JP3573185B2 - 次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種器具等を汚染する微生物を殺菌あるいは消毒するのに用いられる次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力を増強させるための方法に関し、医療、食品加工、農水産分野等、微生物による障害を殺菌や消毒により対処する分野に適用されるものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から次亜塩素酸ナトリウムは、消毒薬剤として各種器具その他の消毒殺菌の目的で広く使用されていた。この次亜塩素酸ナトリウムは通常6W/W%(以下、単に%とする。)または10%濃度で供給され、この原液を使用時に希釈し、1〜1000ppm濃度にして消毒薬剤として使用していた。希釈後の次亜塩素酸ナトリウムのpHは、通常pH8.5〜10.0位となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒殺菌処理後は、使用後の次亜塩素酸ナトリウムが残留しないように、十分に清水で洗浄し排水する必要があった。特に消毒殺菌の対象が血液透析用機器等の医療器具の場合には、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は一般に500〜1000ppm濃度と高濃度に設定され、30分位かけて消毒殺菌が行なわれる。
【0004】
また、患者監視装置1台当りでは次亜塩素酸ナトリウムが15〓(0.5〓/分×60分=15〓)ほど使用され、1施設当りの前記装置数は20〜150台位となる。従って、排水中の次亜塩素酸ナトリウムは多量であり、これが自然界にそのまま放出されるから、環境に対する影響が大きいという問題があった。
【0005】
更に、重炭酸透析液を使用する透析では、炭酸塩の除去のための酢酸洗浄が行なわれるので、酢酸の自然界への放出も問題となっていた。更にまた、有機物を含む排水処理の場合、いわゆる活性汚泥法で処理されるが、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムは、活性汚泥法を実施する排水処理施設の汚泥(微生物)に相当のダメージを与え、処理不能となる虞れがあった。このため、前以て汚泥に対する毒性を無くす前処理を行なう必要があった。
【0006】
本発明は、以上のような従来技術が有する問題点に着目してなされたもので、次亜塩素酸ナトリウムを高濃度にすることなく殺菌力を増強することができ、自然界に放出しても環境に対する影響が少なくてすむ次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らの研究調査によれば、次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力の主成分は次亜塩素酸(HOCl)であり、かつ次亜塩素酸の含有量はpH低下と共に増加し、従来の希釈使用されていた500ppm位の次亜塩素酸ナトリウムでは殺菌力の強い次亜塩素酸の含有量は極めて低く(pH10.0で0.2%位)、これをpH5.0位に調整すると次亜塩素酸イオン(OClー )の大半が次亜塩素酸(pH5.0で99.6%位)となった。
【0008】
すなわち、元々は強アルカリの次亜塩素酸ナトリウムをpH調整することにより、殺菌力が非常に強化(約100倍)されることが明らかになった。詳しくは図3のグラフに示すとおり、pH6.0を境としてpHがこれ以下になると次亜塩素酸の含有量が増大し、逆にpHが3.0より低く下がりすぎても次亜塩素酸の含有量は減少する。従って、同一の殺菌効果を得るための次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、pH調整してpHを所定範囲まで低くすることにより、低濃度でも十分な効果が発揮されることが判かった。
【0009】
然るに、原液次亜塩素酸ナトリウム(6%または10%)で前記pH域に調整することは、有毒な塩素ガスの発生を招く危険性があり、通常は実用化できなかった。また、従来は次亜塩素酸ナトリウムに酸を混合することは、塩素ガスが発生するので危険であるという認識が強かった。
【0010】
そこで、発明者らは、次亜塩素酸ナトリウムと酸とを希釈後に混合してpHを低下させることにより、塩素ガスの発生を防ぎ安全に、かつ殺菌効果を高めることが可能なことを明らかにした。
以上のような結論に鑑みて、前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の内容に存する。
【0011】
各種器具等を汚染する微生物を殺菌あるいは消毒するのに用いられる次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力を増強させるための方法であって、
塩素ガスの発生を防ぐため次亜塩素酸ナトリウムのpH調整用の酸を希釈してから、該希釈した酸と次亜塩素酸ナトリウムの双方を混合し、
混合液のpHをpH3.0〜6.0の範囲内の所定pHに制御回路によって自動調整すると共に、
混合液の次亜塩素酸の濃度を1〜1000ppmの範囲内の所定濃度に制御回路によって自動調整することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法。
【0013】
次に作用を説明する。
前述した次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法によれば、次亜塩素酸ナトリウムとpH調整用の酸のうち先ず最初に酸の方のみ希釈する。ここでは、逆浸透水あるいは水道水を用いて希釈するとよい。
【0014】
続いて、次亜塩素酸ナトリウムとpH調整用の酸とを十分に混合する。ここでpH調整用の酸には、酢酸や塩酸、あるいはそれらの混合酸を用いるとよい。次亜塩素酸ナトリウムとpH調整用の酸は、酸のみを最初に希釈すればよい。
【0015】
以上のように、次亜塩素酸ナトリウムと希釈したpH調整用の酸とを混合して、混合液のpHをpH3.0〜6.0の範囲内の所定pHに制御回路によって自動調整することにより、塩素ガスの発生を防いで安全性を確保しつつ、殺菌力の主体である次亜塩素酸の含有量を高めて殺菌効果を増強させることができる。
【0016】
また、混合液中の次亜塩素酸の濃度を1〜1000ppmの範囲内の所定濃度に前記制御回路によって自動調整する。かかる濃度では、最適な殺菌効果を得ることができ、また、前述したpH範囲では、いわゆるバッファーアクションを抑えることができ、消毒液としての使用後の洗浄が容易であり、環境に対する影響も少なく、炭酸塩が生じるおそれもない。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明を代表する各種実施の形態を説明する。ところで、本願発明は、塩素ガスの発生を防ぐため次亜塩素酸ナトリウムのpH調整用の酸を希釈してから、該希釈した酸と次亜塩素酸ナトリウムの双方を混合する工程を含む方法であるが、以下に便宜上、次亜塩素酸ナトリウムを予め希釈する場合を例に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態を示している。
図1に示すように、次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強装置は、連続的に次亜塩素酸ナトリウム消毒水を生成するものである。本装置は、経路管10の上流端に希釈用水の供給口11が接続され、その下流側には順に、第1注入部14、第1混合器15、第2注入部18、第2混合器19が設けられており、経路管10の下流端に殺菌力増強液の取出口20が接続されて成る。
【0018】
供給口11から供給される希釈用水は、例えば、逆浸透水や水道水等である。第1注入部14には、ポンプ13を介して第1原液タンク12から次亜塩素酸ナトリウム原液が供給されるようになっている。第1原液タンク12の容量は適宜設定すればよい。本実施の形態で用いる次亜塩素酸ナトリウム原液の濃度は、前述の従来技術で説明した通り6%であり、pHは約12.4である。
【0019】
第1混合器15は、供給口11から供給された希釈用水と、第1原液タンク12から供給された次亜塩素酸ナトリウム原液とを混ぜ合わせるための器機であり、一般に攪拌子等の混合手段を備えて成る。ここで混合とは、単純に混ぜ合わせる操作を意図し、その結果化学変化を伴うかどうかは問わない。
【0020】
第2注入部18には、ポンプ17を介して第2原液タンク16から酸の原液が供給されるようになっている。第2原液タンク16の容量は前記第1原液タンク12と同様に適宜設定すればよい。酸は本実施の形態では酢酸を使用しており、その濃度は99%(W/W%)である。なお、酸には前記酢酸の代りに、塩酸、あるいは酢酸と塩酸の混合酸を用いてもよい。
【0021】
第2混合器19は、希釈された次亜塩素酸ナトリウムと、第2原液タンク16から供給された酸とを混ぜ合わせるための器機であり、具体的には前記第1混合器15と同様に構成されている。かかる第2混合器19によって混合され、pH調整された希釈次亜塩素酸ナトリウムは、取出口20から消毒液として排出されるように構成されている。
【0022】
また、経路管10の途中の適所には、薬剤検出手段として、図示省略したがpH計、電気電導率計、酸化還元電位計、または次亜塩素酸濃度計を必要に応じて設けるとよい。特に次亜塩素酸濃度計は、第1混合器15と第2注入部18の途中や、第2混合器19と取出口20の途中に設けるとよい。
【0023】
また、誤動作等の防止のために、経路管10の入口付近に圧力スイッチ21を配置し、供給口11付近に所定の圧力があるときにポンプ13,17が働くように設定したり、ポンプ17の出口側配管のポンプ17に近い位置に電磁弁22を設けて、希釈水を導入できるように構成されている。
【0024】
次に第1の実施の形態の作用を説明する。
図1に示す本装置によれば、供給口11から供給される希釈水は経路管10内をその下流側へと流れるが、先ず第1原液タンク12中の次亜塩素酸ナトリウム原液がポンプ13の作動により、第1注入部14で希釈水流中に注入される。
【0025】
続いて、下流にある第1混合器15によって、希釈水と注入された次亜塩素酸ナトリウム原液とが十分に混合され、次亜塩素酸ナトリウム原液が先ず適度に希釈される。本実施の形態では、原液の濃度は最初の6%から100ppm位まで希釈される。
【0026】
次亜塩素酸の濃度は1〜1000ppmの範囲内の所定濃度に、手動または自動で任意に調整できる。手動による濃度調整の場合、前述した如く経路管10の適所に設けた次亜塩素酸濃度計(図示せず)の指示を見ながら、ポンプ13の作動による次亜塩素酸ナトリウムの注入量を、目的濃度になるまで手動で調整すればよい。
【0027】
一方、自動調整の場合は、次亜塩素酸ナトリウムの濃度に関し、その制御量xが前記濃度計から連続的にとらえられ、その制御量の現在値x1 が、予め目標設定部により決められた濃度に対応する目標値x2 と比較部で比較される。そして、制御部により現在値x1 が目標値x2 に一致するように、ポンプ13の作動が制御されるようにする。ここで必要となる動作は制御回路によって行なわれる。
【0028】
そして、前記第1混合器15で希釈された次亜塩素酸ナトリウムに対し、第2原液タンク16中の酢酸が、ポンプ17の作動により第2注入部18から注入される。続いて、第2注入部18の下流にある第2混合器19によって、既に希釈された次亜塩素酸ナトリウムと酢酸とが十分に混合され、希釈された次亜塩素酸ナトリウムのpHが低下するように調整される。
【0029】
本実施の形態では、次亜塩素酸ナトリウムのpHは、原液時のpH12.4からpH4.0まで低下させられる。最終的に調整されるpHは、pH3.0〜6.0の範囲内の所定pHに任意に自動または手動で調整する。ここでのpH調整は、前述のpH計を検出部として、前記次亜塩素酸の濃度調整と同様の要領で行なえばよい。
【0030】
希釈混合後の混合液のpHが前記pH3.0〜6.0の範囲だと、図3のグラフに示すように、次亜塩素酸(HOCl)の含有量が高まるだけでなく、いわゆるバッファーアクションも抑えることができ、塩素ガスの発生を防ぐことができ、安全性を確保することができる。
【0031】
このように、pH調整された希釈次亜塩素酸ナトリウムでは、次亜塩素酸の濃度は約100ppm、pHは4.0、また酸化還元電位は約+1050mVとなり、微生物の生存範囲外の液性を有することが証明されている。また、経路管10の適所に、前述の如くpH計、電気電導率計、酸化還元電位計、または次亜塩素酸濃度計を設ければ、これらの計測値を考慮して、消毒液の水質を最適な状態に容易に管理することがてきる。
【0032】
以上のように本装置によって、次亜塩素酸ナトリウムと酸とを希釈後に混合してpHを低下させることにより、塩素ガスの発生を防いで安全性を確保でき、かつ殺菌効果を高めることができる。殺菌力が増強された次亜塩素酸ナトリウムは、従来の次亜塩素酸ナトリウム原液の消費量の1/10程度の量で、従来と同等以上の殺菌効果が認められ、取出口20から適宜排出されて使用に供される。
【0033】
また、消毒液としての使用後における水での最終洗浄も極めて容易となり、しかも、自然界への排出による環境に対する影響も少ない。また、重炭酸透析液を使用する透析器機の消毒殺菌処理時でも、強アルカリではないので炭酸塩が生じることもなく、従来の酢酸洗浄を省くことができ、自然界に酢酸を排出するおそれもない。
【0034】
以上のような本実施の形態に係る装置によれば、多量の次亜塩素酸ナトリウム消毒水を生成するのに優れ、生成時間は比較的短くてすむ。また、装置が閉鎖系に構成されており、万一塩素ガスが発生したとしても大気中に放出されるおそれはない。
【0035】
なお、本実施の形態では、先ず次亜塩素酸ナトリウムを経路管10に注入し希釈してから、次に酸を注入しpH調節したが、この注入順序を逆にして、先ず酸を経路管10に注入し希釈してから、次に次亜塩素酸ナトリウムを注入しても、前述したのと同じ作用効果が認められる。
【0036】
また、本実施の形態では、大気より隔離した閉鎖処理系を示したが、本装置を開放系で構成してもよく、その場合は次亜塩素酸ナトリウムや酸の注入は、図示したものと同様にポンプ13,17を使用してもよく、あるいは落差を利用した注入混合系に構成してもよい。
【0037】
図2は本発明の第2の実施の形態を示している。
本実施の形態に係る装置は、一の混合槽30を用いて少量の次亜塩素酸ナトリウム消毒水を生成するものである。本装置では、供給口31から供給される希釈用水は電磁弁32を経由して、混合槽30内に所定量供給されるように構成されている。
【0038】
第1原液タンク33内の次亜塩素酸ナトリウム原液は、ポンプ34を介して計量器35に導かれ、該計量器35で所定量計量されてから混合槽30内に供給される。次亜塩素酸ナトリウム原液は、循環ポンプ41の働きにより希釈水と十分に混合される。
【0039】
混合槽30内で所定量の次亜塩素酸ナトリウム原液が希釈されたら、次に、第2原液タンク36内の酸が、ポンプ37を介して計量器38に導かれ、該計量器38で所定量計量されてから混合槽30内に供給される。そして、前記循環ポンプ41の働きにより、新たに供給された酸と前記希釈された次亜塩素酸ナトリウムとが混合槽30内で十分に混合される。
【0040】
このようにして、前記第1の実施の形態と同様に殺菌力の増強された次亜塩素酸ナトリウム消毒液は、混合槽30の底部より延びる給液管の電磁弁39を開放すると取出口40から適宜排出されて使用に供される。また、図示したように、混合槽30内にフロート水位計42を設けて、混合液の量を管理したり、循環ポンプ41の循環経路途中に次亜塩素酸濃度計43を設けてもよい。
【0041】
以上のような本実施の形態に係る装置によれば、少量の次亜塩素酸ナトリウム消毒水を生成するのに優れ、装置は開放系に構成されるため、構造的に簡易であり容易に製造することができる。
【0042】
なお、本発明に係る次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法を実施するための図示した装置は、前記各種実施の形態で具体的に説明した構成に限定されるものではない。
【0043】
【発明の効果】
本発明に係る次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法によれば、次亜塩素酸ナトリウムと希釈後のpH調整用の酸とを混合して、混合液のpHをpH3.0〜6.0の範囲内の所定pHに制御回路によって自動調整することができ、塩素ガスの発生を防いで安全性を確保しつつ、殺菌力の主体である次亜塩素酸の含有量を高めて殺菌効果を増強させることができる。
また、混合液中の次亜塩素酸の濃度を1〜1000ppmの範囲内の所定濃度に前記制御回路によって自動調整することもできる。かかる濃度では、最適な殺菌効果を得ることができ、また、前述したpH範囲では、いわゆるバッファーアクションを抑えることができ、消毒液としての使用後の洗浄が容易であり、環境に対する影響も少なく、炭酸塩が生じるおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態に係る次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強装置を模式的に示す説明図である。
【図2】第2の実施の形態に係る次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強装置を模式的に示す説明図である。
【図3】pHと有効塩素存在百分率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10…経路管
11…供給口
12…第1原液タンク
13…ポンプ
14…第1注入部
15…第1混合器
16…第2原液タンク
17…ポンプ
18…第2注入部
19…第2混合器
20…取出口
21…圧力スイッチ
22…電磁弁
30…混合槽
31…供給口
32…電磁弁
33…第1原液タンク
34…ポンプ
35…計量器
36…第2原液タンク
37…ポンプ
38…計量器
39…電磁弁
40…取出口
41…循環ポンプ
42…フロート水位計
43…次亜塩素酸濃度計
Claims (1)
- 各種器具等を汚染する微生物を殺菌あるいは消毒するのに用いられる次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力を増強させるための方法であって、
塩素ガスの発生を防ぐため次亜塩素酸ナトリウムのpH調整用の酸を希釈してから、該希釈した酸と次亜塩素酸ナトリウムの双方を混合し、
混合液のpHをpH3.0〜6.0の範囲内の所定pHに制御回路によって自動調整すると共に、
混合液の次亜塩素酸の濃度を1〜1000ppmの範囲内の所定濃度に制御回路によって自動調整することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力増強方法。
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