JP2010046750A - 電動工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】自動変速時に発生する慣性モーメント(反動)よりも、当該電動工具1を機軸J回りに振るための振り回しモーメントを大きくする。このために、機軸Jからバッテリパック5の重心Gまでの距離Lとバッテリパック5の重量Wを大きく設定する。振り回しモーメントが大きくなると、電動工具は変速に伴う反動によっては振られにくくなる。
【選択図】図1
Description
例えば、ねじ締め機では、締め付け当初は小さなトルクで足り、締め付けが進行するに従って徐々に大きな回転トルクが必要となる。このため、締め付け当初では変速装置の減速比を小さくして高速低トルクを出力し、締め付け途中で変速装置の減速比を大きくして低速高トルクを出力することが、迅速かつ確実なねじ締めを行う観点で要求される機能となる。しかも、締め付け途中の段階で、出力軸に付加される締め付け抵抗(外部トルク)が一定値に達した時点で自動的に減速比(出力トルク)が切り換わることが使い勝手の点で要求される。
下記の特許文献には、電動モータの出力軸とねじ締めビットを装着した出力軸との間に二段階の遊星歯車機構を有する変速装置を介装したねじ締め機が開示されている。この従来のねじ締め機の変速装置によれば、ねじ締め当初では二段目遊星歯車機構のインターナルギヤを介して一段目遊星のキャリアと二段目遊星のキャリアが直結される結果、高速低トルクが出力されて迅速なねじ締めがなされる。ねじ締めが進行して使用者がねじ締め機の押し付け力を強くすると、二段目遊星歯車機構のインターナルギヤが軸方向へ相対変位して一段目遊星歯車機構のキャリアから切り離される一方、その回転が固定されることにより第2段遊星での減速が加わる結果当該変速装置の減速比が大きくなって低速高トルクが出力されて確実なねじ締めがなされる。
本発明は係る従来の問題を解消するためになされたもので、電動工具の変速装置において、高速低トルクモードから低速高トルクモードに変速された結果、機軸回りの振り回し力が発生しても、使用者は従来のように大きな力を出すことなく楽に電動工具を変速前の位置に保持しておくことができる(ハンドルを把持した手が持って行かれない)ようにすることを目的とする。
請求項1記載の電動工具によれば、これを用いて例えばねじ締めを行う場合に、ねじ締め当初ではスピンドルに付加される外部トルク(ねじ締め抵抗)が小さいために変速装置は、高速低トルクモードで動作することにより迅速にねじ締めがなされ、ねじ締めが進行して外部トルクが大きくなり、これが予め設定した一定値に達すると変速装置は高速低トルクモードから低速高トルクモードに自動的に切り換わる。変速装置が低速高トルクモードに自動的に切り換わることにより、ねじ締めが締め残しを発生することなく確実に完了される。
しかしながら、請求項1記載の電動工具によれば、変速装置において高速低トルクモードから低速高トルクモードへ自動変速した際に発生する機軸J回りの振り回し力よりも、当該電動工具の機軸J回りの慣性モーメントIの方が大きくなるように機軸Jからバッテリ重心Gまでの距離Lとバッテリ質量Mが設定されている。このため、自動変速により発生する反動によっても当該電動工具が機軸回りに振り回されることがなく、従って使用者は変速時においてもハンドル部をそのまま小さな力で把持していれば足り、この点で当該電動工具の操作性を高めることができる。
請求項1記載の構成において、高速低トルクモードの出力トルクが作業を完了するために必要な出力トルクよりも小さくなるように高速低トルクモードにおける出力回転数を設定することができる。このように設定することにより、これを用いて例えばねじ締めを行う場合に、より一層迅速かつ確実なねじ締めを行うことができる。すなわち、ねじ締め当初の高速低トルクモードにおける出力トルクを、当該ねじ締めを完了するために必要な出力トルクよりも小さな出力トルクに設定してそのための出力回転数を十分に高速に設定する一方、自動変速後の低速高トルクモードにおける出力回転数を十分に小さくしてこれにより得られる出力トルクを十分に大きく設定することにより、ねじ締め当初では従来よりもさらに高速でねじ締めを行うことができ、かつ締め残しを生ずることなく確実なねじ締めを行うことができる。
この場合に、自動変速前の出力回転数と自動変速後の出力回転数との比率が大きくなるため、自動変速時には通常よりもさらに大きな反動(振り回し力)が発生する。この大きな反動に対して、機軸Jからバッテリパック重心Gまでの距離Lとバッテリパック質量Mを適切に設定して機軸J回りの慣性モーメントIを十分に大きく設定することにより、係る大きな反動に対しても使用者の手が振り回されることを防止若しくは抑制することができる。
このように請求項1記載の構成においてさらに出力回転数を上記のように設定することにより、迅速かつ確実なねじ締めを実現するために、自動変速前後の出力回転数の変化率を従来よりも大きく設定し、その結果自動変速時の反動が通常よりも大きくなる場合に、当該電動工具の機軸回りの振り回しを防止してその操作性を確保できる点で特に大きな作用効果を得ることができる。
このように、請求項2記載の構成によれば、機軸J回りの慣性モーメントIが20,000〜40,000(kg・mm2)に設定されていることから、距離Lと質量Mについて上記と同等程度の距離L及び質量Mを有するより幅広い電動工具についてその振り回りを防止することができる。
請求項3記載の電動工具によれば、高速低トルクモードにおける変速装置の出力回転数が、低速高トルクモードにおける出力回転数の4.5倍〜6倍に設定されている。このため、低速高トルクモードにおいて必要かつ十分なトルクが得られるように出力回転数を設定すれば、高速低トルクモードにおける出力回転数を従来にはない極めて高速に設定することが可能となる。この場合、高速低トルクモードにおける出力回転数は、当該出力回転数に基づく低トルクではトルク不足により加工を最後まで遂行することができない程度に高速に設定しておくことができる。加工が進行してトルク不足になった時点で、変速装置の自動変速が行われて低速高トルクモードに移行することから加工は最後まで進行する。
このように、変速の前後で従来にない大きな比率で出力回転数を変化させることにより、加工開始の初期段階では極めて高速回転させることにより加工を迅速に進行させることができ、これは必要トルクが不足すると自動的に低速高トルクモードに変速する自動変速装置を備えることで初めて可能となる。
この電動工具1は、本体部2とハンドル部3を備えている。本体部2は概ね円柱体形状を有するもので、その長手方向(機軸方向)の中程から側方へ突き出す状態にハンドル部3が設けられている。本体部2とハンドル部3は、機軸方向(図1において左右方向)に対して左右に二分された2つ割りハウジングを相互に突き合わせて結合したハウジングを備えている。以下、本体部2のハウジングを本体ハウジング2aと言い、ハンドル部3のハウジングをハンドルハウジング3aと称して必要に応じて区別する。
ハンドル部3の基部前側には、トリガ形式のスイッチレバー4が配置されている。このスイッチレバー4を使用者が指先で引き操作すると電動モータ10が起動する。また、ハンドル部4の先端には、バッテリパック5を取り付けるためのバッテリ取り付け台座部6が設けられている。このバッテリパック5を電源として電動モータ10が作動する。
電動モータ10は、本体部2の後部に内蔵されている。この電動モータ10の回転動力は、三つの遊星歯車機構を有する変速装置Hにより減速されてスピンドル11に出力される。スピンドル11の先端には、先端工具を装着するためのチャック12が取り付けられている。
三つの遊星歯車機構は電動モータ10からスピンドル11に至る動力伝達経路に介在されている。以下、動力伝達経路の上流側から第1段遊星歯車機構20、第2段遊星歯車機構30、第3段遊星歯車機構40と言う。第1〜第3段遊星歯車機構20,30,40の詳細が図2に示されている。第1〜第3遊星歯車機構20,30,40は、電動モータ10の出力軸10aに同軸に配置され、またスピンドル11に同軸に配置されている。以下、スピンドル11の回転軸(電動モータ10の出力軸10aの回転軸)を機軸Jとも言う。この機軸J上に電動モータ10、第1〜第3段遊星歯車機構20,30,40及びスピンドル11が配置されている。この機軸Jに沿った方向が当該電動工具1の機軸方向であり、この機軸方向が本体部2の長手方向となる。
第1段キャリア23の前面中心には第2段太陽ギヤ31が一体に設けられている。この第2段太陽ギヤ31には三つの第2段遊星ギヤ32〜32が噛み合わされている。この三つの第2段遊星ギヤ32〜32は、第2段キャリア33に回転自在に支持されている。また、この三つの第2段遊星ギヤ32〜32は、第2段インターナルギヤ34に噛み合わされている。この第2段インターナルギヤ34は、機軸J回りに回転可能かつ機軸J方向に一定の範囲で変位可能な状態で本体ハウジング2aの内面に沿って支持されている。この第2段インターナルギヤ34の詳細については後述する。
第2段キャリア33の前面中心には第3段太陽ギヤ41が一体に設けられている。この第3段太陽ギヤ41には三つの第3段遊星ギヤ42〜42が噛み合わされている。この三つの第3段遊星ギヤ42〜42は、第3段キャリア43に回転自在に支持されている。また、この三つの第3段遊星ギヤ42〜42は、第3段インターナルギヤ44に噛み合わされている。この第3段インターナルギヤ44は本体ハウジング2aの内面に沿って取り付けられている。この第3段インターナルギヤ44は、機軸J回りに回転不能かつ機軸J方向に移動不能に固定されている。
第3段キャリア43の前面中心にスピンドル11が同軸に結合されている。スピンドル11は、軸受け13,14を介して本体ハウジング2aに対して機軸J回りに回転自在に支持されている。このスピンドルの先端にチャック12が取り付けられている。
図2は、第2段インターナルギヤ34のクラッチ歯34a〜34aが第1段キャリア23のクラッチ歯23a〜23aに噛み合った状態を示している。この噛み合い状態では、第2段インターナルギヤ34は機軸J方向について後側(図2において左側)の回転許容位置に位置しており、この回転許容位置では第2段インターナルギヤ34は第1段キャリア23と一体で回転し、従ってこの場合には第2段太陽ギヤ31と第2段インターナルギヤ34が一体で回転する。スピンドル11を経て第2段インターナルギヤ34に一定以上の外部トルクが付加されると、第1段キャリア23に対して相対回転してクラッチ歯34aとクラッチ歯23aの噛み合いが外れ、その結果第2段インターナルギヤ34が機軸J方向前側(図2において右側)へ変位する。
第2段インターナルギヤ34は、圧縮ばね35によって上記回転許容位置側へ付勢されている。このため、第2段インターナルギヤ34はこの圧縮ばね35の付勢力に抗して機軸J方向前側(クラッチ歯23a,34aが外れる方向)へ変位する。また、この圧縮ばね35の付勢力に基づいて、第2段インターナルギヤ34が前側へ変位して減速比が切り換わるための一定の外部トルクが設定されている。
圧縮ばね35は、第2段インターナルギヤ34の前面に対して押圧板36を介在させて作用している。すなわち、第2段インターナルギヤ34は、その前面に当接された円環形状の押圧板36を介して作用する圧縮ばね35の付勢力によってクラッチ歯34a,23aが噛み合う方向であって回転許容位置側に押し付けられている。
押圧板36の後側には転動板37が配置されている。転動板37も円環形状を有しており、第2段インターナルギヤ34の周囲に沿って機軸J回りに回転可能に支持されている。この転動板37と、第2段インターナルギヤ34の周面に設けたフランジ部34bの前面との間には、多数の鋼球38〜38が挟み込まれている。この鋼球38〜38と転動板37が、第2段インターナルギヤ34を回転自在に支持しつつ圧縮ばね35の付勢力を作用させるためのスラスト軸受けとして機能する。
これに対して、両モード切り換え部材39,39が前側へ平行移動すると、押圧板36が圧縮ばね35に抗して前側へ平行移動される。押圧板36が前側へ平行移動されると、圧縮ばね35が第2段インターナルギヤ34に作用しなくなる。圧縮ばね35の付勢力が第2段インターナルギヤ34に作用しない状態では、クラッチ歯34aとクラッチ歯23aとの噛み合い状態を保持する力がなくなるため、当該第2段インターナルギヤ34に回転方向の僅かな外力(例えば伝動モータ10の起動トルク)が付加されると、第1段キャリア23に対して相対回転し、その結果当該第2段インターナルギヤ34が機軸J方向前側へ変位する。
このモード切り換えリング50を機軸J回りに一定の角度範囲で回転操作することにより、当該電動工具1の回転出力が、スピンドル11に付加される外部トルクが前記圧縮ばね35の付勢に基づいて設定された一定値に達した時点で「高速低トルク」出力状態(高速低トルクモード)から「低速高トルク」出力状態(低速高トルクモード)に自動的に切り換わる自動変速モードと、「高速低トルク」出力状態に固定された高速固定モードと、「低速高トルク」出力状態に固定された高トルク固定モードの3つの動作モードを任意に切り換えることができる。
図3に示すようにこのモード切り換えリング50には、本体ハウジング2aの4箇所の挿通溝孔2b〜2bに対応して(整合する位置に)4つの切り換え溝部51〜51が設けられている。各切り換え溝部51に、上下2本のモード切り換え部材39,39の各端部であって本体ハウジング2aから突き出された部分が進入している。
各切り換え溝部51は、機軸J回り方向に長い高速固定モード用の後側溝部51bと、同じく機軸J回り方向に長い高トルク固定モード用の前側溝部51cと、両溝部51b,51cを連通する自動変速モード用の中間溝部51dを有する概ねクランク形(S字形)に形成されている。機軸J方向の位置について、後側溝部51bが後側(図3において左側)に、前側溝部51cがこれよりも前側(図3において右側)に、概ね溝幅分だけずれて配置されている。
後側溝部51bと前側溝部51cを連通する中間溝部51dは、機軸J方向の長さについて、本体ハウジング2の挿通溝孔2bとほぼ同じ長さで機軸J方向に長く形成されている。図3は、上下2本のモード切り換え部材39,39のそれぞれの両端部がこの中間溝部51d内に位置した状態を示している。この場合、モード切り換えリング50は、自動変速モードに切り換えられている。図3では、各モード切り換え部材39の端部が中間溝部51dの後側に位置している。この状態では、スピンドル11に一定値以上の外部トルクが作用していない状態であって、押圧板36を介して第2段インターナルギヤ34に圧縮ばね35の付勢力が作用し、その結果当該第2段インターナルギヤ34が回転許容位置に保持されて第1段キャリア23と一体で回転する状態となっている。この状態が本実施形態における電動工具1の変速装置Hの初期状態となっている。
この自動変速モードでは、上下2本のモード切り換え部材39,39がそれぞれ中間溝部51d内を機軸J方向に変位可能な状態となるため、スピンドル11に一定値以上の外部トルクが付加されると、第2段インターナルギヤ34が圧縮ばね35に抗して機軸J方向前側の回転規制位置に変位する。この状態が図4及び図5に示されている。スピンドル11に付加される外部トルクが一定値以下に低下すると、後述するモードロック機構60の解除により第2段インターナルギヤ34が圧縮ばね35によって機軸J方向後側の回転許容位置に戻されて、第1段キャリア23と一体で回転可能な初期状態に戻される。この状態が図2及び図3に示されている。
これに対して、スピンドル11に付加される外部トルクが一定値以上に達して第2段インターナルギヤ34が前側の回転規制位置に変位することによりそのクラッチ歯34a〜34aと第1段キャリア23のクラッチ歯23a〜23aとの噛み合いが外れた状態では、第2段遊星歯車機構30の減速比は大きくなる結果、スピンドル11は低速かつ高トルクで回転する。本実施形態の場合、この低速高トルクモードでのスピンドル11の出力回転数は、約400rpmに設定されている。自動変速モードでは、前者の高速低トルク出力状態と後者の低速高トルク出力状態との切り換えがスピンドル11に付加される外部トルクに基づいて自動的になされる。前者の高速低トルク出力状態では、モード切り換え部材39,39は、図3に示すように中間溝部51dの後側に位置する。後者の低速高トルク出力状態では、モード切り換え部材39,39は、図5に示すように中間溝部51dの前側に位置する。すなわち、上下2本のモード切り換え部材39,39は、第2段インターナルギヤ34と一体となって機軸J方向に変位する。
モード切り換えリング50を図2〜図5に示す自動変速モード位置から、図7に示す高速固定モード位置に回転操作すると、変速装置Hの動作が高速固定モードに切り換わる。この場合、モード切り換えリング50を使用者から見て時計回り方向(図3及び図5においてツマミ部50aを紙面手前に倒す方向)に一定角度回転操作すると自動変速モードから高速固定モードに切り換わる。モード切り換えリング50を高速固定モードに切り換えると、上下2本のモード切り換え部材39,39の両端部がそれぞれ後側溝部51b内に相対的に進入した状態となる。この状態では、両モード切り換え部材39,39は機軸J方向後側の位置に固定され、前側へ変位不能な状態となる。このため、スピンドル11に一定値以上の外部トルクが付加された場合であっても、図6に示すように第2段インターナルギヤ34は回転許容位置に保持されて第2段遊星歯車機構30は減速比の小さな状態に保持され、その結果スピンドル11には高速低トルク状態が出力される。このようにモード切り換えリング50を図7に示す高速固定モードに切り換えると、変速装置Hの出力状態は高速低トルク出力状態に固定される。
また、この高速固定モードでは、上下2本のモード切り換え部材39,39が、自動変速モードにおける初期状態と同様モード切り換え溝部51の後端部に当接し、これにより圧縮ばね35の付勢力の全部若しくは一部がこのモード切り換え部材39,39で受けられることから、第2段インターナルギヤ34の回転抵抗を小さくすることができ、ひいては当該電動工具1の消費電力(電流値)を下げることができる。
これに対してモード切り換えリング50を高速低トルクモード位置に回転操作すると、上下2本のモード切り換え部材39,39の機軸J方向の位置が後側に固定される結果、第2段インターナルギヤ34は回転許容位置にロックされ、従ってスピンドル11には外部トルクの変化に関係なく常時高速低トルクが出力される。
逆に、モード切り換えリング50を低速高トルクモード位置に回転操作すると、上下2本のモード切り換え部材39,39の機軸J方向の位置が前側に固定される結果、第2段インターナルギヤ34に対して圧縮ばね35の付勢力が作用しない状態となる。このため、電動モータ10を起動すると、第2段インターナルギヤ34がその起動トルク等の僅かな外部トルクによって瞬時に回転規制位置に変位し、この回転規制位置で以下説明するモードロック機構60によってロックされる。このため、この低速高トルクモードでは、第2段インターナルギヤ34が実質的に常時回転規制位置にロックされた状態となり、従ってスピンドル11に付加される外部トルクの変化に関係なく常時低速高トルクが出力される。
本実施形態において、高速低トルクモードにおける当該変速装置Hの減速比は、その出力トルクではねじ締めを最後まで行うことができない程度に小さな減速比に設定されている。これに対して、低速高トルクモードにおける減速比は、その出力トルクにより締め残しを発生することなくねじ締めを最後まで完全に行い得る程度に十分に大きな減速比に設定されている。このことから、本実施形態では、高速低トルクモードの減速比と低速高トルクモードの減速比の変化率が通常よりも大きくなっている。
すなわち、前記したように高速低トルクモードでのスピンドル11の出力回転数は約2000rpmに設定され、低速高トルクモードでのスピンドル11の出力回転数は約400rpmに設定されている。このため、本実施形態での、高速低トルクモードでの出力回転数は低速高トルクモードでの出力回転数の約5倍に設定されている。この出力回転数の比率は、4.5倍〜6.0倍の範囲で設定することによって、高速低トルクモードでの出力回転数を従来にないほど高速回転させることができ、これにより加工の初期段階での高速化を図ることができる。
このモードロック機構60は、第2段インターナルギヤ34を機軸J方向前側の回転規制位置に保持する機能と、この回転規制位置に位置する第2段インターナルギヤ34を回転不能にロックする機能を有している。
第2段インターナルギヤ34の外周面であってフランジ部34bの後側には、係合溝部34cが全周にわたって設けられている。この係合溝部34c内の、周方向3等分位置には係合壁部34d〜34dが設けられている。一方、本体ハウジング2aには、その周方向の三等分位置に1つずつ係合球61が保持されている。この三つの係合球61〜61が特許請求の範囲に記載したインターナル規制部材の一実施形態に相当するもので、それぞれ本体ハウジング2aに設けた保持孔2c内に保持されている。この保持孔2c内において各係合球61は、本体ハウジング2aの内周側に出没可能に保持されている。三つの係合球61〜61の周囲には、ロックリング62が配置されている。このロックリング62は、機軸J回りに回転可能な状態で本体ハウジング2aの外周側に支持されている。
このロックリング62の内周面には、周方向に深さが変化するカム面62a〜62aが三つの係合球61〜61に対応して周方向三等分位置に設けられている。各カム面62aに1つの係合球61が摺接されている。各カム面62aに対する係合球61の摺接作用によりロックリング62が機軸J回りに一定の範囲で回転すると、各係合球61が保持孔2c内において本体ハウジング2aの内周側に突き出さない退避位置(図11に示す位置)と、突き出す係合位置(図12に示す位置)との間を移動する。
これに対して、図12に示すように第2インターナルギヤ34が圧縮ばね35に抗して、若しくは圧縮ばね35の付勢力が作用しない結果、回転規制位置に移動すると、各保持孔2cに対してフランジ部34bが外れて係合溝部34cが位置する状態となる。このため、各係合球61が本体ハウジング2aの内周側へ変位して係合溝部34c内に嵌り込み、この嵌り込み状態が捩りコイルばね63の付勢力によって保持される。各係合球61が係合溝部34c内に嵌り込んだ状態に保持されることにより、第2段インターナルギヤ34が回転規制位置に保持されるとともに、各係合球61が係合壁部34dに係合されることによりその機軸J回りの回転がロックされた状態となる。なお、第2段インターナルギヤ34が回転規制位置にロックされると、そのクラッチ歯34a〜34aと第1段キャリア23のクラッチ歯23a〜23aとの噛み合いが外れた状態に保持される。
ロックリング62のロック位置は、捩りコイルばね63に保持されることから、当該変速装置10は低速高トルク側に保持される。ロックリング62のロック位置は、使用者の手動操作により解除することができる。使用者は、ロック位置に保持されたロックリング62を手動操作により捩りコイルばね63に抗してアンロック位置に回転操作すると、各係合球61が退避位置に退避可能となるため、第2段インターナルギヤ34が圧縮ばね35によって回転許容位置に戻される。第2段インターナルギヤ34が回転許容位置に戻されると、そのクラッチ歯34a〜34aが第1段キャリア23のクラッチ歯23a〜23aに噛み合わされた状態になる。また、第2段インターナルギヤ34が回転許容位置に戻されると、そのフランジ部34bによって保持孔2cが塞がれるため各係合球61が退避位置に保持される。このため、使用者はその後ロックリング61から指先を離しても当該ロックリング62が捩りコイルばね63に抗してアンロック位置に保持される。このようにロックリング62をアンロック位置(初期位置)に戻すための構成として手動操作により行う構成とする場合の他、例えば前記したトリガ形式のスイッチレバー4の操作によって自動的にアンロック位置に戻す構成とすることができる。
L2×M=(195mm)2×0.6kg=約23,000(kg・mm2)
この点、自動変速装置を備えた従来の電動工具では、バッテリパックの重心の機軸からの距離が比較的短かったため、変速時に発生する機軸J回りの反動に比して慣性モーメントIが小さく設定されていた。このため、自動変速により動作モードが高速低トルクモードから低速高トルクモードに切り換わると、これにより発生する振り回し力により電動工具が機軸J回りに振られやすく、その結果ハンドル部を把持しが使用者が当該電動工具1を振られないように大きな力で保持しておかなければならず、この点で使い勝手が悪い問題があった。
本実施形態に係る電動工具1によれば、機軸J(スピンドル11の回転中心)から従来よりも離れた位置にバッテリパック5の重心Gが位置するように設定されて、機軸J回りの慣性モーメントIが従来よりも大きく設定されているので、自動変速により発生する機軸J回りの反動によっては振り回されにくくなり、従って使用者は従来よりも小さな力でハンドル部3を把持しておけば当該電動工具1の位置を楽に保持しておく(機軸J回りに振られることなく静止させておく)ことができ、この点で使い勝手が従来よりも向上している。
このトルク変動に対する振り回し防止の効果は、機軸Jからバッテリパック5の重心Gまでの距離Lが大きいほど高くなり、またバッテリパック5の質量Mが大きくなるほど高くなる。
なお、18Vバッテリでは慣性モーメントIが約20,000(kg・mm2)程度であるが、例えば24Vバッテリであれば慣性モーメントIを約40,000(kg・mm2)程度に設定することができる。
さらに、第2段インターナルギヤ34が回転許容位置に位置することによる高速低トルクモードの減速比は、当該減速比による出力トルクでは、ねじ締めを最後まで行うことができない程度に小さな出力トルクとなるように当該変速装置Hの減速比が設定されている。一方、第2段インターナルギヤ34が回転規制位置に位置することによる低速高トルクモードの減速比は、締め残しを発生することなくねじ締めを最後まで完全に行うことがでるだけの大きな減速比に設定されている。このため、自動変速前後の減速比の変化率は通常の場合よりも大きく設定されており、この点で自動変速時に発生する反動は通常よりも大きくなる。係る反動を考慮して機軸Jからバッテリパック5の重心Gまでの距離L及びバッテリパック5の質量Mが適切に設定されて慣性モーメントIが大きく設定されることにより自動変速時の振り回しが防止若しくは大幅に抑制されてその静止状態が保たれるようになっている。
ここで、電動工具1の全体質量のうち大きな質量を占める部材は、主として電動モータ10、変速装置H及びバッテリパック5である。電動モータ10と変速装置Hは、機軸J上に沿って配置されている。これに対して、バッテリパック5は機軸Jから最も離れた位置(距離L)に配置されている。従って、当該電動工具1の機軸J回りの慣性モーメントIについて、電動モータ5の質量や変速装置Hの質量が大きな影響を与えるものではなく、バッテリパック5の質量Mが慣性モーメントIに大きな影響を与える。このことから、例示したようにバッテリパック5の質量M及び機軸Jからの距離Lを適切に設定することにより、慣性モーメントIを容易に設定することができる。本実施形態では、この点に着目してバッテリパック5の質量Mと距離Lを適切に設定することにより当該電動工具1の変速時の反動に対してその静止状態が効率よく保たれる点に大きな特徴を有している。
また、電動工具1としてドライバドリルを例示したが、穴明け専用の電動ドライバあるいは電動ねじ締め機との単能機に適用することもできる。さらに、電動工具は例示した充電式バッテリを電源とするものの他、交流電源を電源とするものであってもよい。
2…本体部、2a…本体ハウジング、2b…挿通溝孔、2c…保持孔
J…機軸(スピンドルの回転軸)
3…ハンドル部、3a…ハンドルハウジング
4…スイッチレバー
5…バッテリパック、G…重心、M…質量
10…電動モータ、10a…出力軸
11…スピンドル
12…チャック
13,14…軸受け
H…変速装置
20…第1段遊星歯車機構
21…第1段太陽ギヤ
22…第1段遊星ギヤ
23…第1段キャリア、23a…クラッチ歯
24…第1段インターナルギヤ
30…第2段遊星歯車機構
31…第2段太陽ギヤ
32…第2段遊星ギヤ
33…第2段キャリア
34…第2段インターナルギヤ
34a…クラッチ歯、34b…フランジ部、34c…係合溝部、34d…係合壁部
35…圧縮ばね
36…押圧板
37…転動板
38…鋼球
39…モード切り換え部材
40…第3段遊星歯車機構
41…第3段太陽ギヤ
42…第3段遊星ギヤ
43…第3段キャリア
44…第3段インターナルギヤ
50…モード切り換えリング、50a…ツマミ部
51…切り換え溝部
51b…後側溝部(高速固定モード用)
51c…前側溝部(高トルク固定モード用)
51d…中間溝部(自動変速モード用)
60…モードロック機構
61…係合球
62…ロックリング、62a…カム面
63…捩りコイルばね
L…機軸Jからバッテリパックの重心までの距離
Claims (3)
- 駆動源としての電動モータと該電動モータの回転動力を減速してスピンドルに出力するための変速装置を内蔵した工具本体部と、該工具本体部から側方へ突き出す状態に設けられたハンドル部を備え、該ハンドル部の先端に電源としてのバッテリパックを装着した電動工具であって、
前記変速装置は、減速比が変化することにより高速低トルクを出力する高速低トルクモードと低速高トルクを出力する低速高トルクモードを、前記スピンドルに付加される外部トルクに基づいて自動的に切り換えて出力可能であり、
該変速装置において前記高速低トルクモードから前記低速高トルクモードに切り換わることにより発生する機軸J回りの反動よりも、該機軸J回りの慣性モーメントIの方が大きくなるように前記機軸Jから前記バッテリパックの重心Gまでの距離Lと、該バッテリパックの質量Mを設定した電動工具。 - 請求項1記載の電動工具であって、前記慣性モーメントIが20,000〜40,000(kg・mm2)に設定された電動工具。
- 請求項2記載の電動工具であって、前記高速低トルクモードの出力回転数が前記低速高トルクモードの出力回転数の4.5倍〜6.0倍に設定された電動工具。
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