JP2020152713A - 義歯床用硬化性組成物調製用キット - Google Patents

義歯床用硬化性組成物調製用キット Download PDF

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Abstract

【課題】 強度及び靱性が高く、さらにペーストの操作性の良好な、義歯床用硬化性組成物を調製するための2ペースト型のキットを提供することを目的とする。【解決手段】 何れも(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕、及び吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)及び非架橋ポリマー粒子(b3)よりなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなる有機充填材〔B〕を含む第一組成物及び第二組成物との組み合わせからなり、これら組成物を混合することにより義歯床用硬化性組成物を調製するためのキットにおいて、第一組成物の有機充填材〔B〕として前記〔A〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を使用し、重合開始剤〔C〕を、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして、前記第一組成物と前記第二組成物とに分けて配合する。【選択図】なし

Description

本発明は、義歯床用硬化性組成物、詳しくは、義歯床用レジンや義歯床用硬質裏装材、義歯床補修用レジン等として使用される義歯床用硬化性組成物を調製するためのキットに関する。
義歯床用硬化性組成物とは、義歯床の製造や修理等に使用される組成物であり、当該組成物を使用した材料としては、義歯を新しく作製する際に用いられる義歯床用レジン、長期間の使用により患者の口腔粘膜に適合しなくなった義歯床に裏装し、適合を改善させる目的で使用される義歯床用硬質裏装材、及び義歯床の裏装、改床や破折した義歯の補修等に用いる義歯床補修用レジン等が知られている。
義歯床用硬化性組成物としては、メチルメタクリレート等の重合性モノマー、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系ポリマー、及び重合開始剤を含む硬化性組成物が一般に使用されている。そして、このような硬化性組成物は、(1)重合性モノマーを主成分とする液剤と、(メタ)アクリル系ポリマー及びラジカル開始剤を主成分とする粉剤と、から構成される粉液型(特許文献1及び2参照。)として、(2)重合性モノマーと(メタ)アクリレート系重合体などの充填材と、熱重合触媒及び/又は光重合触媒とを配合してペースト化した1ペースト型(特許文献3参照。)として、或いは(3)重合性モノマーと(メタ)アクリル系ポリマーと、ラジカル重合開始剤又は重合促進剤が(単一ペースト内では重合活性を有さず、2つのペーストを混合したときに重合活性種が生じるようにして)それぞれ配合された2つのペーストの組み合わせからなる2ペースト型(特許文献4及び5参照。)として、提供されている。
光重合触媒や熱重合触媒を使用した1ペースト型の義歯床用材料は、計量・混和の必要がなく、熱や光を付与するまではペースト性状を維持し任意のタイミングで重合を開始できるため操作性に優れる一方、硬化させるための重合器等の装置が必要となる。これに対して、化学重合開始剤を使用した2ペースト型の義歯床用材料は、通常2種類のペーストの組み合わせからなるキットとして提供されるものであり、計量・混和は必要だが、2つのペーストを混和することで重合が開始するため、重合器等の装置は不要であるというメリットを有する。
2ペースト型の義歯床用材料の例として、特許文献4には、少なくとも一つの不飽和二重結合を有しウレタン結合を有さないメタクリレートと、少なくとも一つの不飽和二重結合を有しウレタン結合を有するメタクリレートと、交差結合を有するポリウレタン粉末と、充填材と、化学重合開始剤とからなる第1成分と、少なくとも一つの不飽和二重結合を有しウレタン結合を有さないメタクリレートと、少なくとも一つの不飽和二重結合を有しウレタン結合を有するメタクリレートと、交差結合を有するポリウレタン粉末と、充填材と、重合促進剤とからなる第2成分からなる義歯床用補修材組成物が開示されている。そして上記組成物は、十分な操作余裕時間を有するため操作性に優れ、さらに硬化体は適度な弾性を持つため修復箇所の破損が少ないとされている。
また、特許文献5には、(メタ)アクリル系ポリマー、および(メタ)アクリル系ポリマーの溶解度が20質量%未満である含フッ素(メタ)アクリル酸系重合性モノマーを含むペースト(i)と、(メタ)アクリル系ポリマーの溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系重合性モノマー、および充填材を含むペースト(ii)と、を含み、重合開始剤が少なくとも一方のペーストに含まれる義歯床用裏装材が開示されている。そして、上記義歯床用裏装材は、ペースト混和時に粉液型と同程度前後の経時粘度上昇を得ることができ、操作性に優れ、ペーストの保存安定性及び硬化体の耐着色性にも優れているとされている。なお、粉液型を用いて直接法による義歯の改床を行う場合には、粉液を混合してからのペースト性状の経時変化を上手く利用し、臨床上又は技工上の操作を容易にすることができるというメリットがある。具体的には、混合直後の高流動期間に盛り付け作業を行い、続く塑性変形する程度の餅状態で賦形作業を行い、更にその後の塑性変形しない餅状態で調整作業を行うことができると言うメリットがあるとされている。
特開平11−335222号公報 特公平4−042364号公報 特開2002−104912公報 特開2000−175941号公報 WO2015/105103号 特開2013−87076号公報 特開2004−203773号公報 特開2009−179612号公報
上記したように前記2ペースト型の義歯床用材料については、良好な操作性や保存安定性を有し、適度な弾性を有するものも知られている。しかしながら、得られる硬化体の強度及び靭性の点では必ずしも満足のゆくものではなかった。また、使用する充填材料によっては、ペースト性状の制御が難しく、得られる硬化体の強度が低くなる場合があった。
なお、ペースト性状について補足すると、2ペースト型の義歯床用硬化性組成物は、その形態の特徴から、混和時や築盛時などグローブをはめた手で取り扱うことが多いため、グローブに付着しないようべたつきを抑える必要がある。一方で、新義歯作製に使用する場合は石膏模型に、義歯床の裏装や補修に使用する場合は義歯に、それぞれ粘着する必要がある。つまり、2ペースト型の義歯床用硬化性組成物においては、グローブには付着しないが、石膏模型や義歯には粘着するといった適度な粘度を有するペースト性状が求められる。
このような状況に鑑み、本発明は、得られる硬化体の強度及び靱性が高く、さらにペーストの操作性の良好な、2ペースト型の義歯床用硬化性組成物を提供することを目的とする。
義歯床用硬化性組成物の硬化体は、弾性率の低い充填材として使用される(メタ)アクリル系ポリマーと、マトリックスとなる重合性モノマーの硬化体との複合材料であることから、これら材料の界面状態が靭性に影響を与えると考えられる。そこで本発明者らは、有機充填材として多孔質有機架橋ポリマーを使用することで、架橋による高強度化を図ることができると考え、鋭意検討を行った。
その結果、(1)多孔質有機架橋ポリマーを用いると所期の効果を得ることができる場合がある、(2)多孔質有機架橋ポリマーの種類によっては所期の効果が得られないことがある、(3)非多孔質の有機架橋ポリマーが多く共存すると保管時にペーストの硬さ変化が生じ易い、という知見を得ることができた。そして、これら知見に基づき更に検討を行った結果、実際に使用する重合性モノマーに対して特定のモノマー吸収量を有する吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーを用いることで硬化体の曲げ強さ(強度)と破断エネルギー(靱性)が向上し、且つ、ペースト性状を良好にし得ること、及び、2つのペーストのうち一方のペーストのみに多孔質有機架橋ポリマーを用いた場合でも、2つのペーストを混和し得られる義歯床用硬化性組成物中に特定量の吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーが含まれていれば、上記効果を得ることができることを見出した。さらに、非多孔質有機架橋ポリマーの含有量を特定量以下に抑えることで保存時におけるペースト硬さの変化が抑制され保存安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第一の形態は、第一組成物及び第二組成物との組み合わせからなり、これら組成物を混合することにより義歯床用硬化性組成物を調製するためのキットであって、
前記義歯床用硬化性組成物は、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)及び非架橋ポリマー粒子(b3)よりなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなる有機充填材〔B〕、及び重合開始剤〔C〕を含んでなり、
前記第一組成物及び前記第二組成物は、何れも(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕、及び有機充填材〔B〕を含み、第一組成物に含まれる〔A〕及び〔B〕並びに第二組成物に含まれる〔A〕及び〔B〕を、夫々〔A〕及び〔B〕並びに〔A〕及び〔B〕としたときに、〔A〕と〔A〕とは互いに異なっていてもよく、〔B〕と〔B〕とは互いに異なっていてもよく、
前記〔B〕は、前記〔A〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含み、
前記重合開始剤〔C〕は、
(1)単一成分で構成され、当該単一成分は、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されてなるか、又は
(2)複数の成分で構成され、当該複数の構成成分の各々は、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されてなる
ことを特徴とする義歯床用硬化性組成物調製用キットである。
上記本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットでは、JIS K5101−13−1:2004に準じて測定される、前記第一組成物に含まれる前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の単位量:g−B(単位:g)当たりに吸収される前記第一組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の量:g−A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g−A)/(g−B)}が1.5以上であることが好ましい。
また、調製目的物である前記義歯床用硬化性組成物は、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を20〜80質量部含み、前記第一組成物が前記〔A〕100質量部に対して前記〔B〕を20〜200質量部含み、前記第二組成物が前記〔A〕100質量部に対して前記〔B〕を20〜200質量部含むことが好ましい。
また、前記第一組成物において、前記〔A〕100質量部に対する前記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の配合量が10質量部以下であり、前記第二組成物において、前記〔A〕100質量部に対する前記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の配合量が10質量部以下であることが好ましい。
更に、前記第二組成物において、前記有機充填材〔B〕が、前記非架橋ポリマー粒子(b3)を含むと共に、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対する前記非架橋ポリマー粒子(b3)の溶解度は20質量%未満であり、前記第一組成物において、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕は、前記第二組成物に含まれる前記非架橋ポリマー粒子(b3)の溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系重合性モノマーを含んでなることが好ましい。
なお、多孔質有機架橋ポリマーに関しては、可塑剤及び水溶性有機溶媒を含む歯科用粘膜調整材に充填材として配合された例(特許文献6)や、触媒担体として歯科用接着材に配合された例(特許文献7)や、酸性基含有モノマー及び水を含む歯科用接着剤に配合された例(特許文献8)が知られている。しかし、本発明者等の知る限りにおいて、実質的に水を含有しない非水系の組成物からなる義歯床用硬化性組成物に配合された例は存在しない。
また、本発明の第二の形態は、前記本発明の第一の形態である義歯床用硬化性組成物調製用キットと、義歯床用接着剤と、を備える義歯床裏装用又は義歯床補修用のキットであって、前記義歯床用接着剤が、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー(PA)、(メタ)アクリル系重合性モノマー(PB)、及び有機溶媒(PC)を含有する液状接着剤である、義歯床裏装用又は義歯床補修用キットである。
本発明によれば、得られる硬化体の強度及び靱性が高く、ペーストの操作性の良好な義歯床用硬化性組成物を調製するための(2ペースト型の)キットを提供することができる。
また、本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを構成する第一組成物及び第二組成物それぞれにおいて、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)を全く含まないか、又は含むとしてもその含有量は(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して10質量部以下である場合には、各ペーストは、その硬さが安定して、経時変化を起こさないため、それぞれ長期間安定に保存することが可能となるという効果をも奏する。
また、前記第二組成物において、前記有機充填材〔B〕が、前記非架橋ポリマー粒子(b3)を含むと共に、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対する前記非架橋ポリマー粒子(b3)の溶解度は20質量%未満であり、前記第一組成物において、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕は、前記第二組成物に含まれる前記非架橋ポリマー粒子(b3)の溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系重合性モノマーを含む場合には、両者を混合した後において第一組成物に含まれる前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕が第二組成物に含まれる前記非架橋ポリマー粒子(b3)を溶解・膨潤させることで、粉液型の義歯床用材料と同様に、混合後のペースト性状の経時変化を上手く利用し、臨床上又は技工上の操作を容易にすることができるというメリットを有する。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x〜y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
1.本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キット
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットは、第一組成物及び第二組成物との組み合わせからなり、これら組成物を混合することにより義歯床用硬化性組成物を調製するためのキットであって、
前記義歯床用硬化性組成物は、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕(以下、適宜「〔A〕成分」ともいう。)、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)(以下、適宜「(b1)成分」ともいう。)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)(以下、適宜「(b2)成分」ともいう。)及び非架橋ポリマー粒子(b3)(以下、適宜「(b3)成分」ともいう。)よりなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなる有機充填材〔B〕(以下、適宜「〔B〕成分」ともいう。)、及び重合開始剤〔C〕(以下、適宜「〔C〕成分」ともいう。)を含んでなり、
前記第一組成物及び前記第二組成物は、何れも(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕、及び有機充填材〔B〕を含み、第一組成物に含まれる〔A〕及び〔B〕並びに第二組成物に含まれる〔A〕及び〔B〕を、夫々〔A〕及び〔B〕並びに〔A〕及び〔B〕としたときに、〔A〕と〔A〕とは互いに異なっていてもよく、〔B〕と〔B〕とは互いに異なっていてもよく、
前記〔B〕は、前記〔A〕に対する吸収性を有する、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含み、
前記重合開始剤〔C〕は、
(1)単一成分で構成され、当該単一成分は、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されてなるか、又は
(2)複数の成分で構成され、当該複数の構成成分の各々は、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されてなる
ことを特徴とする。
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを構成する前記第一組成物及び前記第二組成物は、通常、各成分が均一に混合(混錬)されたペースト状を呈する。したがって、本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットは2ペースト型のキット(或いは2ペースト型の義歯床用硬化性組成物そのもの)であるとも言える。なお、「ペースト」とは、非沈降性の非ニュートン流体であり、本明細書における「ペースト状」とは、塑性変形性を有する高粘度ペースト、特に非水系の高粘度ペーストであることを意味する。
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整される義歯床用硬化性組成物(ペースト状組成物)は、〔A〕成分及び〔B〕成分の混合物を主成分とするものであることが好ましい。また、第一組成物及び第二組成物はそれぞれ、〔A〕成分及び〔B〕成分並びに〔A〕成分及び〔B〕成分の混合物を主成分とするものであることが好ましい。なお、「主成分とする」とは、組成物の全質量を100質量部としたときに、当該成分の合計質量が80質量部以上、好ましくは90質量部以上であることを意味する。
特定の論理に拘束されるものではないが、本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整される義歯床用硬化性組成物が前記したような優れた効果が得られる機構は、次のようなものであると本発明者らは推察している。
すなわち、硬化体の曲げ強さ(強度)が高くなるのは、有機充填材として弾性率の高い架橋ポリマーを用いたためであると考えている。また、架橋ポリマーを使用しているにもかかわらず靱性が高くなることに関しては、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の細孔内部に(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕が滲入して硬化することにより発生するアンカー効果によって硬化体におけるマトリックスと有機充填材との界面接合強度が高くなったことによると考えられる。
また、良好なペースト性状が実現できた理由としては、以下の理由が考えられる。非架橋ポリマー粒子(b3)を含む系においては、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕との相互作用、具体的には(b3)成分の一部が〔A〕成分に溶解したり、(b3)成分が〔A〕成分で膨潤して柔らかくなったりすることに起因して、良好な状態に調整可能となるが、架橋ポリマーはこのような相互作用に乏しいため、架橋ポリマーを多量に配合すると、通常は、このようなペースト性状の調整範囲は狭まると考えられる。ところが吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を用いた場合には、細孔内に〔A〕成分が滲入することにより上記相互作用と類似の相互作用が発生し、上記調整範囲を広いまま保つことが可能となったため、良好なペースト性状が実現できたものと考えられる。
最後にペーストの保存安定性(長期間保存してもペーストが硬くならない性質)が高まるのは、細孔を有さない架橋ポリマーは一般にマトリックスとの相互作用が乏しいため、ペースト内で凝集・沈降し、ペーストが硬くなる場合があるのに対し、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)は、細孔内にマトリックスが滲入することで、ペースト内で凝集することなく、製造直後の状態を維持できるためと考えられる。
以下に本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットで使用する各成分について説明する。
<(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕>
(メタ)アクリル系重合性モノマーとしては、歯科用に一般的に使用される(メタ)アクリル系重合性モノマーが特に制限されず使用できる。具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−メタクリロキシエチルプルピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等の単官能性(メタ)アクリル系重合性モノマー、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレート等の二官能性(メタ)アクリル系重合性モノマー、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等の三官能性(メタ)アクリル系重合性モノマー等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリル系重合性モノマーは、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。特に単官能のものと二官能あるいは三官能以上のものを組み合わせて用いる場合、該二官能あるいは三官能以上のものを多く配合することにより、得られる硬化体の強度や耐久性などの機械的物性も良好なものとすることができるので好ましい。
〔A〕成分の含有量は、本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整される義歯床用硬化性組成物の全質量を100質量部としたときに、40〜80質量部であることが好ましく、50〜70質量部であることがより好ましい。
<有機充填材〔B〕>
有機充填材は、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)及び非架橋ポリマー粒子(b3)よりなる群より少なくとも1種選ばれる。なお、これら(b1)、(b2)、及び(b3)について、第一の組成物に含まれるものを夫々(b1)、(b2)、及び(b3)と表記し、第二の組成物に含まれるものを夫々(b1)、(b2)、及び(b3)と表記することもある。
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)としては、有機材料で構成される常温大気中で粒状又は粉末状(微粒の集合体)の有機材料で構成される架橋を有するポリマーからなり、粒子の内部に外部と連通する細孔を有し、粒子の表面に(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕が滲入可能な細孔を多数有するものであれば特に限定されずに使用される。特に本実施形態では、高強度化効果の観点から、JIS K5101−13−1:2004(ISO 787−5:1980)の「精製あまに油法」に準じて(精製あまに油に代えて(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕を用いて)測定される、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の単位量:g−B(単位:g)当たりに吸収される前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の量:g−A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g−A)/(g−B)}が、1.5以上、好ましくは2.0〜5.0であるものを使用することが好ましい。
なお、吸収量RAbは、JIS K5101−13−1:2004に記載の「精製あまに油法」において、精製あまに油を用いる代わりに、本実施形態に係る義歯床用硬化性組成物で使用される(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)を用いて決定される。具体的には、所定量〔M(g)〕の吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)をガラス板の上に置き、〔A〕成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込む。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返す。そして、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用した〔A〕成分のモノマーの量〔M(g)〕を測定する。その際、終点までの操作に要する時間が25分間以内となるようにする。そして、次式:
Ab(g/g)=M(g)/M(g)
により、吸収量RAbが決定される。
上記のようにして決定される吸収量RAbは、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の内部に〔A〕成分のモノマーが浸透して滑らかなペースト状態となり始める臨界的な両者の量比を表すパラメータとして捉えられるものであるが、その操作の簡便性からも理解できるように、厳密な臨界点を意味するものではなく、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)における〔A〕成分のモノマーに対する吸収性の目安となるものである。事実、本実施形態に係る義歯床用硬化性組成物においては、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の配合量が、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の配合量に吸収量RAbを乗じた積として計算される量(以下、「計算総吸収量」ともいう。)に満たない場合であっても、ペースト状組成物となることが確認されている。
計算総吸収量に満たない量の〔A〕成分を用いた場合でもペースト状となる理由の詳細は不明であるが、混錬条件や混錬時間の違いに由来するものと考えられる。すなわち、吸収量の測定時には、パレットナイフを用いて混練し、且つ短時間(25分間以内)で測定を行っているため、一部凝集状態で残っている(b1)成分のポリマー粒子間に保持されているモノマーも存在すると考えられ、吸収量を高めに見積もっている可能性がある。一方、本実施形態に係る義歯床用硬化性組成物を調製する際には、乳鉢を用いて混練したり、プラネタリーミキサー、ニーダー等の機械式混錬装置を用いて混練したりすることが多く、混錬時に強い剪断力がかかるため、高度な均一化が可能であり、また、剪断力による押出し効果や発熱又は膨潤による細孔径の拡大等により、一旦細孔内に吸収されたモノマーの一部が放出されることなどにより、ペースト化されると考えられる。
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の材質は、架橋されたポリマーであれば特に限定されないが、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕との親和性の観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が好ましい。また、特公平4−51522号公報、特開2002−265529号公報等に記載される多孔質有機架橋ポリマーが使用できる。さらに、「テクポリマーMBP−8」(積水化成品工業(株))等の市販品を使用することもできる。
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の平均細孔径は、1〜100nmであることが好ましく、5〜50nmであることが特に好ましい。該平均細孔径とは、粒子の凝集によって形成される二次粒子の凝集細孔ではなく、一次粒子の表面に形成される細孔の平均径を意味する。該平均細孔径は、水銀圧入法細孔分布測定装置を用いて測定される粒子の細孔分布から計算によって求めることができる。吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均細孔径が1nmより小さい場合、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の細孔内への滲入量の減少に伴い硬化体におけるアンカー効果も減少して、十分な強度が得られ難くなる傾向がある。平均細孔径が100nmより大きい場合も、滲入量は多いもののアンカー効果は却って低下し、やはり十分な強度が得られ難い傾向がある。
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の粒子径は特に限定されないが、平均粒子径が1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。なお、該平均粒子径とは、多孔質有機架橋ポリマー粒子の1次粒子の平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定される。吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均粒子径が1μmより小さい場合、硬化前のペーストのべたつきが大きくなって操作性が低下する傾向があり、平均粒子径が50μmより大きい場合、比表面積が小さくなるため硬化体において十分な強度及び靱性が得られ難い傾向がある。なお、粒子形状は特に限定されず、粉砕型粒子、球状粒子のいずれも使用できる。
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整される義歯床用硬化性組成物における上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の好適な配合量は、第一組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕と、第二成分に含まれる(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕とを合わせた、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の総質量を基準として、〔A〕成分100質量部に対して20〜80質量部である。(b1)成分の配合量が80質量部を越える場合、硬化体が硬く脆くなるばかりでなく、ペーストが硬く賦形し難くなる傾向にある。また、(b1)成分の配合量が20質量部未満の場合には、アンカー効果が低下して十分な強度が得られ難くなる傾向にある。効果の観点から(b1)成分の配合量は、30〜70質量部、特に40〜60質量部であることが好ましい。
なお、本実施形態に係る義歯床用硬化性組成物調製用キットにおいては、調製目的物の組成が上記配合組成となることに加えて、第一組成物及び第二組成物それぞれのペーストにおいて、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の単位量(単位:g)当たりの吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の含有量(単位:g)と、吸収量RAbとの積が0.65〜1.65であるという条件を更に満足することが好ましい。
非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)とは、表面に細孔を有しないか、又は細孔の数が少ない粒子であり、上記のようにして決定される吸収量RAbが1.5未満、好ましくは1.0以下である有機架橋ポリマー粒子を意味する。非多孔質有機架橋ポリマー粒子は(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対して溶解、膨潤し難くマトリックスとの相互作用が乏しいため、ペースト内で凝集・沈降し、ペーストが硬くなる場合があるため、これを多量に配合すると、ペースト保管中にその性状が変化し(具体的には硬くなり)、ペーストの操作性が低下してしまうことがある。このため、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)又は(b2)を配合する場合には、第一組成物及び第二組成物それぞれのペーストにおいて、その配合量を〔A〕又は〔A〕成分100質量部に対してそれぞれ10質量部以下とすることが好ましく、全く配合しないことがより好ましい。
上記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の材質は、架橋されたポリマーであれば特に限定されないが、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕との親和性の観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が好ましい。
上記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の粒子径は特に限定されないが、ペースト性状の観点から、平均粒子径が1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。なお、粒子形状は特に限定されず、粉砕型粒子、球状粒子のいずれも使用できる。
非架橋ポリマー粒子(b3)としては、歯科用に一般的に使用される、常温大気中で粒状又は粉末状の、非架橋性の(架橋を有しない)(メタ)アクリル系ポリマーが特に制限されず使用できる。好適に使用できるものを例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートの単重合体又は共重合体、ポリ(スチレン−エチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル系重合性モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体等が挙げることができる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
上記非架橋ポリマー粒子(b3)の平均分子量は、特に制限されるものではないが、ペースト性状の調整のし易さの観点から、質量平均分子量が5万〜100万であることが好ましく、10万〜70万であることがより好ましい。なお、本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算分子量を意味する。
上記非架橋ポリマー粒子(b3)の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、平均粒子径が大きすぎると(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕へ溶解するのが遅く、製造に時間を要し作業効率が低下するため、100μm以下であることが好ましい。
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整される義歯床用硬化性組成物における上記非架橋ポリマー粒子(b3)の配合量は、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して、5〜40質量部であることが好ましく、15〜30質量部であることがより好ましい。
第一組成物と第二組成物を混合時、粉液型の義歯床用材料と同程度前後の経時粘度上昇を得るためには、第二組成物において、有機充填材〔B〕として非架橋ポリマー粒子(b3)を含むと共に、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対する前記(b3)の溶解度は20質量%未満であることが好ましい。また、第一組成物において、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕は、前記(b3)の溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系重合性モノマーを含んでなることが好ましく、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対する前記(b3)の溶解度は20質量%以上であることが特に好ましい。ここで、溶解度とは、ポリマーが重合性モノマーへ溶解可能な濃度の上限であり、簡易的には、重合性モノマーへポリマーを所定質量%となる量を添加して23℃において溶解するかを目視で評価することができる。例えば、ポリマー添加量が5質量%、20質量%、50質量%と順次高くなるように添加し、各添加量について23℃において溶解するかを目視で評価したときに、5質量%のポリマーの一部が溶解せずに残存すれば溶解度5質量%未満となり、全てが溶解すれば溶解度5質量%以上となる。同様に20質量%のポリマーの一部が溶解せずに残存すれば溶解度20質量%未満となり、全てが溶解すれば溶解度20質量%以上となり、更に50質量%のポリマーの一部が溶解せずに残存すれば溶解度50質量%未満となり、全てが溶解すれば溶解度50質量%以上となる。
前記非架橋ポリマー粒子(b3)、当該(b3)の溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系重合性モノマー、前記(b3)の溶解度が20質量%未満である(メタ)アクリル系重合性モノマーは、上記要件を満たす組合せであれば、上記で挙げたものをそれぞれ使用することができる。
前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対する前記(b3)の溶解度が20質量%以上である場合、本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整される義歯床用硬化性組成物における前記非架橋ポリマー粒子(b3)と、当該〔A〕との配合比((b3)/〔A〕)は0.9〜3.0であることが好ましく、1.2〜2.5がより好ましく、1.4〜2.0が最も好ましい。配合比((b3)/〔A〕)を0.9〜3.0の範囲内に設定した場合、第一組成物及び第二組成物の混和時に前記(b3)が溶解した際に、溶解速度を小さすぎず且つ大きすぎない範囲でより適度なものとすることが容易となる。即ち、第一組成物と第二組成物との混和物を、口腔内で賦形後、取り出してトリミングできる状態に適した性状を十分に確保することがより容易になる。
<重合開始剤〔C〕>
本発明で使用される重合開始剤〔C〕としては、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕を重合、硬化させることができるものであれば何ら制限なく使用可能であり、公知の重合開始剤が使用可能である。例えば、歯科分野で用いられるラジカル重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等があり、これらは、それぞれ単独で使用しても良いし併用しても良い。ただし、当該重合開始剤〔C〕は、(1)単一成分で構成され、当該単一成分は、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されるか、又は(2)複数の成分で構成され、当該複数の構成成分の各々は、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合される必要がある。
化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物系のものが代表的である。
このような化学重合開始剤として使用される有機過酸化物の代表的なものには、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートなどがあり、具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、P−メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート等を例示することができる。
これら有機過酸化物の好適な使用量は、用いられる有機過酸化物の種類によって異なるため一概に限定できないが、第一組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕と、第二成分に含まれる(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕とを合わせた、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部の範囲である。
また、これら有機過酸化物と接触してラジカルを発生させるための第3級アミンとしては公知の化合物が特に制限されず使用される。好適に使用される第3級アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジプロピルアニリン、N,N−ジブチルアニリン、N−メチル,N−β−ヒドロキシエチルアニリン等のアニリン類、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジプロピル−p−トルイジン、N,N−ジブチル−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミン、p−トリルジプロパノールアミン等のトルイジン類、N,N−ジメチル−アニシジン、N,N−ジエチル−p−アニシジン、N,N−ジプロピル−p−アニシジン、N,N−ジブチル−p−アニシジン等のアニシジン類、N−フェニルモルフォリン、N−トリルモルフォリン等のモルフォリン類、ビス( N,N−ジメチルアミノフェニル)メタン、ビス(N,N−ジメチルアミノフェニル)エーテル等が挙げられる。これらのアミン化合物は、塩酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸などとの塩として使用してもよい。上記第3級アミン化合物の内、重合活性が高く、なおかつ低刺激、低臭という観点から、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジプロピル−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミン、p−トリルジプロパノールアミンが好適に使用される。
第3級アミン化合物の使用量は〔A〕と〔A〕を合わせた(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して、好ましくは0 .05〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部の範囲である。
上記、有機過酸化物と第3級アミン化合物の組合せのうち、好適なものを具体的に例示すると、BPO/N,N−ジエチル−p−トルイジン、BPO/N,N−ジプロピル−p−トルイジン、BPO/p−トリルジエタノールアミン、BPO/p−トリルジプロパノールアミン等の組合せが挙げられる。中でも、第3級アミン化合物をラジカル重合性モノマーと混合した状態で長期保存が必要となる場合には、保存安定性の観点からBPO/N, N−ジエチル−p−トルイジン、BPO/N,N−ジプロピル−p−トルイジンの組合せが最も好ましい。
このような有機過酸化物とアミン化合物からなる化学重合開始剤にさらに、ベンゼンスルフィン酸やp−トルエンスルフィン酸及びその塩などのスルフィン酸、或いは5−ブチルバルビツール酸などのバルビツール酸系開始剤を配合しても何ら問題なく使用できる。
光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサントン等のジアリールケトン類、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン等のα−ジケトン類、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で使用することもできるし、異なる種類のものを混合して用いることもできる。
なお、上記光重合開始剤は、還元性化合物と組合せて用いるのが好ましい。好適に使用できる還元性化合物としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどの第三級アミン類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物、N−フェニルアラニンなどを挙げることができる。
また、前記の光重合開始剤の活性をより高めるために、光酸発生剤を加えるのも好ましい態様である。光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換−S−トリアジン有導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。光酸発生剤を用いる場合、光重合開始剤としてはカンファーキノン等のα−ジケトン類が好ましく、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル等の還元性化合物を併用することがさらに好ましい。
熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で使用することもできるし、異なる種類のものを混合して用いることもできる。
光重合開始剤及び熱重合開始剤の配合量は、触媒量(すなわち、重合開始剤としての機能を発揮し、十分な重合を行うことができる量)であれば良く、その具体的な量は、用いる重合開始剤の種類によっても異なるため一概に限定できないが、通常は、〔A〕と〔A〕を合わせた(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して、0.05〜5質量部であり、好ましくは0.1〜3質量部である。
上記、化学重合触媒は、前記条件(2)を満足するように、例えば、第一組成物に有機過酸化物を入れ、第二組成物に第3級アミン化合物を入れる等して分けて使用される。光重合開始剤及び熱重合触媒を使用する場合についても、前記条件(1)又は(2)を満足するようにした第一組成物及び/又は第二組成物に配合する必要がある。また、化学重合触媒、光重合触媒、熱重合触媒はそれぞれ合わせて使用しても良い。
<その他成分>
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを構成する前記第一組成物及び/又は前記第二組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、硅石粉末、ガラス粉末、珪藻土、シリカ、珪酸カルシウム、タルク、アルミナ、マイカ、石英ガラスなどの無機フィラー、無機粒子に重合性モノマーを予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合フィラー、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤、4−メトキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール等の紫外線吸収剤、α−メチルスチレンダイマー等の重合調整剤、色素、顔料、香料等を添加することができる。
<製造方法>
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットにおける各ペースト(第一組成物及び第二組成物)の製造方法は、特に限定されず、各成分を所定量、量り取りそれらを適宜混合すればよい。非架橋ポリマー粒子(b3)を含む場合には、保存安定性の観点より、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に予め膨潤・溶解させておくことが好ましい。
製造したペーストは、保管時の劣化防止のため、特に光重合開始剤を用いた場合、遮光性を有する容器で保存することが好ましい。ペースト形態は特に限定されるものではないが、棒、馬蹄形、シート、球、角柱等に成型したものを容器に収容しても良いし、或いは、成型せずチューブやボトル等に収容しても良い。
また、本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットにおいて、第一組成物と第二組成物との混合比は、特に制限されるものではないが、第一組成物と第二組成物の割合に大きく差があると均一に混合しにくくなる場合がある。そのため、二つのペーストの混合比は、少ない方のペーストを1として、10/1〜1/1であることが好ましく、5/1〜1/1であることがより好ましい。
<使用方法>
本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを義歯床用レジン、硬質裏装材、補修用レジンとして使用する場合、公知の方法で使用することができる。例えば、新たに義歯を作製する場合、患者の口腔内の印象を採得して石こう模型を作製し、その石こう模型上で本発明の第一組成物及び第二組成物を混合した義歯床用硬化性組成物を用いて義歯床部を形成し、咬合器にセットして人工歯の配列を行った後、光重合触媒又は熱重合触媒を用いた場合は光照射や加熱により重合硬化させ、形態修正・研磨を行い、義歯が作製される。
適合不良の義歯を修理する場合、患者の口腔内に適合しなくなった義歯に必要に応じて接着材・分離材を塗布し、第一組成物及び第二組成物を混合したペースト(義歯床用硬化性組成物)を盛り付け患者の口腔内に合わせた後、光重合触媒又は熱重合触媒を用いた場合は光照射や加熱により重合硬化させ、形態修正・研磨を行い、義歯の適合が改善される。粘膜面の裏装時には第一組成物及び第二組成物を混合したペーストを薄く盛り付け、床延長時は第一組成物及び第二組成物を混合し棒状にしたペーストを巻きつけるように盛り付けてもよい。
2.本発明の義歯床裏装用又は義歯床補修用キット
前記本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットの調製目的物である義歯床用硬化性組成物が、義歯床用硬質裏装材用の硬化性組成物又は義歯床補修用レジン用の硬化性組成物である場合には、通常、義歯床に接着剤を塗布した上で、本実施形態に係る第一組成物及び第二組成物を混合したペースト(義歯床用硬化性組成物)を盛り付け、光重合触媒又は熱重合触媒を用いた場合は照射や加熱により重合硬化させる。したがって、このような用途に用いる場合には、前記本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットと義歯床用接着剤と組み合わせたキットとすることが好ましい。
<義歯床用接着剤>
義歯床用接着剤としては、歯科分野で義歯床を接着対象物とする接着剤として一般に使用さている、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー(PA)(以下、適宜「(PA)成分」ともいう。)、(メタ)アクリル系重合性モノマー(PB)(以下、適宜「(PB)成分」ともいう。)、及び有機溶媒(PC)(以下、適宜「(PC)成分」ともいう。)を含有し、更に必要に応じて重合開始剤(PD)(以下、適宜「(PD)成分」ともいう。)を含む接着剤が特に制限なく使用できる。このような義歯床用接着剤は、通常液状であり、接着対象物である義歯床に塗布した後に前記本発明の義歯床用硬化性組成物調製用キットを用いて調整された義歯床用硬質裏装材用の硬化性組成物又は義歯床補修用レジン用の硬化性組成物を盛り付け、硬化させることにより、その硬化体を義歯床と強固に接着させることができる。
前記(PA)成分、(PB)成分、及び(PD)成分としては、それぞれ(b3)成分、〔A〕成分、及び〔C〕成分として前述した成分を特に制限なく使用することができる。(PC)成分:有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素化合物;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル化合物;などの非ハロゲン系有機溶媒が好適に使用できる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
なお、接着対象となる義歯床は特に限定されないが、(メタ)アクリル系義歯床が好適に採用できる。(メタ)アクリル系義歯床は、一般にポリメチルメタクリレートを主成分とするものであり、一部がエチルメタクリレート、スチレン等と共重合していてもよく、或いはエチレングリコールジメタクリレート等の架橋剤により架橋していてもよい。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
まず、各実施例および比較例で使用した各種化合物の名称、特性、略号(略号を用いた場合)等を示す。
<(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕(PB)>
(単官能重合性モノマー)
・HPr:2−メタクリロイルオキシエチルプルピオネート
・FMA1:1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルメタクリレート
・FMA2:パーフルオロオクチルエチルメタクリレート
(二官能重合性モノマー)
・ND:ノナメチレンジオールジメタクリレート
・UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
(三官能重合性モノマー)
・TT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
<有機充填材〔B〕>
<吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)>
使用したポリマーの略称、成分、平均粒子径及び平均細孔径を表1に示す。
<非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)>
・PMMA−X:ポリメチルメタクリレート(平均粒子径8μm、積水化成品工業製) ・AC−X:ポリアクリル酸エステル(平均粒子径8μm、積水化成品工業製)。
<非架橋ポリマー粒子(b3)又は(PA)>
・PEMA:ポリエチルメタクリレート(平均粒径35μm、重量平均分子量50万) ・P(EMA−MMA):ポリエチルメタクリレート‐メチルメタクリレート共重合体(エチルメタクリレート/メチルメタクリレート=50/50、平均粒子径40μm、重量平均分子量100万)。
<重合開始剤〔C〕又は(PD)>
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DEPT:N,N−ジエチル−p−トルイジン
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル。
<有機溶媒(PC)>
・アセトン
・酢酸エチル。
<その他の成分>
・シリカ:球状シリカ(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒子径1μm)。
次に、各実施例及び比較例における各評価項目の測定方法を以下に示す。
(1)モノマー吸収量
モノマー吸収量RAbは、JIS K5101−13−1:2004に記載の精製あまに油法において、精製あまに油を用いる代わりに、各実施例又は比較例で使用する(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)を用いて測定した。具体的には、所定量〔M(g)〕の吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)をガラス板の上に置き、〔A〕成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込んだ。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返し、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用した〔A〕成分のモノマーの量〔M(g)〕を測定した。なお、終点までの操作に要する時間は25分間以内となるようにした。そして、次式:
Ab(g/g)=M(g)/M(g)
に従い、モノマー吸吸量RAbを算出した。
(2)曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギーの測定方法
所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和して得られたペーストを、30×30×2mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドへ充填し、化学重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で硬化させ、光重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で歯科技工用光重合装置αライトV(MORITA社製)を用いて5分間光照射して硬化させ、熱重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で、水中に浸漬し沸騰してから1時間加熱して硬化させ、硬化体を作製した。次いで、#800および#1500の耐水研磨紙にて硬化体を研磨後、4×30×2mmの角柱状に切断した。得られた硬化体を水中浸漬し、37℃にて24時間放置した。この試験片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG−1)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ試験を行い、曲げ強さ、弾性率、破断エネルギーを測定した。
(3)ペースト粘着性
グローブを装着し、ペーストを以下の判定基準に従って評価した。
A:グローブには付着しないが、義歯及び石膏には粘着する。
B:グローブに付着するが、義歯及び石膏に粘着させるとグローブから剥離できる。
C:グローブに付着し、義歯及び石膏に粘着しない。
(4)1カ月後のペースト性状
ペーストを45℃で1ヶ月間保管し、以下の判定基準に従って評価した。
A:ペースト調製直後と変化なし
B:ペースト調製直後から、軽微な粘度変化がある
C:ペースト調製直後から、顕著な粘度変化がある。
(5)溶解度の測定方法
重合性モノマーに対して、5質量%、20質量%、50質量%となるように非架橋ポリマー粒子(b3)を添加し、23℃において溶解するかを目視で評価し、下記基準で判断した。
5質量%未満:ポリマー5質量%が溶解しない
5質量%以上、20質量%未満:ポリマー5質量%は全て溶解するが、ポリマー20質量%は溶解しない
20質量%以上、50質量%未満:ポリマー20質量%は全て溶解するが、ポリマー50質量%は溶解しない
50質量%以上:ポリマー50質量%全てが溶解する。
(6)複素弾性率維持時間の測定方法
動的粘弾性測定装置CSレオメーター「CVO120HR」(ボーリン社製)を用いて複素弾性率の経時変化を測定した。直径20mmのパラレルプレートを使用し、周波数1Hz、測定温度37℃で、オシレーションモードで測定した。所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和し、混和開始から1分後に測定を開始した。複素弾性率が10Paから10Paまで変化するのに要する時間、及び、10Paから10Paまで変化するのに要する時間を求め、複素弾性率維持時間とした。
なお、臨床上、粉/液又はペースト/ペーストを混和させて得られるペーストの複素弾性率が10Paから10Pa程度の状態が口腔内に挿入して賦形させる段階に適しており、10Paから10Pa程度の状態が、口腔内から取り出しトリミングする段階に適している。それぞれの作業を十分に余裕を持って行うためには、複素弾性率が10Paから10Paまで変化するのに30秒以上、10Paから10Paまで変化するのに2分以上要するような粘度上昇パターンが好ましい。
(6)接着強さ
義歯床用レジン(アクロン、ジーシー社製)を用いて15mm×15mm×2mmの正方形板状の硬化体を作製し、該板状の硬化体を耐水研磨紙#800で研磨したものを被着体とした。被着体へ筆を用いて接着剤を塗布し、接着剤中の溶媒成分が揮発するまで放置して乾燥させた後、直径3mmの孔を有する両面テープを貼り付け、次いで直径8mmの孔を有するパラフィンワックスを上記孔上に同一中心となるように貼り付けた。所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和して得られたペーストを孔に充填し、化学重合触媒を用いた場合は、ポリエチレンフィルムで圧接した状態で硬化し、光重合触媒を用いた場合は、ポリエチレンフィルムで圧接した状態で歯科技工用光重合装置αライトV(MORITA社製)を用いて5分間光照射して硬化し、熱重合触媒を用いた場合は、ポリエチレンフィルムで圧接した状態で、水中に浸漬し沸騰してから1時間加熱して硬化し、接着試験片を作製した。
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、金属アタッチメントを(前記混和されたペーストの)硬化体上に取り付け引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、接着強さを測定した。5個の試験片の平均値を接着強さ(初期)とした。
上記と同様にして作製した試験片を、熱衝撃試験機(東京技研社製)を用いて、5℃の水中に30秒間浸漬、55℃の温水中に30秒間浸漬を1サイクルとし、10,000回のサイクルを繰り返す熱衝撃試験を行った。熱衝撃試験後の試験片を上記と同様にして接着強さを測定し、5個の試験片の平均値を接着強さ(耐久試験後)とした。
実施例1
表2及び表3に示した組成でペーストを調製すると共に、表4に示す組成で接着剤を調製し、上記各物性の評価を行った。その結果を表5に示した。


























































表5に示したように、実施例1のペーストを硬化させた硬化体は、曲げ強さが80[MPa]、破断エネルギーが93[N・mm]と両者共に高く、高い強度及び靱性を有している。また、実施例1のペーストは、グローブにはやや付着するが、義歯及び石膏に粘着するとグローブからは容易に剥離可能とペースト操作性は良好で、1ヵ月後のペースト性状も調製直後から変化はなく、保存安定性も優れていた。さらに、実施例1のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
実施例2〜24
ペーストの組成を表2及び3に示すように変更し、接着剤の組成を表4に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表5に示した。
実施例2〜24はいずれも、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合においても、硬化させた硬化体は高い強度及び靱性を有し、ペーストの操作性及び保存安定性も優れていた。さらに、実施例2〜24のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
実施例25〜27
ペーストの組成を表2及び3に示すように変更し、接着剤の組成を表4に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表6に示した。
実施例25〜27はいずれも、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合においても、硬化させた硬化体は高い強度及び靱性を有し、ペーストの操作性及び保存安定性も優れていた。また、複素弾性率維持時間も十分に保持され、従来の粉と液とから構成される義歯床用材料と同程度前後の適度な粘度上昇が確認された。さらに、実施例25〜27のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
比較例1〜4
有機充填材〔B〕として吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を使用せず、充填材として表7及び表8に示すものに変更し、接着剤の組成を表9に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表10に示した。



比較例1、2、4は吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)ではなく、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)を充填材として配合しており、硬化体の強度は低く、1ヵ月後のペースト性状は、調製直後から大きく変化していた。また、比較例1、2、4のペーストは、接着剤を用いて被着体に接着させたときの接着強さが低く、接着耐久性にも劣っていた。
比較例3は、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)ではなく、シリカを充填材として配合しており、硬化体の強度は高いものの、靱性が低く、ペーストがグローブに付着し操作性も悪いペースト性状であった。また、比較例3のペーストは、接着剤を用いて被着体に接着させたときの接着強さが低く、接着耐久性にも劣っていた。

Claims (7)

  1. 第一組成物及び第二組成物との組み合わせからなり、これら組成物を混合することにより義歯床用硬化性組成物を調製するためのキットであって、
    前記義歯床用硬化性組成物は、(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)及び非架橋ポリマー粒子(b3)よりなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなる有機充填材〔B〕、及び重合開始剤〔C〕を含んでなり、
    前記第一組成物及び前記第二組成物は、何れも(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕、及び有機充填材〔B〕を含み、第一組成物に含まれる〔A〕及び〔B〕並びに第二組成物に含まれる〔A〕及び〔B〕を、夫々〔A〕及び〔B〕並びに〔A〕及び〔B〕としたときに、〔A〕と〔A〕とは互いに異なっていてもよく、〔B〕と〔B〕とは互いに異なっていてもよく、
    前記〔B〕は、前記〔A〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含み、
    前記重合開始剤〔C〕は、
    (1)単一成分で構成され、当該単一成分は、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されてなるか、又は
    (2)複数の成分で構成され、当該複数の構成成分の各々は、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして、前記第一組成物又は前記第二組成物の何れか一方に配合されてなる
    ことを特徴とする義歯床用硬化性組成物調製用キット。
  2. JIS K5101−13−1:2004に準じて測定される、前記第一組成物に含まれる前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の単位量:g−B(単位:g)当たりに吸収される前記第一組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の量:g−A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g−A)/(g−B)}が1.5以上である、請求項1に記載の義歯床用硬化性組成物調製用キット。
  3. 前記義歯床用硬化性組成物は、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕100質量部に対して吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を20〜80質量部含み、
    前記第一組成物が前記〔A〕100質量部に対して前記〔B〕を20〜200質量部含み、
    前記第二組成物が前記〔A〕100質量部に対して前記〔B〕を20〜200質量部含む、請求項1又は2に記載の義歯床用硬化性組成物調製用キット。
  4. 前記第一組成物において、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕の単位量(単位:g)当たりの前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の含有量(単位:g)と、前記吸収量RAbとの積が0.65〜1.65である請求項1乃至3の何れかに記載の義歯床用硬化性組成物調製用キット。
  5. 前記第一組成物において、前記〔A〕100質量部に対する前記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の配合量が10質量部以下であり、
    前記第二組成物において、前記〔A〕100質量部に対する前記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の配合量が10質量部以下である、請求項1乃至4の何れかに記載の義歯床用硬化性組成物調製用キット。
  6. 前記第二組成物において、前記有機充填材〔B〕が、前記非架橋ポリマー粒子(b3)を含むと共に、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕に対する前記非架橋ポリマー粒子(b3)の溶解度は20質量%未満であり、
    前記第一組成物において、前記(メタ)アクリル系重合性モノマー〔A〕は、前記第二組成物に含まれる前記非架橋ポリマー粒子(b3)の溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系重合性モノマーを含んでなる、請求項1乃至5の何れかに記載の義歯床用硬化性組成物調製用キット。
  7. 請求項1乃至6の何れか1項に記載の、義歯床用硬化性組成物調製用キットと、義歯床用接着剤と、を備える義歯床裏装用又は義歯床補修用のキットであって、
    前記義歯床用接着剤が、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー(PA)、(メタ)アクリル系重合性モノマー(PB)、及び有機溶媒(PC)を含有する液状接着剤である、義歯床裏装用又は義歯床補修用キット。
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