JP2013102024A - 圧電素子およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧電薄膜の応力の制御による結晶配向性の制御が困難になるのを回避するとともに圧電薄膜の結晶の配向比率を任意の比率に設定することができる圧電素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子は、基板1に対して圧電薄膜4とは反対側に成膜される応力制御膜6を備えており、応力制御膜6による基板1の曲げ変形の度合いを調整することで、圧電薄膜4の応力を任意の応力に制御することができる。
【選択図】図6
【解決手段】圧電素子は、基板1に対して圧電薄膜4とは反対側に成膜される応力制御膜6を備えており、応力制御膜6による基板1の曲げ変形の度合いを調整することで、圧電薄膜4の応力を任意の応力に制御することができる。
【選択図】図6
Description
本発明は、基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子と、その圧電素子の製造方法とに関するものである。
従来から、駆動素子やセンサなどの電気機械変換素子として、PZT(チタンジルコン酸鉛)などの圧電体が用いられている。一方、近年の装置の小型化、高密度化、低コスト化などの要求に応えて、Si基板を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子が増加している。MEMS素子に圧電体を応用すれば、例えばインクジェットヘッド、超音波センサ、赤外線センサ、周波数フィルタなど、種々のデバイスを作製することができる。
ここで、MEMS素子に圧電体を応用する場合、圧電体を薄膜化することが望ましい。これは、圧電体を薄膜化することで、以下の利点が得られることによる。すなわち、成膜やフォトリソグラフィーなどの半導体プロセス技術を用いた高精度な加工が可能となり、小型化、高密度化を実現することができる。大面積のウェハに圧電体を一括加工できるため、コストを低減できる。電気機械の変換効率が向上し、駆動素子の特性やセンサの感度が向上する。
圧電体をSiなどの基板上に成膜する方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition )法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、ゾルゲル法などの液相での成長法が知られている。
PZTなどの圧電体は、一般的にABO3型の酸化物であり、その結晶がペロブスカイト型構造を採るときに良好な圧電効果を発現することが知られている。図10は、圧電体の結晶構造を模式的に示している。ペロブスカイト型構造とは、例えばPb(Zrx,Ti1−x)O3の正方晶では、正方晶の各頂点にPb原子が位置し、体心にTi原子またはZr原子が位置し、各面心にO原子が位置する構造である。
また、PZTは、ともにペロブスカイト型構造を採るPTO(PbTiO3;チタン酸鉛)とPZO(PbZrO3;ジルコン酸鉛)との固溶体であるが、PTOの比率が高いときにはPZT全体が正方晶となり、PZOの比率が高いときにはPZT全体が菱面体晶となる。
図11は、PTOおよびPZOの組成比と結晶系との関係を示している。PTOとPZOとの組成比が、48/52〜47/53のあたりで、結晶系が正方晶から菱面体晶、または菱面体晶から正方晶に変化する。このように結晶系が変化する境界を組成相境界(MPB;Morphotropic phase boundary )と呼び、以下では単に相境界と記す。室温付近においては、PZTの結晶構造は、正方晶、菱面体晶またはこれらの混合結晶(相境界)であるが、キュリー点以上の温度では、PZTの結晶構造は、PTOとPZOとの組成比がいずれであっても、立方晶となる。
図12は、PTOおよびPZOの組成比と特性(比誘電率、電気機械結合係数)との関係を示している。上記した相境界では、比誘電率および電気機械結合係数の両者が特異的に高くなる。比誘電率と圧電定数(単位電界あたりの変位量)とは正の相関があり、比誘電率が高くなることにより、圧電定数が高くなる。また、電気機械結合係数は、電気的な信号を機械的な歪みに変換する際の効率、あるいはその逆の変換の際の効率を示す指標となるものであり、この係数が高くなることによって、変換効率が高くなる。圧電体に電界を印加することによって圧電体が変形したり、逆に、圧電体を変形させることによって圧電体に電界(電位差)が生じることを、ここでは圧電効果と呼ぶ。
図13は、圧電体の圧電効果の発現原理を示している。圧電体での電気エネルギーから機械エネルギーへの変換に着目したとき、圧電体の圧電効果の発現原理としては、以下の3種類が提唱されている。
(1)結晶構造の伸長によるもの(分極方向Pと電界印加方向Eとが一致)
(2)分極方向の回転によるもの(分極方向Pが電界印加方向Eに変化(回転))
(3)電界印加による相転移によるもの(例えば菱面体晶と正方晶との間での相転移)
(1)結晶構造の伸長によるもの(分極方向Pと電界印加方向Eとが一致)
(2)分極方向の回転によるもの(分極方向Pが電界印加方向Eに変化(回転))
(3)電界印加による相転移によるもの(例えば菱面体晶と正方晶との間での相転移)
このうち、(1)(3)については、結晶構造の伸長や相転移を生じさせるために必要なエネルギーは小さいが、変位も小さく、圧電効果は小さい。一方、(2)については、分極方向の回転を生じさせるために必要なエネルギーは大きいが、変位も大きく、圧電効果が大きい。
したがって、電気エネルギーを機械エネルギーに変換するアクチュエータの用途としては、(2)の原理を活用すると、変換効率がよい。ただし、必要なエネルギーが大きいため、印加できる電界(膜の耐電圧など)に制約がある。一般的なPZT薄膜においては、電界強度で1〜5V/μm程度が適切な使用範囲である。
上記電界の使用範囲では、(2)の割合を全体の30%程度とすることが望ましいことが、種々の実験の結果からわかっている。このような割合を実現するためには、分極方向の異なる各結晶の比率を適切に設定する、つまり、圧電体としてのPZTが例えば正方晶のみからなる場合には、正方晶におけるa軸配向((100)配向)とc軸配向((001)配向)との比率を適切に設定すればよい。また、PZTが例えば菱面体晶のみからなる場合には、菱面体晶における(111)配向と(001)配向との比率を適切に設定すればよい。さらに、PZTが正方晶と菱面体晶との混合結晶からなる場合でも、各配向方向の比率を適切に設定すればよい。
ここで、各配向方向の比率の調整について説明する。なお、説明を簡略化するため、ここでは、圧電体としてのPZTが正方晶である場合について説明する。
圧電体の結晶配向性は、成膜時の条件によって決まり、その中でも、膜に働く力が、圧電体の結晶配向性を決める支配的な要因となる。つまり、スパッタ法によるPZTの成膜では、基板温度を500〜700℃程度にすることで、ペロブスカイト型構造の結晶が得られる。成膜時の上記基板温度では、図11で示したように、PZTの結晶構造は立方晶であり、成膜後に室温に低下するときに、立方晶から正方晶や菱面体晶に相転移する。この相転移の時点で膜に働く力により、結晶の配向性が決定されると考えられている。一般に、PZTに圧縮の力が働く場合には、c軸配向の割合が増大し、PZTに引張の力が働く場合には、a軸配向の割合が増大する。
図14は、圧電素子を構成する基板、圧電体、電極の線膨張係数(以下、単に膨張係数と記す)と格子定数とを示している。基板として膨張係数がPZTよりも大きなもの(例えばAl2O3、SrTiO3、MgO)を用いると、PZTを高温で成膜後、室温に戻したときに、PZTよりも基板のほうが縮もうとする。この場合、PZTには基板によって圧縮の力が働くため、c軸配向の割合が増大する。逆に、基板として膨張係数がPZTよりも小さなもの(例えばSi)を用いると、PZTを高温で成膜後、室温に戻したときに、基板よりもPZTのほうが縮もうとする。この場合、PZTには基板によって引張の力が働くため、a軸配向の割合が増大する。
以上より、PZTが成膜される基板の選定によって、PZTの配向比率を変えることは可能であると言える。しかし、基板の膨張係数の値は、図14で示すように飛び飛び(離散的)であり、設定しようとする比率に応じた基板が実際に存在するとは限らないため、基板の選定によってPZTの配向比率を任意の比率に設定することは困難である。
なお、膨張係数の異なる基板として、図14で示したもの以外の基板も提案されているが、Si以外はいずれも、値段が高い、加工性が低い、基板の大きさに制約がある、などの理由により、一般的な利用の機会は少ない。
ところで、物体に外部から力が加わったときに、物体の内部に生じる力のことを応力と定義する。例えば、PZTに外部から引張の力が働くとき、PZTには引張応力が生じ、PZTに外部から圧縮の力が働くとき、PZTには圧縮応力が生じることになる。このように、圧電体(圧電薄膜)に外部から引張または圧縮の力を与えて、圧電体の応力を制御する構成として、例えば特許文献1〜3や非特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1では、圧電薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力、成膜後の熱処理温度、を適切に制御し、基板材料等を適切に選択するとともに、基板と圧電薄膜との間に形成される下地層の応力を適切に制御することにより、圧電薄膜の応力を1.6GPa以下に抑制して、内部歪みに伴うリーク電流の増加、圧電薄膜や電極のクラック、圧電薄膜の膜剥がれによる印加実効電圧の低下を防ぎ、圧電特性を向上させるようにしている。
特許文献2では、基板上に、下部電極層と、配向制御層と、圧電体層と、上部電極層とをこの順で形成し、配向制御層に圧縮応力を付与することで、圧電体層の成膜時に生じる引張応力を配向制御層の圧縮応力によってキャンセルし、引張応力に起因する圧電体層のクラックの発生を抑制するようにしている。
特許文献3では、基板と、振動板と、中間膜と、圧電膜とをこの順で積層したユニモルフ型圧電膜素子において、中間膜を圧電膜よりも熱膨張係数の大きな膜で構成することで、結晶化工程における圧電膜の引張応力を完全に無くすか、圧縮方向の応力を発生させ、これによって、圧電膜の圧電特性を改善するようにしている。
非特許文献1では、Siよりも熱膨張係数の大きいステンレス(SUS304)の基板上に、シード層としてLaNiO3薄膜を形成し、その上にPZT薄膜を成膜することで、PZT薄膜に圧縮の力を付与して、c軸配向の割合を高めるようにしている。
野田俊成ら、「Chemical Solution Deposition法によるPb(Zr0.53Ti0.47)O3薄膜の結晶配向制御」、Panasonic Technical Journal Vol.55 No.2 Jul. 2009
ところで、圧電薄膜の結晶は、その下層の結晶状態の影響を受けて成長するため、結晶性の良好な圧電薄膜を成膜するためには、下層との格子マッチングを図る、つまり、圧電薄膜の結晶の格子定数と下層の結晶の格子定数とを近づけることが必要となる。
ところが、特許文献1〜3の構成では、基板と圧電薄膜との間に形成される層(下地層、配向制御層、中間膜)に、圧電薄膜の応力を制御する応力制御膜としての機能を持たせている。応力制御膜は、圧電薄膜の応力を制御すべく、圧電薄膜に引張または圧縮の力を与えるための膜であるため、このような応力制御膜が基板に対して圧電薄膜側に形成されると、応力制御膜の影響によって圧電薄膜とその下層との格子マッチングが崩れる可能性がある。格子マッチングが崩れると、圧電薄膜の結晶成長状態が変化するため、圧電薄膜の応力を制御してその結晶配向性を制御することが困難になる。
また、非特許文献1の構成では、基板としてステンレス基板を用いることにより、PZTのc軸配向の比率が1つの値に決まるため、PZTの結晶の配向比率を任意の比率に設定することはできない。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、圧電薄膜の応力の制御による結晶配向性の制御が困難になるのを回避できるとともに、圧電薄膜の結晶の配向比率を任意の比率に設定することができる圧電素子およびその製造方法を提供することにある。
本発明の圧電素子は、基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子であって、前記基板に対して前記圧電薄膜とは反対側に成膜され、前記基板に曲げ変形を生じさせることによって、前記圧電薄膜の応力を制御する応力制御膜を備えていることを特徴としている。また、本発明の圧電素子の製造方法は、基板上に圧電薄膜を成膜する工程と、前記基板に曲げ変形を生じさせることによって、前記圧電薄膜の応力を制御する応力制御膜を、前記基板に対して前記圧電薄膜とは反対側に成膜する工程とを有していることを特徴としている。
上記の構成によれば、圧電薄膜の応力を制御するための応力制御膜が、基板に対して圧電薄膜とは反対側に成膜されており、応力制御膜と圧電薄膜との間に基板が介在しているので、圧電薄膜とその下層との格子マッチングが応力制御膜によって崩れることがない。これにより、圧電薄膜の結晶の成長状態が変化するのを回避することができ、圧電薄膜の応力制御による結晶配向性の制御が困難になるのを回避することができる。
また、応力制御膜による基板の曲げ変形の度合いは、例えば応力制御膜の膜厚を調整することで容易に調整可能である。したがって、応力制御膜による基板の曲げ変形の度合いを調整することで、圧電薄膜の応力を任意の応力に制御することができる。その結果、圧電薄膜を構成する結晶の配向比率を任意の比率に設定することができる。
本発明の圧電素子において、前記基板は、Siからなり、前記圧電薄膜は、PZTからなり、前記応力制御膜は、前記基板に対して圧縮して前記基板に曲げ変形を生じさせることにより、前記圧電薄膜に引張の力を与えるSiNからなる構成であってもよい。
基板がSiであり、圧電薄膜がPZTであり、応力制御膜がSiNである構成において、応力制御膜の圧縮による基板の曲げ変形によって、圧電薄膜に引張の力を与えることにより、例えば圧電薄膜の正方晶においては、c軸配向(分極方向が基板の面に垂直となる結晶配向)の割合よりもa軸配向(分極方向が基板の面に平行となる結晶配向)の割合を増やすことができる。これにより、c軸配向とa軸配向との比率を任意の比率に確実に設定することができる。しかも、安価で加工性のよいSi基板を用いる構成において、そのような効果を得ることができる。
本発明の圧電素子において、前記基板は、Siからなり、前記圧電薄膜は、PZTからなり、前記応力制御膜は、前記基板に対して伸長して前記基板に曲げ変形を生じさせることにより、前記圧電薄膜に圧縮の力を与えるSiO2からなる構成であってもよい。
基板がSiであり、圧電薄膜がPZTであり、応力膜がSiO2である構成において、応力制御膜の引張による基板の曲げ変形によって、圧電薄膜に圧縮の力を与えることにより、例えば圧電薄膜の正方晶においては、a軸配向(分極方向が基板の面に平行となる結晶配向)の割合よりもc軸配向(分極方向が基板の面に垂直となる結晶配向)の割合を増やすことができる。これにより、a軸配向とc軸配向との比率を任意の比率に確実に設定することができる。しかも、安価で加工性のよいSi基板を用いる構成において、そのような効果を得ることができる。
本発明の圧電素子は、前記圧電薄膜を挟持する一対の電極をさらに備えており、前記圧電薄膜は、PZTの正方晶を含んでおり、前記正方晶では、c軸配向の割合よりもa軸配向の割合のほうが多く、前記一対の電極は、前記圧電薄膜を前記基板に沿った方向から挟むように設けられている構成であってもよい。
圧電薄膜に対して、一対の電極を介して基板に沿った方向に電界を印加することにより、基板に沿った方向の圧電薄膜の伸縮を主に利用して基板を厚さ方向に振動させる、いわゆるd33駆動を実現することができる。このとき、圧電薄膜に含まれるPZTの正方晶において、c軸配向の割合よりもa軸配向の割合のほうが多いので、基板に沿った方向(d33方向)に大きな圧電変位を得て、効率よく圧電素子を駆動することができる。
本発明の圧電素子は、前記圧電薄膜を挟持する一対の電極をさらに備えており、前記圧電薄膜は、PZTの正方晶を含んでおり、前記正方晶では、a軸配向の割合よりもc軸配向の割合のほうが多く、前記一対の電極は、前記圧電薄膜を前記基板に対して垂直方向から挟むように設けられている構成であってもよい。
圧電薄膜に対して、一対の電極を介して基板に垂直な方向に電界を印加することにより、基板に垂直な方向の圧電薄膜の伸縮によって、基板に沿った方向に圧電薄膜を伸縮させて基板を厚さ方向に振動させる、いわゆるd31駆動を実現することができる。このとき、圧電薄膜に含まれるPZTの正方晶において、a軸配向の割合よりもc軸配向の割合のほうが多いので、基板に垂直な方向に圧電薄膜を大きく伸縮させることができ、これによって、基板に沿った方向(d31方向)に大きな圧電変位を得て、効率よく圧電素子を駆動することができる。
本発明によれば、応力制御膜が、基板に対して圧電薄膜とは反対側に成膜されているので、圧電薄膜とその下層との格子マッチングが応力制御膜によって崩れて、圧電薄膜の結晶の成長状態が変化するのを回避することができ、圧電薄膜の応力制御による結晶配向性の制御が困難になるのを回避することができる。また、応力制御膜による基板の曲げ変形の度合いを調整することで、圧電薄膜の応力を任意の応力に制御することができるので、圧電薄膜を構成する結晶の配向比率を任意の比率に設定することができる。
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
〔1.圧電素子の構成〕
図1は、本実施形態に係る圧電素子10の概略の構成を示す断面図である。本実施形態の圧電素子10は、基板1の一方の面側に、熱酸化膜2、下部電極3、圧電薄膜4および上部電極5をこの順で積層し、基板1の他方の面側に、熱酸化膜2および応力制御膜6をこの順で積層して構成されている。
図1は、本実施形態に係る圧電素子10の概略の構成を示す断面図である。本実施形態の圧電素子10は、基板1の一方の面側に、熱酸化膜2、下部電極3、圧電薄膜4および上部電極5をこの順で積層し、基板1の他方の面側に、熱酸化膜2および応力制御膜6をこの順で積層して構成されている。
基板1は、厚さが例えば300〜500μm程度の単結晶Si単体からなる半導体基板またはSOI(Silicon on Insulator)基板で構成されている。熱酸化膜2は、例えば厚さが0.1μm程度のSiO2からなり、基板1の保護および絶縁の目的で形成されている。
下部電極3は、Ti層3aとPt層3bとを積層して構成されている。Ti層3aは、熱酸化膜2とPt層3bとの密着性を向上させるために形成されている。Ti層3aの厚さは例えば0.02μm程度であり、Pt層3bの厚さは例えば0.1μm程度である。
圧電薄膜4は、結晶構造がペロブスカイト型のPZTで構成されている。PZTの厚みは、用途によって異なるが、メモリやセンサの用途では例えば1μm以下であり、アクチュエータでは例えば3〜5μmである。
なお、以下での説明を簡略化するため、PZTの結晶構造は、特に断らない限り、正方晶であるものとして話を進める。
上部電極5は、Ti層5aとPt層5bとを積層して構成されている。Ti層5aは、圧電薄膜4とPt層5bとの密着性を向上させるために形成されている。Ti層5aの厚さは例えば0.02μm程度であり、Pt層5bの厚さは例えば0.2μm程度である。
応力制御膜6は、基板1に曲げ変形を生じさせることによって、圧電薄膜4の応力を制御するための膜であり、基板1に対して圧電薄膜4とは反対側に成膜されている。ここで、応力とは、一般的に、物体に外部から力が加わったときに、物体の内部に生じる単位面積あたりの力のことを指す(単位はPa(N/m2))。
圧電薄膜4の応力としては、引張応力または圧縮応力がある。引張応力とは、圧電薄膜4に対して外部から引張の力が働いたときに、圧電薄膜4が感じる応力のことであり、数値としては正の値で示される。一方、圧縮応力とは、圧電薄膜4に対して外部から圧縮の力が働いたときに、圧電薄膜4が感じる応力のことであり、数値としては負の値で示される。
上記のように基板1がSiで構成されて、圧電薄膜4がPZTで構成される場合、応力制御膜6は例えばSiNやSiO2で構成される。SiNは、基板1に対して圧縮して基板1に曲げ変形を生じさせることにより、圧電薄膜4に引張の力を与える応力制御膜6である。一方、SiO2は、基板1に対して伸長して基板1に曲げ変形を生じさせることにより、圧電薄膜4に圧縮の力を与える応力制御膜6である。ちなみに、SiNの膨張係数は3.0ppm/Kであり、Siよりも膨張係数が大きい。また、SiO2の膨張係数は0.5ppm/Kであり、Siよりも膨張係数が小さい。なお、応力制御膜6の詳細については後述する。
〔2.圧電素子の製造方法〕
次に、上記した圧電素子10の製造方法について説明する。図2は、圧電素子10の製造時の流れを示すフローチャートであり、図3および図4は、圧電素子10の各製造工程を示す断面図である。
次に、上記した圧電素子10の製造方法について説明する。図2は、圧電素子10の製造時の流れを示すフローチャートであり、図3および図4は、圧電素子10の各製造工程を示す断面図である。
まず、図3(a)に示すように、Siからなる基板1の両面に、絶縁・保護用のSiO2からなる熱酸化膜2を形成する(S1)。熱酸化膜2は、基板1を1000℃程度で加熱することにより形成される。
続いて、図3(b)に示すように、基板1を600℃程度に加熱して、基板1の一方の面側に、応力制御膜6を例えばCVD法で成膜する(S2)。その後、図3(c)および図3(d)に示すように、基板1の他方の面の熱酸化膜2上に、TiおよびPtを順にスパッタ法で成膜して、Ti層3aおよびPt層3bからなる下部電極3を形成する(S3、S4)。
次に、図4(a)に示すように、基板1を600℃程度に加熱して、下部電極3上にPZTからなる圧電薄膜4をスパッタ法で成膜する(S5)。なお、圧電薄膜4の成膜方法の詳細については後述する。そして、図4(b)および図4(c)に示すように、圧電薄膜4の上に、TiおよびPtを順にスパッタ法で成膜して、Ti層5aおよびPt層5bからなる上部電極5を形成し(S6、S7)、圧電素子10を完成させる。以上の工程により、圧電薄膜4と応力制御膜6とは、基板1に対して互いに反対側に成膜される。
〔3.PZTの成膜方法の詳細〕
図5は、圧電薄膜4としてのPZTを成膜するスパッタ装置の概略の構成を示す断面図である。圧電薄膜4は、例えば高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。
図5は、圧電薄膜4としてのPZTを成膜するスパッタ装置の概略の構成を示す断面図である。圧電薄膜4は、例えば高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。
まず、所定の組成比に調合したPZT材料の粉末を混合、焼成、粉砕し、ターゲット皿12に充填してプレス機で加圧することにより、ターゲット11を作製する。そして、このターゲット皿12をマグネット13上に設置し、その上にカバー14を設置する。このマグネット13とその下にある高周波電極15は、絶縁体16によって真空チャンバー17と絶縁されている。また、高周波電極15は、高周波電源18と接続されている。
次に、基板1を、基板加熱ヒーター19上に設置する。そして、真空チャンバー17内を排気し、基板加熱ヒーター19によって基板1を600℃まで加熱する。加熱後、バルブ20および21を開け、スパッタガスであるArとO2を所定の割合でノズル22より真空チャンバー17内に導入し、真空度を所定値に保つ。ターゲット11に高周波電源18より高周波電力を投入し、プラズマを発生させることにより、基板1上に圧電薄膜4としてのPZT層を成膜することができる。
〔4.応力制御膜について〕
次に、上述した応力制御膜6の詳細について説明する。図6は、圧電薄膜4の応力を模式的に示している。なお、同図における矢印の長さは、圧電薄膜4の応力の大きさと対応している。また、矢印の向きは、圧電薄膜4の応力が引張応力であるか圧縮応力であるかを示している。同図では、矢印の向きはいずれも、圧電薄膜4の内側から外側に向かう向きであり、これは圧電薄膜4にかかっている応力が引張応力であることを示している。
次に、上述した応力制御膜6の詳細について説明する。図6は、圧電薄膜4の応力を模式的に示している。なお、同図における矢印の長さは、圧電薄膜4の応力の大きさと対応している。また、矢印の向きは、圧電薄膜4の応力が引張応力であるか圧縮応力であるかを示している。同図では、矢印の向きはいずれも、圧電薄膜4の内側から外側に向かう向きであり、これは圧電薄膜4にかかっている応力が引張応力であることを示している。
Siからなる基板1に応力制御膜が設けられていない場合において、基板1上への圧電薄膜4の成膜時(加熱状態)に、PZTは立方晶の状態にあるが、圧電薄膜4の成膜が終了し、基板1が冷却されると、PZTは立方晶から正方晶に相変化する。このとき、PZTは、基板1を構成するSiよりも膨張係数が大きいため、圧電薄膜4は基板1よりも縮もうとするが、基板1に拘束されているため、圧電薄膜4は基板1から引張の力を受ける(圧電薄膜4の応力は引張応力となる)。ちなみに、このときの圧電薄膜4の応力は、約100MPa程度である。
一方、Siからなる基板1に、応力制御膜6としてSiNが設けられている場合、圧電薄膜4の成膜が終了し、基板1が冷却されると、SiNはSiよりも膨張係数が大きいため、SiよりもSiNのほうが縮もうとする。このようなSiNのSiに対する圧縮により、基板1から見て圧電薄膜4側が凸となる方向への曲げ変形が基板1に生ずる。圧電薄膜4は、基板1との膨張係数の差に起因する引張の力に加えて、上記した基板1の曲げ変形による引張の力をさらに受けるため、圧電薄膜4の引張応力は、応力制御膜がない場合よりも増大する。このとき、SiNの膜厚をさらに増大させると、SiNの圧縮による基板1の曲げ変形の度合いがさらに大きくなるため、圧電薄膜4は基板1から引張の力をさらに受け、圧電薄膜4の引張応力はさらに増大する。
このように、SiNの膜厚を調整することにより、圧電薄膜4の応力を調整することができる。なお、SiNの膜厚の調整は、SiNの成膜条件を調整することによって容易に調整可能である。
なお、SiNは基板1によって拘束されているため、SiNの圧縮時には、SiNは基板1によって引き伸ばされようとする。したがって、SiNが感じる応力は引張応力となる。ちなみに、このときのSiNの引張応力は、最大で約1GPa程度である。
また、Siからなる基板1に、応力制御膜6としてSiO2が設けられている場合、圧電薄膜4の成膜が終了し、基板1が冷却されると、SiO2はSiよりも膨張係数が小さいため、SiO2よりもSiのほうが縮もうとする(SiよりもSiO2のほうが相対的に伸びようとする)。このようなSiO2のSiに対する伸長により、基板1から見て圧電薄膜4側が凹となる方向への曲げ変形が基板1に生ずる。圧電薄膜4は、基板1との膨張係数の差に起因する引張の力を受けるが、上記した基板1の曲げ変形による圧縮の力も受けるため、圧電薄膜4の引張応力は、応力制御膜がない場合よりも減少する。
なお、SiO2の膜厚を調整することにより、圧電薄膜4の応力を調整できる点、SiO2の膜厚の調整は、SiO2の成膜条件を調整することによって容易に調整可能である点は、上記したSiNの場合と全く同様である。
なお、SiO2は基板1によって拘束されているため、SiO2の伸長時には、SiO2は基板1によって縮められようとする。したがって、SiO2が感じる応力は圧縮応力となる。ちなみに、このときのSiO2の圧縮応力は、約−300MPa程度である。
以上より、基板1上に応力制御膜がない場合に、圧電薄膜4を構成するPZTがc軸主配向の正方晶からなっている場合には、SiNからなる応力制御膜6を基板1に対してPZTとは反対側に成膜することにより、PZTに引張の力を与えてa軸配向の比率を増やすことができる。逆に、基板1上に応力制御膜がない場合に、圧電薄膜4を構成するPZTがa軸主配向の正方晶からなっている場合には、SiO2からなる応力制御膜6を基板1に対してPZTとは反対側に成膜することにより、PZTに圧縮の力を与えてc軸配向の比率を増やすことができる。そして、上記いずれの場合でも、応力制御膜6の膜厚を調整することにより、PZTに任意の伸縮力を与えて、a軸配向とc軸配向との比率を任意の比率に調整し、PZTの結晶配向性を制御することができる。
なお、上記したc軸配向とは、(001)配向とも呼ばれ、PZTの分極方向が基板1の面に垂直な方向(PZTの厚さ方向)となる結晶配向のことを指す。また、a軸配向とは、(100)配向とも呼ばれ、PZTの分極方向が基板1の面に沿った方向(PZTの厚さ方向に垂直な方向)となる結晶配向のことを指す。
以上のように、本実施形態では、圧電薄膜4の応力を制御すべく、圧電薄膜4に引張または圧縮の力を与えるための応力制御膜6が、基板1に対して圧電薄膜4とは反対側に成膜されている。つまり、応力制御膜6と圧電薄膜4との間に、薄膜よりも十分に厚い基板1が介在している。この構成では、基板1に対して一方側に形成される応力制御膜6が、基板1に対して他方側に形成される圧電薄膜4とその下層の下部電極3(Pt層3b)との格子マッチングに直接的に影響を及ぼすことがなく、格子マッチングが崩れて、圧電薄膜4の結晶の成長状態が変化するのを回避することができる。その結果、圧電薄膜4の応力制御による結晶配向性の制御が困難になるのを回避することができる。
また、応力制御膜6による基板1の曲げ変形の度合いは、上述したように応力制御膜6の膜厚を調整することで容易に調整可能である。したがって、応力制御膜6による基板1の曲げ変形の度合いを調整することで、圧電薄膜4の応力を任意の応力に制御することができる。その結果、圧電薄膜4を構成する結晶の配向比率を任意の比率に設定することができる。
特に、基板1がSiからなり、圧電薄膜4がPZTからなり、応力制御膜6がSiNからなる構成では、応力制御膜6の圧縮による基板1の曲げ変形によって、圧電薄膜4に引張の力を与えることにより、PZTの正方晶においては、c軸配向の割合よりもa軸配向の割合を増やすことができる。これにより、c軸配向とa軸配向との比率を任意の比率に確実に設定することができる。しかも、安価で加工性のよいSi基板を用いる構成において、そのような効果を得ることができる。
また、基板1がSiからなり、圧電薄膜4がPZTからなり、応力制御膜6がSiO2からなる構成では、応力制御膜6の引張による基板1の曲げ変形によって、圧電薄膜4に圧縮の力を与えることにより、PZTの正方晶においては、a軸配向の割合よりもc軸配向の割合を増やすことができる。これにより、a軸配向とc軸配向との比率を任意の比率に確実に設定することができる。しかも、安価で加工性のよいSi基板を用いる構成において、そのような効果を得ることができる。
また、応力制御膜6がない状態でのPZTの配向性(a軸主配向、c軸主配向)や、a軸配向と軸配向との比率は、PZTの応力以外にも、基板1の格子定数等によっても変化するが、基板1としてSi基板を用いる場合には(基板1の格子定数を固定した場合には)、上述したように、応力制御膜6の膜厚を制御するだけで、PZTの応力を制御することができる。
〔5.圧電素子の応用例〕
図7(a)は、本実施形態で作製した圧電素子10をd31駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図7(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜4は、基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。また、応力制御膜6の基板1とは反対側には、支持基板7としてのSi基板が接合されている。この支持基板7には、圧電薄膜4の駆動領域に対応する開口部7aが形成されている。下部電極3および上部電極5は、図示しない配線により、外部の制御回路と接続されている。
図7(a)は、本実施形態で作製した圧電素子10をd31駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図7(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜4は、基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。また、応力制御膜6の基板1とは反対側には、支持基板7としてのSi基板が接合されている。この支持基板7には、圧電薄膜4の駆動領域に対応する開口部7aが形成されている。下部電極3および上部電極5は、図示しない配線により、外部の制御回路と接続されている。
ここで、圧電薄膜4としてのPZTは、c軸主配向の正方晶であり、応力制御膜6としてSiO2を選択し、その膜厚を設定することにより、c軸配向の比率が70%程度、a軸配向の比率が30%程度に設定されている。したがって、PZT全体としての分極方向Pは、基板1に垂直な方向(PZTの膜厚方向)である。この圧電薄膜4に電圧を印加するための一対の電極、すなわち、下部電極3および上部電極5は、圧電薄膜4を基板1に垂直な方向から挟むように設けられている。したがって、この構成では、圧電薄膜4に対する電界の印加方向Eと、PZTの分極方向Pとは同方向となっている。
なお、上記したa軸配向およびc軸配向の各比率は、X線回折(XRD)の2θ/θ測定による結果に基づいて判断することができる。X線回折の2θ/θ測定とは、X線をサンプルに対して水平方向からθの角度で(結晶面に対してθの角度で)入射させ、サンプルから反射して出てくるX線のうち、入射X線に対して2θの角度のX線を検出することで、θに対する強度変化を調べる手法である。X線による回折では、ブラッグの条件(2dsinθ=nλ(λ:X線の波長、d:結晶の原子面間隔、n:整数))を満足するときに回折強度が高くなるが、そのときの結晶の面間隔(格子定数)と上記の2θとは対応関係にある。したがって、回折強度が高くなる2θの値に基づいて、X線が入射したサンプルの結晶構造(a軸配向の比率、c軸配向の比率、結晶系が正方晶であるか菱面体晶であるか)を把握することができる。
制御回路から、所定の圧電薄膜4を挟む下部電極3および上部電極5に電気信号を印加することにより、所定の圧電薄膜4のみを駆動することができる。つまり、圧電薄膜4の上下の電極に所定の電界を加えると、圧電薄膜4が左右方向に伸縮し、バイメタルの効果によって圧電薄膜4および基板1が上下に湾曲(振動)する。したがって、支持基板7の開口部7aに気体や液体を充填すると、圧電素子10をポンプとして用いることができる。
また、所定の圧電薄膜4の電荷量を下部電極3および上部電極5を介して検出することにより、圧電薄膜4の変形量を検出することもできる。つまり、音波や超音波により、圧電薄膜4が振動すると、上記と反対の効果によって上下の電極間に電界が発生するため、このときの電界の大きさや検出信号の周波数を検出することにより、圧電素子10を超音波センサとして用いることもできる。さらに、PZTは、圧電特性の他にも焦電性、強誘電性を有しているため、圧電素子10を熱センサや記憶メモリとして活用することもできる。
以上のように、圧電薄膜4に対して、下部電極3および上部電極5を介して基板1に垂直な方向に電界を印加することにより、圧電薄膜4は基板1に垂直な方向に変形(例えば伸長)するとともに、基板1に沿った方向にも変形(例えば収縮)する。したがって、基板1に沿った方向の圧電薄膜4の変形(伸縮)を利用して基板1を厚さ方向に振動させる、いわゆるd31駆動を実現することができる。このとき、圧電薄膜4に含まれるPZTの正方晶において、a軸配向の割合よりもc軸配向の割合のほうが多いので、電界の印加によって基板1に垂直な方向に圧電薄膜4を大きく伸縮させることができ、これによって、基板1に沿った方向(d31方向)に大きな圧電変位を得て、効率よく圧電素子10を駆動することができる。
また、この構成では、圧電薄膜4に対して基板1に垂直な方向に電界が印加されるため、圧電薄膜4において、c軸方向の伸長による圧電効果に加えて、a軸配向からc軸配向への分極方向の回転による圧電効果も活用できる。これにより、大きな出力を得ることができる。
また、図8(a)は、本実施形態で作製した圧電素子10をd33駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図8(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜4は、基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。応力制御膜6の基板1とは反対側には、支持基板7としてのSi基板が接合されている。この支持基板7には、圧電薄膜4の駆動領域に対応する開口部7aが形成されている。
また、圧電薄膜4に電界を印加するための一対の電極8・8は、基板1上で圧電薄膜4を基板1に沿った方向から挟むように設けられている。このとき、図8(a)に示すように、電極8を形成する層の一部は除去されて基板1が露出している。このように電極層の一部を除去することで、圧電薄膜4を挟む一対の電極8・8、つまり、極性の異なる一対の電極8・8を分離することができる。一対の電極8・8は、図示しない配線により、外部の制御回路と接続されている。なお、一対の電極8・8は、上述した下部電極3および上部電極5と同じ材料で構成することができる。
ここで、圧電薄膜4としてのPZTは、a軸主配向の正方晶であり、応力制御膜6としてSiNを選択し、その膜厚を設定することにより、a軸配向の比率が70%程度、c軸配向の比率が30%程度に設定されている。したがって、PZT全体としての分極方向Pは、基板1に沿った方向(PZTの膜厚方向に垂直な方向)である。したがって、この構成においても、圧電薄膜4に対する電界の印加方向Eと、PZTの分極方向Pとは同方向となっている。
制御回路から、所定の圧電薄膜4を挟む一対の電極8・8に電気信号を印加することにより、所定の圧電薄膜4のみを駆動することができる。つまり、圧電薄膜4に所定の電界を加えると、圧電薄膜4が電界印加方向に伸縮し、バイメタルの効果によって圧電薄膜4および基板1が上下に湾曲(振動)する。また、圧電薄膜4の振動によって生じる電荷量を一対の電極8・8を介して検出することもできる。したがって、圧電素子10を上記と同様に、ポンプやセンサ等として用いることができる。
以上のように、圧電薄膜4に対して、一対の電極8・8を介して基板1に沿った方向に電界を印加することにより、基板1に沿った方向の圧電薄膜4の伸縮を主に利用して基板1を厚さ方向に振動させる、いわゆるd33駆動を実現することができる。このとき、圧電薄膜4に含まれるPZTの正方晶において、c軸配向の割合よりもa軸配向の割合のほうが多いので、基板1に沿った方向(d33方向)に大きな圧電変位を得て、効率よく圧電素子10を駆動することができる。
また、この構成では、圧電薄膜4に対して基板1に沿った方向に電界が印加されるため、圧電薄膜4において、a軸方向の伸長による圧電効果に加えて、c軸配向からa軸配向への分極方向の回転による圧電効果も活用できる。これにより、大きな出力を得ることができる。
〔6.圧電素子の他の構成〕
図9は、圧電素子10の他の構成を示す断面図である。圧電素子10は、基板1に直接、圧電薄膜4の駆動領域に対応する開口部1aを形成した後、基板1に対して圧電薄膜4の成膜側とは反対側の表面全体に、上述した応力制御膜6を成膜することによって構成されていてもよい。この構成では、基板1の開口部1aの内部および外部に応力制御膜6が形成されるが、この構成であっても、基板1に対して応力制御膜6が圧電薄膜4と反対側に形成されていることにより、上述した本実施形態と同様の効果を得ることができる。
図9は、圧電素子10の他の構成を示す断面図である。圧電素子10は、基板1に直接、圧電薄膜4の駆動領域に対応する開口部1aを形成した後、基板1に対して圧電薄膜4の成膜側とは反対側の表面全体に、上述した応力制御膜6を成膜することによって構成されていてもよい。この構成では、基板1の開口部1aの内部および外部に応力制御膜6が形成されるが、この構成であっても、基板1に対して応力制御膜6が圧電薄膜4と反対側に形成されていることにより、上述した本実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、図9の構成の圧電素子10を製造する場合、基板1上への圧電薄膜4の成膜、基板1の開口部1aの形成、基板1への応力制御膜6の成膜、の各工程が順に行われるため、応力制御膜6は、圧電薄膜4の成膜後に基板1に成膜されてもよいと言える。つまり、応力制御膜6を基板1に成膜するタイミングは、図2で示したような、圧電薄膜4の基板1への成膜前には限定されない。
〔7.補足〕
以上では、基板1としてSi基板を用いる構成について説明したが、Si以外の基板を用いてもよい。この場合でも、用いる基板の膨張係数に応じて応力制御膜6の種類(材料)や厚さを設定することにより、圧電薄膜4の応力を制御して、圧電薄膜の配向比率を任意の比率に設定することが可能である。
以上では、基板1としてSi基板を用いる構成について説明したが、Si以外の基板を用いてもよい。この場合でも、用いる基板の膨張係数に応じて応力制御膜6の種類(材料)や厚さを設定することにより、圧電薄膜4の応力を制御して、圧電薄膜の配向比率を任意の比率に設定することが可能である。
また、以上では、圧電薄膜4としてのPZTが正方晶である場合について説明したが、PZTが菱面体晶であっても、応力制御膜6を基板1に対して圧電薄膜4とは反対側に設けて、PZTの配向比率((111)配向と(001)配向との比率)を適切に設定することも可能である。さらに、PZTが正方晶と菱面体晶との混合結晶からなる場合でも、応力制御膜6の種類や厚さを設定により、各配向方向の比率を適切に設定することは可能である。
なお、本実施形態では、圧電薄膜4をスパッタ法で成膜しているが、圧電薄膜4の成膜方法としては、上述したスパッタ法だけでなく、物理気相成長法である蒸着法、化学気相成長法であるCVD法、液相法であるゾルゲル法など、他の手法を用いることも可能である。
本発明は、例えばインクジェットヘッド、超音波センサ、赤外線センサ(熱センサ)、周波数フィルタなどの種々のデバイスに利用可能である。
1 基板
3 下部電極
4 圧電薄膜
5 上部電極
6 応力制御膜
8 電極
10 圧電素子
3 下部電極
4 圧電薄膜
5 上部電極
6 応力制御膜
8 電極
10 圧電素子
Claims (6)
- 基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子であって、
前記基板に対して前記圧電薄膜とは反対側に成膜され、前記基板に曲げ変形を生じさせることによって、前記圧電薄膜の応力を制御する応力制御膜を備えていることを特徴とする圧電素子。 - 前記基板は、Siからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなり、
前記応力制御膜は、前記基板に対して圧縮して前記基板に曲げ変形を生じさせることにより、前記圧電薄膜に引張の力を与えるSiNからなることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。 - 前記基板は、Siからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなり、
前記応力制御膜は、前記基板に対して伸長して前記基板に曲げ変形を生じさせることにより、前記圧電薄膜に圧縮の力を与えるSiO2からなることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。 - 前記圧電薄膜を挟持する一対の電極をさらに備えており、
前記圧電薄膜は、PZTの正方晶を含んでおり、
前記正方晶では、c軸配向の割合よりもa軸配向の割合のほうが多く、
前記一対の電極は、前記圧電薄膜を前記基板に沿った方向から挟むように設けられていることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子。 - 前記圧電薄膜を挟持する一対の電極をさらに備えており、
前記圧電薄膜は、PZTの正方晶を含んでおり、
前記正方晶では、a軸配向の割合よりもc軸配向の割合のほうが多く、
前記一対の電極は、前記圧電薄膜を前記基板に対して垂直方向から挟むように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の圧電素子。 - 基板上に圧電薄膜を成膜する工程と、
前記基板に曲げ変形を生じさせることによって、前記圧電薄膜の応力を制御する応力制御膜を、前記基板に対して前記圧電薄膜とは反対側に成膜する工程とを有していることを特徴とする圧電素子の製造方法。
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