本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、軸方向の振動入力に対して、簡単な構造によって本体ゴム弾性体の耐久性を十分に得ることが可能とされた、新規な構造の流体封入式筒型防振装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材が中間スリーブに内挿配置されて、それらインナ軸部材と中間スリーブが本体ゴム弾性体によって弾性連結されており、該本体ゴム弾性体に形成された複数のポケット部が該中間スリーブの軸方向中間部分に形成された複数の窓部を通じて外周面に開口していると共に、該中間スリーブにはアウタ筒部材が外嵌されて、該窓部が該アウタ筒部材で覆蓋されることにより非圧縮性流体を封入された複数の流体室が該ポケット部によって形成されていると共に、それら流体室を相互に連通するオリフィス通路が形成されている流体封入式筒型防振装置において、前記インナ軸部材には外周側に突出する凸部が設けられていると共に、前記中間スリーブに大径筒部が設けられて、前記アウタ筒部材が該大径筒部に外嵌されていると共に、該中間スリーブの少なくとも一方の軸方向端部に小径筒部が設けられて、それら大径筒部と小径筒部が段差部によって相互に連結されており、該凸部と該段差部の対向面が該本体ゴム弾性体によって弾性連結されている一方、該小径筒部の外周側には流路形成ゴムが該アウタ筒部材との間に配されていると共に、該流路形成ゴムには前記オリフィス通路が周方向に延びて形成されていることを、特徴とする。
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置によれば、軸方向の入力に対して、本体ゴム弾性体が、インナ軸部材に設けられた凸部と中間スリーブの段差部との対向面間で、軸方向に圧縮される。それ故、本体ゴム弾性体の圧縮ばね成分により、軸方向のばね特性においてばね定数を大きく設定することが可能になって、入力に対する本体ゴム弾性体の変形量を抑えることができる。その結果、特別なストッパ手段などを設けることなく、本体ゴム弾性体の過大な変形による損傷が回避されて、耐久性の向上が図られる。
さらに、中間スリーブに段差部を設けたことで、中間スリーブの軸方向端部に小径筒部が形成されており、大径筒部に外嵌されるアウタ筒部材と小径筒部との間にスペースが形成されることから、当該スペースを利用して、オリフィス通路を形成することができる。その結果、オリフィス通路を形成するために従来採用されていた別部材を廃することができて、部品点数を削減することができる。特に、オリフィス通路形成用の別部材が流体室まで延び出すように配設された従来構造に比して、流体室の容積を効率的に大きく得ることができることから、目的とする防振性能を実現しながら、本体ゴム弾性体のゴムボリュームを十分に確保して、軸方向のばね定数を大きく設定できる。
しかも、小径筒部とアウタ筒部材の間に流路形成ゴムが配されていることにより、段差部や小径筒部の形状を目的とするばね特性に応じて設定しながら、オリフィス通路のチューニング周波数を適切に調節することができる。加えて、中間スリーブやアウタ筒部材を変更することなく流路形成ゴムの形状を変更すれば、防振特性の異なる流体封入式筒型防振装置を、共通の部材を用いて簡単に得ることができる。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記段差部の径方向中間部分に中径筒部が形成されて、前記大径筒部と該中径筒部が外周段差部によって相互に連結されていると共に、前記小径筒部と該中径筒部が内周段差部によって相互に連結されており、該段差部がそれら中径筒部と外周段差部と内周段差部とを含んで構成されているものである。
第二の態様によれば、小径筒部よりも大径の中径筒部とアウタ筒部材との径方向間に流路形成ゴムを挟み込むことによって、より優れたシール性能が発揮される。しかも、外周段差部と内周段差部が中径筒部を挟んで設けられることによって、大径筒部と小径筒部の直径の差を十分に確保して、本体ゴム弾性体の軸方向での圧縮を有効に実現できると共に、絞り加工などによって大径筒部と小径筒部を形成する際に、軸方向に離れた位置に設けられる外周段差部と内周段差部を段階的な加工で得ることにより、目的とする段付き構造を容易に得ることができる。
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記凸部の軸方向表面が外周側に行くに従って次第に軸方向内方に傾斜する傾斜面を有していると共に、前記段差部の軸方向内面が外周側に行くに従って次第に軸方向内方に傾斜する傾斜面を有しているものである。
第三の態様によれば、凸部と段差部の対向面がそれぞれ傾斜面を有していることから、それら凸部と段差部の傾斜面を弾性連結する本体ゴム弾性体において、軸方向のばね特性と軸直角方向のばね特性の両方を、本体ゴム弾性体の傾斜角度や傾斜面の向き等によって簡単に調節することができる。
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一つの態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体の軸方向端部にすぐり部が形成されており、該すぐり部の最深部が軸方向で前記大径筒部と前記小径筒部の間に位置しているものである。
第四の態様によれば、本体ゴム弾性体の軸直角方向のばね定数が、すぐり部の形成によって小さくされることから、軸方向のばねを硬く設定しても、軸直角方向では柔軟なばね特性を得ることができて、流体室の容積変化による流体流動を有効に生ぜしめて、目的とする防振性能を得ることができる。特に、本体ゴム弾性体のゴムボリュームが小さくなる小径筒部とインナ軸部材の間に、すぐり部が形成されていることにより、軸直角方向のばね定数が著しく大きくなるのを防ぐことができると共に、本体ゴム弾性体のゴムボリュームが大きくなる大径筒部とインナ軸部材の径方向間までは、すぐり部が達していないことから、軸直角方向および軸方向のばね定数を十分に大きく設定することができる。
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記アウタ筒部材の軸方向端部には内周側に突出する内フランジ部が設けられており、該内フランジ部が前記流路形成ゴムの軸方向外面に当接しているものである。
第五の態様によれば、中間スリーブとアウタ筒部材の間で圧縮された流路形成ゴムが、軸方向外方に逃げるのを、内フランジ部によって制限することができる。その結果、流路形成ゴムが変形を拘束されることから、シール性の向上やオリフィス通路の形状の安定化が図られて、目的とする防振特性を有効に得ることができる。
本発明の第六の態様は、第五の態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記内フランジ部が前記中間スリーブに軸方向で当接しているものである。
第六の態様によれば、内フランジ部が流路形成ゴムの軸方向外面により広い範囲で当接することから、シール性の向上やオリフィス通路の形状安定化がより効果的に実現されて、目的とする防振特性をより有効に得ることができる。
また、中間スリーブと内フランジ部が軸方向で当接することにより、中間スリーブとアウタ筒部材が軸方向で相互に位置決めされて、中間スリーブとアウタ筒部材を所定の組付け状態で容易に組み付けることができる。
本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか一つの態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記凸部と前記段差部が軸方向の投影において相互に重なり合っているものである。
第七の態様によれば、軸方向の入力に際して、軸方向投影において重なり合った凸部と段差部の間で、本体ゴム弾性体が軸方向に圧縮されることから、軸方向のばね定数がより大きく設定可能とされて、耐久性の向上がより有利に実現される。
本発明の第八の態様は、第一〜第七の何れか一つの態様に記載された流体封入式筒型防振装置において、前記凸部が全周に亘って連続して設けられていると共に、前記段差部が全周に亘って連続して設けられており、それら凸部と段差部の対向面が前記本体ゴム弾性体によって全周に亘って弾性連結されているものである。
第八の態様によれば、インナ軸部材とアウタ筒部材の間への軸方向入力に対して、本体ゴム弾性体が全周に亘って凸部と段差部の間で軸方向に圧縮されることから、軸方向のばね定数をより大きく得ることができて、軸方向入力に対する耐久性の向上がより有利に図られる。
本発明によれば、インナ軸部材が外周に突出する凸部を備えると共に、中間スリーブが大径筒部と小径筒部を段差部を介して設けた段付き構造とされており、凸部と段差部の対向面が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結されていることから、軸方向入力に対して圧縮ばね成分による大きなばね定数を設定することができて、本体ゴム弾性体の変形量を特別なストッパ手段を設けることなく制限することができる。しかも、小径筒部とアウタ筒部材の間にできたスペースに流路形成ゴムを配して、当該スペースを利用してオリフィス通路を形成することにより、目的とする本体ゴム弾性体のばね特性を有効に得ながら、オリフィス通路をチューニングできると共に、本体ゴム弾性体のゴムボリュームを大きく得て、耐久性の向上と軸方向の硬いばね特性とを実現することが可能とされている。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜4には、本発明に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置の第一の実施形態として、自動車用のサスペンションブッシュ10が示されている。サスペンションブッシュ10は、インナ軸部材12と中間スリーブ14が、本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。
より詳細には、インナ軸部材12は、鉄やアルミニウム合金等の金属又は繊維補強された合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、厚肉小径の略円筒形状を有している。また、インナ軸部材12の軸方向中間部分には、凸部18が設けられている。凸部18は、インナ軸部材12の外周面から径方向外方に向かって突出しており、略一定の断面形状で全周に亘って連続する環状とされている。本実施形態では、凸部18は、突出先端側である外周側に向かって、次第にインナ軸部材12の軸方向で狭幅となる先細断面形状を有しており、軸方向両側の表面が、それぞれ外周側に行くに従って軸方向内側に傾斜する傾斜面20とされている。
中間スリーブ14は、インナ軸部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材であって、図5〜7に示すように、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、中間スリーブ14は、軸方向の中央部分が大径筒部22とされていると共に、軸方向の両端部分が、大径筒部22に比して小径とされた小径筒部24とされている。更に、大径筒部22と小径筒部24は、全周に亘って連続する段差部26によって、相互に一体的に繋がっている。段差部26の中間には、大径筒部22よりも小径且つ小径筒部24よりも大径の中径筒部28が形成されており、大径筒部22と中径筒部28が外周段差部30によって一体的に連結されていると共に、小径筒部24と中径筒部28が内周段差部32によって一体的に連結されている。要するに、大径筒部22と小径筒部24は、外周段差部30と内周段差部32とそれらを繋ぐ中径筒部28とによって相互に連結されており、それら中径筒部28と外周段差部30と内周段差部32とによって、本実施形態の段差部26が構成されている。本実施形態の外周段差部30と内周段差部32は、何れも外周側に行くに従って軸方向内側に傾斜する傾斜形状とされており、段差部26の軸方向内面が、外周側に行くに従って軸方向内側に傾斜する傾斜面34とされている。本実施形態では、大径筒部22の軸方向両側に設けられる一対の段差部26,26が、軸直平面に対して対称となる互いに略同じ形状を有していると共に、中間スリーブ14の軸方向端面から略同じ距離となる位置に形成されている。これにより、中間スリーブ14は、軸方向中央で広がる軸直平面に対して面対称形状とされている。
なお、本実施形態の中間スリーブ14では、外周段差部30と内周段差部32が中径筒部28を挟んで分かれて設けられていることから、例えば、パイプ材の軸方向両端部分に絞り加工を施して中間スリーブ14を形成する場合に、外周段差部30と内周段差部32が軸方向で離れて形成されるように二段階に絞ることで、目的とする段差部26,26を備えた中間スリーブ14を得ることができる。それ故、一カ所だけに大きな段差を形成する場合よりも絞り加工が容易になって、段付き構造の中間スリーブ14を製造し易くなる。
さらに、中間スリーブ14には、一対の窓部36a,36bが形成されている。窓部36は、軸方向中央部分を径方向に貫通して形成されており、本実施形態では、中径筒部28まで達する軸方向寸法で開口していると共に、半周に満たない長さで周方向に延びている。本実施形態では、一対の窓部36a,36bが互いに略同一形状とされて、径方向一方向に対向して配されている。
そして、図2〜4に示すように、インナ軸部材12が中間スリーブ14に対して内挿されて、径方向で相互に離れて配置されており、それらインナ軸部材12と中間スリーブ14の間に本体ゴム弾性体16が配されている。本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の略円筒形状を有しており、内周面がインナ軸部材12および凸部18に加硫接着されていると共に、外周面が中間スリーブ14に加硫接着されている。なお、本実施形態の本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12と中間スリーブ14を備えた一体加硫成形品38として形成されている。
さらに、中間スリーブ14の軸方向両側にそれぞれ設けられた段差部26,26は、凸部18に対して軸方向各一方の側に配されており、凸部18に対して軸方向に離れて位置している。そして、凸部18と段差部26,26の対向面は、本体ゴム弾性体16によって、全周に亘って相互に弾性連結されている。特に本実施形態では、一体加硫成形品38が軸方向中央を通る軸直平面に対して面対称形状とされており、段差部26,26が凸部18に対して略同じ位置関係で軸方向各一方側に配されている。
更にまた、凸部18の傾斜面20と段差部26の傾斜面34は、軸方向に対して傾斜した斜め方向で相互に対向していると共に、それら傾斜面20,34に本体ゴム弾性体16が加硫接着されている。本実施形態では、それら傾斜面20,34の対向面間に、全周に亘って本体ゴム弾性体16が配されて、凸部18と段差部26の対向面が全周に亘って本体ゴム弾性体16で弾性連結されている。また、凸部18と段差部26は、軸方向の投影において相互に重なり合っており、本実施形態では、段差部26の内周段差部32が凸部18の突出先端部分と重なり合っていると共に、段差部26の外周段差部30が凸部18よりも外周側に位置している。
さらに、図3,4に示すように、本体ゴム弾性体16には、一対のポケット部40a,40bが形成されている。ポケット部40は、本体ゴム弾性体16の軸方向中央部分において外周面に開口する凹所状とされており、径方向一方向で対向する位置に形成されていると共に、周方向で半周に満たない長さで延びている。そして、一対のポケット部40a,40bは、中間スリーブ14の一対の窓部36a,36bと周上で位置決めされており、一対の窓部36a,36bを通じて外周面に開口している。なお、ポケット部40a,40bの形成部分においても、凸部18は本体ゴム弾性体16で覆われている。
更にまた、本体ゴム弾性体16の軸方向両端部には、それぞれすぐり部42が形成されている。すぐり部42は、本体ゴム弾性体16の軸方向端面に開口する凹所状であって、本実施形態では、図2,3に示すように、軸方向外方に向かって径方向に拡開する断面形状を有していると共に、全周に亘って略一定の断面形状で連続的に形成されている。更に、すぐり部42の最深部44は、小径筒部24の軸方向内端よりも軸方向内方に位置していると共に、大径筒部22の軸方向外端よりも軸方向外方に位置している。
また、中間スリーブ14の軸方向両端部分の外周側には、それぞれ流路形成ゴム46が配設されている。流路形成ゴム46は、周方向に連続する環状とされて、中間スリーブ14の外周面に小径筒部24から中径筒部28にかけて固着されており、本実施形態では、中間スリーブ14に貫通形成された図示しない連通孔を通じて本体ゴム弾性体16と一体形成されている。更に、流路形成ゴム46には、外周面に開口して周方向全周に連続して延びる周溝48が形成されている。本実施形態の周溝48は、内周段差部32および小径筒部24の外周側に形成されており、それら内周段差部32および小径筒部24の外周面形状に応じた溝断面形状を有している。なお、流路形成ゴム46は、外周面の軸方向全体が大径筒部22の外周面と略同じ直径の円筒面とされており、中径筒部28に固着された軸方向内側部分が、小径筒部24に固着された軸方向外側部分よりも薄肉とされている。また、周溝の周方向長さは、後述するオリフィス通路のチューニング等に応じて適宜に変更され得るものであり、例えば、周方向に一周に満たない長さで延びており、周方向端部間が隔壁部で隔てられた構造の周溝も、採用され得る。
また、一体加硫成形品38の中間スリーブ14には、アウタ筒部材50が取り付けられている。アウタ筒部材50は、インナ軸部材12および中間スリーブ14と同様の材料で形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。更に、アウタ筒部材50の軸方向両端部には、内周側に向かって延び出す内フランジ部52が、それぞれ全周に亘って連続的に形成されている。
さらに、アウタ筒部材50の内周面には、シールゴム層54が被着形成されている。シールゴム層54は、薄肉筒状のゴム層であって、アウタ筒部材50における内フランジ部52を除く中間部分の内周面を被覆している。なお、本実施形態のシールゴム層54には、軸方向両端部にそれぞれ二条のシールリップ56,56が一体形成されており、それらシールリップ56が、何れも、シールゴム層54から内周側に突出していると共に、全周に亘って連続して延びている。
そして、アウタ筒部材50は、一体加硫成形品38の中間スリーブ14に嵌着されている。即ち、アウタ筒部材50が中間スリーブ14に外挿されて、アウタ筒部材50の軸方向中央部分が、図2に示すように、中間スリーブ14の大径筒部22に外嵌固定されている。更に、流路形成ゴム46が中間スリーブ14とアウタ筒部材50の径方向間に配設されて、それら中間スリーブ14とアウタ筒部材50の径方向間で挟圧されており、流路形成ゴム46の外周面がアウタ筒部材50の内周面に密着している。更にまた、アウタ筒部材50の内フランジ部52は、流路形成ゴム46の軸方向外面に当接状態で重ね合わされていると共に、突出先端部が中間スリーブ14に軸方向で当接されて、中間スリーブ14とアウタ筒部材50が軸方向に位置決めされている。換言すれば、アウタ筒部材50の軸方向中央部分が中間スリーブ14に外嵌されると共に、アウタ筒部材50の内フランジ部52が中間スリーブ14の軸方向端面に当接されることにより、中間スリーブ14の小径筒部24および段差部26とアウタ筒部材50とによって囲まれた略環状のスペースが形成されており、当該スペースに流路形成ゴム46が圧縮状態で収容されている。なお、アウタ筒部材50の内周面にシールゴム層54が設けられていることにより、中間スリーブ14の大径筒部22および流路形成ゴム46は、アウタ筒部材50に対して、シールゴム層54を介して流体密に密着されている。
また、アウタ筒部材50が中間スリーブ14に外嵌装着されることによって、中間スリーブ14の一対の窓部36a,36bが、アウタ筒部材50によって流体密に閉塞されている。これにより、本体ゴム弾性体16の一対のポケット部40a,40bの開口部が、アウタ筒部材50によって流体密に覆蓋されており、壁部の一部を本体ゴム弾性体16で構成された一対の流体室58a,58bが、一対のポケット部40a,40bを用いて形成されている。更に、一対の流体室58a,58bには、非圧縮性流体が封入されている。この非圧縮性流体は、特に限定されないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が、好適に用いられる。より好適には、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を有利に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
また、流路形成ゴム46に形成された周溝48の開口部が、アウタ筒部材50で流体密に覆蓋されることによって、周方向環状に延びるトンネル状の流路が形成されている。そして、当該トンネル状流路が周上の二箇所に形成された連通路60を通じて一対の流体室58a,58bに連通されることにより、一対の流体室58a,58bを相互に連通するオリフィス通路62が、周方向に延びて形成されている。このオリフィス通路62は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、一対の流体室58a,58bの壁ばね剛性を考慮しながら、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することにより、適宜に設定されている。本実施形態では、軸方向両側に互いに略同じ形状のオリフィス通路62がそれぞれ形成されており、それらオリフィス通路62のチューニング周波数が互いに略同じとされているが、軸方向両側に互いに異なる形状のオリフィス通路が形成されるなどして、それらオリフィス通路のチューニング周波数が互いに異なっていても良い。なお、シールゴム層54に形成された二条一組のシールリップ56,56が、周溝48の開口に対して軸方向各一方において流路形成ゴム46に当接しており、オリフィス通路62の流体密性が確保されている。
かくの如き構造とされたサスペンションブッシュ10は、インナ軸部材12が図示しない車両ボデー側に取り付けられると共に、アウタ筒部材50が図示しないサスペンション側のトレーリングアームなどに取り付けられることにより、車両に装着されて、車両ボデーとサスペンションを防振連結するようになっている。
そして、車両装着状態において、インナ軸部材12とアウタ筒部材50の間に、一対の流体室58a,58bが対向する径方向の振動が入力されると、一対の流体室58a,58bに惹起される相対的な圧力差に基づいて、一対の流体室58a,58b間でオリフィス通路62を通じた流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
さらに、一対の流体室58a,58bが形成された径方向に過大な振幅の荷重が入力されると、凸部18がアウタ筒部材50に当接することにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材50の相対変位量が制限されて、径方向のストッパ手段が構成されるようになっている。
また、インナ軸部材12とアウタ筒部材50の間に軸方向の振動が入力されると、本体ゴム弾性体16の弾性変形によるエネルギー減衰作用などに基づいて、目的とする防振効果が発揮される。
ここにおいて、本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12の凸部18と中間スリーブ14の段差部26との対向面間にも配されており、軸方向の振動入力に対して、本体ゴム弾性体16がそれら凸部18と段差部26との間で軸方向に圧縮される。これにより、本体ゴム弾性体16が軸方向入力で変形する際には、圧縮ばね成分による比較的に硬いばね特性が発揮されて、軸方向入力に対する本体ゴム弾性体16の変形量が低減されることから、耐久性の向上が図られる。しかも、本体ゴム弾性体16の変形量が、本体ゴム弾性体16自体のばね定数を大きくすることで制限されることから、インナ軸部材12とアウタ筒部材50の軸方向への相対変位量を制限するストッパ手段を特別に設ける必要がなく、部品点数の少ない簡単且つコンパクトな構造を採用することができる。
本実施形態では、凸部18の軸方向外面が傾斜面20とされていると共に、段差部26の軸方向内面が傾斜面34とされており、それら傾斜面20,34の対向間に本体ゴム弾性体16が配されて、本体ゴム弾性体16が軸方向および軸直角方向に対して傾斜して延びている。それ故、本体ゴム弾性体16の延出方向の傾斜角度や、傾斜面20,34の傾斜角度などを、適宜に設定することで、軸方向のばねと軸直角方向のばねとの比を適切に調節することができる。
さらに、本体ゴム弾性体16の軸方向両端部にすぐり部42が形成されて、本体ゴム弾性体16の軸直角方向でのばねが低減されていることから、軸直角方向の振動入力に対して、優れた振動絶縁作用を得ることができると共に、一対の流体室58a,58bの相対的な圧力変動が生じ易くなって、流体の流動作用に基づいた防振効果を有利に得ることができる。本実施形態のすぐり部42は、最深部44が軸方向で大径筒部22と小径筒部24の間に位置する深さとされていることから、軸直角方向のばねを有効に低減しながら、ゴムボリュームを十分に確保することで軸方向のばねの低下が防止されている。特に、すぐり部42の内面における最深部44よりも外周部分は、凸部18と段差部26の対向方向に広がっており、本体ゴム弾性体16が凸部18と段差部26の対向面間で有効に圧縮されるようになっている。
更にまた、凸部18と段差部26の内周段差部32とが、軸方向の投影において相互に重なり合っており、それら凸部18と内周段差部32の軸方向間に本体ゴム弾性体16が配されていることから、軸方向の振動入力時に本体ゴム弾性体16の圧縮ばね成分がより支配的になる。その結果、軸方向において本体ゴム弾性体16のばね定数が大きくされて、荷重入力に対する変形量が抑えられることから、耐久性の向上が図られる。
さらに、凸部18と段差部26がそれぞれ全周に亘って形成されており、それら凸部18と段差部26の間に本体ゴム弾性体16が全周に亘って介在されていることから、軸方向のばねをより効率的に得ることができる。なお、本実施形態では、段差部26の内周段差部32だけが全周に亘って形成されており、外周段差部30は窓部36a,36bの形成部分には設けられていないが、外周段差部30を含む段差部26の全体が全周に亘って形成されていても良い。
また、本体ゴム弾性体16の軸方向のばね定数を大きくするために、中間スリーブ14に段差部26を形成したことによって、中間スリーブ14の軸方向両端部分とアウタ筒部材50との径方向間にスペースが形成されており、かかるスペースを巧く利用してオリフィス通路62が形成されている。その結果、従来ではポケット部40a,40bの開口部まで延び出して配されていたオリフィス通路の形成部材を廃することができて、流体室58a,58bの容積を確保しながら、本体ゴム弾性体16のゴムボリュームを大きく得ることが可能とされている。
しかも、段差部26の形成によってできたスペースに流路形成ゴム46を配することにより、オリフィス通路62を流路形成ゴム46の形状によって適宜にチューニングすることができる。従って、要求される本体ゴム弾性体16のばね特性に応じて段差部26の位置や径方向寸法などを適宜に設定しつつ、防振対象振動に応じたオリフィス通路62のチューニングを容易に実現することができる。特に本実施形態では、流路形成ゴム46が本体ゴム弾性体16と一体形成されていることから、部品点数の削減も実現される。
さらに、アウタ筒部材50の内フランジ部52が、流路形成ゴム46の軸方向外面に当接状態で重ね合わされており、中間スリーブ14とアウタ筒部材50の径方向間で圧縮された流路形成ゴム46が、軸方向外方への膨出変形を内フランジ部52によって制限されている。それ故、流路形成ゴム46の外周面がアウタ筒部材50の内周面に密着されて、優れたシール性が発揮されることから、流体室58a,58bとオリフィス通路62の短絡などが防止される。加えて、流路形成ゴム46が十分に弾性変形した状態で配されることにより、流路形成ゴム46の更なる弾性変形が制限されて、オリフィス通路62の形状の安定化なども図られる。
しかも、本実施形態では、内フランジ部52が中間スリーブ14の軸方向端面に当接していることから、中間スリーブ14とアウタ筒部材50が軸方向で相対的に位置決めされると共に、流路形成ゴム46の軸方向外方への逃げをより効果的に防いで、シール性の向上やオリフィス通路62の形状安定化などが有利に実現される。
更にまた、段差部26は、外周段差部30と内周段差部32の間に、軸方向に延びる中径筒部28が設けられて、外周段差部30と内周段差部32が軸方向に分かれて設けられた構造を有している。それ故、流路形成ゴム46の薄肉部分が、小径筒部24よりも大径とされた中径筒部28とアウタ筒部材50との間で径方向に狭圧されることにより、優れたシール性能を得ることができる。本実施形態では、アウタ筒部材50の中間スリーブ14への嵌着時に、小径筒部24の外周に配されるアウタ筒部材50の軸方向端部が、軸方向中間部分に比してより大きく縮径されており、流路形成ゴム46が厚肉とされた軸方向端部においても十分なシール性能が発揮される。なお、アウタ筒部材50は、中間スリーブ14への外嵌装着状態において、軸方向両端部が中間部分よりも小径とされた段付き筒形状とされている。
図8〜10には、本発明に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置の第二の実施形態として、自動車用のサスペンションブッシュ70が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
より詳細には、サスペンションブッシュ70は、インナ軸部材72を備えている。インナ軸部材72は、全体として厚肉小径の略円筒形状を有していると共に、軸方向中央部分には外周側に突出する凸部74を一体的に備えている。凸部74は、略一定の断面形状で全周に亘って連続的に形成されている。本実施形態のインナ軸部材72は、内径寸法が軸方向の全体に亘って略一定とされていると共に、外径寸法が凸部74を形成された軸方向中央部分で部分的に大きくされており、凸部74の形成部分が径方向に厚肉とされている。尤も、凸部は、例えば、インナ軸部材の軸方向中央部分が、外径寸法だけでなく内径寸法も大きくなるように拡径されることによって、バルジ状の態様で形成されていても良い。
このような本実施形態に従う構造とされたサスペンションブッシュ70においても、第一の実施形態に係るサスペンションブッシュ10と同様の効果を得ることができる。更に、本実施形態では、凸部74がインナ軸部材72に一体形成されていることから、部品点数の削減が図られると共に、別体の凸部を形成する工程や凸部をインナ軸部材に固着する工程などを省略することができて、製造がより容易になる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、段差部は、必ずしも前記実施形態のような外周段差部30と内周段差部32に分かれた構造を有するものに限定されず、例えば、大径筒部22と小径筒部24が一つの段差部で繋がれた、中径筒部28の無い構造も採用され得る。
また、段差部は、必ずしも軸直角方向に対して傾斜していなくても良く、例えば段差部の軸方向内面が軸直角方向に広がっていても良い。同様に、凸部の軸方向表面も、例えば軸直角方向に広がる非傾斜面で構成され得る。更に、前記実施形態のように、段差部が中間スリーブの軸方向両側に形成される場合には、それら一対の段差部は互いに異なる形状や軸方向位置をもって形成されていても良く、中間スリーブは軸直平面に対して対称形状である必要はない。このような非対称形状の中間スリーブを採用すれば、防振特性のブロード化などが実現可能となり得る。
また、凸部18と段差部26は、要求されるばね特性などによっては、軸方向投影において重なり合っていなくても良く、例えば、凸部18の全体が段差部26に対して内周側に位置していても良い。
また、流路形成ゴム46は、本体ゴム弾性体16とは別体で形成することも可能であり、例えば、シールゴム層54と一体形成されて、アウタ筒部材50の内周面に固着されていても良い。
また、オリフィス通路62は、中間スリーブ14の何れか一方の軸方向端部においてのみ、流路形成ゴム46によって形成されていても良い。この場合には、オリフィス通路62を形成されない他方の軸方向端部では、中間スリーブ14の軸方向端部とアウタ筒部材50との間のスペースが、ゴム弾性体で充填されることが望ましい。尤も、中間スリーブが軸方向一方の端部だけに小径筒部24を設けた構造とされて、小径筒部24を備える軸方向一方の端部においてのみ流路形成ゴム46によるオリフィス通路62が形成されていても良い。なお、オリフィス通路62の周方向長さや断面形状などといった具体的な構造も、前記実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
また、アウタ筒部材50の内フランジ部52は、中間スリーブ14の軸方向端面まで達していなくても良いし、中間スリーブ14の軸方向端面を越えて内周まで突出していても良い。更に、内フランジ部52は、中間スリーブ14の軸方向端面に当接していなくても良く、内フランジ部52と中間スリーブ14の当接によって、中間スリーブ14とアウタ筒部材50を軸方向で位置決めする手段を構成することは、本発明において必須ではない。なお、アウタ筒部材50において、内フランジ部52は省略され得る。
また、流体室は三つ以上が形成される場合もあり、それに伴って本体ゴム弾性体のポケット部および中間スリーブの窓部も三つ以上が形成され得る。
前記実施形態では、本発明に係る流体封入式筒型防振装置をサスペンションブッシュに適用した例を示したが、本発明に係る流体封入式筒型防振装置は、サスペンションブッシュに限定されることなく、例えばエンジンマウントなどにも好適に採用され得る。また、本発明は、自動車用に限定されず、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などに用いられる流体封入式筒型防振装置にも適用され得る。