JP2013212051A - アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法 - Google Patents

アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2013212051A
JP2013212051A JP2010170871A JP2010170871A JP2013212051A JP 2013212051 A JP2013212051 A JP 2013212051A JP 2010170871 A JP2010170871 A JP 2010170871A JP 2010170871 A JP2010170871 A JP 2010170871A JP 2013212051 A JP2013212051 A JP 2013212051A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
agrobacterium
plant
medium
tissue
auxin
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Withdrawn
Application number
JP2010170871A
Other languages
English (en)
Inventor
Yoshihiro Hiei
祐弘 樋江井
Yuji Ishida
祐二 石田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Japan Tobacco Inc
Original Assignee
Japan Tobacco Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Japan Tobacco Inc filed Critical Japan Tobacco Inc
Priority to JP2010170871A priority Critical patent/JP2013212051A/ja
Priority to AU2011283474A priority patent/AU2011283474B2/en
Priority to CA2806822A priority patent/CA2806822A1/en
Priority to EP11812628.3A priority patent/EP2599382B1/en
Priority to US13/812,412 priority patent/US9284567B2/en
Priority to PCT/JP2011/067493 priority patent/WO2012015039A1/ja
Publication of JP2013212051A publication Critical patent/JP2013212051A/ja
Withdrawn legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N15/00Mutation or genetic engineering; DNA or RNA concerning genetic engineering, vectors, e.g. plasmids, or their isolation, preparation or purification; Use of hosts therefor
    • C12N15/09Recombinant DNA-technology
    • C12N15/63Introduction of foreign genetic material using vectors; Vectors; Use of hosts therefor; Regulation of expression
    • C12N15/79Vectors or expression systems specially adapted for eukaryotic hosts
    • C12N15/82Vectors or expression systems specially adapted for eukaryotic hosts for plant cells, e.g. plant artificial chromosomes (PACs)
    • C12N15/8201Methods for introducing genetic material into plant cells, e.g. DNA, RNA, stable or transient incorporation, tissue culture methods adapted for transformation
    • C12N15/8202Methods for introducing genetic material into plant cells, e.g. DNA, RNA, stable or transient incorporation, tissue culture methods adapted for transformation by biological means, e.g. cell mediated or natural vector
    • C12N15/8205Agrobacterium mediated transformation
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A01AGRICULTURE; FORESTRY; ANIMAL HUSBANDRY; HUNTING; TRAPPING; FISHING
    • A01HNEW PLANTS OR NON-TRANSGENIC PROCESSES FOR OBTAINING THEM; PLANT REPRODUCTION BY TISSUE CULTURE TECHNIQUES
    • A01H4/00Plant reproduction by tissue culture techniques ; Tissue culture techniques therefor
    • A01H4/008Methods for regeneration to complete plants

Landscapes

  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • Developmental Biology & Embryology (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • General Engineering & Computer Science (AREA)
  • Wood Science & Technology (AREA)
  • Cell Biology (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Plant Pathology (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Environmental Sciences (AREA)
  • Botany (AREA)
  • Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

【課題】本発明は、従来公知のアグロバクテリウム法に比べて、高い効率でオオムギ属の植物の形質転換を行うことができる、遺伝子導入方法、および、形質転換植物の作成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の方法は、アグロバクテリウム菌を接種する前、共存工程中および/または共存工程に次いで、オオムギ属植物の未熟胚組織を遠心処理および/または加圧処理をする工程を含み、その共存培地が、a)アンチオーキシンを含む、b)サイトカイニンを含む、c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;の1つまたは複数の条件を満たすことを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、アグロバクテリウム属細菌を介してオオムギ属の植物へ遺伝子導入を行う方法に関する。本発明は更に、アグロバクテリウム属細菌を介して、オオムギ属の植物の形質転換植物を作成する方法に関する。
主要穀類であるオオムギ、コムギ、トウモロコシ、イネなどの単子葉植物の形質転換方法には、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などの物理化学的方法(DNAの直接導入法)とアグロバクテリウム属細菌が持つ機能を利用する生物学的方法(DNAの間接導入法)が知られている。直接導入法では、目的遺伝子が、断片化されて導入される、多コピー導入されるという事象が高頻度で生じる。そのため、目的遺伝子が発現しない、または、弱く異常な発現(ジーンサイレンシング)を示す形質転換体が高頻度で出現する。また、プロトプラストを用いる方法では、培養期間が長期化するため、得られた形質転換体において、培養変異による種子不稔や奇形などが生じ易い。
それに対し、アグロバクテリウム属細菌を介する遺伝子導入法は、Tiプラスミドの病原性領域(vir領域)における遺伝子群の発現制御等により、目的遺伝子の導入コピー数は低く保たれ、断片化されて導入されることも少ない。そのため、得られた形質転換体において目的遺伝子が高発現する個体が多く得られ、直接導入法に比べると、発現量の個体間差も少ないという大きな利点がある。
アグロバクテリウム属細菌を介した遺伝子導入法は、双子葉植物の形質転換法として普遍的に用いられている。もともと、自然界におけるアグロバクテリウム属細菌の宿主は双子葉植物に限定されており、長い間、単子葉植物には寄生しないと考えられてきた(Potrykus 2000: 非特許文献1)。しかしながら、供試組織の検討、培地組成の改良、アグロバクテリウム菌株の選定などの詳細な研究の結果、主要穀物であるイネで初めてアグロバクテリウム属細菌を介した高効率形質転換方法が報告された(Hiei et al. 1994: 非特許文献2)。イネでの成功に続いて、トウモロコシ(Ishida et al. 1996 非特許文献3)、コムギ(Cheng et al. 1997 非特許文献4)、オオムギ(Tingay et al. 1997 非特許文献5)およびソルガム(Zhao et al. 2000 非特許文献6)でのアグロバクテリウムを介した形質転換の成功が報告された。アグロバクテリウムによる単子葉穀物の形質転換の材料として、未熟胚および短期間培養した未熟胚は最適であり、トウモロコシ、コムギ、オオムギなどの作物において、未熟胚はアグロバクテリウム感染の主要なターゲットとなっている(Cheng et al. 2004 非特許文献7)。
オオムギにおけるアグロバクテリウムによる形質転換の最初の成功例は、やはり、未熟胚を材料に用いる方法である(Tingay et al. 1997 非特許文献5)。近年報告されているオオムギ形質転換方法(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Hensel et al. 2008 非特許文献10, Harwood et al. 2008 非特許文献11)も、下記に具体的に記載するように、基本的にTingay et al.(1997 非特許文献5)の方法と同様である。ただし、Tingay et al.(1997 非特許文献5)は、アグロバクテリウム接種前に未熟胚へパーティクルガンによる付傷を行っている。しかしながら、Trifonova et al.(2001 非特許文献12)が、アグロバクテリウムの接種前のオオムギ未熟胚へのパーティクルガンによる付傷処理が形質転換効率を向上させないことを示して以来、ほとんど、付傷処理は利用されていない。
1.未熟胚を用いたアグロバクテリウムによるオオムギ形質転換方法の従来技術
1)未熟胚の単離とアグロバクテリウムの接種
未熟胚の直径が1.5−2.0mmに育ったオオムギの穂から未熟種子を採取し、次亜塩素酸ナトリウム溶液で殺菌し、無菌的に未熟胚を取り出す。得られた未熟胚から胚軸を切除し、オオムギのカルス誘導培地に胚盤を上向きに置床する。カルス誘導培地には、Murashige & Skoog (MS) 無機塩類(Murashige & Skoog 1962 非特許文献13)、30g/lマルトース、1.0g/l カゼイン加水分解物、350mg/lミオ−イノシトール、690mg/l、1.0mg/l 塩酸チアミン、2.5mg/l 3,6−ジクロロ−2−メトキシ安息香酸(ダイカンバ)、1.25mg/lCuSO5HO(Bartlett et al. 2008 非特許文献9およびHarwood et al. 2008 非特許文献11でのみ添加)、3.5 g/lフィタゲル、pH5.8が共通して用いられている(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Hensel et al. 2008 非特許文献10, Harwood et al. 2008 非特許文献11)。 接種源に用いるアグロバクテリウム懸濁液は、液体培地で一晩振盪培養することにより得る。アグロバクテリウムの接種方法は、未熟胚の胚盤上にアグロバクテリウム懸濁液を滴下する方法(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Harwood et al. 2008 非特許文献11)と、未熟胚をアグロバクテリウム懸濁液中に浸漬した後、真空ポンプを用いて減圧を行う方法が行われている(Hensel et al. 2008 非特許文献10)。接種が行われる時間、すなわち、アグロバクテリウム懸濁液と未熟胚が接触してから共存培養の培地への移植を行うまでの時間については、これらの報告中には、具体的な記述がないが、滴下法も浸漬減圧法のどちらの接種方法も20分から長くても2時間程度であると考えられる。なお、未熟胚へのアグロバクテリウムの接種は、未熟胚を単離した当日、または、一晩培養した翌日に行われている。
2)アグロバクテリウムとの共存培養
アグロバクテリウムを滴下法または浸漬減圧法を用いて接種した後、未熟胚は、共存培養用の培地へ移動される。未熟胚は、胚盤側を下向きに培地に接するよう置床されるのが一般的である(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Hensel et al. 2008 非特許文献10, Harwood et al. 2008 非特許文献11)。未熟胚を置床する際の向きについて、Hensel et al. (2008 非特許文献10) は、胚盤側を下向きに置床して共存培養を行った場合、29%の形質転換効率であったのに対し、胚盤を上向きにした場合には、約7分の1に当たる4.1%の形質転換効率に止まったことを報告している。
アグロバクテリウムとの共存培養を行う個体培地の植物成長調節物質には、2.5mg/l(11.3μM)ダイカンバが用いられている(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Harwood et al. 2008 非特許文献11)。2.5mg/l(11.3μM)の濃度のダイカンバは、従来から、未熟胚の胚盤細胞を脱分化し、再分化能力を有するカルスを誘導することに用いられてきた(Wan and Lemaux 1994 非特許文献14)。共存培養は、2−3日間実施される。
3)形質転換細胞の選抜および再分化
共存培養後、未熟胚は、上述のカルス誘導培地にアグロバクテリウムを除菌するための抗生物質(例としては、160 mg/lチメンチン)と50 mg/l ハイグロマイシンなどの選抜薬剤を添加した培地へ置床される。カルスを誘導するための植物成長調節物質には、2.5 mg/l (11.3μM)ダイカンバが共通して用いられている(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Hensel et al. 2008 非特許文献10, Harwood et al. 2008 非特許文献11)。選抜薬剤に対して明瞭な耐性を示すカルス(形質転換細胞塊)が得られるまで、同培地で2週間程度の間隔で継代される。およそ4−6週間後、選抜薬剤耐性カルスは、選抜薬剤を含む再分化前培養培地(transition medium, pre-regeneration medium)もしくは、選抜薬剤を含む再分化培地(シュート誘導培地)に移植される。再分化前培養培地で培養したカルスは、その後、選抜薬剤を含む再分化培地に移植される。さらに、再分化したシュートおよび幼植物体は、選抜薬剤を含み植物成長調節物質を含まない発根培地に移植され、オオムギ形質転換植物体が得られる。
4)未熟胚当たりの形質転換効率について
これまでに報告されている1未熟胚当たりの形質転換効率は、以下の通りである。
品種Golden Promiseでは、 7% (Tingey et al. 1997 非特許文献5)、12%(Matthews et al. 2001 非特許文献15)、9.2%(Murray et al. 2004 非特許文献16)、36% (Bartlett et al. 2008 非特許文献9)、86.7% (Hensel et al. 2008 非特許文献10)。なお、非特許文献9や10においては、場合によって高効率ではあるものの、このような高い効率が安定的に得られているものではない。品種Tafenoでは、2%(Hensel et al. 2008 非特許文献10)。品種Heliumでは、2%(Hensel et al. 2008 非特許文献10)。
2.アグロバクテリウムによるオオムギ未熟胚への遺伝子導入に関する従来技術
Ke et al. 2002(非特許文献17)は、アグロバクテリウムとの共存培養後におけるβ−glucuronidase(GUS)レポーター遺伝子の発現を解析することで、共存培養用の培地組成の違いによる未熟胚細胞へのT−DNAの転移を評価した。単離直後の未熟胚を用い、30分間アグロバクテリウムを接種、MS培地の基本無機塩類濃度を等倍(x1)または1/10倍(x0.1)とした共存培地を用いて、3日間共存培養を実施した。オーキシン作用を有する植物成長調節物質である0.25mg/l(1.1μM)2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D) を添加または無添加の共存培地を用いた。0.25mg/l (1.1μM)2,4−Dは脱分化を促すには濃度が低く、胚盤からのカルス誘導には通常使用されていない(Serhantova et al. 2004 非特許文献18)。共存培養後における5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロン酸(X−Gluc)を用いたGUSの組織化学的観察の結果、MS無機塩類を1/10倍濃度とした培地試験区で、胚盤細胞への遺伝子導入効率が高く、植物成長調節物質を無添加とした培地試験区でさらに効率が高まることが明らかとなった (Ke et al. 2002 非特許文献17)。
しかしながら、Ke et al. (2002 非特許文献17)によるこれらの試験は、共存培養後の一過性のGUS発現を観察しただけに止まっており、T−DNA上の導入遺伝子を安定的に発現する形質転換細胞の獲得に成功していない。その理由として、Ke et al. (2002 非特許文献17)では、低濃度の植物成長調節物質あるいは植物成長調節物質を全く含まない、1/10濃度のMS培地で培養を継続すると、植物材料に有害な影響があるためと考察している。
3.アグロバクテリウムによるイネ・コムギ未熟胚への遺伝子導入に関する従来技術
Hiei et al. (2006 非特許文献19)は、アグロバクテリウムを接種する前のイネおよびトウモロコシの未熟胚に対し、熱処理(特許文献1)や遠心処理(特許文献2)あるいは熱および遠心処理(特許文献3)を行うことにより、未熟胚胚盤への遺伝子導入効率が向上し、結果的に形質転換効率が向上することを報告した。これら処理を用いることにより、これまで形質転換できなかった品種で形質転換体を得ることができたことも報告している。また、アグロバクテリウムを接種する前の未熟胚に加圧処理(特許文献4)をすることにより、遠心処理と同様に胚盤細胞への遺伝子導入効率が向上し、結果的に形質転換効率が向上することが報告されている。熱、遠心、熱および遠心、加圧処理は、何れも、未熟胚胚盤への遺伝子導入効率を上げるために用いられている。
WO1998/054961 WO2002/012520 WO2002/012521 WO2005/017169 WO2007/069643
Potrykus, I (1990) Gene transfer to cereals: an assessment. Bio/technology 8:535−542. Hiei, Y., Ohta, S., Komari, T. and Kumashiro, T. (1994) Efficient transformation of rice (Oryza sativa L.) mediated by Agrobacterium and sequence analysis of the boundaries of the T−DNA. The Plant Journal 6:271−282. Ishida, Y., Saito, H., Ohta, S., Hiei, Y., Komari, T. and Kumashiro, T. (1996) High efficiency transformation of maize (Zea mays L.) mediated by Agrobacterium tumefaciens. Nature Biotechnology 14:745−750. Cheng, M., Fry, J. E., Pang, S., Zhou, H., Hironaka, C. M., Duncan, D. R., Conner, T. W., Wan, Y. (1997) Genetic transformation of wheat mediated by Agrobacterium tumefaciens. Plant Physiol. 115: 971−980. Tingay, S., McElroy, D., Kalla, R., Fieg, S., Wang, M., Thornton, S., Brettell, R. (1997) Agrobacterium tumefaciens−mediated barley transformation. Plant J. 11: 1369−1376. Zhao, Z.−Y., Cai, T., Tagliani, L., Miller, M., Wang, N., Peng, H., Rudert, M., Schoeder, S., Hondred, D., Seltzer, J., Pierce, D. (2000) Agrobacterium−mediated sorghum transformation. Plant Mol. Biol. 44: 789−798. Cheng et al. (2004) Invited revier: Factors influencing Agrobacterium−mediated transformation of monocotyledonous species. In Vitro Cell. Dev. Biol. Plant 40:31−45. Jacobsen et al. (2006) Barley (Hordeum vulgare L.) Methods in Molecular Biology, vol.343 Agrobacterium protocols, volume 1, Edited by Kan Wang, Humana Press Inc., Totowa, NJ, 171−183. Bartlett, J. G., Alves, S. C., Smedley, M., Snape, J. W., Harwood, W. A. (2008) High−throughput Agrobacterium−mediated barley transformation. Plant Methods 4:1−12. Hensel, G., Valkov, V., Middlefell−Williams, J., Jochen Kumlehn, J. ( Efficient generation of transgenicbarley: The way forwardto modulate plant−microbe interactions. Journal of Plant Physiology165:71−82. Harwood, W. A., Bartlett,J. G., Alves, S. C., Perry, M., Smedley, M. A.,Leyland, N., Snape, J. W. (2008)Barley transformation using Agrobacterium−mediated techniques. Method in Molecular Biology,Transgenic Wheat, Barley and Oats, vol. 478,Jones, H. D. and Shewry, P. R. (eds.), Human Press Inc., Spring Street, NY, 137−147. Trifonova, A., , Madsen, S., Olesen, A. (2001) Agrobacterium−mediated transgene delivery and integration intobarley under a range ofin vitro culture conditions. Plant Science 161:871−880. Murashige, T., Skoog, F.(1962) A revised medium for rapid growthand bio assays with tobacco tissuecultures. Physiol Plant 15:473−497. Wan, Y., Lemaux, P. G. (1994) Generation of large numbers ofindependently transformed fertile barley plants. Plant Physiology 104:37−48. Matthews, P. R., Wang, M−B., Waterhouse, P. M., Thornton,S., Fieg, S. J., Gubler, F., Jacobsen, J. V. (2001)Marker gene elimination from transgenic barley, using co−transformation with adjacent‘twin T−DNAs’ on a standard Agrobacteriumtransformation vector. Molecular Breeding 7:195−202. Murray, F., Brettell, R.,Matthews, P., Bishop, D., Jacobsen, J. (2004) Comparison of Agrobacterium−mediated transformation of four barleycultivars using the GFP and GUS reporter genes. Plant Cell Reports 22:397−402. Ke et al. (2002) Manipulation of discriminatory T-DNA delivery by Agrobacterium into cells of immature embryos of barley and wheat. Euphytica 126:333−343. Serhantova, V., Ehrenbergerova, J., Ohnoutkova, L. Callus inductionand regeneration efficiency ofspring barley cultivars registered in the Czech Republic. (2004) Plant, Soiland Environment 50:456−462 Hiei, Y., Ishida, Y., Kasaoka,K., Komari, T. (2006) Improved frequency of transformation of rice and maize by treatment of immature embryos with centrifugation and heat prior to infection with Agrobacterium tumefaciens. Plant Cell Tissue and Organ Culture 87:233−243. Watson et al. (1975) Plasmid required for virulence of Agrobacterium tumefaciens. J. Bacteriol. 123:255−264. Linsmaier, E., Skoog, F. (1965) Organic growth factor requirements of tobacco tissue culture. Physiol. Plant. 18:100−127. Chu, C.−C. (1978) The N6 medium and its applications to anther culture of cereal crops. In: Proc. Symp. Plant Tissue Culture. Peking: Science Press, pp 43−50. Cheng et al. (2004) Invited revier: Factors influencing Agrobacterium−mediated transformation of monocotyledonous species. In Vitro Cell. Dev. Biol. Plant 40:31−45. Negrotto, D., Jolley, M., Beer, S., Wenck, A. R., Hansen, G. (2000) The use of phosphomannose−isomerase as a selection marker to recover transgenic maize plants (Zea mays L.) via Agrobacterium transformation. Plant Cell Reports 19: 798−803. Zhao, Z.−Y., Gu, W., Cai, T., Tagliani, L., Hondred, D., Bond, D., Schroeder, S., Rudert, M., Pierce, D. (2001) High throughput genetic transformation mediated by Agrobacterium tumefaciens in maize. Mol. Breed. 8: 323−333. Ishida, Y., Saito, H., Hiei, Y., Komari, T. (2003) Improved protocol for transformation of maize (Zea mays L.) mediated by Agrobacterium tumefaciens. Plant Biotechnology 20:57−66. Frame et al. (2006) Maize (Zea mays L.) Methods inMolecular Biology, vol.343 Agrobacterium prptocols, volume 1, Edited by Kan Wang, Humana Press Inc., Totowa, NJ, 185−199. Garfinkel, D. J., Nester, E.W. (1980) Agrobacterium tumefaciens mutants affected incrown gall tumorigenesis and octopine catabolism. Journal Bacteriology. 1144:732−43.
本発明は、従来公知のアグロバクテリウム法と比較して高い効率で形質転換することを可能とする、オオムギ属(Hordeum)の植物へ遺伝子導入を行う方法、および、オオムギ属の形質転換植物の作成方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意研究に努めた結果、a)アンチオーキシンを含む、b)サイトカイニンを含む、c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;の1つまたは複数の条件を満たす共存培地の中で共存培養をすることにより、遺伝子導入効率が向上することを見出した。この共存培地を用いた場合には、共存培養後のカルス化が抑制されることが考えられるために、本発明者らは前記要件に加えて、アグロバクテリウム菌を接種する前のオオムギ属植物の未熟胚組織を遠心処理および/または加圧処理をすること、および/または共存培地で培養する共存工程中に若しくは共存工程に次いで、遠心処理および/または加圧処理をすることの効果を検討したところ、従来法に比べて、オオムギ属植物の未熟胚組織からのカルス形成効率が向上することを見出した。その結果本発明により、オオムギ属植物において効率よく形質転換を行うことが可能となった。なお、未熟胚組織への遠心処理および/または加圧処理は、アグロバクテリウム菌を接種する前または共存工程後のどちらかに実施することもできる。
本発明は、好ましくは以下に記載するような態様により行われるが、これに限定されるものではない。
[態様1]
オオムギ属(Hordeum)の植物の、未熟胚組織へ、遺伝子導入を行う方法であって、
(i)アグロバクテリウム菌を上記組織へ接種し、該アグロバクテリウム菌の存在下で、以下のa)からc)の1つまたは複数の条件
a)アンチオーキシンを含む、
b)サイトカイニンを含む、
c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;
を満たす共存培地の中で、上記組織を培養する共存工程を行う、
(ii)アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行う、
ことを含む、上記方法。
[態様2]
オオムギ属(Hordeum)の植物の、形質転換植物の作成方法であって、
(i)アグロバクテリウム菌をオオムギの未熟胚組織へ接種し、該アグロバクテリウム菌の存在下で、以下のa)からc)の1つまたは複数の条件
a)アンチオーキシンを含む、
b)サイトカイニンを含む、
c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;
を満たす共存培地の中で、上記組織を培養する共存工程を行い、
(ii)アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行い、
(iii)上記組織をレスティング培地で培養するレスティング工程を行い、そして、
(iv)上記組織を再分化培地で再分化させる工程を行う、
ことを含む、上記方法。
[態様3]
前記共存工程開始後6時間ないし36時間以内に、レスティング工程を行う、態様1または態様2に記載の方法。
[態様4]
前記共存工程開始後12時間ないし24時間以内に、レスティング工程を行う、態様3に記載の方法。
[態様5]
上記未熟胚組織に対するアグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記未熟胚組織において幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位を物理的/化学的に損傷する工程を行う態様1ないし態様4のいずれか1に記載の方法。
[態様6]
前記共存培養において前記未熟胚組織を、胚盤側を上向きにし、かつ、胚軸側を前記共存培地に接するように置床して培養する、態様1ないし態様5のいずれか1に記載の方法。
[態様7]
以下の形質転換効率向上処理のうち、少なくとも1つを行う、態様1ないし態様6のいずれか1に記載の方法。
a)熱処理;
b)硝酸銀の共存培地への添加;
c)粉体の存在下でアグロバクテリウムを接種する処理;
[態様8]
上記(iii)レスティング工程と、(iv)再分化工程の間に薬剤選抜工程を含む、態様1ないし態様7のいずれか1に記載の方法。
[態様9]
(iii)レスティング培地、および/または、薬剤選抜工程の選抜培地が、植物成長調節物質を含む、態様1ないし態様8いずれか1に記載の方法。
[態様10]
前記アグロバクテリウム菌が、LBA4404、EHA101、EHA105、AGL0、AGL1、および58C1からなる群から選択される菌である、態様1ないし態様9のいずれか1に記載の方法。
[態様11]
オオムギ属の植物がオオムギ(H. vulgare)である、態様1ないし態様10のいずれか1に記載の方法。
本発明により、高い効率でオオムギ属の植物の形質転換を行うことが可能となった。これにより、形質転換した植物体を安定して再現性よく得ることが可能となり、当該植物体を得るためのコストを削減することも可能となる。
図1は、共存培地へのアンチオーキシン類およびダイカンバの添加が、オオムギ未熟胚への遺伝子導入効率へ及ぼす影響を示したグラフである。各区15個の未熟胚を試供した。図1におけるカラムは左からそれぞれ、植物ホルモンを添加しない系、アンチオーキシンであるTIBAを5μM添加した系、ベンゾイック系オーキシンであるダイカンバを0.11μM添加した系、およびダイカンバを11.3μM添加した系の結果を示す。図1の縦軸はGUS発現インデックスを示す。GUS遺伝子の胚盤領域における発現を個々の未熟胚について、87.5(胚盤の75%以上で発現)、62.5(胚盤の50%以上75%未満で発現)、37.5(胚盤の25%以上50%未満で発現)、17.5(胚盤の10%以上25%未満で発現)、6.5(胚盤の1%以上10%未満で発現)、0.5(胚盤の0%を超えて1%未満で発現)、0(発現なし)の7段階で評価し、平均値をGUS発現インデックスとした。 図2は、共存培地へのサイトカイニン類およびアンチオーキシン類の添加がオオムギ未熟胚への遺伝子導入効率へ及ぼす影響を示したグラフである。各区15個の未熟胚を試供した。図2におけるカラムはそれぞれ、植物ホルモンを添加しない系、6BAを5μM添加した系、4-PUを5μM添加した系、ゼアチンを5μM添加した系、TIBAを5μM添加した系、パクロブトラゾールを5μM添加した系を、それぞれ示す。なお、6BA、4-PUおよびZeatinはサイトカイニンであり、TIBAとパクロブトラゾールはアンチオーキシンである。図2の縦軸はGUS発現インデックスを示す。図2のGUS発現インデックスは、図1において述べたのと同様にして求めた。
発明の実施をするための形態
以下に、本発明の構成を具体的に説明する。
本発明は、オオムギ属(Hordeum)の植物の、未熟胚組織へ、遺伝子導入を行う方法であって、
(i)アグロバクテリウム菌を上記組織へ接種し、該アグロバクテリウム菌の存在下で、以下のa)からc)の1つまたは複数の条件
a)アンチオーキシンを含む、
b)サイトカイニンを含む、
c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;
を満たす共存培地の中で、上記組織を培養する共存工程を行う、
(ii)アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行う、
ことを含む、遺伝子導入方法を提供する。
更に本発明は、オオムギ属(Hordeum)の植物の、形質転換植物の作成方法であって、
(i)アグロバクテリウム菌をオオムギの未熟胚組織へ接種し、該アグロバクテリウム菌の存在下で、以下のa)からc)の1つまたは複数の条件
a)アンチオーキシンを含む、
b)サイトカイニンを含む、
c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;
を満たす共存培地の中で、上記組織を培養する共存工程を行い、
(ii)アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行い、
(iii)上記組織をレスティング培地で培養するレスティング工程を行い、そして、
(iv)上記組織を再分化培地で再分化させる工程を行う、
ことを含む、上記方法を提供する。
本発明において使用可能な植物組織が由来する植物はオオムギ属の植物である。なお本明細書における「オオムギ属」の植物の例として、限定されるものではないが、H. arizonicum、H. bogdanii、H. brachyantherum (ホソムギクサ) 、H. brevisubulatum、H. bulbosum、H. capense、H. chilense、H. comosum、H. cordobense、H. depressum、H. erectifolium、H. euclaston、H. flexuosum、H. fuegianum、H. guatemalense、H. gussoneanum、H. intercedens、H. jubatum(ホソノゲムギ)、H. lechleri 、H. marinum(ハマムギクサ)、H. murinum(ムギクサ)、H. muticum、H. patagonicum、H. parodii、H. procerum、H. pubiflorum 、H. pusillum(ミナトムギクサ)、H. roshevitzii、H. secalinum、H. stenostachys 、H. tetraploidumおよびH. vulgare(オオムギ)を挙げることができる。本発明においてオオムギ(H. vulgare)は、とりわけ好適である。なお本明細書において「オオムギ(H. vulgare)」と記載した場合には、「オオムギ属」の中で「オオムギ」という特定の植物種を示すものとする。
また、本発明において使用可能な植物組織は、未熟胚である。本明細書において「未熟胚」とは、受粉後の登熟過程にある未熟種子の胚をいう。本発明の方法に供される未熟胚のステージ(熟期)は特に限定されるものではなく、受粉後いかなる時期に採取されたものであってもよいが、受粉後7から21日後のものが好ましい。未熟胚は取り出した当日使用することができるが、2日間以内培養した未熟胚であっても良い。また本明細書において「完熟種子」とは、受粉後の登熟過程が終了して種子として完熟しているものをいう。
以下、上記の各工程について詳しく説明する。
1.本発明の各工程について
本発明の遺伝子導入方法及び形質転換植物の作成方法は、アグロバクテリウム細菌を利用する。特に明記する工程以外は、公知のアグロバクテリウム細菌を利用した遺伝子導入方法、形質転換方法の各工程に従って行うことが可能である。
(1)共存工程について
本発明において、アグロバクテリウム菌を接種した、未熟胚組織を、該アグロバクテリウム菌の存在下で培養する、共存工程を行う。本工程は、アグロバクテリウム菌を接種した植物組織を、アグロバクテリウム菌の共存下にて培養することにより、アグロバクテリウム菌から植物細胞へのDNAの導入を確実にする工程である。
本発明の遺伝子導入方法と形質転換植物の作成方法では、好ましくは、使用可能な植物組織を、オオムギ属植物の植物体から単離・採取してから用いる。よって本発明においては、オオムギ属植物の植物体から組織(未熟胚)をまず単離・採取し、単離・採取されたその組織にアグロバクテリウム菌の接種を行う。また、単離・採取された組織を2日間以内で培養し、培養したその組織にアグロバクテリウム菌の接種を行うこともできる。好ましくは、採取当日もしくは採取の翌日の組織にアグロバクテリウム菌の接種を行う。
本発明において使用するオオムギ未熟胚は、その大きさは特に限定される訳ではないが、1.5−2.5mmの大きさのものを、好ましく用いることができる。
上記のような未熟胚は、形質転換効率を上昇させるための熱処理(特許文献1)がなされていてもよい。熱処理は、アグロバクテリウム菌の接種の前に施される。形質転換効率を上昇させるための熱処理については、後に詳細に述べる。
本発明においては、オオムギ属植物の組織にアグロバクテリウム菌が接種される。
本明細書で使用する「接種」とは、アグロバクテリウム菌を植物の組織(例えば胚盤)に接触させることをいい、当該技術分野においては種々のアグロバクテリウム菌接種方法が公知である。当該方法としては、例えば、アグロバクテリウム菌を液体培地に懸濁した懸濁液に植物組織を加える方法、共存培地上の植物組織にアグロバクテリウム菌の懸濁液を直接滴下する方法、植物組織中にアグロバクテリウム菌懸濁液を注入する方法、およびアグロバクテリウム菌懸濁液中に植物組織を浸漬し減圧する方法等があげられる。しかしながら、本発明におけるアグロバクテリウム菌の接種方法は、これらの方法に限定されない。
当該アグロバクテリウム菌を接種するにあたり、アグロバクテリウム菌による形質転換効率を改善するために、例えば、アセトシリンゴン、界面活性剤、多孔性セラミックス等の種々の添加剤をアグロバクテリウム菌の懸濁液中に含ませることが可能である。
本発明に使用可能なアグロバクテリウム菌は特に限定されず、アグロバクテリウムによる形質転換法に使用可能な、公知のいずれのアグロバクテリウム菌であってよい。本発明の好ましい態様において、アグロバクテリウム菌は、例えば、LBA4404、EHA101、EHA105、AGL0、AGL1、またはC58C1等が挙げられるが、これに限定されない。ベクターにスーパーバイナリーベクター(非特許文献2および3)を使用しない場合には、形質転換効率の観点から、アグロバクテリウムA281(非特許文献20)が有するTiプラスミドpTiBo542の病原性領域を有する菌株を用いることが好ましい。
アグロバクテリウム菌は、アグロバクテリウム菌内のプラスミドのT−DNAの中に挿入された遺伝子を植物のゲノム中に導入する性質を有することが公知である。そのため、本発明で使用可能なアグロバクテリウム菌は、植物内で発現させることを意図する遺伝子をT−DNA中に挿入したプラスミドを有する。そして、当該プラスミドを有するアグロバクテリウム菌を植物組織に接種することにより植物を形質転換することが可能である。これにより、組織中の植物細胞に好ましい形質が付与される。本発明において使用可能なアグロバクテリウム菌用のプラスミドは、例えば、pSB131、pSB134、pNB131およびpIG121Hm等があげられるが、これに限定される訳ではない。
本工程で使用される培地は、本明細書中では「共存培地」という。共存培地は、植物細胞を培養するために通常使用されるものでよく、例えば、LS無機塩類(非特許文献21)やN6無機塩類(非特許文献22)を基本とする培地等があげられる。限定されるものではないが、本発明においては、無機塩類等の濃度を低下させた培地が好ましく、例えば、1/10濃度MS培地(非特許文献17)を好適に使用することができる。
本発明者らは鋭意研究を行い、下記の実施例1および2に示されるように、共存培地中にアンチオーキシン類またはサイトカイニン類を添加することで、あるいは共存培地中のフェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシン濃度を低くするか共存培地にフェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを添加しないことで、遺伝子導入効率が顕著に向上することを見出した。これは本発明における、最も顕著な特徴の一つである。
アンチオーキシンは、オーキシン作用をもつ化合物の作用を拮抗的に阻害する作用を持つ物質である。本発明においては、アンチオーキシンとして、限定されるものではないが、2,3,5−トリヨードベンゾイックアシッド(TIBA)、パクロブトラゾール、2,4,6−トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,6−T)、p−クロロフェノキシイソ酪酸(PCIB)、マレイン酸ヒドラジドおよびウニコナゾールPなどを、共存培地中に好ましく添加することができる。
また、本発明において、サイトカイニン類として、限定されるものではないが、6−ベンジルアミノプリン(6BA)、キネチン、N−フェニル−N‘−(4−ピリジルウレア)(4−PU)、ゼアチン、チジアズロンおよびγ-ジメチルアリルアミノプテリン(2−ip)などを、共存培地中に、好ましく添加することができる。なお共存培地に添加されるアンチオーキシンとサイトカイニンの濃度は、好ましくは0.1〜20μM、更に好ましくは0.5〜10μM、最も好ましくは2〜7μMである。
通常、共存培地およびレスティング培地に、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを添加することは、共存培養中に胚盤細胞の脱分化を促し、レスティング培地以降のカルス形成を容易にする。そのため、オオムギにおける再現性のある形質転換の成功例では(Tingay et al. 1997 非特許文献5、Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Hensel et al. 2008 非特許文献10, Harwood et al. 2008 非特許文献11)、これらのオーキシンが10μM以上の濃度で使用されてきた。しかし、Ke et al. 2002(非特許文献17)は、植物成長調節物質を添加しないあるいはごく低濃度の0.25mg/l(1.13μM)の2,4−Dを添加した1/10濃度のMS培地をオオムギの共存培地に使用した場合、高い遺伝子導入効率が得られることを示した。
本発明者らは、下記の実施例1に示されるように、共存培地中において、胚盤のカルス化を誘導する作用が強いフェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンの濃度が低い方が、遺伝子導入効率が向上することを見出した。限定されるものではないが、具体的には、フェノキシ系オーキシンおよび/またベンゾイック系オーキシンについて、これらの濃度の合計が、10μM以下、好ましくは、3μM以下、1μM以下、0.3μM以下の濃度で用いることが好ましく、最も好ましくは0.15μM以下である。
なお本発明においては、限定される訳ではないが、フェノキシ系オーキシンとして、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5−T)などを、またベンゾイック系オーキシンとして、3,6−ジクロロ−2−メトキシベンゾイックアシッド(ダイカンバ)、4−アミノ−3,5,6−トリクロロ−2−ピリジンカルボン酸(ピクロラム)などを好適に利用することができる。さらに他のオーキシン類であるインドール−3−酢酸(IAA)およびα−ナフタレン酢酸(NAA)などを共存培地に添加してもよい。
ところで、共存培地のフェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを無添加あるいは低濃度とし、サイトカイニン類および/またはアンチオーキシン類を添加することは、明らかに胚盤細胞の脱分化およびカルス形成を促進しない。それどころか抑制する条件に相当する。言い換えれば、本発明者らは、脱分化およびカルス形成を抑制する条件を共存工程に与えることによってオオムギ未熟胚の胚盤への遺伝子導入効率を向上させることができることを見出した。この点は、本発明における顕著な特徴の一つである。
しかしながら、このように胚盤細胞の脱分化を抑制する条件を共存培地に与えた場合、共存培養後のレスティング工程または選抜工程において胚盤細胞のカルス化が抑制されてしまうことが想定される。実際に、植物成長調節物質を添加しないあるいはごく低濃度の植物成長調節物質を添加した条件で行われた非特許文献17の試験では、共存培養後の未熟胚における一過性のGUS発現を観察しただけに止まっており、T−DNA上の導入遺伝子を安定的に発現する形質転換細胞の獲得に成功していない。また本発明者らも実際に、非特許文献17に記載の植物成長調節物質を添加しないあるいはごく低濃度の0.25mg/l(1.13μM)の2,4−Dを添加した1/10濃度のMS培地を、オオムギの共存培地に用いて形質転換の実験を行ったが、共存培養後、未熟胚からのカルス形成は極端に阻害され、ほとんどカルスを得ることができなかった。
このような結果に対し、非特許文献17では、(植物成長調節物質を添加しないあるいはごく低濃度の植物成長調節物質を添加した)1/10濃度のMS培地で培養を継続すると、(遺伝子導入効率は高いものの)植物材料に有害な影響があると述べられ、「安定的形質転換を行うためには、十分な数の遺伝子導入受容細胞が再生能を維持することと、十分な数のT−DNA導入イベントを植物材料中に生じさせることとのバランスが取れるような(濃度)条件を見出す必要がある」との考察がなされている。
しかし本発明者らは、たとえ胚盤細胞の脱分化を抑制する条件を共存培地に与えても、高い遺伝子導入効率を維持したまま、カルス形成を行うことができるのではないかと考え、鋭意研究を重ねた。その結果、共存培養後の胚盤からのカルス形成において、アグロバクテリウム接種前、共存工程中および/または共存工程に次いでの未熟胚への遠心処理、アグロバクテリウム接種前、共存工程中および/または共存工程に次いでの未熟胚への加圧処理、あるいはこれらの処理の併用により、オオムギのカルス誘導率を向上させる顕著な効果があることを見出した。そして、このような処理を行うことにより初めて、上記のようなカルス形成を促進しない共存培地を用いても、レスティング工程の胚盤からのカルス形成を問題なく生じさせることができることを見出した。この発見は本発明における、最も顕著な特徴である。遠心処理と加圧処理の条件や効果については、下記において詳細に述べる。
なお、更に形質転換効率を上昇させるために、共存培地中に種々の添加剤を加えることも可能である。このような添加剤としては、例えば、硝酸銀(非特許文献25および26)、システイン(非特許文献23)があげられる。
本工程における「培養」とは、固化した共存培地の上または液体状の共存培地の中などに植物組織を置床し、適切な温度、明暗条件および期間で生育させることをいう。本発明において、培地の態様は、培地成分が植物組織に十分供給されるものであれば特に限定されない。共存培地の固化は、当該技術分野において公知の固化剤を添加することにより行うことができ、そのような固化剤としては、例えばアガロース等が知られている。本発明においては、このような固化した共存培地を好適に使用することができる。
本工程における培養温度は、適宜選択可能であり、好ましくは18℃−30℃、さらに好ましくは25℃で行われる。また、本工程の培養は好ましくは暗所で行われるが、これに限定されない。本工程の培養期間もまた適宜選択可能である。しかしながら、従来法では、共存工程を2ないし3日間とするのが一般的であるのに対し、本発明における共存工程は、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを低減または除去した条件で実施されるため、共存工程の長期化は、共存工程後における未熟胚からのカルス形成を阻害する。従って、培養期間は、好ましくは6時間ないし36時間、より好ましくは12時間ないし24時間である。
本発明における共存培養方法は、未熟胚の胚盤側への遺伝子導入を促進する。その効果を生じせしめるには、未熟胚は胚盤側を上向きに、胚軸側を培地に接するように置床し培養する方法を好ましく用いることができる。従来法では、未熟胚は胚盤側を下向きに培地に接するよう置床されるのが一般的であり、本発明とは手法が大きく異なっている。(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Hensel et al. 2008 非特許文献10, Harwood et al. 2008 非特許文献11)。
(2)遠心処理および/または加圧処理について
本発明において、アグロバクテリウム接種前、共存工程中および/または共存工程に次いでの未熟胚の遠心処理が、オオムギのカルス誘導率を向上させる顕著な効果があることを見出した。この場合の遠心処理の条件は、WO2002/012520(特許文献2)に記載の条件と同様でよい。具体的には、通常100G〜25万G、500G〜20万G、好ましくは1000G〜15万G、最も好ましくは1100G〜11万G程度の遠心加速度範囲で行われる。また、遠心処理の時間は、遠心加速度に応じて適宜選択されるが、通常1秒間以上行うことが好ましい。遠心時間の上限は特にないが、通常、10分間程度で目的を達成することができる。また、遠心処理時間は、遠心加速度が大きい場合にはごく短い時間、例えば1秒以下でも遺伝子導入効率を有意に向上させることができる。一方、遠心加速度が小さい場合には、遠心処理を長く行うことが好ましい。なお、適切な遠心処理条件は、ルーチンな実験により容易に設定することができる。このような遠心処理は、後に述べる胚軸の切除の前後のいずれで行ってもよい。
なお、特許文献2では、アグロバクテリウムを接種する前に遠心処理を行うことで遺伝子導入効率を向上させる効果があるとしているが、未熟胚からのカルス誘導率についての効果は知られていなかった。本発明者らは、遠心処理がオオムギ未熟胚からのカルス誘導率を顕著に向上させる効果があることをはじめて明らかにした。本発明において、遠心処理は、共存培養の前でも後でもよく、また、共存培養中に取り出して遠心処理を行ってもよいが、共存培養前および/または共存培養後に行うことが好ましい。このように植物材料の遠心処理を行う点が、本発明における、最も顕著な特徴である。なお下記の実施例3において、植物成長調節物質を添加しない共存培地で培養した系で、アグロバクテリウムを接種する前の未熟胚への遠心処理および/または共存工程後の未熟胚への遠心処理も、オオムギ未熟胚からのカルス誘導率を向上させる顕著な効果があることを見出した。更に下記の実施例4において、アンチオーキシンを添加した共存培地で培養した系においても、遠心処理を行うことにより、良好なカルス形成が認められることを見出した。
また、アグロバクテリウムを接種する前の未熟胚への加圧処理および/または共存工程後の未熟胚への加圧処理も、上記の遠心処理と同様に、オオムギ未熟胚からのカルス誘導率を向上させる顕著な効果がある。加圧処理は、例えばWO2005/017169(特許文献4)に記載の方法を用いて行うことができる。加圧処理は、限定されるわけではないが、好ましくは1.7気圧ないし10気圧の範囲、より好ましくは2.4気圧ないし8気圧の範囲で行われる。また、加圧処理は、胚軸の切除の前後のいずれで行ってもよい。
なお、特許文献4では、アグロバクテリウムを接種する前に加圧処理を行うことで遺伝子導入効率を向上させる効果があるとしているが、本発明では、加圧処理がオオムギ未熟胚からのカルス誘導率を顕著に向上させる効果があることをはじめて明らかにした。本発明において、加圧処理は、共存培養の前でも後でもよく、また、共存培養中に加圧処理を行ってもよいが、共存培養前および/または共存培養後に行うことが好ましい。このように植物材料の加圧処理を行う点も、本発明における、最も顕著な特徴である。
さらに、本発明においては、上記のような遠心処理と加圧処理の併用も好適に行うことができる。
本明細書において「アグロバクテリウムの接種前」とは、共存培養前の、アグロバクテリウムを接種する工程の前において、処理を行うことを意味する。
また本明細書において「共存工程中」とは、共存培養の途中において処理を行うことを意味する。
また本明細書において「共存工程に次いで」とは、共存培養の後に行うレスティング工程において処理を行うことを意味する。
よって本明細書において、「アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行う」とは、
1)アグロバクテリウムの接種前において遠心処理および/または加圧処理をする態様;
2)アグロバクテリウムの接種後、共存培養中に遠心処理および/または加圧処理をする態様;
3)共存工程後、レスティング工程の前に遠心処理および/または加圧処理をする態様;
4)レスティング工程において遠心処理および/または加圧処理をする態様;および
5)上記1)ないし4)のいずれかの複数の段階において遠心処理および/または加圧処理をする態様、を意味する。それらの態様は全て本発明に包含される。
(3)レスティング工程について
本発明の形質転換植物の作成方法においては、上記共存工程の後にさらにレスティング工程、再分化工程を経て、形質転換植物を作成する。
レスティング工程においては、共存工程後に植物組織をレスティング培地で培養する。本工程は、共存工程の後に植物細胞からアグロバクテリウム菌を除くとともに植物細胞の増殖を行う工程である。
本工程で使用される培地は、本明細書中では「レスティング培地」という。レスティング培地は、植物細胞を培養するために通常使用されるものでよく、例えば、LS無機塩類(非特許文献21)やN6無機塩類(非特許文献22)を基本とする培地等があげられる。なお本工程におけるレスティング培地は、好ましくは抗生物質を含む。レスティング培地中に含まれる抗生物質は、下記の選抜工程で用いる選抜用の抗生物質とは異なり、アグロバクテリウムの除菌を目的とする。限定される訳ではないが、抗生物質として、セフォタキシムおよび/またはカルベニシリンを好ましく使用することができる。
本工程におけるレスティング培地中には、好ましくは、植物成長調節物質を含む。植物成長調節物質として、ベンゾイック系オーキシン類および/またはフェノキシ系オーキシン類を、好ましく利用できる。オーキシン類は一般に植物組織を脱分化させる作用を有するために、本工程および続く選抜工程において、ほとんどの植物組織は一部または全部が脱分化組織(カルス)となる。本明細書で使用する、「脱分化組織」または「カルス」の用語は、分化した植物組織の一部(外植片)をオーキシンやサイトカイニン等の植物成長調節物質を含む培地で培養することにより得られる組織で、元来の植物組織としての形態を有さない無定形で未分化状態の細胞塊をいう。したがって、脱分化組織の状態でレスティング工程を開始する場合、および分化している植物組織がレスティング工程中または続く選抜工程中にすべてが脱分化および一部が脱分化する場合等の、脱分化組織が関係するいかなる態様も本発明の範囲内である。
本工程における「培養」とは、固化したレスティング培地の上または液体状のレスティング培地の中などに植物組織を置床し、適切な温度、明暗条件および期間で生育させることをいう。本発明において、培地の態様は、培地成分が植物組織に十分供給されるものであれば特に限定されない。レスティング培地の固化は、当該技術分野において公知の固化剤を添加することにより行うことができ、そのような固化剤としては、例えばアガロース等が知られている。本工程における培養温度は、適宜選択可能であり、好ましくは20℃−35℃、さらに好ましくは25℃で行われる。また、本工程の培養は好ましくは暗所で行われるが、これに限定されない。本工程の培養期間もまた適宜選択可能であり、好ましくは1日−20日、より好ましくは10日である。
(4)選抜工程
以下に記載する選抜工程および再分化工程は、アグロバクテリウム菌による植物の形質転換方法において一般に行われている方法である。なお本発明の形質転換植物の作成方法において、この選抜工程は必須のものではない。例えば、後に述べる形質転換向上処理をした場合には、選抜工程を経なくても目的とする形質転換体を得ることができるからである。なお選抜工程を行う場合、以下の記載は例示のためのものであり、本発明は以下の記載により限定されるものではない。
本工程は、上記工程により得られた組織から、形質転換体を遺伝子導入の有無により選抜する工程である。本工程で使用される培地は、本明細書中では「選抜培地」という。選抜培地として使用可能な培地には、例えば、LS無機塩類(非特許文献21)やN6無機塩類(非特許文献22)を基本とする培地があげられる。
一般的なアグロバクテリウム菌を用いた形質転換法によれば、選抜培地中には、オーキシン類が添加される。本発明においても、選抜培地が植物成長調節物質を含むのは、好ましい態様である。本選抜工程で使用されるオーキシン類は特に限定されないが、好ましくはダイカンバおよび/または2,4−Dである。さらに、必要に応じて、種々の添加物を加えることが可能である。
形質転換植物の選抜は、例えば、適当な選抜薬剤を含む選抜培地で、上記共存工程および/またはレスティング工程を経た植物を培養し、選抜薬剤に対する耐性の有無により行うことができる。本工程に使用可能な選抜薬剤は、当該技術分野で通常使用されるものを用いることが可能である。例えば、選抜薬剤としては、抗生物質または除草剤を使用可能である。抗生物質としては、例えば、ハイグロマイシン、カナマイシン、またはブラストサイジンS等が使用可能である。さらに、除草剤としては、例えば、フォスフィノスライシン、ビアラフォスまたはグリホセート等が使用可能である。
本選抜工程を行うためには、アグロバクテリウム菌中のT−DNA中に挿入したDNAは、植物に発現させることを意図する遺伝子のみならず、例えば、選抜薬剤に対する耐性遺伝子等を含むことが必要である。このような選抜薬剤に対する耐性遺伝子は当該技術分野においては公知である。本工程において、例えばハイグロマイシンを含む選抜培地において選抜を行う場合、植物には、植物内で発現させることを意図する遺伝子に加え、ハイグロマイシン耐性遺伝子が導入されていることが必要である。
あるいは、形質転換植物の選抜は、植物細胞の糖要求性に基づいて行うことが可能である。植物細胞が利用できる糖にはシュークロース、グルコースなどがあるが、マンノースは利用できないことが知られている。したがって、マンノースを主たる炭素源とする培地で植物組織を培養すると、利用できる糖がない、または少ないために植物組織は枯死または成長を休止する。糖要求性に基づく選抜はこの原理を利用するものである。即ち、この選抜方法を利用するためには、アグロバクテリウム菌中のT−DNA中に挿入したDNAは、植物に発現させることを意図する遺伝子のみならず、リン酸化マンノースイソメラーゼ(phosphomannose isomerase:PMI)遺伝子を含むことが必要となる。ここで、PMI遺伝子を導入された植物細胞は、マンノースを炭素源として利用できるようになる。したがって、上記のようなアグロバクテリウム菌により形質転換された植物組織のみが、マンノースを主たる炭素源とする培地で生育することが可能となり、これにより形質転換植物組織のみを選抜することが可能となる(非特許文献24)。このような方法は、他の糖についても行うことができる。例えば、キシロースイソメラーゼ遺伝子を導入された植物細胞は炭素源としてキシロースを利用することが可能となるため、このような方法に適用可能である。
また、容易に検出可能な遺伝子をスクリーニングの指標として導入し、当該遺伝子の発現の有無により選抜することも可能である。このようなスクリーニングの指標となる遺伝子としては、GFP遺伝子等があげられる。これらの遺伝子を発現する細胞・組織を検出する方法は当該技術分野において公知である。
本工程は、培地の成分組成を変更して、複数回繰り返して行うことも可能である。例えば、複数回の選抜工程では、選抜薬剤の濃度を各選抜工程で上昇させることにより、薬剤選抜の確実性が増し、形質転換植物体を得られる可能性を上昇させることが可能となる。本選抜工程は、好ましくは少なくとも1回、より好ましくは2回行われる。また、複数回選抜工程を行う場合には、選抜薬剤を含む培地で培養した組織のうち増殖した部分を切り取り、当該増殖部分のみを次の選抜工程に供することにより、効率よく形質転換組織を獲得することも可能である。
本工程における「培養」とは、固化した選抜培地の上または液体状の選抜培地の中などに植物組織を置床し、適切な温度、明暗条件および期間にて生育させることをいう。本発明において、培地の態様は、培地成分が植物組織に十分供給されるものであれば特に限定されない。選抜培地の固化は、上記のように例えばアガロース等により行うことが可能である。本工程における培養温度は、適宜選択可能であり、好ましくは20℃−35℃、さらに好ましくは25℃で行われる。また、本工程の培養は好ましくは暗所で行われるが、これに限定されない。本工程の培養期間もまた適宜選択可能であり、例えば、2回選抜工程が行われる場合には、1次選抜は2週間、そして2次選抜は2週間の計4週間行われる。また、複数回の選抜工程全体では好ましくは3−8週間、より好ましくは4−6週間行われる。また、複数回の選抜を行う場合には、各回毎に培養期間、温度および明暗条件を変更することも可能である。
(5)再分化工程
レスティング培地で培養した組織を、必要ならば選抜した後に、再分化培地で再分化させる工程を行う。本工程で使用される培地は、本明細書中では「再分化培地」という。再分化培地は、オーキシン類は含まない。
オオムギの形質転換には、再分化前培養培地(transition medium, pre-regeneration medium)が用いられる場合がある。この培地は、通常オーキシン類を含む(Jacobsen et al. 2006 非特許文献8, Bartlett et al. 2008 非特許文献9, Harwood et al. 2008 非特許文献11)。再分化前培養培地には、選抜薬剤を含んでもよい。再分化前培養培地で培養した組織は再分化培地に移され培養される。
再分化培地は選抜薬剤を含んでもよい。本工程において使用可能な選抜薬剤は、選抜工程において定義したものと同様である。しかしながら、本工程において必ずしも選抜工程で用いた選抜薬剤と同じ選抜薬剤を用いなくとも良い。その場合には、植物にはアグロバクテリウム菌から、2種類以上の選抜薬剤に対する耐性遺伝子が導入されている必要がある。
本発明における「再分化」とは、全部または一部が脱分化していた植物組織が、再び元の植物組織または植物体の性質を獲得することをいう。共存工程および/またはレスティング工程および/または選抜工程中にオーキシン類を使用すると、植物組織の全部または一部が脱分化する。したがって、本工程に供することにより、脱分化組織が再分化し、完全な形質転換植物体を得ることが可能となる。
本工程における「培養」とは、固化した再分化培地の上または液体状の再分化培地の中などに植物組織を置床し、適切な温度、明暗条件および期間にて生育させることをいう。本発明において、培地の態様は、培地成分が植物組織に十分供給されるものであれば特に限定されない。再分化培地の固化は、上記のように例えばアガロース等により行うことが可能である。本工程における培養温度は、適宜選択可能であり、好ましくは20℃−35℃、さらに好ましくは25℃で行われる。また、本工程の培養は好ましくは16−24時間/日の照明下で行われるが、これに限定されない。本工程の培養期間もまた適宜選択可能であり、好ましくは7日−21日、より好ましくは14日である。
2.本発明で用いられる形質転換向上処理について
また本発明の遺伝子導入方法と形質転換植物の作成方法において、上記で述べた遠心処理と加圧処理に加えて、以下に述べる形質転換向上処理を行ってもよい。本明細書において「形質転換向上処理」とは、形質転換効率の向上を達成するための処理をいう。このような形質転換向上処理としては、限定されるものではないが、例えば以下のようなものあるいはこれらの組み合わせが含まれる。
a)硝酸銀の共存培地への添加(参照:AgNO(Zhao et al. 2001:非特許文献25、Ishida et al. 2003:非特許文献26)、
b)熱処理(参照:WO1998/054961:特許文献1)、
c)粉体の存在下でアグロバクテリウムを接種する処理(参照:WO2007/069643:特許文献5)、ならびに、
g)共存培地にシステインを添加する処理(Frame et al. 2006:非特許文献27)。
このうち、熱処理、粉体の添加はいずれも遺伝子導入効率を向上させる処理であり、硝酸銀の添加はカルス誘導率を向上させる効果がある。
硝酸銀の共存培地への添加は、例えば、Zhao et al. 2001(非特許文献25)、Ishida et al. 2003(非特許文献26)。硝酸銀は、例えば、1μMないし50μM、好ましくは1μMないし10μMの濃度で、共存培地に添加しうる。
熱処理は、例えばWO1998/054961(特許文献1)に記載の方法を用いて行うことができる。例えば、植物材料をアグロバクテリウム菌と接触させる前に、33℃ないし60℃、好ましくは37℃ないし52℃で、5秒間ないし24時間、好ましくは1分間ないし24時間、処理する。
粉体の存在下でアグロバクテリウムを接種する処理は、例えばWO2007/069643(特許文献5)に記載の方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウム懸濁液と粉体を混合して植物材料に接種する、あるいは、植物と粉体を混合してこれにアグロバクテリウムを接種する、といった方法で行う。粉体は、限定されるものではないが、多孔質の粉体、グラスウール、または活性炭であり、好ましくは多孔性セラミックス、グラスウールまたは活性炭、さらに好ましくはハイドロキシアパタイト、シリカゲル、グラスウールである。
共存培地にシステインを添加する処理では、システインを10mg/lないし1g/l、好ましくは50mg/lないし750mg/l、より好ましくは100mg/lないし500mg/lで、共存培地に添加しうる。
当業者は、これらの処理を適切なタイミング・条件で行うことができる。また、これらを適宜組み合わせることは、形質転換効率向上のために一層好ましい。従って、好ましい形質転換向上処理は、共存培地にAgNOを添加する処理、熱処理、粉体の存在下でアグロバクテリウムを接種する処理、あるいは共存培地にシステインを添加する処理、またはこれらの組み合わせである。なお下記の実施例に示したように、熱処理と共存培地にAgNOを添加する処理を組み合わせることは、本発明の好ましい態様である。
3.幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位の物理的/化学的な損傷を行う処理について
本発明においては、アグロバクテリウムの接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、未熟胚組織において幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位を物理的/化学的に損傷する処理を行うことができる。
本発明において、「幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位を物理的/化学的に損傷する」ための手段は特に限定されるものではなく、様々な物理的処理、および化学的処理が含まれる。限定される訳ではないが、物理的処理には、例えば、鋭利な刃物(例えばメス)による切除あるいは付傷、鋭利な先端をもつ器具(例えばピンセット)による除去あるいは付傷等が含まれる。化学的処理には、例えば、植物細胞の機能を消失あるいは低減させる酸性、アルカリ性の物質、細胞に毒性を有する除草剤成分等の薬剤による処理、などが含まれる。本発明において、幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位を物理的に「取り除く」ことは好ましい態様である。
なお胚は将来植物体になる部分であり、幼根、幼芽、胚軸を含む。胚軸とは、胚の軸となる円柱形の部分であり、その上端から幼芽が、その下端から幼根が発生する。本明細書において幼根、幼芽、胚軸とは、本技術分野で通常に用いられている意味に解されるものである。
また本明細書において、「幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位」(以下、「上記部位」という)とは、幼根、幼芽、胚軸の中の1つ、2つ、または3つの部位から選択された全ての組み合わせを意味する。具体的にはその組み合わせは以下の通りである;1)幼根、2)幼芽、3)胚軸、4)幼根および幼芽、5)幼根および胚軸、6)幼芽および胚軸、7)幼根および幼芽および胚軸。
アグロバクテリウム菌を介した遺伝子導入を行うために、植物組織を脱分化させてカルス化する必要があるので、このように幼根、幼芽、胚軸の存在は胚盤細胞の良好なカルス形成を阻害する。よって胚軸と共に幼根、幼芽も削除することは、本発明において好適な態様である。しかし幼根、幼芽が未だ出てきていない状態の胚軸においては、胚軸のみを取り除くことによっても本発明の目的を達成することができる。
本明細書において「アグロバクテリウムの接種前」とは、共存培養前の、アグロバクテリウムを接種する工程の前において、処理を行うことを意味する。
また本明細書において「共存工程中」とは、共存培養の途中において処理を行うことを意味する。
また本明細書において「共存工程に次いで」とは、共存工培養の後に行うレスティング工程において処理を行うことを意味する。
よって本明細書において、「上記未熟胚組織に対するアグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記未熟胚組織において幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位を物理的/化学的に損傷する工程を行う」とは、
1)アグロバクテリウムの接種前において上記部位を損傷する態様;
2)アグロバクテリウムの接種後、上記部位を損傷する態様;
3)共存工程後、レスティング工程の前に上記部位を損傷する態様;
4)レスティング工程において上記部位を損傷する態様;および
5)上記1)ないし4)のいずれかの複数の段階において上記部位を損傷する態様、を意味する。それらの態様は全て本発明に包含される。
4.本発明の方法による効果
本発明の遺伝子導入方法と本発明の形質転換植物の作成方法により、安定的に高い効率でオオムギ属植物の形質転換を行うことができる。よって植物の形質転換効率の向上が達成される。
本明細書において「形質転換効率が高い」とは、高い効率で目的遺伝子が植物細胞へ導入されること、未熟胚等から高い効率でカルスが誘導されること、形質転換カルスから高い効率で再分化が起こること、を包含する概念である。また本明細書において「形質転換効率が向上する」とは、目的遺伝子の植物細胞への導入効率が向上すること、未熟胚等からのカルス誘導率が向上すること、形質転換カルスからの再分化効率が向上すること、を包含する概念である。
植物組織に遺伝子導入がされたか否かは、公知の種々の方法により決定可能である。例えば、形質転換する遺伝子をGUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子あるいはGFP遺伝子などのレポーター遺伝子として利用し、簡便な公知の方法でこれらのレポーター遺伝子の発現部位を目視することにより形質転換の有無について確認することが可能である。また、抗生物質抵抗性遺伝子や除草剤抵抗性遺伝子などの選抜マーカー遺伝子を利用して、抗生物質あるいは除草剤を含む培地で植物細胞を培養することにより、あるいは抗生物質溶液や除草剤溶液を植物に処理することにより、その抵抗性の発現を指標に形質転換の有無を確認することも可能である。
以下、実施例によって本発明を説明するが、実施例は例証のためのものであり、本発明を制限するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲の記載に基づいて判断される。さらに、当業者は本明細書の記載に基づいて、容易に修正、変更を加えることが可能である。
実施例1
共存培地組成が遺伝子導入効率に及ぼす効果(アンチオーキシン、オーキシン)
材料および方法
オオムギ(品種:Golden Promise)の胚軸を除去した未熟胚(大きさ1.5−2.0mm)を無菌的に採取し、1ml滅菌水を入れた2mlマイクロチューブに沈めた。遺伝子導入効率を高めるため、未熟胚の入ったチューブを43℃で5分間ウォーターバスにて加熱処理を行った。100μMアセトシリンゴンを含むMG/L液体培地(非特許文献28)にハイグロマイシン耐性遺伝子を有するアグロバクテリウム菌株 EHA101(pIG121Hm)(非特許文献2)を懸濁し、一晩(約20時間)28℃で振盪培養(180rpm)を行い接種源とした。菌濃度は、O.D.値 = 1.0(660nm)に調整した。熱処理した未熟胚に接種源を加え、真空ポンプを用いて500mbarで10分間の減圧処理を行った。植物成長調節物質(以下、アンチオーキシン、サイトカイニン、およびオーキシンを総称して植物成長調節物質という)を除いた液体カルス誘導培地CIMT(Tingay et al. 1997 非特許文献5)で一度未熟胚を洗浄した。アグロバクテリウムを接種した未熟胚を100μMアセトシリンゴン含有のオオムギ共存培地(1/10濃度のMS無機塩およびMSビタミン、10g/lグルコース、0.5g/l MES、5μM AgNOおよび5μM CuSO4、pH5.8、8g/lアガロース)上へ移植し、胚盤側が上向きになるように置床した。なお、共存培地には植物成長調節物質を2種類添加した4試験区で試験を実施した。すなわち、植物成長調節物質無添加のホルモンフリー、5μM TIBA(アンチオーキシン)、0.11μM ダイカンバ(Dicamba)(オーキシン)、11.3μM ダイカンバ(Dicamba)(オーキシン)の4試験区とした。
25℃、暗黒下で24時間培養した未熟胚を、0.5mg/l 2,4−Dおよび1.25mg/l CuSO・5HOを添加したCIMTレスティング培地(Tingay et al. 1997 非特許文献5)に移植した。なお、本レスティング培地にはアグロバクテリウム除菌用に250mg/lカルベニシリン 100mg/l セフォタキシムを添加した。25℃暗黒下で2日間培養した後、25℃暗黒下で2日間培養した後、未熟胚を0.1%のTriton X−100を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)に浸漬し、37℃で1時間静置した。リン酸緩衝液を除いた後、1.0mM 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロン酸(X−gluc)および20%メタノール含むリン酸緩衝液を添加した。37℃で一晩処理した後、GUS遺伝子の発現を調査した。GUS遺伝子の胚盤領域における発現を個々の未熟胚について、87.5(胚盤の75%以上で発現)、62.5(胚盤の50%以上75%未満で発現)、37.5(胚盤の25%以上50%未満で発現)、17.5(胚盤の10%以上25%未満で発現)、6.5(胚盤の1%以上10%未満で発現)、0.5(胚盤の0%を超えて1%未満で発現)、0(発現なし)の7段階で評価し、平均値をGUS発現インデックスとし数値化した。供試した未熟胚数は各区15個とした。供試した未熟胚数は各区15個とした。
結果および考察
未熟胚を用いたアグロバクテリウムによるオオムギの形質転換方法で最も用いられている11.3μMダイカンバ(Tingay et al. 1997 非特許文献5、Jacobsen et al. 2006 非特許文献8、 Bartlett et al. 2008 非特許文献9、 Hensel et al. 2008 非特許文献10、 Harwood et al. 2008 非特許文献11)では、最も遺伝子導入効率が低かった(図1、第4カラム)。0.11μM ダイカンバの添加(図1、第3カラム)では、植物成長調節物質を添加しなかった区(図1、第1カラム)と同程度の遺伝子導入効率が観察された。このことは、Ke et al. (2002 非特許文献17)が1/10濃度のMS培地共存培地に用い、2,4−Dを添加して得られた結果と類似している。なお、アンチオーキシン(5μM TIBA)の添加は、オオムギ未熟胚胚盤への遺伝子導入効率を顕著に高めた(図1、第2カラム)。
実施例2
共存培地組成が遺伝子導入効率に及ぼす効果(サイトカイニン、アンチオーキシン)
材料および方法
材料およびアグロバクテリウムの接種方法は、実施例1と同一である。なお、共存培地には植物成長調節物質を5種類添加した6試験区を供試した。すなわち、植物成長調節物質無添加のホルモンフリー、5μM6BA、5μM 4−PU、5μM ゼアチン(Zeatin)(以上、サイトカイニン)、5μM TIBA、5μM パクロブトラゾール(Paclobutrazol)(以上、アンチオーキシン)の6試験区とした。25℃、暗黒下で24時間培養した未熟胚を、実施例1と同じ、0.5mg/l 2,4−Dおよび1.25 mg/l CuSO・5HOを添加したCIMTレスティング培地(Tingay et al. 1997 非特許文献5)に移植した。なお、本レスティング培地にはアグロバクテリウム除菌用に250mg/l カルベニシリン 100mg/l セフォタキシムを添加した。25℃暗黒下で2日間培養した後、実施例1と同様にGUS遺伝子の発現を調査し、GUS発現インデックスとし数値化した。供試した未熟胚数は各区15個とした。
結果および考察
植物成長調節物質を添加しなかった区で最も遺伝子導入効率が低く、インデックスは15前後を示した(図2、第1カラム)。その他のサイトカイニン類、アンチオーキシン類は30以上の数値を示した(図2、第2から第6カラム)。このことから、共存培地へのサイトカイニン類、アンチオーキシン類の添加により、オオムギ未熟胚胚盤への遺伝子導入効率が顕著に高まることが初めて明らかとなった。
実施例3
遠心処理がコンパクトなカルス形成に及ぼす効果
材料および方法
材料およびアグロバクテリウムの接種方法は、実施例1と同一である。なお、共存培地は植物成長調節物質を無添加とした。
25℃、暗黒下で24時間共存培養した未熟胚を、1ml滅菌水を入れた2mlマイクロチューブに移し、25℃、1,500rpm (20,000 xg)で10分間遠心処理を実施した。その後、実施例1と同じ、0.5mg/l 2,4−Dおよび1.25mg/l CuSO・5HOを添加したCIMTレスティング培地(Tingay et al. 1997 非特許文献5)に移植した。なお、本レスティング培地にはアグロバクテリウム除菌用に250mg/l カルベニシリン 100mg/l セフォタキシムを添加した。25℃暗黒下で2日間培養した後、各未熟胚の胚盤を4分割した。分割切片を同組成の培地へ移植した。その後、さらに同培養条件で8日間培養を継続した。培養後、胚盤分割切片上に形成されたカルスの形状を観察した。オオムギでは、コンパクトでエンブリオジェニックな形状をしたカルスのみが継代培養が可能であり、将来的に再分化する可能性を有する。一方で、水分を多く含んだスポンジ状のカルスがしばしば形成されるが、このようなカルスは再分化能を失っている。従って、コンパクトなカルスを形成した胚盤切片の数を数え、カルス形成率とした。
結果および考察
遠心処理を実施した試験区からは、80%の効率でコンパクトなカルスが形成されたのに対し(表1、下段)、遠心処理を行っていない試験区では、その1/4以下の17.5%がコンパクトなカルスを形成するにとどまった(表1、上段)。Ke et al. (2002 非特許文献17)において、植物成長調節物質を含まない共存培地で遺伝子導入効率が一定程度向上することが示されていたが、同文献中の「1/10濃度のMS培地で培養を継続すると、植物材料に有害な影響がある。」および「安定的形質転換には、十分な数の遺伝子導入受容細胞が再分化能を維持していると同時に、十分な数のT−DNA導入イベントを植物材料中に生じさせるという優れたバランスを見出す必要がある。」などの記載にあるとおり、そのまま何の処理も加えないでレスティング培養を実施しても、遺伝子導入領域である胚盤細胞からのコンパクトなカルスの形成が強く抑制されることが明らかとなった。一方、遠心処理を実施した試験区では、80%がコンパクトなカルスを形成し、その後のハイグロマイシンによる選抜で形質転換カルスを一定頻度で得られる可能性を示唆した。なお、本発明者らは、アグロバクテリウム接種前の未熟胚に遠心処理や加圧処理を実施した場合も同様なカルス形成促進効果があることを見出している。さらに、本実験系では、アグロバクテリウム接種前の未熟胚に遠心処理および加圧処理を実施しても、共存培養後の未熟胚への遺伝子導入効率は向上せず、あくまでコンパクトなカルスの形成促進に効果が見られた。
実施例4
遠心処理がハイグロマイシン耐性カルスの形成に及ぼす効果
材料および方法
材料およびアグロバクテリウムの接種方法、共存工程、遠心処理条件およびレスティング工程は、実施例3と同一である。なお、共存培地にはアンチオーキシンである5μMTIBAを添加した。胚盤を4分割したのち10日間レスティング工程を継続した。レスティング工程後、各分割胚盤切片をさらに4分割(未熟胚当たり16分割)し、50mg/l ハイグロマイシン Bおよび1.25mg/l CuSO・5HOを添加したCIMT選抜培地(Tingay et al. 1997 非特許文献5)に移植した。本選抜培地にはアグロバクテリウム除菌用に250mg/l カルベニシリンを添加した。なお各胚盤切片は、由来する未熟胚ごとに培地上に区分けして置床した。25℃暗黒下で2週間培養した後、水分を多く含むスポンジ状のカルスではなく、コンパクトなカルスを選んで、同組成の2次選抜培地へ移植し、同条件でさらに3週間培養した。培養後、選抜培地上で増殖したハイグロマイシン耐性のコンパクトなカルスをカウントした。なお、同じ未熟胚由来の胚盤切片から複数の耐性カルスが得られた場合があっても、未熟胚当たりでは最大で1つのハイグロマイシン耐性カルスまでをカウントの対象とした。
また、従来実施されてきた形質転換方法と比較をするため、Harwood et al. (2008 非特許文献11)のプロトコルに従い、形質転換を実施した。上述した実施例との違いは、共存培地の組成が等倍(x1)のMS培地を用い、ダイカンバを2.5mg/l添加している点がある。また、レスティング培地には、Harwood et al. (2008)のプロトコルに従い、2,4−Dは添加しなかった点も異なる。一方で、条件を同一とするため、遺伝子導入向上処理として熱処理を他試験区と同条件で実施し、アグロバクテリウムの接種方法には他の試験区と同様に減圧処理を実施した。なお、選抜培地の組成は他試験区と同様である。
結果および考察
修正Harwood et al.(2008 非特許文献11)のプロトコルによる従来法では、共存培養終了後、2日目の遺伝子導入効率は、遠心処理なし試験区および遠心処理試験区に比べて、遺伝子導入効率(GUS発現)は低かった(データ非表示)。しかしながら、レスティング工程においてコンパクトなカルスは問題なく形成された。ハイグロマイシンによる選抜により生き残ったカルスは、遠心処理試験区に比べると少なく、結果的に2次選抜までで33.3%の効率にとどまった(表2、上段)。共存培養後に遠心処理を実施しなかった未熟胚では遺伝子導入効率は高かったものの、コンパクトなカルスがほとんど形成されず、選抜培地で生き残るカルスを見出すことはできなかった(表2、中段)。共存培養後に遠心処理を実施した形質転換系では、コンパクトなカルスが数多く形成され、2次選抜までで80%の未熟胚からハイグロマイシン耐性カルスを得ることができた(表2、下段)。この結果は、アンチオーキシンTIBAにより高効率の遺伝子導入を生じた未熟胚胚盤細胞について、遠心処理をしない場合には通常のカルス形成に至らないが、遠心処理をした場合には通常のカルス形成とほぼ同様にコンパクトなカルスが形成され、選抜工程でも従来法と同様に選抜カルスを得られることを示している。

Claims (11)

  1. オオムギ属(Hordeum)の植物の、未熟胚組織へ、遺伝子導入を行う方法であって、
    (i)アグロバクテリウム菌を上記組織へ接種し、該アグロバクテリウム菌の存在下で、以下のa)からc)の1つまたは複数の条件
    a)アンチオーキシンを含む、
    b)サイトカイニンを含む、
    c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;
    を満たす共存培地の中で、上記組織を培養する共存工程を行う、
    (ii)アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行う、
    ことを含む、上記方法。
  2. オオムギ属(Hordeum)の植物の、形質転換植物の作成方法であって、
    (i)アグロバクテリウム菌をオオムギの未熟胚組織へ接種し、該アグロバクテリウム菌の存在下で、以下のa)からc)の1つまたは複数の条件
    a)アンチオーキシンを含む、
    b)サイトカイニンを含む、
    c)フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを10μM未満の濃度で含むか、または、フェノキシ系オーキシンおよび/またはベンゾイック系オーキシンを含まない;
    を満たす共存培地の中で、上記組織を培養する共存工程を行い、
    (ii)アグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記組織の遠心処理および/または加圧処理する工程を行い、
    (iii)上記組織をレスティング培地で培養するレスティング工程を行い、そして、
    (iv)上記組織を再分化培地で再分化させる工程を行う、
    ことを含む、上記方法。
  3. 前記共存工程開始後6時間ないし36時間以内に、レスティング工程を行う、請求項1または請求項2に記載の方法。
  4. 前記共存工程開始後12時間ないし24時間以内に、レスティング工程を行う、請求項3に記載の方法。
  5. 上記未熟胚組織に対するアグロバクテリウム菌の接種前、共存工程中および/または共存工程に次いで、上記未熟胚組織において幼根、幼芽、および胚軸から選択される1またはそれ以上の部位を物理的/化学的に損傷する工程を行う請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記共存培養において前記未熟胚組織を、胚盤側を上向きにし、かつ、胚軸側を前記共存培地に接するように置床して培養する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 以下の形質転換効率向上処理のうち、少なくとも1つを行う、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の方法。
    a)熱処理;
    b)硝酸銀の共存培地への添加;
    c)粉体の存在下でアグロバクテリウムを接種する処理;
  8. 上記(iii)レスティング工程と、(iv)再分化工程の間に薬剤選抜工程を含む、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の方法。
  9. (iii)レスティング培地、および/または、薬剤選抜工程の選抜培地が、植物成長調節物質を含む、請求項1ないし請求項8いずれか1項に記載の方法。
  10. 前記アグロバクテリウム菌が、LBA4404、EHA101、EHA105、AGL0、AGL1、および58C1からなる群から選択される菌である、請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の方法。
  11. オオムギ属の植物がオオムギ(H. vulgare)である、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の方法。
JP2010170871A 2010-07-29 2010-07-29 アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法 Withdrawn JP2013212051A (ja)

Priority Applications (6)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010170871A JP2013212051A (ja) 2010-07-29 2010-07-29 アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法
AU2011283474A AU2011283474B2 (en) 2010-07-29 2011-07-29 Method for gene introduction into hordeum plant using agrobacterium, and method for production of transformed plant of hordeum plant
CA2806822A CA2806822A1 (en) 2010-07-29 2011-07-29 Method for gene introduction into hordeum plant using agrobacterium, and method for production of transformed plant of hordeum plant
EP11812628.3A EP2599382B1 (en) 2010-07-29 2011-07-29 Method for gene transfer into plant belonging to genus hordeum using agrobacterium bacterium, and method for production of transgenic plant of plant belonging to genus hordeum
US13/812,412 US9284567B2 (en) 2010-07-29 2011-07-29 Method for gene introduction into hordeum plant using agrobacterium, and method for production of transformed plant of hordeum plant
PCT/JP2011/067493 WO2012015039A1 (ja) 2010-07-29 2011-07-29 アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010170871A JP2013212051A (ja) 2010-07-29 2010-07-29 アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2013212051A true JP2013212051A (ja) 2013-10-17

Family

ID=45530238

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2010170871A Withdrawn JP2013212051A (ja) 2010-07-29 2010-07-29 アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法

Country Status (6)

Country Link
US (1) US9284567B2 (ja)
EP (1) EP2599382B1 (ja)
JP (1) JP2013212051A (ja)
AU (1) AU2011283474B2 (ja)
CA (1) CA2806822A1 (ja)
WO (1) WO2012015039A1 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US10550399B2 (en) 2012-05-31 2020-02-04 Kaneka Corporation Plant transformation method using plant growth inhibiting hormone
US8806599B2 (en) * 2012-06-11 2014-08-12 Symantec Corporation Systems and methods for implementing multi-factor authentication
BR112019018175A2 (pt) 2017-03-07 2020-04-07 BASF Agricultural Solutions Seed US LLC molécula, célula, planta, sementes, polipeptídeos recombinantes, método para produzir um polipeptídeo, planta, método para controlar ervas, uso do ácido nucleico e produto de utilidade
BR112019018059A2 (pt) 2017-03-07 2020-08-04 BASF Agricultural Solutions Seed US LLC molécula de ácido nucleico recombinante, célula hospedeira, plantas, sementes transgênicas, polipeptídeo recombinante, método para produzir um polipeptídeo, método de controle de ervas daninhas, uso do ácido nucleico e produto de utilidade

Family Cites Families (12)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
MX257801B (en) 1997-06-02 2008-06-10 Syngenta Participations Ag Plant transformation methods
WO2002012521A1 (fr) 1999-06-04 2002-02-14 Japan Tobacco Inc. Procede permettant d'ameliorer l'efficacite du transfert de genes dans des cellules vegetales
EP1306440B1 (en) 2000-08-03 2006-11-29 Japan Tobacco Inc. Method of improving gene transfer efficiency into plant cells
CN100552034C (zh) 2003-08-13 2009-10-21 日本烟草产业株式会社 将基因导入到植物材料中的方法
CA2565419A1 (en) * 2004-05-13 2005-11-24 Basf Aktiengesellschaft Fungicide mixtures based on a triazolopyrimidine derivative
WO2007069301A1 (ja) * 2005-12-13 2007-06-21 Japan Tobacco Inc. 粉体を用いて形質転換効率を向上させる方法
JP4631689B2 (ja) 2005-12-14 2011-02-16 ダイキン工業株式会社 イオン伝導体
CN101668418B (zh) * 2007-02-28 2013-03-20 日本烟草产业株式会社 包括用含3,6-二氯-2-甲氧基苯甲酸的共存培养基培养植物组织的共存步骤的提高植物转化效率的方法
JPWO2008105509A1 (ja) * 2007-02-28 2010-06-03 日本たばこ産業株式会社 選抜工程を経ないアグロバクテリウム菌による形質転換植物の作成方法
JP2011120478A (ja) * 2008-03-31 2011-06-23 Japan Tobacco Inc アグロバクテリウム菌による形質転換植物の作成方法
AU2010278126B2 (en) * 2009-07-29 2015-01-22 Kaneka Corporation A method of gene introduction into triticum plant using agrobacterium, and a method of producing transformed triticum plant
DE102010013474B4 (de) 2010-03-30 2015-08-13 Thiele Gmbh & Co. Kg Kettenschloss

Also Published As

Publication number Publication date
AU2011283474A1 (en) 2013-02-21
EP2599382A1 (en) 2013-06-05
EP2599382B1 (en) 2017-07-19
AU2011283474B2 (en) 2015-12-10
US20130125266A1 (en) 2013-05-16
EP2599382A4 (en) 2014-02-19
US9284567B2 (en) 2016-03-15
WO2012015039A1 (ja) 2012-02-02
CA2806822A1 (en) 2012-02-02

Similar Documents

Publication Publication Date Title
AU2006324560B2 (en) Method for Improving Transformation Efficiency Using Powder
Jones et al. Review of methodologies and a protocol for the Agrobacterium-mediated transformation of wheat
JP5766605B2 (ja) アグロバクテリウム菌を用いた、コムギ属の植物へ遺伝子導入を行う方法、コムギ属の植物の形質転換植物の作成方法
WO2009122962A1 (ja) アグロバクテリウム菌による形質転換植物の作成方法
AU2008221585B2 (en) Method of elevating transformation efficiency in plant by adding copper ion
Wu et al. Somatic embryogenesis and Agrobacterium-mediated transformation of Gladiolus hybridus cv.‘Advance Red’
WO2012015039A1 (ja) アグロバクテリウム菌を用いた、オオムギ属植物へ遺伝子導入を行う方法およびオオムギ属植物の形質転換植物の作成方法
JP5227303B2 (ja) 3,6−ジクロロ−o−アニシン酸を含む共存培地で植物組織を培養する共存工程を含む、植物の形質転換効率を上昇させる方法
Shrawat et al. Agrobacterium tumefaciens-mediated genetic transformation of cereals using immature embryos
AU785336B2 (en) Method of improving gene transfer efficiency into plant cells
EP2127517A1 (en) Agrobacterium-mediated method for producing transformed plant without selection step
JP5260963B2 (ja) 粉体を用いて形質転換効率を向上させる方法
JP2018027020A (ja) アグロバクテリウム菌を用いた、ソルガム属植物への遺伝子導入方法およびソルガム属植物の形質転換植物の作成方法
Gao et al. Optimization of the uid A gene transfer of Rosa hybrida via Agrobacterium tumefaciens: an assessment of factors influencing the efficiency of gene transfer

Legal Events

Date Code Title Description
A300 Withdrawal of application because of no request for examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300

Effective date: 20131105