1.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、その一方の面に配置された第一の偏光板と、他方の面に配置された第二の偏光板とを有し;バックライトをさらに有してもよい。
図1は、本発明に係る液晶表示装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示されるように、液晶表示装置10は、液晶セル20と、それを挟持する第一の偏光板40および第二の偏光板60と、バックライト80とを有する。
液晶セル20について
液晶セル20は、高いコントラストを必要とすることから、電圧無印加時に垂直配向する液晶セルであることが好ましい。図2は、電圧無印加時に垂直配向する液晶セルの一例を示す部分断面図である。図2に示されるように、液晶セル20は、第一の基板100と、第二の基板200と、第一の基板100と第二の基板200との間に配置され、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層300と、を有する。
第一の基板100は、絶縁基板110と、その表面に設けられた複数の画素電極120とを有する。第二の基板200は、絶縁基板210と、その表面に設けられた共通電極220と、その表面に設けられた配向膜230とを有し、カラーフィルタ240をさらに有しうる。
図3は、第一の基板100の一例を示す部分上面図である。図3に示されるように、第一の基板100は、複数の画素電極120と、複数の走査線130と、複数のデータ線140と、複数の能動素子150とを有する。画素電極120は、画素領域P10ごとに配置されている。画素領域P10は、走査線130とデータ線140によって画定されている。
画素電極120は、能動素子150を介してデータ線140と電気的に接続されている。それにより、データ線140によって伝送された信号を、能動素子150を介して画素電極120に入力できるようになっている。能動素子150は、さらに走査線130と電気的に接続されており、走査線130によって駆動されるように構成されている。
図4Aは、図3の第一の基板100上の画素領域P10を示す上面図である。図4Bは、第二の基板200の配向膜230の面のうち、図4Aの画素領域P10に対向する領域の一例を示す上面図である。図4Aおよび図4Bでは、画素領域P10を、3つの領域に分割した例を示している。図4Aに示されるように、画素電極120は、複数の第一のスリット122を有する第一のスリット領域Aと、複数の第二のスリット124を有する第二のスリット領域Bと、第三のスリット126を有する第三のスリット領域Cとを含む。第一のスリット領域Aおよび第二のスリット領域Bはそれぞれ一つであっても、複数(好ましくは二つ)あってもよい。
第一のスリット122、第二のスリット124および第三のスリット126の形状は、図4Aではそれぞれ矩形状である例が示されているが、これに限定されず、長軸と短軸とを有する形状であればよい。例えば、第三のスリット126は、後述するように、多角形状などであってもよい。多角形状のスリットの長軸と短軸は、当該スリットと外接する矩形を想定したときの、矩形の長軸と短軸としうる。
複数の第一のスリット122は、互いに平行に設けられており、第一のスリット122と第三のスリット126とは、それぞれの長軸同士が互いに略直交するように接続されている。同様に、複数の第二のスリット124は、互いに平行に設けられており、第二のスリット124と第三のスリット126とは、それぞれの長軸同士が互いに略直交するように接続されている。同図では、第三のスリット126と第一のスリット122または第二のスリット124とが互いに接続された態様を示したが、これに限定されず、互いに接続していなくてもよい。
複数の第一のスリット122の総面積/複数の第二のスリット124の総面積/複数の第三のスリット126の総面積の比率は、求められる表示性能にもよるが、例えば45/45/10〜35/35/30としうる。各スリット領域の面積比率は、各スリットの大きさや数によって調整されうる。
電圧印加時に、第一の基板100面近傍の液晶分子を一定の方向にチルトさせやすくするために、電圧無印加時に、第一の基板100面近傍の液晶分子は、第一の基板100の法線に対してプレチルトしていることが好ましい(図5A参照)。プレチルトした第一のスリット領域A近傍の液晶分子は、第一のスリット122の長軸方向に傾いていることが好ましく;プレチルトした第二のスリット領域B近傍の液晶分子は、第二のスリット124の長軸方向に傾いていることが好ましい。そして、プレチルトした第一のスリット領域A近傍の液晶分子の傾きとプレチルトした第二のスリット領域B近傍の液晶分子の傾きとは互いに逆であることが好ましい。プレチルトした第三のスリット領域C近傍の液晶分子は、第三のスリット126の長軸方向に傾いていることが好ましい。
例えば、プレチルトした第一のスリット領域A近傍の液晶分子の傾きの方向は、図4Aにおけるベクトルαで表すことができ;プレチルトした第二のスリット領域B近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβで表すことができ;プレチルトした第三のスリット領域C近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγで表すことができる。図4Aにおけるベクトルの起点は、液晶セル20の厚み方向において、液晶分子の長軸の両端部のうち第一の基板100面に近い側の端部を示す。
各スリット領域におけるプレチルトした液晶分子の傾きの方向は、第一の基板100上の配向膜(不図示)の配向処理方向によって調整されうる。
第一の基板100面近傍の液晶分子(第一のスリット領域A、第二のスリット領域Bおよび第三のスリット領域C近傍の液晶分子)の長軸(図5Aにおける方向L)と第一の基板100面の法線(図5Aにおける法線N)とのなす角(プレチルト角)の絶対値は、いずれも0°超15°以下であることが好ましく、0°超10°以下であることがより好ましい。プレチルト角が小さすぎると、表示装置における応答速度の向上効果が得られにくい。一方、プレチルト角が大きすぎると、黒表示時の光漏れが多くなり、コントラストが低下しやすい。
配向膜の配向処理は、ラビング法、SiOxを斜方蒸着させる方法、光配向法などによって行うことができ、配向処理の制御が行いやすいなどの観点から、好ましくは光配向法である。光配向法は、光源とフォトマスクとを固定して露光する方法(同時露光法)や、光線の照射位置を移動させながら露光する方法(スキャン露光法)などがあり、好ましくはスキャン露光法である。
スキャン露光では、配向膜の材料にもよるが、第一の基板面100近傍の液晶分子を前述のようにプレチルトさせるためには、光線を基板面の法線に対して斜め方向から入射させることが好ましい。プレチルト角を前述の範囲とするためには、配向膜の材料にもよるが、光線の基板面の法線に対する入射角を5°以上70°以下とすることが好ましい。光線は、配向膜の材料にもよるが、消光比が2:1以上の部分偏光もしくは直線偏光であることが好ましい。光線の波長帯やエネルギー量は、配向膜の材料に応じて、適宜設定されればよい。
光線が照射される配向膜は、光配向膜材料を含む溶液を絶縁基板110上にスピンコート法、バーコート法、印刷法などで塗布した後、乾燥させて得られるものであることが好ましい。光配向膜材料は、特に限定されず、感光性基を含む樹脂;例えば4−カルコン基(下記式(1))、4’−カルコン基(下記式(2))、クマリン基(下記式(3))、およびシンナモイル基(下記式(4))などの感光性基を含むポリマーであることが好ましく、クマリン基(下記式(3))を含むポリマーであることがより好ましい。ポリマーは、好ましくはポリイミドでありうる。
図4Bに示されるように、第一の基板100の画素電極120に対向する第二の基板200の面は、第一のスリット領域Aに対向する面である第一の領域aと、第二のスリット領域Bに対向する面である第二の領域bと、第三のスリット領域Cに対向する面である第三の領域cとを有する。
前述と同様に、電圧印加時に、第二の基板200面近傍の液晶分子を所定の方向にチルトさせやすくするために、電圧無印加時に、第二の基板200面近傍の液晶分子が、第二の基板200の法線に対してプレチルトしていることが好ましい。プレチルトした第一の領域a近傍の液晶分子は、第一のスリット122の短軸方向に傾いていることが好ましく;プレチルトした第二の領域b近傍の液晶分子は、第二のスリット124の短軸方向に傾いていることが好ましい。そして、プレチルトした第一の領域a近傍の液晶分子の傾きと、プレチルトした第二の領域b近傍の液晶分子の傾きとは互いに逆であることが好ましい。プレチルトした第三の領域c近傍の液晶分子は、第三のスリット126の短軸方向に傾いていることが好ましい。
例えば、プレチルトした第一の領域a近傍の液晶分子の傾きの方向は、図4Bにおけるベクトルα’で表すことができ;プレチルトした第二の領域b近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβ’で表すことができ;プレチルトした第三の領域c近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγ’で表すことができる。図4Bにおけるベクトルの起点は、液晶セル20の厚み方向において、液晶分子の長軸の両端部のうち第二の基板200面に近い側の端部を示す。
各領域におけるプレチルトした液晶分子の傾きの方向は、配向膜230の配向処理方向によって規定されうる。配向処理方法は、前述と同様としうる。第一のスリット領域Aの配向膜(不図示)が規定する配向処理方向と第一の領域aの配向膜230が規定する配向処理方向とは互いに略直交することが好ましく;第二のスリット領域Bの配向膜(不図示)が規定する配向処理方向と第二の領域bの配向膜230が規定する配向処理方向とは互いに略直交することが好ましく;第三のスリット領域Cの配向膜(不図示)が規定する配向処理方向と第三の領域cの配向膜230が規定する配向処理方向とは互いに略直交することが好ましい。
配向膜230は、前述と同様に、光配向法により形成されたものであることが好ましい。
第二の基板200面近傍の各液晶分子(第一の領域a、第二の領域bおよび第三の領域c近傍の液晶分子)の長軸と第二の基板200面の法線とのなす角(プレチルト角)の絶対値も、前述と同様に、それぞれ0°超15°以下であることが好ましく、0°超10°以下であることがより好ましい。
液晶層300は、前述の通り、負の誘電率異方性の液晶分子を含む。負の誘電率異方性を有する液晶分子の例には、負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子が含まれる。負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子の例には、特開2004−204133号、特開2004−250668号、特開2005−047980号などに記載のものが含まれる。具体的には、負の誘電異方性を有し、△n=0.0815、△ε=−4.5程度のネマチック液晶材料などが好ましく用いられる。
液晶層300は、後述するように、電圧印加時に液晶分子を十分にツイスト配向させるために、TN方式の液晶セルに含まれるようなカイラル材をさらに含んでもよい。その場合、電圧無印加時の液晶分子の垂直配向を阻害しないようにするために、カイラル材の含有量は、液晶分子の含有量の1質量%以下であることが好ましい。
カイラル材の例には、コレステリック環を有する化合物、ビフェニル骨格を有する化合物、ターフェニル骨格を有する化合物、2つのベンゼン環がエステル結合によって連結された骨格を有するエステル化合物、シクロヘキサン環がベンゼン環に直接的に連結された骨格を有する化合物などが含まれる。そのようなカイラル材の具体例には、下記式(C1)〜(C7)で表される化合物などが含まれる。
液晶セル20の△ndは、透過率を高めるためには、400nm以上であることが好ましい。即ち、△ndが大きい液晶セル20は、電圧印加時に、第二の偏光板を通過した光の偏光軸を、第一の偏光板を通過できる程度まで十分に変化させうるので、透過率を高めることができる。液晶セル20の△ndは、23℃55%RH下、測定波長590nmにて測定される液晶分子の屈折率異方性△nと、液晶セルのギャップd(nm)との積である。液晶分子の屈折率異方性△nは、液晶分子の常光屈折率noと異常光屈折率neの差の絶対値△n=|ne−no|として表される。液晶セルのギャップdは、具体的には液晶層の厚さ(nm)である。
液晶セル20の△ndは、例えば液晶分子の封入量(またはセルギャップd)や、液晶分子の屈折率異方性△n、液晶分子の配向量によって調整することができる。例えば、液晶セルの△ndを大きくするためには、液晶セルのギャップdを大きくして、液晶分子の封入量を多くしたり;カイラル材などを添加して、液晶分子のツイスト量を多くしたりすればよい。
バックライト80は、液晶セル20の第一の基板100側に配置されても、第二の基板200側に配置されてもよいが、第一の基板100側に配置されることが好ましい。
図5Aは、液晶表示装置10の、一つの画素領域P10の電圧無印加時の状態の一例を示す分解斜視図であり;図5Bは、電圧印加時の状態の一例を示す分解斜視図である。同図では、第一の偏光板40の吸収軸D1と、第二の偏光板60の吸収軸D2とは、互いに直交している。
図5Aに示されるように、電圧無印加時(画素電極120と共通電極220との間に電圧が印加されていない状態)では、液晶分子は、その長軸が第一の基板100面または第二の基板200面に対して、プレチルトしつつも、略垂直に配向している。
図5Bに示されるように、電圧印加時(画素電極120と共通電極220との間に電圧が印加されている状態)では、液晶分子は、電界の影響を受けて第一の基板100面および第二の基板200面に対して略平行方向に配向する。このとき、第一の基板100面近傍の液晶分子の配向方向(長軸方向)と、第二基板200面近傍の液晶分子の配向方向(長軸方向)とは互いに略直交し、ツイスト配向する。それにより、第一の偏光板40を通過した光は、その偏光軸が液晶層300によって十分に変化し、第二の偏光板60を通過することができる。つまり、第二の偏光板60を透過する光量が増えるため、液晶表示装置10の透過率を高めることができる。
さらに、一つの画素領域P10において、液晶分子の配向状態が互いに異なる3つの領域(第一のスリット領域Aと第一の領域aとの間の領域;第二のスリット領域Bと第二の領域bとの間の領域;および第三のスリット領域Cと第三の領域cとの間の領域)を含む。そのため、歩留まりの低下を最小限にしつつ、液晶表示装置10の視野角を広げることができる。また、液晶分子の配向状態が異なる領域の数(配向分割数)が少ないので、遮光領域となる領域間の界面量を少なくしうる。それにより、液晶表示装置10の開口率を高めることができる。
図6Aは、第一の基板100上の画素領域P10における画素電極の他の例を示す上面図である。図6Bは、第二の基板200の配向膜230の面のうち、図6Aの画素領域P10に対向する領域の一例を示す上面図である。図6Aに示されるように、画素電極120’は、複数の第一のスリット122’を有する第一のスリット領域A’と、複数の第二のスリット124’を有する第二のスリット領域B’と、第三のスリット126’を有する第三のスリット領域C’とを含む。第一のスリット領域A’および第二のスリット領域B’は、それぞれ一つであっても複数あってもよい。
第一のスリット122’と第二のスリット124’は、それぞれ画素電極120’と第二の共通電極128とで挟まれた矩形状の領域を示す。第三のスリット126’は、第一のスリット122’と第二のスリット124’との間を連通し、かつ画素電極120’と第二の共通電極128が設けられていない領域である。図6Aにおける第三のスリット126’の長軸は、第三のスリット126’と外接する矩形(第三のスリット領域C’と同形状の矩形)の長軸である。
第一の基板100面近傍の液晶分子は、前述と同様に、第一の基板100面の法線に対して所定の方向にプレチルトしていることが好ましい。例えば、プレチルトした第一のスリット領域A’近傍の液晶分子の傾きの方向は、前述と同様に、ベクトルαで表すことができ;プレチルトした第二のスリット領域B近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβで表すことができ;プレチルトした第三のスリット領域C近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγで表すことができる。液晶分子のプレチルト角も、前述と同様としうる。
図6Bに示されるように、第一の基板100の画素電極120’に対向する第二の基板200の面は、第一のスリット領域A’に対向する面である第一の領域a’と、第二のスリット領域B’に対向する面である第二の領域b’と、第三のスリット領域C’に対向する面である第三の領域c’とを有する。
第二の基板200面近傍の液晶分子は、前述と同様に、第二の基板200面の法線に対して所定の方向にプレチルトしていることが好ましい。例えば、プレチルトした第一の領域a’近傍の液晶分子の傾き方向はベクトルα’で表すことができ;プレチルトした第二の領域b’近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβ’で表すことができ;プレチルトした第三の領域c’近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγ’で表すことができる。液晶分子のプレチルト角も、前述と同様としうる。
図7Aは、第一の基板100上の画素領域P10における画素電極の他の例を示す上面図である。図7Bは、第二の基板200の配向膜の面のうち、図7Aの画素領域P10に対向する領域の一例を示す上面図である。図7Aに示されるように、画素電極120”は、複数の第一のスリット122”を有する第一のスリット領域A”と、複数の第二のスリット124”を有する第二のスリット領域B”と、第三のスリット126”を有する第三のスリット領域C”とを含む。第一のスリット領域A”および第二のスリット領域B”は、それぞれ一つであっても複数あってもよい。
図7Bに示されるように、第一の基板100の画素電極120”に対向する第二の基板200面は、第一のスリット領域A”に対向する面である第一の領域a”と、第二のスリット領域B”に対向する面である第二の領域b”と、第三のスリット領域C”に対向する面である第三の領域c”とを有する。
前述と同様に、第一の基板100面近傍の液晶分子は、第一の基板100面の法線に対して所定の方向にプレチルトしていることが好ましい。例えば、プレチルトした第一のスリット領域A”近傍の液晶分子の傾きの方向は、前述と同様に、ベクトルαで表すことができ;プレチルトした第二のスリット領域B”近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβで表すことができ;プレチルトした第三のスリット領域C”近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγで表すことができる。
第二の基板200面近傍の液晶分子は、第二の基板200面の法線に対して所定の方向にプレチルトしていることが好ましい。例えば、プレチルトした第一の領域a”近傍の液晶分子の傾きの方向は、前述と同様に、ベクトルα’で表すことができ;プレチルトした第二の領域b”近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβ’で表すことができ;プレチルトした第三の領域c”近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγ’で表すことができる。液晶分子のプレチルト角も、前述と同様としうる。
図8Aは、第一の基板100上の画素領域P10における画素電極の他の例を示す上面図である。同図は、画素領域P10を、5つの領域に分割した例を示す。図8Bは、第二の基板200の配向膜230の面のうち、図8Aの画素領域P10に対向する領域の一例を示す上面図である。図8Aに示されるように、画素電極120'''は、第一のスリット領域Aと第二のスリット領域Bをそれぞれ2つずつ有する以外は図4Aと同様に構成されている。即ち、画素電極120'''は、第一のスリット領域1Aおよび2Aと、第二のスリット領域1Bおよび2Bと、第三のスリット領域Cとを有する。
図8Aに示されるように、第一のスリット領域1Aと2Aは、第一の基板100面の中央部を対称中心として互いに点対称となるように配置されることが好ましい。同様に、第二のスリット領域1Bと2Bは、第一の基板100面の中央部を対称中心として互いに点対称となるように配置されることが好ましい。
図8Bに示されるように、第一の基板100の画素電極120'''に対向する第二の基板200面は、第一のスリット領域1Aおよび2Aにそれぞれ対向する面である第一の領域1aおよび2aと、第二のスリット領域1Bおよび2Bにそれぞれ対向する面である第二の領域1bおよび2bと、第三のスリット領域Cに対向する面である第三の領域cとを有する。
第一の基板100面近傍の液晶分子は、前述と同様に、第一の基板100面の法線に対して所定の方向にプレチルトしていることが好ましい。プレチルトした第一のスリット領域1Aおよび2A近傍の液晶分子の傾きの方向は、それぞれベクトルαで表すことができ;プレチルトした第二のスリット領域1Bおよび2B近傍の液晶分子の傾きの方向は、それぞれベクトルβで表すことができ;プレチルトした第三のスリット領域C近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγで表すことができる。
第二の基板200面近傍の液晶分子も、前述と同様に、第二の基板200面の法線に対して所定の方向にプレチルトしていることが好ましい。例えば、プレチルトした第一の領域1aおよび2a近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルα’で表すことができ;プレチルトした第二の領域1bおよび2b近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルβ’で表すことができ;プレチルトした第三の領域c近傍の液晶分子の傾きの方向はベクトルγ’で表すことができる。液晶分子のプレチルト角も、前述と同様としうる。
このように、画素領域P10を、液晶分子の配向状態が異なる5つの領域に分割することで、領域同士の界面量を著しく増やすことなく、視野角を効率的に広げることができる。
図1に示されるように、第一の偏光板40は、液晶セル20の第一の基板100側の面(好ましくはバックライト80側の面)に配置されており、第一の偏光子42と、その液晶セル20とは反対側の面(好ましくはバックライト80側の面)に配置された保護フィルム44(F1)と、液晶セル20側の面に配置された保護フィルム46(F2)とを有する。第二の偏光板60は、液晶セル20の第二の基板200側の面(好ましくは視認側の面)に配置されており、第二の偏光子62と、その液晶セル20側の面に配置された保護フィルム64(F3)と、液晶セル20とは反対側の面(好ましくは視認側の面)に配置された保護フィルム66(F4)とを有する。第一の偏光板40の吸収軸D1と、第二の偏光板60の吸収軸D2とは、前述した通り、互いに直交している(図5Aおよび図5B参照)。
保護フィルム46(F2)と保護フィルム64(F3)のうち一方は、必要に応じて省略されてもよい。これは、偏光板の切り出しと液晶セルへの貼り合わせを同時に行うロールtoパネル製法によって実現されうる。
保護フィルム46(F2)の面内遅相軸と、第一の偏光子42の吸収軸とは直交していることが好ましく;保護フィルム64(F3)の面内遅相軸と、第二の偏光子62の吸収軸とは直交していることが好ましい。
偏光子(第一の偏光子42、第二の偏光子62)は、一定方向の偏波面の光のみを通過させる素子である。偏光子の代表的な例は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムであり、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものと、がある。
偏光子は、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色して得られるフィルムであってもよいし、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の厚さは、5〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。
ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール水溶液を製膜したものであってもよい。ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光性能および耐久性能に優れ、色斑が少ないなどことから、エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましい。エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムの例には、特開2003−248123号、特開2003−342322号等に記載されたエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のフィルムが含まれる。
二色性色素の例には、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素およびアントラキノン系色素などが含まれる。
保護フィルム44(F1)、46(F2)、64(F3)および66(F4)は、偏光子の面に直接配置されてもよいし、他のフィルムまたは層を介して配置されてもよい。
偏光板(第一の偏光板40および第二の偏光板60)は、偏光子(第一の偏光子42または第二の偏光子62)の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせるステップを経て得ることができる。偏光子と保護フィルムとの貼り合わせは、粘着剤を介して行うことができる。
粘着剤は、特に制限されないが、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液や、硬化型粘着剤などでありうる。硬化型粘着剤は、25℃における硬化後の貯蔵弾性率が1.0×104〜1.0×109Paの範囲にある粘着剤が好ましい。
そのような硬化型粘着剤の例には、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤などの硬化型粘着剤;湿気硬化ウレタン粘着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレートなどの嫌気性粘着剤;シアノアクリレート系の瞬間粘着剤;アクリレートとペルオキシドの2液型瞬間粘着剤などが含まれる。粘着剤は、一液タイプのものでもよいし、二液以上を混合して使用するタイプのものでもよい。
粘着剤は、有機溶剤を媒体とする溶剤系であってもよいし、水を媒体とする水系であってもよいし、有機溶剤や水を含まない無溶剤系であってもよい。水系粘着剤の例には、エマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型の粘着剤が含まれる。溶剤系粘着剤や水系粘着剤における粘着剤の濃度は、粘着後の膜厚、塗布方法、塗布条件などにもよるが、通常、0.1〜50質量%程度としうる。
偏光子と保護フィルムとの接着性をさらに高めるために、保護フィルムの偏光子との接着面には、易接着層がさらに配置されていてもよい。易接着層は、例えばウレタン系樹脂を主成分として含みうる。ウレタン系樹脂の例には、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタンなどが含まれる。
易接着層の厚みは、好ましくは0.1〜10μmであり、より好ましくは0.1〜5μmであり、さらに好ましくは0.2〜1.5μmである。易接着層の厚みが10μm超であると、易接着層に位相差が発現することがあり、0.1μm未満であると、偏光子と保護フィルムとの十分な接着性が得られにくい。
易接着層は、ウレタン系樹脂と、必要に応じて架橋剤などを含む組成物を、保護フィルム上に塗布および乾燥させて得ることができる。
前述の通り、本発明の液晶表示装置は、高い透過率と開口率を有する。一方で、垂直配向型の液晶表示装置は、黒表示時の光漏れや斜め方向の色味変化が生じやすいため、光学補償フィルム(保護フィルムF2またはF3)によって、それらを抑制することが求められる。しかしながら、逆波長分散性を有する従来の光学補償フィルムを本発明の液晶表示装置に適用しても、少なくとも斜め方向の色味変化を十分には抑制できなかった。つまり、黒表示時の光漏れと斜め方向の色味変化の両方を十分に抑制できるものではなかった。
そこで本発明では、前述の液晶表示装置における黒表示時の光漏れを十分に抑制するために、光学補償フィルムの、測定波長550nmでの面内方向のレターデーションR0(550)と、厚み方向のレターデーションRth(550)の範囲を、それぞれ以下の範囲とすることが好ましい。
(1)40nm≦R0(550)≦80nm
(2)140nm≦Rth(550)≦450nm
また、本発明の液晶表示装置における斜め方向の色味変化を抑制するために、光学補償フィルムの波長分散特性を、従来のような逆波長分散性ではなく、フラットまたは順波長分散性とする。具体的には、光学補償フィルムが、前述の(1)と(2)を満たし、かつ面内方向のレターデーションR0の波長分散特性R0(450)/R0(650)を以下の範囲とすることが好ましい。
(3)0.99≦R0(450)/R0(650)≦1.09
さらに、液晶表示装置のバックライトを一定時間点灯させると、バックライトの熱などにより、偏光子(図1では特に第一の偏光子42)が収縮し;偏光子の収縮する力が液晶セルのガラス基板(図2では絶縁基板110および210)に加わる。偏光子の収縮する力が加わったガラス基板は、光弾性係数が大きく変化し;それにより生じた複屈折によって輝度ムラを生じさせやすい。特に本発明の液晶表示装置では、透過率や開口率が高いため、輝度ムラが目立ちやすい。
そこで、本発明の液晶表示装置における輝度ムラを抑制するためには、従来のように光学補償フィルムの光弾性係数を0近傍にするのではなく、光学補償フィルムの光弾性係数と膜厚の積が、応力が加わったガラス基板の光弾性係数と基板厚みの積を打ち消すような範囲となるようにすることが好ましい。
そのような光学補償フィルムは、少なくとも保護フィルムF2に用いられることが好ましく;保護フィルムF2とF3の両方に用いられることがより好ましい。
2.光学補償フィルム(保護フィルムF2またはF3)
保護フィルムF2またはF3として用いられる光学補償フィルムは、透明な熱可塑性樹脂を含有し、必要に応じて波長分散調整剤などの添加剤をさらに含有していてもよい。
透明な熱可塑性樹脂の例には、セルロースエステル、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、鎖状オレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などが含まれ、好ましくはセルロースエステルまたは環状オレフィン樹脂であり、得られるフィルムの光弾性係数を調整しやすいことから、より好ましくは環状オレフィン樹脂である。
セルロースエステルについて
セルロースエステルは、セルロースの水酸基を、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸でエステル化して得られる樹脂である。
即ち、セルロースは、多数のβ−グルコース分子がβ−1,4−グリコシド結合により直鎖状に重合した樹脂である。セルロースを構成するグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離のヒドロキシ基(水酸基)を有する。セルロースエステルは、これらのヒドロキシ基(水酸基)の一部または全部を、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸でエステル化して得られる樹脂である。
セルロースエステルに含まれるアシル基は、脂肪族アシル基または芳香族アシル基であり、好ましくは脂肪族アシル基である。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、シンナモイル基である。芳香族アシル基の例には、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基などが含まれる。なかでも、セルロースエステルが合成しやすいなどの観点から、好ましくは炭素原子数2〜6の脂肪族アシル基であり、より好ましくは炭素原子数2〜4の脂肪族アシル基である。炭素原子数2〜4の脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基などが含まれ、より好ましくはアセチル基である。
セルロースエステルのアシル基置換度は、1.0〜2.8であることが好ましく、2.0〜2.6であることがより好ましい。適度な位相差を有し、かつ良好な波長分散性を有するフィルムが得られやすいからである。
「アシル基置換度」とは、セルロースエステルを構成する全てのグルコース単位のアシル基置換度の和を、グルコース単位の数で除して得られる平均値を示す。
後述するフィルムのR0の波長分散(R0DSP=R0(450)/R0(650))は、例えばセルロースエステルのアシル基置換度などによって調整することができる。R0DSPを大きくするためには、例えばセルロースエステルのアシル基置換度を低くする;具体的には、1.0〜2.65の範囲にすることが好ましい。
アシル基置換度の測定方法は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
セルロースエステルの例には、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエートまたはセルロースフタレートが含まれ、好ましくはセルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどである。セルロースエステルは、一種類であってもよいし、二種類以上の混合物であってもよい。
セルロースエステルの数平均分子量は、機械的強度が高いフィルムを得るためには、3.0×104〜2.0×105の範囲であることが好ましく、4.0×104〜1.6×105の範囲であることがより好ましい。
セルロースエステルの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、好ましくは1.5〜5.5であり、より好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0である。
セルロースエステルの分子量および分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製)を3本接続して使用する。
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standardポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1.0×106〜5.0×102までの13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に選択することが好ましい。
環状オレフィン樹脂について
環状オレフィン樹脂は、環状オレフィンの単独重合体、環状オレフィンとそれと共重合しうる他のモノマーとの共重合体、またはそれらの水素添加物でありうる。
環状オレフィンの例には、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、エチルテトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエンなどの多環構造の不飽和炭化水素およびその誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン、シクロヘプテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの単環構造の不飽和炭化水素およびその誘導体などが含まれ、好ましくはノルボルネンである。
環状オレフィンは、置換基として極性基をさらに有していてもよい。極性基の例には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが含まれ、好ましくはエステル基、カルボキシル基またはカルボン酸無水物基である。
環状オレフィン樹脂は、好ましくは環状オレフィンと他のモノマーとの共重合体であり、より好ましくは環状オレフィンと他のモノマーとの付加共重合体である。環状オレフィンと付加共重合しうる他のモノマーの例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテンなどのエチレンまたはα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどのジエンなどが含まれる。環状オレフィンと共重合可能なモノマーは、それぞれ一種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
環状オレフィン樹脂は、ノルボルネン骨格を繰り返し単位として含むノルボルネン系樹脂であることが好ましい。ノルボルネン系樹脂の具体例には、特開昭62−252406号、特開昭62−252407号、特開平2−133413号などに記載のものなどが含まれる。
ノルボルネン系樹脂は、好ましくは下記式(I)〜(IV)のいずれかで表される繰り返し単位を含む単独重合体、共重合体またはそれらの水素添加物であり;より好ましくは式(II)で表される繰り返し単位を含む単独重合体、共重合体またはそれらの水素添加物である。
式(I)〜(IV)中、A、B、CおよびDは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基、または2価の連結基を介して結合した1価の有機基を示す。
1価の有機基の例には、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシル基などが含まれる。2価の連結基は、酸素原子、イオウ原子、窒素原子などのヘテロ原子を含有する2価の連結基であり、その具体例には、エーテル基、エステル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、チオエーテル基などが含まれる。
なかでも、下記式(V)で表されるノルボルネン系モノマーと、それと共重合可能な他のモノマーとをメタセシス重合して得られる共重合体またはその水素添加物が好ましい。
式(V)中、A、B、CおよびDは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基、または2価の連結基を介して結合した1価の有機基を示す。1価の有機基および2価の連結基は、前述の式(I)〜(IV)における1価の有機基および2価の連結基と同様としうる。
ノルボルネン系モノマーとそれと共重合可能な他のモノマーとの共重合体における、ノルボルネン系モノマーと共重合可能な他のモノマーの例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびその誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィンおよびその誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエンなどが含まれ、好ましくはα−オレフィンであり、より好ましくはエチレンである。
ノルボルネン系モノマーとそれと共重合可能な他のモノマーとの共重合体における、共重合可能なモノマー由来の構造単位(好ましくはエチレン)の含有割合は、共重合体を構成するモノマー由来の構造単位の合計に対して65〜85モル%であることが好ましく、70〜80モル%であることがより好ましい。
共重合可能な他のモノマー由来の構造単位の含有割合が低すぎると、ノルボルネン系樹脂を含むフィルムの光弾性係数が小さすぎることがある。一方、共重合可能な他のモノマー由来の構造単位の含有割合が高すぎると、ノルボルネン系樹脂からなるフィルムの光弾性係数が大きくなりすぎるだけでなく、ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度が低下し、耐熱性が低下しやすい。共重合可能な他のモノマー由来の構造単位の含有割合が上記の範囲内であれば、後述するようにノルボルネン系樹脂を含むフィルムの光弾性係数を所定の範囲に調整しやすい。
ノルボルネン系樹脂の分子鎖に残留する不飽和結合を水素添加反応により飽和させる場合には、耐候劣化性などの観点から、水素添加率を90%以上、好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上としうる。
ノルボルネン系樹脂の具体例には、日本ゼオン(株)製ゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製アートン、三井化学(株)製アペル(APL8008T、APL6509T、APL6013T、APL5014DP、APL6015T)などが含まれる。
環状オレフィン樹脂の、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法で測定されるポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量が、通常、5000〜500000であり、好ましくは8000〜200000であり、より好ましくは10000〜100000である。環状オレフィン樹脂の重量平均分子量が5000未満であると、得られるフィルムの機械的強度が不十分となりやすい。一方、環状オレフィン樹脂の重量平均分子量が500000超であると、溶融粘度が高すぎて押し出し成形しにくい。
光学補償フィルムは、必要に応じて波長分散調整剤、可塑剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤や微粒子(マット剤)をさらに含有していてもよい。
波長分散調整剤
波長分散調整剤の例には、一般式(5)で表される棒状化合物や一般式(6)で表される円盤状化合物などが含まれる。これらの化合物は、液晶化合物であってもよい。
一般式(5)のAr1およびAr2は、それぞれ独立に置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基を示す。
アリール基における芳香族環は、好ましくはベンゼン環である。へテロアリール基における芳香族性ヘテロ環は、好ましくは5員環、6員環または7員環であり、より好ましくは5員環または6員環である。芳香族性へテロ環は、一般的には不飽和である。ヘテロ原子は、好ましくは窒素原子、酸素原子または硫黄原子であり、より好ましくは窒素原子または硫黄原子である。芳香族性ヘテロ環は、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環またはピラジン環である。
アリール基またはヘテロアリール基が有する置換基の例には、
ハロゲン原子(F、Cl、Br、I);
ヒドロキシル基;
カルボキシル基;
シアノ基;
アミノ基;
アルキルアミノ基(例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基);
ニトロ基;
スルホ基;
カルバモイル基;
アルキルカルバモイル基(例えばN−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基);
スルファモイル基;
アルキルスルファモイル基(例えばN−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基);
ウレイド基;
アルキルウレイド基(例えば、N−メチルウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基、N,N,N’−トリメチルウレイド基);
アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、s−ブチル基、t−アミル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基);
アルケニル基(例えばビニル基、アリル基、ヘキセニル基);
アルキニル基(例えばエチニル基、ブチニル基);
アシル基(例えばホルミル基、アセチル基、ブチリル基、ヘキサノイル基、ラウリル基);
アシルオキシ基(例えばアセトキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウリルオキシ基);
アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基);
アリールオキシ基(例えばフェノキシ基);
アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基);
アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基);
アルコキシカルボニルアミノ基(例えばブトキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基);
アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基);
アリールチオ基(例えばフェニルチオ基);
アルキルスルホニル基(例えばメチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、ヘプチルスルホニル基、オクチルスルホニル基);
アミド基(例えばアセトアミド基、ブチルアミド基、ヘキシルアミド基、ラウリルアミド基);
非芳香族性複素環基(例えばモルホリル基、ピラジニル基)などが含まれる。なかでも、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基およびアルキル基が好ましい。
一般式(5)のL12およびL13は、それぞれ独立して−O−CO−、−CO−O−またはそれらの組合せからなる二価の連結基を示す。
一般式(5)のXは、1,4−シクロへキシレン基、ビニレン基またはエチニレン基を示す。
一般式(5)で表される化合物の具体例を以下に示す。
一般式(6)のX1〜X3は、それぞれ独立して単結合、−NR4−、−O−または−S−を示す。R4は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基またはヘテロアリール基である。
一般式(6)のR1〜R3は、それぞれ独立して炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基またはヘテロアリール基を示す。
一般式(6)で表される化合物の具体例を以下に示す。
本発明の光学補償フィルムに含まれる波長分散調整剤は、一種類であってもよいし、二種類以上の混合物であってもよい。波長分散調整剤が、二種類以上の混合物である場合、逆波長分散性を付与する波長分散調整剤と順波長分散性を付与する波長分散調整剤の混合物であってもよい。
波長分散調整剤の含有量は、光学補償フィルムに含まれる前述の熱可塑性樹脂の合計に対して0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることがさらに好ましい。
可塑剤
可塑剤は、通常、得られるフィルムに可とう性を付与する目的で含有されうるが、本発明では、後述するように、得られるフィルムのR0DSPを調整するために含有されてもよい。
可塑剤の例には、糖エステル化合物、ポリエステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤を含む)、グリコレート系可塑剤、エステル系可塑剤(脂肪酸エステル系可塑剤を含む)、およびアクリル系可塑剤などが含まれる。これらは、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。二種類以上を組み合わせて用いる場合は、少なくとも一種類は、多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
糖エステル化合物は、通常、得られるフィルムの透明性を維持しつつ、可塑性を付与するために添加される。本発明では、後述するように、得られるフィルムのR
0DSPを調整するために添加されてもよい。糖エステル化合物は、前述の波長分散剤や後述の可塑剤と比べて、得られるフィルムの波長分散性を大きくする(順波長分散にする)度合いが比較的小さい。糖エステル化合物は、下記一般式(7)で表される化合物であることが好ましい。糖エステル化合物は、一種類であってもよいし、二種類以上の混合物であってもよい。
一般式(7)のR1〜R8は、置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、または置換もしくは無置換のアリールカルボニル基を示す。R1〜R8は、互いに同じであっても、異なってもよい。
置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基は、炭素原子数2以上の置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基であることが好ましい。置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基の例には、メチルカルボニル基(アセチル基)が含まれる。アルキル基が有する置換基の例には、フェニル基などのアリール基が含まれる。
置換もしくは無置換のアリールカルボニル基は、炭素原子数7以上の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基であることが好ましい。アリールカルボニル基の例には、フェニルカルボニル基が含まれる。アリール基が有する置換基の例には、メチル基などのアルキル基が含まれる。
一般式(7)で示される化合物の具体例には、以下のものが含まれる。表中のRは、一般式(7)におけるR
1〜R
8を表す。
糖エステル化合物の含有量は、前述の熱可塑性樹脂の合計に対して1〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
ポリエステル系可塑剤は、下記一般式(8)で表されるポリエステル化合物であることが好ましい。
一般式(8)
式(8)中、Aは、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基を表す。Gは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基、または炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。Bは、水素原子またはカルボン酸から誘導される1価の基を表す。nは、1以上の整数を表す。
Aの、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれ、特にコハク酸、アジピン酸が好ましい。Aにおける炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれ、特にフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
Gの、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、および1,12-オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。特に、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコールが好ましい。
Gの、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
Gは、炭素数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基であることが好ましい。ポリエステル化合物の、セルロースエステルとの相溶性を高めるためである。
Bの、カルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、およびアセトキシ安息香酸などの芳香族カルボン酸から誘導される1価の基や;酢酸、プロピオン酸、および酪酸などの脂肪族カルボン酸などから誘導される1価の基が含まれる。特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸または安息香酸から誘導される1価の基が好ましい。
ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は300〜1800であることが好ましく、300〜600であることがより好ましい。数平均分子量が300未満であるポリエステル系可塑剤は、揮発しやすいだけでなく、鹸化処理時にフィルムから鹸化液に流出しやすい。数平均分子量が1800超であるポリエステル系可塑剤は、低アシル基置換度のセルロースエステルとの相溶性が低く、得られるフィルムの内部ヘイズが高くなりやすい。
多価アルコールエステル系可塑剤は、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル化合物(アルコールエステル)であり、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。多価アルコールエステル系化合物は、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
脂肪族多価アルコールの好ましい例には、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等が含まれる。なかでも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールなどが好ましい。
モノカルボン酸は、特に制限はなく、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸等でありうる。フィルムの透湿性を高め、かつ揮発しにくくするためには、脂環式モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸は、一種類であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。また、脂肪族多価アルコールに含まれるOH基の全部をエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
脂肪族モノカルボン酸は、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数はより好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。そのような脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等が含まれる。なかでも、セルロースエステルとの相溶性を高めるためには、酢酸、または酢酸とその他のモノカルボン酸との混合物が好ましい。
脂環式モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが含まれる。
芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸;安息香酸のベンゼン環にアルキル基またはアルコキシ基(例えばメトキシ基やエトキシ基)を1〜3個を導入したもの(例えばトルイル酸など);ベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸(例えばビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸など)が含まれ、好ましくは安息香酸である。
多価アルコールエステル系可塑剤の分子量は、特に制限されないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがより好ましい。揮発し難くするためには、分子量が大きいほうが好ましく;透湿性、セルロースエステルとの相溶性を高めるためには、分子量が小さいほうが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤の具体例を以下に示す。2価のアルコールエステル系可塑剤の例には、以下のものが含まれる。
多価カルボン酸エステル系可塑剤は、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸と、アルコール化合物とのエステル化合物である。多価カルボン酸は、2〜20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3〜20価の芳香族多価カルボン酸または3〜20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などが含まれ、フィルムからの揮発を抑制するためには、オキシ多価カルボン酸が好ましい。
アルコール化合物の例には、直鎖もしくは側鎖を有する脂肪族飽和アルコール化合物、直鎖もしくは側鎖を有する脂肪族不飽和アルコール化合物、脂環式アルコール化合物または芳香族アルコール化合物などが含まれる。脂肪族飽和アルコール化合物または脂肪族不飽和アルコール化合物の炭素数は、好ましくは1〜32であり、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。脂環式アルコール化合物の例には、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどが含まれる。芳香族アルコール化合物の例には、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどが含まれる。
多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、特に制限はないが、300〜1000であることが好ましく、350〜750であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きいほうが好ましく;透湿性やセルロースエステルとの相溶性の観点では、小さいほうが好ましい。
多価カルボン酸エステル系可塑剤の例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
多価カルボン酸エステル系可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤であってもよい。フタル酸エステル系可塑剤の例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
グリコレート系可塑剤の例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれる。
エステル系可塑剤には、脂肪酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤やリン酸エステル系可塑剤などが含まれる。
脂肪酸エステル系可塑剤の例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、およびセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステル系可塑剤の例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、およびクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステル系可塑剤の例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、およびトリブチルホスフェート等が含まれる。
可塑剤の含有量は、光学補償フィルムに含まれる前述の熱可塑性樹脂の合計に対して1〜40質量%であることが好ましい。可塑剤を、波長分散の調整に用いる場合、可塑剤の含有量は、前述の熱可塑性樹脂の合計に対して2〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。
酸化防止剤
酸化防止剤は、例えば高湿下におけるセルロースエステルなどの熱可塑性樹脂の劣化を防止する機能を有する。酸化防止剤の例には、イオウ系化合物、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、不飽和二重結合を含有する化合物などが含まれる。イオウ系化合物の例には、住友化学社製Sumilizer TPL−R、Sumilizer TP−Dなどが含まれる。
フェノール系化合物の例には、2,6−ジアルキルフェノールの構造を有する化合物(例えば2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなど)が含まれる。フェノール系化合物の市販品の例には、BASFジャパン株式会社製Irganox1076、Irganox1010などが含まれる。
リン系化合物の例には、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト等が含まれる。リン系化合物の市販品の例には、住友化学株式会社製SumilizerGP、株式会社ADEKA製ADK STAB PEP−24G、ADK STAB PEP−36およびADK STAB 3010、BASFジャパン株式会社製IRGAFOS P−EPQ、堺化学工業株式会社製GSY−P101などが含まれる。
ヒンダードアミン系化合物の例には、BASFジャパン株式会社製Tinuvin144およびTinuvin770、株式会社ADEKA製ADK STAB LA−52などが含まれる。不飽和二重結合を含有する化合物の例には、住友化学株式会社製Sumilizer GM、およびSumilizer GSなどが含まれる。
酸化防止剤は、一種類のみであっても二種類以上の混合物であってもよいが、二種類以上の混合物であることが好ましい。例えば、リン系化合物、フェノール系化合物および不飽和二重結合を含有する化合物を併用することが好ましい。
酸化防止剤の含有量は、前述の熱可塑性樹脂の合計に対して0.05〜5質量%であることが好ましく、0.05〜2質量%であることがより好ましい。
紫外線吸収剤
紫外線吸収剤は、波長400nm以下の紫外線を吸収する化合物であり、好ましくは波長370nmでの透過率が10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である化合物である。
紫外線吸収剤の光線透過率は、紫外線吸収剤を溶媒(例えばジクロロメタン、トルエンなど)に溶解した溶液を、常法により、分光光度計により測定することができる。分光光度計は、例えば、島津製作所社製の分光光度計UVIDFC−610、日立製作所社製の330型自記分光光度計、U−3210型自記分光光度計、U−3410型自記分光光度計、U−4000型自記分光光度計等を用いることができる。
紫外線吸収剤は、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物などであってよく、得られるフィルムの透明性を損なわないためには、好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびベンゾフェノン系紫外線吸収剤であり、さらに好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤がより好ましい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の例には、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖および側鎖ドデシル)-4-メチルフェノールなどが含まれる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の市販品の例には、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328(BASFジャパン株式会社製)などのチヌビン類が含まれる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の例には、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノンなどが含まれる。
紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤の種類にもよるが、樹脂組成物全体に対して0.5〜4質量%であることが好ましく、0.6〜3.5質量%であることがより好ましい。
微粒子(マット剤)
熱可塑性樹脂フィルムの原料となる樹脂組成物は、得られる熱可塑性樹脂フィルムの表面の滑り性を高めるためなどから、微粒子(マット剤)をさらに含有してもよい。
微粒子は、無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。無機微粒子の例には、二酸化珪素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムなどが含まれる。なかでも、二酸化珪素や酸化ジルコニウムが好ましく、得られるフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、より好ましくは二酸化珪素である。
二酸化珪素の微粒子の例には、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKE−P10、KE−P30、KE−P50、KE−P100(以上日本触媒(株)製)などが含まれる。なかでも、アエロジルR972V、NAX50、シーホスターKE−P30などが、得られるフィルムの濁度を低く保ちつつ、摩擦係数を低減させうるため特に好ましい。
微粒子の一次粒子径は、5〜50nmであることが好ましく、7〜20nmであることがより好ましい。一次粒子径が大きいほうが、得られるフィルムの滑り性を高める効果は大きいが、透明性が低下しやすい。そのため、微粒子は、粒子径0.05〜0.3μmの二次凝集体として含有されていてもよい。微粒子の一次粒子またはその二次凝集体の大きさは、透過型電子顕微鏡にて倍率50万〜200万倍で一次粒子または二次凝集体を観察し、一次粒子または二次凝集体100個の粒子径の平均値として求めることができる。
微粒子の含有量は、前述の熱可塑性樹脂の合計に対して0.05〜1.0質量%であることが好ましく、0.1〜0.8質量%であることがより好ましい。
光学補償フィルムの物性
前述の通り、本発明の液晶表示装置の黒表示時の光漏れを抑制し、広い視野角を得るためには、光学補償フィルムの、23℃55%RHにおいて、測定波長550nmで測定される面内方向のレターデーションをR0(550);厚み方向のレターデーションをRth(550)としたとき、(1)および(2)を満たすことが好ましい。
(1)40nm≦R0(550)≦80nm
(2)140nm≦Rth(550)≦450nm
R0(550)は、45nm≦R0(550)≦70nmを満たすことが好ましく、Rth(550)は、150nm≦Rth(550)≦400nmを満たすことが好ましい。
光学補償フィルムのR0よびRthは、例えば延伸条件やフィルムの膜厚などによって調整されうる。R0を大きくするためには、例えば幅方向(TD方向)の延伸倍率を高くし、かつ搬送方向(MD方向)の延伸倍率を低くすればよい。Rthを大きくするためには、例えば幅方向(TD方向)の延伸倍率と搬送方向(MD方向)の延伸倍率の両方を高くしたり、フィルムの膜厚を大きくしたりすればよい。
また、本発明の液晶表示装置の斜め方向の色味変化を抑制するためには、光学補償フィルムが、従来のような逆波長分散性ではなく、フラットまたは順波長分散性を有することが好ましい。即ち、光学補償フィルムの、23℃55%RHにおいて、測定波長450nm、550nm、650nmでそれぞれ測定される面内方向のレターデーションをR0(450)、R0(550)、R0(650)としたとき、前述の(1)と(2)に加えて、さらに(3)を満たすことが好ましい。
(3)0.99≦R0(450)/R0(650)≦1.09
光学補償フィルムのR0DSPは、斜め方向の色味変化を十分に抑制するためには、0.99≦R0(450)/R0(650)≦1.05を満たすことがより好ましい。
光学補償フィルムのR0DSPは、例えばフィルムの組成;具体的には、熱可塑性樹脂の種類、波長分散調整剤や可塑剤などの種類や含有量によって調整されうる。例えば、R0DSPを1以上とするためには、熱可塑性樹脂として環状オレフィン樹脂を選択したり;波長分散調整剤として式(6)で示される円盤状化合物や、可塑剤としてポリエステル系可塑剤などを選択したりすればよい。
レターデーションR0およびRthは、それぞれ以下の式で定義される。
式(I):R0=(nx−ny)×t(nm)
式(II):Rth={(nx+ny)/2−nz}×t(nm)
(式(I)および(II)において、
nxは、光学補償フィルムの面内方向において屈折率が最大になる遅相軸方向xにおける屈折率を表し;
nyは、光学補償フィルムの面内方向において前記遅相軸方向xと直交する方向yにおける屈折率を表し;
nzは、光学補償フィルムの厚み方向zにおける屈折率を表し;
t(nm)は、光学補償フィルムの厚みを表す)
レターデーションR0およびRthは、例えば以下の方法によって求めることができる。
1)得られた光学補償フィルムを、23℃55%RHで調湿する。調湿後の光学補償フィルムの平均屈折率を、アッベ屈折計にて測定する。
2)調湿後の光学補償フィルムに、フィルム法線方向から測定波長450nm、550nm、650nmの光をそれぞれ入射させたときのR0を、Axometrcs社製のAxoscanにて測定する。
3)Axometrcs社製のAxoscanにより、フィルム法線方向に対してθの角度(入射角(θ))から測定波長550nmの光を入射させたときのレターデーション値R(θ)を測定する。θは0°よりも大きく、好ましくは30°〜50°としうる。
4)測定されたR0(550)およびR(θ)と、前述の平均屈折率と膜厚から、Axometrcs社製のAxoscanにより、nx、nyおよびnzを算出して、測定波長550nmにおけるRthを算出する。レターデーションの測定は、23℃55%RH条件下で行うことができる。
R0(450)/R0(650)は、得られたR0(450)とR0(650)から算出することができる。
光学補償フィルムの面内遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角θ1(配向角)は、好ましくは−5°以上+5°以下であり、より好ましくは−1°以上+1°以下であり、さらに好ましくは−0.5以上+0.5°以下であり、特に好ましくは−0.1°以上+0.1°以下である。光学補償フィルムの配向角θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−WX(王子計測機器)を用いて測定することができる。配向角は、延伸条件によって調整されうる。
さらに、本発明の液晶表示装置における輝度ムラは、バックライトの熱などで偏光子が収縮し;この偏光子が収縮する力が、液晶セルのガラス基板(図2における絶縁基板110または210)に加わり、ガラス基板の光弾性係数を変化させることによって生じると考えられる。そのため、輝度ムラを抑制するためには、光学補償フィルムの光弾性係数と膜厚の積が、応力が加わったガラス基板の光弾性係数と基板厚みの積を打ち消すような範囲を有することが好ましい。
応力が加わったガラス基板が有する光弾性係数は、負で一定以上の大きさを有すると推測されるため、光学補償フィルムの光弾性係数は、正で一定以上の大きさを有することが好ましい。具体的には、23℃55RH%下で測定される光学補償フィルムの23℃55%RH下における光弾性係数が4.0×10−13〜10.0×10−13cm2/dynの範囲であることが好ましく、4.0×10−13〜8.0×10−13cm2/dynの範囲であることがより好ましい。
光学補償フィルムの光弾性係数は、例えば光学補償フィルムを構成する熱可塑性樹脂の種類によって調整することができる。光弾性係数を正で適度に大きくするためには、例えばセルロースエステルではなく環状オレフィン樹脂を選択するとよい。特にエチレン由来の構成単位を比較的多く含む環状オレフィン樹脂を選択することが好ましい。
光学補償フィルムの光弾性係数の測定は、以下の手順で行うことができる。
1)光学補償フィルムを、23℃55%RHの環境下で、24時間保存する。その後、23℃55%RHの環境下で、フィルムの最大延伸方向(延伸倍率が最大となる方向)に引張り荷重を加えた状態で、フィルムの、波長590nmにおける面内レターデーションR0を、KOBURA31PR(王子計測機器社製)により測定する。
2)光学補償フィルムに加える引張り荷重を段階的に大きくしながら、各引張り荷重での、フィルムの面内レターデーションR0を測定する。
3)各引張り荷重での面内レターデーションR0をフィルム厚みdで割って、△n(=nx−ny)を算出する。
4)横軸を引張り荷重とし;縦軸を△n(=nx−ny)とし、引張り荷重−△n曲線を得る。得られる曲線を直線に近似したときの、直線の傾きを光弾性係数とする。
光学補償フィルムの厚みは、熱や湿度によるレターデーションの変動を少なくするためなどから、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下であり、光学補償フィルムの複屈折が、応力が加わった液晶セルのガラス基板に生じる複屈折よりも大きくならないようにするためには、特に好ましくは70μm以下である。一方、光学補償フィルムの厚みは、保護フィルムとして機能しうるフィルム強度やレターデーションを得るためには、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。特に、応力が加わった液晶セルのガラス基板に生じる複屈折を十分に打ち消すためには、好ましくは30μm以上としうる。
光学補償フィルムの、JIS K−7136に準拠して測定されるヘイズは、好ましくは1.0%未満であり、より好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。
光学補償フィルムのヘイズは、JIS K−7136に準拠した方法;具体的には、23℃55%RHの条件下にて、ヘイズメーター(濁度計)(型式:NDH 2000、日本電色(株)製)にて測定することができる。ヘイズメーターの光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)としうる。
光学補償フィルムの可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
光学補償フィルム(保護フィルムF2またはF3)の製造方法
本発明で用いられる光学補償フィルムは、任意の方法で製造されうるが、得られるフィルムの着色を抑制したり、異物故障やダイラインなどを抑制したりするためには、溶液流延法または溶融流延法で製造されることが好ましい。溶剤を使用せず、環境への負荷が小さいことから、溶融流延法で製造されることがより好ましい。
本発明で用いられる光学補償フィルムを溶融流延法で製造する方法は、1)溶融ペレットを製造する工程(ペレット化工程)、2)溶融ペレットを溶融混練した後、押し出す工程(溶融押出し工程)、3)溶融樹脂を冷却固化してウェブを得る工程(冷却固化工程)、4)ウェブを延伸する工程(延伸工程)、を含む。
1)ペレット化工程
本発明の光学補償フィルムを構成する熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物は、あらかじめ混練してペレット化しておくことが好ましい。ペレット化は、公知の方法で行うことができ、例えば前述の熱可塑性樹脂と、必要に応じて可塑剤などの添加剤とを含む樹脂組成物を、押し出し機にて溶融混錬した後、ダイからストランド状に押し出す。ストランド状に押し出された溶融樹脂を、水冷または空冷した後、カッティングしてペレットを得ることができる。
ペレットの原材料は、分解を防止するために、押し出し機に供給する前に乾燥しておくことが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂としてのセルロースエステルは吸湿しやすいため、70〜140℃で3時間以上乾燥させて、水分率を200ppm以下、好ましくは100ppm以下にしておくことが好ましい。
酸化防止剤と熱可塑性樹脂の混合は、固体同士で混合してもよいし;溶剤に溶解させた酸化防止剤を、熱可塑性樹脂に含浸させて混合してもよいし;酸化防止剤を、熱可塑性樹脂に噴霧して混合してもよい。真空ナウターミキサーなどが、原材料の乾燥と混合を同時に行うことができるので好ましい。また、押し出し機のフィーダー部分やダイの出口部分の周辺の雰囲気は、ペレットの原材料の劣化を防止するためなどから、除湿した空気またはN2ガスなどの雰囲気とすることが好ましい。
押し出し機では、樹脂の劣化(分子量の低下、着色およびゲルの生成など)が生じないように、低いせん断力または低い温度で混練することが好ましい。例えば、2軸押し出し機で混練する場合、深溝タイプのスクリューを用いて、2つのスクリューの回転方向を同方向にすることが好ましい。均一に混錬するためには、2つのスクリュー形状が互いに噛み合うようにすることが好ましい。
熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物をペレット化せずに、溶融混練していない熱可塑性樹脂をそのまま原料として押し出し機にて溶融混練して本発明の光学補償フィルムを製造してもよい。
2)溶融押出し工程
得られた溶融ペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、ホッパーから押し出し機に供給する。ペレットの供給は、ペレットの酸化分解を防止するためなどから、真空下、減圧下または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。そして、押し出し機にて、溶融ペレットと、必要に応じて他の添加剤と(フィルム材料)を溶融混練する。
押し出し機内のフィルム材料の溶融温度は、フィルム材料の種類にもよるが、フィルムのガラス転移温度をTg℃としたときに、好ましくはTg℃〜(Tg+100)℃の範囲であり、より好ましくは(Tg+10)℃〜(Tg+90)℃の範囲である。押し出し機でのフィルム材料の滞留時間は、5分以下とすることが好ましい。滞留時間は、スクリューの回転数や溝の深さ、シリンダの内径(D)に対するシリンダの長さ(L)の比であるL/Dなどによって調整することができる。
押し出し機から押し出された溶融樹脂を、必要に応じてリーフディスクフィルタなどでろ過した後、スタチックミキサなどでさらに混合して、ダイからフィルム状に押し出す。ダイの出口部分における樹脂の溶融温度Tmは200〜300℃程度としうる。
ダイの内壁面に、傷や可塑剤の凝結物などの異物が付着すると、押し出される溶融樹脂の表面にスジ状の欠陥(ダイライン)が生じることがある。ダイラインなどの表面欠陥を低減するためには、押し出し機からダイの先端までの内壁面には、樹脂の滞留部が付着しにくい構造にすること;例えば押し出し機からダイの先端までの内壁面には、傷などがないことが好ましい。
押出機やダイなどの内壁面は、溶融樹脂が付着しにくくするために、表面粗さを小さくする、または表面エネルギーを低くする表面加工が施されていることが好ましい。そのような表面加工の例には、ハードクロムメッキやセラミック溶射した後、表面粗さ0.2S以下となるように研磨する加工が含まれる。
3)冷却固化工程
ダイから押し出された樹脂を、冷却ロールと弾性タッチロールとでニップして、フィルム状の溶融樹脂を所定の厚みにする。そして、フィルム状の溶融樹脂を、複数の冷却ロールで段階的に冷却して固化させる。
冷却ロールの表面温度Tr1は、得られるフィルムのガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg(℃)以下としうる。複数の冷却ロールの表面温度は異なっていてもよい。弾性タッチロール側のフィルム表面温度Ttは、(Tr1−50)℃≦Tt≦(Tr1−5)℃としうる。
冷却ロールは、高剛性の金属ロールであり、内部に温度制御可能な媒体を流通できる構造を有する。冷却ロールの表面の材質は、ステンレス、アルミニウム、チタンなどでありうる。冷却ロールの表面には、樹脂を剥離しやすくしたりするためなどから、ハードクロムメッキ、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキ、セラミック溶射などの表面処理を施してもよい。冷却ロールの表面の粗さRaは、フィルムのヘイズを低く維持するために、0.1μm以下とすることが好ましく、0.05μm以下とすることがより好ましい。
弾性タッチロールは、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号、国際公開第97/028950号、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2005−172940号や特開2005−280217号に記載の、薄膜金属スリーブで被覆されたシリコンゴムロールなどが用いられる。
冷却ロールから固化したフィルム状の溶融樹脂を剥離ロールなどで剥離してウェブを得る。フィルム状の溶融樹脂を剥離する際は、得られるウェブの変形を防止するために、張力を調整することが好ましい。
4)延伸工程
得られたウェブを、延伸機にて延伸してフィルムを得る。延伸は、少なくとも一方向に延伸すればよく、少なくともウェブの幅方向(TD方向)に延伸することが好ましい。
幅方向に延伸して得られる光学補償フィルムは、幅方向に平行な面内遅相軸を有する。そのため、一般的に、ウェブの長手方向(MD方向)に平行な吸収軸を有する偏光子と、幅方向(TD方向)に平行な面内遅相軸を有する光学補償フィルムとをロールtoロールで積層させれば、偏光子の吸収軸と光学補償フィルムの面内遅相軸とを容易に直交させうる。
ウェブの幅方向(TD方向)とウェブの搬送方向(MD方向)の両方に延伸する場合、ウェブの幅方向(TD方向)の延伸とウェブの搬送方向(MD方向)の延伸とは、逐次的に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
延伸倍率は、各方向に1.01〜3.0倍、好ましくは1.1〜2.0倍としうる。ウェブの幅方向(TD方向)と搬送方向(MD方向)の両方に延伸する場合、各方向に最終的に1.01〜3.0倍、好ましくは1.1〜2.0倍とすることが好ましい。
延伸温度は、Tg〜(Tg+50)℃で行うことが好ましい。セルロースエステルを含有するフィルムの延伸温度は、120〜200℃程度としうる。延伸温度は、ウェブの幅方向(TD方向)または搬送方向(MD方向)に均一であることが好ましく、ウェブの延伸温度の幅方向または搬送方向のばらつきが±2℃以下であることが好ましく、±1℃以下であることがより好ましく、±0.5℃以下であることがさらに好ましい。
ウェブの延伸は、ロール延伸機やテンター延伸機などを用いることができる。
延伸後に得られるフィルムのレターデーションを調整したり、寸法変化を低減したりするために、必要に応じて、延伸後に得られるフィルムを搬送方向(MD方向)または幅方向(TD方向)に収縮させてもよい。フィルムを搬送方向(MD方向)に収縮させるには、例えば幅方向に把持したクリップを解除して、搬送方向に弛緩させたり;隣り合うクリップの間隔を搬送方向に徐々に狭くして搬送方向に弛緩させたりすればよい。
3.保護フィルムF1またはF4について
保護フィルムF1またはF4は、透明な熱可塑性樹脂フィルムであれば、特に限定されない。そのような熱可塑性樹脂フィルムの好ましい例には、セルロースエステルフィルムが含まれる。
セルロースエステルフィルムの例には、市販品のセルロースエステルフィルムが含まれ、例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC8UE、KC4UE、KC4FR−3、KC4FR−4、KC4HR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC4UA(以上コニカミノルタオプト(株)製)や、KC4KRなどが好ましく用いられる。
保護フィルムF1またはF4の厚みは、特に制限されないが、10〜200μm程度とすることができ、好ましくは10〜100μmであり、より好ましくは10〜70μmである。
前述のような特定の構造を有する垂直配向型の液晶セルを含む液晶表示装置は、高い透過率または開口率を有する。そのような液晶表示装置に、R0、RthおよびR0DSPが所定の範囲に調整された光学補償フィルムを適用することで、黒表示時の光漏れを低減して広い視野角を得ることができ、かつ斜め方向の色味変化を低減できる。さらに、光学補償フィルムの光弾性係数や膜厚を所定の範囲に調整することで、前述の液晶表示装置における輝度ムラを目立ちにくくすることができる。
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
1.熱可塑性樹脂の合成
(合成例1)
ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン30部、エチレン70部、重合触媒としてトリエチルアルミニウムの15質量%シクロヘキサン溶液10部、トリエチルアミン5部、および四塩化チタンの20質量%シクロヘキサン溶液10部を混合し、シクロヘキサン中でビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エンを開環重合させた。得られた開環重合体を、ニッケル触媒で水素添加してポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を、イソプロピルアルコール中で凝固させた後、乾燥させて、熱可塑性樹脂P1を得た。熱可塑性樹脂P1は、エチレン由来の構成単位の含有割合が70モル%の環状オレフィン系樹脂であった。
(合成例2〜5)
エチレンの混合量を調整して、以下のエチレン由来の構成単位の含有割合の熱可塑性樹脂P2〜P5を得た。
熱可塑性樹脂P2:エチレン由来の構成単位の含有割合が50モル%
熱可塑性樹脂P3:エチレン由来の構成単位の含有割合が65モル%
熱可塑性樹脂P4:エチレン由来の構成単位の含有割合が85モル%
熱可塑性樹脂P5:エチレン由来の構成単位の含有割合が90モル%
その他、以下の熱可塑性樹脂を準備した。
熱可塑性樹脂P6:セルロースアセテート(アセチル基置換度(アシル基総置換度)2.65、数平均分子量Mn:70000、重量平均分子量Mw:220000)
熱可塑性樹脂P7:セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.55、プロピオニル基置換度0.90、アシル基総置換度2.45、Mn(Mw):60000)
2.ペレットの製造
熱可塑性樹脂P1のペレットの製造
熱可塑性樹脂P1を、除湿熱風乾燥機にて90℃で6時間以上乾燥させて、水分率を80ppm以下とした。
乾燥させて熱可塑性樹脂P1を二軸押し出し機に投入して溶融混練した。ダイスの直前に設けられた目開き100μmの金属メッシュ(フィルタ部)にて、溶融樹脂をろ過した後、ダイスの円形の口径からストランド状に押し出した。押し出された溶融樹脂を水冷した後、ストランドカッターで長径5mm、断面直径が2.5mmの円筒形にカットし、ペレットを得た。
熱可塑性樹脂P2〜P5のペレットの製造
熱可塑性樹脂P1を、熱可塑性樹脂P2〜P5にそれぞれ変更した以外は前述と同様にしてペレットを得た。
3.光学補償フィルムの製造
(製造例1)
前述の熱可塑性樹脂P1のペレットを、減圧下、90℃、6時間乾燥させた後、単軸押し出し機に投入し、窒素雰囲気下、240℃で溶融混練した。その後、ダイから、表面温度が90℃である冷却ロール上に押し出した。そして、冷却ロール上に押し出された樹脂を、弾性タッチロールで押圧して成形した。
ダイのスリットのギャップが、フィルム幅方向の端部から30mm以内では0.7mm、それ以外の箇所では1mmとした。弾性タッチロールの表面温度は80℃とした。
ダイから押し出された樹脂を、複数の冷却ロールで冷却固化した後、剥離ロールで剥離して原反フィルムを得た。得られた原反フィルムの両端部10cmをスリットし、ロール延伸装置にて原反フィルムの搬送方向(MD方向)に、134℃で延伸倍率1.09倍に延伸した。
搬送方向(MD方向)に延伸後の原反フィルムは、両端部が収縮していたため、さらにフィルムの両端部を10cmスリットした。得られたフィルムの両端部を、テンター延伸機のクリップで把持して、予熱ゾーンで120℃に予熱した後、延伸ゾーンでフィルムの幅方向(TD方向)に134℃で延伸倍率1.21倍に延伸した。その後、得られたフィルムを、幅方向に3%緩和させながら30℃まで冷却させた。次いで、クリップを外して、フィルム両端部のクリップで把持されていた部分45mmを裁ち落とした後、フィルム両端部に幅20mm、高さ10μmのナーリング加工を施して、光学補償フィルム1を得た。得られた光学補償フィルムを、巻き取り張力220N/mにて巻き取った。光学補償フィルム1は、膜厚54μm、幅2300mm、長さ5000mであった。
(製造例2〜7)
得られる光学補償フィルムのR0(550)またはRth(550)が表1に示される値となるように、フィルムの延伸条件を変更した以外は製造例1と同様にして光学補償フィルム2〜7を得た。
(製造例8〜10)
得られる光学補償フィルムの膜厚が表1に示される値となるように、フィルムの延伸条件を変更した以外は製造例1と同様にして光学補償フィルム8〜10を得た。
(製造例11〜14)
熱可塑性樹脂の種類と延伸条件を表1に示されるように変更した以外は製造例1と同様にして光学補償フィルム11〜14を得た。
(製造例15)
微粒子分散希釈液Aの調製
下記成分を、ディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散させて、微粒子分散液Aを得た。得られた微粒子分散液Aの濁度は200ppmであった。
(微粒子分散液Aの組成)
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製、一次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル):10質量部
エタノール:75質量部
次いで、この微粒子分散液Aに、75質量部のメチレンクロライドを撹拌しながらさらに投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合して、微粒子分散希釈液Aを得た。
ドープ液の調製
下記成分を密閉容器に投入し、加熱下で撹拌しながら完全に溶解させた。得られた溶液を、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24にて濾過した後、日本精線(株)製のファインメットNFにてさらに濾過して、ドープ液を得た。
(ドープ液の組成)
熱可塑性樹脂P6(アセチル基置換度(アシル基総置換度)2.65、数平均分子量Mn:70000、重量平均分子量Mw:220000のセルロースアセテート):100質量部
下記のトリアジン化合物:8質量部
メチレンクロライド:300質量部
エタノール:60質量部
微粒子分散希釈A:4質量部
得られたドープ液を35℃に調整し、ベルト流延装置を用いて、1800mm幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。得られたドープ膜に含まれる溶媒を、残留溶剤量が100%になるまでステンレスバンド支持体上で蒸発させた後、ステンレスバンド支持体から剥離してウェブを得た。得られたウェブに含まれる溶媒を55℃でさらに蒸発させた後、1650mm幅となるように両端部をスリットした。
得られたウェブを、テンター延伸機にて、160℃で、ウェブの幅方向(TD方向)に1.35倍に延伸した。テンター延伸機にて延伸を開始したときのウェブの残留溶剤量は18%であった。
得られたフィルムを多数のロールで搬送させながら、120℃の乾燥ゾーン、110℃の乾燥ゾーンで順次乾燥させた。得られたフィルムを、1400mm幅にスリットした後、フィルム両端部に幅15mm、平均高さ10μmのナーリング加工を施して、光学補償フィルム15を得た。光学補償フィルム15の残留溶剤量は0.1%であり、平均膜厚は60μmであり、巻長は4000mであった。
(製造例16)
易接着層用組成物の調製
ポリエステルウレタン(第一工業製薬社製、商品名:スーパーフレックス210、固形分33%)17.0g、架橋剤(オキサゾリン含有ポリマー、日本触媒社製、商品名:エポクロスWS−700、固形分25%)4.2gおよび純水78.6gを混合し、易接着剤組成物を得た。
得られた易接着剤組成物を、製造例1で得られた光学補償フィルム1上に、バーコーターで乾燥後の厚みが0.5μmとなるように塗布した。その後、塗膜を150℃で乾燥させて易接着層を形成し、光学補償フィルム16を得た。
(製造例17〜20)
得られる光学補償フィルムのR0(550)またはRth(550)が表1に示される値となるように、フィルムの延伸条件を変更した以外は製造例1と同様にして光学補償フィルム17〜20を得た。
(製造例21)
微粒子分散希釈液Bの作製
下記成分を、ディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散させて微粒子分散液Bを得た。
(微粒子分散液Bの組成)
微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製):11質量部
エタノール:89質量部
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液Bをゆっくりと添加し、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにてさらに分散を行った。得られた溶液を、日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子分散希釈液Bを得た。
(微粒子分散希釈液Bの組成)
メチレンクロライド:99質量部
微粒子分散液B:5質量部
ドープ液の調製
下記組成のドープ液を調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加し、熱可塑性樹脂P7、下記で合成した糖エステル化合物Mおよび微粒子分散希釈液Bを攪拌しながら投入した。得られた溶液を加熱し、攪拌しながら完全に溶解させた。得られた溶液を、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、ドープ液を得た。
(主ドープ液の組成)
メチレンクロライド:340質量部
エタノール:64質量部
熱可塑性樹脂P7(セルロースアセテートプロピオネート、アセチル基置換度1.55、プロピオニル基置換度0.90、アシル基総置換度2.45、Mn(Mw):60000):100質量部
糖エステル化合物M:12質量部
微粒子分散希釈液B:1質量部
糖エステル化合物Mの合成
撹拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸135.6g(0.6モル)、ピリジン284.8g(3.6モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。これに、トルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5等の混合物である糖エステル化合物Mを得た。
得られた混合物を高速液体クロマトグラフィー−質量分析(HPLC−MS)で解析したところ、A−1が1.2質量%、A−2が13.2質量%、A−3が14.2質量%、A−4が35.4質量%、A−5等が40.0質量%であった。平均置換度は5.2であった。
得られたドープ液を、ベルト流延装置を用いて、ステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ膜中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させた後、剥離張力130N/mで、ドープ膜をステンレスベルト支持体上から剥離してウェブを得た。得られたウェブを、150℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に40%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は15%であった。得られたフィルムを、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥させた。乾燥温度は130℃とし、フィルムの搬送張力は100N/mとした。これにより、乾燥後の膜厚が50μmの光学補償フィルム21を得た。
(製造例22)
トリアジン化合物の添加量を16質量部に変更し、かつ延伸条件を表1に示されるように変更した以外は製造例15と同様にして光学補償フィルム22を得た。
得られた光学補償フィルムのレターデーションR0、Rth、R0DSP(=R0(450)/R0650)および光弾性係数を、以下の方法で測定した。
(R0、Rth、およびR0DSPの測定)
1)得られた光学補償フィルムを、23℃55%RHで調湿した。調湿後の保護フィルムの3方向の屈折率をアッベ屈折計にて測定し、それらの平均値を平均屈折率とした。
2)調湿後の光学補償フィルムに、フィルム法線方向から測定波長450nm、550nm、650nmの光をそれぞれ入射させたときのR0を、Axometrcs社製のAxoscanにて測定した。
3)Axometrcs社製のAxoscanにより、フィルム法線方向に対してθの角度(入射角(θ))から測定波長550nmの光を入射させたときのレターデーション値R(θ)を測定した。θは30°〜50°とした。
4)測定されたR0およびR(θ)と、前述の平均屈折率と膜厚とから、Axometrcs社製のAxoscanにより、nx、nyおよびnzを算出して、測定波長550nmでのRthを算出した。レターデーションの測定は、23℃55%RH条件下で行った。
さらに、得られたR0(450)とR0(650)から、R0(450)/R0(650)を算出した。
(光弾性係数の測定)
1)得られた光学補償フィルムを、23℃55%RH下で24時間保存した。その後、23℃55%RHの環境下で、光学補償フィルムの最大延伸方向(延伸倍率が最大となる方向)に引張り荷重を加えた状態で、光学補償フィルムの、波長590nmにおける面内レターデーションR0を、KOBRA31PR(王子計測機器社製)により測定した。
2)光学補償フィルムに加える引張り荷重を段階的に大きくしながら、各引張り荷重での、フィルムの面内レターデーションR0を測定した。
3)各引張り荷重での面内レターデーションR0をフィルム厚みdで割って、△n(=nx−ny)を算出した。
4)横軸を引張り荷重とし;縦軸を△n(=nx−ny)として、引張り荷重−△n曲線を得た。得られた曲線を直線に近似したときの、直線の傾きを光弾性係数とした。
製造例1〜22で得られた光学補償フィルム1〜22の評価結果を表1に示す。
3.偏光板の作製
(製造例23)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。このフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬させた後、ヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g、水100gからなる45℃の水溶液に浸漬させた。浸漬後のフィルムを、55℃、延伸倍率5倍で一軸延伸した。得られたフィルムを水洗した後、乾燥させて厚さ35μmの偏光子を得た。
製造例1で得られた光学補償フィルム1の他に、透明保護フィルムとして、市販のコニカミノルタオプト製KC4UA(セルロースアセテートフィルム)を準備した。そして、偏光子の一方の面に光学補償フィルム1を、下記組成のUV硬化性糊を介して配置し;偏光子の他方の面に透明保護フィルムを、UV硬化性糊を介して配置し、積層物を得た。得られた積層物の光学補償フィルム1側の面から紫外線を、積算光量200mJ/cm2で照射して、UV硬化性糊を硬化させた。ライン速度は20m/minとした。
UV硬化性糊は、水素化エポキシ樹脂(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコートYX8000)10.0gに、光重合開始剤(ADEKA社製、商品名:SP−500)4.0gを配合したものを用いた。
一方、剥離加工したポリエチレンテレフタレートフィルム上に粘着層を設けた粘着テープを予め準備した。そして、得られた偏光板1の光学補償フィルム側の面に、粘着テープの粘着層を貼りつけて、粘着剤付き偏光板1を得た。
(製造例24〜44)
製造例1で得られた光学補償フィルム1を、製造例2〜23で得られた光学補償フィルム2〜22にそれぞれ変更した以外は製造例23と同様にして偏光板2〜22を得た。ただし、製造例16で得られた光学補償フィルム16を用いる場合は、易接着層が偏光子側になるように貼り合わせた。
(製造例45)
偏光子の両面に透明保護フィルムKC4UAを貼り合わせた以外は製造例23と同様にして偏光板X1を得た。
(製造例46)
光学補償フィルム1をコニカミノルタオプト社製KC4KRに変更した以外は製造例23と同様にして偏光板X2を得た。
(製造例47)
偏光子の一方の面のみに透明保護フィルムKC4UAを貼り合わせ、他方の面には何も貼り合わせなかった以外は製造例23と同様にして偏光板Yを得た。
4.液晶表示装置の作製
(実施例1)
液晶セルAの作製
ガラス基板上に、所定のパターンのマスクを介してITOをスパッタリングして、ITO膜を形成した。得られたITO膜上にレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてITO膜の露出部をエッチングして、前述の図4Aに示されるような第一のスリット領域A、第二のスリット領域Bおよび第三のスリット領域Cを含む画素電極を形成した。第一のスリットの総面積/第二のスリットの総面積/第三のスリットの総面積の比率を40/40/20とした。第一のスリットおよび第二のスリットの長さは300μmとし、幅は100μmとした。第三のスリットの長さは150μmとし、幅は100μmとした。
得られた画素電極上に、下記式(3)で表されるクマリン基を有するポリイミドを含む光配向膜用ポリイミド溶液を、厚さ70nmにスピンコート法により塗布した。次いで、得られた塗布層を180℃で60分間焼成して光配向膜を形成した。その後、得られた光配向膜面にスキャン露光して配向処理を行い、図4Aに示されるような配向分割構造を有する垂直配向膜を得た。スキャン露光における、光線の基板面の法線に対する入射角は15°とした。これにより、第一の基板を得た。
一方、前述の第一の基板とは別に、ITO膜付きガラス基板を準備した。このITO膜上にカラーフィルタを配置し、その上に前述と同様にして光配向膜を形成した。その後、得られた光配向膜面に、スキャン露光して配向処理を行い、図4Bに示されるような配向処理方向を有する垂直配向膜を得た。これにより、第二の基板を得た。
第一の基板の垂直配向膜上に、スペーサである球状の樹脂ボールを含有する接着剤を枠状に塗布形成した。接着剤からなる枠には、液晶層用組成物を注入するための開口部を設けた。次いで、第一の基板の垂直配向膜と、第二の基板の垂直配向膜とが対向するように、第一の基板と第二の基板とを、枠状の接着剤を介して貼り合わせた。
接着剤に含まれるスペーサであるプラスチックビーズの粒径は4.5μmとした。液晶セルのギャップを5μmとした。
得られた液晶セル内に、誘電率異方性が負である表示用液晶材料(△n=0.08、△ε=−4)を真空注入法によって注入した。表示用液晶材料を注入した後、注入口を紫外線硬化樹脂で封止して、垂直配向型の液晶セルを得た。得られた液晶セルの△ndは、400nmであった。電圧無印加時における各基板近傍の液晶分子の、基板の法線に対するプレチルト角は1°であった。電圧印加時には液晶分子が基板面に対して略平行に配向し、かつ第一の基板側から第二の基板側に亘ってツイスト配向するものであった。
得られた液晶セルAの両面に、表2に示されるように偏光板を貼り合あわせて、液晶表示装置を得た。
(実施例2〜4および8〜18)
液晶セルAの両面に貼り合わせる偏光板を、表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
(実施例5〜7)
前述の液晶セルAの作製において、プラスチックビーズの粒径を変えて、セルギャップを5.5μmに変更した以外は同様にして液晶セルB(△nd=440nm)を得た。得られた液晶セルBの両面に、表2に示されるように偏光板を貼り合あわせて、液晶表示装置を得た。
(比較例1〜3および5〜6)
液晶セルAの両面に貼り合わせる偏光板を、表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
(比較例4)
液晶セルBの両面に貼り合わせる偏光板を、表2に示されるように変更した以外は実施例5と同様にして液晶表示装置を得た。
実施例1〜18および比較例1〜6で得られた液晶表示装置の、視野角、斜め方向の色味、輝度ムラおよび耐久性を、以下の方法で評価した。
(視野角の評価)
液晶表示装置を白表示させたときの、極角60°における、方位角45°、135°、225°および315°のそれぞれの方向での輝度を、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて測定した。同様に、液晶表示装置を黒表示させたときの、極角60°、方位角45°、135°、225°または315°のそれぞれの方向での輝度を測定した。得られた輝度を、下記式に当てはめて、極角60°における、方位角45°、135°、225°および315°のそれぞれの方向でのコントラスト比をそれぞれ算出し、それらの平均値を算出した。
コントラスト比=(白表示時の一定方向での輝度)/(黒表示時の一定方向での輝度)×100
極角とは、表示画面から立ち上がる回転方向の角度をいい、方位角とは、表示画面の面内での回転方向の角度をいう。
視野角の評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:コントラスト比の平均値が60以上
○:コントラスト比の平均値が40以上60未満
×:コントラスト比の平均値が20以上40未満
(斜め方向の色味変化の評価)
得られた液晶表示装置を黒表示させたときの、極角60°、方位角が45°、135°、225°または315°のそれぞれの方向での色度座標(x,y)を、EZ−Contrast160Dを用いて測定し、それらの平均値を算出した。得られた色度座標(x,y)の平均値とD65光源の色度座標(0.313、0.329)との距離を、下記式により算出した。
斜め方向の色味の評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:D≦0.05
○:0.05<D≦0.10
×:0.10<D
(輝度ムラ)
得られた液晶表示装置のバックライトを点灯させた状態で黒表示させたときの、表示画面の輝度ムラを、10人の観察者により目視評価した。輝度ムラの評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:輝度ムラが10人中0〜2人確認できる
○:輝度ムラが10人中3〜5人確認できる
×:輝度ムラが10人中6〜10人確認できる
(耐久性試験)
1)得られた液晶表示装置を、23℃55%RHの環境下で1日間保存した。その後、液晶表示装置のバックライトを点灯させた状態で黒表示させたときの視野角V0を測定した。
2)次いで、液晶表示装置を、50℃90%RHの高温高湿環境下にて500時間保存した。その後、23℃55%RHの環境下で1日間保存して調湿した。得られた液晶表示装置の視野角Vを、前述と同様にして測定した。
3)得られたV0およびVの値を下記式に当てはめて、視野角変動率(%)を算出した。
耐久性の評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:視野角変動率が5%未満
○:視野角変動率が5%以上15%未満
×:視野角変動率が15%以上
実施例1〜18および比較例1〜6の液晶表示装置の評価結果を表2に示す。表2において、液晶表示装置の構成の種類をI、II、IIIのいずれかに分類し;Iの構成を図9Aに、IIの構成を図9Bに、IIIの構成を図9Cにそれぞれ示す。また、評価結果における「−」は、未測定であることを示す。
表2に示されるように、F2またはF3の光学補償フィルムが、少なくとも所定の範囲のR0DSPを示す実施例1〜18の液晶表示装置は、少なくともR0DSPの範囲が本願範囲外である比較例1〜6の液晶表示装置よりも、視野角が広く、かつ斜め方向の色味が抑制されることがわかる。
また、実施例9〜12の比較から、光学補償フィルムの膜厚が小さすぎると、液晶セルのガラス基板の応力による光弾性係数の変化を打ち消す効果が不十分であり;光学補償フィルムの膜厚が大きすぎると、それによる光漏れが生じるため、いずれも輝度ムラを十分には抑制できないことがわかる。
さらに、実施例13〜17の比較から、光学補償フィルムの光弾性係数が小さすぎると、液晶セルのガラス基板の応力による光弾性係数の変化を打ち消す効果が不十分であり;光学補償フィルムの光弾性係数が大きすぎると、それによる光漏れが生じるため、いずれも輝度ムラを十分には抑制できないことがわかる。