本発明は、車両前部の車幅方向の両外側において互いに一体的に設けられて車体の骨格構造の一部を構成するロッカとフロントピラーとを含む構成において、フロントピラーの車体前方側にガセット部材を設け、そのガセット部材の形状を工夫することにより、オフセット衝突時等の車両前部衝突時にフロントタイヤが内回りしてダッシュパネル等の薄板部に衝撃を与えその変形量を大きくすることを回避し、安全性の向上を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
なお、説明の便宜上、各図において適宜記載した矢印UPの方向を車両の車体上方向、矢印FRの方向を車両の車体前方向、矢印OUTの方向を車両の車体左方向(車幅方向(車体左右方向)の左外方向)とする。また、以下の説明において、前後、上下、左右の方向の記載は、原則としてそれぞれ車体前後方向の前後、車体上下方向の上下、車体左右方向の左右を示すものとする。また、「車体前後方向」、「車体上下方向」、および「車体左右方向」の各記載には、各記載が示す厳密な方向からわずかにずれた方向、つまり略車体前後方向、略車体上下方向、および略車体左右方向の意味が含まれる。さらに、各図では、車体の左側を示しているが、以下に説明する車両前部構造は、車体の右側でも同様に適用可能である。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について説明する。図1および図2に示すように、本実施形態に係る車両前部構造1は、自動車である車両2におけるフロントタイヤ3の車体後方に位置する車体下部の構造である。なお、図2は、車両2の前部構造を示す水平断面図であり、図1におけるA−A位置(図4におけるA´−A´位置に対応)の断面図に相当する。
車両前部構造1は、車両2において左右一対として構成されるロッカ4およびフロントピラー5を備える。ロッカ4およびフロントピラー5は、いずれも金属製の部材により構成される。
ロッカ4は、車両2の車体下部の車幅方向の両外側に車体前後方向を長手方向として配設されている。ロッカ4は、ロッカ4の車幅方向内側の部分を構成するロッカインナパネル(図示略)と、ロッカ4の車幅方向外側の部分を構成するロッカアウタパネル7とを有する。
ロッカインナパネルは、ロッカ4の延設方向に対する横断面(鉛直断面)形状が略ハット形状となるように構成されており、その横断面形状の開口側が車幅方向外側を向くように設けられている。ロッカアウタパネル7は、図示では省略するが、ロッカ4の延設方向に対する横断面形状が略ハット形状となるように構成されており、その横断面形状の開口側が車幅方向内側を向くように設けられている。
このように横断面形状における開口側を互いに対向させた態様で設けられるロッカインナパネルおよびロッカアウタパネル7は、横断面形状である略ハット形状の鍔部分に相当するフランジ部同士がスポット溶接等によって互いに固定されることで、横断面において閉断面形状をなす中空状のフレーム部分を構成する。なお、中空状のロッカ4内には、ロッカ4を構成する部材とともに適宜閉断面構造をなす補強部材であるロッカリインフォースメントが車体前後方向に沿って設けられている。
フロントピラー5は、ロッカ4の車体前方側の端部から車体上方へ向けて延設されている。すなわち、フロントピラー5は、車両2における前側のドアの開口部とフロントガラスとの間にて上下方向に延設され、フロントピラー5の下端部から、車体の後方へ向けてロッカ4が延設される。フロントピラー5とロッカ4とがなす略「L」字状の内側がドアの開口部となる。フロントピラー5は、フロントピラー5の車幅方向内側の部分を構成するフロントピラーインナパネル8と、フロントピラー5の車幅方向外側の部分を構成するフロントピラーアウタパネル9と、フロントピラーアウタパネル9を外側から覆うように設けられるサイドメンバアウタパネル10とを有する。
図2に示すように、フロントピラーインナパネル8は、フロントピラー5の延設方向に対する横断面(水平断面)形状が所定の凹凸形状をなしながら全体として略直線状となるように構成された部分を有し、その横断面形状の延設方向が車体前後方向に沿うように設けられている。また、フロントピラーアウタパネル9は、フロントピラー5の延設方向に対する横断面形状が略「コ」字状ないし略「U」字状となるように構成されており、その横断面形状の開口側が車幅方向内側を向くように設けられている。また、サイドメンバアウタパネル10は、フロントピラー5の延設方向に対する横断面形状が略ハット形状となるように構成されており、その横断面形状の開口側が車幅方向内側を向くように、つまり横断面形状の凸側が車幅方向外側を向くように設けられている。
フロントピラーアウタパネル9は、横断面形状において、サイドメンバアウタパネル10の凸形状に沿うように、サイドメンバアウタパネル10の内側に設けられている。そして、フロントピラーインナパネル8、フロントピラーアウタパネル9、およびサイドメンバアウタパネル10は、横断面形状におけるフロントピラーアウタパネル9およびサイドメンバアウタパネル10の開口側をフロントピラーインナパネル8が塞ぐような態様で設けられている。
フロントピラーインナパネル8は、横断面形状においてサイドメンバアウタパネル10の開口側を塞ぐ車体前後方向に沿う略直線状の部分の前後の端部を、接合縁部8b,8cとする。フロントピラーアウタパネル9は、その横断面形状において車幅方向内側を開口側とする「コ」字状ないし「U」字状の本体部9aの車体後方側の縁部から延出する車体前後方向に沿う部分をフランジ部9cとする。サイドメンバアウタパネル10は、その横断面形状において車幅方向内側を開口側とする「コ」字状ないし「U」字状の本体部10aの車体前後方向の両縁部から延出する部分であって略ハット形状の鍔部分に相当する部分を前後のフランジ部10b,10cとする。
そして、フロントピラーインナパネル8の車体後方側の接合縁部8cと、フロントピラーアウタパネル9およびサイドメンバアウタパネル10それぞれの車体後方側のフランジ部9c,10cとが、互いに重なり合った状態で、スポット溶接等によって互いに固定される。また、フロントピラーインナパネル8の車体前方側の接合縁部8bと、サイドメンバアウタパネル10の車体前方側のフランジ部10bとが、互いに重なり合った状態で、スポット溶接等によって互いに固定される。このようにして、横断面において閉断面形状をなす中空状のフレーム部分が構成される。
また、中空状のフロントピラー5内には、フロントピラー5を補強する部材であるフロントピラーリインフォースメント11が設けられている。図2に示すように、フロントピラーリインフォースメント11は、横断面形状において、フロントピラーアウタパネル9の凸形状に沿うように、フロントピラーアウタパネル9の内側に設けられている。
すなわち、フロントピラーリインフォースメント11は、フロントピラー5の延設方向に対する横断面形状が略「コ」字状ないし略「U」字状となるように構成されており、その横断面形状の開口側が車幅方向内側を向くように設けられている。また、フロントピラーリインフォースメント11は、その横断面形状において「コ」字状ないし「U」字状の本体部11aの車体後方側の縁部から延出する車体前後方向に沿う部分をフランジ部11cとする。そして、フロントピラーリインフォースメント11は、上述のとおり接合縁部8cおよびフランジ部9c,10cの接合部分において、フランジ部11cを、接合縁部8cとフランジ部9cとの間に介装させた状態で、フロントピラーインナパネル8、フロントピラーアウタパネル9、およびサイドメンバアウタパネル10とともに接合される。
以上のように複数の部材により構成されるロッカ4およびフロントピラー5は、互いに一体的に設けられて車両2の車体の骨格構造(以下「車体骨格構造」という。)の一部を構成する。つまり、上述のとおりロッカ4およびフロントピラー5のそれぞれを構成する複数の部材は、車両2の車体骨格部材となる。
車両2の全体をなす車体は、主に、車体骨格構造をなすロッカ4およびフロントピラー5等の金属製の車体フレーム、車体骨格構造の外側に設けられる外被部分を構成するボンネット等の金属製の車体パネル、樹脂製または金属製のバンパ等の外装部品等により構成される。例えば、車両前部構造1の車幅方向両外側には、車体の外被部分を構成する金属製の車体パネルとして、フロントフェンダパネル12が設けられている(図1参照)。
また、車両2において左右略対称に構成される左右のロッカ4およびフロントピラー5の間であってロッカ4の車体前方側には、ダッシュパネル13が設けられている。ダッシュパネル13は、車両2が備えるエンジン等が収納されるエンジンルームとその車体後方に位置する運転席等が設けられる車室(車内空間)とを区画する比較的板厚の薄い板状の部材である。本実施形態の車両前部構造1において、ダッシュパネル13は、車幅方向の両側のロッカ4およびフロントピラー5の間に設けられ、車両2の車室の前側に位置する薄板部に相当する。なお、ダッシュパネル13の板厚は例えば1mm程度である。
ダッシュパネル13は、車幅方向に延在する略平板状のダッシュパネル本体部13aと、ダッシュパネル本体部13aの車幅方向外側端部(両端部)に設けられたサイドフランジ部13bとを有する。サイドフランジ部13bは、ダッシュパネル本体部13aに対して車体後方側へ折れ曲がるようにダッシュパネル本体部13aと一体に形成されている。
ダッシュパネル13は、そのサイドフランジ部13bの部分が、フロントピラー5の車体前方側のフロントピラーインナパネル8の接合縁部8bと、サイドメンバアウタパネル10のフランジ部10bとの接合部分に対して車幅方向内側から重ねられてスポット溶接等によって接合されることで、フロントピラー5に固定されている。つまり、ダッシュパネル13のサイドフランジ部13bの接合部分においては、車幅方向内側から順に、ダッシュパネル13のサイドフランジ部13b、フロントピラーインナパネル8の接合縁部8b、およびサイドメンバアウタパネル10のフランジ部10bが重ねられ、これら3つの板状部分がスポット溶接等により固定されている(図2参照)。
また、車両2は、車体骨格構造を構成する部材として、フロントサイドメンバ14およびトルクボックス15を備える。
フロントサイドメンバ14は、車両2において左右一対設けられており、長手方向を車体前後方向に沿わせて、車幅方向に並列に配設されている。フロントサイドメンバ14は、車体骨格構造においてダッシュパネル13の下側に位置し、ダッシュパネル13の車体後方側から車体前方側へかけて徐々に上り傾斜する斜面状の形状部分に沿うように設けられている。フロントサイドメンバ14は、その延設方向に対する横断面形状が略ハット形状となるように構成されており、その横断面形状の開口側を車体上方へ向けて設けられ、ダッシュパネル13の一部とともに閉断面構造をなす。
トルクボックス15は、フロントサイドメンバ14の車幅方向外側に設けられ、ダッシュパネル13の車室外側において、フロントサイドメンバ14とロッカ4とを互いに連結する。トルクボックス15は、車体骨格構造を構成する他の部材とともに閉空間を形成する部材であり、複数の板状の部分により全体として凹形状をなす。トルクボックス15の側壁部分は、フロントサイドメンバ14の車幅方向外側の壁面に固定され、トルクボックス15の下側部分は、車体骨格構造を構成するフロアパネル(図示略)に固定されている。なお、トルクボックス15の内部には、トルクボックス15を構成する部材とともに適宜閉断面構造をなす補強部材であるトルクボックスリインフォースメント18が設けられている(図7参照)。
また、トルクボックス15の車幅方向外側の部分は、ロッカ4およびフロントピラー5の構成部材に固定される。具体的には次のとおりである。図6に示すように、トルクボックス15は、その車幅方向外側端部(両端部)に、トルクボックス本体部15aに対して車体前方側へ折れ曲がるように形成されたサイドフランジ部15bを有する。一方、上述したように、フロントピラー5を構成するフロントピラーインナパネル8は、車体前方側の端部に接合縁部8bを有する。そして、トルクボックス15のサイドフランジ部15bと、フロントピラーインナパネル8の接合縁部8bとが、互いに重なり合った状態で、スポット溶接等によって互いに固定される。なお、図6は、車両2の前部構造を示す水平断面図であり、ガセット部材20(ガセットリアパネル30)との関係において、図4におけるB−B位置の断面図に相当する。
さらに、図6に示すように、ロッカ4を構成するロッカアウタパネル7は、車体前方側の端部において、車幅方向外側の側壁部7aに対して車幅方向内側へ折れ曲がるように形成された前壁部7cと、前壁部7cに対して車体前方側へ折れ曲がるように形成された前フランジ部7bとを有する。前フランジ部7bは、サイドフランジ部15bと接合縁部8bとの接合部分に対して、車幅方向外側となる接合縁部8b側から重なり、スポット溶接等によって互いに固定される。つまり、トルクボックス15のロッカ4に対する接合部分においては、車幅方向内側から順に、トルクボックス15のサイドフランジ部15b、フロントピラーインナパネル8の接合縁部8b、およびロッカアウタパネル7の前フランジ部7bが重ねられ、これら3つの板状部分がスポット溶接等により固定されている。以上のようにして、トルクボックス15の車幅方向外側の部分は、ロッカ4に固定されている。
また、トルクボックス15の車体上方側の部分は、ダッシュパネル13に固定される。具体的には、図7に示すように、トルクボックス15は、その車体上方側の部分に、車体後方側から車体前方側へかけて徐々に上り傾斜する斜面部15cを有する。斜面部15cは、ダッシュパネル13がダッシュパネル本体部13aにおいて車体下方側の端部に有する斜面部13cの傾斜に沿うように設けられている。そして、トルクボックス15は、その斜面部15cの部分が、ダッシュパネル13の斜面部13cに対して車体下方側(車体前方側)から重ねられてスポット溶接等によって接合されることで、ダッシュパネル13に固定されている。なお、図7は、車両2の前部構造を示す鉛直断面図であり、ガセット部材20(ガセットリアパネル30)との関係において、図4におけるC−C位置の断面図に相当する。
以上のような車両2の前部構造において、左右両側のロッカ4の車体前方に、タイヤハウスが構成され、このタイヤハウス内に、フロントタイヤ3が配置される。フロントタイヤ3が配置されるタイヤハウスは、一般に合成樹脂材料からなる半円弧状の薄板部材であるフェンダライナ16等により構成されている。
以上のような構成を備える車両2の前部構造に関し、車両2のオフセット衝突時、特に微小ラップ衝突時において、衝突した側のフロントタイヤ3は、車体側に対する連結構造等により動きが規制される関係上、ロッカ4の前方を通る弧を描くような軌跡をたどって車両の内側に転舵しながら(内回りしながら)後退する(図2、矢印L1参照)。このように内回りしながら後退するフロントタイヤ3は、左右のロッカ4およびフロントピラー5間のダッシュパネル13に向かうことになり、その挙動によってはダッシュパネル13に衝撃を与えるような軌跡をたどり、ダッシュパネル13の変形量を大きくし、車室のスペースを減少させる原因となり得る。
そこで、本実施形態の車両前部構造1は、車両2のオフセット衝突時等の車両前部衝突時におけるフロントタイヤ3の後退に対処するため、フロントピラー5の車体前方側に設けられるガセット部材20を備える。ガセット部材20は、フロントピラー5の車体前方側の下部の略全体を覆うように設けられてロッカ4およびフロントピラー5を含む車体骨格構造を補強する補強部材である。
図1および図3に示すように、ガセット部材20は、全体として比較的幅狭の略矩形板状の外形をなすように構成されており、その両側の板面を車体前後方向に向けるとともに、長手方向を車体上下方向に沿わせた姿勢で、フロントピラー5の下部の車体前方側にあてがわれた状態で設けられる。つまり、図2に示すように、ガセット部材20は、フロントタイヤ3のタイヤハウスの車体後方において、タイヤハウスを構成するフェンダライナ16とフロントピラー5との間に位置し、フェンダライナ16に車体前方側から覆われた状態となる。
図3、図4、および図5に示すように、ガセット部材20は、ガセット部材20の車体後方側の部分を構成する後側部材であるガセットリアパネル30と、ガセット部材20の車体前方側の部分を構成する前側部材であるガセットフロントパネル40とにより構成されている。すなわち、ガセット部材20は、車体に設けられた状態において、ガセットリアパネル30を車体後方側に位置させるとともに、ガセットフロントパネル40を車体前方側に位置させる。
ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40は、互いに略同じ略矩形板状の外形をなす板状の部材であり、互いに重ねられ互いに固定された状態でガセット部材20を構成する。ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40は、互いに略同じ外形を合わせた状態(略一致させた状態)で重ね合わさり、互いに固定される。したがって、車体に設けられた状態のガセット部材20を車体前方から視た場合、外観に現れる大部分(略全体)をガセットフロントパネル40が占めることになる。
ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40は、それぞれ所定の板厚(例えば、2mm程度)の鋼板が所定の加工を受けて所定の形状に形成された部材である。つまり、本実施形態のガセット部材20は、全体として鉄鋼材料により構成された鉄製の部材である。本実施形態では、ガセットリアパネル30は、ガセットフロントパネル40よりも厚い鋼板により構成されている。ただし、両パネルの板厚については、互いに同一であってもよく、ガセットフロントパネル40の方がガセットリアパネル30よりも厚くてもよい。
ガセット部材20は、互いに一体的に設けられるロッカ4およびフロントピラー5を含む車体骨格構造に固定された状態で設けられる。本実施形態では、互いに固定されたガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40により構成されるガセット部材20は、ガセットリアパネル30の部分を車体骨格構造に固定させることで、車体骨格構造に固定される。
また、ガセット部材20は、少なくともフロントタイヤ3と車体上下方向でオーバーラップする位置に設けられる。つまり、フロントタイヤ3の車体後方に位置するガセット部材20は、車体前方視で、車体上下方向について少なくとも一部に、フロントタイヤ3に対して車体前後方向に重なる部分を有するように設けられる。
このように、本実施形態に係るガセット部材20は、車体骨格構造に固定されるガセットリアパネル30と、ガセットリアパネル30に対して車体前方側に重なりガセットリアパネル30に固定されるガセットフロントパネル40とにより構成されている。なお、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40との相互の接合構造、およびガセット部材20の車体骨格構造に対する固定構造については後述する。
ガセット部材20は、フロントピラー5の車体前方側の下部の少なくとも一部を覆うように設けられる部材であって、車体前方側に、車体上下方向に沿うとともに車幅方向外側の部分に対して車幅方向内側の部分を相対的に車体前方側に位置させる段差部21を有する。段差部21は、ガセット部材20の車幅方向外側の本体部分の車幅方向内側の縁部に沿って設けられ、本体部分に対して車体前方側に立ち上がるとともに車幅方向外側を向く段差面22を形成する部分である。
以下、ガセット部材20について詳細に説明する。なお、以下の説明では、ガセット部材20において、ガセットリアパネル30側を背面側、ガセットフロントパネル40側を正面側とする。また、車幅方向に対応するガセット部材20の幅方向、つまりガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の幅方向を「ガセット幅方向」とし、車体上下方向に対応するガセット部材20の長手方向、つまりガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の長手方向を「ガセット長手方向」とする。
まず、ガセットリアパネル30について説明する。図2および図4に示すように、ガセットリアパネル30は、その大部分がガセット長手方向に対する横断面(水平断面)形状が略ハット形状となるように構成されている。ガセットリアパネル30は、その横断面形状の開口側を車体前方側(ガセットフロントパネル40側)に向けた状態で、つまり横断面形状の凸側を車体後方側(背面側)に向けた状態で設けられる。
ガセットリアパネル30は、略ハット形状の横断面形状をなす部分として、ガセット幅方向の中間部を構成するガセットリアパネル本体部31と、ガセットリアパネル本体部31に対してガセット幅方向の両側に設けられる内側フランジ部32および外側フランジ部33とを有する。ガセットリアパネル本体部31、内側フランジ部32、および外側フランジ部33は、ガセット長手方向の略全体にわたり、ガセット幅方向に並列的に設けられ、ガセットリアパネル30の略全体を構成する。
ガセットリアパネル本体部31は、横断面において正面側を開口側とする略「コ」字状ないし略「U」字状の形状をなす部分を有する。かかる部分は、ガセットリアパネル30の横断面形状において、突出側の端面部である後壁部31aと、後壁部31aの車幅方向外側において車体前方側に立ち上がる外側側壁部31bと、後壁部31aの車幅方向内側において車体前方側に立ち上がる内側側壁部31cとにより構成される。
後壁部31aは、車体前後方向に対して略垂直な板状の部分、つまり両側の板面を車体前後方向に向ける板状の部分であり、ガセット部材20の背面側の端面部を構成する。つまり、後壁部31aは、ガセット部材20の背面側の壁面部のガセット幅方向の中間部が部分的に車体後方側に突出した態様をなす部分となる。後壁部31aは、後述のように車体骨格構造に固定されるガセット部材20において、車体骨格構造に固定される部分に含まれる。
外側側壁部31bは、横断面視において、後壁部31aの車幅方向外側の端部から車体前方側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である。外側側壁部31bの端部に、外側フランジ部33が繋がる。
内側側壁部31cは、横断面視において、後壁部31aの車幅方向内側の端部から車体前方側かつ車幅方向内側へ斜めに向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である。内側側壁部31cは、後壁部31aに対して外側側壁部31bよりも車体前方側へと延設されている。内側側壁部31cの端部に、内側フランジ部32が繋がる。
内側フランジ部32は、ガセットリアパネル本体部31の車幅方向内側の縁部、つまり後壁部31aに対する折曲部分である内側側壁部31cの縁部から延出する板状の部分であって、ガセットリアパネル30の略ハット形状の横断面形状における車幅方向内側の鍔部分に相当する。本実施形態では、内側フランジ部32は、車体前後方向に垂直な面に対して車幅方向外側から車幅方向内側にかけて車体後方側へわずかに傾斜するように傾斜状に設けられている。
外側フランジ部33は、ガセットリアパネル本体部31の車幅方向外側の縁部、つまり後壁部31aに対する折曲部分である外側側壁部31bの縁部から延出する板状の部分であって、ガセットリアパネル30の略ハット形状の横断面形状における車幅方向外側の鍔部分に相当する。本実施形態では、外側フランジ部33は、車体前後方向に垂直な面に沿うように設けられている。
内側フランジ部32および外側フランジ部33は、図4に示すように、ガセットリアパネル30の正面視(前面視)においてガセット長手方向を長手方向とする幅狭の略帯板状の部分である。そして、左右の内側フランジ部32および外側フランジ部33の間において、ガセットリアパネル本体部31により、車体後方側(背面側)を底側とする溝状の部分が構成される。
また、ガセットリアパネル30は、車体下方側の端部に、車幅方向の内側に延出する下端延出部34を有する。下端延出部34は、ガセットリアパネル30の正面視において、ガセットリアパネル30の全長の約1/5の下端部が車幅方向の内側に向けてガセットリアパネル30の他の部分のガセット幅方向の寸法に対して2倍程度の寸法となるように突設されている。したがって、下端延出部34は、ガセットリアパネル30の下端部のガセット幅方向の寸法を部分的に2倍程度に増大させる。下端延出部34は、内側フランジ部32から車幅方向内側に延出された部分であり、ガセットリアパネル30の上側の部分に対して、上側から下側にかけて滑らかな曲線に沿ってガセットリアパネル30のガセット幅方向の寸法を車幅方向内側に徐々に広げる曲線形成部34aを経て設けられている。
ガセットリアパネル30全体としては、正面視において、車幅方向外側の縁部は、外側フランジ部33により、車体上下方向に沿うように略直線状に形成されている。これに対し、車幅方向内側の縁部は、内側フランジ部32により上側から曲線形成部34aにかけて徐々に車幅方向内側に広がり、曲線形成部34aを経て下端延出部34により急激に幅広となる。このように下端延出部34を有するガセットリアパネル30は、正面視で全体として略「L」字状ないし略長靴形状となるように構成されている。
下端延出部34は、車体前後方向について屈曲する所定の屈曲形状を有する。具体的には、図6に示すように、下端延出部34は、平面断面視において、内側フランジ部32からの車幅方向内側へ向かう延設部分である延設壁部34bと、延設壁部34bの車幅方向内側の端部から車体後方側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である側壁部34cと、側壁部34cの車体後方側の端部から車幅方向内側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である端壁部34dとを有する。
下端延出部34を構成する端壁部34dは、後述のように車体骨格構造に固定されるガセット部材20において、車体骨格構造に固定される部分に含まれる。本実施形態では、端壁部34dは、車体前後方向について、ガセットリアパネル本体部31の後壁部31aよりもわずかに車体後方側に位置する(図6参照)。
次に、ガセットフロントパネル40について説明する。図2および図5に示すように、ガセットフロントパネル40は、ガセット部材20の車体前方側の部分を構成する部材であり、上述のとおりガセット部材20が車体前方側に有する段差部21を形成する部材である。
ガセットフロントパネル40は、横断面形状において車幅方向に沿う略直線状をなすように略平面状に構成されたガセットフロントパネル本体部41と、ガセットフロントパネル本体部41の車幅方向内側に設けられて段差部21を形成する段差形成部42とを有する。ガセットフロントパネル本体部41および段差形成部42は、ガセット長手方向の略全体にわたり、ガセット幅方向に並列的に設けられ、ガセットフロントパネル40の全体を構成する。
ガセットフロントパネル本体部41は、略矩形板状の外形をなすガセットフロントパネル40において、ガセット幅方向について、車幅方向外側の半分以上(本実施形態では2/3〜3/4程度)の部分を構成する略矩形板状の部分である。つまり、ガセットフロントパネル本体部41は、段差形成部42に対して比較的幅広のガセット長手方向に沿う帯板状の部分である。
段差形成部42は、略矩形板状の外形をなすガセットフロントパネル40において、ガセット幅方向について、ガセットフロントパネル本体部41よりも車幅方向内側の部分を構成する略矩形板状の部分である。つまり、段差形成部42は、ガセットフロントパネル本体部41に対して比較的幅狭のガセット長手方向に沿う帯板状の部分である。
段差形成部42は、ガセットフロントパネル本体部41に対して段差部21を形成する部分であり、段差部21による段差分、ガセットフロントパネル本体部41に対して車体前方側に大部分を位置させる。すなわち、段差形成部42は、ガセットフロントパネル本体部41に対して車体前方側に立ち上がるとともにガセットフロントパネル本体部41の車幅方向内側の縁部に沿う段差部21を形成する。
具体的には、図2に示すように、段差形成部42は、ガセットフロントパネル40の横断面形状において、段差面22を形成する段差面形成部42aと、段差面形成部42aから車幅方向内側に延設される内側フランジ部42bとを有する。段差面形成部42aは、ガセットフロントパネル本体部41の車幅方向内側の端部から車体前方側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である。内側フランジ部42bは、段差面形成部42aの車体前方側の端部から車幅方向内側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である。
すなわち、段差形成部42は、ガセットフロントパネル本体部41に対して車幅方向内側の縁部に沿って車体前方側に立ち上がる段差面形成部42aにより、ガセットフロントパネル40の車体前方側、つまりガセット部材20の正面側において、車幅方向外側を向く段差面22を形成する。本実施形態では、段差面形成部42aは、車体前方側かつ車幅方向内側へ斜めに向くように傾斜状に設けられている。このため、段差面形成部42aの車体前方側の面である段差面22は、段差面形成部42aの傾斜に沿って、車体前方側かつ車幅方向外側を向く面となっている。
このようにガセットフロントパネル本体部41に対して段差部21を形成する段差形成部42は、段差部21による段差分、内側フランジ部42bをガセットフロントパネル本体部41に対して車体前方側に位置させる。言い換えると、内側フランジ部42bは、ガセットフロントパネル本体部41に対して段差面形成部42aを介して設けられることで、段差面形成部42aのガセットフロントパネル本体部41からの車体前方側への延出により、ガセットフロントパネル本体部41よりも車体前方側に位置する。
ガセットフロントパネル40の正面視における上下方向を長手方向とする略矩形形状の外形は、ガセットリアパネル30の正面視における下端延出部34以外の部分の外形と略同じである。そして、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40とは、互いに共通する正面視での略縦長矩形状の外形形状部分を互いに略一致させて重なり合った状態で接合される。したがって、ガセット部材20の正面視においては、ガセットフロントパネル40の背面側に位置するガセットリアパネル30のうち、下端延出部34の部分は、ガセットフロントパネル40により正面側から覆われることなく外部に露出した状態となる。
続いて、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の相互の接合構造について説明する。ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40は、複数箇所でスポット溶接されることにより、互いに接合されている。ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40との間においては、重なり合って互いに接触する部分が存在し、かかる部分がスポット溶接によって接合されることで、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40とが全体として互いに固定され、一体的なガセット部材20が構成されている。
ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40は、横断面形状におけるガセットリアパネル30の略ハット形状の開口側をガセットフロントパネル40が塞ぐような態様で重なり合う。ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40が重なり合った状態においては、内側フランジ部32と内側フランジ部42b同士、および外側フランジ部33とガセットフロントパネル本体部41の車幅方向外側の部分同士のそれぞれが互いに対面する。これらの互いに対面する部分は、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40が互いに略一致させる略縦長矩形状の外形形状部分における車幅方向両側の縁部となり、両縁部のそれぞれにおいて、ガセット長手方向に間隔を隔てた複数箇所がスポット溶接による溶接箇所となる。
具体的には、図3に示すように、本実施形態のガセット部材20においては、上記のとおり互いに対面する内側フランジ部32と内側フランジ部42b同士、および外側フランジ部33とガセットフロントパネル本体部41の車幅方向外側の部分同士のそれぞれにおいて、ガセット長手方向の両端部を含む5箇所に、スポット溶接による溶接箇所が設けられている。したがって、ガセット部材20においては、スポット溶接による溶接部が合計で10箇所存在する。なお、図3においては、スポット溶接による溶接部を「×」で示している。
図4および図5に示すように、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40のそれぞれにおいて、互いの接合のための溶接箇所には、接合凸部35,45が適宜設けられている。接合凸部35,45は、ガセット幅方向の両側の縁部にてなだらかな山形状をなして突出するとともに他の部分に対してスポット的に互いに対向する側に突出した部分である。すなわち、ガセットリアパネル30の接合凸部35は、正面側、つまりガセットフロントパネル40側に突出しており、ガセットフロントパネル40の接合凸部45は、背面側、つまりガセットリアパネル30側に突出している。
詳細には、本実施形態では、ガセットリアパネル30においては、車幅方向外側の縁部となる外側フランジ部33には、5箇所全ての溶接箇所に接合凸部35が設けられており、車幅方向内側の縁部となる内側フランジ部32には、上下端の位置を除く3箇所に接合凸部35が設けられている。一方、ガセットフロントパネル40においては、車幅方向外側の縁部となるガセットフロントパネル本体部41の車幅方向外側の縁部には、5箇所全ての溶接箇所に接合凸部45が設けられており、車幅方向内側の縁部となる内側フランジ部42bには、上端の位置を除く4箇所に接合凸部35が設けられている。
ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の間で互いに対応する溶接箇所の両方に接合凸部35,45が存在する部分においては、接合凸部35と接合凸部45が互いに突出側の面同士を接触させた状態で重なり、スポット溶接により互いに接合される。
なお、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40の相互の接合構造に関し、溶接の位置や箇所数や溶接部分の形状等は特に限定されるものではない。また、スポット溶接のほか、アーク溶接等の他の溶接が用いられてもよい。さらに、溶接のほか、ボルトやリベット等の固定部材によってガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40とが互いに固定される構造であってもよい。
以上のようにガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40が互いに接合されることで構成されるガセット部材20は、横断面形状におけるガセットリアパネル30の略ハット形状の開口側をガセットフロントパネル40が塞ぐような態様の部分により、中空状に構成されている。本実施形態のガセット部材20では、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40とにより横断面形状として略閉断面形状または閉断面形状をなす壁面構造が構成され、ガセット長手方向の両端側が開口する空間24が形成されている(図2参照)。
このように、ガセット部材20は、車体上下方向を長手方向とするとともに横断面形状として車体後方側の壁部および車体前方側の壁部を含む壁面構造により略閉断面形状または閉断面形状をなして中空状に構成されている。
本実施形態のガセット部材20において、略閉断面形状をなす車体後方側の壁部には、ガセットリアパネル30の後壁部31aが相当し、同じく車体前方側の壁部には、後壁部31aに対向するガセットフロントパネル40のガセットフロントパネル本体部41が相当する。後壁部31aおよびガセットフロントパネル本体部41は、車体前後方向に間隔を隔てる互いに略平行な壁面部であり、横断面形状として略閉断面形状または閉断面形状をなす壁面構造の車体前後側の部分を構成する。ここで、例えば、ガセット部材20のガセット長手方向について、車幅方向の両側に接合凸部35および接合凸部45が存在する部分は、横断面形状が閉断面形状となり、それ以外の部分は横断面形状が略閉断面形状となる。
そして、ガセット部材20においては、中空状の内部に、ガセットフロントパネル40にフロントタイヤ3が衝突することによるガセット部材20の変形、特にガセットフロントパネル40の変形を抑制するためのバルク形状部26が設けられている。バルク形状部26は、稜線27を形成するとともに車体後方側の壁部である後壁部31aと車体前方側の壁部であるガセットフロントパネル本体部41との車体前後方向の間隔を部分的に狭くする形状部分である。
図4に示すように、本実施形態では、バルク形状部26は、ガセットリアパネル30において、上端部分と下方寄りの部分との2箇所に設けられている。バルク形状部26は、ガセットリアパネル30のガセットリアパネル本体部31において、後壁部31aから車体前方側に突出するように設けられた凸形状部分である。
本実施形態では、バルク形状部26は、ガセット幅方向について、内側側壁部31c寄りの位置に形成され、後壁部31aおよび内側側壁部31cに付設する態様で設けられている。すなわち、バルク形状部26は、ガセット部材20の横断面形状において、後壁部31aと内側側壁部31cとがなす角部分に対して対角となる位置に、車体上下方向に沿う稜線27を形成する角部分を構成する。したがって、バルク形状部26は、一体の板状の部材により構成されたガセットリアパネル30の背面側から、ガセット長手方向に沿う後壁部31aと内側側壁部31cとがなす稜線部分(角部分)を部分的に凹ませた態様の部分となる。
具体的には、図4および図8に示すように、バルク形状部26は、ガセットリアパネル30の横断面形状において、後壁部31aの車幅方向内側の端部から車体前方側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分である外側バルク面部31dと、外側バルク面部31dの車体前方側の端部から車幅方向内側へ向けて折れ曲がるように形成された板状の部分であって内側側壁部31cの車体前後方向の中間部に繋がる前側バルク面部31eとを有する。すなわち、外側バルク面部31dおよび前側バルク面部31eは、横断面形状において、後壁部31aおよび内側側壁部31cとともに階段状(ジグザグ状)の部分を構成する(図8参照)。なお、図8においては、
フロントピラー5を構成する部材等の一部の構成の図示を省略している。
このように構成されたバルク形状部26においては、外側バルク面部31dと前側バルク面部31eとがなす角部分により、車体上下方向に沿う稜線27が形成される。そして、後壁部31aに対して外側バルク面部31dを介して設けられる前側バルク面部31eは、外側バルク面部31dを介する分、後壁部31aよりも車体前方側、つまりガセットフロントパネル本体部41に近付いた位置に存在する。これにより、図8に示すように、バルク形状部26は、後壁部31aとガセットフロントパネル本体部41との車体前後方向の間隔を、バルク形状部26が設けられていない部分における車体前後方向の間隔D1に対し、前側バルク面部31eとガセットフロントパネル本体部41との間の間隔D2として、ガセット長手方向について部分的に狭くする。
また、図4に示すように、ガセットリアパネル30が有する上下2つのバルク形状部26のうち、上端部に設けられた上側のバルク形状部26Aは、ガセットリアパネル30の上端となる上方を開放させるとともに、外側バルク面部31d、前側バルク面部31e、および内側側壁部31cで囲まれた部分の下側を塞ぐ態様で設けられる下側バルク面部31fを有する。下側バルク面部31fは、車体上方側から車体下方側にかけて車体前方側から車体後方側へと下る斜面状に形成されている。
一方、上下2つのバルク形状部26のうち、下方寄りの部分に設けられた下側のバルク形状部26Bは、下側バルク面部31fに加え、外側バルク面部31d、前側バルク面部31e、および内側側壁部31cで囲まれた部分の上側を塞ぐ態様で設けられる上側バルク面部31gを有する。上側バルク面部31gは、車体下方側から車体上方側にかけて車体前方側から車体後方側へと下る斜面状に形成されている。
以上のように、本実施形態では、バルク形状部26は、一体の部材からなるガセットリアパネル30の一部として設けられている。つまり、所定の板厚の一体の鋼板により構成されるガセットリアパネル30において、その鋼板の屈曲形状部としてバルク形状部26が設けられている。
次に、ガセット部材20の車体骨格構造に対する固定構造について説明する。ガセット部材20は、複数箇所のボルト締結によって、車体骨格構造に固定されている。
上述のとおり、ガセット部材20は、ガセットリアパネル30の部分を、車体骨格構造に固定させる。このため、ガセットリアパネル30には、複数のボルト締結用の締結孔36が設けられている。本実施形態では、締結孔36は、ガセットリアパネル本体部31の後壁部31aに4箇所、および下端延出部34の端壁部34dに1箇所の計5箇所に穿設されている(図4参照)。
詳細には、図4に示すように、ガセットリアパネル本体部31の後壁部31aにおいては、締結孔36として、車体上方側から順に、上方寄りの位置に第1締結孔36aが設けられ、上下方向の略中央部の位置に第2締結孔36bが設けられ、下端部に第3締結孔36cおよび第4締結孔36dが設けられている。また、下端延出部34の端壁部34dにおいては、締結孔36として、上方寄りの位置に第5締結孔36eが設けられている。
このようにガセットリアパネル30に設けられた複数の締結孔36により、ボルト51およびナット52が用いられ、ガセット部材20が車体骨格構造に締結固定される(図2、図6、図7参照)。すなわち、各ボルト51は、車体前方側から、各締結孔36によってガセットリアパネル30を貫通するとともに、車体骨格構造を構成する所定の部材を貫通し、車体後方側に貫通した部分において、ナット52の螺合を受ける。
したがって、ガセットフロントパネル40においては、ガセットリアパネル30の各締結孔36によるガセット部材20の車体骨格構造に対するボルト締結作業用の作業孔46が設けられている。作業孔46は、ガセット部材20の正面視において、締結孔36をガセット部材20の外部に臨ませるように、締結孔36の開口範囲を含むような大きさで形成されている。
詳細には、図5に示すように、ガセットフロントパネル40においては、作業孔46として、車体上方側から順に、第1締結孔36aに対応する第1作業孔46aと、第2締結孔36bに対応する第2作業孔46bと、第3締結孔36cおよび第4締結孔36dに対応する第3作業孔46cとが設けられている。なお、第3締結孔36cおよび第4締結孔36dについては、これらの締結孔36が比較的互いに近い位置に設けられていることから、両方の締結孔36の開口範囲を含むように形成された共通の第3作業孔46cが設けられている。また、第5締結孔36eが形成されている下端延出部34は、上記のとおりガセットフロントパネル40により正面側から覆われることなく外部に露出した状態となっている。
本実施形態の車両前部構造1において、ガセット部材20の車体骨格構造に対するボルト締結による固定部のうち、第1締結孔36aおよび第2締結孔36bによる固定部は、フロントピラー5に固定される。また、第3締結孔36cおよび第4締結孔36dによる固定部は、ロッカ4に固定される。また、第5締結孔36eによる固定部は、トルクボックス15に固定される。各固定部の詳細は次のとおりである。
第1締結孔36aまたは第2締結孔36bによる固定部においては、図2に示すように、ガセットリアパネル本体部31の後壁部31aが、フロントピラー5の構成部材であるサイドメンバアウタパネル10の本体部10aを構成する車体前方側の壁面部10dに、車体前方側から重なった状態で接触する。また、サイドメンバアウタパネル10の本体部10aの内側、つまり車体後方側においては、フロントピラーアウタパネル9の本体部9aを構成する車体前方側の壁面部9d、およびフロントピラーリインフォースメント11の本体部11aを構成する車体前方側の壁面部11dが、サイドメンバアウタパネル10の壁面部10dに順に重なっている。
すなわち、第1締結孔36aまたは第2締結孔36bによる固定部においては、車体前方側から車体後方側にかけて、ガセットリアパネル30の後壁部31a、サイドメンバアウタパネル10の壁面部10d、フロントピラーアウタパネル9の壁面部9d、およびフロントピラーリインフォースメント11の壁面部11dが順に重なっている。そして、各壁面部10d,9d,11dには、ガセットリアパネル30の第1締結孔36aまたは第2締結孔36bに対応する位置に、ボルト挿通孔10e,9e,11eが形成されている。
このような構造において、ボルト51は、ガセットリアパネル30の車体前方側から、第1締結孔36aまたは第2締結孔36b、およびボルト挿通孔10e,9e,11eを貫通し、フロントピラーリインフォースメント11の壁面部11dから車体後方側に貫通した部分に螺合されるナット52とともに、ガセットリアパネル30をフロントピラー5に締結固定する。なお、図2には、第1締結孔36aおよび第2締結孔36bのうち、第2締結孔36bによる固定部が示されている。
また、第3締結孔36cまたは第4締結孔36dによる固定部においては、図6に示すように、ガセットリアパネル本体部31の後壁部31aが、ロッカ4の構成部材であるロッカアウタパネル7の前壁部7cに、車体前方側から重なった状態で接触する。また、ロッカアウタパネル7の前壁部7cの内側、つまり車体後方側においては、ロッカリインフォースメント17の前壁部17cが、ロッカアウタパネル7の前壁部7cに重なっている。
すなわち、第3締結孔36cまたは第4締結孔36dによる固定部においては、車体前方側から車体後方側にかけて、ガセットリアパネル30の後壁部31a、ロッカアウタパネル7の前壁部7c、およびロッカリインフォースメント17の前壁部17cが順に重なっている。そして、各前壁部7c,17cには、ガセットリアパネル30の第3締結孔36cまたは第4締結孔36dに対応する位置に、ボルト挿通孔7d,17dが形成されている。
このような構造において、ボルト51は、ガセットリアパネル30の車体前方側から、第3締結孔36cまたは第4締結孔36d、およびボルト挿通孔7d,17dを貫通し、ロッカリインフォースメント17の前壁部17cから車体後方側に貫通した部分に螺合されるナット52とともに、ガセットリアパネル30をロッカ4に締結固定する。なお、図6には、第3締結孔36cおよび第4締結孔36dのうち、第4締結孔36dによる固定部が示されている。
また、第5締結孔36eによる固定部においては、図6および図7に示すように、下端延出部34の端壁部34dが、トルクボックス15のトルクボックス本体部15aを構成する車体前方側の壁面部15dに、車体前方側から重なった状態で接触する。また、トルクボックス15の壁面部15dの内側、つまり車体後方側においては、トルクボックスリインフォースメント18の車体前方側の壁面部18dが、トルクボックス15の壁面部15dに重なっている。
すなわち、第5締結孔36eによる固定部においては、車体前方側から車体後方側にかけて、下端延出部34の端壁部34d、トルクボックス15の壁面部15d、およびトルクボックスリインフォースメント18の壁面部18dが順に重なっている。そして、各壁面部15d,18dには、ガセットリアパネル30の第5締結孔36eに対応する位置に、ボルト挿通孔15e,18eが形成されている。
このような構造において、ボルト51は、ガセットリアパネル30の車体前方側から、第5締結孔36e、およびボルト挿通孔15e,18eを貫通し、トルクボックスリインフォースメント18の壁面部18dから車体後方側に貫通した部分に螺合されるナット52とともに、ガセットリアパネル30をトルクボックス15に締結固定する。
以上のようにして、本実施形態に係るガセット部材20の車体骨格構造に対する固定構造が構成されている。なお、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40には、ガセット部材20のボルト締結用の締結孔36および作業孔46のほか、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40との間の位置決め用の基準孔37,47が所定の位置に適宜設けられる。基準孔37,47は、締結孔36と同程度の大きさの孔である。
本実施形態では、例えば、図4に示すように、ガセットリアパネル30において、第3締結孔36cおよび第4締結孔36dの下方の位置となる後壁部31aの下端部に、基準孔37が設けられる。また、例えば、図5に示すように、ガセットフロントパネル40において、ガセット長手方向について第2作業孔46bと第3作業孔46cの間の位置となるガセットフロントパネル本体部41の下方寄りの位置に、2箇所の基準孔47が設けられる。
以上のようにボルト締結によって車体骨格構造に固定され、フロントピラー5の車体前方側に設けられるガセット部材20は、ガセットフロントパネル40により、車体前方側に、車体上下方向(ガセット長手方向)に沿う段差部21を形成する。段差部21は、ガセットフロントパネル40において、段差形成部42により形成される。段差形成部42は、段差面形成部42aにより、車幅方向外側の部分であるガセットフロントパネル本体部41に対して車幅方向内側の部分である内側フランジ部42bを相対的に車体前方側に位置させることで、段差面形成部42aにより段差面22を形成する。
すなわち、ガセット部材20が車体骨格構造に固定された構造は、上述のとおり段差部21を形成するガセットフロントパネル40がガセットリアパネル30を介して車体骨格構造に固定されるとともにガセットリアパネル30により車体後方側から補強支持された構造であると言える。言い換えると、ガセット部材20は、実質的な形状部分としての段差部21をガセットフロントパネル40により形成するとともに、車体骨格構造に対する固定支持部分であるガセットリアパネル30をガセットフロントパネル40に接合させることで、全体として車体骨格構造に対する一体的な補強部材として設けられている。
そして、フロントピラー5の車体前方側に設けられるガセット部材20は、車体上下方向については、例えば、車体骨格構造の下端の位置、つまりフロントピラー5の下端の位置から、フロントタイヤ3の上部に達する高さ位置までの範囲で、車体骨格構造をカバーする。また、ガセット部材20は、車幅方向については、例えば、フロントピラー5またはロッカ4の車幅方向外側の端部の位置から、ダッシュパネル13の車幅方向外側の端部の位置までの範囲で、車体骨格構造をカバーする。
本実施形態では、ガセット部材20は、車体前方側を開口側とする略ハット形状の横断面形状を有するガセットリアパネル30の車幅方向内側の部分を、ダッシュパネル13とサイドメンバアウタパネル10との接合部分における横断面形状に沿わせた態様で設けられる。詳細には、ガセット部材20は、横断面形状において、ガセットリアパネル30の内側フランジ部32をダッシュパネル13のダッシュパネル本体部13aの車幅方向外側の部分に沿わせ、内側側壁部31cをダッシュパネル13のサイドフランジ部13b、フロントピラーインナパネル8の接合縁部8b、およびサイドメンバアウタパネル10のフランジ部10bの接合部分に沿わせ、後壁部31aを壁面部10dに沿わせた状態で設けられる。これにより、ガセット部材20は、車体骨格構造側におけるダッシュパネル13とその車幅方向外側に設けられたフロントピラー5との段差部分に、背面側における内側フランジ部32と内側側壁部31cと後壁部31aによる段差形状を沿わせた態様で設けられる。
そして、ガセット部材20は、その車幅方向内側がダッシュパネル13のダッシュパネル本体部13aの車幅方向外側の部分まで及び、車幅方向外側がフロントピラー5またはロッカ4の車幅方向外側の端部近傍まで及ぶように設けられている。以上のような範囲で車体骨格構造を車体前方側から覆うように、ガセット部材20が設けられている。
以上のような構成を備える本実施形態の車両前部構造1によれば、車両の基本骨格を大きく変更することなく、オフセット衝突時等の車両前部衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3がダッシュパネル13等の薄板部に衝撃を与えることを防止することができ、安全性を向上させることができる。このような、作用効果について具体的に説明する。
まず、ガセット部材20が有する段差部21による作用効果について、図9および図10を用いて説明する。図9に示すように、車両2のオフセット衝突時等の車両前部衝突時においては、上述のとおり、衝突した側のフロントタイヤ3が、車両2の内側に転舵しながら(内回りしながら)後退する(破線矢印E1参照)。つまり、車両2における本来の位置にあるフロントタイヤ3(3A)が、車両衝突が生じることで、衝撃によって内回りしながら後退する。このように内回りしながら後退するフロントタイヤ3の軌跡の延長上には、ダッシュパネル13やフロントピラー5の構成部材等の、車体骨格構造の構成部材のうち比較的強度の弱い薄板部が存在する。
そこで、本実施形態の車両前部構造1においては、車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3は、ガセット部材20に衝突することになる(符号F1で示す部分参照)。ガセット部材20に衝突したフロントタイヤ3(3B)については、ガセット部材20の正面側において車幅方向外側を向く段差面22を形成する段差部21に引っかかり、内回りの回転および車体内側への侵入が止められることになる。ここで、フロントタイヤ3は、実際上、タイヤ本体よりも剛性が高いホイル3aのリムの部分により、段差部21による引っかかりの作用を受ける。つまり、ガセット部材20が有する段差部21は、車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3、特にそのホイル3aに対する引っかかり形状部として作用する。
このように、本実施形態の車両前部構造1によれば、車両衝突時に内回りしながら後退しようとするフロントタイヤ3の動きを、ガセット部材20の段差部21によって引っかけることで停止させることができる。つまり、フロントタイヤ3がガセット部材20の段差部21に係止されることで、それ以上のフロントタイヤ3の回転・後退を規制することができる。これにより、車両衝突時にフロントタイヤ3がダッシュパネル13側へ向かうことを抑制することができ、フロントタイヤ3がダッシュパネル13等の薄板部に衝撃を与えることを防止することができ、車両2への想定外の入力を防ぐことができる。
ここで、ガセット部材20の正面側に段差部21が設けられていない場合の構造を、本実施形態に係る車両前部構造1に対する比較例の構造として仮想し、比較例の構造における車両衝突時のフロントタイヤ3の挙動について、図10を用いて説明する。図10に示すように、比較例の構造では、ガセット部材20に段差部21が存在せず、ガセットフロントパネル40の正面側の面となるガセット部材20の表面20aは平面状となる。
このような比較例の構造によれば、車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3(ホイル3a)は(破線矢印E1参照)、ガセット部材20に接触し、その後、内回りの回転および後退の作用により、ガセット部材20の表面20aを滑り、内回りの回転および後退を続け、車幅方向内側へと侵入することになる(破線矢印E2参照)。
このように車幅方向内側へと侵入するフロントタイヤ3(ホイル3a)は、ダッシュパネル13の変形量を大きくする(符号G1で示す部分参照)。つまり、この場合、板厚の比較的薄いダッシュパネル13への入力が増大し、車体の変形が大きくなる。また、車幅方向内側へと侵入するフロントタイヤ3(ホイル3a)は、車両2が衝突したバリアと車体との間に挟まることで、車体への入力を増加させ、車体変形量を大きくする。ここで、車幅方向内側へと侵入するフロントタイヤ3(ホイル3a)は、場合によっては、ダッシュパネル13とフロントピラー5との接合部分において、比較的板厚が薄い薄板部であるサイドメンバアウタパネル10を破断させたり、その接合部分における各部材間の接合を剥離させたりする。
この点、本実施形態の車両前部構造1によれば、車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3(ホイル3a)がガセット部材20の段差部21に引っかかることで、フロントタイヤ3の車幅方向内側への滑りを抑制することができ、フロントタイヤ3の車幅方向内側への侵入を規制してフロントタイヤ3の挙動を安定させることができる。つまり、本実施形態の車両前部構造1によれば、車両衝突時のタイヤ挙動の安定化と制御を達成することができる。これにより、フロントタイヤ3がダッシュパネル13の変形量を大きくすることを回避することができ(符号F2で示す部分参照)、ダッシュパネル13の変形等を防止することができ、安全性の向上を図ることができる。
また、ガセット部材20の段差部21によってフロントタイヤ3の車幅方向内側への侵入を防止することができることから、車両2が衝突したバリアと車体との間にフロントタイヤ3(ホイル3a)が挟まることを防止することができ、車体への入力、特にダッシュパネル13への入力を減少させ、車体変形量を小さくすることができる。そして、車幅方向内側へと侵入するフロントタイヤ3(ホイル3a)によって、ダッシュパネル13とフロントピラー5との接合部分において、比較的板厚が薄い薄板部であるサイドメンバアウタパネル10を破断させたり、その接合部分における各部材間の接合を剥離させたりすることを防止することができる。
さらに、ガセット部材20の段差部21によってフロントタイヤ3の車幅方向内側への侵入を防止することができることから、車体前後方向に延びるロッカ4に対して安定して荷重を伝達させることができる。つまり、ガセット部材20を備える構成によれば、車両衝突時における車体への入力に際し、ロッカ4に対する荷重伝達を安定させることができる。
また、本実施形態の車両前部構造1は、車両2の車体骨格構造に対し、別部材であるガセット部材20を取り付ける構成である。つまり、ガセット部材20は、車体骨格構造に対していわゆるボルトオンが可能な構成である。このため、本実施形態の車両前部構造1によれば、車体骨格構造や車両のシャシー周りの変更を行うことなく、つまり車両2の基本骨格を大きく変更することなく、ガセット部材20の追加のみで、車両衝突時におけるフロントタイヤ3の挙動を制御することが可能となり、ダッシュパネル13等の薄板部を保護することができる。
すなわち、本実施形態の車両前部構造1によれば、車体骨格構造にガセット部材20を取り付ける構成であるため、強度向上のためにダッシュパネル13全体の板厚を増加させたり、ロッカ4やフロントピラー5等に対するダッシュパネル13の結合強度を向上させたりすることなく、車両衝突時における安全性の向上を図ることができる。結果として、車両衝突に対する衝突性能の向上と、車体の軽量化の両立を図ることが可能となる。また、本実施形態の車両前部構造1は、車体骨格構造について部品自体を新規の部品に交換したり別途に成型を行ったりする必要を生じさせないことから、容易に導入することができ、コスト面でも有利である。
次に、ガセット部材20が有するバルク形状部26による作用効果について、図11および図12を用いて説明する。図11に示すように、車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3がガセット部材20に衝突することで、その衝撃により、主にフロントタイヤ3の接触側、つまり正面側の部材であるガセットフロントパネル40が、横断面形状を変化させるように変形する。ここで、直接的にフロントタイヤ3からの入力を受けるガセットフロントパネル40は、車体後方側に押し曲げられて潰れるように比較的大きく変形する。図11においては、変形後のガセットフロントパネル40およびガセットリアパネル30をそれぞれ破線H1,H2で示している。
バルク形状部26は、中空状に構成されたガセット部材20において、ガセット長手方向におけるバルク形状部26が設けられていない部分(図11において2点鎖線で示す部分H3参照。以下、ガセットリアパネル30における「一般形状部」とする。)に対して、後壁部31aと内側フランジ部42bとの間の車体前後方向の間隔を狭くする。このため、上述のとおりフロントタイヤ3の衝撃によって変形するガセットフロントパネル40に対して、バルク形状部26が支えとなり、ガセット部材20の変形量、特にガセットフロントパネル40の変形量を低減させる。
すなわち、バルク形状部26は、一般形状部に対して後壁部31aから車体前方側に突出し、ガセット部材20の中空部を車体前後方向について部分的に狭めることで、車体後方側に向けて変形するガセットフロントパネル40の変形量が大きくなる前にガセットフロントパネル40に接触してこれを車体後方側から支持する(符号J1で示す部分参照)。これにより、ガセットフロントパネル40の変形が抑制される。
そして、ガセットフロントパネル40の変形量が小さくなることから、フロントタイヤ3の衝撃により変形した後のガセットフロントパネル40においても、段差部21の形状が残りやすくなる(符号J2で示す部分参照)。つまり、バルク形状部26によれば、変形後のガセットフロントパネル40においても、フロントタイヤ3(ホイル3a)に対する引っかかり形状部としての作用が保持される。
ここで、ガセット部材20にバルク形状部26が設けられていない場合の構造を、本実施形態に係る車両前部構造1に対する比較例の構造として仮想し、比較例の構造における車両衝突時のガセットフロントパネル40の変形について、図12を用いて説明する。図12に示すように、ガセット部材20にバルク形状部26が設けられていない場合、ガセットリアパネル30のガセット長手方向の全体が一般形状部(図11、部分H3参照)となる。
このような比較例の構造によれば、ガセット部材20が車両衝突時におけるフロントタイヤ3の衝突によって変形する際、接触側の部材であるガセットフロントパネル40がバルク形状部26によって後方側から支持されないことから、ガセットフロントパネル40の変形量が大きくなる(矢印K2参照)。図12においては、変形後のガセットフロントパネル40およびガセットリアパネル30をそれぞれ破線L1,L2で示している。
ガセットフロントパネル40が大きく変形することで、ガセットリアパネル30の変形も相俟って中空状をなすガセット部材20の横断面形状が潰される。これにより、ガセットフロントパネル40において段差部21を形成する屈曲形状が延ばされ、段差部21による段差形状が小さく(緩やかに)なる(符号M1で示す部分参照)。このように、バルク形状部26が存在しない構成においては、ガセットフロントパネル40の変形量が大きくなり、段差部21の形状が保持されにくくなるため、段差部21によって得られるフロントタイヤ3の内回り挙動を抑制する作用を、効果的に利用することが困難となる。
この点、本実施形態のようにガセット部材20がバルク形状部26を有する構成によれば、大きく変形しようとするガセットフロントパネル40が車体後方側からバルク形状部26により支持されることから、車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3が衝突することによるガセット部材20の変形、特に接触側の部材であるガセットフロントパネル40の変形を抑制することができ、断面変形の変形量を小さくすることができる(図12の矢印K2に対する図11の矢印K1参照)。これにより、変形後のガセットフロントパネル40においても、段差部21の形状を保つことができるので(符号J2で示す部分参照)、段差部21によって得られるフロントタイヤ3の内回り挙動を抑制する作用を、効果的に利用することができる。
なお、ガセット部材20中空状の内部に有するバルク形状部26としては、車体上下方向に沿う稜線27を形成するとともに中空部を形成する車体前後方向の壁部間の間隔を部分的に狭くする形状部分であれば、その構成は特に限定されるものではない。
本実施形態では、バルク形状部26は、ガセットリアパネル30において、ガセット幅方向について内側側壁部31c寄りの位置に設けられているが、外側側壁部31b寄りの位置に、後壁部31aおよび外側側壁部31bに付設する態様で設けられてもよい。また、本実施形態では、バルク形状部26は、上下に間隔を隔てた2箇所に設けられているが、1箇所または3箇所以上設けられもよく、また、ガセット幅方向に並列的に設けられたりしてもよい。さらに、バルク形状部26は、ガセット長手方向について部分的ではなく全体的に設けられてもよい。
また、本実施形態では、バルク形状部26は、稜線27を形成する外側バルク面部31dおよび前側バルク面部31eに加えて、下側バルク面部31fあるいはこれに加えて上側バルク面部31gを有するが、少なくとも稜線を形成する部分を有する構成であればよい。ただし、バルク形状部26の強度確保の観点からは、下側バルク面部31f及び上側バルク面部31gの少なくともいずれかを有する構成が好ましい。また、バルク形状部26が形成する稜線の方向についても、本実施形態のように車体上下方向に沿う方向に限定されず、車幅方向や所定の向きに傾斜した傾斜方向等であってもよい。
また、本実施形態では、バルク形状部26は、ガセット部材20において、ガセットリアパネル30側に設けられているが、ガセットフロントパネル40側に設けられてもよい。
さらに、バルク形状部26は、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40とは別体の部材により構成されてもよい。この場合、ガセット部材20の中空状の内部において、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40とは別体の部材が両パネルの少なくともいずれかに固定されることで、バルク形状部が構成されることになる。ただし、本実施形態のように、ガセットリアパネル30の一部としてバルク形状部26が設けられる構成によれば、別途部品を追加することなく、容易にバルク形状部26を設けることができ、上述したような作用効果を達成することができる。
また、所定の板厚の一体の鋼板により構成されるガセットリアパネル30において、バルク形状部26がその鋼板の一部として設けられることで、バルク形状部26を例えば絞り加工等によって容易に設けることができる。また、ガセットリアパネル30の一部として設けられるバルク形状部26によれば、ガセットリアパネル30の強度、ひいてはガセット部材20の強度を向上させることができるので、ガセット部材20の強度確保のためにガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の板厚を必要以上に厚くすることを防止することができる。これにより、ガセット部材20の質量を軽減することが可能となる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について、図13から図16を用いて説明する。なお、第1実施形態と共通する部分については、共通の符号を用いる等して適宜説明を省略する。また、図14は、図2と同様に車両2の前部構造を示す水平断面図であり、図13におけるD−D位置(図15におけるD´−D´位置に対応)の断面図に相当する。
図13および図15に示すように、本実施形態に係る車両前部構造61が備えるガセット部材70は、ガセットフロントパネル本体部41に対して段差部21を形成する段差形成部42から車幅方向内側に延設された延設部78を有する点で、第1実施形態のガセット部材20と異なる。延設部78は、段差部21よりも車幅方向内側に延設され、車両2の車室の車体前方側に位置する薄板部であるトルクボックス15の車体前方側に位置し、トルクボックス15の少なくとも一部を車体前方側から覆う部分である。
図13、図14、図15に示すように、延設部78は、ガセットリアパネル30の内側フランジ部32からの車幅方向内側への延設部分であるリア延設部38と、ガセットフロントパネル40の内側フランジ部42bからの車幅方向内側への延設部分であるフロント延設部48とにより構成されている。すなわち、延設部78は、車体前後方向に互いに重なった内側フランジ部32と内側フランジ部42bとの両方が互いに重なった状態のまま車幅方向内側に延設された部分であり、リア延設部38およびフロント延設部48による2重の板状部により構成されている。
リア延設部38およびフロント延設部48は、互いに略同じ外形を有し、その外形を互いに略一致させた状態で重なり合っている。本実施形態では、リア延設部38およびフロント延設部48は、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40においてそれぞれガセット長手方向の全体にわたって設けられている内側フランジ部32および内側フランジ部42bがそのまま延設された形状部分となっている。したがって、リア延設部38およびフロント延設部48は、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40のそれぞれにおいてガセット長手方向の全体にわたって設けられており、正面視でガセット長手方向の寸法をガセット部材70の全体の寸法と同じくする略縦長矩形状の部分として設けられている。ただし、延設部78は、リア延設部38およびフロント延設部48のいずれか一方のみにより構成されてもよい。つまり、延設部78としては、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の少なくともいずれか一方の部材により構成された部分であればよい。
図14に示すように、本実施形態において、延設部78は、車幅方向について、ガセット部材70の車幅方向外側の端部の位置からガセットリアパネル30のガセットリアパネル本体部31と内側フランジ部32との境目部分(屈曲部分)の位置までの寸法を寸法N1とした場合、延設部78の延設方向の寸法N2は、寸法N1と略同じ程度である。つまり、延設部78は、ガセット幅方向について、ガセット部材70全体の略半分の範囲を占めるように、ガセット部材70の車幅方向内側に設けられている。
延設部78の延設長さに関し、車体骨格構造との関係において、延設部78は、ダッシュパネル13の車幅方向外側の部分を車体前方側から覆うように設けられている。つまり、延設部78は、正面視で少なくともダッシュパネル13の一部にオーバーラップする位置まで車幅方向内側に延出している。したがって、ガセット部材70は、内側側壁部31cや段差面形成部42a等の部分によってダッシュパネル13とフロントピラー5との接合部分を車体前方側から覆うとともに、延設部78により、その接合部分に含まれるサイドフランジ部13bに対して車幅方向内側に位置するダッシュパネル本体部13aの車幅方向外側の一部を車体前方側から覆う。
また、延設部78の延設長さに関し、車体骨格構造との関係において、延設部78は、車両衝突時において内回りしながら後退するフロントタイヤ3(ホイル3a)の軌跡に干渉する位置に及ぶように設けられている。すなわち、延設部78は、ガセット部材20が存在しない場合にダッシュパネル13においてフロントタイヤ3(ホイル3a)が衝撃を与えることになる部分を含む範囲で、ダッシュパネル13の一部を車体前方側から覆うように設けられる。
なお、本実施形態のガセット部材70において、延設部78を構成するガセットリアパネル30のリア延設部38は、第1実施形態に係るガセット部材20がガセットリアパネル30において有する下端延出部34を含む範囲で設けられている。このため、本実施形態に係るガセットフロントパネル40は、第1実施形態に係るガセットフロントパネル40が有する3つの作業孔46に加え、フロント延設部48の締結孔36(36e)に対応する位置に、4つめの作業孔46dを有する(図15参照)。
また、ガセットリアパネル30とガセットフロントパネル40の相互の溶接構造に関し、本実施形態のガセット部材70においては、第1実施形態のガセット部材20において互いに重なる内側フランジ部32と内側フランジ部42bの部分に設けられるスポット溶接による溶接部に加えてまたは同溶接部に代えて、延設部78に溶接部が適宜設けられる。延設部78に溶接部が設けられる場合、例えば、延設部78の車幅方向内側の縁部において、内側フランジ部32と内側フランジ部42b同士の接合部分と同様に、ガセット長手方向に適宜間隔を隔てて複数の溶接部が設けられる。
本実施形態に係る車両前部構造61によれば、第1実施形態に係る車両前部構造1により得られる作用効果に加えて、次のような作用効果を得ることができる。
図14に示すように、本実施形態に係る車両前部構造61によれば、ガセット部材70が延設部78を有することにより、車両2の車両衝突時に内回りしながら後退するフロントタイヤ3が仮にフロントタイヤ3の挙動等によって段差部21を越えて車両2の内側に侵入した場合であっても、フロントタイヤ3(ホイル3a)は、延設部78に衝突することになる(符号P1で示す部分参照)。
このように、本実施形態に係る車両前部構造61によれば、延設部78がダッシュパネル13の車体前方側に存在することにより、車両衝突時におけるフロントタイヤ3の挙動等にかかわらず、フロントタイヤ3(ホイル3a)がダッシュパネル13の変形量を大きくすることを確実に防止することができ、車両2への想定外の入力を防ぐことができる。これにより、フロントタイヤ3が衝撃を与えることによるダッシュパネル13の変形等を防止することができ、安全性の向上を図ることができる。
そして、本実施形態に係る車両前部構造61によれば、延設部78により、車両衝突時におけるフロントタイヤ3(ホイル3a)の挙動等に対応して、ガセット部材70をダッシュパネル13の補強したい部位(保護したい部位)まで必要に応じて拡大することで、フロントタイヤ3(ホイル3a)がダッシュパネル13へ衝撃を与えることを回避することができる。このように、本実施形態に係る車両前部構造61によれば、延設部78によってダッシュパネル13等の薄板部について必要な部位のみ補強することができる。このため、ダッシュパネル13を補強するために例えばダッシュパネル13全体の板厚を厚くする必要がなく、質量増加を最小限に抑えながら、ダッシュパネル13を効率的に補強することができる。
すなわち、本実施形態に係る車両前部構造61によれば、ガセット部材70において、車体骨格構造の補強構造として必要な範囲まで拡大された構成である延設部78を有することで、必要部位のみガセット部材70によって補強・保護することが可能となるため、ダッシュパネル13の全体の板厚を厚くする等の必要がなく、車両衝突に対する衝突性能の向上と、車体の軽量化の両立を図ることが可能となる。
なお、本実施形態では、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40のそれぞれを構成する鋼板の一部として延設部78が設けられているが、延設部78は、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40とは別体の部材により構成されてもよい。ただし、本実施形態のように、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の一部により延設部78が設けられる構成によれば、別途部品を追加することなく、容易に延設部78を設けることができ、上述したような作用効果を達成することができる。また、本実施形態では、延設部78は、ガセット部材70のガセット長手方向の全体にわたる延設部分として設けられているが、これに限定されず、補強する部位等に応じて、ガセット長手方向について部分的に延設された部分であってもよい。
以上のように、実施形態を用いて説明した本発明に係る車両前部構造によれば、車両前部衝突時のタイヤ(ホイル)の挙動の制御と車体の骨格補強との両立を達成することができる。なお、上記の各実施形態では、図面において車体の左側に設けられるガセット部材のみを示しているが、車両2は、車体の右側にガセット部材を備える構成であったり、車幅方向について対称に構成された左右一対のガセット部材を備える構成であったりしてもよい。すなわち、ガセット部材は、車幅方向の両側(左右両側)のフロントピラー5の少なくとも一方のフロントピラー5の車体前方側、つまり車体の左側および右側の少なくとも一側に設けられればよい。なお、ガセット部材が車体の左右片側のみに設けられる場合は、例えば、車両2の運転席の配置に応じて、運転席が配置される側にガセット部材が設けられる。
また、各実施形態により説明した本発明に係る車両前部構造は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。例えば、上述した実施形態では、ガセット部材20は、車体骨格構造に対し、合計で5箇所のボルト締結による固定部により、ロッカ4、フロントピラー5、およびトルクボックス15の3つの部材に跨って固定されているが、ガセット部材20の車体骨格構造に対する固定構造は、特に限定されるものではない。つまり、ガセット部材20は、車体骨格構造を構成するいずれか1つまたは複数の部材、言い換えると車体骨格構造のいずれかの部位に固定されればよい。ただし、車体骨格構造に対し、例えば上述した実施形態のようにロッカ4、フロントピラー5、およびトルクボックス15の3つの部材等の複数の部材に跨ってガセット部材20を固定する構成によれば、ガセット部材20によってこれら3つの部材間の連結構造を補強することができるので、ガセット部材20による車体骨格構造に対する補強の作用を効果的に得ることができる。また、ガセット部材20の車体骨格構造に対する固定には、ボルト締結のほか、溶接等が用いられてもよい。
また、上述した実施形態では、ガセット部材20は鉄製の部材として構成されているが、ガセット部材20の材料は、鉄鋼材料に限定されることなく、所望の強度が得られるものであれば、他の金属材料や樹脂材料等であってもよい。
また、上述した実施形態では、ガセット部材20は、ガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40の2枚のパネル部材の重ね合わせにより構成されているが、例えば1枚のパネル部材等のような一体の部材により構成されたものであってもよい。ただし、ガセット部材20において段差部21等の所定の形状部分を形成するための加工の容易さや軽量化や強度確保の観点からは、ガセット部材20の構成としては、上述した本実施形態のようにガセットリアパネル30およびガセットフロントパネル40からなる中空状の構成が好ましい。
すなわち、例えばガセット部材20を一体のパネル部材により構成した場合、所望の強度を得るために板厚が厚くなるため、段差部21等の所定の形状部分を形成するための加工が困難となり、重量も重くなる。この点、ガセット部材20を2枚のパネル部材の重ね合わせにより中空状に構成することにより、各パネル部材の板厚を薄くすることができるので、所定の形状部分を形成するための加工が容易となるとともに、軽量で変形しにくい構造を効率的に実現することができる。
また、ガセット部材20の形状に関しては、上述した実施形態では、ガセット部材20は、正面視で略縦長矩形状の外形をなすように構成されているが、ガセット部材20の全体的な形状は特に限定されない。したがって、ガセット部材20としては、正面視で略長円形状の外形をなすような部材であったり、車幅方向を長手方向とする略横長矩形状の外形をなすような部材であったりしてもよい。
また、上述した実施形態では、ガセット部材20が有する段差部21が形成する段差面22は、車幅方向外側斜め前を向く面となっているが、段差面22は、概ね車幅方向外側を向く面であればよい。したがって、段差面22としては、平面視で車幅方向に直交するような車体前後方向に沿う面であったり、車幅方向外側斜め後を向く面であったりしてもよい。