JP2023016624A - ステアリング制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】操舵トルクの絶対値が飽和したとき、ハンドルが押し返される挙動を防止するステアリング制御装置を提供する。【解決手段】サーボ制御器400は、操舵トルクTsを目標操舵トルクTs*に追従させるように、モータ80の出力指令(ベースアシスト指令)Tb*を演算する。操舵トルク飽和判定部38は、操舵トルクの絶対値|Ts|が飽和していることを判定する。操舵トルク飽和判定部38により、操舵トルクの絶対値|Ts|が飽和していると判定されたとき、サーボ制御器400は、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素の演算」としてPID制御の微分成分演算をリセットする。具体的にサーボ制御器400は、本来の入力値に代えて0を用いて演算するか、記憶された過去値を0クリアした結果を用いて演算する。【選択図】図2
Description
本発明は、ステアリング制御装置に関する。
従来、モータが出力するアシストトルクを制御するステアリング装置において、操舵トルクを目標操舵トルクに追従させるように、サーボ制御器によりモータの出力指令を演算する技術が知られている。
例えば特許文献1に開示されたステアリング制御装置では、サーボ制御器(特許文献1ではアシストコントローラ)は、操舵トルクを目標操舵トルクに追従させるように、PID制御によりベースアシスト指令を生成する。
急操舵により、或いは、ラックエンドに当たることにより操舵トルクの絶対値が飽和したとき、PID制御の微分成分は、ハンドルを押し返す側に大きなアシストトルクの変化を与えてしまう。その結果、急操舵で飽和したとき一瞬重くなり、エンドに当たったとき弾き返される挙動を招くおそれがある。
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、操舵トルクの絶対値が飽和したとき、ハンドルが押し返される挙動を防止するステアリング制御装置を提供することにある。
本発明のステアリング制御装置は、サーボ制御器(400)と、操舵トルク飽和判定部(38)と、を備える。サーボ制御器は、操舵トルクを目標操舵トルク(Ts*)に追従させるように、モータ(80)の出力指令(Tb*)を演算する。操舵トルク飽和判定部は、操舵トルクの絶対値が飽和していることを判定する。
操舵トルク飽和判定部により、操舵トルクの絶対値が飽和していると判定されたとき、サーボ制御器は、操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素の演算をリセットする。
例えばサーボ制御器はPID制御を行うものであり、操舵トルク飽和判定部により、操舵トルクの絶対値が飽和していると判定されたとき、サーボ制御器は、PID制御の微分成分演算をリセットする。具体的には、サーボ制御器は、少なくとも、微分成分演算におけるローパスフィルタ(54)への入力、及び、ローパスフィルタに記憶された過去値をリセットする。
演算をリセットする具体的な構成としては、本来の入力値に代えて0を用いて演算するか、記憶された過去値を0クリアした結果を用いて演算する構成を採用可能である。
本発明では、操舵トルクの絶対値が飽和したとき、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素(例えばPID制御の微分成分)」が0となることで、ハンドルを押し返す方向のトルクは発生せず、押し返されることなく操舵ができるようになる。そのため、急操舵で飽和しても一瞬重くなることが解消される。また、エンドに当たったとき弾き返されることなく、その位置でハンドルが止まるようになる。
以下、本発明のステアリング制御装置の一実施形態を、図面に基づいて説明する。「ステアリング制御装置」としてのECUは、車両の電動パワーステアリングシステム、又はステアバイワイヤシステムに適用され、モータの出力指令を演算する。以下の実施形態では、主に電動パワーステアリングシステムに適用される例を示す。電動パワーステアリングシステムにおいてステアリング制御装置は、操舵アシストモータにアシストトルク指令を出力する。
[電動パワーステアリングシステムの構成]
図1を参照し、電動パワーステアリングシステムの構成について説明する。なお、アシストトルクTa及び指令Ta*、Tb*の記号については図2を参照する。電動パワーステアリングシステム1は、モータ80の駆動トルクにより、ドライバによるハンドル91の操作をアシストするシステムである。ステアリングシャフト92の一端にはハンドル91が固定されており、ステアリングシャフト92の他端側にはインターミディエイトシャフト93が設けられている。ステアリングシャフト92とインターミディエイトシャフト93とはトルクセンサ94のトーションバーにより接続されており、これらにより操舵軸95が構成される。トルクセンサ94は、トーションバーの捩れ角に基づいて操舵トルクTsを検出する。
図1を参照し、電動パワーステアリングシステムの構成について説明する。なお、アシストトルクTa及び指令Ta*、Tb*の記号については図2を参照する。電動パワーステアリングシステム1は、モータ80の駆動トルクにより、ドライバによるハンドル91の操作をアシストするシステムである。ステアリングシャフト92の一端にはハンドル91が固定されており、ステアリングシャフト92の他端側にはインターミディエイトシャフト93が設けられている。ステアリングシャフト92とインターミディエイトシャフト93とはトルクセンサ94のトーションバーにより接続されており、これらにより操舵軸95が構成される。トルクセンサ94は、トーションバーの捩れ角に基づいて操舵トルクTsを検出する。
インターミディエイトシャフト93のトルクセンサ94と反対側の端部には、ピニオンギア961及びラック962を含むギアボックス96が設けられている。ドライバがハンドル91を回すと、インターミディエイトシャフト93とともにピニオンギア961が回転し、ピニオンギア961の回転に伴って、ラック962が左右に移動する。ラック962の両端に設けられたタイロッド97は、ナックルアーム98を介してタイヤ99と接続されている。タイロッド97が左右に往復運動し、ナックルアーム98を引っ張ったり押したりすることで、タイヤ99の向きが変わる。
モータ80は、例えば3相交流ブラシレスモータであり、ECU10から出力された駆動電圧Vdに応じて、ハンドル91の操舵力をアシストするアシストトルクTaを出力する。3相交流モータの場合、駆動電圧Vdは、U相、V相、W相の各相電圧を意味する。モータ80の回転は、ウォームギア86及びウォームホイール87等により構成される減速機構85を経由して、インターミディエイトシャフト93に伝達される。また、ハンドル91の操舵や、路面からの反力によるインターミディエイトシャフト93の回転は、減速機構85を経由してモータ80に伝達される。
なお、図1に示す電動パワーステアリングシステム1は、モータ80の回転が操舵軸95に伝達されるコラムアシスト式であるが、本実施形態のECU10は、ラックアシスト式の電動パワーステアリングシステムにも同様に適用可能である。また、他の実施形態では、操舵アシストモータとして、3相以外の多相交流モータや、ブラシ付DCモータが用いられてもよい。
ここで、ハンドル91からタイヤ99に至る、ハンドル91の操舵力が伝達される機構全体を「操舵系メカ100」という。ECU10は、操舵系メカ100に接続されたモータ80が出力するアシストトルクTaを制御することにより、操舵系メカ100が発生する操舵トルクTsを制御する。また、ECU10は、車両の所定の部位に設けられた車速センサ11が検出した車速Vを取得する。
ECU10は、図示しない車載バッテリからの電力によって動作し、トルクセンサ94により検出された操舵トルクTsや車速センサ11により検出された車速V等に基づき、アシストトルク指令Ta*を演算する。そして、ECU10は、アシストトルク指令Ta*に基づいて演算した駆動電圧Vdをモータ80へ印加することにより、操舵系メカ100に操舵トルクTsを発生させる。
なお、ECU10における各種演算処理は、ROM等の実体的なメモリ装置に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
[ECUの構成]
(一実施形態)
図2を参照し、一実施形態のECU10の構成について説明する。ECU10は、推定負荷トルク演算部20、目標操舵トルク演算部30、操舵トルク飽和判定部38、サーボ制御器400、及び電流フィードバック(図中「FB」)部70等を備える。
(一実施形態)
図2を参照し、一実施形態のECU10の構成について説明する。ECU10は、推定負荷トルク演算部20、目標操舵トルク演算部30、操舵トルク飽和判定部38、サーボ制御器400、及び電流フィードバック(図中「FB」)部70等を備える。
推定負荷トルク演算部20は、目標操舵トルクTs*及びベースアシスト指令Tb*に基づき、推定負荷トルクTxを演算する。推定負荷トルクTxは、操舵系メカ100の操舵軸95に作用し操舵に応じて変化する負荷トルクである。推定負荷トルクTxや操舵トルクTsの正負は、操舵軸95の回転方向に応じて、一方の回転方向のトルクが正、反対方向のトルクが負となるように定義されている。
推定負荷トルク演算部20は、加算器21及びローパスフィルタ(図中「LPF」)22を含む。加算器21は、サーボ制御器400から帰還されたベースアシスト指令Tb*と、目標操舵トルク演算部30から帰還された目標操舵トルクTs*とを加算する。ローパスフィルタ22は、加算されたトルクから、所定の周波数、例えば10Hz以下の帯域の成分を抽出する。推定負荷トルク演算部20は、ローパスフィルタ22により抽出された周波数成分を推定負荷トルクTxとして出力する。
目標操舵トルク演算部30は、推定負荷トルクTxと目標操舵トルクTs*との関係が規定されたマップ33を用いて目標操舵トルクTs*を演算する。目標操舵トルク演算部30は、符号判定部(図中「sgn」)31、絶対値判定部(図中「|u|」)32、マップ33、及び乗算器34を含む。符号判定部31は、推定負荷トルクTxの正負、すなわち操舵軸95の回転方向に応じた符号を判定する。絶対値判定部32は、入力u、すなわち推定負荷トルクTxの絶対値を演算する。
マップ33は、推定負荷トルクTxが正領域でのマップ、すなわち絶対値のマップとして示される。推定負荷トルクTxの負領域では、正領域に対し原点対称のマップとなる。乗算器34では、マップ演算された目標操舵トルクTs*の絶対値に対し、推定負荷トルクTxの符号に応じた符号が乗算される。目標操舵トルク演算部30が出力した目標操舵トルクTs*は、偏差算出器39に入力されるとともに推定負荷トルク演算部20に帰還される。
操舵トルク飽和判定部38は、操舵トルクの絶対値|Ts|が飽和していることを判定する。具体的には、操舵トルク飽和判定部38は、操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の操舵トルク飽和判定閾値以上であるとき、操舵トルク飽和フラグをONとする。一方、操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の操舵トルク飽和判定閾値未満であるとき、操舵トルク飽和フラグをOFFとする。操舵トルク飽和フラグはサーボ制御器400に出力される。
操舵トルク飽和判定閾値は、操舵トルクの絶対値|Ts|の最大値(例:7.5Nm)に設定される。サーボ制御器400に入力される信号が何らかのゲイン補正や制限処置を受けている場合は、その最大値に相当する値に設定されることが好ましい。
偏差算出器39は、目標操舵トルクTs*と操舵トルクTsとの差分である操舵トルク偏差ΔT(=Ts*-Ts)を算出する。サーボ制御器400には操舵トルク偏差ΔTが入力される。サーボ制御器400は、操舵トルクTsを目標操舵トルクTs*に追従させるように、ベースアシスト指令Tb*を演算する。本実施形態のサーボ制御器400の詳細な構成は、図3、図4を参照して後述する。
図2の構成例ではベースアシスト指令Tb*に対する補正トルクは演算されないため、ベースアシスト指令Tb*がそのままアシストトルク指令Ta*として出力される。なお、特許文献1(特許第6252027号公報)の図2に示されるように補正トルクが演算される構成では、ベースアシスト指令Tb*と補正トルクとの合計がアシストトルク指令Ta*として出力される。
電流フィードバック部70は、ベースアシスト指令Tb*に応じたアシストトルクが、特にトルクセンサ94よりもタイヤ99側の操舵軸95に付与されるように、モータ80へ駆動電圧Vdを印加する。電流フィードバック制御の技術は、モータ制御分野における周知技術であるため、詳細な説明を省略する。
本実施形態のサーボ制御器400の構成を図3、図4に示す。図3、図4は、サーボ制御演算を離散の式で等価変換した構成を表している。サーボ制御器400は、PID制御器410及び累積処理部490を含む。PID制御器410は、特許文献1の図4に開示されたアシストコントローラの構成と同様に、比例成分演算部430、積分成分演算部440及び微分成分演算部450を含む。PID制御器410は、操舵トルク偏差ΔTに基づくPID制御演算を行う。
比例成分演算部430の遅延素子453、及び、積分成分演算部440の遅延素子454は操舵トルク偏差ΔTの前回値を取り出す。比例成分演算部430では、減算器463で前回値が減算された操舵トルク偏差ΔTに対し、比例ゲイン乗算器473で比例ゲインKpが乗算される。積分成分演算部440では、加算器464で前回値が加算された操舵トルク偏差ΔTに対し、積分ゲイン乗算器474で積分ゲインKiが乗算される。
微分成分演算部450の疑似微分演算部50は、操舵トルク偏差微分D(ΔT)を疑似微分により演算する。離散値の疑似微分「D」は、連続系の伝達関数でいうと(s/(τs+1)2)(ただし、s:ラプラス演算子、τ:時定数)の演算関数に該当する。遅延素子55は操舵トルク偏差微分D(ΔT)の前回値を取り出す。
微分成分演算部450では、減算器56で前回値が減算された操舵トルク偏差微分D(ΔT)に対し、微分ゲイン乗算器57で微分ゲインKdが乗算される。操舵トルク飽和フラグは微分成分演算部450の疑似微分演算部50及び遅延素子55に入力され、微分成分演算における「リセット処置」が実行される。リセット処置の詳細な構成については、図4を参照して後述する。
PID成分加算器48は、制御周期毎に比例成分、積分成分及び微分成分を加算した処理対象トルクTMを出力する。累積処理部490は、処理対象トルクTMを累積処理し、ベースアシスト指令の今回値Tb*
nを演算する。累積処理は積分処理と同義であるが、ここではPIDの積分制御との区別のため「累積」の用語を用いる。
累積処理部490は、加算器491、遅延素子492及び制限演算器494を含む。加算器491は、処理対象トルクTMの今回値に、遅延素子492を介して入力されるベースアシスト指令の前回値Tb*
n-1を加算する。制限演算器494は、加算器491の加算結果に対してアシストトルクとして出力可能な制限値で制限する。これにより、ワインドアップ問題、すなわち、偏差が出続けるときに積分によって許容出力以上に大きな値を取った後、偏差の符号が逆方向になったときに出力の低減が遅れてしまう現象に対応している。
サーボ制御の式を以下に示す。操舵トルク偏差ΔTは、式(1)で表される。
ΔT=Ts*-Ts ・・・(1)
ΔT=Ts*-Ts ・・・(1)
ベースアシスト指令Tb*は式(2)で表される。図3の構成では、比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKdはいずれも負の値に設定される。
PID成分加算器48で加算される比例成分、積分成分及び微分成分は、累積処理部490を通ることで、式(2)が示すPID制御の各要素(比例制御トルク、積分制御トルク、微分制御トルク)に相当する量に反映されてベースアシスト指令Tb*が演算されることになる。
式(2)を離散化するために、式(3)で表される双一次変換の式を式(2)に代入して整理すると、式(4)が得られる。式(3)のtsは演算周期を示す。また図3では、(ts/2)Kiをまとめて「Ki」として記す。
ここで、操舵トルクTsと、累積処理部490の累積処理により得られるPID制御の微分制御トルクに相当する量との位相の関係に着目する。図3において微分ゲイン乗算器57から出力される微分成分そのものは、遅延素子55及び減算器56の演算により、操舵トルク偏差ΔTを二階微分制御演算した信号と等価になっている。この微分成分が累積処理部490を通ることにより、PID制御の微分制御トルクとなる。累積処理された微分制御トルクは、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルク」に相当する。したがって、微分制御トルクに関わる要素である微分成分は、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素」に相当する。
なお、図3に示される比例成分は、遅延素子453及び減算器463の演算により前回値との差を取った信号であるため、操舵トルクに対して位相が進んでいる。しかし、累積処理部490の累積処理により得られるPID制御の比例制御トルクに相当する量は操舵トルクと同位相となり、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルク」に相当しない。したがって、比例制御トルクに関わる要素である比例成分は、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素」に相当しない。
図4を参照し、微分成分演算部450の詳細な構成を説明する。まず、リセット処置を除く通常の微分成分演算に関する構成について説明する。疑似微分演算部50は、操舵トルク偏差ΔTの入力に対する遅延素子51及び減算器52と、減算器52の出力側に設けられる乗算器53及びローパスフィルタ54とを有する。乗算器53は、操舵トルク偏差ΔTの今回値と前回値との差分に演算周期tsの逆数(1/ts)を乗じて操舵トルク偏差差分微分を出力する。
ローパスフィルタ54は、入力された操舵トルク偏差差分微分の高周波成分を除去し、操舵トルク偏差微分D(ΔT)を出力する。ローパスフィルタ54の内部のRAMには、複数の前回値や演算構成によっては前回値から遡って複数の過去値が記憶されており、それらの過去値に基づきフィルタ処理した値が出力される。
操舵トルク偏差微分D(ΔT)に対する遅延素子55、減算器56、及びゲイン乗算器57については、図3を参照して上述した通りである。減算器56の出力、すなわち操舵トルク偏差微分D(ΔT)の今回値と前回値との差分を操舵トルク偏差微分差分という。図3、図4に示すPID制御器の構成例では操舵トルク偏差微分差分に微分ゲインKdが乗算される。なお、他のPID制御器の構成により、式(4)の右辺第4項の演算が実現されるようにしてもよい。
次にリセット処置の付加構成として、疑似微分演算部50のローパスフィルタ54への入力側に切替器535が設けられている。また、図示しないが、ローパスフィルタ54の内部には、フィルタ処理の対象入力を切り替えるための切替器や、RAM値を0クリアする手段が設けられている。さらに、操舵トルク偏差微分減算器56の前回値入力側に切替器555が設けられている。操舵トルク飽和フラグは、これらの切替器535、ローパスフィルタ54、切替器555に入力される。
操舵トルク飽和判定部38は、式(4)の右辺第4項の微分成分演算を実行する前、又は、PID制御全体の演算を行うときの最初の処置として、操舵トルクの絶対値|Ts|が飽和しているかどうか判定する。操舵トルク飽和判定部38により、操舵トルクの絶対値|Ts|が飽和していると判定され、操舵トルク飽和フラグがONになったとき、微分成分演算部450において次のようにリセット処置が実行される。図4の操舵トルク飽和フラグの入力箇所に、対応する<1>~<3>の番号を記す。以下、リセット処置における「0」は、厳密な0に限らず、微分成分の演算結果に影響しない程度の「0に近い値」を含むものとして解釈される。
<1>疑似微分演算部50の切替器535が「0」側に切り替えられ、本来の操舵トルク偏差差分微分に代えて0がローパスフィルタ54に入力される。その結果、ローパスフィルタ54への今回の入力が0となる。
<2>ローパスフィルタ54の処理対象入力として、複数の過去値に代えて0が用いられる。すなわち、0を用いてフィルタ処理が実行される。或いは、RAMに記憶された複数の過去値が全て0クリアされる。その結果、ローパスフィルタ54が出力する操舵トルク偏差微分の今回値D(ΔT)nが0になる。
<3>操舵トルク偏差微分減算器56の前回値入力側の切替器555が「0」側に切り替えられる。これにより、遅延素子55が出力した本来の操舵トルク偏差微分の前回値D(ΔT)n-1に代えて0が減算器56に入力される。その結果、微分ゲイン乗算器57に入力される操舵トルク偏差微分差分が0になる。よって、微分成分演算部450が出力する微分成分が0となり、リセット処置が完結する。
<1>~<3>の処置により、操舵トルクの絶対値|Ts|が飽和に至ったときに微分成分が0になるとともに、次回演算時には、その状態から繋がっていく信号が得られる。<1>~<3>のうち<1>及び<2>、すなわち、微分成分演算におけるローパスフィルタ54への入力、及び、ローパスフィルタ54に記憶された過去値をリセットする処置は、全ての場合に必須である。一方、<3>のリセット処置は、PID制御の構成によっては省略してもよい。
次に図5~図7を参照し、本実施形態の技術的意義について説明する。図5(a)には比較例のサーボ制御演算の動作を示し、図5(b)には本実施形態のサーボ制御演算の動作を示す。図6、図7には、それぞれ比較例及び本実施形態の実車データを示す。比較例の演算は、特許文献1等の従来技術による通常のサーボ制御演算に相当する。サーボ出力はベースアシスト指令Tb*である。
図5(a)、(b)には操舵トルクTs、操舵トルク偏差微分D(ΔT)及び微分成分の波形を示す。操舵トルクTsの値は正であるため「絶対値」を省略する。操舵トルクTsは増加して飽和に達した後、減少する。比較例と本実施形態とで操舵トルクTs及び操舵トルク偏差微分D(ΔT)の波形は同じであり、微分成分の波形が異なる。
微分成分は、比例成分、積分成分、および前回のサーボ出力と加算され、制限を受けて新たなサーボ出力となる。比較例では、エンドに向けて急操舵しているとき、ハッチング部分より前の時刻まではサーボ出力は増加しているか、又は出力上限に達している(図6の実車データ参照)。その後、エンドに当たるなどで操舵トルクTsが飽和すると、負側に大きな微分成分が発生し、これがサーボ出力を引き下げる動作をする。
本実施形態では、エンドに当たった時など操舵トルクTsが飽和したとき、微分成分演算においてローパスフィルタ54の内部状態等のリセット処置をすることで、微分成分は0となる。このとき、サーボ出力は微分成分によって影響を受けないようになり、サーボ出力の低下が回避される(図7の実車データ参照)。
図6、図7には上から順に、操舵角、操舵トルクTs、微分成分、サーボ出力、操舵角加速度、及び、操舵角速度を示す。約0.03~0.05[sec]の期間がエンド当て停止区間となり、エンド当て停止区間の後半で操舵トルクTsが飽和に達する。ここで、図6、図7においても操舵トルクTsの値は正であるため「絶対値」を省略する。また、目標操舵トルクTs*は一定とする。
図6に示す比較例では、(*1)で示すように、操舵トルクTsの飽和時にハンドルを押し返す方向の急な微分成分が発生する。これに伴い(*2)で示すように、微分成分によってサーボ出力が引き下げられる。例えば約100[Nm]から約50[Nm]に急減する。
また(*3)で示すように、エンド当て停止区間を過ぎた後、操舵角速度が正から0を超えて負の値(約-100[deg/s])になっている。つまり、ハンドルが弾き返される挙動が発生している。
図7に示す本実施形態では、操舵トルクTsの飽和時に微分成分演算のリセット処置を行うため、(*4)で示すように、微分成分の出力がほぼ0になる、したがって(*5)で示すように、エンドに当たった状態でサーボ出力は一定であり、低下していない。また(*6)で示すように、エンド当て停止区間を過ぎた後、操舵角速度はほぼ0に維持されており、ハンドルが弾き返される挙動が解消されている。
なお、0.08[sec]前後で微分成分やサーボ出力が変化しているのは、ドライバの意図で戻す動作をしたものであって、問題となる現象ではない。
このように本実施形態では、操舵トルクTsが飽和したとき、サーボ制御器400にてPID制御の微分成分演算をリセットすることで、ハンドルを押し返す方向のトルクは発生せず、押し返されることなく操舵ができるようになる。そのため、急操舵で飽和しても一瞬重くなることが解消される。また、エンドに当たったとき弾き返されることなく、その位置でハンドルが止まるようになる。
(その他の実施形態)
(a)サーボ制御器400は、PID制御を行うものに限らず、伝達関数により、操舵トルクTsを目標操舵トルクTs*に追従させるようにベースアシスト指令Tb*を演算してもよい。その構成では、サーボ制御器400は、PID制御の微分成分の演算に代えて、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素」の演算をリセットする。これにより、上記実施形態と同様に、操舵トルクの絶対値が飽和したとき、ハンドルが押し返される挙動を防止することができる。
(a)サーボ制御器400は、PID制御を行うものに限らず、伝達関数により、操舵トルクTsを目標操舵トルクTs*に追従させるようにベースアシスト指令Tb*を演算してもよい。その構成では、サーボ制御器400は、PID制御の微分成分の演算に代えて、「操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素」の演算をリセットする。これにより、上記実施形態と同様に、操舵トルクの絶対値が飽和したとき、ハンドルが押し返される挙動を防止することができる。
(b)推定負荷トルク演算部20は、目標操舵トルクTs*に代えて操舵トルクTsに基づいて、また、ベースアシスト指令Tb*に代えてアシストトルクTaに基づいて推定負荷トルクTxを演算してもよい。
(c)本発明のステアリング制御装置は、電動パワーステアリングシステムに限らず、特許文献1の図11に開示されるように、ハンドルと操舵輪とが機械的に分離したステアバイワイヤシステムの反力制御装置に適用されてもよい。その場合、サーボ制御器では、反力検出装置で検出された操舵トルクTsが、タイヤ転舵装置で演算される負荷や転舵角に応じて演算された目標操舵トルクTs*に追従するように制御される。
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
10 ・・・ECU(ステアリング制御装置)、
38 ・・・操舵トルク飽和判定部、
400・・・サーボ制御器、
80 ・・・モータ。
38 ・・・操舵トルク飽和判定部、
400・・・サーボ制御器、
80 ・・・モータ。
Claims (3)
- 操舵トルク(Ts)を目標操舵トルク(Ts*)に追従させるように、モータ(80)の出力指令(Tb*)を演算するサーボ制御器(400)と、
操舵トルクの絶対値が飽和していることを判定する操舵トルク飽和判定部(38)と、
を備え、
前記操舵トルク飽和判定部により、操舵トルクの絶対値が飽和していると判定されたとき、前記サーボ制御器は、操舵トルクに対して位相が進んだアシストトルクに関わる要素の演算をリセットするステアリング制御装置。 - 前記サーボ制御器はPID制御を行うものであり、
前記操舵トルク飽和判定部により、操舵トルクの絶対値が飽和していると判定されたとき、前記サーボ制御器は、PID制御の微分成分演算をリセットする請求項1に記載のステアリング制御装置。 - 前記操舵トルク飽和判定部により、操舵トルクの絶対値が飽和していると判定されたとき、前記サーボ制御器は、少なくとも、微分成分演算におけるローパスフィルタ(54)への入力、及び、前記ローパスフィルタに記憶された過去値をリセットする請求項2に記載のステアリング制御装置。
Priority Applications (1)
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Applications Claiming Priority (1)
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2021
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