以下、図面等を参照して、本発明の一実施形態による燃料電池システムについて説明する。
燃料電池は、燃料極としてのアノード電極と酸化剤極としてのカソード電極とによって電解質膜を挟んで構成される。燃料電池は、アノード電極に供給される水素を含有するアノードガス及びカソード電極に供給される酸素を含有するカソードガスを用いて発電する。アノード電極及びカソード電極において進行する電極反応は、以下の通りである。
アノード電極: 2H2 → 4H++4e- ・・・(1)
カソード電極: 4H++4e-+O2 → 2H2O ・・・(2)
これら(1)、(2)の電極反応によって、燃料電池には1V(ボルト)程度の起電力が生じる。
図1及び図2は、本発明の一実施形態による燃料電池10の構成を説明するための図である。図1は燃料電池10の斜視図であり、図2は図1の燃料電池10のII−II断面図である。
図1及び図2に示すように、燃料電池10は、膜電極接合体(MEA)11と、MEA11を挟むように配置されるアノードセパレータ12及びカソードセパレータ13と、を備える。
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード電極112を有しており、他方の面側にカソード電極113を有している。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、適度な湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
アノード電極112は、触媒層112Aとガス拡散層112Bとを備える。触媒層112Aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子により形成された部材であって、電解質膜111と接するように設けられる。ガス拡散層112Bは、触媒層112Aの外側に配置される。ガス拡散層112Bは、ガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスで形成された部材であって、触媒層112A及びアノードセパレータ12と接するように設けられる。
アノード電極112と同様に、カソード電極113も触媒層113Aとガス拡散層113Bとを備える。触媒層113Aは電解質膜111とガス拡散層113Bとの間に配置され、ガス拡散層113Bは触媒層113Aとカソードセパレータ13との間に配置される。
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112Bの外側に配置される。アノードセパレータ12は、アノード電極112にアノードガス(水素ガス)を供給するための複数のアノードガス流路121を備えている。アノードガス流路121は、溝状通路として形成されている。
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113Bの外側に配置される。カソードセパレータ13は、カソード電極113にカソードガス(空気)を供給するための複数のカソードガス流路131を備えている。カソードガス流路131は、溝状通路として形成されている。
アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。なお、アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、これらガスの流れ方向が同じ向きに流れるように構成されてもよい。
このような燃料電池10を自動車用電源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池10を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両を駆動させるための電力を取り出す。
図3は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、冷却装置4と、電力システム5と、コントローラ6と、を備えている。
燃料電池スタック1は、複数枚の燃料電池10(単位セル)を積層した積層電池である。燃料電池スタック1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。燃料電池スタック1は、電力を取り出す出力端子として、アノード電極側端子1Aと、カソード電極側端子1Bと、を有している。
カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外部に排出する。カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、カソード圧力センサ26と、水分回収装置(WRD;Water Recovery Device)27と、カソード調圧弁28と、を備える。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21の一端はフィルタ23に接続され、他端は燃料電池スタック1のカソードガス入口部に接続される。
カソードガス排出通路22は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22の一端は燃料電池スタック1のカソードガス出口部に接続され、他端は開口端として形成される。カソードオフガスは、カソードガス、及び電極反応によって生じた水蒸気等を含む混合ガスである。
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込まれるカソードガスに含まれる塵や埃等を除去する部材である。
カソードコンプレッサ25は、フィルタ23よりも下流側のカソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21内のカソードガスを圧送して燃料電池スタック1に供給する。
エアフローセンサ24は、フィルタ23とカソードコンプレッサ25との間のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ25とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。カソード圧力センサ26で検出されたカソードガス圧力は、燃料電池スタック1のカソードガス流路等を含むカソード系全体の圧力を代表する。
WRD27は、カソードガス供給通路21とカソードガス排出通路22とに跨って接続される。WRD27は、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分を用いてカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を調整する。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスをカソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノード圧力センサ34と、アノードガス排出通路35と、バッファタンク36と、パージ通路37と、パージ弁38と、を備える。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する容器である。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池スタック1に供給する通路である。アノードガス供給通路32の一端は高圧タンク31に接続され、他端は燃料電池スタック1のアノードガス入口部に接続される。
アノード調圧弁33は、高圧タンク31よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を調整する。
アノード圧力センサ34は、アノード調圧弁33よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ34は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。アノード圧力センサ34で検出されたアノードガス圧力は、バッファタンク36や燃料電池スタック1のアノードガス流路等を含むアノード系全体の圧力を代表する。
アノードガス排出通路35は、燃料電池スタック1から排出されたアノードオフガスを流す通路である。アノードガス排出通路35の一端は燃料電池スタック1のアノードガス出口部に接続され、他端はバッファタンク36に接続される。アノードオフガスには、電極反応で使用されなかったアノードガスや、カソード電極側からアノード電極側へとリークしてきた窒素等の不純物ガス等が含まれる。
バッファタンク36は、アノードガス排出通路35を流れてきたアノードオフガスを一時的に蓄える容器である。バッファタンク36に溜められたアノードオフガスは、パージ弁38が開かれる時に、パージ通路37を通ってカソードガス排出通路22に排出される。
パージ通路37は、アノードオフガスを排出するための通路である。パージ通路37の一端はバッファタンク36の下流部に接続され、他端はカソード調圧弁28よりも下流のカソードガス排出通路22に接続される。
パージ弁38は、パージ通路37に設けられる。パージ弁38は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス排出通路35からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスのパージ流量を制御する。
パージ弁38が開弁状態となるパージ制御が実行されると、アノードオフガスは、パージ通路37及びカソードガス排出通路22を通じて外部に排出される。この時、アノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合される。このようにアノードオフガスとカソードオフガスとを混合させて外部に排出することで、混合ガス中のアノードガス濃度(水素濃度)が排出許容濃度以下の値に設定される。
冷却装置4は、冷却液によって燃料電池スタック1を冷却するための装置である。冷却装置4は、循環通路41と、循環ポンプ42と、ラジエータ43と、温度センサ44,45と、を備える。
循環通路41は、燃料電池スタック1を冷却するための冷却液が流れる通路である。循環通路41の一端は燃料電池スタック1の冷却液入口部に接続され、他端は燃料電池スタック1の冷却液出口部に接続される。
循環ポンプ42は、冷却液を循環させるポンプであって、冷却液出口部寄りの循環通路41に設置される。
ラジエータ43は、燃料電池スタック1から排出された冷却液を冷却するための放熱器であって、循環ポンプ42よりも下流側の循環通路41に設置される。なお、燃料電池システム100には、ラジエータ43に外気等を送風し、冷却液の放熱を促進するラジエータ用ファンを設けてもよい。
温度センサ44,45は、循環通路41を流れる冷却液の温度を検出するセンサである。温度センサ44は、燃料電池スタック1の冷却液入口部寄りの循環通路41に設けられ、燃料電池スタック1に流入する冷却液の温度を検出する。一方、温度センサ45は、燃料電池スタック1の冷却液出口部寄りであって、燃料電池スタック1と循環ポンプ42との間の循環通路41に設けられる。温度センサ45は、燃料電池スタック1から排出された冷却液の温度を検出する。
電力システム5は、電流センサ51と、電圧センサ52と、走行モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、を備える。
電流センサ51は、燃料電池スタック1から取り出される出力電流を検出する。電圧センサ52は、燃料電池スタック1の出力電圧、つまりアノード電極側端子1Aとカソード電極側端子1Bの間の端子間電圧を検出する。電圧センサ52は、燃料電池10の1枚ごとの電圧を検出するように構成されてもよいし、燃料電池10の複数枚ごとの電圧を検出するように構成されてもよい。
走行モータ53は、三相交流同期モータであって、車輪を駆動するため駆動源である。走行モータ53は、燃料電池スタック1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能と、を有する。
インバータ54は、IGBT等の複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によってスイッチング制御され、これにより直流電流が交流電流に、又は交流電流が直流電流に変換される。走行モータ53を電動機として機能させる場合、インバータ54は、燃料電池スタック1の出力電流とバッテリ55の出力電流との合成直流電流を三相交流電流に変換し、走行モータ53に供給する。これに対して、走行モータ53を発電機として機能させる場合、インバータ54は、走行モータ53からの三相交流電流を直流電流に変換し、バッテリ55に供給する。
バッテリ55は、燃料電池スタック1の出力電力の余剰分及び走行モータ53の回生電力が充電されるように構成されている。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じてカソードコンプレッサ25等の補機類や走行モータ53に供給される。
DC/DCコンバータ56は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機である。DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御することで、燃料電池スタック1の出力電流等が調整される。
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ6には、電流センサ51や電圧センサ52等の各種センサからの信号の他、イグニッションスイッチ61等からの信号が入力される。イグニッションスイッチ61は、燃料電池システム100の動作状態をオンまたはオフするために操作されるスタータスイッチである。
コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード調圧弁33やカソード調圧弁28、カソードコンプレッサ25等を制御し、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスやカソードガスの圧力や流量を調整する。
コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、燃料電池スタック1の目標出力電力を算出する。コントローラ6は、走行モータ53の要求電力やカソードコンプレッサ25等の補機類の要求電力、バッテリ55の充放電要求等に基づいて、目標出力電力を算出する。コントローラ6は、目標出力電力に基づいて、予め定められた燃料電池スタック1のIV特性(電流電圧特性)を参照して燃料電池スタック1の目標出力電流を算出する。そして、コントローラ6は、燃料電池スタック1の出力電流が目標出力電流となるように、DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御し、走行モータ53や補機類に必要な電流を供給する。
また、コントローラ6は、燃料電池スタック1の各電解質膜111の湿潤状態(含水量)が発電に適した状態となるように、カソードコンプレッサ25等を制御する。コントローラ6は、電解質膜111の湿潤状態と相関関係のある燃料電池スタック1の内部インピーダンスを算出し、この内部インピーダンスが目標値となるようにカソードコンプレッサ25等を制御する。このような湿潤制御に用いられる内部インピーダンスは、燃料電池スタック1から出力される高周波数の交流信号(交流電流及び交流電圧)に基づいて算出される。
さらに、コントローラ6は、運転者等によりシステム停止操作がなされた場合等のシステム停止要求時に、燃料電池システム100を停止するためのシステム停止制御を実行する。このシステム停止制御には、アノード調圧弁33及びパージ弁38を閉弁し、燃料電池スタック1のアノード系内にアノードガスを封入した状態で運転停止する放置停止処理が含まれる。
放置停止処理によりアノード極側にアノードガスが封入されると、放置停止処理後にアノードガスの一部が電解質膜を透過してカソード極側に拡散する。このように拡散したアノードガスによりカソード極側のカソードガスの分圧が低くなるため、システム停止中における燃料電池スタック1での不要な発電反応が抑えられる。その結果、燃料電池スタック1の劣化を抑制することができる。
しかしながら、カソード極側に拡散したアノードガスは、時間の経過とともにカソードコンプレッサ25等を通過してシステム外部に漏出したり、次回システム起動時のカソードガス供給によりシステム外部に排出されたりする。つまり、カソード極側に拡散したアノードガスは、燃料電池スタック1での発電に使用されずに、システム外部に放出されることとなる。燃料電池スタック1の燃費性能を改善するためには、システム停止時にアノード極側に封入されたアノードガスが必要以上にカソード極側に拡散してしまうことを抑制することが望ましい。
これに関し、本願発明者は、電解質膜111がドライ状態になるほど、封入されたアノードガスのカソード極側への拡散速度が低下することを見出し(図4参照)、電解質膜111の湿潤状態に応じて、放置停止処理開始時におけるアノードガスの放置開始圧力の最適化を図った(図5参照)。
図4を参照して、電解質膜111の湿潤状態と相関関係のある内部インピーダンスRと、放置停止処理中のアノードガスの拡散速度との関係について説明する。
燃料電池10の電解質膜111が乾燥するほど、アノード極側に封入されたアノードガスは電解質膜111を透過しにくくなる。そのため、電解質膜111が乾燥して燃料電池スタック1の内部インピーダンスRが大きくなるほど、アノードガスがアノード極側からカソード極側へと拡散する速度は低下する。
上記の通り、電解質膜111の湿潤状態に応じてアノードガスの拡散速度は変化するので、アノードガスの放置開始圧力は、図5に示すように電解質膜111の湿潤状態と相関のある内部インピーダンスに応じて設定される。つまり、燃料電池システム100では、内部インピーダンスRが大きくなるほど、アノードガスの放置開始圧力が低く設定される。なお、放置停止処理においては、処理開始後から目標保持時間(例えば数時間)を経過するまでアノード系内に所定量のアノードガスが残留している必要があるため、図5の放置開始圧力はこの点を考慮した圧力値として設定されている。
このように、内部インピーダンスR(電解質膜111の湿潤状態)に応じた最適なアノードガスの放置開始圧力を設定することで、放置停止処理において必要最低限のアノードガスをアノード極側に封入することができる。その結果、放置停止処理中にアノードガスが必要以上にカソード極側に拡散してしまうことを抑制でき、さらに目標保持時間経過後も所定量のアノードガスをアノード極側に残留させておくことができる。
図6を参照して、燃料電池システム100のコントローラ6が実行するシステム停止制御の詳細について説明する。
ステップ101(S101)では、コントローラ6は、イグニッションスイッチ61がオフされたか否かを判定する。イグニッションスイッチ61がオフされた場合、コントローラ6は、システム停止要求時と判定して、S102以降の処理を実行する。これに対して、イグニッションスイッチ61がオンのままであってオフされていない場合、コントローラ6は、システム停止制御を一旦終了させる。
S102では、コントローラ6は、燃料電池スタック1の電解質膜111を乾燥させるドライ処理を実行する。このように、コントローラ6はドライ処理を所定期間実行するドライ処理実行部として機能する。ドライ処理では、例えばカソードガス流量が、システム停止前の通常発電時に設定される流量よりも高いドライ処理用流量に設定される。なお、ドライ処理はドライ処理終了条件が成立するまで実行される。
S103では、コントローラ6は、従来から知られている交流インピーダンス法を用いて、ドライ処理中の燃料電池スタック1の内部インピーダンスRを算出する。このように、コントローラ6は、電解質膜111の湿潤状態と相関のある内部インピーダンスRを検出するインピーダンス算出部として機能する。
例えば、コントローラ6は、DC/DCコンバータ56を制御し、燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧が高周波数(例えば数十kHz)を有する交流信号となるように燃料電池スタック1の出力を調整して、この時検出される出力電流値及び出力電圧値に基づいて燃料電池スタック1の内部インピーダンスRを算出する。なお、外部電源を用いて燃料電池スタック1に交流電圧を印加し、この印加電圧と、燃料電池スタック1から出力される交流電流とに基づいて、内部インピーダンスRを算出してもよい。
S104では、コントローラ6は、S103で算出した内部インピーダンスRに応じてアノード調圧弁33の開度を調整し、ドライ処理中のアノードガス圧力を所定圧に制御する。このように、コントローラ6はドライ処理中のアノードガス圧力を所定圧に制御する圧力制御部として機能する。
コントローラ6は、図5の内部インピーダンスRと放置開始圧力との特性図を参照し、アノードガス圧力を内部インピーダンスRに応じた所定圧(放置開始圧力)に設定する。ドライ処理実行時には、燃料電池スタック1の電解質膜111は徐々に乾燥し、それに応じて内部インピーダンスRは上昇するため、アノードガス圧力は内部インピーダンスRの上昇に合わせて低下するように制御される。なお、ドライ処理が終了される時に設定されているアノードガス圧力が、後述する放置停止処理開始時の放置開始圧力となる。
S105では、コントローラ6は、S103で算出された内部インピーダンスRが予め設定された第1基準値R1以上であるか否かを判定する。
第1基準値R1は、システム停止後の燃料電池スタック1が低温環境下にある場合において電解質膜111の凍結を抑制可能な程度の湿潤状態となっているか否かを判定するための閾値である。
内部インピーダンスRが第1基準値R1よりも小さい場合には、コントローラ6は電解質膜111が十分に乾燥していないと判定し、S102以降の処理を実行する。
これに対して、内部インピーダンスRが第1基準値R1以上である場合には、コントローラ6は、電解質膜111が凍結の影響を受けにくい湿潤状態まで乾燥していると判定し、S106の処理を実行する。S106〜S108の処理は、ドライ処理終了条件が成立したか否かを判定するための処理であり、コントローラ6のドライ処理実行部により実行される。
S106では、コントローラ6は、S103で算出された内部インピーダンスRが予め設定された第2基準値R2以上であるか否かを判定する。
第2基準値R2は、第1基準値R1よりも大きく設定された値であって、電解質膜111の湿潤状態のドライ側限界を判定するための閾値(ドライ限界値)である。
内部インピーダンスRが第2基準値R2以上である場合、コントローラ6は、電解質膜111の湿潤状態がドライ限界に達し、ドライ処理終了条件が成立したと判定する。そして、コントローラ6は、ドライ処理を終了させ、S109の放置前処理を実行する。S109の放置前処理については後述する。
これに対して、内部インピーダンスRが第2基準値R2よりも小さい場合には、コントローラ6は、電解質膜111の湿潤状態がドライ限界に達していないと判定し、ドライ処理を継続しつつS107の処理を実行する。
S107では、コントローラ6は、内部インピーダンスRが第1基準値R1を超えてから所定時間を経過したか否かを判定する。所定時間は、例えば数十秒から数分の範囲内の値であり、ドライ処理が長くなりすぎない程度に設定される時間である。
内部インピーダンスRが第1基準値R1に達してから所定時間経過した場合には、コントローラ6は、ドライ処理が長時間実行されている判定し、ドライ処理を終了させる。その後、コントローラ6はS109の放置前処理を実行する。
これに対して、内部インピーダンスRが第1基準値R1に到達してから所定時間経過していない場合には、コントローラ6は、ドライ処理を継続しつつS108の処理を実行する。
S108では、コントローラ6は、ドライ処理中の燃料電池スタック1での発電により消費されたアノードガスの量(発電消費水素量)と、ドライ処理中に設定されたアノードガス圧力を放置開始圧力とした時にアノード極側からカソード極側に拡散するアノードガスの量(拡散消費水素量)とに基づいて、ドライ処理終了条件の成立の有無を判定する。
発電消費水素量Ncは、ドライ処理中の燃料電池スタック1の出力電流値Ifc及び定数Aに基づいて、下記(1)式により算出される。
発電消費水素量Ncは、ドライ処理中の燃料電池スタック1での発電により消費されるアノードガスの量であるため、図7(D)に示すようにドライ処理が進行するほど増加する。
一方、拡散消費水素量Ndは、ドライ処理中のアノードガス圧力Pan、大気圧P0、アノード極側体積Van、及び補正係数f(T)に基づいて、下記(2)式により算出される。アノード極側体積Vanはアノード調圧弁33からパージ弁38までのアノードガス通路(アノード系)の体積であり、補正係数f(T)は冷却液が60°であると想定した時の燃料電池温度要因の補正値である。
拡散消費水素量Ndは、ドライ処理中のアノードガス圧力を放置開始圧力とした時にカソード極側に拡散するアノードガスの量であるため、図7(B)及び(C)に示すようにドライ処理が進行して放置開始圧力が低く設定されるほど低下する。
コントローラ6は、発電消費水素量Ncを用いて単位時間当たりの発電消費水素量の変化量(dNc/dt)を算出するとともに、拡散消費水素量Ndを用いて単位時間当たりの拡散消費水素量の変化量(dNd/dt)を算出する。発電消費水素量の変化量は例えば異なるタイミングで演算された2つの発電消費水素量に基づいて算出され、拡散消費水素量の変化量は例えば異なるタイミングで演算された2つの拡散消費水素量に基づいて算出される。このように、コントローラ6は、単位時間当たりの発電消費水素量の変化量を算出する第1算出部、及び単位時間当たりの拡散消費水素量の変化量を算出する第2算出部として機能する。
S108では、コントローラ6は、単位時間当たりの発電消費水素量の変化量の絶対値が単位時間当たりの拡散消費水素量の変化量の絶対値以上であるか否かを判定する。
発電消費水素量の変化量の絶対値が拡散消費水素量の変化量の絶対値以上である場合、コントローラ6は、ドライ処理中の発電でのアノードガス消費の増大に伴って燃費性能が悪化すると判断し、ドライ処理を終了させる。その後、コントローラ6はS109の放置前処理を実行する。
これに対して、発電消費水素量の変化量の絶対値が拡散消費水素量の変化量の絶対値より小さい場合、コントローラ6は、ドライ処理を継続した方が燃費性能が改善すると判断し、S102以降の処理を実行する。
S109では、コントローラ6は放置前処理を実行する。
放置前処理では、カソードコンプレッサ25を停止し、燃料電池スタック1へのカソードガスの供給を止める。この時、カソード調圧弁28は閉弁される。放置前処理では、カソードガスの供給を停止した状態で燃料電池スタック1から電流を取り出すことで、カソード極側のカソードガスを消費させ、燃料電池スタック1の出力電圧を所定電圧値まで低下させる。これにより、燃料電池スタック1が高電圧状態のまま停止されることがなく、電池劣化を防止できる。
なお、放置前処理では、コントローラ6は、ドライ処理終了時におけるアノードガス圧力(放置開始圧力)が維持されるようにアノード調圧弁33を制御する。本実施形態では、コントローラ6は、ドライ処理と後述する放置停止処理の間に放置前処理を実行するが、ドライ処理後に放置停止処理を実行して放置前処理を省略してもよい。
S110では、コントローラ6は放置停止処理を実行し、燃料電池システム100を停止して起動待ち状態とする。
放置停止処理では、コントローラ6は、アノード調圧弁33及びパージ弁38を全閉状態に制御し、燃料電池スタック1のアノード系内にアノードガスを封入する。放置前処理で維持されたドライ処理終了時のアノードガス圧力が放置停止処理における放置開始圧力となる。なお、放置停止処理においては、カソードコンプレッサ25は停止され、カソード調圧弁28は閉弁される。
放置停止処理により、アノード系内のアノードガスの一部は電解質膜111を透過してカソード極側に拡散する。このように拡散したアノードガスによりカソード極側のカソードガスの分圧が低くなるため、システム停止中における燃料電池スタック1での不要な発電反応が抑えられる。その結果、発電に起因する燃料電池スタック1の劣化を抑制することができる。
アノードガスの放置開始圧力は、電解質膜111の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック1の内部インピーダンスに応じた最適圧に設定されている(図5参照)。そのため、放置停止処理後にアノードガスが必要以上にカソード極側に拡散してしまうことを抑制することが可能となる。
図7のタイミングチャートを参照して、システム停止制御の一例について説明する。図7は、発電消費水素量の変化量の絶対値が拡散消費水素量の変化量の絶対値以上となってドライ処理が終了し、放置前処理及び放置停止処理が実行される場合を例示している。
図7に示すように、時刻t1でイグニッションスイッチ61がオンからオフに操作されると、コントローラ6は、システム停止要求があると判定し、システム停止制御を開始する。コントローラ6は、システム停止制御の一処理として、各燃料電池10の電解質膜111を乾燥させるドライ処理を実行する。
ドライ処理により電解質膜111の湿潤状態がドライ側に調整されるため、燃料電池スタック1の内部インピーダンスは徐々に増加していく。ドライ処理後に実行される放置停止処理のアノードガスの放置開始圧力にはカソード極側へのアノードガスの拡散を極力低減可能な最適圧があり、その最適圧は電解質膜111の湿潤状態、つまり内部インピーダンスに応じて変化する。
コントローラ6は、図5の特性図を参照し、ドライ処理中に検出された燃料電池スタック1の内部インピーダンスに基づいて、アノード系内のアノードガス圧力を放置停止処理に最適な所定圧(放置開始圧力)に設定する。
さらに、コントローラ6は、ドライ処理中に拡散消費水素量及び発電消費水素量を算出し(図7(C)及び(D)参照)、これら消費水素量の変化量を比較することで、ドライ処理の終了タイミングを判定している。時刻t2において、単位時間当たりの発電消費水素量の変化量(傾き)の絶対値が単位時間当たりの拡散消費水素量の変化量(傾き)の絶対値以上になると、コントローラ6はドライ処理での発電によりアノードガスが無駄に消費されるおそれがあると判断し、ドライ処理を終了させる。
時刻t2において、システム停止制御はドライ処理から放置前処理に以降する。放置前処理では、カソードガスの供給を停止した状態で燃料電池スタック1の発電を行うことにより、出力電圧を所定電圧値まで低下させる。放置前処理中のアノードガス圧力は、ドライ処理終了時のアノードガス圧力のまま維持される。
時刻t3において燃料電池スタック1の出力電圧が所定電圧値まで低下すると、ドライ処理終了時のアノードガス圧力を放置開始圧力として放置停止処理が開始される。放置停止処理では、アノード調圧弁33及びパージ弁38が全閉状態に制御され、アノード系内にアノードガスが封入される。
アノード極側のアノードガスの一部は電解質膜111を透過してカソード極側に拡散するため、放置停止処理後のアノードガス圧力は緩やかに低下する。このように拡散したアノードガスによりカソード極側のカソードガスの分圧が低くなるため、システム停止中における燃料電池スタック1での不要な発電反応が抑えられる。さらに、放置開始圧力は内部インピーダンスに応じた最適圧に設定されているため(図5参照)、封入されたアノードガスが必要以上にカソード極側に拡散してしまうことが抑制される。
上記した本実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の効果を得ることができる。
燃料電池システム100のコントローラ6は、システム停止要求後に燃料電池スタックの内部インピーダンスを検出し、燃料電池スタック1のアノード系内のアノードガス圧力を内部インピーダンスに応じた所定圧に制御して、所定圧を放置開始圧力として放置停止処理を実行する。より具体的には、コントローラ6は、内部インピーダンスの値が大きいほど所定圧(放置開始圧力)を低下させる。
このように、内部インピーダンスR(電解質膜111の湿潤状態)に応じた最適な放置開始圧力を設定することで、放置停止処理において必要最低限のアノードガスをアノード極側に封入することができる。これにより、放置停止処理中にアノードガスが必要以上にカソード極側に拡散してしまうことを抑制でき、燃料電池システム100における燃費性能を改善することが可能となる。
燃料電池システム100のコントローラ6は、システム停止要求後に、燃料電池スタック1の電解質膜111を乾燥させるドライ処理を所定期間実行する。そして、コントローラ6は、ドライ処理中に燃料電池スタック1の内部インピーダンスを検出し、その内部インピーダンスに応じてアノードガス圧力(放置開始圧力)を設定する。このようにドライ処理を実行して電解質膜111を乾燥させることで、アノードガスが電解質膜111を通過しにくくなるので、放置停止処理中にアノードガスが必要以上にカソード極側に拡散してしまうことをより確実に抑制できる。
さらに、コントローラ6は、内部インピーダンスが予め設定された第1基準値を超えてから所定時間経過した場合にドライ処理を終了させる。電解質膜111が凍結しにくい状態まで乾燥した後、ドライ処理が無駄に長く実行されることを防止できる。
さらに、コントローラ6は、内部インピーダンスが第1基準値よりも大きく設定された第2基準値(ドライ限界値)を超えた場合にドライ処理を終了させる。これにより、電解質膜111が乾燥しすぎてしまうことを回避でき、ドライ処理に起因する燃料電池スタック1の劣化を抑制することが可能となる。
さらに、コントローラ6は、ドライ処理中の燃料電池スタック1の出力電流から演算された発電消費水素量を用いて単位時間当たりの発電消費水素量の変化量を算出し、ドライ処理中のアノードガス圧力から演算された拡散消費水素量を用いて単位時間当たりの拡散消費水素量の変化量を算出する。そして、コントローラ6は、内部インピーダンスが第1基準値以上で、かつ発電消費水素量の変化量の絶対値が拡散水素量の変化量の絶対値以上である場合にドライ処理を終了させる。
このように、コントローラ6は、発電消費水素量の変化量の絶対値が拡散消費水素量の変化量の絶対値以上である場合に、ドライ処理中の発電でのアノードガス消費の増大に伴って燃費性能が悪化すると判断し、ドライ処理を終了させる。これにより、ドライ処理を適切なタイミングで終了させることができ、燃料電池システム100における燃費性能を改善することが可能となる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
本実施形態では、コントローラ6は、前述した(2)式に基づいて拡散消費水素量Ndを算出する。(2)式においてf(T)は、一定値であるとしたが、燃料電池スタック1の温度に応じて定まる補正係数としてもよい。燃料電池スタック1の温度には、例えば温度センサ44及び温度センサ45で検出される冷却液温度の平均値が採用される。そして、f(T)の値は、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど大きく設定される。
(2)式に基づく拡散消費水素量Ndの算出に際し、燃料電池スタック1の温度に応じて定まる補正係数f(T)を用いることで、拡散消費水素量Ndの算出精度を高めることができる。その結果、図6のS108において、ドライ処理終了条件をより正確に判定することが可能となる。
さらに、コントローラ6は、(2)式ではなく、以下の(3)式により拡散消費水素量Ndを算出するよう構成されてもよい。
(3)式では、アノード極側体積Vanは、アノードガス圧力と燃料電池スタック1を冷却する冷却液の液圧との差圧に応じて定まる補正係数ΔVanにより補正される。
積層電池である燃料電池スタック1のアノード極側体積Vanはアノードガス圧力や冷却液の液圧に応じて変化する。例えば、燃料電池スタック1では、アノードガス圧が冷却液圧よりも相対的に大きくなればアノードガスにより各燃料電池10が押されてアノード極側体積Vanが大きくなり、冷却液圧がアノードガス圧よりも相対的に大きくなれば冷却液により各燃料電池10が押されてアノード極側体積Vanが小さくなる。したがって、図8に示すように、補正係数ΔVanは、アノードガス圧力Panから冷却液圧Pclを差し引いた差圧が大きくなるほど大きな値に設定される。
(3)式に基づく拡散消費水素量Ndの算出に際し、アノードガス圧力Panと冷却液圧Pclとの差圧に応じて定まる補正係数ΔVanを用いることで、拡散消費水素量Ndの算出精度を高めることができる。その結果、図6のS108において、ドライ処理終了条件をより正確に判定することが可能となる。なお、(3)式におけるf(T)は、(2)式の場合と同様に、燃料電池スタック1の温度に応じて定まる補正係数としてもよい。
さらに、コントローラ6は、(3)式ではなく、以下の(4)式により拡散消費水素量Ndを算出するよう構成されてもよい。
(4)式では、拡散消費水素量Ndの算出に際し、アノード系内のアノードガス濃度(水素濃度)が考慮されている。補正係数Cは、燃料電池スタック1のアノード系内のアノードガス濃度に応じて定まる補正係数である。
燃料電池システム100では、アノードガス濃度が高くなるほど、放置停止処理時にアノード極側からカソード極側に拡散する水素量は多くなる。したがって、補正係数Cは、図9に示すようにアノードガス濃度が高くなるほど大きな値に設定される。
(4)式に基づく拡散消費水素量Ndの算出に際し、燃料電池スタック1のアノード系内のアノードガス濃度に応じて定まる補正係数Cを用いることで、拡散消費水素量Ndの算出精度を高めることができる。その結果、図6のS108において、ドライ処理終了条件をより正確に判定することが可能となる。なお、(4)式におけるf(T)は、(2)式の場合と同様に、燃料電池スタック1の温度に応じて定まる補正係数としてもよい。
本実施形態による燃料電池システム100のコントローラ6は、ドライ処理を実行した後に放置停止処理を実行するよう構成されているが、ドライ処理を実行せずに放置停止処理を実行するよう構成されてもよい。この場合には、システム停止要求後に燃料電池スタック1の内部インピーダンスを検出し、検出した内部インピーダンスに応じてアノードガス圧力を所定の放置開始圧力に制御した後に、放置停止処理を実行する。
コントローラ6は、システム停止制御のS106〜S108においてドライ処理終了条件が成立したか否かを判定する。しかしながら、ドライ処理終了条件の判定としては、S106〜S108の全てを実行するのではなく、S106〜S108の処理のうち少なくとも一つの処理を実行すればよい。