4は,本発明の低捲縮加工糸の製法例を示す概略工程図である。図4において,ポリエステル高配向未延伸糸1は,第1フィードローラ2を経て第2フィードローラ4との間でヒータ3により弛緩熱処理が施された後,第2フィードローラ4と第3フィードローラ5との間で冷延伸されて太細斑を有する糸条となる。
【0021】
次いで,太細斑を形成した糸条は,第3フィードローラ5と第1デリベリローラ10との間で流体旋回ノズル8で施撚されつつ,仮撚ヒータ7で熱固定され,低捲縮加工糸となる。引き続き,第1デリベリローラ10と第2デリベリローラ12との間に設けられた流体交絡装置11で混繊交絡処理が施された後,第2デリベリローラ12を経てパッケージ13に捲き取られる。なお,太細糸の仮撚加工は延伸倍率が1.00〜1.10倍程度の低張力で施すのが好ましく,低張力での糸の走行を安定させるため,仮撚ヒータ7の上流側と流体旋回ノズル8の下流側にそれぞれ回転ローラガイド6,9を設けるのが好ましい。
【0022】
本発明における各物性は, 次の方法で求めたものである。
(1) 断面変化率
加工糸を構成する単フィラメントの外接円の直径と内接円の直径との比を,供給糸を構成する単フィラメントの外接円の直径と内接円の直径との比で除した値である。
(2) C法伸長率と破断伸度
JIS−L−1090(加工糸)に準拠して測定するものである。
(3) 熱収縮応力
熱応力測定器とこれに連動した記録装置を用いて次の方法で測定するものである。
まず,試料をサンプリング治具を用いて5cmの輪にし,次に,熱応力測定器と記録装置を温度20〜 300℃,応力0〜50gの範囲に設定し,試料を熱応力測定器の上部と下部のフックにかけて,デニール当たり1/10gの初荷重をかけた後,測定を行う。昇温速度は 300℃/120 秒で行う。測定は3回行い,最大応力点での応力(g)を読み取り,熱収縮応力(g/d)=最大応力(g)/試料の繊度 (デニール) で計算する。
【0023】
【実施例】
次に,本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0024】
実施例1〜3,比較例1〜2
供給糸として80d/24fと 160f/36fのPET高配向未延伸糸及びカチオン可染性ポリエステル高配向未延伸糸80d/12fを用い,図4に示す工程に従い,表1に示す条件で低捲縮加工糸を製造した。
【0025】
実施例1〜3で得られた加工糸には,糸条の長手方向に太部と細部がランダムに形成され,仮撚係数が6500〜8800の低捲縮形態であり,断面変形もほとんどなく,図1に示すように,ゆるやかな波状捲縮とトルクを有する糸条であった。特に実施例3で得られた加工糸は,PET糸とカチオン可染性糸が混繊されているため,染色すると杢形態を呈するものであった。
【0026】
これらの加工糸をそれぞれ経糸と緯糸に使用し,経糸密度 115本/2.54cm,緯糸密度75本/2.54cmの2/2ツイル組織で製織した。また,福原社製XL−PL2(20G×26″)の編機を用い,天竺組織の編地を製編した。
得られた織物と編物を通常のポリエステル処方で染色仕上げ加工した。
得られた布帛の評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように,実施例1〜3で得られた布帛は,いずれも高いドレープ性を有し,また,弾発性に優れ,そしてシャリ感のある風合を呈するものであった。
【0029】
一方,比較例1〜2では,加工糸に切れ毛羽が多く,得られた布帛は,高捲縮でドレープ性に欠けるものであった。
【0030】
【発明の効果】
本発明の加工糸は,▲1▼太細斑を有する,▲2▼断面形態が供給糸の断面に近い,▲3▼ゆるやかな波状捲縮を有する,▲4▼トルクを有する,▲5▼微弱な伸縮性を有する,こと等から,製編織して得られる布帛に高いドレープ性と優れた弾発性及び適度なシャリ感を付与することができる。また,追撚,製編織等の後工程でのしごきや引張り等の外力に対して,毛羽や糸切れ等が発生することがなく,高速かつ安定して後加工することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポリエステル系低捲縮加工糸の一実施態様を示す側面模式図である。
【図2】本発明のポリエステル系低捲縮加工糸の一実施態様を示す断面図である。
【図3】従来の太細加工糸の断面図である。
【図4】本発明のポリエステル系低捲縮加工糸の製法例を示す概略工程図である。
【符号の説明】
a 太 部
b 細 部
1 ポリエステル高配向未延伸糸
3 ヒータ
7 仮撚ヒータ
8 旋回ノズル
11 流体交絡装置
Claims (1)
- ポリエステルマルチフィラメント糸を構成する各々のフィラメントの長手方向に太部と細部が交互に形成され、前記太部と細部がフィラメント内及びフィラメント間でランダムに存在したトルクを有する捲縮加工糸であって、前記太部と細部の断面変化率はいずれも1.3以下であり、かつ、前記捲縮加工糸の物性が下記(1)〜(3)式を満足することを特徴とするポリエステル系低捲縮加工糸。
(1)C法伸長率 10%以下
(2)破断伸度 50〜100%
(3)熱収縮応力(最大応力点での応力/繊度) 0.1g/d以下
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JP26425695A JP3589511B2 (ja) | 1995-10-12 | 1995-10-12 | ポリエステル系低捲縮加工糸 |
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JPH09111560A JPH09111560A (ja) | 1997-04-28 |
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