ところで、上記した特許文献1に記載されているディスクロータでは、上記した結合装置によって所期の結合強度は確保できるものの、上記した結合装置が挿入部材、駆動部材、板ばね、ねじおよびナット等の多数の部品(五つの部品)を備えているため、組付性が悪い。また、上記した結合装置では、挿入部材が、ばねスチールのような耐摩耗性シートメタルで成形されていて、ハット部の素材であるアルミニウム合金とは異種金属であり、また、挿入部材がハット部の径方向凹部に組付けられた状態(ねじとナットによって締結される前の状態)では、挿入部材とハット部間にロータ軸方向、ロータ径方向、ロータ周方向の隙間(挿入部材のハット部への組付を容易にするための隙間)があり、ねじとナットによって締結された後にも、挿入部材とハット部間にロータ径方向およびロータ周方向の隙間が残るため、この隙間に水が滲入して異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)が生じるおそれがある。また、上記した結合装置では、ねじの先端部とナットがハット部の外周部からロータ軸方向に突出するため、当該部分のロータ軸方向寸法が大きくなり、大きな取付スペースを必要とする。
本発明は、上記した種々な課題を解決すべくなされたものであり、環状の摺動部と、この摺動部の金属素材に比して軟らかい金属素材からなり前記摺動部の内周部分に外周部分にて接合されるハット部と、前記摺動部と前記ハット部の接合部分に設けられて前記摺動部と前記ハット部を一体的に結合する結合装置を備えたディスクロータであって、前記結合装置が、前記ハット部の金属素材に比して硬い金属素材からなり前記摺動部の内周部分と前記ハット部の外周部分間に介装される環状のワッシャと、前記ハット部の金属素材に比して硬い金属素材からなり前記摺動部に係合する頭部を有するとともに前記摺動部に設けたロータ軸方向の貫通孔と前記ワッシャと前記ハット部に設けたロータ軸方向の貫通孔を貫通する軸部を有していてハット部側の軸部先端をカシメることにより前記摺動部と前記ワッシャと前記ハット部を一体化する接合ピンを備えていて、前記接合ピンのカシメられた部分は、テーパ形状であって、その外周全体が前記ハット部の前記貫通孔に形成したテーパ面に接合していること(請求項1に係る発明)に特徴がある。
このディスクロータ(請求項1に係る発明のディスクロータ)においては、結合装置が、環状のワッシャと、接合ピンを備えたものであり、部品点数が少ないため、組付性がよく、しかも安価に実施することが可能である。また、このディスクロータでは、ハット部と接合ピンの軸部先端(カシメられた部分)間およびハット部とワッシャ間に、それぞれ必要十分な大きさの座面を確保することが可能であり、これらの座面全体に腐食が生じるには長い期間を要するため、異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)に対する耐腐食性を向上させることが可能である。また、このディスクロータでは、接合ピンにおけるハット部側の軸部先端がテーパ形状にカシメられていて、ハット部の貫通孔に形成したテーパ面に接合しているため、接合ピンはハット部の外周部からロータ軸方向に殆ど突出することがない。このため、当該部分のロータ軸方向寸法は殆ど大きくならず、大きな取付スペースは不要である。また、このディスクロータでは、摺動部とハット部間に介装されるワッシャによって、ハット部とワッシャ間に必要十分な大きさの座面を確保することが可能であるため、接合ピンの軸部を小径化することも可能である。
上記した本発明の実施に際して、前記接合ピンの軸部中間には、ハット部側を小径部とし、前記摺動部をロータ軸方向に所定量移動可能とする段部が形成されていて、この段部は、前記摺動部と前記ワッシャ間に介装されて前記摺動部を前記接合ピンの頭部に向けてロータ軸方向に付勢する板ばねの一部を介して、前記ワッシャの内周部に係合していること(請求項2に係る発明)も可能である。
この場合のディスクロータ(請求項2に係る発明のディスクロータ)では、板ばねによってハット部と接合ピンの軸部先端(カシメられた部分)間およびハット部とワッシャ間の密着性をそれぞれ高めて水の滲入を的確に防止することが可能であり、水分の介在によって進行する異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)を的確に抑制することが可能であるため、これによっても異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)に対する耐腐食性を向上させることが可能である。
また、このディスクロータでは、制動時における摺動部の熱変形を、摺動部のロータ軸方向移動(板ばねの弾性変形)によって緩和することができて、摺動部の熱変形に起因するブレーキ鳴き等の不具合を抑制することが可能である。また、このディスクロータでも、請求項1に係る発明のディスクロータと同様の作用効果が得られる。なお、このディスクロータでは、結合装置が、環状のワッシャと、接合ピンと、板ばねを備えたものであり、部品点数が少ないため、組付性がよく、しかも安価に実施することが可能である。
また、上記した本発明の実施に際して、テーパ面のテーパ角度が60度〜120度(カシメ部のカシメ角度30度〜60度)であり、接合ピンのカシメられる部分の肉厚(カシメ部肉厚)が1.0〜1.5mm程度で軸方向長さ(カシメ部長さ)が2〜3mm程度であることが望ましい。この場合には、接合ピンが軸方向にて抜ける抜け荷重を設定値以上とした上で、接合ピンのカシメによってハット部に生じる残留応力を許容値以下に抑えることが可能であり、接合ピンによる摺動部とハット部の結合強度の確保と、ハット部の異種金属接触腐食と残留応力の相乗作用(応力を受けた状態で腐食が促進される、いわゆる応力腐食)に対する耐久性アップを図ることが可能である。
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図7は本発明によるディスクロータの第1実施形態を示していて、この第1実施形態のディスクロータAは、車両において車輪を制動するために採用されるディスクブレーキ装置のディスクロータである。このディスクロータAは、環状の摺動部11と、この摺動部11の内周部分に外周部分にて接合されるハット部12と、摺動部11とハット部12の接合部分に設けられて摺動部11とハット部12を一体的に結合する8個(個数は適宜増減可能である)の結合装置20を備えている。
摺動部11は、図1、図2、図4および図5に示したように、鋳鉄(鉄系金属素材)で環状に成形された部材であり、制動時に周知のように摩擦パッド(図示省略)によって挟持される環状の制動部11aを外周部分に有するとともに、内周部分にハット部12を組付けるための環状の内向フランジ部11bを有している。
制動部11aは、内部に多数の通気通路11a1を有している。内向フランジ部11bは、制動部11aの一側(図5の左側で車両外側)内周からロータ径内方に延出形成されていて、8個の貫通孔11b1がロータ周方向にて等間隔に形成されている。各貫通孔11b1は、ロータ径方向に長い長円形状に形成されていて、ロータ軸方向に貫通している。
ハット部12は、図1、図2、図6および図7に示したように、アルミニウム合金(摺動部11の素材に比して軟らかい金属素材)によって成形された部材であり、ホイールハブ(図示省略)に固定される環状の内向フランジ部12aを内周部分に有するとともに、外周部分に外向フランジ部12bを有し、ロータ径方向の中間部分にロータ軸方向に延びる円筒状のインロー部12cを有している。
内向フランジ部12aには、ホイールハブ(図示省略)に取付けるための5個の取付孔12a1がロータ周方向にて等間隔に形成されている。外向フランジ部12bには、厚肉部と薄肉部がロータ周方向にて等間隔で交互にそれぞれ8個設けられていて、各厚肉部(ロータ軸方向の厚みが9mm程度)には貫通孔12b1が形成されている。各貫通孔12b1は、円形形状に形成されていて、ロータ軸方向に貫通しており、一側(図7の左側で車両外側)にはテーパ角度が110度でロータ軸方向の深さが2mm程度のテーパ面Sが形成されている。
円筒状のインロー部12cは、図2に示したように摺動部11のロータ径方向内側にあって、その外径は、摺動部11とハット部12の組み合わせ時において、摺動部11の内径と嵌合可能な同一寸法に設定(すなわち、インロー部12cの外径は、摺動部11の内径より僅かに小さくて、殆ど隙間なく嵌合する寸法に設定)されている。このため、ハット部12は、摺動部11に容易に組付けることが可能であるとともに、摺動部11に対して同軸的に嵌合した状態(初期状態)で組み合わせることが可能である。
各結合装置20は、図3にて拡大して示したように、ワッシャ21と接合ピン22と板ばね23の三部材によって構成されている。ワッシャ21は、ステンレス鋼(ハット部12の金属素材に比して硬い金属素材)によって環状に形成されていて、図2および図3に示したように、摺動部11の内周部分とハット部12の外周部分間に環状の板ばね23(皿ばね)とともに介装されており、一側面全体(図3の右側面全体)にてハット部12に接合している。
接合ピン22は、ハット部側の軸部先端を所要量カシメることにより摺動部11と板ばね23とワッシャ21とハット部12を一体化するものであり、ステンレス鋼(ハット部12の金属素材に比して硬い金属素材)によって形成されていて、頭部22aと軸部22bを備えている。
頭部22aは、摺動部11における内向フランジ部11bの一側(図3の右側)に係合している。軸部22bは、摺動部11の貫通孔11b1と板ばね23とワッシャ21とハット部12の貫通孔12b1を貫通していて、その中間には、ハット部側を小径部22b1としかつ摺動部側を大径部22b2として、摺動部11をロータ軸方向に所定量(板ばね23が弾性変形可能な量)移動可能とする段部22b3が形成されている。
軸部22bの小径部22b1は、板ばね23とワッシャ21とハット部12の貫通孔12b1を貫通していて、先端部には先端部を肉厚1.0〜1.5mm程度の円筒状とするための有底孔22b1aが設けられている。また、小径部22b1は、円筒状の先端部を所要量(2〜3mm程度)テーパ形状にカシメられていて、その外周全体がハット部12の貫通孔12b1に形成したテーパ面Sに接合している。
軸部22bの大径部22b2は、その外径が摺動部11における貫通孔11b1の短径部と同一径とされていて、摺動部11の貫通孔11b1を貫通しており、初期状態では、ロータ軸中心側(図3の上側)に所定のロータ径方向クリアランスLが設定されている。軸部22bの段部22b3は、ハット部12とによってワッシャ21と板ばね23を隙間なく挟持していて、板ばね23の一部(内周部)を介してワッシャ21の内周部に係合している。
板ばね23は、ステンレスばね鋼によって環状に形成されていて、摺動部11とワッシャ22間に介装されており、ロータ軸方向にて弾性変形可能である。また、板ばね23は、内周部をワッシャ21と接合ピン22によって固定され、外周部にて摺動部11の一側(図3の左側)に弾撥的に係合していて、摺動部11を接合ピン22の頭部22aに向けてロータ軸方向に付勢している。
上記のように構成した第1実施形態のディスクロータAにおいては、結合装置20が、環状のワッシャ21と、接合ピン22と、環状の板ばね23の三部品を備えたものであり、部品点数が少ないため、組付性がよく、しかも安価に実施することが可能である。また、このディスクロータAでは、ハット部12と接合ピン22の軸部先端(カシメられた部分)間およびハット部12とワッシャ21間に、それぞれ必要十分な大きさの座面(接合面)を確保することが可能であり、これらの座面全体に腐食が生じるには長い期間を要するため、異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)に対する耐腐食性を高めることが可能である。
また、このディスクロータAでは、接合ピン22におけるハット部12側の軸部先端がテーパ形状にカシメられていて、ハット部12の貫通孔12b1に形成したテーパ面Sに接合しているため、接合ピン22はハット部12の外周部からロータ軸方向に殆ど突出することがない。このため、当該部分のロータ軸方向寸法は殆ど大きくならず、大きな取付スペースは不要である。また、このディスクロータAでは、摺動部11とハット部12間に介装されるワッシャ21によって、ハット部12とワッシャ21間に必要十分な大きさの座面を確保することが可能であるため、接合ピン22の軸部22bを小径化することも可能である。
また、このディスクロータAでは、接合ピン22の軸部中間に、ハット部側を小径部22b1としかつ摺動部側を大径部22b2として、摺動部11をロータ軸方向に所定量(板ばね23が弾性変形可能な量)移動可能とする段部22b3が形成されていて、この段部22b3は、摺動部11とワッシャ21間に介装されて摺動部11を接合ピン22の頭部22aに向けてロータ軸方向に付勢する板ばね23の一部を介して、ワッシャ21の内周部に係合している。
このため、板ばね23によってハット部12と接合ピン22の軸部先端(カシメられた部分)間およびハット部12とワッシャ21間の密着性をそれぞれ高めて水の滲入を的確に防止することが可能であり、水分の介在によって進行する異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)を的確に抑制することが可能である。したがって、これによっても異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)に対する耐腐食性を高めることが可能である。また、このディスクロータAでは、制動時における摺動部11の熱変形を、摺動部11のロータ軸方向移動(板ばね23の弾性変形)によって緩和することができて、摺動部11の熱変形に起因するブレーキ鳴き、偏摩耗等の不具合を抑制することが可能である。
また、このディスクロータAでは、テーパ面Sのテーパ角度が110度(カシメ部のカシメ角度55度)であり、接合ピン22のカシメられる部分の肉厚(カシメ部肉厚)が1.0〜1.5mm程度で軸方向長さ(カシメ部長さ)が2〜3mm程度である。このため、図8および図9から明らかなように、接合ピン22がロータ軸方向(ピン軸方向も同じ)にて抜ける抜け荷重Fを設定値Fa以上とした上で、接合ピン22のカシメによってハット部12に生じる残留応力σを許容値σa以下に抑えることが可能であり、接合ピン22による摺動部11とハット部12の結合強度の確保と、ハット部12の異種金属接触腐食と残留応力σの相乗作用(応力を受けた状態で腐食が促進される、いわゆる応力腐食)に対する耐久性アップを図ることが可能である。なお、テーパ面Sのテーパ角度は、60度〜120度(カシメ部のカシメ角度30度〜60度)の範囲にて適宜変更して実施することも可能である。
また、このディスクロータAでは、ハット部12に設けた円筒状のインロー部12cの外径が、摺動部11とハット部12の組み合わせ時において、摺動部11の内径と嵌合可能な同一寸法に設定されているため、摺動部11とハット部12を同軸的に嵌合した状態(初期状態)で組み合わせることができて、当該ディスクロータAの回転バランスを良好とすることができ、回転中の振動低減を図ることが可能である。
また、このディスクロータAにおいては、ディスクロータAの制動時において、摺動部11が加熱されて熱膨張するとき、摺動部11の貫通孔11b1が接合ピン22の軸部22bに対してロータ径外方(図3の図示下方)に移動することができて、摺動部11の熱膨張(ロータ径方向での拡大)がスムーズに行われる。このため、熱膨張する摺動部11にロータ軸方向の変形が生じ難くて、同変形に起因するブレーキ鳴きの発生や偏摩耗を抑制することが可能である。なお、摺動部11が制動解除によって冷却されて熱収縮するときには、ハット部12に設けた円筒状のインロー部12cによって摺動部11の内周部分の復帰位置が規定されて初期状態で位置決めされる。
また、このディスクロータAにおいては、摺動部11が接合ピン22上にてハット部12に対してロータ軸方向に所定量移動可能に組付けられ、摺動部11とハット部12間にはロータ軸方向にて弾性変形可能な板ばね23が介装されているため、摺動部11が板ばね23を弾性変形させながらハット部12に対してロータ軸方向に移動することができて、熱膨張する摺動部11のロータ軸方向への変形を抑制することができ、同変形に起因する起因するブレーキ鳴きの発生や偏摩耗を抑制することが可能である。
また、このディスクロータAにおいては、摺動部11の貫通孔11b1がロータ径方向に長い長円形状(ロータ径方向を長径とする長円形状)に形成され、接合ピン22の軸部22bにおける大径部22b2の外径が摺動部11における貫通孔11b1の短径部と同一径とされていて、接合ピン22の軸部22bにおける大径部22b2と摺動部11の貫通孔11b1はロータ径方向にのみ移動可能に嵌合されているため、摺動部11のハット部12に対するロータ周方向での移動を効果的に規制することが可能である。なお、摺動部11の貫通孔(11b1)が接合ピン22の軸部22bにおける大径部22b2の外径より大径の円形形状に形成される場合には、摺動部11の貫通孔11b1がロータ径方向に長い長円形状に形成される場合(上記実施形態の場合)に比して、摺動部11の貫通孔(11b1)を容易に加工することができて、安価に実施することが可能である。
上記した第1実施形態においては、各結合装置20がワッシャ21と接合ピン22と板ばね23の三部材によって構成されるようにして実施したが、図10に示した第2実施形態のように、各結合装置30がワッシャ31と接合ピン32の二部材によって構成されるようにして実施することも可能である。この場合には、接合ピン32の軸部32bに段部がなく、ワッシャ31は、摺動部11とハット部12間に介装されて、接合ピン32のテーパ形状にカシメられる部分と摺動部11によって挟持される。なお、この第2実施形態においても、上記した第1実施形態の板ばね23以外の作用効果が、上記した第1実施形態と同様に得られる。
11…摺動部、11a…制動部、11b…内向フランジ部、11b1…貫通孔、12…ハット部、12a…内向フランジ部、12b…外向フランジ部、12b1…貫通孔、12c…インロー部、20…結合装置、21…ワッシャ、22…接合ピン、22a…頭部、22b…軸部、22b1…小径部、22b2…大径部、22b3…段部、23…板ばね、S…テーパ面、A…ディスクロータ