本発明者らは、MDA7による中枢ミクログリアCB2受容体の活性化が、Aβクリアランスを促進し、Aβ誘発性のグリア活性化とIL−1βの産生を改善し、シナプス可塑性、認知、および記憶を回復させることを示している。よって、本発明は、アルツハイマー病のようなものを含む神経炎症性疾患および/または神経変性疾患の治療に使用可能なCB2受容体アゴニストを提供する。
定義
本明細書で使用する場合、以下の用語は、表記の通りの意味を持つ。本発明の説明および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、その前後の文脈から逆が示されているのでないかぎり、複数の形態を含む。
「アルケニル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、1つ以上の二重結合を有し、2〜20個、好ましくは2〜6個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素基をいう。アルケニレンとは、エテニレンなど、2以上の位置で結合した炭素−炭素二重結合系[(CH=CH−),(−C::C−)]をいう。好適なアルケニル基の例として、エテニル、プロペニル、2−メチルプロペニル、1,4−ブタジエニルなどがあげられる。
「アルコキシ」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、アルキルエーテル基をいい、ここで、アルキルという用語については以下で定義する。好適なアルキルエーテル基の例として、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、iso−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどがあげられる。
「アルキル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、直鎖または分岐鎖であって、1個から、20個、好ましくは1〜10個、一層好ましくは1〜6個の炭素原子を含むアルキル基をいう。アルキル基は、本明細書に定義されるように、任意に置換されていてもよい。アルキル基の例として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル、オクチル、ノイルなどがあげられる。「アルキレン」という用語は、本明細書で使用する場合、単独または組み合わせで、メチレン(−CH2−)など、2以上の位置で結合した直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素由来の飽和脂肪族基をいう。
「アルキニル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、1つ以上の三重結合を有し、2〜20個、好ましくは2〜6個、一層好ましくは2〜4個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素基をいう。「アルキニレン」は、エチニレンなど、2箇所で結合した炭素−炭素三重結合(−C:::C−、−C≡C−)をいう。アルキニル基の例として、エチニル、プロピニル、ヒドロキシプロピニル、ブチン−1−イル、ブチン−2−イル、ペンチン−1−イル、3−メチルブチン−1−イル、ヘキシン−2−イルなどがあげられる。
「アミノ」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、−NRR’をいい、ここで、RおよびR’は、独立に、水素、アルキル、アシル、ヘテロアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール,およびヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、そのいずれもそれ自体が任意に置換されていてもよい。
「アリール」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、1個、2個または3個の環を含む炭素環式芳香族系を意味し、ここで、このような環は、ペンダント的に一緒に結合されていてもよいし、縮合されていてもよい。「アリール」という用語は、ベンジル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル、インダニル、インデニル、アヌレニル、アズレニル、テトラヒドロナフチル、ビフェニルなどの芳香族基を包含する。
「アリールアルキル」または「アラルキル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独または組み合わせで、アルキル基を介して親の分子部分に結合したアリール基をいう。
「ヘテロアリール」という用語は、チオフェニル、チアゾリルまたはイミダゾリル基など、1個以上のヘテロ原子で中断されたアリール基を意味し、これらは少なくとも1つのハロゲン、1〜3個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシル、アリール基、ニトロ官能基、ポリエーテル基、ヘテロアリール基、ベンゾイル基、アルキルエステル基、カルボン酸、任意にアセチル基もしくはベンゾイル基で保護されたヒドロキシル、または、任意にアセチル基もしくはベンゾイル基で保護されたアミノ官能基で任意に置換されているか、あるいは、1〜6個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルキルで任意に置換されている。
「シクロアルキル」という用語あるいは、「炭素環」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、飽和もしくは部分飽和した単環、二環、または三環のアルキル基をいい、ここで、各環状部分は、3〜12個、好ましくは5〜7個の炭素原子環員を含み、これらは任意に、本明細書にて定義されるように任意に置換されていてもよいベンゾ縮合環系であってもよい。このようなシクロアルキル基の例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、オクタヒドロナフチル、2,3−ジヒドロ−1H−インデニル、アダマンチルなどがあげられる。「二環」および「三環」とは、本明細書で使用する場合、デカヒドロナフタレン、オクタヒドロナフタレンなどの縮合環系のみならず、多環(多中心)の飽和または部分不飽和タイプの両方を含むことを意図している。後者のタイプの異性体は、一般に、ビシクロ[1,1,1]ペンタン、カンファー、アダマンタン、ビシクロ[3,2,1]オクタンで例示される。
「エステル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、炭素原子で結合した2つの部分を橋渡ししているカルボキシ基をいう。
「エーテル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、炭素原子で結合した2つの部分を橋渡ししているオキシ基をいう。
「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素をいう。
「ハロアルキル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、上記にて定義したような意味を有するアルキル基をいい、ここで、1個以上の水素がハロゲンで置換されている。具体的に包含されるのは、モノハロアルキル基、ジハロアルキル基、ポリハロアルキル基である。モノハロアルキル基は、一例として、基内に、ヨード原子、ブロモ原子、クロロ原子またはフルオロ原子を有するものであってもよい。ジハロアルキル基およびポリハロアルキル基は、同一のハロ原子を2以上有してもよいし、異なるハロ基を有してもよい。ハロアルキル基の例として、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ジフルオロクロロメチル、ジクロロフルオロメチル、ジフルオロエチル、ジフルオロプロピル、ジクロロエチルおよびジクロロプロピルがあげられる。「ハロアルキレン」とは、2箇所以上で結合されたハロアルキル基をいう。例として、フルオロメチレン(−CFH−)、ジフルオロメチレン(−CF2−)、クロロメチレン(−CHCl−)などがあげられる。
「ヘテロアルキル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、安定した直鎖または分岐鎖あるいは、環状の炭化水素基あるいは、これらの組み合わせをいい、完全に飽和しているか、あるいは1〜3度の不飽和を有し、表記の数の炭素原子と、O、NおよびSからなる群から選択される1〜3個のヘテロ原子とからなり、窒素原子および硫黄原子は、任意に酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は、任意に四級化されていてもよい。ヘテロ原子O、NおよびSは、ヘテロアルキル基のどの内側位置に配置されてもよい。たとえば、−CH2−NH−OCH3など、最大2つのヘテロ原子が連続していてもよい。
「ヘテロアリール」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、3〜7員環、好ましくは5〜7員環の不飽和ヘテロ単環あるいは、縮合環の少なくとも1つが不飽和である縮合多環をいい、ここで、少なくとも1つの原子は、O、S,およびNからなる群から選択される。また、この用語は、複素環基がアリール基と縮合した縮合多環基も包含し、ここで、ヘテロアリール基は、他のヘテロアリール基と縮合されているか、あるいは、ヘテロアリール基は、シクロアルキル基と縮合されている。ヘテロアリール基の例として、ピロリル、ピロリニル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアゾリル、ピラニル、フリル、チエニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、インドリル、イソインドリル、インドリジニル、ベンズイミダゾリル、キノリル、イソキノリル、キノキサリニル、キナゾリニル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾピラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、クロモニル、クマリニル、ベンゾピラニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾロピリダジニル、テトラヒドロイソキノリニル、チエノピリジニル、フロピリジニル、ピロロピリジニルなどがあげられる。例示的な三環式複素環基としては、カルバゾリル、ベンジドリル、フェナントロリニル、ジベンゾフラニル、アクリジニル、フェナントリジニル、キサンテニルなどがあげられる。
「ヘテロシクロアルキル」という用語ならびに、同義に「ヘテロシクリル」という用語は、本明細書で使用する場合、単独で、または組み合わせで、各々、少なくとも1個、好ましくは1〜4個、一層好ましくは1〜2個のヘテロ原子を環員として含む、飽和、部分不飽和または完全不飽和の単環、二環または三環の複素環基をいい、ここで、前記ヘテロ原子は各々、独立に、窒素、酸素、硫黄からなる群から選択されてもよく、各環に好ましくは3〜8環員、一層好ましくは各環に3〜7環員、最も好ましくは各環に5〜6環員がある。「ヘテロシクロアルキル」および「ヘテロシクリル」とは、第三級窒素環員のスルホン、スルホキシド、N−オキシド、炭素環式縮合環系およびベンゾ縮合環系を含むことを意図しており、また、どちらの用語も、本明細書に定義するような複素環あるいは、追加の複素環基がアリール基に縮合された系を含む。本発明のヘテロシクリル基は、アジリジニル、アゼチジニル、1,3−ベンゾジオキソリル、ジヒドロイソインドリル、イソキノリニル、ジヒドロシンノリニル、ジヒドロベンゾジオキシニル、ジヒドロ[1,3]オキサゾロ[4,5−b]ピリジニル、ベンゾチアゾリル、ジヒドロインドリル、ジヒドロピリジニル、1,3−ジオキサニル、1,4ジオキサニル、1,3−ジオキソラニル、イソインドリニル、モルホリニル、ピペラジニル、ピロリジニル、テトラヒドロピリジニル、ピペリジニル、チオモルホリニルなどで例示される。ヘテロシクリル基は、特に禁止されないかぎり、任意に置換されていてもよい。
本明細書における定義はいずれも、複合構造基を説明するのに他の任意の定義との組み合わせで使用されてもよい。慣習で、このような定義のいずれにおいても後から出てくる要素は、親の部分に結合する要素である。たとえば、複合基のアルキルアミドは、アミド基を介して親の分子に結合したアルキル基を表すであろうし、アルコキシアルキルという用語は、アルキル基を介して親の分子に結合したアルコキシ基を表すであろう。
「任意に置換される〜」という用語は、その後ろの基が、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよいことを意味する。置換されている場合、「任意に置換されて」いる基の置換基は、限定なく、以下のような基、または特に指定された一組の基から独立に選択される1個以上の置換基を、単独または組み合わせで含んでもよい:低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、低級アルカノイル、低級ヘテロアルキル、低級ヘテロシクロアルキル、低級ハロアルキル、低級ハロアルケニル、低級ハロアルキニル、低級ペルハロアルキル、低級ペルハロアルコキシ、低級シクロアルキル、フェニル、アリール、アリールオキシ、低級アルコキシ、低級ハロアルコキシ、オキソ、低級アシルオキシ、カルボニル、カルボキシル、低級アルキルカルボニル、低級カルボキシエステル、低級カルボキシアミド、シアノ、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、アリールアミノ、アミド、ニトロ、チオール、低級アルキルチオ、アリールチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、アリールスルフィニル、アリールスルホニル、アリールチオ、スルホネート、スルホン酸、三置換シリル、N3、SH、SCH3、C(O)CH3、CO2CH3、CO2H、ピリジニル、チオフェン、フラニル、低級カルバメート、低級尿素。2個の置換基は、一緒に結合して、0〜3個のヘテロ原子を含む、縮合した5員、6員または7員の炭素環または複素環を形成してもよく、たとえば、メチレンジオキシまたはエチレンジオキシを形成してもよい。任意に置換される基は、置換されていない(たとえば、−CH2CH3)形態でもよく、完全に置換されている(たとえば、−CF2CF3)形態でもよく、一置換(たとえば、−CH2CH2F)、または完全置換と一置換との間(たとえば、−CH2CF3)の間のあらゆるレベルで置換されている形態であってもよい。置換基が置換について指定なしに記載される場合、置換された形態と置換されていない形態の両方が包含される。置換基が「置換された」と表示される場合、置換された形態が、特に意図される。さらに、特定の部分に対する異なる組の任意の置換基を、必要に応じて定義してもよく、これらの場合、任意の置換は、定義されるようなものとなり、「〜で任意に置換された」という表現のすぐ前にくる。
本発明は、本明細書に記載の化合物を、異性体(たとえば、ジアステレオマーおよびエナンチオマー)、互変異性体、塩、溶媒和物、多形体、プロドラッグなどをはじめとして、それらの薬学的に許容可能ないずれかの形態で含む。特に、化合物が光学活性である場合には、本発明は、具体的には、化合物のエナンチオマーのそれぞれのみならずエナンチオマーのラセミ混合物を含む。これは、エナンチオマーが化合物を表す化学式で示されているか否かとは関係なく同様である。たとえば、キラル中心を含む化合物が、立体化学について何も表記なく示されている場合、それは、当該化合物の可能な全立体異性体を表すものと推定される。「化合物」という用語は、明示的に述べられているか否かを問わず(時折、「塩」は、明示的に記載されているが)、そのようなあらゆる形態を含むことを理解されたい。
「治療する」、「治療して」および「治療」などは、本明細書で使用する場合、アルツハイマー病などの病態または疾患に罹患した対象に利点を与える行為をいう。治療は、神経変性疾患の完全な寛解につながってもよいが、少なくとも1つの症状の低減または抑制による状態の改善、疾患の進行の遅延、アルツハイマー病に罹患していることが分かっている人の追加の症状の発症回避などをはじめとして、完全な寛解よりは少ない作用を含んでもよい。
予防とは、本明細書で使用する場合、たとえば、アルツハイマー病の発症の回避またはアルツハイマー病が発症するはずの疾患の1つ以上の症状の低減をはじめとして、アルツハイマー病などの状態または疾患に罹患する危険にある対象に、利点を与える行為をいう。対象は、高齢であるがゆえ、家族歴の結果として、および/またはさまざまな他の既知のリスク要素から、危険にさらされていてもよい。
「薬学的に許容可能な」とは、本明細書で使用する場合、化合物または組成物が、疾患の重篤度と治療の必要性をふまえた上で、過度に有害な副作用を伴うことなく本明細書に記載の方法のために対象に投与するのに適していることを意味する。
「薬学的有効量」という用語は、各々の作用剤が、一般的に代替療法に関連する有害な副作用を回避しながら、疾患の重症度を低減するという目標を達成するような量を満たしていることを意図している。薬学的有効量は、1回以上の用量で投与してもよい。
本発明者らは、CB2受容体はネガティブフィードバックループで機能し、CB2アゴニストを投与することが、Aβのクリアランスを促進し、Aβに対する神経炎症性の応答を改善させ、Aβによって誘発されるミクログリアおよびアストロサイトの活性化、サイトカインの産生、シナプス可塑性の喪失、ならびに失認を防止し得ることを示している。このため、本発明の一態様は、薬学的有効量のカンナビノイド受容体2(CB2)受容体アゴニストを対象に投与することで、対象における神経変性疾患を治療または予防する方法を提供する。カンナビノイド受容体は、Gタンパク質結合受容体スーパーファミリー下の細胞膜受容体の一クラスであり、サブタイプCB1およびCB2を含む。本明細書で定義するようなCB2受容体アゴニストは、CB2受容体活性に関してEC50またはIC50が、本明細書にて概要を後述するカンナビノイド受容体アッセイで測定すると約100μΜ以下、より一般的には約50μΜ以下であるような化合物である。「EC50」とは、カンナビノイド受容体の活性を最大半量レベルまで活性化するようなモジュレーターの濃度である。「IC50」は、CB2受容体の活性を最大半量レベルまで低減するようなモジュレーターの濃度である。
神経変性疾患は、ニューロンの死をはじめとして、ニューロンの構造または機能が次第に失われていく疾患である。一般に、タンパク質のミスフォールディング、タンパク質の変性経路、ミトコンドリア機能障害、プログラム細胞死を含めて、さまざまなタイプの神経変性疾患と共通して関連する多数の特徴がある。神経変性疾患の例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症があげられる。いくつかの実施形態では、疾患は、神経炎症性疾患である。神経炎症性疾患は、神経組織の炎症を伴い、一般に、ミクログリアおよび/またはアストログリアの活性化ならびに、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの付随する発現を伴う。神経炎症という用語は、当業者によって十分に定義されている。O'Callaghan et al., Ann. N Y Acad Sci., 1139, 318-30 (2008)。
他の実施形態では、疾患は、対象の脳におけるアミロイドβペプチドの濃度の上昇を伴う。「伴う」とは、Aβが疾患の病理において何らかの役割を果たしていることを意味する。上昇した濃度とは、健常者で見られるものよりも高い濃度をいう。免疫染色、ELISA、原子間力顕微鏡を含む、Aβ濃度を決定するための多岐にわたる方法がある。アミロイドβ(Aβ)は、アルツハイマー病との関連でアミロイド斑の構成要素として最も知られているアミロイド前駆体タンパク質(APP)からプロセシングされる36〜43のアミノ酸からなるペプチドである。斑は、アミロイド線維と呼ばれる規則的に並んだ原線維状凝集体が絡み合って構成されている。同様の斑がレビー小体型認知症のいくつかのバリアントならびに封入体筋炎(筋肉疾患)に表れるが、Aβは、脳アミロイド血管症で脳血管を覆う凝集体を形成することも可能である。
いくつかの実施形態では、CB2受容体アゴニストを使用して、アルツハイマー病を治療または予防する。アルツハイマー病(AD)は、記憶および認知機能が次第に失われていくことを特徴とする年齢依存の神経変性障害である。ADの患者の脳には、(Aβ)ペプチドが細胞外凝集し、広範囲にわたって沈着しているという特徴がある。疾患過程は、認知および機能障害の進行パターンで、前認知症、軽度AD、中等度AD、高度ADを含む4段階に分かれている。アルツハイマー病の症状は、混乱、興奮性、攻撃性、気分変動、言語の問題、長期の記憶喪失を含む。ADの診断が疑われる場合、行動と思考能力を評価する試験を併用した脳スキャンによって診断を確認できる。コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)、およびポジトロン放出断層撮影(PET)は、ADを有することが疑われる対象の脳スキャンを実行するのに使用できる画像処理技術の例である。
多岐にわたる有効なCB2受容体アゴニストが開発されている。CB2受容体アゴニストは、非選択的CB2受容体アゴニストおよび選択的CB2受容体アゴニストを含む。非選択的CB2受容体アゴニストの例として、Δ9−テトラヒドロカンナビノール(Δ9−THC)、(6aR)−trans−3−(1,1−ジメチルヘプチル)−6a,7,10,1α−テトラヒドロ−1−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−6H−ジベンゾ[b,d]ピラン−9−メタノール(HU−210),(−)−cis−3−[2−ヒドロキシ−4−(1,1−ジメチルヘプチル)フェニル]−trans−4−(3−ヒドロキシプロピル)シクロヘキサノール(CP55940)、(R)−(+)−[2,3−ジヒドロ−5−メチル−3−(4−モルホリニルメチル)ピロロ−[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−イル]−1−ナフタレニルメタノン(R−(+)−WIN55212)、N−アラキドノイルエタノールアミン(アナンダミド)、2−アラキドノイルグリセロールがあげられる。
選択的CB2受容体アゴニストの例として、3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−カルボン酸−ピペリジンアミド(MDA7)、(2−メチル−1−プロピル−1H−インドール−3−イル)−1−ナフタレニルメタノン(JWH−015)、3−(1,1−ジメチルブチル)−6,6,9−トリメチル−6a,7,10,10α−テトラヒドロ−6H−ベンゾ[c]クロメン(JWH−133)、HU−308、(2−ヨード−5−ニトロフェニル)−[1−(1−メチルピペリジン−2−イルメチル)−1H−インドール−3−イル]−メタノン(AM1241)、GW405833、GW842166X、0−1966があげられる。選択的および非選択的CB2受容体アゴニストの構造と上記以上の情報は、Guindon et al.(Guindon et al., Brit. J. Pharmacol, 153, 319-334 (2008))およびRoger Pertwee(Pertwee, R, Brit. J. Pharmacol, 156, 397-411 (2009))に記載されており、それらの開示内容を本明細書に援用する。また、別のCB2受容体アゴニストが、Whiteside et al.(Whiteside et al., Curr Med Chem, 14(8), 917-36 (2007))(その開示内容を本明細書に援用する)に記載されているように、既知の化学的足場から開発された化合物の高スループットのスクリーニングで同定可能である。
候補のCB2受容体アゴニストを、モデル動物で試験してもよい。たとえば、CB2受容体アゴニストは、本明細書に記載されているようなAβ1-40を投与したラットで試験できる。結果は一般に、候補の作用剤で処理した対照動物ならびに処理をしなかった対照の同腹仔のうちの一匹との間で比較される。トランスジェニックモデル動物も利用可能であり、ヒトの疾患用のモデルとして一般に許容されている(たとえば、Greenberg et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:3439-3443 (1995)を参照のこと)。これらのモデル動物で候補の作用剤を使用して、たとえば、Aβ濃度の上昇、記憶喪失、シナプス可塑性の低下またはこれらの組み合わせをはじめとする、アルツハイマー病に関連する1つ以上の症状が低減されるか否かを判断することができる。たとえば、海馬LTPが学習および記憶と相関するものとして使用され、ADに関連する認知障害に関与する機序を研究するための貴重なモデルとして浮上してきている。
いくつかの実施形態では、CB
2受容体アゴニストは、式Iの化合物
またはその薬学的に許容される塩を含み、式中、R
1は、いずれかの炭素原子が任意に置換されていてもよい、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、R
2は、いずれかの炭素原子が任意に置換されていてもよい、アリール、シクロアルキル、アラルキル、アルケニルからなる群から選択される。別の実施形態では、CB
2受容体アゴニストは、式Iの化合物のS異性体を含む。
構造活性研究を実施して、式IのCB2受容体アゴニストの活性が示されている。Diaz et al., ChemMedChem 4, 1615-1629 (2009)(その開示内容を本明細書に援用する)を参照のこと。いくつかの化合物は、他の化合物より活性が高いことが示された。たとえば、R2の置換基を変えることで、異なる活性を得られる。このため、いくつかの実施形態ではR2がアリール基であるが、別の実施形態では、R2がフェニル基である。また、異なる活性は、R1を変えることによっても得られる。このため、いくつかの実施形態ではR1がヘテロシクロアルキル基であるが、他の実施形態では、R1が1−ピペリジル基である。
好ましい実施形態では、CB
2受容体アゴニストは、式IIの化合物である。
この化合物は、化学名が3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−カルボン酸−ピペリジンアミドであり、本明細書では、MDA7とも呼ぶ。
さらに研究を実施して、MDA7のエナンチオマーの1つが他のエナンチオマーより活性が高いか否かを判断した。どちらのエナンチオマーも活性であるが、Sエナンチオマーのほうが高い活性を示すことがわかった。Luo et al, Tetrahedron Letters, 53(26), 3316 (2012)(その開示内容を本明細書に援用する)を参照のこと。Sエナンチオマー((S)−(3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロ−ベンゾフラン−6−イル)−ピペリジン−1−イル−メタノン)の構造を、以下の式IIIに示す。
もうひとつの態様では、薬学的有効量のCB2受容体アゴニストを対象に投与することで、対象のミクログリアにおけるB2受容体を活性化する方法が提供される。CB2受容体アゴニストは、本明細書に記載の特異的CB2受容体アゴニストおよび非特異的CB2受容体アゴニストを含む。
いくつかの実施形態では、CB
2受容体を活性化する方法では、式IのCB
2受容体アゴニストを使用する。いくつかの実施形態では、CB
2受容体アゴニストは、式Iの化合物
またはその薬学的に許容される塩を含み、式中、R
1は、いずれかの炭素原子が任意に置換されていてもよい、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、R
2は、いずれかの炭素原子が任意に置換されていてもよい、アリール、シクロアルキル、アラルキル、アルケニルからなる群から選択される。
いくつかの実施形態ではR2がアリール基であるが、別の実施形態では、R2はフェニル基である。また、異なる活性は、R1を変えることによっても得られる。別の実施形態ではR1がヘテロシクロアルキル基であるが、他の実施形態では、R1は1−ピペリジル基である。
好ましい実施形態では、CB
2受容体アゴニストは、式IIの化合物である。
この化合物は、化学名が3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−カルボン酸−ピペリジンアミドであり、本明細書では、MDA7とも呼ぶ。いくつかの実施形態では、CB
2受容体アゴニストは、Sエナンチオマー((S)−(3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロ−ベンゾフラン−6−イル)−ピペリジン−1−イル−メタノン)である。
対象のミクログリアにおけるCB2受容体を活性化する方法のいくつかの実施形態では、対象は、脳のアミロイドβペプチドの濃度が上昇している。本発明者らは、対象においてアミロイドβペプチドの濃度上昇が存在することは、アストロサイトおよびミクログリアの活性化ならびに海馬CA1領域のCB2受容体の上方制御を誘導し、CB2受容体アゴニストMDA7での処理によって、このプロセスが逆転することを示した。ミクログリアの活性化は炎症につながるため、ミクログリア活性化を逆転させることによる神経組織での炎症の抑制は、神経炎症を伴う神経変性疾患を治療または予防するのに用いることができる。
また、本発明者らは、MDA7による中枢ミクログリアCB2受容体の活性化が、(i)Aβクリアランスを促進し、(ii)Aβ誘発性のグリア活性化およびIL−1βの産生を改善し、(iii)シナプス可塑性、認知、および記憶を回復させる、ということを示した。このため、いくつかの実施形態では、CB2受容体を活性化する方法は、対象において、シナプス可塑性、認知、または記憶の1つ以上を強めることができる。シナプス可塑性とは、2つのニューロン間の接続、すなわちシナプスの強度が、シナプス伝達経路を介した伝達の使用または不使用のいずれかに応答して、変化し得ることである。記憶は、脳内のシナプスの大いに相互接続されたネットワークによって表されると仮定されるため、シナプス可塑性は、学習と記憶の重要な神経化学的基盤の1つである。シナプス可塑性は一般に、伝達物質放出または相対電位変化など、誘発電気生理学的応答の変化として測定される。対象における認知と記憶の能力を測定する方法ならびに定義は、当業者に周知である。
もうひとつの実施形態では、CB2受容体を活性化すると、ミクログリアによるIL−1βの産生が低下する。IL−1βは、脳内の活性化されたミクログリアおよびアストロサイトで合成されて放出され、アミロイドによって誘発される脳の炎症、損なわれたグルタミン酸作動性伝達、および記憶欠損の発症に積極的に関与している。本発明者らは、活性化したグリア細胞からのインターロイキン1β(IL−1β)の濃度が、Aβ1-40のマイクロインジェクション後の海馬CA1領域で有意に増加し、これらの増加は、14日間のMDA7処理により鈍くなったことを示した。少なくともIL−1βが神経炎症の重要な媒介因子であるという理由から、IL−1βを小さくすることが重要である。
別の実施形態では、CB2受容体を活性化すると、対象においてグルタミン酸作動性の神経伝達が増強する。グルタミン酸作動性の神経伝達は、グルタミン酸に基づく神経伝達であるが、これは、哺乳動物の中枢神経系における主な興奮性神経伝達物質である。Niciu et al., Pharmacol Biochem Behav. 100(4), 656-664 (2012)。グルタミン酸作動性の神経伝達は、NMDA受容体およびAMPA/Kainate受容体など、さまざまなイオンチャネル型受容体および代謝調節型受容体を伴う。本発明者らは、Aβ1-40によって損なわれていたグルタミン酸作動性の伝達をMDA7が効果的に改善することを示した。
本発明の化合物は、予防および/または治療的な処置を与えるために使用できる。本発明の化合物は、たとえば、神経変性障害(たとえば、アルツハイマー病)の発生前に対象に予防的に投与できる。予防的な(すなわち予防)投与は、対象において、神経炎症性疾患または神経変性疾患のその後の発生の尤度を低下させるか、あるいは、以後に起こる神経炎症性疾患または神経変性疾患の重症度を低下させるのに有効である。予防的治療は、神経炎症性疾患または神経変性疾患の家族歴を有する対象など、神経炎症性疾患および/または神経変性疾患を発症する高いリスクがある対象に提供されてもよい。
本発明の化合物はまた、すでに神経炎症性疾患または神経変性疾患に罹患している対象に対して、治療的に投与可能である。治療的投与の一実施形態では、化合物の投与は、神経変性疾患を排除するのに効果的である。別の実施形態では、化合物の投与は、神経炎症性疾患または神経変性疾患の重症度を低下させるか、これに罹患した対象の寿命を延長するのに効果的である。対象とは、好ましくは、家畜(たとえば、ウシ、ウマ、ブタ)またはペット(たとえば、イヌ、ネコ)などの、哺乳動物である。より好ましくは、対象はヒトであり、この場合、対象は患者と呼ばれてもよい。
いくつかの実施形態では、CB2受容体アゴニストは、アルツハイマー病を治療するために有効であることが知られている1種類以上の他の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。予定されていたものとの組み合わせでの投与は、化合物が、同時に対象に投与されることである。組み合わせでの投与は、該当する作用剤が同時に投与されること、あるいは、それらが一緒に処方されることを必要としないが、いくつかの実施形態では、このような場合があってもよい。アルツハイマー病を治療するのに有効であることが知られている追加の作用剤の例として、タクリン、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、およびNMDA受容体アンタゴニストメマンチンがあげられる。追加の抗アルツハイマー病薬との組み合わせでの投与は、後に開発される抗アルツハイマー薬との投与を含むことを意味する。
本発明の化合物の投与と処方
本発明は、活性成分として本明細書に記載の式によって定義された化合物と、その活性成分と組み合わせた、薬学的に許容可能な液体キャリアまたは固体キャリア(単数または複数)とを含むような、製剤組成物も提供する。癌の治療に適したものとして上述した化合物のいずれも、本発明の製剤組成物に含めることが可能である。
化合物は、薬学的に許容可能な塩として投与可能である。薬学的に許容可能な塩とは、その化合物の、比較的非毒性であるような無機酸付加塩および有機酸付加塩をいう。これらの塩は、本発明の化合物の最終単離および精製時に、あるいは別途、本発明の精製された化合物の性質に応じて当該化合物を好適な対イオンと反応させ、このように形成された塩を単離することによって、in situにて調製可能である。代表的な対イオンとしては、塩化物、臭化物、硝酸塩、アンモニウム、硫酸塩、トシル酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、エチレンジアミン、およびマレイン酸塩などがあげられる。たとえば、Haynes et al., J. Pharm. Sci., 94, p. 2111-2120 (2005)を参照のこと。
製剤組成物は、当業者に知られたさまざまな希釈剤または賦形剤を含む、患者への送達用のさまざまな生理的に許容可能なキャリアのうちの1種類以上と一緒に、本発明の1種類以上の化合物を含む。たとえば、非経口投与には、等張生理食塩水が好ましい。局所投与には、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのキャリアを含むクリーム、あるいは、化合物の活性をブロックまたは阻害しない、一般に局所用のクリームに見られる他の作用剤を用いることができる。他の好適なキャリアとしては、アルコール、リン酸緩衝生理食塩水および他の平衡塩類溶液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
製剤は、適宜、単位剤形として提供されてもよく、薬学の技術分野で周知の任意の方法で調製されてもよい。好ましくは、このような方法は、活性剤を、1種類以上の補助成分を構成するキャリアと会合させる工程を含む。一般に製剤は、活性剤を、液体キャリア、微粉砕された固体キャリア、またはその両方と均一かつ密に会合させ、その後、必要に応じて生成物を所望の製剤に成形することによって調製される。本発明の方法は、所望の効果を生じるのに有効な量の本発明の組成物を、対象、好ましくは哺乳動物、一層好ましくはヒトに投与することを含む。処方された化合物は、単回投与または複数回投与で投与可能である。活性剤の有用な投与量は、そのin vitro活性とモデル動物におけるin vivo活性とを比較して決定できる。マウスなどの動物における有効用量をヒトに外挿するための方法は、当技術分野で知られている。たとえば、米国特許第4,938,949号を参照のこと。
非経口投与用の製剤としては、活性化合物の、水性および非水性(油性)滅菌注射用溶液(酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、その製剤を想定されるレシピエントの血液と等張となるようにする溶質、を含有してもよい)、ならびに、水性および非水性の滅菌懸濁液(懸濁剤や増粘剤を含んでもよい)があげられる。好適な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油あるいは、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステルあるいは、リポソームがあげられる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなど、懸濁液の粘度を高める物質を含有してもよい。任意に、懸濁液は、高濃縮溶液の調製を可能にするために化合物の溶解度を増大させるような、好適な安定化剤または作用剤を含有してもよい。
非経口経路での投与に適した製剤の一例は、1.00gのMDA7と、30.00gのN−メチルピロリドンと、30.00gのプロピレングリコールと、10.00gのCREMOPHOR(登録商標) ELPと、10.00gのEtOH(95%)と、19.00gの生理食塩水溶液とを含む。別の例の製剤は、Astruc-Diaz, F., McDaniel, S.W., Xu, J.J., Parola, S., Brown, D.L., Naguib, M., Diaz, P. 2013. In vivo efficacy of enabling formulations based on hydroxypropyl-β-cyclodextrins, micellar preparation, and liposomes for the lipophilic cannabinoid CB 2agonist, MDA7. J Pharm Sci 102, 352-364に記載されているように、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)ベースである。
本発明の作用剤は、好ましくは、製剤組成物に処方された後、本発明の方法に従って、選択された投与経路に適したさまざまな形態で、ヒト患者などの対象に投与される。製剤としては、経口、直腸、膣、局所、鼻、眼または非経口(皮下、筋肉内、腹腔内、腫瘍内、静脈内を含む)投与に適したものがあげられるが、これらに限定されるものではない。好ましい投与形態は非経口投与である。
経口投与に適した本発明の製剤は、各々が予め定められた量の活性物質を粉末または顆粒として含む、錠剤、トローチ、カプセル、ロゼンジ、ウェハ、またはカシェ剤などの個別の単位として提供されてもよいし、活性化合物を含有するリポソームあるいは、シロップ、エリキシル、エマルジョン、またはドラフトなどの、水性液体または非水性液体の溶液または懸濁液として提供されてもよい。このような組成物および調製物は一般に、活性物質n少なくとも約の0.1重量%含まれている。CB2受容体アゴニスト(すなわち、活性剤)の量は、投与量レベルが対象において所望の結果を生むのに効果的な量である。
点鼻スプレー製剤は、保存剤および等張剤とともに活性剤の精製された水溶液を含む。このような製剤は、好ましくは、鼻粘膜に適合するpHおよび等張状態に調節される。直腸または膣投与のための製剤は、ココアバターなどの好適なキャリアとともに坐剤として提供されてもよいし、硬化油脂または硬化脂肪カルボン酸として提供されてもよい。眼科用製剤は、pHおよび等張因子が、好ましくは、眼のそれと一致するよう調節されることを除いて、点鼻スプレーと同様の方法により調製される。局所製剤は、鉱油、石油、ポリヒドロキシアルコールあるいは、局所用医薬製剤に用いられる他のベースなどの1種類以上の媒体に溶解または懸濁された活性剤を含む。
局所用医薬製剤を投与するための好ましい方法は、経皮パッチである。経皮パッチは、薬剤の分解を最小限に抑えて効率的な形で吸収用に薬剤を提示することによって、制御された速度で薬剤を分注する。一般に、経皮パッチは、不浸透性の裏打ち層、単一の感圧接着剤および剥離ライナーを有する取り外し可能な保護層を含む。当業者の需要に基づいて所望の有効な経皮パッチを製造するための適切な技術を、当業者であれば理解し、認識するであろう。
錠剤、トローチ、丸剤、カプセルなどはまた、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなどのバインダー、リン酸二カルシウムなどの賦形剤、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、例えば、スクロース、フルクトース、ラクトースまたはアスパルテームなどの甘味剤、天然または人工の香味剤、のうちの1種類以上も含んでもよい。単位剤形がカプセルである場合、さらに、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体キャリアを含有してもよい。さまざまな他の材料がコーティングとして存在してもよく、そうでなければ、固体単位剤形の物理的形態を変更するために存在してもよい。たとえば、錠剤、丸剤またはカプセルは、ゼラチン、ワックス、セラック、糖などでコーティングされてもよい。シロップ剤またはエリキシル剤は、甘味剤、メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどの防腐剤、糖の結晶化を遅延させる作用物質、多価アルコール(たとえばグリセロールまたはソルビトール)など任意の他の成分の溶解度を高める作用剤、色素、香味剤の1種類以上を含有してもよい。任意の単位剤形を調製する際に用いられる材料は、使用される量において実質的に無毒である。活性剤は、徐放性調製物およびデバイスに組み込まれてもよい。
化合物の調製
本発明の化合物は、化学分野で周知のものと同様のプロセスを含む合成経路によって合成されてもよい。開始材料は、Aldrich Chemicals(Milwaukee, Wisconsin, USA)などの商業的供給元から一般に入手可能であるか、当業者に周知の方法を用いて容易に調製される(たとえば、Louis F. Fieser and Mary Fieser, Reagents for Organic Synthesis, v. 1-19, Wiley, New York, (1967-1999 ed.);Alan R. Katritsky, Otto Meth-Cohn, Charles W. Rees, Comprehensive Organic Functional Group Transformations, v 1-6, Pergamon Press, Oxford, England, (1995);Barry M. Trost and Ian Fleming, Comprehensive Organic Synthesis, v. 1-8, Pergamon Press, Oxford, England, (1991);またはBeilsteins Handbuch der organischen Chemie, 4, Aufl. Ed. Springer-Verlag, Berlin, Germanyに概要が説明されている方法を用いて調製され、サプリメントを含む(また、Beilsteinオンラインデータベースを経由して入手可能))。特に、さまざまなCB2受容体アゴニストを調製するための方法は、米国特許出願第12/668,840号および同第12/668,867号(その開示内容を本明細書に援用する)に記載されている。
本発明を以下の実施例により説明する。特定の実施例、材料、量、手順は、本明細書に記載される本発明の範囲および意図に沿って広く解釈されるべきであることを理解されたい。
<実施例1:3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−カルボン酸−ピペリジンアミド(MDA7)の調製>
A)4−ヒドロキシ−3−ヨード−安息香酸:4−ヒドロキシ安息香酸(0.037mol、5.1g)をメタノール100mLに溶解した。一当量のヨウ化ナトリウム(0.037mol、5.54g)および水酸化ナトリウム(0.037mol、1.48g)を各々添加し、溶液を0℃まで冷却した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液(64ml、4.0%NaOCl)を、0〜3℃で75分間かけて、滴下して加えた。それぞれの滴が溶液に接した瞬間、赤い色が出現し、ほぼ瞬時に色あせた。得られた無色のスラリーを0〜2℃で1時間撹拌した後、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液40mLで処理した。混合物を4MのHCl水溶液で酸性化した。生成物を結晶化して濾別し、1.1gを得た。酢酸エチル(250mL)を加え、層を分離した。有機層をブライン(240mL)および水で洗浄した後、MgSO4上で脱水した。溶媒を蒸発させた後、4.3gの白色粉末を得た。水相をpH1に酸性化した。酢酸エチル(250mL)を添加し、層を分離した。有機層をブライン(240mL)および水で洗浄した後、MgSO4上で脱水した。溶媒を蒸発させた後、8.22gの白色粉末を得た。
B)メチル4−ヒドロキシ−3−ヨードベンゾエート:3−ヨード−4−ヒドロキシ安息香酸(7.25g、27.4mmol)および硫酸(1.9ml、36mmol)をメタノールに入れた溶液を、55℃で6時間攪拌する。TLC(ジクロロメタン):開始材料30%。溶液を室温で12時間撹拌する。TLC(ジクロロメタン):開始材料10%、2時間55℃で撹拌した。冷却後、酢酸エチル(200mL)を加え、この混合物を重炭酸ナトリウムでpH3に調整した。有機層を水で2回洗浄した後、MgSO4上で脱水した。濾過し、40℃でロータリーエバポレーションを行って、白色固体を得た。固体をヘキサンで粉砕し、濾別し、減圧下で乾燥させた。M=4.47g。収率:59%。
C)4−ヨード−3−(2−メチル−アリルオキシ)−安息香酸メチルエステル:メチル3−ヒドロキシ−4−ヨードベンゾエート(1.5g、5.4mmol)を無水メチルエチルケトン(60mL)に入れた溶液を、微粉末炭酸カリウム(1.49g、10.78mmol)を加えた後、3−ブロモ−2−メチルプロペン(0.81mL、1.1g、8.15mmol)を加えた。この反応混合物を70℃で4時間加熱した。混合物を希釈し、濾過し、水で洗浄し、MgSO4上で脱水した。溶媒と残りのブロモプロペンを真空中で蒸発させ、黄色の油として必要なアルキル化エステルを得た。M:1.4g、収率:78%。
NMR (CDCl3, 1H): 1.90 (3H, d, J=1.2 Hz), 194 (3H, s), 4.56 (2H, s), 5.06 (1H, d, J=1.2 Hz), 5.25 (1H, d, J=1.2 Hz), 7.38 (1H, dd, J=8.1 Hz, J=1.8 Hz), 7.44 (1H, d, J=1.8 Hz), 7.88 (1H, d, J=1.8 Hz)。
D)3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロ−ベンゾフラン−6−カルボン酸メチルエステル:4−ヨード−3−(2−メチル−アリルオキシ)−安息香酸メチルエステル(455mg、1.37mmol)をDMF(15mL)に入れた溶液に、炭酸カリウム(379mg、2.74mmol)、テトラブチルアンモニウムクロリド(380mg、1.37mmol)、酢酸パラジウム(25.6mg、0.136mmol)をDMF(5mL)およびフェニルボロン酸(200mg、1.64mmol)に入れたものを加えた。得られた混合物を115℃で3時間撹拌し、室温まで冷却し、シリカ上で濾過し、水で洗浄し、MgSO4上で脱水して濃縮した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘプタン/CH2Cl2:4/6)によって、表題化合物368mg(95%)をわずかに褐色の油として得た。これは結晶化した。融点:52℃。
NMR (CDCl3, 1H): 1.38 (3H, s), 2.86 (1H, d, J=14 Hz), 2.93 (1H, d, J=14 Hz), 3.89 (3H, s), 4.12 (1H, d, J=8.7 Hz), 4.55 (1H, d, J=8.7 Hz), 6.93-6.98 (3H, m), 7.22-7.24 (3H, m), 7.38 (1H, d, J=1.2 Hz), 7.59 (1H, dd, J1=7.5 Hz, J2=1.2 Hz)。
E)3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロ−ベンゾフラン−6−カルボン酸:3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロ−ベンゾフラン−6−カルボン酸メチルエステル(300mg、1.06mmol)、水酸化ナトリウム(260mg、6.5mmol)を、エタノール(10ml)、水をテトラヒドロフラン(1ml)(10ml)に加えた混合物を、室温で12時間撹拌する。反応媒体に1.2Mの塩酸溶液を加えてこれを酸性化し、酢酸エチルで抽出する。有機相を水で洗浄し、脱水(Na2SO4)で洗浄し、ロータリーエバポレーターで濃縮する。生成物を白色の固体(300mg、100%)として得る。融点:165℃。
NMR (CDCl3, 1H): 1.39 (3H, s), 2.87 (1H, d, J=14 Hz), 2.93 (1H, d, J=14 Hz), 4.14 (1H, d, J=8.7 Hz), 4.57 (1H, d, J=8.7 Hz), 6.96-7.00 (3H, m), 7.22-7.25 (3H, m), 7.45 (1H, d, J=1.2 Hz), 7.65 (1H, dd, J1=7.8 Hz, J2=1.2 Hz)。
F)3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−カルボン酸−ピペリジンアミド:3−ベンジル−3−メチル−2,3−ジヒドロ−ベンゾフラン−6−カルボン酸(80mg、0.3mmol)およびピペリジン(28mg、33μl、0.33mmol)をジクロロメタン(3mL)およびDMF(2mL)に入れた攪拌懸濁液に、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)(125mg、0.33mmol)を加え、続いてN,N−ジイソプロピルエチルアミン(58mg、78μl、0.45mmol、mL)をDMF(1mL)に入れたものを加えた。反応混合物を周囲温度で18時間撹拌した。反応媒体を、1.2Mの塩酸溶液を添加することにより酸性化し、酢酸エチルで抽出する。有機相を水で洗浄し、脱水(MgSO4)で洗浄し、濃縮してアミドを得る。これをフラッシュクロマトグラフィー(AcOEt/ヘプタン:4/6)で精製し、50mgの白色固体を得る(収率:50%)。
NMR (CDC1 3, 1H): 1.36 (3H, s), 1.54-1.67 (6H, m), 2.85 (1H, d, J=13.2 Hz), 2.90 (1H, d, J=13.2 Hz), 3.35 (2H, m), 3.68 (2H, m), 4.09 (1H, d, J=8.7 Hz), 4.53 (1H, d, J=8.7 Hz), 6.75 (1H, m), 6.88 (1H, dd, 31=7.5 Hz, J2=1.2 Hz), 6.94 (1H, d, J=7.5 Hz), 7.00 (2H, m), 7.21-7.24 (3H, m)。
<実施例II:CB2受容体系の活性化がアミロイド誘発記憶欠損を反転させる>
この研究では、発明者らは、Aβ誘発性神経毒性を生じるために極めて重要である神経炎症のプロセスを鈍らせることで、MDA7が神経保護作用を発揮することを示している。彼らは、MDA7が、(1)Aβクリアランスを促進し、(2)Aβを注射したラットの海馬に典型的に見られるアストロサイトにおけるグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)およびミクログリアにおけるCD11b濃度の上昇(神経炎症性プロセスの活性化を示す)を防止し、(3)インターロイキン(IL)−1βの産生を低下させ、(4)Aβを注射したラットの海馬におけるグルタミン酸作動性伝達のAβによる抑制を改善し、(5)Aβを注射したラットでモリス水迷路試験を用いて空間記憶パフォーマンスでの失認を予防することを見いだした。このCB2アゴニストは、Aβ−誘発神経炎症とその下流での結果すなわちシナプス可塑性および失認を防止したため、CB2受容体がネガティブフィードバックループで機能し、その活性化がAβクリアランスを誘発して、Aβ原線維によって誘発される神経炎症応答および失認を鈍らせられるのではないかという仮説を立てた。
[材料および方法]
動物および処理プロトコール。 動物での手技はすべて、クリーブランドクリニックの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of Cleveland Clinic)によって承認された。動物は、水と食物ペレットを自由に摂取できるようにして、12/12時間の明/暗サイクルで、生物齧歯類ユニット(Institutional Biological Rodent Unit)で飼育した。体重200〜250gの成体のオスのスプラーグドーリー(Charles River, Wilmington, MA)ラットを使用し、すべての実験を明サイクルで実施した。
動物を複数の群(1群あたりラット40〜50匹)にわけた。Aβ1-40群には、Aβ1-40原線維を1回、脳内に両側マイクロインジェクションし、14日間にわたって毎日、生理食塩水を腹腔内(i.p.)投与した。Aβ1-40+MDA7群には、Aβ1-40原線維を1回、脳内に両側マイクロインジェクションし、14日間にわたって毎日、15mg/kgのMDA7をi.p.投与した。他のコホートには、14日間にわたって毎日、上記より少ない用量のMDA7(5mg/kgまたは1.5mg/kg)をi.p.投与して、MDA7の用量応答特性を決定した。他の群では、14日間にわたって毎日、β1-40原線維を注射したラットに、AM630(CB2アンタゴニスト)5mg/kgを単独(Aβ1-40+AM630群)またはMDA7(15mg/kg i.p.)投与(Aβ1-40+MDA7+AM630群)の15分前のいずれかで、i.p.投与した。MDA7群と対照群は、脳内に人工脳脊髄液(130mM NaCl、2.6mM KCl、4.3mM MgCl2および1.8mM CaCl2)を1回両側マイクロインジェクションし、14日間にわたって毎日、15mg/kgのMDA7または生理食塩水をi.p.投与した。AM630、MDA7または生理食塩水の腹腔内投与は、Aβ1-40の脳内へのマイクロインジェクション後に、同日に開始した。薬剤はいずれもコード化して準備した。すべての実験の最後に、デコードを実施した。
海馬CA1領域へのアミロイド原線維のマイクロインジェクション。 ラットをペントバルビタールナトリウム(45mg/kg i.p.)で麻酔し、定位固定装置に拘束した。すでに説明されているように、Aβ1-40原線維が形成された。Chacon, et al., Mol Psychiatry 9(10), 953-61 (2004)。27Gのステンレス鋼の針を有する10μlのハミルトン注射器を使用し、0.5μl/分の速度で、Aβ1-40原線維(10μg/3μl)または人工脳脊髄液3μlを各海馬に定位的に両側注入した(ブレグマは、体軸方向に−3.5mm、内外方向±2.0mm、背腹方向で−3.0mm)。この実験モデルは、ADを研究するために使用されている。Ahmed, et al., Neuroscience 169(3), 1296-306 (2010)。
モリス水迷路試験。 Chacon et al.(同上)によって記載されているようにして、ラットのコホート(1群あたりn=10)を、手術の15日後に試験した。試験は、すべての群で1日の同じ時間に実施した。実験装置は、円形のプール(直径120cm、高さ45cm)で構成されていた。目に見えないプラットフォーム(直径15cm、高さ35cm)を水面の1.5cm下に配置した。水温は24〜28℃に保った。プールは、試験室内に配置し、迷路外にある多くの目印はプールから目視確認可能で、ラットはこれを空間定位に用いることができた。目印の位置については、課題の最初から最後まで一定に保った。5日間、各ラットで1日4回ずつの試行を行った。各々の試行(記憶獲得)のあいだ、4箇所の決まった投入点のうちのいずれかに無作為にラットをおき、120秒間またはプラットフォームに達して水から出るまで遊泳できるようにしておいた。プラットフォームは、テストの最初から最後まで同じ1象限目の中央位置に配置しておいた。試行のたびに投入位置を異なる象限に変えたため、連続した試行でも投入位置が1つに固定されることはなかった。各訓練セッションで、隠れたプラットフォームに到達するまでの逃避潜時を記録した。ラットがプラットフォームに到達後、その上に20秒間静置し、そのあとプールから出した。試行から次の試行までの間隔を少なくとも4分間として、各ラットのパフォーマンスが疲労によって損なわれないようにした。4回の試行を完了後、ラットをプールから出し、乾かして、ホームケージに戻した。6日目に、プラットフォームを取り除いてすべてのラットにプローブ試行(記憶想起)を行い、各ラットにはプールでプラットフォームを探すために60秒の時間を与えた。すべての行動試験は、処理群の違いを知らない一人の実験者により行われた。行動試験後、ラットを屠殺し、以後の研究用に海馬組織を収集した。
海馬のスライス標本。 海馬を含む脳のスライス切片を調製した。電気生理学的記録に用いる脳のスライス切片は、モリス水迷路試験を受けたすべてのラット(n=10〜12匹/群)から得た。すべてのラットにペントバルビタールで麻酔をした後、断頭により安楽死させた。すみやかに脳を取り出し、冷たい(4℃)生理食塩水中にてVibratome(Leica VT-1000S)で切断して、海馬を含む冠状スライス切片(厚さ300μm)を得た。単一のスライスを浅い記録チャンバーに浸漬し、温かい(35℃)生理食塩水(126mMのNaCl、2.5mMのKCl、1.2mMのNaH2PO4、1.2mMのMgCl2、2.4mMのCaCl2、11mMのグルコース、25mMのNaHCO3、95%O2および5%CO2で飽和、pH7.3〜7.4)で灌流した。記録実験の最初から最後まで、スライス切片を約35℃に維持した。
海馬スライス切片におけるホールセルパッチクランプ記録。 海馬スライス切片を1時間で回収後、赤外線照明を有する正立顕微鏡を用いて可視化した。K−グルコネートまたはセシウムメタンスルホネート、125;NaCl、5;MgCl2、1;EGTA、0.5;Mg−ATP、2;Na3GTP、0.1;HEPES、10;pH7.3;290〜300オスモルの内液(mM)の入った2〜4ΜΩのガラス電極とともにAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices)を使用し、CA1領域からのホールセル電圧クランプを記録した。≧2GΩのシール抵抗および15〜20ΜΩのアクセス抵抗が許容されると考えられた。直列抵抗を最適な形で≧70%まで補償し、実験を通してコンスタントにモニタリングした。特に明記しない限り、実験を通して、膜電位を−70mVに維持した。シャッファー側枝−交連線維を超薄型の同心双極電極(FHC Inc., Bowdoinham, ME)で刺激し、別段の指定がない限り、約35%の最大刺激を惹起するよう刺激強度を調節した。GABAAアンタゴニストのビククリン(30μΜ)の存在下、CA1領域における興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録した。惹起したEPSCを2kHzでフィルタリングし、10kHzでデジタル化し、Axograph Xソフトウェアを用いて取得および分析した。少なくとも15分間のベースライン期間、EPSCの振幅をモニタリングした。シナプス伝達が安定して(15分にわたってEPSC振幅の変化が<15%)いれば、長期増強(LTP)は、単一の高周波電気刺激トレイン(1秒間に100Hz)で誘発された。すべての電気生理学的実験は、室温(23±2℃)にて実施した。
免疫染色。 海馬スライス切片の免疫染色を行った。Bie et al., J Neurosci 30(16), 5617-28 (2010)。ラットのコホート(n=10〜12/群)を60mg/kgのペントバルビタールナトリウムで深く麻酔し、0.1mのPBSに続いて4%ホルマリンで、経心的に灌流した。脳幹を収集し、同じ固定液中で4時間後固定し、その後、3日間、PBS中30%スクロースで凍結保護した。海馬CA1領域を含む連続切片(30μm、15〜20/匹)を固定した脳から切り出した。切片を、0.3%Triton X-100+5%正常ロバ血清を含む0.01mPBS中、少なくとも1時間インキュベートした。0.3%Triton X-100+1%ウシ血清を含む0.01mのPBSで、一次抗体および二次抗体を希釈した。CB2に対するウサギ抗体(1:500、Thermo Scientific, Rockford, IL)、ミクログリアマーカーCD11bに対するマウスモノクローナル抗体(1:200、Abeam, Cambridge, MA)、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)抗体(1:400;Abeam, Cambridge, MA)を用いる二重標識免疫蛍光用に、切片を4℃で一晩処理した。他の切片は、Aβ1-40(11A50−B10)モノクローナル抗体(1μg/ml PBS、Covance San Diego CA)を用いる免疫蛍光用に4℃で一晩処理した。次に、切片を、FITC結合二次交代(1:500、Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)またはCy3結合二次抗体(1:500、Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)とともに1時間インキュベートした。一次抗体または二次抗体を省くと、免役染色がなされなかった。それぞれのラットから3〜6個の切片を無作為に選択し、検査対象の組織の起源を知らされていない研究者がLeica DMLB蛍光顕微鏡(Leica Microsystems Wetzlar GmbH, Germany)を用いて分析した。MCID Coreソフトウェアのバージョン7.0(InterFocus Imaging Ltd, Cambridge, England)を使用して、画像を定量化した。
タンパク質抽出とイムノブロット。 すべての群(n=10〜12匹/群)のラットから得た海馬CA1組織を、50mMのTris-Cl、150mMのNaCl、0.02mMのNaN2、100μg/mlのフェニルメチルスルホニルフルオリド、1μg/mlのアプロチニン、1%のTriton X-100、プロテイナーゼ阻害剤カクテルを含有する氷***解バッファーにて穏やかにホモジナイズした。ライゼートを14,000rpmで10分間、4℃で遠心し、上清をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に使用した。Bio-Rad(Hercules, CA)タンパク質アッセイキットを用いてタンパク質濃度を求めた。
95℃で5分間、SDSサンプルバッファーで試料を処理し、7.5%SDS−ポリアクリルアミドゲルにロードし、ニトロセルロース膜にブロットした。このブロットを、ウサギポリクローナル抗−CB2一次抗体(1:100;Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)、モノクローナル抗−CD11b抗体(1:1000;Abeam, Cambridge, MA)、モノクローナル抗−GFAP抗体(1:1000;Abeam, Cambridge, MA)、ヤギポリクローナル抗−IL−1β抗体(1:300;Abeam, Cambridge, MA)、またはモノクローナル抗−β−アクチン抗体(1:250;Santa Cruz Biotechnology, Inc.)とともに、4℃で一晩インキュベートした。Tris緩衝生理食塩水で膜をしっかり洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗−マウスおよび抗−ウサギIgG抗体、または抗−ヤギIgG抗体(1:10,000;Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc., West Grove, PA)とともにインキュベートした。エンハンスドケミルミネッセンス(ECL Advance Kit; Amersham Biosciences)を用いて免疫活性を検出した。バンドの強度をデジタル的に捕捉し、ImageJソフトウェアを用いて定量的に分析した。CB2、CD11b、およびGFAPの免疫活性をβ−アクチンの免疫活性に正規化した。
化合物。 ヒト野生型配列の残基1〜40からなるAβペプチド(Aβ1-40)をBachem(Torrance, CA, USA)から購入した。AP−5(D−2−アミノ−5−ホスホノペンタノエート)、CNQX(6−シアノ−2,3−ジヒドロキシ−7−ニトロキノキサリン)、ビククリン、他の化学物質(NaCl、KCl、NaH2PO4、MgCl2、CaCl2、グルコース、NaHCO3、EGTA、Mg−ATP、Na3GTP、HEPESおよびTriton-X 100)は、Sigma Aldrich(St. Louis, MO)またはTocris(Ellisville, MO)から購入した。AM630(6−ヨード−2−メチル−1−[2−(4−モルホリニル)エチル]−1H−インドール−3−イル](4−メトキシフェニル)メタノン)は、Tocris(Ellisville, MO)から購入した。MDA7(hCB1 Ki値>10,1000nM;hCB2Ki値=422nM;rCB1 Ki値=2565nM;rCB2 Ki値=238nM;hCB1に対するEC50=活性なし、hCB2に対するEC50=128nM;rCB1に対するEC50=活性なし;rCB2に対するEC50=67nM)については、すでに説明されているようにして合成した。Diaz, et al., ChemMedChem 4(10), 1615-29 (2009)。
データ分析および統計。 反復測定ANOVAに続いて事後比較のStudent-Newman-Keuls多重範囲検定を用いて、行動データを分析した。また、群の平均を得るために、一元配置ANOVAに続いて事後比較のStudent-Newman-Keuls多重範囲検定を実施して、免疫染色およびイムノブロットのデータを分析した。反復測定ANOVAに続いて事後比較のStudent-Newman-Keuls多重範囲検定を実施して、惹起したEPSCおよびLTPのデータを分析した。すべての分析は、BMDP統計パッケージ(Statistical Solutions, Saugus, MA)を用いて行った。結果を平均およびSEMで表し、P<0.05のときに有意とみなした。
[結果]
CB2の活性化が行動試験に対しておよぼす影響。 第1に、3通りの異なる用量のMDA7(1.5mg/kg、5mg/kg、または15mg/kg)を毎日i.p.投与(14日間)することによる、Aβ1-40によって誘発される失認に対する影響を決定した。反復測定ANOVAでは、モリス水迷路試験におけるMDA7の有意な用量依存的記憶増強作用が確認された(全体F(4,45)=6.86、n=50、P=0.0002)。3日目(P<0.05)、4日目(P<0.05)、5日目(P<0.05)に、Aβ1-40原線維を注射して15mg/kgのMDA7のi.p.で14日間処理した動物は、モリス水迷路試験での逃避潜時が、Aβ1-40原線維を注射して生理食塩水のi.p.で14日間処理した動物より有意に短かった(図1A)。プローブ試行時にも、Aβ1-40原線維を注射してMDA7を15mg/kgのi.p.で14日間処理したラットは、Aβ1-40を注射して生理食塩水のi.p.で14日間処理したラットより、標的象限(TQ、すなわちプラットフォームのある象限)に長く滞在した(P<0.05)(図1B)という点で、同様の観察結果が認められた。1.5mg/kgのMDA7を14日間i.p.投与することによる作用は、Aβ1-40原線維投与後に有意な記憶増強にはつながっていないが、用量5mg/kgのMDA7による作用は、3日目および5日目だけに限られていた(図1A)点に注意されたい。これらのデータをもとに、15mg/kgの用量のMDA7を以後の研究用に選択した。
図1Cに示すデータに対する反復測定ANOVAでは、6つの群(全体F(5,54)=8.10、n=60、P<0.0001)の間に有意な差異が確認された。3日目(P<0.01)、4日目(P<0.01)、5日目(P<0.01)に、Aβ1-40群のラットは、Aβ1-40+MDA7群のラットまたは対照群のラットより、モリス水迷路試験での逃避潜時が有意に長くなった(図1C)。プローブ試行時(図1D)、Aβ1-40+MDA7群のラットは、Aβ1-40群のラットより標的象限に有意に長時間滞在した(P<0.01)。これは、Aβ1-40によって誘発される空間記憶パフォーマンスの失認を、MDA7処理によって予防できたことを示している。
MDA7のCB2特異的な作用を確認するために、5mg/kgのAM630すなわちCB2アンタゴニストを、14日間、単独で、またはMDA7(15mg/kg i.p.)投与の15分前に、毎日、Aβ1-40原線維を注射した群のラットにi.p.投与した。図1Cに示すように、MDA7処理の前にAM630を投与すると、逃避潜時に対するMDA7の作用が反転した。プローブ試験でもAM630に同様の作用が認められた(図1D)。一方で、AM630を単独でi.p.投与したラット(Aβ1-40+AM630群)は、Aβ1-40群の場合と比較して空間記憶またはプローブ試験に何ら改善を示さなかった(図1Cおよび図1D)。本研究で認められた異なる行動パフォーマンスは、運動障害の存在に起因するものではなかった。なぜなら、すべての群のラットが同様の遊泳速度を示したからである(データ図示せず)。これらの結果は、MDA7が認知および記憶の回復に対しておよぼす作用は、CB2受容体系によって特異的に媒介されることを示していた。
MDA7は、海馬CA1領域でのAβ1-40によって誘発されるグリアの活性化を効果的に改善する。マイクロインジェクションの精度を、組織学的に事後確認した。図2Aは、注射部位の正確さを表している、海馬CA1領域の墨汁でマークしたマイクロインジェクション部位を示す。
過去の研究で、ADとグリア細胞の活性化との関連が見いだされている。Akiyama et al., Neurobiol Aging 21(3), 383-421 (2000)、Perry et al., Nat Rev Neurol 6(4) (2010)。このため、Aβ1-40によって誘発されるミクログリア活性化に対するMDA7の予防作用がグリアの活性化の調節によるものである可能性を考慮した。CD11bおよびGFAPなどの特異的マーカーの発現の増加が、ミクログリア(Eng, J Neuroimmunol 8(4-6), 203-14 (1985))およびアストロサイトの活性化と関連していた。
さまざまな処理群のラットの海馬CA1領域におけるCD11b(図2)およびGFAP(図3)で免疫蛍光染色およびイムノブロット強度のレベルを比較して、Aβ1-40によって誘発されるミクログリアおよびアストロサイトの活性化に対する、15mg/kgのMDA7を14日間、毎日i.p.投与することの影響について検討した。グリアの活性化は、これらの細胞の数と複雑さが増し(丸まった細胞体および太くなった細胞突起)、その結果、標識された細胞と、標識された細胞のトータルの統合された強度の両方が増加する(図2Bおよび図3A)ことを特徴とする。Aβ1-40のマイクロインジェクションと14日間の生理食塩水のi.p.処理後に海馬のCA1領域をラットで調べると、CD11bおよびGFAPの免疫活性が増加していた。対照群と比較して、それぞれミクログリアで細胞塊が拡大し、細胞の複雑さが増した(図2Bおよび図2C、F(3,76)=243.2、n=80切片(5匹/群から1匹あたり3〜5切片)、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01)およびアストロサイト(図3Aおよび図3B、F(3,76)=225.3、n=80切片(5匹/群から1匹あたり3〜5切片)、P<0.01)。
CD11bのタンパク質の発現(図3Dおよび図3E、n=6匹/群、F(1,10)=19.9、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01)およびGFAP(図3Cおよび図3D、n=5匹/群、F(1,8)=32.7、P<0.01)は、対照群のラットより、Aβ1-40を注射して生理食塩水のi.p.で14日間処理したラットで有意に高かった。これらの結果から、Aβ1-40によって誘発される脳の炎症は、海馬CA1領域におけるミクログリアおよびアストロサイトの活性化によって特徴付けられることが確認された。CD11bおよびGFAPの発現の変化は、Aβ1-40を注射して生理食塩水のi.p.で14日間処理したラットと比較して、MDA7のi.p.で14日間処理したAβ注射ラットで有意に減弱した(図2Dおよび図2E、n=6〜7匹/群、F(1,11)=16.1、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01)(図3Cおよび図3D、n=5匹/群、F(1,8)=46.2、P<0.01)。MDA7で処理するだけでは、対照ラットと比較して、CD11BまたはGFAPの発現に対する有意な効果はなかった。
海馬CA1領域において、MDA7は、Aβ1-40誘発CB2受容体の上方制御を媒介した。本発明者らによる過去の研究で、MDA7は、強力かつ選択的なCB2アゴニストとして確立された。Naguib, et al., Br J Pharmacol 155(7), 1104-16 (2008)。本明細書では、Aβ1-40原線維が海馬CA1領域におけるCB2受容体の発現に対しておよぼす作用を調べた。Aβ1-40投与によってCB2受容体の発現が増し(図4Aおよび図4B、F(3,76)=48.45、n=80切片(5匹/群から1匹あたり3〜5切片)、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01vs.対照群)、この発現は、反応性のミクログリアと共存することが見いだされた。Aβ1-40を注射したラットに、15mg/kgのMDA7をi.p.で14日間投与すると、CB2発現が減少した(P<0.01vs.Aβ1-40を注射して生理食塩水のi.p.で14日間処理したラット)。
イムノブロット研究によって、Aβ1-40をマイクロインジェクションし、生理食塩水のi.p.で14日間処理したラットにおけるCB2受容体の発現(図4Cおよび図4D、n=5、F(1,8)=10.3、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.05)は、対照ラットの場合より強いことが明らかになった。さらに、15mg/kgのMDA7で14日間毎日i.p.処理すると、このAβ1-40原線維によって誘発したCB2受容体発現の激増が有意に反転した(図4Cおよび図4D、n=5、F(1,8)=19.1、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01)。MDA7は、対照ラットにおいてCB2受容体発現に対する効果を有した。これらの結果は、Aβ1-40原線維によって誘発された脳CB2受容体の適応と、CB2アゴニストMDA7によるその媒介を表している。
MDA7は、海馬のCA1領域にAβ1-40によって誘発されたIL−1βタンパク質の発現を減弱する。Aβ誘発性神経炎症に対するMDA7の干渉の基礎をよりよく理解するために、炎症誘発性サイトカインIL−1βの産生に対するMDA7処理の影響を(14日間毎日15mg/kg i.p.)、海馬CA1領域で調べた。脳では、IL−1βは主に、活性化されたミクログリアおよびアストロサイトから合成され、分泌される(Kettenmann et al., Physiol Rev 91(2), 461-553 (2011))、脳での炎症(Gabay et al., Nat Rev Rheumatol 6(4), 232-41 (2010))およびアミロイドによって誘発される記憶欠損(Schmid et al., Hippocampus 19(7), 670-6 (2009))の発症に関連している。現在の研究では、Aβ1-40を注射して生理食塩水のi.p.で14日間処理した動物は、対照ラット(n=5)よりも海馬CA1組織において有意に高いIL−1βタンパク質の発現を示した(図5、n=5、F(1,8)=63.3、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01)。一方で、Aβ1-40を注射したラットにおける14日間のMDA7処理は、アミロイド原線維のマイクロインジェクションによって誘発されたIL−1βの激増を有意に減弱した(図5、n=5、F(1,8)=34.6、P<0.01)。これらの結果は、活性化されたグリア細胞からのIL−1βの濃度が、Aβ1-40のマイクロインジェクション後に海馬CA1領域において有意に高まり、これらの増加が、14日間のMDA7処理によって鈍ったことを示している。
MDA7は、海馬CA1領域に注射されたAβ1-40のクリアランスを効果的に促進する。in vitroでの研究(Tolon et al., Brain Res 1283, 148-54 (2009))によって、CB2の活性化がβ−アミロイドの除去を誘導し、この作用がCB2アンタゴニストによってブロックされることが示された。よって、本発明者らは、MDA7がラットに注射されたAβ1-40のクリアランスの機序を増強するであろうと期待した。Aβ1-40を注射したラットでの14日間のMDA7処理(15mg/kg/日)は、Aβ1-40の除去を誘導し(図6、F(3,76)=707.07、n=80切片(5匹/群から1匹あたり3〜5切片)、一元配置ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、P<0.01)、この効果は、5mg/kgのAM630をi.p.で14日間事前投与することで消滅した。本発明者らは、また、5mg/kgのAM630をi.p.で投与するだけでは、注射したAβ1-40のクリアランスに対する効果がないことも観察した。これらの結果は、MDA7による認識の改善がAβペプチドのクリアランスの増加と相関していることを示している。
MDA7は、海馬CA1領域において、Aβ1-40によって損なわれたグルタミン酸作動性の伝達を効果的に改善する。よって、CA1ニューロンにおける惹起されたEPSCの入力(刺激強度)−出力(電流振幅)応答を、すべての群で比較した。図7Aおよび図7Bに示すように、惹起されたEPSCの振幅は、3通りの刺激強度のすべてでAβ1-40群で対照群よりも有意に小さく、CA1ニューロンでグルタミン酸作動性入力のベース強度が減弱したことを示していた。しかしながら、Aβ1-40を注射したラット由来のCA1ニューロンにおける惹起されたEPSCの振幅は、15mg/kgのMDA7で14日間i.p.処理すると、3通りのすべての刺激強度でAβ1-40+MDA7群において回復された(図7Aおよび図7B)。海馬のスライス切片でのグルタミン酸作動性入力のベース強度は、対照とおよびMDA7群で差がなかった。これらの結果は、MDA7を投与すると、Aβ1-40原線維を海馬にマイクロインジェクションして誘発された、損なわれたグルタミン酸作動性入力のベース強度が、有意に改善されることを示していた。
生理食塩水を注射したラットの海馬のスライス切片では、シャッファー側枝−交連線維への高周波電気刺激は、一時間以上続くCA1ニューロンの大幅なシナプス増強を誘導した。平均LTPは、誘導30分後と60分後にそれぞれ210.5±18.6%および224.7±2.2%、30分で60分であった(n=12、反復測定ANOVAに続いて、Student-Newman-Keuls多重範囲検定、ベースラインと比較した場合P<0.01、図7Cおよび図7D)。一方、Aβ1-40を注射したラットの海馬スライス切片では、高周波電気刺激によって誘発されるLTPの強度が著しく減弱し、平均LTPは、誘導30分後と60分後にそれぞれ107.1±14.0%および110.4±15.6%であった(n=10、反復測定ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、生理食塩水を注射したラットと比較した場合P<0.01、図7Cおよび図7D)。しかしながら、Aβ+MDA7群の海馬スライス切片では、平均LTPは誘導30分後と60分後にそれぞれ214.5±23.6および195.7±21.8であった(n=9、反復測定ANOVAに続いてStudent-Newman-Keuls多重範囲検定、Aβ1-40を注射したラットと比較した場合P<0.01、図7Cおよび図7D)。MDA7の投与だけでは、対照ラットの海馬スライス切片におけるLTPの誘導に有意に影響しなかったことに注意されたい。これらの結果は、MDA7の投与が、Aβ1-40原線維のマイクロインジェクションによって誘発された、損なわれた海馬のシナプス可塑性を有意に改善したことを示している。
[考察]
これらの結果は、(i)Aβクリアランスを促進し、(ii)Aβ誘発グリア活性化およびIL−1βの産生を改善し、(iii)シナプス可塑性、認知および記憶を回復させる上で、CB2アゴニストMDA7の将来性のある潜在的な役割を明らかにした。MDA7の作用は、CB2アンタゴニストAM630の事前投与により消失した。AM630の投与だけでは、Aβ関連病変に有益な作用をもたらすことはなかった。in vivoでの本研究は、Aβ1-40原線維をマイクロインジェクションすると、海馬CA1領域でアストロサイトおよびミクログリアの活性化およびCB2受容体の上方制御が有意に(P<0.01)誘発され、このプロセスがMDA7処理によって反転することを確認した。生理食塩水のi.p.で処理したラットにAβ1-40をマイクロインジェクションすることは、海馬CA1領域でのCB2発現の増加と関連している(図4)のに対し、CB2アゴニストMDA7での処理は、アミロイド原線維による効果を改善したという知見は、CB2受容体がネガティブフィードバックレギュレーターとして働き、MDA7による活性化が神経炎症性応答の度合いと以後のAβ誘発神経毒の発達を限定するよう機能し得るという可能性を提起する。
本研究では、生理食塩水のi.p.で処理したラットにAβ1-40をマイクロインジェクションした後に、対照と比較して、海馬CA1領域でミクログリア(CD11b)およびアストロサイト(FGAP)活性化マーカー(15日目に測定)が有意に(P<0.01)増加した(図2および図3)。Aβ凝集体は強力な神経毒およびミクログリア活性化剤である(Cameron and Landreth, 2010)。これらの結果は、Aβ1-42を海馬、前頭皮質に脳内マイクロインジェクションする、あるいは、Aβの中枢投与におけるAβ25-35を脳室内投与することが、ミクログリア(Ramirez et al., J Neurosci 25(8), 1904-13 (2005))およびアストロサイト活性化と関連している、という過去に刊行された報告と一致している。この神経炎症プロセスは、脳内の神経機能障害に寄与および/またはこれを反映して顕在化し、ADにおける認知機能と逆相関することが見いだされている(Edison et al., Neurobiol Dis 32(3), 412-9 (2008)。さらに、AD患者の脳組織では、細胞の肥大、GFAP、アストログリアS100B、CD11bタンパク質の発現増加が日常的に観察されることから、ミクログリアおよびアストロサイトの活性化が証明された。マイクロモル濃度のAβがニューロンへの直接的な毒性を誘発する可能性はあるが、ナノモルレベルの濃度は、ミクログリアによる機序を介してニューロンの喪失を誘発できる。それは、Aβの沈着が、(おそらくミクログリア表面受容体との相互作用を介して)脳内の炎症反応につながるグリア活性化の重要なトリガー因子を表していると思われる(El Khoury et al., Nature 382(6593), 716-9 (1996))。Meda et al., Neurobiol Aging 22(6), 885-93 (2001)。CB2アンタゴニストであるSR144525の投与が、Aβ1-40誘発アストロサイト活性化の低減に何らかの役割を持ち得ると報告されているが、本発明者らのデータは、Aβ1-40を注射したラットに5mg/kg AM630(CB2アンタゴニスト)を14日間i.p.投与すると、認知機能の改善Aβクリアランスの誘発に失敗したことを示している。
これらの結果は、海馬でのAβ1-40の両側マイクロインジェクション後にIL−1βの濃度上昇を示し、この増加は、MDA7処理によって阻止された。CB2受容体の活性化は、ラットミクログリア細胞、ヒトミクログリア細胞(Stella, Glia 48(4), 267-77 (2004))およびヒトアストロサイトにおいて、ならびに、出生時低酸素虚血、ハンチントン病、およびパクリタキセル誘発性神経炎症の各動物モデルにおいて、in vitroでの炎症誘発性分子の産生を減少させることが示されている。Naguib et al., Anesth Analg, 114(5): 1104-20 (2012)。IL−1βは、脳内で活性化されたミクログリアとアストロサイトから合成および放出され、アミロイドによって誘発される脳の炎症、損なわれたグルタミン酸作動性伝達、および記憶欠損の発症に能動的に関与している。IL−1βを脳室内投与すると、記憶欠損が有意に誘発された。これは、いくつかの記憶課題でパフォーマンスが損なわれることで証明された。海馬ニューロンの初代培養では、IL−1β(ただし、IL−10または腫瘍壊死因子αではない)がAMPA受容体サブユニットGluRlのSer831リン酸化と表面発現を有意に下方制御し、これがシナプス可塑性において重要な役割を果たしている。脳内におけるIL−1受容体の拮抗作用は、Aβによって誘発される,損なわれたシナプス可塑性を緩和する。これらの過去の報告は、活性化されたミクログリアおよびアストロサイトから放出されるIL−1βを、アルツハイマー病の病因と発症にとって重要な因子として確立した。
本研究では、ラットの海馬CA1組織におけるCB2受容体の発現増加は、Aβ1-40原線維のマイクロインジェクションの後に認められた。MDA7は、CB2受容体系の活性化によるミクログリアおよびアストロサイト活性とIL−1β産生の抑制にあたって効果的であるように見える。過去の研究は、グリア関連斑でのCB2受容体の発現が、死後のAD脳で増加したことを示していた。Ramirez et al., J Neurosci 25(8), 1904-13 (2005)。非選択的カンナビノイド受容体アゴニストであるWIN55,212−2の脳室内投与は、Aβ25-35によって誘発されたミクログリア活性を防止するのに有効であった。別のカンナビノイド(WIN55,212−2、HU−210、およびJWH−113)は、培養ミクログリア細胞のAβ1-40誘発活性化をブロックした。Ramirez et al.、同書。ミクログリアの一次培養では、CB2受容体の活性化とJWH−015(CB2アゴニスト)の投与は、ミクログリアサイトカインおよび一酸化窒素の産生を顕著に抑制し、Aβ1-42のミクログリアファゴサイトーシスのCD40による阻害を減弱した。Ehrhart, et al., J Neuroinflammation 2, 29 (2005)。
CB2受容体のin vitro活性化は、ヒトマクロファージ細胞株によってネイティブなAβをヒト凍結組織切片から除去することのみならず、合成病原性ペプチドを除去することも促進した。Tolon et al., Brain Res 1283, 148-54 (2009)。データは、MDA7によってCB2受容体系を活性化すると、Aβ1-40クリアランスが促進される(図6)ことを示していた。これはおそらくは、ミクログリアの食細胞機能が回復することによるものである。ミクログリアは、Aβのクリアランスおよびファゴサイトーシスを促進する上で、重要な役割を果たし、サイトカインの産生とAβのクリアランスとの間には負の相関がある。しかしながら、ADが進行するにつれて、ミクログリアは、炎症誘発性サイトカインを産生しつづけるのに、そのAβ−クリアリング能を失っていく。Hickman et al., J Neurosci 28(33), 8354-60 (2008)。このため、アルツハイマー脳におけるミクログリアCB2受容体の上方制御は、潜在的に、CB2受容体を内在性の保護機構として位置づけ、この疾患における神経炎症および病態の発症を制限する。CB2アゴニストの有利な作用は、そのAβ誘発ミクログリア活性化をブロックする能力に依存するだけでなく、Aβ沈着を排除するミクログリア能力を回復する能力にも依存している可能性がある。
Aβ1-40原線維の海馬マイクロインジェクション後に観察された行動の欠陥(図1B)は、海馬のグルタミン酸作動性伝達変化と良く相関していた(図7)。本研究は、CB2アゴニストの全身投与が、海馬CA1領域における、損なわれたグルタミン酸作動性入力のベース強度および電気刺激誘発シナプス可塑性、ならびに、Aβ1-40原線維の局所的なマイクロインジェクションによって誘発された記憶欠損を有意に改善することを、初めて示した。アミロイドフラグメントのマイクロインジェクションが、齧歯類の海馬における、グルタミン酸作動性入力のベース強度が有意に減弱することは、過去に報告されていた。アルツハイマー病の脳のAβ含有水性抽出物の脳室内注射は、ラット海馬において、高周波電気刺激誘発性LTPすなわちシナプス可塑性の一形態を有意に阻害した。海馬LTPは、学習と記憶のための相関として使用され、ADに関連する認知障害に関与する機構を研究するための貴重なモデルとして浮上している。海馬への外来Aβの投与は、ラットで、水迷路などの記憶課題でのパフォーマンスを有意に低下させた。一貫して、本研究では、Aβ1-40原線維をラットにマイクロインジェクションした15日後のラットで、モリス水迷路試験において、損なわれた電気刺激誘発LTPおよびグルタミン酸作動性入力のベース強度および延長された逃避潜時が観察された。このラットは、生理食塩水のi.p.で14日間処理したものであった。興味深いことに、損なわれたシナプス可塑性および記憶欠損は、15mg/kgのMDA7を14日間全身投与すると正常化された。
結論として、MDA7による中枢ミクログリアCB2受容体の活性化は、(i)Aβクリアランスを促進し、(ii)Aβ誘発性のグリア活性化およびIL−1βの産生を改善し、(iii)シナプス可塑性、認知、および記憶を回復させた。ヒトAD脳のミクログリアにおけるCB2受容体の存在は、MDA7などのCB2受容体アゴニストの使用が、ADを治療するための新規な治療方法となり得ることを示している。
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