以下に本発明の第1の実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
図1は本実施形態のボールジョイント10を示している。ボールジョイント10の用途は限定されないが、一例として、自動車の懸架機構部を構成するスタビライザと車体とを連結するスタビライザリンクに使用される。
このボールジョイント10は、ハウジング11と、ボールスタッド12と、ボールシート13と、ストッパリング14と、ダストカバー15等を備えている。ハウジング11にロッド部材16が溶接されている。
ハウジング11は例えば炭素鋼等の金属からなり、図1において上側に位置する開口部20と、円筒形の周壁部21と、開口部20の反対側に位置する底部22等を有している。開口部20の端壁20aには、後述するかしめ部80を構成する突縁25が形成されている。周壁部21の外面には、開口部20付近にダストカバー取付溝26が形成されている。ダストカバー取付溝26は、周壁部21の周方向に連続している。
ボールスタッド12は金属製であり、軸部30とボール部31とを有している。軸部30とボール部31は互いに一体に成形されている。軸部30に、雄ねじ部35と、第1の鍔部36と、第2の鍔部37と、小径部38等が形成されている。第1の鍔部36の径は第2の鍔部37の径よりも大きい。鍔部36,37間にダストカバー取付部39が形成されている。ダストカバー取付部39はボールスタッド12の周方向に連続している。ボール部31の先端面31aは平坦な形状に成形されている。
ボールシート13は合成樹脂製であり、ハウジング11の内部に収容されている。このボールシート13は、前記ボール部31が挿入される凹球面50と、ボール部31の抜け止めをなすオーバーハング部51と、ボール部31を凹球面50に挿入する際にボール部31の挿入を案内する斜面部52と、凹球面50の周りに形成された側壁部53と、底壁部54等を有している。オーバーハング部51と側壁部53と底壁部54は互いに一体成形されている。
ボール部31と凹球面50とは、互いにボールシート13の軸線Xまわりに回転可能に嵌合している。しかもこのボール部31は、ボールシート13の軸線Xに対して、ボールスタッド12が傾くことができるように、かつ、全ての方向に首を振ることができるように、凹球面50に嵌合している。
オーバーハング部51の内径D1(図1に示す)は、ボール部31の外径D2よりも小さい。このオーバーハング部51によって、凹球面50に挿入されたボール部31が凹球面50から抜け出ることが阻止される。
斜面部52は、ボールスタッド12の軸部30が挿通するボールシート13の孔部60(図1に示す)の内周面に形成されている。この斜面部52は、オーバーハング部51からハウジング11の開口部20に向かって内径が拡がるテーパ形状をなしている。この斜面部52は、ボールシート13の端面13aに連なっている。
ハウジング11の底部22とボールシート13の底壁部54は、ボール部31の外周面に沿う球の一部をなす形状となっている。ボールシート13の底壁部54は、ハウジング11の底部22に重なっている。ボールシート13の底壁部54とボール部31の先端面31aとの間には、グリース等の潤滑剤を溜めることのできる空間部61が形成されている。
ストッパリング14は、ハウジング11の開口部20の内側において、ボールシート13の端面13aに重ねて配置される。図2に示すようにストッパリング14は、リング状の基部70と、この基部70の内周側に基部70と一体に形成されるストッパ部71とを備えている。
ストッパ部71は、ボールシート13の前記斜面部52と対向するように、斜面部52に沿ってオーバーハング部51に向かって延びている。ストッパリング14の内径D3(図1と図2に示す)は、ボールスタッド12が揺動する際にボール部31が描く軌跡と干渉することがないような寸法に設定されている。図3中の符号Zはボール部31が回動する際の軌跡を示している。
ストッパリング14の材質の一例は金属である。しかし金属以外にも、ボールシート13の材料よりも強度の高い樹脂が使われてもよく、あるいは繊維強化合成樹脂が使用されてもよい。
ハウジング11の開口部20に、かしめ部80が設けられている。かしめ部80は、ハウジング11の開口部20の端壁20aと一体に形成された突縁25を塑性変形させることによって構成されている。突縁25の肉厚t(図3に示す)は、開口部20の端壁20aの肉厚Tの半分以下である。かしめ部80は、ハウジング11の全周にわたって設けることが望まれるが、強度的に問題がなければハウジング11の周方向の一部に設けてもよい。
かしめ部80を形成するには、図3に示すように、まず第1のかしめ工程において、ボールシート13の径方向に沿う荷重P1を突縁25に加える。この径方向の荷重P1によって、突縁25が、2点鎖線L1で示すように、斜め内側に45°程度傾くように塑性変形する。
次に、第2のかしめ工程において、この突縁25に、ボールシート13の軸線X方向に沿う荷重P2を負荷する。この荷重P2によって、突縁25とボールシート13の端面13aとの間に、ストッパリング14の基部70が挟まれるように突縁25が塑性変形する。かしめ部80の根元は曲率半径Rで湾曲するため、かしめ部80がボールシート13を圧迫し過ぎることを軽減できる。
このように、まず第1の工程において径方向の荷重P1によって突縁25を45°程度に傾斜変形させてから、第2の工程において軸線方向の荷重P2を加えることによってかしめ部80を形成するため、かしめ荷重がボールシート13に加わり過ぎることを回避できる。
図3に示すようにかしめ部80の幅W1は、ボールシート13の端面13aの幅W2の50%以上である。こうすることにより、安定したかしめ部80を得ることができ、ボールスタッド12の抜き荷重(軸線X方向に加わる引抜き荷重)に対して、かしめ部80が安定した抜き強度を発揮することができる。
しかもこのかしめ部80は、図1に示すように、ボールシート13の外周面13bから凹球面50までの距離が最小となる箇所をボールシート13の軸線X方向に延長した部位と、ボールシート13の外周面13bとの間の領域Sに形成される。この領域Sでは、軸線X方向にボールシート13の肉厚が確保されているため、ボールシート13に軸線X方向のかしめ荷重が負荷されても、ボールシート13はこのかしめ荷重に十分耐えることができる。
図4に示す実線m1は、前記かしめ加工によって突縁25を塑性変形させる際に必要な荷重(かしめ荷重と呼ぶ)と肉厚比(t/T)との関係を示している。図4に示す破線m2は、かしめ部80に軸線X方向の引抜き荷重を加えたときにかしめ部80が破壊する荷重(破壊荷重と呼ぶ)と肉厚比(t/T)との関係を示している。破壊荷重の目標値を満足する肉厚比の下限値Aは0.1であった。
肉厚比(t/T)が大きくなると破壊荷重も大きくなるが、肉厚比(t/T)がある値Bを越えるあたりから、かしめ荷重が急増し、加工しにくくなる。かしめ荷重が急増する値Bは0.4であった。以上の理由から、突縁25の肉厚tは開口部20の端壁20aの肉厚Tの10%〜40%であることが望ましい。肉厚比をこの範囲に設定することにより、ボールスタッド12の抜き強度と、かしめ加工に必要な荷重とのバランスをとることができる。また、突縁25のかしめ荷重によって開口部20付近が変形の影響を受けることを回避できる。
図1に示すようにゴム製のダストカバー15の一端15aが、ハウジング11のダストカバー取付溝26に嵌合され、サークリップ等の止め輪90によってハウジング11に固定される。ダストカバー15の他端15bは、ボールスタッド12のダストカバー取付部39に嵌め込まれている。
図1に2点鎖線L2で示すように、ボールスタッド12がボールシート13の軸線Xに対して所定量傾くと、ボールスタッド12の軸部30がストッパリング14のストッパ部71に当接することにより、ボールスタッド12がそれ以上傾くことが阻止される。
このボールジョイント10は、以下に述べる工程等を経て製造される。
(1)リング状の基部70とストッパ部71とを有するストッパリング14をプレス加工等によって成形する。
(2)ボールシート13の凹球面50にボールスタッド12のボール部31を挿入する。この工程の際にストッパリング14をボールシート13の端面13aに重ねてもよい。
(3)ボール部31が挿入されたボールシート13をハウジング11に挿入する。
(4)ストッパリング14を、ボールシート13の端面13aの所定位置に重ねる。
(5)ハウジング11の突縁25に、軸部30に向かう径方向の荷重P1(図3に示す)を負荷することによって、突縁25を斜め内側に傾けるように塑性変形させる。この工程が第1のかしめ工程である。
(6)前記突縁25に、ボールシート13の軸線X方向に沿う荷重P2を負荷することによって、突縁25とボールシート13の端面13aとの間にストッパリング14の基部70を挟むように突縁25を塑性変形させる。この工程が第2のかしめ工程である。
本実施形態のボールジョイント10によれば、ボールスタッド12に軸線X方向の引抜き荷重が負荷されたとき、オーバーハング部51によってボール部31の抜け止めがなされる。オーバーハング部51を変形させるような過大な荷重が軸線X方向に作用するときには、オーバーハング部51の変形をストッパ部71によって抑制することができる。ストッパリング14は、かしめ部80によってハウジング11に確実に固定されているため、このボールジョイント10は高い抜き強度を発揮することができる。
本実施形態のボールシート13は、金属製のハウジング11に形成された突縁25をかしめることにより、ストッパリング14を介してハウジング11に固定される。このため、従来のように熱かしめによってボールシートをハウジングに固定するものに比べて、抜き強度を高めることができる。
また、ハウジング11の底部22に合成樹脂製のボールシート13の一部が突出しないため、飛石や腐食性の液の影響を受けにくい。しかもハウジング11の底部22にロッド部材16を任意の角度で溶接することができる。また、ハウジング11の底部22とボールシート13の底壁部54を平坦な形状にする必要がなくなる。このためハウジング11の底部22とボールシート13の底壁部54を、ボール部31の外周形状に応じて、球の一部をなす形状にすることが可能となり、ハウジング11を小形化することができる。
この実施形態のボールジョイント10は、ボールシート13とかしめ部80との間にストッパリング14が介在するため、ボールシート13にかしめ荷重が直接加わることを回避でき、かしめ荷重の影響がボールシート13に及ばないようにすることができる。
図5〜図7は本発明の第2の実施形態のストッパリング14Aと、ボールシート13Aの一部を示している。図5に示すように、ストッパリング14Aのストッパ部71に、ストッパリング14Aの周方向に間隔を存して複数のスリット100が形成されている。図6に示すようにボールシート13Aには前記スリット100に挿入される凸部101が形成されている。
図7に示すように、ストッパリング14Aをボールシート13Aに重ねた状態において、凸部101が、スリット100からボールスタッド12(図1に示す)の軸部30に向かって突出するようになっている。このためボールスタッド12がボールシート13Aに対して所定量傾いた時に、ボールスタッド12の軸部30が凸部101に当接する。
この実施形態によれば、ボールスタッド12が傾いたときにボールスタッド12の軸部30が合成樹脂製の凸部101に当接することができる。このため金属製のボールスタッド12とストッパリング14Aが直接すること(金属同士の接触)を回避することができる。
図8は本発明の第3の実施形態のストッパリング14Bを示している。このストッパリング14Bは、径方向に二分割された第1のリング片110と第2のリング片111とからなり、これらリング片110,111を合わせることにより、ストッパリング14Bを構成するようにしている。
このような分割タイプのストッパリング14Bによれば、ストッパリング14Bの内径D3がボールスタッド12(図1に示す)のボール部31や鍔部36の外径より小さくても、ストッパリング14Bを軸部30の所定位置に配置することができる。
図9は本発明の第4の実施形態のストッパリング14Cを示している。このストッパリング14Cには、周方向の一部に切れ目120が形成されている。このストッパリング14Cは平面方向から見てC形をなしている。
このような切れ目120を有するC形のストッパリング14Cであれば、ストッパリング14Cの内径D4がボールスタッド12(図1に示す)のボール部31や鍔部36の外径より小さくても、ストッパリング14Cの切れ目120にボールスタッド12の小径部38を矢印E方向から通すことにより、ストッパリング14Cを軸部30の所定位置に配置することができる。
図10は、本発明の第5の実施形態のボールシート13Bの底面を示している。このボールシート13Bは、凹球面50に複数条の溝部130が形成されている。グリース等の潤滑材が溝部130に入ることによって、ボールシート13Bとボール部31(図1に示す)との摩擦面が効果的に潤滑される。
またこのボールシート13Bでは、ボール部31を凹球面50に挿入する際にボール部31の先端側の空気を抜くことができるように、底壁部54に貫通孔131が形成されている。この貫通孔131は溝部130に連通している。このような貫通孔131を形成すれば、ボール部31を凹球面50に挿入する際に、空気がボール部31と底壁部54との間に閉じこめられることを防止でき、圧縮された空気の圧力によって底壁部54が破損することを防止できる。
図11は、本発明の第6の実施形態のボールシート13の一部とハウジング11のかしめ部80等を示している。このハウジング11のかしめ部80は、軸線方向に沿う断面が弧状となるように、突縁25が成形されている。このように突縁25を弧状に形成することにより、突縁25をかしめた際に生じるスプリングバック(突縁25が図3に2点鎖線Fで示す方向に戻ること)を軽減することができる。
図12は、本発明の第7の実施形態のボールシート13とストッパリング140の一部を示している。このストッパリング140は、実質的にフラットな形状であるが、ストッパ部141がオーバーハング部51側に延び、その一部がストッパリング140の斜面部52と対向している。フラットな形状のストッパリング140はボール部31の抜け強度が比較的小さくてよいボールジョイントの場合に採用することができる。
図13は本発明の第8の実施形態のボールジョイント10を示している。この実施形態では、ハウジング11の底部22にロッド部材16が溶接等によって固定されている。ロッド部材16の取付角度は任意である。例えば図13に2点鎖線L3で示すように、ロッド部材16がボールシート13の軸線X上に真っ直ぐに位置するようにロッド部材16をハウジング11の底部22に固定してもよい。なお、ボールシート13の底壁部54に、グリース溜まりとして利用できる孔145が形成されている。
図14は、本発明の第9の実施形態のボールシート13の一部とストッパリング14の一部を示している。この実施形態では、ハウジング11の端部の内周面に段差部150が形成され、この段差部150によってストッパリング14の基部70の外端70aが支持されている。この実施形態によれば、かしめ部80を構成する突縁25をかしめたときに、突縁25に加えたかしめ荷重がストッパリング14の基部70を介して段差部150によって支持されるため、かしめ荷重がボールシート13に入力することを抑制できる。
図15は本発明の第10の実施形態のボールジョイント10を示している。この実施形態のダストカバー15の一端15aの内部にリング状の補強材160が設けられている。このダストカバー15の一端15aをハウジング11の周壁部21を圧入することにより、ダストカバー15の一端15aがハウジング11が取付けられている。それ以外の構成は第1の実施形態(図1)のボールジョイント10と同様であるため、第1の実施形態と共通の箇所に共通の符号を付して説明を省略する。
図16は本発明の第11の実施形態のボールジョイント10を示している。この実施形態のストッパ部71では、先端側へ向かってその板厚が薄くなるようにプレス成形等で形成した。それ以外の構成は第1の実施形態(図1)のボールジョイント10と同様であるため、第1の実施形態と共通の箇所に共通の符号を付して説明を省略する。このように構成されていると、ストッパ部71の先端側のエッジとボールスタッド12とが干渉することが防止でき、ボールスタッド12の揺動角をより大きくとれる。