以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の第1の実施形態であるハードコートフィルム製造方法を実施する製造装置の模式図である。
図1に示す製造装置1は、長尺の樹脂フィルムFをその樹脂フィルムFの長手方向に所定の搬送経路に沿って一定速度で搬送しながらハードコートフィルムを製造するものである。以下、搬送経路上流側を単に上流側と称し、搬送経路下流側を単に下流側と称することがある。
図1に示す製造装置1は、上流側から順に、送出しロール2a、塗布用ロール3a、第一ガイドロール4a、第二ガイドロール4b、照射用ロール7a、第三ガイドロール4c、巻取りロール2bが配置されている。長尺の樹脂フィルムFは、上流側端に設けられた送出しロール2aに巻回され、この製造装置1にセットされる。一方、下流側端まで搬送されてきた樹脂フィルムFは、巻取りロール2bで巻き取られる。この製造装置1において、長尺の樹脂フィルムFは所定の速度の範囲内で、略一定の速度で搬送される。したがって、略一定の速度でハードコートフィルムを製造することができる。
塗布用ロール3aと対向する位置には塗布装置3が配置されている。本実施形態では、ダイヘッド式の塗布装置3を用いているが、メイヤーバー式やグラビアロール式等、樹脂フィルムF上に連続して光硬化型樹脂を塗布できる適宜の塗布装置を用いることができる。第一ガイドロール4aと第二ガイドロール4bの間には乾燥装置5が配置されている。この乾燥装置5は、光硬化型樹脂に含まれる溶剤を揮発させることができるものであればよい。例えば、樹脂フィルムF上に塗布された光硬化型樹脂に直接熱風を吹きかけて加熱するものである。なお、この乾燥装置5として、間接的に加熱する加熱装置を用いてもよい。
第二ガイドロール4bと照射用ロール7aの間には上流側照射装置6が配置され、照射用ロール7aと対向する位置には下流側照射装置7が配置されている。上流側照射装置6と下流側照射装置7は、略同じ部材を有しており、一面が開口した箱状のチャンバー61,71と紫外線ランプ62,72をそれぞれ有している。以下、上流側照射装置6の紫外線ランプ62と下流側照射装置7の紫外線ランプ72を区別する場合には、上流側照射装置6の紫外線ランプ62を上流側紫外線ランプ62と称し、下流側照射装置7の紫外線ランプ72を下流側紫外線ランプ72と称することがある。これらの紫外線ランプ62,72は、樹脂フィルムFの幅方向いっぱいに延びた一本の紫外線ランプである。なお、これらの紫外線ランプ62,72として、樹脂フィルムFの幅方向に分割された複数の紫外線ランプを用いてもよい。また、光硬化型樹脂を硬化させる所定の光線が紫外線ではなく、可視光線、赤外線等の場合には、対応する光線を照射する専用のランプが設けられる。
チャンバー61,71の開口部は、矩形であり四つの縁により画定されたものである。以下、上流側の縁を上流側端部61a,71aと称し、下流側の縁を下流側端部61b,71bと称する。上流側照射装置6のチャンバー61と、下流側照射装置7のチャンバー71は、開口部が搬送経路に近接するようにそれぞれ配置されている。このため、樹脂フィルムFは、チャンバー61,71の開口部の近傍をそれぞれ通過することになる。また、搬送経路における、上流側照射装置6の開口部から照射された紫外線が当たる部分が上流側照射範囲になり、下流側照射装置7の開口部から照射された紫外線が当たる部分が下流側照射範囲になる。なお、チャンバー61,71内に、窒素ガス等の不活性ガスを供給する図示しない不活性ガス供給管がそれぞれ設けられている。
図2も参照しながら、本実施形態のハードコートフィルム製造方法の工程を説明する。図2は、本発明の第1の実施形態であるハードコートフィルム製造方法のフローチャートである。図2のフローチャートは、通常運転中における樹脂フィルムFの幅方向の所定ライン上に着目した工程を示す。具体的には、乾燥装置5、上流側照射装置6、下流側照射装置7の運転を開始して所定時間経過後、送出しロール2aによる樹脂フィルムFの送出しと巻取りロール2bによる樹脂フィルムFの巻取りを開始し、塗布装置3から光硬化型樹脂の塗布を開始して所定の初期運転を行う。その後、樹脂フィルムFの搬送速度が所定速度に達し各装置の運転状態が安定して通常運転となった後に、樹脂フィルムFの幅方向の所定ライン上に各工程を実施する。以下、各工程が行われるこの所定ラインを、樹脂フィルムFの特定ラインと称することがある。
上述した通常運転となった後に、樹脂フィルムFの特定ラインが、送出しロール2aから送り出されて送出し工程(ステップ1)が行われる。樹脂フィルムFには、例えば、膜厚が5〜80μm、鉛筆硬度がH程度のTACフィルムが用いられる。また、樹脂フィルムFの搬送速度は、例えば、1〜100m/min程度に設定される。
樹脂フィルムFの特定ラインが塗布用ロール3aに巻き掛けられる位置まで搬送されると、塗布装置3から樹脂フィルムFの特定ラインに光硬化型樹脂が塗布されて塗布工程(ステップ2)が実施される。本実施形態では、光硬化型樹脂として、光重合開始剤と所定の溶剤が添加された電離放射線硬化型樹脂が用いられる。光硬化型樹脂の塗布量は、後述するハードコート層の膜厚が1〜12μmになる範囲に設定される。好ましくは、1〜10μmになる範囲に設定される。
次いで、光硬化型樹脂が塗布された樹脂フィルムFの特定ラインが、第一ガイドロール4aに巻き掛けられた後に乾燥装置5に搬送され、乾燥工程(ステップ3)が行われる。この乾燥工程では、乾燥装置5の加熱によって、樹脂フィルムFの特定ライン上の光硬化型樹脂から溶剤が蒸発して除去され、樹脂フィルムFの特定ライン上に光硬化型塗膜が形成される。
次いで、樹脂フィルムFの特定ラインは、第二ガイドロール4bに巻き掛けられた後に上流側照射装置6まで搬送され、上流側照射工程(ステップ4)が行われる。上流側照射工程では、上記上流側照射範囲に、上流側紫外線ランプ62から紫外線を照射し、樹脂フィルムFの特定ラインを、その上流側照射範囲に通すことによって行われる。なお、樹脂フィルムFの特定ラインの光硬化型塗膜には、図示しない不活性ガス供給管から窒素ガスが吹き付けられ、光硬化型樹脂の架橋反応が阻害されないようにチャンバー61内の雰囲気の酸素濃度が下げられる。
上流側照射工程では、紫外線を照射する上流側紫外線ランプ62の出力は40〜100W/cm、上流側紫外線ランプ62と樹脂フィルムFの距離は5cm以上に設定され、所定の搬送速度にて樹脂フィルムFが搬送される。上流側紫外線ランプ62と樹脂フィルムFの距離が遠くなるほど照射強度が小さくなるため好ましい。これら上流側紫外線ランプ62の出力、上流側紫外線ランプ62と樹脂フィルムFの距離、樹脂フィルムFの搬送速度等に基づき、紫外線強度(ピーク照度)及び照射する積算光量が決定される。上流側照射工程では、紫外線強度の上限値は100mW/cm2以下であることが好ましく、90mW/cm2以下であることがより好ましく、80mW/cm2以下であることが更に好ましい。紫外線強度の下限値は、10mW/cm2以上であることが好ましく、20mW/cm2以上であることがより好ましく、30mW/cm2以上であることが更に好ましい。紫外線強度の上限値及び下限値について、好ましい値、より好ましい値、更に好ましい値を適宜組み合わせて使用することができる。紫外線強度が上限値を超えるものであると、光硬化型塗膜に硬化収縮が発生しやすくなるため、シワが発生しやすくなる。紫外線強度が下限値未満であると、光硬化型塗膜の表面の硬化が十分に行われず、下流側照射工程においてシワが発生しやすくなる。また、所定の搬送速度で上流側照射範囲を通す、樹脂フィルムFの特定ラインにおける光硬化型塗膜に対して、照射する積算光量の上限値は80mJ/cm2以下であることが好ましく、50mJ/cm2以下であることがより好ましく、30mJ/cm2以下であることが更に好ましい。積算光量の下限値は、1mJ/cm2以上であることが好ましく、5mJ/cm2以上であることがより好ましく、8mJ/cm2以上であることが更に好ましい。積算光量の上限値及び下限値について、好ましい値、より好ましい値、更に好ましい値を適宜組み合わせて使用することができる。積算光量が上限値を超えるものであると、硬化収縮が発生しやすくなるため、シワが発生しやすくなる。積算光量が下限値未満であると、光硬化型塗膜の表面の硬化が十分に行われず、下流側照射工程においてシワが発生しやすくなる。なお、上流側紫外線ランプ62の出力を40W/cm未満にすると、アーク放電が発生しなくなる場合がある等、紫外線量が安定しないため好ましくない。
このように、光硬化型塗膜の厚さや形成材料にもよるが、上流側照射範囲の紫外線強度が10〜100mW/cm2、積算光量が1〜80mJ/cm2に調整されているため、上流側照射工程を行うことで樹脂フィルムFの特定ラインの光硬化型塗膜における表面側の部分のみを硬化させることができる。
なお、不活性ガス供給管から光硬化型塗膜に吹き付けられる窒素ガスの量を増加させて、光硬化型塗膜の硬化の際の温度上昇を抑え、光硬化型塗膜における樹脂フィルム側の硬化をより抑制するようにしてもよい。また、光硬化型塗膜の硬化が樹脂フィルム側にまで進行しないように、乾燥工程後、樹脂フィルムFの特定ラインにおける光硬化型塗膜の温度が室温程度にまで下がってから、上流側照射工程を行うことが好ましい。樹脂フィルムFの特定ラインにおける光硬化型塗膜の温度を室温程度に下げるためには、乾燥装置5と上流側照射装置6の間隔を長くしたり、或いは、乾燥工程後、上流側照射工程が実施される前に、樹脂フィルムFの特定ラインにおける光硬化型塗膜を強制的に冷却したりすればよい。ガイドロールに通水して樹脂フィルムFの温度上昇を調整することも可能である。上流側照射工程後に、通水したガイドロールを用いて樹脂フィルムFを搬送することで、樹脂フィルムFの温度上昇を防ぐことができるため好ましい。上流側照射工程において、樹脂フィルムFおよび光硬化型塗膜の温度範囲は、20℃〜50℃の範囲内にすることが好ましい。50℃よりも高くなると、硬化反応が進みやすくなるため、光硬化型塗膜の表面側のみを硬化させにくくなる。紫外線照射により熱が発生するため、上流側照射工程に入る前の段階で樹脂フィルムFおよび温度を下げておくことが好ましく、その温度は20℃〜35℃の範囲であることが好ましく、20℃〜30℃の範囲であることがより好ましい。
次いで、樹脂フィルムFの特定ラインは、下流側照射装置7まで搬送され、下流側照射工程(ステップ5)が行われる。下流側照射工程では、上記下流側照射範囲に、下流側紫外線ランプ72から紫外線を照射し、樹脂フィルムFの特定ラインを、その下流側照射範囲に通すことによって行われる。なお、下流側照射工程においても、樹脂フィルムFの光硬化型塗膜には、図示しない不活性ガス供給管から窒素ガスが吹き付けられる。
下流側照射工程では、紫外線を照射する下流側紫外線ランプ72の出力は80〜200W/cm、下流側紫外線ランプ72と樹脂フィルムFの距離が5cm以上に設定され、、所定の搬送速度にて樹脂フィルムFが搬送される。下流側照射工程においても上流側照射工程と同様に、これら下流側紫外線ランプ72の出力、下流側紫外線ランプ72と樹脂フィルムFの距離、樹脂フィルムFの搬送速度等に基づき、紫外線強度(ピーク照度)及び照射する積算光量が決定される。下流側照射工程では、紫外線強度の上限値は300mW/cm2以下であることが好ましく、250mW/cm2以下であることがより好ましく、200mW/cm2以下であることが更に好ましい。紫外線強度の下限値は、10mW/cm2以上であることが好ましく、20mW/cm2以上であることがより好ましく、30mW/cm2以上であることが更に好ましい。紫外線強度の上限値及び下限値について、好ましい値、より好ましい値、更に好ましい値を適宜組み合わせて使用することができる。紫外線強度が上限値を超えるものであると、硬化収縮が発生しやすくなるため、シワが発生しやすくなる。紫外線強度が下限値未満であると、光硬化型塗膜全体の効果が十分に行われないため、巻取りロール2bに樹脂フィルムFを巻き取る際等に、光硬化型塗膜に含まれる未硬化物が漏れ出す等の問題がある。光硬化型塗膜の全体を硬化させたハードコート層を形成した後に巻き取ることが好ましい。所定の搬送速度で上流側照射範囲を通す、樹脂フィルムFの特定ラインにおける光硬化型塗膜に対して、照射する積算光量の上限値は300mJ/cm2以下であることが好ましく、200mJ/cm2以下であることがより好ましく、150mJ/cm2以下であることが更に好ましい。積算光量の下限値は、1mJ/cm2以上であることが好ましく、5mJ/cm2以上であることがより好ましく、8mJ/cm2以上であることが更に好ましい。積算光量の上限値及び下限値について、好ましい値、より好ましい値、更に好ましい値を適宜組み合わせて使用することができる。積算光量が上限値を超えるものであると、硬化収縮が発生しやすくなるため、シワが発生しやすくなる。積算光量が下限値未満であると、巻取りロール2bに樹脂フィルムFを巻き取る際等に、光硬化型塗膜に含まれる未硬化物が漏れ出す等の問題がある。
本実施形態では、ハードコート層の厚さは、樹脂フィルムFの厚さの1/3(より好ましくは1/5、更に好ましくは1/10)以下にすることが好ましい。ハードコート層の厚さが樹脂フィルムFの厚さに比べて大きくなるにつれ、シワが発生しやすくなる。ハードコート層の厚さと樹脂フィルムFの厚さの比の下限値は特に限定されないが、例えば、1/100(より好ましくは1/50、更に好ましくは1/30)以上である。
下流側照射範囲に照射される紫外線の強度は、上流側照射範囲に照射される紫外線の強度よりも高くすることが好ましい。また、上流側照射範囲を通過する樹脂フィルムFの特定ラインにおける積算光量は、下流側照射範囲を通過する樹脂フィルムFの特定ラインにおける積算光量よりも少なくすることが好ましい。すなわち、上流側照射工程は、樹脂フィルムFのうち光硬化型塗膜が形成された部分を、下流側照射範囲に照射される光線の強度よりも低い強度の光線が照射されている上流側照射範囲に通す工程であることが好ましい。また、上流側照射工程は、樹脂フィルムFのうち光硬化型塗膜が形成された部分を、下流側照射範囲に与える積算光量よりも少ない積算光量が与えられた上流側照射範囲に通す工程であることが好ましい。
下流側照射範囲に照射される紫外線の強度は、上流側照射範囲に照射される紫外線の強度よりも高いため、樹脂フィルムFの特定ラインにおける光硬化型塗膜のうち、上流側照射工程で硬化されていない未硬化の部分を硬化させてハードコート層を形成することができる。また、下流側照射工程では、上流側照射工程で硬化されていない部分の硬化に必要な積算光量で足り、上流側照射工程で照射された分、積算光量を少なくできる。
下流側照射工程において、樹脂フィルムFまたは光硬化型塗膜の温度範囲は、20℃〜80℃の範囲内にすることが好ましい。80℃よりも高くなると、硬化反応が進みやすくなる反面、シワが生じやすくなる。紫外線照射により熱が発生するため、下流側照射工程に入る前の段階で樹脂フィルムFおよび温度を下げておくことが好ましく、その温度は20℃〜35℃の範囲であることが好ましく、20℃〜30℃の範囲であることがより好ましい。
ハードコート層の鉛筆硬度は、樹脂フィルムの鉛筆硬度よりも固い。例えば、樹脂フィルムの鉛筆硬度がH程度であるのに対して、ハードコート層の鉛筆硬度は2H〜3H程度である。このため、液晶ディスプレイ等の各種デイスプレイの表面にハードコートフィルムが設けられた場合、ディスプレイの表面を保護して傷付きを防止することができる。
このように、本実施形態では、上流側照射工程で光硬化型塗膜のうち表面側の部分のみを硬化させ、下流側照射工程で光硬化型塗膜のうち未硬化の部分を硬化させるため、光硬化型塗膜の硬化の際に生じる熱が上流側照射工程と下流側照射工程に分けられ、一度に熱が生じない。このため、光硬化型塗膜の硬化収縮と樹脂フィルムの熱収縮が抑えられ、ハードコートフィルムにシワを生じ難くすることができる。また、光硬化型塗膜の急激な温度上昇を抑えるために、樹脂フィルムFの搬送速度を遅くする必要もなく、製造効率も低下しない。
ここで、下流側照射装置7の紫外線強度が上流側照射装置6の紫外線強度より高い場合に特に生じる問題について説明する。本発明者らの知見によれば、紫外線強度が強くなればなるほど平面状の紫外線照射範囲に紫外線を照射するのではなく、照射用ロールに巻き掛けられた曲面状の紫外線照射範囲に紫外線を照射した方が、シワの発生が抑えられることが分かっている。照射用ロールに巻き掛けられた曲面状の紫外線照射範囲に紫外線を照射した方がシワの発生が抑えられる理由としては、光硬化型塗膜から生じる熱が照射用ロールに吸収され光硬化型塗膜の温度上昇が抑えられるためだと考えられる。ここにいう曲面状の照射範囲とは、例えば、ロールの周面に沿った照射範囲、すなわち円弧面状の照射範囲が相当する。しかしながら、この光硬化型塗膜に紫外線照射装置が接触すると光学的な欠点になるため、光硬化型塗膜と紫外線照射装置の間に隙間が必要になる。このため、樹脂フィルムを照射用ロールに巻き掛けて紫外線を照射したとしても、照射用ロールに巻き掛けられる前の樹脂フィルムの平面状部分に形成された光硬化型塗膜が、この隙間から漏れた紫外線に曝されてしまう場合がある。このように、樹脂フィルムの平面状部分に形成された光硬化型塗膜が漏れた紫外線に曝されると、照射される紫外線の強度が高ければ高いほどシワが生じやすい。本実施形態では、紫外線照射装置を上流側照射装置6と下流側照射装置7の二つに分けているため、相対的に高い紫外線強度の下流側照射装置7においても、照射される紫外線の強度は、一個の紫外線照射装置を用いる場合と比べて低く抑えられている。このため、紫外線が曲面状の照射範囲よりも上流側となる平面状部分に漏れ出して、この平面状部分を通過する光硬化型塗膜が紫外線に曝されても、シワの発生を抑えることができる。
最後に、ハードコート層が積層された樹脂フィルムFの特定ラインが第三ガイドロール4cに巻き掛けられた後、巻取りロール2bまで搬送され、巻取りロール2bに巻き取られる巻取り工程(ステップ6)が行われる。
続いて、本発明の第2の実施形態であるハードコートフィルム製造方法を説明する。以下の説明では、これまで説明した第1の実施形態のハードコートフィルム製造方法との相違点を中心に説明し、重複する説明は省略する。また、これまで説明した構成要素と同じ構成要素には、これまで用いた符号と同じ符号を付して説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態であるハードコートフィルム製造方法を実施する製造装置1’の、上流側照射工程と下流側照射工程を実施する部分を示す模式図である。
第2の実施形態では、図3に示すように、樹脂フィルムFが照射用ロール7aの周面の周方向略半分程度に巻き掛けられている。なお、図3に示す照射用ロール7aに巻き掛けられた後の樹脂フィルムFの搬送方向を、搬送方向下流側に行くに従い照射用ロール7aに巻き掛けられる前の樹脂フィルムF側に近づけて、樹脂フィルムFの、照射用ロール7aに巻き掛けられる部分を増やしてもよい。
上流側照射装置6は、照射用ロール7aに巻き掛けられた樹脂フィルムFのうち搬送方向の略真中に対向した位置に設けられ、上流側照射範囲が照射用ロール7aに巻き掛けられた曲面状となっている。また、下流側照射装置7は、照射用ロール7aに巻き掛けられた樹脂フィルムFのうち上流側照射装置6が対向する部分よりもやや下流側の部分に対向する位置に設けられ、下流側照射範囲も照射用ロール7aに巻き掛けられた曲面状となっている。
図2も参照しながら、第2の実施形態のハードコートフィルム製造方法の工程を説明する。第1の実施形態と同様に、樹脂フィルムFの特定ラインが送出し工程(ステップ1)で図1に示す送出しロール2aから送り出された後、塗布工程(ステップ2)、乾燥工程(ステップ3)が実施される。次いで、樹脂フィルムFの特定ラインは、照射用ロール7aに巻き掛けられながら上流側照射装置6まで搬送され、上流側照射工程(ステップ4)が実施される。上流側照射工程を実施することで樹脂フィルムFの特定ラインの光硬化型塗膜における表面側の部分のみを硬化させることができる。次いで、樹脂フィルムFの特定ラインが、照射用ロール7aに巻き掛けられながら下流側照射装置7まで搬送され、下流側照射工程(ステップ5)が実施される。第2の実施形態の、上流側照射工程と下流側照射工程の間隔は、第1の実施形態の、上流側照射工程と下流側照射工程の間隔に比べかなり狭くなっている。
第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加え、上流側照射工程と下流側照射工程の間隔を狭くしたため樹脂フィルムFの搬送経路を短くでき、製造装置1’を小型化することができる。
ここで、下流側照射工程に比べ、上流側照射工程の紫外線強度は低く、積算光量も少ないため、光硬化型塗膜から生じる熱も少なくなり、光硬化型塗膜は硬化収縮し難い。しかしながら、上流側照射工程を実施した後すぐ下流側照射工程を実施すると、上流側照射工程で生じた熱によって温度が高くなった樹脂フィルムFの特定ラインが、温度が下がらないまま下流側照射範囲に搬送され下流側照射工程が実施される。このため、上流側照射工程を実施した後すぐ下流側照射工程を実施すると、樹脂フィルムFの特定ラインが高温になってシワが生じてしまう場合がある。第2の実施形態では、上流側照射工程を実施した後すぐ下流側照射工程が実施されるが、上流側照射範囲と下流側照射範囲が照射用ロール7aに巻き掛けられているため、特定ラインの光硬化型塗膜から生じた熱が照射用ロール7aに吸収され光硬化型塗膜の温度上昇を抑えてシワを生じ難くすることができる。上流側照射装置6と下流側照射装置7は、それぞれの照射範囲が照射用ロール7aに巻き掛けられた曲面状となる範囲で、位置を変更させてもよい。また、上流側照工程は、下流側照射工程に比べ、紫外線強度は低く積算光量も少ないため、上流側照射範囲を、その範囲の上流側の一部が、照射用ロール7aに巻き掛けられる前の平面状になる範囲に設定してもよい。さらに、下流側照射範囲の下流側では光硬化型塗膜の硬化がほぼ完了するため、下流側照射範囲を、その範囲の下流側の一部が、照射用ロール7aに巻き掛けられた後の平面状になる範囲に設定してもよい。
また、第2の実施形態では、共通の照射用ロール7aに樹脂フィルムFを巻き掛け、上流側照射工程と下流側照射工程を実施しているが、別々の照射用ロールに樹脂フィルムFを巻き掛け、これら巻き掛けられた照射用ロールを近接配置して、上流側に配置された照射用ロールに巻き掛けられた部分を上流側照射範囲として上流側照射工程を実施し、下流側に配置された照射用ロールに巻き掛けられた部分を下流側照射範囲として、下流側照射工程を実施してもよい。このように別々の照射用ロールに樹脂フィルムFを巻き掛けて、それぞれの照射用ロールに巻き掛けられた部分をそれぞれの照射範囲とすれば、上流側照射工程で光硬化型塗膜から生じる熱と下流側照射工程で生じる熱が、別々の照射用ロールに吸収されて、光硬化型塗膜の温度上昇をより抑えることができる。
続いて、第1の実施形態および第2の実施形態で好ましく使用される材料を説明する。
樹脂フィルムとしては、透光性と可撓性を有し連続生産に適した、PET、TAC、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、含ノルボルネン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド等の各種樹脂フィルムを好適に使用することができる。なお、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶表示装置(LCD)に用いる場合は、PETフィルム、TACフィルムおよび含ノルボルネン樹脂フィルムから選ばれる1種を使用することがより好ましい。
これら樹脂フィルムの透明性は高いものほど良好であるが、光学用途では、全光線透過率(JIS K7105)としては80%以上、より好ましくは90%以上が良い。
樹脂フィルムの表面に、アルカリ処理、コロナ処理、プラズマ処理、スパッタ処理などのトリートメント処理、界面活性剤、シランカップリング剤などのプライマーコーティング、Si蒸着などの薄膜ドライコーティングなどを施すことで、樹脂フィルムとハードコート層との密着性を向上させ、該ハードコート層の物理的強度、耐薬品性を向上させることができる。また、樹脂フィルムのハードコート層側に他の層を設ける場合も、上記同様の方法で、各層界面の密着性を向上させ、当該ハードコート層の物理的強度、耐薬品性を向上させることができる。
ハードコート層を構成する樹脂成分としては、硬化後の皮膜として十分な強度を持ち、透明性のあるものを特に制限なく使用できる。紫外線照射による硬化処理にて、簡易な加工操作にて効率よく硬化することができる電離放射線硬化型樹脂が好適である。
電離放射線硬化型樹脂としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等のラジカル重合性官能基や、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基等のカチオン重合性官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマーを単独で、または適宜混合した組成物が用いられる。モノマーの例としては、アクリル酸メチル、メチルメタクリレート、メトキシポリエチレンメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等を挙げることができる。オリゴマー、プレポリマーとしては、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、多官能ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート、アルキットアクリレート、メラミンアクリレート、シリコーンアクリレート等のアクリレート化合物、不飽和ポリエステル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルや各種脂環式エポキシ等のエポキシ系化合物、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル等のオキセタン化合物を挙げることができる。ポリマーとしては、ポリアクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等を挙げることができる。これらは単独、もしくは複数混合して使用することができる。
電離放射線硬化型樹脂は、紫外線照射による硬化を行う場合は、光重合開始剤の添加が必要である。なお、用いられる放射線としては、紫外線、可視光線、赤外線のいずれであってもよい。また、これらの放射線は、偏光であっても無偏光であってもよい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のラジカル重合開始剤、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物等のカチオン重合開始剤を単独または適宜組み合わせて使用することができる。
また、電離放射線硬化型樹脂にレベリング剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させることができる。レベリング剤は、塗膜表面の張力均一化を図り塗膜形成前に欠陥を直す働きがある。
上記樹脂組成物は透光性の微粒子を含有してもよい。当該樹脂組成物に溶剤を加えた光硬化型樹脂を、樹脂フィルム上に塗布した後、当該光硬化型樹脂を硬化させてハードコート層を形成させることができる。樹脂組成物に透光性の微粒子を添加することにより、防眩性を有するハードコート層(防眩層)の表面凹凸の形状や数を調整しやすくなる。
透光性の微粒子としては、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン系樹脂等よりなる有機系の透光性の樹脂微粒子、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン等の無機系の透光性の微粒子を使用することができる。透光性の微粒子の屈折率は、1.40〜1.75が好ましく、屈折率が1.40未満または1.75より大きい場合は、樹脂フィルムあるいは樹脂マトリックスとの屈折率差が大きくなり過ぎ、全光線透過率が低下する。また、透光性の微粒子と樹脂との屈折率の差は、0.2以下が好ましい。透光性の微粒子の平均粒径は、0.3〜10μmの範囲のものが好ましく、1〜7μmがより好ましく、2〜6μmがさらに好ましい。
粒径が0.3μmより小さい場合は防眩性が低下するため、また10μmより大きい場合は、ギラツキを発生すると共に、表面凹凸の程度が大きくなり過ぎて表面が白っぽくなってしまうため好ましくない。また、上記樹脂中に含まれる透光性の微粒子の割合は特に限定されないが、樹脂組成物100質量部に対し、0.1〜20質量部とするのが防眩機能、ギラツキ等の特性を満足する上で好ましく、ハードコート層表面の微細な凹凸形状とヘイズ値をコントロールし易い。ここで、「屈折率」は、JIS K−7142に従った測定値を指す。また、「平均粒径」は、電子顕微鏡で実測した100個の粒子の直径の平均値を指す。
溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン類;ジアセトンアルコール等のケトンアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類;エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルセルソルブ、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、水等を使用することができる。これらは一種で溶剤としてもよいし、複数を混合して溶剤としてもよい。
以上説明したように、本実施形態のハードコートフィルム製造方法によれば、製造効率を低下させることなくハードコートフィルムにシワを生じ難くすることができる。
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことができる。たとえば、上記実施形態では、下流側照射工程において、樹脂フィルムFを照射用ロール7aに巻き掛けることによって下流側照射範囲を円弧面状とし、その円弧面状となった下流側照射範囲に紫外線を照射しているが、これに限定されるものではない。例えば、樹脂フィルムFに搬送方向(樹脂フィルムFの長手方向)の張力がかかる形状の下流側照射範囲としてもよいし、樹脂フィルムFにその幅方向の張力がかかる形状の下流側照射範囲としてもよい。
また、上記実施形態では、樹脂フィルムFを搬送させながら、塗布工程と乾燥工程を実施して樹脂フィルムF上に光硬化型塗膜を形成した後、紫外線を照射しているが、樹脂フィルムFを搬送させずに、適宜の手段で樹脂フィルムF上に光硬化型塗膜を形成し、例えば、上流側照射装置6や下流側照射装置7を移動させながら、樹脂フィルム上に形成された光硬化型塗膜に紫外線を照射してもよい。
さらに、上記実施形態では、紫外線強度を調整することで積算光量を所定範囲に調整しているが、上流側照射範囲となる上流側照射装置6の開口における搬送経路の長さ、すなわち上流側端部61aと下流側端部61bの間隔や、下流側照射範囲となる下流側照射装置7の開口における搬送経路の長さ、すなわち上流側端部71aと下流側端部71bの間隔を調整することで積算光量を調整してもよい。特に、上流側照射範囲となる上流側照射装置6の開口における搬送経路の長さを短くすればするほど、光硬化型塗膜の硬化を樹脂フィルム側の表面側に留めることができる点で好ましい。さらに、製造効率を低下させない範囲で、樹脂フィルムFの搬送速度を調整することで、積算光量を調整してもよい。加えて、上記実施形態では、上流側照射工程および下流側照射工程において、紫外線照射装置をそれぞれ1つ設けたものを示しているが、これに限定されるものではなく、上流側照射装置または下流側照射装置を2つ以上設けることもできる。