JP3281526B2 - 抗菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents
抗菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法Info
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建築材料,機械機器,化学機器等の広範囲な分野におい
て抗菌性が必要とされる用途に適したマルテンサイト系
ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
機材や、バス,電車等の輸送機関の手摺り用パイプ等で
は、一般環境における耐食性が要求されるため、SUS
304に代表されるステンレス鋼が主として使用されて
いる。しかし、黄色ブドウ球菌等による院内感染が問題
となってきている昨今、バス,電車等の不特定多数の人
間が利用する環境においても衛生面の向上が求められて
いる。これに伴って、各種機械,器具に使用される材料
としても、一般構造材としての特性に止まらず、定期的
な消毒等の感染防止を図る必要がない抗菌性等の機能を
付与したメンテナンスフリーの材料が望まれている。抗
菌性を付与した材料としては、特開平5−228202
号公報,特開平6−10191号公報等で開示されてい
るように、有機皮膜やめっきによる抗菌コートが一般的
であった。
は、皮膜の消失に応じて抗菌性が低下する欠点がある。
抗菌性が消失した有機質は、栄養源となり却って細菌や
雑菌を繁殖させる虞れもある。抗菌剤成分を混入した複
合めっきを施したものでは、めっき層の密着性が十分で
なく、加工性を低下させる欠点がある。また、皮膜の溶
解,摩耗,欠損等に起因して外観が低下すると共に、抗
菌作用が低下する場合がある。ところで、Ag,Cu等
の金属元素は、有効な抗菌作用を発揮することが知られ
ている。しかし、Agは、非常に高価で耐食性にも劣っ
ていることから、腐食が予想される環境に曝される用途
で使用されていない。他方、Cuは比較的安価な元素で
あり抗菌成分としても有効なことから、ステンレス鋼等
の材料に添加して抗菌性を付与することが検討されてい
る。本発明者等も、Cu添加による抗菌性の改善を種々
検討し、ステンレス鋼表面のCu濃度を高めることによ
って抗菌性が改善されることを見い出し、特開平8−5
3738号,特開平8−225895号で提案した。本
発明は、先に提案したCuの作用を更に高めるべく案出
されたものであり、ε−Cu等のCuを主体とする第2
相(以降、Cuリッチ相という)を所定量析出させるこ
とにより、優れた抗菌性をマルテンサイト系ステンレス
鋼に付与することを目的とする。
系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、C:0.
8重量%以下,Si:3重量%以下,Cr:10〜20
重量%,Cu:0.4〜5.0重量%を含み、残部が実
質的にFeの組成をもち、Cuリッチ相がマトリックス
中に0.2体積%以上の割合で分散していることを特徴
とする。このステンレス鋼は、更にMo:4重量%以下
及びV:1重量%以下の1種又は2種を含むことができ
る。抗菌性は、所定の組成をもつマルテンサイト系ステ
ンレス鋼の熱延板焼鈍を500〜900℃で均熱1時間
以上のバッチ焼鈍で行い、Cuリッチ相をマトリックス
中に0.2体積%以上析出させることにより付与され
る。バッチ焼鈍後、冷間圧延し、最終焼鈍として700
〜900℃の連続焼鈍を行うこともできる。
主とする水酸化物で表面が覆われていることから、優れ
た耐食性を呈する。本発明者等は、有効な抗菌性を発現
するCuをマルテンサイト系ステンレス鋼に添加し、不
動態皮膜中に含まれるCu量を測定すると共に、黄色ブ
ドウ球菌を含む液の滴下による抗菌性を調査した。その
結果、ある程度以上のCuを含有させたステンレス鋼
は、抗菌性を備えていることが判った。しかし、鋼中に
数%以下のCuを単に固溶させただけでは、抗菌性及び
その持続性が必ずしも十分ではない場合がある。そこ
で、更に検討を重ねた結果、同一のCu含有量であって
も、Cuの一部がε−Cu等のCuリッチ相として微細
に且つ均一に析出していると、使用環境においてCuの
溶出が容易になり、抗菌性が改善されることを知見し
た。また、加工又は使用中に表面が損耗を受けたとして
も、内部のCuリッチ相が新規表面に現れるため、抗菌
持続性にも優れている。
Cuリッチ相が析出し易い温度領域で時効等の等温加熱
を施すこと,徐冷により析出温度域の通過時間をできる
だけ長くすること等が考えられる。そこで、種々の条件
について検討した結果、Cuを含むマルテンサイト系ス
テンレス鋼の熱延板焼鈍を500〜900℃で均熱1時
間以上のバッチ焼鈍で行うとき、マトリックス中にCu
リッチ相が0.2体積%以上の割合で析出することを見
い出した。更に、バッチ焼鈍に続いて、通常の冷間圧延
を施し、最終焼鈍として700〜900℃で連続焼鈍を
行っても、抗菌性が持続することを見い出した。
鋼に含まれる合金元素及びその含有量等について説明す
る。 C:0.8重量%以下 マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ焼戻し後の強度
を上昇させる上で有効な合金元素である。また、Cuリ
ッチ相の析出サイトとして有効なCr炭化物を生成し、
微細なCuリッチ相を均一分散させる作用も呈する。し
かし、0.8重量%を超える多量のCが含まれると、耐
食性や靭性が低下する。 Si:3.0重量%以下 脱酸剤として有効な合金元素であり、焼戻し軟化抵抗を
増大させ、抗菌性を向上する作用も呈する。これらの効
果は3.0重量%で飽和し、それ以上添加してもSiの
増量に見合った性質の改善が見られない。
に必要な合金元素であり、必要な耐食性を確保する上か
ら10重量%以上のCr含有が要求される。しかし、2
0重量%を超える多量のCrが含まれると、焼入れ処理
後の硬さが低下し、粗大な共晶炭化物の形成に起因して
加工性,靭性が劣化する。 Cu:0.4〜5.0重量% 及び Cuリッチ相:
0.2体積%以上 本発明のステンレス鋼において最も重要な合金元素であ
り、良好な抗菌性を維持するためには0.2体積%以上
のCuリッチ相が析出していることが必要であり、本系
のマルテンサイト系ステンレス鋼で0.2体積%以上の
Cuリッチ相を析出させるために0.4重量%以上のC
u含有量が要求される。しかし、5.0重量%を超える
過剰のCuを含有させると、製造性,加工性,耐食性が
劣化する。Cuリッチ相は、析出物の大きさが特に限定
されるものでないが、製品表面全体において均等に抗菌
性を発揮させるため、また研磨等が施された場合にも良
好な抗菌性を維持するためには、析出相が表面及び内部
においても適宜に分散して分布していることが好まし
い。
させる作用を呈すると共に、Fe2 Mo等の金属間化合
物として析出し、微細なCuリッチ相の核サイトとなり
析出を容易にする。また、Mo及びMoを含む化合物
は、それ自体でも抗菌性を向上させる作用を呈する。し
かし、4重量%を超える過剰のMo添加は、製造性及び
加工性を劣化させる。 V:1重量%以下 析出サイトとなる炭化物を形成し、微細なCuリッチ相
の析出を容易にする。また、炭化物の形成により、耐摩
耗性が改善されると共に、焼戻し軟化抵抗が向上する。
しかし、過剰に添加すると、製造性,加工性が劣化す
る。そのため、Vを添加する場合、その上限を1重量%
に規制する。本発明マルテンサイト系ステンレス鋼は、
以上の合金元素の外に、結晶粒微細化に寄与し低温靭性
を改善する0.5重量%以下のNb,1.0重量%以下
のTi,0.3重量%以下のTa,Zr,焼戻し軟化抵
抗を向上する1.0重量%以下のAl,2.0重量%以
下のW,強度・靭性の向上に有効な2.0重量%以下の
Ni,熱間加工性を改善する0.01重量%以下のB等
の1種又は2種以上を含むことができる。
相を析出させるバッチ焼鈍を施している。焼鈍温度が低
くなるほどマトリックス中の固溶Cu量が少なくなるた
め、Cuリッチ相の析出量が多くなるが、低過ぎる温度
では拡散速度が遅く、逆に析出量が減少する。種々の条
件下で焼鈍を施し、抗菌性に有効な温度条件を検討した
結果、500〜900℃の温度範囲が工業的に有効であ
ることを解明した。なお、焼鈍時間は、1時間以上が必
要である。熱延板焼鈍時に析出したCuリッチ相は、7
00〜900℃の温度範囲で最終焼鈍すると、減少する
ことなく却って増加する。本発明は、1回冷延・1回焼
鈍を基本とするが、700〜900℃の温度域であれば
中間焼鈍を行うこともできる。
テンレス鋼を30kg真空溶解炉で溶製し、鍛造及び熱
延後に焼鈍を施し、熱延焼鈍板を得た。熱延板焼鈍は、
500〜900℃で種々の均熱時間で行った。次いで、
冷間圧延により板厚1.5mmの冷延焼鈍板とし、最終
焼鈍として700〜900℃×均熱10分以内の連続焼
鈍を施した。なお、表1におけるAグループはCu含有
量が0.4重量%以上の本発明に従ったステンレス鋼で
あり、BグループはCu含有量が低い比較ステンレス鋼
である。
し、Cuリッチ相の析出量を定量した。また、各試験片
を、次の抗菌性試験に供した。Staphylococ
usaureus IFO12732(黄色ブドウ球
菌)を普通ブイヨン培地で35℃,16〜24時間振盪
培養し、培養液を用意した。培養液を滅菌リン酸緩衝液
で20,000倍に希釈し、菌液を調製した。5cm×
5cmの試験片を#400研磨した表面に菌液1mlを
滴下し、25℃で24時間保存した。保存後、試験片を
SCDLP培地(日本製薬株式会社製)9mlで洗い流
し、得られた液について標準寒天培地を用いた混釈平板
培養法(35℃,2日間培養)で生菌数をカウントし
た。また、参照としてシャーレに菌液を直接滴下し、同
様に生菌数をカウントした。
生菌数と比較して95%以上が死滅したものを○,60
〜95%未満の範囲で死滅したものを△,60%未満の
死滅量であったものを×として評価した。抗菌性の評価
結果を、析出Cu量と併せて表2に示す。表2にみられ
るように、0.4重量%以上のCuが添加され、且つC
uリッチ相の析出量が0.2体積%以上の試験番号A1
〜A11では、何れも良好な抗菌性が示されている。こ
れに対し、Cu含有量が低いBグループの場合、熱延板
焼鈍温度が500〜900℃の範囲にあってもε−Cu
相の析出量が0.2体積%未満となり、抗菌性が低い値
を示している。また、Cu含有量が高くても、熱延板焼
鈍温度が500℃未満又は900℃を超えると、ε−C
u相の析出量が0.2体積%未満になり、この場合も抗
菌性が劣っていた。
Cu相の析出量と抗菌性評価との関係を表3に示す。本
発明で規定したようにCuが0.4重量%以上添加され
ており、しかも熱延板焼鈍を500〜900℃で施した
材料では、700〜900℃で仕上げ焼鈍するとき、ε
−Cu相が残存し、優れた抗菌性が持続することが判
る。他方、Cu含有量が低い場合では、表4に示すよう
に熱延板焼鈍温度が500〜900℃でもε−Cu相の
析出量が0.2体積%を下回り、仕上げ焼鈍が500〜
900℃の連続焼鈍であっても短時間の焼鈍であること
から抗菌性が劣っている。また、Cu含有量が高くて
も、熱延板焼鈍温度が500℃未満又は900℃を超え
る温度では、700〜900℃で仕上げ焼鈍しても短時
間の焼鈍であるため、ε−Cu相の析出量が0.2体積
%に達せず、抗菌性が劣っていた。また、ステンレス鋼
A4を750℃で6時間熱延板焼鈍し、冷間圧延後、7
50℃×均熱1分の最終焼鈍を施した材料をSEM−E
DXで観察したところ、図1に示す金属組織をもってい
た。図1から、ε−Cu相が均一に微細分散析出してい
ることが判る。このような組織をもつステンレス鋼は、
優れた抗菌性を呈していた。
ンサイト系ステンレス鋼は、Cu含有量が0.4重量%
以上で且つCuリッチ相析出量が0.2体積%以上であ
ることから、無垢材でも優れた抗菌性を発揮する。この
抗菌性は、材質に由来するので、長期間にわたって持続
する。そのため、このステンレス鋼は、厨房機器,病院
等で使用される各種機材,電車,バス等の輸送機関にお
いて人体が接触する機器等の材料として、抗菌性が要求
される広範な分野において使用され、生活環境の改善が
図られる。
ス鋼板の走査型電子顕微鏡による金属組織のイメージ像
とCuの分析結果を示す写真
Claims (4)
- 【請求項1】 C:0.8重量%以下,Si:3重量%
以下,Cr:10〜20重量%,Cu:0.4〜5.0
重量%を含み、残部が実質的にFeの組成をもち、Cu
リッチ相がマトリックス中に0.2体積%以上の割合で
分散していることを特徴とする抗菌性に優れたマルテン
サイト系ステンレス鋼。 - 【請求項2】 Mo:4重量%以下及びV:1重量%以
下の1種又は2種を更に含む組成をもつ請求項1記載の
抗菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。 - 【請求項3】 請求項1又は2記載の組成をもつマルテ
ンサイト系ステンレス鋼の熱延板焼鈍を500〜900
℃で均熱1時間以上のバッチ焼鈍で行い、Cuリッチ相
をマトリックス中に0.2体積%以上析出させる抗菌性
に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。 - 【請求項4】 請求項3記載のバッチ焼鈍を施した後、
冷間圧延し、最終焼鈍として700〜900℃の連続焼
鈍を行う抗菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼
の製造方法。
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