以下に添付図面を参照して、トランスおよびプラズマ発生装置の実施形態を詳細に説明する。
図1は、各実施形態に係るトランスを適用可能な一例の回路を示す。図1は、インバータ装置の共振回路の例である。図1において、共振回路1は、トランス10とスイッチ素子11とを含む。共振回路1は、トランス10の出力インダクタンスLsと、トランス10の出力巻線(2次巻線)に分布または寄生する静電容量Csとからなる電圧共振回路を構成している。
共振回路1は、スイッチング信号SWGに従ったスイッチ素子11のスイッチング動作により、直流電圧である入力電圧Vinを例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号に変調してトランス10の励磁巻線(2次巻線)に供給し、トランス10の出力巻線から高電圧で交番される出力電圧Voutとして出力する。トランス10の出力は、例えば静電容量C0のパッシブ素子に供給される。
なお、トランス10の出力が供給されるパッシブ素子は、例えば、放電電極と、カウンター電極と、誘電体とを含む大気圧プラズマ発生装置である。また、図1の例では、トランス10において、励磁巻線が巻線200および220に分割され、これに対応して、出力巻線(1次巻線)が巻線210および230に分割され、トランス10が磁束を共有する2個のトランス20および21に電流分割された構成となっている。
ところで、大気圧プラズマは、一般的に、大気圧が常圧の状態において、6kV(キロボルト)程度以上の電圧で発生する。プラズマ発生のための2電極間の負荷は、パッシブ素子の静電容量C0となり、共振回路1の出力側の静電容量Cは、共振回路1における各定数Ls、CsおよびC0により決まる。
共振回路1の電気経路上に対する磁場の影響や、共振回路1の各定数の温度や線間長のずれなどから、出力電圧Voutの波形は、基本波に対して歪成分が加味された出力波形となる。この出力波形は、例えばフーリエ展開すると、高次数の、交番され減衰されてゆく波形に分解される。
ここで、共振回路1の各定数LsおよびCsは、磁路が分離された複数個のトランス(例えば図1のトランス20および21)の合成特性となる。個々のトランスの出力インダクタンスは、トランスの分割数が2個の場合、略Ls/2となり、負荷容量を除いた出力容量は、略Cs/2となる。出力電圧Voutは、交番された電圧であり、その値は、プラズマ発生の用途の場合、数kV乃至数十kV、平均出力電力は、数W乃至数十kW範囲となる。
インバータ装置としては、一般的には、出力電力値が数W(ワット)程度のものが多く使用される。一方、プラズマ発生装置などには、出力電圧が十数kVで電力値が数十W以上の交流出力を持つ高電圧インバータ装置が使用される。
このような高電圧インバータ装置においては、トランスの磁束密度の不足を補うために、トランスにおいて多くの巻数が必要になる。そのため、トランス内部の巻線間、各層間の分布容量が増加し、この容量に起因して水分子の影響を受け易くなる。これにより、雰囲気中の不純物にて均一電界が保てなくなり、本来の経路とは異なる電気の経路が発生し、トランス内部でのリークを引き起こす要因となる。
また、巻線間や各層間の分布容量は、トランスにおける自己共振周波数f0の低下を招くことになる。これにより、トランスが使用したいスイッチング周波数以下で共振状態となり、使用可能なスイッチング周波数が低下する不具合が発生する。これらのことから、図1のトランス20および21のように、巻数の負担を軽減するため負荷容量C0と出力インダクタンスLsとの並列共振が採用されることがある。
しかし、このような方式においては、上述の不具合を考慮すると、下記の(1)〜(3)の3点の課題がある。
(1)スイッチング周波数fsをトランスの自己共振周波数f0以下として使用する必要がある。例えば、PWM制御する場合は、時比率範囲の関係でスイッチング周波数fsと自己共振周波数f0との間で出力共振状態になる制約がある。また、PFM(Pulse Frequency Modulation)制御の場合は、周波数変調であるため、スイッチング周波数fs=出力共振周波数、時比率=0.5であるが、共振状態にするためには、出力インダクタンスLsの特性が正領域にあることが必須であるので、制約条件としてはPWM制御と変わらない。
(2)出力電圧Voutが高電圧の交番される電圧であるため、個々の巻線間で放電などが発生し易くなる。これにより、トランスの巻線の表皮(エナメルなどの絶縁体)の一部にピンホールが発生して絶縁性(耐久性)が低下するおそれがある。また、仮に長時間使えたとしても、機能性能が劣化したり、絶縁性などの信頼性に欠けるものとなるおそれがある。
(3)大気圧放電を行う場合、天候や高度などの外部の環境変化による環境の気圧変化を考慮する必要がある。すなわち、大気圧放電では、パッシェン法則、状態平衡式から、気圧が変化すると放電開始電圧が変化することがわかっている。すなわち、圧力と体積の積が一定状態であれば、圧力(気圧)が低いと放電開始電圧が高くなる。また、気圧の変化によって、トランス内部の水分子の影響により分布容量が変化することがある。この場合、分布容量の変化に応じてトランスの自己共振周波数f0が変化して、出力電圧Voutが変動してしまう。
実施形態では、上述の課題(1)〜(3)に鑑み、負荷変動に対する自己共振周波数f0の変動を抑制可能であり、また、使用可能なスイッチング周波数fsをより広帯域とすることができるトランスを提供する。さらに、実施形態では、高電圧の出力において、トランス内部の放電を抑制し、信頼性をより高めたトランスを提供する。
(第1の実施形態)
次に、第1の実施形態に係るトランスの構造について説明する。第1の実施形態に係るトランスは、多層構造のプリント基板(多層基板)を用い、多層基板の各層に周回された周回パターンを形成することで構成する。1枚の多層基板の各層に形成された各周回パターンをビアホールで接続し、当該多層基板の全体として1つの巻線を形成する。このとき、多層基板の各層の周回パターンは、隣接する第1の層と第2の層とで、多層基板の積層方向にパターンが重ならないように形成される。
このようにして、それぞれ巻線が形成された第1および第2の多層基板を、多層基板の積層方向に1列に配置する。そして、例えばそれぞれの周回パターンの中央をフェライトコアなどで当該積層方向に貫通させることで、第1の多層基板に形成された第1の周回パターンによる巻線と、第2の多層基板に形成された第2の周回パターンによる巻線とがそれぞれ1次巻線および2次巻線として機能し、全体としてトランスが構成される。
図2は、第1の実施形態に係るトランスの構造を概略的に示す。図2において、トランス10は、コア100と、周回パターンによる巻線が形成された複数の多層基板を含む巻線部110とを備える。より詳細には、巻線部110は、多層基板の積層方向に1列に並べられた、それぞれ巻線が形成された複数の多層基板を含む。コア100の中足(センター)120は、巻線部110において各積層基板を通して周回パターンの内周部に設けられた穴部を貫通する。
ここで、図3を用いて、多層基板について概略的に説明する。図3において、多層基板30は、導体によるパターン面31と、絶縁体による基板部32とからなる層が、複数積層された構造となっている。なお、以下では、適宜、最上面および最下面のパターン面31を外層パターンと呼び、それ以外のパターン面31を内層パターンと呼ぶ。
各層のパターン面31は、各層の積層方向に所定層を貫通するビアホール331、332および333により電気的に接続される。ビアホール331、332および333は、それぞれ例えばメッキによる導通部34により、各層のパターン面31を接続する。図3において、ビアホール331は、多層基板30の全層を貫通するタイプであり、ビアホール332および333は、多層基板30の目的の層間のみを接続するタイプを示す。
以下、図4〜図7を用いて、第1の実施形態に係るトランスの構造ついて説明する。図4は、多層基板30の各パターン面31に形成される周回パターンの例を示す。図4(a)、図4(b)および図4(c)は、それぞれ、多層基板30の各層のうち、順次隣接する第1〜第3の層20001〜20003の各パターン面31に形成される周回パターンの例を示している。
なお、第1〜第3の層20001〜20003は、対応する位置に、コア100の中足120を貫通させるための穴部2031が設けられている。また、第1〜第3の層20001〜20003は、それぞれ、周回パターンにより形成される巻線部20301、20302および20303を構成する。
図4(a)において、第1の層20001は、最外周の端子20201(開始点とする)から最内周の端子20211(終了点とする)に向けて、渦巻状に周回した周回パターン20101が形成されている。すなわち、図4(a)の例では、第1の層20001は、図中に矢印Aで示されるように、周回パターン20101が左回り(反時計回り)に周回される。
この周回パターン20101は、半径方向の断面で見たときに、半径方向に等間隔でパターンが並ぶように形成される。このとき、パターンの間隔は、パターンの幅以上とする。このように、パターンに所定の間隔を持たせることで、近接効果が低減される。また、各パターンの幅は、パターンの断面積がトランスに用いる巻線として必要な断面積の丸線と同一となるようにすると、好ましい。
なお、図4(a)において、端子20201は、引き出し線に接続するために設けられている。
なお、この周回パターンは、例えば、極座標を用いてr=a+bθで表される渦巻曲線を用いることができる。周回パターンを構成する渦巻曲線は、この例に限定されず、半径方向に等間隔でパターンが並ぶものであれば、他の渦巻曲線を用いてもよい。
1層における周回数が多く、断面積が足りない場合は、巻線20101を分割もしくは並列とすることができる。すなわち、出力巻線による出力電圧が、励磁巻線に対する入力電圧に対して非常に高電圧でありトランスによる昇圧比が高い場合、出力巻線の巻数が大きくなるため、パターン幅が不足する場合がある。この場合、巻数を分割、もしくは、パターン断面積を1/nにして、n倍の並列の出力巻数を重ね合わせる。分割の場合も同様となる。
ここで、各層を重ね合わせる際に生じる各層間の分布容量を小さくするために、ビアホールなど必要となるパターン以外形成しない層を設けると好ましい。
さらに、並列または分割された巻線は、複数層に形成される。第1の実施形態では、この場合に、隣接する層では、多層基板30の積層方向から見てパターンが重ならないように、周回パターンを形成する。図4(b)、図4(c)および図5を用いて、隣接する層で重ならない周回パターンについて説明する。
図4(b)は、第1の層20001に隣接する第2の層20002に形成される周回パターン2011の例を示す。周回パターン2011は、最内周の端子20212が上述した第1の層20001における周回パターン20101の最内周の端子20211とビアホールで接続される。周回パターン2011は、この最内周の端子20212を開始点として、終了点である最外周の端子20221に向けて、渦巻状に周回されて形成される。
ここで、周回パターン2011は、図5に示されるように、多層基板30の集積方向から見たときに、隣接する第1の層20001の周回パターン20101とパターンが重ならないように形成される。したがって、周回パターン2011は、図4(b)中に矢印Bで示されるように、上述の周回パターン20101と逆向きの、右回り(時計回り)に周回されることになる。
なお、図5の例では、周回パターン20101と周回パターン2011とが隙間無く形成されているように示しているが、これはこの例に限られず、周回パターン20101と周回パターン2011との間に隙間があっても良い。
図4(c)は、第2の層20002に隣接する第3の層20003に形成される周回パターン20102の例を示す。周回パターン20102は、最外周の端子20222が上述した第2の層20002における周回パターン2011の最外周の端子20221とビアホールで接続される。周回パターン20102は、この最外周の端子20222を開始点とし、終了点である最内周の端子20213に向けて、渦巻状に周回されて形成される。
この場合も、上述と同様に、多層基板30の集積方向から見たときに、隣接する第2の層20002の周回パターン2011とパターンが重ならないように形成される。したがって、周回パターン20102は、図中に矢印Cで示されるように、上述の周回パターン2011と逆向きの、左回りに周回されることになる。
図6は、ビアホールにより接続される複数の周回パターンからなる巻線の巻き始めおよび巻き終わりの層の例を示す。図6では、説明のため、図4(a)および図4(b)で示した第1の層20001および第2の層20002で巻線を構成している。この場合、第1の層20001における周回パターン20101の開始点の端子20201が巻き始めとなり、第2の層における周回パターン2011の最外周の端子20221’が巻き終わりとなる。
なお、ここでは、図6(a)に示される第1の層20001が、図6(b)に示される第2の層20002’に対して手前側に配置されているものとする。
図6(a)に示されるように、巻き始めの端子20201に対して、引出線2040が接続される。この引出線2040は、第1の層20001よりさらに手前側の層にパターンが形成され、端子20201に対応する位置のビアホールにより、端子20201に対して直接的に接続される。
一方、巻き終わりの端子20221’に対して、引出線2041が接続される。この引出線2041は、巻き始めの第1の層20001とは逆に、第2の層20002’より背後側の層にパターンが形成され、端子20221’に対応する位置のビアホールにより、端子20221’に対して直接的に接続される。
このように、巻き始めと巻き終わりとでは、各層に対して互いに逆の方向に引出線を引き出すようにする。
図7は、多層基板上に形成された周回パターンによる複数の巻線を含むトランス10の全体を、多層基板の断面により示す。なお、図7において、パターンまたはビアホールといった導電部分を、斜線を付して示している。
図7の例では、トランス10は、多層基板3001および3002(それぞれ図3の多層基板30に対応)による2つの巻線を備える。各多層基板3001および3002は、パターン面310と基板部311(それぞれ図3のパターン面31および基板部32に対応)とからなる複数の層2000を含む。各多層基板3001および3002は、各層2000の積層方向に、図4などで示した穴部2031の中心を揃えて1列に並べられる。なお、多層基板3001および3002の間の領域301は、空間としてもよいし、例えば各パターン面を全て除去した多層基板や、その他の絶縁体でもよい。
多層基板3001および3002において、内層パターンとなる層2000には、左回りに周回される周回パターン2010と、右回りに周回される周回パターン2011とが交互に配列される。このとき、各周回パターン2010および2011は、隣接する層2000において各層2000が積層される方向にパターンが重ならないように形成される。また、各周回パターン2010および2011は、例えば多層基板3002に例示されるように、互いの開始点と終了点とをビアホールで順次接続して、一つの巻線を構成する。
各多層基板3001および3002において、外層パターンとなるパターン面310aおよび310bに引き出しピン320、320、…が設けられ、引出線2040および2041がそれぞれ接続される。また、これら外層パターンとなるパターン面310aおよび310bには、周回パターンは設けない。
(効果)
このように、第1の実施形態では、隣接する層でパターンが重ならないように巻線を形成している。そのため、各層間の容量は、例えば層間の距離とパターン幅とが同一の場合を想定すると、容量Cが電極間距離の逆数に比例することから、パターンが各層で重なる場合と比べて、少なくとも1/(√2)=0.707の比率に低減される。
この容量Cの低減される比率は、層間の距離が長くなるほど高くなる。また、パターンとパターンとの間は、密接していないので、近接効果による表面に流れる作用(表皮効果)で互いに電界と磁界とが干渉することによる損失が抑制される。この損失は、周波数が高いほど、また、高電圧であるほど生じる弊害項目であるが、第1の実施形態の構成によれば、軽減可能である。すなわち、右ねじの法則により、パターンに流れる電流を阻害するように磁界が1/2πラジアンで発生するため、磁束でパターン間が互いに干渉するためである。これは、高電圧であるほど顕著となる。
このように、第1の実施形態による構成によれば、隣接する層間のパターンにおける容量の形成を抑制したパターン構造となる。
また、上述したように、例えば第1の層20001の周回パターン20101と、第2の層20002の周回パターン2011とは、互いに対応する位置に設けられた端子20211および20212により、ビアホールを介して直接的に接続される。すなわち、周回パターン20101と周回パターン2011との接続において、互いのパターンを交差するようなパターンを用いないようにする。こうすることで、各層間の分布容量を小さくすることができる。
さらに、互いに隣接する層の周回パターンは、ビアホールにより直接的に接続され、最短距離での接続が可能である。これにより、出力巻線のリーケージインダクタンスを非常に小さくすることができ、磁気結合のよい理想状態に近付けることができる。これは、スイッチング素子に論理がオフ時にインダクタンスの逆起電力で発生する際サージ電圧を小さくできるので、スイッチング素子の許容耐量の余裕度が向上され、より信頼性の高いトランスを提供することができる。
また、多層基板の内層パターンを用いて周回パターンを構成しており、外層パターンには周回パターンが形成されないため、周回パターンにおいて水分子による影響が発生しにくく、リークの発生が抑制される。これらにより、第1の実施形態に係る構成を採用することで、さらに信頼性の高いトランスを提供することができる。
(第1の実施形態の変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。図8は、第1の実施形態の変形例による基板2001の例を示す。この基板2001は、上述した層2000などと同一のサイズとされ、領域2200、2200、…が空間とされている。各領域2200の形状や数は、図8の例に限定されない。
この基板2001は、各層に周回パターンが形成される多層基板の、周回パターンが無い層に形成される。例えば、図7を例にとって、多層基板3001においてビアホールが設けられる中央の層2000の代わりに、この基板2001の構成を適用することができる。この場合、空間とされた領域2200は、ビアホールの位置を避けて設けられる。また例えば、この基板2001を、図7において空間とされた領域301に挿入してもよい。
このように、空間とされた領域2200を設けた基板2001をトランス10の構成に含めることで、層間の分布容量をさらに下げることが可能となる。また、多層基板は、ガラスエポキシを材料として用いる場合が多く、比誘電率が3乃至5と比較的大きい。この場合において、空間とされた領域2200を設けた基板2001をトランス10の構成に含めることで、容量を少なくすることが可能である。
図9は、第1の実施形態およびその変形例によるトランスと、既存技術によるトランスの出力インダクタンスLsの周波数特性の例を示す。図9において、特性線400は、既存技術によるトランスの特性の例を示し、特性線401は、第1の実施形態およびその変形例によるトランスの特性の例を示す。各特性線400および401のピークが、各トランスにおける自己共振周波数f0およびf0’となる。
図9に例示されるように、第1の実施形態およびその変形例によるトランスの自己共振周波数f0’は、既存技術によるトランスの自己共振周波数f0に対してより高い周波数とすることができる。スイッチング周波数fsは、出力インダクタンスLsの周波数特性が平坦な領域に設定することが必要であるスイッチング周波数fsに対して出力共振で使用できる最大時比率(ON Duty)の関係は、1−fs/f0にある。これにより、自己共振周波数f0は、高いほど出力される共振の1周期の占める時間が狭まり、励磁時間を長くすることが可能となって、制御範囲が広くなり優位となる。
また、既存技術に用いられる難燃性の絶縁テープは、幾分かの水分子の吸着が起こるので、水分子に起因するトランス内部のリークや放電の可能性を排除することが難しかった。これに対して、第1の実施形態およびその変形例では、多層基板の内層の各層に形成した周回パターンにより巻線を構成しているため、水分子の影響を受けにくく、水分子に起因するトランス内部のリークや放電を抑制することができる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。被処理物である用紙(記録媒体、印刷メディア)に画像形成して印刷処理を行う画像形成システムにおいて、印刷処理の前処理としてプラズマ処理を行う。第2の実施形態は、このプラズマ処理のためのプラズマ発生装置に、上述した第1の実施形態およびその各変形例に係るトランス20またはトランス20’を含むトランス10を適用した例である。
先ず、プラズマ処理について説明する。被処理物(記録媒体または印刷メディアともいう)にインクが着弾した直後にインク顔料の分散を防止しつつ顔料を凝集させるために、被処理物表面を酸性化させる。酸性化する手段として、プラズマ処理を用いる。
酸性化処理手段(工程)としてのプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物(例えばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層は炭酸カルシウムとバインダとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルO*や水酸ラジカル(−OH)、オゾンO3と再結合する。これらの処理をプラズマ処理と呼ぶ。これにより、被処理物の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、印刷媒体の表面に親水性や酸性が付与される。なお、カルボキシル基の増加により、印刷媒体表面が酸性化(pH値の低下)する。
被処理物上で隣接したドットが、親水性が上がることにより濡れ拡がって合一することで、ドット間の混色が発生するのを防ぐためには、着色剤(例えば顔料や染料)をドット内で凝集させることや、ビヒクルが濡れ拡がるよりも早くビヒクルを乾燥させたり被処理物内へ浸透させたりすることが重要であることも分かった。そこで、実施形態では、インクジェット記録処理の前処理として、被処理物表面を酸性化する酸性化処理を実行する。
本説明における酸性化とは、インクに含まれる顔料が凝集するpH値まで印刷媒体表面のpH値を下げることを意味する。pH値を下げるとは、物体中の水素イオンH+濃度を上昇させることである。被処理物表面に触れる前のインク中の顔料はマイナスに帯電し、ビヒクル中で顔料が分散している。インクは、そのpH値が低いほど、その粘度が上昇する。これは、インクの酸性度が高くなるほど、インクのビヒクル中でマイナスに帯電している顔料が電気的に中和され、その結果、顔料同士が凝集するためである。したがって、インクのpH値が必要な粘度と対応する値となるように印刷媒体表面のpH値を下げることで、インクの粘度を上昇させることが可能である。これは、インクが酸性である印刷媒体表面に付着した際、顔料が印刷媒体表面の水素イオンH+によって電気的に中和された結果、顔料同士が凝集するためである。それにより、隣接したドット間の混色を防止するとともに、顔料が印刷媒体の奥深く(さらには裏面まで)浸透するのを防止することが可能となる。ただし、必要な粘度と対応するpH値となるようにインクのpH値を下げるためには、印刷媒体表面のpH値を必要な粘度と対応するインクのpH値よりも低くしておく必要がある。
また、インクを必要な粘度とするためのpH値は、インクの特性によって異なる。すなわち、比較的中性に近いpH値で顔料が凝集して粘度が上がるインクもあれば、顔料を凝集させるために当該インクよりも低いpH値が必要なインクも存在する。
着色剤がドット内で凝集する挙動や、ビヒクルの乾燥速度や被処理物内への浸透速度は、ドットの大きさ(小滴、中滴、大滴)によって変わる液滴量や、被処理物の種類などによって異なる。そこで、実施形態では、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、被処理物の種類や印刷モード(液滴量)などに応じて最適な値に制御してもよい。
図10は、第2の実施形態で採用される酸性化処理の概略を説明するための模式図である。図10に示すように、第2の実施形態で採用される酸性化処理には、放電電極1011と、カウンター電極1014と、誘電体1012と、高周波高圧電源1015とを備えたプラズマ処理装置1010が用いられる。プラズマ処理装置1010において、誘電体1012は、放電電極1011とカウンター電極1014との間に配置される。放電電極1011およびカウンター電極1014は、金属部分が露出した電極であってもよいし、絶縁ゴムやセラミックなどの誘電体または絶縁体で被覆された電極であってもよい。また、放電電極1011とカウンター電極1014との間に配置される誘電体1012は、ポリイミド、シリコン、セラミック等の絶縁体であってよい。なお、プラズマ処理として、コロナ放電を採用した場合、誘電体1012は省略されてもよい。ただし、例えば誘電体バリア放電を採用した場合など、誘電体1012を設けた方が好ましい場合もある。その場合、誘電体1012の位置は、放電電極1011側に近接または接触するように配置するよりも、カウンター電極1014側に近接または接触するように配置した方が、沿面放電の領域が広がるため、よりプラズマ処理の効果を高めることが可能である。また、放電電極1011およびカウンター電極1014(もしくは誘電体1012が設けられている側の電極はその誘電体1012)は、2つの電極間を通過する被処理物1020と接触する位置に配置されてもよいし、接触しない位置に配置されてもよい。
高周波高圧電源1015は、放電電極1011とカウンター電極1014との間に高周波・高電圧のパルス電圧を印加する。このパルス電圧の電圧値は、例えば約10kVp−p程度である。また、その周波数は、例えば約20kHzとすることができる。このような高周波・高電圧のパルス電圧を2つの電極間に供給することで、放電電極1011と誘電体1012との間に大気圧非平衡プラズマ1013が発生する。被処理物1020は、大気圧非平衡プラズマ1013の発生中に放電電極1011と誘電体1012との間を通過する。これにより、被処理物1020の放電電極1011側の表面がプラズマ処理される。
なお、図10に例示したプラズマ処理装置1010では、回転型の放電電極1011とベルトコンベア型の誘電体1012とが採用されている。被処理物1020は、回転する放電電極1011と誘電体1012との間で挟持搬送されることで、大気圧非平衡プラズマ1013中を通過する。これにより、被処理物1020の表面が大気圧非平衡プラズマ1013に接触し、これに一様なプラズマ処理が施される。ただし、実施形態において採用されるプラズマ処理装置は、図10に示される構成に限られるものではない。例えば、放電電極1011が被処理物1020と接触せずに近接している構成や、放電電極1011がインクジェットヘッドと同じキャリッジに搭載された構成など、種々変形可能である。また、ベルトコンベア型の誘電体1012に限らず、平板型の誘電体1012を採用することも可能である。
ここで、図11〜図14を用いて、第2の実施形態に係るプラズマ処理を施した場合と施していない場合との印刷物の違いを説明する。図11は、実施形態に係るプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図12は、図11に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。図13は、実施形態に係るプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図14は、図13に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。なお、図11および図13に示す印刷物を得るにあたり、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いた。また、被処理物1020には、コート層を備える一般的なコート紙を用いた。
第2の実施形態に係るプラズマ処理を施していないコート紙は、コート紙表面にあるコート層の濡れ性が悪い。そのため、プラズマ処理を施していないコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、例えば図11および図12(a)に示すように、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状(ビヒクルCT1の形状)が歪になる。また、ドットの乾燥が十分でない状態で近接ドットを形成すると、図11および図12(b)に示すように、コート紙への近接ドットの着弾時にビヒクルCT1およびCT2同士が合一し、これによりドット間で顔料P1およびP2の移動(混色)が起き、その結果、ビーディング等による濃度ムラが生じてしまう場合がある。
一方、第2の実施形態に係るプラズマ処理を施したコート紙は、コート紙表面にあるコート層1021の濡れ性が改善されている。そのため、プラズマ処理を施したコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、例えば図13に示すように、ビヒクルCT1がコート紙の表面に比較的平坦な真円状に広がる。これにより、図14(a)のようにドットが平坦な形状となる。また、プラズマ処理で形成された極性官能基によってコート紙表面が酸性になるため、インク顔料が電気的に中和され、顔料P1が凝集してインクの粘性が上がる。これにより、図14(b)のようにビヒクルCT1及びCT2が合一した場合にも、ドット間の顔料P1およびP2の移動(混色)が抑制される。さらに、コート層1021内部にも極性官能基が生成されるため、ビヒクルCT1の浸透性が上がる。これにより比較的短時間で乾燥することが出来る。濡れ性向上により真円状に広がったドットが、浸透しながら凝集することにより、顔料P1が高さ方向に均等に凝集され、ビーディング等による濃度ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、図12および図14は模式図であり、実際には図14の場合にも顔料は層になって凝集している。
このように、第2の実施形態に係るプラズマ処理を施した被処理物1020では、プラズマ処理によって被処理物1020の表面に親水性の官能基が生成されて濡れ性が改善される。また、プラズマ処理によって極性官能基が形成された結果、被処理物1020表面が酸性になる。それらにより、着弾したインクが被処理物1020表面で均一に拡がりつつ、マイナスに帯電した顔料が被処理物1020表面で中和されることで凝集して粘性が上がり、結果的にドットが合一したとしても顔料の移動を抑制することが可能となる。また、被処理物1020表面に形成されたコート層内部にも極性官能基が生成されることで、ビヒクルが速やかに被処理物1020内部に浸透し、これにより乾燥時間を短縮することが出来る。つまり、濡れ性が上がることで真円状に広がったドットは、凝集によって顔料の移動が抑えられた状態で浸透することで、真円に近い形状を保つことが可能となる。
図15は、第2の実施形態に係るプラズマエネルギー量と被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。図15では、被処理物1020としてコート紙へ印刷した場合の表面特性(濡れ性、ビーディング、pH値、浸透性(吸液特性))がプラズマエネルギー量に依存してどのように変化するかが示されている。なお、図15に示す評価を得るにあたり、インクには、顔料が酸により凝集する特性の水性顔料インク(マイナスに帯電した顔料が分散されているアルカリ性インク)を使用した。
図15に示すように、コート紙表面の濡れ性は、プラズマエネルギー量が低い値(例えば0.2J/cm2程度以下)で急激に良くなり、それ以上エネルギーを増加させてもあまり改善はしない。一方、コート紙表面のpH値は、ある程度まではプラズマエネルギー量を高めることにより低下していく。ただし、プラズマエネルギー量がある値(例えば4J/cm2程度)を超えたところで飽和状態になる。また、浸透性(吸液特性)は、pHの低下が飽和したあたり(例えば4J/cm2程度)から急激に良くなっている。ただし、この現象は、インクに含まれている高分子成分に依存して異なる。
この結果として、浸透性(吸液特性)がよくなり始めて(例えば4J/cm2程度)からビーディング(粒状度)の値が非常に良い状態となっている。ここでのビーディング(粒状度)とは、画像のざらつき感を数値で表したものであり、濃度のばらつきを平均濃度の標準偏差で表したものである。図15では、2色以上のドットからなる色のベタ画像の濃度を複数サンプリングし、その濃度の標準偏差をビーディング(粒状度)として表している。このように実施形態に係るプラズマ処理を施したコート紙に吐出されたインクが真円上に広がりかつ凝集しながら浸透するため、画像のビーディング(粒状度)が改善される。
上述したように、被処理物1020表面の特性と画像品質との関係では、表面の濡れ性が向上することにより、ドットの真円度が向上している。この理由としては、プラズマ処理による表面粗さの増加および生成された親水性の極性官能基によって被処理物1020表面の濡れ性が向上するとともにこれが均一化したことが考えられる。また、被処理物1020表面のゴミや油分や炭酸カルシウムなどの撥水要因がプラズマ処理によって除外されることも1つの要因と考えられる。すなわち、被処理物1020表面の濡れ性が向上しつつ被処理物1020表面の不安定要因が取り除かれた結果、液滴が円周方向に均等に拡がり、ドットの真円度が向上すると考えられる。
また、被処理物1020表面を酸性化(pHの低下)させることにより、インク顔料の凝集、浸透性の向上、ビヒクルのコート層内部への浸透などが生じる。これらにより、被処理物1020表面の顔料濃度が上昇するため、ドットが合一したとしても、顔料の移動を抑えることが可能となり、その結果、顔料の混濁が抑制し、顔料を均一に被処理物1020表面に沈降凝集させることが可能となる。ただし、顔料混濁の抑制効果は、インクの成分やインクの滴量に依存して異なる。例えばインクの滴量が小滴の場合、大滴の場合に比べて、ドットの合一による顔料の混濁は発生し難い。それは、ビヒクル量が小滴の場合の方が、ビヒクルがより早く乾燥・浸透するためであり、少しのpH反応で顔料を凝集することができるためである。なお、プラズマ処理の効果は、被処理物1020の種類や環境(湿度など)によって変動する。そこで、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、液滴の量や被処理物1020の種類、環境などに応じて最適な値に制御してもよい。その結果、被処理物1020の表面改質効率が向上し、さらなる省エネを達成することが可能な場合が存在する。
また、図16は、第2の実施形態に係るプラズマエネルギー量とpHとの関係を示すグラフである。通常、pHは溶液中で測定するのが一般的であるが、近年では、固体表面のpHの測定が可能である。その測定器としては、例えば堀場製作所製のpHメーターB−211等が存在する。
図16において、実線はコート紙のpH値のプラズマエネルギー依存性を示し、点線はPETフィルムのpH値のプラズマエネルギー依存性を示す。図16に示すように、コート紙と比べてPETフィルムは、少ないプラズマエネルギー量で酸性化する。ただし、コート紙においても、酸性化する際のプラズマエネルギー量は3J/cm2程度以下であった。そして、pH値が5以下となった被処理物1020にアルカリ性の水性顔料インクを吐出するインクジェット処理装置で画像記録した場合、形成された画像のドットは真円に近い形状となった。また、ドットの合一による顔料の混濁もなく、にじみのない良好な画像が得られた(図13参照)。
次に、第2の実施形態に係る画像形成システムについて、図面を参照して詳細に説明する。
なお、第2の実施形態では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)を有する画像形成装置を説明するが、これらの吐出ヘッドに限定されない。すなわち、グリーン(G)、レッド(R)及びその他の色に対応する吐出ヘッドを更に有してもよいし、ブラック(K)のみの吐出ヘッドを有していてもよい。ここで、以後の説明において、K、C、M及びYは、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
また、第2の実施形態では、被処理物として、ロール状に巻かれた連続紙(以下、ロール紙という)を用いるが、これに限定されるものではなく、例えばカット紙など、画像を形成できる記録媒体であればよい。そして、紙の場合その種類としては例えば、普通紙、上質紙、再生紙、薄紙、厚紙、コート紙等を用いることができる。また、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものも被処理物として用いることができる。紙がコート紙のような非浸透、緩浸透紙の場合、第2の実施形態はより効果を発する。ここで、ロール紙は、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)であってよい。その場合、ロール紙におけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
図17は、第2の実施形態に係る印刷装置(画像形成システム)の概略構成を示す模式図である。図17に示すように、画像形成システム1bは、被処理物1020(ロール紙)を搬送経路D1に沿って搬入(搬送)する搬入部1030と、搬入された被処理物1020に対して前処理としてのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置1100と、プラズマ処理された被処理物1020の表面に画像を形成する画像形成装置1040とを有する。これらの装置は、別の筐体で存在し全体でシステムを構成しても良いし、同じ筐体内に納められた印刷装置であっても良い。また、印刷システムとして構成される場合には、システムの全体または一部を制御する制御部は、何れかの装置に含まれていてもよいし、独立した別筐体に設けられてもよい。
なお、画像形成システム1bにおいて、被処理物1020は、画像形成時には、全体として図17の右側から左側に向けた方向を用紙送り方向として搬送される。このときのロール紙(被処理物1020)の回転方向を、正転方向とする。
搬入部1030とプラズマ処理装置1100との間には、プラズマ処理装置1100に搬入される被処理物1020のテンションを調整する調整部1035が設けられる。プラズマ処理装置1100とインクジェット記録装置1170との間には、プラズマ処理などの前処理済の被処理物1020のインクジェット記録装置1170への送り量を調節するためのバッファ部1080が設けられている。また、画像形成装置1040は、プラズマ処理された被処理物1020にインクジェット処理により画像を形成するインクジェット記録装置1170を含む。画像形成装置1040は、画像が形成された被処理物1020を後処理する後処理部1070をさらに含んでもよい。
なお、画像形成システム1bは、後処理された被処理物1020を乾燥する乾燥部1050と、画像形成された(場合によってはさらに後処理された)被処理物1020を搬出する搬出部1060とを有してもよい。また、画像形成システム1bは、被処理物1020に対して前処理を施す前処理部として、プラズマ処理装置1100の他に、被処理物1020表面に高分子材料を含む先塗り剤と呼ばれる処理液を塗布する先塗り処理部(不図示)をさらに備えてもよい。さらに、プラズマ処理装置1100と画像形成装置1040との間には、プラズマ処理装置1100による前処理後の被処理物1020表面のpH値を検出するためのpH検出部1180が設けられてもよい。
さらにまた、画像形成システム1bは、各部の動作を制御する制御部(不図示)を有する。この制御部は、例えば印刷対象の画像データからラスタデータを生成する印刷制御装置に接続されてもよい。印刷制御装置は、画像形成システム1bの内部に設けられても、インターネットやLAN(Local Area Network)などのネットワークを介した外部に設けられてもよい。
第2の実施形態では、図17に示す画像形成システム1bにおいて、上述したように、インクジェット記録処理の前に、被処理物の表面を酸性化する酸性化処理が実行される。この酸性化処理には、例えば誘電体バリア放電を利用した大気圧非平衡プラズマ処理を採用することができる。大気圧非平衡プラズマによる酸性化処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、記録媒体などの被処理物に対するプラズマ処理方法として好ましい方法の1つである。
大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させるには、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電を採用した大気圧非平衡プラズマ処理を実行するとよい。ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電は、例えば誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧が印加することで得ることが可能である。
なお、大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、上述したストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電以外にも、種々の方法を用いることができる。例えば、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電などを適用することが可能である。また、これらの方法を2つ以上組み合わせることも可能である。
続いて、図17に示す画像形成システム1bにおけるプラズマ処理装置1100からインクジェット記録装置1170までの構成を、図18に抜粋して示す。図18に示すように、画像形成システム1bは、被処理物1020の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置1100と、被処理物1020表面のpH値を測定するpH検出部1180と、プラズマ処理装置1100から搬出された被処理物1020の送り量を調整するバッファ部1080と、被処理物1020にインクジェット記録にて画像を形成するインクジェット記録装置1170と、画像形成システム1b全体を制御する制御部1160とを含む。また、画像形成システム1bは、被処理物1020を搬送経路D1に沿って搬送するための搬送ローラ1190を備える。搬送ローラ1190は、例えば制御部1160からの制御にしたがって回転駆動することで、被処理物1020を搬送経路D1に沿って搬送する。
プラズマ処理装置1100は、図10に示すプラズマ処理装置1010と同様に、放電電極1110と、カウンター電極1141と、高周波高圧電源1150と、電極間に挟まれた誘電体ベルト1121とを備える。ただし、図18では、放電電極1110が5つの放電電極1111〜1115で構成され、これらの放電電極1111〜1115と誘電体ベルト1121を挟んで対向する範囲全体にカウンター電極1141が設けられている。また、高周波高圧電源1150は、放電電極1111〜1115の数に応じて5つの高周波高圧電源1151〜1155より構成されている。
誘電体ベルト1121には、被処理物1020を搬送する用途を兼ねるために、無端のベルトが用いられるとよい。そこで、プラズマ処理装置1100は、誘電体ベルト1121を巡回させて被処理物1020を搬送するための回転ローラ1122をさらに備える。回転ローラ1122は、制御部1160からの指示に基づいて回転駆動することで、誘電体ベルト1121を巡回させる。これにより、被処理物1020が搬送経路D1に沿って搬送される。
制御部1160は、高周波高圧電源1151〜1155を個別にオン/オフすることが可能である。また、制御部1160は、各高周波高圧電源1151〜1155が各放電電極1111〜1115へ供給する高周波・高電圧パルスのパルス強度を調整することもできる。
pH検出部1180は、プラズマ処理装置1100および先塗り装置(不図示)よりも下流に配置され、プラズマ処理装置1100および/または先塗り装置による前処理(酸性化処理)が施された被処理物1020表面のpH値を検出して制御部1160に入力してもよい。これに対し、制御部1160は、pH検出部1180から入力されたpH値に基づいてプラズマ処理装置1100および/または先塗り装置(不図示)をフィードバック制御することで、前処理後の被処理物1020表面のpH値を調整してもよい。
なお、プラズマ処理に要したプラズマエネルギー量は、例えば各高周波高圧電源1151〜1155から各放電電極1111〜1115へ供給した高周波・高電圧パルスの電圧値および印加時間と、その際に被処理物1020に流れた電流とから求めることができる。なお、プラズマ処理に要したプラズマエネルギー量は、放電電極1111〜1115毎ではなく、放電電極1110全体でのエネルギー量として制御されてよい。
被処理物1020は、プラズマ処理装置1100においてプラズマが発生している最中に放電電極1110と誘電体ベルト1121との間を通過することでプラズマ処理が施される。それにより、被処理物1020表面のバインダ樹脂の鎖が破壊され、さらに気相中の酸素ラジカルやオゾンが高分子と再結合することで、被処理物1020表面に極性官能基が生成される。その結果、被処理物1020表面に親水性および酸性化が付与される。なお、本例ではプラズマ処理を大気中で行っているが、窒素や希ガス等のガス雰囲気中で実施してもよい。
また、複数の放電電極1111〜1115を備えることは、被処理物1020の表面を均一に酸性化する点においても有効である。すなわち、例えば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極で酸性化処理を行う場合よりも複数の放電電極で酸性化処理を行う場合の方が、被処理物1020がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物1020の表面に酸性化処理を施すことが可能となる。
プラズマ処理装置1100でプラズマ処理を施された被処理物1020は、バッファ部1080を介してインクジェット記録装置1170に搬入される。インクジェット記録装置1170は、インクジェットヘッドを備える。インクジェットヘッドは、例えば印刷速度の高速化のために、複数の同色ヘッド(例えば4色×4ヘッド)を備えている。また、高速で高解像度(例えば1200dpi)の画像形成を達成するために、各色のヘッドのインク吐出ノズルは、間隔を補正するようにずらして固定されている。さらに、インクジェットヘッドは、各ノズルから吐出されるインクのドット(液滴)が大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、複数の駆動周波数で駆動可能となっている。
インクジェットヘッドは、被処理物1020の搬送経路上においてプラズマ処理装置1100よりも下流に配置される。インクジェット記録装置1170は、制御部1160からの制御のもと、プラズマ処理装置1100による前処理(酸性化処理)が施された被処理物1020に対してインクを吐出することで画像形成を行う。
図18に示すように、インクジェット記録装置1170のインクジェットヘッドとしては、複数の同色ヘッド(4色×4ヘッド)を備えてもよい。これにより、インクジェット記録処理の高速化が可能になる。その際、例えば高速で1200dpiの解像度を達成するためには、インクジェットヘッドにおける各色のヘッドは、インクを吐出するノズルとノズルとの間隔を補正するようにずらして固定されている。さらに、各色のヘッドには、そのノズルから吐出されるインクのドットが大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、いくつかのバリエーションを持った駆動周波数の駆動パルスが入力される。
また、複数の放電電極1111〜1115を備えることは、被処理物1020の表面を均一にプラズマ処理する点においても有効である。すなわち、例えば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極でプラズマ処理を行う場合よりも複数の放電電極でプラズマ処理を行う場合の方が、被処理物1020がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物1020の表面にプラズマ処理を施すことが可能となる。
このような構成において、画像形成システム1bは、被処理物1020に対しプラズマ処理装置1100でプラズマ処理を施されてから所定時間以内に当該被処理物1020のプラズマ処理済みの領域に画像形成が行われなかった場合に、当該被処理物1020を、表面処理済みの領域が少なくともプラズマ処理装置1100の手前(例えは調整部1035)まで来るように戻す。そして、当該被処理物1020を搬送経路D1に沿って搬送してプラズマ処理装置1100にて再びプラズマ処理を施し、その後、画像形成装置1040にて画像形成を行う。
図19は、第2の実施形態に適用可能なプラズマ処理装置の概略構成例を示す模式図である。図19に示すように、放電電極1111および1112は、金属部分が露出した電極であってもよいし、金属部分が絶縁ゴムやセラミックなどの誘電体や絶縁体等で被覆されていてもよい。
なお、第2の実施形態では、放電電極1111および1112は、ローラ状の断面形状を有し、被処理物1020に対して接触することで被処理物1020の搬送に合わせて回転する構成を有している。これは、このような構成に限られず、例えば放電電極1111および1112が被処理物1020から数ミリ程度離間した構成であってもよい。その場合、放電電極1111および1112の断面形状は、ワイヤのような細長な形状であってもよいし、カウンター電極1141に向かって先細りするような略三角形のブレード状の断面形状であってもよい。
高周波高圧電源1150は、図1で示した共振回路1を用いたインバータ回路1150aを含み、交流電源から入力された交流電圧(入力波形)をトランス10により昇圧し、さらに整流することで、各放電電極1111および1112に印加する高周波・高電圧のパルス(出力波形AおよびB)を生成する。
図20は、高周波高圧電源に対する電圧パルスの入力波形と出力波形との一例を示す図である。図20(a)に示すように、高周波高圧電源1150には、正弦波の交流波形であるAC電圧波形が入力波形として入力される。高周波高圧電源1150は、図20(b)に示すように、入力された入力波形をトランス10により昇圧し、整流回路などにより正の電圧波形に変換した後、出力波形として出力する。
第2の実施形態では、高周波高圧電源1150に、第1の実施形態およびその変形例に係るトランス10を用いているため、インバータ回路1150aにおけるスイッチング周波数をより高くすることができ、高電圧を効率よく発生させることができる。また、トランス10は、多層基板の内層に形成された周回パターンにより巻線が構成されているため、水分子の影響を受けにくく、水分子に起因するリークや放電が抑制され、高周波高圧電源1150の信頼性が向上される。
なお、上述の実施形態は、本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形による実施が可能である。