図1を参照して、本実施例に係る位相同期ループ回路(PWPLL)(本願請求項における「位相同期ループ回路」の一例)について説明する。図1は、本実施例に係るPWPLL1の回路図である。
PWPLL1は、PFD3(本願請求項における「位相周波数比較器」の一例)と、パルス幅積分器(Pulse Width Accumulator, PWACC)5(本願請求項における「パルス幅積分器」の一例)と、PWCO11(本願請求項における「パルス幅制御発振器」の一例)と、分周回路13とを備える。
PWPLL1は、ロック時の位相差がゼロ(Type-II)のPLL回路とするために、図1に示すように、図16(b)に示すType-IのPLL回路に加えて、タイムドメインでの積分を行うPWACC5を設けてPWCO11をPI制御する。PWACC5は、その出力するパルスのパルス幅が2つの入力パルス(UPパルス信号(本願請求項における「UPパルス信号」の一例)及びDNパルス信号(本願請求項における「DNパルス信号」及び「パルス信号変換器」の一例))のパルス幅の差の積分値を表す積分信号(本願請求項における「積分信号」の一例)となるような回路である。その動作は、後に説明する。
PWCO11は、この比例成分であるUPパルス信号及びDNパルス信号、並びに、積分成分であるPWACC5の出力パルスの計3つのパルスを入力とする。PWCOの発振周波数は、3つのパルス幅の線形和に比例するようになっている。この点も後述する。
PWCO11からの出力は、周波数を1/Nに分周する分周回路13を経てPFD3に入力される。分周された周波数がPFD3へのリファレンス入力にロックされるため、PWCO11からの出力信号は、リファレンス入力のN倍の周波数を有することとなる。
PWPLL1のオープンループゲインHopen(s)は、次式のようになる。
ここで、PWCO11の比例成分パルスに対すると積分成分に対するゲインをそれぞれKPWCO-p[Hz/s]とKPWCO-i[Hz/s]とし、PWACC5の積分変換ゲインをKACC、リファレンス周波数をfref[Hz]=1/Tref[s]とした。
また、ダンピングファクタzは、次式のようになる。
図2に示すように、原点に2つのポールを持ち位相ロックを実現すると共に、比例成分がループゲインにゼロを作り出すことにより、位相補正をおこない安定なフィードバックが得られる。
続いて、図3を参照して、PWACC5について説明する。図3(a)は、PWACC5の概要を示すブロック図であり、図3(b)は、立ち上がり検出回路25kの概要を示すブロック図である。
PWACC5は、順に接続された初期化部21と、セレクタ23と、複数の立ち上がり検出回路251,252,...25n−1,25n(本願請求項における「立ち上がりエッジ検出回路」の一例。以下、「立ち上がり検出回路25k」と表記することがある。複数の要素を有する他の回路部について同様とする。)と、ディレイフリップフロップ(D-FF)27とを有する。初期化部21に入力された信号は、セレクタ23と、複数の立ち上がり検出回路251,252,...25n−1,25nと、D-FF27とを経て出力される。また、立ち上がり検出回路25nの出力は、セレクタ23にも入力されており、セレクタ23と複数の立ち上がり検出回路251,252,...25n−1,25nとがリング状に接続されている。さらに、各立ち上がり検出回路25kには、PFD3から出力されたUPパルス信号及びDNパルス信号も入力される。
PWACC5は、パルス幅の積分をタイムドメインでおこなう積分器である。また、PWACC5は、積分値を時間情報として内部で保持する。PWACC5では、2つの短いパルス(本願請求項における「2つのパルス信号」の一例)が同一のリング状を廻る構造になっており、その2つのパルスの時間差Tをタイムドメインの値として保持する。PWACC5の出力は、その2パルスをD-FF27で分周して得た時間幅Tの繰り返しパルスである。
通常、インバータによるバッファチェーン上をパルスが駆け巡ると、プロセスの局所ばらつきによる各インバータの立ち上がり時間・立ち下がり時間の不一致により、パルス幅が拡大又は縮小して、やがてパルスは消失してしまう。
PWACC5ではこの問題を解決するため、図3(a)に示すように、信号の立ち上がりに反応してワンショットの短いパルスを出力する立ち上がり検出回路25kをリング状に並べている。これにより、パルスがリング内で拡大も縮小もせずに永久に廻り続けられる仕組みになっている。2つのパルスは同一のリング内を同じように廻り、同じ状態で立ち上がりや立ち下がりをする。そのため、リング内を伝搬する速さは同一であり、いくらトランジスタがばらついても2つのパルス間の時間差は保持される。
PWACC5では、この時間差が保たれた2つのパルスに対して、それぞれのパルスの伝搬速度を独立に外部から変化させる。これにより、2つのパルスの時間差を増減させて積分動作を行っている。
1つ目のパルスは、DNパルス信号が入力されている間だけ伝搬速度が速くなる。2つ目のパルスは、UPパルス信号が入力されている間だけ伝搬速度が速くなる。このため、UPパルス信号とDNパルス信号のパルス幅の差に比例して出力パルス幅Tが増減する。具体的には、UPパルス信号によってTが減少し、DNパルス信号によって増加する。
リングを構成する立ち上がり検出回路25kは、図3(b)に示すように、立ち上がりエッジ検出部31と、バッファ部33と、パルス幅拡大部35(本願請求項における「パルス幅拡大器」の一例)と、バッファ部37と、D-FF39と、制御回路部41と、セレクタ43とが順に接続されている。バッファ部37の出力は、立ち上がり検出回路25kの出力とも接続されている。
立ち上がりエッジ検出部31は、インバータ部45と、NANDゲート47を有する。インバータ部45は、立ち上がりエッジ検出部31への入力を入力とし、直列に接続された奇数個のインバータからなる。NANDゲート47は、入力の一方がインバータ部45からの出力に接続され、入力の他方が立ち上がりエッジ検出部31への入力に接続される。
バッファ部33は、NANDゲート47からの出力を入力とし、直列に接続された偶数個のNANDゲート49kを有する。NANDゲート49kは、入力の一方が電源に接続されており、入力の他方がNANDゲート47又は他のNANDゲート49k−1からの出力に接続されている。
パルス幅拡大部35は、直列に接続された偶数個のインバータ51kと、NANDゲート53とを有する。パルス幅拡大部35は、NANDゲート49からの出力を入力とし、偶数個のインバータ51kとNANDゲート53とが順に直列に接続されている。
バッファ部37は、NANDゲート53からの出力を入力とし、直列に接続された偶数個のNANDゲート55kを有する。NANDゲート55kは、入力の一方が電源に接続されており、入力の他方がNANDゲート53又は他のNANDゲート55k−1からの出力に接続されている。
立ち上がり検出回路25nが有するD-FF39nからの出力は、D-FF39nの入力へとフィードバックされると共に、Qnとして出力される。また、立ち上がり検出回路25nが有する制御回路部41は、Qnを入力とすると共に、立ち上がり検出回路25n+2が有するD-FF39n+2が出力したQn+2を入力とする。
セレクタ43は、制御回路部41からの出力、PFD3からのUPパルス信号及びDNパルス信号の3つの信号を入力とする。また、セレクタ43は、NANDゲート47、49k、53及び55kに対して、2つのパルス信号の伝搬を速くするFAST信号を伝達する。
図4は、立ち上がり検出回路のタイミングダイヤグラムである。
NANDゲートによる立ち上がりエッジ検出部31は、入力信号の立ち上がりに対して短パルスを出力する。このNANDゲートを用いた立ち上がりエッジ検出部31は、原理上、出力パルスが入力パルスよりも短くなってしまう。そのため、リング状につなげてもやがてパルスが縮み消失してしまう。そこで、パルス幅拡大部35が挿入されており、これによりパルスの伝搬が維持される。
パルスの伝搬速度は、NANDゲート(本願請求項における「遅延回路」の一例)の遅延時間で決定される。そのため、積分動作をさせるために全てのNANDゲートは、図5に示すように、FAST信号で遅延時間を切り替えられるようになっている。すなわち、NANDゲートへの入力(A,B)=(H,H)のとき、出力Y=Lとなる。また、入力(A,B)がそれ以外の値の組合せの場合、出力Y=Hとなる。FAST信号をHとすると、遅延時間が小さくなる。
また、リングを廻る2つのパルスは、D-FF39(本願請求項における「カウント回路」の一例)によってカウントされる。これにより、次に立ち上がり検出回路25kを通過するパルスが1つ目のパルスなのか2つ目のパルスなのかを区別している。もし次に通過するパルスが1つ目のパルスであれば、NANDゲートへのFAST信号は、DNパルス信号によってドライブされる。そうではなく2つ目のパルスであれば、FAST信号は、UPパルス信号によってドライブされる。
これにより、図6に示すように、リングを廻る2つのパルスの伝搬速度は独立にそれぞれUPパルス信号とDNパルス信号によって制御される。UPパルス信号のパルス幅がDNパルス信号のパルス幅より長ければPWACC5の出力パルス幅が短くなり、逆ならば長くなる。
リングを廻る2つのパルスが近づきすぎてしまうのを防ぐために、パルスが通過してからそのパルスが2段先に到達するまでの間は、次のパルスをFAST信号で加速しないように、制御回路部41がセレクタ43を制御する。
続いて、図7を参照して、パルス幅制御発振器(PWCO)11について述べる。図7は、PWCO11の概要を示すブロック図である。
PWCO11は、PFD3から出力されたDNパルス信号が入力されるTSTC711、PFD3から出力されたUPパルス信号が入力されるTSTC712、PWACC5から出力された積分信号が入力されるTSTC713、直列に接続された奇数個(2m+1個、mは自然数)のインバータ73kを有する。インバータ732m+1の出力は、PWCO11から出力されると共に、インバータ731に入力されて、インバータ73kがリング状に接続されている。
1≦k≦mに対して、インバータ73kとインバータ73k+1との間には、TSTC711からの信号が1のときにONされるトランジスタ75kとアースされたキャパシタ77kとが順に接続されている。また、m+1≦k≦2m+1に対して、インバータ73kとインバータ73k+1との間には、TSTC712からの信号が0のときにONされるトランジスタ79kと電源に接続されたキャパシタ81kとが順に接続されている。さらに、1≦k≦2m+1に対して、インバータ73kとインバータ73k+1との間には、TSTC713からの信号が1のときにONされるトランジスタ83kとアースされたキャパシタ85kとが順に接続されている。
PWCO11では、まず入力されたパルスがそのパルス幅に比例したソフトサーモメタコード(STC)によって変換される。パルス幅は、1であるビットの数で表される。端数は、1と0の境界のビットがアナログ電圧値をとることによって表される。
続いて、図8及び図9を参照して、TSTC71について述べる。図8は、TSTCの概要を示すブロック図である。図9は、TSTCのタイミングダイヤグラムである。
TSTC71は、インバータ91と、直列に接続された複数の信号生成回路92k(1≦k≦N)と、立ち下がり検出回路(FED)93とを有する。インバータ91は、TSTC71への入力を入力とし、信号生成回路921に出力する。信号生成回路92kは、インバータ91の出力又は信号生成回路92k−1の出力を入力とし、信号生成回路92k+1に出力する。また、信号生成回路92kは、ソフトサーモメタSTkをトランジスタ75k、79k又は83kに対して出力する。
信号生成回路92は、バッファ94と、インバータ95と、スイッチ96と、スイッチ97と、アースされたキャパシタ98とを有する。信号生成回路92kが有するバッファ94kは、バッファ94k−1の出力を入力とし、バッファ94k+1に対して出力する。また、バッファ94kの出力は、インバータ95えに入力される。インバータ95kの出力は、スイッチ96k及びスイッチ97kを経てソフトサーモメタSTkとして出力される。スイッチ96は、TSTCへの入力がHのときにONされる。スイッチ97は、TSTC71への入力を入力とするFED93からの出力がHのときにONされる。キャパシタ98は、スイッチ96及びスイッチ97の間に接続される。
TSTC71にパルスが入力され、入力が0から1へ立ち上がると、立ち下がりステップがN段のバッファ列を伝搬していく。バッファが持つ遅延時間によって、入力パルスの立ち下がりエッジにおいてバッファ列の入力側k段は0となり残りの(N-k)段は1となる。
バッファの各段には、図8に示すように、”s”の記号で示される遅いインバータ95が繋がっている。このため、キャパシタ98によってインバータの出力Vcはゆっくりと立ち上がる。Vcは入力パルスの立ち下がりエッジにて出力STCとしてサンプリング及びホールドされる。このようにして、出力STCは、最初の(k-1)段が1であり、(k+1)段以降が0であり、境界のk段目が中間のアナログ電圧となる。
本実施例では、入力パルス幅が長ければ長いほど多くのキャパシタ98が1にチャージされ、出力されるSTCはより多くのビットが1となる。なお、ここで用いられているキャパシタ98はトランジスタ10個だけによる小さなMOSキャップであることを述べておく。
PWCO11にはPFD3からのUPパルス信号及びDNパルス信号、並びに、PWACC5の出力パルス信号の計3つのパルス信号が入力される。PWCO11では、それぞれの信号が3つのTSTC71によりそれぞれ3つのSTCに変換される。
PWACC5からのパルスは、6bitのSTCに変換される。これに対して、UPパルス信号及びDNパルス信号は、PWPLL1がロック時には共にPFD3がデッドゾーンを回避するために出すとても短いパルスでしかないので、3bitのSTCに変換される。
各STCノードは、インバータ73によるリングオシレータの負荷容量を可変するトランジスタ75、79又は83に図7に示すように接続されている。
DNパルス信号又はPWACC5から出力された積分信号のパルス幅が増加すると、STCの1であるビットの数が増加する。その分、NMOSトランジスタをONさせ、リングオシレータの負荷容量を増やし、発振周波数を低下させる。一方、UPパルス信号のパルス幅が増加すると、PMOSトランジスタをOFFさせ、リングオシレータの負荷容量を減らし、発振周波数を上昇させる。
続いて、本実施例に係るPWPLL1のシミュレーション結果について述べる。回路は、0.18mmプロセスで設計し、hspiceによってトランジスタレベルのシミュレーションを行った。リファレンス周波数をfref=43.75[MHz]、分周比をN=32とし、1.4[GHz]の出力を得るPLLを設計した。1.8[V]の電源電圧のもとで7.2[mW]を消費する。
まず、PWACC5の動作について述べる。図11は、UPパルス信号及びDNパルス信号のいずれも無入力時にPWACC5から出力される積分信号のパルス幅が保持される様子を示す図である。PWACC5の出力周期は、6.7[ns]である。パルスがリングを300周(2ms)しても出力パルス幅の変動が2[ps]以下であり、パルス幅を精度よく保持できていることが分かる。
設計したPWPLL1のループ特性について、シミュレーションにおいて、PWCO11のゲインをKPWCO-p=20[MHz/ns]、KPWCO-i=55[MHz/ns]とし、PWACC5のゲインをKACC=0.044とした。このときのダンピングファクタは、式(3)よりz=0.8であり、ループ帯域幅は2.4[MHz]である。
図12に、シミュレーションされたPWPLL1のリファレンス入力クロックと分周されたフィードバッククロックの波形を示す。横軸が経過時間[ms]を表し、縦軸が出力電圧[V]を表す。期待通り、位相オフセットなくロックしている。
図13に、リファレンス周波数をステップ状に切り替えることにより出力周波数を1.4[GHz]から1.45[GHz]に変化させたときの出力周波数の過渡応答を示す。横軸が経過時間[ms]を表し、縦軸が出力周波数[GHz]を示す。図14は、そのときのPWACC5の出力パルス幅の時間変化の様子である。横軸が経過時間[ms]を表し、縦軸が出力パルス幅[ns]を示す。
ロックが外れてからリファレンスロック周期にて40サイクル程度で再びロックされている。大きなオーバーシュートが見られるのは、大きな位相の変動によりPWCO11の比例成分のSTCが飽和し、KPWCO-pが低下したことにより発生したものと考えられる。
本実施例において、チャージポンプやRCのローパスフィルタを用いない、パルス幅によって制御されたType-IIのPWPLLについて述べた。また、パルス幅制御発振器とパルス幅積分器を用いたタイムドメインのアナログ信号処理によって安定なゼロオフセットのPWPLLが構成できることをhspiceシミュレーション上で示した。
なお、本実施例においてPWACC5は、複数の立ち上がり検出回路25kを有するとしたが、代わりに複数の立ち下がり検出回路(本願請求項における「立ち下がりエッジ検出回路」の一例)を有する構成であってもよい。