JP2018131638A - 高張力鋼材 - Google Patents

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孝浩 加茂
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玄樹 猪狩
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修一 中村
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Kazuki Kasano
和輝 笠野
憲孝 細谷
Noritaka Hosoya
憲孝 細谷
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Abstract

【課題】工業的な規模での生産が容易であり、表面部からの耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する高張力鋼材を提供する。【解決手段】C:0.01〜0.12%,Si:0.05〜0.50%,Mn:0.4〜2.5%,P:0.05%以下,S:0.001〜0.010%,Al:0.003%以下,Ti:0.005〜0.03%,N:0.0015〜0.010%およびO:0.0005〜0.0050%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、PPの値が0.080%以上を満足し、鋼材の最表面から100μmまでの位置である鋼材表面部のミクロ組織において、フェライトの分率が10〜50%、ベイナイトの分率が40%以上で、かつ、平均粒径が9μm以下であり、鋼中に、Ti酸化物の周囲にMnSが存在する複合介在物を含み、複合介在物の断面におけるMnSの面積率が10%以上90%未満であり、複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%以上であり、粒径0.5〜5.0μmの複合介在物の個数密度が10〜100個/mm2である、高張力鋼材である。【選択図】なし

Description

本発明は、高張力鋼材に関し、具体的には、耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する高張力鋼材に関する。
地震の震度自体が予期していたレベルを上回るレベルであれば、鋼構造物にも大きな被害がもたらされることは良く知られている。しかし、多数の破壊現場での観察により、鋼構造物への被害は溶接の不具合など人為的な原因もなかったとは言い切れない。
土木・建築分野では大地震に強い構造形式に関する研究が盛んに行われているが、人為的な不具合なども考慮すれば、鋼材特性にその安全性確保機能を持たせることも重要である。なお、土木・建築分野で適用される材料は、主に日本工業規格(JIS)で規定された規格材である。
具体的には、橋梁分野では、JIS G 3106(2004)に規定される「溶接構造用圧延鋼材」が、また、建築分野では上記のJIS G 3106(2004)に加えて、JIS G 3136(1994)に規定される「建築構造用圧延鋼材」が、主に用いられる。
しかし、これらの鋼材の耐破壊特性は、0℃あるいは−5℃におけるシャルピー特性としての「吸収エネルギー」のみを保証するものであり、地震負荷を受けた際の挙動に関しては極めて平凡なものでしかない。したがって、現下の状況からすれば、鋼材に対する先進的な機能付与のニーズは強く、こうした高機能鋼材が適用あるいは規格化される機運は高まっていると考えられる。
なお、兵庫県南部地震で起こった鋼構造の破壊形態に関する特徴の一例が、非特許文献1に報告されている。神戸市港湾幹線(ハーバーウェイ)P75橋脚の破壊事故について詳細に調査したものである非特許文献1には、P75橋脚は、隅角部に存在する溶接止端部あるいは母材から延性き裂が発生して進展し、脆性破壊に至ったことが示されている。
この例に示されるように、橋脚の地震時の破壊事故は、脆性破壊という極めて壊滅的な破壊であるが、その破壊の前段階として延性き裂の存在がある。したがって、構造物の地震時の安全性を高めるひとつのポイントとして、耐延性き裂発生特性を向上させることが挙げられる。なお、延性き裂は、鋼板など鋼材表面部から発生するものであり、表面部での耐延性き裂発生特性が構造物の安全性に対して重要な位置を占めていると考えられる。
一般に、常温で丸棒を引張試験した場合などにも延性き裂が発生して破壊するが、この場合の破壊は、通常最も応力多軸度の高い試験片の中心部から延性き裂が発生し、それが連結してき裂が進展した後に破断する形式であり、実構造物で見られる表面から発生する延性破壊とは全く異なる。
延性破壊特性に着目した技術は、例えば、特許文献1〜7に開示されている。
特許文献1には、ミクロ組織が実質的にフェライト組織、パーライト組織およびベイナイト組織より構成される、アレスト特性および延性破壊特性に優れた鋼板が開示されている。この鋼板の両表面部および中心部の三層に分けたとき、両表面部は板厚の各5%以上に亘って、円相当粒径:7μm以下の面積、アスペクト比:2〜4のフェライト粒を有するフェライト組織を50%以上有し、かつこの部分のベイナイト分率が5〜25%以下である層により構成され、中心部は板厚の50%以上に亘って、円相当平均粒径:4〜10μm、アスペクト比:2以下のフェライト粒を有し、この部分のベイナイト分率が10%以下である層により構成されている。
特許文献2には、ミクロ組織が実質的にフェライト組織およびパーライト組織より構成される、アレスト特性および延性破壊特性に優れた鋼板が開示されている。この鋼板の両表面部および中心部の三層に分けたとき、両表面部は板厚の各5%以上に亘って、円相当粒径:5μm以下の面積、アスペクト比:2〜4のフェライト粒を有するフェライト組織を50%以上有する層により構成され、中心部は板厚の50%以上に亘って、円相当平均粒径:4〜10μm、アスペクト比:2以下のフェライト粒を有する層により構成されている。
特許文献3には、公称応力−公称歪み曲線における降伏後の降伏棚が1%以上で、かつ公称応力が最大となる公称歪み(εu)から求めた加工硬化指数(n=ln(1+εu))が0.15以上である、高歪負荷状態での耐延性破壊特性に優れた鋼材が開示されている。
特許文献4には、フェライトと第二相の混合組織からなり、冷間塑性歪のない状態で降伏伸びが0.5%以下で、さらに好ましくは降伏比が75%以上である、延性亀裂発生特性に優れた構造用鋼材が開示されている。
特許文献5には、圧延途中の厚みをtとしたとき、板厚方向に両表面から0.05t以上0.15t以下の表層領域に対して、Ar変態点以上900℃以下の未再結晶温度域においてε≧0.5となる相当塑性歪εを付与し、その後表層領域の残留累積相当塑性歪量εrがεr≧0.5を満足する時間内に、両表面から板厚(1/4)t位置より芯部側の内部領域の温度をAr変態点以上に維持しつつ、表層領域を2〜15℃/秒の冷却速度で450〜650℃の温度域となるまで冷却し、次いで、圧延を再開し、内部領域に対して0.35≦εr<0.55の残留累積相当塑性歪εrを付与する圧延を行い、Ar変態点以上で圧延を完了するとともに、加工発熱および内部顕熱によって表層領域をAr変態点以下まで複熱させ、その後平均冷却速度1〜10℃/秒で冷却を行う、アレスト特性および延性破壊特性に優れた厚鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献6に、C:0.04〜0.16%(本明細書では特に断りがない限り化学組成に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下を含有し、必要に応じて、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、V:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:0.005%以下の一種または二種以上を含有し、残部が実質的にFeからなるとともにCeq≦0.40である鋼を、950〜1200℃に加熱後、Ar点以上で累積圧下率50%以上の圧延を行い、その後直ちにAr点以上から10℃/秒以上の冷却速度で加速冷却を開始し、(Ar−30℃)〜(Ar−100℃)において一旦冷却を停止し、Pcmを「C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B(%)」として、(0.2×t/Pcm)秒間から(0.5×t/Pcm)秒間保持した後、再び500℃以上まで10℃/秒以上で加速冷却する、延性および疲労亀裂伝播特性に優れた鋼材の製造方法が開示されている。
さらに、特許文献7には、C:0.01〜0.12%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.4〜2%、P:0.05%以下、S:0.003%以下、Al:0.002〜0.050%およびN:0.0015〜0.01%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、PPの値(=(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B)が0.08%以上を満足し、鋼材表面部のミクロ組織において、フェライトの分率が10〜40%、ベイナイトの分率が50%以上で、かつ、平均粒径が5μm以下である、耐延性き裂発生特性に優れる高張力鋼材が開示されている。
特開2000−328177号公報 特開2000−309851号公報 特開2002−30379号公報 特開2003−221641号公報 特開2003−221619号公報 特開2005−314811号公報 特開2008−202119号公報
岡下勝彦、大南亮一、道場康二、山本晃久、富松実、丹治康行、三木千壽:土木学会論文集、No.591/I−43(1998)243頁
前述の特許文献1,2および5により開示された発明における「耐延性破壊特性」は、JIS 1B号試験片である原厚ままの全厚引張試験片を用いて評価する。しかし、通常、全厚引張試験を行うと、板厚中心部から延性き裂が発生する、いわゆるカップアンドコーン型で破壊する。このため、上記の特許文献1,2および5により開示された発明は、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野において必ずしも適用できるとはいえない。
特許文献3により開示された発明は、表面切欠き付き試験体を用いた引張試験で耐延性破壊特性を評価する。しかし、表面部に切欠きが存在している場合には、延性き裂の発生点は板厚内部となる。このため、特許文献3により開示された発明も、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野において必ずしも適用できるとはいえない。
特許文献4により開示された発明は、0℃における延性き裂発生時のCTOD(弾塑性破壊靱性)が0.40mm以上になることをもって耐延性き裂発生特性に優れるとする。そして、ASTM E1820−2000に準拠した1TCTコンパクト破壊靱性試験片を用いた破壊靱性試験によって延性き裂発生時のCTODを測定する。しかし、全厚のコンパクト試験の場合には、初期亀裂が板厚を貫通して導入されているため、延性き裂の発生位置は板厚中心部になる。このため、特許文献4により開示された発明も、特許文献1〜3,5により開示された発明と同様に、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野において必ずしも適用できるとはいえない。
特許文献6により開示された発明は、JIS Z 2204の曲げ試験片を用いて曲げ試験を行ったり、鋼板表層部よりJIS Z 2202のシャルピー衝撃試験片を表面ノッチとなるように採取し、3点曲げ負荷を与えた時にノッチ底より延性き裂が0.1mm発生した時点での押し込み変位量を測定して延性を評価する。このため、特許文献6により開示された発明は、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野において適用可能である。
しかし、板厚内で均質かつ微細なフェライトとミクロ組織中に分散して存在する微細構造パーライトを主体とするミクロ組織を有する鋼材を得るためには、
(a)Ar点以上から(Ar−30℃)〜(Ar−100℃)を10℃/秒以上の冷却速度で加速冷却することにより、フェライトの再結晶粗大化を抑制し微細フェライトを生成させる、
(b)(Ar−30℃)〜(Ar−100℃)において一旦冷却を停止して(0.2×t/Pcm)秒間から(0.5×t/Pcm)秒間保持することにより、鋼板表面と鋼板内部の温度を均一化し、板厚方向に均質なミクロ組織、機械的性質を得るとともに、圧延方向断面(L面)や幅方向断面(C面)で見られるバンド状の粗大パーライトの生成を抑制する、
(c)再び500℃以上まで10℃/秒以上で加速冷却することにより、微細な構造を有するパーライト組織を分散生成させる、
といった複雑な加速冷却工程を経る必要がある。このため、特許文献6により開示された技術は、工業的な製造工程での生産性という観点から、必ずしも現実的なものとはいえない。
一方、特許文献7により開示された発明は、工業的な規模での生産が可能であり、鋼構造分野において好適な高張力鋼材を提供するものである。しかし、靭性に関しては母材のシャルピー衝撃試験の結果が示されるにとどまり、溶接したときの溶接熱影響部(本明細書では「HAZ」という)においても良好な靭性を得られるかは不明である。
本発明は、従来の技術が有するこの課題に鑑みてなされたものであり、工業的な規模での生産が容易であり、耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する高張力鋼材を提供することを目的とし、詳しくは、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野に用いられるのに好適な、特に、地震負荷を受ける橋梁や建築などの地上構造物分野に用いられるのに好適な、表面部からの耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する高張力鋼材を提供することを目的とする。
延性き裂の発生に関する研究は、古くからなされているが、鋼材内部から発生する延性き裂に関する研究が主体であった。
例えば、材料学的因子の解明事例として、G.LeRoyらは、「A Model of Ductile Fracture Based on the Nucleation and Growth of Voids」(Acta Metall.、29(1981)、p.1509)において、引張試験による破断延性と炭化物体積率との関係を明らかにしている。これによると、硬質第二相の体積割合が大きくなると延性は低下する。
また、力学的な観点から、J.W.Hancockらが、「On the Mechanisms of Ductile Failure in High-Strength Steels Subjected to Multi-Axial Stress-States」(Journal of Mech. Phys. Solids、24(1976)、p.147)において、延性き裂発生の限界歪は応力多軸度の影響を大きく受けることを明らかにしている。つまり、応力多軸度が高くなる部位では、限界歪は急激に低下する。
一方、表面部からの延性き裂発生に関しては、岡本らが、「高張力鋼の延性および延性破壊過程に及ぼすMnS介在物の影響」(鉄と鋼、63(1977)、1878頁)において、不純物元素であるSの含有量が高くなると表面部からの延性き裂が発生し易くなることを明らかにしている。
さらに、力学的には、表面部からの延性き裂の発生は、内部からの延性き裂の発生の場合と同様に、応力多軸度と相当塑性歪で整理されている。
しかし、近年、M.Toyodaらが、「Ductile Fracture Initiation Behavior of Pipe under A Large Scale of Cyclic Bending」(Pipeline Technology、II(2000)、p.87)において、表面部からの延性き裂の発生は応力多軸度依存型の限界条件を示すものではなく、相当塑性歪一定型の限界条件で良好な整理がなされることを明らかにしている。
そこで、本発明者らは、上述の課題の解決のためには、鋼材表面部の延性き裂発生特性を評価する手法を確立することが必要であるとの考えの下、多数の鋼材を用いて詳細な検討を行った。
その結果、先ず、鋼材表面部の延性き裂発生特性に対して、M.Toyodaらが提唱した上記の相当塑性歪一定型の基準が好適であることが明らかになった。
そこで、次に、種々の化学組成を有する低炭素合金鋼材の表面から、0.1mmRの鋭い環状切欠きを設けた丸棒引張試験を採取した。図1は、耐延性き裂発生特性の調査のために用いた環状切欠きを設けた丸棒引張試験片の形状を示す説明図であり、図1(a)は丸棒引張試験片の全体を示し、図1(b)は環状切欠き部を示す。
この丸棒引張試験に単調に引張載荷した後、様々な負荷レベルで途中止めを行うことにより延性き裂が発生した時点での負荷レベルを把握し、また、この試験と並行してFEM解析を行い、このFEM解析によって延性き裂が発生した負荷レベルでの切欠き先端における相当塑性歪(以下、この延性き裂発生時の相当塑性歪を延性き裂発生の「限界歪」という。)を求めた。その結果、以下に列記の知見(A)〜(F)が得られた。
(A)最も汎用的に用いられているフェライトとパーライトの混合組織を有する鋼材であるいわゆるフェライト・パーライト鋼材では、表面部のミクロ組織を極めて細粒にした場合であっても、表面部からの延性き裂発生の限界歪は100%程度である。
(B)高溶接性高強度鋼材として一般に用いられるマルテンサイト組織、あるいは焼き戻しマルテンサイト組織からなる鋼材では、初期転位密度が高いためか、表面部からの延性き裂発生の限界歪はさらに低く、高くても90%程度である。
(C)鋼中に含まれる硬質介在物の量が少ないほど、表面部からの延性き裂発生の限界歪が大きく、耐延性き裂発生特性が良好である。
(D)硬質相と軟質相からなる複合組織において、耐延性き裂発生特性を改善するための硬質相と軟質相の好適な割合が存在し、硬質相が軟質相より多く存在する場合の表面部からの耐延性き裂発生特性は良好である。これは、硬質相が連結して力を伝達することと関係があると考えられる。一方、軟質相が複合組織の殆どを占める場合には、表面部からの延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性が低い。これは、硬質相近傍の軟質相組織において歪集中が顕著化するためと考えられる。
(E)硬質相と軟質相からなる複合組織鋼材の場合には、その粒径が小さいほうが表面部からの延性き裂発生の限界歪が大きく、耐延性き裂発生特性が良好である。
(F)硬質相と軟質相からなる複合組織鋼材の場合には、硬質相と軟質相の硬さ比が大きいほうが表面部からの延性き裂発生の限界歪が大きく、耐延性き裂発生特性が良好である。
そこで、工業的な規模での生産を念頭に、さらに検討を加えた結果、以下に列記の知見(G)〜(I)が得られた。
(G)硬質相と軟質相からなる複合組織鋼材において、表面部からの耐延性き裂発生特性を改善するために硬質相としてパーライトやマルテンサイトの割合を高めると、鋼材としての基本的な特性、すなわち、シャルピー衝撃特性に代表される耐脆性破壊特性が顕著に低下する。したがって、硬質相としてはベイナイトを用いるのがよい。
(H)硬質相としてのベイナイト、および軟質相としてのフェライトを含むミクロ組織に占めるベイナイトとフェライトの各割合が特定の範囲にあり、しかも、フェライトとベイナイトの粒径が小さい場合、極めて良好な表面部からの耐延性き裂発生特性が確保される。この場合、第3相として含まれる他の相が表面部からの延性き裂発生の限界歪に及ぼす影響は極めて小さい。
(I)式中の元素記号を、その元素の質量%での含有量として、「PP=(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B」で表されるPPの値が0.080以上あれば、鋼材表面部において、ベイナイトの分率が40%以上であるミクロ組織を確実に得ることができる。
一方、本発明者らは、低温度域での鋼材の使用も考慮して種々の検討を行った。
知見(C)で述べたように、耐延性き裂発生特性は鋼中の硬質介在物の量が少ないほど良好となる。このため、鋼中に介在物を積極的に導入することは好ましくない。しかし、耐延性き裂発生特性は鋼材表面部のミクロ組織に大きく依存することから、鋼中の介在物は延性き裂発生特性に大きくは影響しないと考え、介在物に着目して検討を行った。
HAZ靱性を確保する手段としては、結晶粒を微細化させることにより、破壊単位を減少させることが有効である。結晶粒を微細化させる手法として、従来、
(i)旧オーステナイト粒界成長をTiNなどで抑制するピン留め効果を活用する手法、および
(ii)旧オーステナイト粒内に存在する介在物を起点に微細な粒内フェライトを成長させ、結晶粒微細化を図る手法
が提案されている。本発明者らは、(ii)の手法に着目した。
溶接時に旧オーステナイト粒内にて粒内フェライトを効果的に成長させるためには、粒内フェライトの生成核となる介在物の制御が必須である。特に、板厚が厚い厚鋼板では、表面および内部での冷却速度の差異により、板厚方向での介在物の組成および個数の制御が困難であるため、粒内フェライトの生成核となる介在物を制御する必要がある。そこで、粒内フェライトの成長のメカニズムを検討した結果、下記(I)〜(III)が判明した。
(I)製鋼段階でTi系酸化物の周辺にMnSが析出することによりTi系酸化物とMnSとを含有する複合介在物が生成させれば、MnSと母材のマトリクス界面にMnが欠乏した領域が形成される。このMn欠乏領域(以下、「初期Mn欠乏領域」という。)では、フェライト成長開始温度が大きく上昇する。そのため、母材を溶接した場合、その冷却過程において、このMn欠乏領域から粒内フェライトが優先的に成長する。
(II)母材の溶接を行うと、Ti系酸化物近傍に存在する母材のマトリクス中のMnが拡散してTi系酸化物の内部に存在する原子空孔に吸収される。この結果、溶接により熱履歴を受けた母材のHAZとTi系酸化物の界面にMnが欠乏した領域が形成される。このMn欠乏領域(以下、「溶接Mn欠乏領域」という。)も粒内フェライトの優先成長の起点となる。
(III)上記(I)及び(II)の両作用によりHAZのフェライト量を確保できるため、必要なHAZの低温靭性を得ることができる。
本発明者らは、以上のメカニズムに基づき、介在物に複合するMnS量および個数密度を制御することにより、効果的に粒内フェライトを析出させることができることを知見した。さらに、本発明者らは、上記結晶粒微細化効果を得るためには、鋼中の介在物が以下に列記の要件[1]〜[3]を満たす必要があることを知見した。
[1]鋼中にTi酸化物の周囲にMnSを有する複合介在物であり、複合介在物の断面におけるMnSの面積率が10%以上90%未満
[2]複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%以上
[3]粒径0.5〜5.0μmの複合介在物の個数密度が10〜100個/mm
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、以下に列記の通りである。
(1)C:0.01〜0.12%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.4〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.001〜0.010%、Al:0.003%以下、Ti:0.005〜0.03%、N:0.0015〜0.010%およびO:0.0005〜0.0050%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記(1)式により表されるPPの値が0.080%以上を満足し、
鋼材の最表面から100μmまでの位置である鋼材表面部のミクロ組織において、フェライトの分率が10〜50%、ベイナイトの分率が40%以上で、かつ、平均粒径が9μm以下であり、
鋼中に、Ti酸化物の周囲にMnSが存在する複合介在物を含み、
前記複合介在物の断面における前記MnSの面積率が10%以上90%未満であり、
前記複合介在物の周長に占める前記MnSの割合が10%以上であり、
粒径0.5〜5.0μmの前記複合介在物の個数密度が10〜100個/mmである
ことを特徴とする、耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する高張力鋼材。
PP=(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
ここで、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
なお、「粒径」は、組織間の方位差が15°以上である大傾角粒界を全て「粒界」とし、その「粒界」で囲まれた領域を1つの「粒」とした場合の、2次元的な観察面における「粒」の最も長い径と直交する方向の粒界間距離であり、「平均粒径」は、20個以上の粒の粒径をランダムに計測した場合の算術平均値である。
(2)Feの一部に代えて、Cu:0.8%以下、Ni:1%以下、V:0.1%以下およびB:0.002%以下のうちの1種以上を含有する1項に記載された高張力鋼材。
(3)Feの一部に代えて、Cr:1%以下を含有する1項または2項に記載された高張力鋼材。
(4)Feの一部に代えて、Mo:0.8%以下およびNb:0.1%以下のうちの1種または2種を含有する1項から3項までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
(5)Feの一部に代えて、Ca:0.004%以下を含有する1項から4項までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
(6)Feの一部に代えて、Mg:0.006%以下を含有する1項から5項までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
(7)Feの一部に代えて、希土類元素:0.004%以下を含有する1項から6項までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
本発明における「ベイナイト」とは、ラス状ベイニティックフェライトの界面に、セメンタイト、もしくはいわゆる「MA constituent」、またはその両者が存在した組織であり、ベイニティックフェライトの内部にセメンタイトが点列状に配列する、いわゆる下部ベイナイトを含むものを意味し、上記の組織が焼戻しされた組織も含む。なお、板厚が厚く冷却速度が小さい場合や、水冷停止温度が高く水冷停止後の空冷時間が長い場合には、ベイニティックフェライトの合体によってその見かけ上の形態がラス状から粒状に変化するが、この場合の組織も「ベイナイト」に含まれる。
上記「MA constituent」とは、炭素が濃縮した残留オーステナイトもしくはマルテンサイト、または両者の混合した組織である。
希土類元素(以下、「REM」という。)は、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMの中の1種または2種以上の元素の合計含有量を意味する。
本発明に係る高張力鋼材は、工業的な規模での生産が容易であり、耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する。詳しくは、本発明に係る高張力鋼材は、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野に用いられるのに好適な、特に、地震負荷を受ける橋梁や建築などの地上構造物分野に用いられるのに好適な、表面部からの耐延性き裂発生特性に優れ、かつ良好な母材およびHAZ靱性を有する。
図1は、耐延性き裂発生特性の調査のために用いた環状切欠きを設けた丸棒引張試験片の形状を示す説明図であり、図1(a)は丸棒引張試験片の全体を示し、図1(b)は環状切欠き部を示す。
以下、本発明を説明する。
1.化学組成
はじめに必須元素を説明する。
(1−1)C:0.01〜0.12%
Cは、母材の強度を確保するのに有効な元素である。しかし、C含有量が0.01%未満では母材に必要な強度を確保できないだけでなく、溶融線(以下、「FL」という。)でのラス形成が不十分になってFL近傍のHAZの靱性も低下する。一方、C含有量が0.12%を超えると、HAZ、なかでもFL近傍のHAZの靱性劣化が著しくなる。したがって、C含有量は、0.01〜0.12%である。C含有量の下限は好ましくは0.03%であり、C含有量の上限は好ましくは0.10%である。
(1−2)Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸剤として有効な元素であり、0.05%以上含有する。しかし、Siは、焼き入れままマルテンサイトの焼戻し過程に影響を及ぼし、含有量で0.50%を超える過剰なSiは、溶接後の冷却過程において過飽和に固溶しているCのマルテンサイト中からのセメンタイトへの分解析出反応を抑制して、いわゆる自己焼戻し(オートテンパー)を遅延させたり、島状マルテンサイトを増加させたりして、溶接部の靱性を低下させる。さらに、介在物量の増加を通じて母材靱性も低下させる。このため、Si含有量は、0.05〜0.50%であるが、溶接部の靱性向上の観点からはできるだけ少ないほうが好ましく、好ましくは0.05〜0.40%である。
(1−3)Mn:0.4〜2.5%
Mnは、鋼材の強度を高めるのに有効な元素であるとともに、HAZにおいて粒界における粗大なフェライトの成長を抑制する。この効果を得るために、Mn含有量は0.4%以上である。しかし、Mn含有量が2.5%を超えると、焼入れ性を過剰に増加させ溶接性およびHAZ靱性を劣化させる。さらに、Mnは中心偏析を助長する元素として知られているので、中心偏析抑制の観点からは、Mn含有量は2.5%を超えるべきではない。このため、Mnの含有量は0.4〜2.5%である。Mn含有量の下限は、好ましくは1.0%であり、より好ましくは1.2%である。また、Mn含有量の上限は、好ましくは2.2%であり、より好ましくは2.0%である。
(1−4)P:0.05%以下
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在し、P含有量が0.05%を超えると、顕著な延性き裂発生特性の劣化を伴う。したがって、P含有量は、0.05%以下であり、好ましくは0.035%以下である。
(1−5)S:0.001〜0.010%
Sは、MnSを複合析出させるために有効な元素である。そのため、S含有量は0.001%以上である。一方、S含有量が0.010%を超えると、溶接割れ起点となるMnS単体の析出物を生成する。よって、S含有量は、0.001〜0.010%であるが、HAZの低温靱性を確保する観点から、S含有量の下限は好ましくは0.002%であり、S含有量の上限は好ましくは0.005%である。
(1−6)Al:0.003%以下
Alは、不純物元素であり、Al含有量が増加することによりTi系酸化物の生成が抑制される。そのため、Al含有量は0.003%以下である。
(1−7)Ti:0.005〜0.03%
Tiは、窒化物を生成して結晶粒の粗大化を抑制するとともに、粒内変態核となる介在物の生成に必要である。しかし、Ti含有量が0.005%未満では、この作用が奏されず、またTi含有量が0.03%を超えると、母材靱性および溶接部靱性に悪影響を及ぼす。よって、Ti含有量は0.005〜0.03%である。Ti含有量の下限は好ましくは0.010%である。Ti含有量の上限は、好ましくは0.025%であり、より好ましくは0.020%である。
(1−8)N:0.0015〜0.010%
NはAlNやTiNの形成を通じてHAZ組織を微細化するので、N含有量は0.0015%以上である。しかし、N含有量が0.010%を超えると、析出物の生成を通して耐延性き裂発生特性が低下する。したがって、N含有量は、0.0015〜0.010%である。N含有量の下限は好ましくは0.0020%であり、N含有量の上限は好ましくは0.0060%である。
(1−9)O:0.0005〜0.0050%
O(酸素)は、フェライト生成核となる酸化物の生成に有効である。一方、Oは多量に含有すると清浄度の劣化が著しくなるため、母材、溶接金属部およびHAZともに実用的な靱性確保が困難になる。したがって、O含有量は0.0005〜0.0050%である。O含有量の下限は好ましくは0.0008%であり、O含有量の上限は好ましくは0.0035%である。
(1−10)PPの値:0.080以上
上記(1)式により表されるPPの値は、鋼材表面部におけるベイナイトの分率に影響を及ぼす指標であり、PPの値が0.080以上であれば、鋼材表面部において、ベイナイトの分率が40%以上という所望のミクロ組織を確実に得ることができる。したがって、(1)式で表されるPPの値は0.080%以上である。なお、PPの値の上限は、マルテンサイト変態を防止しベイナイト分率を確保するために、好ましくは0.15である。
上記の「ベイナイト」は、ラス状ベイニティックフェライトの界面に、セメンタイト若しくはいわゆる「MA constituent」、またはその両者が存在した組織であり、ベイニティックフェライトの内部にセメンタイトが点列状に配列するいわゆる「下部ベイナイト」を含み、上記の組織が焼戻しされた組織も含み、さらに、板厚が厚く冷却速度が小さい場合や、水冷停止温度が高く水冷停止後の空冷時間が長い場合には、ベイニティックフェライトの合体によってその見かけ上の形態がラス状から粒状に変化した組織も含むことは上述したとおりである。
上記の理由から、本発明に係る耐延性き裂発生特性に優れる高張力鋼材の化学組成は、C、Si、Mn、P、S、Al、TiおよびNを上述した範囲で含有し、残部はFeおよび不純物からなり、(1)式で表されるPPの値が0.080以上を満足する。
不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
なお、本発明に係る耐延性き裂発生特性に優れる高張力鋼材は、そのFeの一部に代えて、必要に応じてさらに、
第1群:Cu:0.8%以下、Ni:1%以下、V:0.1%以下およびB:0.002%以下のうちの1種以上
第2群:Cr:1%以下
第3群:Mo:0.8%以下およびNb:0.1%以下のうちの1種以上
第4群:Ca:0.004%以下
第5群:Mg:0.006%以下
第6群:REM:0.004%以下
の各グループの元素、すなわち、第1〜6群のグループの元素の1種以上を任意元素として選択的に含有してもよい。以下、これらの任意元素を説明する。
第1群の元素であるCu、Ni、VおよびBは、母材の強度を高めるので、含有させてもよい。以下、第1群の各元素を説明する。
(1−11)Cu:0.8%以下
Cuは、母材の強度を高めるのに有効な元素である。この効果を確実に得るには、Cu含有量は好ましくは0.05%以上である。しかし、Cu含有量が0.8%を超えると、Ac変態点以下の温度に加熱されたHAZの靱性を劣化させる。したがって、Cu含有量は0.8%以下である。Cu含有量の下限はより好ましくは0.10%であり、Cu含有量の上限は好ましくは0.40%である。
(1−12)Ni:1%以下
Niは、母材の強度向上に有効な元素であり、この効果を確実に得るには、Ni含有量は好ましくは0.05%以上である。しかし、Niは高価な元素であり、1%を超えて多量に含有すると経済性を大きく損なう。したがって、Ni含有量は、1%以下である。Ni含有量の下限はより好ましくは0.20%であり、Ni含有量の上限は好ましくは0.50%である。
(1−13)V:0.1%以下
Vは、主に焼戻し時の炭窒化物の析出により母材の強度を向上させる。この効果を確実に得るには、V含有量は好ましくは0.005%以上である。しかし、V含有量が0.1%を超えても、母材の強度向上効果が飽和するうえに、靱性の低下をきたす。したがって、V含有量は0.1%以下である。V含有量の下限はより好ましくは0.020%であり、V含有量の上限は好ましくは0.070%である。
(1−14)B:0.002%以下
Bは、母材の強度を高めるのに有効な元素であり、この効果を確実に得るために、B含有量は好ましくは0.0001%以上である。しかし、B含有量が0.002%を超えると、粗大な硼化物が析出して靱性の低下を招く。したがって、B含有量は、0.002%以下である。B含有量の下限はより好ましくは0.0005%であり、B含有量の上限は好ましくは0.0015%である。
なお、Cu、Ni、VおよびBは、そのうちのいずれか1種を単独で、もしくは2種以上を複合して、含有することができる。
次に、第2群のCrを説明する。
(1−15)Cr:1%以下
Crは、耐炭酸ガス腐食性を高め、また、焼入れ性を高める。これらの効果を確実に得るために、Cr含有量は好ましくは0.05%以上である。しかし、Cr含有量が1%を超えると、他の元素が本発明で規定する条件を満たしていても、HAZの硬化の抑制が難しくなるうえに耐炭酸ガス腐食性の向上効果も飽和する。したがって、Cr含有量は1%以下である。Cr含有量の下限はより好ましくは0.10%であり、Cr含有量の上限は好ましくは0.60%である。
第3群の元素であるMoおよびNbは、母材の強度と靱性を高める作用を有するので、この効果を得るために、含有してもよい。以下、第3群の各元素を説明する。
(1−16)Mo:0.8%以下
Moは、母材の強度と靱性を向上させる。この効果を確実に得るには、Mo含有量は好ましくは0.05%以上である。しかし、Mo含有量が0.8%を超えると、特にHAZの硬さが高くなって、靱性と耐硫化物応力割れ性を損なう。したがって、Mo含有量は0.8%以下である。Mo含有量の上限は好ましくは0.50%である。
(1−17)Nb:0.1%以下
Nbは、組織を微細化して、母材の強度と靱性を向上させる。これらの効果を確実に得るには、Nb含有量は好ましくは0.003%以上である。しかし、Nb含有量が0.1%を超えると、粗大な炭化物、窒化物や炭窒化物を形成して、靱性の低下を招く。したがって、Nb含有量は0.1%以下である。Nb含有量の下限はより好ましくは0.005%であり、Nb含有量の上限は好ましくは0.040%である。
なお、MoおよびNbは、そのうちのいずれか1種を単独で、または2種を複合して、含有することができる。
次に、第4群の元素であるCaを説明する。
(1−18)Ca:0.004%以下
Caは、溶接割れや水素誘起割れを抑制する。すなわち、Caは、鋼中のSおよびOと反応して溶鋼中で酸硫化物(オキシサルファイド)を形成するが、この酸硫化物はMnSなどと異なり、圧延加工で圧延方向へ延伸することがなく圧延後も球状で存在するため、延伸した介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れが抑制される。この効果を確実に得るには、Ca含有量は好ましくは0.0005%以上である。しかし、Ca含有量が0.004%を超えると、靱性の劣化を招くことがある。したがって、Ca含有量は0.004%以下である。Ca含有量の上限は好ましくは0.0020%である。
次に、第5群の元素であるMgを説明する。
(1−19)Mg:0.006%以下
Mgは、微細なMg含有酸化物を生成し、オーステナイト粒を微細化する。この効果を確実に得るには、Mg含有量は好ましくは0.0001%以上である。しかし、Mg含有量が0.006%を超えると、酸化物が多くなり過ぎて延性の低下をきたす。したがって、Mg含有量は0.006%以下である。Mg含有量の下限は好ましくは0.0003%であり、Mg含有量の上限は好ましくは0.0030%である。
次に、第6群の元素であるREMを説明する。
(1−20)REM:0.004%以下
REMは、HAZの組織を微細化するとともにSを固定する。この効果を確実に得るには、REM含有量は好ましくは0.0003%以上である。なお、REMは介在物となって清浄度を低下させるが、REMを含有することによって形成される介在物は、靱性低下への影響が比較的小さいので、0.004%以下の含有量のREMを含有する場合の介在物による母材の靱性低下は許容される。したがって、REM含有量は、0.004%以下である。RE含有量の下限はより好ましくは0.0005%であり、REM含有量の上限は好ましくは0.0020%である。
上述したように、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REM含有量は、REMの中の1種または2種以上の元素の合計含有量を意味する。
2.鋼材表面部のミクロ組織
高張力鋼材を、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野、特に、地震負荷を受ける橋梁や建築などの地上構造物分野に安全に用いるために、その鋼材の最表面から100μmまでの位置である鋼材表面部のミクロ組織を、フェライトの分率が10〜50%、ベイナイトの分率が40%以上で、かつ、平均粒径が9μm以下であるものとする。
鋼材表面部のミクロ組織において、フェライトの分率、ベイナイトの分率および平均粒径のいずれか一つでも上記の範囲から外れると、表面部からの延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性の低い鋼材となる。
また、ベイナイトは、ラス状ベイニティックフェライトの界面にセメンタイト若しくはいわゆる「MA constituent」、またはその両者が存在した組織であり、ベイニティックフェライトの内部にセメンタイトが点列状に配列する、いわゆる下部ベイナイトを含み、上記の組織が焼戻しされた組織も含み、さらに、板厚が厚く冷却速度が小さい場合や水冷停止温度が高く水冷停止後の空冷時間が長い場合には、ベイニティックフェライトの合体によってその見かけ上の形態がラス状から粒状に変化する組織も含むことは、上述のとおりである。
また、組織間の方位差が15°以上である大傾角粒界を全て「粒界」とし、その「粒界」で囲まれた領域を1つの「粒」とした場合の、2次元的な観察面における「粒」の最も長い径と直交する方向の粒界間距離をもって「粒径」と定義すること、さらに、20個以上の「粒」をランダムに計測した場合の算術平均を「粒径」の平均値とすることも、上述したとおりである。
鋼材表面部のミクロ組織における相に関しては、フェライトの分率が10〜50%、ベイナイトの分率が40%以上でありさえすれば、第3相として他の相を含んでいても構わない。
なお、鋼材表面部のミクロ組織におけるベイナイトの分率の上限は、軟質相がゼロになってしまっては所望の効果が発揮されないことから90%である。
また、鋼材表面部のミクロ組織における平均粒径の下限は、特に規定する必要はないが、1μm未満の細粒になった場合には粒界三重点などにセメンタイトが単体で析出し、局部的な歪集中を助長する場合があることから、1μmであることが好ましい。
3.介在物
HAZの組織微細化に寄与する介在物を説明する。
(3−1)複合介在物の断面におけるMnSの面積率:10%以上90%未満
本発明では、任意の切断面に現出した複合介在物を分析し、その複合介在物の断面積におけるMnSの面積率を測定することにより、複合介在物中のMnS量を規定する。
複合介在物の断面におけるMnSの面積率が10%未満であると、複合介在物中のMnS量が少なく、MnSとマトリクスとの界面に初期Mn欠乏層が十分に形成されない。
その結果、溶接した際に粒内フェライトの生成が困難になる。一方、複合介在物の断面におけるMnSの割合が90%以上であると、複合介在物がMnS主体となる。この場合、Ti系酸化物中の原子空孔に吸収されるMnは少なく、溶接Mn欠乏層が形成されず、粒内フェライトの生成が困難になる。このため、複合介在物の断面におけるMnSの面積率は10%以上90%未満である。
(3−2)複合介在物の周長に占めるMnSの割合:10%以上
複合介在物中のMnSはTi系酸化物の周囲に形成される。複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%未満であれば、MnSとマトリクスとの界面に形成される初期Mn欠乏領域が小さく、溶接しても粒内フェライトの形成量が十分でないので、良好な低温HAZ靭性を得ることができない。したがって、複合介在物のマトリクスとの周長に占めるMnSの割合は10%以上である。MnSの割合が大きいほど初期Mn欠乏層は大きくなり粒内フェライトが生成し易くなるため、MnSの割合の上限は定めないが、通常80%以下となる。
(3−3)複合介在物の個数密度(粒径0.5〜5.0μmの複合介在物の個数密度):10〜100個/mm
複合介在物の個数密度とは、規定する粒径を有する複合介在物の単位面積当たりの個数のことをいう。複合介在物の粒径が0.5μm未満では、複合介在物の周囲から吸収できるMn量が少なく、その結果、粒内フェライトの生成量が低下する。一方、複合介在物の粒径が5.0μmより大きいと、複合介在物が破壊の起点になる。このため、本発明においては対象とする複合介在物の粒径を0.5〜5.0μmとした。
そして、このような粒径を有する複合介在物の個数密度はMn吸収量に関わる。安定した粒内フェライトを生成させるためには、各複合介在物が旧オーステナイト内に少なくとも1つ程度含まれる必要がある。そのため、複合介在物の個数密度は、10個/mm以上とする。一方、複合介在物が過剰に多い場合は、破壊起点となり易い。そのため、複合介在物の個数密度は、100個/mm以下とする。
4.製造方法
本発明に係る耐延性き裂発生特性に優れる高張力鋼材は、上述した化学組成を有する鋼を溶製した後、造塊分塊法や連続鋳造法によりスラブを作製し、その後に例えば、次に示す(4−0)〜(4−4)あるいは(4−0)〜(4−5)の工程を順に経ることにより、製造することができる。
(4−0)スラブの作製
上述した化学組成を有するスラブを製造する。スラブの製造では鋼中介在物の制御のため、RH真空脱ガス処理前にArガスを上部より溶鋼内に吹き込み、溶鋼の表面のスラグと溶鋼とを反応させることにより、スラグ内のトータルFe量を調整し、溶鋼内の酸素ポテンシャルOxpを10〜30ppmの範囲に制御することが好ましい。
ここで、Arガスの流量を100〜200L/秒の間で、Arガスの吹き込み時間を5〜15秒間の間で調節することが好ましい。その後、RH真空脱ガス処理槽で各元素を添加して成分調整を行い、連続鋳造によりスラブを鋳造する。
(4−1)スラブの加熱
鋼材の組織の細粒化は、組織の受け継ぎを通じて母材表面部の最終組織に影響を及ぼす。スラブの加熱温度を低温化することにより顕著な微細化効果を得られるが、スラブの加熱温度が低過ぎると所望の板厚までの圧延が困難になるとともに、析出物の固溶−析出挙動が滞ることにより強度不足が生じる。
具体的には、900℃未満の低温での加熱では所望の板厚までの圧延が困難になるとともに、鋼材の強度不足が顕著化する。一方、1160℃を超える高温での加熱では、組織の微細化が進行しない。したがって、スラブの加熱温度は900〜1160℃であることが好ましい。
(4−2)加熱後のスラブの水冷
加熱炉から抽出したスラブは熱間圧延を行うために圧延機に送られるが、圧延機に噛み込ませる前に、加熱炉で発生した一次スケールを除去する目的で、スケールブレーカーと呼ばれる高圧水によるスケール除去装置を通過させる。
高圧水によるスラブ表面の処理は、スケールを除去するだけではなく、水冷によりスラブの表面の極一部の部位をフェライト変態させる。なお、スラブの表面が水冷中止状態になると、フェライト変態した部位は、内部からの複熱により再度オーステナイトに逆変態する。そして、この変態挙動が複数回繰り返されることにより、圧延前のスラブ表面の組織は微細になる。
したがって、加熱後のスラブの水冷工程は極めて有用であるので、例えば、スケールブレーカーのスラブ迎え側でのノズルの傾き角度(θ)を10〜35゜とし、19.6MPa以上(200kgf/cm以上)の水圧で行えばよい。
なお、スケールブレーカーの水圧の上限は特に定めなくとも良いが、通常は設備的仕様制約より決定され、およそ39.2MPaである。
(4−3)圧延
オーステナイトの未再結晶域で圧延を行うことにより、オーステナイト中に微細なサブグレインを形成させることができるので、変態後の組織を微細化することができる。
特に、オーステナイトの未再結晶域で圧延を行うことにより、表面部の組織は顕著に微細化する。この場合、圧延の仕上温度もある程度低いほうがよく、900℃以下とすることが好ましい。しかし、圧延の仕上温度が低過ぎると、十分なベイナイト分率を確保できないので、圧延の仕上温度は750℃以上とすることが好ましい。
(4−4)圧延後の冷却
圧延終了後の冷却方法は、例えば、空冷や水冷など、冷却設備や製品の厚さなどに応じて適宜決定すればよい。
なお、仕上圧延で導入された格子欠陥(転位)をより多く維持して最終的な組織を微細化するために、少なくとも600℃までを5℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
(4−5)焼戻し
上述した(4−4)項の冷却の後は、必要に応じて700℃以下の温度で焼戻しを行ってもよい。焼戻しすることにより、強度を調整することができ、また、靱性を改善することができる。なお、700℃を超える温度で焼戻しを行うと強度の低下が大きくなる。
実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
表1に示す化学組成を有する300mm厚のスラブを連続鋳造法にて作製した。表1中の鋼1〜23は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼である。一方、表1中の鋼x1〜x9は、化学組成が本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。
ここで、一部の比較例(試験番号No.28,29)を除き、RH真空脱ガス処理前のArガスの吹き込みの際には、溶鋼内の酸素ポテンシャルOxpを10〜30ppmの範囲に制御し、Arガスの流量を100〜200L/minの間で調節し、Arガスの吹き込み時間を5〜15分間の間で調節した。
また、板厚中心位置の介在物制御の観点より、連続鋳造過程においては、溶鋼の温度を過度に高くせず、溶鋼組成から決まる凝固温度に対し、その差が50℃以内になるように管理し、さらに凝固直前の電磁攪拌、および凝固時の圧下を行った。
続いて、表2に示す条件で厚板圧延を行い、各種板厚の厚鋼板を製造した。
また、表2の「水冷」欄における「−」は、「水冷」せず空冷したことを示す。同様に、表2の「焼戻し温度」欄における「−」は、「焼戻し」を実施していないことを示す。なお、表2に記載した焼戻し温度における保持時間は60分間とした。
このようにして得た各鋼板について、引張特性、衝撃特性(シャルピー衝撃試験、CTOD試験)、表面部のミクロ組織および耐延性き裂発生特性を調査した。
<引張試験>
引張試験は、平行部の直径が12.5mmのJIS Z 2201(1998)に記載の10号引張試験片を採取して室温で行い、降伏強さ(YS)と引張強さ(TS)を測定した。なお、上記の引張試験片は、鋼板の幅方向中央部における板厚方向の1/4近辺部から、圧延方向と平行に採取した。
引張特性の目標は、300MPa以上のYSと490MPa以上のTSを有することとした。
<シャルピー衝撃試験>
衝撃試験は、JIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのVノッチ試験片を採取してシャルピー衝撃試験を行い、脆性破面率を測定して母材の破面遷移温度(vTrs)を求めた。なお、上記のシャルピー衝撃試験片は、鋼板の幅方向中央部における板厚方向の1/4近辺部から、圧延方向と平行に採取した。遷移温度の目標は、vTrsが−40℃以下であることとした。
また、大入熱溶接に対するHAZ部の特性を確認するために、供試材をスキンプレートとする入熱量100kJ/mmのエレクトロスラグアーク(ESW)溶接により溶接継手を作成した。作製した継手について、JIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのVノッチ試験片を、ノッチがスキンプレート板厚方向となるよう加工し、−10℃での試験を行った。吸収エネルギーの目標は47J以上であることとした。
<CTOD試験>
母材のCTOD試験は、BS7448規格に準拠し、全厚の3点曲げ試験片を圧延方向に直角の方向から採取し、0℃で行った。
<組織観察>
ミクロ組織観察は、圧延方向と板厚方向を含む面を鏡面研磨し、ナイタールで腐食して試料を作製し、光学顕微鏡を用いて板厚方向中央部を倍率500倍で5視野観察した。得られた組織については、画像処理により組織を解析した。
<介在物観察>
複合介在物の断面におけるMnS面積率およびMnS割合の算出は、供試材の板厚1/4t部より採取した複合介在物分析用の試験片を用いた。複合介在物は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用い、複合介在物を面分析したマッピング画像から、MnS面積率および複合介在物の周長に占めるMnSの割合を測定した。MnS面積率および複合介在物の周長に占めるMnSの割合は、各供試材につき20個ずつEPMAによる分析を行い、平均値を算出することにより求めた。
さらに、複合介在物の個数密度は、SEM−EDXを組み合わせた自動介在物分析装置から得た複合介在物の形状測定データから、粒径が0.5〜5.0μmの範囲である複合介在物の個数を算出することにより、個数密度を算出した。
<延性き裂発生試験>
耐延性き裂発生特性は、各鋼板の表面直下から、前述の図1に示す0.1mmRの鋭い環状切欠きを設けた丸棒試験片を採取し、室温で単調に引張載荷して調査した。この際、0.05mmの長さに延性き裂が成長した時点を延性き裂の発生と見なし、さらに、それぞれの応力歪曲線を基に実施したFEM解析を重ね合わせて、延性き裂発生時の相当塑性歪、つまり、延性き裂発生の限界歪を算出した。
なお、FEM解析時のノッチ先端の要素寸法は最小片を30μmとすることで統一した。
耐延性き裂発生特性の目標は、上記のようにして算出した延性き裂発生の限界歪が100%以上であることとした。
表3に、上記の各試験結果をまとめて示す。
表3に示すように、本発明で規定する条件を満たす試験番号1、試験番号4〜9および試験番号12〜27の鋼板は、延性き裂発生の限界歪が100%以上であり、耐延性き裂発生特性に優れており、しかも、引張特性、衝撃特性およびCTOD特性も目標を達成していることが明らかである。
これに対して、本発明で規定する条件から外れた試験番号2,3,10,11、x1〜x9の鋼板は、以下に説明するように、引張特性、衝撃特性、CTOD特性および耐延性き裂発生特性の少なくともいずれかにおいて劣っている。
すなわち、試験番号2の鋼板は、試験番号1の鋼板と同様に化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼1を用いたものであるが、表面部のミクロ組織におけるフェライト分率が67%と高く、しかも、平均粒径が12.2μmと本発明で規定する範囲の上限を超えているため、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性が劣っている。
試験番号3の鋼板も、試験番号1の鋼板と同様に化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼1を用いたものであるが、平均粒径が11.2μmと本発明で規定する範囲の上限を超えているため、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性が劣っている。加えて、遷移温度が高く、CTOD値が小さい。
試験番号10,11の鋼板は、試験番号9の鋼板と同様に化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼7を用いたものであるが、表面部のミクロ組織における平均粒径がそれぞれ、10.9,11.4μmと本発明で規定する範囲の上限を超えているため、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性が劣っている。
試験番号28の鋼板は、試験番号27の鋼板と同様に化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼23を用いたものであるが、製鋼条件が適切でなかったために、複合介在物の断面MnS面積率が8%と小さいとともに界面MnS割合が7%と小さく、継手の限界CTOD値が小さい。
試験番号29の鋼板も、試験番号27の鋼板と同様に化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼23を用いたものであるが、製鋼条件が適切でなかったために、複合介在物の個数密度が8個/mmと少なく、継手の吸収エネルギーが小さい。
試験番号30の鋼板は、鋼x1のC含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える0.13%であり、しかも、表面部のミクロ組織における平均粒径が11.8μmと粗大化しているため、遷移温度が高く、継手の吸収エネルギーが小さく、CTOD値も小さい。さらに、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性も劣っている。
試験番号31の鋼板は、鋼x2のSi含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える0.52%であるので、遷移温度が高く、継手の吸収エネルギーが小さく、CTOD値も小さい。さらに、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性も劣っている。
試験番号32の鋼板は、鋼x3のMn含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える2.64%であるので、遷移温度が高く、継手の吸収エネルギーが小さく、CTOD値も小さい。さらに、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性も劣っている。
試験番号33の鋼板は、鋼x4のTi含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える0.035%であるので、複合介在物の個数密度が103個/mmと多く、継手の吸収エネルギーが小さい。
試験番号34の鋼板は、鋼x5のAl含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える0.004%であるので、複合介在物の個数密度が7個/mmと少なく、継手の吸収エネルギーが小さい。
試験番号35の鋼板は、鋼x6のN含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える0.0110%であるので、遷移温度が高く、継手の吸収エネルギーが小さく、CTOD値も小さい。
試験番号36の鋼板は、鋼x7のO含有量が本発明で規定する範囲の上限を超える0.0054%であるので、複合介在物の個数密度が104個/mmと多く、遷移温度が高く、継手の吸収エネルギーが小さく、CTOD値も小さい。さらに、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性も劣っている。
試験番号37の鋼板は、鋼x8のPPの値が本発明で規定する範囲の下限を下回る0.057%であるので、表面部のミクロ組織において十分なベイナイト分率が得られておらず、さらに、平均粒径も粗大化しているので、十分な引張特性を得ることができなかった。さらに、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性が劣っている。
さらに、試験番号38の鋼板は、鋼x9のPPの値が本発明で規定する範囲の下限を下回る0.078であるので、表面部のミクロ組織において十分なベイナイト分率が得られておらず、さらに、平均粒径も粗大化して6.2μmであるので、延性き裂発生の限界歪が小さく、耐延性き裂発生特性が劣っている。
本発明の耐延性き裂発生特性に優れる高張力鋼材は、工業的な規模での生産が容易であり、表面部からの耐延性き裂発生特性、および母材およびHAZ靱性特性に優れるので、表面部における延性き裂の発生が構造物の終局的な破壊の原因となる鋼構造分野、特に、地震負荷を受ける橋梁や建築などの地上構造物分野に用いることができる。

Claims (7)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.4〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.001〜0.010%、Al:0.003%以下、Ti:0.005〜0.03%、N:0.0015〜0.010%およびO:0.0005〜0.0050%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記(1)式により表されるPPの値が0.080以上を満足し、
    鋼材の最表面から100μmまでの位置である鋼材表面部のミクロ組織において、フェライトの分率が10〜50%、ベイナイトの分率が40%以上で、かつ、平均粒径が9μm以下であり、
    鋼中に、Ti酸化物の周囲にMnSが存在する複合介在物を含み、
    前記複合介在物の断面における前記MnSの面積率が10%以上90%未満であり、
    前記複合介在物の周長に占める前記MnSの割合が10%以上であり、
    粒径0.5〜5.0μmの前記複合介在物の個数密度が10〜100個/mmであること
    を特徴とする高張力鋼材。
    PP=(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
    ここで、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
    なお、「粒径」は、組織間の方位差が15°以上である大傾角粒界を全て「粒界」とし、その「粒界」で囲まれた領域を1つの「粒」とした場合の、2次元的な観察面における「粒」の最も長い径と直交する方向の粒界間距離であり、「平均粒径」は、20個以上の粒の粒径をランダムに計測した場合の算術平均値である。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.8%以下、Ni:1%以下、V:0.1%以下およびB:0.002%以下のうちの1種以上を含有する請求項1に記載された高張力鋼材。
  3. Feの一部に代えて、Cr:1質量%以下を含有する請求項1または請求項2に記載された高張力鋼材。
  4. Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.8%以下およびNb:0.1%以下のうちの1種または2種を含有する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
  5. Feの一部に代えて、Ca:0.004質量%以下を含有する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
  6. Feの一部に代えて、Mg:0.006質量%以下を含有する請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
  7. Feの一部に代えて、希土類元素:0.004質量%以下を含有する請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された高張力鋼材。
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