図1は本発明の第1実施形態のエンジンの冷却装置の概略構成である。図1においてエンジンの冷却装置1は、ウォータジャケット2、ウォータポンプ3、ラジエータ4、冷却水循環流路5、サーモスタット7などから構成される。図示しないが、エンジンは車両(移動体)に搭載されている。
ウォータジャケット2は、エンジン内部の冷却水の通路であり、主にシリンダ及び燃焼室を取り囲むように形成されている。冷却水はウォータポンプ3によってウォータジャケット入口2aに供給され、冷却水がシリンダ及び燃焼室の回りを通ることによってエンジンが発した熱の一部を奪う。
ウォータジャケット2とラジエータ4とは冷却水循環流路5(冷媒流路)で結ばれており、エンジン内部で温度上昇した冷却水はウォータジャケット出口2bから冷却水循環流路5を介してラジエータ入口4aに送られる。ラジエータ4は熱交換器で、温度上昇した冷却水から熱を奪って大気に放出する。冷却水からの放熱はラジエータ4を通過する空気により行われる。車両が走行しているときにはラジエータ4の前面に走行風が当たるため、十分な冷却風が得られるが、車両の速度が遅いときや停車中のアイドリング状態では冷却風が不足するため、ラジエータ4の後部に図示しない冷却ファンを設けて空気を引き込むようにしている。
ラジエータ4により冷やされた冷却水はラジエータ出口4bより冷却水循環流路5を介してウォータジャケット入口2aに戻される。
ラジエータ入口4aの手前で冷却水循環流路5から分岐しウォータポンプ3上流の冷却水循環流路5に合流する第1バイパス流路6が設けられ、ラジエータ出口4bと、第1バイパス流路6の合流点との間の冷却水循環流路5にサーモスタット7を備える。サーモスタット7は冷却水温度に応じてラジエータ4に流れる冷却水量を調整することにより、冷却水温度をエンジンの性能が最良の状態に保たれる所定温度範囲に保つためのものである。
例えばエンジンの冷間始動時のように冷却水温度が所定温度に満たないときには、サーモスタット7が閉じる。これによってラジエータ4に冷却水が流れず、第1バイパス流路6を介して冷却水が循環することとなり、エンジンの発熱による冷却水の加熱が促進される。これによって、エンジンの暖機完了までの時間が、ラジエータ4を介して冷却水を循環する場合よりも短縮される。所定温度を越えた場合にはサーモスタット7が開き、冷却水はラジエータ4に供給されて冷却され、冷却水の温度が所定温度範囲に維持される。
また、ウォータジャケット出口2bの冷却水循環流路5から分岐しウォータポンプ3上流の冷却水循環流路5に合流する第2バイパス流路8が設けられ、この第2バイパス流路8の上流側にヒータ9を備える。ヒータ9も熱交換器で、ヒータ9を通過する空気により温度上昇した冷却水から熱が奪われる。ヒータ9により加熱された空気は車室内に送られ、車室内が暖房される。
冷却水温度センサ12からのウォータジャケット出口2bの冷却水温度Trealの信号、外気温度センサ13からの外気温度TANの信号、クランク角センサ14からのクランク角の信号、車速センサ15からの車速(車両の速度)VSPの信号が入力されるエンジンコントローラ11では、これらの信号に基づいてサーモスタット7に開故障が生じてるか否かの診断を行い、サーモスタット7に開故障が生じていると診断したときには、車室内に設けている警報装置(例えば警告ランプや警告ブザー)21により、サーモスタット7に開故障が生じていることを運転者に警告する。
上記冷却水温度センサ12をウォータジャケット出口2bに設けている理由は、冷却水温度が最も高くなる位置であるためである。ただし、冷却水温度センサ12を設ける位置は、ウォータジャケット出口2bに限られるものでない。また、後述するように本発明では、第1冷却水推定温度Test1、第2冷却水推定温度Test2を算出するので、冷却水温度センサ12により検出される冷却水温度Trealを、これらの冷却水推定温度Test1、Test2と区別するため「実冷却水温度」ともいう。
上記外気温度センサ13は改めて設ける必要はない。例えばガソリンエンジンでは、エアフローメータ位置に吸気温度を設けて、吸気温度を計測しているので、この吸気温度を外気温度として用いればよい。
なお、実施形態では、冷却液(あるいは冷媒)が水である場合で説明するが、この場合に限定されるものでなく、冷却液は不凍液であってもよい。
さて、エンジン冷間始動時には、エンジンへの燃料供給量が増量されてエンジンが早期に暖機完了するようにしている。この場合に、サーモスタット7が開状態のまま閉じなくなる故障(開故障)が生じることがある。サーモスタット7にこうした開故障が生じると、エンジン冷間始動時にエンジンの暖機が進まず、その間、燃料供給量の増量が継続されることから、燃費が悪くなる。
そこで、エンジンの始動タイミングから所定時間を経過したところであるいはエンジンの始動後にエンジンが所定の暖機状態に到達したところでサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を行うようにした従来技術がある。そして、その診断タイミングで車速が低かったり外気温度が高かったりした場合に診断の精度が劣ることから、こうした場合にはエンジンの始動タイミングから所定時間を経過したところでのあるいはエンジンの始動後にエンジンが所定の暖機状態に到達したところでの診断を禁止する、という従来技術も知られている。
しかしながら、このような従来技術では冷却水温度の変化を前提としたサーモスタット7の診断が結局できずに終わり、あるいは仮に他の方法による診断を行うにしてもその完了時期が遅れる一方であった。
この場合、エンジンの始動タイミングから所定時間を経過するまでの時間あるいはエンジンの始動後にエンジンが所定の暖機状態に到達するまでの時間(これらの時間は従来技術の診断時間である)の途中に、却ってサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断の精度が向上する条件が成立する場合のあることを本発明者が見出した。ここで、サーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断の精度が向上する条件の成立時とは、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす場合である。
このラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間において、本発明では、後述する冷却水推定温度(冷媒推定温度)の変化及び実冷却水温度(実冷媒温度)の変化のいずれか一方が基準を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断する。これによって、エンジンの始動タイミングから所定時間を経過したりエンジンの始動後にエンジンが所定の暖機状態に到達したりするまで待たなくても、精度の高い診断を早期に実行することができる。
しかも、従来技術によればエンジンの始動タイミングから所定の時間を経過したところであるいはエンジンの始動後にエンジンが所定の暖機状態に到達したところで診断を行うことができなかった場合であっても、本発明によれば、エンジンの始動タイミングから所定の時間を経過する前に、あるいはエンジンの始動後にエンジンが所定の暖機状態に到達する前に、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間になれば(診断精度が向上する条件が成立すれば)、サーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を行うのであるから、従来技術より診断の頻度を高める効果も得られる。
さらに述べると、所定のモードで車両(移動体)を運転し、この場合にサーモスタット7を開状態のままとしたとき(つまりサーモスタット7に開故障が生じている状態を模したとき)の実冷却水温度と、サーモスタット7を全閉状態のままとしたとき(つまりサーモスタット7に開故障が生じていない正常時)の実冷却水温度とを計測して比較したところ、車速VSPが所定車速(後述する車速クライテリア)より高い状態を継続する領域で両者の温度変化に差異が大きく出ていることを本発明者が初めて見出したのである。この点を考察した結果、サーモスタット7に開故障が生じているとき(以下「サーモスタット開故障時」ともいう。)と、サーモスタット7に開故障が生じていない正常時(以下「サーモスタット正常時」ともいう。)とで実冷却水温度の変化に大きな差異が出るのは、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件(車速が高いためにラジエータ4が活発に放熱する条件)を満たす連続した期間においてであると結論された。
ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすとは、具体的には車速VSPが相対的に高いために走行風がラジエータ4に強く当たり、ラジエータ4からの放熱量が相対的に大きくなっていることをいう。この逆に、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たさないとは、車速VSPが相対的に低いためにわずかな走行風しかラジエータ4に当たらず、ラジエータ4からの放熱量が相対的に小さいことをいう。
そして、車速VSPが相対的に高いことはエンジンの発熱量が相対的に大きくなっていることを、この逆に車速VSPが相対的に低いことはエンジンの発熱量が相対的に小さくなっていることを必ずしも意味しないが、車速VSPが相対的に高い場合には、エンジンの発熱量が相対的に大きくなっており、また車速VSPが相対的に低い場合にはエンジンの発熱量が相対的に小さくなっている場合が多いと考えられる。このため、車速VSPが相対的に高いためにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間でサーモスタット7に開故障が無くサーモスタット7が全閉状態にあれば、相対的に大きなエンジンの発熱量によって実冷却水温度は速やかに上昇(変化)すると考えられる。これ対して、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間でサーモスタット7に開故障があれば、実冷却水温度はなかなか上昇(変化)しないと考えられる。
一方、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たさない期間であればサーモスタット7に開故障が無くサーモスタット7が全閉状態にあっても、エンジンの発熱量が相対的に小さいために実冷却水温度は緩やかにしか上昇(変化)しないと考えられる。これに対して、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たさない期間でサーモスタット7に開故障があれば、実冷却水温度の上昇(変化)の程度はサーモスタット7に開故障が無くサーモスタット7が全閉状態にある場合よりもさらに緩やかになると考えられる。
このようにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間とラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たさない期間との2つの期間における実冷却水温度の変化を比較したとき、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間でのほうが、サーモスタット7に開故障が生じているときの実冷却水温度の変化と、サーモスタット7に開故障が生じていない正常時の実冷却水温度の変化との差異が大きいのであり、これによってサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を早期にかつ精度良く行うことができるのである。
図7、図8、図9、図10を参照してさらに説明する。図7、図8、図9、図10はt1のタイミングでエンジンを始動したときの車速VSP、実冷却水温度Trealの変化をモデルで示している。t2のタイミングまでは停車状態にあり、t2のタイミングで車両の走行が開始されて車速VSPが上昇し、t3のタイミングで車速VSPが車速クライテリアSL1(所定速度)を超えている。そして、t6のタイミングで車速VSPが車速クライテリアSL1を下回り、t7のタイミングで停車する。このようにエンジンの冷間始動直後に車両を走行させたとき、t3からt6までの期間で車速VSPが車速クライテリアSL1を超える。ここでは、車速クライテリアSL1によってラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かの境界を定めるものとしているので、t3〜t6の期間がラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間である。なお、簡単のため、図7、図8、図9、図10では外気温度TANは基準外気温度TAN0(一定値)にあるとしている。
このようにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間がエンジンの始動直後に出現するときには、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間での実冷却水温度Trealが実線で示したようにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たさない期間での実冷却水温度(図示しない)よりも速やかに上昇するため、t4のタイミングで実冷却水温度Trealが所定温度Tcに到達し、診断条件が成立する。ちなみに、従来技術では、診断条件成立のタイミングはt7のタイミングよりも遅れて生じる。
なお、図7、図8、図9、図10では、実冷却水温度Trealが所定温度Tcより高いときに診断条件が成立するとして構成しているが、実冷却水温度Trealが所定温度Tcより高いことをラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすことに含めてもかまわない。すなわち、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かを車速VSP及び実冷却水温度Trealに基づいて判定し、車速VSPが車速クライテリアSL1(所定速度)より高くかつ実冷却水温度Trealが所定温度Tcより大きいときにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすと判定することができる。このときには、図7、図8、図9、図10においてt4〜t6の期間がラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間となる。
診断条件の成立時であるt4から冷却水推定温度の算出を開始し、冷却水推定温度の変化及び実冷却水温度の変化のいずれか一方が基準を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断する。
ここで、冷却水推定温度としては、「サーモスタット正常時低温側推定温度」や「サーモスタット開故障時高温側推定温度」を採用する。以下、「サーモスタット正常時低温側推定温度」を冷却水推定温度として採用する場合の冷却水推定温度を「第1冷却水推定温度」Test1、「サーモスタット開故障時高温側推定温度」を冷却水推定温度として採用する場合の冷却水推定温度を「第2冷却水推定温度」Test2として区別する。
まず、上記「サーモスタット正常時低温側推定温度」とは、サーモスタット正常時に少なくとも実冷却水温度Trealが上回るはずの温度のことである。言い換えると、サーモスタット正常時の実冷却水温度の変化をプロットとしたとき、エンジンの個体差によりプロットされたサーモスタット正常時の実冷却水温度は、ある範囲にバラツクのであるが、そのバラツクいずれの実冷却水温度をも下回ってサーモスタット正常時低温側推定温度が変化するように、エンジンの運転条件に基づいて、第1冷却水推定温度Test1としてのサーモスタット正常時低温側推定温度を算出させるのである。
このように第1冷却水推定温度Test1を算出し、さらに所定温度Tcよりも所定値だけ高い温度を判定許可温度Td(基準)として定めると、この判定許可温度Tdを第1冷却水推定温度Test1と実冷却水温度Trealのいずれが先に超えるかによってサーモスタット7に開故障が生じているか否かを診断することができる。なぜなら、t4のタイミングよりサーモスタット正常時の実冷却水温度Trealは第1冷却水推定温度Test1よりも速く上昇し、サーモスタット開故障時の実冷却水温度Trealは第1冷却水推定温度Test1よりも遅れて上昇するので、実冷却水温度Trealが第1冷却水推定温度Test1よりも先に判定許可温度Tdを超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない(正常である)と、また第1冷却水推定温度Test1が実冷却水温度Trealよりも先に判定許可温度Tdを超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断できるからである。
具体的には、図7はサーモスタット開故障時の、図8はサーモスタット正常時の実冷却水温度Trealの変化を示している。図7においては、第1冷却水推定温度Test1がt5のタイミングで実冷却水温度Trealよりも先に判定許可温度Tdを超えるので、t5のタイミングでサーモスタット7に開故障が生じていると診断される。一方、図8においては、実冷却水温度Trealがt5のタイミングで第1冷却水推定温度Test1よりも先に判定許可温度Tdを超えるので、t5のタイミングでサーモスタット7に開故障がない、従ってサーモスタット7は正常であると診断される。このようにして、サーモスタットに開故障がない正常時に少なくとも実冷媒温度が上回るはずの温度であるサーモスタット正常時低温側推定温度を冷媒推定温度として算出し、実冷媒温度がこの算出した冷媒推定温度の変化を下回ったときにサーモスタットに開故障が生じていると診断する診断装置が提供される。
一方、上記「サーモスタット開故障時高温側推定温度」とは、サーモスタット開故障時に少なくとも実冷却水温度がTrealが下回るはずの温度のことである。言い換えると、サーモスタット開故障時の実冷却水温度の変化をプロットとしたとき、エンジンの個体差によりプロットされたサーモスタット開故障時の実冷却水温度は、ある範囲にバラツクのであるが、そのバラツクいずれの実冷却水温度をも上回ってサーモスタット開故障時高温側推定温度が変化するように、エンジンの運転条件に基づいて、第2冷却水推定温度Test2としてのサーモスタット開故障時高温側推定温度を算出させるのである。
このように第2冷却水推定温度Test2を算出し、さらに所定温度Tcよりも所定値だけ高い温度を判定許可温度Td(基準)として定めると、この判定許可温度Tdを第2冷却水推定温度Test2と実冷却水温度Trealのいずれが先に超えるかによってサーモスタット7に開故障が生じているか否かを診断することができる。なぜなら、t4のタイミングよりサーモスタット正常時の実冷却水温度Trealは第2冷却水推定温度Test2よりも速く上昇し、サーモスタット開故障時の実冷却水温度Trealは第2冷却水推定温度Test2よりも遅れて上昇するので、実冷却水温度Trealが第2冷却水推定温度Test2よりも先に判定許可温度Tdを超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない(正常である)と、また第2冷却水推定温度Test2が実冷却水温度Trealよりも先に判定許可温度Tdを超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断できるからである。
具体的には、図9はサーモスタット開故障時の、図10はサーモスタット正常時の実冷却水温度Trealの変化を示している。図9においては、第2冷却水推定温度Test2がt5のタイミングで実冷却水温度Trealよりも先に判定許可温度Tdを超えるので、t5のタイミングでサーモスタット7に開故障が生じていると診断される。一方、図10においては、実冷却水温度Trealがt5のタイミングで第2冷却水推定温度Test2よりも先に判定許可温度Tdを超えるので、t5のタイミングでサーモスタット7に開故障がない、従ってサーモスタット7は正常であると診断される。このようにして、サーモスタットに開故障が生じているときに少なくとも実冷媒温度が下回るはずの温度であるサーモスタット開故障時高温側推定温度を冷媒推定温度として算出し、実冷媒温度がこの算出した冷媒推定温度の変化を下回ったときにサーモスタットに開故障が生じていると診断する診断装置が提供される。
このように、「冷却水推定温度の変化及び実冷却水温度の変化のいずれか一方が基準を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断する」とは、冷却水推定温度として第1冷却水推定温度Test1を採用する場合においては、第1冷却水推定温度Test1が実冷却水温度Trealよりも先に基準(判定許可温度Td)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断し、実冷却水温度Trealが第1冷却水推定温度Test1よりも先に基準(判定許可温度Td)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない、従ってサーモスタット7は正常であると診断することをいう。
また、冷却水推定温度として第2冷却水推定温度Test2を採用する場合において、「冷却水推定温度の変化及び実冷却水温度の変化のいずれか一方が基準を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断する」とは、第2冷却水推定温度Test2が実冷却水温度Trealよりも先に基準(判定許可温度Td)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断し、実冷却水温度Trealが第2冷却水推定温度Test2よりも先に基準(判定許可温度Td)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない、従ってサーモスタット7は正常であると診断することをいう。
図7、図8、図9、図10では簡単のため外気温度TANが基準外気温度TAN0(一定値)である場合で説明した。実際には外気温度TANは季節によりあるいは一日の中でも変化する。外気温度TANが変化すると、診断条件が成立したか否かに、またサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断精度にも影響する。このような外気温度TANの影響をなくすには冷却水温度と外気温度TANとの温度差を採用すればよいので、所定温度Tcに代えて所定温度Tcから外気温度TANを差し引いた値(Tc−TAN)に相当する温度差を温度差クライテリアSL2(所定温度差)として定める。
このように冷却水温度と外気温度TANとの温度差を採用する場合のサーモスタット7の診断方法を図2A、図2B、図2C、図2Dを参照して説明する。ここで、上記図7、図8が第1冷却水推定温度Test1を採用する場合の、上記図9、図10が第2冷却水推定温度Test2を採用する場合のものであったように、図2A、図2Bは第1冷却水推定温度Test1を採用する場合の、図2C、図2Dは第2冷却水推定温度Test2を採用する場合のものである。ただし、図2A、図2B、図2C、図2Dにおいて車速VSPの変化は、図7、図8、図9、図10と同じであるとする。図2A、図2B、図2C、図2Dにおいて外気温度TANがt1の始動タイミングより徐々に上昇するとしたとき、外気温度TANに温度差クライテリア(一定値)SL2を加算した温度は、外気温度TANに応じて変化(上昇)する。そして、実冷却水温度Trealから外気温度TANを差し引いた温度差(Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2と一致するt4’のタイミングで診断条件が成立すると判断する。
なお、図2A、図2B、図2C、図2Dでは、実冷却水温度Trealから外気温度TANを差し引いた温度差(Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2より大きいときに診断条件が成立するとして構成しているが、実冷却水温度Trealから外気温度TANを差し引いた温度差(Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2より大きいことをラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすことに含めてもかまわない。すなわち、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かを車速VSP及び実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差とに基づいて判定し、車速VSPが車速クライテリアSL1(所定速度)より高くかつ実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2(所定温度差)より大きいときにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすと判定することができる。このときには、図2A、図2B、図2C、図2Dにおいてt4’〜t6の期間がラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間となる。このようにして、サーモスタットの開故障を診断する条件になったか否かを実冷媒温度と外気温度との温度差に基づいて判定し、実冷媒温度と外気温度との温度差が所定温度差より大きいときにサーモスタットの開故障を診断する条件が成立すると判定する診断装置が提供される。
第1冷却水推定温度Test1を採用するときには、図2A、図2Bにおいてt4’のタイミングより、t4’のタイミングでの実冷却水温度Trealを初期温度Tiniとして、第1冷却水推定温度Test1からこの初期温度Tiniを差し引いた相対温度である第1相対温度T1(=Test1−Tini)と、実冷却水温度Trealからこの初期温度Tiniを差し引いた相対温度である第2相対温度T2(=Treal−Tini)とを算出し、判定許可温度クライテリアSL3(一定値)(基準)をこれら第1相対温度T1、第2相対温度T2のいずれが先に超えるかによってサーモスタット7に開故障が生じているか否かを診断する。すなわち、第2相対温度T2(=Treal−Tini)が第1相対温度T1(=Test1−Tini)よりも先に判定許可温度クライテリアSL3(基準)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない(正常である)と、また第1相対温度T1(=Test1−Tini)が第2相対温度T2(=Treal−Tini)よりも先に判定許可温度クライテリアSL3を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断する。
具体的には、図2Aはサーモスタット開故障時の、図2Bはサーモスタット正常時の実冷却水温度Trealの変化を示している。図2Aにおいては、第1相対温度T1(=Test1−Tini)がt5’のタイミングにおいて、第2相対温度T2(=Treal−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるよりも先に判定許可温度クライテリアSL3を超えるので、t5’のタイミングでサーモスタット7に開故障が生じていると診断される。一方、図2Bにおいては、第2相対温度T2(=Treal−Tini)がt5’のタイミングにおいて、第1相対温度T1(=Test1−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるよりも先に判定許可温度クライテリアSL3を超えるので、t5’のタイミングでサーモスタット7に開故障が生じていない(正常である)と診断される。
一方、第2冷却水推定温度Test2を採用するときには、図2C、図2Dにおいてt4’のタイミングより、t4’のタイミングでの実冷却水温度Trealを初期温度Tiniとして、第2冷却水推定温度Test2から初期温度Tiniを差し引いた相対温度である第3相対温度T3(=Test2−Tini)と、実冷却水温度Trealからこの初期温度Tiniを差し引いた相対温度である第2相対温度T2(=Treal−Tini)とを算出し、判定許可温度クライテリアSL3(一定値)(基準)をこれら第3相対温度T3、第2相対温度T2のいずれが先に超えるかによってサーモスタット7に開故障が生じているか否かを診断する。すなわち、第2相対温度T2(=Treal−Tini)が第3相対温度T3(=Test2−Tini)よりも先に判定許可温度クライテリアSL3(基準)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない(正常である)と、また第3相対温度T3(=Test2−Tini)が第2相対温度T2(=Treal−Tini)よりも先に判定許可温度クライテリアSL3を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断する。
具体的には、図2Cはサーモスタット開故障時の、図2Dはサーモスタット正常時の実冷却水温度の変化を示している。図2Cにおいては、第3相対温度T3(=Test2−Tini)がt5’のタイミングにおいて、第2相対温度T2(=Treal−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるよりも先に判定許可温度クライテリアSL3を超えるので、t5’のタイミングでサーモスタット7に開故障が生じていると診断される。一方、図2Dにおいては、第2相対温度T2(=Treal−Tini)がt5’のタイミングにおいて、第3相対温度T3(=Test2−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるよりも先に判定許可温度クライテリアSL3を超えるので、t5’のタイミングでサーモスタット7に開故障が生じていない(正常である)と診断される。
このように、図2A、図2B、図2C、図2Dにおいて「冷却水推定温度の変化及び実冷却水温度の変化のいずれか一方が基準を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断する」とは、冷却水推定温度として第1冷却水推定温度Test1を採用する場合においては、第1相対温度T1(=Test1−Tini)が第2相対温度T2(=Treal−Tini)よりも先に基準(判定許可温度クライテリアSL3)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断し、第2相対温度T2(=Treal−Tini)が第1相対温度T1(=Test1−Tini)よりも先に基準(判定許可温度クライテリアSL3)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない、従ってサーモスタット7は正常であると診断することをいう。
また、冷却水推定温度として第2冷却水推定温度Test2を採用する場合において、「冷却水推定温度の変化及び実冷却水温度Trealの変化のいずれか一方が基準を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断する」とは、第3相対温度T3(=Test2−Tini)が第2相対温度T2(=Treal−Tini)よりも先に基準(判定許可温度クライテリアSL3)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていると診断し、第2相対温度T2(=Treal−Tini)が第3相対温度T3(=Test2−Tini)よりも先に基準(判定許可温度クライテリアSL3)を超えるときにサーモスタット7に開故障が生じていない、従ってサーモスタット7は正常であると診断することをいう。
図2A、図2B、図2C、図2Dにおいて上記の車速クライテリアSL1と温度差クライテリアSL2との間にはトレードオフの関係がある。つまり、車速クライテリアSL1を下げるほどラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間が長くなり、サーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断の機会が増える一方で、車速クライテリアSL1を下げることでラジエータ4の実際の熱交換量が小さくなる側に向かい、診断の精度が低下する。従って、この診断の精度の低下を補うには、サーモスタット正常時とサーモスタット開故障時とで実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差がより明確になるように温度差クライテリアSL2を大きくする必要がある。この逆に、車速クライテリアSL1を上げるほどラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間が短くなり、診断の機会は減るものの、車速クライテリアSL1を上げることでラジエータ4の実際の熱交換量が大きくなる側に向かい、診断の精度が向上する。従って、この診断の精度が向上する分、実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が小さくてもサーモスタット正常時とサーモスタット開故障時との差異が明確になるので、温度差クライテリアSL2を小さくできる。このように、車速クライテリアSL1と温度差クライテリアSL2との間にはトレードオフの関係があるので、最終的にはマッチングにより、車速クライテリアSL1と温度差クライテリアSL2とをバランスよく定める。ただし、車速クライテリアSL1はあくまでラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かを定めるものであり、本発明においても低車速域で診断条件が成立することはない。
このように、本発明によればエンジン始動時から所定時間が経過するのを待ったり、エンジン始動後にエンジンが所定の暖機状態になるのを待ったりしなくても、それ以前にラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間があれば、その連続した期間において、冷却水推定温度Test1、Test2(冷媒推定温度)の変化及び実冷却水温度Treal(実冷媒温度)の変化のいずれか一方が判定許可温度クライテリアSL3(基準)を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断することができるのである。
エンジンコントローラ11で実行されるこのサーモスタット7の診断方法をフローチャートに基づいて詳述する。
図3のフローチャートは第1実施形態のサーモスタット7の診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に処理を実行する。第1実施形態のサーモスタット7の診断は、第1冷却水推定温度Test1と実冷却水温度Trealとに基づいて行うので、図2A及び図2Bに示したサーモスタット7の診断方法に対応する。なお、第2冷却水推定温度Test2と実冷却水温度Trealとに基づいて行うサーモスタット7の診断方法は後述する図11により説明する。
ステップ1では診断済フラグをみる。診断済フラグはエンジンの始動時にゼロに初期設定されている。ここでは、診断済フラグ=0であるとしてステップ2、3に進み、車速センサ15により検出される車速VSPと車速クライテリアSL1(所定速度)を比較する。車速クライテリアSL1はラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たすか否かを定めるものであり、マッチングにより最適値を設定しておく。図2A、図2Bにおいてはt1よりt3の直前まで車速VSPが車速クライテリアSL1以下にあるので、ステップ17〜19に進み、条件OKフラグ=0とすると共に、初期温度Tini、第1冷却水推定温度Test1を初期化する。
ステップ2で車速VSPが車速クライテリアSL1を超えているときにはラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たすと判断し、ステップ3に進む。図2A、図2Bにおいてステップ3に進むのは、t3のタイミングからである。
ステップ3では、実冷却水温度Trealから外気温度TANを差し引いた値(Treal−TAN)と温度差クライテリアSL2(所定温度差)を比較する。ここで、実冷却水温度Trealは冷却水温度センサ12により、外気温度TANは外気温度センサ13により検出する。温度差クライテリアSL2は診断条件が成立したか否かを判定するためのもので、予め設定しておく。図2A、図2Bにおいてはt3よりt4’の直前まで実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差(Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2以下にあるので、ステップ17〜19に進み、ステップ17〜19の操作を実行する。
ステップ3で実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差(Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2を超えているときには診断条件が成立したと判断し、ステップ4に進む。これは図2A、図2Bにおいてはt4’のタイミングに相当する。
ステップ4では、条件OKフラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは、条件OKフラグ=0であるとしてステップ5に進み、診断条件が成立したことを表すため条件OKフラグ=1とする。
ステップ6、7ではそのタイミングでの、つまり診断条件が成立したタイミングでの実冷却水温度Trealを冷却水推定温度の初期温度Tiniに入れると共に、初期温度Tiniを第1冷却水推定温度Test1に入れる。
次回以降も、ステップ2で車速VSPが車速クライテリアSL1を超えており、かつステップ3で実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2を超えているとして述べる。ステップ5での条件OKフラグ=1より次回にはステップ4よりステップ8に進み、第1冷却水推定温度Test1を算出する。第1冷却水推定温度Test1は、前述したサーモスタット正常時低温側推定温度を冷却水推定温度として採用する場合の温度である。この第1冷却水推定温度Test1の具体的な算出については図4(図3のステップ8のサブルーチン)により説明する。
図4においてステップ21では、エンジン回転速度Neと燃料噴射パルス幅Tiとから図5を内容とするマップを検索することによりエンジンの演算周期当たり(10ms当たり)基本発熱量qを算出する。演算周期当たり基本発熱量qは、点火時期が基本点火時期(一定値)のときのエンジンの演算周期当たり発熱量で、予め実験等により求めてメモリに記憶しておく。ここで、エンジン回転速度Neはエンジンコントローラ11がクランク角センサ14からのクランク角に基づいて算出している。また、エンジンコントローラ11では運転条件に応じて燃料噴射パルス幅Ti及び点火時期を算出し、所定の燃料噴射時期になると、この燃料噴射パルス幅Tiだけインジェクタ(図示しない)を開いてエンジンへの燃料供給を行い、点火時期になると燃焼室に臨んでいる点火プラグ(図示しない)に火花点火が飛ぶようにしている。ここでは、燃料噴射パルス幅Tiをエンジン負荷として用いてエンジンの演算周期当たり基本発熱量qを算出している。
ステップ22では、上記算出される点火時期から所定のテーブルを検索することにより点火時期補正係数Kaを算出し、ステップ23でこの点火時期補正係数Kaをエンジンの演算周期当たり基本発熱量qに乗算した値を演算周期当たりエンジン発熱量Qとして、つまり、
Q1=q×Ka …(1)
の式により演算周期当たりエンジン発熱量Qを算出する。
点火時期補正係数Kaは、エンジンの運転条件に応じて算出される点火時期が基本点火時期から外れたときにも実際の演算周期当たりエンジン発熱量を精度良く得るためのものである。点火時期が基本点火時期から外れると、演算周期当たりエンジン発熱量が基本点火時期のときの演算周期当たりエンジン発熱量より変化する。例えば点火時期が基本点火時期より進角すると燃焼状態がよくなって演算周期当たりエンジン発熱量が基本点火時期のときの演算周期当たりエンジン発熱量より多くなる。従って、点火時期が基本点火時期より進角したときには、基本点火時期のときの演算周期当たりエンジン発熱量より多くなるように点火時期補正係数Kaに1.0よりも大きな値を与えることで実際の演算周期当たりエンジン発熱量と一致させる。
一方、エンジン冷間始動時のように点火時期が基本点火時期より遅角すると燃焼状態が悪くなって演算周期当たりエンジン発熱量が基本点火時期のときの演算周期当たりエンジン発熱量より少なくなる。従って、点火時期が基本点火時期より遅角したときには、基本点火時期のときの演算周期当たりエンジン発熱量より少なくなるように点火時期補正係数Kaに1.0よりも小さな正の値を与えることで実際の演算周期当たりエンジン発熱量と一致させる。
ステップ24では、エンジン回転速度Neから図6を内容とするテーブルを検索することによりウォータジャケット2を流れる冷却水流量W1を算出し、ステップ25で実冷却水温度Treal、外気温度TANとこの冷却水流量W1とを用いて、ウォータジャケット2からの演算周期当たり放熱量Q1を、
Q1=W1×C1(Treal−TAN) …(2)
ただし、C1:シリンダブロックの比熱、
の式により算出する。
ステップ26では、エンジン回転速度Neから図6を内容とするテーブルを検索することによりヒータ9を流れる冷却水流量W2を算出し、ステップ27で実冷却水温度Treal、外気温度TANとこの冷却水流量W2とを用いて、ヒータ9からの演算周期当たり放熱量Q2を、
Q2=W2(Treal−TAN)×e^(−K2×L2/W2)
…(3)
ただし、K2:ヒータ9表面と大気の間の熱貫流率、
L2:ヒータ9内の冷却水流路長、
の式により算出する。
ステップ28では、エンジン回転速度Neから図6を内容とするテーブルを検索することによりラジエータ4を流れる冷却水流量W3を算出し、ステップ29で実冷却水温度Treal、外気温度TANとこの冷却水流量W3とを用いて、ラジエータ4からの演算周期当たり放熱量Q3を、
Q3=W3(Treal−TAN)×e^(−K3×L3/W3)
…(4)
ただし、K3:ラジエータ4の外面を構成する材料の熱貫流率、
L3:ラジエータ4内の冷却水流路長、
の式により算出する。なお、(3)式、(4)式では、ヒータ9の温度、ラジエータ4の温度をウォータジャケット出口2bの冷却水温度(Treal)で近似しているが、温度センサを設けて実際にヒータ9の温度、ラジエータ4の温度を検出し、この検出したヒータ9の温度、ラジエータ4の温度を用いてヒータ9からの演算周期当たり放熱量Q2、ラジエータ4からの演算周期当たり放熱量Q3を算出するようにしてもかまわない。
ステップ30では、このようにして算出した演算周期当たりエンジン発熱量Q、ウォータジャケット2からの演算周期当たり放熱量Q1、ヒータ9からの演算周期当たり放熱量Q2およびラジエータ4からの演算周期当たり放熱量Q3を用いて、冷却水温度の演算周期当たり温度上昇分ΔTを、
ΔT=(Q−Q1−Q2−Q3)/(W1×C1) …(5)
ただし、C1:シリンダブロックの比熱、
の式により算出する。ステップ31では、この冷却水温度の演算周期当たり温度上昇分ΔTを前回の第1冷却水推定温度であるTest1zに加算した値を今回の第1冷却水推定温度Test1として、つまり
Test1=Test1z+ΔT …(6)
ただし、Test1z:Test1の前回値、
の式により第1冷却水推定温度Test1を更新(算出)する。
このようにして第1冷却水推定温度Test1の算出を終了したら図3に戻り、ステップ9で第1冷却水推定温度Test1から初期温度Tiniを差し引いた値を第1相対温度T1として、つまり第1相対温度T1を、
T1=Test1−Tini …(7)
の式により算出し、ステップ10でこの第1相対温度T1と判定許可温度クライテリアSL3(基準)を比較する。判定許可温度クライテリアSL3はサーモスタット7に開故障が生じているか否かを判定するための値で、予め定めておく。
条件OKフラグ=1となった直後には、第1相対温度T1は判定許可温度クライテリアSL3より小さいのでステップ11に進み、そのときの実冷却水温度Trealから初期温度Tiniを差し引いた値を第2相対温度T2として、つまり第2相対温度T2を、
T2=Treal−Tini …(8)
の式により算出し、ステップ12でこの第2相対温度T2と判定許可温度クライテリアSL3を比較する。条件OKフラグ=1となった直後には、第2相対温度T2も判定許可温度クライテリアSL3より小さいのでそのまま今回の処理を終了する。
次回からは第1相対温度T1(=Test1−Tini)及び第2相対温度T2(=Treal−Tini)が大きくなるのを待つ。すなわち、ステップ10で第1相対温度T1が判定許可温度クライテリアSL3を超えるか、 ステップ12で第2相対温度T2が判定許可温度クライテリアSL3を超えるまではステップ8〜12の操作を実行して今回の処理を終了する。
やがて、ステップ10で第1相対温度T1(=Test1−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるときにはステップ13に進み、第1冷却水推定温度Test1のほうが、実冷却水温度Trealよりも先に上昇した、従ってサーモスタット7に開故障が生じていると診断(図では「NG診断」で略記)する。これは図2Aにおいてはt5’のタイミングである。このときにはステップ13でサーモスタット7に開故障が生じていることをメモリに記憶すると共に、ステップ14で警告フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。図示しないフローでは、警告フラグ=1を受けて、車室内の警報装置21でサーモスタット7に開故障が生じていることを運転者等に知らせる。
一方、ステップ12で第2相対温度T2(=Treal−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるときにはステップ15に進み、実冷却水温度Trealのほうが、第1冷却水温度推定値Test1よりも先に上昇した、従ってサーモスタット7に開故障は生じていない(サーモスタット7は正常である)と診断(図では「OK診断」で略記)する。これは図2Bにおいてはt5’のタイミングである。このときにはステップ15でサーモスタット7に開故障が生じていない(サーモスタット7は正常である)ことをメモリに記憶する。
これでサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断(サーモスタットの開故障の診断)を終了するので、ステップ16では診断済フラグ=1とする。この診断済フラグ=1より、次回以降にはステップ2以降に進むことができない。これは、エンジンの始動後にサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を1回だけで済ますものである。
一方、車速VSPが車速クライテリアSL1を超えていることよりステップ3以降に進んでいる状態でステップ13、15の操作に辿り着く前に、ステップ2で車速VSPが車速クライテリアSL1以下になったときには、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続する期間でなくなったと判断し、ステップ17に進み、条件OKフラグ=0とすると共に、ステップ18、19で初期温度Tini、第1冷却水推定温度Test1を初期化し、次回の診断の機会に備える。このようにステップ13、15の診断結果を得る前にラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続する期間でなくなったときには診断済フラグ=0のままであるので、その後に車速VSPが車速クライテリアSL1を再び超えるとステップ3以降に進んで、サーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を再び行う。つまり、ステップ13、15の診断結果を得るまではラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間となるたびにサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断(サーモスタットの開故障の診断)を行う。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
従来技術の診断時間としての、所定時間を経過したり所定の暖機状態に到達したりするまでの間に、診断精度が向上する条件が成立することがある。すなわち、本発明は、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間においては、車両の運転開始より所定時間を経過したり車両の運転開始よりエンジンが所定の暖機状態に到達したりするまで待たなくても精度の良い診断が行える、ということに発明者が気づいたところからなされたものである。
本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間において、第1相対温度T1(=Test1−Tini)の変化(冷媒推定温度の変化)及び第2相対温度T2(=Treal−Tini)の変化(実冷媒温度の変化)のいずれか一方が許可判定温度差クライテリアSL3(基準)を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断するので(図3のステップ10、13、12、15参照)、車両(移動体)の運転開始より所定時間を経過するまでの間や車両(移動体)の運転開始よりエンジンが所定の暖機状態に到達するまでの間であっても、精度の高い診断を早期に行うことができる。
しかも、従来技術によれば車両の運転開始より所定の時間を経過したり車両の運転開始よりエンジンが所定の暖機状態に到達したりしたところで診断できない条件になってしまい診断を行うことができなかった場合であっても、本発明によれば、所定の時間を経過したり所定の暖機状態に到達したりする以前に診断精度が向上する条件が成立すれば診断を行うことができる、という診断頻度を高める効果も得られる。
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、車速VSPが相対的に高いことはエンジンの発熱量が相対的に大きくなっていることを必ずしも意味しないが、車速VSPが相対的に高い場合には、エンジンの発熱量が相対的に大きくなっている場合が多いと考えられることに着目し、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かを車速(移動体の速度)VSPに基づいて判定し、車速VSPが車速クライテリアSL1(所定速度)より高いときにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすと判定するので(図3のステップ2参照)、エンジンの状態を実際に知ることなくラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす場合を簡易に知ることができる。
本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かを実冷媒温度Trealと外気温度TANとの温度差に基づいて判定し、実冷媒温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2(所定温度差)より大きいときにラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすと判定するので、外気温度TANが環境条件や運転条件により変化する場合においても、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすか否かを精度よく判定することができる。
本実施形態によれば、サーモスタット7の開故障を診断する条件になったか否かを実冷媒温度Trealと外気温度TANとの温度差に基づいて判定し、実冷媒温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2(所定温度差)より大きいときにサーモスタット7の開故障を診断する条件が成立すると判定するので(図3のステップ3参照)、サーモスタット7の開故障を診断する条件になったか否かの判定を外気温度TANが環境条件や運転条件により変化しても精度よく行うことができる。
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、サーモスタット7の開故障を診断する前にラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たさなくなった場合には、その後のラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間において、第1相対温度T1(冷媒推定温度)の変化及び第2相対温度T2(実冷媒温度)の変化のいずれか一方が許可判定温度差クライテリアSL3(基準)を超えるときに、サーモスタット7の開故障を診断するので、診断の頻度を高めることができる。
図11のフローチャートは第2実施形態のサーモスタット7の診断を行うためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に処理を実行する。第1実施形態の図3と同一ステップには同一の番号を付している。第2実施形態のサーモスタット7の診断は、第2冷却水推定温度Test2と実冷却水温度Trealとに基づいて行うので、図2C及び図2Dに示したサーモスタット7の診断方法に対応する。
第2実施形態では、第1実施形態と相違してエンジン回転速度Neにより変化する車速クライテリアSL1’及びエンジン回転速度Neにより変化する温度差クライテリアSL2’を導入している。図12のフローチャートはエンジン回転速度Neにより変化する車速クライテリアSL1’及びエンジン回転速度Neにより変化する温度差クライテリアSL2’を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に処理を実行する。図11のフローとの関係では、図11のフローを実行する前に図12のフローを先に実行する。
図12においてステップ51では診断済フラグをみる。診断済フラグはエンジンの始動時にゼロに初期設定されている。ここでは、診断済フラグ=0であるとしてステップ52に進み、そのときのエンジン回転速度Neから図13を内容とするテーブルを検索することにより車速クライテリアSL1’を、またステップ53でそのときのエンジン回転速度Neから図14を内容とするテーブルを検索することにより温度差クライテリアSL2’を算出する。
図13に示したように車速クライテリアSL1’は、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より大きい領域でエンジン回転速度Neが高くなるほど基準回転速度Ne0のときの車速クライテリアSL1より小さくなる。一方、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より小さい領域では、基準回転速度Ne0のときの車速クライテリアSL1より車速クライテリアSL1’は大きくなる。
図14に示したように温度差クライテリアSL2’は、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より大きい領域でエンジン回転速度Neが高くなるほど基準回転速度Ne0のときの温度差クライテリアSL2より小さくなる。一方、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より小さい領域では、基準回転速度Ne0のときの温度差クライテリアSL2より温度差クライテリアSL2’は大きくなる。
このようにして求めた車速クライテリアSL1’及び温度差クライテリアSL2’は図11で用いるためメモリに保存しておく。
図11において第1実施形態の図3と相違する部分を主に説明する。診断済フラグ=0であるときにはステップ41に進み、車速センサ15により検出される車速VSPと、図12のステップ52で算出済みの車速クライテリアSL1’とを比較する。車速VSPが車速クライテリアSL1’を超えているときにはラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たすと判断し、ステップ42に進む。
ステップ42では、実冷却水温度Trealから外気温度TANを差し引いた値(Treal−TAN)と図12のステップ53で算出済みの温度差クライテリアSL2’を比較する。実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差(Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2’を超えているときには診断条件が成立したと判断し、ステップ4に進む。
ステップ5で条件OKフラグ=1とした後にはステップ6、43おいてそのタイミングでの、つまり診断条件が成立したタイミングでの実冷却水温度Trealを冷却水推定温度の初期温度Tiniに入れると共に、初期温度Tiniを第2冷却水推定温度Test2に入れる。
次回以降も、ステップ41で車速VSPが車速クライテリアSL1’を超えており、かつステップ42で実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2’を超えているとして述べる。ステップ5での条件OKフラグ=1より次回にはステップ4よりステップ44に進み、第2冷却水推定温度Test2を算出する。第2冷却水推定温度Test2は、前述したサーモスタット開故障時高温側推定温度を冷却水推定温度として採用する場合の温度である。第2冷却水推定温度Test2の具体的な算出方法については、第1冷却水推定温度Test1の算出方法と同様である。第2冷却水推定温度Test2を算出する際に用いる演算周期当たり基本発熱量qと冷却水流量W1、W2、W3の各特性は図示しないが、第1冷却水推定温度Test1の算出に用いた図5、図6の特性と同様の特性を予め求めておき、その特性を用いて第2冷却水推定温度Test2を算出する。
ステップ45では、このようにして算出した第2冷却水推定温度Test2から初期温度Tiniを差し引いた値を第3相対温度T3として、つまり第3相対温度T3を、
T3=Test2−Tini …(9)
の式により算出し、ステップ46でこの第3相対温度T3と判定許可温度クライテリアSL3(基準)を比較する。判定許可温度クライテリアSL3はサーモスタット7に開故障が生じているか否かを判定するための値で、予め定めておく。
条件OKフラグ=1となった直後には、第3相対温度T3は判定許可温度クライテリアSL3より小さいのでステップ11に進み、そのときの実冷却水温度Trealから初期温度Tiniを差し引いた値を第2相対温度T2として、つまり第2相対温度T2を、
T2=Treal−Tini …(10)
の式により算出し、ステップ12でこの第2相対温度T2と判定許可温度クライテリアSL3を比較する。条件OKフラグ=1となった直後には、第2相対温度T2も判定許可温度クライテリアSL3より小さいのでそのまま今回の処理を終了する。
次回からは第3相対温度T3(=Test2−Tini)及び第2相対温度T2(=Treal−Tini)が大きくなるのを待つ。すなわち、ステップ46で第3相対温度T3が判定許可温度クライテリアSL3を超えるか、 ステップ12で第2相対温度T2が判定許可温度クライテリアSL3を超えるまではステップ44、45、46、11、12の操作を実行して今回の処理を終了する。
やがて、ステップ46で第3相対温度T3(=Test2−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるときにはステップ13に進み、第2冷却水推定温度Test2のほうが、実冷却水温度Trealよりも先に上昇した、従ってサーモスタット7に開故障が生じていると診断する。このときにはステップ13でサーモスタット7に開故障が生じていることをメモリに記憶すると共に、ステップ14で警告フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。図示しないフローでは、警告フラグ=1を受けて、車室内の警報装置21でサーモスタット7に開故障があることを運転者等に知らせる。
一方、ステップ12で第2相対温度T2(=Treal−Tini)が判定許可温度クライテリアSL3を超えるときにはステップ15に進み、実冷却水温度Trealのほうが、第2冷却水推定温度Test2よりも先に上昇した、従ってサーモスタット7に開故障は生じていない(サーモスタット7は正常である)と診断する。このときにはステップ15でサーモスタット7に開故障が生じていない(サーモスタット7は正常である)ことをメモリに記憶する。
これでサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を終了するので、ステップ16では診断済フラグ=1とする。この診断済フラグ=1より、次回以降にはステップ1よりステップ41以降に進むことができない。
一方、車速VSPが車速クライテリアSL1’を超えていることよりステップ42以降に進んでいる状態でステップ13、15の操作に辿り着く前に、ステップ41で車速VSPが車速クライテリアSL1’以下になったときには、ラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続する期間でなくなったと判断し、ステップ17に進み、条件OKフラグ=0とすると共に、ステップ18、47で初期温度Tini、第2冷却水推定温度Test2を初期化し、次回の診断の機会に備える。このようにステップ13、15の診断結果を得る前にラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続する期間でなくなったときには診断済フラグ=0のままであるので、その後に車速VSPが車速クライテリアSL1’を再び超えるとステップ41よりステップ42以降に進んで、サーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断を再び行う。つまり、ステップ13、15の診断結果を得るまではラジエータ4の熱交換量が大きくなる条件を満たす連続する期間となるたびにサーモスタット7に開故障が生じているか否かの診断(サーモスタットの開故障の診断)を行う。
ここで、第2実施形態の作用効果を説明する。
第1実施形態の車速クライテリアSL1、温度差クライテリアSL2(図3のステップ2、3参照)は基準回転速度Ne0(一定値)に対して適合したものであった。すなわち、基準回転速度Ne0のときのラジエータ4の熱交換量を仮に所定値Aとすると、第1実施形態では、エンジン回転速度を問わず、車速VSPが車速クライテリアSL1を超えていれば、ラジエータ4の熱交換量が所定値Aより大きくなる条件を満たすと判断している。また、基準回転速度Ne0のときの実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差を仮に所定値Bとすると、第1実施形態では、エンジン回転速度を問わず、実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差(=Treal−TAN)が温度差クライテリアSL2を超えていれば、実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が所定値Bより大きいので診断条件が成立したと判断している。
しかしながら、実際には、ラジエータ4の熱交換量や実冷却水温度Trealはエンジン回転速度Neに依存し、車速VSPが同じでもエンジン回転速度Neが高くなるほど冷却水の循環量が多くなるためラジエータ4の熱交換量は大きくなり、実冷却水温度Trealは高くなる。つまり、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より高いときのラジエータ4の熱交換量は、上記の所定値Aよりも多くなり、かつエンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より高いときの実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差は、上記の所定値Bよりも大きくなる。従って、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より高い場合にも、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0と一致しているときに最適な値を与える車速クライテリアSL1を用いるのでは、その車速クライテリアSL1が高すぎることになる。車速クライテリアが高すぎると、実際にはラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たすと実質的に判定できるのに、ラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たすと判定しないのであるから、ラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たすと判定する機会をみすみす逃すこととなる。
これに対して、第2実施形態では、エンジン回転速度Neをパラメータとする可変値である車速クライテリアSL1’を導入している。すなわち、第2実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、エンジン回転速度Neが高いほど車速クライテリアSL1’(所定速度)を低くするので(図13参照)、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より大きい領域(エンジン回転速度が相対的に大きい領域)でラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たすと判定する機会を逃さずに済む。これによって、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より大きい領域でラジエータ4の熱交換量が大きい条件を満たす連続した期間を長くすることができる。
また、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より高い場合にも、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0と一致しているときに最適な値を与える温度差クライテリアSL2を用いるのでは、その温度差クライテリアSL2が大きすぎることになる。温度差クライテリアSL2が大きすぎると、実際には診断条件が成立したと実質的に判断できるのに、診断条件が成立したと判定してないのであるから、診断条件が成立したと判断するタイミングを遅らせてしまうこととなる。
これに対して、第2実施形態では、エンジン回転速度Neをパラメータとする可変値である温度差クライテリアSL2’を導入している。すなわち、第2実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、エンジン回転速度Neが高いほど温度差クライテリアSL2(所定温度差)を小さくするので(図14参照)、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より大きい領域(エンジン回転速度が相対的に大きい領域)で診断条件が成立すると判断するタイミングを早めることができる。エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より大きい領域で診断条件の成立タイミングが早まると、診断終了タイミングも早まることとなる。
第1実施形態では第1冷却水推定温度Test1と実冷却水温度Trealとに基づいてサーモスタット7の診断を行う場合を、第2実施形態では第2冷却水推定温度Test2と実冷却水温度Trealとに基づいてサーモスタット7の診断を行う場合を説明したが、これら2つの実施形態を組み合わせた実施形態も考えられる。
サーモスタット7の診断方法は図2A、図2B、図2C、図2D、図7、図8、図9、図10に示す場合に限られるものでない。例えば図2A、図2Bにおいて診断条件が成立するt4’のタイミングから第1冷却水推定温度Test1の傾きと、実冷却水温度Trealの傾きを算出し、算出した2つの傾きを比較する。そして、第1冷却水推定温度Test1の傾きが実冷却水温度Trealの傾きより十分大きいと判断されるときに(あるいは第1冷却水推定温度Test1の傾きと実冷却水温度Trealの傾きとの差が所定値を超えるときに)サーモスタット7に開故障が生じていると、また実冷却水温度Trealの傾きが第1冷却水推定温度Test1の傾きより十分大きいと判断されるときに(あるいは実冷却水温度Trealの傾きと第1冷却水推定温度Test1の傾きとの差が所定値を超えるときに)サーモスタット7に開故障が生じていない(サーモスタット7は正常である)と診断する。
同様にして、図2C、図2Dにおいて診断条件が成立するt4’のタイミングから第2冷却水推定温度Test2の傾きと、実冷却水温度Trealの傾きを算出し、算出した2つの傾きを比較する。そして、第2冷却水推定温度Test2の傾きが実冷却水温度Trealの傾きより十分大きいと判断されるときに(あるいは第2冷却水推定温度Test2の傾きと実冷却水温度Trealの傾きとの差が所定値を超えるときに)サーモスタット7に開故障が生じていると、また実冷却水温度Trealの傾きが第2冷却水推定温度Test2の傾きより十分大きいと判断されるときに(あるいは実冷却水温度Trealの傾きと第2冷却水推定温度Test2の傾きとの差が所定値を超えるときに)サーモスタット7に開故障が生じていない(サーモスタット7は正常である)と診断する。
実施形態では、車速VSPが車速クライテリア(SL1、SL1’)を超え、かつ実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリア(SL2、SL2’)を超えたときに診断条件が成立したと判定しているが、診断条件の成立タイミングの定めかたは、この場合に限られるものでない。例えば、ラジエータ4の熱交換量が上記の所定値Aより大きくなるときほど診断条件の成立タイミングまでの時間が短くなるように設定し、この時間が経過したとき診断条件の成立タイミングであると判定し、前述したように第1冷却水推定温度Test1と実冷却水温度Trealとに基づいて、あるいは第2冷却水推定温度Test2と実冷却水温度Trealとに基づいてサーモスタット7に開故障が生じているか否かを診断するようにしてもよい。これによって、診断結果が出るまでの時間を短縮することができる。
ここで、ラジエータ4の熱交換量が上記の所定値Aより大きくなるときほど診断条件の成立タイミングまでの時間が短くなるように設定するには、診断精度が向上するほど大きくなるようにカウンタのインクリメント量ΔCNTのテーブルを設定しておく。例えば、車速VSPが車速クライテリアSL1を超えて大きいほど、実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2を超えて大きいほど、エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より高いほど診断精度が向上するので、カウンタのインクリメント量ΔCNTのテーブルを次のいずれかのように設定しておく。
1)車速VSPが車速クライテリアSL1を超えて大きいほど大きくなるようにカウンタのインクリメント量ΔCNTのテーブルを設定しておく。
2)実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差が温度差クライテリアSL2を超えて大きいほど大きくなるようにカウンタのインクリメント量ΔCNTのテーブルを設定しておく。
3)エンジン回転速度Neが基準回転速度Ne0より高いほど大きくなるようにカウンタのインクリメント量ΔCNTのテーブルを設定しておく。
そして、そのときの車速VSP、そのときの実冷却水温度Trealと外気温度TANとの温度差、そのときのエンジン回転速度Neのいずれか一つから該当するテーブルを検索することにより、カウンタのインクリメント量ΔCNTを算出し、そのインクリメント量ΔCNTをカウンタ値の前回値に加算して今回のカウンタ値CNTを算出、つまり
CNT=CNTz+ΔCNT …(11)
ただし、VNTz:CNTの前回値、
の式によりカウンタ値CNT(エンジンの始動時にゼロに初期設定)を算出し、この算出したカウンタ値CNTと所定値CNT0(一定値)を比較し、カウンタ値CNTが所定値CNT0以上となったとき、診断条件の成立タイミングになったと判定すればよい。
上記図2A、図2B、図2C、図2D、図7、図8、図9、図10では、エンジンの始動タイミング(t1)で実冷却水温度Trealと外気温度TANが一致している。つまり、エンジン始動前にエンジンが冷間状態にある場合を前提として述べたが、これに限られるものでなくエンジン始動前にエンジンがホットの状態にある場合(エンジン停止後に時間を置かずに再始動する場合)にも本発明の適用がある。
本発明は、エンジンの運転条件に基づく冷媒推定温度と、実冷媒温度との比較に基づき、移動体に搭載されたエンジンの冷媒流路に設けられたサーモスタットの開故障を診断する診断装置であって、実冷媒温度と外気温度との温度差が所定温度差より大きいときに前記ラジエータの熱交換量が大きくなる条件を満たすと判定し、前記ラジエータの熱交換量が大きくなる条件を満たす連続した期間において、前記冷媒推定温度の変化及び前記実冷媒温度の変化のいずれか一方が基準を超えるときに、前記サーモスタットの開故障を診断するとともに、エンジン回転速度が高いほど前記所定温度差を小さくする。