JP2010284787A - 硬質皮膜被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】
超硬合金を基材とする切削工具に硬質皮膜を被覆した硬質皮膜被覆切削工具において、表面側に硬質皮膜層1、基材側に硬質皮膜層2が被覆され、硬質皮膜層1は(AlaCr1−a)Nx、但し、0.5≦a≦0.75、0.9≦x≦1.1であり、硬質皮膜層2は(TibAl1−b)Ny、但し、0.4≦b≦0.6、0.9≦y≦1.1であり、X線回折における硬質皮膜層1の(111)面の格子定数をa1(nm)、硬質皮膜層2の(111)面の格子定数をa2(nm)としたとき、1.005≦a2/a1≦1.025であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具である。
【選択図】図1
Description
該硬質皮膜層1の組成は(AlaCr1−a)Nx(但し、夫々の元素の含有量は原子比であり、0.5≦a≦0.75、及び0.9≦x≦1.1である。)で表され、
該硬質皮膜層1のX線回折における(111)面の半価幅をW1(度)としたとき、0.7≦W1≦1.1であり、(111)面のピーク強度Ir、(200)面のピーク強度Is、及び(220)面のピーク強度Itとしたとき、0.3≦Is/Ir<1、及び0.3≦It/Ir<1であり、
該硬質皮膜層2の組成は、(TibAl1−b)Ny(但し、夫々の元素の含有量は原子比であり、0.4≦b≦0.6、及び0.9≦y≦1.1である。)で表され、
該硬質皮膜層2のX線回折における(200)面の半価幅をW2(度)としたとき、0.6≦W2≦0.9であり、(111)面のピーク強度Iu、(200)面のピーク強度Iv、及び(220)面のピーク強度Iwとしたとき、0.3≦Iv/Iu<1、及び0.3<Iw/Iu≦1であり、
X線回折における該硬質皮膜層1の(111)面の格子定数をa1(nm)、及び該硬質皮膜層2の(111)面の格子定数をa2(nm)としたとき、1.005≦a2/a1≦1.025であり、該硬質皮膜全体の膜厚をTA(μm)、該硬質皮膜層1の膜厚をT1(μm)、及び該硬質皮膜層2の膜厚をT2(μm)としたとき、5≦TA≦12、0.1≦T1≦2、4≦T2≦10、及びTA=T1+T2であることを特徴とする。
前記本発明によって、物理的蒸着によって成膜して5μm以上に厚膜化した硬質皮膜における高硬度を維持しつつ残留圧縮応力の低減化を図ることができる。また前記2層構造を有する硬質皮膜層1、2の特徴を反映し、従来に比べて密着強度が顕著に改善されるから、従来に比べて硬質皮膜被覆切削工具の長寿命化を図ることができる。
また、前記本発明の硬質皮膜被覆切削工具において、実用性の観点から、該硬質皮膜層2のTi及びAlのうちの少なくとも1種の元素について、夫々10原子%以下の範囲でSi、B、V、Nb及びWのうちから選択される少なくとも1種の元素で置換することが好ましい。
(1)物理的蒸着によって成膜して5μm以上に厚膜化した新規で高性能な2層構造を有する硬質皮膜による高硬度を維持しつつ残留圧縮応力の低減化を図ることができる。
(2)前記2層構造を有する硬質皮膜層1、2により、従来に比べて格段に密着性が改善されるから、硬質皮膜被覆切削工具の長寿命化を達成することができる。
そこで本発明では、物理的蒸着(以下、PVDと記す場合がある。)法による硬質皮膜の厚膜化に伴い発生する残留圧縮応力の低減化と、硬質皮膜の高硬度化を実現した。硬質皮膜は残留圧縮応力が2GPaを超えると硬質皮膜の自己破壊を発生し易くなることから、鋭意研究の結果、後述の実施例に示すとおり、厚膜化した際の残留圧縮応力を2GPa以下に低減化することができた。また、残留圧縮応力の低減に伴う硬質皮膜の硬度低下が懸念されるため、硬質皮膜の硬度維持についても同時に実現することができた。さらに、2層構造を有する硬質皮膜層間の密着性の改善についても実現することができた。
本発明が採用する硬質皮膜を構成する硬質皮膜層1は、AlとCrを金属成分とする窒化物皮膜であり、潤滑性に優れ、溶着に起因する脱落やチッピングを抑制する効果を発揮する。
そこで硬質皮膜層1を高硬度に維持するために組成(AlaCr1−a)Nxを次のように規定した。Alの含有量はa>0.75である場合、六方最密構造(以下、hcp構造と記す。)のAlNが生成しやすくなり、密着強度が劣化するだけでなく硬度低下が生じる。また、Al含有量よりCr含有量が多い場合も、残留圧縮応力が増大して密着強度が低下する傾向にある。以上より、0.5≦a≦0.75と規定した。より好ましくは、0.60≦a≦0.7である。
本発明が採用する硬質皮膜を構成する硬質皮膜層2は、TiとAlを金属成分とする窒化物皮膜であり、耐摩耗性や密着強度に優れ、切削工具としての寿命向上に効果を発揮する。一般に、皮膜硬度が高いほど耐摩耗性は大きい。そこで硬質皮膜層2を高硬度に維持するために組成(TibAl1−b)Nyについて、Tiの含有量は、0.4≦b≦0.6に規定した。b>0.6の場合、十分な耐摩耗性や耐酸化性が得られない。b<0.4である場合、結晶構造が面心立方晶の(TiAl)Nにhcp構造のAlNが含まれるようになり皮膜硬度が低下し耐摩耗性が劣化する。より好ましくは、0.45≦b≦0.55である。
本発明は、成膜時のバイアス電圧、反応圧力及び成膜温度を最適化させることによって、硬質皮膜層1、2の結晶構造を前記の範囲に制御でき、厚膜化された硬質皮膜は最適な残留圧縮応力が内在し、かつ高硬度を維持できる。
例えば、バイアス電圧値が大きい程残留圧縮応力は増大傾向にある。ここで、2μm/時間以下の比較的遅い成膜速度で、皮膜を結晶成長させることが重要である。このとき、最適化された残留圧縮応力値の範囲は0.5〜2GPaである。残留圧縮応力値が0.5GPa未満であると耐摩耗性は確保できるものの耐欠損性が不十分であり、2GPaを超えて大きいと硬質皮膜のチッピングを生じやすくなる。
更に、成膜時のバイアス電圧をパルス化して印加する方法により、It/Ir値を制御することができる。このとき、硬質皮膜層1を厚膜化した際に顕著となる残留圧縮応力の増大を抑制し、硬質皮膜層1の厚膜化による耐摩耗性の改善が実現できる。特に、このときのパルス波を、負と正のバイアス電圧の周期であるバイポーラー方式として、バイアス電圧に印加する方法が挙げられる。この場合、成膜時にプラズマ中でイオン化された元素が被処理物に到達する際の運動エネルギーの観点から、負のバイアス電圧を印加した際に発生する格子の歪エネルギーにより高硬度化する。また、正のバイアス電圧を印加した際には、イオンは被処理物から反発する力が働くため、結晶格子が整列し、欠陥の少ない結晶粒が生成され、高強度な硬質皮膜層1が形成される。
さらに、本発明において、硬質皮膜層1、2の耐摩耗性改善のために厚膜化した際に生じる残留圧縮応力を制御するには、バイアス電圧をパルス化しパルス周波数を制御する必要がある。本発明ではパルス周波数を25kHzに設定した。これにより、0.3≦It/Ir<1、及び0.3≦Iw/Iu<1となり、残留圧縮応力値を0.5〜2GPaの最適な範囲に制御できる。パルス周波数が5kHz未満の場合は、Iw/Iu値は1を超える。このときの皮膜断面組織は、低残留圧縮応力を有する柱状組織が得られるが、柱状組織内における粒界間の密着強度が低く、切削加工時に発生した亀裂が容易に粒界を通って伝播するため、工具の欠損が生じてしまう。一方、50kHzを超えて大きい場合は、イオンが被処理物に到達する際の運動エネルギーが低減できないためIw/Iu値は0.3未満となる。Iv/Iu値が1以上であっても、硬質皮膜層2の残留圧縮応力が2GPaを超える様になり密着性が著しく低下する。より好ましくは、15〜30kHzである。
被覆プロセスは、まずAIP装置内を7×10−3Pa以下の真空状態にし、続いて5×10−2Pa程度の真空に保ちながら、基材を600℃まで加熱した。次に、基材に300Vのバイアス電圧を印加しながら、Arイオンによるエッチング処理を行った。次に、窒素ガスを導入して圧力を3Paとし、基材にバイポーラー方式のパルスバイアス電圧を印加しながら、アークカソード2に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、T2値が5.1μmとなるまで成膜した。アークカソード2の電流を止め、引き続きパルスバイアス電圧を印加しながらアークカソード1に100Aの電流を流してT1値が0.8μmとなるまで成膜した。
本発明では、バイアス電圧を高く設定することによって、硬質皮膜の高硬度化による耐摩耗性の改善を図った。また、バイポーラー方式でパルス化したバイアス電圧を適用することによって、硬質皮膜の残留圧縮応力の低減化を図った。即ち、本発明例1の硬質皮膜層1、2におけるバイアス電圧は、−100Vと+10Vの間で周期的に振幅させて基材に印加した。なお、このときのパルス波周波数は25kHzとした。上記の被覆プロセスによって、本発明例1を作製した。また、本発明例2から15、比較例16から31では、各アークカソード1、2のターゲット組成、各バイアス電圧値の設定値以外の条件は、本発明例1の被覆プロセスに準拠した。成膜条件を表1に示す。
表1の試料番号21において、25(2−10)は、25kHz(硬質皮膜層2は10kHz)であるパルス波周波数印加を表す。
表1の試料番号27において、25(2)は、25kHz(硬質皮膜層2のみ)であるパルス波周波数印加を表す。
表1の試料番号37において、25(1−5)は、25kHz(硬質皮膜層1は5kHz)であるパルス波周波数印加を表す。
表1の試料番号38において、25(1−50)は、25kHz(硬質皮膜層1は50kHz)であるパルス波周波数印加を表す。
表1の試料番号50において、25(2−5)は、25kHz(硬質皮膜層2は5kHz)であるパルス波周波数印加を表す。
表1の試料番号51において、25(2−50)は、25kHz(硬質皮膜層2は50kHz)であるパルス波周波数印加を表す。
硬質皮膜の組成測定は、各試料の切削用テストピースの膜断面を平面に研削・研磨し、その研磨部をEPMA(例えば日本電子(株)製JXA−8500R型)を用いて、加速電圧10kV、試料電流1μAで分析した。膜厚は、各試料の切削用テストピースを垂直方向に破断して、電解放射走査型電子顕微鏡(例えば日立製作所製S−4200型)で観察し、測定した。硬質皮膜のX線回折ピーク強度比、(200)面の格子定数の測定は、X線回折装置(理学電気(株)製RU−200BH型)を用いて、薄膜測定法では角度を1度に固定した薄膜設定(θ=5度を標準とし、必要に応じてθ=1度でも測定を行った)により2θを30〜70度の範囲で測定した。X線源にはλが0.1541nmのCuKα線を用い、バックグランドノイズは装置に内蔵されたソフトにより除去した。
本発明例1から15の(111)面の格子定数の測定結果において、a1値は、0.411≦a1≦0.415であり、a2値は、0.418≦a2≦0.422の範囲内であった。硬質皮膜の硬度測定は、超微小押し込み硬さ試験機((株)エリオニクス製超微小押込み硬さ試験機、ENT−1100型)を用いた。押し込み荷重は9.8mNとし、各試料につき10箇所測定し、その平均値を求めた。硬質皮膜の残留圧縮応力の測定は、曲率測定法により行い、残留応力測定用のテストピースを用いた。これは、縦10mm、横25mm、厚さ1mmの微粒超硬合金製の基材上下面を鏡面研磨することにより作製し、鏡面部の反り量(δ0)を測定した。このテストピースの片面にのみ硬質皮膜が被覆されるように、成膜装置に装着し成膜した。成膜後、同様に反り量(δ1)を測定し、テストピース厚さ(D)、破断面膜厚(d)を測定した。これらの数値から、(化1)によって残留応力値を算出した。(化1)において、Es値は基板のヤング率として518GPa、νs値は基板のポアッソン比として0.238、l値は最大たわみ量までの基板長さを12.5mmとした。測定結果を表2に示す。
(試験条件)
切削方法:平面削り加工
被削材: SKD11、130mm×250mmの角材
切削速度: 180m/min
一刃送り量:0.36mm/刃
切り込み量:1.0mm
切削油:なし、乾式切削
本発明例1では、硬質皮膜層1および硬質皮膜層2の皮膜硬度は両皮膜層とも29GPaを越え、残留圧縮応力は1.7GPaに低減された。そのため、硬質皮膜層1、2が高硬度化され耐摩耗性が優れたこと、また切削加工時に適度な残留圧縮応力が付与され皮膜の亀裂伝播やチッピングが抑制されたため、工具寿命は長くなった。さらに、切削加工後の工具表面の元素マッピングにより、従来例と比較してFe元素の検出量が少なかった。即ち、硬質皮膜層1の組成から、被削材の溶着が抑制され、硬質皮膜層1の脱落を防いだものと思われる。
一方、比較例28では、相対的にCr含有量が多く、皮膜硬度が24.4GPaに低下した。したがって、切削加工時の逃げ面摩耗が進行し、工具寿命は12分と短かった。
また、比較例29では、相対的にAl含有量が多く、部分的にhcp構造のAlNの存在が確認された。hcp構造のAlNは、皮膜硬度が低く、こちらの場合も切削加工時の逃げ面摩耗が進行し、短寿命であった。
本発明例3〜7では、添加元素量がいずれも10原子%以下であり、硬質皮膜層1を構成する(AlCr)N結晶格子内に、添加元素が進入あるいは置換することで、適度な歪みが発生し、皮膜の高硬度化が促進され、耐摩耗性が高まり、工具寿命も長くなったと推察される。また、添加元素の効果として、Siの添加による皮膜の高硬度化やV、Bの添加による潤滑性の改善などが挙げられる。この潤滑性については、ボールオンディスク試験による摩擦係数測定により評価した。被覆した超硬基材表面にステンレス製ボール(φ6)を摺動させ、大気中にて測定を行った。
本発明例1では、摩擦係数μ=0.6であったが、VやBを添加した場合には、μ=0.4程度であった。このように、低摩擦係数の硬質皮膜を被覆した切削工具では、切削加工に伴い発生する切削熱を抑制したり、切粉の排出をスムーズにしたりする効果を発揮する。また、NbやWを添加した場合には、耐熱性の改善が見られた。これは、超硬基材に被覆した硬質皮膜に対して、大気中900℃、1時間の加熱を行い、生成した酸化膜の膜厚により評価した。このとき、酸化膜厚は、Nbを添加した場合には本発明例1の50%、Wを添加した場合には30%にまで抑えられていた。したがって、切削加工時に最も発熱をしやすい工具境界部における耐久性は、これら耐熱効果の高い元素の添加が有効であることが分かった。
本発明例8のように成膜圧力が高い(窒素5〜7Pa)場合には、硬質皮膜層1、2の残留圧縮応力が低下し、それに伴って皮膜硬度も低下する傾向にあったものの、皮膜靭性が高くなり、切削加工時のチッピング抑制に効果的であった。
また、本発明例9のように成膜圧力が低い(2〜3Pa)場合には、残留圧縮応力が増大し、皮膜硬度も高まる傾向にあった。したがって、高硬度化されたために、耐摩耗性が高まり、工具寿命は長くなった。
一方、比較例35では成膜圧力をさらに高めた(8〜9Pa)。このとき、硬質皮膜層1を構成する(AlCr)N結晶中に、N原子が過剰となり、皮膜の結晶構造を崩し、皮膜の軟質化を招いたと思われる。
さらに、比較例36では成膜圧力をさらに低めた(1〜2Pa)。このとき、皮膜の残留圧縮応力が増大し、それに伴って皮膜硬度も高まった。しかしながら、切削加工時のチッピングが激しく、使用寿命は短かった。
本発明例10では、パルス周波数を10kHzとした。これにより、本発明例1と比較して、柱状の結晶組織が形成され、結晶性が高まることになる。このとき、X線回折による(111)面からピーク半価幅(W1)は、本発明例1の場合より小さくなる。一般に、柱状組織においては、結晶格子内の歪が少なく、皮膜は低硬度化する。しかしながら、本発明例1の場合、成膜バイアス電圧が高い状態にあり、切削工具としての使用に充分な皮膜硬度を有していた。
また、比較例37のように、パルス周波数が低すぎる場合、硬質皮膜の残留圧縮応力が充分に低減できない。また、比較例38のようにパルス周波数が大きすぎる場合には、成膜物質が基材に到達する際の運動エネルギーを極度に減じてしまい、基材あるいは硬質皮膜との密着性が劣化し、皮膜の軟質化を引き起こしてしまう。
本発明例11では、バイアス電圧を高めたことにより、皮膜硬度が高まり、耐摩耗性が高まったと考えられる。
また、本発明例12では、バイアス電圧を相対的に低下させて成膜した。このとき、本発明例12では、相対的に(200)面への配向が強まる結果、高靭化された硬質皮膜を形成し、切削加工時のチッピングが抑制され、工具寿命は長くなった。
一方、比較例39では、成膜バイアス電圧が高過ぎたために、成膜時に基材へ到達する際の運動エネルギーが非常に高く、極度の歪を与えながら成膜されたために、密着性が劣化した。
また、比較例40では成膜時のバイアス電圧が低く、(200)配向となったために皮膜硬度が低下した。それに伴い、切削加工時の逃げ面摩耗が進行しやすく、工具寿命は短くなった。
本発明例13では、Ti、Al含有量が規定範囲にあり硬質皮膜層2が29.9GPaと高硬度であったために耐摩耗性が高まり、工具寿命は長くなった。
一方、比較例41では、相対的にTi含有量が多く、皮膜硬度層2が24.7GPaに低下した。さらに、Ti元素は鋼材との反応性が高いため、比較例41で切削加工を行った際には、切削開始後5分で、刃先への溶着が原因で欠損に至った。
また、比較例42では、相対的にAl含有量が多く、部分的にhcp構造のAlNの存在が確認された。hcp構造のAlNは、皮膜硬度が低く、切削加工時の逃げ面摩耗が進行し、短寿命であった。
本発明例22、23、比較例52、53において、Iv/Iu値およびIw/Iu値は、バイアス電圧の大きさに影響され、これらの傾向は硬質皮膜層1の場合と同様であった。
また、本発明例25のように硬質皮膜層2の膜厚が8.3μmと厚い場合にも、充分な耐摩耗性が確認された。これは、硬質皮膜層2に残留する圧縮応力が、(TiAl)N組成では比較的低くなることに由来すると考えられる。
一方、比較例54では、硬質皮膜層1が2.7μmと厚くした。このとき、硬質皮膜層1の残留圧縮応力が3.8GPaと高くなり、切削加工時にチッピングを生じ、加工時間12分の時点で欠損に至った。
また、比較例55では硬質皮膜層2が14.3μmと厚くした。このとき、硬質皮膜層2の残留圧縮応力が(TiAl)N組成では比較的低くなるものの、厚膜化しすぎると無効化されてしまうことが示唆された。
更に、本発明例27は、反応ガス圧力を5Paに制御した。例えばa1、a2値の関係は、本発明例1の場合、a2/a1=1.017であるのに対し、本発明例27ではa2/a1=1.010であった。
本発明例27の硬質皮膜では、a1、a2値がもっとも近く、工具寿命は、本発明例1に対して、1.2倍程度優れた。この結果から、硬質皮膜における異相界面の密着性改善に関して、両皮膜間でのエピタキシャル成長を促すことが効果的であることが分かった。
2 硬質皮膜層2
3 基材
Claims (3)
- 超硬合金を基材とする切削工具に硬質皮膜を被覆した硬質皮膜被覆切削工具において、
該硬質皮膜は物理的蒸着によって成膜された2層構造を有し、該2層構造は表面側に被覆された硬質皮膜層1、及び基材側に被覆された硬質皮膜層2を有して構成され、
該硬質皮膜層1の組成は(AlaCr1−a)Nx(但し、夫々の元素の含有量は原子比であり、0.5≦a≦0.75、及び0.9≦x≦1.1である。)で表され、
該硬質皮膜層1のX線回折における(111)面の半価幅をW1(度)としたとき、0.7≦W1≦1.1であり、(111)面のピーク強度Ir、(200)面のピーク強度Is、及び(220)面のピーク強度Itとしたとき、0.3≦Is/Ir<1、及び0.3≦It/Ir<1であり、
該硬質皮膜層2の組成は、(TibAl1−b)Ny(但し、夫々の元素の含有量は原子比であり、0.4≦b≦0.6、及び0.9≦y≦1.1である。)で表され、
該硬質皮膜層2のX線回折における(111)面の半価幅をW2(度)としたとき、0.6≦W2≦0.9であり、(111)面のピーク強度Iu、(200)面のピーク強度Iv、及び(220)面のピーク強度Iwとしたとき、0.3≦Iv/Iu<1、及び0.3≦Iw/Iu<1であり、
X線回折における該硬質皮膜層1の(111)面の格子定数をa1(nm)及び該硬質皮膜層2の(111)面の格子定数をa2(nm)としたとき、1.005≦a2/a1≦1.025であり、該硬質皮膜全体の膜厚をTA(μm)、該硬質皮膜層1の膜厚をT1(μm)、及び該硬質皮膜層2の膜厚をT2(μm)としたとき、5≦TA≦12、0.1≦T1≦2、4≦T2≦10、及びTA=T1+T2であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。 - 請求項1に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、該硬質皮膜層1のAl及びCrのうちの少なくとも1種の元素について、夫々10原子%以下の範囲でSi、B、V、Nb、及びWのうちから選択される少なくとも1種の元素で置換したことを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
- 請求項1に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、該硬質皮膜層2のTi及びAlのうちの少なくとも1種の元素について、夫々10原子%以下の範囲でSi、B、V、Nb、及びWのうちから選択される少なくとも1種の元素で置換したことを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
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