以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態におけるブレーキ制御ECU(Electronic Control Unit)1を含む車両VLの上面視を模式的に示した模式図である。尚、図1の矢印FWDは、車両VLの前進方向を示す。また、車両VLの右前輪、左前輪、右後輪、左後輪それぞれに対応する構成要素にFR,FL,RR,RLを付して表している。
この車両VLに設けられたブレーキ制御ECU1では、後述する車輪速度センサ5FR〜5RLにより車輪速度に応じて発生したパルス信号のエッジを検出して、その検出されたエッジに基づいて、各車輪4FR〜4RLそれぞれの車輪速度を所定時間間隔ごとに演算する。そして、このブレーキ制御ECU1は、その所定時間の間にエッジが未検出である場合、実際の車輪速度の変化を反映させつつ、そのエッジが未検出である間の車輪速度を推定することができるように構成されている。
車両VLは、図1に示すように、上述したブレーキ制御ECU1のほか、油圧ブレーキ装置2、電動パーキングブレーキ(以下、「PBK」と称する)3、車輪4(4FR〜4RL)、車輪速度センサ5(5FR〜5RL)、車内LANバス6、エンジン制御ECU7、駐車支援制御ECU8、操舵角センサ9を備えている。このうち、ブレーキ制御ECU1、エンジン制御ECU7、駐車支援制御ECU8、操舵角センサ9は、それぞれ車内LANバス6を介して互いに接続されている。
ブレーキ制御ECU1は、油圧ブレーキ装置2およびPKB3を制御して、車輪4FR〜4RLに付与する制動力を制御する電子制御装置である。また、ブレーキ制御ECU1は、上述したように、車輪速度センサ5FR〜5FLにより発生したパルス信号のエッジに基づいて、各車輪4FR〜4RLそれぞれの車輪速度を演算すると共に、その車輪速度から車体速度を算出し、その車体速度が目標速度となるように、車輪4FR〜4RLに付与される制動力や駆動力を制御する、速度制御を行う機能も有している。このブレーキ制御ECU1の詳細構成については、図2を参照して後述する。
油圧ブレーキ装置2は、車輪4FR〜4RLに制動力を付与する制動力付与装置であり、運転者により車両VLに設けられたブレーキペダル(図示せず)が踏み込まれると、そのブレーキペダルの踏力を油圧に変換し、その油圧を第1配管系統11および第2配管系統21を介して車輪4FR〜4RLそれぞれに設けられたホイールシリンダ(図示せず)に伝達する。これにより、ホイールシリンダで油圧が制動力に変換され、車輪4FR〜4RLに制動力が付与される。
また、第1配管系統11および第2配管系統21には、それぞれ増圧制御弁(図示せず)および減圧制御弁(図示せず)が設けられており、ブレーキ制御ECU1からの制御信号に基づき、これら増圧制御弁および減圧制御弁を駆動することにより、各ホイールシリンダに伝達される油圧の大きさを調整する。これにより、車輪4FR〜4RLに付与される制動力の大きさが調整される。
PKB3は、駐車中の車両VLに対して、後輪4RL,4RRに制動力を付与する制動力付与装置であり、運転者によるパーキングブレーキスイッチ(図示せず)の操作に応じて駆動されるほか、駐車支援制御ECU8によって駐車支援制御が行われる場合にも、ブレーキ制御ECU1を介して駆動される。
このPKB3は、ブレーキワイヤ31R、31Lにて後輪4RL,4RRそれぞれに設けられたブレーキキャリパ(図示せず)と接続されている。また、PKB3にはアクチュエータ(図示せず)が設けられている。
パーキングブレーキスイッチが操作され、或いは、駐車支援制御ECU8からブレーキ制御ECU1に対して車両停止信号が出力されると、ブレーキ制御ECU1からPKB3に対して制御信号が出力される。PKB3は、この制御信号に基づいてアクチュエータを駆動し、ブレーキワイヤ31R、31Lを介して左右後輪4RL,4RRのブレーキキャリパを駆動する。これにより、後輪4RL,4RRに制動力が付与される。
車輪4は、車両VLの進行方向FWD前方側に位置する左右の前輪4FL,4FRと、進行方向FWD後方側に位置する左右の後輪4RL,4RRとの4輪を備えている。各車輪4FR〜4RLには、それぞれ車輪と共に回転するロータ(図示せず)が固定されており、そのロータの外周部には、複数(例えば、48歯)の歯車が等間隔に設けられている。
車輪速度センサ5は、車輪4FR〜4RLそれぞれの回転速度である車輪速度を検出するセンサであり、右前輪4FRの車輪速度を検出するFR車輪速度センサ5FRと、左前輪4FLの車輪速度を検出するFL車輪速度センサ5FLと、右後輪4RRの車輪速度を検出するRR車輪速度センサ5RRと、左後輪4RLの車輪速度を検出するRL車輪速度センサ5RLとにより構成されている。
各車輪速度センサ5FR〜5RLは、それぞれ、各車輪4FR〜4RL側に固定されたロータ(図示せず)の歯車の動きをセンシングし、車輪の回転に伴ってロータの歯車が1歯動く毎に、1周期のパルス信号を出力する。
各車輪速度センサ5FR〜5RLにより出力されるパルス信号は、ブレーキ制御ECU1に入力される。ブレーキ制御ECU1は、各車輪速度センサ5FR〜5RLより出力されたパルス信号の立上りエッジおよび立下りエッジを検出し、そのエッジに基づいて、対応する車輪4FR〜4RLの車輪速度をそれぞれ演算する。
エンジン制御ECU7は、エンジン(E/G)70のエンジン出力を制御する電子制御装置で、車両VLに設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量や、エンジン回転数、エンジン冷却水の水温、排気ガス中の酸素濃度などに基づき、走行状態に応じて燃料噴射量を調整して、エンジン(E/G)70へ指令値を与えることにより、エンジン出力を制御する。これにより、自動変速機(AT)71および車軸72R,72Lを介して回転駆動される左右の前輪4FL,4FRの駆動力が調整される。
駐車支援制御ECU8は、運転者による車庫入れ駐車もしくは縦列駐車の駐車支援制御を行う電子制御装置であり、車両VLに設けられたスイッチから、車庫入れ駐車もしくは縦列駐車を行う駐車支援制御を実行する指令信号を受け取ると、車庫入れ駐車もしくは縦列駐車を行うときの最終的な目標駐車位置を求めると共に、その目標駐車位置までの移動軌跡を求める。そして、求められた移動軌跡に沿って、車両VLが所望の車速で移動するように、駐車支援制御ECU8からブレーキ制御ECU1に向けて速度制御信号を出力することにより、ブレーキ制御ECU1によって速度制御が行われ、目標駐車位置で車両が停止するように駐車支援制御を実行する。
操舵角センサ9は、車両VLに設けられたステアリング(図示せず)の操舵角を検出するセンサであり、ステアリングの回転角度を回転方向に対応付けて検出する角度センサ(図示せず)を備えている。この角度センサは、電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。操舵角センサ53の検出結果は、車内LANバスを介してブレーキ制御ECU1に入力される。
次いで、図2を参照して、ブレーキ制御ECU1の詳細構成について説明する。図2は、ブレーキ制御ECU1の電気的構成を示したブロック図である。ブレーキ制御ECU1は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、エッジ検出回路14、計時回路15、及び入出力ポート16を備えており、これらはバスライン17を介して互いに接続されている。
入出力ポート16には、図1に示した油圧ブレーキ装置2、PKB3、車輪速度センサ5(FR〜RL車輪速度センサ5FR〜5RL)が接続されており、ブレーキECU1は、各車輪速度センサ5FR〜5RLにより出力されるパルス信号に基づいて、各車輪4FR〜4RLそれぞれの車輪速度を演算した上で、車両VLの車体速度を算出し、その車体速度が目標速度となるように、油圧ブレーキ装置2およびPKB3を制御して、各車輪4FR〜4RLに対して適切な制動力を付与する。
また、入出力ポート16は、車内LANバス6とも接続されており、ブレーキ制御ECU1は、車内LANバス6に接続されたエンジン制御ECU7、駐車支援制御ECU8、操舵角センサ9との間で信号の送受信を行う。
例えば、ブレーキ制御ECU1は、算出した車体速度が目標速度となるように、エンジン制御ECU7に対して駆動輪である左右の前輪4FL,4FRに適切な駆動力を付与することを指示する指令信号を出力する。エンジン制御ECU7は、この指令信号に従って、前輪4FL,4FRに対して適切な駆動力を付与する。また、ブレーキ制御ECU1は、駐車支援制御ECU8からの速度制御信号や、操舵角センサ9の検出結果であるステアリングの操舵角に基づいて、速度制御を実行する。
CPU11は、ROM12やRAM13に記憶されるプログラムやデータ、また入出力ポート16および車内LANバス6に接続された各部から入力された信号に従って各種演算を行い、油圧ブレーキ装置2、PKB3およびエンジン制御ECU7を制御する演算装置である。
ROM12は、CPU11により実行される制御プログラム12aや固定値データを記憶する書き換え不能なメモリである。制御プログラム12aは、図4および図5のフローチャート(車輪速度演算処理のフローチャート)のプログラムを含んでいる。
車輪速度演算処理を行うプログラムは、所定の車速演算要求間隔Ts(例えば、6ミリ秒)毎に発生する車速演算タイミングで、各車輪4FR〜4RLそれぞれについて、対応する車輪速度センサ5FR〜5RLにより出力されるパルス信号のエッジに基づき、車輪速度を演算する処理を実行する。尚、このプログラムで行われる車輪速度の演算方法の詳細については、図3を参照して後述する。
RAM13は、CPU11が各種プログラムを実行する際に必要なデータを一時的に記憶するための書き換え可能で揮発性のメモリである。このRAM13には、エッジ検出フラグ13a、エッジ検出時間メモリ13b、エッジ検出時車速メモリ13c、変化線傾きメモリ13d、推定車速メモリ13e、推定移動距離メモリ13f、到達フラグ13gが設けられている。
エッジ検出フラグ13aは、各車輪4FR〜4RLにおいて、対応する車輪速度センサ5FR〜5RLから出力されるパルス信号からエッジが検出されたことを車輪4FR〜4RLそれぞれについて示すフラグであり、その値が「1」であればエッジが検出されたことを示し、「0」であればエッジが未検出であることを示す。
このエッジ検出フラグ13aは、車両VLに設けられたイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされた場合に、初期値として「0」が設定される。そして、エッジ検出回路14によって、各車輪速度センサ5FR〜5RLより出力されたパルス信号からエッジが検出されると、そのエッジが検出された車輪に対応するエッジ検出フラグ13aに「1」が設定される。
このエッジ検出フラグ13aは、後述する車輪速度演算処理(図4参照)の中で参照され、車速演算タイミング毎に、CPU11によって、車輪速度の演算対象である車輪においてエッジが検出されたか否かが判断される。また、車輪速度の演算対象である車輪においてエッジが検出されたと判断されると、その車輪に対応するエッジ検出フラグ13aは「0」に設定され、再びエッジが検出されるまで「0」に維持される。
エッジ検出時間メモリ13bは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングにエッジが検出された場合に、その車速演算タイミングの時間を計時回路14から読み出して、車輪4FR〜4RL毎にその時間を記憶するメモリである。また、エッジ検出時車速メモリ13cは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングにエッジが検出された場合に、そのエッジに基づいて算出された車輪速度を車輪4FR〜4RL毎に記憶するメモリである。
このエッジ検出時間メモリ13bおよびエッジ検出時車速メモリ13cに記憶された時間および車輪速度は、次のエッジが検出されるまで保持される。そして、次のエッジが検出されると、エッジ検出時間メモリ13bおよびエッジ検出時車速メモリ13cが参照され、これらに記憶された時間および車輪速度と、その次のエッジが検出された時間およびその時に演算された車輪速度とから、その次のエッジが検出されたときにおける車輪速度の変化線の傾きAn(図3参照)が、CPU11によって算出される。
そして、車輪速度の変化線の傾きAnが算出されると、エッジ検出時間メモリ13bおよびエッジ検出時車速メモリ13cには、新たに、その次のエッジが検出された時間およびその時に演算された車輪速度が格納され、更に次のエッジが検出されるまで、その内容が保持される。
変化線傾きメモリ13dは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングのときにエッジが検出されたと判断される場合に、CPU11によって算出される車輪速度の時間的な変化線の傾きAn(図3参照)を、車輪4FR〜4RL毎に格納するメモリである。そして、車輪速度の変化線の傾きAnが算出される度に、その算出された車輪に対応する変化線傾きメモリ13cに、その変化線の傾きAnが格納され、更新される。
この変化線傾きメモリ13dは、車速演算タイミングにおいてエッジが未検出であると判断される場合に、後述する推定演算処理(図5参照)の中で参照され、この車輪速度の変化線の傾きAnを用いて、エッジが未検出であるときの推定すべき車輪速度の候補V1(図3参照)を算出する。
推定車速メモリ13eは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングのときにエッジが未検出であると判断された場合に算出された、推定すべき車輪速度の候補V1(図3参照)を、車輪4FR〜4RL毎に格納するメモリで、次の車速演算タイミングまで、その内容が保持される。
そして、一の車輪における次の車速演算タイミングにおいて、引き続きエッジが未検出であると判断される場合には、その一の車輪に対応する推定車速メモリ13eに格納された、一つ前の車速演算タイミングにおいて算出された推定すべき車輪速度の候補V1と、その一の車輪に対応する変化線傾きメモリ13dに格納された車輪速度の変化線の傾きAnとに基づいて、その車速演算タイミングにおける推定すべき車輪速度の候補V1を算出すると共に、その新たに算出された車輪速度の候補V1の値が、推定車速メモリ13eに新たに格納される。
推定移動距離メモリ13fは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングのときにエッジが未検出であると判断された場合に、エッジが検出されて以降に車輪が回転して移動した推定移動距離Dn(図3参照)を、車輪4FR〜4RL毎に格納するメモリである。この推定移動距離Dnは、車輪の車輪速度がその変化線の傾きAn(図3参照)を維持したまま変化するものとして、エッジが検出されてから現在の車速演算タイミングまでの車輪速度を推定し、その推定された車輪速度を積分することによって、CPU11により推定される。そして、推定移動距離Dnが車速演算タイミングで推定される毎に、この推定移動距離Dnが推定移動距離メモリ13fに格納される。
尚、本実施形態においては、推定すべき車輪速度の候補V1が変化線の傾きAnを維持したまま変化する車輪速度に相当するので、その推定すべき車輪速度の候補V1を積分することによって、推定移動距離Dnを算出している。また、この推定移動距離メモリ13fは、車速演算タイミングでエッジが検出される度に「0」に初期化される。
この推定移動距離メモリ13fは、後述する推定演算処理(図5参照)の中で参照され、この推定移動距離メモリ13fに格納された推定移動距離Dnに基づいて、エッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に車輪が移動するはずの距離(以下、「エッジ間移動距離」と称する)を、エッジが検出されて以降に車輪が移動したか否かが判断される。
到達フラグ13gは、車速演算タイミングのときにエッジが未検出であると判断され、車輪速度を推定する場合に、推定すべき車輪速度の候補V1(図3参照)を用いるか、その車速演算タイミングのときに次のエッジが検出されるものと仮定して算出された仮想車輪速度V2(図3参照)を用いるかを選択するフラグで、「0」の場合には前者の車輪速度の候補V1を用いることを示し、「1」の場合には後者の仮想車輪速度V2を用いることを示す。
この到達フラグ13gは、エッジが検出される度に「0」に設定され、その後の車速演算タイミングでエッジが未検出である場合には、推定すべき車輪速度の候補V1が、車輪速度の推定に用いられる。そして、或る車速演算タイミングで、車輪速度の候補V1が仮想車輪速度V2以上となると、到達フラグ13gは「1」に設定され、そのタイミング以降、次のエッジが検出されるまで、仮想車輪速度V2が車輪速度の推定に用いられる。
次いで、エッジ検出回路14は、車輪速度センサ5FR〜5RLから出力された各々のパルス信号に対して、それぞれ立上りエッジおよび立下りエッジを、いわゆる中間エッジ法によって検出する回路で、パルス信号から立上りエッジまたは立下りエッジが検出されると、そのエッジが検出された車輪のエッジ検出フラグ13aを「1」に設定する。また、そのエッジが検出された時間を計時回路15から読み出し、一つ前のエッジが検出された時間との中間の時間を、その一つ前のエッジが検出された時間および二つ前のエッジが検出された時間の中間の時間と共にRAM13に格納する。
計時回路15は、現在の日時を刻む内部時計を有する既知の回路である。上述したように、CPU11が車速演算タイミングで検出されたエッジに基づき車輪速度を算出した場合に、CPU11は、そのときの車速演算タイミングの時間を計時回路15によって特定する。また、エッジ検出回路14がエッジを検出した場合に、エッジ検出回路14はエッジが検出された時間を計時回路15によって特定する。
また、計時回路15は、車速演算要求間隔Ts(図3参照)を計時し、車速演算要求間隔Tsが計時される度に、車速演算タイミングであることを示す割り込み信号をCPU11に対して出力する。
次いで、図3を参照して、ブレーキ制御ECU1で行われる、一の車輪における車輪速度の演算方法について説明する。図3は、その車輪速度の演算方法を説明する説明図である。この説明図には、エッジ検出フラグ13a、演算された車輪速度、および、エッジが検出されてからの車輪の推定移動距離Dnを、時間経過に対応させて示してある。この図において、左右方向の軸は時間経過を表し、左から右に向けて時間が経過するように示されている。また、車輪速度は上下方向に車輪速度の大きさを示しており、推定移動距離Dnは上下方向にその距離の大きさを示している。
ブレーキ制御ECU1では、車速演算要求間隔Ts(例えば、6ミリ秒)毎に車輪速度を演算する。その車輪速度演算する車速演算タイミングにおいて、エッジ検出フラグ13aに「1」が設定されている場合には、そのエッジが検出された時間および一つ前のエッジが検出された時間の中間の時間と、一つ前のエッジが検出された時間および二つ前のエッジが検出された時間の中間の時間とをRAM13から読み出し、それらの時間差Tnから(1)式によって車輪速度Ve2を算出する。
Ve2=(L/(2×H))/Tn ・・・(1)
ここで、Lはタイヤ1周分の長さ(タイヤ周長)であり、Hは車輪に固定され且つ車輪と共に回転するロータ(図示せず)に等間隔に設けられた歯車の歯数である。従って、(L/(2×H))は、一つ前のエッジが検出されてから今回のエッジが検出されるまでに車輪が移動するエッジ間移動距離であり、そのエッジ間移動距離(L/(2×H))を車輪が移動した時間である2つのエッジの検出時間差Tnで除算することにより、車輪速度Ve2が算出される。(1)式で算出された車輪速度Ve2は、エッジ検出時車速メモリ13cに格納される。
また、車速演算タイミングにおいてエッジ検出フラグ13aに「1」が設定されている場合には、車輪速度Ve2を算出すると同時に、その車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを(2)式によって算出する。
An=(Ve2−Ve1)/(Te2−Te1) ・・・(2)
ここで、Ve1は、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された、1つ前のエッジが検出されたときの車輪速度であり、Te2は、今回の車速演算タイミングの時間であり、Te1は、エッジ検出時間メモリ13bに格納された、1つ前のエッジが検出されたときの車輪速度が算出された時間である。(2)式で算出された傾きAnは、変化線傾きメモリ13dに格納される。
一方、車速演算タイミングにおいて、エッジ検出フラグ13aに「0」が設定されている場合には、その演算対象である車輪の車輪速度センサ5より出力されたパルス信号からエッジが検出されていないので、エッジに基づいて車輪速度を演算することができない。そこで、このような場合には、次の方法によってそのタイミングにおける車輪速度を推定する。
まず、車輪速度におけるトレンドの変化線に従って、車輪速度が変化すると仮定した場合の推定すべき車輪速度の候補V1を(3)式によって算出する。
V1=V1’+An×Ts ・・・(3)
ここで、V1’は、推定車速メモリ13eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)であり、Anは、変化線傾きメモリ13dに格納された、(2)式で算出される車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きであり、Tsは車速要求時間間隔である。(3)式で算出された推定すべき車輪速度の候補V1は、推定車速メモリ13eに格納される。
また、エッジが検出されて以降に車輪が回転して移動した推定移動距離Dnを、車輪の車輪速度がその変化線の傾きを維持したまま変化するものとして、今回の車速演算タイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補V1と、推定車速メモリ13eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補V1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)を用いて、次の(4)式によって推定する。
Dn=Dn’+((V1+V1’)/2)×Ts ・・・(4)
ここで、Dn’は、推定移動距離メモリ13fに格納された、前回の車速演算タイミングで推定された推定移動距離である。このDn’に、今回の車速演算タイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補V1と、前回の車速演算タイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補V1’との平均値に車速演算要求間隔Tsを乗算したものを加算することで、車輪の車輪速度がその変化線の傾きを維持したまま変化するものとして、エッジが検出されてから現在の車速演算タイミングまでの車輪速度を積分したことになるので、(4)式によって推定移動距離Dnが推定される。この(4)式によって推定された推定移動距離Dnは、推定移動距離メモリ13fに格納される。
このように、推定移動距離Dnは、エッジが検出された時点の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを考慮して推定されるので、その移動距離として、実際の走行に近い距離を推定することができる。
そして、(4)式によって推定された推定移動距離に基づいて、エッジが検出されて以降に、車輪がエッジ間移動距離(L/(2×H))を移動したか否かを判断する。その結果、車輪がエッジ間移動距離以上の距離を移動したと判断されると、車輪速度におけるトレンドの変化線に従って車輪速度が変化すると仮定して算出された推定すべき車輪速度の候補V1が、(5)式によって、前回のタイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補V1’に置き換えられ、その値が維持される。
V1=V1’・・・ (5)
一方、車速演算タイミングにおいてエッジ検出フラグ13aに「0」が設定されている場合、車輪速度におけるトレンドの変化線に従って車輪速度が変化すると仮定して算出された推定すべき車輪速度の候補V1のほかに、その車速演算タイミングで次のエッジが検出されると仮定した場合の仮想車輪速度V2を、(6)式によって算出する。
V2=K/Tv・・・ (6)
ここで、Kは、タイヤ径、歯車の歯数などによって決まる車速演算係数であり、Tvは、エッジが検出されてから今回の車速演算タイミングまでの経過時間である。
本実施形態における車輪速度の演算方法では、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されていない場合、上述の方法によって算出した推定すべき車輪速度の候補V1と、仮想車輪速度V2とのいずれか小さいほうを、今回の車速演算タイミングにおける車輪速度の推定値とする。
次いで、図4を参照して、ブレーキ制御ECU1で実行される車輪速度演算処理について説明する。図4は、その車輪速度演算処理を示すフローチャートである。この処理は、車輪4FR〜4RL毎にそれぞれ独立して実行される処理で、対象となる車輪の車輪速度を演算する処理である。この処理は、車両VLのイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされてからエンジン70がオフされるまでの間、繰り返し実行されるメイン処理(図示せず)の中で、実行される。
この処理では、まず、計時回路15より車速演算タイミングを知らせる割り込みがあったか否かを判断する(S11)。そして、割り込みがないと判断される場合(S11:No)、現時点で車速演算タイミングでないと判断できるので、この車輪速度演算処理を終了して、メイン処理に戻る。
一方、S11の処理の結果、車速演算タイミングを知らせる割り込みがあったと判断される場合(S11:Yes)、次いで、エッジ検出フラグ13aを参照し、演算対象の車輪に対応する車輪速度センサ5から出力されたパルス信号から、エッジが検出されたか否かを判断する(S12)。そして、エッジが検出されたと判断される場合(S12:Yes)、上述した(1)式を用いて車輪速度Ve2を算出し、これを現在の車輪速度として出力する(S13)。これにより、車速演算タイミングにおいて、エッジが検出されている場合には、そのエッジに基づいて車輪速度が演算される。
次いで、S13の処理によって演算された車輪速度Ve2と、エッジ検出時車速メモリ13eに格納された、一つ前のエッジ検出時に演算された車輪速度Ve1とから、(2)式を用いて、車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを算出する(S14)。このトレンドの変化線の傾きAnは、変化線傾きメモリ13dに格納され、推定演算処理において車輪速度を推定する際に参照される。
そして、エッジ検出フラグ13aを「0」に設定し、次回以降の車速演算タイミングにおいて、次のエッジが検出されたか否かを判断できるようにすると共に、推定移動距離メモリ13fおよび到達フラグ13gを「0」に設定して、車輪速度演算タイミングにおいてエッジが検出されなかった場合に実行される推定演算処理の初期設定を行う(S15)。
更に、S13の処理によって算出された車輪速度Ve2と、計時回路15によって示される現在の時間とを、エッジ検出時車速メモリ13cとエッジ検出時間メモリ13bとに記憶する(S16)。ここで記憶された車輪速度Ve2および現在の時間は、次のエッジが検出された場合に、その車速演算タイミングで新たに車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを算出するときに参照される((2)式参照)。また、車輪速度Ve2は、推定演算処理において、車輪速度および推定移動距離を推定する場合にも参照される。S16の処理の後、この車輪速度演算処理を終了し、メイン処理に戻る。
これに対し、S12の処理の結果、演算対象の車輪に対応する車輪速度センサ5から出力されたパルス信号において、エッジが検出されていないと判断される場合には(S12:No)、後述する推定演算処理(図5参照)を実行し、今回の車速演算タイミングにおける車輪速度を推定する(S17)。この推定演算処理の詳細については、図5を参照して、後述する。
そして、S17の処理の後、推定演算処理によって推定された車輪速度(以下、「推定車速」と称する)を、現在の車輪速度として出力して(S18)、この車輪速度演算処理を終了し、メイン処理に戻る。
次いで、図5を参照して、ブレーキ制御ECUによって実行される推定演算処理について説明する。図5は、この推定演算処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した車輪速度演算処理(図4参照)のS17の処理で実行されるもので、車速演算タイミングにおいて、エッジが検出されなかった場合に、その車速演算タイミングにおける車輪速度を推定する。
この処理では、まず、変化線傾きメモリ13dに格納された車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnと、推定車速メモリ13eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出された推定すべき車輪速度の候補V1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)とから、(3)式によって、現在の推定すべき車輪速度の候補V1を算出し、推定車速メモリ13eに格納する(S21)。
次いで、S21の処理で算出される、エッジが検出されてから現在までの推定すべき車輪速度の候補V1を(4)式を用いて積分することにより、エッジが検出されてから現在までの車輪の推定移動距離Dnを算出し、推定移動距離メモリ13fに格納する(S22)。
そして、推定移動距離Dnがエッジ間移動距離より大きいか否かを判断し(S23)、推定移動距離Dnがエッジ間移動距離より大きいと判断される場合には(S23:Yes)、(5)式に示すように、現在の推定すべき車輪速度の候補V1を、前回の車速演算タイミングで演算された推定すべき車輪速度の候補V1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)に置き換え、その置き換えた値を推定車速メモリ13eに格納して(S24)、S25の処理へ移行する。
一方、S23の処理の結果、推定移動距離Dnがエッジ間移動距離以下であると判断される場合には(S23:No)、S24の処理を未実行とするためにスキップして、S25の処理へ移行する。これにより、S24の処理が禁止されるので、現在の推定すべき車輪速度の候補V1は、S21の処理によって算出された値がそのまま保持される。
次いで、S25の処理では、今回の車速演算タイミングにおいて、エッジが検出されたと仮定して、エッジが検出されてから今回の車速演算タイミングまでの経過時間Tvにより、(6)式を用いて、仮想車輪速度V2を算出する。
そして、到達フラグ13gが「1」であるか否かを判断する(S26)。その結果、到達フラグ13gが「1」でない、即ち「0」であると判断される場合には(S26:No)、更に、現在の推定すべき車輪速度の候補V1が仮想車輪速度V2以上であるか否かを判断し(S27)、現在の推定すべき車輪速度の候補V1が仮想車輪速度V2未満であると判断される場合には(S27:No)、推定車速を現在の推定すべき車輪速度の候補V1とした上で(S30)、S31の処理へ移行する。
一方、S27の処理の結果、現在の推定すべき車輪速度の候補V1が仮想車輪速度V2以上であると判断される場合には(S27:Yes)、到達フラグ13gに「1」を設定した上で(S28)、推定車速を仮想車輪速度V2とし(S29)、S31の処理へ移行する。
また、S26の処理の結果、到達フラグ13gが「1」であると判断される場合には、S29の処理へ移行し、推定車速を仮想車輪速度V2として(S29)、S31の処理へ移行する。
このS26〜S30の処理によって、エッジが検出されて以降、現在の推定すべき車輪速度の候補V1が仮想車輪速度V2未満である間は、推定車速として、現在の推定すべき車輪速度の候補V1が設定される。そして、或る車速演算タイミングにおいて、現在の推定すべき車輪速度の候補V1が仮想車輪速度V2以上となると、その車速演算タイミング以降、次のエッジが検出されるまでの間、到達フラグ13gの値は「1」に設定され、推定車速として、仮想車輪速度V2が設定される。
次いで、S31の処理では、エッジが検出されてから今回の車速演算タイミングまでの経過時間Tvが所定値よりも大きいか否かを判断する(S31)。そして、経過時間Tvが所定値以下の場合には(S31:No)、推定演算処理を終了して、車輪速度演算処理に戻る。
一方、S31の処理の結果、経過時間Tvが所定値よりも大きい場合(S31:Yes)、すでに車両VLが停車しているものと推定されるので、S29及びS30の処理で設定された推定車速を「0km/h」に置き換えて(S32)、この推定演算処理を終了し、車輪速度演算処理に戻る。
以上、本実施形態におけるブレーキ制御ECU1によれば、推定移動距離Dnは、エッジが検出された時点の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを考慮して推定されるので、その移動距離として、実際の走行に近い距離を推定することができる。そして、この実際の走行に近い状態で推定される車輪の推定移動距離Dnとエッジ間移動距離とから、次のエッジが検出されるタイミングをおおまかに予測でき、その予測されたタイミング頃にエッジが検出されるように、エッジが未検出である期間における車輪速度を推定することができる。よって、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化を反映させつつ、そのエッジが未検出である間の車輪速度を推定することができる。
また、本実施形態におけるブレーキ制御ECU1によれば、エッジが検出された直後は、車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを維持したまま車輪の車輪速度が変化するものとして算出された、推定すべき車輪速度の候補V1が、車輪速度として推定されるので、エッジに基づいて演算された車輪速度と、エッジが検出されずに推定された車輪速度との間で、不連続が生じるのを抑制できる。
一方、推定移動距離Dnに基づいて、車輪がエッジ間移動距離以上の距離を移動したと判断される期間は、車輪がエッジ間移動距離を移動したと判断される時点の車輪速度が維持されるものとして、推定すべき車輪速度の候補V1が算出されるので、或る時点以降は、時間の経過と共に減少する仮想車輪速度V2よりも、推定すべき車輪速度の候補V1が大きくなる。よって、その或る時点以降は、仮想車輪速度V2が車輪速度として推定されるので、エッジが未検出である期間の車輪速度と、次のエッジに基づいて車輪速度算出手段により算出される車輪速度との差を抑制できる。その結果、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化を反映させると共に、エッジに基づいて算出された車輪速度との間に生じる不連続性を抑制しながら、そのエッジが未検出である間の車輪速度を推定することができる。
次いで、図6および図7を参照して、本発明の第2実施形態におけるブレーキ制御ECU1について説明する。第1実施形態では、車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを、その演算対象である車輪に対してエッジに基づき算出される車輪速度から、(2)式を用いて算出する場合について説明した。これに対し、第2実施形態では、演算対象の車輪において、次のエッジが検出される前に、演算対象とは別の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、演算対象である車輪におけるトレンドの変化線の傾きAnを、その別の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArに置き換える。
尚、この第2実施形態におけるブレーキ制御ECU1の電気的構成、およびそのブレーキ制御ECU1を含む車両VLの構成は、第1実施形態と同一であるものとして説明する。また、第2実施形態におけるブレーキ制御ECU1で実行される車輪速度演算処理は、推定演算処理を除いて、第1実施形態と同一であるものとして説明する。以下、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6は、この第2実施形態におけるブレーキ制御ECU1で行われる、一の車輪における車輪速度の演算方法を説明する説明図である。この説明図には、一の車輪におけるエッジ検出フラグ13a、演算された車輪速度、および、エッジが検出されてからの車輪の推定移動距離Dnを、時間経過に対応させて示してある。また、この説明図には、別の車輪(他輪)におけるエッジ検出フラグ13aと、その他輪において検出されたエッジに基づいて算出された車輪速度を、時間計経過に対応させて示してある。
尚、この図において、左右方向の軸は時間経過を表し、左から右に向けて時間が経過するように示されている。また、車輪速度は上下方向に車輪速度の大きさを示しており、推定移動距離Dnは上下方向にその距離の大きさを示している。
この図に示すように、演算対象の車輪においてエッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、他輪でエッジが検出されて、その時点の車輪速度Vr2と一つ前のエッジが検出された時点の車輪速度Vr1とから、その他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、その変化線の傾きArが算出された時点から、演算対象の車輪において次のエッジが検出されるまでの間、その演算対象の車輪の車輪速度にけるトレンドの変化線の傾きAnを、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArに置き換える。
そして、この変化線の傾きArを用いて、現在の推定すべき車輪速度の候補V1と、推定移動距離Dnの算出を行うことにより、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されていない場合に、その車速演算タイミングにおける車輪速度の推定を行う。
次いで、図7を参照して、第2実施形態におけるブレーキ制御ECU1で実行される推定演算処理について説明する。図7は、この推定演算処理を示すフローチャートである。この推定演算処理において、第1実施形態における推定演算処理と異なる点は、第1実施形態における推定演算処理のS21の処理の前に、S36〜S38の処理が行われる点である。S21以降の処理(S21〜S32の処理)は、第1実施形態における推定演算処理と同一であるため、その説明を省略する。
この処理では、まず、エッジ検出フラグ13aを参照して、他輪においてエッジが検出されたか否かを判断する(S36)。そして、他輪においてエッジが検出されたと判断される場合には(S36:Yes)、次いで、操舵角センサ9の検出結果から、舵角変化量が規定値以下であるか否かを判断する(S37)。これは、舵角変化量が大きい場合、各車輪4FR〜4RLの間で、車輪速度の変化量が大きくずれる可能性があるため、そのような場合に、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnが、他輪において算出されたその他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArに置き換えられないようにするための処理である。
そして、S37の処理の結果、舵角変化量が規定値以下と判断される場合には(S37:Yes)、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnに、その他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArの値を代入し、この値を変更線傾きメモリ13dに格納する(S38)。これにより、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnが、その他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArに置き換えられる。そして、S38の処理の後、S21の処理へ移行する。
また、S36の処理の結果、他輪でエッジが検出されていないと判断される場合、(S36:No)、及び、S37の処理の結果、舵角変化量が規定値より大きいと判断される場合には(S37:No)、S21の処理へ移行する。これにより、傾きAnの値が維持されて、S21以降の処理が実行される。
以上、本実施形態におけるブレーキ制御ECU1によれば、車輪速度の演算対象の車輪において、エッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、他輪において、その他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、その他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが、車輪速度の演算対象である車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnとされる。車両VLに設けられた各車輪の車輪速度は、車両VLの操舵角が大きく変化している場合を除き、いずれもほぼ同じ変化量で変化するので、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArを、車輪速度の演算対象である車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnとすることにより、エッジが未検出である期間において、その傾きAnをより正確に算出できる。よって、推定移動距離Dnをより正確に求めることができるので、次のエッジが検出されるタイミングを精度よく予測できる。従って、その精度よく予測されたタイミングを考慮して、エッジが未検出である期間における車輪速度を推定することができるので、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化をより確実に反映させることができる。
その他、第1実施形態におけるブレーキ制御ECU1と同様の効果を奏することができる。
次いで、図8および図9を参照して、本発明の第3実施形態におけるブレーキ制御ECU1について説明する。第2実施形態では、演算対象の車輪において次のエッジが検出される前に、演算対象とは別の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、演算対象である車輪におけるトレンドの変化線の傾きAnを、その別の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArに置き換える場合について説明した。これに対し、第3実施形態では、演算対象の車輪において次のエッジが検出される前に、演算対象とは別の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、その傾きArに基づいた直線と車輪速度が0との交点となる時間を推定し、その時間に演算対象である車輪の車輪速度が0となるように、演算対象である車輪におけるトレンドの変化線の傾きAnを新たに算出する。また、演算対象とは別の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが0の場合には、演算対象である車輪におけるトレンドの変化線の傾きAnを0に設定する。
尚、この第3実施形態におけるブレーキ制御ECU1の電気的構成、およびそのブレーキ制御ECU1を含む車両VLの構成は、第1実施形態と同一であるものとして説明する。また、第3実施形態におけるブレーキ制御ECU1で実行される車輪速度演算処理は、推定演算処理を除いて、第1実施形態と同一であるものとして説明する。以下、第1および第2実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図8は、この第3実施形態におけるブレーキ制御ECU1で行われる、一の車輪における車輪速度の演算方法を説明する説明図である。この説明図には、一の車輪におけるエッジ検出フラグ13a、演算された車輪速度、および、エッジが検出されてからの車輪の推定移動距離Dnを、時間経過に対応させて示してある。また、この説明図には、別の車輪(他輪)におけるエッジ検出フラグ13aと、その他輪において検出されたエッジに基づいて算出された車輪速度を、時間計経過に対応させて示してある。
尚、この図において、左右方向の軸は時間経過を表し、左から右に向けて時間が経過するように示されている。また、車輪速度は上下方向に車輪速度の大きさを示しており、推定移動距離Dnは上下方向にその距離の大きさを示している。
この図に示すように、演算対象の車輪においてエッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、他輪でエッジが検出され、第2実施形態と同様の方法によって、その他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、図中Vr2を通る傾きArの直線と車輪速度が0との交点となる時間Trを算出する。そして、その時間Trに演算対象の車輪の車輪速度が0となるように、その他輪でエッジが検出された時間から時間Trまでの間における演算対象の車輪の車輪速度における変化線の傾きAnrを算出し、この傾きAnrを演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnとして新たに設定する。
尚、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが正、即ち、車両VLが加速している場合は、時間Trは他輪でエッジが検出された時間よりも前となるが、図8と同様にAnrを計算することができる。また、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが0の場合は、その他輪でエッジが検出された時間以降の演算対象の車輪の車輪速度における変化線の傾きAnrは0となるので、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを0に設定する。
次いで、図9を参照して、第3実施形態におけるブレーキ制御ECU1で実行される推定演算処理について説明する。図9は、この推定演算処理を示すフローチャートである。この推定演算処理において、第2実施形態における推定演算処理と異なる点は、第2実施形態における推定演算処理のS38の処理に代えて、S41〜S44の処理が行われる点である。S36、S37、及び、S21以降の処理(S21〜S32の処理)は、第1および第2実施形態における推定演算処理と同一であるため、その説明を省略する。
この推定演算処理において、S37の処理の結果、舵角変化量が規定値以下であると判断された場合(S37:Yes)、まず、他輪において算出された車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが0であるか否かを判断する(S41)。
そして、S41の処理の結果、他輪において算出された車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが0ではなく、車両VLの速度が変化していると判断される場合には(S41:No)、次いで、エッジが検出された他輪の車輪速度において算出された傾きArのトレンドの変化線を外挿し、その他輪の車輪速度が0となる時間Trを算出する(S42)。
次に、時間Trにおいて、演算対象の車輪の車輪速度が0であるものとして、推定車速メモリ13eに格納された、前回の車速演算タイミングで演算された演算対象の車輪の車輪速度V1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)からの、車輪速度の変化線の傾きAnrを算出する(S43)。そして、S42で算出した変化線の傾きAnrを、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnに代入し、この値を変更線傾きメモリ13dに格納して(S44)、S21の処理へ移行する。
一方、S41の処理の結果、他輪において算出された車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが0であり、車両VLの速度が一定であると判断される場合には(S41:Yes)、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを0に設定して(S45)、S21の処理へ移行する。
これにより、他輪において車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出された場合、演算対象の車輪において次のエッジが検出されるまで、傾きArに基づいて算出された変化線の傾きAnrが、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnとして用いられ、車輪速度および推定移動距離Dnが推定される。
以上、本実施形態におけるブレーキ制御ECU1によれば、車輪速度の演算対象である車輪においてエッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出されると、その傾きArが0でない場合において、その傾きArに基づいて、その他輪の車輪速度が0になる時間Trが推定される。そして、時間Trに、その車輪速度の演算対象である車輪の車輪速度が0になるように、その車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnrが新たに算出される。車両が大きく旋廻している場合には、内外輪差によって、各車輪の車輪速度は異なるが、例えば減速時において、各車輪はほぼ同じタイミングで停止し、また、停止中の車両が加速されるときは、各車輪がほぼ同じタイミングで動き始めるので、このような方法によって傾きAnrを新たに算出し、それを演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnとすることによって、その変化線の傾きをより正確に算出できる。これにより、推定移動距離Dnをより正確に求めることができるので、次のエッジが検出されるタイミングを精度よく予測できる。よって、その精度よく予測されたタイミングを考慮して、エッジが未検出である期間における車輪速度を推定することができるので、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化をより確実に反映させることができる。
その他、第1実施形態におけるブレーキ制御ECU1と同様の効果を奏することができる。
次いで、図10から図12を参照して、本発明の第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100について説明する。第1実施形態では、車速演算タイミングにおいて、演算対象の車輪のエッジが検出されていない場合に、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを用いて、その車速演算タイミングにおける推定すべき車輪速度の候補を算出する場合について説明した。これに対し、第4実施形態では、このような場合に、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを用いて推定した推定移動距離Dnに基づいて、その演算対象の車輪が、エッジを検出して以降にエッジ間移動距離を進むまでの経過時間Tsumを算出すると共に、その時間Tsumにおいて次のエッジが検出されるものと仮定した場合の演算対象の車輪の車輪速度Vtdを算出する。そして、エッジが検出されてから時間Tsumまでの期間は、エッジが検出された時点の車輪速度Ve2と時間Tsumにおける車輪速度Vtdとを内挿することにより車輪速度を推定し、また、時間Tsum以降の期間は、各車速演算タイミングにおいて次のエッジが検出されるものと仮定して算出される仮想車輪速度を用いることによって車輪速度を推定する。
尚、この第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100は、第1実施形態におけるブレーキ制御ECU1の代わりに車両VLに搭載され、車両VLの各部を制御するものとして説明する。また、この第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100により実行される車輪速度演算処理は、推定演算処理を除いて、第1実施形態と同一であるものとして説明する。また、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図10は、この第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100の電気的構成を示すブロック図である。この第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100の電気的構成において、第1実施形態におけるブレーキ制御ECU1と異なる点は、図10に示すように、RAM113がRAM13に代えて設けられている点である。
RAM113は、CPU11が各種プログラムを実行する際に必要なデータを、一時的に記憶するための書き換え可能で揮発性のメモリである。このRAM113において、第1実施形態におけるRAM13と異なる点は、推定車速メモリ113eが推定車速メモリ13eに代えて設けられている点と、エッジ検出フラグ13a、エッジ検出時間メモリ13b、エッジ検出時車速メモリ13c、変化線傾きメモリ13d、推定移動距離メモリ13f、到達フラグ13gに加えて、距離算出用車速メモリ113hが設けられている点とである。
推定車速メモリ113eは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングのときにエッジが未検出であると判断された場合に推定された車輪速度の候補V1(図11参照)を、車輪4FR〜4RL毎に格納するメモリで、次の車速演算タイミングまで、その内容が保持される。
そして、一の車輪における次の車速演算タイミングにおいて、引き続きエッジが未検出であると判断される場合には、その一の車輪に対応する推定車速メモリ113eに格納された、前回の車速演算タイミングで推定された車輪速度の候補V1(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)と、推定移動距離Dn(図11参照)に基づいて演算対象の車輪がエッジ間移動距離を移動したと推定される時間Tsum(図11参照)に次のエッジが検出されると仮定した場合の時間Tsumにおける車輪速度Vtdとを内挿することにより、その車速演算タイミングにおける車輪速度の候補V1を推定すると共に、その新たに推定した車輪速度の値が、新たに推定車速メモリ113eに格納される。
距離算出用車速メモリ113hは、各車輪4FR〜4RLそれぞれにおいて、車速演算タイミングのときにエッジが未検出であると判断された場合に、推定移動距離Dnを算出するために算出された車輪速度Vd(図11参照)を、車輪4FR〜4RL毎に格納するメモリで、次の車速演算タイミングまで、その内容が保持される。
そして、一の車輪における次の車速演算タイミングにおいて、引き続きエッジが未検出であると判断される場合には、その一の車輪に対応する距離算出用車速メモリ113hに格納された、前回の車速演算タイミングで算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vd(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)と、その一の車輪に対応する変化線傾きメモリ13dに格納された車輪速度の変化線の傾きAn(図11参照)とに基づいて、その車速演算タイミングにおける推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを算出すると共に、その算出した車輪速度Vdの値が、新たに距離算出用車速メモリ113hに格納される。
次いで、図11を参照して、第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100で行われる、一の車輪における車輪速度の演算方法について説明する。図11は、その車輪速度の演算方法を説明する説明図である。この説明図には、エッジ検出フラグ13a、演算された車輪速度、および、エッジが検出されてからの車輪の推定移動距離Dnを、時間経過に対応させて示してある。この図において、左右方向の軸は時間経過を表し、左から右に向けて時間が経過するように示されている。また、車輪速度は上下方向に車輪速度の大きさを示しており、推定移動距離Dnは上下方向にその距離の大きさを示している。
ブレーキ制御ECU100では、車速演算タイミングにおいて、エッジ検出フラグ13aに「1」が設定されている場合には、第1実施形態と同様に、(1)式および(2)式に基づいて、その車速演算タイミングにおける車輪速度Ve2と、その車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを算出する。
一方、車速演算タイミングにおいて、エッジ検出フラグ13aに「0」が設定されている場合には、次の方法によってそのタイミングにおける車輪速度を推定する。
まず、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnに従って、車輪速度が変化すると仮定して、推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを(7)式によって算出する。
Vd=Vd’+An×Ts ・・・(7)
ここで、Vd’は、距離算出用車速メモリ113hに格納された、前回の車速演算タイミングで算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)であり、Anは、(2)式で算出された車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きであり、Tsは車速要求時間間隔である。(7)式で算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdは、距離算出用車速メモリ113hに格納される。
また、エッジが検出されて以降に車輪が回転して移動した推定移動距離Dnを、車輪の車輪速度がその変化線の傾きAnを維持したまま変化するものとして、今回の車速演算タイミングで算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdと、前回の車速演算タイミングで算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vd’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)を用いて、次の(8)式によって推定する。
Dn=Dn’+((Vd+Vd’)/2)×Ts ・・・(8)
ここで、Dn’は、推定移動距離メモリ13fに格納された、前回の車速演算タイミングで推定された推定移動距離である。(8)式は、このDn’に、今回の車速演算タイミングで算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdと、前回の車速演算タイミングで算出された推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vd’との平均値に、車速演算要求間隔Tsを乗算したものを加算したものであり、これにより、車輪の車輪速度がその変化線の傾きを維持したまま変化するものとして、エッジが検出されてから現在の車速演算タイミングまでの車輪速度Vdが積分される。(8)式で算出された推定移動距離Dnは、推定移動距離メモリ13fに格納される。
次に、前回の車速演算タイミングにおいて演算された推定移動距離Dn’と、前回の車速演算タイミングから時間Td経過するまでに車輪が移動する推定移動距離との和が、エッジ間移動距離(L/(2×H))と等しくなる時間Tdを(9)式の方程式を用いて算出する。
L/(2×H)=Dn’+Td×((Vd’+An×Td)+Vd’)/2 …(9)
なお、(9)式では、前回の車速演算タイミングから時間Td経過するまでに車輪が移動する推定移動距離も、車輪速度がトレンドの変化線の傾きAnを維持したまま変化するものと仮定している。
そして、この(9)式によって算出された時間Tdを基に、(10)式を用いて、エッジが検出されてから車輪がエッジ間移動距離を移動するのに要する時間Tsumを算出する。
Tsum=Td+Tx ・・・(10)
ここで、Txは、エッジが検出されてから前回の車速演算タイミングまでの経過時間である。
最後に、(10)式で算出された時間Tsumにおいて次のエッジが検出されるものと仮定して、時間Tsumにおける車輪速度Vtdを(11)式を用いて演算し、その車輪速度Vtdと、推定車速メモリ113eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出された車輪速度の候補V1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)とを内挿することにより、今回の車速演算タイミングでの車輪速度の候補V1を(12)式を用いて算出する。
Vtd=(L/(2×H))/Tsum ・・・(11)
V1=V1’+Ts×(Vtd−V1’)/Td ・・・(12)
尚、(12)式で算出された車輪速度の候補V1は、推定車速メモリ113eに格納される。
一方、車速演算タイミングにおいてエッジ検出フラグ13aに「0」が設定されている場合、車輪速度の候補V1のほかに、その車速演算タイミングで次のエッジが検出されると仮定した場合の仮想車輪速度V2を、上述した(6)式によって算出する。
本実施形態における車輪速度の演算方法では、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されていない場合、上述の方法によって算出した車輪速度の候補V1と、仮想車輪速度V2とのいずれか小さいほうを、今回の車速演算タイミングにおける車輪速度の推定値とする。
次いで、図12を参照して、第4実施形態におけるブレーキ制御ECU100で実行される推定演算処理について説明する。図12は、この推定演算処理を示すフローチャートである。この推定演算処理において、第1実施形態における推定演算処理と異なる点は、第1実施形態における推定演算処理のS21〜S24の処理に代えて、S51〜S55の処理が行われる点である。S25以降の処理(S25〜S32の処理)は、第1実施形態における推定演算処理と同一であるため、その説明を省略する。
この推定演算処理では、まず、車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを維持したまま、車輪速度が変化すると仮定して、推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを(7)式により算出し、距離算出用車速メモリ113hに格納する(S51)。次に、エッジが検出されて以降に車輪が回転して移動した推定移動距離Dnを、(8)式により算出し、推定移動距離メモリ13fに格納する(S52)。
次いで、エッジが検出されてから、車輪がエッジ間移動距離を移動するのに要する時間Tsumを、(9)式および(10)式を用いて算出する(S53)。そして、S53の処理によって算出された時間Tsumにおいて、次のエッジが検出されるものと仮定して、その時間Tsumにおける車輪速度Vtdを求め(S54)、この車輪速度Vtdと、推定車速メモリ113eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出されたV1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)とから、内挿により車輪速度の候補V1を算出し、推定車速メモリ113eに格納する(S55)。
そして、S55の処理の後、S25の処理へ移行し、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されていない場合の車輪速度の推定を行う。
以上、本実施形態におけるブレーキ制御ECU100によれば、推定移動距離Dnは、エッジが検出された時点の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを考慮して推定されるので、その移動距離として、実際の走行に近い距離を推定することができる。そして、この実際の走行に近い状態で推定される車輪の推定移動距離Dnとエッジ間移動距離とから、次のエッジが検出されるタイミングをおおまかに予測でき、その予測されたタイミング頃にエッジが検出されるように、エッジが未検出である期間における車輪速度を推定することができる。よって、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化を反映させつつ、そのエッジが未検出である間の車輪速度を推定することができる。
また、エッジが検出されてから、次のエッジが検出されるまでの期間の車輪速度V1およびV2を、エッジに基づいて演算された車輪速度Ve2を含めて連続的に変化するように推定できる。更に、時間Tsum以降に、実際に次のエッジが検出されれば、仮想車輪速度V2と、その次のエッジに基づいて算出される車輪速度とが一致するので、エッジが未検出である期間の車輪速度を、次のエッジに基づいて算出される車輪速度と連続して変化するように推定できる。
また、時間Tsumより前に実際に次のエッジが検出される場合であっても、時間Tsumは、実際の走行に近い状態で推定される車輪の推定移動距離Dnに基づいて推定されているので、時間Tsumと実際に次のエッジが検出される時間との差を小さくできる。そして、時間Tsumより前の車輪速度は、推定車速メモリ113eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出されたV1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)と、時間Tsumにおいてエッジが検出されるものと仮定して算出された車輪速度Vtdとを線形補間することにより推定されるので、時間Tsumと実際に次のエッジが検出される時間との差が小さければ、車輪速度の候補V1と、次のエッジに基づいて算出される車輪速度との差も小さくすることができる。その結果、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化を反映させると共に、エッジに基づいて算出された車輪速度との間に生じる不連続性を抑制しながら、そのエッジが未検出である間の車輪速度を推定することができる。
また、時間Tsumより前の車輪速度は、推定車速メモリ113eに格納された、前回の車速演算タイミングで算出されたV1’(前回の車速演算タイミングにエッジが検出された場合には、エッジ検出時車速メモリ13cに格納された車輪速度Ve2)と、時間Tsumにおいてエッジが検出されるものと仮定して算出された車輪速度Vtdとを線形補間することにより推定されることにより、エッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、車輪速度のトレンドの変化線の傾きAnが変化する場合に次の効果がある。
即ち、このような場合に、(8)式で算出される推定移動距離Dnが変化し、(9)、(10)式によって算出されるエッジが検出されてから車輪がエッジ間移動距離を移動するのに要する時間Tsumも変化して、(11)式により演算される時間Tsumにおける車輪速度Vtdが変わっても、エッジ検出手段によりエッジが検出されてから時間Tsumまでの期間における車輪速度V1が滑らかに変化するように推定することができる。よって、推定される車輪速度の不連続性を確実に抑制できる。
次いで、図13を参照して、本発明の第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100について説明する。第4実施形態では、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されたときに算出される車輪速度Ve2が、そのエッジが検出された時間の車輪速度であるとした上で、推定移動距離Dnを算出するための車輪速度を算出する場合について説明した。これに対し、第5実施形態では、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されたときに算出される車輪速度Ve2が、そのエッジが検出された時間と、その一つ前のエッジが検出された時間との中間の時間の車輪速度であるものとして、推定移動距離Dnを算出するための車輪速度を算出する。
尚、この第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100は、第1実施形態におけるブレーキ制御ECU1の代わりに車両VLに搭載され、車両VLの各部を制御するものとして説明する。この第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100の電気的構成は、第4実施形態と同一であるものとして説明する。更に、この第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100により実行される車輪速度演算処理は、推定演算処理を除いて、第1実施形態と同一であるものとし、推定演算処理は、第4実施形態と同一であるものとして説明する。以下、第1および第4実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図13は、この第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100で行われる、一の車輪における車輪速度の演算方法を説明する説明図である。この説明図には、一の車輪におけるエッジ検出フラグ13a、演算された車輪速度、および、エッジが検出されてからの車輪の推定移動距離Dnを、時間経過に対応させて示してある。尚、この図において、左右方向の軸は時間経過を表し、左から右に向けて時間が経過するように示されている。また、車輪速度は上下方向に車輪速度の大きさを示しており、推定移動距離Dnは上下方向にその距離の大きさを示している。
このブレーキ制御ECU100において、車速演算タイミングでエッジ検出フラグ13aに「0」が設定されている場合の推定移動距離Dn算出用の車輪速度を算出するときに、エッジが検出されたときに算出された車輪速度Ve2が、そのエッジが検出された時間とそのエッジの一つ前のエッジが検出された時間との中間の時間(点Pd)における車輪速度であるものとすると共に、その一つ前のエッジが検出されたときに算出された車輪速度Ve1が、その一つ前のエッジが検出された時間と更に一つ前のエッジが検出された時間との中間の時間における車輪速度として、(13)式を用いて、その車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを算出する。
An=(Ve2−Ve1)/(Ta/2+Tb/2) ・・・(13)
ここで、Taは車輪速度Ve1が算出されるエッジが検出された時間とその一つ前のエッジが検出された時間との時間間隔であり、Tbは車輪速度Ve2が算出されるエッジが検出された時間とその一つ前のエッジ(車輪速度Ve1が算出されるエッジ)が検出された時間との時間間隔である。
そして、ブレーキ制御ECU100は、(13)式で算出されるトレンドの変化線の傾きAnを維持したまま車輪速度が変化するものとして、(7)式を用いて推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを算出する。
エッジの検出に基づいて算出される車輪速度Ve1,Ve2は、その算出の基となったエッジと1つ前のエッジとの間の平均速度であり、車輪速度の算出の基となったエッジの検出された時間における実際の車輪速度とは異なるものとなる。そこで、算出された車輪速度Ve1,Ve2が、その算出の基となったエッジの検出された時間と1つ前のエッジの検出された時間との中間の時間における車輪速度とし、その車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを(13)式を用いて算出して、その算出された傾きAnに基づいてエッジが検出されて以降も車輪速度が変化するものとすることによって、より正確に推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを見積もることができる。よって、エッジ検出以降の車輪の推定移動距離Dnをより正確に推定することができる。
ここで、(7)式で用いられる前回の車速演算タイミングにおける車輪速度Vd’のうち、前回の車速演算タイミングにおいてエッジが検出された場合における車輪速度Vd’の初期値は、以下の(14)式によって算出する。
Vd’=Ve2+An×(Tb/2) ・・・(14)
この車輪速度Vd’の初期値は、車輪速度Ve2の算出の基となるエッジが検出されるタイミングで、トレンドの変化線Anが算出されるのとあわせて算出され、距離算出用車速メモリ13iに格納される。
そして、推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを算出するときには、常に距離算出用車速メモリ13iからVd’を読み出す。これにより、エッジが検出されたときに算出された車輪速度Ve1,Ve2が、その算出の基となったエッジの検出された時間と1つ前のエッジの検出された時間との中間の時間における車輪速度とし、それに基づき(13)式によって算出される車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを維持したまま変化するものとして、推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを算出することができる。
その他の第5実施形態における車輪速度の演算方法は、第4実施形態と同様に行われる。
以上、本実施形態におけるブレーキ制御ECU100によれば、検出されたエッジに基づき算出された車輪の車輪速度Ve1,Ve2を、そのエッジの検出された時間と1つ前のエッジの検出された時間との中間の時間における車輪速度とし、その車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを(13)式を用いて算出して、その算出された傾きAnに基づいてエッジが検出されて以降も車輪速度が変化するものとして、推定移動距離が推定される。上述したように、エッジの検出に基づいて算出される車輪速度Ve1,Ve2は、その算出の基となったエッジと1つ前のエッジとの間の平均速度であるので、これにより、より正確に推定移動距離Dn算出用の車輪速度Vdを見積もることができ、よって、エッジ検出以降の車輪の推定移動距離Dnをより正確に推定することができる。従って、次のエッジが検出されるタイミングを精度よく予測でき、その精度よく予測されたタイミングを考慮して、エッジが未検出である期間における車輪速度を推定することができるので、エッジが未検出である場合に、実際の車輪速度の変化をより確実に反映させることができる。
その他、第4実施形態におけるブレーキ制御ECU1と同様の効果を奏することができる。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
また、第1から第3実施形態において、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されたときに算出される車輪速度Ve2が、そのエッジが検出された時間の車輪速度であるとした上で算出される推定すべき車輪速度の候補V1を用いて、推定移動距離Dnを算出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、第5実施形態のように、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されたときに算出される車輪速度Ve2が、そのエッジが検出された時間と、その一つ前のエッジが検出された時間との中間の時間の車輪速度であるものとし、且つ、その車輪速度が、その車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを維持したまま変化するものとして、推定移動距離Dnを算出するための車輪速度を算出し、その車輪速度を用いて推定移動距離Dnを算出してもよい。
また、第4および第5実施形態において、演算対象の車輪においてエッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出される場合、第2実施形態のように、演算対象の車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnを、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArに置き換えるようにしてもよい。この場合、図12に示す第4および第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100において実行される推定演算処理において、S51の処理の前に、図7に示す推定演算処理のS36〜S38の処理を行うようにすればよい。
また、第4および第5実施形態において、車両の減速時において、演算対象の車輪においてエッジが検出されてから次のエッジが検出されるまでの間に、他輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きArが算出される場合、第3実施形態にように、その傾きArに基づいて他輪の車輪速度が0になる時間を推定し、その時間に演算対象である車輪の車輪速度が0となるように、演算対象である車輪におけるトレンドの変化線の傾きAnを新たに算出してもよい。この場合、図12に示す第4および第5実施形態におけるブレーキ制御ECU100において実行される推定演算処理において、S51の処理の前に、図9に示す推定演算処理のS36,S37,S41〜S44の処理を行うようにすればよい。
また、上記第4実施形態において、車速演算タイミングにおいてエッジが検出されたときに算出される車輪速度Ve2が、そのエッジが検出された時間の車輪速度であるとした上で、推定移動距離Dnを算出するための車輪速度を算出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、検出されたエッジに基づき算出された車輪の車輪速度Ve2を、そのエッジの検出された時間と1つ前のエッジの検出された時間との中間の時間(点P)における車輪速度とし、且つ、その車輪速度が、(7)式を用いて算出される車輪の車輪速度におけるトレンドの変化線の傾きAnに基づいて変化するものとして、推定移動距離Dnを算出するための車輪速度を推定してもよい。これによっても、第5実施形態と同様の効果を奏することができる。