JP2018176282A - 金型冷却孔の表面処理方法及び金型 - Google Patents

金型冷却孔の表面処理方法及び金型 Download PDF

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Abstract

【課題】金型の冷却孔の表面に耐食性,耐応力腐食割れ性を付与することのできる表面処理方法を提供する。【解決手段】金型に形成された冷却孔の表面に,錫又は錫合金の粒子から成る噴射粒体を噴射して前記冷却孔の表面に衝突させることにより,前記噴射粒体中のSn元素を前記冷却孔の表面に拡散させる。これにより,冷却孔の表面に,摩擦・摩耗によっても失われない耐食性を付与することができた。【選択図】図10

Description

本発明は,金型冷却孔の表面処理方法,及び前記方法で表面処理がされた冷却孔を備えた金型に関し,より詳細には,冷却水等の冷媒を導入するために熱間金型に設けられた冷却孔表面に耐応力腐食割れ性を付与することのできる表面処理方法,及び,前記方法によって表面処理がされた冷却孔を備えた金型に関する。
キャビティ内に溶融材料が注湯されるダイカスト金型のように,キャビティ内に高温の材料が導入される熱間金型では,金型の冷却を円滑に行うために金型内に冷却孔を設け,この冷却孔内に冷却水等の冷媒を導入することにより冷却を行っている。
このような冷却孔を備えた金型では,近年,冷却性能を向上させる目的で冷却孔をキャビティ面側に近接させて形成する傾向にあり,その結果,冷却孔への繰り返し熱応力の影響が大きく,腐食環境にある冷却孔表面で応力腐食割れが生じ易くなっており,これを起点とした金型の大割れや,冷媒の漏出等の危険性が高まっている。
そのため,このような金型冷却孔表面の応力腐食割れを防止するための各種方法が検討されている。
ここで,応力腐食割れは,引張応力の存在,腐食環境の存在,及び,材料特性という3つの要因によって引き起こされ,このうちの1つ以上の要因を取り除くことにより回避し得る。
そのため,これらの要因に対応して,応力腐食割れを防止する方法として以下の提案がされている。
〔圧縮残留応力の付与〕
応力腐食割れを発生させる要因のうち,引張応力を緩和するために,冷却孔の表面に圧縮残留応力を付与することが行われており,このような圧縮残留応力を付与するために,冷却孔の表面層をショットピーニングによって加工することが提案されている(特許文献1の請求項1)。
〔保護膜による被覆〕
また,冷却孔の表面を保護膜で覆うことにより腐食環境(水,溶存酸素,塩素イオン等)から隔絶することで冷却孔の表面における腐食の発生,従って,応力腐食割れの発生を防止することも提案されており,このような保護膜による保護の一例として,冷却孔の表面を無電解メッキ(Ni―Pメッキ)層で被覆することも提案されている(特許文献2の請求項1)。
〔圧縮応力の付与と保護膜形成の併用〕
更に,前述した圧縮残留応力の付与と,保護膜の形成の双方を併用することも提案されており,冷却孔の表面に低濃度窒化を施した後,無電解Ni−Pメッキ層で被覆し,その後,更に,ショットピーニングを施すことも提案されている(特許文献3の請求項1,請求項2)。
なお,前述した特許文献3に記載の構成において冷却孔の表面を覆う無電解Ni−Pメッキ層は,Feよりも腐食し難い(イオン化傾向が小さい)金属によって構成された,所謂「バリア型」の防食膜であるところ,このようなバリア型の防食膜では,保護膜に素地に至る傷や孔が生じると,メッキ層をカソード,素地をアノードとする局部電池が形成されてアノードとなる素地の腐食(溶出)が加速する問題がある。
このようなバリア型の防食膜が有する問題を解消するために,冷却孔の表面に真空パルス窒化を行った後,ピーニング処理し,更に,電解メッキによってFeよりもイオン化傾向が大きいZnやZn合金の犠牲膜を形成して冷却孔の表面を被覆することも提案されている(特許文献4の請求項1,請求項3,図4)。
このように,Feよりもイオン化傾向が大きいZnやZn合金の犠牲膜で冷却孔の表面を被覆した構成では,犠牲膜に素地に至る傷や孔が生じて局部電池が形成された場合であっても,この局部電池はメッキ層をアノード,素地をカソードとするものとなるため,アノード側のZnが先に腐食することで,素地側の腐食の発生を遅らせることができるものとなっている。
〔材料特性の改善〕
なお,材料特性の改善による応力腐食割れの防止としては,結晶粒を貫いて割れが進行する粒内割れに対してはニッケル含有量の多い鋼種の選択や珪素の添加,粒界に沿って割れが進行する粒界割れに対しては耐粒界腐食鋼を使用する等,金型全体の鋼種を応力腐食割れ感受性の低い材料に見直すことにより行われるのが一般的であるが,冷却孔の表面に対する局部的な表面処理によって,冷却孔の表面付近の結晶構造や成分等を変化させることで,表面部分の材料自体を応力腐食割れが生じ難い性質に改質することで耐応力腐食割れ性を付与することも提案されている。
このような表面処理の例として,後掲の特許文献5には,冷却孔の表面を480〜600℃の水蒸気に1〜3時間曝すことによりマグネタイト(Fe34)に変化させることにより形成された表面改質層(マグネタイト層)を設けることを提案している(特許文献5[0027]欄[表2]の試料2)。
〔その他〕
金型冷却孔の表面処理に関する発明ではなく,かつ,応力腐食割れの防止に関する処理を開示したものでも,応力腐食割れを防止する効果があることを予測させる記載もされていないが,後掲の特許文献6には,金属製品の表面に金属粒体を噴射することで,金属粒体中の組成物中の元素を金属製品の表面に拡散させる常温拡散,浸透メッキ方法が記載されており,この特許文献6には,噴射する金属粒体として錫の使用についても示唆している(特許文献6[0084])。
なお,特許文献6は,ここに記載されている方法を「メッキ方法」と指称するが,特許文献6に記載の方法で形成される表面層は,浸炭や窒化等によって鋼製品の表面に形成される層と同様,素地中に,他の元素を拡散・浸透させて形成した「表面改質層」であり,特許文献2〜4のように,無電解メッキや電解メッキによって形成される,素地とは別の成分によって素地上を覆う「メッキ層」とは異なる。
特開平7−290222号公報 特開平9−271923号公報 特開2009−72798号公報 特開2013−159831号公報 特開2016−204754号公報 特開平 8−333671号公報
以上で説明した従来の金型冷却孔の表面処理方法中,ショットピーニングによって圧縮残留応力を付与する方法(特許文献1)は,冷却孔の形成加工等によって生じた引張残留応力や使用時にかかる外部応力を緩和することができるが,引張応力を完全に除去するものではなく,他の方法との併用も行われている。
このようなショットピーニングによる圧縮残留応力の付与との併用として,特許文献3に記載されているように,無電解Ni―Pメッキによってバリア型の保護膜を形成して冷却孔の表面を腐食環境(水,溶存酸素,塩素イオン等)から隔絶することも考えられるが,この構成では,保護膜に素地に至る傷や孔が生じれば,局部電池の作用によって素地の腐食をより進行させることは前述した通りである。
一方,保護膜をZnやZn合金から成る犠牲膜とした特許文献4に記載の構成では,犠牲膜に素地に至る傷や孔が生じた場合であっても,素地の腐食発生を遅らせることができる点で有利であるが,この構成によっても,あくまでも素地の腐食を「遅らせる」ことができるだけで,保護膜の腐食の進行と共にやがて素地にも腐食が生じることとなる。
また,保護膜としてZnやZn合金から成る犠牲膜を形成する構成では,素地に至る傷や孔が生じた際には素地の腐食を遅らせることができる点で有利であるものの,イオン化傾向が大きい(従って,腐食しやすい)材料で形成された犠牲膜は,それ自体が経時と共に腐食することで痩せていき保護効果が低下すると共に,この腐食によってメッキ層の表面に錆(白錆)が発生して流路面積を減少させることで冷却効率の低下等を招く場合がある。
このような犠牲膜自身の腐食を防止するためには,冷却孔の表面に犠牲膜を形成した後,この犠牲膜の表面に,更に化成処理を行う等の処置が必要となるが,この方法では処理工数の増加によって冷却孔の表面処理の長時間化,高コスト化を招く。
このように,保護膜の形成は,素地を腐食環境より隔絶することにより耐応力腐食割れ性を付与するものであるため,保護膜に破損等が生じた場合には素地を腐食から保護できなくなる。
これに対し,少なくとも冷却孔の表面付近を,応力腐食割れが生じ難い材料特性に改質することができれば,電解メッキや無電解メッキによるメッキ層を保護膜として形成しない場合であっても,冷却孔表面の応力腐食割れを防止することができると共に,このような表面改質を,前述した保護膜の形成に際する下地処理として行えば,保護膜が破損等した場合であっても応力腐食割れの発生を防止できる。
このような表面改質によって応力腐食割れを防止する方法として,特許文献5は金型の冷却孔の表面組織をマグネタイト(Fe34)に改変することで,腐食,従って応力腐食割れの発生を防止して金型の寿命を大幅に拡大できることを報告する。
しかし,特許文献5では,冷却孔の表面組織をマグネタイト(Fe34)に改変するために,冷却孔の表面を480〜600℃の水蒸気に,1〜3時間曝す処理を行っており(特許文献5[0014]),より,簡単,かつ短時間の処理で,冷却孔の表面に耐応力腐食割れ性を有する表面改質層を形成することができれば便利である。
また,上記方法によって形成されたマグネタイトの表面改質層は,比較的低硬度であり,耐摩耗性が低いために摩擦によってマグネタイト層が滅失すると耐応力腐食割れ性が失われる。
そこで本発明は,金型の冷却孔の表面付近を,腐食が生じ難い性質,従って,応力腐食割れが生じ難い材料特性に改質された表面改質層を,比較的簡単,かつ,短時間で形成することができ,しかも,他部材との摩擦によっても耐応力腐食割れ性が失われ難い表面改質層を形成し得る,金型冷却孔の表面処理方法を提供することにより,冷却孔の表面における応力腐食割れの発生を防止して金型の長寿命化を図ることを目的とする。
上記目的を達成するために,本発明の金型冷却孔の表面処理方法は,
金型に形成された冷却孔の少なくとも表面にSn元素を拡散させる拡散処理を行うことを特徴とする(請求項1)。
前記拡散処理は,平均粒子径10〜100μmの錫及び/又は錫合金の粒子から成る噴射粒体を噴射圧力0.4〜0.8MPaの圧縮気体と共に噴射して前記冷却孔の表面に衝突させることにより,前記噴射粒体中のSn元素を前記冷却孔の表面に拡散させることにより行うことができる(請求項2)。
本発明において,平均粒子径とはメジアン径(d50)を言う。
なお,一端を閉塞端とする冷却孔の表面を処理対象とする場合,
前記拡散処理における前記噴射粒体の噴射を,該冷却孔よりも小径の噴射ノズルを該噴射ノズルの先端を冷却孔の前記閉塞端付近,一例として閉塞端の内面に対し数mmの間隔となるまで挿入した状態で開始し,前記噴射ノズルを徐々に引き抜きながら,一例として該噴射ノズルが前記冷却孔より脱するまで,前記噴射粒体の噴射を継続することにより前記拡散処理を行うことが好ましい(請求項3)。
また,前記冷却孔の表面には,ショットピーニングを行うことが好ましく(請求項4),このショットピーニングには,表面のスケール除去等を行う効果があることから,Sn元素を拡散させる前述の拡散処理を行う前にショットピーニングを行うことが好ましい。
この場合のショットピーニングは,平均粒子径20〜149μmのショットを噴射圧力0.3〜0.8MPaの圧縮気体と共に噴射して行うことができる(請求項5)。
なお,一端を閉塞端とする冷却孔の表面を処理対象とする場合,
前記ショットピーニングにおける前記ショットの噴射についても,前記冷却孔よりも小径の噴射ノズルを該噴射ノズルの先端を冷却孔の前記閉塞端付近,一例として閉塞端の内面に対し数mmの間隔となるまで挿入した状態で開始し,前記噴射ノズルを徐々に引き抜きながら,一例として該噴射ノズルが前記冷却孔より脱するまで,前記ショットの噴射を継続することにより行うことが好ましい(請求項6)。
この場合,前記冷却孔内で前記ノズルの先端を揺動させることが好ましい(請求項7)。
なお,前述した本発明の表面処理方法は,窒化又は軟窒化処理がされた前記冷却孔の表面を処理対象として行うことができる(請求項8)。
また,本発明の金型は,
冷却用の冷媒を導入する冷却孔が形成された金型において,
前記冷却孔の表面に,Sn元素が拡散された表面改質層が形成されていることを特徴とする(請求項9)。
この表面改質層は,更に圧縮残留応力が付与されているものとすることが好ましい(請求項10)。
更に,前記冷却孔が表面に窒化層又は軟窒化層を備え,前記表面改質層が,前記窒化層又は軟窒化層に形成されていても良い(請求項11)。
以上で説明した本発明の構成により,本発明の方法で表面処理を行った冷却孔を備えた金型では,冷却孔の表面にSn元素を拡散させたことで耐食性を発揮し,これにより,冷却孔表面での腐食の発生が防止されることで応力腐食割れの発生を好適に防止することができた。
しかも,本発明の方法で処理された表面は,摩擦摩耗後においても優れた耐食効果を発揮する,耐摩耗性に優れたものであった。
このようなSn元素の拡散は,所定粒径の錫及び/又は錫合金の粒体である噴射粒体を,所定の噴射圧力で噴射するという比較的簡単な方法で,短時間のうちに行うことが可能である。
冷却孔の表面にショットピーニングを行う構成では,前述したSn元素の拡散に伴う耐食性の付与と,ショットピーニングによる圧縮残留応力の付与との相乗効果によって,より一層の耐応力腐食割れ性を付与することができた。
更に,拡散処理における噴射粒体の噴射や,ショットピーニングにおけるショットの噴射を,冷却孔よりも小径の噴射ノズルをその先端を冷却孔の閉塞端付近まで挿入した状態で開始し,前記噴射ノズルを徐々に引き抜きながら噴射を継続する構成では,噴射ノズルの外周と冷却孔の内周間の間隔が狭く,従って噴射したショットや噴射粒体が孔外に抜け難く詰まり易い,細径の冷却孔の表面を処理対象とした場合であっても,ショットピーニングやSn元素の拡散処理を好適に行うことができた。
特に,冷却孔内で前記噴射ノズルの先端側を揺動させながら前述した噴射を行うことで,加工むら等の発生についても好適に防止することができた。
なお,本発明の表面処理は,窒化や軟窒化が行われている冷却孔の表面に対し行うことで,窒化や軟窒化処理との相乗効果を得ることも可能である。
金型とその冷却孔を模式的に記載した説明図。 閉塞端を有する冷却孔表面に対する噴射粒体/ショットの噴射方法の説明図であり,(A)は全体構成,(B)は噴射ノズルの先端部の拡大図,(C)は噴射ノズルの先端を(B)図に示したC矢視方向より見た図。 (A)は試料1(比較例),(B)は試料2(比較例),(C)は試料3(実施例),(D)は試料4(実施例)の輪郭曲線。 試料1(比較例)表面のSEM像であり,(A)は1000倍,(B)は3000倍。 試料2(比較例)表面のSEM像であり,(A)は1000倍,(B)は3000倍。 試料3(実施例)表面のSEM像であり,(A)は1000倍,(B)は3000倍。 試料4(実施例)表面のSEM像であり,(A)は1000倍,(B)は3000倍。 試料1(比較例)表面のEDX定性分析結果。 試料2(比較例)表面のEDX定性分析結果。 試料3(実施例)表面のEDX定性分析結果。 試料4(実施例)表面のEDX定性分析結果。 摩擦摩耗試験(ボール・オン・ディスク試験)の説明図。 耐食性試験結果を示す試験前後の各試料の表面を撮影した写真。 投射材の噴射方法に対する評価試験で使用した試験片と試験方法の説明図。
以下に,本発明の金型冷却孔の表面処理方法を,添付図面を参照しながら説明する。
〔処理対象:金型の冷却孔〕
本発明の表面処理方法は,ダイカスト金型等の熱間金型内に冷却水等の冷媒を導入するために設けられた冷却孔の表面(内壁)を処理対象とする。
処理対象とする金型の鋼種は特に限定されず,一例として,SKD61(JIS G4404 2006)に代表されるSKD系の熱間ダイス鋼(SKD4,SKD5,SKD6,SKD61,SKD62,SKD7,SKD8)や,SKT系の熱間鍛造用型鋼(SKT3,SKT4,SKT6)等,熱間金型に使用される鋼種はいずれも本発明の表面処理の対象とすることができる。
このような金型に形成される冷却孔としては,図1に模式的に示したように,例えば金型の背面側(キャビティ面とは反対側)からキャビティ面に向かって金型の厚さ方向に形成された冷却孔のように一端を閉塞端とする冷却孔と,図1において金型の厚さ方向に対し直交方向に表されている冷却孔のように貫通孔として形成された冷却孔等,各種の冷却孔がある。そして,例えば,これら各種の冷却孔どうしが繋がって,この繋がった冷却孔中を冷媒が循環している。本発明の表面処理方法は,これらの冷却孔のいずれに対しても適用可能である。
対象とする冷却孔のサイズは特に限定されないが,閉塞端を有する冷却孔については,孔径が細くなるに従い,ショットや噴射粒体が冷却孔内で目詰まりを起こし易くなり加工が困難となるものの,本発明で採用する後述の噴射方法を適用する場合,金型に形成する最小レベルの冷却孔のサイズである直径2mmの冷却孔までは表面処理できることを確認している。
なお,本発明の表面処理方法は,切削加工等を行ったままの冷却孔の表面に対し行うことも可能であるが,冷却孔の表面にツールマーク等の凹凸が形成されている場合には,凹部を起点として割れが発生し易くなること,また,冷却孔の形成を放電加工にて行った場合,表面に付着した酸化スケールやマイクロクラックの原因となる放電硬化層を事前に除去しておくことが好ましいことから,本願の処理を行う前に,冷却孔の表面に対し,砥粒を噴射して研磨するサンドブラスト等の研磨処理を行っておくものとしても良い。
また,冷却孔の表面に対しては,必要に応じて既知の方法により窒化や軟窒化等の処理を行うものとしても良く,このようにして窒化や軟窒化処理を行った後の冷却孔の表面に対し,本発明の処理を行うものとしても良い。
〔表面処理〕
以上で説明した金型の冷却孔表面に対し,本発明の表面処理が施される。
この表面処理方法は,金型に形成された冷却孔の少なくとも表面にSn元素を拡散させる拡散処理を少なくとも含み,好ましくは,上記拡散処理の他,冷却孔の表面にショットピーニングを適用して,圧縮残留応力を付与することが好ましい。
本実施形態では,冷却孔の表面に,まず,ショットピーニングを行って圧縮残留応力を付与し,その後,Sn元素を拡散させる前述の拡散処理を行う場合を例に挙げて説明する。
ショットピーニングは,金属やセラミック,ガラス等の略球状の粒子から成るショットを,圧縮気体と共に冷却孔の表面に噴射,衝突させて行う冷間加工の一種であり,このショットピーニングを行うことで,表面組織の微細化による冷却孔の表面硬度の上昇(加工硬化)が得られると共に,圧縮残留応力を付与することができる。
使用するショットとしては,前述したように金属,セラミック,ガラス等の,ショットピーニングに使用されるショット材の材質として既知の各種材質のショットを使用することができるが,好ましくは,処理対象とする冷却孔の表面硬度よりも高硬度のものを使用する。
ショットの粒径としては,平均粒径20〜149μmのものを使用することができ,このショットを,噴射圧力0.3〜0.8MPaの圧縮空気等の圧縮気体と共に噴射する。
なお,ショットピーニングは一回のみの処理で行うこともできるが,複数回に分けて行うものとしても良く,例えば段階的に噴射圧力やショットの粒径を変化させる等して,処理後の冷却孔の表面粗さが改善されるように行っても良い。
本実施形態において,Sn元素を拡散させる前述の拡散処理は,前述したショットピーニングを行った後の冷却孔の表面に対し行う。
このようなSn元素の拡散は,錫又は錫合金から成る噴射粒体を冷却孔の表面に噴射して衝突させることにより行うことができ,衝突時のエネルギーによって,噴射粒体中のSn元素の一部を,冷却孔の表面に拡散させることができる。
この拡散処理に使用する噴射粒体は,冷却孔の表面に拡散させるSn元素を含むものである必要があり,純錫の粒体は勿論,錫を主成分とする錫合金の粒体についても使用することができ,また,自然酸化によって表面に酸化膜が形成された錫の粒体等,その一部又は全部が酸化錫の形態をとるものであっても良い。
前述したショットピーニングに使用するショットとは異なり,拡散処理に使用する噴射粒体の形状は,略球状のものに限らず,角を有する形状のものについても使用可能であり,その形状は限定されない。
使用する噴射粒体の平均粒径は10〜100μmの範囲であり,この噴射粒体を噴射圧力0.4〜0.8MPaの圧縮空気等の圧縮気体と共に噴射することにより,冷却孔の表面にSn元素を拡散することができる。
なお,本実施形態では,前述したショットピーニングを行った後に,錫又は錫合金の噴射粒体を噴射してSn元素を拡散させる拡散処理を行う場合を例に挙げて説明したが,2つの処理は,冷却孔の表面に,圧縮残留応力の付与とSn元素の拡散の双方を行うことができればその順序は特に限定されず,Sn元素を拡散した後に冷却孔の表面に対しショットピーニングを行うものとしても良く,又は,噴射粒体の噴射(拡散処理)とショットの噴射(ショットピーニング)を同時に行って,Sn元素の拡散と圧縮残留応力の付与を同時に行うものとしても良い。
但し,ショットピーニングには,表面のスケール除去等を行う効果があることから,Sn元素を拡散させる前述の拡散処理を行う前にショットピーニングを行うことが好ましい。
上記ショットピーニングにおけるショットの噴射や拡散処理における噴射粒体の噴射は,以下の方法により行うことができる。
なお,以下に説明するショットや噴射粒体の噴射方法は,本発明の処理を行うに先立ち,冷却孔の表面を砥粒の噴射によって研磨等する場合,この砥粒の噴射等にも適用可能である。
処理対象とする冷却孔が,図1に示した冷却孔のうち,入口と出口を有する貫通孔として形成されたものである場合には,入口又は出口の一方より圧縮空気等の圧縮気体と共にショットや噴射粒体を導入すると共に,他方より噴出させることで,冷却孔の表面にショットや噴射粒体を衝突させるようにしても良い。
処理対象とする冷却孔が,図1に示した冷却孔のうち,一端を閉塞端とする孔である場合には,図2(A)に示すように,冷却孔の孔径よりも小さく,かつ,冷却孔の表面と噴射ノズルの外周面との間に,少なくとも圧縮気体とショットや噴射粒体との混合流体の通過許容間隔を形成し得る外径を有する噴射ノズルを使用し,この噴射ノズルを冷却孔内に挿入して噴射する。なお,この方法は貫通孔として形成された冷却孔にも適用可能である。
このような噴射ノズルを使用したショットや噴射粒体の噴射は,噴射ノズルの先端が冷却孔の閉塞端内面に対し数mm程度の間隔,例えば3〜5mm程度の間隔となるまで噴射ノズルを冷却孔内に挿入し,この位置でショットや噴射粒体の噴射を開始し,噴射ノズルを冷却孔より徐々に引き抜きながら噴射ノズルが冷却孔から脱するまで噴射を継続することで,閉塞端の内面を含む冷却孔の表面全体にショットや噴射粒体を衝突させることができる。
噴射ノズルの引き抜きは,早すぎると冷却孔の表面を十分に処理できず,遅すぎると,噴射されたショットや噴射粒体が冷却孔内に詰まって噴射できなくなることから,0.1〜50mm/sの引き抜き速度で引き抜くことが好ましく,一例として直径4mmの冷却孔に対する噴射において,0.5〜50mm/sである。
ショットや噴射粒体の噴射中,噴射ノズルの先端側を,図2(B),(C)中に矢印で示すように冷却孔内で揺動させて,冷却孔の表面に対し均一に加工を行うことができるようにしても良い。
なお,孔径が比較的大きい冷却孔を処理対象とする場合には,噴射ノズルの外周と冷却孔の内周間の隙間を確保することが容易であるが,冷却孔の孔径が小さくなると,噴射ノズルの外周と冷却孔の内周間の間隔を確保し難くなり,噴射されたショットや噴射粒体が冷却孔外に排出され難くなることで冷却孔内にショットや噴射粒体が詰まり易くなることから,冷却孔の孔径に対し,適切なサイズの噴射ノズルの選択が必要となる。
下記の表1に,閉塞端を有する冷却孔のうち,特に噴射粒体の噴射が難しくなる孔径8mm以下の冷却孔に使用する噴射ノズルの組合せ例を示す。
なお,Sn元素を拡散させる拡散処理とショットピーニングとを含む本発明における冷却孔の表面処理の工程例と,各工程における処理条件の一例を下記の表2に示す。
表2に示す例は,放電加工によって冷却孔を形成した金型に対する表面処理の例を示したもので,工程1でSiC砥粒を噴射して,放電加工によって冷却孔の表面に生じた酸化スケールと放電硬化層を除去するサンドブラスト処理を行った後,工程2でショットピーニングを行っている。
また,工程2でショットピーニングを行った後,工程3のショットピーニングで冷却孔表面の鉄分除去を行うと共に,面粗さの改善を行うためのショットの噴射を行った後,工程4でSn粒体を噴射して,冷却孔表面にSn元素を拡散させる拡散処理を行っている。
1.試験片による評価
以下に,本発明の表面処理方法で処理した試験片に対し,表面状態の評価と耐食性の評価試験を行った結果を示すと共に,本願で採用する投射材の噴射方法に対する評価試験を行った結果を以下に示す。
〔表面状態の評価試験〕
(1)試験の目的
本願発明の方法で表面処理を行った後の試験片表面の状態を,圧縮残留応力,表面形状,及び成分に基づいて確認する。
(2)試験方法
SKD61製の4枚の試験片(焼入れ・焼き戻し品:幅25mm×長さ25mm×厚さ5mm,硬さ45HRC)に,それぞれ下記の表3に示す処理を行って得た試料1〜4の表面に対し,cosα法を用いたX線残留応力測定,レーザー顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)に基づく表面形状観察,及び,エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を行った。
(3)試験結果
(3-1) 残留応力測定結果
上記4種類の試験片に対し,幅方向(X方向)と長さ方向(Y方向)の双方の残留応力を測定した結果を下記の表4に示す。
なお,試料2(軟窒化処理品)の残量応力を測定した結果,高い圧縮残留応力が付与されていることは確認されたが,測定値のばらつきが大きく(標準偏差が大きく),得られた数値の正確性についての信頼度が低いことに鑑み,表4において空欄とした。
以上の結果から,本願の方法で処理した試料(試料3,試料4)では,未処理(焼入れ・焼き戻し処理のまま)の試料1の試験片に比較して,より大きな圧縮残留応力を付与できていることが確認された。
また,試料1の試験片では,X方向とY方向で応力値が大きく相違するものとなっていたが,本発明の方法で処理した試験片では,X方向とY方向で応力値に殆ど差がなく,本願の方法では試験片表面のいずれの方向に対しても均一に圧縮残留応力を付与できていることが確認された。
(3-2) 表面形状
試料1〜4の輪郭曲線を図3に,表面のSEM像を図4〜7にそれぞれ示す。
図3に示した輪郭曲線より,比較例である試料1及び試料2の表面には,割れの起点となり得る深く鋭利な凹部(谷)が多数形成されているのに対し,本願発明の方法で処理した試料3及び試料4の表面は,試料1,2に比較して全体的になだらかな輪郭となっていることが判る。
なお,試料1(未処理品)と,本願の方法で処理した試料4の表面における山頂点の算術平均曲(Spc:ISO 25178)を測定した結果,試料1(未処理品)では1/12477.066mm,試料4(実施例)では1/4529.218mmであり,この結果からも本発明の方法で処理を行った試験片では,凹凸の山頂がつぶれて,表面がなだらかな形状となっていることが確認されている。
また,各試料の表面を撮影したSEM像より,比較例である試料1の表面にはツールマークが残っており(図4参照),また,同様に比較例である試料2の表面では,粒状の細かい凹凸の存在が確認されたが(図5参照),本発明の方法で処理した試料3,試料4の表面には,このような粒状の細かい凹凸の存在は確認できず(図6,図7参照),試料1,2に比較して割れの発生し難い形状となっていることが判る。
(3-3) EDX定量分析結果
試料1〜4の表面に対し,エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を行った結果を図8〜11に示す。
また,各試料表面のEDX半定量値を下記の表5に示す。
なお,参考のためJIS G 4404 2006 におけるSKD61の化学成分を下記の表6に示す。
図8より,試料1の表面からはC,Fe,Si,Mo,V,Cr,Mnが検出されているが,これらの成分は,表6に示したようにいずれもSKD61の構成成分であると共に,各成分の半定量値(表5参照)も,SKD61の組成と略一致することから,試料1では,素地であるSKD61の成分がそのまま表面の成分として検出されていることが判る。
図9より,試料2の表面からは,素地(SKD61)の成分であるC,Fe,Si,Mo,V,Cr,Mnの他,NとOが検出されており,軟窒化によって表面に窒素Nが拡散していることが確認できる。
図10より,試料3の表面からは,素地(SKD61)の成分であるC,Fe,Si,Mo,V,Cr,Mnと,軟窒化により表面に拡散したNの他,Snが検出されており,また,試料2に比較してOの検出量が増加している。
なお,半定量分析による定量の結果,Snを55.1%と多量に含んでいることが確認された。
これにより,本発明の表面処理方法によって試料3の素地(SKD61)の表面にSn元素が多量に拡散したことが判る。
また,Oの増加より,本願の処理を行うことで表面が酸化したものと考えられる。
図11より,試料4の表面からは素地(SKD61)の成分であるC,Fe,Si,Mo,V,Cr,Mnと,軟窒化により表面に拡散したNの他,Snが検出されており,また,試料2に比較してOの検出量が増加している。
なお,半定量分析による定量の結果では,Snを28.5%と多量に含んでいることが確認された。
これにより,本発明の表面処理方法によって試料4の表面にSn元素が多量に拡散したことが判る。
また,Oの増加より,本願の処理を行うことで表面が酸化したものと考えられる。
(3-4) FE−EPMAによる元素分布の計測
前掲の試料2及び試料4に対し,電解放出型電子プローブマイクロアナライザー(Field Emission - Electron Probe Micro Analyzer; FE-EPMA)による面分析を行い,元素分布を計測した。
試料2及び試料4を厚み方向にワイヤーによって切断し,切断面を導電性樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後,鏡面研磨後の断面の表面層付近の元素分布を,FE−EPMAにてマッピングした。
計測の結果,試料2(比較例)の試験片において,内部Fe部分に部分的にFeが薄く,Crが濃い箇所が点状に存在しており,この部分に合金成分であるCr炭化物が点在しているものと考えられる。
また,試料2の表層部には,軟窒化処理に伴う化合物層の影響と見られるNの濃化が確認されると共に,Oが部分的に濃化していることが確認された。
なお,Sn粒子の噴射を行っていない試料2の試験片では,Sn元素は検出されていない。
これに対し試料4(実施例)の試験片の内部Fe部分でも,部分的にFeが薄く,Crが濃い箇所が点状に存在している点は試料2と同様であり,本発明の処理によっても内部の構造は変化することなく維持されていることが判る。
また,試料4の表層部では,試料2とは異なりNの濃化が観察できない一方,Snが濃化している箇所の存在が確認されており,本発明の方法で処理することにより窒素化合物層が除去されると共に,Sn粒子の噴射によって,試料の表面に対しSn元素が拡散されていることが確認された。
〔耐食性の評価試験〕
(1)試験の目的
本発明の方法で表面処理を行った試験片が耐食性を有すること(特に,Sn元素の拡散により耐食性が付与されること),及び摩擦摩耗試験によっても耐食性が失われないことを確認する。
(2)試験方法
SKD61製の6枚の試験片(焼入れ・焼き戻し品;幅25mm×長さ25mm×厚さ5mm,硬さ45HRC)のそれぞれに対し,下記の表7に示す条件で表面処理を行った後,ボール・オン・ディスク型摩耗機にかけて表面を摩擦摩耗した。
摩擦摩耗後の各試験片を洗浄した後,工業用水(約25℃)に240時間浸漬した後の腐食(赤錆)の発生状態を目視にて観察した。
試験片表面の摩擦摩耗試験は,A5052製のボール(直径10mm),を図12に示すように試験片の表面に荷重9.8Nで押し付け,摩擦半径6mm,回転速度100min-1で,500秒間摺動させた。
工業用水に対する各試料の浸漬は,錆が発生し易い環境とするために約50時間毎に水を入れ替えて溶存酸素の補充を行った。
(3)試験結果
工業用水に浸漬する前後の各試料の表面状態を図13に,この表面状態に基づく耐食性の評価結果を,下記の表8に,示す。
以上の結果から,本発明の表面処理方法で表面処理を行うことで,高い耐食性が得られることが確認された。
なお,軟窒化処理によって高い圧縮残留応力が付与されている試料6において顕著な錆の発生が確認されていることから,圧縮残留応力を付与したのみでは耐食性が得られていないことが判る。
従って,本発明の表面方法で処理された試料9及び10における耐食性は,軟窒化(試料10)やショットピーニング(試料9,10)による圧縮残留応力の付与によって得られたものではなく,Sn元素の拡散によって冷却孔表面の材料特性が変化したことにより得られたものであることが合理的に推察される。
なお,軟窒化処理を行った後の試験片の表面にマグネタイト(Fe34)の表面改質層を形成した試料8の試験片においても,本願の方法で表面処理を行った試料9及び試料10の試験片と同様,摩擦摩耗試験後においても摩擦面の耐食性が失われていなかった。
しかし,同じくマグネタイト(Fe34)の表面改質層を形成したものであっても,未処理(焼入れ・焼き戻しのまま)の表面に直接,マグネタイト(Fe34)の表面改質層を形成した試料7では,摩擦試験でボールと接触した部分においてマグネタイト層が摩耗して耐食性が失われ,大量の赤錆が発生しており,マグネタイト(Fe34)の表面改質層は,高い耐食性を有するものの,軟窒化等の表面強化処理を行っていないそのままの状態では摩擦や摩耗に弱いものであることが確認された。
これに対し,本発明の表面処理方法では,軟窒化処理後の表面に対し本発明の表面処理を適用した場合(試料10)の他,未処理(焼入れ・焼き戻しのまま)の表面に直接,本発明の表面処理を行った場合(試料9)のいずれにおいても,摩擦試験でボールと接触した部分を含め耐腐食性が失われておらず,下地処理として窒化(軟窒化)を行っていない場合であっても摩擦に強い表面処理が行えていることが確認できた。
このような高い耐摩耗性が得られた理由は不明であるが,図10及び図11のEDX定性分析結果に表れているように,本願の方法で表面処理を行った試料の表面では,酸素(O)の検出量が増加していることから,Sn(硬度5HV)が酸化することにより高硬度の酸化錫(最大で硬度1650HV)となることで高い耐摩耗性を発揮したことが一因ではないかと推察される。
〔投射材の噴射方法に対する評価試験〕
(1)試験の目的
本発明で採用するショット及び/又は噴射粒体の噴射方法により,閉塞端を有する比較的細径の冷却孔に対しても処理が行えることを確認する。
(2)試験方法
図14に示すように,断面半円状の溝が形成された2枚の試験片(SKD61)を,相互の溝が重なるように重ね合わせて,一端を閉塞端とする孔を形成し,この孔に対し本発明の表面処理を行った。
各試験片として溝形成面を高温の水蒸気に暴露することでマグネタイト(Fe34)層を形成したもの(特許文献5の処理に対応)を使用し,この試験片の溝形成面を重ね合わせることにより,直径4mm,長さ290mmの孔を形成した。
この孔内に,外径2.0mm,内径1.4mm,長さ350mmの噴射ノズルを挿入して,SiCのショット(53〜45μm)を,噴射圧力0.7MPaで噴射した後,Snの粒体(50〜20μm)を,噴射圧力0.7MPaで噴射した。
ショット及び噴射粒体の噴射は,噴射ノズルの先端が閉塞端に対し数mmの間隔となるまで挿入し,この位置で噴射を開始すると共に,噴射ノズルを孔より徐々に引き抜きながら,噴射ノズルの先端が孔より脱するまで噴射を継続した。
上記の表面処理を行った後,重ね合わせていた試験片を分離し,孔(溝)の表面のうち,閉塞端付近の表面とその他の部分の表面(孔の胴の部分)における残留応力(いずれも孔の長手方向の残留応力)を,cosα法を用いたX線残留応力測定にて測定した。
(3)試験結果
上記方法で測定した孔表面の残留応力値は,本発明の表面処理を行う前の状態では閉塞端付近で−25MPa,その他の部分で+450MPaであったものが,本発明の表面処理を行った後では,閉塞端付近で−585MPa,その他の部分で−831MPaとなっていた。
細径で,かつ閉塞端を有する冷却孔内に挿入した噴射ノズルよりショットや噴射粒体を噴射する場合,噴射ノズルの外周と冷却孔の内壁間の隙間が狭く,噴射したショットや噴射粒体で冷却孔が詰まってしまうために,冷却孔の表面を処理することが困難であることは既に述べた通りである。
しかし,本願の表面処理方法で提案するように,噴射ノズルを引き抜きながらショットや噴射粒体を噴射する処理では,このような目詰まりを生じさせることなく噴射を行うことができ,かつ,孔の表面に対し,高い圧縮残留応力を付与しうるエネルギーを伴ってショットや噴射粒体が衝突していることが確認された。
また,処理後の表面に対するSn元素の拡散についての確認を行った結果,試料3,4に対する試験結果(図10,11参照)と同様,冷却孔の表面にSn元素が拡散していることが確認された。
従って,本願の表面処理方法で採用する噴射方法は,閉塞端を有する冷却孔の表面に対しショットピーニングや噴射粒体を噴射して行うSn元素の拡散処理を行う上で有効な噴射方法であると言える。
2.金型による評価
(1)試験の目的
金型の冷却孔に対して本発明の処理方法を適用することで,耐応力腐食割れ性が付与されることを確認する。
(2)試験方法
本発明の方法で表面処理を行った金型(SKD61)の冷却孔と,未処理の冷却孔にそれぞれ冷却水を導入した状態で金型の加熱と冷却を繰り返して行った後,冷却孔内部の表面状態を目視により観察した。
(3)試験結果
観察の結果,未処理の冷却孔の表面では,2万サイクルの加熱と冷却の繰り返しにより冷却孔の表面全体に錆が発生すると共に,クラックが発生していることが確認された。
これに対し,本発明の方法で表面処理を行った冷却孔の表面では,3万サイクル加熱と冷却を繰り返した後においても極僅かな錆の発生が確認されたのみで,冷却孔の表面の殆どは,錆のない,きれいな状態に保たれていた。
また,本発明の方法で処理を行った冷却孔の表面には,クラックの発生も確認することはできなかった。
以上の結果から,本発明の表面処理方法には,金型の冷却孔表面に耐応力腐食割れ性を付与する効果があることが確認された。

Claims (11)

  1. 金型に形成された冷却孔の少なくとも表面にSn元素を拡散させる拡散処理を行うことを特徴とする金型冷却孔の表面処理方法。
  2. 前記拡散処理を,平均粒子径10〜100μmの錫及び/又は錫合金の粒子から成る噴射粒体を噴射圧力0.4〜0.8MPaの圧縮気体と共に噴射して前記冷却孔の表面に衝突させることにより,前記噴射粒体中のSn元素を前記冷却孔の表面に拡散させることにより行うことを特徴とする請求項1記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  3. 一端を閉塞端とする冷却孔の表面を処理対象とすると共に,
    前記拡散処理における前記噴射粒体の噴射を,該冷却孔よりも小径の噴射ノズルを該噴射ノズルの先端を冷却孔の前記閉塞端付近まで挿入した状態で開始し,前記噴射ノズルを徐々に引き抜きながら前記噴射粒体の噴射を継続することを特徴とする請求項2記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  4. 前記冷却孔の表面にショットピーニングを行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  5. 前記ショットピーニングを,平均粒子径20〜149μmのショットを噴射圧力0.3〜0.8MPaの圧縮気体と共に噴射して行うことを特徴とする請求項4記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  6. 一端を閉塞端とする冷却孔の表面を処理対象とすると共に,
    前記ショットピーニングにおける前記ショットの噴射を,該冷却孔よりも小径の噴射ノズルを該噴射ノズルの先端を冷却孔の前記閉塞端付近まで挿入した状態で開始し,前記噴射ノズルを徐々に引き抜きながら前記ショットの噴射を継続することを特徴とする請求項5記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  7. 前記冷却孔内で前記ノズルの先端を揺動させることを特徴とする請求項3又は6記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  8. 窒化又は軟窒化処理がされた前記冷却孔の表面を処理対象とする請求項1〜7いずれか1項記載の金型冷却孔の表面処理方法。
  9. 冷却用の冷媒を導入する冷却孔が形成された金型において,
    前記冷却孔の表面に,Sn元素が拡散された表面改質層が形成されていることを特徴とする金型。
  10. 前記表面改質層に圧縮残留応力が付与されていることを特徴とする請求項9記載の金型。
  11. 前記冷却孔が表面に窒化層又は軟窒化層を備え,前記表面改質層が,前記窒化層又は軟窒化層に形成されていることを特徴とする請求項9又は10記載の金型。

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