JP2018014891A - メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ−2阻害薬に対する反応性を予測する方法 - Google Patents

メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ−2阻害薬に対する反応性を予測する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ (以下、MTHFD2と略称する)の作用を阻害する薬剤に対する被験者の反応性を予測する方法、および該薬剤の投与による奏功性が高いと予測される患者を選別する方法を提供すること。
【解決手段】被験者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるグリシンデカルボキシラーゼ(以下、GLDCと略称する)遺伝子またはその遺伝子産物を指標としてMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測することを含む、MTHFD2阻害薬への反応性の予測方法、前記阻害薬による疾患治療の対象を選別する方法、並びに前記方法により選別された被験者に該阻害薬を投与することを疾患治療方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、被験者由来の生物学的試料中のグリシンデカルボキシラーゼ(glycine decarboxylase;以下、GLDCと略称することがある)遺伝子またはその遺伝子産物を指標にして、メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ(methylene−tetrahydrofolate dehydrogenase−2;以下、MTHFD2と略称することがある)阻害薬に対する反応性を予測する方法に関する。さらに本発明は、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象を選別する方法、および該方法により選別された被験者にMTHFD2阻害薬を投与することを含む疾患治療方法に関する。
MTHFD2は、葉酸代謝に係る酵素であるMTHFDのアイソフォームの1つであり、ミトコンドリアに存在する。MTHFD2は、二機能性酵素であり、ミトコンドリア内で、NAD+依存性メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ反応およびメテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドラーゼ反応を触媒する。NAD+依存性メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ反応は、5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸(5,10−Methylenetetrahydrofolate)を基質として、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸(5,10−Methenyltetrahydrofolate)を生成する反応である。メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼ反応は、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸を基質として、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸(10−Formyltetrahydrofolate)を生成する反応である。
葉酸は、水溶性ビタミン群の1つであるが、生体内では合成されず、食品から摂取される。腸管から吸収された葉酸は生体内で代謝を受け、その代謝産物であるテトラヒドロ葉酸が補酵素として核酸合成に寄与する。そのため、がん細胞において葉酸代謝を阻害すると、核酸合成が阻害され、その結果、細胞増殖が抑制される。この点に着目し、葉酸代謝阻害剤が抗がん剤として開発されている。
MTHFD2は、葉酸代謝に関わる酵素であり、また、急速ながん細胞増殖との関連が報告された代謝系であるミトコンドリアにおける1炭素代謝に関連する(非特許文献1)。そのため、MTHFD2の作用を阻害することにより、がん細胞の急速な細胞増殖を抑制することができると考えることができる。
最近、MTHFD2ががん治療における有望な標的分子であり得ることが報告されている(非特許文献1)。具体的には、MTHFD2の発現が多様ながん疾患でmRNAレベルおよびタンパク質レベルのいずれにおいても著しく亢進していること、およびMTHFD2の発現増強と乳がんの予後不良との相関が認められることが観察された。一方、MTHFD2の発現は、発生中の胚で認められたが、ほとんどの健常成人組織ではそれが増殖中であっても認められなかった。また、がん細胞において、MTHFD2の発現をRNA干渉により阻害すると、がん細胞の増殖低下および著しい細胞死が引き起こされた。したがって、MTHFD2を阻害する薬剤は、副作用の少ない有用な抗がん剤として期待される。
GLDCは、ミトコンドリアに局在するグリシン開裂系を構成する分子の1つであり、グリシン代謝酵素である。
グリシン代謝酵素の欠損は高グリシン血症を引き起こす。また、グリシン消費量およびミトコンドリアのグリシン生合成経路ががん細胞の増殖速度と強く関連することが報告されている(非特許文献2)。具体的には、グリシンの摂取およびそのミトコンドリアでの生合成を拮抗することにより、急速に増殖している細胞が優先的に障害されたこと、さらには、その生合成経路の高発現が、乳がん患者のより高い死亡率に関連することが示されている。
また、GLDCが、非小細胞肺がんのがん幹細胞および腫瘍発生を推進することが報告されている(非特許文献3)。具体的には、GLDCが解糖およびグリシン/セリン代謝の劇的変化を誘導し、その結果、ピリミジン代謝の変化を引き起こして、がん細胞増殖を制御することが示されている。また、臨床では、GLDCの異常な活性化と肺がん患者の予後不良との相関、および多様な種類のがんにおけるGLDCの異常な発現が観察されている。
Nilsson R. et al., Nature Communications, 2014. 5, Article number: 3128 doi:10.1038/ncomms4128. Jain M. et al., Science, 2012. 336(6084), p.1040-1044. doi: 10.1126/science.1218595. Zhang W. C. et al., Cell, 2012. 148, p.259-272. ヒューマンメタボロームデータベース、インターネット<URL:http://www.hmdb.ca/metabolites/HMDB00123> Hirayama A. et al., Cancer Research, 2009. 69(11), p.4918-4925.
近年、がん疾患等の疾患の治療領域において分子標的治療薬の開発が盛んになり、その効果を確実に得られる患者を選別して薬剤を投与するという考えが定着しつつある。そのため、分子標的薬の開発時には、患者選別や副作用低減を目的とした薬剤効果の評価方法を開発することが求められている。
例えば、葉酸代謝を阻害する薬剤は、がん細胞におけるDNA合成やDNAメチル化を阻害するため、がん細胞の増殖を抑制すると考えることができる。そのため、葉酸の吸収やその代謝を阻害する薬剤を抗がん剤として開発することが期待される。このような薬剤を開発する際には、該薬剤に対する患者の反応性の予測、ひいては該薬剤により効果が得られる患者の選別や副作用低減等を目的とした薬剤効果の評価方法を開発することが求められる。
本発明の課題は、葉酸代謝に係る酵素であるMTHFD2の作用を阻害する薬剤による有効な疾患治療、例えばがん疾患治療を可能にするために、該薬剤に対する患者の反応性を予測する方法、および該薬剤による奏功性が高いと予測される患者を選別する方法を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、多種類のがん細胞で高頻度に欠損していることが報告されているがん抑制遺伝子CDKN2A(p16)遺伝子が存在する染色体9p21領域の近傍に位置するGLDC遺伝子に着目した。ある特定の遺伝子が欠損する際には、その近傍に位置する別の遺伝子が共欠損することが報告されている。実際、CDKN2A遺伝子がホモ欠損しているがん細胞の中には、GLDC遺伝子もヘテロ欠損しているものがある。
そこで、ミトコンドリアの酵素であるMTHFD2を阻害する薬剤に対するがん細胞の反応性と、ミトコンドリアに局在するグリシン開裂系を構成する分子の1つであり、グリシン代謝酵素として知られているGLDCの発現との関連性を検討した。その結果、GLDC遺伝子の発現が非常に低いがん細胞株ではMTHFD2遺伝子のノックダウンにより細胞増殖が強く阻害されるが、GLDC遺伝子の高発現がん細胞株、中等度発現がん細胞株、および非発現がん細胞株では細胞増殖に影響は認められなかった。また、GLDC遺伝子高発現がん細胞株でGLDC遺伝子をノックダウンすると、MTHFD2遺伝子のノックダウンにより細胞増殖が阻害された。
このように、MTHFD2阻害薬に対するがん細胞の反応性とGLDC遺伝子の発現との間に関連性があることを明らかにしたことに基づき、本発明を達成した。
すなわち、本発明は以下に関する:
1.被験者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物を指標としてMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測することを含む、MTHFD2阻害薬への反応性の予測方法、
2.前記生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現を測定し、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出され、かつ、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現量が予め設定した基準値よりも低い試料は、MTHFD2阻害薬に対する反応性を有する被験者由来の試料であると予測することを含む、前記1.の方法、
3.GLDC遺伝子の発現の測定がGLDC mRNAの定量測定により行われる、前記2.の方法、
4.GLDC遺伝子の発現の測定がGLDCタンパク質の定量測定により行われる、前記2.の方法、
5.前記生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子の遺伝子型を解析し、GLDC遺伝子のヘテロ欠損が検出された試料は、MTHFD2阻害薬に対する反応性を有する被験者由来の試料であると予測することを含む、前記1.の方法、
6.GLDC遺伝子の遺伝子型の解析が該遺伝子のコピー数を測定することにより行われる、前記5.の方法、
7.前記1.−6.のいずれかの方法により、MTHFD2阻害薬に対する反応性を有すると予測された被験者を、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象として選別することを含む、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象を選別する方法、
8.被験者ががん疾患患者であり、かつ疾患治療ががん疾患治療である、前記7.の方法、
9.前記1.−6.のいずれかの方法により、MTHFD2阻害薬に反応性を有すると予測された被験者を、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象として選別し、該選別された患者に、MTHFD2阻害薬の治療有効量を投与することを含む、疾患治療方法、
10.被験者ががん疾患患者であり、かつ疾患治療ががん疾患治療である、前記9.の方法。
本発明により、被験者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物を指標としてMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測することを含む、MTHFD2阻害薬への反応性の予測方法を提供することができる。
本発明に係る方法は、被験者におけるMTHFD2阻害薬による治療効果の予測を、該薬剤を投与する前に実施することを可能にする。また、本発明に係る方法により、該薬剤の奏功性が高いと予測される被験者を選別することができ、該薬剤による有効な治療を実施できる。さらに本発明に係る方法は、被験者由来の生物学的試料を用いてインビトロ(in vitro)で実施できるため、被験者への負担が少ない。このように、本発明に係る方法は、がん疾患等の疾患の治療領域において極めて有用である。
5種のがん細胞株、A549、MDA−MB−231、BxPC3、NCI−H2347、およびNCI−H1975におけるGLDC遺伝子の発現を、GLDC mRNAの定量分析により検討した結果を示す図である。図の縦軸は、A549におけるGLDC mRNAの発現量に対する各細胞株での該mRNAの相対的発現値(relative GLDC expression)を示す。検討したすべてのがん細胞株で、GLDC mRNAの発現が検出されたが、A549以外の細胞での発現は低かった。(実施例1) 5種のがん細胞株、A549、MDA−MB−231、BxPC3、NCI−H2347、およびNCI−H1975におけるGLDC遺伝子の発現を、GLDCタンパク質の定量分析により検討した結果を示す図である。タンパク質の検出は、抗GLDC抗体を用いてウエスタンブロット法により行った。矢頭は、GLDCタンパク質のバンドを示す。β−アクチン(β−actin)は、ウエスタンブロット法におけるローディングコントロールとして測定した。GLDCタンパク質のバンドの位置は、A549をGLDC遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siGLDCと表示する)で処理して該遺伝子の発現を阻害することによる該バンドの消失の検出により確認した。図中、「siCtrl」は、陰性コントロールの短鎖干渉RNAを意味する。(実施例1) 1種の正常細胞株HEK293、7種のがん細胞株NCI−H1975、LUDLU−1、BxPC3、MDA−MB−231、NCI−H2347、AsPC−1、およびHEC50BにおけるGLDC遺伝子の発現を、GLDC mRNAの定量分析により検討した結果を示す図である。GLDC mRNAの定量分析は、3種類のプライマーセット(プライマーセット1、プライマーセット2、およびプライマーセット3)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)により行った。プライマーセット1は、GLDC mRNAの3´末端側の部分塩基配列(GLDC−Cter)を、そして、プライマーセット2およびプライマーセット3はいずれもGLDC mRNAの5´末端側の部分塩基配列(それぞれGLDC−Nter1およびGLDC−Nter2)を増幅するプライマーセットである。図の縦軸は、HEK293におけるGLDC mRNAの発現量に対する各細胞株での該mRNAの相対的発現値(Relative mRNA expression)を示す。図中、結果を示すバーは、左側からHEK293、NCI−H1975、LUDLU−1、BxPC3、MDA−MB−231、NCI−H2347、AsPC−1、およびHEC50Bを示す。(実施例1) 3種のがん細胞株、A549、MDA−MB−231、およびNCI−H2347において、MTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖への影響をグリシン 100 μM存在下(Gly 100)およびグリシン非存在下(Gly 0)で検討した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMと表示する)を用いて行った。図の縦軸は、細胞増殖の程度を示すアデノシン三リン酸(以下、ATPと略称する)量を示し、図の横軸は細胞を再播種後の培養日数を示す。図中、「siC」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを意味する。(実施例1) MTHFD2遺伝子をノックダウンしたがん細胞株、A549、MDA−MB−231、およびNCI−H2347におけるMTHFD2タンパク質の発現量をウエスタンブロット法により測定した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMTHFD2と表示する)を用いて行った。MTHFD2タンパク質の検出は、抗MTHFD2抗体を用い、GLDCタンパク質の検出は抗GLDC抗体を用いて行った。β−アクチン(β−actin)は、ウエスタンブロット法におけるローディングコントロールとして測定した。図中、「1」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかった細胞を示し、「2」、「3」、「4」、および「5」はそれぞれ陰性コントロールの短鎖干渉RNA、2nMのsiMTHFD2、5nMのsiMTHFD2、および10nMのsiMTHFD2で処理した細胞を示す。(実施例1) がん細胞株A549およびMDA−MB−231において、MTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖への影響をグリシン 100 μM存在下(Gly(100))およびグリシン非存在下(Gly(0))で検討した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMTHFD2と表示する)を用いて行った。図の縦軸は、再播種当日の細胞数に対する細胞増殖の割合(Growth(fold vs day0))を示し、図の横軸は細胞を再播種後の培養日数を示す。図中、「siCtrl」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを、「no RNA」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかったことを示す。また、「×」は、siRNAをトランスフェクションした(siRNA TF)日を示す。(実施例1) がん細胞株NCI−H2347およびNCI−H1975において、MTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖への影響をグリシン 100 μM存在下(Gly(100))およびグリシン非存在下(Gly(0))で検討した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMTHFD2と表示する)を用いて行った。図の縦軸は、再播種当日の細胞数に対する細胞増殖の割合(Growth(fold vs day0))を示し、図の横軸は細胞を再播種後の培養日数を示す。図中、「siCtrl」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを、「no RNA」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかったことを示す。また、「×」は、siRNAをトランスフェクションした(siRNA TF)日を示す。(実施例1) MTHFD2遺伝子をノックダウンしたがん細胞株、A549、MDA−MB−231、NCI−H2347、およびNCI−H1975におけるMTHFD2タンパク質の発現量をウエスタンブロット法により測定した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMと表示する)を用いて行った。MTHFD2タンパク質の検出は、抗MTHFD2抗体を用いて行った。β−アクチン(β−actin)は、ウエスタンブロット法におけるローディングコントロールとして測定した。図中、「(−)」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかった細胞を示し、「siCtrl」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAで処理した細胞を示す。(実施例1) がん細胞株BT474およびA549の細胞増殖へのMTHFD2遺伝子ノックダウンの影響をグリシン 100 μM存在下(Gly(100))およびグリシン非存在下(Gly(0))で検討した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMと表示する)を用いて2回行った。1回目および2回目のノックダウンにはsiMをそれぞれ10nMおよび0.1nMまたは1nM使用した。図の横軸は細胞を再播種後の培養日数を示し、図の縦軸は再播種時の細胞数に対する細胞増殖の割合(growth(fold,day0=1))を示す。図中、「no RNA」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかったことを示し、「siC」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを意味する。(実施例1) MTHFD2遺伝子をノックダウンしたがん細胞株BT474におけるMTHFD2タンパク質の発現量をウエスタンブロット法により測定した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siM2と表示する)を用いて行った。MTHFD2タンパク質の検出は、抗MTHFD2抗体を用いて行った。β−アクチン(β−actin)は、ウエスタンブロット法におけるローディングコントロールとして測定した。図中、「no RNA」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかったことを、「siCtrl」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを示す。(実施例1) がん細胞株HEC50B、A549、およびMDA−MB−231の細胞増殖へのMTHFD2遺伝子ノックダウンの影響をグリシン 100 μM存在下(Gly(100))およびグリシン非存在下(Gly(0))で検討した結果を示す図である。MTHFD2遺伝子ノックダウンは、MTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMTHFD2と表示する)を用いて行った。図の縦軸は、細胞増殖の程度を示すATP量を示し、図の横軸は細胞を再播種後の培養日数を示す。図中、「no RNA」は短鎖干渉RNAによる処理を行わなかったことを示し、「siCtrl」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを意味する。(実施例1) GLDC遺伝子の高発現が認められたがん細胞株A549におけるGLDC遺伝子およびMTHFD2遺伝子のダブルノックダウンによる該がん細胞株の細胞増殖への影響を検討した結果を示す図である。細胞増殖の測定は、10% ウシ胎児血清を含むRPMI培地で細胞を培養することにより行った。本培地はグリシンを133 μM以上含有する。GLDC遺伝子およびMTHFD2遺伝子のダブルノックダウンは、GLDC遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siGLDCまたはsiGと表示する)およびMTHFD2遺伝子の短鎖干渉RNA(図中、siMTHFD2またはsiMと表示する)を用いて行った。図中、「siC」は陰性コントロールの短鎖干渉RNAを意味する。また、下向き矢印は、MTHFD2遺伝子ノックダウンにより細胞増殖が低下したことを示す。(実施例2) 様々な細胞株についてGLDC遺伝子のコピー数(copy number)を解析した結果を示す図である。(実施例3) MTHFD2遺伝子のショートヘアピンRNA(以下、shRNAと略称する)を安定的に発現させたがん細胞株MDA−MB−231−lucの3つのクロン(M12、M13、およびM18)におけるMTHFD2遺伝子の発現を、MTHFD2タンパク質の定量分析により検討した結果を示す図である。図中、「shMTHFD2」はMTHFD2遺伝子のshRNAを示し、「shCtrl」はコントロールshRNAを示す。β−アクチン(β−actin)をウエスタンブロット法におけるローディングコントロールとして測定した。(実施例4) MTHFD2遺伝子のshRNAを安定的に発現させたがん細胞株MDA−MB−231−lucの3つのクロン(M12、M13、およびM18)の、グリシン 100 μM存在下(Gly(100))およびグリシン非存在下(Gly(−))での細胞増殖を示す図である。MDA−MB−231−lucクロンは、再播種後3日目に細胞増殖を測定した。図の縦軸は、細胞増殖の程度を示すATP量を示す。図中、「shCtrl」はコントロールshRNAを意味する。(実施例4) MTHFD2遺伝子のshRNAを安定的に発現させたがん細胞株MDA−MB−231−lucの3つのクロン(M12、M13、およびM18)を移植したゼノグラフトモデルマウスにおいて、腫瘍増殖を検討した結果を示す図である。図中、「shMTHFD2」はMTHFD2遺伝子のshRNAを意味し、「shCtrl」はコントロールshRNAを意味する。図の縦軸は腫瘍体積を示し、横軸はがん細胞クロン移植後の日数を示す。(実施例4)
本発明はMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する方法に関し、本方法は被験者由来の生物学的試料中のGLDC遺伝子またはその遺伝子産物をMTHFD2阻害薬に対する反応性の指標として解析することを特徴とする。
本発明において「被験者」とは、MTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する方法による検査を受けるヒトおよびヒト以外の哺乳動物を意味する。例えば、MTHFD2阻害薬による治療効果が期待される疾患に罹患したヒトおよびヒト以外の哺乳動物を意味する。MTHFD2阻害薬による治療効果が期待される疾患として、がん疾患を好ましく例示できる。ヒト以外の哺乳動物は、哺乳動物として類別される生物であればいかなる生物であってもよく、例えばサル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、等を含む。
本発明における「被験者」として、がん疾患を疑われたヒトおよびヒト以外の哺乳動物、およびがん疾患と診断されたヒトおよびヒト以外の哺乳動物を好ましく例示できる。
がん疾患とは、生体内において「腫瘍」または「がん」の発生が認められる疾患を意味する。「腫瘍」または「がん」は、増殖および/または転移が認められるものを含む。また、「腫瘍」または「がん」は、がん疾患の治療後に再発したものを含む。
本発明において、腫瘍、悪性腫瘍、がん、悪性新生物、がん腫、肉腫等を総称して、「腫瘍」または「がん」と表現する。
「がん」は、通常、狭義の悪性腫瘍を意味し、悪性腫瘍の中で上皮細胞から発生するものを指す。一方、非上皮性の悪性腫瘍を肉腫と呼ぶ。「悪性腫瘍」とは、組織や細胞が生体内の制御に反して自律的に過剰に増殖することによって形成される組織塊腫瘍の中で、特に浸潤性を有し、増殖・転移する等悪性を示すものをいう。がんは病理組織学的な分類では、腺がん、扁平上皮がん、移行上皮がんの3種類に分類できる。腺がんは、腺組織に由来するがんであり、大腸がん、乳がん、胃がん、肺がん、胆嚢がん、腎臓がん、前立腺がん、十二指腸がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮頚部がん、子宮体部がん等を例示できる。扁平上皮がんは、上皮の基底細胞が悪性化し、異型性、多形成を増し、上皮下結合組織中で増殖して形成された腫瘍であり、口腔がん、舌がん、咽頭、食道がん、気管支がん、喉頭がん等を例示できる。移行上皮がんは、移行上皮組織に由来するがんであり、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、口腔がんを例示できる。一方、肉腫には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、悪性リンパ腫等がある。
本明細書において「生物学的試料」は、個体から単離された組織、液体、細胞、およびそれらの混合物をいい、例えば腫瘍生検、髄液、胸腔内液、腹腔内液、リンパ液、皮膚切片、血液、尿、糞便、痰、呼吸器、腸管、尿生殖器管、唾液、乳、消化器官、およびこれらから採取された細胞を挙げることができるが、遺伝子発現解析が可能である限りにおいて特に限定されない。「生物学的試料」は、例えば、がん疾患の治療目的で行われた手術の際に得られた切除組織の一部、がん疾患を疑われた対象者から生検等によって採取された組織の一部、あるいは胸腔内液や腹腔内液に由来する細胞を好ましく例示できる。
生物学的試料は、個体から単離された組織、液体、細胞、およびそれらの混合物等から調製したタンパク質抽出液や核酸抽出液であっても良い。タンパク質抽出液や核酸抽出液の調製は、自体公知のタンパク質調製法や核酸調製法を利用して実施できる。
生物学的試料は、MTHFD2阻害薬による治療を行う前に採取された生物学的試料が好ましい。このような生物学的試料を使用することにより、MTHFD2阻害薬による治療を実施する前にMTHFD2阻害薬に対する感受性予測が可能になり、その結果、被験者に対してMTHFD2阻害薬を含む治療を適用するか否かの判定、すなわち、MTHFD2阻害薬を含む治療を適用する被験者の選別を実施することができる。
MTHFD2は、葉酸代謝に係る酵素であるMTHFDのアイソフォームの1つである。MTHFD2は、ミトコンドリアに存在する二機能性酵素であり、ミトコンドリア内で、NAD依存性メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ反応およびメテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドラーゼ反応の触媒作用を有し、急速ながん細胞増殖との関連が報告された代謝系であるミトコンドリアにおける1炭素代謝に関連する(非特許文献1)。そのため、MTHFD2の作用を阻害することにより、がん細胞の急速な細胞増殖を抑制することができると考えることができる。
本明細書において「MTHFD2阻害薬」とは、MTHFD2遺伝子またはその遺伝子産物を標的とする薬剤であって、MTHFD2遺伝子の発現、すなわちMTHFD2遺伝子の転写やMTHFD2 mRNAの翻訳、並びにMTHFD2タンパク質の作用等を阻害することにより、細胞や生体におけるMTHFD2遺伝子またはその遺伝子産物の機能やその生理学的作用を抑制する薬剤をいう。かかる薬剤として、アンチセンス分子、siRNAやshRNA等の低RNA分子、アプタマー、リポザイム、抗体、または低分子化合物を挙げることができるが、これらに限定されず、MTHFD2遺伝子またはその遺伝子産物の機能やその生理学的作用を抑制する物質であればいずれの物質であってもよい。
本明細書において「MTHFD2阻害薬に対する反応性」とは、MTHFD2阻害薬に対する感受性と言い換えることができる。例えば、「MTHFD2阻害薬に対する反応性」とは、MTHFD2阻害薬によるがん細胞の増殖抑制や細胞死、並びに該阻害薬によるがん疾患治療におけるがんの縮小や消滅あるいはがん疾患の寛解や部分寛解が認められることを意味する。「MTHFD2阻害薬に対する反応性の指標とする」とは、MTHFD2阻害薬に対する反応性を評価するマーカーとして使用することをいう。
GLDCはミトコンドリアに局在するグリシン開裂系を構成する分子の1つであり、グリシン代謝酵素である。
GLDC遺伝子の塩基配列および該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列は既に報告されている。ヒトGLDC遺伝子の塩基配列および該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列として、GenBankにアクセッション番号NM_000170(VERSION:NM_000170.2 GI:108773800)で登録されているmRNAの塩基配列および該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を例示でき、これら配列を配列表の配列番号1および2に記載する。GLDC遺伝子は、例示した塩基配列からなるものだけでなく、GLDCと生物学的機能が同等であるタンパク質、例えばホモログやスプライスバリアント等の同族体、変異体、および誘導体をコードするものであってもよい。また、GLDCタンパク質は、例示したアミノ酸配列からなるものだけでなく、同等の生物学的機能を有するタンパク質、例えばホモログやスプライスバリアント等の同族体、変異体、および誘導体であってもよい。
本明細書において「遺伝子」とは、RNAやDNA等の塩基配列によって示される遺伝情報をいう。遺伝子というときは、タンパク質をコードするものだけでなく、RNAやDNAとして機能するものも含む。「RNA」とは、1本鎖RNAだけでなく、これに相補的な配列を有する1本鎖RNAやこれらから構成される2本鎖RNAであってもよい。
本明細書において「遺伝子発現」(単に発現と表記する場合もある)とは、遺伝子情報がmRNAに転写され、次いで、タンパク質に翻訳されて細胞の構造および機能として生体内で作用を示すことをいう。また、「発現量」とは、遺伝子発現の過程において生じる産物、例えば転写産物であるmRNAや翻訳産物であるタンパク質の量をいう。
本発明に係るMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する方法は、被験者由来の生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現を測定し、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出され、かつ、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現量が予め設定した基準値よりも低い試料は、MTHFD2阻害薬に対する反応性を有する被験者由来の試料であると予測することを含む。
生物学的試料中のGLDC遺伝子の発現の解析は、具体的には、例えば、測定対象の遺伝子の転写産物であるmRNA量を測定するか、または測定対象の遺伝子産物であるタンパク質量を測定することにより実施することができる。
mRNA量を測定する方法としては、公知の遺伝子発現検出方法を用いることができる。例えば、ノザンブロッティング法、ドットブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写PCR(RT−PCR)、定量RT−PCT、ハイブリダイゼーション法、およびDNAアレイ法等の数々の分子生物学的手法を使用してmRNA量の測定を実施できる。また、測定対象の遺伝子に対して、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いて公知の方法でmRNA量の測定を実施できる。例えば、プローブを作製する際に当該プローブに適宜蛍光標識等の標識を結合させておき、これを生物学的試料から単離・精製したmRNAまたは該mRNAから合成したcDNAとハイブリダイズする。その後、ハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光強度を測定することにより、測定対象の遺伝子のmRNA量を検出することができる。なお、プローブは、ガラスビーズやガラス基板等の支持体に固定化して使用することもできる。すなわち、プローブは、測定対象の遺伝子について作製したプローブを支持体上に固定化したDNAアレイまたはDNAチップの形で用いることもできる。支持体としては、ポリヌクレオチドを固定できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような形状や材質であっても良い。支持体として、一般的には、例えば、ガラス板、シリコンウエハ、樹脂等の無機素材、また天然高分子材料としてニトロセルロースや合成高分子材料としてナイロン等を挙げることができる。DNAチップやDNAアレイは市販のものを使用することができる。支持体上に固定するポリヌクレオチドは、合成オリゴヌクレオチドであっても良い。合成オリゴヌクレオチドの配列上に蛍光標識が可能な核酸誘導体を導入することも可能である。また、支持体上で目的のオリゴヌクレオチドを合成できるアフィメトリックス型のDNAチップ技術、および、合成したDNA断片をDNAプローブとしてスポッティングすることにより固定するスタンフォード型のDNAチップ技術のいずれも用いることができる。さらに、支持体が3次元構造をした3D−Gene型(東レ株式会社製)の柱状の面に所望のポリヌクレオチドをスポットして固定化することもできる。なお、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、42℃で1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%の硫酸ドデシルナトリウム(SDS)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理によってもハイブリダイズを維持することを意味する。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
GLDC遺伝子に由来するmRNAやcDNAを定量的に検出するためのプローブおよびプライマーセットは、該mRNAやcDNAを特異的に検出することができる限りにおいて特に限定されないが、12〜26塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましい。このようなプローブおよびプライマーセットは、測定対象の遺伝子の塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、そして、決定した配列を有するオリゴヌクレオチドを、例えば、DNA合成機等を用いて常法に従って合成することができる。また、市販されている遺伝子検出用のプライマーやプローブから所望のものを選択して利用することもできる。
GLDC mRNAを定量的に検出するためのプライマーセットとして、下記3種類のプライマーセットを例示できる。プライマーセット1は、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせからなる。プライマーセット2は、配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせからなる。プライマーセット3は、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせからなる。プライマーセット1は、配列番号1に記載のGLDC mRNAの第2428番目から第2595番目までの3´末端側の部分塩基配列を増幅するものである。プライマーセット2は、配列番号1に記載のGLDC mRNAの第364番目から第479番目までの5´末端側の部分塩基配列を増幅するものである。プライマーセット3は、配列番号1に記載のGLDC mRNAの第635番目から第743番目までの5´末端側の部分塩基配列を増幅するものである。
GLDCタンパク質を定量的に測定する方法としては、公知のタンパク質測定法を用いることができる。例えば、GLDCタンパク質に対する抗体を使用した各種の方法を適用できる。具体的には、ウエスタンブロット法、酵素免疫固相法(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay;ELISA)、および放射免疫測定法(Radio ImmunoAssay;RIA)等を挙げることができる。
なお、GLDCタンパク質に対する抗体は、GLDCタンパク質を抗原とするものであって、当該抗原に特異的に結合する限り、ヒト型抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良いが、均質な抗体を安定的に生産できる点で、モノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は、当業者に周知の方法により作製できる。また、市販されている抗体から所望の抗体を選択して利用することもできる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、目的の抗原や目的の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用し、これを通常の免疫方法に従って所望の動物に免疫して得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって既知の親細胞と融合させた後、通常のスクリーニング方法で所望のモノクローナル抗体産生細胞(ハイブリドーマ細胞)を選別することにより作製できる。ハイブリドーマの作製は、例えば、ミルステインらの方法(「メソッズ オブ エンザイモロジー(Methods of Enzymology)」、1981年、第73巻、p.3−46)等に準じて実施できる。
ここで、モノクローナル抗体を作製する際には、GLDCタンパク質やその断片を抗原として使用することができる。なお、GLDCタンパク質やその断片は、例えばサムブルック等編,「モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル」、第2版、第1−3巻、コールド_スプリング_ハーバー_ラボラトリー_プレス出版、ニューヨーク1989年等の成書に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得できる。
GLDCタンパク質の定量のために、該タンパク質、その断片および抗体を支持体に固定して使用することもできる。支持体は、タンパク質を固定化できるものであれば限定されず、一般的には、ガラス板、シリコンウエハ、樹脂等の無機材料または天然高分子材料のニトロセルロースや合成高分子材料のナイロンやポリスチレン等を例示できる。
本発明では、以上のようにして生物学的試料におけるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量を測定した後、当該発現量に基づいてMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する。具体的には、上述したいずれかの方法によりGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量を測定した後、当該遺伝子またはその遺伝子産物の発現量を評価する。生物学的試料においてGLDC遺伝子またはその遺伝子産物が検出され、かつその発現量が非常に低いとき、該生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性を有すると予測する。これに対し、生物学的試料においてGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量が高いか低いとき、該生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性がないと予測する。また、GLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出されない場合、このような生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性がないと予測する。
GLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量に基づく反応性の予測は、予め基準値を設定し、この基準値と比較することによって行うことが好ましい。生物学的試料においてGLDC遺伝子またはその遺伝子産物が検出され、かつその発現量が基準値と比較して低ければ、該生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性を有すると予測する。これに対し、生物学的試料においてGLDC遺伝子またはその遺伝子産物が基準値と比較して高ければ、該生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性がないと予測する。また、GLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出されない場合、このような生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性がないと予測する。
GLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量を評価する基準値は、MTHFD2阻害薬に対する反応性を示さない細胞における該遺伝子またはその遺伝子産物の発現を予め測定し、その定量値を参照して公知の統計手法により設定することができる。好ましくは、グリシンの存在下、例えば生理学的濃度のグリシンの存在下、より具体的には50 μM〜200 μM、好ましくは100 μMのグリシンの存在下でMTHFD2阻害薬に対する反応性を示さない細胞におけるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量に基づいて基準値を設定することが適当である。さらに好ましくは、グリシンの存在下でMTHFD2阻害薬に対する反応性を示さない細胞であって、GLDC遺伝子またはその遺伝子産物を低発現している細胞におけるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量に基づいて基準値を設定することが適当である。MTHFD2阻害薬に対する反応性を示さず、かつ、GLDC遺伝子またはその遺伝子産物が高発現である細胞としてがん細胞株A549を例示できる。MTHFD2阻害薬に対する反応性を示さず、かつ、GLDC遺伝子またはその遺伝子産物が低発現である細胞としてがん細胞株NCI−H1975を例示できる。がん細胞株NCI−H1975におけるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現量を基準値とすることがより好ましい。
本発明に係るMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する方法はまた、被験者由来の生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子の発現を、該遺伝子の遺伝子型の解析により評価することで実施できる。GLDC遺伝子の遺伝子型の解析によりヘテロ欠損が検出された生物学的試料ではGLDC DNAのコピー数が低下するため、該遺伝子の発現が低下していると考えることができる。すなわち、被験者由来の生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子の遺伝子型を解析し、該遺伝子のヘテロ欠損が検出された生物学的試料は、MTHFD2阻害薬に反応性を有する被験者由来の生物学的試料であると予測することができる。
GLDC遺伝子の遺伝子型の解析には、公知の方法をいずれも使用できる。例えば、遺伝子型の解析は、GLDC DNAのコピー数変化(copy number variation;CNV)を検出することによって実施できる。CNVとは、染色体上の1kb以上にわたるゲノムDNAが、正常ヒト体細胞、すなわちディプロイドゲノムでは2コピーであるものが、1コピー以下、あるいは3コピー以上となっている現象をいう。遺伝子コピー数が1コピー以下であるときには、ゲノムDNAが欠失しており、3コピー以上であるときにはゲノムDNAが重複していると考えることができる。一般的に、遺伝子発現量とCNVの相関が認められる遺伝子は少数であることが知られているが、後述する実施例に示すように、GLDC遺伝子の発現とCNVとの間で相関が認められた。具体的には、GLDC遺伝子の発現がmRNAレベルでもタンパク質レベルでも非常に低いがん細胞株であり、かつ、MTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖低下を示したMDA−MB−231では、GLDC DNAのコピー数が1コピー以下であった。したがって、MDA−MB−231細胞のゲノムGLDC遺伝子はヘテロ欠損であり、また、GLDC遺伝子のヘテロ欠損細胞株では該遺伝子の発現が低下していると考えることができる。
本発明において生物学的試料を用いてGLDC DNAのCNVの検出を行い、GLDC DNAのコピー数が1以下であるとき、該生物学的試料を提供した被験者はMTHFD2阻害薬に対して反応性を有すると評価できる。
CNVの検出は公知の方法を利用して実施でき、このような方法として具体的には、アレイ CGH法、一塩基多型(SNP) アレイ法、定量的リアルタイムPCR(Quantitative Real Time Polymerase Chain Reaction;qPCR)法、マルチプレックス ライゲーション−ディペンデント プローブ アンプリフィケーション法等を挙げることができる。
本発明は、また、前記予測方法を使用することを特徴とする、MTHFD2阻害薬に対する反応性を有する被験者の選別方法に関する。さらに本発明は、前記予測方法により選別された被験者にMTHFD2阻害薬の有効量を投与することを含む疾患治療方法に関する。
本発明に係るMTHFD2阻害薬に対する反応性を有する被験者の選別方法は、被験者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現を測定し、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出され、かつ、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現量が予め設定した基準値よりも低い生物学的試料を提供した被験者を、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象として選別することを含む。
本発明に係るMTHFD2阻害薬に疾患治療方法は、被験者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現を測定し、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出され、かつ、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現量が予め設定した基準値よりも低い生物学的試料を提供した被験者を、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象として選別し、該選別された患者に、MTHFD2阻害薬の治療有効量を投与することを含む。
本発明に係る方法を適用できる疾患は、MTHFD2阻害薬により治療効果が得られる疾患である限りにおいていずれでもよく、がん疾患を好ましい疾患として例示できる。がん疾患は、いずれのがん疾患であってもよい。本発明に係る方法を適用できるがん疾患として、具体的には、大腸がん、肝臓がん、皮膚がん、肺がん、腎臓がん、前立腺がん、十二指腸がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頚がん、胆嚢がん、膵臓がん、乳がん、胃がん、口腔がん、舌がん、咽頭、食道がん、気管支がん、喉頭がん、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、悪性リンパ腫等が発生する疾患を例示できる。
本発明に係る方法で、MTHFD2阻害薬による疾患治療に反応性を有するとして選別された被験者は、MTHFD2阻害薬の治療有効量の投与による治療効果が得られると考えることができる。例えば、がん疾患では、MTHFD2阻害薬に反応性を有するとして選別された被験者は、MTHFD2阻害薬の治療有効量の投与により、腫瘍細胞の増殖の抑制や細胞死が誘導され、腫瘍の縮小や消滅あるいはがん疾患の寛解や部分寛解が生じると考えることができる。
MTHFD2阻害薬は、それ自体またはそれを含む組成物として被験者に投与される。当該組成物は、有効成分のほか、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、希釈剤、賦形剤等の医薬用担体を1種または2種以上含有する医薬組成物として製造される。医薬組成物中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲である。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を使用してこれらの用量を変更できる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択できる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与が挙げられる。あるいは経口経路で投与できる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も実施できる。また、腫瘍内への直接投与も可能である。
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものは、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
本発明に係るMTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する方法によれば、MTHFD2阻害薬による治療前に、被験者から採取した生物学的試料を用いた遺伝子発現解析、例えばmRNAレベルあるいはタンパク質レベルの発現解析により、MTHFD2阻害薬投与による患者の反応性、すなわち該阻害薬による治療効果をより客観的、特異的に予測することができる。したがって、MTHFD2阻害薬に対する反応性がなく、その投与効果を期待できない患者への過度の負担となるような薬剤投与を防止することができ、当該患者にとって有効な治療方針の知見を提供することができる。
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
まず、実施例で用いた細胞株を表1に示す。
MTHFD2阻害薬に対する反応性とがん細胞株におけるGLDC遺伝子の発現レベルとの関連性を検討するために、GLDC遺伝子の発現レベルが異なるがん細胞株を使用し、MTHFD2遺伝子のノックダウンによる細胞増殖への影響を測定した。
その結果、GLDC遺伝子の発現が非常に低いがん細胞株で、MTHFD2遺伝子ノックダウンにより細胞増殖が強く阻害された。一方、GLDC遺伝子の高発現細胞株、中等度発現細胞株、および非発現細胞株では、MTHFD2遺伝子をノックダウンしても細胞増殖は阻害されなかった。したがって、GLDC遺伝子の発現が非常に低いがん細胞は、MTHFD2を阻害する薬剤に対する反応性を有すると考えることができる。以下に、本実施例をより具体的に説明する。
1−1.各細胞株におけるGLDC遺伝子のmRNAレベルでの発現解析 1
まず、検討に使用した細胞株におけるGLDC mRNAの定量分析を行った。具体的には、RNイージー ミニ キット(RNeasy Mini kit;Qiagen社製)を用いて各細胞(A549、MDA−MB−231、BxPC3、NCI−H2347、NCI−H1975)からmRNAを抽出し、ハイキャパシティー cDNA リバース トランスクリプション キット(High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kit;Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを調製した。調製した各細胞のcDNAおよびGLDC、リボゾーマル プロテイン ラージ P0(ribosomal protein,large,P0;以下、RPLP0と略称する)に対するタックマンプローブ(Taqman probe;Applied Biosystems社製)をタックマン ファスト アドバンスト マスター ミックス(Taqman Fast advanced Master Mix;Applied Biosystems社製)と混合し、ヴィイア7(Viia7;Applied Biosystems社製)にてPCRを行い、デルタデルタCt法によりmRNAを定量した。タックマンプローブは、タックマン(登録商標) ジーン エクスプレッション アッセイズ(Taqman(R) Gene Expression Assays;Applied Biosystems社製)を用いた。RPLP0およびGLDCの解析には、それぞれアッセイID:Hs99999902_m1およびアッセイID:s01580591_m1のタックマンプローブを用いた。
GLDC遺伝子の各細胞株(A549、MDA−MB−231、BxPC3、NCI−H2347、NCI−H1975)における発現を、GLDC mRNAの定量分析により検討した結果を図1に示す。各細胞株におけるGLDC mRNA発現は、A549で検出されたGLDC mRNA発現量に対する相対的発現量として表した。MDA−MB−231、BxPC3、NCI−H2347、NCI−H1975の各細胞株の全てにおいて、GLDC mRNAの発現が認められたが、その発現量はA549と比較して低いことが判明した。
1−2.各細胞株におけるGLDC遺伝子のタンパク質レベルでの発現解析
検討に使用した細胞株におけるGLDCタンパク質の定量分析を行った。具体的には、RIPA バッファー(ThermoFisher scientific社製)を用いて各細胞(A549、MDA−MB−231、BxPC3、NCI−H2347、NCI−H1975)の細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロット法により、GLDCおよびβ−アクチンタンパク質を検出した。ウエスタンブロット法は、抗GLDC抗体(Abcam社製、ab97625)、抗β−アクチン抗体(santa cruz社製、sc−69879)を用いて、従来報告されている方法に準じて実施した。GLDCタンパク質のバンド位置の確認は、A549細胞をGLDC遺伝子の短鎖干渉RNA(siRNA)で処理して該遺伝子の発現を阻害することによる該バンドの消失の検出により行った。
GLDC遺伝子の各細胞株(HEK293、NCI−H1975、LUDLU−1、BxPC3、MDA−MB−231、NCI−H2347、AsPC−1、HEC50B)における発現を、GLDCタンパク質の定量分析により検討した結果を図2に示す。検討したすべての細胞株で、GLDCタンパク質が検出されたが、A549における発現量と比較して、他の4種類の細胞株での発現は低かった。具体的には、NCI−H1975での発現は中等度であり、MDA−MB−231およびNCI−H2347での発現は非常に低かった。
1−3.各細胞株におけるGLDC遺伝子のmRNAレベルでの発現解析 2
検討に使用した細胞株におけるGLDC mRNAの定量分析を行った。具体的には、RNイージー ミニ キット(RNeasy Mini kit;Qiagen社製)を用いて各細胞(HEK293、NCI−H1975、LUDLU−1、BxPC3、MDA−MB−231、NCI−H2347、AsPC−1、HEC50B)からmRNAを抽出し、ハイキャパシティー cDNA リバース トランスクリプション キット(High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kit;Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを調製した。その後、各細胞のcDNA、後述の3種のプライマー セット(primer set)をファスト SYBRR グリーン マスター ミックス(Fast SYBRR Green Master Mix、Applied Biosystems社製)と混合し、Viia7(Applied Biosystems社製)にてPCRを行い、デルタデルタCt法によりmRNAを定量した。
使用した3種類のプライマーセットはGLDC mRNA(配列番号1)の塩基配列に基づいて作成したプライマーセットである。プライマーセット1は、GLDC mRNA(配列番号1)の第2428番目から第2595番目までの3´末端側の部分塩基配列を増幅するものである。プライマーセット2は、GLDC mRNA(配列番号1)の第364番目から第479番目までの5´末端側の部分塩基配列を増幅するものである。プライマーセット3は、GLDC mRNA(配列番号1)の第635番目から第743番目までの5´末端側の部分塩基配列を増幅するものである。
各プライマーセットの塩基配列を以下に示す:
プライマー−1−フォワード:tgatgtctcgcacctaaatcttcac(配列番号3)
プライマー−1−リバース:ctgacggttcccacaggaca(配列番号4)
プライマー−2−フォワード:gcccagacacgacgactt(配列番号5)
プライマー−2−リバース:ggaccgtcttctcgatcaat(配列番号6)
プライマー−3−フォワード:ttgcggaacttactggagaac(配列番号7)
プライマー−3−リバース:acaccatggtctggtagttgagt(配列番号8)
GLDC遺伝子の各細胞株(HEK293、NCI−H1975、LUDLU−1、BxPC3、MDA−MB−231、NCI−H2347、AsPC−1、HEC50B)における発現を、上記プライマーセットを用いてGLDC mRNAを定量することにより測定した結果を図3に示す。各細胞株におけるGLDC mRNA発現は、HEK293で検出されたGLDC mRNA発現量に対する相対的発現量として表した。HEK293、LUDLU−1、NCI−H2347、AsPC−1、MDA−MB−231、NCI−H1975、BxPC3の各細胞株において、GLDC mRNAの発現が認められたが、HEC50Bでは、GLDC mRNAは検出されなかった(図中、n.d.と表示する)。また、GLDC mRNAの発現が認められた細胞株であっても、LUDLU−1、NCI−H1975、およびBxPC3で検出されたGLDC mRNAの発現量は中等度であり、さらにNCI−H2347、MDA−MB−231、およびAsPC−1における発現は非常に低いことが判明した。
1−4.MTHFD2遺伝子ノックダウン実験 1
MTHFD2遺伝子ノックダウン実験は、A549、MDA−MB−231、およびNCI−H2347を用いて行った。具体的には、各細胞を細胞数2x10/ウェルで6ウェル プレートに播種し、翌日にsiRNAをトランスフェクション試薬(リポフェクトアミン(登録商標) RNAiマックス(Lipofectamine(R) RNAiMax))を用いてトランスフェクションした。その翌日に細胞数800/ウェルで96ウェル プレートに再播種し、再播種の1日後および4日後にそれぞれ2回目および3回目のトランスフェクションを行なった。培地中のグリシン濃度の影響を調べるため、再播種の1、4、および6日後に培地交換を行った。再播種の0、1、4、6、および8日後にセルタイターGlo ルミネッセント セル バイアビリティ アッセイ(Cell titer−Glo Luminescent Cell Viability Asssay;Promega社製)を用いて細胞内ATP量の測定を行い、細胞増殖を定量した。初回播種および再播種時にはRPMI培地にウシ胎児血清(HyClone社製(ThermoFisher scientific))を最終濃度10%となるように添加したものを使用した。また、培地交換時にはMEM培地に透析済みウシ胎児血清(SAFC Bioscience社製)を最終濃度10%となるように添加し、さらにL−セリンを最終濃度400 μMとなるように添加し、そしてグリシンを最終濃度0もしくは100 μMとなるように添加したものを用いた。
ノックダウンレベルを確認するため、再播種時に余った細胞を6ウェル プレートに播種し、翌日にRIPA バッファーを用いて細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロット法により、MTHFD2、GLDC、およびβ−アクチンの各タンパク質を検出した。抗体は、それぞれ抗MTHFD2抗体(Abcam社製、ab56772)、抗GLDC抗体(Cell signaling technologies社製,#12794)、抗β−アクチン抗体(santa cruz社製、sc−69879)を用いた。
MTHFD2遺伝子ノックダウン実験を、A549、MDA−MB−231、およびNCI−H2347を用いて行った結果を図4−Aおよび図4−Bに示す。これら3種類の細胞において、グリシン非存在下ではMTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖の低下が認められた(図4−A)。しかし、グリシン存在下では、MTHFD2遺伝子ノックダウンにより、MDA−MB−231およびNCI−H2347では細胞増殖の低下が認められたが、A549の細胞増殖は影響を受けなかった(図4−A)。これら細胞におけるMTHFD2遺伝子およびGLDC遺伝子の発現をタンパク質レベルで測定したところ、MTHFD2遺伝子の発現が各細胞においてsiRNAによるノックダウンで低下していることが確認され、Cell signaling technologies社の抗GLDC抗体(#12794)を用いて、今回の条件でウエスタンブロットを行なった場合は、GLDCの発現はA549で認められるが、他の2種類の細胞ではGLDCの発現が検出されないことが明らかとなった(図4−B)。
1−5.MTHFD2遺伝子ノックダウン実験 2
MTHFD2遺伝子ノックダウン実験を、A549、MDA−MB−231、NCI−H2347、およびNCI−H1975を用いて行った。具体的には、各細胞を細胞数2x10/ウェルで6ウェル プレートに播種し、翌日にsiRNAをトランスフェクション試薬(リポフェクトアミン(登録商標) RNAiマックス(Lipofectamine(R) RNAiMax))を用いてトランスフェクションした。その3日後に細胞数800/ウェルで96ウェル プレートに再播種し、再播種の当日、3日後、および7日後にそれぞれ2回目、3回目、および3回目のトランスフェクションを行なった。培地中のグリシン濃度の影響を調べるため、再播種の1、5、および8日後に培地交換を行った。再播種の0、1、3、5、7、および10日後にセルタイターGlo ルミネッセント セル バイアビリティ アッセイ(Cell titer−Glo Luminescent Cell Viability Asssay;Promega社製)を用いて細胞内ATP量の測定を行い、細胞増殖を定量した。初回播種および再播種時にはRPMI培地にウシ胎児血清(HyClone社製(ThermoFisher scientific))を最終濃度10%となるように添加したものを使用した。また、培地交換時にはMEM培地に透析済みウシ胎児血清(SAFC Bioscience社製)を最終濃度10%となるように添加し、さらにL−セリンを最終濃度400 μMとなるように添加し、そしてグリシンを最終濃度0もしくは100 μMとなるように添加したものを用いた。
各細胞におけるMTHFD2遺伝子ノックダウンレベルの確認は、1−4.に記載した方法と同様の方法により行った。
検討した細胞の細胞増殖へのMTHFD2遺伝子ノックダウンの影響を図5−Aおよび図5−Bに示す。MDA−MB−231およびNCI−H2347では、グリシン非存在下およびグリシン存在下の両条件下で、MTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖の低下が認められた(図5−Aの右パネルおよび図5−Bの左パネル)。一方、A549およびNCI−H1975では、MTHFD2遺伝子ノックダウンにより、グリシン非存在下で細胞増殖の低下が認められたが、グリシン存在下では細胞増殖の低下は認められなかった(図5−Aの左パネルおよび図5−Bの右パネル)。
検討した細胞におけるMTHFD2遺伝子の発現をタンパク質レベルで測定したところ、MTHFD2遺伝子の発現は、A549、NCI−H1975で高く、MDA−MB−231およびNCI−H2347では比較的低いことが確認された(図5−C)。また、MTHFD2遺伝子の発現が各細胞においてsiRNAによるノックダウンで低下していることが明らかになった(図5−C)。
1−6.MTHFD2遺伝子ノックダウン実験 3
MTHFD2遺伝子ノックダウン実験を、A549およびBT474を用いて行った。具体的には、A549は5% コンフルエント、BT474は25% コンフルエントとなるよう各細胞を100 mm ディッシュに播種し、翌日にMTHFD2 siRNAをトランスフェクション試薬(Lipofectamine RNAiMax)を用いてトランスフェクションした。その2日後にA549は細胞数800/ウェル、BT474は細胞数4000/ウェルで96ウェル プレートに再播種し、同時に2回目のトランスフェクションを行なった。培地中のグリシン濃度の影響を調べるため、再播種の1日後に培地交換を行った。再播種の0、1、3、5、および7日後にセルタイターGlo試薬(Promega社製)を用いて細胞内ATP量の測定を行い、細胞増殖を定量した。初回播種および再播種時にはRPMI培地にウシ胎児血清(HyClone社製(ThermoFisher scientific))を最終濃度10%となるように添加したものを使用した。また、培地交換時にはMEM培地に透析済みウシ胎児血清(SAFC Bioscience社製)を最終濃度10%となるように添加し、さらにL−セリンを最終濃度400 μMとなるように添加し、そしてグリシンを最終濃度0もしくは100 μMとなるように添加したものを用いた。
ノックダウンレベルを確認するため、再播種時に余った細胞を100 mm ディッシュに播種し、2日後にRIPA バッファー(Thermo社製)を用いて細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロット法により、MTHFD2、GLDC、β−アクチンタンパク質を検出した。抗体は、それぞれ抗MTHFD2抗体(Abcam社製)、抗GLDC抗体(Cell signaling technologies社製,#12794)、抗β−アクチン抗体(santa cruz社製)を用いた。
BT474およびA549の細胞増殖へのMTHFD2遺伝子ノックダウンの影響を図6−Aに示す。BT474では、グリシン非存在下および存在下のいずれにおいてもsiRNAによるMTHFD2遺伝子ノックダウンで細胞増殖の低下が認められたが、その効果はグリシン存在下と比較してグリシン非存在下の方が高かった(図6−A)。また、BT474でMTHFD2 siRNAのトランスフェクションにより、MTHFD2タンパク質の発現が阻害されたことが確認された(図6−B)。
1−7.MTHFD2遺伝子ノックダウン実験 4
MTHFD2遺伝子ノックダウン実験を、A549、HEC50B、およびMDA−MB−231を用いて行った。具体的には、各細胞を細胞数1.5x10/ウェルで6ウェル プレートに播種し、翌日にsiRNAをトランスフェクション試薬(Lipofectamine RNAiMax)を用いてトランスフェクションした。その翌日に細胞数800/ウェルで96ウェル プレートに再播種し、再播種の1日後と4日後に2,3回目のトランスフェクションを行なった。培地中のグリシン濃度の影響を調べるため、再播種の2,5日後に培地交換を行った。再播種の1、4、6、8日後にセルタイターGlo試薬(Promega社製)を用いて細胞内ATP量の測定を行い、細胞増殖を定量した。初回播種および再播種時にはRPMI培地にウシ胎児血清(HyClone社製(ThermoFisher scientific))を最終濃度10%となるように添加したものを使用した。また、培地交換時にはMEM培地に透析済みウシ胎児血清(SAFC Bioscience社製)を最終濃度10%となるように添加し、さらにL−セリンを最終濃度400 μMとなるように添加し、そしてグリシンを最終濃度0もしくは100 μMとなるように添加したものを用いた。
MTHFD2遺伝子ノックダウン実験の結果、HEC50BおよびA549では、グリシン非存在下でMTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖の低下が認められたが、グリシン存在下では、細胞増殖の低下は認められなかった(図7)。一方、MDA−MB−231では、グリシン存在下および非存在下のいずれにおいても細胞増殖の低下が認められた(図7)。
以上、説明したように、GLDC遺伝子の発現とMTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖低下との間に関連性があることが明らかになった。すなわち、GLDC遺伝子の発現が非常に低いがん細胞株、例えばNCI−H2347、BT474、MDA−MB−231では、MTHFD2遺伝子ノックダウンにより細胞増殖低下が認められたが、GLDC遺伝子高発現細胞株であるA549、GLDC遺伝子非発現細胞株であるHEC50B、およびGLDC遺伝子中等度発現細胞株であるNCI−H1975ではMTHFD2遺伝子ノックダウンにより細胞増殖低下は認められなかった。この結果は、いずれもグリシン存在下の条件で認められた結果であり、グリシン非存在下では、GLDC遺伝子の発現の有無や工程に関わらず、MTHFD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖低下が認められた。
ヒト健常人のグリシン血中濃度は数百μMレベルであることが報告されている(非特許文献4)。また、ヒト大腸がんおよび胃がんのメタボロ解析データによれば、密度1として換算すると、組織中のグリシン濃度はmMオーダーであることが報告されている(非特許文献5)。マウスについても、グリシン血中濃度がヒト血中濃度と同レベルであることを本発明者らは確認している。さらに、A549細胞をマウスに移植して形成させた腫瘍中のグリシン濃度はヒトと同じくmMオーダーであると推定された(密度1として換算)。また、インビトロで培養したA549細胞についても細胞内グリシン濃度はmMオーダーであると推定された(細胞1個の体積を長径から見積もり換算)。
このように、生体内や腫瘍組織内でグリシン濃度が高いことから、インビボ(in vivo)でのがん細胞の挙動は、本実施例のグリシン存在下の条件における各細胞の挙動と相関すると考えることができる。したがって、GLDC遺伝子の発現が非常に低いがん細胞は、MTHFD2を阻害する薬剤に対する反応性を有し、GLDC遺伝子高発現細胞株、中等度発現細胞株、および非発現細胞株では該反応性を有さないと考えることができる。
MTHFD2阻害薬に対する反応性とがん細胞株におけるGLDC遺伝子の発現レベルとの関連性をさらに検討するために、GLDC遺伝子の高発現が認められたA549細胞を用いてGLDC遺伝子およびMTHFD2遺伝子のダブルノックダウンによる細胞増殖への影響を測定した。
その結果、GLDC遺伝子の高発現が認められたA549細胞でGLDC遺伝子をノックダウンして該遺伝子の発現を低下させると、MTHFD2遺伝子のノックダウンによりグリシン存在下の細胞増殖が低下した。この結果は、実施例1で観察された結果、すなわちGLDC遺伝子の発現が非常に低いがん細胞は、MTHFD2を阻害する薬剤に対する反応性を有することを強く支持するものである。以下に、本実施例をより具体的に説明する。
各細胞を細胞数3x10/ウェルで25 cm フラスコに播種し、翌日にsiRNAをトランスフェクション試薬(Lipofectamine RNAiMax)を用いてトランスフェクションした。その3日後に細胞数1000/ウェルで96ウェル プレートに再播種し、再播種の0日後と3日後にそれぞれ2回目および3回目のトランスフェクションを行なった。再播種の1および3日後に培地交換を行った。再播種の0、1、3、5、および7日後にセルタイターGlo試薬(Promega社製)を用いて細胞内ATP量の測定を行い、細胞増殖を定量した。培地は、RPMI培地にウシ胎児血清(HyClone社製(ThermoFisher scientific))を最終濃度10%となるように添加したものを使用した。この培地には、グリシンが133 μM以上含有されている。
ノックダウンレベルを確認するため、再播種時に余った細胞をRIPA バッファー(Thermo社製)を用いて細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロット法により、MTHFD2、GLDC、β−アクチンタンパク質を検出した。抗体は、それぞれ抗MTHFD2抗体(Abcam社製)、抗GLDC抗体(Cell signaling technologies社製、#12794)、抗β−アクチン抗体(santa cruz社製)を用いた。
GLDC遺伝子の高発現が認められたA549細胞を用いて、GLDC遺伝子およびMTHFD2遺伝子をダブルノックダウンした結果を図8に示す。MTHFD2遺伝子のみをノックダウンしても、細胞増殖には全く影響は認められなかった(図8の左パネル)。また、GLDC遺伝子のノックダウンにより細胞増殖が低下した。一方、GLDC遺伝子およびMTHFD2遺伝子をダブルノックダウンすると、グリシン存在下の条件にも拘らず細胞増殖が著しく低下した(図8の右パネル)。
本結果は、GLDC遺伝子の非常に低い発現とMTHFD2を阻害する薬剤に対する反応性とが関連することを、さらに支持するものである。
実施例1および実施例2に示した代表的ながん細胞株の結果をまとめ、表2に示す。
GLDC遺伝子の非常に低い発現とMTHFD2を阻害する薬剤に対する反応性とが関連することが判明したため、次に、GLDC遺伝子の発現を定量的に測定することを目的として、GLDCゲノム遺伝子のコピー数解析を行った。
その結果、検討した細胞株のうち、がん細胞株MDA−MB−231におけるGLDCゲノム遺伝子のコピー数が1コピー以下であり、該がん細胞株のGLDCゲノム遺伝子はヘテロ欠損であることが明らかになった。MDA−MB−231はMTHFD2遺伝子のノックダウンにより細胞増殖低下を示し、かつ、GLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現が非常に低いがん細胞株である。したがって、GLDC遺伝子のヘテロ欠損細胞株は、MTHFD2の作用を阻害する薬剤に反応性があると考えることができる。以下に、本実施例をより具体的に説明する。
GLDC遺伝子の遺伝子型の検討は、GLDC遺伝子のコピー数を解析することにより行った。具体的には、QIAamp DNA ミニ キット(QIAamp DNA Mini Kit、Qiagen社製)を用いて各細胞からゲノムDNAを抽出した。その後、該ゲノムDNAとタックマンプローブをタックマン ジェノタイピング マスター ミックス(Taqman Genotyping Master Mix、Applied Biosystems社製)と混合し、Viia7(Applied Biosystems社製)にてPCRを行った。得られたデータをコピーコーラー(登録商標) ソフトウエア v2.0(CopyCaller(R) Software v2.0、Applied Biosystems社製)にて解析し、各細胞のGLDC遺伝子のコピー数を算出した。タックマンプローブは、次のものを用いた:タックマン コピー ナンバーアッセイズ(Taqman Copy Number Assays、Applied Biosystems社製、Assay ID:Hs06881742_cn(Intron16),Hs06825592_cn(Intron8),Hs06830748_cn(Intron2))およびタックマン コピー ナンバー レファレンス アッセイ RNアーゼ P(Taqman Copy number reference Assay RNase P(Applied Biosystems社製)。
様々ながん細胞株についてGLDC遺伝子のコピー数を解析した結果を図9に示す。GLDC遺伝子のコピー数はA395では3コピー以上であったが、NCI−H1975はほぼ1コピー、MDA−MB−231、RBE、TE−1、SNU−1079、SW1271、MDA−MB−361、NCI−H2347、BT−474、およびHEC50Bは1コピー以下であった。
通常、遺伝子のコピー数は2コピーである。上記結果から、GLDC遺伝子のコピー数が1コピーあるいはそれ以下の細胞、例えばMDA−MB−231等では、GLDCゲノム遺伝子はヘテロ欠損であると考えることができる。
本結果、およびMDA−MB−231がMTHFD2遺伝子のノックダウンにより細胞増殖低下を示すことから、GLDC遺伝子のヘテロ欠損細胞株は、MTHFD2の作用を阻害する薬剤に反応性があると考えることができる。
GLDC遺伝子発現が非常に低い細胞株において、MTHFD2遺伝子ノックダウンによるインビトロでの細胞増殖の低下が、グリシンの存在下および非存在下のいずれの条件においても認められた。そこで、インビボのグリシン豊富な環境における細胞増殖へのMTHFD2遺伝子ノックダウンの効果を検討した。
まず、GLDCゲノム遺伝子ヘテロ欠損細胞株であり、GLDC遺伝子発現が非常に低いMDA−MB−231−lucを用いて、MTHFD2遺伝子を安定的にノックダウンした細胞を作製した。MTHFD2遺伝子の安定的なノックダウンは、MTHFD2遺伝子のショートヘアピンRNA(以下、shRNAと略称する)を細胞にトランスフェクションすることにより行った。具体的には、MDA−MB−231−luc細胞(Caliper社より購入)にpLKO.1−puro ノン−マンマリアン shRNA コントロール プラスミド DNA(pLKO.1−puro Non−Mammalian shRNA Control Plasmid DNA、Sigma社製)もしくはMTHFD2 shRNA−pLKO.1−puro プラスミド DNA(MTHFD2 shRNA−pLKO.1−puro Plasmid DNA、Sigma社製、クロン ID:TRCZN0000036553)をレンチウイルスを用いて導入し、ピューロマイシン処理を2週間以上行なうことによりプラスミドが導入された細胞を選抜した。MTHFD2 shRNA−pLKO.1−puro Plasmid DNAを導入したMDA−MB−231−luc細胞については、限界希釈法によりセルクローニングを行った。得られたクロンのうち、グリシン非存在下での3日間の細胞増殖がNon−Mammalian shRNA Controlと比べ顕著に低下しており、かつグリシン 100 μM存在下での3日間の細胞増殖がNon−Mammalian shRNA Controlと同程度であるものを3クロン選抜した。選抜したクロン細胞はMDA−MB−231−luc−M12、MDA−MB−231−luc−M13、MDA−MB−231−luc−M18と命名した。
MTHFD2遺伝子のshRNAまたはコンロトールshRNAをトランスフェクションすることによって得られたクロンにおけるMTHFD2のタンパク質レベルの発現を、実施例1に示した方法と同様の方法により測定した。また、これらクロンをグリシン存在下または非存在下で培養し、それらの細胞増殖を実施例1に記載した方法と同様の方法により測定した。
次いで、作製したshRNA導入細胞を細胞数2x10/マウスでSCID雌マウス(日本クレア社)の腹側部皮下に移植し、ゼノグラフトモデルマウス(Xenograft model mouse)を作製した。移植後10、14、18、21、25、および29日に腫瘍の長径(tumor length)および短径(tumor width)をディジタル キャリーパー(digital caliper、Mitutoyo Corporation社製、CD−15CX)を用いて測定し、以下の数式に従い推定腫瘍体積を算出した:推定腫瘍体積(Estimated tumor volume、mm)=1/2 x (腫瘍長径) x (腫瘍短径)
MTHFD2 shRNAを導入したMDA−MB−231−luc細胞クロンでは、MTHFD2遺伝子の発現低下がタンパク質レベルで確認できた(図10−A)。これらクロンは、グリシン非存在下および存在下の両条件下での細胞増殖の低下が認められたが、グリシン非存在下での細胞増殖の程度が著しかった(図10−B)。
MDA−MB−231−luc細胞クロンを移植したゼノグラフトモデルマウスでは、コントロールshRNAを導入したMDA−MB−231−luc細胞を移植したマウスと比較して、腫瘍体積の著しい減少が認められた(図11)。
このように、インビボのグリシン豊富な環境でも、MTHFD2遺伝子ノックダウンにより、GLDC遺伝子発現が非常に低い細胞株の腫瘍増殖が顕著に阻害された。
本発明は、MTHFD2阻害薬に対する反応性を予測する方法、および、該阻害薬による治療の奏功性が高いと予測される患者を選別する方法を提供するものであり、MTHFD2阻害薬による疾患の有効な治療を可能にする。このように、本発明は、疾患、例えばがん疾患の治療分野において極めて有用である。
配列番号1:GLDCタンパク質(配列番号2)をコードするGLDC mRNA。
配列番号3:GLDC mRNA(配列番号1)の第2428番目から第2595番目までの断片を増幅するためのフォワードプライマー。
配列番号4:GLDC mRNA(配列番号1)の第2428番目から第2595番目までの断片を増幅するためのリバースプライマー。
配列番号5:GLDC mRNA(配列番号1)の第364番目から第479番目までの断片を増幅するためのフォワードプライマー。
配列番号6:GLDC mRNA(配列番号1)の第364番目から第479番目までの断片を増幅するためのリバースプライマー。
配列番号7:GLDC mRNA(配列番号1)の第635番目から第743番目までの断片を増幅するためのフォワードプライマー。
配列番号8:GLDC mRNA(配列番号1)の第635番目から第743番目までの断片を増幅するためのリバースプライマー。

Claims (10)

  1. 被験者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるグリシンデカルボキシラーゼ(以下、GLDCと略称する)遺伝子またはその遺伝子産物を指標としてメチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ (以下、MTHFD2と略称する)阻害薬に対する反応性を予測することを含む、MTHFD2阻害薬への反応性の予測方法。
  2. 前記生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子またはその遺伝子産物の発現を測定し、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現が検出され、かつ、該遺伝子またはその遺伝子産物の発現量が予め設定した基準値よりも低い試料は、MTHFD2阻害薬に反応性を有する被験者由来の試料であると予測することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. GLDC遺伝子の発現の測定がGLDC mRNAの定量測定により行われる、請求項2に記載の方法。
  4. GLDC遺伝子の発現の測定がGLDCタンパク質の定量測定により行われる、請求項2に記載の方法。
  5. 前記生物学的試料中に含まれるGLDC遺伝子の遺伝子型を解析し、GLDC遺伝子のヘテロ欠損が検出された試料は、MTHFD2阻害薬に反応性を有する被験者由来の試料であると予測することを含む、請求項1に記載の方法。
  6. GLDC遺伝子の遺伝子型の解析が該遺伝子のコピー数を測定することにより行われる、請求項5に記載の方法。
  7. 請求項1−6のいずれか1項に記載の方法により、MTHFD2阻害薬に反応性を有すると予測された被験者を、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象として選別することを含む、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象を選別する方法。
  8. 被験者ががん疾患患者であり、かつ疾患治療ががん疾患治療である、請求項7に記載の方法。
  9. 請求項1−6のいずれか1項に記載の方法により、MTHFD2阻害薬に反応性を有すると予測された被験者を、MTHFD2阻害薬による疾患治療の対象として選別し、該選別された患者に、MTHFD2阻害薬の治療有効量を投与することを含む、疾患治療方法。
  10. 被験者ががん疾患患者であり、かつ疾患治療ががん疾患治療である、請求項8に記載の方法。
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