JP2014152353A - 酸化インジウム系の酸化物焼結体およびその製造方法 - Google Patents

酸化インジウム系の酸化物焼結体およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】コバルトを10原子%以上の割合で含有する酸化インジウム系酸化物焼結体をターゲットとして、直流スパッタリング法による成膜をした場合であっても、アーキングの発生を抑制し、高品質の透明導電膜を得ることが可能な酸化物焼結体を提供する。
【解決手段】酸化インジウムを主成分とし、酸化コバルトおよび金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)の酸化物を含有する酸化物焼結体であって、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)を0.1〜0.4とし、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)を0〜0.12とする。また、前記酸化物焼結体中に、結晶粒径が30μm以下の酸化コバルト相を分散させ、かつ、該酸化コバルト相を、一酸化コバルト相によって構成する
【選択図】図2

Description

本発明は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示素子や、太陽電池、発光ダイオードなどに用いられる酸化物インジウム系の酸化物透明導電膜を得るための酸化インジウム系の酸化物焼結体およびその製造方法に関する。
酸化物透明導電膜は、高い導電性と特に可視光領域における高い透過率を有するため、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置などの表示素子、太陽電池、発光ダイオード(LED)における透明電極などの材料のほか、自動車窓の熱線反射膜、帯電防止膜、防曇用透明発熱体などに広く利用されている。
近年、これらの中でもLCDや有機EL表示装置の技術開発が進み、高い表示性能と、高い省エネルギ性を実現する製品が数多く提供されている。これらのLCDや有機EL表示装置は、小型かつ薄く作製することが可能であり、特に携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)、パーソナルコンピュータなどのディスプレイとして広く使用されている。
有機EL表示装置を構成する有機EL素子は、有機化合物を利用した発光素子であり、近年、その性能の向上は目覚ましいものがある。この有機EL素子は、電子および正孔の再結合によって発光するものであるが、この際、正孔輸送層への正孔注入効率は、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルと陽極(透明電極)の仕事関数(真空準位とフェルミ準位のエネルギ差)の大きさに依存する。すなわち、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルとの関係で、より高い仕事関数を有する陽極を使用することにより、正孔輸送層への正孔注入効率を高めることができる。
正孔輸送物質としては、さまざまな有機化合物が提案されているが、それらの中でも芳香族アミン系化合物、特にトリフェニルアミン誘導体や、カルバゾール誘導体が優れた性能を有するものとして知られている。ここで、トリフェニルアミン誘導体であるトリフェニルアミンのイオン化ポテンシャルは5.5eV〜5.6eVの範囲にあり、カルバゾール誘導体であるポリビニルカルバゾールのイオン化ポテンシャルは5.8eV程度である。
一方、陽極に用いられる酸化物透明導電膜としては、酸化インジウム系の酸化物膜、酸化亜鉛系の酸化物膜、酸化スズ系の酸化物膜が知られている。これらのうち、酸化インジウム系の酸化物膜の一種である、スズをドープした酸化インジウム(酸化インジウムスズ;ITO)膜は、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、広く利用されている。
しかしながら、ITOの仕事関数は4.6eV〜5.0eVにとどまるため、上記の正孔輸送物質との間には0.5eV〜1.2eV程度のエネルギ障壁が存在し、正孔輸送層への正孔注入効率を向上させることはできない。
これに対して、特開平9−63771号公報では、酸化インジウム系の酸化物透明導電膜に代替して、酸化バナジウム、酸化ルテニウム、酸化モリブデンといった金属酸化物からなる薄膜を陽極に用いることが提案されている。これらの金属酸化物の仕事関数は4.9eV〜5.4eVの範囲にあるため、ITOを陽極とした場合と比べて、正孔注入効率を向上させることができる。しかしながら、これらの金属酸化物の薄膜は、一般に可視光透過率が低く、有機EL素子の陽極として用いるためには可視光の透明性が十分とはいえない。
ところで、酸化物透明導電膜を工業的に製造する手段としては、スパッタリング法が広く用いられている。スパッタリング法は、直流放電を利用する直流スパッタリング法と、高周波放電を利用する高周波スパッタリング法とに分類される。このうち、高周波スパッタリング法は、導電性材料のターゲットのみならず、高抵抗材料のターゲットや導電性材料と高抵抗材料の混合物のターゲットを用いることができるが、成膜速度が遅い、高価な装置を用いる必要があるといった問題がある。
一方、直流スパッタリング法は、安価な装置により高速な成膜が可能であることから、工業的に広く利用されているが、良質の導電性ターゲットを用いる必要がある。すなわち、導電性ターゲット内に微小の高抵抗物質が含まれている場合、成膜時にアルゴンイオンの照射により高抵抗物質が帯電して、アーキングが発生するという問題がある。
このように、有機EL素子の陽極に用いる材料として、仕事関数が大きく、かつ、十分な透明性を備えた酸化物透明導電膜が必要とされる。また、このような酸化物透明導電膜の工業的な製造を可能とするためには、これらの酸化物透明導電膜を直流スパッタリング法による成膜を可能とする酸化物焼結体ターゲットが必要となる。このため、酸化インジウムやITOにさまざまな元素を添加した酸化インジウム系の材料が検討されている。
たとえば、再表2007/032175号公報には、高い仕事関数を有する酸化物透明導電膜として、酸化インジウムに、コバルト、チタン、亜鉛、ガリウムなどが10原子%〜15原子%添加された酸化物透明導電膜が開示されている。これらの酸化物透明導電膜は、原料粉末を混合し、成形し、空気雰囲気中、1300℃の焼成温度、4時間の焼結時間の条件で、焼結させることにより得られる酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリング法により成膜されている。これらの酸化物透明導電膜は、低抵抗で、高い透明性を備えるが、仕事関数については、5.3eV程度にとどまっている。
なお、特開平9−209134号公報には、アナログ式のタッチパネルの透明電極膜に用いられるものであるが、酸化インジウムまたはITOに、コバルト、チタンが2.0原子%〜40原子%添加された酸化物透明導電膜が開示されている。これらの酸化物透明導電膜は、原料粉末を混合し、成形し、空気または還元雰囲気中、1200℃〜1600℃の焼成温度、1時間〜50時間の焼結時間の条件で、焼結させることにより得られ、体積抵抗率が5×10-2Ω・cmである酸化物焼結体ターゲットを用いて、直流スパッタリング法により成膜されている。ただし、酸化物透明導電膜中の添加元素の添加量と仕事関数との関係については、何らの言及もなされていない。
特開平9−63771号公報 再表2007/032175号公報 特開平9−209134号公報
本発明は、有機EL素子の陽極材料として好適である、仕事関数が大きく、かつ、高い可視光透明性を備える酸化物インジウム系の酸化物透明導電膜を、低コストで工業的に製造することを可能とする酸化インジウム系の酸化物焼結体を提供することを目的としている。
本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウムを主成分とし、酸化コバルトおよび金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)の酸化物を含有する酸化物焼結体であって、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.1〜0.4であり、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12であり、前記酸化物焼結体中に、結晶粒径が30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下の酸化コバルト相が分散しており、該酸化コバルト相が、一酸化コバルト相によって構成されていることを特徴とする。
前記酸化物焼結体の相対密度は95%以上であることが好ましく、また、比抵抗は5.0×10-3Ω・cm以下であることが好ましい。
このような本発明の酸化物焼結体は、スパッタリングターゲットとして好適に用いることができる。
また、本発明の酸化物焼結体の製造方法は、
平均粒径が0.05μm〜1.0μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が0.05μm〜5.0μmの酸化コバルト粉末と、平均粒径が0.05μm〜5.0μmの金属元素Mの酸化物粉末(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)とを、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.1〜0.4、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12となるように混合して、混合粉を得る、混合工程と、
前記混合粉を、200MPa〜350MPaの圧力で成形して、成形体を得る、成形工程と、
前記成形体を、酸素濃度が40体積%〜100体積%、好ましくは50体積%以上の酸化性雰囲気中で、1400℃〜1600℃に保持して焼結させる焼結工程と、
を有することを特徴する。
前記混合工程の後、前記混合粉を含むスラリーを噴霧乾燥することにより、該混合粉を平均粒径が40μm〜100μmに造粒する、噴霧乾燥工程を備えることが好ましい。
本発明により、低抵抗で、かつ、高い可視光透過性を備えながらも、5.7eV以上という高い仕事関数を有する酸化物透明導電膜を実現することができる。このため、正孔輸送物質として、ポリビニルカルバゾールなどを使用した場合でも、陽極と正孔輸送物質との間のエネルギ障壁をほとんど存在させずに、有機EL素子の発光効率を向上させることができる。
また、このような特性を具備する酸化物透明導電膜を得るために、成膜材料である酸化インジウム系の酸化物焼結体中に10原子%以上という高い含有率でコバルトを添加し、この酸化物焼結体をターゲットとして用い、直流スパッタリング法により長時間にわたって成膜した場合であっても、アーキングの発生が抑制された、安定した成膜が可能となるため、高品質の透明導電膜を低コストで工業的に提供することができる。
図1は、実施例1の酸化物焼結体に対して、X線回折を行うことで得られた一酸化コバルトおよび酸化インジウムのピークパターンを示す図である。 図2は、実施例1の酸化物焼結体の切断面を、電子線マイクロアナライザによって分析することで得られた一酸化コバルトのマッピング画像である
本発明者らは、低抵抗で、かつ、高い可視光透過性を備えながらも、5.7eV以上という高い仕事関数を有する酸化物透明導電膜を得るため、特開平9−209134号公報に記載の製造方法により、酸化インジウム系の酸化物焼結体である、酸化インジウム、酸化スズおよび酸化コバルトからなる酸化物焼結体について、コバルトの含有量が異なるサンプルを複数作製し、これらの焼結体をターゲットとして、直流スパッタリング法により透明導電膜を得て、それぞれについて仕事関数を調べた。この結果を表1に示す。
これらの結果から、コバルトの含有量を増加させるに従って、酸化物透明導電膜の仕事関数も向上させることができるとの知見が得られた。また、上述したようにイオン化ポテンシャルが5.5eV〜5.8eVの正孔輸送物質を使用する場合であっても、該正孔輸送物質と、酸化物透明導電膜からなる陽極との間のエネルギ障壁を低減するためには、コバルトの含有量を10原子%以上とすることが必要であるとの知見が得られた。
一方、コバルトの含有量を10原子%以上とした場合には、特開平9−209134号公報に記載の方法により酸化物焼結体を得た場合であっても、その比抵抗は2.0×10-3Ω・cmを超え、スパッタリング時のアーキングの発生を抑制することができず、特に、長時間にわたるスパッタリングでは、この傾向が顕著となり、所望の特性を有する透明導電膜を得ることが困難であるとの知見が得られた。
本発明者らは、これらの知見に基づき、コバルトを10原子%以上の割合で含有する酸化インジウム系酸化物焼結体(以下、単に「酸化物焼結体」という)について鋭意研究を重ねた結果、酸化物焼結体中におけるコバルトの挙動と、アーキングの発生原因について以下の知見がさらに得られた。すなわち、酸化物焼結体に、一定量以上のコバルトが含まれる場合には、コバルトの一部は酸化インジウムに固溶されるが、他の一部は、酸化コバルト相として結晶内に存在することとなる。この酸化コバルト相には、一酸化コバルト(CoO)、三酸化二コバルト(Co23)、四酸化三コバルト(Co34)などが単相として、あるいは、これらの酸化コバルトの混合相が含まれる。このように、複数種の酸化コバルト相が存在する場合、各相のスパッタレートの相違に起因して、ターゲットの表面にノジュール(掘れ残り)が発生してしまい、これがアーキングの発生原因となる。
本発明者らは、この点について、さらに詳細な研究を重ねた結果、アーキングの発生率は、一酸化コバルト、三酸化二コバルト、四酸化三コバルトの順で多くなること、および、酸化物焼結体を構成する各金属成分の組成比を所定の範囲に制御し、かつ、所定の条件の下で焼結させることで、該酸化物焼結体中の酸化コバルト相を、一酸化コバルト相に規制することができるとともに、この一酸化コバルト相の結晶粒径を所定の範囲に制御することができるとの知見を最終的に得て、本発明を完成させるに至ったものである。
以下、本発明について、(1)酸化物焼結体と、(2)酸化物焼結体の製造方法と、(3)透明導電膜の成膜と、(4)透明導電膜に分けて説明する。
(1)酸化物焼結体
本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウムを主成分とし、酸化コバルトおよび金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)の酸化物を含有する酸化物焼結体であって、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.10〜0.4であり、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12である点に特徴を有する。また、前記酸化物焼結体中に、結晶粒径が30μm以下の酸化コバルト相が分散しており、該酸化コバルト相が、酸化コバルト相によって構成されている点に特徴を有する。
(組成)
コバルトは、得られる透明導電膜の仕事関数を増加させるために添加される元素である。このコバルトの含有量は、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.10〜0.40、好ましくは0.15〜0.35、より好ましくは0.20〜0.30の割合となるようにすることが必要となる。前記原子比が0.10未満では、得られる透明導電膜の仕事関数を5.7eV以上とすることできない。一方、前記原子比が0.4を超えると、得られる透明導電膜の可視光透過率が減少するとともに、比抵抗が増加してしまう。
本発明の酸化物焼結体では、得られる透明導電膜に必要とされる特性に応じて、金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)を添加してもよい。金属元素Mは比抵抗を下げるのに有効な元素であり、その含有量は、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12、好ましくは0.005〜0.11、より好ましくは0.01〜0.1の割合となるようにすることが必要となる。前記原子比が、0.12を超えると、得られる透明導電膜の抵抗率が増加してしまう、また、金属元素MがInに固溶しきれずInやCoとの化合物相または金属酸化物相として存在する割合が増大し、アーキングを誘発する原因となる。
(結晶構造)
本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウム相に、結晶粒径30μm以下の酸化コバルト相が分散した結晶構造を有している。なお、酸化インジウム相には、添加されたコバルトが固溶していてもよい。
前記酸化コバルト相は、一酸化コバルト(CoO)によって構成されている。ここで、「一酸化コバルトによって構成されている」とは、前記コバルト相が、一酸化コバルト相のみによって構成されている場合だけではなく、一酸化コバルト相以外に、微細な三酸化二コバルト相、四酸化三コバルト相、および/または、これらと一酸化コバルトの混合相が存在する場合であっても、これらの相の割合がアーキングの発生を誘発しない程度に微量である場合を含む。具体的には、一酸化コバルト相以外の酸化コバルト相の結晶粒径が5μm以下、好ましくは2μm以下であって、その存在率が15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である場合が含まれる。
このような酸化物焼結体に含まれる結晶相を特定する方法は、特に限定されることはなく、たとえば、X線回折(XRD)により特定することができる。
また、前記一酸化コバルト相の結晶粒径は、30μm以下とすることが必要となる。酸化コバルトを主成分とする酸化物の結晶粒径が30μmを超えると、この酸化物を、焼結体をターゲットとしてスパッタリングを行った場合に、アーキングの発生を抑制することができない。アーキングの発生をさらに抑制するためには、前記結晶粒径は、20μm以下とすることが好ましく、10μm以下とすることがより好ましい。
なお、金属元素Mは、結晶中、主として酸化インジウム相に固溶する形で存在するが、アーキングの発生を誘発しない程度の微量であれば、Inおよび/またはCoとの化合物層、あるいは、金属酸化物単相としても存在してもよい。具体的には、結晶粒径が5μm以下であって、その存在率が10%以下であれば、金属元素Mを含む化合物層または金属酸化物単相として存在することは許容される。
(相対密度)
本発明の酸化物焼結体は、スパッタリング中に発生するアーキング、およびこれに起因するノジュールやパーティクルの発生を防止する観点から、その相対密度を好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上とする。相対密度が95%未満では、得られる酸化物焼結体の比抵抗が高くなるため、アーキングの発生を防止することができない場合がある。
なお、相対密度とは、各原料の理論密度を組成重量比で加重平均して求めた密度(理論密度)を100%とした場合の密度を意味する。
(比抵抗)
本発明では、酸化物焼結体の組成、結晶構造および相対密度を上述のように規制することにより、酸化物焼結体の比抵抗(体積抵抗)を、好ましくは5.0×10-3Ω・cm以下、より好ましくは3.0×10-3Ω・cm以下としている。比抵抗が5.0×10-3Ω・cmを超えると、スパッタリング時にアーキングが発生しやすくなり、得られる透明導電膜の特性が悪化する場合がある。
(2)酸化物焼結体の製造方法
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、平均粒径が0.05μm〜1.0μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が0.05μm〜5.0μmの酸化コバルト粉末と、平均粒径が0.05μm〜5.0μmの金属元素Mの酸化物粉末(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)とを、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.1〜0.4、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12となるように混合して、混合粉を得る、混合工程と、前記混合工程で得られた混合粉を、200MPa〜350MPaの圧力で成形して、成形体を得る成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を、酸素濃度が40体積%〜100体積%の酸化性雰囲気中で、1400℃〜1600℃に保持して焼結させる焼結工程とを有することを特徴とする。
(2−1)原料粉末
本発明の酸化物焼結体の原料としては、酸化インジウム粉末、酸化コバルト粉末、金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaの中から選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素)の酸化物粉末を使用することができる。なお、各金属酸化物の粉末は、各酸化物の酸化数などによって制限されることはない。
酸化インジウム粉末の平均粒径は0.05μm〜1.0μmであることが必要である。また、金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaの中から選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素)の酸化物粉末の平均粒径は0.05μm〜5.0μm、好ましくは0.05μm〜3.0μm、より好ましくは0.05μm〜1.0μmであることが必要である。酸化インジウム粉末または金属元素Mの酸化物粉末の平均粒径が0.05μm未満の場合には、これらの粉末が凝集して、均一に混合することが困難となる。一方、酸化インジウム粉の粒径が1.0μmを超える場合、または、金属元素Mの酸化物粉末の平均粒径が5.0μmを超える場合には、得られる酸化物焼結体において、相対密度を95%以上とすることができなくなる。このような酸化物焼結体を用いた場合には、スパッタリング中のアーキングの発生により、得られる透明導電膜の特性が悪化してしまう。
酸化コバルトの平均粒径は0.05μm〜5.0μmとすることが必要となる。酸化コバルト粉末の平均粒径が0.05μm未満では、酸化コバルト粉末が凝集して、均一に混合することが困難となる。一方、酸化コバルト粉末の粒径が5.0μmを超えると、得られる酸化物焼結体の相対密度を95%以上とすることが困難となるばかりでなく、該酸化物焼結体中の酸化コバルト相の平均粒径を30μm以下にすることが困難となる。
なお、酸化コバルト粉末の平均粒径は、2.0μm未満とすることが好ましく、1.0μm未満とすることがより好ましい。酸化コバルト粉末の平均粒径をこのような範囲に制御することで、元々の結晶粒径が小さいことに加え、焼結性が向上されることにより、焼結温度を低温としても相対密度を向上させることが可能となり、結晶成長を抑制することができるため、得られる酸化物焼結体内の酸化コバルト相の平均粒径を20μm以下、さらには10μm以下とすることができる。
なお、これらの各原料粉末の混合比は、目的とする酸化物焼結体の組成比率、すなわち、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.2〜0.4、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12となるよう調整すればよい。
(2−2)混合工程
混合工程は、前記原料粉末からなる混合粉末に、水溶性バインダを0.3質量%〜2.0質量%となるように加え、さらに、スラリー濃度が40%〜80%となるように秤量した水とともに樹脂製ポットに入れ、湿式粉砕および混合を行う工程である。ここで、スラリー濃度とは、原料粉末と水の合計質量に対する原料粉末の質量の割合(原料粉末の質量/原料粉末と水の合計質量)をいう。
水溶性バインダの添加量は、0.3質量%〜2.0質量%とすることが好ましく、0.5質量%〜1.5質量%とすることがより好ましい。添加量が0.3質量%未満では、成形体強度が低下し、歩留りが悪くなる。一方、2.0質量%を超えると、脱バインダ工程に長時間を要することとなり、生産性が悪化してしまう。
水溶性バインダとしては、加熱により消失または気化するものであれば、特に限定されることなく、たとえば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール、メチルセルロースなどを使用することができる。
水の添加量は、原料粉末と水溶性バインダを均一に混合し、かつ、後述する噴霧乾燥工程を円滑に行う観点から、スラリー濃度で、好ましくは40%〜80%、より好ましくは50%〜70%となるように調整する。
また、湿式粉砕工程では、ボールミル、ビーズミルなど公知の手段を用いることができる。ボールやビーズとしては、コンタミを防ぐ観点から、硬質のジルコニア(ZrO2)製のものを用いることが好ましい。また、ボール径またはビーズ径によっても粉砕性が変わることから、ボールの場合には2mmφ〜6mmφ程度、ビーズの場合には0.2mmφ〜0.7mmφ程度のものを用いることが好ましい。ボール径またはビーズ径が上記範囲を外れる場合には、所定の粉砕能力が得ることができず、量産性や品質が低下する場合がある。
なお、各原料粉末をあらかじめ個別にボールミルやビーズミルによって粉砕し、所望の平均粒径に調整した後、混合してもよい。
ボールミルやビーズミルの回転数および粉砕時間は、原料粉末の粉砕挙動をみて、適宜調整されるべきものであるが、粉砕時間が長すぎると、ジルコニアが不純物として混入する可能性が高くなる。
以上の処理により、所定の粒度の原料粉末を含むスラリーが得られるが、生産性の観点から、このスラリーの粘度を10mPa・s〜1000mPa・sとなるように調製することがこのましい。
(2−3)噴霧乾燥工程
混合工程の後、成形工程の前に、混合工程により得られた混合粉を含むスラリーに対して噴霧乾燥を行って、前記混合粉を造粒する、噴霧乾燥工程を備えることが好ましい。
この噴霧乾燥工程では、特に制限されることなく公知の手段を用いることができるが、球状の造粒粉を容易に得る観点から、スプレードライヤを用いることが好ましく、量産性に優れたディスクを用いたスプレードライヤを用いることがより好ましい。
噴霧乾燥工程を、ディスクを用いたスプレードライヤにより行う場合の条件は、使用する装置の出力などに応じて適宜選択されるべきものであるが、得られる造粒粉の粒径や形状および生産性の観点から、噴霧乾燥時の熱風温度を120℃〜200℃、ディスク回転数8000rpm〜18000rpmとするとともに、投入するスラリーの濃度を40%〜80%とすることが好ましい。
なお、このようにして得られる造粒粉の平均粒径は、好ましくは40μm〜100μmとなるように調整することがより好ましい。
(2−4)成形工程
成形工程は、混合工程により得られた混合粉、もしくは、混合工程および噴霧乾燥工程を経て造粒された混合粉(造粒粉)を、ゴム型に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)を用いて、200MPa〜350MPaの圧力、より好ましくは250MPa〜350MPaの圧力で成形を行う工程である。なお、成形工程では、一軸プレスによる予備成形を実施した後に、CIPを行ってもよい。
成形圧力が200MPa未満では、成形体密度が低くなり、焼結後の酸化物焼結体の相対密度を95%以上とすることが困難となる。一方、350MPaを超えても、成形体密度をそれ以上向上させることができないばかりか、冷間静水圧プレス装置の耐久性の観点からも量産に適しているとはいえない。なお、成形時における最高圧力での保持時間は、好ましくは1分〜10分とする。保持時間が1分未満の場合、成形体密度が低くなり、相対密度に影響を与える。一方、保持時間が10分を超えても、成形体密度をそれ以上向上させることができない。
(2−5)脱バインダ工程
成形工程の後、焼成工程の前に、該成形工程で得られた成形体を焼結炉内に載置し、炉内に空気を流通させた状態で加熱を行う脱バインダ工程を備えることが好ましい。
このときの空気の流通量は、成形体の大きさや形状に応じて適宜選択されるべきものであるが、炉内容積1cm3当たり0.1mL/分〜5mL/分とすることが好ましく、0.5mL/分〜2mL/分とすることがより好ましい。
このように炉内に空気を流通させて加熱することにより、バインダが分解され、発生したガスが、空気と共に炉外へ排出されるため、脱バインダを促進することができる。一方、空気の流通量が十分でない場合、脱バインタが十分に促進されず、成形体の割れや相対密度の低下が生じる場合がある。なお、炉内に流通させる気体としては、コストの観点から空気を使用することが好ましいが、空気と純酸素(酸素濃度:100%)とを任意の割合で混合させた混合ガスを使用してもよい。
脱バインダ時における加熱温度は、好ましくは300℃〜800℃、より好ましくは300℃〜600℃とする。加熱温度が300℃未満では、バインダが揮発せずに残留し、得られる酸化物焼結体の相対密度の低下の原因となる。一方、800℃を超えると、焼結が進行し、収縮が始まることから、バインダが焼結体内部に残留し、得られる酸化物焼結体の相対密度の低下の原因となる。
また、脱バインダ時の加熱時間は、成形体の大きさや形状によって適宜選択されるべきであるが、好ましくは30時間以上、より好ましくは50時間以上とする。加熱時間が30時間未満では、バインダが十分に分解されない可能性がある。
なお、加熱時の昇温速度は、成形体の割れの防止や量産性の観点から、好ましくは0.1℃/分〜1.0℃/分、より好ましくは0.3℃/分〜0.5℃/分とする。
(2−6)焼成工程
焼成工程は、酸化性雰囲気中で、焼成温度を1400℃〜1600℃として焼成を行い、成形体を焼結させる工程である。なお、焼成工程の前に脱バインダ工程を実施する場合は、焼成工程と脱バインダ工程とを連続して、同じ加熱炉(焼成炉)で行うことが好ましい。
本発明では、酸素濃度40体積%以上、好ましくは50体積%以上の酸化性雰囲気で、より好ましくは純酸素(100体積%)からなる酸化性雰囲気で、焼成工程を行うことに特徴を有する。すなわち、このような酸化性雰囲気で焼成工程を行うことにより、得られる酸化物焼結体中の酸化コバルト相を、一酸化コバルト(CoO)によって構成することができる。一方、酸素濃度が40体積%未満では、酸化力が不足するため、三酸化二コバルト相(Co23)、四酸化三コバルト(Co34)相、および/または、これらと一酸化コバルトの混合層が形成されてしまい、スパッタリング時のアーキングの発生を十分に抑制することができない。
焼成温度は1400℃〜1600℃、好ましくは1450℃〜1570℃とする。酸化物焼結体中の酸化コバルトを一酸化コバルトとするためには、焼成温度を1300℃以上とすれば十分であるが、1400℃未満では、得られる酸化物焼結体の相対密度が低下するため好ましくない。一方、1600℃を超えると、原料成分の揮発により、得られる酸化物焼結体の相対密度の低下や組成ずれが生じるばかりでなく、原料成分の溶融により、成形体の形状が変形してしまう場合がある。
また、上記焼成温度における保持時間は、好ましくは5時間〜40時間、より好ましくは10時間〜30時間、さらに好ましくは12時間〜25時間とする。保持時間が、このような範囲内であれば、省エネルギと高い生産性の両立を図りつつ、高品質の酸化物焼結体を得ることができる。
なお、上記焼成温度までの昇温速度は、好ましくは0.3℃/分〜3.0℃/分、より好ましくは0.5℃/分〜2.5℃/分とする。昇温速度が0.3℃/分未満では、十分な生産性を確保することができず、3.0℃/分を超えると、焼結体に割れなどの不具合を生じる可能性がある。
(3)透明導電膜の成膜
本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜を行う際のスパッタリング法については、何ら制限されることなく、公知のいずれの手段をも用いることができるが、量産性の観点から、直流スパッタリング法、たとえば直流マグネトロンスパッタリング装置を用いた手段を採ることが好ましい。本発明のスパッタリングターゲットは、相対密度が95%以上と高く、また、酸化物焼結体中の酸化コバルト相は、一酸化コバルトの単相によって構成されているため、直流スパッタリング法を用いても、アーキングの発生を抑制することができる。
本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜する際の条件については、特に限定されることはなく、通常の条件において成膜することができる。たとえば、直流マグネトロンスパッタリング装置により、スパッタリングを行う場合には、ターゲット−基板間距離:35mm〜120mm、基板温度:室温℃〜300℃、到達真空度:1×10-3Pa以下、導入ガス:10%以下のO2ガスを含むArガス、ガス圧:0.1Pa〜1.0Pa、投入電力:直流0.55W/cm2〜5.50W/cm2とする。
ただし、直流マグネトロンスパッタリング法で成膜する場合、基板温度を上げる程、膜の結晶性と添加成分のドーピングが改善され、得られる酸化物透明導電膜の抵抗値が低下することは、ITOなどの他の酸化物透明導電膜の成膜と同様である。したがって、有機EL素子の陽極として好適な酸化物透明導電膜を得るためには、特に、コバルトの含有率が高い組成を有する場合、この基板温度を150℃以上、好ましくは、200℃〜300℃の範囲とする。
(4)透明導電膜
このようにして得られる本発明の透明導電膜は、酸化インジウムを主成分とし、酸化コバルトおよび金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)の酸化物を含有する透明導電膜であって、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.1〜0.4であり、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12であり、仕事関数が5.7eV以上であることを特徴とする。
透明導電膜の組成は、成膜条件に依存する場合もあるが、通常は適切な設定により、成膜材料として用いられる酸化物焼結体の組成と同様とすることができる。すなわち、透明導電膜の組成に基づいて、酸化物焼結体の組成を決定することにより、成膜によって、所望の組成の透明導電膜が得られることとなる。
本発明の透明導電膜は、仕事関数が5.7eV以上、好ましくは5.8eV以上であるため、該透明導電膜により陽極を構成し、正孔輸送物質として、イオン化ポテンシャルが5.5eV〜5.8eVであるトリフェニルアミンやポリビニルカルバゾールを使用した場合であっても、正孔輸送層への正孔注入効率を高くすることができる。
また、本発明の透明導電膜は、比抵抗が、好ましくは5×10-4Ω・cm〜1.0×10-2Ω・cm、より好ましくは5×10-4Ω・cm〜1.0×10-3Ω・cmの範囲にあり、かつ、可視光透過率が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。
本発明の透明導電膜は、このように優れた特性を有するため、有機EL素子としてばかりでなく、LED電極、タッチパネルなどとしても好適に使用することができる。
以下、本発明の実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
原料粉末として、酸化インジウム粉末(純度99.9%、平均粒径約0.5μm)および四酸化三コバルト粉末(純度99.9%、平均粒径約2.5μm)を用意した。これらの原料粉末を、Inの含有量がIn/(In+Co)原子比で0.700、Coの含有量がCo/(In+Co)原子比で0.300となるように各粉末を調製した上で、樹脂製ポットに入れた。
さらに、水溶性バインダとしてポリビニルアルコール(PVA)を、前記原料粉末の総量に対して1.3質量%となるように秤量し、スラリー濃度が55%となるように秤量した純水とともに樹脂製ポットに入れ、ボールミル(5mmφのZrO2ボールを使用)により24時間粉砕および混合を行い、スラリーを得た。なお、このときのスラリー粘度は60mPa・sであった。その後、スプレードライヤ(大川原化工機株式会社製、ODL−20型)により噴霧乾燥を行うことで、平均粒径が50μmの造粒粉を得た。この造粒粉を180mmφ寸法の型へ充填し、冷間静水圧プレスにより、294MPa(3ton/cm2)の圧力をかけ、この圧力で3分間保持することにより成形体を得た。
この成形体を焼結炉(丸祥電器株式会社製電気炉)内に載置し、400℃まで加熱し、脱バインダ処理を35時間行った。この際、炉内に空気を、炉内容積1cm3当たり0.2mL/分で流通させた。なお、このときの昇温速度は0.3℃/分であった。その後、炉内雰囲気を純酸素雰囲気(酸素濃度:100%)に切り換え、最高温度を1500℃として30時間の焼成を行い、焼結体を得た。なお、このときの昇温速度は、1.0℃/分であった。
得られた焼結体をICP発光分光測定装置(株式会社島津製作所製、ICPS8100)により組成分析を行ったところ、原料粉末の組成比と同一であることが確認された。また、得られた焼結体をX線回折(XRD)装置(PANalytical社製、X‘Pert PRO MPD)により物質同定を行ったところ、酸化インジウムおよび一酸化コバルトのピークが検出された。この結果を図1に示す。なお、図1に示されるピークのうち、矢印で示したものは、一酸化コバルト(CoO)のピークを表しているが、それ以外のものは、酸化インジウム(In23)のピークを表している。
また、得られた焼結体を切断し、断面を研磨した後、この断面を電子線マイクロアナライザ(EPMA)(株式会社島津製作所製、EPMA−1600)により分析したところ、一酸化コバルトの結晶粒が観察され、その平均粒径は25μmであった。このとき得られた一酸化コバルト(CoO)のマッピング画像を図2に示す。
上記焼結体を研削加工し、直径4インチ(101.6mm)、厚み5mmサイズのスパッタリングターゲットを作製した。このスパッタリングターゲットについて、アルキメデス法で密度を測定したところ、相対密度で98.6%であった。さらに、このターゲットの比抵抗を、抵抗率計(株式会社三菱化学製、LORESTAーGP)により測定したところ、3.3×10-3Ω・cmであった。
このスパッタリングターゲットを用いて直流マグネトロンスパッタ法によりスパッタを行った。5時間スパッタリングを実施したところ、カソード電流が異常に増大した回数(アーキング回数)は13回であった。
得られた透明導電膜について、光電子分光装置(理研計器株式会社製、AC−2)により仕事関数を測定したところ、5.8eVであった。また、この透明導電膜の可視光透過率を分光光度計(日本分光株式会社製、V−670)により測定したところ、89.1%であった。これらの結果を表3に示す。
(実施例2〜9、比較例1〜7)
In/(In+Co)原子比、Co/(In+Co)原子比、酸化コバルト粉末の平均粒径、焼結温度、焼結雰囲気を表2に示すように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、スパッタリングターゲットを得た。
これらのスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にスパッタリングを実施し、それぞれアーキング回数を記録した。また、得られた透明導電膜について、実施例1と同様に仕事関数を測定した。これらの結果を表3に示す。
(実施例10〜14、比較例8)
酸化インジウム粉末、酸化コバルト粉末に加えて、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素Mを添加するとともに、In/(In+Co+M)原子比、M/(In+Co+M)原子比、各粉末の平均粒径、焼結温度、焼結雰囲気を表2に示すように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、スパッタリングターゲットを得た。
これらのスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にスパッタリングを実施し、それぞれアーキング回数を記録した。また、得られた透明導電膜について、実施例1と同様に仕事関数を測定した。これらの結果を表3に示す。
(評価)
本発明の技術的範囲に属する実施例1〜9は、酸化コバルト相が、一酸化コバルト(CoO)によって構成されており、その粒子径も30μm以下であるため、5時間スパッタリングを実施した場合であっても、アーキングの発生回数を十分に抑制している。
これに対して、比較例1は、酸化コバルト粉末の平均粒径が5.0μmを超えているため、酸化物焼結体中の酸化コバルト相の結晶粒径が30μmを超えてしまい、アーキングの発生回数が増大している。
比較例2および3は、酸化コバルト粉末の混合量が多すぎたため、同様に、酸化物焼結体中の酸化コバルト相の結晶粒径が30μmを超えてしまい、アーキングの発生回数が増大している。
比較例4は、酸化コバルト粉末の混合量が少なすぎる例である。この場合、アーキングはほとんど発生しないが、得られる透明導電膜の仕事関数を増加させることができない。
比較例5〜7は、焼成工程における雰囲気が、本発明の範囲外である例である。このため、比較例5〜7では、焼成工程における酸化力が不足し、酸化物焼結体中に四酸化三コバルト相が発生したため、アーキングの発生回数が増大している。
実施例10〜14および比較例8は、インジウム、コバルトに加えて、金属元素Mを添加した例である。
本発明の技術的範囲に属する実施例9〜13では、実施例1〜8と同様に、酸化コバルト相は、一酸化コバルト(CoO)相によって構成されており、その粒子径も30μm以下であるため、5時間スパッタリングを実施した場合であっても、アーキングの発生回数を十分に抑制している。
これに対して、比較例8は、焼成工程における雰囲気をアルゴン雰囲気とした例である。このため、比較例8では、焼成工程における酸化力が不足し、酸化物焼結体中の酸化コバルト相が四酸化三コバルトによって構成されてしまい、アーキングの発生回数が増大した。
なお、本発明の技術的範囲に属する実施例1〜14の酸化物焼結体をターゲットとして、スパッタリングにより成膜して得られる透明導電膜は、その仕事関数が5.7eV以上であることが確認された。

Claims (9)

  1. 酸化インジウムを主成分とし、酸化コバルトおよび金属元素M(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)の酸化物を含有する酸化物焼結体であって、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.1〜0.4であり、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12であり、前記酸化物焼結体中に、結晶粒径が30μm以下の酸化コバルト相が分散しており、該酸化コバルト相が、一酸化コバルト相によって構成されている、酸化インジウム系の酸化物焼結体。
  2. 相対密度が95%以上である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
  3. 前記酸化コバルト相の結晶粒径が20μm以下である、請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
  4. 前記酸化コバルト相の結晶粒径が10μm以下である、請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
  5. 比抵抗が5.0×10-3Ω・cm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲット。
  7. 平均粒径が0.05μm〜1.0μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が0.05μm〜5.0μmの酸化コバルト粉末と、平均粒径が0.05μm〜5.0μmの金属元素Mの酸化物粉末(Mは、Sn、Ti、W、Zn、Gaからなる群から選択される1種以上の金属元素)とを、In、CoおよびMの合計に対するCoの原子比:Co/(In+Co+M)が0.1〜0.4、かつ、In、CoおよびMの合計に対するMの原子比:M/(In+Co+M)が0〜0.12となるように混合して、混合粉を得る、混合工程と、
    前記混合粉を、200MPa〜350MPaの圧力で成形して、成形体を得る、成形工程と、
    前記成形体を、酸素濃度が40体積%〜100体積%の酸化性雰囲気中で、1400℃〜1600℃に保持して焼結させる焼結工程と
    を有する、酸化物焼結体の製造方法。
  8. 前記酸素濃度を50体積%以上とする、請求項7に記載の酸化物焼結体の製造方法。
  9. 前記混合工程の後、前記混合粉を含むスラリーを噴霧乾燥することにより、該混合粉を平均粒径が40μm〜100μmに造粒する、噴霧乾燥工程をさらに備える、請求項7に記載の酸化物焼結体の製造方法。
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