以下、本発明を詳細に説明する。
(1)ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体
本発明におけるポリアリーレンスルフィドブロック共重合体とは、ポリアリーレンスルフィド単位と、ポリオルガノシロキサン単位を含むブロック共重合体である。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド単位とは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する構成単位である。Arとしては下記の式(C)〜式(M)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(C)が特に好ましい。
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(N)〜式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド単位は上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド単位、ポリフェニレンスルフィドスルホン単位、ポリフェニレンスルフィドケトン単位、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド単位としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド単位の繰り返し数としては、5以上の整数である。一方、その上限としては、200以下が挙げられ、120以下が好ましく、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体中のポリオルガノシロキサンの重量分率を増加させて、十分な改質を得る観点から80以下が特に好ましい。
本発明におけるポリオルガノシロキサン単位とは、一般式(Q)で表されるくり返し単位を主要構成単位とする
ここでR3、R4はC1〜C10のアルキル基、またはC6〜C10の芳香族基を示す。具体的には、R3としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を挙げることができる。nは1以上が挙げられ、5以上が好ましく、10以上が特に好ましい。一方、その上限としては、100以下が挙げられ、60以下が好ましく、ポリアリーレンスルフィド及び有機極性溶媒との相溶性の観点から40以下が特に好ましい。
また、本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体において、ポリアリーレンスルフィド単位と前記一般式(Q)で表されるポリオルガノシロキサン単位は、これらが各ブロックの繰り返し単位以外の構造を介して連結されていても、繰り返し単位に由来する末端構造同士が直接連結していても良い。また、同一の繰り返し単位が複数連結していても良い。
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体中におけるポリオルガノシロキサン単位の含有量が、ポリアリーレンスルフィド単位とポリオルガノシロキサン単位の合計を100重量%として、1重量%以上99重量%以下の範囲であるようなポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体中におけるポリオルガノシロキサン単位の含有量が1重量%未満の場合には十分な柔軟性、靭性、電気絶縁性を得られない問題があり、一方、99重量%を超える場合には耐熱性、耐薬品性などのポリフェニレンスルフィド単位に由来する特性が発現しにくくなる問題がある。本発明によれば、好ましくは、ポリオルガノシロキサン単位の含有量の上限が80重量%以下であり、より好ましくは、70重量%以下であり、特に好ましくは、60重量%以下で成形加工性の優れたポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。また、本発明によれば、ポリオルガノシロキサン単位の含有量の下限が1重量%以上であり、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは15重量%以上であり、特に好ましくは20重量%以上であり、殊更好ましくは30重量%以上で実用的な引張伸びを示すポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。なお、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体中におけるポリオルガノシロキサン単位の含有量は、元素分析から求められるSi原子のモル分率にオルガノシロキサン繰り返し単位の分子量を乗じて算出する。
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の融点の下限は245℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。一方、ポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の融点の上限としては、290℃以下であることが好ましい。ポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の融点が上記好ましい範囲であると、耐熱性、耐薬品性などのポリアリーレンスルフィド単位に由来する特性が発現しやすくなり、また、高柔軟性・高靭性付与の面で十分である。なお、ここでの融点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピーク温度の値と定義できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体のガラス転移温度は、柔軟性・靭性付与の面から80℃以下が好ましく、更に優れた柔軟性・靭性を得るためには、75℃以下なども好ましく、より優れた柔軟性・靭性を得るためには、65℃以下なども好ましく、60℃以下などが特に好ましく例示できる。ガラス転移温度の下限は特に制限しないが、ポリアリーレンスルフィドが本来有する性質を維持するためには、40℃以上であることが好ましい。なお、ここでのガラス転移温度は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出されるベースラインシフトの変曲点と定義できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体は、(X)ポリアリーレンスルフィドと、(Y)ポリオルガノシロキサンのブロック共重合化が、副反応を併発しないことが好ましく、効率よくマルチブロック的に反応が進行した場合、主鎖の運動性が向上することで、冷結晶化の速度が向上し、冷結晶化温度が120℃以下のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。また、より好ましくは冷結晶化温度が115℃以下で優れた柔軟性・靭性と成形加工性を有するポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。このように、冷結晶化温度が低下すると、成形加工面で様々な利点がある。例えば、結晶化速度が向上すると、成形サイクルが早くなるためコストダウンに繋がる。または金型温度をより低く出来るため、エネルギー面や安全面で利点となる。冷結晶化温度の下限は特に制限しないが、ポリアリーレンスルフィドが本来有する性質を維持するためには、70℃以上であることが好ましい。なお、ここでの冷結晶化温度は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出される発熱ピーク温度の値と定義できる。
本発明によれば、重量平均分子量が、25,000以上のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が好ましく、より好ましくは30,000以上であり、特に好ましくは、35,000以上で、殊更好ましくは、40,000以上でより実用的な柔軟性・靭性を有するポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。また、本発明によれば、その重量平均分子量の上限は100,000以下であるポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られ、好ましくは、90,000以下であり、特に好ましくは80,000以下であり成形加工性に優れるポリアリーレンスルフィドブロック共重合体が得られる。ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の重量平均分子量が25,000を下回ると、得られるポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の靭性が不十分となる傾向にあり、一方でポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の重量平均分子量が100,000を上回るとポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体は耐熱性に優れ、以下に定義する分子量保持率が、70%以上のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体を得ることができる。ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の分子量保持率は、80%以上が好ましく、長期耐熱性を飛躍的に改質する観点から、85%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が殊更好ましい。なお、ここでの分子量保持率は、厚み0.2mmのフィルムの180℃300時間熱処理前後の重量平均分子量を測定し、下記の式で求められ、百分率で定義できる。
分子量保持率(%)=(熱処理前の重量平均分子量)/(180℃×300h熱処理後の重量平均分子量)×100(%)
また、本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の分子量分布は単峰性であることが好ましい。ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の分子量分布が単峰性の場合、(X)ポリフェニレンスルフィドと(Y)ポリオルガノシロキサンのブロック共重合化が十分であることを意味し、十分な改質効果が得られる。また、ポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の分子量分布はブロック共重合が十分に進行している指標として、分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)6.0以下が好ましく、低分子成分による靭性低下を防ぐためには、分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)5.0以下がさらに好ましい。なお、ここでの重量平均分子量、及び分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
また、本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体は、FT−IR測定にて、イミド基の特性吸収帯である1716cm−1にピークを有することが好ましく、さらに、1716cm−1のピークの吸光度(b1)を、ベンゼン環のC−H結合の吸収である3066cm−1のピークの吸光度(c1)で除した比が、1.0以上であることがより好ましく、1.5以上であることが更に好ましく、耐熱性を得る観点から2.0以上であることが特に好ましく、2.5以上であることが殊更に好ましい。
(2)(X)ポリアリーレンスルフィド
本発明における(X)ポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する。Arとしては下記の式(C)〜式(M)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(C)が特に好ましい。
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(N)〜式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明における(X)ポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明における、(X)ポリアリーレンスルフィドは、その主鎖末端に酸無水物基を有していることが必要である。また、含有する酸無水物基の一部が開環し、隣接ジカルボキシル基に変性していたとしても、(Y)ポリオルガノシロキサンと反応させる際、加熱により隣接ジカルボキシル基が脱水し、酸無水物基に変性することで、本発明の効果を損なわないため、含有する酸無水物基の一部が隣接ジカルボキシル基に変性していたとしても問題ない。
一方で、(X)ポリアリーレンスルフィドは、重合過程で副反応的に得られる官能基を一部有していても差し支えない。
(X)ポリアリーレンスルフィドがその主鎖末端に酸無水物基を有していることで、反応性官能基の熱安定性が低下するようなことはない。また、反応性官能基近傍が立体的に込み合い、(Y)ポリオルガノシロキサンとの共重合化時に接触頻度が低下し反応効率が低下するようなこともない。
本発明で得られる(X)ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は、2500g/mol以上が好ましく、3,000g/mol以上がさらに好ましい。重量平均分子量が2500g/mol以上であると、耐熱性、耐薬品性等が損なわれることがない。一方、その上限は20000g/mol以下が好ましく、15000g/mol以下がさらに好ましい。重量平均分子量が25000g/mol以下であると、分子量の増加に伴い、分子鎖末端の反応性官能基が減少することはない。なお、ここでの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
本発明で得られる(X)ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量は1500g/mol以上が好ましく、2000g/mol以上がさらに好ましい。数平均分子量が1500g/mol以上であると、耐熱性、耐薬品性等が損なわれることがない。一方、その上限は10000g/mol以下が好ましく、8000g/mol以下がさらに好ましく、7000g/mol以下が特に好ましい。数平均分子量が10000g/mol以下であると、分子量の増加に伴い、分子鎖末端の反応性官能基が減少することがない。なお、ここでの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
本発明で用いる(X)ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度(Mw/Mn)は3.0以下が好ましく、2.5以下が特に好ましい。(X)ポリアリーレンスルフィドの分散度が低いと、各分子鎖の反応性が均一化し、(Y)ポリオルガノシロキサンとの共重合化がより効率的に進行する。
また、本発明の(X)ポリアリーレンスルフィドの酸無水物基の含有量は、180μmol/g以上が好ましく、より好ましくは300μmol/g以上、400μmol/g以上が特に好ましく、(X)ポリアリーレンスルフィドの官能基含有量が180μmol/g以上であると(Y)ポリオルガノシロキサンとの共重合化が進行し、十分な改質効果を得ることができる。また、本発明の(X)ポリアリーレンスルフィドの酸無水物基含有量は、2,000μmol/g以下が好ましく、1,500μmol/g以下が特に好ましい。官能基含有量の上限が2,000μmol/g以下であると、官能基含有量の増加に伴って(X)ポリアリーレンスルフィドの分子量が低下し、耐熱性が損なわれることはない。
なお、酸無水物基はその一部が開環し、隣接ジカルボキシル基に変性することで測定誤差が生じる懸念があるが、測定前に、例えば120℃で4時間や、340℃で4min等の加熱を行うことで全ての隣接ジカルボキシル基を酸無水物基に閉環することが可能である。
また本発明で得られる(X)ポリアリーレンスルフィドは、末端に酸無水物基を有しているだけでなく、分子鎖の全末端に占める反応性官能基の導入率が高い程好ましい。この指標として、本発明では末端官能基率を用いる。ただし、末端官能基率は、((官能基含有量(mol/g)/(1/数平均分子量(g/mol)×2))×100(%)で求められ、単位が百分率である値と定義できる。本発明によれば、末端官能基率が85%以上、より好ましくは90%以上である(X)ポリアリーレンスルフィドが得られる。特に好ましくは、95%以上であり、(Y)ポリオルガノシロキサンとの共重合化を効率よく進行させる(X)ポリアリーレンスルフィドが得られる。末端官能基率が85%以上であれば、(Y)ポリオルガノシロキサンとの共重合化を行う上で反応が意図せず停止してしまうことがないため、より高分子量で、靭性や耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィド共重合体が得られる傾向にある。
本発明の(X)ポリアリーレンスルフィドの融点の下限は270℃以上であることが好ましい。一方、融点の上限は、290℃以下であることが好ましい。融点が上記範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体の耐熱性、耐薬品性などのPASに由来する特性が発現しやすくなる。なお、ここでの融点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピーク温度の値と定義できる。
本発明で得られる(X)ポリアリーレンスルフィドの塩素含有量は3500ppm以下が好ましく、2500ppm以下がさらに好ましく、1500ppm以下が特に好ましく、環境負荷の低減及び、反応性官能基を末端に選択的に導入させる観点から1000ppm以下が殊更好ましい。塩素含有量が3500ppm以下であれば、(X)ポリアリーレンスルフィドの分子鎖末端への反応性官能基の導入が不十分であるということはない。
以下に本発明のブロック共重合体を合成するのに用いられる(X)ポリアリーレンスルフィドの製造方法について具体的に述べるが、アルカリ金属水硫化物、アルカリ金属水酸化物、有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物、重合助剤、分岐・架橋剤の原料について述べた後、脱水工程、重合反応工程、ポリマー回収、その他の後処理について記述する。
(3)(X)ポリアリーレンスルフィドの製造方法
[硫黄源]
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物またはアルカリ金属硫化物を用いる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。その他、アルカリ金属水硫化物の前駆体となり得るアルカリ金属硫化物を用いることも可能である。アルカリ金属水硫化物の具体例としては、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、重合反応に供される硫黄源のモル量となる。
本発明において、硫黄源の量、または、系内の硫黄原子の量とは、脱水操作などにより重合反応開始前に硫黄源、または系内の硫黄原子の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
[アルカリ金属水酸化物]
本発明では、前述したアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製される硫黄源も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から硫黄源を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
この場合、アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、特にコスト、入手性の面で水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
また本発明では、アルカリ金属水酸化物は、硫黄源の調製として用いるだけでなく、重合反応系を安定化し、分解反応などの副反応を抑制するための重合安定剤として用いることもできる。これらの効果を効率的に得るための、アルカリ金属水酸化物の実質的な使用量は、重合系内のチオラート末端成長鎖の活性を安定化させる観点から、系内の硫黄原子1.0モルに対し、1.03モルを超えることが好ましい。また、上限としては、2.0モル以下が好ましく、1.8モル以下が好ましく、1.6モル以下がさらに好ましい範囲として例示できる。系内の硫黄原子1.0モルに対し、1.03モルを超える範囲であると、(X)ポリアリーレンスルフィドが分解する傾向はなく、2.0モル以下であると、重合副生物量が多く生成するということはない。ただし、ここで述べるアルカリ金属水酸化物の実質的な使用量とは、系内の他の酸性化合物との中和に消費された後にアルカリ金属水酸化物として存在する量である。
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物の前駆体であるアルカリ金属硫化物を用いる場合、アルカリ金属水酸化物は、主に重合安定剤として寄与するが、その使用量は、例えばアルカリ金属硫化物が硫化ナトリウムである場合、硫化ナトリウム1モルに対して、0.03モル以上であることが好ましい。また、上限としては、1.0モル以下が好ましく、0.8モル以下がより好ましく、0.6モル以下がさらに好ましい範囲として例示できる。
[有機極性溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましく用いられる。
本発明において(X)ポリアリーレンスルフィドの重合溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量に特に制限はないが、安定した反応性の観点から系内の硫黄原子1.0モル当たり2.5モル以上が好ましく、経済性の観点から、系内の硫黄原子1.0モル当たり5.5モル未満、好ましくは5.0モル未満、より好ましくは4.5モル未満の範囲が選択される。
[ジハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いるジハロゲン化芳香族化合物は、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、2,3−ジクロロ安息香酸、2,4−ジクロロ安息香酸、2,5−ジクロロ安息香酸、2,6−ジクロロ安息香酸、3,4−ジクロロ安息香酸、3,5−ジクロロ安息香酸およびそれらの塩や、2,3−ジクロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,4−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノールおよびそれらの塩や、2,3−ジクロロアニリン、2,4−ジクロロアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2,6−ジクロロアニリン、3,4−ジクロロアニリン、3,5−ジクロロアニリンや、4−アミノ−2,5−ジクロロ安息香酸およびその塩などの反応性官能基を有するジハロゲン化ベンゼンなどを挙げることができ、(X)ポリアリーレンスルフィドの共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。
本発明では、分子鎖末端に多くの官能基を有する(X)ポリアリーレンスルフィドを得ることが好ましく、ジハロゲン化芳香族化合物を大過剰で使用することは末端のハロゲン量の増大を引き起こすため好ましくない。そのため、ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の上限は、系内の硫黄原子1.00モル当たり1.05モル未満が好ましく、さらに好ましくは1.04モル未満、特に好ましくは1.03モル未満の範囲が例示できる。また、ジハロゲン化芳香族化合物が少なすぎると反応系内にチオラート末端の成長鎖が過剰となり、分解反応を引き起こす。そのため、ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の下限は、系内の硫黄原子1.00モル当たり0.75モル以上が好ましく、さらに好ましくは0.8モル以上の範囲が例示できる。
[反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物]
本発明の(X)ポリアリーレンスルフィドの合成に用いられる反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物は、下記一般式(I―a)および/または一般式(I―b)で表されるモノハロゲン化化合物であれば如何なるものでも良い。
(式(I―a)および、式(I―b)中、Vはハロゲンを示し、Wはカルボキシル基またはその金属塩を示す。)
このようなモノハロゲン化化合物の具体例としては、3−クロロフタル酸、3−クロロフタル酸水素ナトリウム、3−クロロフタル酸無水物、4−クロロフタル酸、4−クロロフタル酸水素ナトリウム、4−クロロフタル酸無水物などが挙げられる。重合時の反応性や汎用性などから、3−クロロフタル酸、4−クロロフタル酸、4−クロロフタル酸水素ナトリウム、4−クロロフタル酸無水物が好ましいモノハロゲン化化合物として挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、2−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−クロロ安息香酸、2−アミノ−4−クロロ安息香酸、4−クロロ−3−ニトロ安息香酸、4−クロロベンゾフェノン−2−カルボン酸、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール、4−クロロベンズアミド、4−クロロベンゼンアセトアミド、4−クロロベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−5−クロロフタル酸、4−クロロ−5−ニトロフタル酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンチオール、4’−クロロベンゾフェノン−2−カルボン酸、2−アミノ−5−クロロベンゾフェノン、3,5−ジアミノクロロベンゼン、5−クロロイソフタル酸などのモノハロゲン化化合物を挙げることができる。また、これらのモノハロゲン化化合物は1種類単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いても問題ない。
反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物の使用量の下限としては、系内の硫黄原子1.00モル当たり、0.01モル%以上が好ましく、1.00モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、反応性官能基を末端に多量に導入して共重合反応の効率を高める観点から、20モル%以上が特に好ましい。
また、その上限としては、系内の硫黄原子1.00モル当たり40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。モノハロゲン化化合物の使用量が0.01モル%を越えると、得られる(X)ポリアリーレンスルフィドにおける反応性末端の導入が十分であり、一方で40モル%以下であると分解反応を併発し、(X)ポリアリーレンスルフィドの分子量が低下することはない他、原料コストが増えるなどの不利益もない。
また、ジハロゲン化芳香族化合物とモノハロゲン化化合物などのハロゲン化化合物の合計量を特定の範囲にすることが好ましく、系内の硫黄原子1.00モルに対するハロゲン化化合物の合計量が0.95モル以上であることが好ましく、1.00モル以上であることがより好ましく、1.03モル以上であることがさらに好ましい。一方、系内の硫黄原子1.00モルに対するハロゲン化化合物の合計量の上限としては、1.30モル未満にすることが好ましく、1.20モル未満がより好ましい。系内の硫黄原子1.00モルに対してハロゲン化化合物の合計量が0.95モル以上であると分解する傾向はなく、1.30モル未満であると分子量が低下してポリアリーレンスルフィド本来の耐熱性が発現しないということはない。
また、反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物の添加時期には特に制限はなく、後述する脱水工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。モノハロゲン化化合物の添加時期は、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率80%未満が好ましく、70%未満がより好ましく、脱水工程完了後から重合開始までの間、重合開始時つまりジハロゲン化芳香族化合物と同時に添加することが最も好ましい。このようにモノハロゲン化化合物を好ましい時期に添加すると、モノハロゲン化化合物が揮散しないような還流装置や圧入装置などは不要であり、また、重合終了時点でモノハロゲン化化合物の消費が完結せずに重合系内に残存するということはない。
[重合助剤]
本発明においては、重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。重合助剤を用いる一つの目的は(X)ポリアリーレンスルフィドを所望の溶融粘度に調整するためであるが、他の目的としては揮発性成分量を低減するためである。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸金属塩、水、アルカリ金属塩化物(但し、塩化ナトリウムは除く)、有機スルホン酸金属塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上同時に用いても差し障りない。なかでも、有機カルボン酸金属塩および/または水が好ましく用いられる。
有機カルボン酸金属塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物を好ましい例として挙げることができる。有機カルボン酸金属塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。有機カルボン酸金属塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。有機カルボン酸金属塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記有機カルボン酸金属塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると推定しており、安価でかつ反応系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが好ましく用いられる。
重合助剤として上記有機カルボン酸金属塩を用いる場合の使用量は、系内の硫黄原子1.00モルに対し、0.01モル以上が好ましく、0.02モル以上がさらに好ましく、またその上限としては、0.70モル未満の範囲が好ましく、0.60モル未満の範囲がより好ましく、0.55モル未満の範囲が特に好ましい。
重合助剤として有機カルボン酸金属塩を使用する場合、その添加時期には特に制限はなく、後述する脱水工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、添加の容易性からすると、脱水工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが好ましい。
重合助剤として水を用いる場合、水単独で用いることも可能であるが、有機カルボン酸金属塩を同時に用いることが好ましく、これにより重合助剤としての効果をより高めることができ、より少ない重合助剤の使用量でも短時間で所望の溶融粘度の(X)ポリアリーレンスルフィドを得ることができる傾向にある。この場合の重合系内の好ましい水分量の範囲は、系内の硫黄原子1.00モルに対し0.80モル以上が好ましく、0.85モル以上がさらに好ましい。その上限としては、3.00モル未満が好ましく、1.80モル未満がさらに好ましい。水分量が多すぎると反応器内圧の上昇が大きく、高い耐圧性能を有した反応器が必要となるため、経済的にも安全性の面でも好ましくない傾向にある。重合系内の水分量を前記範囲にする段階のジハロゲン化芳香族化合物の転化率は、後述するように60モル%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上であることが好ましい。なお、重合時に副生した水も重合助剤となり得る。
また、重合後に水を添加することも好ましい様態の一つである。重合後に水を添加した後の重合系内の水分量の好ましい範囲は、系内の硫黄原子1.0モルに対して1.0モル以上が好ましく、1.5モル以上が好ましい。上限としては、15.0モル以下が好ましく、10.0モル以下がより好ましい。
[分岐・架橋剤]
本発明では、高い溶融流動性を有する実質的に直鎖状PASの塩素含有量が低減され、かつ揮発性成分量が低減された(X)ポリアリーレンスルフィドを得ることができるが、分岐または架橋重合体を形成させ所望の溶融粘度に調整するために、トリハロゲン化以上のポリハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物及びハロゲン化芳香族ニトロ化合物などの分岐・架橋剤を併用することも可能である。ポリハロゲン化合物としては通常に用いられる化合物を用いることができるが、中でもポリハロゲン化芳香族化合物が好ましく、具体例としては、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,4,6−トリクロロナフタレン等を挙げることができ、中でも1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。前記、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物としては、例えばアミノ基、メルカプト基及びヒドロキシル基などの官能基を有するハロゲン化芳香族化合物を挙げることができる。具体例としては2,5−ジクロロアニリン、2,4−ジクロロアニリン、2,3−ジクロロアニリン、2,4,6−トリクロロアニリン、2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロロジフェニルエーテルなどを挙げることができる。前記、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物としては、例えば2,4−ジニトロクロロベンゼン、2,5−ジクロロニトロベンゼン、2−ニトロ−4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、2,5−ジクロロ−2−ニトロピリジン、2−クロロ−3,5−ジニトロピリジンなどを挙げることができる。
[脱水工程]
本発明の(X)ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、硫黄源は通常水和物の形で使用されるが、ジハロゲン化芳香族化合物や反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒と硫黄源を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
また、上述したように、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
脱水工程が終了した段階での系内の水分量は、仕込み硫黄源1.00モル当たり0.90以上1.10モル以下であることが好ましい。ここで系内の水分量とは脱水工程で仕込まれた水分量から系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
脱水工程が終了した後、有機極性溶媒中で、脱水工程で調製した反応物とジハロゲン化芳香族化合物および反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物を接触させて重合反応を行うが、脱水工程と同じ反応器で後述の重合反応工程を行っても良いし、脱水工程と異なる反応容器に脱水工程で調製した反応物を移送した後に重合反応工程を行ってもよい。
[重合反応工程]
本発明における(X)ポリアリーレンスルフィドの製造方法では、前記した脱水工程で調製した反応物とジハロゲン化芳香族化合物やモノハロゲン化化合物を有機極性溶媒中で接触させて重合反応させる重合工程を行う。重合工程開始に際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、100℃以上、好ましくは130℃以上がよく、上限としては220℃以下、好ましくは200℃以下の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を加える。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であっても差し支えない。
この重合反応は200℃以上280℃未満の温度範囲で行うが、本発明の効果が得られる限り重合条件に制限はない。例えば、一定速度で昇温した後、245℃以上280℃未満で反応を一定時間継続する方法、200℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応を行った後に245℃以上280℃未満に昇温して反応を一定時間継続する方法、200℃以上245℃未満、中でも230℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応を行った後、245℃以上280℃未満に昇温して短時間で反応を完了させる方法などが挙げられる。また、この重合反応は、200℃以上245℃未満、中でも230℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応させる時間が多い程、反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物が効率良くポリアリーレンスルフィドと反応し、好ましい(X)ポリアリーレンスルフィドが得られる傾向にある。
また、前記した重合反応を行う雰囲気は非酸化性雰囲気下であることが望ましく、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に経済性および取り扱いの容易さの観点から窒素雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、重合反応における反応圧力に関しては、使用する原料及び溶媒の種類や量、あるいは重合反応温度などに依存し一概に規定できないため、特に制限はない。
重合反応工程を終えた段階での反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物の反応量は、例えば、固体NMRでの官能基直接分析、FT−IRでのベンゼン環由来の吸収と官能基由来の吸収の比較による相対評価、重合前または重合途中での反応性官能基含有モノハロゲン化芳香族化合物の仕込量から残存量を差し引いて算出した反応量などで評価することができる。
反応性官能基を有するモノハロゲン化芳香族化合物の反応量は、系内の硫黄原子1.00モルに対し0.01モル以上が好ましく、0.10モル以上が更に好ましく、0.15モル以上が特に好ましい。
その上限は、0.40モル以下が好ましく、0.30モル以下が更に好ましい。本発明での反応量とは、重合工程終了後にサンプリングしたサンプル中に残存する反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物量をガスクロマトグラフ(島津製作所製GC−14B)にて定量し、重合前または重合途中仕込量から残存量を差し引いて算出した値のことである。該反応量が多いほど(X)ポリアリーレンスルフィド末端への反応性官能基の導入量が多く、高い反応性を有する傾向にあり、系内の硫黄原子1.00モルに対し反応量が0.40モル以下であれば、(X)ポリアリーレンスルフィドが低分子量化し、耐熱性が低下するようなことはない。一方、反応量が0.01モル以上であれば(X)ポリアリーレンスルフィドへの反応性官能基の導入が不十分になるということはない。
[ポリマー回収]
本発明の(X)ポリアリーレンスルフィドの製造においては、重合工程終了後に、重合工程で得られた(X)ポリアリーレンスルフィド成分および溶剤などを含む重合反応物から(X)ポリアリーレンスルフィドを回収する。回収方法としては、例えばフラッシュ法、すなわち重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒回収と同時に重合体を粉粒状にして回収する方法や、クエンチ法、すなわち重合反応物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内の(X)ポリアリーレンスルフィド成分を析出させ、かつ70℃以上、好ましくは100℃以上の状態で濾別することで(X)ポリアリーレンスルフィド成分を含む固体を回収する方法等が挙げられる。
本発明である、PAS本来の耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された(X)ポリアリーレンスルフィドが得られれば、クエンチ法、フラッシュ法いずれかに限定されるものではないが、フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物の回収が可能であること、回収時間が比較的短いこと、クエンチ法に比較して得られる回収物量が多いことなど、経済的に優れた回収方法であること、また、フラッシュ法にて得られたPASはクロロホルム抽出成分に代表されるようなポリマー鎖末端に反応性官能基が有するオリゴマー成分を多く含むため、クエンチ法で得られたPASに比較して、反応性官能基が多く導入されたPASを簡便に得やすいことから、本発明における好ましい回収方法である。官能基含有量の高い(X)ポリアリーレンスルフィドを得るのに好ましいクロロホルム抽出量としては1.0重量%以上が例示でき、より好ましくは2.0重量%以上である。なお、ここでのクロロホルム抽出量は、ポリマー10gを90℃のクロロホルム100gで3時間ソックスレー抽出し、この抽出液からクロロホルムを留去した際に得られる成分の重量をポリマー重量に対する百分率で表す。
フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧の重合反応物を常圧中の窒素または水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が例示できる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が低いと溶媒回収の効率が低下し生産性が悪化する。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度、つまり重合反応物の温度は250℃以上が好ましく255℃以上がより好ましい。常圧中にフラッシュさせるときの窒素または水蒸気などの雰囲気の温度は通常150〜250℃が選択され、重合反応物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150〜250℃の窒素または水蒸気などの雰囲気下で加熱を継続しても良い。
かかるフラッシュ法で得られた(X)ポリアリーレンスルフィドには重合副生物であるアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ金属有機物などのイオン性不純物を含んでいるため、洗浄を行うことが通例である。洗浄条件としては、かかるイオン性不純物を除去するに足る条件であれば特に限定されるものではない。洗浄液としては例えば水や有機溶媒を用いて洗浄する方法が挙げられ、簡便かつ安価に(X)ポリアリーレンスルフィドを得る点やオリゴマー成分を含有させて高い官能基含有量を持たせる点で、水を用いた洗浄が好ましい方法として例示できる。本発明である末端に反応性官能基を有する(X)ポリアリーレンスルフィドを得るには、水の温度が80℃以上であることが好ましく、熱水、酸または酸の水溶液、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液のいずれかの液体に浸漬させる処理を1回以上行うことが好ましい。
更には、80℃以上の温度で、浸漬させる処理を2回以上行うことが好ましく、1回目に熱水、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液のいずれかの液体に浸漬させる処理を行うことが好ましい。もちろん、2回以上の浸漬させる処理を行う場合、各処理での洗浄温度が異なっていても良いし、異なる2種以上の液体に浸漬させる処理を組み合わせて用いることも可能であり、各処理の間にはポリマーと洗浄液を分離する濾過工程を経ることがより好ましい方法である。
酸または酸の水溶液に(X)ポリアリーレンスルフィドを浸漬させる処理は、処理後の液体のpHが2〜8であることが好ましい。酸または酸の水溶液とは、有機酸、無機酸または上記水に有機酸、無機酸等を添加して酸性にしたものである。使用する有機酸、無機酸としては、酢酸、プロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸等が例示でき、これらに限定されるものではないが、酢酸、塩酸が好ましい。
アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液に(X)ポリアリーレンスルフィドを浸漬させる処理に使用する水溶液のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の量は(X)ポリアリーレンスルフィドに対し、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜15重量%が更に好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液とは、上記水にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を添加して溶解させたものである。使用するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、上記有機酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
液体で(X)ポリアリーレンスルフィドを洗浄する際の洗浄温度は80℃以上200℃以下が好ましく、イオン性不純物の少ないPASを得る点において150℃以上200℃以下がより好ましく、さらには180℃以上200℃以下がより好ましい。100℃以上の液体での処理の操作は、通常、所定量の液体に所定量の(X)ポリアリーレンスルフィドを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、攪拌することにより行われる。
熱水、酸の水溶液、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液に使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。(X)ポリアリーレンスルフィドと液体の割合は、液体が多いほうが好ましく、通常、液体1リットルに対し、(X)ポリアリーレンスルフィド10〜500gの浴比が好ましく選択され、50〜200gが更に好ましい。
洗浄添加剤は洗浄工程のいずれの段階で使用してもよいが、少量の添加剤で効率的に洗浄を行うには、フラッシュ法にて回収した固形物を80℃以上200℃以下の熱水に浸漬、濾過する処理を数回行った後、150℃以上の酸または酸の水溶液に(X)ポリアリーレンスルフィドを浸漬させて処理する方法が好ましい。
[その他の後処理]
かくして得られた(X)ポリアリーレンスルフィドは常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、120〜280℃の範囲が好ましく、140〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
本発明において得られた(X)ポリアリーレンスルフィドを、揮発性成分を除去するために、或いは架橋高分子量化して好ましい溶融粘度に調整するために、酸素含有雰囲気下、130〜260℃の温度で処理することも可能である。
架橋高分子量化を抑制し、揮発性成分除去を目的として乾式熱処理を行う場合、熱処理は熱処理温度および熱処理時間を特定の範囲にすれば、高い酸素濃度雰囲気下でも低い酸素濃度雰囲気下でも差し支えない。
高い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%以上であることが好ましく、熱処理温度は160〜270℃、熱処理時間は0.1〜20時間行うことが望ましい。ただ、酸素濃度が高い条件下では揮発性成分の低減速度が速いものの、同時に酸化架橋が急速に進行するため反応性官能基が減少する傾向がある。そのため概して低温・長時間または高温・短時間で熱処理を行うことが好ましい。低温・長時間熱処理する具体的な条件としては160℃以上210℃以下で1時間以上20時間以下が好ましく、170℃以上200℃以下で1時間以上10時間以下がより好ましい。熱処理温度が160℃を下回る温度で熱処理を行うと揮発性成分の低減効果が小さい。また、低温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては熱処理時間が20時間を越えると反応性官能基が減少しやすくなる。高温・短時間熱処理する具体的な条件としては210℃を超え270℃以下で0.1時間以上1時間未満が好ましく、220℃以上260℃以下で0.2〜0.8時間がより好ましい。熱処理温度が270℃を超えると酸化架橋が急激に進行し反応性官能基が減少しやすくなる。また、高温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては熱処理時間が0.1時間を下回ると揮発性成分の低減効果が小さい。
低い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%未満であることが好ましく、熱処理温度は210〜270℃、熱処理時間は0.2〜50時間行うことが望ましい。酸素濃度が低いと揮発性成分の低減効果が小さくなる傾向にあるため概して高温・長時間で熱処理を行うことが好ましく、220℃〜260℃の熱処理温度条件下2〜20時間行うことがより好ましい。熱処理時間が210℃を下回る場合は揮発性成分が低減しにくく、熱処理時間が50時間を上回ると生産性が低下する。
架橋高分子量化して好ましい溶融粘度に調整することを目的として乾式熱処理する場合、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また酸素濃度2体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。処理時間は、1〜100時間が好ましく、2〜50時間がより好ましく、3〜25時間が更に好ましい。
加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
(4)アミノ基および/またはイソシアネート基を含有する(Y)ポリオルガノシロキサン
本発明で用いられるアミノ基および/またはイソシアネート基を含有する(Y)ポリオルガノシロキサンとは、(X)ポリアリーレンスルフィドと効率よく反応するものであれば良く、例えば、下記一般式(R)に示すものを挙げることができる。
ここでP、Qはアミノ基および/またはイソシアネート基を示す。P、Qは同一であっても異なっていてもよい。これら官能基はポリオルガノシロキサンの片末端及び、側鎖に結合していても問題はないが、ブロック共重合化による効率的改質の観点から両末端に結合しているのが好ましい。また、R1、R2、R3はC1〜C10のアルキル基、またはC6〜C10の芳香族基を示す。具体的には、R1、R2としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を挙げることができ、好ましくは、入手容易性の観点からメチル基、またはフェニル基、もしくはそれらが組み合わされた構造を有することが好ましい。R3としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を挙げることができ、入手容易性の観点からメチル基、エチル基、またはプロピル基が好ましい。nは1以上が挙げられ、5以上が好ましく、10以上が特に好ましい。一方、その上限としては、100以下が挙げられ、60以下が好ましく、ポリアリーレンスルフィド及び有機極性溶媒との相溶性の観点から40以下が特に好ましい。
アミノ基および/またはイソシアネート基を含有する(Y)ポリオルガノシロキサンの官能基は反応性の観点より、アミノ基がより好ましい。
また、アミノ基および/またはイソシアネート基を含有する(Y)ポリオルガノシロキサンの官能基含有量は(X)ポリアリーレンスルフィドの有する官能基との組み合わせにより異なるため一概には規定できないが、100μmol/g以上が好ましく、(X)ポリアリーレンスルフィドとの共重合量を増加させる観点から250μmol/g以上がより好ましく、400μmol/g以上が特に好ましい。官能基を有する(Y)ポリオルガノシロキサンの官能基含有量が100μmol/g以上の場合は、(Y)ポリオルガノシロキサンの共重合量が十分になるため十分な改質効果が得られる。また、その上限は、特に限定されないが、4,000μmol/g以下が好ましく、3,000μmol/g以下が特に好ましい。このような(Y)ポリオルガノシロキサンの具体例としては、信越シリコーンから市販されている、KF−8010、KF−8012、KF−8008、X−22−161A、X−22−161B、X−22−1660B−3、KF−857、KF−8001、KF−862、KF−858、X−22−9192等が挙げられる。
(5)ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の製造方法
以下に本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の製造方法について、重合反応工程、ポリマー回収、無機フィラー、その他添加物、用途について記述する。
[重合反応工程]
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の製造方法は、末端に酸無水物基を有する(X)ポリアリーレンスルフィドと、アミノ基および/またはイソシアネート基を含有する(Y)ポリオルガノシロキサンを加熱して反応させる。
また、(X)ポリアリーレンスルフィドの末端官能基率は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、ブロック共重合化を効率よく行い高分子量のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体を得る観点から95%以上が特に好ましい。
ただし、末端官能基率は、((官能基含有量(mol/g)/(1/数平均分子量(g/mol)×2))×100(%)で求められ、単位が百分率である値と定義できる。
(X)ポリアリーレンスルフィドと(Y)ポリオルガノシロキサンの混合比率は、用いる(X)ポリアリーレンスルフィドの分子量、官能基含有量や、(Y)ポリオルガノシロキサンの種類や分子量、さらには反応条件などに依存するため一概には規定できないが、(X)ポリアリーレンスルフィドの官能基量に対して、(Y)ポリオルガノシロキサンの官能基量の比(以下官能基比とする)が、0.8以上であることが好ましい範囲として例示でき、1.0以上であることがさらに好ましく、より効率的にブロック共重合を進行させ、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の高分子量化を進める観点から、1.2以上であることが特に好ましい。一方、その上限としては、5.0以下であることが好ましい範囲として例示でき、3.0以下であることがさらに好ましく、より効率的にブロック共重合を進行させ、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の高分子量化を進める観点から、2.0以下であることが最も好ましい。官能基比が、1.0以上の場合、共重合反応が進みやすいため十分な改質効果が得られ、5.0以下の場合、未反応の(Y)ポリオルガノシロキサンが増加しない結果、精製工程が煩雑とならず、原料コストが高くなることはない。
また、(X)ポリアリーレンスルフィドと(Y)ポリオルガノシロキサンの加熱による反応は必要に応じて溶媒を用いない溶融重合もしくは、有機極性溶媒中での溶液重合のどちらで行ってもよい。後者の場合、有機アミド溶媒の使用が好ましく、具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましく用いられる。また、この他にも(X)ポリアリーレンスルフィドを溶解するクロロナフタレンなども好ましく用いられる。また、有機極性溶媒の使用量については特に制限はないが、(X)ポリアリーレンスルフィドの構造単位1モル当たりに対して0.1モル以上が好ましく、(X)ポリアリーレンスルフィドと(Y)ポリオルガノシロキサンが十分に溶解し、高い反応性を得る観点から1.0モル以上がより好ましい。また、上限としては、5.0モル以下が好ましく、経済的観点より3.5モル以下がより好ましい。
さらに、上記2つの反応を組み合わせてもよく、例えば、溶融重合後に有機極性溶媒を添加して加熱することもできるし、上記好ましい範囲内で、有機極性溶媒中で加熱した後にさらに有機極性溶媒を添加して加熱することもできる。
(X)ポリアリーレンスルフィドと(Y)ポリオルガノシロキサンを含む混合物を加熱して反応させる温度は、(X)ポリアリーレンスルフィドの分子量、(Y)ポリオルガノシロキサンの種類や分子量などに依存するため一概には規定できないが、(X)ポリアリーレンスルフィドおよび(Y)ポリオルガノシロキサンが融解する、もしくは有機極性溶媒に溶解する温度以上であることが好ましく、具体例としては200℃以上であることが好ましく例示でき、230℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましく例示できる。また、反応温度の上限としては400℃以下であることが例示でき、380℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく例示できる。反応温度が200℃以上の場合、反応の効率が良くブロック共重合化が十分となり、400℃以下の場合(X)ポリアリーレンスルフィドおよび(Y)ポリオルガノシロキサンが熱分解することもない。また、反応は一定の温度で行う1段階反応、段階的に温度を上げていく多段反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでも構わない。
また、本製造方法によりポリアリーレンスルフィドブロック共重合体を製造する際、(Y)ポリオルガノシロキサンの添加時期には特に制限はなく、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよい。
(X)ポリアリーレンスルフィドと(Y)ポリオルガノシロキサンの共重合反応の時間は、反応に用いる(X)ポリアリーレンスルフィドや(Y)ポリオルガノシロキサンの構造や分子量、反応温度などの条件に依存するため一概には規定できないが、生産性及び、十分に共重合反応を進行させる観点から0.1時間以上が例示でき、0.5時間以上が好ましい。一方、反応時間の上限は特に限定されないが、生産性の観点より10時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下も採用できる。さらに、本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の製造方法における重合雰囲気は、一般にポリアリーレンスルフィドの製造に採用されている反応条件、例えば窒素やヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気下での反応、減圧下での反応などを適宜採用することができる。
[ポリマー回収]
ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体を回収する方法に特に制限はなく、例えば、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体成分に対する溶解性が低く且つ(Y)ポリオルガノシロキサンを溶解する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させてポリアリーレンスルフィドブロック共重合体を固体として回収する方法が例示できる。このような特性を有する溶剤は一般に比較的極性の低い溶剤であり、用いたポリオルガノシロキサンの種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタンに代表される炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンに代表される芳香族炭化水素類、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールに代表される長鎖アルコール類が例示でき、入手性、経済性の観点からヘキサンが好ましい。また、必要に応じて有機極性溶媒を除去するためにポリアリーレンスルフィドブロック共重合体成分に対する溶解性が低く且つ有機極性溶媒と混和する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体を固体として回収する方法を組み合わせもよい。このような特性を有する溶剤は一般に比較的極性の高い溶剤であり、用いた有機極性溶媒の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば水やメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどに代表される酢酸エステル類が例示でき、入手性、経済性の観点から水、メタノールおよびアセトンが好ましく、水が特に好ましい。
このような溶剤による処理を行うことで、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体に含有される未反応の(Y)ポリオルガノシロキサン、有機極性溶媒の量を低減することが可能である。この処理によりポリアリーレンスルフィドブロック共重合体は固形成分として析出するので、公知の固液分離法を用いて回収することが可能である。固液分離方法としては、例えばろ過による分離、遠心分離、デカンテーションなどを例示できる。なお、これら一連の処理は必要に応じて数回繰り返すことも可能であり、これによりポリアリーレンスルフィドブロック共重合体に含有される未反応の(Y)ポリオルガノシロキサンや有機極性溶媒の量がさらに低減される傾向にある。
[無機フィラー]
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械強度の向上などの目的で無機フィラーを配合した組成物として使用することも可能である。かかる無機フィラーの具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、さらに炭酸カルシウムやシリカが、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。またこれらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
かかる無機フィラーの配合量は、ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体100重量部に対し、30重量部以下の範囲が選択され、10重量部未満の範囲が好ましく、1重量部未満の範囲がより好ましく、0.8重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが0.0001重量部以上が好ましい。無機フィラーの含有量は、靱性と剛性のバランスから用途により適宜変えることが可能である。無機フィラーの含有量が上記好ましい範囲であると、材料の弾性率向上に有効である一方で、靱性の低下をもたらすこともない。
[その他の添加物]
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリフェニレンスルフィド以外の樹脂を添加配合しても良い。その具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの様なフェノール系酸化防止剤、(ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)などのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物の添加量は組成物全体の10重量%以下が好ましく、1重量%以下が更に好ましい。上記好ましい範囲であると、本来の特性が損なわれることはない。
[用途]
本発明のポリアリーレンスルフィドブロック共重合体はそのままで、または前述の無機フィラーや添加剤を配合した組成物として、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形、押出成形用途として有用である。また、本発明のポリフェニレンスルフィドブロック共重合体は、柔軟で引張破断伸度に極めて優れると共に、耐熱老化性に優れる特徴から、比較的成形加工温度が高く、溶融滞留時間の長い押出成形用途としても特に有用である。押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
中でも、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体や、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、とりわけターボダクトとして有用である。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これらは例示的なものであってこれによって限定されるものではない。
〈分子量の測定〉
(X)ポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分散度(=Mw/Mn)を算出した。GPC測定条件を以下に記す。
装置 : (株)センシュー科学製SSC−7100
カラム名 : (株)センシュー科学製GPC3506
溶離液 : 1−クロロナフタレン
検出器 : 示差屈折率検出器
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
〈ガラス転移温度、冷結晶化温度及び融点の測定〉
(X)ポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の非晶フィルム(厚み:0.2mm)を作製し、示差走査熱量計(DSC)により、ガラス転移温度、冷結晶化温度及び融点を測定した。
プレス非晶フィルムの作製条件を下記する。
・カプトンフィルム表面をアセトンで拭き、試料を載せる。
・さらにカプトンフィルムを重ね、アルミシートで挟む。
・340℃に加熱したプレスの金型に挟む。
・1分間滞留させた後10kgf加圧する。
・3分間滞留させた後40kgf加圧する。
・計4分間滞留させた後、カプトンフィルムもしくはアルミシートごと取出し、用意した水へ漬けて急冷する。
DSCでガラス転移温度を測定する場合は以下の条件で行った。
・前記方法で得られたプレス非晶フィルムを、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した。その際に検出されるベースラインシフトの変曲点をガラス転移温度とした。
DSCで冷結晶化温度を測定する場合は以下の条件で行った。
・前記方法で得られたプレス非晶フィルムを、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した。その際に検出される発熱ピーク温度の値を冷結晶化温度とした。
DSCで融点を測定する場合は以下の条件で行った。
・前記方法で得られたプレス非晶フィルムを、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した。
・その後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した。
・その後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃から340℃まで昇温した。その際に検出される融解ピーク温度の値を融点とした。
〈引張弾性率及び引張伸度の測定〉
ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体の引張弾性率及び引張伸度は、下記するプレス結晶化フィルムから厚み0.2mmのダンベルを打ち抜いた後、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用いて、チャック間距離25mm、引張速度1mm/minの条件で引張試験をすることにより測定した。
プレス結晶化フィルムの作製条件を下記する。
・カプトンフィルム表面をアセトンで拭き、試料を載せる。
・さらにカプトンフィルムを重ね、アルミシートで挟む。
・340℃に加熱したプレスの金型に挟む。
・1分間滞留させた後10kgf加圧する。
・3分間滞留させた後40kgf加圧する。
・計4分間滞留させた後、カプトンフィルムもしくはアルミシートごと取出し、150℃に加熱したプレスの金型に挟む。
・1分間滞留させた後、カプトンフィルムもしくはアルミシートごと取出す。
〈フィルムの態様評価〉
ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体のプレスフィルムの態様評価は、前記したプレスフィルムに対して次の評価基準で判断した。
×:非常に脆く、引張試験を行えない
△:一定の自立性を有する
○:柔軟で自立性が良い
〈分子量保持率の測定〉
前記、厚み0.2mmのプレス結晶化フィルムについて、180℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて300h処理した後、室温で24hr放冷し、熱処理後のサンプルを得た。次いで、熱処理前のプレス結晶化フィルムと熱処理後のサンプルでそれぞれ、前記した分子量の測定を行い、以下の式によって算出した。
分子量保持率(%)=(熱処理前の重量平均分子量)/(180℃×300h熱処理後の重量平均分子量)×100(%)
〈ポリオルガノシロキサン単位含有量の分析〉
ポリアリーレンスルフィドブロック共重合体中におけるポリオルガノシロキサン単位の含有量は、元素分析から求められるSi原子のモル分率にコモノマーとして用いたオルガノシロキサンの分子量を乗じて算出した。
〈カルボキシル基含有量の分析〉
まず、標準物質として安息香酸をFT−IRにて測定し、ベンゼン環のC−H結合の吸収である3066cm−1のピークの吸収強度(b1)とカルボキシル基の吸収である1704cm−1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U1)、(U1)=(c1)/[(b1)/5]を求めた。次に、前記方法で得られた(X)ポリアリーレンスルフィドの非晶フィルムのFT−IR(日本分光(株)製IR−810型赤外分光光度計)測定を行った。3066cm−1の吸収強度(b2)と1704cm−1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U2)、(U2)=(c2)/[(b2)/4]を求めた。PPS1gに対するカルボキシル基含有量を以下の式から算出した。PPSのカルボキシル基含有量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000。
〈酸無水物基含有量〉
まず、標準物質として無水フタル酸をFT−IRにて測定し、ベンゼン環のC−H結合の吸収である3066cm−1のピークの吸収強度(b1)と酸無水物基の吸収である1850cm−1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対する酸無水物基量(U1)、(U1)=(c1)/[(b1)/5]を求めた。次に、前記方法で得られた(X)ポリアリーレンスルフィドの非晶フィルムのFT−IR(日本分光(株)製IR−810型赤外分光光度計)測定を行った。3066cm−1の吸収強度(b2)と1850cm−1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U2)、(U2)=(c2)/[(b2)/4]を求めた。PPS1gに対する酸無水物基含有量を以下の式から算出した。PPSの酸無水物基含有量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000。なお、酸無水物基はその一部が開環し、隣接ジカルボキシル基に変性することで測定誤差が生じる懸念があるが、非晶フィルムの作成時に340℃で加熱する工程で全ての隣接ジカルボキシル基が酸無水物基へ閉環するため、上記の通り非晶フィルムを用いることにより、酸無水物基含有量を定量することが可能となる。
〈アミノ基含有量〉
まず、標準物質としてアニリンをFT−IRにて測定し、ベンゼン環のC−H結合の吸収である3066cm−1のピークの吸収強度(b1)とアミノ基の吸収である3400cm−1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対する酸無水物基量(U1)、(U1)=(c1)/[(b1)/5]を求めた。次に、前記方法で得られた(X)ポリアリーレンスルフィドの非晶フィルムのFT−IR(日本分光(株)製IR−810型赤外分光光度計)測定を行った。3066cm−1の吸収強度(b2)と3400cm−1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するアミノ基量(U2)、(U2)=(c2)/[(b2)/4]を求めた。PPS1gに対するアミノ基含有量を以下の式から算出した。PPSのアミノ基含有量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000
〈吸光度比の算出〉
上記の方法によって求めたポリアリーレンスルフィドブロック共重合体のプレス非晶フィルムFT−IR(日本分光(株)製IR−810型赤外分光光度計)測定を行った。イミド基の特性吸収帯である1716cm−1のピークの吸光度を、ベンゼン環のC−H結合の吸収である3066cm−1のピークの吸光度(c1)で除することによって求めた。
〈末端官能基率の算出〉
上記の方法によって求めた官能基含有量と数平均分子量を用いて、下記の式で算出した。
末端官能基率(%)=(官能基含有量(mol/g)/(1/数平均分子量(g/mol)×2))×100(%)
〈塩素含有量の分析〉
ダイアインスツルメンツ社製自動試料燃焼装置AQF−100を用い、ポリマー1〜2mgを最終温度1000℃で燃焼させ、発生したガス成分を希薄な酸化剤を含んだ10mLの水に吸収させ、吸収液を炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム混合水溶液を移動相とするDIONEX社製イオンクロマトグラフィーシステムICS1500に供し、ポリマー中の全塩素含有量の測定を行った。
〈クロロホルム抽出量の分析〉
ポリマー10gを90℃のクロロホルム100gで3時間ソックスレー抽出し、この抽出液からクロロホルムを留去した際に得られる成分の重量をポリマー重量に対する百分率で求めた。
〈官能基を有するモノハロゲン化化合物の反応量〉
重合工程終了後に得た重合反応物中に残存する反応性官能基含有モノハロゲン化化合物量を、島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−14Bガスクロマトグラフ用いて定量し、仕込量から残存量を差し引いて算出した。
[参考例1]ここでは、本発明の方法によって得られる、末端に酸無水物基を有する(X)ポリフェニレンスルフィドの製造方法につき記す。
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム3.14kg(75.5モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。
その後、200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)9.580kg(65.2モル)、4−クロロフタル酸無水物0.377kg(2.06モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で275℃まで昇温し、275℃で60分反応した。
反応終了後、直ちにオートクレーブ底栓弁を開放し、内容物を撹拌機付き装置にフラッシュさせ、重合時に使用したNMPの95%以上が揮発除去されるまで230℃の撹拌機付き装置内で1.5時間乾固し、PPSと塩類を含む固形物を回収した。
得られた回収物およびイオン交換水74リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、75℃で15分洗浄した後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを75℃のイオン交換水で15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、ケークおよびイオン交換水74リットル、酢酸0.5kgを撹拌機付きオートクレーブに入れ、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物を取り出した。内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で4時間乾燥することで乾燥PPSを得た。このような方法で製造された(X)ポリフェニレンスルフィドをX−1とする。
[参考例2]
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を9.28kg(63.11モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を4.29kg(102.9モル)とし、4−クロロフタル酸無水物2.877kg(15.78モル)としたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行った。このような方法で製造された(X)ポリフェニレンスルフィドをX−2とする。
[参考例3]
反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で240℃まで昇温し、240℃で240分反応したこと以外は参考例2と同様に重合および洗浄を行った。このような方法で製造された(X)ポリフェニレンスルフィドをX−3とする。
[参考例4]ここでは、汎用的なポリアリーレンスルフィドの製造方法につき記す。
重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を10.39kg(70.66モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を2.94kg(70.7モル)とし、4−クロロフタル酸無水物を加えなかった以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行った。このような方法で製造された(X)ポリフェニレンスルフィドをX−4とする。
[参考例5]ここでは、国際公開2015−151921号に記載されている方法に準じて、反応性官能基としてカルボキシル基を末端に有するポリアリーレンスルフィドの製造方法につき記す。 重合時に使用するp−ジクロロベンゼン(p−DCB)の量を9.68kg(65.86モル)とし、96%水酸化ナトリウムの量を3.17kg(76.1モル)とし、4−クロロフタル無水物の代わりに4−クロロ安息香酸を1.07kg(6.86モル)としたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行った。このような方法で製造された(X)ポリフェニレンスルフィドをX−5とする。
[参考例6]ここでは、特開昭64−45433号公報に記載されている方法に準じて、反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの製造方法につき記す。
還流管、攪拌機を具備したナス型フラスコに、無水硫化ナトリウムを9.37g(0.12モル)、4,4,−ジクロロジフェニルスルフィドを35.7g(0.14モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)102.8g(1.04モル)を仕込み、窒素雰囲気中、200℃で3時間加熱還流した。
その後、反応混合物を水に注ぎいれ粗生成物をろ過によって得た後300mlの高温トルエンで抽出した。結果、トルエンに不溶のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを27.2g得た。
次に、撹拌チップを具備したオートクレーブに、上記ポリフェニレンスルフィドオリゴマー11.64g(0.065モル)、p−アミノチオフェノール4.0g(0.03モル)、無水炭酸カリウム5.3g(0.038モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)102.8g(1.04モル)を仕込み、窒素雰囲気中、130℃で1時間攪拌し、次に140〜150℃で1.5時間攪拌した。次に反応混合物を220℃で15分間加熱し、200℃で20分保った。得られた溶液を冷却した後、400mlの水を注ぎ沈殿した粗生成物をろ過によって得た。粗生成物はメタノールで洗浄した後に減圧乾燥を行った。結果、12.15gのポリフェニレンスルフィドを得た。このような方法で製造された(X)ポリフェニレンスルフィドをX−6とする。
得られた(X)ポリフェニレンスルフィドの重合条件、およびポリマー物性の測定結果を表1に示す。
[参考例7]アミノ基および/またはイソシアネート基を有する(Y)ポリジメチルシロキサン
市販のアミノ基変性ポリジメチルシロキサンとして、信越シリコーン製“X−22−161A”官能基含有量1,250μmol/gを用いた。この(Y)ポリジメチルシロキサンをY−1とする。
[参考例8]その他官能基を有する(Y)ポリジメチルシロキサン
市販のエポキシ基変性ポリジメチルシロキサンとして、信越シリコーン製“KF−105”官能基含有量2,041μmol/gを用いた。この(Y)ポリジメチルシロキサンをY−2とする
[実施例1]
撹拌翼付100ミリリットルオートクレーブに、(X−1)ポリフェニレンスルフィド50.0g、NMPを138g、(Y−1)ポリジメチルシロキサン14.4gを加えて反応混合物を調製した。このとき、(X−1)ポリフェニレンスルフィドの官能基量に対して、(Y−1)ポリジメチルシロキサンの官能基量の比(以下官能基比とする)は1.5当量であった。オートクレーブ内を密封して3回窒素置換した後に、240rpmで攪拌しながら、ヒートジャケットを用いて約15分かけて反応混合物を250℃に昇温した。その後反応温度250℃で60分反応させた後に、オートクレーブを急冷させることにより生成物を得た。
得られた生成物を回収するため、重合物を50℃のヘキサンで15分洗浄、ろ過操作を2回行い、さらに、50℃のメタノールで15分洗浄、ろ過操作を2回行い、70℃の水で15分洗浄、ろ過操作を1回行い、ポリフェニレンスルフィドブロック共重合体を得た。この洗浄工程により、(X−1)ポリフェニレンスルフィドと反応しなかった官能基を有する(Y−1)ポリジメチルシロキサンを除去した。
[実施例2]
共重合時に使用する(X)ポリフェニレンスルフィド種をX−2とし、(Y−1)ポリジメチルシロキサンの量を27.6gとした(このとき官能基比は1.5であった)こと以外は実施例1と同様に共重合および洗浄を行った。
[実施例3]
共重合時に使用する(X)ポリフェニレンスルフィド種をX−3とし、(Y−1)ポリジメチルシロキサンの量を36.0gとした(このとき官能基比は1.5であった)こと以外は実施例1と同様に共重合および洗浄を行った。
[比較例1]
共重合時に使用する(X)ポリフェニレンスルフィド種をX−4とし、(Y)ポリオルガノシロキサン種を(Y−2)とし、その量を7.3gとした(このとき官能基比は5.0であった)こと以外は実施例1と同様に共重合および洗浄を行った。
[比較例2]
共重合時に使用する(X)ポリフェニレンスルフィド種をX−5とし、(Y−2)ポリジメチルシロキサンの量を58.6gとした(このとき官能基比は5.0であった)こと以外は比較例1と同様に共重合および洗浄を行った。
[比較例3]
共重合時に使用する(X)ポリフェニレンスルフィド種をX−6とし、(Y−2)ポリジメチルシロキサンの量を36.8gとした(このとき官能基比は5.0であった)こと以外は比較例1と同様に共重合および洗浄を行った。
[比較例4]
ここでは、特開昭64−45433号公報に記載されている方法に準じて、アミノ基を末端に有するポリアリーレンスルフィドとアミノ基を末端に有するポリオルガノシロキサン共重合につき記す。
撹拌翼付100ミリリットルオートクレーブに、(X−6)ポリフェニレンスルフィド50.0g、NMPを138g、参考例7記載の官能基を有する(Y−1)ポリジメチルシロキサン3.05g、ビスフェノールA二無水物5.09gを加えて反応混合物を調製し、加熱還流した。水を共沸除去した後、オートクレーブ内を密封して3回窒素置換した後に、240rpmで攪拌しながら、ヒートジャケットを用いて約15分かけて反応混合物を250℃に昇温した。その後反応温度250℃で60分反応させた後に、オートクレーブを急冷させることにより生成物を得た。
得られた生成物を回収するため、重合物を50℃のヘキサンで15分洗浄、ろ過操作を2回行い、さらに、50℃のメタノールで15分洗浄、ろ過操作を2回行い、70℃の水で15分洗浄、ろ過操作を1回行い、ポリフェニレンスルフィドブロック共重合体を得た。
得られたポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の重合条件、およびポリマー物性の測定結果を表2に示す。
上記実施例と比較例の結果を比較して説明する。
表2の、実施例1〜3では、末端に酸無水物基を有する(X−1)、(X−2)、(X−3)のポリフェニレンスルフィドを用いてアミノ基を有する(Y−1)ポリジメチルシロキサンと共重合を行った結果、重量平均分子量、PDMS単位含有量が高く、ガラス転移温度が80℃以下のポリフェニレンスルフィドブロック共重合体が得られた。また、180℃×300hの長期熱処理を行っても分子量保持率は85%以上と高い値が得られた。その結果、得られたプレスフィルムは柔軟で自立性がよく、引張弾性率、引張伸度に優れるばかりか、180℃×300hの長期熱処理後も柔軟で自立性のよいフィルム形状を保っていた。
一方、比較例1では、汎用的な方法によって製造された(X−4)ポリフェニレンスルフィドを用いてエポキシ基を有する(Y−2)ポリジメチルシロキサンと共重合を行ったため、ポリフェニレンスルフィドの官能基量が少なく、ブロック共重合は十分に進行しなかった。そのため、得られたポリフェニレンスルフィドブロック共重合体のPDMS単位含有量、重量平均分子量は共に低く、得られたプレスフィルムは脆性を示した。
比較例2では、末端にカルボキシル基を多く有する(X−5)のポリフェニレンスルフィドを用いてエポキシ基を有する(Y−2)ポリジメチルシロキサンと共重合を行った結果、重量平均分子量、PDMS単位含有量が高く、ガラス転移温度が80℃以下のポリフェニレンスルフィドブロック共重合体が得られた。しかし、カルボキシル基とエポキシ基からなる結合の耐熱性が低いため、180℃×300hの長期熱処理を行うと、分子量保持率は43%と低い値であった。その結果、得られたプレスフィルムは、長期熱処理前は柔軟で自立性がよく、引張弾性率、引張伸度に優れていたものの、180℃×300hの長期熱処理後にフィルムの脆化が認められた。
比較例3では、末端にアミノ基を多く有する(X−6)のポリフェニレンスルフィドを用いてエポキシ基を有する(Y−2)ポリジメチルシロキサンと共重合を行った結果、PDMS単位含有量が高く、ガラス転移温度が80℃以下を示したものの、(X−6)のポリフェニレンスルフィド本来の分子量が低いために、得られたポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の分子量は低かった。また、アミノ基とエポキシ基からなる結合の耐熱性が低いため、180℃×300hの長期熱処理を行うと、分子量保持率は31%と低い値であった。その結果、得られたプレスフィルムは一定の自立性しか有さないばかりか、180℃×300hの長期熱処理後はフィルムの脆化が認められた。
比較例4では、末端にアミノ基を多く有する(X−6)のポリフェニレンスルフィドと、アミノ基を有する(Y−2)ポリジメチルシロキサンとビスフェノール二無水物の共重合を行った結果、(X−6)のポリフェニレンスルフィド本来の分子量が低いために、得られたポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の分子量は低かったばかりか、剛直なビスフェノール成分がポリマー主鎖に導入されたため、ガラス転移温度は108℃と高く、柔軟性は得られなかった。また、180℃×300hの長期熱処理を行うと、ビスフェノール二無水物骨格に由来する分解が一部に生じた結果、分子量保持率は50%と低い値であった。その結果、得られたプレスフィルムは一定の自立性しか有さないばかりか、180℃×300hの長期熱処理後はフィルムの脆化が認められた。