以下、実施形態によるブレーキ装置について、当該ブレーキ装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図6に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左,右の前輪2(FL,FR)と左,右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。これらの前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により制動力が付与され、後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により制動力が付与される。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aが設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントローラ13に出力する。ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、例えば、車両データバス16、または、液圧供給装置用コントローラ13と駐車ブレーキ制御装置19とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置19に出力される)。
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して、液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配置され、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与する。この場合、ESC11は、ブレーキペダル6の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,31の液圧を高めることができる。
このために、ESC11は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行うことにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御等が実行される。
コントロールユニット13には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。図1に示すように、コントロールユニット13は、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニットが用いることも可能である。さらに、ESC11を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ8とブレーキ側配管部12A〜12Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を備えており、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置19等との間で車両内での多重通信を行う。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ6A、マスタシリンダ液圧(ブレーキ液圧)を検出する圧力センサ17、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ、シフトセンサ、加速度センサ、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号による情報(車両情報)が挙げられる。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍に駐車ブレーキスイッチ(PKBSW)18が設けられる。駐車ブレーキスイッチ18は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ18は、運転者からの駐車ブレーキの作動要求(アプライ要求、リリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置19へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ18は、電動モータ43Bの駆動(回転)に基づいてブレーキパッド33(図2参照)をアプライ作動またはリリース作動させるための信号(アプライ要求信号、リリース要求信号)を、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置19に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動側(駐車ブレーキON側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を与えるためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からアプライ要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置19を介して後輪3用のディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側(駐車ブレーキOFF側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からリリース要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置19を介してディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側とは逆方向に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態となる。
駐車ブレーキは、例えば車両が停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って4km/h未満の状態が所定時間継続したとき)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って5km/h以上の状態が所定時間継続したとき)や、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合に、駐車ブレーキ制御装置19により、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることもできる。
次に、左,右の後輪3,3側に設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31,31の構成について、図2を参照しつつ説明する。なお、図2では、左,右の後輪3,3に対応してそれぞれ設けられた左,右のディスクブレーキ31,31のうちの一方のみを示している。
車両の左,右にそれぞれ設けられた一対のディスクブレーキ31は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ制御装置19と共にブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成する。ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、制動部材(摩擦部材)としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、電動アクチュエータ43が設けられたブレーキ機構としてのキャリパ34とを含んで構成されている。
この場合、ディスクブレーキ31は、ブレーキパッド33をブレーキペダル6の操作等に基づく液圧によりピストン39で推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキスイッチ18からの信号に基づく作動要求や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABS制御に基づく作動要求に応じて、電動モータ43Bにより(回転直動変換機構40を介して)ピストン39を推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。
取付部材32は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部32Aと、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム32Bとを含んで構成されている。
インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、キャリパ34(キャリパ本体35、ピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、ブレーキパッド33は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を押圧することにより車両に制動力を与える。
取付部材32には、ホイールシリンダとなるキャリパ34がディスクロータ4の外周側を跨ぐように配置されている。キャリパ34は、取付部材32の各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35、このキャリパ本体35内に設けられたピストン39、回転直動変換機構40、電動アクチュエータ43等を備えている。キャリパ34は、ブレーキペダル6の操作に基づいて発生する液圧によって作動するピストン39を用いてブレーキパッド33を推進する。
キャリパ本体35は、シリンダ部36とブリッジ部37と爪部38とを備えている。シリンダ部36は、軸線方向の一方側が隔壁部36Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する他方側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。爪部38は、シリンダ部36と反対側においてブリッジ部37から径方向内側に向けて延びるように配置されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36は、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。このシリンダ部36は、隔壁部36Aと一体形成されている。隔壁部36Aは、シリンダ部36と電動アクチュエータ43との間に位置している。隔壁部36Aは、軸線方向の貫通穴を有しており、隔壁部36Aの内周側には、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転可能に挿入されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36内には、押圧部材(移動部材)としてのピストン39と、回転直動変換機構40と、が設けられている。なお、実施形態においては、回転直動変換機構40がピストン39内に収容されている。但し、回転直動変換機構40は、ピストン39を推進するように構成されていればよく、必ずしもピストン39内に収容されていなくてもよい。
ピストン39は、ブレーキパッド33をディスクロータ4に向けて、または、ディスクロータ4から遠ざかる方向に移動させる。ピストン39は、軸線方向の一方側が開口しており、インナ側のブレーキパッド33に対面する、軸線方向の他方側が蓋部39Aによって閉塞されている。このピストン39は、シリンダ部36内に挿入されている。ピストン39は、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)へ電流が供給されることにより移動することに加えて、ブレーキペダル6の踏込み等に基づいてシリンダ部36内に液圧が供給されることによっても移動する。この場合に、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)によるピストン39の移動は、直動部材42に押圧されることによって行われる。また、回転直動変換機構40はピストン39の内部に収容されており、ピストン39は、該回転直動変換機構40によりシリンダ部36の軸線方向に推進されるように構成されている。
回転直動変換機構40は、押圧部材保持機構として機能する。具体的には、回転直動変換機構40は、シリンダ部36内への液圧付加によって生じる力とは異なる外力、即ち、電動アクチュエータ43により発生される力によってキャリパ34のピストン39を推進させると共に、推進されたピストン39およびブレーキパッド33を保持する。これにより、駐車ブレーキはアプライ状態(保持状態)となる。一方、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43によりピストン39を推進方向とは逆方向に退避させ、駐車ブレーキをリリース状態(解除状態)とする。そして、左,右の後輪3用に左,右のディスクブレーキ31がそれぞれ設けられるので、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43も、車両の左,右それぞれに設けられている。
回転直動変換機構40は、台形ねじ等の雄ねじが形成された棒状体を有するねじ部材41と、台形ねじによって形成される雌ねじ穴が内周側に形成された直動部材42とにより(スピンドルナット機構として)構成されている。直動部材42は、電動アクチュエータ43によりピストン39に向けて、または、ピストン39から遠ざかる方向に移動する被駆動部材(推進部材)となる。即ち、直動部材42の内周側に螺合したねじ部材41は、電動アクチュエータ43による回転運動を直動部材42の直線運動に変換するねじ機構を構成している。この場合、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとは、不可逆性の大きいねじ、実施形態においては、台形ねじを用いて形成することにより押圧部材保持機構を構成している。
押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)は、電動モータ43Bに対する給電を停止した状態でも、直動部材42(即ち、ピストン39)を任意の位置で摩擦力(保持力)によって保持するようになっている。なお、押圧部材保持機構は、電動アクチュエータ43により推進された位置にピストン39を保持することができればよく、例えば、台形ねじ以外の不可逆性の大きい通常の三角断面のねじやウォームギヤとしてもよい。
直動部材42の内周側に螺合して設けられたねじ部材41には、軸線方向の一方側に大径の鍔部であるフランジ部41Aが設けられている。ねじ部材41の軸線方向の他方側は、ピストン39の蓋部39Aに向けて延びている。ねじ部材41は、フランジ部41Aにおいて、電動アクチュエータ43の出力軸43Cに一体的に連結されている。また、直動部材42の外周側には、直動部材42をピストン39に対して回り止め(相対回転を規制)しつつ、直動部材42が軸線方向に相対移動することを許容する係合突部42Aが設けられている。これにより、直動部材42は、電動モータ43Bが駆動することにより直動し、ピストン39に接触して該ピストン39を移動させる。
電動アクチュエータ43は、キャリパ34のキャリパ本体35に固定されている。電動アクチュエータ43は、駐車ブレーキスイッチ18の作動要求信号や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABSの制御に基づいて、ディスクブレーキ31を作動(アプライ・リリース)させる。電動アクチュエータ43は、隔壁部36Aの外側に取付けられたケーシング43Aと、該ケーシング43A内に位置してステータ、ロータ等を備え電力(電流)が供給されることによりピストン39を移動させる電動モータ43Bと、該電動モータ43Bのトルクを増幅する減速機(図示せず)と、該減速機による増幅後の回転トルクを出力する出力軸43Cとを含んで構成されている。電動モータ43Bは、例えば、直流ブラシモータとして構成することができる。出力軸43Cは、シリンダ部36の隔壁部36Aを軸線方向に貫通して延びており、ねじ部材41と一体に回転するように、シリンダ部36内においてねじ部材41のフランジ部41Aの端部に連結されている。
出力軸43Cとねじ部材41との連結機構は、例えば、軸線方向には移動可能であるが回転方向には回り止めされるように構成することができる。この場合は、例えばスプライン嵌合や多角形柱による嵌合(非円形嵌合)等の公知の技術が用いられる。なお、減速機としては、例えば、遊星歯車減速機やウォーム歯車減速機等が用いられてもよい。また、ウォーム歯車減速機等、逆作動性のない(不可逆性の)公知の減速機を用いる場合は、回転直動変換機構40として、ボールねじやボールランプ機構等、可逆性のある公知の機構を用いることができる。この場合は、例えば、可逆性の回転直動変換機構と不可逆性の減速機とにより押圧部材保持機構を構成することができる。
運転者が図1ないし図3に示す駐車ブレーキスイッチ18を操作したときには、駐車ブレーキ制御装置19を介して電動モータ43Bに給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転される。このため、回転直動変換機構40のねじ部材41は、一方向に出力軸43Cと一体に回転され、直動部材42を介してピストン39をディスクロータ4側に推進(駆動)する。これにより、ディスクブレーキ31は、ディスクロータ4をインナ側およびアウタ側のブレーキパッド33間で挟持し、電動式の駐車ブレーキとして制動力を付与した状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
一方、駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側に操作されたときには、電動アクチュエータ43により回転直動変換機構40のねじ部材41が他方向(逆方向)に回転駆動される。これにより、直動部材42(および液圧付加がなければピストン39)は、ディスクロータ4から離れる方向に駆動され、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態、即ち、解除状態(リリース状態)となる。
この場合、回転直動変換機構40では、ねじ部材41が直動部材42に対して相対回転されるとき、ピストン39内での直動部材42の回転が規制されているため、直動部材42は、ねじ部材41の回転角度に応じて軸線方向に相対移動する。これにより、回転直動変換機構40は、回転運動を直線運動に変換し、直動部材42によりピストン39が推進される。また、これと共に、回転直動変換機構40は、直動部材42を任意の位置でねじ部材41との摩擦力によって保持することにより、ピストン39およびブレーキパッド33を電動アクチュエータ43により推進された位置に保持する。
シリンダ部36の隔壁部36Aには、該隔壁部36Aとねじ部材41のフランジ部41Aとの間にスラスト軸受44が設けられている。このスラスト軸受44は、隔壁部36Aと共にねじ部材41からのスラスト荷重を受け、隔壁部36Aに対するねじ部材41の回転を円滑にする。また、シリンダ部36の隔壁部36Aには、電動アクチュエータ43の出力軸43Cとの間にシール部材45が設けられ、該シール部材45は、シリンダ部36内のブレーキ液が電動アクチュエータ43側に漏洩するのを阻止するように両者の間をシールしている。
また、シリンダ部36の開口端側には、該シリンダ部36とピストン39との間をシールする弾性シールとしてのピストンシール46と、シリンダ部36内への異物侵入を防ぐダストブーツ47とが設けられている。ダストブーツ47は、可撓性を有した蛇腹状のシール部材であり、シリンダ部36の開口端とピストン39の蓋部39A側の外周との間に取付けられている。
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、駐車ブレーキ機構を除いて、後輪3用のディスクブレーキ31とほぼ同様に構成されている。即ち、前輪2用のディスクブレーキ5は、後輪3用のディスクブレーキ31が備える、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等を備えていない。しかし、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2用に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31を設けられてもよい。
なお、実施形態では、電動アクチュエータ43を有する液圧式のディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、例えば、電動キャリパを有する電動式ディスクブレーキ、電動アクチュエータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式の駐車ブレーキを有するディスクブレーキ、電動アクチュエータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させる構成等、電動アクチューエータ(電動モータ)の駆動に基づいて制動部材(パッド、シュー)を被制動部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力を保持させることができるブレーキ機構であれば、その構成は、上述の実施形態のブレーキ機構でなくともよい。
実施形態による4輪自動車のブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置7を介してマスタシリンダ8に伝達され、マスタシリンダ8によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ8内で発生した液圧は、シリンダ側液圧配管10A,10B、ESC11およびブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配され、左,右の前輪2と左,右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
後輪3用のディスクブレーキ31について説明する。キャリパ34のシリンダ部36内にブレーキ側配管部12C,12Dを介して液圧が供給され、シリンダ部36内の液圧上昇に従ってピストン39がインナ側のブレーキパッド33に向けて摺動的に変位する。これにより、ピストン39は、インナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4の一側面に対して押圧する。このときの反力によって、キャリパ34全体が取付部材32の前記各腕部に対してインナ側に摺動的に変位する。
この結果、キャリパ34のアウタ脚部(爪部38)は、アウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に対して押圧するように動作し、ディスクロータ4は、一対のブレーキパッド33によって軸線方向の両側から挟持される。それによって、液圧に基づく制動力が発生される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、シリンダ部36内への液圧供給が停止されることにより、ピストン39がシリンダ部36内へと後退するように変位する。これによって、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33がディスクロータ4からそれぞれ離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動側(オン)に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置19からディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転駆動される。電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31は、電動アクチュエータ43の回転運動を回転直動変換機構40のねじ部材41を介して直動部材42の直線運動に変換し、直動部材42を軸線方向に移動させてピストン39を推進する。これにより、一対のブレーキパッド33がディスクロータ4の両面に対して押圧される。
このとき、直動部材42は、ピストン39から伝達される押圧反力を垂直抗力とした、ねじ部材41との間に発生する摩擦力(保持力)により制動状態に保持され、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ43Bへの給電を停止した後にも、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとにより、直動部材42(ひいては、ピストン39)は制動位置に保持されることができる。
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動解除側(オフ)に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置19から電動モータ43Bに対してモータが逆転するように給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cは、駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、ねじ部材41と直動部材42とによる制動力の保持が解除され、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43の逆回転の量に対応した移動量で直動部材42を戻り方向に、即ち、シリンダ部36内へと移動させ、駐車ブレーキ(ディスクブレーキ31)の制動力を解除する。
次に、駐車ブレーキ制御装置19について、図3を参照しつつ説明する。
制御部および推定温度算出部としての駐車ブレーキ制御装置19は、左,右一対のディスクブレーキ31と共に電動ブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成する。駐車ブレーキ制御装置19は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)20を有し、駐車ブレーキ制御装置19には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。
駐車ブレーキ制御装置19は、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bを制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ43Bを駆動することにより、ディスクブレーキ31を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、図1ないし図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19は、入力側が駐車ブレーキスイッチ18に接続され、出力側はディスクブレーキ31の電動モータ43Bに接続されている。
駐車ブレーキ制御装置19は、運転者の駐車ブレーキスイッチ18の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、電動モータ43Bを駆動し、ディスクブレーキ31のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、ディスクブレーキ31では、電動モータ43Bの駆動に基づいて、押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)によるピストン39およびブレーキパッド33の保持または解除が行われる。
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路(CPU)20には、メモリ(記憶部)21に加えて、駐車ブレーキスイッチ18、車両データバス16、電圧センサ部22、モータ駆動回路23、電流センサ部24等が接続されている。車両データバス16からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置19(の演算回路20)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20は、車両データバス16に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット13)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置19に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット13で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット13に駐車ブレーキ制御装置19の制御内容を統合することが可能である。
駐車ブレーキ制御装置19は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリ21を備えている。メモリ21には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムに加え、図6に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、ディスクブレーキ31の各部の温度を算出(推定)する処理プログラム等が格納されている。また、メモリ21には、温度推定の処理プログラムで用いる各種の計算式、係数(摩擦係数、補正係数等)等も格納されている。さらに、メモリ21には、後述する各熱容量体(ロータディスク部4A、ロータハット部4B、ホイール51、ブレーキパッド33、キャリパ34)の現在の温度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ5)が逐次更新可能に記憶(保存)される。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19をESC11のコントロールユニット13と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置19をコントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右で2つのディスクブレーキ31を制御するようにしているが、左,右のディスクブレーキ31毎に設けるようにしてもよく、この場合には、駐車ブレーキ制御装置19をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19には、電源ライン15からの電圧を検出する電圧センサ部22、左,右の電動モータ43B,43Bをそれぞれ駆動する左,右のモータ駆動回路23,23、左,右の電動モータ43B,43Bのそれぞれのモータ電流を検出する左,右の電流センサ部24,24等が内蔵されている。これら電圧センサ部22、モータ駆動回路23、電流センサ部24は、それぞれ演算回路20に接続されている。
これにより、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部24,24により検出される電動モータ43Bのモータ電流の変化に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド33との当接・離接の判定、電動モータ43Bの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
ここで、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19は、ディスクロータ4の温度を算出(推定)する推定温度算出部(図6の制御処理)と、車両に制動力を与える制御部とを含んで構成されている。推定温度算出部は、図4に示すディスクブレーキ31の熱容量モデルに基づいて、ディスクブレーキ31の各部(各熱容量体)の推定温度を求める。具体的には、推定温度算出部は、ロータディスク部4Aの温度θ1、ロータハット部4Bの温度θ2、車輪3のホイール51の温度θ3、ブレーキパッド33の温度θ4、シリンダ(ホイールシリンダシリンダ)となるキャリパ34(キャリパ本体35、ピストン39)の温度θ5を算出する。なお、図5に示すように、ディスクロータ4は、制動時にブレーキパッド33が摺接(摩擦係合)する部位をロータディスク部4Aとし、車輪ハブユニットに取付けられホイール51と当接する部位をロータハット部4Bとしている。
図4に示すように、実施の形態で用いるディスクブレーキ31の熱容量モデルは、ロータディスク部4Aとロータハット部4Bとホイール51とブレーキパッド33とキャリパ34との5つの熱容量体で構成されている。ここで、各熱容量体4A,4B,51,33,34の質量、比熱、温度を次のように表す。
ロータディスク部4A:質量m1、比熱Cp1、温度θ1
ロータハット部4B:質量m2、比熱Cp2、温度θ2
ホイール51:質量m3、比熱Cp3、温度θ3
ブレーキパッド33:質量m4、比熱Cp4、温度θ4
キャリパ34:質量m5、比熱Cp5、温度θ5
また、ロータディスク部4Aへの入熱量を「Qin」、ロータディスク部4Aから大気への放熱量を「Qdisc」とする。ロータハット部4Bの放熱量を「Qhat」とし、ホイール51の放熱量を「Qwheel」とし、キャリパ34の放熱量を「Qcylinder」とする。なお、ブレーキパッド33の放熱量は入熱源となるロータディスク部4Aに近接しているため無視する。さらに、ロータディスク部4Aとロータハット部4Bとの間の伝熱量を「Q1→2」とし、ロータハット部4Bとホイール51との間の伝熱量を「Q2→3」とし、ロータディスク部4Aとブレーキパッド33との間の伝熱量を「Q1→4」とし、ブレーキパッド33とキャリパ34との間の伝熱量を「Q4→5」とする。
そして、入熱量Qin、各熱容量体4A,4B,51,33,34間の伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5、放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinderを総合すると、ロータディスク部4Aの熱量は、次の数1式の熱微分方程式で表すことができる。
ロータハット部4Bの熱量は、次の数2式の熱微分方程式で表すことができる。
ホイール51の熱量は、次の数3式の熱微分方程式で表すことができる。
ブレーキパッド33の熱量は、次の数4式の熱微分方程式で表すことができる。
キャリパ34の熱量は、次の数5式の熱微分方程式で表すことができる。
推定温度算出部は、数1式〜数5式に基づいて各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出する。一方、制御部は、例えば、駐車ブレーキスイッチ18の操作によるアプライ要求があったときに、推定温度算出部が算出した推定温度に基づいて該温度に応じた目標制動力(ピストン39の目標推力)を算出し、かつ、この目標制動力となるように電動モータ43Bを駆動する。目標制動力は、ディスクロータ4とブレーキパッド33の熱収縮に伴うピストン39の推力(制動力)の低下を考慮して、ディスクロータ4とブレーキパッド33の温度が低下しても(熱収縮しても)必要な制動力を確保できる値として算出される。なお、制御部は、例えば、アプライ要求があったときの推定温度が所定の温度よりも高いときに、アプライから所定時間経過後に再アプライ(リクランプ)する構成としてもよい。いずれの場合も、制御部は、推定温度算出部が算出した推定温度に基づいて、車両に制動力を与える。
ところで、特許文献1によれば、温度センサを用いずに、ディスクロータの温度を算出することができる。しかし、ディスクロータの温度が高温になると、算出される温度(推定温度)が実際の温度(実温度)よりも大きくなる傾向がある。即ち、ディスクロータの温度が高温になる程、ディスクロータの実温度と推定温度との差(誤差)が増大するおそれがある。このため、そのまま推定温度に基づいて車両に制動力を与えると、ピストン39の推力が過剰になるおそれがある。
そこで、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19の推定温度算出部は、推定温度が所定値以上になったとき、温度算出に用いるパラメータのうち推定温度に応じて値が変化する第1のパラメータを、推定温度に応じて補正した第2のパラメータに変化させ、該第2のパラメータに基づいて推定温度を算出する構成としている。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、図6の制御処理により数1式〜数5式に基づいて各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出する。このとき、ロータディスク部4Aへの入熱量Qinは、インナ側とアウタ側との2枚のブレーキパッド33とディスクロータ4との摩擦熱となるため、次の数6式を用いて算出する。
数6式中の「α」は、ディスクロータ4側へ流入する制動熱量の割合、「P(t)」はピストン39の推力(ブレーキパッド33の押付力)に対応するブレーキ液圧、「Sp」は、ピストン39の断面積、「μ」は、ブレーキパッド33の摩擦係数、「r」は、ディスクロータ4の有効径、「ω(t)」は、車速(車両速度)から求められるディスクロータ4の回転角速度を表している。このうちの「α」と「Sp」と「r」は、それぞれ予め設定された所定値となる。「P(t)」は、例えば、車両データバス16を介して圧力センサ17の検出値(ブレーキ液圧)を取得することができる。車速(または回転角速度)は、例えば、車両データバス16から取得することができる。
一方、ブレーキパッド33の摩擦係数は、ディスクロータ4(ロータディスク部4A)の温度に応じて変化する。このため、温度算出に用いる摩擦係数として、予め設定した一定値となる基準値、例えば、所定の温度間(例えば−40°から400°)の平均値を用いると、ブレーキパッド33の温度によっては、推定温度に誤差が生じるおそれがある。そこで、実施形態では、温度算出に用いる摩擦係数として、そのときの推定温度に応じて補正された摩擦係数を用いる構成としている(図6のS3,S4)。
即ち、実施形態では、温度算出に用いるパラメータとしての摩擦係数を、推定温度に応じて補正する構成としている。この場合、予め設定した摩擦係数の基準値(平均値等の一定値、固定値、所定値)を第1のパラメータとし、推定温度に応じて摩擦係数の基準値を補正することにより得られる摩擦係数の補正値を第2のパラメータとしている。補正値は、例えば、推定温度に応じた補正係数を基準値に乗じることにより得ることができる。そして、駐車ブレーキ制御装置19は、ディスクロータ4(ロータディスク部4A)の推定温度が所定値以上になったとき、摩擦係数を基準値(第1のパラメータ)から補正値(第2のパラメータ)に変化させ、該補正値に基づいて推定温度を算出する。
次に、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20で行われる温度推定の制御処理について、図6を参照しつつ説明する。なお、図6の制御処理は、駐車ブレーキ制御装置19に通電している間、所定の制御周期で、即ち、所定時間(例えば、10ms)毎に繰り返し実行される。
S1で、駐車ブレーキ制御装置19が起動すると、S2で、ディスク温度(例えば、ロータディスク部4Aの温度θ1)の推定(算出)を開始する。ここで、駐車ブレーキ制御装置19は、例えば、ドアの開閉、アクセサリON、イグニッションONにより起動する。温度推定を開始するときの各熱容量体(4A,4B,51,33,34)の温度(θ1,θ2,θ2,θ4,θ5)の初期温度は、例えば、前回の駐車ブレーキ制御装置19の制御終了(シャットダウン)のときにメモリ21に記憶(保存)された各熱容量体の温度(終了時推定温度)を用いることができる。この場合、制御終了から制御開始までのカウント時間によりこの間(シャットダウン中)の各熱容量体の放熱量を算出し、その放熱量に基づいて終了時推定温度を補正したものを初期温度としてもよい。また、予め設定したカウント時間と温度低下量との相関関係に対応する2次元テーブル(マップ)を用いて終了時推定温度を補正したものを初期温度としてもよい。
S3では、図7のテーブル表に基づいて、温度推定に用いるブレーキパッド33の摩擦係数の補正係数γを算出する。即ち、図7のテーブル表に基づいて、そのとき(現在の制御周期)の推定温度Tに対応する摩擦係数の補正係数γを算出する。摩擦係数、延いては、補正係数γは、使用するブレーキパッド33の種類、ブレーキパッド33のフェード発生具合等に応じて変わるが、例えば、図8に示すような摩擦係数(の補正係数γ)と推定温度Tとの傾向(関係)に基づいて、補正係数γを設定する。
ここで、図8は、市街地走行向けのブレーキパッド33の摩擦係数(の補正係数γ)の変化の一例を示している。この市街地走行向けのブレーキパッド33は、推定温度T1〜T2間(例えば、100℃〜200℃)で摩擦係数(の補正係数γ)が増大し、推定温度T2〜T3の間で最大となり、T3以上では徐々に減少する傾向がある。実施形態では、このようなブレーキパッド33の摩擦係数と温度との特性に基づいて、推定温度Tに対応する補正係数γを設定している。例えば、推定温度がT0からT1のときの摩擦係数を基準値(平均値)として設定すると、補正係数γ0,γ1,γ2,γ3の関係は、γ0=1、γ0<γ1<γ3<γ2となる。なお、補正係数γの算出は、図7のテーブル表を用いずに、図8に対応するマップ、関数式(一次関数、二次関数)を用いてもよい。また、補正係数γと推定温度Tとの対応関係は、ブレーキパッド33の種類毎に設定することができる。
S3で、推定温度Tに応じて補正係数γを算出したら、S4では、摩擦係数μを算出する。即ち、S3で求めた補正係数をγとすると、次の数7式に基づいて、その時点(現在の制御周期)の摩擦係数μを算出する。
なお、数7中の「μave」は、フェードが発生していないときの摩擦係数μの平均値(平均μ)である。即ち、「μave」は、摩擦係数の基準値となる一定値(所定値)であり、例えば、図8のT0〜T1間の摩擦係数を「μave」として設定することができる。「μave」は、ブレーキパッド33の種類毎に、その種類に対応した摩擦係数の基準値(平均値)として予め設定することができる。
続くS5では、S4で算出した摩擦係数μを用いて、ロータディスク部4Aの入熱量Qinを算出する。入熱量Qinは、上述の数6式を用いて算出することができる。
続くS6では、図4の各熱容量体4A,4B,51,33,34の大気中への放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinderを算出する。放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinderは、ディスクロータ4の回転角速度ω(t)と各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5と外気温θairとの温度差に基づいて、下記の数8式により算出することができる。
なお、数8式中、「k1〜3」は、各熱容量体の強制熱伝達率の補正係数、「n1〜3,5」は、各熱容量体の自然熱伝達率の補正係数、「nα」は、空気自然対流による代表熱伝達率、「S1〜3,5」は、各熱容量体の表面積であり、それぞれ予め設定された所定値である。
続くS7では、図4の各熱容量体4A,4B,51,33,34間の伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5を算出する。伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5は、各熱容量体4A,4B,51,33,34間の温度差および各熱容量体4A,4B,51,33,34間の熱抵抗R1→2,R2→3,R1→4,R4→5とに基づいて、下記の数9式により算出することができる。熱抵抗R1→2,R2→3,R1→4,R4→5は、それぞれ予め設定された所定値である。
続くS8では、S5からS7で求めた入熱量Qin、放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinder、伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5、から各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度変化量を制御周期毎に算出する。即ち、直前の制御周期の温度推定値に現在の制御周期の温度変化量を加味(更新)することにより、リアルタイムで温度推定値を求めることができる。次の数10式は、各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出(推定)する式である。なお、各熱容量体4A,4B,51,33,34の比熱Cp1〜Cp5と質量m1〜m5は、それぞれ予め設定された所定値である。
続くS9では、駐車ブレーキ制御装置19の制御が終了したか否かを判定する。ここで、駐車ブレーキ制御装置19の制御は、例えばイグニッションOFFから所定時間経過後に終了する。
S9で、「NO」、即ち、駐車ブレーキ制御装置19の制御が終了していないと判定された場合は、S3の前に戻り、S3以降の処理を繰り返す。一方、S9で、「YES」、即ち、駐車ブレーキ制御装置19の制御が終了したと判定された場合は、S10に進み、ディスク温度の推定を終了する。このとき、駐車ブレーキ制御装置19のメモリ21には、制御終了の直前の各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5が終了時推定温度として記憶(保存)される。
以上より、駐車ブレーキ制御装置19は、図6のS3,S4の処理により、推定温度が所定値以上(例えば、図8のT1以上)になると、そのときの推定温度に応じてブレーキパッド33の摩擦係数μを補正し、その補正した摩擦係数μに基づいて、各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出する。即ち、予め設定した摩擦係数の平均値を摩擦係数の基準値μaveとすると、図6のS3,S4では、推定温度に応じて摩擦係数の基準値μaveを補正する(摩擦係数の基準値μaveに補正係数γを乗じる)。そして、S5〜S8では、補正した摩擦係数となる補正値(摩擦係数の基準値μaveに補正係数γを乗じた値)に基づいて、各熱容量体4A,4B,51,33,34の温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出する。これにより、摩擦係数として一定値となる基準値μaveのみを用いて温度を算出(推定)する構成と比較して、推定温度の精度を向上(誤差を低減)することができる。
図9は、ディスクロータ4(ロータディスク部4A)の温度(実温度、推定温度)の時間変化を示している。この図9中、実線の特性線61は、実際の温度の変化(実温度)を示し、一点鎖線の特性線62は、摩擦係数の基準値のみを用いて算出された推定温度の変化(比較例)を示し、二点鎖線の特性線63は、図8の推定温度Tと補正係数γの関係に基づいて補正した摩擦係数の補正値を用いて算出された推定温度の変化(実施形態)を示している。実温度は、温度が上昇するに従って温度上昇が弱まるのに対し、比較例は、高温でも温度上昇し、推定温度の誤差が増大する。これに対し、実施形態では、推定温度がT1〜T2の間で補正係数が一次関数的に変化する。この結果、高温のときの摩擦係数が低くなり、推定温度の上がり過ぎを抑制することができる。
実施形態によれば、駐車ブレーキ制御装置19は、運転者の駐車ブレーキスイッチ18の操作によるアプライ要求、駐車ブレーキのアプライの判断ロジックによるアプライ要求、ABS制御によるアプライ要求に基づいて、電動モータ43Bを駆動し、車両に制動力を駐車ブレーキ(補助ブレーキを含む)として与える構成としている。この場合は、制動力を付与(アプライ)するときに、精度の高い(誤差の小さい)推定温度に基づいて、ピストン39の推力を調整することができる。これにより、駐車ブレーキをアプライしたときのピストン39の推力の過不足を抑制することができる。
即ち、実施形態では、ディスクロータ4とブレーキパッド33の熱収縮に伴うピストン39の推力(制動力)の低下を考慮して、駐車ブレーキのアプライのときに、推定温度に応じてピストン39の推力を調整(増減)する。この場合、推定温度が実温度よりも大きいと、ピストン39の推力が過剰になるおそれがある。一方、推定温度が実温度よりも小さいと、ピストン39の推力が不足するおそれがある。これに対し、実施形態では、推定温度の誤差を低減できるため、その分、推力の過不足を抑制することができる。
さらに、熱収縮に伴う推力の低下を考慮して、アプライのときの推定温度が高いときは、アプライから所定時間経過後に再アプライする構成とすることが考えられる。しかし、推定温度が実温度よりも大きいと、不要な再アプライが行われるおそれがある。一方、推定温度が実温度よりも小さいと、必要な再アプライが行われなくなるおそれがある。これに対し、実施形態では、推定温度の誤差を低減できるため、その分、不要な再アプライが行われること、または、必要な再アプライが行われなくなることを抑制することができる。この場合、例えば、不要な再アプライの抑制により、バッテリ14の消費を低減することができる。
なお、上述した実施形態では、ブレーキパッド33の種類を、市街地走行向けのもの(標準品、純正品)とした場合、即ち、ブレーキパッド33の摩擦係数(の補正係数γ)と温度との関係が、図8に示す特性の場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ブレーキパッドの摩擦係数(の補正係数γ)と温度との関係が、図10に示す特性のブレーキパッド(ワインディング走行向けのブレーキパッド)としてもよい。この場合は、補正係数が推定温度T1(例えば400℃以上)で減少する傾向がある。
一方、例えば、ブレーキパッドの摩擦係数(の補正係数γ)と温度との関係が、図11に示す特性のブレーキパッド(サーキット走行向けのブレーキパッド)としてもよい。この場合は、補正係数が推定温度T1〜T3の間(例えば、500℃〜700℃)で最大となり、それ以上の温度では減少する傾向がある。いずれの場合も、推定温度に基づく摩擦係数の補正は、車両のディスクブレーキに取付けるブレーキパッドの種類に応じた温度と摩擦係数(の補正係数γ)との関係に基づいて行うことが好ましい。
上述した実施形態では、推定温度に応じて値が変化するパラメータをブレーキパッド33の摩擦係数とし、該摩擦係数を推定温度に応じて補正する(第1のパラメータから第2のパラメータに変化させる)構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、パラメータとして、摩擦係数の他、推定温度に応じて値が変化する各種の状態量(状態係数、補助変数)を用いることができる。即ち、推定温度に応じて値が変化する状態量(状態係数、補助変数)を、推定温度に応じて補正する(第1のパラメータから第2のパラメータに変化させる)構成とすることができる。
上述した実施形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよいし、全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。
上述した実施形態では、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、液圧の供給が不要な電動式ディスクブレーキにより構成してもよい。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。この場合に、例えば、液圧の供給が不要な電動式のブレーキ機構を採用した場合は、制御部は、車両に制動力を常用ブレーキとして与える(ブレーキペダルの操作等によるアプライ要求に基づいて電動モータを駆動する)構成とすることができる。
以上の実施形態によれば、被制動部材の推定温度の誤差を低減することができる。
即ち、実施形態によれば、推定温度が所定値以上になると、第2のパラメータに基づいて推定温度を算出する。これにより、推定温度に拘わらず(推定温度が高くても低くても)、第1のパラメータのみを用いて推定温度を算出する構成と比較して、推定温度が所定値以上のときの推定温度の精度を向上(誤差を低減)することができる。
実施形態によれば、第1のパラメータは、予め設定した摩擦係数の基準値とし、第2のパラメータは、推定温度に応じて基準値を補正することにより得られる補正値としている。この場合は、推定温度が所定値以上になると、摩擦係数の補正値に基づいて、推定温度の算出が行われる。これにより、推定温度が所定値以上のときの推定温度の精度を向上(誤差を低減)することができる。
実施形態によれば、制御部は、車両に制動力を駐車ブレーキとして与える構成としている。この場合は、駐車ブレーキとしての制動力を付与(アプライ)するときに、精度の高い(誤差の小さい)推定温度に基づいて、ピストンの推力を調整することができる。これにより、駐車ブレーキをアプライしたときのピストンの推力の過不足を抑制することができる。
即ち、被制動部材と制動部材の熱収縮に伴うピストンの推力(制動力)の低下を考慮すると、駐車ブレーキのアプライのときの推定温度に応じて、ピストンの推力を調整(増減)する構成とすることが考えられる。しかし、推定温度が実温度よりも大きいと、ピストンの推力が過剰になるおそれがある。一方、推定温度が実温度よりも小さいと、ピストンの推力が不足するおそれがある。これに対し、実施形態では、推定温度の誤差を低減できるため、その分、推力の過不足を抑制することができる。
さらに、熱収縮に伴う推力の低下を考慮して、アプライのときの推定温度が高いときは、アプライから所定時間経過後に再アプライする構成とすることが考えられる。しかし、推定温度が実温度よりも大きいと、不要な再アプライが行われるおそれがある。一方、推定温度が実温度よりも小さいと、必要な再アプライが行われなくなるおそれがある。これに対し、実施形態では、推定温度の誤差を低減できるため、その分、不要な再アプライが行われること、または、必要な再アプライが行われなくなることを抑制することができる。