JP2023161976A - ガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、低コストな圧力センサによって早期に高精度に検知することができるガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法を提供する。【解決手段】ガスリーク検知装置100は、圧力容器1の内部の圧力を測定する圧力センサ2と、圧力容器1の温度を測定する温度センサ3と、記録部5と、圧力センサ2によって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める演算部(6)と、補正圧力の時間変化に基づいて絶縁性ガスのリークの有無を検定する検定部(6)とを備え、補正関数は、リークの検定時以前の所定期間に測定された極値温度をTsとしたとき、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)nを変数として含む多項式で表される。ガスリーク検知方法は、圧力センサ2によって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める工程と、補正圧力の時間変化に基づいて絶縁性ガスのリークの有無を検定する工程とを含む。【選択図】図1
Description
本発明は、ガス絶縁機器等に封入された絶縁性ガスのリークを検知するガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法に関する。
変電所や発電所等の電力施設には、ガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear:GIS)、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁送電線等のガス絶縁機器が備えられている。ガス絶縁機器は、導体を圧力容器に収容した構造に設けられている。圧力容器には、電気絶縁性や通電遮断性を確保するために、絶縁性ガスが封入されている。絶縁性ガスとしては、六フッ化硫黄(SF6)、二酸化炭素(CO2)等が知られている。
SF6は、地球温暖化係数(Global Warming Potential:GWP)が高い温室効果ガスの一種である。SF6のGWPは、23900である。SF6やCO2は、ガス絶縁機器から漏洩すると環境に悪影響を及ぼすため、放出量が規制されている。GISに関する電気規格では、SF6スローリークの管理基準が0.5%/年とされている。ガス絶縁機器の圧力容器は大容量であるため、速度が遅い微量な漏洩についても早期に検出する必要がある。
ガスリークを検知する一般的な装置としては、ガスの圧力や密度を監視するガス密度スイッチがある。しかし、ガス密度スイッチでは、検出感度上で速度が遅い微量な漏洩の検知が困難であり、漏洩を警告するアラームが作動するまでに時間がかかる。アラームが作動したときには、既に相当量の絶縁性ガスが漏洩しているため、環境保全の観点から改善が望まれている。
特許文献1には、ガス圧力センサを用いたガス漏れ検出方法が記載されている。ガス圧力値は、環境温度によって大きく変動する。また、屋外の場合、日照、気温、天候等の影響を受ける。そのため、この検出方法では、ガス圧力センサの測定データを、同時に測定された温度センサの測定データに基づいて、所定の基準温度のガス圧力に換算している。換算の結果の標準偏差が最も小さくなる温度センサを求め、その測定温度で補正された温度補正ガス圧力の経時変化に基づいて、ガス漏れの判定を行っている。
一般に、圧力センサとしては、金属歪みゲージセンサ、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサ等、種々の方式によるセンサがある。金属歪みゲージセンサは、検出精度が高いが、測定感度が低いという短所がある。一方、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、測定感度が高く、金属歪みゲージセンサと比較して、ゲージ率が50倍以上ある。ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、測定感度や温度耐性が高く、使用温度範囲が広いため、多くの分野で用いられている。
一般に、GIS等のガス絶縁機器は、複数の圧力容器が連結された構造に設けられている。そのため、ガス絶縁機器における絶縁性ガスのリークを監視するにあたっては、圧力容器毎の圧力を測定することが望まれる。機器のコストを削減する観点からは、安価なセンサを必要最低限の個数だけ設置するのが適切な対策となる。しかし、一般的に用いられる金属歪みゲージセンサは、比較的高価であるため、コストの点で課題がある。
一方、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、金属歪みゲージセンサと比較して安価であるが、非線形性や温度係数が大きい点に課題を抱えている。ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサでは、応力と抵抗との関係が温度依存性の非線形性を示す。また、温度依存性のゼロ点シフトを生じる場合がある。電気抵抗を生じる歪みの大きさが温度による影響を強く受けるため、非線形誤差や温度誤差を生じる問題がある。
一般には、圧力センサによって測定された絶縁性ガスの圧力は、特許文献1のように、20℃等の基準温度における圧力に換算されている。基準温度における圧力に換算すると、日照、天候、導体のジュール発熱等の影響を低減できる。しかし、このような処理を行ったとしても、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサの場合、非線形性や温度係数が大きい点が誤差の要因となる。非線形誤差や温度誤差が解消されないため、速度が遅い微量なスローリーク等を早期に検知することが困難になっている。
そこで、本発明は、圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、低コストな圧力センサによって早期に高精度に検知することができるガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、本発明に係るガスリーク検知装置は、絶縁性ガスが封入された圧力容器における前記絶縁性ガスのリークを検知するガスリーク検知装置であって、前記圧力容器の内部の圧力を測定する圧力センサと、前記圧力容器の表面または内部の温度を測定する温度センサと、前記圧力センサによって測定された圧力測定値、および、前記温度センサによって測定された温度測定値を記録する記録部と、前記圧力センサによって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める演算部と、前記補正圧力の時間変化に基づいて前記絶縁性ガスのリークの有無を検定する検定部と、を備え、前記補正関数は、前記絶縁性ガスの圧力として測定された測定圧力をP、前記絶縁性ガスの温度として測定された測定温度をT、リークの検定時以前の所定期間に測定された前記測定温度の極小値または極大値である極値温度をTsとしたとき、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)n(但し、mおよびnは、0以上の数を示す。)を変数として含む多項式で表される。
また、本発明に係るガスリーク検知方法は、絶縁性ガスが封入された圧力容器における前記絶縁性ガスのリークを検知するガスリーク検知方法であって、前記圧力容器の内部の圧力、および、前記圧力容器の表面または内部の温度を測定する工程と、前記圧力センサによって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める工程と、前記補正圧力の時間変化に基づいて前記絶縁性ガスのリークの有無を検定する工程と、を含み、前記補正関数は、前記絶縁性ガスの圧力として測定された測定圧力をP、前記絶縁性ガスの温度として測定された測定温度をT、リークの検定時以前の所定期間に測定された前記測定温度の極小値または極大値である極値温度をTsとしたとき、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)n(但し、mおよびnは、0以上の数を示す。)を変数として含む多項式で表される。
本発明によれば、圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、低コストな圧力センサによって早期に高精度に検知することができるガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法を提供することができる。
以下、本発明の一実施形態に係るガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明の実施形態に係るガスリーク検知装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、ガスリーク検知装置100は、ガス絶縁機器の圧力容器1に付随して備えられる。ガスリーク検知装置100は、圧力センサ2と、温度センサ3と、A/D変換器4と、記録部5と、処理部6と、表示部7と、を備えている。
図1に示すように、ガスリーク検知装置100は、ガス絶縁機器の圧力容器1に付随して備えられる。ガスリーク検知装置100は、圧力センサ2と、温度センサ3と、A/D変換器4と、記録部5と、処理部6と、表示部7と、を備えている。
ガスリーク検知装置100は、ガス絶縁機器の圧力容器1における絶縁性ガスのリークを検知する装置である。ガスリーク検知装置100では、圧力センサ2によって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求め、補正圧力の時間変化に基づいて絶縁性ガスのリークの有無を検定する。
ガスリーク検知装置100では、所定の補正関数を用いることによって、圧力センサ2の温度依存性の非線形性に起因する非線形誤差や、圧力センサ2の温度依存性のゼロ点シフトに起因する温度誤差を低減して高精度な検知を行う。
ガス絶縁機器は、密閉された圧力容器1を備えている。圧力容器1は、複数の容器が連結された構造や、複数の分室に区画された構造に設けられる。ガス絶縁機器としては、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁送電線等が挙げられる。ガス絶縁機器の圧力容器1の内部には、母線等の導体や、遮断器、断路器、接地開閉器、変流器、変圧器等の電気機器が収容される。
また、圧力容器1の内部には、所定の初期圧力となるように、絶縁性ガスが封入される。絶縁性ガスとしては、六フッ化硫黄(SF6)等が挙げられる。絶縁性ガスが封入されることによって、圧力容器1に収容された導体や電気機器について、電気絶縁性や通電遮断性が確保される。
圧力容器1には、圧力センサ2と温度センサ3が設置される。圧力センサ2と温度センサ3は、A/D変換器4に対して、通信線8を介して接続される。通信線8は、有線で構成されてもよいし、無線で構成されてもよい。A/D変換器4、記録部5、処理部6および表示部7は、この順に信号線を介して接続される。
圧力センサ2は、絶縁性ガスの圧力として、圧力容器1の内部の圧力を測定する。圧力センサ2は、圧力容器1に対して、配管およびバルブを介して設置することができる。圧力容器1の内部の圧力は、圧力容器1に封入された絶縁性ガスの圧力と見做すことができる。圧力センサ2は、圧力容器1が連結構造や分室構造に設けられる場合、空間毎に設置して空間毎の圧力を測定することができる。
圧力センサ2としては、例えば、金属歪みゲージセンサ、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサ、ガス密度式圧力センサ、静電容量式圧力センサ等、適宜のセンサを用いることができる。圧力センサ2としては、機器コストの観点や、所定の補正関数を用いた補正の有効性の観点からは、温度依存性の非線形性やゼロ点シフトを生じる圧力センサが好ましく、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサが特に好ましい。
温度センサ3は、絶縁性ガスの温度として、圧力容器1の表面または内部の温度を測定する。温度センサ3は、圧力容器1の外側の表面や圧力容器1の内部に設置される。圧力容器1の表面の温度や内部の温度は、圧力容器1に封入された絶縁性ガスの温度と見做すことができる。温度センサ3は、圧力容器1が連結構造や分室構造に設けられる場合、空間毎に設置して空間毎の温度を測定することができる。
温度センサ3としては、例えば、測温抵抗体、熱電対等、適宜のセンサを用いることができる。測温抵抗体としては、測定温度範囲が適切である限り、白金系、ニッケル系等の適宜のセンサを用いることができる。温度センサ3は、圧力センサ2と一体化させて設置することもできる。
温度センサ3は、圧力容器1の表面の温度を測定する場合、圧力容器1の下半部の表面に配置することが好ましく、圧力容器1の底部よりも下方に配置することがより好ましい。また、夜間の特定の時間帯に測定を行うことが好ましい。また、圧力容器1の内部の温度を測定する場合、圧力容器1の内部の下半部に配置することが好ましく、圧力容器1の内部の底部に配置することがより好ましい。このような形態であると、日照、天候、気温等の影響を受け難いため、測定値と実際のガス温度との誤差を小さくすることができる。
A/D変換器4は、圧力センサ2によって測定された圧力のアナログ信号、および、温度センサ3によって測定された温度のアナログ信号を受信し、これらのアナログ信号をデジタル信号に変換する。圧力センサ2や温度センサ3による測定は、圧力容器1における絶縁性ガスのリークの監視時に、任意の時間間隔で定期的に行われる。
記録部5は、圧力センサ2によって測定された圧力測定値、および、温度センサ3によって測定された温度測定値を記録する。記録部5は、内蔵メモリ、ハードディスク等の記憶装置によって構成される。圧力センサ2によって測定された圧力の測定データや、温度センサ3によって測定された温度の測定データは、圧力容器1における絶縁性ガスのリークの監視時に、任意の時間間隔で定期的に記録される。
処理部6は、圧力センサ2によって測定された圧力の測定データや、温度センサ3によって測定された温度の測定データに基づく演算を行う。処理部6は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、タイマ、入力部、出力部等によって構成される。
処理部6は、多変量回帰分析によるフィッティングを行って補正関数を決定する分析部を構成している。処理部6は、学習期間において、絶縁性ガスのガス量毎の圧力のデータに基づいて、補正関数を導出するための所定の行列演算式のフィッティングを行う。そして、補正関数を診断期間で用いるために、フィッティングの結果のデータを記録部5に出力して記録させる。
また、処理部6は、圧力センサ2によって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める演算部と、補正圧力の時間変化に基づいて絶縁性ガスのリークの有無を検定する検定部とを構成している。処理部6は、診断期間において、圧力センサ2によって測定された圧力のデータを補正関数で補正して補正圧力のデータを生成する。そして、補正圧力の時間変化のデータを所定の閾値と比較して、絶縁性ガスのリークの有無を検定する。処理部6は、検定結果のデータを表示部7に出力する。
表示部7は、圧力容器1における絶縁性ガスのリークの有無を示す検定結果を表示する。表示部7は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管等によって構成される。表示部7は、絶縁性ガスのリークの有無を示す検定結果が、リークを警告する警報等と共に画像として表示する。
検定結果の表示は、例えば、絶縁性ガスのリークの発生時期を示す表示や、絶縁性ガスのリーク速度を示す表示や、圧力センサ2によって測定された圧力と時間との関係を示す回帰直線、グラフ、テーブルや、温度センサ3によって測定された温度と時間との関係を示すグラフ、テーブル等を含むことができる。検定結果は、ガス絶縁機器の圧力容器1毎に表示できる。
図2は、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサの温度と圧力の変化の関係を示す図である。
図2に示すように、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、温度や圧力に依存する非線形性を示す。この種の圧力センサでは、圧力による歪みが生じたとき、半導体の電気抵抗が変化するため、出力変化に基づいて圧力が測定される。
図2に示すように、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、温度や圧力に依存する非線形性を示す。この種の圧力センサでは、圧力による歪みが生じたとき、半導体の電気抵抗が変化するため、出力変化に基づいて圧力が測定される。
しかし、ピエゾ抵抗素子の電気抵抗は、歪み量に依存して非線形的な変化を示す。また、ピエゾ抵抗素子の応力は、温度に依存して非線形的な変化を示す。そのため、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサによって測定された圧力測定値は、温度依存性の非線形誤差を生じる。温度依存性の非線形誤差は、センサのダイアフラムに加わる圧力が大きくなるほど、歪み量の拡大に伴って大きくなる。
図3は、圧力センサのゼロ点シフトを示す図である。
図3に示すように、金属歪みゲージセンサや、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、温度依存性のゼロ点シフトを生じることがある。ゼロ点シフトは、測定値のゼロ点が、測定の繰り返しに伴って、或る方向にシフトしていく現象である。圧力センサ2の温度が低くなるほど、圧力測定値のゼロ点が小さくなる傾向がある。
図3に示すように、金属歪みゲージセンサや、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサは、温度依存性のゼロ点シフトを生じることがある。ゼロ点シフトは、測定値のゼロ点が、測定の繰り返しに伴って、或る方向にシフトしていく現象である。圧力センサ2の温度が低くなるほど、圧力測定値のゼロ点が小さくなる傾向がある。
このような圧力センサの非線形性やゼロ点シフトは、絶縁性ガスのリークを検知する際に、絶縁性ガスの圧力を正確に測定することを困難にする。ガス絶縁機器は、屋外に設置されることが多いため、圧力容器に封入された絶縁性ガスの温度は、日照、気温、天候等の影響を受け易い。絶縁性ガスの圧力は、このような温度の変動によって大きく左右される。また、圧力センサには、検出限界があり、微小な圧力を測定できない問題がある。
温度依存性の非線形性による非線形誤差や、温度依存性のゼロ点シフトによる温度誤差が大きい場合、正確な圧力の測定が行えないため、スローリーク等を早期に検知することが困難である。特に検出限界の近傍では、圧力の変化が正しく検知されなくなる。速度が遅い微量な漏洩が継続すると、リークが検知されないまま、絶縁性ガスのリークが継続するため、大量の絶縁性ガスの放出に繋がる。
そこで、本実施形態に係るガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法では、圧力センサ2によって測定された圧力を、絶縁性ガスの温度として測定された測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsを変数として含む所定の補正関数で補正して補正圧力Ra(P,T)を求める。そして、補正圧力Ra(P,T)の時間変化に基づいて絶縁性ガスのリークの有無を検定する。
圧力センサ2によって測定された圧力を補正する補正関数は、行列演算式によって一般化して表すことができる。補正関数を導出するための行列演算式は、次の数式(1)で表される。
[但し、数式(1)中、Ra(P,T)は、温度依存性を補正した補正圧力、Pは、絶縁性ガスの圧力として測定された測定圧力、Tは、絶縁性ガスの温度として測定された測定温度、Tsは、リークの検定時以前の所定期間に測定された測定温度の極小値または極大値である極値温度、K11~Kmnは、互いに独立したn×m個の補正係数、mおよびnは、行列演算式を計算可能な0以上の数を示す。]
測定圧力Pは、ガス絶縁機器の圧力容器1に備えられた圧力センサ2や、圧力容器1を模擬した試験容器の内部の圧力を測定する圧力センサ等によって、絶縁性ガスの圧力として測定される圧力である。
測定温度Tは、ガス絶縁機器の圧力容器1に備えられた温度センサ3や、圧力容器1を模擬した試験容器の表面または内部の温度を測定する温度センサ等によって、絶縁性ガスの温度として測定される温度である。
極値温度Tsは、リークの検定時以前の所定期間に測定された測定温度Tのうち、所定期間における極値、すなわち、所定期間における極小値または極大値を意味する。極値温度Tsは、圧力センサ2によって測定された圧力を補正する際に、直近の温度変動を伴う所定期間に測定された測定温度Tから特定できる。極値温度Tsを特定するための所定期間としては、基準となる極小値または極大値が含まれる限り、リークの検知の周期等に応じて、適宜の期間を用いることができる。
極値温度Tsとしては、特に、リークの検定時直前の24時間内に測定された測定温度Tの極小値または極大値を用いることが好ましい。通常、ガス絶縁機器の圧力容器に封入された絶縁性ガスの温度は、日照等の影響によって、24時間周期で変化する。絶縁性ガスの温度は、昼間に最高となり、夜間に最低となる傾向がある。そのため、所定期間として24時間を用いると、リークを24時間以下の時間単位で監視する際に、測定温度Tを適切に正規化できる。
極値温度Tsとしては、測定温度Tの極大値と比較して、測定温度Tの極小値を用いることがより好ましい。極小値を用いると、数式(1)で表される行列演算式に含まれる温度比T/Tsの感度が高くなる。そのため、数式(1)で表される行列演算式から、より正確な補正が可能な補正関数を導出できる。
なお、極値温度Tsとしては、予め設定されている所定期間内に複数の極小値や極大値が生じた場合には、期間毎の周期性が相対的に高い極値や、直近に採用した極値と同じ極値を採用することもできる。また、極値温度Tsとしては、予め設定されている所定期間内に極小値または極大値が含まれない場合には、直近に採用した極値と同じ極値を採用することもできる。
補正係数K(K11~Kmn)は、ガスリーク検知装置100の装置系内の因子による影響を補正する補正係数である。補正係数Kは、任意の数を示す。装置系内の因子は、未知の現象であってもよいし、既知の現象であってもよい。装置系内の因子としては、センサ由来の影響因子等が挙げられる。補正係数Kを用いると、圧力センサ2の非線形誤差や温度誤差に加え、装置系内の因子による誤差を校正できる。
数式(1)で表される行列演算式は、多項式の補正関数に展開することができる。数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数は、絶縁性ガスの圧力として測定された測定圧力をP、絶縁性ガスの温度として測定された測定温度をT、リークの検定時以前の所定期間に測定された測定温度の極小値または極大値である極値温度をTsとしたとき、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)n(但し、mおよびnは、0以上の数を示す。)を変数として含む多項式で表される。
数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数は、装置系内の因子による影響を補正する場合、測定圧力Pの冪乗と、温度比T/Tsの冪乗と、装置系内の因子による影響を補正する補正係数K(K11~Kmn)との積和である多項式で表される。補正係数Kの行列は、絶縁性ガスのリークの要求される検知精度等に応じて、単位行列等として入力してもよい。
数式(1)で表される行列演算式は、リークの検定前に収集されたデータに基づいて、多変量回帰分析によってフィッティングさせることができる。多変量回帰分析は、測定圧力Pの冪乗、温度比T/Tsの冪乗、および、補正係数K(K11~Kmn)を説明変数とすると共に、補正圧力Ra(P,T)に相当する標本圧力Ra(P,T)を目的変数として行う。
多変量回帰分析によるフィッティングによって、測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K11~Kmnを、圧力センサ2毎に求めることができる。フィッティングされた数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数は、絶縁性ガスのリークの監視時に、圧力センサ2によって測定された圧力の補正に用いられる。
次に、本実施形態に係るガスリーク検知装置を用いて行うガスリーク検知方法について、より具体的に説明する。
<第1実施形態>
図4は、本発明の第1実施形態に係るガスリーク検知方法の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、数式(1)で表される行列演算式は、リークの監視前に行う予備試験で収集されたデータに基づいて、多変量回帰分析によってフィッティングさせることができる。図4に示すガスリーク検知方法は、学習期間(ステップS1~4)と診断期間(ステップS5~8)によって構成されている。
図4は、本発明の第1実施形態に係るガスリーク検知方法の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、数式(1)で表される行列演算式は、リークの監視前に行う予備試験で収集されたデータに基づいて、多変量回帰分析によってフィッティングさせることができる。図4に示すガスリーク検知方法は、学習期間(ステップS1~4)と診断期間(ステップS5~8)によって構成されている。
学習期間(ステップS1~4)は、絶縁性ガスのリークを模擬した予備試験において、ガス絶縁機器の圧力容器1を模擬した試験容器を用いて行う。学習期間(ステップS1~4)では、絶縁性ガスについて、既知のガス量における圧力のデータを収集して、数式(1)で表される行列演算式のフィッティングを行う。
診断期間(ステップS5~8)は、実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1を対象とした絶縁性ガスのリークの監視時に行う。診断期間(ステップS5~8)では、フィッティングされた数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数を用いて、ガス絶縁機器の圧力容器1に封入された絶縁性ガスのリークを検知する。
予備試験は、実フィールドでの絶縁性ガスのリークを模擬して、所定のガス量の絶縁性ガスを試験容器に封入して行う。試験容器としては、ガス絶縁機器で実際に使用する圧力容器を用いてもよいし、模擬的な圧力容器を用いてもよい。予備試験は、任意の温度下で行うことができるが、基準となる20℃等で行うことが好ましい。
試験容器に封入された絶縁性ガスの温度を測定する温度センサとしては、測温抵抗体、熱電対等の適宜のセンサを用いることができる。試験容器に封入された絶縁性ガスの圧力を測定する圧力センサとしては、適宜のセンサを用いることができるが、測定精度が高い標準器を用いることが好ましい。
(ステップS1)
はじめに、予備試験において、試験容器に封入された任意のガス量の絶縁性ガスについて、絶縁性ガスの温度と、当該温度における圧力を測定する。温度および圧力の測定は、試験容器に封入された絶縁性ガスを互いに異なるガス量に調整して行う。ガス量毎の圧力を測定することによって、所定の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの複数のデータを求める。
はじめに、予備試験において、試験容器に封入された任意のガス量の絶縁性ガスについて、絶縁性ガスの温度と、当該温度における圧力を測定する。温度および圧力の測定は、試験容器に封入された絶縁性ガスを互いに異なるガス量に調整して行う。ガス量毎の圧力を測定することによって、所定の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの複数のデータを求める。
ステップS1では、絶縁性ガスのガス量を調整して、所定のリーク速度[%/t]の絶縁性ガスのリークを模擬する。絶縁性ガスのガス量は、検出限界以上の範囲で調整する。絶縁性ガスのガス量は、検知の目標とする目標検知量[%/t]となるように調整することが好ましい。このようなガス量に調整すると、リーク速度が遅い微量なスローリークに対応可能なデータを収集できる。
基準温度Taとしては、例えば、常温に相当する20℃が挙げられる。絶縁性ガスの圧力は、温度に依存する。基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paのデータを求めると、温度の影響による圧力の誤差を排除することができる。ガス量毎の基準となる初期圧力Paのデータを収集できるため、数式(1)で表される行列演算式を、より正確にフィッティングすることが可能になる。
基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paのデータは、絶縁性ガスを基準温度Taに調整して収集してもよいし、絶縁性ガスを基準温度Ta以外の任意の温度に調整して収集してもよい。基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paは、任意の温度における圧力の測定に基づいて、気体の状態方程式によって換算することができる。
気体の状態方程式としては、例えば、ビーティー・ブリッジマン(Beattie and Bridgman)の実在気体の状態方程式を用いることができる。ビーティー・ブリッジマンの実在気体の状態方程式は、次の数式(2)で表される。
[但し、数式(2)中、Pは、気体の圧力[Pa]、Vは、気体のモル容積[m3/mol]、Rは、気体定数[8.31J/mol・K]、Tは、気体の温度[K]、A0、B0、a、bおよびcは、気体の種類毎の定数を示す。]
数式(2)のAおよびBは、絶縁性ガスが六フッ化硫黄(SF6)である場合、A0=1.578、a=0.1062×10-3、B0=0.366×10-3、b=0.1236×10-3として計算することができる。εは、常温等の場合、0に近似することができる。
ガス量毎の温度および圧力の測定は、一つの試験容器で行ってもよいし、複数の試験容器で行ってもよい。スローリークが一定速度で継続する状況を想定して、一つの試験容器を用意して、ガス量を所定のリーク速度[%/t]となるように順次に増加させながら、データの収集を繰り返すことができる。或いは、互いにガス量が異なる複数の試験容器を用意して、容器毎にデータの収集を行うこともできる。
温度および圧力の測定は、互いに異なる複数のガス量毎に行う。ガス量の種類数や測定の回数は、任意の数とすることができる。但し、ガス量を変えた測定の回数が多いほど、多数のデータが得られるため、高精度なフィッティングが可能になる。例えば、リーク前に相当する初期状態において、初期圧力Pa0を測定することができる。また、リーク後に相当するリーク状態において、互いに異なるガス量に対応した初期圧力Pa1,Pa2,Pa3・・・を測定することができる。
(ステップS2)
続いて、所定の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの複数のデータを、温度センサによって測定される互いに異なる標本温度Tの複数のデータ、および、気体の状態方程式に基づいて、互いに異なる標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)の複数のデータに変換する。
続いて、所定の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの複数のデータを、温度センサによって測定される互いに異なる標本温度Tの複数のデータ、および、気体の状態方程式に基づいて、互いに異なる標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)の複数のデータに変換する。
ステップS2では、基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paのデータを、互いに異なる標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)のデータに変換することによって、数式(1)で表される行列演算式をフィッティングするためのデータ集合を作成する。気体の状態方程式としては、数式(2)で表されるビーティー・ブリッジマンの実在気体の状態方程式を用いることができる。
図5は、基準温度におけるガス量毎の初期圧力を標本温度毎の標本圧力に変換する処理を説明する図である。左図は、気体の状態方程式で変換する前の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paを示す図である。右図は、気体の状態方程式で変換した後の標本温度T(T1,T2,T3)におけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)を示す図である。
図5に示すように、ステップS2では、基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paを、任意の標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)に変換して、温度毎且つガス量毎の圧力を示すデータ集合を作成できる。
図5に示すように、ステップS2では、基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paを、任意の標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)に変換して、温度毎且つガス量毎の圧力を示すデータ集合を作成できる。
標本温度Tとしては、実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1で測定されることが想定される温度を用いることができる。標本温度Tとしては、互いに異なる複数の温度を用いることが好ましい。標本温度Tの種類数は、任意の数とすることができる。但し、標本温度Tの種類数が多いほど、多数のデータが得られるため、高精度なフィッティングが可能になる。
例えば、標本温度Tとしては、実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1で測定されることが想定される温度範囲内で、互いに異なる標本温度T0,T1,T2,T3・・・をデータの作成に用いることができる。基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Pa0,Pa1,Pa2,Pa3・・・を、気体の状態方程式を用いて、標本温度T0,T1,T2,T3・・・における標本圧力Ra0(Pa0,T0),Ra1(Pa1,T1),Ra2(Pa2,T2),Ra3(Pa3,T3)・・・に変換することができる。
(ステップS3)
続いて、所定の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの複数のデータと、互いに異なる標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)の複数のデータを用いて、数式(1)で表される行列演算式をモデルとした多変量回帰分析を行う。多変量回帰分析によるフィッティングによって、測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K(K11~Kmn)を決定する。
続いて、所定の基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの複数のデータと、互いに異なる標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)の複数のデータを用いて、数式(1)で表される行列演算式をモデルとした多変量回帰分析を行う。多変量回帰分析によるフィッティングによって、測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K(K11~Kmn)を決定する。
多変量回帰分析は、基準温度Taにおけるガス量毎の初期圧力Paの冪乗、温度比T/Tsの冪乗、および、補正係数K(K11~Kmn)を説明変数とすると共に、標本温度Tにおけるガス量毎の標本圧力Ra(P,T)を目的変数として行う。多変量回帰分析によるフィッティングを行い、数式(1)で表される行列演算式を特定する。
数式(1)で表される行列演算式の測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K11~Kmnは、多変量回帰分析において計算される決定係数R2の大きさに基づいて求めることができる。決定係数R2は、標本値をyi,yj、標本値の平均値をy-(バー)、推定値をy^(ハット)として、次の数式(3)で表すことができる。
決定係数R2が大きいほど、目的変数が説明変数によって十分に説明されていることを示す。そのため、決定係数R2が最大となる組み合わせや、決定係数R2が基準値以上となる組み合わせを採用することができる。決定係数R2の基準値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.95以上が好ましい。通常、測定圧力Pの冪指数m、および、温度比T/Tsの冪指数nは、m=3以下、n=3以下にフィッティングできる。
(ステップS4)
続いて、多変量回帰分析によってフィッティングされた数式(1)で表される行列演算式のデータを、フィッティングの結果として決定された測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K11~Kmnのデータと共に、ガスリーク検知装置100の記録部5に保存する。
続いて、多変量回帰分析によってフィッティングされた数式(1)で表される行列演算式のデータを、フィッティングの結果として決定された測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K11~Kmnのデータと共に、ガスリーク検知装置100の記録部5に保存する。
フィッティングされた数式(1)で表される行列演算式は、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)n(但し、mおよびnは、0以上の数を示す。)を変数として含む多項式の補正関数に展開することができる。記録部5には、補正関数のデータが保存されてもよい。
(ステップS5)
実フィールドにおける絶縁性ガスのリークの監視時には、圧力センサ2によって、絶縁性ガスの圧力に相当する当該温度における圧力容器1の内部の圧力を測定する。また、温度センサ3によって、絶縁性ガスの温度に相当する圧力容器1の表面または内部の温度を測定する。測定圧力Pのデータ、および、測定温度Tのデータは、デジタル信号に変換されて、記録部5に記録される。
実フィールドにおける絶縁性ガスのリークの監視時には、圧力センサ2によって、絶縁性ガスの圧力に相当する当該温度における圧力容器1の内部の圧力を測定する。また、温度センサ3によって、絶縁性ガスの温度に相当する圧力容器1の表面または内部の温度を測定する。測定圧力Pのデータ、および、測定温度Tのデータは、デジタル信号に変換されて、記録部5に記録される。
圧力センサ2による圧力の測定、および、温度センサ3による温度の測定は、所定の時間間隔で定期的に行われる。定期的な測定によって、測定時間毎の測定温度Tのデータと、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pのデータが収集される。測定温度Tのデータと測定圧力Pのデータは、測定時刻のデータと関連付けられて、時系列のデータとして記録部5に保存される。
(ステップS6)
続いて、ガスリーク検知装置100の処理部6は、測定温度Tおよび測定圧力Pの測定が行われる毎に、測定温度Tのデータ、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pのデータ、および、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数のデータを読み出し、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pを、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数で補正して、補正圧力Ra’(P,T)を求める。
続いて、ガスリーク検知装置100の処理部6は、測定温度Tおよび測定圧力Pの測定が行われる毎に、測定温度Tのデータ、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pのデータ、および、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数のデータを読み出し、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pを、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数で補正して、補正圧力Ra’(P,T)を求める。
ステップS6では、圧力センサ2によって測定された最新の測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pを入力として、フィッティングされた数式(1)で表される行列演算式に相当する演算を行う。このような演算によって、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Ra’(P,T)を求める。
(ステップS7)
続いて、処理部6は、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Ra’(P,T)のデータを、気体の状態方程式に基づいて、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)のデータに変換する。換算補正圧力Ra’Ta(P,T)のデータは、測定時刻のデータと関連付けられて、時系列のデータとして記録部5に保存される。
続いて、処理部6は、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Ra’(P,T)のデータを、気体の状態方程式に基づいて、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)のデータに変換する。換算補正圧力Ra’Ta(P,T)のデータは、測定時刻のデータと関連付けられて、時系列のデータとして記録部5に保存される。
ステップS7では、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Ra’(P,T)のデータを、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)のデータに変換することによって、温度の影響による圧力の誤差を排除する。気体の状態方程式としては、数式(2)で表されるビーティー・ブリッジマンの実在気体の状態方程式を用いることができる。
基準温度Taとしては、例えば、常温に相当する20℃が挙げられる。但し、基準温度Taは、ステップS1およびステップS2と、ステップS7とで、互いに同一の温度を用いてもよいし、互いに異なる温度を用いてもよい。
図6は、実フィールドで測定された測定圧力を換算補正圧力に変換する処理を説明する図である。左図は、補正関数および気体の状態方程式で変換する前の測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pを示す図である。右図は、補正関数および気体の状態方程式で変換した後の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)を示す図である。
図6に示すように、ステップS6およびステップS7では、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pを、基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)に変換して、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsで校正されたデータを作成できる。
図6に示すように、ステップS6およびステップS7では、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pを、基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)に変換して、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsで校正されたデータを作成できる。
図6の左図に示すように、絶縁性ガスの測定圧力Pが、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数で補正されていない場合、圧力容器1の内部における圧力の低下が、リーク量の増加によるものか、温度の低下によるものか、判別することが困難である。測定時間毎の圧力の変化が、温度の変動による範囲内である場合、圧力の変化が絶縁ガスのリークとして検知されないことになる。
これに対し、図6の右図に示すように、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数で補正された場合、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsに基づく変換が行われるため、温度の変動による圧力の変化が小さくなる。リーク量の増加による圧力の変化を容易に判別できるようになるため、絶縁性ガスのリークを高精度に検知することができる。
(ステップS8)
続いて、処理部6は、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率を演算し、基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率に基づいて、圧力容器1に封入された絶縁性ガスのリークの有無を検定する。
続いて、処理部6は、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率を演算し、基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率に基づいて、圧力容器1に封入された絶縁性ガスのリークの有無を検定する。
絶縁性ガスのリークの有無の検定は、基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率が、予め設定された所定の閾値以上であるか否かを判定することによって行うことができる。
換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率は、適宜の時間範囲について求めることができる。例えば、リークの監視の開始時から最新の圧力を測定した現在の測定時までの時間範囲や、前回の測定時から現在の測定時までの時間範囲等について求めることができる。処理部6は、所定の時間範囲に演算された測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の複数のデータを読み出し、当該時間範囲における時間変化率を演算する。
図7は、第1実施形態に係るガスリーク検知方法の絶縁性ガスのリークの有無を検定する処理を示す図である。
図7に示すように、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)と時間との関係は、線形近似することができる。線形近似は、最小二乗法によって行うことができる。
図7に示すように、所定の基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)と時間との関係は、線形近似することができる。線形近似は、最小二乗法によって行うことができる。
基準温度Taにおける測定時間毎の換算補正圧力Ra’Ta(P,T)は、リークの監視の開始時から起算される経過時間をt、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率をRa’Ta(P,T)/dt=α、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の初期値をβとしたとき、次の数式(4)で表すことができる。
Ra’Ta(P,T)=αt+β・・・(4)
Ra’Ta(P,T)=αt+β・・・(4)
ステップS7では、処理部6は、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率αを演算し、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率αと、予め設定された閾値とを比較し、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率αが、予め設定された所定の閾値以上であるか否かを判定することができる。
閾値としては、例えば、標準偏差σに基づく数値を用いることができる。圧力センサ2によって測定された圧力測定値は、日照、気温、天候等の影響によるバラつきを生じる。圧力測定値のバラつきが正規分布であると仮定すると、標準偏差σに基づく所定の変動幅を逸脱したとき、絶縁性ガスのリークが有ると判定することができる。
例えば、±3σの区間には、約99.73%のデータが含まれる。絶縁性ガスのリークの高精度な検知が要求される場合、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率αが、次の数式(5)を満たすか否かを判定することができる。
|α|>6σ/t・・・(5)
|α|>6σ/t・・・(5)
ステップS7では、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率αが、所定の閾値以上であるとき、絶縁性ガスのリークが有ると判定することができる。リークが有ると判定された場合、リークが有る旨の検知結果の表示や、リークを警告する警報を行う。
一方、ステップS7では、換算補正圧力Ra’Ta(P,T)の時間変化率αが、所定の閾値未満であるとき、絶縁性ガスのリークが無いと判定することができる。リークが無いと判定された場合、温度および圧力の測定を継続し、絶縁性ガスのリークの監視を続ける。
このようなガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法によると、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pを、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数で補正するため、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pが、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsによって校正される。そのため、温度依存性の非線形性による非線形誤差や、温度依存性のゼロ点シフトによる温度誤差を低減できる。極値温度Tsを基準とした温度変化に基づいて校正されるため、非線形誤差をデータ間で相殺することが可能である。また、極値温度Tsとして、リークの検定時の直前の所定期間における測定温度Tを用いると、温度依存性の要因の蓄積による影響を受け難くなるため、ゼロ点シフトによる誤差を排除できる。そのため、非線形誤差を生じる半導体圧力センサや温度誤差を生じる圧力センサを使用したとしても、速度が遅い微量なリークを検出することが可能になる。よって、圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、低コストな圧力センサによって早期に高精度に検知することができる。
<第2実施形態>
図8は、本発明の第2実施形態に係るガスリーク検知方法の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、数式(1)で表される行列演算式は、リークの監視前に行う予備試験で収集されたデータに代えて、リークの監視中に収集されたデータに基づいて、多変量回帰分析によってフィッティングさせることもできる。図8に示すガスリーク検知方法は、学習期間(ステップS11~14)と診断期間(ステップS15~18)によって構成される。
図8は、本発明の第2実施形態に係るガスリーク検知方法の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、数式(1)で表される行列演算式は、リークの監視前に行う予備試験で収集されたデータに代えて、リークの監視中に収集されたデータに基づいて、多変量回帰分析によってフィッティングさせることもできる。図8に示すガスリーク検知方法は、学習期間(ステップS11~14)と診断期間(ステップS15~18)によって構成される。
学習期間(ステップS11~14)は、実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1において、絶縁性ガスのリークの監視中に行う。学習期間(ステップS11~14)では、目標検知量[%/t]のリーク量における圧力のデータを収集して、数式(1)で表される行列演算式のフィッティングを行う。
診断期間(ステップS15~18)は、実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1を対象とした絶縁性ガスのリークの監視時に行う。診断期間(ステップS15~18)では、フィッティングされた数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数を用いて、ガス絶縁機器の圧力容器1に封入された絶縁性ガスのリークを検知する。
(ステップS11)
はじめに、実フィールドにおいて、圧力センサ2によって、絶縁性ガスの圧力に相当する当該温度における圧力容器1の内部の圧力を測定する。また、温度センサ3によって、絶縁性ガスの温度に相当する圧力容器1の表面または内部の温度を測定する。測定圧力Pのデータ、および、測定温度Tのデータは、デジタル信号に変換されて、記録部5に記録される。
はじめに、実フィールドにおいて、圧力センサ2によって、絶縁性ガスの圧力に相当する当該温度における圧力容器1の内部の圧力を測定する。また、温度センサ3によって、絶縁性ガスの温度に相当する圧力容器1の表面または内部の温度を測定する。測定圧力Pのデータ、および、測定温度Tのデータは、デジタル信号に変換されて、記録部5に記録される。
圧力センサ2による圧力の測定、および、温度センサ3による温度の測定は、経時的に繰り返し行う。測定の繰り返しによって、測定時間毎の測定温度Tの複数のデータと、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pの複数のデータが収集される。測定温度Tのデータと測定圧力Pのデータは、測定時刻のデータと関連付けられて、時系列のデータとして記録部5に保存される。
ステップS11では、圧力容器1が絶縁性ガスのリークを起こしていないと仮定して、目標検知量[%/t]以下となるような微量のリークに相当する圧力の変化を所定の学習期間にわたって経時的に測定する。学習期間としては、例えば、リークの監視の開始時から最新の圧力を測定した現在の測定時までの全部の期間や、リークの監視の開始時から現在の測定時までの一部の期間が挙げられる。
例えば、実フィールドの圧力容器1で、リーク前に相当する初期状態において、絶縁性ガスのリークが無いと仮定して、測定温度T0と、測定温度T0における初期圧力P0を測定することができる。また、目標検知量[%/t]以下となるようなリークで時間が経過した状態において、測定温度T1,T2,T3・・・と、測定温度T1,T2,T3・・・における測定圧力P1,P2,P3・・・を測定することができる。
(ステップS12)
続いて、処理部6は、所定の学習期間が経過した時点で、互いに異なる測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pの複数のデータを、気体の状態方程式に基づいて、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)の複数のデータに変換する。
続いて、処理部6は、所定の学習期間が経過した時点で、互いに異なる測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pの複数のデータを、気体の状態方程式に基づいて、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)の複数のデータに変換する。
ステップS12では、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pのデータを、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)のデータに変換することによって、数式(1)で表される行列演算式をフィッティングするためのデータ集合を作成する。気体の状態方程式としては、数式(2)で表されるビーティー・ブリッジマンの実在気体の状態方程式を用いることができる。
例えば、絶縁性ガスのリークが無いと仮定して測定された測定温度T(T0,T1,T2,T3・・・)における測定時間毎の測定圧力P(P0,P1,P2,P3・・・)を、気体の状態方程式によって、基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)(Rb0(P0,T0),Rb1(P1,T1),Rb2(P2,T2),Rb3(P3,T3)・・・)に変換することができる。
(ステップS13)
続いて、互いに異なる測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pの複数のデータと、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)の複数のデータを用いて、数式(1)で表される行列演算式をモデルとした多変量回帰分析を行う。多変量回帰分析によるフィッティングによって、測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K(K11~Kmn)を決定する。
続いて、互いに異なる測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pの複数のデータと、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)の複数のデータを用いて、数式(1)で表される行列演算式をモデルとした多変量回帰分析を行う。多変量回帰分析によるフィッティングによって、測定圧力Pの冪指数m、温度比T/Tsの冪指数n、および、補正係数K(K11~Kmn)を決定する。
多変量回帰分析は、測定温度Tにおける測定時間毎の測定圧力Pの冪乗、温度比T/Tsの冪乗、および、補正係数K(K11~Kmn)を説明変数とすると共に、基準温度Tbにおける測定時間毎の標本圧力Rb(P,T)を目的変数として行う。多変量回帰分析によるフィッティングを行い、ステップS3と同様に、数式(1)で表される行列演算式を特定する。
(ステップS14~S16)
続いて、ステップS4~S6と同様に、多変量回帰分析によってフィッティングされた数式(1)で表される行列演算式のデータの保存(ステップS14)、実フィールドにおける測定温度Tおよび測定圧力Pの測定(ステップS15)、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数による補正(ステップS16)を行う。ステップS16では、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Rb’(P,T)を求める。
続いて、ステップS4~S6と同様に、多変量回帰分析によってフィッティングされた数式(1)で表される行列演算式のデータの保存(ステップS14)、実フィールドにおける測定温度Tおよび測定圧力Pの測定(ステップS15)、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数による補正(ステップS16)を行う。ステップS16では、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Rb’(P,T)を求める。
(ステップS17)
続いて、処理部6は、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Rb’(P,T)のデータを、気体の状態方程式に基づいて、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)のデータに変換する。換算補正圧力Rb’Tb(P,T)のデータは、測定時刻のデータと関連付けられて、時系列のデータとして記録部5に保存される。
続いて、処理部6は、測定温度Tにおける測定時間毎の補正圧力Rb’(P,T)のデータを、気体の状態方程式に基づいて、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)のデータに変換する。換算補正圧力Rb’Tb(P,T)のデータは、測定時刻のデータと関連付けられて、時系列のデータとして記録部5に保存される。
基準温度Tbとしては、例えば、常温に相当する20℃が挙げられる。但し、基準温度Tnは、ステップS11およびステップS12と、ステップS17とで、互いに同一の温度を用いてもよいし、互いに異なる温度を用いてもよい。
(ステップS18)
続いて、処理部6は、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率を演算し、基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率に基づいて、圧力容器1に封入された絶縁性ガスのリークの有無を検定する。
続いて、処理部6は、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率を演算し、基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率に基づいて、圧力容器1に封入された絶縁性ガスのリークの有無を検定する。
絶縁性ガスのリークの有無の検定は、ステップS8と同様に、基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率が、予め設定された所定の閾値以上であるか否かを判定することによって行うことができる。
図9は、第2実施形態に係るガスリーク検知方法の絶縁性ガスのリークの有無を検定する処理を示す図である。
図9に示すように、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)と時間との関係は、線形近似することができる。或る測定時間t=0~t1において、絶縁性ガスのリークが無いと仮定して、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率を求め、或る測定時間t=t1~t2において、絶縁性ガスのリークを検知することができる。
図9に示すように、所定の基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)と時間との関係は、線形近似することができる。或る測定時間t=0~t1において、絶縁性ガスのリークが無いと仮定して、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率を求め、或る測定時間t=t1~t2において、絶縁性ガスのリークを検知することができる。
なお、ステップS13では、式(1)で表される行列演算式のフィッティングにおいて、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pのデータのみを用いているが、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pのデータに加え、演算によって求められた測定圧力Pのデータを用いてもよい。
例えば、或る測定時間t=0~t1において、絶縁性ガスのリークが無いと仮定し、この時間範囲において、絶縁性ガスの圧力変化ΔPが一定であり、一定の圧力変化ΔPを超える変動を検出目標とすると仮定する。測定時間t=0~t1において、所定の測定間隔Δtで定期的に圧力を測定する場合、絶縁性ガスのリークが無い状態である初期圧力をP0、一回当たりの検出目標変動量をΔP/Δtとすると、q回目の測定で測定される測定圧力P(q)は、次の数式(6)で表すことができる。
P(q)=P0×(1-q×ΔP/Δt)・・・(6)
P(q)=P0×(1-q×ΔP/Δt)・・・(6)
このようなq回目の測定で測定される測定圧力P(q)を、圧力センサ2によって測定された測定圧力Pに基づいて演算することができる。測定圧力Pのデータの一部を演算によって求めると、圧力センサ2による圧力の測定を多数回にわたって実際に行わなくとも、フィッティングに必要な標本圧力Rb(P,T)の多数のデータを得ることができる。絶縁性ガスのリークが無いと仮定できる時間範囲が確保し難い場合であっても、フィッティングに必要な適正なデータを収集することができる。
基準温度Tbにおける測定時間毎の換算補正圧力Rb’Tb(P,T)は、リークの監視の開始時から起算される経過時間をt、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率をRb’Tb(P,T)/dt=α’、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時刻t1における値をβ’としたとき、次の数式(7)で表すことができる。
Rb’Tb(P,T)=α’(t2-t1)+β’・・・(7)
Rb’Tb(P,T)=α’(t2-t1)+β’・・・(7)
ステップS17では、処理部6は、ステップS7と同様に、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率α’を演算し、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率α’と、予め設定された閾値とを比較し、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率α’が、予め設定された所定の閾値以上であるか否かを判定することができる。
例えば、±3σの区間には、約99.73%のデータが含まれる。絶縁性ガスのリークの高精度な検知が要求される場合、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率α’が、次の数式(8)を満たすか否かを判定することができる。
|α’|-ΔP/t>6σ/t・・・(8)
|α’|-ΔP/t>6σ/t・・・(8)
ステップS17では、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率α’が、所定の閾値以上であるとき、絶縁性ガスのリークが有ると判定することができる。リークが有ると判定された場合、リークが有る旨の検知結果の表示や、リークを警告する警報を行う。
一方、ステップS17では、換算補正圧力Rb’Tb(P,T)の時間変化率α’が、所定の閾値未満であるとき、絶縁性ガスのリークが無いと判定することができる。リークが無いと判定された場合、温度および圧力の測定を継続し、絶縁性ガスのリークの監視を続ける。
このようなガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法によると、数式(1)で表される行列演算式を展開した補正関数で補正するため、前記のガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法と同様に、圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、事前に予備試験を実施することなく、低コストな圧力センサによって早期に高精度に検知することができる。数式(1)で表される行列演算式を、実フィールドで得られたデータでフィッティングするため、より高精度な検知が可能になる。
<第3実施形態>
数式(1)で表される行列演算式は、圧力センサ2の種類や、環境温度の範囲に応じて、他の形式に変形することもできる。圧力センサ2が温度依存性のゼロ点シフトを生じない場合、補正関数を導出するための行列演算式は、次の数式(9)で表される式に置換することもできる。
数式(1)で表される行列演算式は、圧力センサ2の種類や、環境温度の範囲に応じて、他の形式に変形することもできる。圧力センサ2が温度依存性のゼロ点シフトを生じない場合、補正関数を導出するための行列演算式は、次の数式(9)で表される式に置換することもできる。
[但し、数式(9)中、Ra(P,T)は、温度依存性を補正した補正圧力、Pは、縁性ガスの圧力として測定された測定圧力、Tは、絶縁性ガスの温度として測定された測定温度、K11~Kmnは、互いに独立したn×m個の補正係数、mおよびnは、行列演算式を計算可能な0以上の数を示す。]
数式(9)で表される行列演算式は、数式(1)で表される行列演算式において、測定温度Tの正規化を行わない極値温度Ts=1の場合に相当する。前記のガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法においては、極値温度Tsは1以外の数であるが、圧力センサ2が温度依存性のゼロ点シフトを生じない場合、測定温度Tの正規化を行わなくてもよい。
実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1を対象とした絶縁性ガスのリークの監視時には、圧力センサ2の種類や、環境温度の範囲に応じて、数式(1)で表される行列演算式と、数式(9)で表される行列演算式とを併用することもできる。温度特性が大きく、温度の変化に対して圧力測定値の変動が大きいセンサについては、数式(1)で表される行列演算式を用いる一方、温度特性が小さく、温度の変化に対して圧力測定値の変動が小さいセンサについては、数式(9)で表される行列演算式を用いることが好ましい。
このような数式(9)で表される行列演算式を用いると、行列演算式のフィッティングを、より簡便に行うことができる。センサのダイアフラムがステンレス鋼等の温度特性が小さい材料である場合に、圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、簡便に求めた補正関数を用いて、早期に高精度に検知することができる。
<第4実施形態>
数式(1)で表される行列演算式は、ガスリーク検知装置100の装置系外の因子による影響に応じて、他の形式に変形することもできる。装置系外の因子による影響を補正する場合、補正関数を導出するための行列演算式は、次の数式(10)で表される式に置換することもできる。
数式(1)で表される行列演算式は、ガスリーク検知装置100の装置系外の因子による影響に応じて、他の形式に変形することもできる。装置系外の因子による影響を補正する場合、補正関数を導出するための行列演算式は、次の数式(10)で表される式に置換することもできる。
[但し、数式(10)中、Ra(P,T)は、温度依存性を補正した補正圧力、Pは、縁性ガスの圧力として測定された測定圧力、Tは、絶縁性ガスの温度として測定された測定温度、Tsは、リークの検定時以前の所定期間に測定された測定温度の極小値または極大値である極値温度、Fは、装置系外の因子による入力変数、K11~Kmnは、互いに独立したn×m個の補正係数、l、mおよびnは、行列演算式を計算可能な0以上の数を示す。]
入力変数Fは、ガスリーク検知装置100の装置系外の因子による影響を補正する変数である。装置系外の因子は、未知の現象であってもよいし、既知の現象であってもよい。装置系外の因子としては、例えば、圧力センサ2に加わる機械的振動、電磁波振動等が挙げられる。入力変数Fとしては、機械的振動の振動周波数、電磁波振動の振動周波数等を入力することができる。
このような数式(10)で表される行列演算式を用いると、実フィールドのガス絶縁機器の圧力容器1において、圧力センサ2に対して、機械的振動、電磁波振動等の装置系外の因子による影響がある場合であっても、圧力センサ2によって測定された圧力測定値を適正に補正することができる。センサのダイアフラムが規則的な誤変位を生じるような場合に、圧力容器に封入された絶縁性ガスのリークを、早期に高精度に検知することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
例えば、前記のガスリーク検知装置およびガスリーク検知方法は、圧力センサの温度依存性の非線形性やゼロ点シフトに対応するものであるが、ガス密度式圧力センサ等の温度依存性が小さい圧力センサについても、同様に適用することができる。ガスリーク検知装置100の処理部6は、前記と同等の機能を有する限り、適宜の構成とすることが可能であり、一つのハードウェアで実現してもよいし、複数のハードウェアで実現してもよい。
1 圧力容器
2 圧力センサ
3 温度センサ
4 A/D変換器
5 記録部
6 処理部(演算部、検定部)
7 表示部
100 ガスリーク検知装置
2 圧力センサ
3 温度センサ
4 A/D変換器
5 記録部
6 処理部(演算部、検定部)
7 表示部
100 ガスリーク検知装置
Claims (10)
- 絶縁性ガスが封入された圧力容器における前記絶縁性ガスのリークを検知するガスリーク検知装置であって、
前記圧力容器の内部の圧力を測定する圧力センサと、
前記圧力容器の表面または内部の温度を測定する温度センサと、
前記圧力センサによって測定された圧力測定値、および、前記温度センサによって測定された温度測定値を記録する記録部と、
前記圧力センサによって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める演算部と、
前記補正圧力の時間変化に基づいて前記絶縁性ガスのリークの有無を検定する検定部と、を備え、
前記補正関数は、前記絶縁性ガスの圧力として測定された測定圧力をP、前記絶縁性ガスの温度として測定された測定温度をT、リークの検定時以前の所定期間に測定された前記測定温度の極小値または極大値である極値温度をTsとしたとき、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)n(但し、mおよびnは、0以上の数を示す。)を変数として含む多項式で表されるガスリーク検知装置。 - 請求項1に記載のガスリーク検知装置であって、
前記補正関数は、前記測定圧力Pの冪乗と、前記温度比T/Tsの冪乗と、装置系内の因子による影響を補正する補正係数との積和である多項式で表されるガスリーク検知装置。 - 請求項2に記載のガスリーク検知装置であって、
前記測定圧力Pの冪指数m、前記温度比T/Tsの冪指数n、および、前記補正係数は、多変量回帰分析において計算される決定係数の大きさに基づいて求められるガスリーク検知装置。 - 請求項3に記載のガスリーク検知装置であって、
前記多変量回帰分析は、予備試験で収集されたデータに基づいて、前記測定圧力Pの冪乗、前記温度比T/Tsの冪乗、および、前記補正係数を説明変数とすると共に、複数の標本圧力を目的変数として行われ、
前記標本圧力は、前記予備試験において求められた所定の基準温度におけるガス量毎の圧力が、前記温度センサによって測定される互いに異なる複数の標本温度における圧力に換算された圧力であるガスリーク検知装置。 - 請求項4に記載のガスリーク検知装置であって、
前記予備試験は、前記圧力容器を模擬した試験容器に封入された前記絶縁性ガスの前記基準温度におけるガス量毎の圧力を求める試験であり、
前記予備試験では、前記絶縁性ガスを互いに異なるガス量に調整して、前記基準温度におけるガス量毎の圧力を求め、
前記基準温度におけるガス量毎の圧力は、前記温度センサによって測定される互いに異なる複数の標本温度、および、気体の状態方程式に基づいて、前記標本温度におけるガス量毎の圧力に換算されるガスリーク検知装置。 - 請求項3に記載のガスリーク検知装置であって、
前記多変量回帰分析は、リークの監視中に収集されたデータに基づいて、前記測定圧力Pの冪乗、前記温度比T/Tsの冪乗、および、前記補正係数を説明変数とすると共に、複数の標本圧力を目的変数として行われ、
前記標本圧力は、前記リークの監視中に前記圧力センサによって測定された測定時間毎の圧力が、前記温度センサによって測定された互いに異なる複数の測定温度に基づいて、所定の基準温度における測定時間毎の圧力に換算された圧力であるガスリーク検知装置。 - 請求項6に記載のガスリーク検知装置であって、
前記リークの監視中には、前記圧力容器に封入された前記絶縁性ガスの前記測定温度における測定時間毎の圧力を測定し、
前記測定温度における測定時間毎の圧力は、気体の状態方程式に基づいて、前記基準温度における測定時間毎の圧力に換算されるガスリーク検知装置。 - 請求項1に記載のガスリーク検知装置であって、
前記補正関数は、前記測定圧力Pの冪乗と、前記温度比T/Tsの冪乗と、装置系内の因子による影響を補正する補正係数と、装置系外の因子による影響を補正する入力変数との積和である多項式で表されるガスリーク検知装置。 - 請求項1に記載のガスリーク検知装置であって、
前記極値温度Tsは、リークの検定時直前の24時間内に測定された前記測定温度の極小値または極大値であるガスリーク検知装置。 - 絶縁性ガスが封入された圧力容器における前記絶縁性ガスのリークを検知するガスリーク検知方法であって、
前記圧力容器の内部の圧力、および、前記圧力容器の表面または内部の温度を測定する工程と、
圧力センサによって測定された圧力を補正関数で補正して補正圧力を求める工程と、
前記補正圧力の時間変化に基づいて前記絶縁性ガスのリークの有無を検定する工程と、を含み、
前記補正関数は、前記絶縁性ガスの圧力として測定された測定圧力をP、前記絶縁性ガスの温度として測定された測定温度をT、リークの検定時以前の所定期間に測定された前記測定温度の極小値または極大値である極値温度をTsとしたとき、測定圧力Pの冪乗と、測定温度Tと極値温度Tsとの温度比T/Tsの冪乗との積Pm(T/Ts)n(但し、mおよびnは、0以上の数を示す。)を変数として含む多項式で表されるガスリーク検知方法。
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