以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、本実施の形態に係る合わせガラスは、車両用のフロントガラス以外、例えばサイドガラス、リアガラス、ルーフガラスにも適用可能である。又、図では本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している。
図1は、車両用のフロントガラスを例示する図(その1)であり、図1(a)はフロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である(フロントガラス20はz方向を上方として車両に取り付けられた状態である)。図1(b)は図1(a)のA−A線に沿う部分断面図である。
図1(a)に示すように、フロントガラス20は、HUDで使用するHUD表示領域R1と、HUDで使用しないHUD表示外領域R2(透視領域)とを備えている。HUD表示領域R1は、車内からの投影像を反射して情報を表示する表示領域である。HUD表示領域R1は、車内に配置されたHUDを構成する鏡を回転させ、JIS R3212のV1点から見た際に、HUDを構成する鏡からの光がフロントガラス20に照射される範囲とする。又、本明細書において、透視領域とはJIS R3211で定められる試験領域Cの領域を指す。本明細書において、表示領域とは投影像を反射して情報を表示する領域を指す。又、本明細書では、HUDは虚像を視認するタイプと実像を視認するタイプの両方を含む。
フロントガラス20の周縁部には着色セラミック層29が設けられている。着色セラミック層29は、所定の色の印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成できる。フロントガラス20の周縁部に不透明な着色セラミック層29が存在することにより、フロントガラス20の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂が紫外線により劣化することを抑制できる。なお、着色セラミック層29は、例えば黒色であるが、これには限定されない。
HUD表示領域R1は、例えば、フロントガラス20の下方の乗員の目線に相当する場所に位置しており、HUD表示外領域R2はフロントガラス20のHUD表示領域R1の周囲に位置している。図1(a)の例では、フロントガラス20の下方にフィルム240が設けられている。フィルム240は、平面視で着色セラミック層29にオーバーラップする部分を有していない。フィルム240は、車内からの投影像の主反射面となる。
図1(b)に示すように、フロントガラス20は、車内側ガラス板であるガラス板210と、車外側ガラス板であるガラス板220と、中間膜230と、フィルム240とを備えた車両用の合わせガラスである。フロントガラス20において、ガラス板210とガラス板220とは、中間膜230を挟持した状態で固着されている。
中間膜230は、複数層の中間膜から形成されている。図1(b)の例では、中間膜230が中間膜231及び232の2層の中間膜から形成されているが、3層以上の中間膜から形成されてもよい。
フロントガラス20のHUD表示領域R1において、中間膜231と中間膜232との間に、フィルム240が配置されている。フィルム240の車内側の面は中間膜231でガラス板210の車外側の面に接着されている。フィルム240の車外側の面は、中間膜232でガラス板220の車内側の面に接着されている。なお、中間膜231及び232は接着層として機能するが、中間膜231及び232の一方に代えて厚みが非常に薄い接着層を用いてもよい。
なお、フィルム240が配置されていない領域では、ガラス板210とガラス板220との間に中間膜231及び232が一体化し充填されている。
フィルム240は、所定の条件下で反射像の視認性を向上する等の所定の機能を有していれば特に限定されないが、例えば、P偏光反射フィルム、ホログラムフィルム、散乱反射系の透明スクリーン、散乱透過系の透明スクリーン、散乱反射系の調光フィルム、散乱透過系の調光フィルム、HUD向け増反射フィルム等が挙げられる。
調光フィルムとしては、懸濁粒子デバイス(SPD)、高分子分散型液晶(PDLC)、ゲストホスト液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミックが挙げられる。フィルム240は、P偏光反射フィルムのようにフィルム面で投影像を反射して虚像を視認する光学系の場合、像の歪がフィルムのうねりに起因して起こりやすいため、特に本発明の効果を享受できる。
フィルム240の厚みは、例えば、25μm以上200μm以下が好ましく、25μm以上150μm以下がより好ましく、25μm以上110μm以下が更に好ましい。フィルム240は、可視光に対して透明であり、合わせガラスがフロントガラス及びサイドガラスである場合、JIS R3106:1998に規定された70%以上の可視光透過率を有する。
なお、フィルム240がP偏光反射フィルムである場合、フィルム240がフロントガラス20に封入された状態において、入射角がブリュースター角でのP偏光の反射率が5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、9%以上であることが更に好ましい。P偏光の反射率が上記範囲であれば、HUD像を視認できる。
HUD表示領域R1はフィルム240のエッジ240Eからe=5mmの場所から内側の領域に設けられている。フィルム240のエッジ240E近傍ではフロントガラス20の形状と厚みが変化する。但し、図1(b)では、フィルム240のエッジ240E近傍における合わせガラスの厚み変化の図示を省略している。そのため、フィルム240のエッジ240E近傍にHUD像を投影すると、視認されるHUD像が歪み、更に反射二重像が視認される場合がある。
本発明者らは鋭意検討を重ね、HUD表示領域R1をフィルム240のエッジ240Eから5mmの場所から内側の領域に設けることで、フィルム240のエッジ240E近傍のフロントガラス20の形状と厚みが変化する領域を避けることができるため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できることを見出した。尚、エッジ240Eからe=5mmの場所から内側の領域に設けられているとは、エッジ240Eからe=5mmの場所から内側の領域であれば、どの領域に表示領域を設けても構わないことを指す。
特に、合わせガラスが曲率を有し、凹面鏡等で拡大した画像を曲面の合わせガラスで更に拡大させて反射させる構成では、フィルム240のエッジ240E近傍のフロントガラス20の形状と厚みの変化がHUD像に大きな歪を生じる。そのため、フィルム240のエッジ240E近傍へのHUD像の投影を避けることが極めて重要である。HUD表示領域R1をフィルム240のエッジ240Eから5mmの場所から内側の領域に設けることで、凹面鏡等で拡大した画像を曲面の合わせガラスで更に拡大させて反射させる際に、HUD像の歪を低減できる。
又、HUD表示領域R1はフィルム240のエッジ240Eからe=10mmの場所から内側の領域に設けられることがより好ましく、フィルム240のエッジ240Eからe=15mmの場所から内側の領域に設けられることが更に好ましい。上記範囲であれば、フィルム240のエッジ240E近傍のフロントガラス20の形状と厚みが変化する領域から更に遠くなるため、HUD像の歪及び反射二重像を更に低減できる。
なお、HUD表示領域は1か所には限定されず、例えば、Z方向の複数個所に分けて配置されてもよいし、Y方向の複数個所に分けて配置されてもよい。HUD表示領域が複数個所に分けて配置されている場合、HUD表示領域の少なくとも一部にフィルム240が設けられていればよい。この場合も、フィルム240が設けられた部分のHUD表示領域は、フィルム240のエッジ240Eからe=5mmの場所から内側の領域に設けられ、e=10mmの場所から内側の領域に設けるとより好ましく、e=15mmの場所から内側の領域に設けると更に好ましく、e=20mmの場所から内側の領域に設けると更に好ましく、e=25mmの場所から内側の領域に設けると更に好ましい。
HUD表示領域R1のフィルム240のエッジ240Eからの距離e[mm]とフィルム240の厚みt[mm]との関係が下記の式(1)を満たすことが好ましい。式(1)を満たすことにより、HUD像の歪及び反射二重像を確実に低減できる。
なお、式(1)において、lはフィルム240のエッジ240Eから合わせガラスの厚み変化がなくなる箇所までの距離であり、ここではl=40[mm]とした。又、δはフィルム240のエッジ240Eから距離e[mm]地点のフロントガラス20の楔角(楔角については図2を参照して後述する)であり、ここではδ=0.0012[rad]とした。δ=0.0012[rad]以下であると、反射二重像が、より目立ちにくい。なお、e≧40の場合はtは任意の値である。
式(1)は、以下のようにして導くことができる。図2は、式(1)の導出について説明するための図であり、図2(a)はフィルム240のエッジ240E近傍における合わせガラスの断面図、図2(b)は合わせガラスの厚みグラフである。なお、図2(a)と図2(b)では、縦軸のレンジが異なる。
図2に示すように、フィルム240のエッジ240E近傍では合わせガラス(フロントガラス20)の厚みが変化する。図2(a)では、便宜上、合わせガラスの厚みが一定に変化するように図示しているが、合わせガラスの厚みは、誇張しているが実際には図2(b)に示すように変化する。図2(b)に示すように、フィルム240のエッジ240E近傍における合わせガラスの厚み変化の程度を楔角δ(x)で示す。
図2において、梁にかかる力と変位の理論式において、フィルム240の厚み分の変位を生じさせる力との関係より、P/EI=3t/2l3(式A)となる。ここで、Pはフィルム240の厚み分の変位を生じさせる力、EIは合わせガラスの曲げ剛性、tはフィルム240の厚み、lはフィルム240のエッジ240Eから合わせガラスの厚み変化がなくなる箇所までの距離である。
式Aを梁にかかる力と傾きの理論式であるδ(x)=−P(l2−x2)/2EIに代入して変形することで、式(1)を得ることができる。ここで、xはフィルム240のエッジ240Eからの距離である。
なお、フィルム240のエッジ240Eから合わせガラスの厚み変化がなくなる箇所までの距離lを40[mm]とした理由は、発明者らが検討を積み重ねた結果得られた実測値に基づくものである。例えば、図2(a)において、ガラス板210及び220の板厚を2.0mm、中間膜231の膜厚を0.38mm、中間膜232の膜厚を0.83mm、フィルム240の膜厚を0.1mmとすると、図3の実測値(N=3)が得られる。図3より、フィルム240のエッジ240Eから40mmの個所(矢印部)で合わせガラスの厚み変化がなくなることを見出した。
又、フィルム240が調光フィルムの場合、フィルムに駆動用の電極を有し、電極の厚みの影響で合わせガラスの厚みが変化する。それ故、電極近傍にHUD表示領域が位置すると表示像が歪む恐れがある。HUD表示領域は、エッジ240Eからの距離に加え、電極から5mm以上離間して設けることが好ましく、10mm以上離間して設けることが更に好ましい。
図4は、車両用のフロントガラスを例示する図(その2)であり、図4(a)はフロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である(フロントガラス20はz方向を上方として車両に取り付けられた状態である)。図4(b)は図4(a)のB−B線に沿う部分断面図である。なお、図4(b)では、フィルム240のエッジ240E近傍及び着色セラミック層29のエッジ29E近傍における合わせガラスの厚み変化の図示を省略している。
フィルム240は、例えば、図4に示すように、HUD表示領域R1の全体及びHUD表示外領域R2の全体を含み、平面視で外周部が着色セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。
なお、図4(b)では、着色セラミック層29がガラス板210の車内側の面(フロントガラス20の内面21)に設けられているが、これには限定されない。着色セラミック層29は、例えば、ガラス板220の車内側の面に設けてもよいし、ガラス板210の車内側の面とガラス板220の車内側の面の両方に設けてもよい。この場合は、より面内側(合わせガラスの中心側)にある着色セラミック層のエッジをエッジ29Eとする。又、フィルム240のエッジ240Eを車外側から見えないようにするためには、ガラス板220の車内側の面に着色セラミック層29を設けるのが望ましい。
図4の例では、フィルム240と着色セラミック層29とはオーバーラップする領域を有しており、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dは15mm以上である。必然的に、HUD表示領域R1はフィルム240のエッジ240Eから15mmの場所から内側の領域に設けられることになる。
なお、本明細書において、オーバーラップ量dは、フィルム240と着色セラミック層29とが、合わせガラスの平面視において着色セラミック層29の内周部から外周部に向かう方向にオーバーラップする量と規定する。
着色セラミック層29のエッジ29E近傍では、ガラスと着色セラミック層との熱吸収率の違いによりガラス成形時にフロントガラス20の形状と厚みが変化する。そのため、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとの距離が近づいた場合、上述したフィルム240の厚みによる影響と着色セラミック層29による影響とが重なってしまい、その領域にHUD像を投影すると、視認されるHUD像の歪と反射二重像が一層強調される。フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを15mm以上とすることで、HUD像の歪及び反射二重像を低減できる。
但し、図4の場合において、着色セラミック層29とフィルム240とがオーバーラップする領域全周においてオーバーラップ量d=15mm以上とする必要はなく、少なくともHUD表示領域R1の近傍でオーバーラップ量d=15mm以上とすることが好ましい。例えば、図4においてはHUD表示領域R1直下の部分(図4に両矢印で示す)がHUD表示領域R1の近傍であり、少なくとも当該部分においてオーバーラップ量d=15mm以上とすることが好ましい。なお、上記HUD表示領域R1の近傍とは、HUD表示領域R1と着色セラミック層29との距離が150mm以下である部分を指す。
特に、合わせガラスが曲率を有し、凹面鏡等で拡大した画像を曲面の合わせガラスで更に拡大させて反射させる構成では、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとの距離が近づいた場合、その領域にHUD像を投影すると、視認されるHUD像の歪と反射二重像が大きく強調される。フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを15mm以上とすることで、凹面鏡等で拡大した画像を曲面の合わせガラスで更に拡大させて反射させる際にも、HUD像の歪を低減できる。
又、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dは20mm以上とすることがより好ましく、30mm以上とすることが更に好ましく、50mm以上とすることが更に好ましく、100mm以上とすることが更に好ましく、200mm以上とすることが更に好ましい。上記範囲であれば、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとをより離間できるため、HUD像の歪及び反射二重像を更に低減できる。
フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量d[mm]とフィルム240の厚みt[mm]との関係が下記の式(2)を満たすことが好ましい。式(2)を満たすことにより、HUD像の歪及び反射二重像を確実に低減できる。
なお、式(2)において、lはフィルム240のエッジ240Eから合わせガラスの厚み変化がなくなる箇所までの距離であり、ここではl=40[mm]とした。又、δは着色セラミック層29のエッジ29Eでのフロントガラス20の楔角であり、ここではδ=0.001[rad]とした。式(1)とは異なりδ=0.001[rad]としたのは、着色セラミック層29により楔角が増加するため、HUDの歪みを抑制するにはフィルム240による楔角は小さく抑える必要があるためである。式(2)は、式(1)と同様にして導くことができる。なお、d≧40の場合はtは任意の値である。
又、フィルム240は、例えば、図5に示すように、HUD表示領域R1の全体及びHUD表示外領域R2の全体を含み、外周部が着色セラミック層29の略全体とオーバーラップするように配置されてもよい。又,フィルム240の外周部は合わせガラス外周部の端部から距離を設けてもよい。フィルム240のエッジが合わせガラスの外周部の端部から5mm以上離れていてもよく、10mm以上離れていてもよく、15mm以上離れていてもよい。又、フィルム240は、上辺部、側辺部、下辺部の何れかが着色セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。着色セラミック層29の内周部周縁はドットパターンを有することが、HUD像の歪を低減できる点で好ましい。
例えば、図6(a)に示すように、HUD表示領域R1及びその近傍領域を含み、下辺部と一方の側辺部が着色セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。又、フィルム240は、例えば、図6(b)に示すように、HUD表示領域R1及びその近傍領域を含み、下辺部が着色セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。又、フィルム240は、例えば、図6(c)に示すように、HUD表示領域R1及びその近傍領域を含み、下辺部と両方の側辺部が着色セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。何れの場合も、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dは15mm以上であり、必然的に、HUD表示領域R1はフィルム240のエッジ240Eから15mmの場所から内側の領域に設けられることになる。
乗員の視点から、HUD表示領域R1はフロントガラス20の下辺近傍にあることが多いため、フィルム240の下辺部と着色セラミック層29とのオーバーラップ量を本願の所定の範囲にすることが最も好ましい。又、フロントガラスは車両に上下方向に傾斜して取り付けられるため、フィルム240の下辺部及び上辺部と着色セラミック層29とのオーバーラップ量を本願の所定の範囲にすることが好ましい。
図1〜図6に共通の説明として、フロントガラス20において、車両の内側となるガラス板210の一方の面であるフロントガラス20の内面21と、車両の外側となるガラス板220の一方の面であるフロントガラス20の外面22とは、平面であっても湾曲面であっても構わない。なお、ガラス板210の一方の面(内面21)及びその反対面である他方の面は平滑である。又、ガラス板220の一方の面(外面22)及びその反対面である他方の面は平滑である。
HUD表示領域において、フロントガラス20が曲率を有し、垂直方向の曲率は半径4000mm以上20000mm以下であることが好ましく、半径6000mm以上20000mm以下であることがより好ましい。又、HUD表示領域において、フロントガラス20の水平方向の曲率は半径1000mm以上10000mm以下であることが好ましい。垂直方向及び水平方向の曲率が上記の範囲内であれば、フィルム240に投影したHUD像の歪みを低減できる。特に、上記半径が小さいとフィルムにしわが入る恐れがある。
ガラス板210及び220としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート、有機ガラス等を用いることができる。ガラス板210及び220は、例えば、フロート法によって製造できる。
フロントガラス20の外側に位置するガラス板220の板厚は、最薄部が1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板220の板厚が1.8mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板220の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
フロントガラス20の内側に位置するガラス板210の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板210の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりフロントガラス20の質量が大きくなり過ぎない。
ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、ガラス品質(例えば、残留応力)を維持できる。ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質(例えば、残留応力)の維持に特に有効である。ガラス板210の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。
但し、ガラス板210及び220の板厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、ガラス板210及び220の一方又は両方が、フロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔状の領域を備えていてもよい。
フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板210及び220は、フロート法等による成形の後、中間膜230による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃〜700℃である。
ガラス板210とガラス板220とを接着する中間膜230(中間膜231及び232)としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜230を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。
中間膜230の膜厚は、合計の膜厚で最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜230の膜厚が0.5mm以上であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が十分となる。又、中間膜230の膜厚は、合計の膜厚で最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜230の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜230の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
中間膜231、232の厚みは0.51mm以下であってよく、0.39mm以下であってよく、0.26mm以下であってよく、120μm以下であってよく、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよく、2μm以下であってよい。中間膜231、232の厚みが薄い場合は後述する接着層を中間膜として使用してもよい。
なお、中間膜230は、中間膜231及び232の何れか1つ以上が3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を3層から構成し、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
中間膜231及び232の何れか一方に薄い接着層を用いてもよい。接着層の材料は、フィルム240を固着する機能を有していれば特に限定されないが、例えば、アクリル系、アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、ポリビニルブチラール系の材料が挙げられる。接着層の材料は、可視光に対して透明である。又、合わせガラスを製造する工程の前の常温状態において接着性を有していないことが望ましい。
中間膜231及び232を作製するには、例えば、各中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜231及び232が完成する。
合わせガラスを作製するには、ガラス板210とガラス板220との間に、中間膜231、フィルム240、及び中間膜232を挟んで積層体とし、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、−65〜−100kPaの真空中で温度約70〜110℃で接着する。
更に、例えば100〜150℃、圧力0.6〜1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
ガラス板210とガラス板220との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜230及びフィルム240の他に、赤外線反射、発光、発電、調光、可視光反射、散乱、加飾、吸収、電熱等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。又、合わせガラスの表面に防曇、撥水、遮熱、低反射等の機能を有する膜を有していてもよい。
なお、HUDのFOV(Field Of View:視野角)は、例えば、4deg×1deg以上である。HUDのFOVは、5deg×1.5deg以上、6deg×2deg以上、7deg×3deg以上としてもよい。HUDのFOVが大きいほどフィルム240のうねりの影響が出やすいため、特に本発明の効果を享受できる。
このように、HUD表示領域R1をフィルム240のエッジ240Eから5mmの場所から内側の領域に設けることで、フィルム240のエッジ240E近傍のフロントガラス20の形状と厚みが変化する領域を避けることができるため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できる。
又、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量を15mm以上とすることで、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとが近づくことを避けることができるため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できる。
[実施例1〜13、比較例1]
ガラス板210及び220を準備し、間にフィルム240を配置した中間膜231及び232をガラス板210とガラス板220で挟み、実施例1〜13及び比較例1の合わせガラスを作製した。
ガラス板210及び220はAGC社製 通称FLとし、サイズは300mm×300mm×厚み2mmとした。又、各ガラス板に加熱により曲げ加工を施した。中間膜231としては、厚み0.38mmのPVB(イーストマンケミカル社製)を用いた。中間膜232としては、厚み0.83mmのPVB(イーストマンケミカル社製)を用いた。フィルム240としては、300mm×200mmのPETフィルムにチタニアコートを施した高反射フィルムを用いた。ガラス板210、中間膜231、フィルム240、中間膜232、ガラス板220の順に積層し、減圧と加熱処理により合わせガラスを作製した。フィルム240は、合わせガラスの中央部に配置した。HUD表示領域において、合わせガラスの垂直方向の曲率は半径5000mm、水平方向の曲率は半径2000mmとした。
実施例1では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを5mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.94mradとした。
実施例2では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを10mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.82mradとした。
実施例3では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを15mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.69mradとした。
実施例4では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを20mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.30mradとした。
実施例5では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを25mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を0.80mradとした。
実施例6では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを5mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.44mradとした。
実施例7では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを10mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.37mradとした。
実施例8では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを15mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.29mradとした。
実施例9では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを20mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を1.02mradとした。
実施例10では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを5mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を0.81mradとした。
実施例11では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを10mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を0.80mradとした。
実施例12では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを15mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を0.79mradとした。
実施例13では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを20mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を0.71mradとした。
比較例1では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離eを3mm、フィルム240のエッジ240Eからe地点での楔角を2.01mradとした。
実施例1〜13及び比較例1について、フィルム240のエッジ240E近傍にプロジェクターからの像を凹面鏡を介してHUD像として投影し、HUD像の歪と反射二重像について評価した。
HUD像の歪は、合わせガラスの2m先に0.034deg(=10min)幅の横線を投影した場合に、横線がうねって見えて目視で視認性に対する不快感を感じるか否かについて評価を行い、不快感を感じない場合を『○』、不快感を感じる場合を『×』とした。
反射二重像は、合わせガラスの2m先に0.17deg(=10min)幅の横線を投影した場合に、二重像が見えて目視で視認性に対する不快感を感じるか否かについて評価を行い、不快感を全く感じない場合を『◎』、不快感を殆ど感じない場合を『○』、不快感を感じる場合を『×』とした。
実施例1〜13及び比較例1について、評価結果を図7にまとめた。
図7に示すように、実施例1〜13では、HUD像の歪について、何れも不快感を感じなかった。又、実施例1〜13では、反射二重像について、何れも全く不快感を感じないか殆ど不快感を感じなかった。特に、距離eが大きいほど、フィルム240の厚みが薄いほど良好な結果が得られた。
実施例1〜13ではHUD表示領域R1がフィルム240のエッジ240Eから5mmの場所から内側の領域に設けられており、フィルム240のエッジ240E近傍の合わせガラスの形状と厚みが変化する領域を避けてHUD像が投影されたため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できたと考えられる。又、フィルム240の厚みが薄いほど、うねりが生じ難くなり、反射二重像について、より良好な結果が得られたと考えられる。
一方、比較例1では、HUD像の歪及び反射二重像について、不快感を感じるレベルであった。比較例1ではフィルム240のエッジ240EからHUD表示領域R1までの距離が3mmであり、フィルム240のエッジ240E近傍の合わせガラスの形状と厚みが変化する領域にHUD像が投影されたため、HUD像の歪及び反射二重像が悪化したと考えられる。
このように、HUD表示領域R1をフィルム240のエッジ240Eから5mmの場所から内側の領域に設けることで、フィルム240のエッジ240E近傍のフロントガラス20の形状と厚みが変化する領域を避けることができるため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できる。
[実施例14〜25、比較例2]
ガラス板210及び220を準備し、間にフィルム240を配置した中間膜231及び232をガラス板210とガラス板220で挟み、実施例14〜25及び比較例2の合わせガラスを作製した。
ガラス板210及び220のサイズ、中間膜231及び232の材料や膜厚、フィルム240のサイズや種類、合わせガラスの垂直方向及び水平方向の曲率については、実施例1〜13及び比較例1と同様であり、実施例14〜25、比較例2においてはガラス板210、すなわち車内側を想定したガラス板の車内側面の下方100mmの帯状領域に着色セラミック層29を形成した。
実施例14では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを15mm、着色セラミック層29の端部の楔角を1.45mradとした。
実施例15では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを30mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.71mradとした。
実施例16では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを50mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.23mradとした。
実施例17では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを100mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.12mradとした。
実施例18では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを15mm、着色セラミック層29の端部の楔角を1.21mradとした。
実施例19では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを30mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.59mradとした。
実施例20では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを50mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.19mradとした。
実施例21では、フィルム240の厚さを75μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを100mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.10mradとした。
実施例22では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを15mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.79mradとした。
実施例23では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを30mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.39mradとした。
実施例24では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを50mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.13mradとした。
実施例25では、フィルム240の厚さを50μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを100mm、着色セラミック層29の端部の楔角を0.07mradとした。
比較例2では、フィルム240の厚さを100μm、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを10mm、着色セラミック層29の端部の楔角を2.15mradとした。
実施例14〜25及び比較例2について、着色セラミック層29の下部のエッジから上方30mmの箇所に凹面鏡でHUD像を投影し、HUD像の歪と反射二重像について評価した。評価方法については、実施例1〜13及び比較例1と同様である。
実施例14〜25及び比較例2について、評価結果を図8にまとめた。
図8に示すように、実施例14〜25では、HUD像の歪について、何れも不快感を感じなかった。又、実施例14〜25では、反射二重像について、何れも全く不快感を感じないか殆ど不快感を感じなかった。特に、オーバーラップ量dが大きいほど、フィルム240の厚みが薄いほど良好な結果が得られた。
実施例14〜25ではフィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dが15mm以上であり、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとが近づくことを避けることができたため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できたと考えられる。又、フィルム240の厚みが薄いほど、うねりが生じ難くなり、反射二重像について、より良好な結果が得られたと考えられる。
一方、比較例2では、HUD像の歪及び反射二重像について、不快感を感じるレベルであった。比較例2ではフィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量が10mmであり、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとが近づくことを十分に避けることができなかったため、HUD像の歪及び反射二重像が悪化したと考えられる。
このように、フィルム240と着色セラミック層29とのオーバーラップ量dを15mm以上とすることで、着色セラミック層29のエッジ29Eとフィルム240のエッジ240Eとが近づくことを避けることができるため、HUD像の歪及び反射二重像を低減できる。
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。