しかしながら、特許文献1に記載の技術では、スカイビングカッタ29のすくい面の刃先に向けて切削液を供給するため、工具と工作物は効率よく潤滑できるものの、スカイビングカッタ29の切削位置で工作物の切りくずが噛み込むおそれがある。
従来の一般的な切削加工で用いるバイトにおいては、バイトの先端のみが工作物と接するために、切りくずが入り込む当接面が存在しない。また従来の歯切工具においても、ピニオンカッタは歯溝に沿って往復するため、工具と工作物の間に切りくずが入り込むことはない。しかしスカイビングカッタにおいては工具と工作物の歯が噛み合うように回転するため、工具と工作物の間に切りくずが挟まってしまう場合がある。切りくずが挟まると、工作面を傷つけたり、切削位置がずれて工作精度が低下したりする原因となる。
本発明は、このような課題に鑑み、スカイビングカッタから工作物の切りくずを効率よく除去し、切削位置で切りくずが噛み込まないスカイビング加工機を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために本発明にかかるスカイビング加工機の代表的な構成は、ホルダの先端に歯車型のスカイビングカッタが保持されるスカイビング加工機において、ホルダは、ホルダ内に流体を流す中央流路と、中央流路から半径方向外側に流体を流す分岐流路と、分岐流路から流れた流体を円周方向に流す環状流路と、環状流路からスカイビングカッタの歯に向かって流体を吐出する複数の吐出孔とを備えていることを特徴とする。
上記構成によれば、工作物の切りくずをスカイビングカッタの歯から効率よく除去し、切りくずの噛み込みを防ぐことができる。したがって、スカイビング加工の精度を高く維持することが可能である。
上記の複数の吐出孔の吐出方向は、スカイビングカッタの歯に沿って、ホルダの軸線に対して半径方向に傾斜していてもよい。この構成によって、流体を切削位置まで到達させ、切削位置で発生した切りくずを効率よく除去することが可能になる。
上記の複数の吐出孔の吐出方向は、スカイビングカッタの歯に沿って、ホルダの軸線に対して円周方向に傾斜していてもよい。この構成によっても、流体を切削位置まで到達させ、切削位置で発生した切りくずを効率よく除去することが可能になる。
上記の複数の吐出孔は、スカイビングカッタの歯と同数の吐出孔が形成されていてもよい。これにより、それぞれの歯において切りくずの噛み込みを効率よく防止できる。
当該スカイビング加工機は、上記ホルダに分岐流路が形成されたあとにホルダに装着されるリングをさらに備え、環状流路および複数の吐出孔がリングに形成されていてもよい。これにより、分岐流路、環状流路、および吐出孔を容易に形成することができる。
本発明によれば、スカイビングカッタから工作物の切りくずを効率よく除去し、切削位置で切りくずが噛み込まないスカイビング加工機を提供することが可能になる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
図1は、本発明の実施形態にかかるスカイビング加工機100の概要を示す図である。図1(a)は、スカイビング加工機100の全体を示している。スカイビング加工機100は、回転するスカイビングカッタ102によって工作物(ワーク104)にスカイビング加工を施す工作機械である。スカイビングカッタ102は、ホルダ106を介して工具主軸108に取り付けられている。ワーク104は、ワーク主軸110に乗せられ、スカイビングカッタ102に同期して回転させながら加工が施される。工具主軸108は前後上下左右などの各方向に旋回可能であり、ワーク主軸110も前後等に移動可能になっている。
図1(b)は、工具主軸108の先端のツーリング部114を拡大して示している。ツーリング部114では、ホルダ106の先端にスカイビングカッタ102が保持されている。スカイビングカッタ102は、歯車型であって外周上に歯を有し、押さえボルト116を使用してホルダ106に保持される。ホルダ106は、根本のプルスタッド118を介して工具主軸108に連結される。
図2は、ツーリング部114の断面図および分解図である。図2(a)は、ツーリング部114の部分断面である。ホルダ106は、内部の中央にクーラント等の流体が流れる中央流路120を備えた、いわゆるセンタースルー方式になっている。中央流路120は、プルスタッド118側からスカイビングカッタ102側に向かって、ホルダ106内の中央にホルダ106の軸線L1(回転軸)に沿って設けられている。
中央流路120に流す流体としては、クーラント(冷却液)の他にも、切削液、ブロア(空気)、オイルミストなどの潤滑、冷却および切りくず除去のために一般的に使用される様々な液体および気体が使用可能である。
中央流路120の先には、分岐流路122が設けられている。分岐流路122は、中央流路120から分岐する横穴であって、ホルダ106の半径方向外側に向かって延びている。分岐流路122は、後述する環状流路126に流体を送る流路であり、設ける数に限定はないが、複数設ける場合は円周方向に偏りなく配置すると好適である。
分岐流路122から送られた流体は、リング124が形成する環状流路126に流れ込む。リング124は、環状に形成された部材であって、ホルダ106の先端側の外周にはめ込まれている。リング124は、その外径D1がスカイビングカッタ102の歯の底面が形成する歯底円D2よりも小さく設定されていて、スカイビング加工時にワーク104(図1(a)参照)に接触しないよう配慮されている。環状流路126は、リング124の内側の窪みとホルダ106の外表面とで環状に形成され、分岐流路122から流れた流体を軸線L1に対して円周方向に流す。
リング124には、環状流路126からスカイビングカッタ102の歯103に向かって、複数の吐出孔128が設けられている。吐出孔128は、スカイビングカッタ102の個々の歯に向かって延びていて、流体を歯に向かって吐出する。
図2(b)は、リング124およびホルダ106のA−A断面図である。吐出孔128は、環状流路126に沿って円周上に多数形成されている。この構成であれば、複数の吐出孔128からスカイビングカッタ102の歯に向かって流体を吐出することで、工作物の切りくずをスカイビングカッタ102の歯から効率よく除去し、スカイビング加工の精度を高く維持することが可能になる。
吐出孔128は、例えばスカイビングカッタ102の歯と同数(歯溝と同数)設けることも可能である。各吐出孔128からスカイビングカッタ102の個々の歯に向かって流体を直接的に吐出することで、切りくずの噛み込みをより効率よく防止することが可能になる。
図2(c)は、ツーリング部114の分解図である。上述しているように、本実施例では、環状流路126および吐出孔128は、リング124に設けられている。リング124は、ホルダ106の先端にはめ込まれ、スカイビングカッタ102を取り付けた後、スペーサ130および押さえボルト116によってホルダ106に装着される。環状流路126は、環状のリング124の内周面に窪んだ形状に形成されていて、リング124をホルダ106に装着することで、分岐流路122と連続する構成になっている。
本実施形態では、ホルダ106とは別部材のリング124に環状流路126および複数の吐出孔128を形成することで、ツーリング部114の製造の容易化を図っている。しかしながら、必ずしもリング124を備える必要はなく、環状流路126および複数の吐出孔128はホルダ106自体に設けても良い。
再び図2(a)を参照する。スカイビングカッタ102は、刃先に向かって末広がり(逆テーパ)になるよう、工具主軸側から先端に向かって径が次第に大きくなっている(角度α)。したがって、本実施形態では、吐出孔128の吐出方向も同じ角度αで、ホルダ106の軸線L1に対して、半径方向に傾斜させて設けている。すなわち、複数の吐出孔128は、環状流路126から末広がりに延びている。これによって、流体を歯すじと平行に流すことができ、流体を切削位置まで効率よく到達させ、切削位置で発生した切りくずを効率よく除去することが可能になる。
なお、先細り(テーパ)のスカイビングカッタであった場合は、複数の吐出孔128も環状流路126から先細りになるように傾斜させて設けてもよい。
図3は、ツーリング部114の稼働時の姿勢を示した図である。スカイビングカッタ102は、はすば歯車型であって、歯103がホルダ106の軸線L1に対して角度βで円周方向に傾斜している。これは、スカイビング加工において、スカイビングカッタ102はワーク104に対して斜めの姿勢で接触するためであり、ワークに上下方向に沿った内歯車(歯105)を加工するための構成である。したがって、複数の吐出孔128も、吐出方向がスカイビングカッタ102の歯に沿うよう、ホルダ106の軸線L1に対して同じ角度βで円周方向に傾斜させて設けている。この吐出孔128であれば、はすば歯車型のスカイビングカッタ102であっても歯すじと平行に流体を吐出することができ、流体を切削位置まで到達させ、切削位置で発生した切りくずをより効率よく除去することが可能になる。
以上説明したように、本実施形態にかかるスカイビング加工機100によれば、スカイビングカッタ102の歯103に向かってホルダ106側の近距離から歯すじと平行に流体を吐出することができる。また、スカイビングカッタ102の歯103のすくい面以外の位置へと流体を吐出することで、スカイビングカッタ102から工作物の切りくずを効率よく除去し、切削位置での切りくずの噛み込みを防ぎ、スカイビング加工を高い精度で行うことができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態においては、吐出孔128の数をスカイビングカッタ102の歯103と同数と説明したが、適宜これよりも少なくてもよい。また、吐出孔128の方向をスカイビングカッタ102の歯103の方向に沿って、半径方向に角度αで傾斜させ、円周方向に角度βで傾斜させるように説明したが、いずれか一方でもよく、またいずれの方向にも傾斜させていなくてもよい。