以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とによって挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
図1及び図2は、本発明の第1実施形態による燃料電池10の構成について説明する図である。図1は、燃料電池10の概略斜視図である。図2は、図1の燃料電池10のII−II断面図である。
燃料電池10は、MEA11の表裏両面に、アノードセパレータ12とカソードセパレータ13とが配置されて構成される。
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113と、を備える。MEA11は、電解質膜111の一方の面にアノード電極112を有し、他方の面にカソード電極113を有する。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
アノード電極112は、触媒層112aとガス拡散層112bとを備える。
触媒層112aは、電解質膜111と接する。触媒層112aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子から形成される。なお、アノード電極112ではカソード電極113よりも電極上での電気化学反応が起こりやすい。そのため、本実施形態ではカソード電極113よりもアノード電極112の触媒担持量を少なくしている。
ガス拡散層112bは、触媒層112aの外側(電解質膜111の反対側)に設けられ、アノードセパレータ12と接する。ガス拡散層112bは、充分なガス拡散性および導電性を有する部材によって形成され、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスで形成される。
カソード電極113もアノード電極112と同様に、触媒層113aとガス拡散層113bとを備える。
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112bと接する。アノードセパレータ12は、アノード電極112にアノードガスを供給するための複数の溝状のアノードガス流路121を有する。
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113bと接する。カソードセパレータ13は、カソード電極113にカソードガスを供給するための複数の溝状のカソードガス流路131を有する。
アノードガス流路121を流れるアノードガスと、カソードガス流路131を流れるカソードガスとは、互いに平行に逆方向に流れる。互いに平行に同一方向に流れるようにしても良い。
このような燃料電池10を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池10を積層した燃料電池スタック1として使用する。そして、燃料電池スタック1にアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システム100を構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
図3は、本発明の第1実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、電力系4と、コントローラ5と、を備える。
燃料電池スタック1は、複数枚の燃料電池10を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の駆動に必要な電力を発電する。燃料電池スタック1は、電力を取り出す端子として、アノード電極側出力端子1aと、カソード電極側出力端子1bと、を備える。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、カソード圧力センサ26と、水分回収装置(Water Recovery Device;以下「WRD」という。)27と、カソード調圧弁28と、を備える。カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外気に排出する。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給するカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21は、一端がフィルタ23に接続され、他端が燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
カソードガス排出通路22は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22は、一端が燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端が開口端となっている。カソードオフガスは、カソードガスと、電極反応によって生じた水蒸気と、の混合ガスである。
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
エアフローセンサ24は、カソードコンプレッサ25よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、カソードコンプレッサ25に供給されて、最終的に燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。
カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、フィルタ23を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、燃料電池スタック1に供給する。
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ25とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、WRD27のカソードガス入口部近傍のカソードガスの圧力を検出する。
WRD27は、カソードガス供給通路21及びカソードガス排出通路22のそれぞれに接続されて、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分でカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ5によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧水素タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノードガス排出通路34と、パージ弁35と、を備える。
高圧水素タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧水素タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32は、一端が高圧水素タンク31に接続され、他端が燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ5によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノードガス排出通路34は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードガス排出通路34は、一端が燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端がカソードガス排出通路22に接続される。
アノードガス排出通路34を介してカソードガス排出通路22に排出されたアノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合されて燃料電池システム100の外部に排出される。アノードオフガスには、電極反応に使用されなかった余剰の水素が含まれているので、カソードオフガスと混合させて燃料電池システム100の外部に排出することで、その排出ガス中の水素濃度が予め定められた所定濃度以下となるようにしている。
パージ弁35は、アノードガス排出通路34に設けられる。パージ弁35は、コントローラ5によって開閉制御され、アノードガス排出通路34からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスの流量を制御する。
電力系4は、電流センサ41と、電圧センサ42と、走行モータ43と、インバータ44と、バッテリ45と、DC/DCコンバータ46と、を備える。
電流センサ41は、燃料電池スタック1から取り出される電流(以下「出力電流」という。)を検出する。
電圧センサ42は、アノード電極側出力端子1aとカソード電極側出力端子1bの間の端子間電圧(以下「出力電圧」という。)を検出する。また、燃料電池スタック1を構成する燃料電池10の1枚ごとの電圧を検出できるようにすると尚良い。さらに、複数枚おきに電圧を検出できるようにしても良い。
走行モータ43は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルを巻き付けた三相交流同期モータである。走行モータ43は、燃料電池スタック1及びバッテリ45から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、ロータが外力によって回転させられる車両の減速時にステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機としての機能と、を有する。
インバータ44は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの複数の半導体スイッチから構成される。インバータ44の半導体スイッチは、コントローラ5によって開閉制御され、これにより直流電力が交流電力に、又は、交流電力が直流電力に変換される。インバータ44は、走行モータ43を電動機として機能させるときは、燃料電池スタック1の発電電力とバッテリ45の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換して走行モータ43に供給する。一方で、走行モータ43を発電機として機能させるときは、走行モータ43の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換してバッテリ45に供給する。
バッテリ45は、燃料電池スタック1の発電電力(出力電流×出力電圧)の余剰分及び走行モータ43の回生電力を充電する。バッテリ45に充電された電力は、必要に応じてカソードコンプレッサ25などの補機類及び走行モータ43に供給される。
DC/DCコンバータ46は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機である。DC/DCコンバータ46によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御することで、燃料電池スタック1の出力電流、ひいては発電電力が制御される。
コントローラ5は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ5には、前述したエアフローセンサ24などの他にも、アクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出するアクセルストロークセンサ51やカソードコンプレッサ25の回転速度を検出する回転速度センサ52、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度(以下「スタック温度」という。)を検出する水温センサ53などの燃料電池システム100の運転状態を検出するための各種の信号が入力される。
コントローラ5は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、燃料電池スタック1の目標出力電流を算出する。具体的には、走行モータ43の消費電力やカソードコンプレッサ25等の補機類の消費電力、バッテリ45の充放電要求などに基づいて、燃料電池スタック1の目標出力電流を算出する。そして、燃料電池スタック1の出力電流が目標出力電流となるように、DC/DCコンバータ46によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御し、走行モータ43や補機類などに必要な電力を供給する。
ところで、燃料電池システム100の停止後は、時間の経過に伴い、アノードガス流路121には、カソードガス流路131からリークしてきたカソードガスや大気中の空気(カソードガス)の侵入によってカソードガスが存在する状態となる。
このような状態で燃料電池システム100を起動して、アノードガス流路121にアノードガスを供給すると、アノードガス流路121の上流にアノードガスが存在し、下流にカソードガスが存在する状態となる。そうすると、アノード電極112で局部電池が形成されて、カソード電極113の触媒層113aのカーボンが酸化腐食することがある。このようなカーボン腐食は、燃料電池10の出力を低下させる原因となる。以下、図4を参照して、このカーボン腐食の原理について簡単に説明する。
図4は、燃料電池10の断面図であり、燃料電池システム起動時のカーボン腐食について説明する図である。
図4に示すように、アノードガス流路121にカソードガスが存在する状態で燃料電池システム100を起動して、アノードガス流路121にアノードガスを供給すると、アノードガス流路121の上流にアノードガスが存在し、下流にカソードガスが存在する状態となる。つまり、アノードガス流路121のなかで、アノードガスとカソードガスとの境界面(水素フロント)が存在する状態となる。
そうすると、燃料電池10の上流側では通常の電池が形成されて、以下の(3)(4)式の反応が起こる。
アノード電極(上流側) : 2H2 →4H+ +4e- …(3)
カソード電極(上流側) : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(4)
一方で、アノードガス流路121の下流にカソードガスが存在する状態では、アノードガス流路121の上流をアノード電極、下流をカソード電極とした局部電池がアノード電極側に形成されることになる。これにより、燃料電池10の下流側では、(3)式で発生した電子を消費するために、アノード電極で以下の(5)式の反応が起こり、その結果、カソード電極で以下の(6)式の反応が起こる。
アノード電極(下流側) : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(5)
カソード電極(下流側) : C+2H2O→4H+ +4e- +CO2 …(6)
このようにして、カソード電極113の下流側で炭素が二酸化炭素になる酸化反応((6)式の反応)が生じるため、カソード電極113の触媒層113aのカーボンが酸化腐食するのである。
燃料電池10を自動車用動力源として使用する場合、定置式の燃料電池システムと比べてシステム起動停止回数が非常に多くなる。したがって、燃料電池システム100の起動時におけるこの水素フロントによる燃料電池10の劣化(以下「水素フロント劣化」という。)を抑制する必要がある。
この水素フロント劣化を抑制する手段の1つとして、燃料電池システム100の起動時に、アノードガスをアノードガス流路121の入口から出口まで素早く通り抜けさせることで、水素フロント劣化が生じる時間を短くする方法がある。
ここで従来は、アノードガス流路121の水素濃度を精度良く検出する有効な方法がなかったため、水素フロント劣化を防止するために、燃料電池システム100の起動時には、保守的にアノードガスを多めに供給しながら排出していた。これにより、アノードガスをアノードガス流路121の入口から出口まで素早く通り抜けさせていた。
しかしながら、保守的にアノードガスを多めに供給するために、燃費が悪化するという問題点があった。また、多めに供給したアノードガス中の水素を希釈するために、余分にカソードガスも供給しなければならず、その分カソードコンプレッサ25の消費電力が増加して燃費が悪化するとともに、音振性能も悪化するという問題点があった。
そこで本実施形態では、アノードガス流路121の水素濃度を精度良く推定し、水素濃度に応じて燃料電池システム100の起動時に供給するアノードガスの流量を制御することとした。
以下では、まず本実施形態によるアノードガス流路121の水素濃度の推定方法について説明する。
前述したように、従来の燃料電池システムでは、アノードガス流路121の窒素濃度を推定することで間接的にアノードガス濃度を推定していたため、推定精度が低かった。そこで本件発明者らがアノードガス流路121の水素濃度に応じて直接的に変化するパラメータについて鋭意研究を行った結果、低周波数の交流電圧を印加したときの燃料電池スタック1のインピーダンス実部Zrが、アノードガス流路121の水素濃度に応じて直接的に変化することを知見した。
具体的には、アノードガス流路121の水素濃度が低くなると、ある周波数以下の交流電圧を印加したときの燃料電池スタックのインピーダンス実部Zrが負の値を示すことがわかった。この理由について、以下説明する。
図5は、アノード電極112及びカソード電極113の各電極電位と、各電極中の白金触媒の酸化被膜率と、の関係を示した図である。
図5に示したように、各電極中の白金触媒は、ある電位(約0.6[V])以上の電位にさらされると、酸化して表面に酸化被膜が形成され始め、高電位になるほど酸化被膜率が増加する。白金触媒が酸化被膜に覆われると、触媒の活性が失われるため、電極反応は起こりにくくなる。
ここで、アノード電極112及びカソード電極113の各電極電位は、各電極に触れているガス種によって決まるものであり、アノードガス流路121が水素で満たされている状態であれば、アノード電極112の電位は約0[V]となる。そして、アノードガス流路121に空気が混入し、水素濃度が低下するにつれてアノード電極112の電位は増加する。アノードガス流路121が空気で満たされた状態になったときは、アノード電極112の電位は、理論上は約1.23[V]となる。
カソード電極113もアノード電極112と同様であり、カソードガス流路131が水素で満たされている状態であれば、カソード電極113の電位は約0[V]となる。そして、カソードガス流路131が空気で満たされている状態であれば、カソード電極113の電位は、理論上は約1.23[V]となる。
ここで、アノード電極112ではカソード電極113よりも電極上での電気化学反応が起こりやすいため、本実施形態では、アノード電極112の触媒担持量をカソード電極113の触媒担持量よりも少なくしている。そのため、カソード電極113中には十分な白金触媒が存在しているので、カソード電極113中の白金触媒が酸化して白金触媒の酸化被膜率が増加しても、カソード電極113の反応抵抗の増加は微小である。
一方で、空気の混入によってアノードガス流路121内の水素濃度が低下してアノード電極112の電位が高くなることにより、アノード電極112中の白金触媒の酸化が促進されて触媒の機能が低下したときは、もともとのアノード電極112中の白金触媒の担持量が少ないために、アノード電極112の反応抵抗の増加が顕著に表れる。
そのため、アノード電極112の触媒担持量がカソード電極113の触媒担持量よりも少ない燃料電池スタック1では、アノードガス流路121の水素濃度が低下している場合に燃料電池スタック1に低周波数の交流電圧を重畳すると、重畳分の電圧増によってアノード電極112の電位がさらに高くなってアノード電極112中の白金触媒の酸化が一層促進され、アノード電極112の反応抵抗が顕著に増加する。
このとき、通常であれば交流電圧を重畳したことによる電圧増によって燃料電池スタック1を流れる電流も増加し、燃料電池スタック1のインピーダンス実部は正の値を示す。しかしながら、アノードガス流路121の水素濃度が低下している場合は、交流電圧を重畳したことによってアノード電極112の反応抵抗が顕著に増加するので、電流が流れにくくなる。その結果、交流電圧を重畳したことによる電圧増に反して燃料電池スタック1を流れる電流が減少するという現象が起きて、燃料電池スタック1のインピーダンス実部が負の値を示すのである。
この現象についてさらに説明すると、燃料電池の内部インピーダンスZは、燃料電池の電解質膜抵抗をRsol、電気二重層容量をCdl、ファラデーインピーダンスをZFとすると、以下の(7)式で表せる。
ここで、アノード電極112の電位Eの変動に対して、ある遅れ(ここでは一次遅れとする)をもってアノード電極112中の白金触媒の酸化被膜率θが変動するものとする。具体的には電位変動ΔEに対する酸化被膜率変動Δθが、時定数τθ及びゲインaθの一次遅れを持つとすると、以下の(8)式が導ける。
また、燃料電池スタック1を流れる電流が、電位Eとアノード電極112中の白金触媒の酸化被膜率θとで決まるとすると、以下の(9)式が導ける。
そして、線形性が確保されていると仮定して、(9)式をテイラー展開して一次の項まで考えると、以下の(10)式が導ける。
(10)式の両辺を電位変動ΔEで除算すると、以下の(11)式が導ける。
この(11)式の左辺(ΔI/ΔE)は、白金触媒の酸化被膜率を考慮した場合の電位変動に対する電流変動を表しており、ファラデーインピーダンスZFの逆数(アドミタンス)である。
また、(11)式の右辺第1項(∂I/∂E)は、白金触媒が酸化被膜で覆われていない場合の電位変動に対する電流変動を表しており、白金触媒が酸化被膜で覆われていない場合のアノード電極112の反応抵抗Ractの逆数である。そして、右辺第2項((∂I/∂θ)・(Δθ/ΔE))は、被膜率変動に対する電流変動の項(∂I/∂θ)と、電位変動に対する被膜率変動の項(Δθ/ΔE)と、を乗算した形で表される。
つまり、(11)式は、ファラデーインピーダンスZFの逆数(アドミタンス)が、白金触媒が酸化被膜で覆われていない場合のアノード電極112の反応抵抗Ractの項(右辺第1項)と、白金触媒の酸化被膜率によって変化するアドミタンスの項(右辺第2項)と、で表されることを示している。
この(11)式に(8)式を代入して整理すると、以下の(12)式となる。
そして、(12)式の逆数を取って整理すると、以下の(13)式となる。
(13)式を(7)式に代入して、内部インピーダンスZを複素数式Z=Zr+jZiの形に整理すると、実部Zr及び虚部Ziはそれぞれ次のように表すことができる。
図6は、重畳する交流電圧の周波数を数ヘルツから減少させていったときの内部インピーダンスZを複素平面にプロットしたナイキスト線図である。
アノードガス流路121の水素濃度が低下しているときに、低周波交流電圧を重畳したことによる電圧増によってアノード電極112中の白金触媒の酸化被膜率が増加し、電圧増に反して燃料電池スタック1を流れる電流が減少するという現象が起きたときは、被膜率変動に対する電流変動(∂I/∂θ)が負の値となる。
そして、この被膜率変動に対する電流変動(∂I/∂θ)は、重畳する交流電圧の周波数が低くなるほど小さくなる。これは、重畳する交流電圧の周波数を低くするほど、一周期が長くなって、交流電圧を重畳したときに電圧が増加している時間が長くなる。そのため、アノード電極112が高電位にさらされる時間が長くなって、白金触媒の酸化被膜率が増加するためである。
その結果、図6に示すように、ある周波数(本実施形態では約0.35[Hz])以下の交流電圧を重畳したときに、インピーダンス実部Zrが負の値を示すことになる。そのため、少なくともインピーダンス実部Zrが負の値を示すような状態であれば、アノードガス流路121の水素濃度が低いと判定することができる。
なお、重畳する交流電圧の周波数が高いと、交流電圧を重畳したときに電圧が増加している時間が短くなって、白金触媒の酸化反応の応答が追従できなくなるため、白金触媒の酸化被膜率の増加が少なくなる。そのため、インピーダンス実部Zrが負の値を示すには、ある周波数以下の周波数の交流電圧を重畳する必要がある。
なお、
以下、このような水素濃度の推定方法を使用した水素フロント劣化抑制制御について説明する。
図7は、本実施形態による水素フロント劣化抑制制御について説明するフローチャートである。コントローラ5は、このルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行する。
ステップS1において、コントローラ5は、燃料電池システム100の起動時か否かを判定する。コントローラ5は、燃料電池システム100の起動時であれば、水素フロント劣化抑制処理を実施するためにステップS2の処理に移行する。一方で、水素フロント劣化抑制処理などの起動準備処理が終了していれば通常運転時であるとしてステップS7の処理を行う。
ステップS2において、コントローラ5は、DC/DCコンバータ46を制御して、所定周波数(本実施形態では0.1[Hz])の低周波交流電圧を燃料電池スタック1の出力電圧に重畳する。
ステップS3において、コントローラ5は、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを例えば交流インピーダンス法によって算出し、その内部インピーダンスZのインピーダンス実部Zrを算出する。
なお、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZの算出方法としては、交流インピーダンス法に限られるものではなく、また、内部インピーダンスZの計測装置を別途に追加し、実際に計測することで算出しても良い。
ステップS4において、コントローラ5は、インピーダンス実部Zrが負の値か否かを判定する。コントローラ5は、インピーダンス実部Zrが負の値であれば、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態であると判定してステップS5の処理を行う。一方でコントローラ5は、インピーダンス実部Zrが負の値でなければ、アノードガス流路121の水素濃度が高い状態であると判定してステップS6の処理を行う。
ステップS5において、コントローラ5は、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態(水素濃度不足の状態)であるとして、低水素濃度時用のガス供給制御を行う。具体的には、水素フロント劣化を抑制するために、アノードガス流路121全体を素早くアノードガス(水素)で置換するために必要な所定流量のアノードガスを供給する。また、アノードガスの供給流量に応じて、排出ガスの水素濃度を所定濃度まで希釈するために必要なカソードガスを供給する。
ステップS6において、コントローラ5は、アノードガス流路121の水素濃度が高い状態であるとして、高水素濃度時用のガス供給制御を行う。高水素濃度時は、低水素濃度時よりもアノードガス流路121全体を水素で置換するために必要なアノードガス流量は少なくなる。したがって、本実施形態では、アノードガス流路121の水素濃度が高い状態であると判定されたときは、低水素濃度時よりも低い所定流量のアノードガスを供給する。また、アノードガスの供給流量に応じて、排出ガスの水素濃度を所定濃度まで希釈するために必要なカソードガスを供給する。このため、カソードガスの供給流量も低水素濃度時よりも少なくできる。
ステップS7において、コントローラ5は、DC/DCコンバータ46を制御して、高周波数(本実施形態では1[kHz])の交流電圧を燃料電池スタック1の出力電圧に重畳し、そのときの燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを算出する。高周波の交流電圧を重畳したときに算出した内部インピーダンスZは、電解質膜抵抗Rsolと近似できる。そのため、内部インピーダンスZに基づいて電解質膜111の湿潤度(含水率)を推定することができる。
したがって本実施形態では、通常運転時は、推定した電解質膜111の湿潤度(含水率)が適切な湿潤度となるように、カソードコンプレッサ25の回転速度やカソード調圧弁28の開度、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の流量を制御する冷却水ポンプ(図示せず)の回転速度をフィードバック制御している。
以上説明した本実施形態による燃料電池システム100は、アノード電極112の触媒担持量がカソード電極113の触媒担持量よりも少ない燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1に交流電圧を重畳するDC/DCコンバータ46と、を備え、DC/DCコンバータ46によって低周波交流電圧を重畳したときに算出した燃料電池スタック1のインピーダンス実部Zrに基づいて、燃料電池スタック1内のアノードガス流路121の水素濃度を推定する。
このように本実施形態では、アノード電極112のほうがカソード電極113よりも電極上での電気化学反応が起こりやすいため、アノード電極112の触媒担持量をカソード電極113の触媒担持量よりも少なくしている。そのため、カソード電極113中には十分な白金触媒が存在しているので、カソード電極113中の白金触媒が酸化しても、カソード電極113の反応抵抗の増加は微小である。
一方で、空気の混入によってアノードガス流路121内の水素濃度が低下してアノード電極112の電位が高くなることにより、アノード電極112中の白金触媒の酸化が促進されて触媒の機能が低下したときは、もともとのアノード電極112中の白金触媒の担持量が少ないために、アノード電極112の反応抵抗の増加が顕著に表れる。
そのため、アノード電極112の触媒担持量がカソード電極113の触媒担持量よりも少ない燃料電池スタック1では、アノードガス流路121の水素濃度が低下している場合に燃料電池スタック1に低周波交流電圧を重畳すると、重畳分の電圧増によってアノード電極の電位がさらに高くなってアノード電極112中の白金触媒の酸化が一層促進され、アノード電極112の反応抵抗が顕著に増加する。
このとき、通常であれば交流電圧を重畳したことによる電圧増によって燃料電池スタック1を流れる電流も増加し、燃料電池スタック1のインピーダンス実部Zrは正の値を示す。しかしながら、アノードガス流路121の水素濃度が低下している場合は、交流電圧を重畳したことによってアノード電極112の反応抵抗が顕著に増加するので、電流が流れにくくなる。その結果、交流電圧の重畳による電圧増に反して燃料電池スタック1を流れる電流が減少するという現象が起きて、燃料電池スタック1のインピーダンス実部Zrが負の値を示す。
このように、燃料電池スタック1のインピーダンス実部Zrは、アノードガス流路121の水素濃度に応じて直接的に変化する。したがって、本実施形態のように、アノード電極112中の白金触媒で酸化反応を起こすことができる所定周波数以下の低周波交流電圧を重畳したときに算出した燃料電池スタック1のインピーダンス実部Zrに基づいて、燃料電池スタック1内のアノードガス流路121の水素濃度を推定することで、その推定精度を向上させることができる。
また本実施形態による燃料電池システム100は、燃料電池システム100の起動時に燃料電池スタック1内のアノードガス流路121の水素濃度を推定し、アノードガス流路121の水素濃度が高いか低いか(水素濃度不足)を判定する。そしてこの判定後に、水素フロント劣化を抑制するために所定流量のアノードガスを燃料電池スタック1に供給するようにしている。
そして本実施形態による燃料電池システム100では、水素フロント劣化を抑制するために所定流量のアノードガスを燃料電池スタック1に供給する際に、アノードガス流路121の水素濃度が低いと判定されていたときは、高いと判定されたときよりも燃料電池スタック1に供給するアノードガスの流量を多くする。
これにより、アノードガス流路121の水素濃度が低いと判定された場合は、水素フロント劣化を抑制するために十分なアノードガスを燃料電池スタック1に供給できる。
一方で、アノードガス流路121の水素濃度が高いと判定された場合は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスの流量を減らすことができるので、燃費の悪化を防止できる。また、アノードガスの供給流量を減らすことで、排出ガスの水素濃度を所定濃度まで希釈するために必要なカソードガスの供給流量も減るので、カソードコンプレッサの消費電力を抑えることができ、燃費を向上させることができる。また、カソードコンプレッサの回転速度も抑えることができるので、音振性能も向上させることができる。
また、本実施形態による本実施形態による燃料電池システム100は、通常運転時は、DC/DCコンバータ46によって、電解質膜111の抵抗が計測可能な高周波交流電圧を燃料電池スタック1に重畳して、電解質膜111の湿潤度を推定している。そのため、追加装置なしで、電解質膜111の湿潤度の制御が可能である。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態は、2つの異なる周波数の交流電圧を重畳したときに算出した各インピーダンス実部Zrの値に基づいて、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態か否かを判定する点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。なお、以下に示す各実施形態では前述した実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
図8は、重畳する交流電圧の周波数を数ヘルツから減少させていったときの内部インピーダンスZを複素平面にプロットしたナイキスト線図である。
前述した第1実施形態では、アノードガス流路121の水素濃度が低いときは、ある周波数(本実施形態では約0.35[Hz])以下の周波数の交流電圧を重畳したときに算出される燃料電池スタックのインピーダンス実部Zrが負の値を示すことを利用して、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態か否かを判定していた。
具体的には、アノードガス流路121の水素濃度が低ければ確実に燃料電池スタックのインピーダンス実部Zrが負の値を示すと考えられる周波数(本実施形態では約0.1[Hz])の交流電圧を重畳していた。
しかしながら、重畳する交流電圧の周波数が低くなるほど、一周期が長くなるので、判定に要する時間も長くなる。
そこで本実施形態では、インピーダンス実部Zrがちょうど負の値になり始める周波数(本実施形態では約0.4[Hz])の交流電圧と、それより大きい数ヘルツ程度の周波数(本実施形態では1.0[Hz])の交流電圧と、を重畳したときに算出した各インピーダンス実部Zrの値に基づいて、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態か否かを判定する。
具体的には、図8に示すように、アノードガス流路121の水素濃度が低ければ、重畳する交流電圧の周波数を低くするほど、インピーダンス実部Zrの値は小さくなっていく。そのため、計測した2つのインピーダンス実部Zrのうち、高周波側のインピーダンス実部Zrの値よりも低周波側のインピーダンス実部Zrの値の方が小さければ、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態であると判定する。
図9は、本実施形態による水素フロント劣化抑制制御について説明するフローチャートである。コントローラ5は、このルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行する。
ステップS21において、コントローラ5は、DC/DCコンバータ46を制御して、所定周波数(本実施形態では0.4[Hz])の交流電圧を燃料電池スタック1の出力電圧に重畳する。
ステップS22において、コントローラ5は、所定周波数の交流電圧を重畳したときの燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを算出し、その内部インピーダンスZのインピーダンス実部Zrを算出する。以下では、このステップS22で算出したインピーダンス実部Zrを、「低周波側インピーダンス実部Zr」という。
ステップS23において、コントローラ5は、DC/DCコンバータ46を制御して、所定周波数よりも大きい周波数(本実施形態では1.0[Hz])の交流電圧を燃料電池スタック1の出力電圧に重畳する。
ステップS24において、コントローラ5は、所定周波数よりも大きい周波数(本実施形態では1.0[Hz])の交流電圧を重畳したときの燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを算出し、その内部インピーダンスZのインピーダンス実部Zrを算出する。以下では、このステップS24で算出したインピーダンス実部Zrを、「高周波側インピーダンス実部Zr」という。
ステップS25において、コントローラ5は、高周波側インピーダンス実部Zrから低周波側インピーダンス実部Zrを引いた差分ΔZrを算出する。
ステップS26において、コントローラ5は、差分ΔZrが0より大きいか否かを判定する。コントローラ5は、差分ΔZrが0より大きければ、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態であると判定してステップS5の処理を行う。一方でコントローラ5は、差分ΔZrが0以下であれば、アノードガス流路121の水素濃度が高い状態であると判定してステップS6の処理を行う。
以上説明した本実施形態による燃料電池システム100は、異なる2つの周波数の交流電圧を重畳し、低周波数側の交流電圧を重畳した場合のインピーダンス実部Zrの値と、高周波数側の交流電圧を重畳した場合のインピーダンス実部Zrの値とに基づいて、前記燃料電池内のアノード側の水素濃度を推定する。そして、低周波数側の交流電圧を重畳した場合のインピーダンス実部Zrの値が、高周波数側の交流電圧を重畳した場合のインピーダンス実部Zrの値よりも小さいときに、アノードガス流路121の水素濃度が低いと判定する。
このように、アノードガス流路121の水素濃度が低下している場合において、重畳する交流電圧の周波数が低いほうが、重畳分の電圧増によってアノード電極112が高電位にさらされる時間が長くなるので、アノード電極112中の白金触媒の酸化が促進されやすく、アノード電極112の反応抵抗が顕著に増加する。そのため、重畳する交流電圧の周波数が低いときのほうが、インピーダンス実部Zrの値は小さくなる。
したがって、本実施形態のように、異なる2つの周波数の交流電圧を重畳したときに計測した各インピーダンス実部Zrの値を比較することでも、第1実施形態と同様に精度良く燃料電池スタック1内のアノードガス流路121の水素濃度を推定することができる。
また本実施形態では、低周波数側の交流電圧の周波数を、ちょうどインピーダンス実部Zrが負の値になり始める所定周波数(本実施形態では0.4[Hz])に設定し、高周波側の交流電圧の周波数をそれよりも大きい周波数(本実施形態では1.0[Hz])に設定した。
これにより、第1実施形態よりも高い周波数の交流電圧を重畳してアノードガス流路121の水素濃度が低下しているか否かを判定することができるので、判定に要する時間を短くすることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本発明の第3実施形態は、インピーダンス実部Zrの値に基づいて、水素フロント劣化抑制制御時におけるアノードガス供給流量を制御する点で第2実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。
図10は、重畳する交流電圧の周波数を数ヘルツから減少させていったときの内部インピーダンスZを複素平面にプロットしたナイキスト線図である。図10において、実線はアノードガス流路121の水素濃度が低いときのナイキスト線図であり、破線はアノードガス流路121の水素濃度が高いときのナイキスト線図である。
図10に示すように、同じ低周波数の交流電圧を重畳した場合でも、アノードガス流路121の水素濃度に応じて、インピーダンス実部Zrの値は変化する。具体的には、アノードガス流路121の水素濃度が低いときほどインピーダンス実部Zrの値は小さくなる。
そこで本実施形態では、予め実験等によって、ある低周波数の交流電圧を重畳したときのインピーダンス実部Zrの値を、アノードガス流路121の水素濃度ごとに検出しておく。そして、この実験結果に基づいて、インピーダンス実部Zrの値からアノードガス流路121の水素濃度を算出するテーブル(図13参照)を作成する。そして、このテーブルに基づいて算出したアノードガス流路121の水素濃度が低いときほど、水素フロント劣化抑制制御時のアノードガス供給流量を多くする。
図11は、本実施形態による水素フロント劣化抑制制御について説明するフローチャートである。コントローラ5は、このルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行する。
ステップS31において、コントローラ5は、アノードガス流路121の水素濃度が低い状態(水素濃度不足の状態)であるとして、低水素濃度時用のガス供給処理を行う。低水素濃度時用のガス供給処理の詳細については、図12を参照して説明する。
図12は、低水素濃度時用のガス供給処理について説明するフローチャートである。
ステップS311において、コントローラ5は、図13のテーブルを参照し、低周波側インピーダンス実部Zrに基づいて、アノードガス流路121の水素濃度を算出する。
ステップS312において、コントローラ5は、図14のテーブルを参照し、アノードガス流路121の水素濃度に基づいて、水素フロント劣化を抑制するために必要なアノードガス供給流量を算出する。図14に示すように、アノードガス流路121の水素濃度が低いとき、すなわち同じ周波数の交流電圧を重畳したときのインピーダンス実部Zrの値が小さいときほど、水素フロント劣化を抑制するために必要なアノードガス供給流量を大きくする。
ステップS313において、コントローラ5は、ステップS312で算出した流量のアノードガスを供給すると共に、アノードガスの供給流量に応じて、排出ガスの水素濃度を所定濃度まで希釈するために必要なカソードガスを供給する。
以上説明した本実施形態による燃料電池システム100は、アノードガス流路121の水素濃度が低いと判定されたときは、インピーダンス実部Zrの値が小さいときほど、水素フロント劣化抑制制御に燃料電池スタック1に供給するアノードガスの流量を多くする。
これにより、アノードガス流路121の水素濃度に応じて、水素フロント劣化抑制制御に燃料電池スタック1に供給するアノードガスの流量を調節することができるので、水素フロント劣化を抑制するために余分にアノードガスを供給しなくて済む。そのため、燃費の悪化を防止できる。また、余分にアノードガスを供給しなくて済むので、カソードガスの供給流量も抑えることができる。よって、カソードコンプレッサの消費電力を抑えることができ、燃費を向上させることができる。また、カソードコンプレッサの回転速度も抑えることができるので、音振性能も向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、上記の第1実施形態においても、第3実施形態のようにインピーダンス実部Zrの値が小さいときほど、水素フロント劣化抑制制御に燃料電池スタック1に供給するアノードガスの流量を多くしても良い。