JP2018168974A - オイルシール及びシール付軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】所定範囲内の油温で、流体潤滑による低トルク性と、要求されるシール性とを実現する。【解決手段】シール部材1のシールリップ10に形成された複数の突起11でシールリップ10と相手部材のシール摺動面との間を流体潤滑状態にする。突起11の摺接領域の位置が油温変化に基づくシールリップ10の弾性変形に応じて変化する。突起11は、油温上昇に基づいて摺接領域の位置を変える一方側に向かって周方向長さが長くなる形状である。突起11の周方向長さは、所定範囲内の油温で油膜の厚さを一定範囲内に維持できるように変化している。当該一定範囲は、流体潤滑状態を保て、かつ周方向に隣り合う突起11間に亘る表面部13とシール摺動面との間の隙間を一定以下に保てるように設定する。【選択図】図1
Description
この発明は、潤滑油中の異物が装置の内部空間へ侵入することを防ぐために用いられるオイルシール、及びそのオイルシールを備えるシール付軸受に関する。
例えば、自動車、各種建設用機械等の車両に搭載されたトランスミッション内にはギヤの摩耗粉等の異物が混在する。トランスミッションの回転軸を回転可能に支持する転がり軸受として、オイルシールを備えるシール付軸受を採用することにより、軸受の内部空間への異物侵入を防ぎ、軸受の早期破損を防止するようにしている。
このようなオイルシールとして、ゴム材で形成されたシールリップを有するシール部材と、シール部材に対して周方向に相対回転する相手部材とを備えるものが利用されている。相手部材は、例えば軌道輪、スリンガ等であり、シールリップを摺接させるシール摺動面を有する。シール部材と相手部材との間に偏心がある場合でもシールリップがシール摺動面に十分に追従できるようにするため、シールリップと、相手部材のシール摺動面との間に締め代を設定することが一般的である。シール部材と相手部材を所定に配置すると、その締め代により、シールリップが、相手部材のシール摺動面を緊迫する。このため、シール部材と相手部材との間の相対回転時、シール摺動面に摺接するシールリップの引き摺り抵抗(シールトルク)が生じる。また、その摺接の摩擦は、温度上昇の原因になる。この温度上昇が進むと、内部空間と外部との間の圧力差による吸着作用を招き、その摩擦が大きくなる。
これに対し、シールリップと相手部材のシール摺動面間を流体潤滑状態にすることが提案されている(特許文献1)。特許文献1で開示されたシール部材は、周方向に所定間隔で並ぶ多数の突起が形成されたシールリップを有する。突起は、相手部材のシール摺動面との間にくさび状の隙間を形成する。相手部材がシール部材に対して相対的に所定速度以上で回転しているとき、そのくさび状の隙間に潤滑油が引き摺り込まれ、くさび効果によって油膜形成が促進され、各突起が、相手部材のシール摺動面と流体潤滑状態で摺接する。このため、シールリップとシール摺動面とが完全に分離される。
ここで、流体潤滑状態は、流体力学的な原理によって潤滑油の流体膜を二面間に形成し、摩擦面の直接接触が生じていない状態のことをいう。二面間の最小油膜厚さが二乗平均粗さと比較して大きい、一般に三倍以上である場合に流体潤滑状態であるとみなすことができる。シールリップと相手部材のシール摺動面との間が流体潤滑状態になると、摺動抵抗がほぼゼロになるため、シールトルクを極めて軽減することが可能であり、従来のオイルシールでは不可能だった高周速での使用が可能となる。また、突起の高さ設定により、所定以上の粒径の異物が突起間の隙間を通過できないようにして、装置の内部空間への侵入を防ぐことも可能である。
シールリップの突起と相手部材のシール摺動面間でくさび効果によって形成される油膜の厚さは、油温に依存する。高温では潤滑油の粘度が低くなるため、油膜が薄くなる。低温では潤滑油の粘度が上昇するため、油膜が厚くなる。油膜が薄くなり過ぎると、流体潤滑が実現されず、突起とシール摺動面が直接に接触してシールトルクが大きくなる懸念が生じる。逆に油膜が厚くなり過ぎると、シールリップのうちの周方向に隣り合う突起間に亘る表面部とシール摺動面との間の隙間が拡大し過ぎるため、異物の侵入を防止できない懸念が生じる。
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、シール部材のシールリップに形成された複数の突起でシールリップと相手部材との間を流体潤滑状態にすることが可能なオイルシールにおいて、所定範囲内の油温で、流体潤滑による低トルク性と、要求されるシール性とを実現することにある。
上記の課題を達成するため、この発明は、ゴム材で形成されたシールリップを有するシール部材と、前記シール部材に対して周方向に相対回転する相手部材とを備え、前記相手部材に形成されたシール摺動面と、前記シールリップとの間に締め代が設定されており、 前記シールリップは、前記シール摺動面と流体潤滑状態で摺接する複数の突起を周方向に所定間隔で有し、前記シール摺動面と油膜を挟む前記突起上の摺接領域の位置が油温変化に基づく前記シールリップの弾性変形に応じて変化するようになっているオイルシールにおいて、前記突起は、油温上昇に基づいて前記摺接領域の位置が変わる一方側に向かって周方向長さが長くなる形状になっており、当該突起の周方向長さは、所定範囲内の油温で前記油膜の厚さを一定範囲内に維持できるように変化しており、当該一定範囲の最小値は、前記流体潤滑状態を保てるように設定されており、当該一定範囲の最大値は、前記シールリップのうちの周方向に隣り合う前記突起間に亘る表面部と前記シール摺動面との間の隙間を一定以下に保てるように設定されている構成を採用した。
シール部材のシールリップと相手部材のシール摺動面とが流体潤滑状態で摺接するとき、シールリップの各突起は、シール摺動面と油膜を挟む摺接領域を有する。その突起上の摺接領域と相手部材のシール摺動面間でのくさび効果により、油膜の形成が促進されて、突起とシール摺動面とが完全に分離されている。一般に、二面間の流体潤滑では、面圧と油膜の厚さとの間に対応性がある。すなわち、面圧が低い程に油膜が厚くなり、面圧が高い程に油膜が薄くなる。また、突起上における摺接領域の位置と、油温との間にも対応性がある。すなわち、油温が上昇すると、その潤滑油と広範囲で接するシールリップの温度も上昇するので、ゴム材製のシールリップが熱膨張する。この熱膨張に対して油膜側が抵抗するため、シールリップは、より撓むように弾性変形する。上昇した油温が低下すると、シールリップは、油温上昇前の形状に戻る。このようなシールリップの弾性変形に伴い、シール摺動面に対する突起の姿勢が変化する。この変化時も流体潤滑を実現可能とするため、突起は、油温変化に基づくシールリップの弾性変形に応じて摺接領域の位置が変化するように形成されている。つまり、油温が上昇すると、その摺接領域の位置は、シールリップの弾性変形に対応の一方側へ変わり、上昇した温度が低下すると、当該一方側と反対の他方側へ変わる。上述の面圧と油膜厚さ間の対応性、摺接領域の位置と油温間の対応性を考慮すると、油温上昇に基づいて摺接領域の位置が変わる一方側に向かって突起の周方向長さが長くなる突起形状を採用しておけば、油温上昇に伴い、突起上の摺接領域の位置がより突起の周方向長さの長いところに移り、当該摺接領域での面圧が低くなるため、油膜が厚く形成され易くなり、また、油温低下に伴い、突起上の摺接領域の位置がより突起の周方向長さの短いところに移り、当該摺接領域での面圧が高くなるため、油膜が薄く形成され易くなる。この突起の周方向長さ変化に基づく油膜厚さの変動抑制作用を利用すると、所定範囲内の油温で、突起上の摺接領域とシール摺動面間における油膜の厚さを一定範囲内に維持することが可能である。ここで、流体潤滑状態を保てるように当該一定範囲の最小値を設定しておけば、所定範囲内の油温で、流体潤滑による低トルク性を実現することができる。また、周方向に隣り合う突起間に亘る表面部とシール摺動面との間の隙間を一定以下に保てるように当該一定範囲の最大値を設定しておけば、所定範囲内の油温で、要求されるシール性を実現することができる。
理想的には、油温変化が生じても油膜厚さを一定値に維持できることが好ましいが、この実現には、油温変化時、潤滑油の粘度変化による油膜厚化作用又は油膜薄化作用に対して、突起の周方向長さ変化による油膜厚さの変動抑制作用が常に均衡することが求められる。実用上は油膜厚さの変動をある程度許容できるので、面圧、潤滑油の粘度、隙間に影響するパラメータ、例えば、突起の高さ、許容する油温の範囲、使用する潤滑油の種類、シール摺動面の表面粗さ性状、シールリップの締め代に基づく緊迫力等を考慮し、油膜厚さが上述の一定範囲に収まるように適宜の突起形状を決定すればよい。
例えば、前記突起の高さは、前記一定範囲内の油膜の厚さを維持可能な全範囲で同一であることが挙げられる。シールリップのうちの周方向に隣り合う突起間に亘る表面部と相手部材のシール摺動面との間における隙間の大きさは、油膜厚さを考慮しなければ、摺接領域での突起の高さで決まる。一定範囲の油膜厚さを維持可能な全範囲で突起の高さを同一にすると、その隙間を一定以下に保つことが容易になる。
突起の周方向長さを変化させて油膜厚さの変動抑制を図っても過大な油膜厚さになるような場合、突起間に亘る表面部とシール摺動面間における隙間が過大になって、要求されるシール性を実現できない。例えば、寒冷地で使用するトランスミッションでは、運転開始時に潤滑油の粘度が特に上昇するので、突起の周方向長さ変化だけで対応できない可能性がある。
このような場合に好適な例として、前記突起は、前記一方側と反対の他方側に向かって低くかつ周方向に短くなる高さ変化部を有し、当該高さ変化部は、油温変化に基づいて前記摺接領域となる範囲の最も他方側に配置されていることが挙げられる。油温変化時、突起上の摺接領域の位置は、一方側と反対側の他方側に変わる。突起のうち、摺接領域となる範囲の中で最も他方側に位置するところは、最も低温時に摺接領域となる。つまり、高さ変化部は、許容する油温範囲の中でも最低温領域において摺接領域となる。その高さ変化部が油温低下時に摺接領域を変える他方側に向かって低くかつ周方向に短くなる形状であれば、周方向長さの短化(面圧上昇)によって前述の隙間の拡大を抑えると共に、その高さ低下によって前述の隙間を狭めることができ、これにより、過大な隙間にならないようにすることができる。
突起上の摺接領域が周方向に沿った断面で有する形状は、くさび効果で流体潤滑を実現可能な任意の形状にすればよい。
例えば、前記突起上の前記摺接領域は、周方向に沿った断面で円弧状であり、当該円弧状の曲率半径は、前記一方側に向かって大きく設定されていることが挙げられる。
また、別例として、前記突起上の前記摺接領域は、周方向に沿った断面で矩形状であり、当該矩形状の底辺の周方向長さは、前記一方側に向かって長く設定されていることが挙げられる。
さらに別例として、前記突起上の前記摺接領域は、周方向に沿った断面で傾斜辺を有する形状であり、当該傾斜辺の周方向長さは、前記一方側に向かって長く設定されていることが挙げられる。
前記突起の周方向長さは、突起上において一方側に向かって次第に(連続的に)変化してもよいし、階段状(段階的)に変化してもよい。
好ましくは、前記突起は、前記一方側に向かって次第に周方向に長くなる形状であるとよい。このようにすると、突起の周方向長さ変化による面圧変化が連続的になるので、油温変化に応じて油膜の厚さを一定範囲に維持し易くなる。
オイルシールの適用先として代表的な軸受の場合、要求されるシール性は、一般に、軸受寿命に悪影響を及ぼさないことを目的とする。
軸受への適用を考慮すると、例えば、前記突起の高さが0.01mm以上、0.10mm未満であるとよい。このようにすると、シールリップの成形が困難にならず、突起とシール摺動面間のくさび効果でシールリップとシール摺動面間の流体潤滑を実現することができ、軸受寿命に悪影響を及ぼすような異物が軸受内部空間に侵入するのを効果的に防止することができる。
この発明に係るオイルシールを備え、前記シール部材が、軸受内部空間と外部との間を区切るものとなっているシール付軸受は、軸受の内部空間への異物侵入をシール部材で防止しつつ、シールトルクの著しい低減によって軸受回転トルクの低減されたものとなる。このため、このシール付軸受は、自動車のトランスミッションの回転軸を支持する用途に好適である。
この発明は、上記構成の採用により、シール部材のシールリップに形成された複数の突起でシールリップと相手部材との間を流体潤滑状態にすることが可能なオイルシールにおいて、所定範囲内の油温で、流体潤滑による低トルク性と、要求されるシール性とを実現することができる。
以下、この発明に係る第一実施形態を添付図面に基づいて説明する。第一実施形態は、オイルシールを備えるシール付軸受の一例である。このオイルシールは、図2に示すように、シール部材1と、シール部材1に対して周方向に相対的に回転する相手部材2とを備える。
このシール付軸受は、内輪からなる相手部材2と、相手部材2との間に環状の軸受内部空間3を形成する外輪4と、相手部材2の軌道と外輪4の軌道間に介在する所定数の転動体5とを備える。
シール部材1は、軸受内部空間3と外部(軸受周辺)との間を区切るものとなっている。
相手部材2は、回転軸(図示省略)に取り付けられ、回転軸と一体に回転する。回転軸は、例えば、車両のトランスミッション、ディファレンシャル、等速ジョイント、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機、又はホイール軸受の回転部として設けられる。外輪4は、ハウジング、ギヤ等、回転軸からの荷重を負荷させる部材(図示省略)に取り付けられる。このシール付軸受は、回転軸を回転可能に支持する。
このシール付軸受には、はねかけ、オイルバス等の適宜の手段により、外部から潤滑油が供給される。シール部材1を境界とした外部側には、ギヤの摩耗粉、クラッチの摩耗粉、微小砕石等、軸受の組み込み先に応じた異物が存在する。このような粉状の異物は、潤滑油や雰囲気の流れによって、このシール付軸受付近に到達し得る。シール部材1は、外部から軸受内部空間3への異物侵入を防止する。
以下、シール部材1の中心軸(図示省略)に沿った方向を「軸方向」という。軸方向は、図2中左右方向に相当する。また、軸方向に対して直角な方向を「半径方向」という。半径方向は、図2中上下方向に相当する。また、その中心軸回りの円周方向を「周方向」という。相手部材2の中心軸は、設計上、シール部材1の中心軸と同軸に設定されている。
外輪4の内周の端部にシール溝6が形成されている。相手部材2の外周には、周方向に沿うシール摺動面7が形成されている。シール部材1の外周縁がシール溝6に圧入されることにより、シール部材1が外輪4に取り付けられる。このシール付軸受の運転時、相手部材2がシール部材1に対して相対的に回転し、シール部材1と相手部材2との間は、潤滑油によって潤滑される。
シール摺動面7は、円筒面状になっている。シール摺動面7の最大高さ粗さRzは、2.5μm以下(好ましくは、1μm未満)になっている。ここで、最大高さ粗さRzは、JIS規格のB0601:2013で規定された最大高さ粗さのことをいう。
シール部材1は、金属板によって形成された環状の芯金8と、芯金8に付着しているゴム材9とを有する。シール部材1の全体は、芯金8とゴム材9とで構成されている。芯金8は、周方向全周に連続する円環板状になっている。芯金8の材料は、ゴム材9の剛性よりも高剛性の金属からなる。例えば、プレス加工に好適な芯金8の材料として、鋼板が挙げられる。ゴム材9は、芯金8に加硫接着されている。ゴム材9の種類は特に問わないが、例えば、ニトリルゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
シール部材1は、ゴム材9により形成されたシールリップ10を有する。シールリップ10は、芯金8の縁部8aからシール摺動面7側に延びるゴム材9の一部分からなる。なお、芯金8の縁部は、芯金8の内径又は外径のうち、シール摺動面7に近い方の径寸を規定する芯金8の内周縁又は外周縁である。
シールリップ10は、ラジアルリップになっている。ここで、ラジアルリップとは、シール摺動面7のような軸方向に沿ったシール摺動面又は軸方向に対して45°以内の鋭角の勾配をもったシール摺動面と密封作用を奏するシールリップであって、当該シール摺動面との間に半径方向の締め代をもったもののことをいう。
図2中には、シール部材1が外輪4に取り付けられて相手部材2と同軸に配置された状態のときの断面を実線で示し、シール部材1を外輪4に取り付ける前の状態(シール部材1が外力によって製造時の形状から変形していない自然状態に相当)で同断面を視たときのシールリップ10付近の外形を二点鎖線で描いた。同図に示すように、自然状態のシール部材1を外輪4に取り付けると、シールリップ10は、シール摺動面7に対する締め代δにより、シール摺動面7に押し付けられる。このため、シールリップ10は、撓むように弾性変形し、シール摺動面7を半径方向に緊迫する力(緊迫力)を生じる。シール部材1の取り付け誤差、製造誤差、相手部材2と外輪4間の偏心等は、シールリップ10の弾性変形によって吸収される。
シールリップ10としてラジアルリップを例示したが、アキシアルリップに変更してもよい。アキシアルリップとは、半径方向に沿ったシール摺動面又は半径方向に対して45°未満の鋭角の勾配をもったシール摺動面と密封作用を奏するシールリップであって、当該シール摺動面との間に軸方向の締め代をもったもののことをいう。
シールリップ10とシール摺動面7間が流体潤滑状態のときのシールリップ10付近を図2と同様の断面で図3に示す。また、シールリップ10が自然状態のときを軸受内部空間3側から軸方向に視たときの様子を図1に示す。これらに図示するように、シールリップ10は、周方向に所定間隔で並ぶ複数の突起11と、周方向全周に連続する中実部12とを有する。
中実部12は、周方向全周に同一断面構造をもって連続している。中実部12は、周方向に隣り合う突起11間に亘る表面部13を含む。シール部材1の中心軸を一辺とした任意の仮想アキシアル平面でシールリップ10を切断した断面を考えたとき、シールリップ10のうち、周方向に隣り合う突起11間にあって(すなわち、突起11の断面を含まない周方向領域にあって)、シール摺動面7と対面する部分が、表面部13に相当する。
突起11は、図3に示すように、中実部12からシール摺動面7側へ高さHをもっている。突起11は、図1に示すように、周方向に一定の間隔で並んでおり、周方向に均等な配置でシールリップ10に分布している。すなわち、シール部材1の中心軸回りで考えたとき、複数の突起11は、一定のピッチ角度で配置されている。その間隔は、例えば、0.2mm以上、3.0mm以下(好ましくは0.2mm以上、1.5mm以下)に設定することができる。
突起11は、自然状態のときにシールリップ10のリップ先端14から半径方向に一定の長さを有する形状に形成されている。なお、リップ先端14は、自然状態のときにシールリップ10の径寸(シールリップ10の内径又は外径)を規定するシールリップ10の周縁部である。同図例のリップ先端14はシールリップ10の内径上にあるが、シールリップを外輪のシール摺動面に摺接させる場合、リップ先端は自然状態のシールリップの外径上にある。
図2に示すようにシール部材1を外輪4に取り付けると、シールリップ10は図1に示す突起11からシール摺動面7に接触して図2に示すように弾性変形し、図3に示すよう、突起11は、シール摺動面7と半径方向に向き合うように配置される。この配置状態において、シールリップ10は腰部15から撓んでおり、突起11は、その一部分でシール摺動面7に接触している。なお、腰部15は、シールリップ10の芯金8の縁部近傍に位置する部分であり、シール部材1の取り付け時に撓み反力を蓄積する。
突起11は、図4に示すように、シール摺動面7との間にくさび状の隙間を形成する。ここで、くさび状の隙間とは、周方向に当該突起11側に向かって次第に半径方向に狭くなる隙間のことをいう。
突起11の表面は、周方向に沿った断面で円弧状である。ここで、周方向に沿った断面とは、シール摺動面7に直交しかつ周方向に沿って延びる仮想面で突起11を切断したときの突起11の断面のことをいう。
この断面形状において、前述の円弧状の曲率半径Rは、例えば、0.4mm以上、9.0mm未満(好ましくは0.4mm以上、6.0mm以下、より好ましくは、0.4mm以上、3.0mm以下)に設定することができる。
突起11の高さHは、突起11の曲率半径Rよりも小さく、例えば、0.01mm以上、0.10mm未満(好ましくは0.01mm以上、0.08mm以下、より好ましくは0.01mm以上、0.05mm以下)に設定することができる。
図4に示すように、シールリップ10の表面部13とシール摺動面7との間に隙間16が形成される。隙間16は、軸受内部空間3と外部との間に亘って連通する(図2参照)。図4に示す隙間16は、シール摺動面7に対して直角な方向の大きさに関して、突起11の高さHよりも大きくならないが、当該高さHに対して所定の割合以上に確保される。すなわち、シール部材1は、複数の突起11のみで相手部材2と直接に接触することができ、かつ各表面部13においてシール摺動面7と直接に接触することができない。
このシール付軸受の運転時、図2に示す相手部材2がシール部材1に対して相対的に回転する。その運転中に外部から供給される潤滑油(図4中に潤滑油をドット模様で示す。)は、図3、図4に示すように隙間16に入り込み、図4中に矢線Aで示す相対回転方向に引き摺られ、シールリップ10と相手部材2との間を潤滑する。
ここで、シールリップ10の各突起11が、周方向に沿った断面で0.4mm以上、9.0mm未満の曲率半径Rをもつ円弧状なので、相手部材2のシール摺動面7が各突起11に対して周方向に移動したときに、隙間16内の潤滑油は、その各突起11の表面に沿って、各突起11とシール摺動面7との間に効果的に引き摺り込まれる。このとき、くさび効果により油膜の形成が促進され、その相対回転速度が所定以上の場合、各突起11と相手部材2との間の潤滑状態が流体潤滑状態となり、シールトルクが飛躍的に低減する。勿論、このシール付軸受の停止時から相対回転時において、各表面部13とシール摺動面7が直接に接触することはない。また、シールトルクが小さいため、シールリップ10と相手部材2との間の摩擦熱が発生しにくい。さらに、外部から供給される潤滑油が隙間16を通ってシールリップ10とシール摺動面7との間を通過することにより、シールリップ10とシール摺動面7との間の摩擦熱が放熱される。そのため、このシール付軸受の温度上昇を極めて効果的に抑えることが可能である。
上述のように、シールリップ10とシール摺動面7とが流体潤滑状態で摺接するとき、シールリップ10の各突起11は、シール摺動面7と油膜を挟む摺接領域を有する。ここで、突起11の摺接領域は、シールリップ10の緊迫力の作用でシール摺動面7と挟む油膜をシール摺動面7側へ押し、かつ、くさび効果に基づく当該油膜内の圧力を受ける突起11の表面部分のことをいう。突起11は、摺接領域で受ける圧力により、シール摺動面7から完全に浮上させられる。このとき、突起11とシール摺動面7間における距離は、当該摺接領域の一箇所とシール摺動面7間で最短となる。また、突起11とシール摺動面7間における油膜厚さtは、その最短距離のところで最小となる。
図5は、突起の曲率半径が大中小の三水準の場合に、油温と最小油膜厚さとの関係を調べた数値解析結果を示すグラフである。これら三水準は、突起の曲率半径Rで0.2mm〜1.5mmの範囲内から選択し、突起の高さを同じにしている。潤滑油としてCVTFを想定している。シールリップ10に対するシール摺動面7の相対回転の周速度として2.51m/sを想定している。図5からは、油温が低い程に、突起の摺接領域とシール摺動面間における最小油膜厚さが厚くなることが分かる。これは、潤滑油の粘度が上昇するためと考えられる。また、突起の曲率半径が大きい程に、油膜が厚くなることが分かる。これは、突起の曲率半径を大きくすると、突起がシール摺動面と摺接し弾性変形したときの摺接領域の周方向長さが長くなり、突起の摺接領域に作用する面圧(基本的に、前述のシールリップの緊迫力と、くさび効果の動圧作用とによる圧力)が低下するためと考えられる。すなわち、油温に応じて突起の摺接領域での周方向長さを変化させること、具体的には、低温では突起の摺接領域での曲率半径を小さくし、高温では突起の曲率半径を大きくすることにより、全ての油温で、ある油膜厚さを維持することが可能であると考えられる。
このような面圧と油温間の対応性が認められる流体潤滑状態において、シールリップ10及びシール摺動面7がある油温で熱平衡状態にあるとき、突起11は、図3に示す摺接領域17においてシール摺動面7と油膜を挟む。図3の状態から油温が高まると、その潤滑油と広範囲で接するシールリップ10の温度も高くなるので、ゴム材製のシールリップ10が熱膨張する。この熱膨張に対して油膜側が抵抗するため、シールリップ10は、より撓むように弾性変形する。この弾性変形に伴い、シール摺動面7に対する突起11の姿勢が変わるため、突起11の摺接領域の位置は、摺接領域17から次第に一方側(図中右側、腰部15側)へ変わる。
図3の状態に比して数十℃高い油温でシールリップ10及びシール摺動面7が熱平衡状態のときの様子を図6に示す。このとき、突起11は、この摺接領域18においてシール摺動面7と油膜を挟む。図6の状態から油温が低下すると、シールリップ10は、図3に示す形状へ次第に戻るように弾性変形する。この弾性変形に伴い、シール摺動面7に対する突起11の姿勢が戻るため、突起11の摺接領域の位置は、摺接領域18から次第に他方側(すなわち前記一方側と反対側である図中左側、リップ先端14側)へ変わる。図3に示す熱平衡状態に戻ったとき、突起11は、再び摺接領域17においてシール摺動面7と油膜を挟む。図6の状態から油温がさらに上昇する場合、突起11の摺接領域の位置は、図6の摺接領域18に比してより一方側(図中右側)に変わり、図3の状態から油温がさらに低下する場合、突起11の摺接領域の位置は、図3の摺接位置17に比してより他方側(図中左側)に変わるだけのことである。このように、突起11は、摺接領域の位置が油温変化に基づくシールリップ10の弾性変形に応じて変わるように形成されている。
所定範囲内の油温のとき、突起11は、図3中に矢線で示す特定範囲B内に摺接領域を有する。突起11の高さHは、特定範囲B内で一定になっている。突起11は、特定範囲Bよりも高い部分をもたない。シール摺動面7に対して直角な方向(図示例では半径方向であり、図中上下方向)に関し、図4に示す隙間16の大きさ(最大値)は、油膜厚さtを考慮しなければ、特定範囲Bでの突起11の高さHで決まる。つまり、隙間16の大きさは、流体潤滑状態のとき、突起11の高さHと、突起11の摺接領域での油膜厚さt(最小油膜厚さ)との合計から突起の高さ方向弾性変形量を引いたもので決まると考えられる。
突起11の摺接領域での油膜厚さtは、前述の数値解析結果で示されるように、突起11の摺接領域での面圧が低い程に厚くなり、摺接領域での面圧が高い程に薄くなる。突起11の摺接領域での面圧は、当該摺接領域の面積に応じて決まり、その面積は、当該摺接領域での突起11の周方向長さに応じて決まる。突起11上で摺接領域となり得る特定範囲Bが周方向に沿った断面で円弧状であるから、その円弧状の曲率半径の大小及び曲率中心の位置設定に基づいて、ある位置の摺接領域における突起11の周方向長さと高さを決めることができる。
そこで、突起11は、図1に示すように、半径方向に一方側(リップ先端14と反対側)に向かって次第に周方向に長くなる形状に形成されている。
例えば、図4は図3の摺接領域17における円弧状を示すが、これに対して、図6の摺接領域18における円弧状を図7に示す。図4に示す曲率半径Rに比して、図7に示す曲率半径Rを大きくし、図4に示す曲率中心Oの位置に比して、図7に示す曲率中心Oを中実部12側へ位置を変えることにより、図4に示す断面での突起11の高さHと、図7に示す断面での突起11の高さHとを同一にしながら、図4に示す断面での突起11の周方向長さLrに比して、図7に示す断面での突起11の周方向長さLrを大きくすることができる。このように、突起11の摺接領域は、周方向に沿った断面で円弧状であって、当該円弧状の曲率半径Rは、図1に示す一方側(リップ先端14と反対側)に向かって大きく設定されている。
図1に示す突起11の周方向長さの変化は、所定範囲内の油温で、すなわち図3に示す特定範囲B内のいずれかの位置の摺接領域でシール摺動面7と油膜を挟む場合に、その油膜厚さt(図4、図7参照)を一定範囲内に維持できるように設定されている。この突起11の周方向長さ変化は、理論上、油膜厚さtを一定値に維持できるように設定するとよい。実際には、油温の変化に遅れてシールリップ10の熱膨張が起こることや、軸受内部空間と外部間の圧力変動がシールリップ10の弾性変形に影響することがあり、油膜厚さtを厳密に一定値に維持することは困難であるが、油膜厚さtを一定範囲内に維持することは可能である。
その油膜厚さtとして許容する一定範囲の最小値は、突起11とシール摺動面7間の流体潤滑状態を保てる値に設定されている。この最小値は、例えば、シール摺動面7と突起11の摺接領域の合成の二乗平均粗さと比較して大きい値、好ましくは三倍以上の値に設定することができる。ここで、二乗平均粗さは、JIS規格のB0601:2013で規定された二乗平均平方根粗さRqのことをいう。
その油膜厚さtとして許容する一定範囲の最大値は、隙間16を一定以下に保てる値に設定されている。この最大値は、隙間16の通過を阻止したい所望の粒径に応じて決定すればよい。例えば、突起11の摺接位置での高さHと、当該一定範囲の最大値での油膜厚さtの合計から突起の高さ方向弾性変形量を引いた値が所望の粒径未満となるように当該最大値を設定することができる。
このオイルシール及びシール付軸受は、上述のようなものであり、図2に示すシール部材1のシールリップ10と相手部材2とが流体潤滑状態で摺接するとき、図3、図6に例示するように、突起11は、特定範囲B内のいずれかにおいて、シール摺動面7と油膜を挟む摺接領域を有する。所定範囲内で油温が上昇すると、潤滑油の粘度低下による油膜薄化作用が生じるが、突起11の摺接領域の位置が特定範囲B内の一方側(図中右側、腰部15側)へ変わり、突起11の当該摺接領域での周方向長さが長くなり、当該摺接領域での面圧が低下し、油膜が厚く形成され易くなることにより、油膜厚さt(図4、図7参照)が一定範囲内(好ましくは一定値)に維持される。一方、所定範囲内で温度が低下すると、潤滑油の粘度上昇による油膜厚化作用が生じるが、突起11の摺接領域の位置が図3に示す特定範囲B内の他方側(図中左側、リップ先端14側)へ変わり、突起11の当該摺接領域での周方向長さが短くなり、当該摺接領域での面圧が上昇し、油膜が薄く形成され易くなることにより、油膜厚さt(図4、図7参照)が一定範囲内(好ましくは一定値)に維持される。油膜厚さtが一定範囲内にある限り、突起11とシール摺動面7間の流体潤滑状態が保たれると共に、隙間16の大きさが一定以下に保たれる。したがって、このオイルシール及びシール付軸受は、所定範囲内の油温で、流体潤滑による低トルク性と、要求されるシール性とを実現することができる。
また、このオイルシール及びシール付軸受は、突起11の高さHが一定範囲内の油膜厚さtを維持可能な全範囲(特定範囲B)で同一になっているので、一定範囲における油膜厚さtの最大値と、所望のシール性(異物粒径)とに基づいて隙間16の大きさを決めることができ、隙間16を一定以下に保つことが容易になる。
また、このオイルシール及びシール付軸受は、図1に示すように、突起11が一方側(リップ先端14と反対側)に向かって次第に周方向に長くなる形状であるので、突起11の周方向長さ変化による面圧変化が連続的になり、油温変化に応じて油膜厚さt(図4、図7参照)を一定範囲に維持し易くなる。
また、このオイルシール及びシール付軸受は、突起11の高さH(図4、図7参照)が0.01mm以上とされているので、一般的な軸受の使用条件において、効果的にくさび効果を発生させることが可能であり、また、金型で図1に示すシールリップ10を製造するときに確実に突起11を形成することも可能であり、また、突起11の高さH(図4、図7参照)が0.10mm未満(好ましくは0.08mm以下、より好ましくは0.05mm以下)とされているので、軸受寿命に悪影響を及ぼすような異物が軸受内部空間3(図2参照)に侵入するのを効果的に防止することも可能である。
また、軸受内部空間3の潤滑油に含まれる異物の粒径が50μm以下であれば、転がり軸受の寿命比(実際寿命の計算寿命に対する比)が、自動車のトランスミッションでの実用に十分耐えうる値(例えば7〜10倍程度)を示す。このオイルシール及びシール付軸受は、突起11の高さH(図4、図7参照)を0.01mm以上、0.10mm未満(好ましくは0.01mm以上、0.08mm以下、より好ましくは0.01mm以上、0.05mm以下)とされているので、特に、自動車のトランスミッションでの実用において、軸受のシール性能を確保するのに好適である。
この発明に係る第二実施形態を図8に基づいて説明する。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留め、第一実施形態と対応の構成要素を同じ名称で使用する。
図8に示すように、突起20のうちの最も他方側(図中左側、リップ先端21側)に位置する突起端22は、リップ先端21の近傍にあって、突起20の中で最も低く、実質的な高さをもたない。突起20は、他方側(図中左側)に向かって次第に低くなる高さ変化部23を有する。高さ変化部23は、突起20のうち、油温変化に基づいて摺接領域となる範囲の中で、最も他方側に配置されている。すなわち、高さ変化部23は、許容する油温の範囲の中でも最低温度を含む連続領域(最低温領域)において摺接領域となる。高さ変化部23と突起端22との間は、高さ変化部23から他方側(図中左側)に向かって連続的に低くなっているが、この間が摺接領域になることはない。
また、高さ変化部23は、他方側(図中左側)に向かって次第に周方向に短くなる形状である。高さ変化部23における周方向長さ変化は、第一実施形態と同様に曲率半径と曲率中心の設定の仕方が異なるだけなので、図示説明を省略する。
第二実施形態は、その最低温領域で摺接領域となる高さ変化部23が他方側(図中左側)に向かって低くかつ周方向に短くなる形状であるので、その最低温領域において、突起20の周方向長さの短化によって前述の隙間の拡大を抑えると共に、高さ低下によって前述の隙間を狭めることができ、これにより、過大な隙間にならないようにすることができる。
なお、図8では、突起20の一部を高さ変化部23とした例を示したが、突起20の中で摺接領域として許容する全範囲を他方側に向かって低くかつ周方向に短くなる形状に変更することも可能である。
上述の第一実施形態や第二実施形態では、突起上の摺接領域を周方向に沿った断面で円弧状にしたが、くさび効果によって流体潤滑を実現可能な他の突起形状に変更することも可能である。
その一例としての第三実施形態を図9、図10に基づいて説明する。図9は、突起30付近の自然状態を図1と同様に示すものであり、図中上側が一方側(リップ先端31と反対側)に相当する。図10は、突起30上の摺接領域の周方向に沿った断面を示すものである。なお、油膜の図示を省略した。
図10に示すように、突起30上の摺接領域は、周方向に沿った断面で矩形状である。当該矩形状における底辺32の周方向長さLrbは、図9に示すように、一方側(図中上側)に向かって次第に長く設定されている。これにより、突起30の周方向長さ変化が実現されている。
第四実施形態を図11、図12に基づいて説明する。第四実施形態は、さらに別の突起形状への変更例を示すものである。図11は、突起40付近の自然状態を図1と同様に示すものであり、図中上側が一方側(リップ先端41と反対側)に相当する。図12は、突起40上の摺接領域の周方向に沿った断面を示すものである。なお、油膜の図示を省略した。
図12に示すように、突起40上の摺接領域は、周方向に沿った断面で傾斜辺42を有する形状である。傾斜辺42は、相対回転方向Aに向かって次第にシール摺動面7に接近する勾配をもつ。傾斜辺42から周方向に延びる底辺43の周方向長さ及び高さは、図11の突起40上のどの位置においても一定である。当該断面形状における傾斜辺42の周方向長さLrtは、図11に示すように、一方側(図中上側)に向かって次第に長く設定されている。これにより、突起40の周方向長さ変化が実現されている。
突起の周方向長さ変化は、特に面圧に影響するくさび効果に寄与する表面領域、すなわちシール摺動面との間にくさび状隙間を形成する表面領域での周方向長さを変化させれば、効果的に面圧を増減させることができる。前述の第一〜三実施形態に例示したように周方向に対称形の突起であれば、前述の相対回転によって潤滑油が引き摺られる方向を問わずに、同等に前述の低トルク性とシール性を実現することができる点で、第四実施形態に例示したような周方向に非対称形の突起よりも有利である。その代わり、周方向に対称形の突起の場合、くさび状隙間を形成する突起上の表面領域が突起の周方向長さの半分程度に限られるのに対し、同じ突起の周方向長さを有する第四実施形態の突起形状の場合(図12参照)、突起40の周方向長さの大部分を傾斜辺42にしてくさび状隙間を比較的周方向に長く形成することが可能なため、面圧を比較的大きく増減させることができる点で有利である。
上述の実施形態のいずれかに該当するシール付軸受が自動車のトランスミッションの回転軸を支持する一例を図13に示す。図示のトランスミッションは、段階的に変速比を変化させる多段変速機になっており、その回転軸(例えば入力軸S1および出力軸S2)を回転可能に支持するシール付軸受100として、上述の実施形態のいずれかに該当するものを備えている。図示のトランスミッションは、エンジンの回転が入力される入力軸S1と、入力軸S1と平行に設けられた出力軸S2と、入力軸S1から出力軸S2に回転を伝達する複数のギヤ列G1〜G4と、各ギヤ列G1〜G4と入力軸S1または出力軸S2との間に組み込まれた図示しないクラッチとを有し、そのクラッチを選択的に係合させることで使用するギヤ列G1〜G4を切り替え、これにより、入力軸S1から出力軸S2に伝達する回転の変速比を変化させるものである。出力軸S2の回転は出力ギヤG5に出力され、その出力ギヤG5の回転がディファレンシャルギヤ等に伝達される。入力軸S1と出力軸S2は、それぞれシール付軸受100で回転可能に支持されている。また、このトランスミッションは、ギヤの回転に伴う潤滑油(例えば、トランスミッションオイル)のはね掛けにより、又はハウジングHの内部に設けられたノズルからの潤滑油の噴射により、はね掛け又は噴射された潤滑油が各シール付軸受100の側面にかかるようになっている。
上述の実施形態では、内輪回転型の軸受を例に挙げて説明したが、この発明は、外輪回転型の軸受(シール部材が内輪に固定され、相手部材が外輪側となる軸受)に適用することも可能である。
また、上述の実施形態では、転動体として玉を使用する形式の軸受を例に挙げて説明したが、この発明は、円筒ころまたは円すいころを転動体として使用する形式の軸受に適用してもよい。
また、上述の実施形態では、軸受内部空間の両側にシール部材を設けた例で説明したが、シール部材は、軸受内部空間の片側にのみ設けるようにしてもよい。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 シール部材
2 相手部材
3 軸受内部空間
4 外輪
5 転動体
7 シール摺動面
8 芯金
9 ゴム材
10 シールリップ
11、20、30、40 突起
12 中実部
13 表面部
16 隙間
17、18 摺接領域
23 高さ変化部
32 底辺
42 傾斜辺
100 シール付軸受
S1 入力軸(回転軸)
S2 出力軸(回転軸)
2 相手部材
3 軸受内部空間
4 外輪
5 転動体
7 シール摺動面
8 芯金
9 ゴム材
10 シールリップ
11、20、30、40 突起
12 中実部
13 表面部
16 隙間
17、18 摺接領域
23 高さ変化部
32 底辺
42 傾斜辺
100 シール付軸受
S1 入力軸(回転軸)
S2 出力軸(回転軸)
Claims (10)
- ゴム材で形成されたシールリップを有するシール部材と、前記シール部材に対して周方向に相対回転する相手部材とを備え、
前記相手部材に形成されたシール摺動面と、前記シールリップとの間に締め代が設定されており、
前記シールリップは、前記シール摺動面と流体潤滑状態で摺接する複数の突起を周方向に所定間隔で有し、
前記シール摺動面と油膜を挟む前記突起の摺接領域の位置が油温変化に基づく前記シールリップの弾性変形に応じて変化するようになっているオイルシールにおいて、
前記突起は、油温上昇に基づいて前記摺接領域の位置を変える一方側に向かって周方向長さが長くなる形状になっており、当該突起の周方向長さは、所定範囲内の油温で前記油膜の厚さを一定範囲内に維持できるように変化しており、当該一定範囲の最小値は、前記流体潤滑状態を保てるように設定されており、当該一定範囲の最大値は、前記シールリップのうちの周方向に隣り合う前記突起間に亘る表面部と前記シール摺動面との間の隙間を一定以下に保てるように設定されていることを特徴とするオイルシール。 - 前記突起の高さは、前記一定範囲内の油膜の厚さを維持可能な全範囲で同一である請求項1に記載のオイルシール。
- 前記突起は、前記一方側と反対の他方側に向かって低くかつ周方向に短くなる高さ変化部を有し、当該高さ変化部は、油温変化に基づいて前記摺接領域となる範囲の最も他方側に配置されている請求項1に記載のオイルシール。
- 前記突起上の前記摺接領域は、周方向に沿った断面で円弧状であり、当該円弧状の曲率半径は、前記一方側に向かって大きく設定されている請求項1から3のいずれか1項に記載のオイルシール。
- 前記突起上の前記摺接領域は、周方向に沿った断面で矩形状であり、当該矩形状の底辺の周方向長さは、前記一方側に向かって長く設定されている請求項1から3のいずれか1項に記載のオイルシール。
- 前記突起上の前記摺接領域は、周方向に沿った断面で傾斜辺を有する形状であり、当該傾斜辺の周方向長さは、前記一方側に向かって長く設定されている請求項1から3のいずれか1項に記載のオイルシール。
- 前記突起は、前記一方側に向かって次第に周方向に長くなる形状である請求項1から5のいずれか1項に記載のオイルシール。
- 前記突起の高さが0.01mm以上、0.10mm未満である請求項1から7のいずれか1項に記載のオイルシール。
- 請求項1から8のいずれか1項に記載のオイルシールを備え、前記シール部材が、軸受内部空間と外部との間を区切るものとなっているシール付軸受。
- 自動車のトランスミッションの回転軸を支持する請求項9に記載のシール付軸受。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017067396A JP2018168974A (ja) | 2017-03-30 | 2017-03-30 | オイルシール及びシール付軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2017067396A JP2018168974A (ja) | 2017-03-30 | 2017-03-30 | オイルシール及びシール付軸受 |
Publications (1)
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ID=64020244
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JP2017067396A Pending JP2018168974A (ja) | 2017-03-30 | 2017-03-30 | オイルシール及びシール付軸受 |
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JP (1) | JP2018168974A (ja) |
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2017
- 2017-03-30 JP JP2017067396A patent/JP2018168974A/ja active Pending
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