JP2013136820A - 疲労特性に優れる耐摩耗性鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.30〜0.90%、Si:0.05〜1.00%以下、Mn:0.10〜1.50%、P:0.003〜0.030%、S:0.001〜0.020%、Nb:0.10〜0.70%を含有し、必要に応じてさらに、Cr:1.50%以下、Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、Ni:2.00%以下、Ti:0.10%以下、B:0.0050%以下の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、Nb含有炭化物が分散した調質熱処理後の金属組織を有し、粒径1.0μm以上のNb含有炭化物粒子の数が200個/mm2以上、かつ極値統計法により推定される103mm3中のNb含有炭化物粒子の最大粒径Dmaxが18.0μm以下に調整されている極疲労特性に優れる耐摩耗性鋼材。
【選択図】なし
Description
G値=0.39exp(3.94x) …(1)
ここで、
x=Nb−10y/C
y=3.42−7900/(T+273)
Cは鋼中のC含有量(質量%)、Nbは鋼中のNb含有量(質量%)、Tは鋳片加熱処理での加熱温度(℃)である。
本明細書において、鋼の成分元素に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Cは、調質硬さや強度、耐摩耗性を確保するために重要な元素であり、本発明では0.30%以上のC含有量の鋼を対象とする。0.32%以上、あるいは更に0.45%を超えるC含有量を確保することがより望ましい。ただしC含有量が多くなると鋳造工程で粗大な鉄系共晶炭化物(セメンタイト)が生成しやすくなり、疲労特性等の材料特性を低下させる要因となる。C含有量は0.90%以下に制限され、0.85%以下とすることがより好ましい。
本発明では耐摩耗性を顕著に向上させるためにNb含有炭化物を利用する。本明細書でいうNb含有炭化物はNbCを主成分とする炭化物である。この種の炭化物は非常に硬質であり、適度な大きさのNb含有炭化物がマトリクス中に分散していることによって耐摩耗性(特に耐アブレシブ摩耗性)が顕著に向上する。鋼中に観察される析出粒子がNb含有炭化物に該当するかどうかは、EDX等による微視的分析によって確かめることができる。Tiを添加した場合はNbとTiを含有する複合炭化物となる場合もありうると考えられるが、そのような複合炭化物もNb含有炭化物に該当する。
本発明に従う耐摩耗性鋼材は、鋳造、熱間加工、調質熱処理を経る工程で製造される。熱間加工としては、熱間圧延や熱間鍛造が挙げられる。熱延鋼板を素材として耐摩耗性部品を得る場合は例えば「鋳造→熱間圧延→仕上焼鈍→成形加工→調質熱処理」の工程、冷延鋼板を素材とする場合は例えば「鋳造→熱間圧延→焼鈍→冷間圧延→仕上焼鈍→成形加工→調質熱処理」の工程を採用することができる。以下、後者の場合を例に各工程について説明する。
鋳造後の冷却過程を利用してNb含有炭化物を析出させる。その際、鋼中のC含有量、Nb含有量、および後工程で実施する鋳片加熱処理での加熱温度に応じて、鋳造時の冷却速度を厳密にコントロールすることが需要である。具体的には、鋳造時の鋳片中心部における1500℃から1000℃までの平均冷却速度(℃/min)が下記(1)式により定まるG値以上となるように鋳造条件をコントロールする。
G値=0.39exp(3.94x) …(1)
ここで、
x=Nb−10y/C
y=3.42−7900/(T+273)
Cは鋼中のC含有量(質量%)、Nbは鋼中のNb含有量(質量%)、Tは鋳片加熱処理での加熱温度(℃)である。
鋳片加熱処理として、熱間圧延時に行う鋳片(代表的には連鋳スラブ)の加熱を利用して鋳片中に析出させたNb含有の一部を再固溶させることができる。熱間圧延時の鋳片加熱温度(鋳片中心部の最高到達温度)は一般的に1100〜1350℃の範囲であり、本発明でもその条件範囲において鋼材加熱温度Tを設定することができる。加熱保持時間(鋼材中心部が鋼材加熱温度−20℃以上となる時間)は30〜300minとすればよい。ただし、上記(1)式により定まるG値が0.53以上、より好ましくは0.55以上となるように鋼中のC含有量およびNb含有量に応じて鋳片加熱処理での加熱温度T(℃)を設定することが望まれる。G値が上記より小さくなるような加熱温度Tで鋳片を加熱すると、Nb含有炭化物の固溶化が過度に進行する場合があり、耐摩耗性を付与するうえで不利となる。したがって、適正なG値となるように鋳片加熱処理での加熱温度Tを設定し、そのG値に基づいて前述の鋳造条件をコントロールすることが重要である。
熱延条件は例えば仕上圧延温度800〜900℃、巻取温度750℃以下とすることができる。
必要に応じて熱延板焼鈍および冷間圧延を行い、目標板厚に調整する。熱延板の焼鈍は、例えば600℃以上Ac1点未満の温度域に10〜50h加熱保持する条件が採用できる。「焼鈍→冷間圧延」の工程を複数回行っても構わない。その場合、中間焼鈍も600℃以上Ac1点未満の温度域に加熱することが望ましい。
所定の板厚に調整された熱延鋼板または冷延鋼板に対して、仕上焼鈍を施し、軟質化された再結晶フェライト組織(焼鈍組織)を有する素材鋼板を得る。仕上焼鈍はAc1点未満の温度域で行う必要がある。再結晶化を促進させるために、600℃以上Ac1点未満の温度域に加熱することが望ましい。保持時間は8〜40hの範囲で最適条件を設定すればよい。前述の鋳片加熱処理を経ることによって調整された鋼材中のNb含有炭化物の分布状態は、この仕上焼鈍後もほぼ維持される。仕上焼鈍後には部品形状への成形加工が行われる。仕上焼鈍後の素材鋼板の断面硬さは概ね150〜250HVの範囲にあり、部品形状への成形加工が十分可能である。
素材鋼板から部品形状に成形加工された部材は、焼入れ焼戻し、オーステンパー等の調質熱処理に供され、例えば500〜650HVに調質される。ただし、調質熱処理の溶体化温度はオーステナイト領域かつ1000℃以下の範囲とすることが望ましい。前記温度を超えると、既に調整されているNb含有炭化物の分布形態が崩れるおそれがある。調質熱処理条件は、溶体化の上限温度が過度に高くならないように配慮する以外は、一般的な手法に従えばよい。
以上のようにして、動力伝達部材や刃物部材に適する耐摩耗性および疲労特性を高いレベルで兼ね備えた高強度機械部品を得ることができる。
各模擬鋳片を素材に用いて「熱間圧延→焼鈍→冷間圧延→仕上焼鈍→調質熱処理」の工程により板厚1.5mm、調質硬さ600±15HVの供試材を得た。各工程での製造条件は以下のとおりである。
・熱間圧延; 模擬鋳片の加熱温度:1250〜1350℃(表2に記載)、加熱保持時間:60min、仕上圧延温度:850℃、巻取温度:550℃、熱延板板厚:3.5mm
・焼鈍; 690℃×15h、その後切削にて板厚3.0mmに調整
・冷間圧延; 元板厚:3.0mm、冷延板板厚:1.5mm
・仕上焼鈍; 670℃×15h
・調質熱処理; 820℃×15minの加熱処理後、60℃の油浴に焼入れ、その後、組成に応じて調質硬さ600HVを目標とする温度で30minの焼戻し
各供試材について、鋼中のC含有量、Nb含有量、模擬鋳片の加熱温度から前記(1)式によりG値を算出した。
各供試材について光学顕微鏡で圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)を観察することにより、極値統計法により推定される103mm3中のNb含有炭化物粒子の最大粒径Dmax(前述)を求めた。非特許文献1に記載の「介在物」を「Nb含有炭化物」に置き換えて統計処理を実施することにより、当該文献の√areamaxに対応する値を最大粒径Dmaxとした。測定条件は、以下のとおりである。
・測定装置; 光学顕微鏡(観察倍率:100〜1000倍)
・検査基準面積S0; 100mm2
・検査回数n; 30回
・予測体積V; 1000mm3
供試材から摩擦面が1辺1.5mmの正方形となる試験片を切り出し、ピンオンディスク型摩耗試験機により試験を行った。摩耗相手材は、塩浴処理によりフラットな鋼板表面上に形成したVC(バナジウムカーバイド)皮膜とした。この皮膜硬さは2400HV程度に相当する。試験片を試料ホルダに固定して、回転する摩耗相手材に試験片表面を試験荷重F=500Nで押し付けながら、摩擦速度1m/sec、摩擦距離L=3600mの条件で摩耗試験を行った。試験前後の試料板厚差から摩耗により消失した材料の体積を算出し、これを摩耗減量W(mm3)とした。そして、下記(2)式により比摩耗量C(mm3/Nm)を求めた。
比摩耗量C=摩耗減量W/(試験荷重F×摩擦距離L) …(2)
調質硬さ600HVの材料において、この比摩耗量Cが0.35×10-7mm3/Nm以下であれば、C含有量0.90%以下の鋼を用いた動力伝達部材や刃物部材に使用されている現用鋼と比べ非常に優れた耐摩耗性を有すると評価される。したがって、比摩耗量Cが0.35×10-7mm3/Nm以下であるものを合格(耐摩耗性;良好)と判定した。
供試材から図2に示す形状の疲労試験片(板厚1.5mm、長手方向が圧延方向に一致)を作製し、油圧サーボ式疲労試験機を用いて周波数:20Hz、応力比:−1の条件で、付与応力800N/mm2から1000N/mm2まで50N/mm2ピッチで各応力段階10本ずつ、計50本の試験を行い、繰返し数107回までに破壊しない試験片が過半数生じた最大の付与応力を、その供試材の疲労限と定めた。
結果を表2に示す。表2中の「鋳片冷却速度」は模擬鋳片の中心部における1500℃から1000℃までの平均冷却速度、「1.0μm以上の粒子数」は粒径1.0μm以上のNb含有炭化物の数を意味する。
2 るつぼ
3 ヒーター
4 溶鋼
5 耐火レンガ
6 ステージ
7 水冷コイル
8 熱電対
Claims (3)
- 質量%で、C:0.30〜0.90%、Si:0.05〜1.00%以下、Mn:0.10〜1.50%、P:0.003〜0.030%、S:0.001〜0.020%、Nb:0.10〜0.70%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、Nb含有炭化物が分散した調質熱処理後の金属組織を有し、断面組織観察により観測される個々のNb含有炭化物粒子の面積の二乗平方根をその粒子の粒径と定義するとき、粒径1.0μm以上のNb含有炭化物粒子の数が200個/mm2以上、かつ極値統計法により推定される103mm3中のNb含有炭化物粒子の最大粒径Dmaxが18.0μm以下に調整されている疲労特性に優れる耐摩耗性鋼材。
- さらに、Cr:1.50%以下、Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、Ni:2.00%以下、Ti:0.10%以下、B:0.0050%以下の1種以上を含有する化学組成を有する請求項1に記載の疲労特性に優れる耐摩耗性鋼材。
- 鋳造および鋳片加熱処理を終えた鋼材から最終的に調質熱処理が施された耐摩耗性鋼材を得るに際し、下記(1)式により定まるG値が0.53以上となるように鋼中のC含有量およびNb含有量に応じて鋳片加熱処理での加熱温度T(℃)を設定し、かつ鋳造時の鋳片中心部における1500℃から1000℃までの平均冷却速度(℃/min)が前記G値以上となるように鋳造条件をコントロールする請求項1または2に記載の疲労特性に優れる耐摩耗性鋼材の製造方法。
G値=0.39exp(3.94x) …(1)
ここで、
x=Nb−10y/C
y=3.42−7900/(T+273)
Cは鋼中のC含有量(質量%)、Nbは鋼中のNb含有量(質量%)、Tは鋳片加熱処理での加熱温度(℃)である。
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