以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とによって挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
図1及び図2は、本発明の一実施形態による燃料電池10の構成について説明する図である。図1は、燃料電池10の概略斜視図である。図2は、図1の燃料電池10のII−II断面図である。
燃料電池10は、MEA11の表裏両面に、アノードセパレータ12とカソードセパレータ13とが配置されて構成される。
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113と、を備える。MEA11は、電解質膜111の一方の面にアノード電極112を有し、他方の面にカソード電極113を有する。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
アノード電極112は、触媒層112aとガス拡散層112bとを備える。触媒層112aは、電解質膜111と接する。触媒層112aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子から形成される。ガス拡散層112bは、触媒層112aの外側(電解質膜111の反対側)に設けられ、アノードセパレータ12と接する。ガス拡散層112bは、充分なガス拡散性および導電性を有する部材によって形成され、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスで形成される。
カソード電極113もアノード電極112と同様に、触媒層113aとガス拡散層113bとを備える。
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112bと接する。アノードセパレータ12は、アノード電極112にアノードガスを供給するための複数の溝状のアノードガス流路121を有する。
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113bと接する。カソードセパレータ13は、カソード電極113にカソードガスを供給するための複数の溝状のカソードガス流路131を有する。
アノードガス流路121を流れるアノードガスと、カソードガス流路131を流れるカソードガスとは、互いに平行に逆方向に流れる。互いに平行に同一方向に流れるようにしても良い。
このような燃料電池10を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池10を積層した燃料電池スタック1として使用する。そして、燃料電池スタック1にアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システム100を構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
図3は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、電力系4と、コントローラ5と、を備える。
燃料電池スタック1は、複数枚の燃料電池10を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の駆動に必要な電力を発電する。燃料電池スタック1は、電力を取り出す端子として、アノード電極側出力端子1aと、カソード電極側出力端子1bと、を備える。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、カソード圧力センサ26と、水分回収装置(Water Recovery Device;以下「WRD」という。)27と、カソード調圧弁28と、を備える。カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外気に排出する。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給するカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21は、一端がフィルタ23に接続され、他端が燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
カソードガス排出通路22は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22は、一端が燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端が開口端となっている。カソードオフガスは、カソードガスと、電極反応によって生じた水蒸気と、の混合ガスである。
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
エアフローセンサ24は、カソードコンプレッサ25よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、カソードコンプレッサ25に供給されて、最終的に燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量(以下「カソード流量」という。)を検出する。
カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、フィルタ23を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、燃料電池スタック1に供給する。
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ25とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、WRD27のカソードガス入口部近傍のカソードガスの圧力を検出する。本実施形態では、このカソード圧力センサ26の検出値を、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力(以下「カソード圧力」という。)として代用する。
WRD27は、カソードガス供給通路21及びカソードガス排出通路22のそれぞれに接続されて、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分でカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ5によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧水素タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノードガス排出通路34と、パージ弁35と、アノード圧力センサ36と、を備える。
高圧水素タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧水素タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32は、一端が高圧水素タンク31に接続され、他端が燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ5によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノードガス排出通路34は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードガス排出通路34は、一端が燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端がカソードガス排出通路22に接続される。
アノードガス排出通路34を介してカソードガス排出通路22に排出されたアノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合されて燃料電池システム100の外部に排出される。アノードオフガスには、電極反応に使用されなかった余剰の水素が含まれているので、カソードオフガスと混合させて燃料電池システム100の外部に排出することで、その排出ガス中の水素濃度が予め定められた所定濃度以下となるようにしている。
パージ弁35は、アノードガス排出通路34に設けられる。パージ弁35は、コントローラ5によって開閉制御され、アノードガス排出通路34からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスの流量を制御する。
アノード圧力センサ36は、アノード調圧弁33よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ36は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力(以下「アノード圧力」という。)を検出する。
電力系4は、電流センサ41と、電圧センサ42と、走行モータ43と、インバータ44と、バッテリ45と、DC/DCコンバータ46と、を備える。
電流センサ41は、燃料電池スタック1から取り出される電流(以下「出力電流」という。)を検出する。
電圧センサ42は、アノード電極側出力端子1aとカソード電極側出力端子1bの間の端子間電圧(以下「出力電圧」という。)を検出する。また、燃料電池スタック1を構成する燃料電池10の1枚ごとの電圧を検出できるようにすると尚良い。さらに、複数枚おきに電圧を検出できるようにしても良い。
走行モータ43は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルを巻き付けた三相交流同期モータである。走行モータ43は、燃料電池スタック1及びバッテリ45から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、ロータが外力によって回転させられる車両の減速時にステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機としての機能と、を有する。
インバータ44は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの複数の半導体スイッチから構成される。インバータ44の半導体スイッチは、コントローラ5によって開閉制御され、これにより直流電力が交流電力に、又は、交流電力が直流電力に変換される。インバータ44は、走行モータ43を電動機として機能させるときは、燃料電池スタック1の発電電力とバッテリ45の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換して走行モータ43に供給する。一方で、走行モータ43を発電機として機能させるときは、走行モータ43の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換してバッテリ45に供給する。
バッテリ45は、燃料電池スタック1の発電電力(出力電流×出力電圧)の余剰分及び走行モータ43の回生電力を充電する。バッテリ45に充電された電力は、必要に応じてカソードコンプレッサ25などの補機類及び走行モータ43に供給される。
DC/DCコンバータ46は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機である。DC/DCコンバータ46によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御することで、燃料電池スタック1の出力電流、ひいては発電電力が制御される。
コントローラ5は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ5には、前述したエアフローセンサ24等のセンサ類の他にも、アクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出するアクセルストロークセンサ51やカソードコンプレッサ25の回転速度を検出する回転速度センサ52、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサ53などの燃料電池システム100の運転状態を検出するための各種センサ類からの信号が入力される。コントローラ5は、これらの入力信号に基づいて、燃料電池システム100を制御する。
ここで、MEA11の損傷や経時劣化によって、例えば電解質膜111に部分的に孔が生じると、その孔を介してアノードガス流路121からカソードガス流路131へと漏れ出すアノードガス量(水素クロスリーク量)が増加する。水素クロスリーク量が増加すると、カソードガス流路131からカソードガス排出通路22に排出されるカソードオフガス中の水素濃度が増大し、最終的に大気中に排出される排出ガス中の水素濃度が可燃濃度を超えるおそれがある。
したがって、水素クロスリーク量の増加によって排出ガス中の水素濃度が増大している可能性がある場合には、燃料電池システム100を停止することが望ましい。そのため従来は、水素クロスリーク量が増加しているか否かを検知し、水素クロスリーク量の増加を検知したときには燃料電池システム100を停止していた。
しかしながら、発明者の鋭意研究の結果、水素クロスリーク量が増加していたとしても、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリーク(孔開き)が生じていた場合には、カソードガス流路131に漏れ出した水素(以下「リーク水素」という。)がカソード電極113で酸素と反応して消費され、排出ガス中の水素濃度がほとんど増大しないことが知見された。一方で、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていた場合には、カソードガス流路131に漏れ出した水素がカソード電極113で酸素と反応することなく、そのままカソードガス排出通路22に排出されるので、排出ガス中の水素濃度が増大するこが知見された。
したがって、水素クロスリーク量が増加している場合に一律に燃料電池システム100を停止させるのではなく、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていた場合に燃料電池システム100を停止させたい。なぜなら、水素クロスリーク量が増加している場合に一律に燃料電池システム100を停止させると、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じていた場合には排出ガス中の水素濃度がほとんど増大しないので、不必要に燃料電池システム100を停止させたことになるからである。
このような不必要な燃料電池システム100の停止を防止するためには、水素クロスリーク量の増加を検知するだけでなく、さらにカソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを検知する必要がある。
そこで本実施形態では、水素クロスリーク量の増加を検知したときは、さらにカソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているかを検知する。以下、この本実施形態による水素クロスリーク診断について説明する。
まず、図4Aから図6Bを参照して、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているかを検知する方法について説明する。
図4Aは、カソードガス流路131の下流域以外、例えば上流域で水素クロスリークが生じている燃料電池10にアノードガス及びカソードガスを供給したときの、各反応ガスの流れを示した図である。図4Bは、その燃料電池10に供給するカソードガスの流量を変化させたときの開回路電圧の変化を示した図である。
図4Aに示すように、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じた場合は、リーク水素がカソードガスと混合されながらカソードガス流路131を下流に向かって流れることになる。これにより、リーク水素とカソードガス中の酸素とがカソード電極113で反応し、それぞれが消費されることになる。
そのため、前述したようにカソードガス流路131内でリーク水素が消費されることになるため、排出ガス中の水素濃度はほとんど増大しないが、その一方で、リーク水素と共に酸素も消費されることになる。
そのため、水素クロスリークが生じていない正常な燃料電池に同流量のカソードガスを供給した場合と比較すると、リーク水素が多くなるほどカソードガス流路131内の酸素濃度が低下する。
その結果、図4Bに示すように、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じた場合は、カソードガスの流量にかかわらず、水素クロスリークが生じていない正常な燃料電池の開回路電圧(以下「基準開回路電圧」という。)(概ね0.9[V]〜1.0[V])と比較して、酸素濃度の低下分だけ一律に開回路電圧が低下する。
これに対して、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていた場合は、下流域以外で生じていたときと比較して、開回路電圧の変化が異なる。
図5A及び図5Bは、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じている燃料電池10にアノードガス及びカソードガスを供給したときの、各反応ガスの流れを示した図である。なお、図5Aは、カソードガスの流量が多いときの様子を示した図であり、図5Bは、カソードガスの流量が少ないときの様子を示した図である。図5Cは、その燃料電池10に供給するカソードガスの流量を変化させたときの開回路電圧の変化を示した図である。
図5Aに示すように、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じた場合において、カソードガスの流量が多いときは、カソードガスの流れに沿って、リーク水素がカソード電極113で酸素と反応することなくそのままカソードガス排出通路22に排出される。そのため、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じた場合は、カソードガス流路131内の酸素濃度は低下しない。
したがって、図5Cに示すように、開回路電圧は基準開回路電圧と同等の値となる。
一方、図5Bに示すように、カソードガスの流量が少なくなってくると、リーク水素の一部がカソードガス流路131の下流域から上流域に向かって移動することが可能となって、カソードガスが押し戻される。
そのため、図5Cに示すように、カソードガスの流量が少なくなるにしたがって、カソード流路内がリーク水素で満たされていき、開回路電圧が0[V]に向かって急峻に低下する。
なお、下流域以外で水素クロスリークが生じた場合にカソードガスの流量を少なくしたときは、カソードガス流路内131のカソードガスが押し戻されるわけではない。そのため、リーク水素によってカソードガス流路内131の酸素が消費されて開回路電圧が0[V]に向かって低下するまでにはある程度の時間を要する。そのため、開回路電圧の変化が図4Bに示すようになっている。
図6Aは、カソードガス流路131の下流域のほか、下流域以外でも水素クロスリークが生じている燃料電池10にアノードガス及びカソードガスを供給したときの、各反応ガスの流れを示した図である。図6Bは、その燃料電池10に供給するカソードガスの流量を変化させたときの開回路電圧の変化を示した図である。
図6Aに示すように、カソードガス流路131の下流域のほか、下流域以外でも水素クロスリークが生じた場合は、下流域以外から漏れ出したリーク水素が、カソードガスと混合されながらカソードガス流路131を下流に向かって流れることになる。そのため、この下流域以外から漏れ出したリーク水素量に応じて酸素濃度が低下する。
したがって、図6Bに示すように、カソードガス流量が多いときは、酸素濃度の低下分だけ開回路電圧が基準開回路電圧よりも低下する。
そして、カソードガス流量を少なくしていくと、カソードガス流路131の下流域から漏れ出したリーク水素によってカソードガスの流れが阻害され、リーク水素の一部がカソードガス流路131の上流域にまで移動することが可能となる。
そのため、図6Bに示すように、カソードガスの流量が少なくなるにしたがって、カソード流路内がリーク水素で満たされていき、開回路電圧が0[V]に向かって急峻に低下する。
このように、水素クロスリーク量の増加を検知したときは、まず開回路電圧が基準開回路電圧よりも低下しているか否かを判定することで、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを判定することができる。
具体的には、開回路電圧が基準開回路電圧のままであれば、カソードガス流路131の下流域でのみ水素クロスリークが生じていると判定することができる。一方で、開回路電圧が基準開回路電圧よりも低くなっていれば、少なくともカソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じていると判定することができる。
そして、開回路電圧が基準開回路電圧よりも低くなった場合でも、下流域で水素クロスリークが生じている可能性はあるので、カソードガス流量を低下させて、開回路電圧がさらに低下するかを判定する。これにより、開回路電圧がさらに低下すれば、下流域でも水素クロスリークが生じていると判定できる。
図7は、本実施形態による水素クロスリーク診断について説明するフローチャートである。コントローラ5は、このルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行する。
ステップS1において、コントローラ5は、燃料電池スタック1からの電力取り出しを禁止しているか否かを判定する。燃料電池スタック1からの電力取り出しを禁止している状態としては、例えば燃料電池システム100の起動・停止処理時やアイドルストップ時などが挙げられる。コントローラ5は、燃料電池スタック1からの電力取り出しを禁止していればステップS2の処理を行い、そうでなければ今回の処理を終了する。
ステップS2において、コントローラ5は、アノード圧力をカソード圧力よりも高くし、その後、アノード調圧弁33を全閉にしてアノードガスの供給を停止するガス制御処理を実施する。ガス制御処理の詳細については、図8を参照して後述する。
ステップS3において、コントローラ5は、水素クロスリーク量が増加しているか否かのリーク判定を実施する。具体的には、ガス制御処理でアノードガスの供給を停止した後のアノード圧力の低下速度がリーク判定閾値以上か否かを判定する。
コントローラ5は、アノード圧力の低下速度が所定のリーク判定閾値以上であれば、例えば電解質膜111に部分的に孔が生じて正常時よりも水素クロスリーク量が増加していると判定し、ステップS4の処理を行う。一方でコントローラ5は、アノード圧力の低下速度がリーク判定閾値未満であれば、電解質膜111に特に異常はないと判定し、今回の処理を終了する。
ステップS4において、コントローラ5は、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かの第1リーク位置判定を実施する。具体的には、現在の出力電圧が、基準開回路電圧よりも低いか否かを判定する。なお、基準開回路電圧については予め実験等によって設定すれば良いものであり、また、マージンをみて実際の開回路電圧よりもやや低い値に設定するなど、要求される判定精度に応じて適宜設定すれば良いものである。
コントローラ5は、現在の出力電圧、すなわち水素クロスリーク量が増加したと判定された後の出力電圧が、基準開回路電圧よりも低ければステップS7の処理を行う。一方でコントローラ5は、現在の出力電圧が基準開回路電圧であればステップS5の処理を行う。
ステップS5において、コントローラ5は、水素クロスリーク量が増加しているにもかかわらず、出力電圧が基準開回路電圧のままであるとして、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていると判定する。
カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じている場合は、カソードガス流路131に漏れ出した水素がカソード電極113で酸素と反応することなくそのままカソードガス排出通路22に排出され、排出ガス中の水素濃度が増大するおそれが高い。
そこでコントローラ5は、ステップS6において、必要に応じて燃料電池スタック1の発電停止や、カソードガス流量の増量、燃料電池システム100の起動禁止等の措置を実施する。
ステップS7において、コントローラ5は、水素クロスリーク量が増加した結果、出力電圧が基準開回路電圧よりも低下したとして、少なくともカソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じていると判定する。
ステップS8において、コントローラ5は、カソード流量を低下させたときの出力電圧の変化に基づいて、カソードガス流路131の下流域でも水素クロスリークが生じているか否かを判定する第2リーク位置判定処理を実施する。第2リーク位置判定処理の詳細については、図9を参照して後述する。
図8は、ガス制御処理について説明するフローチャートである。
ステップS21において、コントローラ5は、目標カソード圧力を所定のリーク判定用カソード圧力に設定し、目標アノード圧力をリーク判定用カソード圧力よりも高い所定のリーク判定用アノード圧力に設定する。
ステップS22において、コントローラ5は、カソード圧力が目標カソード圧力となるようにカソードコンプレッサ25及びカソード調圧弁28を制御し、アノード圧力が目標アノード圧力となるように、アノード調圧弁33を制御する。
ステップS23において、コントローラ5は、アノード圧力及びカソード圧力がそれぞれ目標アノード圧力及び目標カソード圧力に到達したか否かを判定する。コントローラ5は、アノード圧力及びカソード圧力がそれぞれ目標アノード圧力及び目標カソード圧力に到達していれば、ステップS24の処理行い、そうでなければステップS22の処理に戻る。
ステップS24において、コントローラ5は、アノード調圧弁33を全閉にして、アノードガスの供給を停止する。
図9は、第2リーク位置判定処理について説明するフローチャートである。
ステップS81において、コントローラ5は、カソードコンプレッサ25を制御して、カソード流量を所定のリーク位置判定流量まで低下させる。リーク位置判定流量は、例えばゼロやゼロに近い低流量に設定される。
ステップS82において、コントローラ5は、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かの第2リーク位置判定を実施する。具体的には、カソード流量を低下させたことによって、出力電圧が所定値以上低下したか否かを判定する。所定値は、例えば図4Bに示した開回路電圧の変化に基づいて、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているかを判定できる大きさに適宜設定すれば良いものである。コントローラ5は、カソード流量を低下させたことによって出力電圧が所定値以上低下したときはステップS85の処理を行い、そうでなければステップS83の処理を行う。
ステップS83において、コントローラ5は、カソード流量を低下させても出力電圧の低下が所定値未満であるとして、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークは生じておらず、下流域以外でのみ水素クロスリークが生じていると判定する。カソードガス流路131の下流域以外でのみ水素クロスリークが生じていた場合には、リーク水素がカソード電極113で酸素と反応して消費され、排出ガス中の水素濃度がほとんど増大しない。
そこでコントローラ5は、ステップS84において、燃料電池システム100の起動停止等の措置を取って走行不能な状態にするのではなく、以下のような措置を取って走行可能な状態とする。
例えば燃料電池スタック1の出力を制限することで、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの流量が所定量以上にならないようにする。これにより、カソードガス流路131内で全て消費される程度の水素クロスリーク量に抑える。また、例えば運転中におけるアノード圧力とカソード圧力との差圧を一定以下に制限することで、カソードガス流路131内で全て消費される程度の水素クロスリーク量に抑える。また、例えばカソード流量を増量補正することで、排出ガス中の水素濃度を可燃濃度未満に抑える。また、警告灯を表示して水素クロスリーク量が増加していることをドライバに知らせる。
ステップS85において、コントローラ5は、カソードガス流路131の下流域でも水素クロスリークが生じていると判定する。
ステップS86において、コントローラ5は、前述したステップS6と同様に、必要に応じて燃料電池スタック1の発電停止や、カソードガス流量の増量、燃料電池システム100の起動禁止等の措置を実施する。
以上説明した本実施形態による燃料電池システムは、アノード圧力をカソード圧力よりも高くし、アノード調圧弁33を全閉にしてアノードガスの供給を停止するガス制御処理を実施する。そして、ガス制御処理でアノードガスの供給を停止した後のアノード圧力の低下速度に基づいて、水素クロスリーク量が増加しているか否かのリーク判定を実施する。そして、リーク判定で水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に出力電圧の低下を検出しなかったときは、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていると判定する。
このように、まずはアノード側の圧力低下速度に基づいて水素クロスリーク量が増加しているか否かを判定し、水素クロスリーク量が増加していると判定したときは、そのときに電圧低下があったか否かを判定する。
カソードガス流路131の下流域で水素クロスリーク量が増加していた場合は、カソードガス流路131の下流域に漏れ出したリーク水素がそのままカソードガス流路131から排出される。そのため、リーク水素がカソード電極113で酸素と反応することはなく、カソードガス流路131内の酸素濃度も低下しないので、出力電圧が低下することはない。
一方、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリーク量が増加していた場合は、カソードガス流路131の下流域に漏れ出したリーク水素がカソードガスと混合されながらカソードガス流路131を下流に向かって流れることになる。これにより、リーク水素とカソードガス中の酸素とがカソード電極113で反応し、それぞれが消費されることになる。そのため、水素リーク量が多くなるほどカソードガス流路131内の酸素濃度が低下し、出力電圧が低下する。
したがって、本実施形態のように水素クロスリーク量が増加していると判定したときの電圧低下をみることで、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを検知することができる。
具体的には、リーク判定で水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に出力電圧の低下を検出しなかったときは、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていると判定することができる。一方で出力電圧の低下を検出したときは、少なくともカソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じていると判定することができる。
また、本実施形態による燃料電池システム100は、リーク判定で水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に出力電圧の低下を検出したときは、カソードガスの供給流量を低下させる。
そして、カソードガスの供給流量を低下させた後に、さらに出力電圧の低下を検出したときも、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていると判定する。一方で、カソードガスの供給流量を低下させても出力電圧の低下が検出できなかったときは、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じていると判定する。
前述したように、リーク判定で水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に出力電圧の低下を検出したときは、少なくともカソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じていると判定することができる。しかしながら、下流域で水素クロスリークが生じているかまでは分からない。
そこで、リーク判定で水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に出力電圧の低下を検出したときは、カソードガスの供給流量を低下させて、さらに出力電圧が低下するか否かを判定することにしたのである。
カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じている場合は、カソード流ル用を少なくすると、リーク水素によってカソードガスの流れが阻害され、リーク水素の一部がカソードガス流路131の上流域にまで移動することが可能となる。そのため、カソード流量が少なくなるにしたがって、カソード流路内がリーク水素で満たされていき、出力電圧が急峻に低下する。
したがって、本実施形態のようにリーク判定で水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に出力電圧の低下を検出したときは、カソードガスの供給流量を低下させ、さらに出力電圧が低下するか否かを判定することで、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じているか、又は、カソードガス流路131の下流域以外のほか、下流域でも水素クロスリークが生じているかを判別することができる。
また、本実施形態による燃料電池システム100は、カソードガス流路131の下流域以外で水素クロスリークが生じているときは、燃料電池スタック1の出力制限、運転中におけるアノード圧力とカソード圧力との差圧を一定以下に制限する差圧制限運転、カソード流量の増量補正、及び、警告灯の点灯のいずれか1つ以上の動作を実施する。
これにより、水素クロスリーク量が増加している場合であっても、車両の走行が可能となる。
また、本実施形態による燃料電池システム100は、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているときは、燃料電池スタック1の発電停止、カソード流量の増量補正、及び、燃料電池システム100の再起動禁止のいずれか1つ以上の動作を実施する。
これにより、可燃濃度を超える水素濃度の排出ガスが外気に排出されるのを防止することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、上記実施形態では、リーク判定(S3)後、第1リーク位置判定(S4)を実施してから第2リーク位置判定処理(S7)を実施していたが、リーク判定後に第2リーク位置判定処理を実施して、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを判定しても良い。すなわち、水素クロスリーク量が増加していると判定された場合に、燃料電池スタック1に供給するカソードガスの流量を変化させ、そのときの電圧変化が大きければ、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じていると判定するようにしても良い。このようにしても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、判定精度向上のために燃料電池スタック1を無負荷状態にして開回路電圧の変化を見ていたが、低負荷状態での出力電圧の変化を見てカソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを検知しても良い。
また、上記実施形態では、カソードガスの流量を低下させたときの電圧変化を見てカソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを判定していたが、カソード流量を低流量から増加させていたっときの出力電圧の変化を見て判定しても良い。すなわち、カソード流量を変化させたときの出力電圧の変化を見ることで、カソードガス流路131の下流域で水素クロスリークが生じているか否かを判定することができる。
また、上記実施形態ではカソード調圧弁28を設けていたが、これオリフィス等の絞り部に置き換えても良い。
また、上記実施形態において、アノードオフガスを蓄える空間としてのバッファタンクをアノードガス排出通路34に設けても良いし、燃料電池スタック1の内部マニホールドをバッファタンクの代わりの空間としても良い。なお、ここでいう内部マニホールドとは、燃料電池内のアノードガス流路を流れ終わったアノードオフガスがまとめられる燃料電池スタック1の内部の空間であり、アノードオフガスはマニホールドを介してアノードガス排出通路22へと排出される。