JP2011021302A - 炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束 - Google Patents

炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束 Download PDF

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Abstract

【課題】樹脂含浸性および開繊性が良好で、嵩高い炭素繊維束を得ることができ、かつ集束性に優れ、焼成工程通過性が良好な炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束の提供。
【解決手段】表面の平均面粗さ(Ra)が36〜55nm、最大高低差(P−V)が170〜270nm、表面積率(Sratio)が1.18〜1.25である単繊維から構成される、炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束、およびその製造方法、ならびに前記炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化および炭素化して得られる、炭素繊維束。
【選択図】なし

Description

本発明は、繊維強化複合材料の強化材として使用される炭素繊維束の製造に適した炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束に関する。
炭素繊維束の製造に用いられる前駆体繊維束には、焼成工程において繊維束がばらけたり、繊維束を構成する単繊維が隣接する繊維束に絡まったり、ローラーに巻き付いたりしないように、高い集束性が要求される。
炭素繊維束は、通常、マトリックス樹脂を含浸させて複合材料として成型され、様々な用途に利用されている。しかし、集束性の高い前駆体繊維から得られる炭素繊維束は、その集束性の高さのため、マトリックス樹脂が含浸しにくいという問題を有していた。マトリックス樹脂が含浸しにくいと、得られる複合材料の基本特性が十分に発揮されにくくなる。
また、炭素繊維束を製織して得られる炭素繊維織物は、マトリックス樹脂を含浸する際に樹脂のボイド(空隙)が発生しないように、できるだけ目開きの少ない織物とする必要がある。そのために、製織中または製織後に何らかの開繊処理が施される場合が多い。
しかし、集束性の高い前駆体繊維束から得られる炭素繊維束は、その集束性の高さのため、開繊しにくいという問題を有していた。さらに、炭素繊維織物は、目空きの少ない均一な織り目が要求されるため、嵩高い炭素繊維束が必要とされていた。
従来、複合材料の基本特性を向上させる方法として、炭素繊維束の表面形態や、マトリックス樹脂の特性を改善する方法などが検討されている。
例えば特許文献1には、繊維束の表面に、該繊維束の長手方向に連続する高さ0.5〜1.0μmの皺が存在しているアクリロニトリル系繊維束が開示されている。該アクリロニトリル系繊維束によれば、繊維束の表面に存在している皺により、集束性に優れ、開繊性が良好となる。
また、特許文献2には、粗面化度が2.0〜3.0である前駆体繊維束が開示されている。該前駆体繊維束によれば、粗面化度を規定することで、焼成工程において繊維束同士の融着、膠着などの現象を呈することなく、前駆体繊維束自体が本来有する性能を十分に発揮できる炭素繊維束が得られる。
また、特許文献3には、繊維横断面形状がθ=360°/n(nは1〜10の整数)で規定される回転対称角度θを有する非円形状である前駆体繊維束が開示されている。該前駆体繊維束によれば、断面形状を特定することで複合材料の基本特性を向上できる。
特許第3808643号公報 特開昭59−130320号公報 特開平3−185121号公報
しかしながら、特許文献1、2に記載の前駆体繊維束は、必ずしも集束性を十分に満足するものではなかった。また、焼成工程における通過性が低下することがあった。
また、特許文献3に記載の前駆体繊維束は、焼成工程における通過性と、得られる炭素繊維束の樹脂含浸性および開繊性とを同時に満足することが困難であった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、樹脂含浸性および開繊性が良好で、嵩高い炭素繊維束を得ることができ、かつ集束性に優れ、焼成工程通過性が良好な炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、前駆体繊維束を構成する単繊維の表面形態を制御し、特定の凹凸形状にすることで、前駆体繊維束の集束性および焼成工程通過性が向上し、かつ樹脂含浸性および開繊性が良好な炭素繊維束が得られるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束は、表面の平均面粗さ(Ra)が36〜55nm、最大高低差(P−V)が170〜270nm、表面積率(Sratio)が1.18〜1.25である単繊維から構成されることを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法は、有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液からなる第1凝固浴中に、95質量%以上のアクリロニトリル単位と0.5〜4質量%のアクリルアミド単位を含有するアクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液からなる紡糸原液を吐出して凝固糸にするとともに、この凝固糸を第1凝固浴中から紡糸原液の吐出線速度の0.8倍以下の速度で引き取る工程と、引き続き、前記凝固糸を有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液からなる第2凝固浴中にて、1.5〜2倍に延伸し、膨潤状態の一束とする工程と、延伸された膨潤状態の繊維束に3倍以上の湿熱延伸を施す工程と、湿熱延伸された繊維束に添油処理する工程と、添油処理された繊維束を乾燥した後に、この繊維束に1.5〜2.5倍のスチーム延伸を施す工程とを有することを特徴とする。
さらに、前記湿熱延伸された繊維束の膨潤度が90質量%以下であることが好ましい。
また、本発明の炭素繊維束は、前記炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化および炭素化して得られることを特徴とする。
本発明によれば、樹脂含浸性および開繊性が良好で、嵩高い炭素繊維束を得ることができ、かつ集束性に優れ、焼成工程通過性が良好な炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束を提供できる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束(以下、「前駆体繊維束」という。)は、アクリロニトリル系重合体の単繊維を複数束ねたトウである。
アクリロニトリル系重合体としては、95質量%以上のアクリロニトリル単位と0.5〜4質量%のアクリルアミド単位を含有するアクリロニトリル系重合体を用いる。アクリルアミド単位が4質量%を超えると、本発明の前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の強度発現性が低下する。一方、アクリルアミド単位が0.5質量%未満であると、アクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液に対する溶解性が低下し、紡糸口金を通して凝固浴中に吐出させた際の凝固速度が速くなるとともに、紡糸安定性が低下する。その結果、単繊維の表面形態を制御しにくくなり、特定の凹凸形状を有する単繊維が得られにくくなる。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルおよびアクリルアミドと、必要に応じてこれら単量体と共重合しうる単量体とを、水溶液中におけるレドックス重合、不均一系における懸濁重合、分散剤を使用した乳化重合などによって、重合させて得ることができる。
アクリロニトリルおよびアクリルアミドと共重合しうる単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類およびそれらの塩類;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、メタアクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル;スチレンスルホン酸ソーダアリルスルホン酸ソーダ、β−スチレンスルホン酸ソーダ、メタアリルスルホン酸ソーダ等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体;2−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体等が挙げられる。
これらの中でも、特に(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類およびそれらの塩類は、得られるアクリロニトリル系重合体を紡糸して得られる前駆体繊維束を焼成する際の耐炎化工程での焼成速度が速くなる点で好ましく用いられる。
本発明の前駆体繊維束を構成する単繊維は、表面の平均面粗さ(Ra)が36〜55nm、最大高低差(P−V)が170〜270nm、表面積率(Sratio)が1.18〜1.25である。
単繊維の平均面粗さ(Ra)が36nm未満では、前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束のバルキー性が不十分となり、樹脂含浸性、開繊性および炭素繊維織物(クロス)にした際のカバーリング性が悪くなる。一方、単繊維の平均面粗さ(Ra)が55nmを超えると、前駆体繊維束の表面積が増加して静電気が発生し易くなり、集束性が低下するとともに、焼成工程において前駆体繊維束がばらけやすくなり、焼成工程通過性が悪くなるおそれがある。また、得られる炭素繊維束のストランド強度が低下する傾向にある。
単繊維の最大高低差(P−V)が170nm未満では、得られる炭素繊維束のバルキー性が不十分となり、樹脂含浸性、開繊性およびクロスにした際のカバーリング性が悪くなる。一方、単繊維の最大高低差(P−V)が270nmを越えると、前駆体繊維束の強度が低下し、さらに紡糸安定性が低下する傾向にある。
単繊維の表面積率(Sratio)が1.18未満では、前駆体繊維束の集束性や焼成工程通過性が十分に満足するレベルに到達しにくくなる。一方、単繊維の表面積率(Sratio)が1.25を超えると、前駆体繊維束の表面積が増加して静電気が発生し易くなり、集束性が低下するとともに、焼成工程において前駆体繊維束がばらけやすくなり、焼成工程通過性が悪くなるおそれがある。また、得られる炭素繊維束のストランド強度が低下する傾向にある。
単繊維の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)は、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される値であり、以下のようにして定義した。
平均面粗さ(Ra)は、JIS B0601 で定義されている中心線平均粗さを、測定面に対して適用できるよう三次元に拡張したもので、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値である。
最大高低差(P−V)は、Z繊維軸に垂直な方向の断面プロファイルにおけるZデータの最大値Zmaxと最小値Zminの差である。なお、Zデータとは、走査型プローブ顕微鏡にて測定されるXY軸座標位置、Z軸高さデータによる高低データのことである。
表面積率(Sratio)は、指定面が理想的にフラットであると仮定したときの面積Sに対する実際の表面積Sの比率(S/S)である。
単繊維の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)は、以下のようにして測定できる。
単繊維を数本採取し、試料台上にのせて両端を固定し測定サンプルとする。走査型プローブ顕微鏡によりカンチレバーを使用して形状測定モードにて測定を行う。単繊維の曲面の影響ができるだけ少ない範囲で、かつ繊維表面形状を反映する範囲として1〜3μmの範囲を走査して測定画像を得る。得られた測定画像をデータ処理によって単繊維の曲面を平面にフィッティング補正した画像を得る。平面補正した画像の表面粗さ解析より繊維表面の形状パラメーターを求める。
測定は1サンプルについて単糸10本を走査型プローブ顕微鏡で形状測定し、各測定画像について、前述の方法で形状パラメーターを求め、その平均値をサンプルの平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)とする。
本発明の前駆体繊維束は、単繊維の表面が上述した特定の凹凸形状を有するため、集束性に優れ、焼成工程通過性が良好である。また、前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束は嵩高く、良好な樹脂含浸性および開繊性を有するようになる。
次に、本発明の前駆体繊維束の製造方法について説明する。
上述した特定の凹凸形状を有する単繊維から構成される本発明の前駆体繊維束は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、95質量%以上のアクリロニトリル単位と0.5〜4質量%のアクリルアミド単位を含有するアクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液からなる紡糸原液を、紡糸口金を通して、有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液からなる第1凝固浴中に吐出して凝固糸にするとともに、この凝固糸を第1凝固浴中から紡糸原液の吐出線速度の0.8倍以下の引取り速度で引き取る。
ついで、この凝固糸を、有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液からなる第2凝固浴中にて1.5〜2倍に延伸し、膨潤状態の一束とする。
続いて、延伸された膨潤状態の繊維束に3倍以上の湿熱延伸を施す。
ついで、湿熱延伸された繊維束に、濃度0.4〜1.5質量%に調整したシリコーン系油剤を添加し、添油処理を行った後、添油処理された繊維束を乾燥し、さらにスチーム延伸機で1.5〜2.5倍にスチーム延伸する。
この繊維束に対して、タッチロールで水分率の調整を行い、続いて、この糸にエアーを吹き付けて交絡を施し、前駆体繊維束を得る。
紡糸原液に使用するアクリロニトリル系重合体に対する有機溶剤としては、例えばジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これら中でも、ジメチルアセトアミドは溶剤の加水分解による性状の悪化が少なく、良好な紡糸性を与えるので、好適に用いられる。
第1凝固浴と第2凝固浴に用いる有機溶剤としては、紡糸原液に用いる有機溶剤と同じ溶剤を使用するのが好ましい。
紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体の濃度は、18〜26質量%が好ましく、20〜22質量%がより好ましい。アクリロニトリル系重合体の濃度が18質量%以上であれば、繊維内部が緻密な前駆体繊維束が得られ、機械的強度の高い炭素繊維束が得られやすくなる。一方、アクリロニトリル系重合体の濃度が26質量%以下であれば、紡糸原液の粘度が適度になり、紡糸安定性が良好となる。
ここで、第1凝固浴と第2凝固浴の有機溶剤濃度を同じにする、第1凝固浴と第2凝固浴の温度を同じにする、さらには紡糸原液の有機溶剤と第1凝固浴に用いる有機溶剤と第2凝固浴に用いる有機溶剤とを同じものにする等の手段を採ることにより、第1凝固浴および第2凝固浴の調製が容易となり、しかも溶剤回収上でのメリットも生ずる。
また、アクリロニトリル系重合体のジメチルアセトアミド溶液からなる紡糸原液と、ジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴と、前記第1凝固浴と同じ温度および組成成分のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴とを使用すると、平均面粗さ(Ra)が36〜55nm、最大高低差(P−V)が170〜270nm、表面積率(Sratio)が1.18〜1.25の単繊維の製造を容易に行えるようになる。
また、第1凝固浴と第2凝固浴の有機溶剤濃度が上記範囲内であれば、単繊維の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、および表面積率(Sratio)を容易に調整できる。具体的には、第1凝固浴と第2凝固浴の有機溶剤濃度を低くすることによって、平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)の値が大きい単繊維が得られる。一方、第1凝固浴と第2凝固浴の有機溶剤濃度を高くすることによって、平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)の値が小さい単繊維が得られる。
また、第1凝固浴と第2凝固浴の温度が33℃未満では、凝固糸が凝固しにくくなり、凝固糸の引き取り速度を低下させる必要があり、生産性が低下する。一方、第1凝固浴と第2凝固浴の温度が40℃を超えると、凝固糸同士が融着しやすくなる。
さらに、凝固糸の第1凝固浴中からの引取り速度を、紡糸口金のノズル孔からの紡糸原液の吐出線速度の0.8倍以下(凝固糸の引取り速度/ノズル孔からの紡糸原液の吐出線速度≦0.8)とすることで、良好な紡糸性を維持することができる。引取り速度の下限については特に制限されないが、吐出線速度の0.4倍以上が好ましい。
なお、紡糸原液を押し出すための紡糸口金には、アクリロニトリル系重合体の単繊維の一般的な太さである、1.08デニール(1.2dTex)程度のアクリロニトリル系重合体の単繊維を製造する際の孔径、すなわち15〜100μmの孔径のノズル孔を有する紡糸口金を使用できる。
このような前駆体繊維束の製造方法においては、第1凝固浴から引き上げた凝固糸は、該凝固糸が含有する液体中の有機溶剤の濃度が、第1凝固浴における有機溶剤の濃度を超えているので、凝固糸の表面だけが凝固した半凝固状態にある凝固糸になり、次工程の第2凝固浴中での延伸性が良好な凝固糸になる。
また、第1凝固浴から引き出した凝固液を含んだままの膨潤状態にある凝固糸は、空気中で延伸することも可能であるが、この凝固糸を上記方法のように第2凝固浴中で延伸する手段を採ることにより、凝固糸の凝固を促進させることができ、また、延伸工程での温度制御も容易になる。
第2凝固浴中での延伸倍率は、1.5倍よりも低くすると均一に配向した繊維が得られなくなり、2.0倍よりも高くすると単繊維切れが発生し易くなり、紡糸安定性が低下し、しかもその後の湿熱延伸工程での延伸性が悪化する。
第2凝固浴中での延伸工程後の湿熱延伸は、繊維の配向をさらに高めるためのものである。この湿熱延伸は、第2凝固浴中での延伸を終えた膨潤状態にある繊維束(膨潤繊維束)を水洗に付しながらの延伸、あるいは熱水中での延伸によって行われる。中でも、高生産性の観点から、熱水中での延伸を行うのが好ましい。なお、この湿熱延伸工程での延伸倍率を3倍よりも低くすると、繊維の配向の向上が十分でなくなる。湿熱延伸工程での延伸倍率の上限については特に制限されないが、5倍以下が好ましい。
湿熱延伸された繊維束(乾燥前)の膨潤度は、90質量%以下であることが好ましい。湿熱延伸された繊維束の膨潤度が90質量%以下であれば、繊維内部まで均一に配向した繊維が得られやすくなる。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度は、第1凝固浴中からの凝固糸の引取り速度を調節することで調整できる。すなわち、「凝固糸の引取り速度/ノズル孔からの紡糸原液の吐出線速度」の値を下げることによって、第1凝固浴中での凝固糸の凝固を均一なものにでき、さらにこれを第2凝固浴中にて延伸することにより、繊維内部まで均一に配向でき、湿熱延伸された繊維束の膨潤度を90質量%以下に容易に調整できる。
一方、「凝固糸の引取り速度/ノズル孔からの紡糸原液の吐出線速度」の値を高くすると、第1凝固浴中での凝固糸の凝固と延伸とが同時に起こりやすくなる。その結果、第1凝固浴中での凝固糸の凝固が不均一になる。従って、これを第2凝固浴中で延伸しても、湿熱延伸された繊維束は膨潤度の高いものになってしまい、繊維内部まで均一に配向した繊維が得られにくくなる。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度は、湿熱延伸された繊維束に付着した付着液を遠心分離機(3000rpm、15分)によって除去した後の湿熱延伸された繊維束の質量wと、これを105℃×2時間の熱風乾燥機で乾燥した後の質量wを測定し、以下の式により求めることができる。
膨潤度(質量%)=(w−w)/w×100
湿熱延伸された繊維束に対する添油処理には、一般的なシリコーン系油剤や低シリコーン油剤を用いることができる。添油処理の方法としては特に制限されないが、例えば油浴中に湿熱延伸された繊維束を潜らす方法などが挙げられる。
添油処理に用いるシリコーン系油剤は、0.4〜1.5質量%の濃度に調製された後に使用される。濃度が0.4質量%未満では、乾燥工程およびその後の焼成工程における、繊維束の集束性が不足し、工程通過性が損なわれることがある。一方、濃度が1.5質量%を越えると、単繊維間の融着や接着が発生し、毛羽や単糸切れが誘起され、得られる炭素繊維束の品質や品位が低下しやすくなる。
添油処理された繊維束は、乾燥することで緻密化される。乾燥の際は、前駆体繊維束のガラス転移温度を超えた温度とすることが好ましく、実質的には、100〜200℃の熱ロールに接触させて乾燥させるのが好ましい。
乾燥後のスチーム延伸は、機械的強度の高い前駆体繊維束および炭素繊維束を得るためのものである。このスチーム延伸は、公知のスチーム延伸機を用いて行われる。
スチーム延伸の延伸倍率は、1.5倍よりも低くするとスチーム延伸の効果が十分に得られず、前駆体繊維束や炭素繊維束の機械的強度が低下しやすくなり、2.5倍よりも高くすると紡糸安定性が損なわれやすくなる。そのため、スチーム延伸倍率は、乾燥緻密化前の第2凝固浴中での延伸倍率(溶剤延伸倍率)や、湿熱延伸倍率とのバランスを考慮して、1.5倍〜2.5倍の範囲内で設定することが重要である。
このようにして得られた前駆体繊維束を、公知の方法で焼成することにより炭素繊維束を製造できる。焼成方法としては、耐炎化処理および炭素化処理をこの順で行う方法が挙げられる。
耐炎化処理では、空気中、230〜260℃の熱風循環式耐炎化炉に前駆体繊維束を投入し、30〜60分間処理して耐炎化繊維束とする。
炭素化処理では、耐炎化繊維束を窒素雰囲気下、最高温度800℃程度で1〜2分間処理し、さらに同雰囲気下で最高温度が1000〜2000℃の高温熱処理炉にて約1〜2分処理して炭素繊維束を得る。
なお、繊維強化複合材料の強度発現を目的として、必要に応じて炭素化処理の後に、炭素繊維束の表面に電解処理を施し、炭素繊維用サイズ剤を付与してもよい。
このようにして得られた炭素繊維束は、本発明の前駆体繊維束を焼成してなるので、嵩高く、樹脂含浸性および開繊性に優れる。
本発明の炭素繊維束は、常法によりマトリックス樹脂を含浸させて繊維強化複合材料として成型される。マトリックス樹脂としては特に制限されないが、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。
本発明によれば、炭素繊維束にマトリックス樹脂を十分に含浸できるので、基本特性を十分に発揮できる繊維強化複合材料が得られる。
また、本発明の炭素繊維束は嵩高いため、目空きの少ない均一な織り目の炭素繊維織物が得られる。さらに、該炭素繊維織物は、開繊性が良好な炭素繊維束より得られるので、マトリックス樹脂を含浸させても樹脂のボイドが発生しにくい。
以下、本発明について実施例を挙げて詳しく説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
各種測定および評価方法は、以下の通りである。
<平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)の測定>
前駆体繊維束の単繊維の両端を、走査型プローブ顕微鏡付属のSPA400用金属製試料台(20mm径)(エポリードサービス社製、「K−Y10200167」)上にカーボンペーストで固定し、以下条件で測定を行った。
(走査型プローブ顕微鏡測定条件)
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、「SPI4000プローブステーション、SPA400(ユニット)」、
走査モード:ダイナミックフォースモード(DFM)(形状像測定)、
探針:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、「SI−DF−20」、
走査範囲:2μm×2μm、
Rotation:90°(繊維軸方向に対して垂直方向にスキャン)、
走査速度:1.0Hz、
ピクセル数:512×512、
測定環境:室温、大気中。
単繊維1本に対して、上記条件にて1画像を得、得られた画像を走査型プローブ顕微鏡付属の画像解析ソフト(SPIWin)を用い、以下の条件にて画像解析を行った。
(画像解析条件)
得られた形状像を「フラット処理」、「メディアン8処理」、「三次傾き補正」を行い、曲面を平面にフィッティング補正した画像を得た。平面補正した画像の表面粗さ解析より平均面粗さ(Ra)を、平面補正した画像の繊維軸に垂直な方向の断面プロファイルから最大高低差(P−V)を、平面補正した画像の表面粗さ解析より表面積率(Sratio)をそれぞれ求めた。
測定は1サンプルについて単糸10本を走査型プローブ顕微鏡で形状測定し、各測定画像について、平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を求め、その平均値をサンプルの平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)とした。
なお、「フラット処理」、「メディアン8処理」、「三次傾き補正」とは、それぞれ以下の通りである。
(フラット処理)
リフト、振動、スキャナのクリープ等によってイメージデータに現れたZ軸方向の歪み・うねりを除去する処理のことである。SPM測定上の装置因によるデータのひずみを除去できる。
(メディアン8処理)
処理するデータ点Sを中心とする3×3の窓(マトリクス)においてSおよびD1〜D8の間で演算を行い、SのZデータを置き換える処理のことである。スムージングやノイズ除去といったフィルタの効果が得られる。
メディアン8処理は、SおよびD1〜D8の9点のZデータの中央値を求めて、Sを置き換えることで処理できる。
(三次傾き補正)
傾き補正とは、処理対象イメージの全データから最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングし、傾きを補正することである。(一次)(二次)(三次)はフィッティングする曲面の次数を示し、三次では三次曲面をフィッティングする。三次傾き補正処理によって、データの繊維の曲率をなくしフラットな像にできる。
<膨潤度の測定>
湿熱延伸された繊維束に付着した付着液を、遠心分離機を用い、3000rpm、15分の条件で除去し、湿熱延伸された繊維束の質量wを測定した。ついで、この湿熱延伸された繊維束を105℃×2時間の熱風乾燥機で乾燥させた後の質量wを測定し、以下の式により膨潤度を求めた。
膨潤度(質量%)=(w−w)/w×100
<紡糸安定性の評価>
第1凝固浴中での紡糸状態ついて目視にて観察した。
<集束性の評価>
前駆体繊維束について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:束がばらけていない。
△:束が若干ばらけている。
×:束がばらけている。
<焼成工程通過性の評価>
前駆体繊維束を焼成する際の通過性について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:単繊維がばらけず、繊維束同士が絡まることなく焼成できる。
△:単繊維が若干ばらけて隣接する繊維束同士が若干絡まった。
×:単繊維がばらけて隣接する繊維束同士が絡まった。
<樹脂含浸性の評価>
炭素繊維束を約20cm切り取り、グリシジルエーテル中に約3cm浸し15分間放置した。グリシジルエーテル中から取り出した後3分間放置し、下から3.5cmのところで切り落とし、残った炭素繊維束の長さ、質量を測定した。炭素繊維束の目付けから吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合を算出して樹脂含浸性の指標とし、以下の評価基準にて評価した。
○:吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合が3質量%以上。
×:吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合が3質量%未満。
<開繊性の評価>
炭素繊維束を0.06g/単繊維の張力下、走行速度1m/分で金属ロール上を走行させた際のトウ幅を測定して開繊性の指標とし、以下の評価基準にて評価した。
○:トウ幅が2mm以上。
×:トウ幅が2mm未満。
[実施例1]
アクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。
このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、21質量%の紡糸原液を調製した。
この紡糸原液を孔数3000、孔径75μmの紡糸口金を通して、濃度65質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、第1凝固浴中からこの凝固糸を、紡糸原液の吐出線速度の0.6倍の引取り速度で引き取った。
この凝固糸を引き続き、濃度65質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴に導き、浴中にて1.8倍に延伸した。
ついで、延伸された膨潤状態の繊維束(膨潤繊維束)に対して、水洗と同時に3.5倍に湿熱延伸した。
その後、湿熱延伸された繊維束に、濃度1.1質量%に調整したアミノシリコーン系油剤を添油した。
ついで、添油処理された繊維束を熱ロールを用いて乾燥し、スチーム延伸機にて2.1倍にスチーム延伸した。
その後、タッチロールにて繊維束の水分率を調整し、この繊維束に繊維当たり3質量%の水分を含有させた。ついで、この繊維束を、エア圧280kPaのエアによって、交絡処理し、ワインダーで巻き取ることにより、単繊維繊度1.2dtexの炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束を得た。
紡糸原液を紡糸する際は毛羽の発生もなく、紡糸安定性は非常に良好であった。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた前駆体繊維束を空気中、230〜260℃の熱風循環式耐炎化炉にて50分間処理し耐炎化繊維束となし、ついで耐炎繊維束を窒素雰囲気中下で最高温度780℃にて1.5分間処理し、さらに同雰囲気下で最高温度が1300℃の高温熱処理炉にて約1.5分処理した後、重炭酸水素アンモニウム水溶液中で0.4Amin/mで電解処理を施し、炭素繊維束を得た。
前駆体繊維束の焼成工程通過性、および得られた炭素繊維束の樹脂含浸性、開繊性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例2]
濃度56質量%、温度34℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、第1凝固浴中からこの凝固糸を、紡糸原液の吐出線速度の0.6倍の引取り速度で引き取った。
この凝固糸を引き続き、濃度56質量%、温度34℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴に導き、浴中にて1.9倍に延伸した。
ついで、延伸された膨潤状態の繊維束(膨潤繊維束)に対して、水洗と同時に3.3倍に湿熱延伸を施し、スチーム延伸機にて2.1倍にスチーム延伸した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。
紡糸原液を紡糸する際は毛羽の発生もなく、紡糸安定性は非常に良好であった。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
濃度67質量%、温度34℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、第1凝固浴中からこの凝固糸を、紡糸原液の吐出線速度の0.6倍の引取り速度で引き取った。
この凝固糸を引き続き、濃度67質量%、温度34℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴に導き、浴中にて1.9倍に延伸した。
ついで、延伸された膨潤状態の繊維束(膨潤繊維束)に対して、水洗と同時に3.3倍に湿熱延伸を施し、スチーム延伸機にて2.1倍にスチーム延伸した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。
紡糸原液を紡糸する際は毛羽の発生もなく、紡糸安定性は非常に良好であった。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例4]
濃度56質量%、温度38℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、第1凝固浴中からこの凝固糸を、紡糸原液の吐出線速度の0.6倍の引取り速度で引き取った。
この凝固糸を引き続き、濃度56質量%、温度38℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴に導き、浴中にて1.7倍に延伸した。
ついで、延伸された膨潤状態の繊維束(膨潤繊維束)に対して、水洗と同時に3.3倍に湿熱延伸を施し、スチーム延伸機にて2.4倍にスチーム延伸した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。
紡糸原液を紡糸する際は毛羽の発生もなく、紡糸安定性は非常に良好であった。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例5]
濃度67質量%、温度38℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、第1凝固浴中からこの凝固糸を、紡糸原液の吐出線速度の0.6倍の引取り速度で引き取った。
この凝固糸を引き続き、濃度67質量%、温度38℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴に導き、浴中にて1.7倍に延伸した。
ついで、延伸された膨潤状態の繊維束(膨潤繊維束)に対して、水洗と同時に3.3倍に湿熱延伸を施し、スチーム延伸機にて2.4倍にスチーム延伸した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。
紡糸原液を紡糸する際は毛羽の発生もなく、紡糸安定性は非常に良好であった。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
アクリロニトリル、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリル酸メチル単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。
得られた前駆体繊維束は、若干のばらけがあり集束性に劣った。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定した。結果を表1に示す。
さらに、この前駆体繊維束を実施例1と同様に焼成したが、焼成工程において、繊維束を構成する単繊維が若干ばらけて、隣接する繊維束同士が若干絡まるなど焼成時の工程通過性に劣った。
得られた炭素繊維束の樹脂含浸性、開繊性を評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
第2凝固浴をバイパスして空中延伸(冷延伸)にて1.8倍延伸を施した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を製造したが、紡糸安定性が悪く、紡糸するのが困難であり、前駆体繊維束を得ることができなかった。
[比較例3]
湿熱延伸の倍率を2.3倍、スチーム延伸の倍率を3.2倍に変更した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。
紡糸原液を紡糸する際は毛羽の発生もなく、実施例1と同程度の紡糸安定性が得られた。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、この前駆体繊維束を実施例1と同様に焼成したが、焼成工程において、繊維束を構成する単繊維が若干ばらけて、隣接する繊維束同士が若干絡まるなど焼成時の工程通過性に劣った。
得られた炭素繊維束の樹脂含浸性、開繊性を評価した。結果を表1に示す。
[比較例4]
第2凝固浴中での浴中延伸倍率を2.2倍に変更した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得たが、紡糸原液を紡糸する際は若干の毛羽が発生し、紡糸安定性に劣った。
湿熱延伸された繊維束の膨潤度、および得られた前駆体繊維束について平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)、表面積率(Sratio)を測定し、集束性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、この前駆体繊維束を実施例1と同様に焼成したが、焼成工程において、毛羽が隣接する繊維に絡まるなど焼成時の工程通過性に劣った。
得られた炭素繊維束の樹脂含浸性、開繊性を評価した。結果を表1に示す。
[比較例5]
第1凝固浴および第2凝固浴として、濃度50質量%、温度30℃のジメチルアセトアミド水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして前駆体繊維束を製造したが、紡糸安定性が悪く、紡糸するのが困難であり、前駆体繊維束を得ることができなかった。
Figure 2011021302
表1の結果より、各実施例で得られた前駆体繊維束は、集束性に優れ、焼成工程通過性が良好であり、樹脂含浸性および開繊性が良好な炭素繊維束を製造できた。
一方、比較例1、4で得られた前駆体繊維束は、平均面粗さ(Ra)が55nm超、最大高低差(P−V)が270nm超、表面積率(Sratio)が1.25超である単繊維より構成されていた。該前駆体繊維束は、実施例1で得られた前駆体繊維束に比べて集束性および焼成工程通過性に劣っていた。
また、比較例3で得られた前駆体繊維束は、平均面粗さ(Ra)が36nm未満、最大高低差(P−V)が170nm未満、表面積率(Sratio)が1.18未満である単繊維より構成されていた。該前駆体繊維束は、実施例1で得られた前駆体繊維束に比べて焼成工程通過性に劣っていた。さらに、比較例3の前駆体繊維束を焼成して得られた炭素繊維束は、樹脂含浸性および開繊性に劣っていた。
また、比較例2、5では紡糸安定性が悪く、前駆体繊維束が得られなかったので、集束性、焼成工程通過性、および炭素繊維束の樹脂含浸性、開繊性については評価できなかった。

Claims (4)

  1. 表面の平均面粗さ(Ra)が36〜55nm、最大高低差(P−V)が170〜270nm、表面積率(Sratio)が1.18〜1.25である単繊維から構成される、炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束。
  2. 有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液からなる第1凝固浴中に、95質量%以上のアクリロニトリル単位と0.5〜4質量%のアクリルアミド単位を含有するアクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液からなる紡糸原液を吐出して凝固糸にするとともに、この凝固糸を第1凝固浴中から紡糸原液の吐出線速度の0.8倍以下の速度で引き取る工程と、
    引き続き、前記凝固糸を有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液からなる第2凝固浴中にて、1.5〜2倍に延伸し、膨潤状態の一束とする工程と、
    延伸された膨潤状態の繊維束に3倍以上の湿熱延伸を施す工程と、湿熱延伸された繊維束に添油処理する工程と、添油処理された繊維束を乾燥した後に、この繊維束に1.5〜2.5倍のスチーム延伸を施す工程とを有する、炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法。
  3. 前記湿熱延伸された繊維束の膨潤度が90質量%以下である、請求項2に記載の炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法。
  4. 請求項1に記載の炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化および炭素化して得られる、炭素繊維束。
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