本発明は、起立や着座の運動機能の回復や強化のためのトレーニングに用いることのできるトレーニング装置に関するものである。
一般的に高齢者になるほど、足腰の衰えにより、起立着座の運動機能に支障をきたすようになる。起立着座に困難さを感じると、動くことが面倒になって運動不足になり、これが筋力の低下に繋がって、いっそう足腰が衰えるという悪循環に陥ってしまう。
そのため、起立着座の運動機能の回復や強化を目的として、器具や装置が開発されている。例えば、特許文献1には、モータで昇降駆動される座部の押し上げ力、繰り返し回数および昇降の上端・下端位置を任意に設定して、起立運動の繰返し訓練を行うトレーニング装置が示されている。この装置の着座部には圧力センサが設けられており、これによって検出された荷重が上限閾値に達したときに着座部が停止してから原点位置まで移動する。この特許文献1には、着座部の押し上げ力を任意に設定することができると記載されているが具体的な設定方法については記載されていない。
発明者の河村隆らは、人の起立着座運動に関して鋭意研究を行っており、その運動解析から高齢者と若年者との起立着座運動の差異を見出した。
その差異とは、高齢者は若年者と比較して
1.体幹の曲げ角度・速度不足である。
2.重心を足裏に移しきる前に起立動作を行っている。
特許文献1に記載されたトレーニング装置のように単純に上下動を繰り返すだけでは、上記した高齢者特有の事情が考慮されておらず、起立着座機能の回復や強化の効率が悪い。また、高齢者は、通常の生活において高齢者特有の動き方で起立着座を行っているうちに、理想的な起立着座の動き方を身体が忘れてしまっている場合がある。
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、理想的な起立着座の動き方を身につけることができ、かつ、効率よく起立着座機能の回復、強化を行うことのできるトレーニング装置を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のトレーニング装置は、座部と、下限位置から上限位置までの間を該座部を昇降させる昇降機構と、該昇降機構を駆動する動力部と、該座部に掛る荷重を検出するための荷重検出部と、該荷重検出部に接続されると共に該動力部を制御して該座部を昇降させる制御部とを備え、該制御部は、該座部に掛かる最大荷重を予め記録すると共に、該座部を該下限位置から該上限位置まで上昇させる場合、および/または、該上限位置から該下限位置まで下降させる場合に、該座部に掛る該荷重が該最大荷重よりも小さな所定の補助力制限値以下のとき、該荷重に略等しい補助力を該座部の押し上げ方向に発生させるように該動力部を制御し、該荷重が該補助力制限値を越えたとき、該動力部を制御して該座部を停止させることを特徴とする。
同じく請求項2に記載のトレーニング装置は、請求項1に記載されたもので、前記制御部は、前記所定の補助力制限値として、前記下限位置に近づくほど大きくなり前記上限位置に近づくほど小さくなる値を用いることを特徴とする。
請求項3に記載のトレーニング装置は、請求項1に記載されたもので、さらに表示部を備え、前記制御部は、該表示部に前記補助力制限値および前記荷重を表示させることを特徴とする。
請求項4に記載のトレーニング装置は、請求項1に記載されたもので、さらに表示部を備え、前記制御部は、前記座部の移動速度を算出して、該算出した移動速度と、あらかじめ設定した目標速度とを該表示部に表示させることを特徴とする。
請求項5に記載のトレーニング装置は、請求項1に記載されたもので、前記座部に対して前方および/または側方に、該座部に座った訓練者が掴まることのできる掴持部を備えることを特徴とする。
請求項6に記載のトレーニング装置は、請求項1に記載されたもので、前記制御部が前記動力部を制御して、前記座部を、該座部の位置に対応した所定の速度で昇降させる速度制御モードをさらに備えることを特徴とする。
請求項7に記載のトレーニング装置は、請求項1に記載されたもので、前記制御部は、少なくとも前記補助力制限値および前記荷重のデータを受け渡し可能にコンピュータ端末装置が接続可能であることを特徴とする。
本発明のトレーニング装置では、座部と、座部を昇降させる昇降機構と、動力部と、座部に掛る荷重を検出するための荷重検出部と、座部を昇降させる制御部とを備え、制御部は、荷重が予め記録された最大荷重よりも小さな所定の補助力制限値以下のときに、補助力を座部の押し上げ方向に発生させる。このため、訓練者の荷重が足裏に掛り始めた後に補助が開始されることになり、「重心を足裏に移す前に起立動作を行う」という高齢者特有の動作を補正でき、理想的な起立動作を身につけることができる。また、本発明装置は、補助力制限値以下において荷重に略等しい補助力を発生させることにより、起立動作、および/または、着座動作に不足する力だけを補助することになり、訓練者にとって過不足の無い負荷で効率的にトレーニングを行わせることができる。さらに、本発明装置では、制御部は、荷重が補助力制限値を越えたときに座部を停止させることにより、起立時には訓練者は休みつつ無理なくトレーニングを行うことができ、着座時には訓練者は楽をすることなく負荷を与えて効率的にトレーニングを行うことができる。また、座部が停止するので安全にトレーニングを行うことができる。
また、本発明のトレーニング装置では、制御部が、所定の補助力制限値として、下限位置に近づくほど大きくなり上限位置に近づくほど小さくなる値を用いる。起立着座動作には、下限位置に近い方が力を多く必要とし、上限位置に近い方が力は少なくてすむので、起立着座の動作に即した補助制限値を用いることで、過度に補助することなく訓練者に力を出させ易くして、一層トレーニング効果を高めることができる。
また、本発明のトレーニング装置によれば、制御部は、表示部に補助力制限値および荷重を表示させることにより、座部への荷重や補助力、および補助力制限値を視覚によって訓練者に認識させることができ、トレーニングに目標を与え、かつ、その達成度がわかるので、訓練者に、意欲的にトレーニングを行わせることができる。
また、本発明のトレーニング装置によれば、制御部は、座部の移動速度を算出して、算出した移動速度と目標速度とを表示部に表示させることにより、トレーニングに目標を与え、かつ、その達成度および違いから理想的な立ち上がり方を認識させつつ、訓練者に、意欲的にトレーニングを行わせることができる。
また、本発明のトレーニング装置によれば、座部に対して前方および/または側方に、座部に座った訓練者が掴まることのできる掴持部を備えることにより、起立時に掴持部に掴まって身体を引き付けることで、重心移動のトレーニングを効率的に行うことができる。また、掴持部を掴むことで訓練者はバランスを崩しにくく、転倒を防止でき安全である。
また、本発明のトレーニング装置によれば、制御部は、動力部を制御して座部を所定の速度で昇降させる速度制御モードを備えることにより、訓練者の足腰のストレッチ運動を行うことができる。また、高齢者は、起立着座動作の速度が不足しがちであるので、理想的な起立着座動作の速度を体感して、この速度を目標としてトレーニングすることができる。低速に慣れたら高速の起立着座運動を行うことで、効果を一層大きくすることができる。
また、本発明のトレーニング装置によれば、制御部には、データを受け渡し可能にコンピュータ端末装置が接続可能であるため、コンピュータ端末装置でトレーニングデータの記録、表示を行ったり、過去のトレーニングのデータと比較したりすることが可能になる。
発明を実施するための好ましい形態
以下、本発明の実施の好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
図1には本発明の一実施形態であるトレーニング装置の下限位置での使用状態を示す側面図が示されている。また、図2には、そのトレーニング装置の上限位置での使用状態を示す側面図が示されている。両図には、装置を使用する訓練者も図示されている。
トレーニング装置1は、基台2、昇降機構3、座部4、サーボモータ5、ロードセル6、把持柱7、表示操作部8、および制御ボックス9を備えている。また、同図に示されるように、トレーニング装置1にはコンピュータ端末装置12が接続されている。
基台2は、装置底部を構成する略長方形の板であって、水平に設置可能に四隅にレベル調整脚が付されている。この基台2の一辺中央部に昇降機構3が配置され、その対辺中央部には把持柱7が配置されている。
昇降機構3は、座部4を昇降させるものであり、一例として、同図に示すように、支持柱20、吊りベース21、シャフト22、および移動体23に、昇降機構3を駆動するサーボモータ5、および、座部4に掛る荷重を検出するロードセル6が付されて構成されている。
支持柱20は、鉄製板を折り曲げて柱状に形成したものであって、基台2の上に鉛直に起立固定されている。この支持柱20の平坦な一側面には、スライドレール24が、長手方向に沿って付されている。
また、支持柱20の上端部(図の上部)には、ロードセル6を介して、吊りベース21が吊り下げ支持されている。ロードセル6は、本発明における荷重検出部の一例であって、掛る荷重(力)を電気信号に変換して出力する。その方式には、ひずみゲージの電気抵抗変化を利用するものや、圧電効果を利用するもの、静電容量変化を利用するもの、磁気ひずみによる磁気変化を利用するもの等の各種方式があるが、いずれの方式のものであっても本発明に用いることができる。
吊りベース21は、支持柱20のスライドレール24に嵌ってガイドされており、安定してロードセル6によって吊り下げ支持されている。この吊りベース21には、サーボモータ5がその駆動軸を下向きにして固定されている。
サーボモータ5は、本発明における動力部の一例であって、サーボ機構で位置、速度等を制御可能なモータである。サーボモータの方式には、AC電動方式やDC電動方式があるが、いずれの方式のものであっても本発明に用いることができる。このサーボモータ5の駆動軸には、その軸と同軸に、ベアリング入りの回転継手25を介して、シャフト22が連結されている。この場合、シャフト22からの荷重がすべて回転継手23を介して吊りベース21に掛るように、回転継手25のハウジングが吊りベース21に固定されている。
シャフト22は、略全体に雄螺子が形成されており、その下端(図の下部)は振り止めされている。シャフト22には、移動体23の上昇限界位置を規定するストッパ26、および下降限界位置を規定するストッパ27が固定されている。
移動体23は、螺合部材30、支持部材31、スライド片32,32、および前後スライド機構33によって構成されている。螺合部材30は、シャフト22に形成された雄螺子に螺合可能な雌螺子が形成されて、シャフト22に螺合挿通されている。この螺合部材30は、支持部材31と一体化されている。支持部材31は、座部4を支持可能に、側面形状が逆L字型に形成されている。この支持部材31には、その背面に支持柱20のスライドレール24に嵌るスライド片32,32が一体化されている。
移動体23は、その螺合部材30がシャフト22に螺合挿通して、スライド片32,32がスライドレール24にガイドされることで、その荷重の全てがシャフト22に掛ると共に、シャフト22の正逆回転で昇降自在になっている。なお、昇降機構3や移動体23の支持柱20側は、非図示のカバーで覆われており、人の接触や挟み込み等による事故が防止されている。
支持部材31の上面部分には、前後スライド機構33が付されている。この前後スライド機構33によって、座部4が前後方向(図では左右方向)に位置調整可能に装着されている。
座部4は、一例として、自転車のサドル型形状に形成され、そこに背もたれ11が付されている。
把持柱7は、座部4に対して前方の正面にあって、座部4に座った訓練者が掴まることのできる掴持部35を支持するものであり、掴持部35の高さを調整可能に、全体の長さを伸縮可能に構成されている。掴持部35は、一対の長さ約20cmの握り棒を、把持柱7の頂部からその左右方向に伸ばして設けられている。
また、把持柱7の上部には、表示操作部8が設けられている。表示操作部8は、タッチパネルであって、本発明の表示部に相当して数値やグラフ等をカラー表示すると共に、操作部も兼ねてトレーニング装置1の各種設定に用いる。
制御ボックス9は、把持柱7の台座部の内側に配されている。制御ボックス9には、トレーニング装置1の作動を制御する制御部10や、電源部などを内蔵する。上記したサーボモータ5、ロードセル6、および表示操作部8は、各々非図示の電気配線で制御ボックス9に配線接続されて、図3に示されるように、制御部10に接続されている。制御部10は、CPUや記憶回路、インタフェース回路などによって構成されている。記憶回路には、動作プログラムと共に、後述する補助力制御モードにおける補助力制限値を算出するための計算式や、速度制御モードにおける速度変化線を算出するための計算式などが予め記録されている。また、記憶回路は、トレーニング中の各種データや設定値を記憶する。
また、制御部10は、コンピュータ端末装置12が接続可能に構成され、相互にデータを送受可能に構成されている。コンピュータ端末装置12は、液晶表示パネル付きのパーソナルコンピュータが例示される。コンピュータ端末装置12は、データを記録可能なハードディスクを内蔵すると共に、持ち運び可能な記録媒体にデータを記録可能な書込装置を有している。記録媒体には、フレキシブルディスク、CD−RW(Compact Disk ReWritable)、半導体メモリカードなどが例示される。また、コンピュータ端末装置12には、A4用紙などを印刷可能なプリンタが接続されている。
制御部10は、サーボモータ5を制御することで、座部4の位置および移動速度を制御しつつ昇降可能に構成されている。また、制御部10は、ロードセル6によって検出した荷重から、吊りベース21、サーボモータ5、シャフト22、移動体23、および座部4などの機器構成部材の荷重を差し引いて、座部4に掛けられている荷重を算出可能に構成されている。
次に、トレーニング装置1の動作について説明する。
先ず、トレーニング装置1に電源投入すると、制御部10は、表示操作部8に訓練者の氏名、年齢の入力を促す表示や50音ボタンや数字ボタン(共に非図示)を表示させる。訓練者によって表示操作部8が操作されて入力された氏名や年齢を、制御部10は、記憶回路に記録する。
続いて、制御部10は、表示操作部8に座部4の下限位置および上限位置を設定するための下降ボタン、上昇ボタンや下限決定ボタン、上限決定ボタン(共に非図示)を表示させる。下降ボタンまたは上昇ボタンが操作されると、制御部10は、サーボモータ5を制御して安全な速度で座部4を下降または上昇させる。図1に示されるように、トレーニングを行うために適切な下限位置に座部4が移動したときに、訓練者は下限決定ボタンを操作する。このときの座部4の位置を、制御部10は、下限位置として記憶回路に記録する。さらに、制御部10は、訓練者に体重を掛けて着座を促がす旨を表示操作部8に表示させ、ロードセル8から荷重を入力し、座部4に掛けられた荷重を最大荷重として記憶回路に記録する。
続いて、上昇ボタンの操作により、図2に示されるように、訓練者が起立した状態まで座部4を上昇させたときに、訓練者は上限ボタンを操作する。このときの座部4の位置を、制御部10は、上限位置として記憶回路に記録する。
次に、制御部10は、表示操作部8に、トレーニングのモード選択を行うモード選択画面(非図示)を表示させる。トレーニングのモードには、補助力制御モード、および速度制御モードの2つのモードがある。訓練者は、いずれのモードでトレーニングを行うか選択する。また、制御部10は、トレーニングの開始位置となる下限位置まで座部4を安全なスピードで下降させる。
最初に、補助力制御モードが選択された場合のトレーニング装置1の動作について説明する。図4には、補助力制御モードにおける制御部10の動作フローチャートが示されている。
同図に示されるように、最初に制御部10は、表示操作部8に補助を行う力の制限レベルの大小を設定させる設定ボタン、および昇降繰り返しの目標回数設定ボタン(共に非表示)を表示させて、設定させる(ステップ51)。この場合、一例として、大中小の3段階の中から補助レベルを選択させる。
次に、制御部10は、訓練者によって表示操作部8で選択された補助レベルの大中小に応じて、座部4の位置に対応する所定の補助力制限値を算出する(ステップ52)と共に昇降繰り返し目標回数を記憶回路に記録する。
図5には、座部4の位置に対する補助力制限値、補助力および荷重の関係が図示されている。同図中、横軸に、下限位置から上限位置までの間の座部4の位置が示され、縦軸に、補助力制限値、荷重、および補助力が示される。
補助レベルを大に設定したときには補助力制限値A1、補助レベルを中に設定したときには補助力制限値A2、補助レベルを小に設定したときには補助力制限値A3が算出される。この補助力制限値A1〜A3は、上昇時および下降時に、座部4を押し上げる方向への最大の補助力を規定する。また、補助力制限値A1〜A3は、座部4を押し上げ補助する補助領域と、座部4を停止させる停止領域とを規定する。
補助力制限値A1〜A3は、一例として、上昇時および下降時に、下限位置から上限位置まで一定の値とする。また、補助力制限値A1〜A3は、いずれも記憶回路に記録されている最大荷重よりも小さな値とする。例示すると、制御部10は、補助力制限値A1を最大荷重の4/5の値、補助力制限値A2を最大荷重の3/5の値、補助力制限値A3を最大荷重の2/5の値に算出する。
ここでは訓練者によって、補助レベルに大が選択され、補助力制限値A1が算出されたものとして説明する。
制御部10によって補助力制限値A1が算出されると、続いて、図4のステップ53に示されるように、制御部10は、表示操作部8にトレーニング画面を表示させる。トレーニング画面については後述する。
続いて、制御部10は、ロードセル6からの入力によって座部4に掛かる荷重を逐次検出し(ステップ54)、この荷重が、現在の座部4の位置における補助力制御値A1以下であるか否かを判別する(ステップ55)。
制御部10は、荷重が補助力制限値A1以下であった場合、検出された荷重と略等しい補助力となるようにサーボモータ5を制御して、座部4を押し上げる方向の補助力を発生させる(ステップ56)。
ステップ55で、荷重が補助力制限値A1を超えていると判別したときに、制御部10は、サーボモータ5を直ちに停止させることで座部4を停止させ(ステップ57)、ステップ53に戻る。
制御部10は、ステップ53〜57のループ処理を短い時間間隔で繰り返す。また、フローチャート中には図示しないが、座部4が上限位置、および下限位置に達したときに座部4を停止させて、上昇、下降を切り替える。制御部10は、設定された繰り返し目標回数だけ座部4が下限位置から上限位置の間を昇降した後に座部4を停止させる。
また、フローチャートには図示しないが、制御部10は、コンピュータ端末装置12に、補助力モードであること、補助力制限値A1、座部4の位置と位置に対する荷重変動のデータ、上限位置、下限位置、最大荷重、目標回数、繰り返し回数、および訓練者氏名のデータを送信する。コンピュータ端末装置12は、送信されたこれらデータを年月日や時間データと共にハードディスクや記録媒体に保存する。コンピュータ端末装置12では、保存したデータのディスプレイ表示や印刷が可能である。また、過去に保存したデータと対比させて表示や印刷することもできる。ディスプレイ表示や印刷には、表形式での数値表示やグラフ表示などを適宜用いることができる。
この制御による機器および訓練者の動きについてさらに説明する。
トレーニングの開始時には、図1に示されるように、訓練者は下限位置の座部4に体重を預けて腰かけ、掴持部35を掴んでいる。このとき、制御部10は、ロードセル6からの入力で、図5のP点に示される最大荷重を検出する。
訓練者が起立動作を開始すると、座部4に掛っていた荷重が訓練者の足裏に掛り始める。これにより、座部4に掛る荷重が減少し始め、やがて、補助力制限値A1と等しい図5のQ点まで荷重が減少する。これによって制御部10は、座部4を押し上げる補助を開始する。
このように、荷重が減少してから補助を開始することで、訓練者の荷重が足裏に掛り始めた後に補助が開始されることになる。また、掴持部35に身体を引きつけることで重心移動を楽に行うことができる。
制御部10は、例えば同図のR点に示されるように、座部4に掛かっている荷重と略等しい補助力を発生させる。これにより、起立動作に不足する力だけが補助される。
また、例えば、同図のS点に示されるように、訓練者の筋力不足や疲れから、座部4に補助力制限値A1を超える荷重が掛かったときには、制御部10は座部4を直ちに停止させる。訓練者が更に起立動作を再開し、荷重が補助力制御レベルA1以下になったときには、制御部10は直ちに補助を再開する。
起立動作が終了して、上限位置に達すると、制御部10は座部4を停止させる。このとき、荷重は座部4にほとんど掛からなくなる。
訓練者が、着座動作を開始すると、座部4に荷重が掛かり始める。この場合、図5においては、上限位置から下限位置に座部が向かうことになる。このとき、制御部10は、起立動作時と同様に、補助力制御レベルA1以下の荷重に対してのみ補助を行い下降させる。つまり、訓練者が体重を座部4に掛けて楽に着座しようとすると、荷重が補助力制御レベルA1を超えて、座部4が停止してしまう。これにより、着座時に一気に座部4に体重を掛けて楽に下降させることが防止される。また、着座に不足する力のみが過不足なく補助される。
下限位置まで座部4が下降したときに制御部10は、座部4を停止させる。起立着座動作を、訓練者は目標回数行うことでトレーニングを行う。
起立着座動作を無理なく行うことができるようになったら、補助レベルを小さくして、つまり補助力制限値A2やA3に設定してトレーニングすることで、起立時の重心移動や筋力強化を一層促進することができ、より理想的な起立着座動作を行えるようになる。
なお、上記では、補助力制限値として、下限位置から上限位置まで一定の場合について説明したが、補助力制限値は、座部4の位置に対応して変化させることもできる。起立着座動作には、下限位置に近い方が力を多く必要とすることから、補助力制限値として下限位置に近づくほど大きくなり上限位置に近づくほど小さくなる値を用いることが望ましい。例えば、図6に示されている、補助力制限値C,Dのように、下限位置から上限位置まで所定の傾きで補助力を減少させる1次関数を用いて算出したり、補助力制限値Eのように、反比例関数を用いて算出したりするように、上限位置から下限位置まで減少する値を用いることもできる。
また、補助力制限値は、関数等で算出することに限られず、下限位置から上限位置までの座部4の位置に対する補助力制限値を多数のデータとして記憶回路に記録して用いることもできる。また、上昇時と下降時とで、補助力制限値を変更してもよい。さらに、上昇時だけ補助力制限モードで作動させ、下降時には速度一定で下降させることもできる。さらに、上昇時には速度一定で上昇させ、下降時だけ補助力制限モードで作動させることもできる。また、補助力の大小設定は、多段階の中から選択させてもよいし、大〜小までの間をあたかもスライドレバーを動かすように連続可変的に設定させてもよい。また数値で設定させることもできる。また、座部4に掛る荷重と等しい補助力で補助したが、荷重よりも若干小さい、または大きい補助力で補助してもよい。
次に、補助力制御モード時のトレーニング画面表示について説明する。
トレーニング画面表示には、力表示および速度表示の2種類があって、いずれを表示させるかは、訓練者が表示操作部8を操作することで選択することができる。
図7には、表示操作部8に表示される、力表示の場合のトレーニング画面が示されている。同図に示されるように、制御部10は、表示操作部8に、訓練者の氏名41、昇降の目標回数42、現在回数43、補助力制限値および座部4に掛る荷重を示す力メーター44と、座部4の現在位置を示す位置メーター45が表示させる。
同図に示されるように、力メーター44は、縦長の長方形状の指示枠の下端部を荷重0とし、指示枠の上端部を最大荷重として、その間を荷重の実測値を示す指示線44aがリアルタイムに上下に移動して荷重を表示するものである。また、力メーター44には、補助力制限値が指示線44bで表示されている。
例えば、座部4に最大荷重から補助力制限値までの間の荷重がかかっているときには、訓練者は、同図中に2点鎖線で示される荷重の指示線44aを見て、補助力制限値の指示線44b以下になるまで力を出せば、補助が開始されることを視認でき、この指示線44bを目標値としてトレーニングすることができる。また、補助されているときには、荷重すなわち補助力を視認できると共に、補助を受けない荷重0までどれくらいか視認できるので、荷重を0にすることを目標値としてトレーニングすることができる。
同図に示されるように、位置メーター45は、縦長の長方形状の指示枠の下端部を下限位置とし、指示枠の上端部を上限位置として、座部4の現在位置を指示線45aでリアルタイムに表示するものである。
図8には、表示操作部8に表示される、速度表示の場合のトレーニング画面が示されている。同図に示されるように、制御部10は、表示操作部8に、訓練者の氏名41、昇降の目標回数42、現在回数43、理想的な起立着座動作の目標速度と速度の実測速度とを軌跡でグラフ表示する速度グラフ46と、座部4の現在位置を示す位置メーター45が表示させる。なお、すでに説明した表示と同様の表示には同じ符号を付して説明を省略する。
制御部10は、座部4の位置変化から速度を算出して速度グラフ46にその変化を示すグラフ線46aで表示させる。また、制御部10は、目標速度として、後述する速度制御モード時に算出する速度変化線B3(速度制御モードで高速を選んだときの移動速度)をグラフ線46bで表示させる。
これらを表示させることによって、目標回数に対する現在の回数、補助力制限値や荷重の実測値、目標速度や実測速度、現在位置を訓練者に具体的に知らせることができる。特に、補助力制限値や荷重の実測値、または、目標速度および実測速度を知らせることで、トレーニングに目標を与え、かつ、その達成度がわかるので、訓練者は、意欲的にトレーニングを行うことができる。
次に、速度制御モードが選択された場合の動作について説明する。
図9には、速度制御モードにおける制御部10の動作フローチャートが示されている。
同図に示されるように、最初に制御部10は、表示操作部8に速度の高低を設定させる設定ボタン、および昇降繰り返しの目標回数設定ボタン(共に非表示)を表示させて、設定させる(ステップ61)。この場合、一例として、高速・中速・低速の3段階の中から速度を選択させる。また、昇降繰り返し目標回数を記憶回路に記録する。
次に、制御部10は、予め記憶回路に記録されている速度算出のための計算式、記憶回路に記録されている下限位置、および上限位置を読み込みこんで、これらと、訓練者によって選択された速度の高低とから、下限位置から上限位置、上限位置から下限位置までの座部4の位置に対応した制御速度を算出する(ステップ62)。
図10に、着座部位置と速度との関係を図示する。同図では、横軸に、下限位置から上限位置までの間の座部4の位置を示し、縦軸に、座部4の速度を示す。
速度を低速に設定したときには制御速度B1、速度を中速に設定したときには制御速度B2、速度を高速に設定したときには制御速度B3が算出される。
制御速度B1〜B3は、一例として、同図に示されるように下限位置から上限位置まで放物線を描く軌跡とする。その放物線の頂部の最大速度を例示すると、制御部10は、制御速度B1は0.1m/s、制御速度B2は0.2m/s、制御速度B3は0.3m/sの値に算出する。
ここでは訓練者によって、速度に低速が選択されたのものとして以下説明する。
制御部10は、制御速度B1を算出すると、表示操作部8のトレーニング画面に開始を表示させ、図9のステップ63に示されるように、算出した制御速度B1に従って、座部4を下限位置→上限位置→下限位置に昇降移動させる。制御部10は、この昇降移動が設定された目標回数に達していると判別したとき(ステップ64)は、座部4を停止させ、目標回数に達していないと判別したときには、ステップ63に戻る。
このように、設定した速度で強制的に座部4を昇降させることによって、訓練者は、足腰のストレッチ運動を行うことができる。また、高齢者は、起立着座動作の速度が不足しがちであるので、理想的な起立着座動作の速度を体感することができ、この速度を目標としてトレーニングすることができる。
また、フローチャートには図示しないが、制御部10は、コンピュータ端末装置12に、速度制御モードであること、座部4の位置に対する速度、上限位置、下限位置、目標回数、繰り返し回数、訓練者氏名のデータを送信する。コンピュータ端末装置12は、補助力制御モード時と同様に、送信されたこれらデータを年月日や時間データと共にハードディスクや記録媒体に保存し、ディスプレイ表示や印刷することができる。
なお、上記では、制御速度として、下限位置から上限位置まで放物線状に速度を算出する例について説明したが、この例に限られない。例えば、図11に示される、制御速度Fのように、下限位置及び上限位置における速度が0で、あとの速度は一定とする台形状に変化させることもできるし、制御速度Gのように、下限位置と上限位置との1/3のところに頂部を有する山形状に変化させてもよい。また、制御速度を関数等で算出することに限られず、正規化され多数のデータとして記憶回路に予め記録しておくこともできる。また、上昇時と下降時とで、速度変化線を変更してもよい。
また、上記したトレーニング装置1では、動力部として電動式のサーボモータを用いた例について説明したが、シリンダを用いた油圧式や空気圧式のアクチュエータを用いることもできる。
また、トレーニング装置1では、板状の基台2の上に昇降機構3や支持柱7等を設けた例について説明したが、基台2の替わりに、鋼材パイプフレームで昇降機構3や支持柱7を繋いでもよい。この場合、昇降機構3と支持柱とを、1本の直線的なパイプフレームで繋いでもよいし、コの字型に曲げたパイプフレームの対辺で繋いでもよいし、ロの字型に曲げたパイプフレームの対辺で繋いでもよい。
また、掴持部35を座部4に対して前方に設けた例について説明したが、座部4に対して側方両側に設けてもよく、座部4の前方および側方に設けた座部4を取り囲む手摺付きの柵とすることもできる。また、座部4の形状は、サドル形状に限定されず、例えば方形状板や楕円状板であってもよい。また、表示操作部8は、液晶ディスプレイやCRTディスプレイを表示部とし、その近くにキーボードによる操作部を配してもよい。
また、座部4の上限位置および下限位置は、上記したようにトレーニングを行う都度設定してもよいが、過去に行ったトレーニング時に保存された上限位置および下限位置をコンピュータ端末装置12から読み込むことで設定してもよい。
本発明を適用するトレーニング装置の下限位置での使用状態を示す側面図である。
本発明を適用するトレーニング装置の上限位置での使用状態を示す側面図である。
本発明を適用するトレーニング装置の電気系統図である。
本発明を適用する制御部の補助力制御モードにおける動作フローチャートである。
本発明を適用する補助力動作モードにおける座部位置と補助力制限値、補助力および荷重との関係を示すグラフである。
本発明を適用する補助力動作モードにおける着座位置と補助力制限値の関係の他の例を示すグラフである。
本発明を適用するトレーニング装置の力表示の場合のトレーニング表示画面を示す概略図である。
本発明を適用するトレーニング装置の速度表示の場合のトレーニング表示画面を示す概略図である。
本発明を適用する制御部の速度制御モードにおける動作フローチャートである。
本発明を適用する速度制御モードにおける座部位置と速度との関係を示すグラフである。
本発明を適用する速度制御モードにおける座部位置と速度の関係の他の例を示すグラフである。
符号の説明
1はトレーニング装置、2は基台、3は昇降機構、4は座部、5はサーボモータ、6はロードセル、7は把持柱、8は表示操作部、9は制御ボックス、10は制御部、12はコンピュータ端末装置、20は支持柱、21は吊りベース、22はシャフト、23は移動体、24はスライドレール、25は回転継手、26,27はストッパ、30は螺合部材、31は支持部材、32はスライド片、33は前後スライド機構、35は掴持部、41は氏名、42は目標回数、43は現在回数、44は力メーター、44a,44b,45aは指示線、45は位置メーター、46は速度グラフ、46a,46bはグラフ線、51〜57,61〜64はフローチャート中のステップ、A1,A2,A3,C,D,Eは補助力制限値、B1,B2,B3,F,Gは制御速度である。