以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、製造条件として第1の金型および第1の射出成形機を決定する工程と、第1の金型による生産実績の有無を判定する工程と、第1の金型と第1の射出成形機との組合せによる生産実績の有無を判定する工程と、第1の金型による生産実績はあるが、第1の金型と第1の射出成形機との組合せによる生産実績が無い場合に、第1の射出成形機について予め取得された第1の成形機固有情報と、第1の金型との組合せによる生産実績のある第2の射出成形機について予め取得された第2の成形機固有情報と、第1の金型と第2の射出成形機との組合せによる生産実績とに基づいて、第1の金型と第1の射出成形機との組合せによる射出成形を実現するための補正成形条件を作成する工程とを有する。作成された補正成形条件は、第1の射出成形機へ入力されて、射出成形が実行される。
本実施形態によれば、或る射出成形機で量産実績のある金型を用いて他の射出成形機で成形する場合に、良品が得られる量産実績と予め取得された成形機固有情報とに基づき、適切な成形条件を得ることができる。
すなわち、本実施形態では、或る射出成形機において生産実績(または量産実績)のある金型を用いて他の射出成形機で成形する場合に、生産実績と予め取得された成形機固有情報とに基づき射出条件を補正することにより、良好な射出成形製品を得る。
本実施形態では、成形機固有情報として、射出成形機に固有の機差に対応する物理量をあらかじめ取得して、射出成形機に対応付けて記憶させておく。本実施形態では、或る金型と射出成形機との組合せによる生産実績の有無を判定し、生産実績が無かった場合に、生産実績と予め取得された成形機固有情報とから、補正成形条件を生成する。本実施形態に係る射出成形方法では、補正成形条件を用いることにより、製造条件で定義された金型と射出成形機との組合せによる射出成形を実現できる。
したがって、本実施形態によれば、或る射出成形機で生産実績のある金型を用いて他の射出成形機で成形を行う場合において、良品が得られる生産実績と予め取得された成形機固有情報とに基づき、従来よりも適切な射出成形条件を得ることができる。これにより、例えば、或る拠点で生産していた金型を他の拠点に移して生産する場合、熟練作業者による条件設定が不要となり、生産リードタイムの短縮と成形品品質の向上とを実現することができる。
なお、本実施形態では、射出成形に関する物理量として金型開き量、速度、圧力および温度を例に挙げて説明するが、それら物理量は或る所定の値であってもよいし、値の時間変化を示すカーブ(特性線)であってもよい。
図1〜図12を用いて第1実施例を説明する。図1は、射出成形システム(または射出成形方法)1の機能ブロック図である。
射出成形システム1は、例えば、生産管理システム2と、製造実行システム3と、成形条件補正システム4と、製造工場5を含む。以下に述べる射出成形システム1の各機能の一部または全部は、ソフトウェアとして構成してもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働として実現してもよいし、固定的な回路を有するハードウェアを用いて実現してもよい。それら機能の少なくとも一部を、一部の回路を変更可能なハードウェアを用いて実現してもよい。生産管理システム2、製造実行システム3、および製造工場5の有する機能の少なくとも一部を、オペレータが手動で実行してもよい。
生産管理システム2は、生産計画を管理するシステムであり、少なくとも生産計画管理部21を含む。生産計画管理部21は、受注状況および在庫状況に合わせて、生産仕様、数量、および時期などを含む生産計画を生成する機能である。
製造実行システム3は、製造工場5に対して生産実行を指示するシステムである。製造実行システム3は、生産管理システム2により生成された生産計画に基づいて、製造条件と成形条件を決定し、製造条件と成形条件を含む生産指示を製造工場5へ送る。製造条件は、例えば、生産(射出成形)に用いる射出成形機を特定する情報、生産に使用する金型を特定する情報、生産に使用する材料を特定する情報、生産する成形品の数量、生産時期などを含む。
製造実行システム3について説明する。製造実行システム3は、例えば、製造条件決定部31と、生産実績記憶部32と、生産実績取得部33と、製造実行指示部34と、補正成形条件取得部35と、生産実績学習部36とを備える。
製造条件決定部31は、生産管理システム2の生産計画管理部21より生成される生産計画に基づいて、上述の製造条件を決定する機能である。製造条件決定部31は、製造条件に関する情報を成形条件補正システム4に送信することができる。製造条件に関する情報は、第1の金型と第1の射出成形機とに関する所定の情報を含むことができる。所定の情報は、例えば、第1の金型の容量、第1の金型のランナー構成を含む。所定の情報として、さらに例えば、第1の射出成形機の制御モード(PID(Proportional-Integral-Differential)、設定値等)が含まれてもよい。なお、製造条件決定部31は、第1の金型のCAD(Computer Aided Design)データと、第1の射出成形機の仕様データおよび設定データとのうち、いずれか一方または両方を「所定の情報」として成形条件補正システム4へ送信することもできる。成形条件補正システム4は、製造条件決定部31から受信した情報を成形機固有情報41に格納させる。
生産実績記憶部32は、生産実績を記憶する機能である。本実施例において、生産実績とは、射出成形機と金型との組み合わせに対して、良好な成形品品質が得られることが確認された成形条件のことを示す。
生産実績取得部33は、生産実績記憶部32から生産実績を取得する機能である。生産実績取得部33は、製造条件決定部31により決定された金型(以下、第1の金型とする)による生産実績と、製造条件決定部31により決定された射出成形機(第1の射出成形機とする)と第1の金型との組合せにおける生産実績とを、生産実績記憶部32から読み出して取得する。
生産実績取得部33は、第1の金型による生産実績が無い場合、製造実行指示部34に対して、成形条件出しを要求する。成形条件出しの要求とは、製造工場5において、適切な成形条件を探索するように指示することを意味する。製造工場5は、入力された製造条件にしたがって、各種パラメータを変えながら適切な成形条件を見つける。
第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる生産実績が有る場合、生産実績取得部33は、生産実績記憶部32から取得した生産実績を製造実行指示部34へ出力する。第1の金型による生産実績は有るが、第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる生産実績が無い場合、生産実績取得部33は、補正成形条件取得部35に対して補正成形条件の取得を指示する。
補正成形条件取得部35は、成形条件補正システム4より、製造条件決定部31により決定された第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる補正成形条件を取得する機能である。
補正成形条件取得部35は、成形条件補正システム4に補正成形条件の生成を要求し、成形条件補正システム4で生成された補正成形条件を取得する機能である。補正成形条件取得部35は、補正成形条件作成に必要な基礎的情報を成形条件補正システム4に送ることにより、成形条件補正システム4から補正成形条件を取得する。
補正成形条件の生成に必要な基礎的情報には、例えば、製造条件決定部31により決定された第1の射出成形機および第1の金型と、第1の金型との組合せによる生産実績のある他の射出成形機(以下、第2の射出成形機とする)と、第2の射出成形機と第1の金型の組合せによる生産実績(第2の生産実績)とが含まれる。
補正成形条件取得部35は、成形条件補正システム4から補正成形条件を取得すると、、取得された補正成形条件を製造実行指示部34へ出力する。
製造実行指示部34は、製造工場5に製造実行を指示する機能である。なお、製造実行を生産と呼ぶこともできる。製造実行指示には、例えば、生産実績取得部33により入力される成形条件出し要求または生産実績と、補正成形条件取得部35により取得される補正成形条件のうちいずれか一つと、製造条件決定部31により決定される製造条件とが含まれる。
生産実績学習部36は、製造工場5において良好な成形品品質が得られることが確認された成形条件を、生産実績記憶部32へ記録させる機能である。生産実績学習部36は、製造工場5の品質検査部53から取得される、成形品の品質結果を示す情報に基づいて、所定基準以上の品質が得られた成形条件を生産実績記憶部32に登録する。
成形条件補正システム4について説明する。成形条件補正システム4は、製造実行システム3から入力された生産実績と予め取得された成形機固有情報とに基づいて、成形条件を補正する機能である。補正された成形条件を補正成形条件と呼ぶ。
本実施例における成形機固有情報とは、各射出成形機に固有の情報であり、射出成形機の型番と仕様だけでなく、射出成形機に固有の機差を含む。
本実施例における機差とは、複数の射出成形機に同一の成形条件が入力される場合において、入力された成形条件と金型内の所定の位置における物理量との差異である。
金型内の所定の位置は、例えば、金型の樹脂流入口などである。物理量には、例えば、樹脂の圧力、樹脂の温度、樹脂の速度、樹脂の材料物性、および金型の開き量(型開き量)が含まれる。材料物性とは、例えば、樹脂の密度、樹脂の粘度、樹脂の繊維長の分布(強化繊維含有材料の場合)などである。機差は、図3で後述する射出成形機50の構成の差異に由来するほかに、例えば、圧力制御または温度制御などの制御アルゴリズム(制御モード、設定値)の差異、図示せぬ金型温度調節機などの付帯設備の差異など、に起因して生じると考えられる。
成形条件補正システム4について説明する。成形条件補正システム4は、例えば、成形機固有情報記憶部41と、成形機固有情報取得部42と、成形条件補正部43と、成形機固有情報学習部44とを含む。
成形機固有情報記憶部41は、各射出成形機について予め取得される成形機固有情報を記憶する機能である。
成形機固有情報取得部42は、製造実行システム3から指定された射出成形機の成形機固有情報などを、成形機固有情報記憶部41から取得する機能である。成形機固有情報取得部42は、第1の射出成形機の成形機固有情報(第1の成形機固有情報)と第2の射出成形機の成形機固有情報(第2の成形機固有情報)とを、製造実行システム3の補正成形条件取得部35から取得し、これら取得された各成形機固有情報を成形条件補正部43へ出力する。成形機固有情報取得部42は、生産実績取得部33が生産実績記憶部32から取得した生産実績も補正成形条件取得部35を介して受け取り、受け取った生産実績を成形条件補正部43に渡すこともできる。
成形条件補正部43は、成形機固有情報取得部42から入力される情報に基づいて、成形条件を補正する機能である。成形条件補正部43は、成形機固有情報取得部42から入力される、前記第1の成形機固有情報と、第2の成形機固有情報と、第2の射出成形機と第1の金型の組合せによる生産実績とに基づいて成形条件を補正することにより、補正成形条件を生成する機能である。成形条件補正部43は、生成された補正成形条件を、製造実行システム3の補正成形条件取得部35に送る。
成形機固有情報学習部44は、射出成形機構50または金型に設けられたセンサ57からのデータ(センシングデータ)に基づいて、物理量の特徴量を抽出し、この特徴量を機差情報として成形機固有情報記憶部41へ記憶させる機能である。すなわち、成形機固有情報学習部44は、製造工場5から得られた射出成形プロセス54〜56中のセンシングデータから特徴量を抽出し、抽出された特徴量を機差情報として成形機固有情報記憶部41へ記憶させる。
製造工場5について説明する。製造工場5は、製造実行システム3からの製造実行指示を受けて、射出成形プロセス54〜56のいずれか一つまたは複数を実行する。図1では、射出成形を「IM」と略記する場合がある。
製造工場5は、例えば、製造実行部51と、複数台の射出成形機50(図3で後述)と、複数台の金型(図3で後述)と、成形条件作成部52と、成形品品質検査部53とを有する。以下、成形品品質検査部53を品質検査部53と略記する場合がある。
製造実行部51は、製造実行システム3の製造実行指示部34から入力される製造条件に基づいて、射出成形プロセスを実行する。製造実行部51は、補正成形条件を入力された場合、製造条件中で指示された射出成形機と金型との組合せに対して補正成形条件を入力することにより、射出成形プロセス54を実行する。すなわち、射出成形プロセス54は、補正成形条件に基づいて射出成形するプロセスである。
製造実行部51は、生産実績を入力された場合、指示された射出成形機と金型との組合せに対して生産実績を入力することにより、射出成形プロセス55を実行する。すなわち、射出成形プロセス55は、指定された射出成形機と金型との組合せを用いて、良品生産の実績のある成形条件で行われる射出成形プロセスである。
製造実行部51は、成形条件出し要求を入力された場合、成形条件作成部52に成形条件出しの指示を出す。成形条件作成部52は、製造実行部51から成形条件出し要求を受け取ると、安定して良品が得られる最適な成形条件を導出する。成形条件を導出する際に、予め樹脂の流動を解析し、大よその成形条件を見出しておくことにより、成形条件出しの時間を短縮することができる。品質検査部53において、導出された成形条件にしたがって安定して良品が得られることを確認できた場合、導出した最適な成形条件を入力して射出成形プロセス56を実行する。すなわち、射出成形プロセス56は、成形条件を導出し、その導出された成形条件にしたがって射出成形するプロセスである。
品質検査部53は、射出成形プロセスで得られた成形品の品質の良否を判定する機能である。成形品品質は、例えば、寸法、反り量、バリ、傷、光沢、色彩などに基づいて評価される。成形品の品質検査は、自動的に行われてもよいし、検査員により手動で行われてもよいし、半自動で行われてもよい。
品質検査部53は、成形品の品質が良好であった場合、製造条件と、射出成形機と金型との組合せと、成形条件と、成形品品質の検査結果とを、製造実行システム3の生産実績学習部36へ出力する。
なお、本実施例に係る成形機固有情報は、予め製造工場5が保有する各射出成形機および金型に搭載されたセンサ57により、金型内の所定の位置における物理量を測定して、成形条件補正システム4に出力することにより取得される。
図2は、本実施例の射出成形システム1の実現に使用することができる計算機10の構成例を示す。ここでは、一つの計算機10から射出成形システム1を実現する場合を説明するが、これに限らず、複数の計算機を連携させることにより一つまたは複数の射出成形システム1を構築することもできる。また、上述の通り、生産管理システム2、製造実行システム3、および製造工場5は、専用のソフトウェアやハードウェアを用いず、各機能の一部または全部をオペレータが実施することで、射出成形システム1を実現することもできる。
後述する他の実施例のように、成形条件補正システム4を、クラウドサーバ上で機能するソフトウェアとして構築し、複数のユーザと共有することもできる。この場合、成形機固有情報記憶部41に記録されている成形機固有情報を複数のユーザ間で共有することができる。この場合は、ユーザ数が増加すると、他のユーザが取得した成形機固有情報を活用して補正成形条件を取得できるケースが増えるため、成形機固有情報を取得する工数を短縮できる。
計算機10は、例えば、演算装置11、メモリ12、記憶装置13、入力装置14、出力装置15、通信装置16、媒体インターフェース部17を備えており、それら各装置11〜17は通信経路CN1により接続されている。通信経路CN1は、例えば、内部バス、LAN(Local Area Network)などである。
演算装置11は、例えばマイクロプロセッサなどから構成されている。演算装置11は、記憶装置13に記憶されたコンピュータプログラムをメモリ12に読み出して実行することにより、射出成形解析システム1としての各機能21、31〜36、41〜44、51、52、60を実現する。
記憶装置13は、コンピュータプログラムとデータとを記憶する装置であり、例えば、フラッシュメモリまたはハードディスクなどの書き換え可能な記憶媒体を有する。記憶装置13には、オペレータにGUI(Graphical User Interface)を提供するGUI部60を実現するためのコンピュータプログラムと、上述した各機能21、31〜36、41〜43、51、52を実現するためのコンピュータプログラムとが格納される。
入力装置14は、オペレータが計算機10に情報を入力する装置である。入力装置14としては、例えば、キーボード、タッチパネル、マウスなどのポインティングデバイス、音声指示装置(いずれも不図示)などがある。出力装置15は、計算機10が情報を出力する装置である。出力装置15としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、音声合成装置(いずれも不図示)などがある。
通信装置16は、外部の情報処理装置と計算機10とを通信経路CN2を介して通信させる装置である。外部の情報処理装置としては、図示せぬ計算機のほかに、外部記憶装置19がある。計算機10は、外部記憶装置19に格納されたデータ(成形機固有情報、生産実績など)およびコンピュータプログラムを読み込むことができる。計算機10は、記憶装置13に記憶されたコンピュータプログラムおよびデータの全部または一部を、外部記憶装置19に送信して記憶させることもできる。
媒体インターフェース部17は、外部記録媒体18に読み書きする装置である。外部記録媒体18としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカード、ハードディスクなどがある。外部記録媒体18から記憶装置13に対してコンピュータプログラムおよびデータを転送させることもできるし、記憶装置13に記憶されたコンピュータプログラムおよびデータの全部または一部を外部記録媒体18に転送して記憶させることもできる。
図3は、射出成形機50の概要を示す。図3を用いて、射出成形プロセスの各過程を説明する。本実施例において、成形現象とは、射出成形プロセスにおいて生じる一連の現象を示す。本実施例では、射出成形プロセスを、計量および可塑化過程と、射出および保圧過程と、冷却過程と、取出過程とに大別する。
計量および可塑化過程では、可塑化用モータ501を駆動力としてスクリュー502を後退させ、ホッパー503から樹脂ペレット504をシリンダ505内へ供給する。そして、ヒータ506による加熱とスクリュー502の回転とにより、樹脂を可塑化させて均一な溶融状態とする。スクリュー502の背圧および回転数の設定により、溶融樹脂の密度と強化繊維の破断度合いとが変化する。これらの変化は成形品品質に影響する。
射出および保圧過程では、射出用モータ507を駆動力としてスクリュー502を前進させ、ノズル508を介して溶融樹脂を金型509内へ射出する。金型509内に射出された溶融樹脂には、金型509の壁面からの冷却と、流動に起因するせん断発熱とが並行して作用する。すなわち溶融樹脂は、冷却作用と加熱作用を受けながら、金型509のキャビティ内へ向けて流動する。
金型509に溶融樹脂を充填した後、溶融樹脂の冷却に伴う体積収縮分を、保圧をかけて金型509に供給する。ここで、射出中の圧力および保圧中の圧力に対して、金型509を閉じておく力である型締力が小さい場合は、溶融樹脂の固化後に微少な金型開きが生じてしまい、その微少な隙間により成形品品質が影響を受ける。
冷却過程では、一定温度に保持された金型509により、溶融樹脂が固化温度以下に冷却される。この冷却過程において発生する残留応力は、成形品の品質に影響を与える。残留応力は、金型内での流動により生じる材料物性の異方性、保圧による密度分布、成形収縮率の不均等に伴って発生する。
取出過程では、金型509を開閉するモータ511を駆動力として型締機構512を駆動させることにより、金型509を開く。そして、突き出し用モータ513を駆動力としてエジェクタ機構514を駆動させることにより、固化した成形品を金型509内から取り出す。その後、次のショットに向けて金型509は閉じられる。成形品を金型509から取り出す場合において、十分な突き出し力が成形品に均等に作用しなかったときには、成形品に残留応力が残ってしまい、成形品の品質に影響する。
射出成形機50において、ロードセル510による圧力値が、入力された成形条件内の圧力値へ近づくように圧力制御される。シリンダ505の温度は、複数のヒータ506により制御される。スクリュー502の形状とシリンダ505の形状とノズル508の形状とによって、射出成形機毎に異なる圧力損失が生じる。これにより、金型509の樹脂流入口における圧力は、射出成形機に入力された成形条件に示される圧力よりも低い値となる。さらに、ヒータ506の配置とノズル部における樹脂のせん断発熱とに起因して、金型509の樹脂流入口における樹脂温度は、射出成形機に入力された成形条件に示される樹脂温度と異なる場合がある。射出機構の構成(スクリュー502の形状、シリンダ505の形状、ノズル508の形状、ヒータ506の配置など)は、射出成形機によって異なる。したがって、金型509の樹脂流入口における溶融樹脂の物理量が等しくなるように、成形条件を補正することにより、異なる射出成形機を用いても同じ成形品品質を得ることができる。
成形品の品質は、形状特性(重量、長さ、厚さ、ヒケ、バリ、反りなど)と、外観不良などの表面特性(ウェルド、シルバー、焼け、白化、傷、気泡、剥離、フローマーク、ジェッティング、色・光沢など)と、機械的・光学特性(引張強度、耐衝撃性など)とで評価される。
形状特性は、射出および保圧過程と冷却過程とにおける、圧力および温度の履歴と型締力とに強い相関がある。表面特性は、発生する現象に対してそれぞれ発生要因が異なるが、例えばフローマークおよびジェッティングは、射出過程における樹脂の温度と速度とに強い相関がある。機械的および光学的特性は、例えば引張強度の場合、破壊試験での評価が必要になるため、重量などの相関する他の品質指標で評価されることが多い。
成形条件には、射出成形プロセスの各過程に対応したパラメータが設定される。計量および可塑化過程については、計量位置、サックバック、背圧、背圧速度、および回転数などが設定される。射出および保圧過程については、圧力と温度と時間と速度とがそれぞれ設定される。射出および保圧過程については、射出と保圧とを切り替えるスクリュー位置(VP切替位置)と、金型509の型締め力も設定される。冷却過程については、保圧後の冷却時間が設定される。温度に関するパラメータとして、複数のヒータ506の温度、および金型509を冷却するための冷媒の温度および流量となどが設定される。
図4は、射出成形システム1により行われる射出成形方法の例を示すフローチャートである。図中、射出成形機を成形機と略記する。さらに、図4中では、第1の金型を決定された金型と、第1の射出成形機を決定された成形機と、表現する。
生産管理システム2は、GUI部60により実現される生産計画管理部21から、生産計画を決定するための情報である受注状況と在庫状況などを取得する(S1)。例えば、オペレータは、GUI上に表示された受注状況や在庫状況から、最適な生産仕様、数量、および時期を決定し、生産計画を生成する(S1)。あるいは、ロジスティクス全体を最適化するための数理計画モデルとアルゴリズムとを導入することにより、自動的に生産計画を生成することもできる。
製造実行システム3は、GUI部60により実現される製造条件決定部31から、生産生産計画を取得し、製造条件を決定する(S2)。例えば、オペレータは、生産計画と製造工場5の射出成形機の稼働状況とから、最適な第1の射出成形機と第1の金型との組合せなどを決定する。あるいは、生産効率を最適化するための数理計画モデルとアルゴリズムとを導入することにより、自動的に製造条件を決定することもできる。
生産実績取得部33は、生産実績記憶部32に記録された、ステップS2で決定された第1の金型による生産実績を参照し、生産実績の有無を判定する(S3)。第1の金型による生産実績がない場合(S3:NO)、生産実績取得部33は、製造実行指示部34に成形条件出し要求を出力する(S4)。第1の金型による生産実績がある場合(S3:YES)、ステップS5へ移る。
製造実行指示部34は、生産実績取得部33から成形条件出し要求が入力された場合、製造工場5に成形条件出しの指示を出す(S4)。例えば、成形条件作成部52において、オペレータは、GUI部60により実現される製造実行部51から、成形条件出しの指示を確認する。そして、オペレータは、第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる射出成形プロセスを実施することにより、安定して良品が得られる最適な成形条件を導出する(S4)。なお、ステップS4では、予め樹脂流動解析により理論上で最適な成形条件を導出しておくことで、成形条件出しにおける射出成形プロセスの繰り返し回数(試行錯誤の回数)を低減することができる。
生産実績取得部33は、生産実績記憶部32に記録された、ステップS2で決定された第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる生産実績を参照し、生産実績の有無を判定する(S5)。第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる生産実績がある場合(S5:YES)、生産実績取得部33は、取得した生産実績を製造実行指示部34に出力する(S7)。第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる生産実績がない場合(S5:NO)、生産実績取得部33は、補正成形条件取得部35に補正成形条件の取得を指示する(S5)。
補正成形条件取得部35は、製造条件決定部31により決定された第1の射出成形機と、第1の金型と、第1の金型との組合せによる生産実績のある第2の射出成形機と、第2の射出成形機と第1の金型の組合せによる生産実績とを、成形条件補正システム4に入力して、補正成形条件を作成させる(S6)。補正成形条件取得部35は、作成された補正成形条件を製造実行指示部34に出力する(S6)。
製造実行システム3は、GUI部60により実現される製造実行指示部34から、ステップS2で決定された製造条件と、ステップS5で入力された生産実績あるいはステップS6で入力された補正成形条件とを含む製造実行指示を、製造工場5に対して出力する(S7)。
例えば、オペレータは、決定された製造条件と生産実績あるいは補正成形条件とを確認し、内容に問題が無ければ、製造工場5に製造実行指示を与えることができる。あるいは、オペレータが、決定された生産実績あるいは補正成形条件の内容を確認しなくても、機差が補正された成形条件を提供することができる。
オペレータは、GUI部60により実現される製造実行部51を介して、製造実行指示の内容を確認し、指示された射出成形機と金型と成形条件との組合せにしたがって射出成形プロセスを実行させる(S7)。
成形品品質検査部53は、ステップS4またはステップS7で実施された、射出成形プロセスにより得られた成形品品質が良好であった場合、例えば製造条件、射出成形機と金型の組合せ、成形条件、成形品品質の検査結果を、生産実績学習部36に登録させる(S8)。生産実績学習部36への情報登録には、GUI部60を用いることができる。これにより、次回以降、製造条件として同じ射出成形機と金型の組合せが決定された場合には、生産実績記憶部32に記憶された生産実績に基づいて製造することができる。
図5は、本実施例による効果を検証する実験例6の概要を示す。図5の上側には、実験状況が示されている。図5の下側には、実験結果の表65が示されている。表65は、検証実験における成形条件の入力値の一部と評価結果とを含む。
図5の上側に示す金型構造60は、スプルー61から2点のサイドゲート方式でキャビティ内へ樹脂が流入する構造である。実際の成形実験では、ランナーのセンサ配置部62に圧力センサおよび樹脂温度センサ(いずれも不図示)を配置した。さらに、キャビティ63の中心部のセンサ配置部64に金型位置センサ(不図示)を配置した。
そして、本実験例6では、成形現象として、キャビティ63内の圧力および温度の時間変化を取得した。さらに本実験例6では、金型開き量の時間変化を取得した。
本実験例6で得られたデータのうち、圧力センサのピーク値(図中、ピーク圧力)と温度センサのピーク値(図中、ピーク樹脂温度)とを「特徴量」として取得した。成形品品質の指標として、得られた成形品の重量を測定した。成形に使用する材料は、ポリプロピレンを用いた。射出成形機は、最大型締力55tおよびスクリュー径25mmの電動射出成形機(以下、成形機IMB)と、最大型締力50tおよびスクリュー径26mmの電動射出成形機(以下、成形機IMA)とを用いた。
成形機IMAと成形機IMBとに同じ成形条件を入力した場合と、予め取得した成形機固有情報を元に成形機IMBに対する補正成形条件を作成して入力した場合との、合計3通りで実験した。
なお、成形機IMAのスクリュー602径と成形機IMBのスクリュー径とが異なるため、射出速度は射出率が等しくなるように換算して入力した(成形機IMAの射出速度は32.4mm/sであるのに対し、成形機IMBの射出速度は30mm/sとした。いずれも射出率は17.2cm3/sとなる。)。計量・可塑化過程に関するパラメータも同様に換算して入力した。
図5の下側に示す表65を参照し、成形機IMAと成形機IMBに同じ成形条件を入力した場合を比較する。成形機IMBの方が、ピーク圧力とピーク樹脂温度が低かった。一方、成形機IMAに補正成形条件を入力した場合、表65の右側に示すように、補正後の成形機IMAと成形機IMBとの間では、ピーク圧力とピーク樹脂温度の差はほぼ無くなった。これに伴って、成形機IMAと成形機IMBとで得られた成形品の重量誤差は、補正の前後で0.65%向上した。これは、予め取得した成形機固有情報に基づいて、保圧と樹脂温度とを補正した補正成形条件を射出成形機IMAへ入力することにより得られた結果である。
図6は、射出成形機の成形機固有情報を取得する方法の例を示すブロック図である。図6に示す成形機固有情報の取得方法は、図5でも述べた通り、所定の位置に所定の物理量を計測するセンサが設けられた「センサ付き金型」あるいは「センサ内蔵金型」を用いることにより実現される。
まず任意の成形条件701を、実際の射出成形機702へ入力することにより、金型内の所定部位における物理量を取得する。ここで、射出成形機702は、図3で述べた射出成形機50に対応する。
成形条件701は、単一である必要はなく、複数であってもよい。成形品品質として良品が得られる範囲内において、種々の成形条件で物理量を取得することができる。
射出成形機の機差は、樹脂温度または保圧の設定値によって異なりうるため、単一の成形条件において取得しても、有効でない場合がある。成形条件701としては、ゲートシール後に保圧を完了する条件としていることが好ましい。保圧時間が不十分で、ゲートシールする前に保圧を完了する場合、ゲート部から樹脂が逆流して、成形品の充填密度が低下するおそれがあるためである。この場合、成形品品質との相関の評価が難しい。
実際の射出成形機702において成形現象を取得するために、成形機内センサ705または金型内センサ706を用いる方法がある。成形機内センサ705の例は、図3に示すロードセル510である。
成形機内センサ705を用いる場合、例えば金型703を装着せずに射出するエアーショットを行い、そのときのロードセル510の出力を観測することにより、射出機構による圧力損失を間接的に測定する。あるいは、ノズル部にセンサを搭載して、金型に流入する少し前の、樹脂の状態を測定する。また、樹脂温度を測定する場合、エアーショットにより得られた樹脂の温度を温度計などで直接測定することもできる。
金型内センサ706を用いる場合、金型703内の任意の位置にセンサを配置することにより、金型703内の成形現象を直接測定して、物理量の実測値708を取得することができる。なお、成形品704の品質は、製品品質検査707により取得できる。
得られた物理量から、特徴量が取得される(709)。得られた物理量は、いずれも射出成形プロセス中の時間変化として取得されるため、直接評価することは難しい。そこで、本実施例では、物理量の時間変化から、成形品品質に影響しうる特徴量を取得することにより、射出成形機702の機差の定量的な評価を可能とする。
本実施例では、得られた特徴量と最初に入力した任意の成形条件を関連付けて、成形機固有情報データベース710に記録する。成形機固有情報データベース710は、図1の成形機固有情報記憶部41に対応する。
図7、図8、図9、図10を用いて、図5で述べた実験例の測定結果を説明する。図7および図8は、金型内センサ706を用いて物理量の実測値を取得した場合の、金型構造60における測定結果である。
上述の通り、本実験では、ランナーのセンサ配置部62における圧力センサのピーク値と樹脂温度センサのピーク値とを取得した。菱形の測定点で示す「成形機IMA」は、上述の最大型締力50t、スクリュー径26mmの射出成形機である。バツ印の測定点で示す「成形機IMB」は、上述の最大型締力55t、スクリュー径25mmの射出成形機である。それぞれ、複数の保圧と樹脂温度の入力値とについて、実験した。
図7は、保圧の設定値に対する圧力センサのピーク圧力を示す。図7に示すように、射出機構による圧力損失により、保圧の設定値よりもピーク圧力の値が小さくなった。2つの成形機IMA,IMBにおいて、得られた保圧の設定値とピーク圧力の傾きは異なった。このため、圧力の機差の取得は、複数の成形条件で試行することが好ましい。
図8は、樹脂温度の設定値に対する樹脂温度センサのピーク温度を示す。図8に示すように、射出機構の違いにより、設定値に対するピーク温度の値は、成形機IMAと成形機IMBとで異なった。このように、金型内センサ706を用いて物理量の実測値を取得することにより、金型流入口近傍における機差を直接評価することができる。これにより、補正成形条件の導出に必要な物理量の特徴量を正確に求めることができる。
図9および図10は、算出された必要型締力を成形条件に設定した場合でも、実際の型締力が不足する様子を示すグラフである。実験に用いた金型60は、図5で示した通りである。図5に示すように、射出成形プロセス中における、微量の金型開き量の時間変化を計測可能な金型位置センサ(不図示)を金型60のセンサ配置部64に設け、その金型位置センサにより型締力をパラメータとして計測しながら成形した。
図9において、金型構造60の投影面積は約50平方センチメートルである。このときの必要型締力Fは、以下の式(1)で求められる。
F=PA・・・(式1)
「F」は必要型締力、「P」はキャビティ内圧力、「A」は投影面積である。キャビティ内圧力としては、入力した成形条件の射出圧力または保圧過程の圧力のうち、いずれか高い方の値を用いる。あるいは、射出成形機内の圧力損失と、金型内のスプルーとランナー部の圧力損失とを考慮して、実際にキャビティ内にかかる圧力を用いる。例えば、図7に示すようにキャビティ内の圧力を計測した値を用いても良い。
式(1)より計算される必要型締力は、保圧が60MPaのときに30tとなる。従って、図9に示す条件では、成形品質に影響しない範囲となる。しかし、保圧が50MPa以上の場合は、冷却過程においても金型開き量は元の位置に戻らず、10〜30μm程度が残存した。この場合、成形品にバリが発生したり、あるいは重量が過大になったりするなど、成形品品質に影響する。
図9は、型締力を40tとして、保圧を20〜60MPaの範囲内で変更した際の金型開き量の測定値である。図9に示すように、射出過程において金型開き量がピークとなり、以降、保圧過程において徐々に金型が元の位置に戻る。本来、型締力が十分であれば、冷却過程において金型開き量は元の位置に戻るはずである。
図10は、型締力20〜40tとして保圧を変更する際に、冷却過程における金型開きの残存量を示す。図10に示すように、型締力によって金型開きの残存量が異なることがわかる。例えば、保圧を40MPaとしたとき、型締力を20tとすると、わずかに金型開きが残存した。
このように射出成形機ごとの機差があるため、計算された必要型締力を成形条件に設定するだけでは、高い品質を保つことができない可能性がある。実際には型締力が不足して、バリなどが生じるおそれがあるためである。
そこで、本実施例では、あらかじめ射出成形機の型締力の設定値に対して、型締力が不足せずに成形できる射出成形機固有の有効型締力を実験的に求めておくことで、成形品品質を確保できる補正成形条件を選定することができる。
射出成形機固有の有効型締力の導出方法について説明する。型締め力と金型内圧力の閾値は、図7の例のように、金型60の分割面に設けられた金型位置センサの出力値から導出する。
射出および保圧過程における圧力をパラメータとして射出成形を行い、金型開き量の時間変化を記録する。そして、図9および図10に示したように、金型の冷却過程において、残存した金型開き量を記録する。
さらに、式(1)に基づき、保圧の設定値に対する必要型締力(金型内に負荷される力)を計算する。このとき、金型開きの残存量が成形品品質への影響しないほど小さくなる保圧の最小値を求める。この保圧の最小値における金型内に負荷される力を、その射出成形機固有の有効型締力として成形機固有情報データベース710へ記録する。
このとき、型締力の値を適宜変更して成形することにより、型締力の設定値に対する有効型締力の関係を取得する。これにより、成形品品質に影響する微量の型開きを考慮して、従来よりも安定した成形品品質が得られる型締力を設定できる。
ここで、保圧の設定値に対する金型内に負荷される力は、保圧の設定値を用いて式(1)から計算することができる。保圧の設定値に対する金型内に負荷される力は、流動解析により金型にかかる圧力を予測し、以下の式(2)から計算することもできる。
F=ΣPiAi・・・(式2)
総和記号Σの添え字(変数)は「i」である。「i」は解析モデルにおける総投影面積を分割したセグメントの数を示す。「Pi」は各セグメントの平均圧力を示す。「Ai」は各セグメントの面積である。
有効型締力を取得するための成形において、金型に圧力センサを導入し、圧力の最大値を実際に取得してもよい。これにより、実際に金型に負荷されている圧力を考慮して、式(1)から必要型締力を計算することができる。これにより、式(1)を用いる場合でも、射出成形機に固有の有効型締力を正確に設定できる。
金型開き量以外の物理量を測定する金型内の部位(以下、測定部位)について説明する。いずれの金型構造においても、測定部位は、少なくとも金型内の樹脂流入口からキャビティ内に至るまでのスプルー部あるいはランナー部を含むことが好ましい。
キャビティ内を測定部位としてもよいが、上述の手順で成形機固有情報を導出する際には、樹脂流入口からキャビティに至るまでの圧力損失を考慮する必要がある。このため、樹脂流入口からキャビティ内に至るまでの解析精度が保障されている必要がある。
キャビティ内にセンサを設けて測定する場合、センサ形状に起因した跡が成形品に残る可能性がある。このため、外観品質が要求される場所には、センサを導入できないという制約が生じる。
そこで、本実施例では、樹脂流入口に近く、外観品質は要求されないスプルー部あるいはランナー部を測定部位とすることにより、簡便かつ高精度に成形機固有情報を求めることができるようにした。
スプルー部およびランナー部に加えて、例えば、キャビティ内のゲート直下部、樹脂合流部(ウェルド部)、流動末端部などのように、特徴的な流動が観測されうる部位を測定部位として使用してもよい。この場合、複数のセンサにより得られる物理量から、より高精度に成形機固有情報を求めることができる。
例えば、複数の測定部位でのフローフロントの通過時刻から、溶融樹脂の流速を求めることができるため、溶融樹脂の速度についての成形機固有情報を導出できる。さらに、このときの圧力と温度とを測定することにより、金型内の溶融樹脂の粘度を推定して、解析モデルと比較することもできる。
なお、金型構造と測定する物理量とによって、適切な測定部位は異なる。金型開き量以外の物理量では、いずれの金型構造であっても、可能であるならスプルー部を測定部位とするのが好ましい。なお、本明細書において「好ましい」という表現は、何らかの有利な効果を期待できるという意味で使用しているにすぎず、その構成が必須であることを意味するものではない。
スプルー部にセンサを設けることが金型設計上難しい場合、ランナー部にセンサを配置すればよい。ダイレクトゲートの場合、ランナー部が存在しないため、キャビティ内からなるべくゲートに近い部位を測定部位として選択する。
サイドゲート、ジャンブゲート、サブマリンゲート、およびバナナゲートでは、スプルー部直下のランナー部や、ゲート直前のランナー部などにセンサ配置する。ピンゲートの場合、3プレート構造となるため、センサ配置には工夫が必要だが、スプルー部直下のランナー部などにセンサを配置する。ピンゲートの場合、キャビティには繋がらないダミーのランナーを測定用に設けて測定部位としてもよい。測定専用の部位を設けることにより、金型設計の自由度が向上する。フィルムゲートやファンゲートの場合、ゲート部に流入する前のランナー部にセンサを配置する。
なお、金型開き量の測定は、例えば図5の金型位置センサの配置位置64に示すように、金型のキャビティ面の中心部に近い位置とすることが好ましい。エジェクタ機構を有する金型において、直接成形機からの型締め力を受ける周辺部と比較して、中央部は樹脂の圧力による金型のたわみの影響を受けるため、より金型開き量が大きくなりやすい。
上述の物理量として測定するパラメータについて説明する。本実施例では、補正成形条件を導出するために、少なくとも金型開き量と圧力と温度とを測定する。金型開き量と圧力と温度の測定には、例えば、金型位置センサ、金型内圧力センサ、金型表面温度センサ、樹脂温度センサなどを用いることができる。樹脂温度センサには、熱電対などの接触式温度センサ、または赤外線放射温度計などの非接触式温度センサのいずれかまたは両方を用いることができる。
金型開き量と圧力と温度とのいずれの物理量も、射出成形プロセス中の時間変化を記録する。金型開き量を測定しなかった場合、射出成形機の固有の機差に起因して、型締力が不足してしまい、成形現象と成形品品質とに影響を与える可能性がある。圧力と温度のいずれか一つを評価基準として補正成形条件を導出しても、図8のように両方のパラメータが設定値と異なっていた場合には、得られる成形品の成形品品質は異なるものになる懸念がある。従って、少なくとも金型開き量と圧力と温度とを測定することにより、高精度に補正成形条件を求めることができる。
射出成形システム1は、金型開き量と温度と圧力とに加えて、フローフロント速度やフローフロント通過時刻を取得してもよい。フローフロントの速度とフローフロントの通過とを検出するセンサからは、射出成形プロセス中の時間変化ではなく、フローフロント通過時点の情報を得ることができる。フローフロント通過時刻を取得する場合は、少なくとも2つ以上のセンサを設けて、2点間での樹脂の通過時刻を比較する。フローフロントの速度と通過時刻とを検出することにより、射出速度をより正確に評価できる。
上述の物理量の特徴量について説明する。本実施例の補正成形条件の導出においては、例えば、冷却過程終了後の金型開き量と、圧力の最大値と積分値と、温度の最大値とを用いることができる。冷却過程終了後の金型開き量は、成形品品質に影響する微量の型開きが起こらない型締め力の設定に必要である。圧力の最大値は、射出機構による圧力損失を評価するために必要である。しかし、圧力の最大値だけを一致させたとしても、保圧過程における樹脂温度の時間変化が異なる場合には、キャビティ内の圧力分布が変化するため成形品品質に影響しうる。そこで、射出成形プロセス中の圧力の積分値を取得することにより、プロセス中の温度変化の影響を考慮して補正成形条件を高精度に導出することができる。
圧力から得られる特徴量のみを用いて補正成形条件を導出する場合、例えば樹脂温度を変えるなどして補正成形条件を導出する場合、成形現象と成形品品質とに影響を与える可能性がある。従って、圧力から得られる特徴量に加えて、温度の最大値も考慮して成形機固有情報を取得することにより、良好な成形品品質が得られる補正成形条件を導出することができる。
上記に加えて、圧力の時間変化に対して、時間微分値の最大値を取得することも有効である。この特徴量は、材料の瞬間粘度と相関がある。圧力の積分値は、射出過程と保圧過程とを分けて算出してもよい。射出過程における圧力の積分値は、射出過程における材料の平均粘度と相関がある。
赤外線放射式の樹脂温度センサを用いる場合、射出過程における温度センサの時間変化の出力値に対して、時間微分値の最大値を取得してもよい。この特徴量は、溶融樹脂のフローフロント速度と相関がある。フローフロント速度を測定する場合、そのまま流動速度に相関する特徴量として用いる。フローフロント通過時刻を取得する場合、2点間の通過時刻から流速を計算して特徴量として用いる。射出速度の設定値に対する流速の関係を記録しておくことで、射出速度をより正確に補正できるようになる。
図11および図12を用いて、補正成形条件の作成方法を説明する。図11は、図4中のステップS6の詳細を示すフローチャートである。上述の通り、ステップS6では、成形条件補正部43は、成形機固有情報取得部42から、第1の射出成形機の成形機固有情報と、第2の射出成形機の成形機固有情報と、第2の射出成形機と第1の金型の組合せによる生産実績とを取得することにより、第1の射出成形機と第1の金型との組合せによる補正成形条件を生成する。
成形条件補正部43は、型締力を補正する(S61)。ステップS61では、例えば、第2の射出成形機の型締力の設定値と、その設定値による第2の射出成形機の有効型締力とを、生産実績から参照する。さらに、ステップS61では、第1の射出成形機の有効型締力が第2の射出成形機の有効型締力と等しくなるように、第1の射出成形機の型締力の設定値を決定する。
成形条件補正部43は、樹脂温度を補正する(S62)。ステップS62では、例えば、図8に示したように、第2の射出成形機の樹脂温度の設定値と、その設定値による第2の射出成形機の金型流入口の樹脂温度とを生産実績から参照する。さらに、ステップS62では、第1の射出成形機の金型流入口の樹脂温度が第2の射出成形機の金型流入口の樹脂温度と等しくなるように、第1の射出成形機の樹脂温度の設定値を決定する。
成形条件補正部43は、金型温度を補正する(S63)。ステップS63では、例えば、第2の射出成形機に付帯する金型温調機における冷媒温度の設定値および流量の設定値と、その設定値に対する第2の射出成形機の金型流入口の金型温度とを生産実績から参照する。さらに、ステップS63では、第1の射出成形機の金型流入口の金型温度が等しくなるように、第1の射出成形機に付帯する金型温度調節機における冷媒温度の設定値と流量の設定値とを決定する。
成形条件補正部43は、射出速度と保圧速度とを補正する。ここでは、ステップS64では、以下の式(3)〜式(6)を用いて、速度を補正する。
ATA=(π×φA^2)/4・・・(式3)
ATB=(π×φB^2)/4・・・(式4)
VIA=VIB×ATB/ATA・・・(式5)
VHA=VHB×ATB/ATA・・・(式6)
ここで、「ATA」は、第1の射出成形機のスクリューの断面積を示す。「ATB」は、第2の射出成形機のスクリューの断面積を示す。「φA」は、第1の射出成形機のスクリューの直径を示す。「φB」は、第2の射出成形機のスクリューの直径を示す。「VIA」は、第1の射出成形機の射出速度を示す。「VIB」は、第2の射出成形機の射出速度を示す。「VHA」は、第1の射出成形機の保圧速度を示す。「VHB」は、第2の射出成形機の保圧速度を示す。
第1の射出成形機と第2の射出成形機との間において、速度の設定値と速度の実測値との相関が取得されている場合、上述の手順にしたがい、上記に加えて実測値が等しくなるように速度の設定値を補正する。
成形条件補正部43は、計量条件を補正する(S65)。計量条件には、計量位置と、VP切替位置と、スクリュー回転数とが含まれる。ステップS65では、以下の式(7)〜式(12)により補正を行う。
ATA=(π×φA^2)/4・・・(式7)
ATB=(π×φB^2)/4・・・(式8)
DA=DB×ATB/ATA・・・(式9)
DVP,A=DA+SA−(DB+SB−DVP,B)×ATB/ATA・・・(式10)
DVP,A=DA+SA−(DB+SB−DVP,B)×ATB/ATA・・・(式11)
nA=nB×DB/DA・・・(式12)
式(7),(8)は、上述の式(3),(4)と同様である。「DA」は第1の射出成形機の計量位置を示す。「DB」は第2の射出成形機の計量位置を示す。「DVP,A」は、第1の射出成形機のVP切替位置を示す。「DVP,B」は、第2の射出成形機のVP切替位置を示す。「SA」は、第1の射出成形機のサックバック量を示す。「SB」は、第2の射出成形機のサックバック量を示す。「nA」は、第1の射出成形機のスクリュー回転数を示す。「nB」は、第2の射出成形機のスクリュー回転数を示す。
成形条件補正部43は、保圧と保圧時間とを補正する(S66)。ステップS66では、例えば、図8のように、第2の射出成形機の圧力の設定値と、その設定値による第2の射出成形機の金型流入口の圧力を参照する。次に、第1の射出成形機の金型流入口の圧力が等しくなるように、第1の射出成形機の圧力の設定値を決定する。
以上の手順により、第1の射出成形機と第2の射出成形機とで同じ成形品品質が得られる補正成形条件を作成することができる。例えば、型締力の補正を行わなかった場合、型締力が不足してバリなどが発生する懸念がある。また、例えば温度よりも先に圧力を補正した場合、金型内における圧力の時間変化は温度によって異なるため、正確な成形機固有情報が得られない。
図12は、金型内センサから得られる物理量の特徴量と、補正を行う成形条件との相関関係を示す表である。図12の表では、以下のように表記を簡略化している。すなわち、表の横方向の項目において、ピーク圧力は「Pmax」、ピーク金型温度は「PTmmax」、ピーク樹脂温度は「PTrmax」、圧力の最大微分値は「diff Pmax」、温度の最大微分値は「diff Tmax」、射出工程における圧力の積分値は「int P@I」、保圧工程における圧力の積分値は「int P@H」と略記する。表の縦方向の項目において、保圧時間は「Thp」、保圧は「HP」、射出速度は「IS」、VP切替位置は「VP」、樹脂温度は「Tr」、金型温度は「Tm」と略記する。
図12(1)では、金型構造60において、種々の成形条件で、金型内センサにより物理量の特徴量を取得した。図12(1)は、成形条件と特徴量との相関を示す。
特徴量としては、ピーク圧力、ピーク金型温度、ピーク樹脂温度、圧力の最大微分値、樹脂温度の最大微分値、射出工程における圧力積分値、および保圧工程における圧力積分値を取得した。各成形条件と各特徴量との相関係数が0.3未満のとき「Low」、0.3以上0.7未満のとき「Middle」、および0.7以上のとき「High」と表記した。
図12(1)より、各特徴量は、複数の成形条件と強い相関があることがわかる。このため、例えばピーク圧力を参照して圧力のみを補正しても、他の成形条件が適切に設定されていなければ、異なる成形品品質が得られる。このように、各成形条件は、互いに相関関係があるため、一度に全ての成形条件を決定することは難しい。
ここで、図12(1)より、ピーク樹脂温度は、補正成形条件中の樹脂温度に対応する値だけが「High」となっており、その他の補正成形条件の各値については「Low」となっている。すなわち、ピーク樹脂温度は、樹脂温度とのみ強い相関があることがわかる。そこで、まずピーク樹脂温度が等しくなるように樹脂温度を決定する。
決定された樹脂温度を表から除外すると、図12(2)となる。図12(2)に示すように、ピーク金型温度は、金型温度とのみ強い相関がある。そこで、同様にピーク金型温度が等しくなるように金型温度を決定する。
決定された金型温度を表から除外すると、図12(3)を得る。図12(3)に示すように、温度の最大微分値は、射出速度とのみ強い相関がある。そこで、上述と同様に、温度の最大微分値が等しくなるように射出速度を決定する。
決定された射出速度を表から除外すると、図12(4)を得る。図12(4)に示すように、圧力の最大微分値は、VP切替位置とのみ強い相関がある。そこで、圧力の最大微分値が等しくなるようにVP切替位置を決定する。
決定されたVP切替位置を表から除外すると、図12(5)を得る。図12(5)に示すように、射出工程における圧力積分値は、保圧とのみ強い相関がある。そこで、射出工程における圧力積分値が等しくなるように保圧を決定する。さらに、保圧工程における圧力積分値が等しくなるように保圧時間を決定する。
以上のように、金型内センサから得られた物理量の特徴量を元に、上記手順で一義的に決められる成形条件を段階的に決定して行くことにより、最短の手順で補正成形条件を得ることができる。
このように構成される本実施例によれば、或る射出成形機で生産実績の有る金型を用いて他の射出成形機で成形を行う場合において、良品が得られる生産実績と予め取得された成形機固有情報とに基づき、熟練作業者によらずとも、従来よりも短時間で、良品が得られる最適な射出成形条件を得ることができる。
さらに、本実施例によれば、製造条件として生産スケジュールの最適化を実施する際、射出成形機と金型との組合せを考慮する必要が無くなるため、より効率的な生産スケジュールを立案することができるようになる。
さらに、本実施例では、多数のユーザが取得した成形機固有情報を共有することで、ユーザが増えるほど、他のユーザが取得した成形機固有情報を活用して、補正成形条件を取得できるケースが増えるため、成形機固有情報の取得の工数を大幅に短縮できる。